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資料2


長谷川委員提出資料



「医師需給の国際動向」



平成17年3月11日 10:00〜12:00

国立保健医療科学院
政策科学部長 長谷川敏彦


平成16年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)
「医師需給と医学教育に関する研究」結果より



国立保健医療科学院
埼玉県和光市(2002-)

保健医療福祉の
総合的政策研究を目指して
国立公衆衛生院と統合
3年目



PART A

医師需給に関する
日本の国際的位置



第1部
医師数



医師数
2000年、1000人当

医師数のグラフ



医師数年次推移
(1960-2002 OECD29ヶ国 人口1000人当たり)
医師数年次推移のグラフ



政府の医師需給計画と医師市場体制の影響
政府の医師需給計画と医師市場体制の影響のグラフ
出典:  OECD human resources for health care project

 OECD Health database 2003.



第2部
女性医師



女性医師割合
女性医師割合のグラフ



女性医師数年次推移
(1960-2002 OECD24ヶ国)
女性医師数年次推移のグラフ



第3部
専門、一般医師



一般医 専門医
一般医、専門医のグラフ



開業医数年次推移
(1960-2002 OECD25ヶ国 人口1000人当たり)
開業医数年次推移のグラフ


開業医数と非開業医数の年次推移
開業医数と非開業医数の年次推移のグラフ



第4部
他職種



2000年の1000人当たり看護師数
2000年の1000人当たり看護師数のグラフ



2000年の1000人当たり歯科医師数
2000年の1000人当たり歯科医師数のグラフ



2000年の1000人当たり薬剤師数
2000年の1000人当たり薬剤師数のグラフ



PART B

医師需給政策に関する
国際社会の潮流



第1部
相次ぐ報告書



各種国際機関、各国報告書類

1) 世界銀行報告書2004年(ドラフト)
2) OECD報告書2004年(ドラフト)
3) WHO欧州報告書2005年(ドラフト)
4) 米英加3カ国報告書

論調の基調、過剰から不足へ



世界銀行報告書2004

医療人材・5つの問題への挑戦
 世界規模に不足する医療人材
  (全世界で合計400万人以上、新規確保が必要)
 医療人材の技能の不均衡
  (医師の専門偏重と公衆衛生軽視、准医療職員採用のための抜本的保健医療改革)
 地理的な不均衡
  (医療人材配置の都鄙格差、地域住民を保健人材として確保)
 医療人材の移動
  (途上国から先進国への医療人材の“頭脳流出”対策)
 劣悪な職場環境
  (国別に最も必要とされる医療人材の専門、仕事、金銭的誘因を検討し、職場環境を改善)
『Working Draft for JLI Co-chairs in Cape Town』 より



4つの方策

1. “医療人材の10年” (2005-2015年)

2. 健康危機打開のため医療人材を結集

3. 持続的保健システム樹立のための医療人材を確保

4. 活発な医療人材教育活動を関係諸団体間が連携して始動



国家医療人材戦略

国家医療人材戦略の図



第2部
その背景



国際的潮流1990年代まで

国際的潮流1990年代までの図



健康変革:保健医療システムの統合的諸改革

保健医療システムの概念
 

保健医療
サービス供給


    ┌
  │
  └
人、物、金、
情報、技術


保健医療システムの統合的諸改革の図
  効率と質の向上を目指して



先進5ヶ国経済成長率

先進5ヶ国経済成長率のグラフ



安全質向上国際潮流

 
1994 ダナファーバー事件   医療事故頻度研究発表  
1995        
1996 大統領質諮問委員会   質作業班最終報告書  
1997   ブリストル王立小児病院事件    
1998   A First Class Service    
1999 IQM報告書(戦略計画)     横浜市立大事件
2000 QuIC報告書(行動計画) An Organization with Memory(戦略計画) Safety First(戦略計画)  
2001   Building a Safer NHS for Patient(行動計画) National Action Plan 2001(行動計画) 患者安全行動(PSA)
2002       患者安全国家戦略(予定)



国際的潮流

国際的潮流の図



第3部
論調変化の理由



論調変化の理由
1) 需要側の変化
 ・ 高齢化
 ・ 疾病転換による必要サービスの変化
2) 供給側の変化
 ・ 女医の増加の影響
 ・ 若年医師増加の影響
 ・ 高齢医師の早期退職
 ・ 労働基準法の厳格化の影響
 ・ 外国人医師の流入の倫理的批判



