資料I |
目次
I | 職業能力開発の現状と課題 |
1 | 現状
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2 | 今後の課題
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II | 今後の施策の方向性 |
1 | 教育訓練機会の提供の在り方 | ||||||||
2 | 職業能力評価制度の在り方 | ||||||||
3 | 職業能力開発を行うに当たっての相談・情報提供の在り方 | ||||||||
4 | その他
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素案 |
I 職業能力開発の現状と課題 |
1 | 現状 |
(1) | 職業能力開発の現状について |
・ | 我が国の職業能力開発の現状をみると、我が国経済がバブル崩壊後長期停滞が続いていた影響も受け、企業による人材育成への投資は減少傾向にあった。企業は経営課題として人材育成の強化を重視している一方、企業の人材育成への投資である労働費用に占める教育訓練費は、1990年代と比べ約1000億円減少している。また、企業による教育訓練の中核をなすOff-JTや計画的OJTの実施もここ数年は低下傾向にある。企業が能力開発に積極的ではない理由としては、時間の不足、指導する人材の不足をあげる割合が高い。 |
・ | 能力開発の責任主体について、従業員個人の責任と考える企業はこれまでは約3割だったものの、今後については、約5割の企業が従業員個人の責任と考えている。キャリア設計の自己責任化の必要性についても、企業の9割弱が必要と考えている。一方、職業生活の設計をこれまで以上に自分自身で考えたいと思う労働者の割合は8割弱と企業と比べ1割程度少ない。 |
・ | 労働者はこれまでと比較し、今後については、自分で職業生活の設計をよく考えたいとする割合が大幅に増加するなど、職業能力開発に対する意欲が高いと考えられるが、現実には、自己啓発に取り組む労働者は約3割にとどまっている。労働者が能力開発を行うに当たって、忙しくて自己啓発の余裕がない、費用がかかりすぎる、休暇取得・早退などが会社の都合でできないといったことを問題点としていることに留意する必要がある。 |
・ | 企業の今後の能力開発の方針については、過去3年間と比較して、「会社が積極的に能力開発に関わる」が高まっている。その対象者については、正規労働者と比べ、非正規労働者を対象としている企業は約半数にとどまっている。多くの労働者は今後の自分の知識・技能を高めたいと思っており、パートタイム労働者等でもその意欲はいわゆる正社員と大きく変わらないものの、実際にパートタイム労働者等に教育訓練を実施している事業所の割合は低い。 |
・ | 最近では、フリーターやニート(NEET)といわれる若年無業者が増加するなどの問題が指摘されている。このような状態を放置することは本人の職業能力形成における問題をまねくのみならず、我が国経済社会の発展という観点からも問題であり、若年者の職業能力開発の強化が求められているところである。 |
・ | さらに、職業に必要となる技能や能力の評価のうち、会社において作成した評価基準や、既存の各種資格に基づいて評価を実施する職業能力評価の実施状況を尋ねたところ、半数近くの企業において実施されているとともに、今後の職業能力評価制度の導入意向については、6割以上の企業が導入に前向きである。一方で、現行の職業能力評価制度に関して、「全部門・職種で公平な評価項目の設定が難しい」、「評価者が評価基準を把握していないため、評価内容にばらつきが見られる」などの問題があると考えている企業も多い。 |
・ | また、企業が、従業員に対して求める能力をどのように知らせるかについては、「日常の仕事を通して」や「人事評価制度の運用を通して」とする企業が多い。また、従業員にキャリア形成を考えてもらう場については、「上司との面談」とする企業が最も多い。 |
・ | なお、大企業でもキャリア・コンサルティングがすでに導入されていると回答しているのは約3割にすぎず、社内でキャリアの相談やアドバイスを「十分受けることができる」、「ある程度受けることができる」労働者も約3割にすぎない。 |
(2) | 踏まえるべき社会・経済情勢の変化について |
(1) | 労働力の供給面の変化 |
