平成17年3月30日


厚生労働省労働基準局長 殿


職業がん対策専門検討会


実験動物を用いたp-ニトロアニソールの経口投与によるがん
原性試験結果等に関する検討結果報告


 本検討会は、貴職からの委嘱により標記試験結果等について検討を行い、その結果を下記のとおり報告する。




 別添の日本バイオアッセイ研究センターの試験結果等から、p-ニトロアニソールは、動物に対するがん原性が認められるため、関係労働者のp-ニトロアニソールに係る健康障害の防止のための行政対応が必要と考える。



別添


日本バイオアッセイ研究センターにおける厚生労働省委託のp-ニトロアニソールのラット及びマウスを用いた経口投与によるがん原性試験結果の概要

1.目的
 p-ニトロアニソールのがん原性を検索する目的で、ラット及びマウスを用いたp-ニトロアニソールの経口投与(混餌)による長期試験を実施した。

2.方法
対象動物
 試験は、F344/DuCrj(Fischer)ラット(6週齢)及びCrj:BDF1マウス(6週齢)を用い、それぞれ雌雄各群50匹、4群の構成とし、合わせてラット400匹、マウス400匹を使用した。
投与方法
 p-ニトロアニソールの濃度をラットでは雌雄とも8000ppm、4000ppm、2000ppm、0ppm(対照群)とし、マウスでは雌雄とも20000ppm、10000ppm、5000ppm、0ppm(対照群)となるように粉末飼料に混合し、自由摂取させた。投与濃度は13週間の予備試験結果に基づいて決定した。投与期間は104週間(2年間)とした。
観察、検査項目
 一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学的検査を実施した。

3.結果
ラット
生存数等
 雄の生存率は、8000ppm群で慢性腎症により対照群に比べ著しく低下した。雌の生存率は、8000ppm群で主に慢性腎症により対照群に比べ低下した。また、雌の投与群は子宮腺がんによる死亡が対照群に比べ多かった。体重は雄の4000ppm群と8000ppm群で対照群に比べ低値を示した。雌では全投与群で体重増加の抑制がみられた。摂餌量は、雄では8000ppm群で、雌では全投与群で対照群に比べ低値を示した。
腫瘍性病変(表1)
 雄に肝細胞腺腫の発生増加が認められた。雌には、肝細胞腺腫と子宮腺がんの発生増加が認められ、投与群の子宮腺がんは他臓器への転移もみられた。
マウス
生存数等
 雄の10000ppm以上の群及び雌の20000ppm群では肝腫瘍により対照群に比べ生存率が低下した。体重は、雌雄とも投与濃度に対応した低値を示した。
腫瘍性病変(表2)
 雄に肝細胞がん及び肝芽腫、雌に肝細胞腺腫、肝細胞がん及び肝芽腫の発生増加が認められた。

表1 腫瘍の発生数(ラット)
投与濃度(ppm) 0(対照) 2000 4000 8000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
雄 (検査動物数)
 肝臓 肝細胞腺腫
(50)
0
(50)
1
(50)
 13**
(50)
 11**

↑↑

↑↑
雌 (検査動物数)
 肝臓 肝細胞腺腫
 子宮 腺がん
(50)
0
1
(50)
0
4
(50)
0
8*
(49)
5*
8*

↑↑
↑↑

↑↑
*:p≦0.05で有意  **:p≦0.01で有意  (Fisher検定)
↑:p≦0.05で有意増加  ↑↑:p≦0.01で有意増加  (Peto, Cochran-Armitage検定)


表2 腫瘍の発生数(マウス)
投与濃度(ppm) 0(対照) 5000 10000 20000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
雄 (検査動物数)
 肝臓 肝細胞がん
     肝芽腫
(50)
16
1
(50)
11
12**
(50)
14
18**
(50)
39**
38**

↑↑
↑↑

↑↑
↑↑
雌 (検査動物数)
 肝臓 肝細胞腺腫
     肝細胞がん
     肝芽腫
(50)
5
2
0
(50)
18**
12**
0
(50)
13*
41**
8**
(50)
4
46**
38**


↑↑
↑↑


↑↑
↑↑
*:p≦0.05で有意  **:p≦0.01で有意(Fisher検定)
↑:p≦0.05で有意増加  ↑↑:p≦0.01で有意増加  (Peto, Cochran-Armitage検定)

4.まとめ
 p-ニトロアニソールの投与によって、F344/DuCrj(Fischer)ラットでは、雄に肝細胞腺腫の発生増加が認められ、がん原性を示す証拠であると考えられた。雌には子宮腺がんの発生増加が認められ、がん原性を示す明らかな証拠であると考えられた。また、肝細胞腺腫の発生増加も認められた。Crj:BDF1マウスでは、雌雄に肝芽腫及び肝細胞がんの発生増加が認められ、がん原性を示す明らかな証拠と考えられた。雌には肝細胞腺腫の発生増加も認められた。

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