高齢化



高齢化予測(アジア諸国)

高齢化予測(アジア諸国)のグラフ



高齢化予測(ヨーロッパ諸国)

高齢化予測(ヨーロッパ諸国)のグラフ



論調変化の理由
1) 需要側の変化
 ・ 高齢化
 ・ 疾病転換による必要サービスの変化
→2) 供給側の変化
 ・ 女医の増加の影響
 ・ 若年医師増加の影響
 ・ 高齢医師の早期退職
 ・ 労働基準法の厳格化の影響
 ・ 外国人医師の流入の倫理的批判



労働時間



医師平均週間勤務時間数
性別・年齢階層別 2000年


医師平均週間勤務時間数のグラフ
年齢階級 年齢階級
出典: Eurostat Labour Force Survey

Austria United Kingdom
医師平均週間勤務時間数のグラフ
Italy 西Spain
医師平均週間勤務時間数のグラフ



論調変化の理由
1) 需要側の変化
  高齢化
  疾病転換による必要サービスの変化
2) 供給側の変化
  女医の増加の影響
  若年医師増加の影響
  高齢医師の早期退職
労働基準法の厳格化の影響
  外国人医師の流入の倫理的批判



第4部
医師過剰の弊害



地域、専門
格差是正



地域格差改善政策

教育政策  Educational policies
 地方出身者 / early exposure
奨学金政策  Education-related funding policies
 Scholarship / loan (奨学金制度)
規制・行政政策Regulatory/Administrative policies
 医師数の制限(ドイツなど)
財政政策  Financial policies (報酬)
 給料の上乗せ(Canada, UK など)

 環境整備(家族、子供の教育、住居など)



専門選択影響政策

一般医はOECD諸国で減る傾向
- (<20%)デンマーク、オランダ、ポルトガルなど
- (>50%)オーストラリア、オーストリア、メキシコ、ニュージーランド、スイス

影響を与える要因 (チャンスは2種類)
- レジデントを経験、role model, Exposure
  → 学校教育、プログラムに取り入れること
- 経済的インセンティブ:奨学金制度など



供給誘導需要



医師の分布密度(Physician Density)と医療費の関係 2000年

医師の分布密度(Physician Density)と医療費の関係のグラフ
出典: OECD human resources for health care project and OECD Health Data 2003, 3rd edition.



一般医の分布密度 と
国民1人当たり・一般医への年間病院訪問の関係


一般医の分布密度と国民1人当たり・一般医への年間病院訪問の関係のグラフ
  出典: OECD human resources for health care project,
OECD equity project and OECD Health Data 2003.



医師誘発需要をめぐる国際議論

医師誘発需要支持 医師誘発需要不支持
Evans(1974) 医師と患者間の情報の非対称性が医師誘発需要を引き起こす。 Green(1978) 独占的競争モデルを仮定すると、医師誘発需要が存在しないという仮説は棄却できない。
Fuchs(1978) 目標所得仮説に依拠した説明。 Auster and Oavaca(1981) クロスセクション・データから得られた結果では医師誘発需要を説明できない。医師の自由な移動によって最適労働と資本の組み合わせが達成されている。
Reinhardt(1978) 医療サービスは競争市場仮説には当てはまらず、医師数の増加は報酬を減少させない。 Pauly and Satterthwaite(1981) 医師数の増加は消費者情報の低下を招くので、医師誘発需要を考えなくとも報酬増加を説明できる。
Rossiter and Wilensky(1984) 医師誘発需要は存在するが患者の通院コストを入れると非常に小さい。 Kenkel(1990) 消費者の情報の程度は、受診するか否かには影響を与えるが、受診後のサービス量には影響を与えない。
Pohlmeier and Ulrich(1995) 西ドイツのデータを利用。専門医では観察されないが、一般医では観察される。 Escarce(1992) 外科医供給の増加は、外科医療のサービス量には影響を与えていない。
    Dranove and Wehner(1994) 医師需要の高い地域に医師が集中しているのであり、逆の因果関係を推測するのは誤り。