・ | 我が国の総人口は2006年にピークに達した後、長期の人口減少過程に入ると予想されている。生産年齢人口は2010年以降大幅に減少していくことが見込まれており、今後10年程度先を見据えると、労働力人口の大幅な減少が見込まれる状況にはないが、より多くの者が社会を支えることが重要であることから、若年者、女性、高齢者を中心に可能な限り労働力率、就業率を高めるような取組を推進することが重要である。 |
・ | いわゆる「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ)は、2007年に60歳に、2012年に65歳に到達し始める。これらの者は、技能労働者として現場を支えた者も多く、今後、一斉に定年を迎えていくることにより、我が国のものづくり分野にどのような影響を与えるか、特に技能継承や安全衛生の確保の観点から問題視する声も多い(いわゆる「2007年問題」)。ものづくり分野における企業においては、人材について余剰気味と答えたところはわずかであり、特に開発部門の技術者を不足とする企業が多い状況にある。また、その人材の能力レベルについては、過半数の企業が懸念を感じている。 |
・ | 若年者の雇用について厳しい状況が続いていると指摘されている。15~24歳層の失業率は9.6%と全体の4.8%と比べ高い状況にある。さらに最近では不安定な就労を繰り返しているフリーターの増加に加え、ニートと呼ばれる若年無業者の増加が指摘されている。この要因としては、将来の目標が立てられない、あるいは、目標を実現するための実行力が不足している者が増加しているなどの若年者の側の問題のみならず、労働需要の不足等による求人の減少に加え、求人がパート・アルバイトと高度な技能・知識を要するものに分かれることにより、労働力需給のミスマッチが拡大しているなど様々な要因があると考えられる。いずれにしても、このような状況が続くことは若年者自身にとっても社会全体にとっても大きな影響があると考えられる。 |
・ | また、労働者の就業意識は、若年者を中心として、一社での長期勤続に限定されない働き方に変化してきており、職業選択に当たっても、自己の能力発揮の可能性や仕事への充実感が重要視される等の変化が見られるところである。一方で若年者の中には将来の目標が立てられない、あるいは目標を実現するための実行力が不足している者も増加している。さらに、今後は、高齢化の進展に伴い、多くの労働者の職業生活が長期化するものと考えられる。このため、労働者は職業生涯の節目ごとに、その目的を定め、職業の選択や職業能力開発を通してその目的が実現できるよう、計画的に取り組んでいく必要性がさらに増すものと考えられる。 |
(2) | 労働力の需要面の変化 |
・ | IT等の技術革新の進展や経済のグローバル化等に伴い、企業全体の戦略・組織が大きく変化している。このような中で企業の人事戦略や人材育成方針にも大きな変化が生じている。 |
・ | また、国内総生産(産業計)に占める第3次産業の割合は1990年代だけで10%ポイント以上上昇し、2002年時点で69.0%(名目ベース)を占めるまでに至っているとともに、第3次産業における就業者数は医療、社会福祉、情報サービス・調査といった業種で大幅に就業者数が増加するなど、第3次産業中でもサービス産業化が進展している状況にある。 |
・ | さらに、非正規労働者数は、1993年の986万人から2004年には1,555万人と大幅に増加するなど、雇用形態の多様化が進んでいる。 |
・ | このような変化の中で、企業が労働者に対して求める職業能力が高度複雑化・多様化しているとともに、中途採用する者を中心に企業の即戦力志向が高まっている。また、賃金体系について今後は年功を重視した体系を見直し、能力主義的に運用していくことを検討している企業が多い。 |
・ | 企業は人材育成を重視している一方で、人材育成に取り組む余裕がない等の理由により、企業内における職業能力開発の取組は減少傾向にある。 |
2 | 今後の課題 |
(1) | 基本的考え方 |
・ | 我が国において今後人口が減少していくことが見込まれているが、このような中で、我が国社会の活力を維持するためには、より多くの者が社会を支えていく側にまわるようにするとともに、働く者一人一人がその能力を高め、十分発揮することにより、社会全体で労働生産性を高めていくことが必要である。今後、我が国が人口減少や高齢化、経済のグローバル化などの様々な変化の中でその活力を維持し続けようとするのであれば、社会活動への参加者の増加を図り、個々の能力を高めるため、我が国の重要な資源である人材への投資を強化していくことが求められる。 |