医師誘導需要仮説の争点

1. 医療の情報非対称性理論とその実証。
2. 潜在的な需要の喚起か、供給者の誘導需要か。
3. 検定方法をめぐる問題



医師の失業



医師失業率と医師数
医師失業率と医師数のグラフ
葛西レポート、1995ごろ



第5部
新たな需要と供給



新たな需給の方向

1) 医療の質・安全性と公平性

2) 医師の地域及び診療科への偏在の是正 (資料4)

3) 診療の継続性と連携

4) チーム医療

5) 新たなスキルミックスと各職間の役割の再構築 (資料5)



第6部
総括



医療システム設計
全体マッピング

医療システム設計の図



報告まとめ
2005.3.11
国立保健医療科学院
長谷川敏彦

A. 医師需給に関する日本の国際的位置
 1. 医師数
1) 諸外国に比べ低い日本の人口当たり医師数。OECD29カ国のうち26位。
2) アングロ・サクソン諸国は低い部類だが、日本より多い。
3) 公的規制のある国では医師数は少ない。
 2. 女医
1) 女医の割合は、日本はOECD24カ国中最低の値14.3%。
2) 最も多いのはポーランドで54.2%を占め、東欧諸国が高い。
 3. 一般医と専門医
1) 日本は一般(日本は診療科医)が比較的高く、12位(24カ国中)。専門医(日本では病院医)では18位(25カ国中)。
2) 日本の医師増はこれまで病院医増。
 4. その他人材
看護師、歯科医師、薬剤師

B. 医師需給政策に関する国際社会の潮流
 1. 1990年代から2000年代への変化
1) 1990年代の効率中心の医療制度改革から2000年代には質・安全の議論に。
2) 医師過剰論調から医師不足論調へ。 (資料1)
 2. 各国際機関、各国報告書 (資料2)
1) 世界銀行報告書2004年(ドラフト)
2) OECD報告書2004年(ドラフト)
3) WHO欧州報告書2005年(ドラフト)
4) 米英加報告書
 3. 論調転換の理由
1) 需要側の変化
(1) 高齢化
(2) 疾病転換による必要サービスの変化
2) 供給側の変化
(1) 女医の増加の影響
(2) 若年医師増加の影響
(3) 高齢医師の早期退職
(4) 労働基準法の厳格化の影響 (資料3)
(5) 外国人医師の流入の倫理問題
 4. 新たな需給の方向
1) 医療の質・安全性と公平性
2) 医師の地域及び診療科への偏在の是正 (資料4)
3) 診療の継続性と連携
4) チーム医療
5) 新たなスキルミックスと各職間の役割の再構築 (資料5)
 6. 医師過剰の弊害
1) 供給誘導需要:情報の非対称性 (資料6)
2) 医師の失業:スペイン20%、養成費用の無駄
3) 質の悪化:粗製乱造
 7. 総括
1) 超高齢社会に向けての供給体制の再構築
2) 総合的アプローチの重要性
3) 他職種との調整

資料
 1. 各国入学定員の動向(18カ国)
 2. 各報告書の要約(5報告)
 3. 外国、労働基準法関係資料(EU、米国)
 4. 各国地域偏在性への対応策(14カ国)
 5. スキルミックス・メモ(WHO欧州、OECD)
 6. 供給誘導需要関連11論文レビュー



資料1. 医学部定員に関するOECD各国の状況

 OECD Health Project : Human Resources for Health Care レポートより作成
オーストラリア※
 ・ 定員は連邦政府(Commonwealth Government)によって調整されている。
 ・ 1973年、医学部委員会がオーストラリアの大学委員会に提出したレポートによって医師数増員と2つの医学部新設が勧められ、1991年までに年間1,560人の医学部卒業生を輩出するようになった。
 ・ 1988年の医学教育に関する委員会は、都市部のGeneral Practitioner(GP)の過剰を指摘
 ・ 1996年医療従事者の供給を調整するために医学部の上限を設定した。
 ・ 1990年代後半から医学生数増員
(1995年には856人 → 1999年には1,334人)
オーストリア※※
 ・ 政府は医学部の学生数を特に制限していない
ベルギー※※※
 ・ 1997年、ベルギー政府は医師登録数の減員を提案
  (2004年・700人 → 2005年・650人 → 2006年・600人)
 ・ 医師全体の60%をフラマン語、40%をフランス語を話す医師と制限した。
カナダ※
 ・ 1964年、Hospital insurance の導入に伴い、医師部定員を増員させ、4つの医学部を新設した。
 ・ 1985年に医学部卒業生のピークを迎えた(1,835人)
 ・ 1984年の医師人材調査(1980−2000)とそれに続く1991年のBarerと Stoddartの調査により、医師過剰を防ぐための医学部入学減員が進められた。
 ・ 1999年には医学部卒業生数は1,516人にまで減少
 ・ 1999年のTask Force on Physician Supplyにより年間2,000人の医学部卒業生を輩出する増員方向に変更
フランス※
 ・ 1980年、医師過剰を防ぐため医学部入学者数を減員
 ・ 1993年には医学部卒業者数が3,500人まで減少
 ・ 2010−2015年に予測されている医師不足を解消するため、2001年には4,100人、2002人には5,100人の学生を受け入れた。
ギリシャ
 ・ 文部省が医学部定員を決定(定員は需要と供給との兼ね合いというより各年の医学部の予算によって決定されてきた)
 ・ 現在、医学部入学者数は一定になっている。
アイルランド※※※
 ・ The Higher Education Authorityが予算配分のプロセスを通じて入学可能な定員を決定する。
日本※※※
 ・ 1961年の以降の国民皆保険化に伴い、医師需要が高まっていった。
 ・ 1970年以降新しい医学部が設立され、医学部入学定員は1970年の4,380人から1982年の8,360人にまで増加した。
 ・ 1986年、厚生省は2025年に10%の医師過剰を見込み、1995年までに10%の入学定員削減を目指した。
 ・ 1993年、医学部入学者数は7%減少
 ・ 1998年、厚生省は新たに2020年の医師過剰を見込み、10%の医学部入学定員削減を決定
韓国※※
 ・ 入学定員に関する特別な制限はない
メキシコ※※※
 ・ 1967年以来、医学部入学定員は増加し続け、中産階級からの需要によって新しい医学部も設立された。
 ・ 1980年には医学部入学者が93,365人のピークを迎えたが、経済危機も加わって、医学部卒業者の失業者が現れた。
 ・ 1980年以降は医学部入学定員も削減され、医学部新設も中止されている。
オランダ※※
 ・ 数回の入学定員見直しが行われてきた
ニュージーランド※※※
 ・ 医学部入学の上限は285名と国で定められている。
ノルウェー※※※
 ・ 医学部入学定員は594名と国で定められている。
スペイン※※※
 ・ 医学部入学定員は保健省、教育省、そしてNational Conference of University Chairmenによって定められている。
 ・ 1978年に入学定員制限が提言され、1987年に大学評議会との合意を得た。
スウェーデン※※※
 ・ 医学部定員は中央政府によって決められている。
 ・ 1960年以降、ヘルスケアシステムの急激な拡大に合わせるため、医学部定員が増員され、医学部も新設された。
 ・ 医学生の数は1960年の431人から1973年には1,026人にまで増加した。
 ・ 1980年代前半、医師過剰への対応と医療費抑制を目的に医学部定員を削減した。1984年には845人になった。
スイス※※
 ・ 政府は特に医学部定員を制限していない
イギリス※
 ・ 1966年、Royal Commission for Medical Educationが医学部定員増員と医学部新設を提案し、医学部定員は4,230人になった。
 ・ Todd Committee、Advisory Committee for Medical Manpower Planning、 Medical Workforce Standing Advisory Committeeも人口増加と医療サービスの需要に見合う医師数の増加を提案した。
 ・ 1998年には医学部学生は5,091人となり、1999年には5,600人となった。
 ・ The NHS Plan 2000では今後1,000人の医学生増加を目標にしている。
アメリカ ※※※
 ・ 連邦政府は医学部定員の制限を強いてはいない。
 ・ Health Professions Education Assistance Act of 1963により、連邦政府は医学教育調査を行っている。
※最近増員に変更した。
※※制限なし。
※※※規制。



資料2−1) 世界銀行報告書 2004(ドラフト)

健康開発のための人材問題
World Bank Joint Leading Initiative (JLI) Strategy Report
Human Resources for Health and Development