・ | 企業や労働者が能力開発に取り組むに際しても、企業主導なのか個人の自発的な職業能力開発なのかと二者択一のように決めるのではなく、両者が連携・協力しつつ、職業能力開発の意義や目標を確認しながら効率的・効果的に行っていくことが重要である。 |
・ | 人材投資は、企業や労働者だけではなく、社会全体としても大きなメリットを享受するものであり、国や地方公共団体をはじめとした社会も、企業や労働者が行う職業能力開発を積極的に支援する必要がある。その際、民間教育訓練機関等を積極的に活用しつつ、効果的・効率的な職業能力開発施策を展開することが重要である。 |
(2) | 職業能力開発の社会的必要性、意義 |
・ | 労働者や企業を始め、社会全体が今後積極的に職業能力開発に取り組むためには、職業能力開発の関係者がその必要性や意義について十分認識した上で取り組んでいくことが重要である。 |
・ | 労働者にとっての職業能力開発は、第1に、経済社会が変化している中において、労働市場における個人の雇用可能性を高め、職業の安定につながるという意義があると考えられる。第2に、若年期においては、教育から就業への円滑な移行を進め、その後の職業生涯の基礎を形成するための、職業意識形成まで含めたものとして捉えられるべきである。第3に、今後、高齢化が進行していく中で、労働者の職業生涯が長期化していくと考えられるが、その節目ごとに、生活とのバランスも踏まえつつ、目的を定め、その実現に向け、職業の選択、職業能力の開発・向上のための取組を計画的に行っていくことにより、自己の能力を十分に発揮し、充実した職業生活を送ることに資するものと考えられる。さらに、人々が社会の中で働くことを通じた自己実現を図っていくために職業能力開発の意義は大きいものと考える。 |
・ | 企業を取り巻く環境が変化している、あるいは、労働者の職業生涯が長期化している中で、労働者は、職業生涯の中で職業選択や職業能力開発を行いながら、自らの職業の安定や地位の向上を実現していくことが必要となるが、職業能力開発は一つの有効な手段であり、最大のセーフティネットといえるものである。 |
・ | 企業にとっては、技術革新の進展、国際競争の激化等企業を取り巻く環境が変化している中で、労働生産性を高めていく取組がより一層重要になってきている。企業が職業能力開発に積極的に取り組むことは、企業内の人材の質の向上につながり、このことは労働生産性の向上、競争力の強化につながるものと考えられる。採用に関する方針と企業業績との関係について見ると、新規学卒者の採用を重視している企業の方がそうではない企業より一人当たりの経常利益が高い傾向にあり、さらに、新規学卒者の採用を重視している企業の中でも、人材の社内育成を重視している企業の方が、一人当たりの経常利益が高くなっている。また、職業能力開発を積極的に行うことは、優れた人材の確保にも資するものであるとともに、労働者本人のモチベーションや適応力を高めるなど、企業にとって業務の効率化につながるなど、大きなメリットがあるものと考えられる。 |
・ | さらに、若年者を中心として雇用環境が厳しい状況の中で、企業が積極的に労働者を受け入れ、人材育成に取り組むことは、企業が社会の一員としての使命を果たしていく上で大きく評価されるべきことと考える。企業は労働者に対し、金銭面、労働時間面での支援を行うとともに、労働者が職業能力開発に取り組みやすい雰囲気づくりに率先して取り組むことが重要である。また、このような取組をさらに積極的に推進していく観点から、職業能力開発に取り組む企業が社会的にも評価されるようにしていく必要がある。 |
・ | 職業能力開発は労働者や企業にとって効果があるだけではなく、その結果、社会全体としての生産性向上につながるなど、社会としても大きな利益を享受するものと考えられる。 |
・ | また、今後、我が国の人口が減少していく中で、我が国社会の活力を引き続き維持していくためには、多くの者が社会を支える側にまわるとともに、労働生産性を高めていくことが重要であり、我が国において重要な資源である人材への投資を強化していくことが求められていくものと考えられる。社会は企業や労働者の積極的な取組に対する支援を強化していくことが求められるが、その際には、民間教育訓練機関等を積極的に活用しつつ、効果的・効率的な職業能力開発施策を展開することが重要である。 |
(3) | 関係者に求められる役割・課題について |
(1) | 労働者 |
・ | 企業を取り巻く環境が変化し続けていることは企業の人材育成方針にも大きな影響を与えており、企業が求める人材・能力も多様化している。このような変化が激しい中にあっては、従来のような企業による一律的な能力開発だけでなく、個人が主体的に能力開発に取り組むことが必要となっている。 |
・ | また、高齢化の進行に伴い、職業生涯は長期化していくと見込まれる。社会の活力を維持するためにも、より多くの者が社会を支える側になることが必要であり、そのことが労働者にとっても、充実した人生を送ることに資するものと考える。その際には、それぞれの労働者が選択するライフスタイルに合わせ、起業やボランティアなども含めた様々な働き方を念頭においた上で、どのような能力開発が必要となるかについて検討する必要がある。また、能力開発の実施に当たっても、若年期に集中的に能力開発を行うのみならず、職業生涯の節目毎にこれまでの経験や能力を振り返りつつ自らの職業における目的を考えながら、必要な能力開発を行っていく必要がある。 |
・ | なお、職業能力開発の推進において個人の自発性は重要であるものの、単純に個人の自発性のみに委ねることは、職業能力開発の取組を行うことに理解はしていても、具体的にどのような取組を行うべきかについて理解が不足している労働者にとっては、いたずらに不安感を増し、効果的な職業能力開発が行われないおそれもあると考えられる。個人の自発性を引き出しつつ適切な職業能力開発の取組へと導いていくため、企業や社会による適切な指導・助言・相談等の支援が不可欠である。 |
・ | とりわけ、若年者については、職業感の形成や能力開発が不可欠であることはもちろんであるが、個々人の主体的取り組みのみならず、周囲からのより手厚いサポートが不可欠である。 |
(2) | 企業 |
・ | 職業能力開発の成果は仕事を通して現れてくるものであり、今後とも企業は職業能力開発の主要な担い手としての役割を果たす必要がある。その際には、事業主は、長期的な視点に立ち、雇用する労働者に対し、OJTも含めた職業能力開発に積極的に取り組むことが重要である。 |
・ | しかしながら、経済・社会を取り巻く様々な変化に即応するため、従来のような企業による一律的な職業能力開発を行うだけでは十分とはいえず、個人の自発的な取組も同時に必要となっている。そのような流れの中で、「能力開発の責任主体は、従業員個人である」と考える企業が増加しているが、労働者自身は、自己啓発に当たっての問題点として、「やるべきことがわからない」、「セミナー等の情報が得にくい」、「自己啓発の結果が社内で評価されない」等もあげており、単純に能力開発の責任主体を従業員個人とするだけでは効果的な職業能力開発が行われない可能性も高いと考えられる。企業は労働者が職業能力開発に取り組みやすい環境を整備するとともに、どのような能力や成果を発揮することを期待しているのかを示し、そのためにどのような取組が必要か、取り組んだ結果をどう評価するのかといった点について、労働者の求めに応じ、あるいは職業生活の節目毎に示すなどの取組が今後はさらに必要となってくると考えられる。 |
・ | また、労働者の職務に関係する職業能力開発については、企業の責任として当然支援すべきものと考えるが、それのみならず、自己啓発も含め労働者が様々な能力開発に積極的に取り組むことは、労働者本人のモチベーションや適応力を高めるとともに、優れた人材の確保にも資するなど、企業にとっても直接的・間接的に効果があると考えられることから、企業は労働者が能力開発を行いやすい体制を整備するなど、側面的な支援を行うよう努めることが必要である。 |
・ | さらに、事業主等が自らの資源を提供しあい、雇用する労働者以外の者に対して教育訓練を行うような場合、あるいは地域の事業主が集まって、共同で訓練を行おうとするような場合、これは労働者にとっても職業上の可能性が広がっていくという点で有益なものであり、このような取組を広められていくことも今後必要になってくるものと考えられる。 |
・ | 加えて、企業は社会の一員としての責任を果たすという観点から、若年者など職業能力開発を行う機会が少ない者に対し、例えば職業訓練を積極的に受け入れるなどの取組も今後はより重要となってくると考えられる。 |
・ | 企業の行う労働者に対する具体的な支援内容については、金銭的な支援を行うほか、例えば自己啓発を行いやすくするための労働時間上や休暇付与等の配慮など、労働時間面等の配慮を十分に行っていくことが必要である。さらに、社内にキャリア・コンサルタントを配置するなど、労働者が職業能力開発を行っていくために必要な相談・支援体制を整えておくべきである。 |