要約
1. 深刻な課題
  前世紀は人類の歴史上、「健康に最も進歩がみられたにもかかわらず、21世紀には貧困国で死亡率の増加や平均余命の下落」がみられた。今や「健康に対する危機」は深刻であり、保健医療システムが脆弱であると対処が不可能である。
2. 3つの原因と3つの影響
  この「健康危機」の原因は、1)貧困の蔓延、2)不均衡な経済成長、3)政治の不安定にあり、これらは医療人材システムにも少なくとも3つの点で悪影響を及ぼしている。
1)HIV/AIDSの流行により医療人材の労働過重・感染の危険が増加し、職業への動機やモラルが低下。2)途上国の医師・看護師の 先進国への“頭脳流出”により、貧困国から高度な技術を持った医療人材が減少し保健医療システムが更に脆弱化している。3)医療人材に対して、従来から予算措置が軽視されている。
3. 人材強化の効果
  保健医療システムを強化するには、不可欠でありながらも今まで軽視されてきた「医療人材資源」を強化することが必要である。事実、「医療人材の強化と質の向上により、死亡率は下がり健康指標が向上する」という結果が得られている。
4. 地域格差の解決
  世界的に共通する医療人材の問題点は、その人材数、技能、配置の都鄙格差にある。 そのため途上国・先進国を問わず、医療人材に関して戦略計画を立て直し、医療人材に対して予算を増額することは意義がある。
5. 5つの結論
  この報告書は、医療人材に関する最も顕著な挑戦である以下の“5つの問題”に対して、それぞれ結論を導いた。
  1.   世界規模に不足する医療人材  「全世界で合計400万人以上新規確保が必要」
  2.   医療人材の技能の不均衡  「医師の専門偏重と公衆衛生軽視、准医療職員採用のための抜本的保健医療改革」
  3.   地理的な不均衡  「医療人材配置の都鄙格差、地域住民を保健人材として確保」
  4.   医療人材の移動  「途上国から先進国への医療人材の“頭脳流出”」
  5.   劣悪な職場環境  「国別に最も必要とされる医療人材の専門、仕事、金銭的誘因を検討し、職場環境を改善」



資料2−2) OECD報告書 2004(ドラフト)

OECD諸国における適切な医師サービス供給の確保
Ensuring an adequate supply of physician services in OECD countries
Steven Simoens and Jeremy Hurst

要約
1. 多様な医師数レベル
適切な量と質のヘルスケアを効果的な手段で供与するには、医師サービスの需要を満たし、適合されることが求められる。このような適合により、OECD諸国における10万人当たりの医師数レベルは多様である。罹患率や死亡率の多様性ゆえにGDPに占める医療費や医療システムのデザインによっても変わってくる。一般に、医師数密度が高い国は医師供給を市場に任せている国であり、医師数密度が低い国は医学部への入学を限っている国である。
2. 医師不足が基調
OECD諸国では現在医師不足が発生している。複数の国々における最近の医師数傾向予測が示唆するように、対策がたてられなければ、それらの国々での医師不足は今後20年間で悪化し、医師需要が高まって医師供給が低くなるという結果に陥るであろう。立てうる対策とは、徐々に減りゆく若手コホートから、より多くの者を医師として雇用し、つまりは医師への給与やサービスの条件を高めることも含められる。
3. 国の役割
国は教育・研修、移民、継続や退職といった、医師供給に影響を及ぼす多様な政治的手段を行使しなくてはならない。
4. 医学部定員増の傾向
幾つかの国々では現在医学部入学数を増やしたり、それについて検討されたりしている。
5. 頭脳流出の問題
医師の移民は医師不足の国では不足解消を容易にする。しかし、健康指標の悪い貧しい国々から健康指標の良い豊かな国々へ医師が長期的に流出することについては、国際的公平という観点から大変問題である。
6. 早期退職の解決法
多くのOECD諸国で見られる医師の早期退職に対し、幾つかの国では退職契約をより融通のあるものとしたり、業務継続を財政的に有利にし、退職を遅らせようとする試みがある。
7. 地域格差の課題
ほとんどのOECD諸国で医師労働力の地理的不平等がおこっている。これに対して、教育政策、規制政策、そして財政政策を混合させて対処することで、幾つかの国では解消に成功してきた。
8. プライマリケアの問題
専門分化傾向が高まるのに反して、複数の国ではプライマリケアのキャリアの相対的魅力が上がってきている。幾つかの根拠が示すことには、プライマリケア業務を学生に経験させることや、教職にプライマリケアのモデル(Role Model)になるような人を任命することが、医学生らのプライマリケアでのキャリアに影響を及ぼすことになる。
9. 支払方式と医師活動
医師によって提供されるサービスはその生産性と数による。Activity-related methods of payment(活動に基づく支払い方式)は医療費を上昇させるものの医師の活動率を上げる。また、ほとんど知られていないが、医師活動増加はケアの質に影響を及ぼす。近年興味をもたれているのは、可能であるならば、医療ケアの質に直接報いるような医師への支払いを工夫することである。



資料2−3) WHO−EURO報告 2005(ドラフト)
欧州における健康のための人材
Human Resources for Health in Europe
European Observatory on Health Systems and Policies, 2005
Carl-Ardy Dubois, Martin McKee, Ellen Nolte

要約
1. 要旨
 提供される医療システムのパフォーマンスの比較においては、医療を提供するスタッフの技術(skill)、動機(motivation)、コミット(commitment)が密接に関連していることは周知となっており、多くの政策担当者にとって、今や医療workforceの問題は興味あるところである。
 ヨーロッパにおいては、これまで各国独自の医療システムを発展させてきたが、人口の高齢化などによる疾病構造の変化、IT化や医療技術の発達、消費者文化の発展の中で求められる医療の質そのものも変化しており、今後はそれに見合ったシステムの改革が必要とされている。このような変化の中では、健康アウトカムを改善するような、Quality (質), Accessibility(アクセス), Cost of health service delivery(医療サービスの費用)などに焦点をあてた医療の変革が推奨されるが、医療従事者の意識そのものも変化しており、仕事と家庭のバランスを重視、労働条件に対する要求が高くなっていることのほかに、女性医師が増加していることなど、労働力の検討においては多数の要因が関係している。
 また、EUの統一・拡大で国境を越えた労働者の流れが生じ、人材が集中もしくは流出する地域(国)の格差の問題や、旧ソ連などを例とした東欧社会の医療システムの変換も考慮に入れたEU内での論議が期待されている。本報告書では、先進国(industrialized)と中所得国(middle income)間で共通した問題、また各国の実情に沿った特異的な課題について言及されている。
2. 人材
 医療労働力においてその生産、開発、管理とマネジメントは一連の機能であり、これを調査することにより医療システムの目標を達成することが可能である。
3. 政策共有の重要性
 社会の発展は、医療システムの発展とも密接に関連しており、EU内で政策を共有することは重要である。状況の違う立場においては、政策の転換を考慮することも必要である。
4. 移動
 医療従事者の移動(migration)については、政治的な課題でもあるが、可能な政策介入についてBuchanらは組織レベル(Organisational)、国レベル、国際レベルで下記のようなの取り組みを挙げている。
  組織レベル: ”Twinning”=人材交換を支援するネットワーク作り、人材交換、教育支援、雇用−被雇用者の双方協定
  国レベル: 政府間の協定、倫理憲章、補完(compensation)、移民(migration)の調整技術協力(トレーニングのインフラも含め)
  国際レベル: 国際憲章(例:Commonwealth code)、多国間協定
5. 専門職種間での従事領域の変化
 医師と看護士など、医療の内容における境界が以前より曖昧になってきている。Skill mixは行われる国や地域、人材の資質によっても左右されるため配慮が必要である。また、女性医師の増加など、社会におけるgender relationshipを考慮に入れた検討が必要である。
6. 専門教育の構造と傾向
 求められる医療の質も変化し、優れたコミュニケーション能力が必要とされる。また、科学的根拠に基づいた医療では、臨床診断における有効なツールの活用、知識習得のための新しいスキルの獲得能力が必要であり、現場においてはチーム医療が重要である。
7. 医療従事者のパフォーマンスマネジメント
 可能な限り良質のアウトカムを得るのに最も適した方法を知ることが重要であり、パフォーマンスをモニターし、組織や仕事の分類、医療の標準化、給与方法、情報の回覧などを評価する。
8. ヘルスケアマネージャーの重要性
 医師、看護士含めて医療ケア労働力の鍵となる存在であり、ヨーロッパの医療変革において重要な役割を果たしている。
9. 医療におけるインセンティブ
 経済的なものだけでなく、医療目標や労働条件、文化なども重要な要因となる。
10. 労働条件
 バーンアウト症候群のように医療従事者の労働意欲を低下させる要因として、仕事内容の複雑化などが挙げられる。