・ | なお、企業内において職業能力開発を行うに当たっては、職業能力開発推進者が要となると考えられ、当該推進者に対する必要な情報の提供、相談技術の付与等の支援の充実についても検討が必要である。 |
(3) | 教育訓練機関 |
・ | 現行における能力開発の各場面において、様々な形で民間教育訓練機関が活用されている。企業や労働者の多様なニーズに沿った教育訓練機会の確保に当たっては、民間教育訓練機関を引き続き積極的に活用していくことが重要である。 |
・ | このため、労働者や企業の訓練ニーズに関する情報を民間教育訓練機関等に提供するとともに、教育訓練内容をコーディネートしていく取組がより一層必要となるが、これらにより、社会的に必要な教育訓練機会を質・量ともに確保していくことが重要である。 |
(4) | 行政 |
・ | 職業能力開発の効果は、労働者と企業にメリットがあるだけではなく、社会全体としての生産性の向上につながるなどの効果も考えられ、国及び地方公共団体も引き続き積極的に支援していく必要がある。その際には、従来のような助成金や公共職業能力開発施設を設置することによる支援のみならず、情報提供や労働時間面等の配慮といった手法もあわせ、より効果的な支援策を実施すべきものである。 |
・ | また、支援を行うに際しては、支援の必要性、支援内容をそれぞれの対象者ごとに検討していくことが必要である。 |
・ | 国及び地方公共団体が支援を行うに際しては、それぞれの役割分担を踏まえ、政策の重複を排除し、効果的・効率的に実施していくことが重要である。特に、国は、雇用のセーフティネットの観点から行う求職者に対する訓練や全国共通の基準として整備する必要がある職業能力評価基準の整備、能力開発を社会全体として推進していくために必要となる指導的人材の養成、高度・先導的な分野における訓練カリキュラム等の開発等を行っていくべきであり、また、地方公共団体は、地域に必要な人材育成に必要な取組を行っていくべきである。その際、国は、都道府県が職業能力開発に取り組みやすい環境整備を図り、積極的に職業能力開発に取り組む地方公共団体を支援していくことが重要である。 |
(5) | その他 |
・ | 成果主義的な処遇制度の導入の進展等により、ここ5年間の従業員の長期的なキャリアに関する関心度が高まっているとする労働組合は過半数を超えており、キャリア相談について、今後労働組合が果たす役割について高くなると予測する労働組合は6割以上となっている。また、実際に、労働組合が組合員に対し積極的に能力開発を行い始めている例も見受けられるところである。 |
・ | 企業による教育訓練の対象外となっている労働者が、あるいは職場外に自己啓発に取り組もうとする従業員が教育訓練機会を確保していくためには労働組合が果たしていくべき役割は大きいものと考える。労働者が職業能力開発に取り組みやすい環境を整備するために、労働組合が果たすべき役割は今後重要性を増すものと考えられる。 |
・ | 能力開発の分野では、その担い手として今後更にNPOの役割が増すことが予想される。また、特に若年者の職業意識形成に関しては、学校教育機関との連携も重要である。 |
II 今後の施策の具体的方向性 |
1 | 教育訓練機会の提供の在り方 |
・ | 教育訓練の機会を提供していくに当たっては、民間でできるものは民間でという官民の役割分担の原則に従い、今まで以上に民間教育訓練機関等を積極的に活用していく必要がある。その際には、適切に民間教育訓練機関等が活用されるようになるとともに、社会全体として必要となる教育訓練機会が質・量ともに確保されるよう、企業や労働者のニーズ、産業政策との連携などについて教育訓練機関との橋渡しが可能となるよう、社会全体として教育訓練のための基盤を整備していくことが重要である。 |
・ | 教育訓練機会を提供して行くに当たっては、社会としてどのような者に対し重点的に支援すべきか、どのような教育訓練を提供する必要があるのかなどを関係者と十分な議論を行い、資源の適切な選択と集中を行いながら、施策の対象者ごとにきめ細かに施策を実施していく必要がある。特に、若年者や主婦などの雇用保険被保険者以外の者、非正規労働者など、本人の努力や企業のみに任せていただけでは十分な教育訓練が行われにくい者に対する教育訓練機会の提供・確保について、今後、社会の支え手を増やしていく必要があるという視点からも、十分な配慮が必要である。 |