 ヨーロッパにおいてHealth Workersの移動が大きな課題となったのはEUが拡大された2004年5月からである。現在のところ、workforceのinflow - outflow をEU内で正確に把握できている国はない。UK,アイルランドは正式にinternational recruitmentを表明しているが、一般的に東欧から西欧への労働力の流れは避けられず、倫理面での問題も持ち上がっている。これに対してUKにおいてNHSの例をあげると、Codeには(双方国の合意が得られない限り)途上国からの積極的なリクルートをしないよう明記されている。現在のところ、international recruitmentに関してそのような詳細なcodeを作成しているのは英国だけである。今後はさらに、Commonwealth countriesが定めているような何らかのガイドラインやフレームワークが必要と考えられる。その他、国際的なprofessional associationらも国際的なリクルートに関してのcode や原則を推進している。



資料2−4)−(1). 米国報告書 2003(確定)
医学教育審議会
米国2000−2020年の医師労働政策ガイドライン
The Council on Graduate Medical Education (COGME)
Physician Workforce Policy Guidelines for the U.S. 2000-2020

要約
1. 背景
  The Council on Graduate Medical Educationは1986年に設立された委員会で、2003年までに医師需給・医学教育に関連し10本以上の調査報告書を提出してきた。この2003年の報告書では医師適正数を提言するために、これまでの議論が本当に正しかったのかという議論を踏まえ、3つのモデル(Supply・Demand・Need)を用いて将来の必要医師数が分析された。

2. 試算の結果
  3つのモデルによる医師数の将来予測の結果は以下のとおりである。
(1) 供給の視点   2000年に283人→2015年に301人→2020年に298人(対10万)
 97万2千人から107万6千人の医師が必要
(2) 需要の視点   2020年に102万7千人から124万人の医師が必要
(3) ニーズの視点   2020年に108万6千人から117万3千人の医師が必要
これら3つの視点から2020年には85,000人の医師不足が見込まれている。

3. 提案
  1.  レジデント研修生の増員
2.  医学部定員増員
3.  フェローポジションの上限増加
4.  医師の供給、需要、ニーズを追跡できるシステム構築
5.  診療科ごとなど、より詳しい医師需給調査実施
6.  医師の生産性を高めるよう、技術向上や情報システムの構築
7.  National Health Service Corp やPublic health Service Act(Title VII)下の活動拡大
例: 一般医の不足解消、医師不足コミュニティへのサービス拡大、医師数データ整備など

4. 上記7点以外でCOGMEが提案する4つの考慮すべき4項目
  1.  医師分布
2.  アメリカ国内・国外医学部卒業生の人材把握
3.  Medicare Resource Based Relative Value Scale (RBRVS)の検討
 RBRVSは一般医とそれ以外の医師間収入の差を解消するために開発された
4.  医師による不必要なサービスの検討



資料2−4)−(2). 英国報告書 2004
Jim Buchan, OECD report

要約
1. 医学生の増加
 英国では1997年医師数増加のため医学生を20%増とする政策を決定。それ以前には1985年看護学生を26,000から13,000に削減、再び25,000に増加させるなど波型のコントロールを実施。看護士としてのキャリアを築けるような政策(専門ナースの育成など)が実施されている。医師数増加政策の背景としては英国でトレーニングされた医師の流出問題、ジュニアオフィサー(日本で言う研修医)の過剰勤務改善(56時間が目標)などが挙げられ、1999年にもさらに20%の増加が施行され、今後も数年以内に10-15%の増を予定している。英国政府は医療費対GDP率を9%まで引き上げることを明確にしており、これに見合う医療の供給を図っている。

2. 労働時間
 現在英国医師の労働時間は規定週56時間、2009年には48時間を目標としている。英国では循環器、小児科医は比較的多いが、放射線、病理医が不足、地域的に精神科医の不足も指摘されている(NHS confederationより)。 日本のような医師の地域偏在を是正するような給料の手当てはなく、NHSはGPと個々に契約するため、地方勤務への強制力も持っていない。