・ | また、職業生涯が長期化すると予想される中で、労働者は、自発的な能力開発に取り組んでいくことが必要になるが、職業生活の節目毎にこれまでの経験を振り返り、今後の職業生活設計を再度行うなどの取組も必要になってくると考えている。長期に渡って、働き続けられるような、あるいは、職業生涯における自らの目的にかなった職業を選択していけるようにするための、中長期的な視野に立った職業能力開発についても積極的に支援していく必要がある。その際には、「雇用」だけではなく、起業やボランティア活動など、様々な働き方・社会参加の有り様が増えていることも踏まえた能力開発への支援が必要になってくると考えられる。 |
・ | 企業はこれまで以上に積極的に職業能力開発に取り組んでいく必要があるが、労働者の自発的な取組の重要性も踏まえ、企業・労働者が相互に理解・協力をしながら職業能力開発に取り組むことが可能になるような社会的な環境整備に取り組むことが必要である。その際には、企業が、従業員に対する金銭面での支援のみならず、労働時間面の配慮や相談・情報提供を行うことについても推進していく必要がある。また、企業が職業能力開発に積極的に取り組むための環境整備として、職業能力開発を行うことの意義について情報提供を行うとともに、社会全体としても、職業能力開発に取り組むことが評価されるような仕組みを整備する必要がある。 |
・ | また、企業が人材育成への投資を抑制していた間、企業における人材育成の担い手も十分に育成されてこなかったと考えられる。人材育成の効果はその対象者に帰属するのみならず、人材育成を担当する者にとっても、「人に教える」ということを通して、様々な知識を習得していく効果もあると考えられる。企業の職業能力開発の取組を支援するためにも、その指導的人材の養成について、国は今後積極的な支援を行っていく必要がある。 |
・ | さらに、我が国において今後人口が減少していくことが見込まれているが、このような中で、我が国社会の活力を維持するためには、より多くの者が社会を支えていく側にまわるようにしていく取組が重要となるが、女性、高齢者、障害者等が、その能力を十分発揮しつつ就労できるよう、多様な職業能力開発をより積極的に推進していくことが重要である。 |
・ | 教育訓練について、その投資の効果を的確に評価していくことは重要であるが、政策効果がすぐ表れてこない面があることも踏まえ、中長期的な視野に立って検証していくことも重要である。また、社会的なニーズを踏まえた施策として実施されるよう、従来以上に、中央レベルだけではなく地域レベルでの学校、民間教育訓練機関、企業や業界団体、労働組合など様々な関係者との十分な連携ができるような体制整備を図っていくことが重要である。 |
・ | なお、労働者や企業の職業能力開発の取組を支援するに当たっては、補助方式やガイドライン作りなどのほか、情報提供など様々な手法が考えられるが、それぞれのメリット・デメリットを整理した上で、対象者の特性を踏まえ、より施策の効果が発揮される形を適切に選択していくことが重要である。 |
・ | 公的な教育訓練機会の提供主体としては国(独立行政法人雇用能力開発機構)と地方公共団体とが存在しているが、両者が一定の役割分担の下、社会のニーズに適切に対応し、かつ、より効果的・効率的な教育訓練を提供できるよう、連携していくことが重要である。 |
・ | また、教育訓練機会を提供する方策として、今後は、地方や民間が既に有する施設等を十分活用するとともに、日常生活の様々な場面が能力開発に効果があり得ることも考慮しつつ、社会全体として、既存の多様な施設の利活用も含め、教育訓練のためのインフラが整備されるように配慮していくことが重要である。 |
2 | 職業能力評価制度の在り方 |
・ | 労働者や企業を取り巻く環境が変化している中で、(1)労働者にとってはこれまで以上に職業能力を身につけ、自らの能力を把握し、積極的に企業に示していくこと、(2)企業にとってはこれまで以上に労働者の職業能力を把握・評価し、企業の生産性等を高めていくことが必要となっている。このため、職業能力に関して、労働者、企業の双方が明確かつ客観的に識別でき、かつ、社会全体で通用する共通の基準として引き続き国が業界団体等と連携を図りつつ整備していくべきである。 |
・ | 特に、若年者の雇用問題が大きな社会問題となっている中で、若年者が学校から就業の場へ円滑に移行していけるようにするためにも、若年者が早期から明確な能力開発のための目標を定め、その目標を達成するための道筋が示されているような仕組みが重要であり、そのための仕組みの社会的な整備を推進することが重要である。 |
・ | 職業能力評価基準については、多くの職種がカバーされたものであるとともに、労使や民間教育訓練機関、職業紹介機関等が共通の基準として活用していくことができるようなものとして位置づけることが重要である。また、職業能力開発の体系についても、職業能力評価制度を軸として再構築していくべきである。 |
・ | さらに制度の整備に当たっては、現在起こっている働き方の変化やIT化などの進展等も踏まえ、適切にフォローアップしていくことも重要である。 |
3 | 職業能力開発を行うに当たっての相談・情報提供の在り方 |
・ | 能力開発が効果的に行われるようにするためには、職業能力開発を行う労働者や企業が必要な情報を簡易に入手し、職業能力開発のための様々な支援策を有効に活用しながら実施していくことが重要である。その際、情報の内容、提供方法等については、ユーザーの視点に立った工夫がより一層必要である。 |
・ | また、情報を入手し、実際に、効果的な職業能力開発を行っていく過程においては、専門家であるキャリア・コンサルタントの支援を適宜組み込んでいくことが望ましいと考えられる。現在は、キャリア・コンサルタントを配置する企業も少数にとどまっており、普及が進んでいるとは言い難い状況であるが、今後は、キャリア・コンサルタントの行うキャリア・コンサルティングの有効性について積極的に周知していくこと、企業等においてキャリア・コンサルティングを受けられない者に対し、公的機関等で容易にサービスを受けられる体制を整備すること、個人が良質なキャリア・コンサルティングを受けられるよう、キャリア・コンサルタントの資質確保のための取組みを充実・強化していくこと等が重要である。 |
4 | その他 |
(1) | 若年者の職業能力開発支援の充実 |
・ | 若年者対策については、近年フリーターだけでなく、ニートといわれる若年無業者等が増加しているなどの問題が指摘されているが、この問題を放置することは個人の能力開発上の問題となるばかりではなく、社会にとっても大きな影響を与えることも予想されることから、平成15年6月以降、関係大臣が集まり、若者自立・挑戦プランに基づいた取組が展開されているところである。 |
・ | 若年者の自立を促進していくためには、若年者自身がよく考え、職業を選択していくことが可能となるよう、社会全体として、適切に助言を行う、教育訓練機会を提供するなど若年者の態様に応じたきめ細かな支援を行っていくことが重要であり、その際には、地域における若年者を取り巻く状況が異なっていることも踏まえ、地域の創意工夫を凝らした取組と連携していくことも重要である。 |
・ | さらに、若年者に対する能力開発を実施していくためには企業の参加が不可欠である。企業は若年者の育成を社会的使命と考え、体験講習や教育訓練機会の提供をはじめとした積極的な取組を行っていくことが求められる。 |
・ | また、若年者が円滑に職業生活に移行していけるよう、従来以上に、学校や企業、地域との連携が重要である。 |
(2) | 職業生涯を通じた職業能力開発の取組みの推進 |
・ | 高齢化が進行する中で、今後は、労働者の職業生涯が長期化していくものと予想される。このような状況において、労働者は、長期に渡って、働き続けられるような、あるいは、自らの職業上の目的にかなった職業を選択し続けていけるようにするための、中長期的な視野に立ち、職業生涯の節目ごとに適切に職業能力開発に取り組んでいく必要がある。 |
・ | このため、労働者の職業生活設計に取り組むための相談体制の充実が必要となるほか、労働者が具体的に職業能力開発に取り組むために、企業により、金銭的な支援のみならず、職業能力開発に取り組みやすい労働時間面の配慮、休暇取得の促進、職業能力開発を推進する企業の雰囲気づくりなどの環境整備をより積極的に取り組むことが求められる。 |
・ | さらに、中高年齢者が職業能力開発に取り組む際には、知識・技能の習得というだけではなく、思考行動特性の強化などが可能となるような訓練機会が提供されることも重要であり、今後は、必要となる教育訓練内容やその提供方法について、研究を深めていくことが必要である。 |
(3) | 技能継承への対応 |
・ | 今後、いわゆる「団塊の世代」が、2007年に60歳に、2012年に65歳に順次到達し始める見込みであるが、このような状況の中で、ものづくり産業を支えてきた技能をどのように次代に引き継いでいくかということは大きな問題となっている。 |
・ | また、ものづくり力の源泉となっている製造現場の技能の継承について、企業の多くが危機感を有しており、技能継承について早急な対応が必要である。 |
・ | さらに、このような問題を抜本的に解決するためには子供から大人までの国民各層が技能の重要性を広く認識し、ものづくりに親しむ社会を形成することが不可欠であり、そのための取組を社会全体で強化して取り組んでいくことが重要である。 |
(4) | 国際協力 |
・ | 我が国経済社会が、今後とも、アジアをはじめとする諸外国との密接な相互依存関係にある中において、引き続き、諸外国との友好関係を促進し、国際協調を図っていくことが重要である。 |
・ | 我が国はアジアにおいて最初の先進国となった経験をいかし、これまでも、人材育成に関しても積極的に支援を行ってきたところであり、開発途上国の経済社会の発展に大きく貢献してきたが、このような取組は、各国との友好関係や人の交流の増進等をもたらすものであり、我が国にとっても大きなメリットがあると考えられ、今後とも、国民の理解と支援が得られるよう、透明性を確保しながら、積極的に取り組んでいくことが重要である。 |
参考資料・目次 |
1 | 重視する経営課題 | |
2 | 労働費用に占める教育訓練費の割合 | |
3 | 教育訓練の実施状況 | |
4 | 従業員への能力開発に対する課題 | |
5 | OJT実施上の問題点(複数回答) | |
6 | 能力開発の責任主体の方針 | |
7 | キャリア設計の自己責任化の必要性(企業回答) | |
8 | 職業生活の設計をこれまで以上に自分自身で考えたいと思うか(労動者回答) | |
9 | 職業生活の設計 | |
10 | 自己啓発実施状況 | |
11 | 能力開発を行う上で障害となること(複数回答)(労働者調査) | |
12 | 自己啓発にあたっての問題点(複数回答) | |
13 | 能力開発の方針(企業調査) | |
14 | 能力開発の対象者 | |
15 | 今後の自分の知識・技能を高めたいと思うか否かについての回答状況(就業者調査) | |
16 | パート等労働者への教育訓練の実施状況 | |
17 | フリーターの状況 | |
18 | 無業者の増加 | |
19 | 職業能力評価実施状況(業種別) | |
20 | 今後の導入意向(業種別) | |
21 | 職業能力評価の持つ問題点 | |
22 | 従業員に求める能力の知らせ方(複数回答) | |
23 | 従業員にキャリア形成を考えてもらう場(複数回答) | |
24 | キャリアカウンセリング導入状況 | |
25 | キャリア・コンサルティング体制 | |
26 | 社内でキャリアの相談やアドバイスをどの程度受けることができるか |
|
27 | キャリア・コンサルティングの役割を担う主体(現在と将来) |
|
28 | 総人口の動向 | |
29 | 生産年齢人口の動向 | |
30 | 労働力人口の動向 | |
31 | 団塊の世代の高齢化 | |
32 | ものづくり力の継承への危機感(規模別) | |
33 | 危機感を持った理由・きっかけ(規模別) | |
34 | ものづくり人材の過不足の状況 | |
35 | ものづくり人材の能力状況(部門別) | |
36 | 完全失業率と有効求人倍率(平成17年1月時点) | |
37 | 新卒者の早期離職率の動向 | |
38 | 新規学卒者(高卒)に占める正社員の割合 | |
39 | 勤続年数(就業形態別) | |
40 | 転職希望率の推移 | |
41 | 大学生の入社時の選社理由 | |
42 | 収入と自由時間についての考え方 | |
43 | 理想的な仕事 | |
44 | 名目GDPに占める第1次、第2次、第3次産業の割合の推移 | |
45 | 就業者数に占める産業別構成割合の推移 | |
46 | 非正規雇用者数の推移(男女計) | |
47 | 産業別非正規雇用比率の推移 | |
48 | 企業の即戦力志向 | |
49 | 年功賃金についての考え方(企業) | |
50 | 賃金制度の変更 | |
51 | 採用の動向と企業業績 | |
52 | 従業員の自己啓発に対する支援状況(複数回答) | |
53 | 従業員(組合員)の長期的なキャリアへの関心度 | |
54 | キャリア相談での労働組合の役割 |
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