3. 医師偏在
 医師偏在は英国でも問題になっており、skill-mixedで医師の業務を看護士が部分的に補えるような体制が考えられ、研究されている。



資料2−4)−(3). カナダ報告書

1. カナダの医師数増員の動向
 1999年8月、Canadian Medical Associationは年次総会において、カナダ国内16医学部での定員を増やすことを発表した。それによれば、2000年には1999年のレベルの27%増加を見込んでおり、1999年の定員1577人から、2000人に増加することが決定された。
 カナダでは1991年に医学部定員の見直しが行われ、人口サイズに医師数がつりあっていたということもあり、1993-1994年には10%の削減が行われていた。しかしStoddartとBarerによれば、医師へのアクセスが地方や僻地では適正より少なくっており、それは中小都市でも同様だと解説している。また、彼らは近年の医師のライフスタイル変化にも注目している。それは勤務時間減少、時間拘束が厳しくない専門への従事、専門性の限局化などである。更に患者側の“サービス”に求めるものも変化が認められ、高齢化もサービスを変えている。

2. 僻地対策
 カナダ政府はMichael Kifbyを委員長とする上院議員委員会の2002年10月に提出された報告書The Health of Canadians - The Federal Role.や、2002年11月のRoy Romanowを主任とする調査団の報告書においてヘルスケアへのアクセスという観点から僻地対策、地域差問題が取り上げられている。これは2003年のFirst Minister’s Accord on Health Care Renewalという改革にも結びついていった。現在のカナダ連邦政府は、医療従事者計画、雇用や雇用継続、専門間での連携と患者中心の医療の実践を中心的課題として医療従事者人材問題を考えている。

3. 移民対策
 カナダでは現在医療従事中の医師のうち、23.7%が移民に頼っている(CIHIのデータ)。そのようなカナダにおいて、2002年から移民医師の実情把握のためのタスクフォースが設けられて調査を行った。その結果、移民医師(International Medical School Graduate:IMG)の評価や免許の準備やアクセスの強化、ライセンス標準化、オリエンテーションプログラムの改善などを取り決めるよう提言している。



資料3. 労働基準法関連資料

1. EUの労働規制
 欧州7カ国の調査では、5カ国で若年女性医師の勤務時間が短い傾向にあった。また、労働基準法による規制が強化されている。
欧州連合労働時間指令
1993年の欧州連合労働時間指令の目的は、労働者の安全と健康の保護を確実に向上させるため、労働時間、休息時間、年休および夜間労働に関する改善を促進するに必要な最低限の要件を確立することである。労働時間指令は、官立、民間を問わず、全ての分野のあらゆる行為に適用されるが、研修医のようなある種の労働者は除かれる。さらに自営業者はこの指令の対象外である。
労働時間指令以下の項目を定める。
基準期間における労働時間は週平均で最大48時間まで。
少なくとも11日継続した日ごとの休息時間。
1日労働時間が6時間以上である場合の休憩時間。
少なくとも1週間につき1日の休息時間。
4週間の年次休暇を取る法的権利。
夜間労働は平均で一晩あたり8時間を超えることは出来ない。
 2000年に欧州議会と閣僚理事会において、研修医に対する労働時間指令の段階的実施に合意した。この合意では、研修医の週平均労働時間は、2004年8月から週58時間に制限され、引き続いて2007年8月からは56時間、2009年8月からは48時間に制限されるが、特別な事情下において期限は2012年まで延期できる。2004年8月から研修医は24時間ごとに11時間の連続した休憩を与えられるか、あるいは代替的な休息を与えられなければならなくなる。さらに、オン・コール体制にある全ての時間は、(医師が実際に呼び出されるか否かに関わらず)最大労働時間に含まれ支払いの対象となる労働時間とみなされる。

2. 米国のレジデント労働時間
 米国のレジデント労働時間の制限が大きな問題になったのは、Libby Zion事件が発端である。
 1984年、18歳のLibby Zionが発熱でERにいき、そこで、レジデントの判断ミスで禁忌薬剤を投与され死亡。このレジデントは救急室で連続20時間の労働をしていた。Libbyの父はニューヨークタイムスの記者であり、活動する。そして、ニューヨーク州ではレジデントの労働時間短縮の措置がとられるようになった。しかし、他の州では、対策は遅れていた。
 ACGMEが、2007年7月に、1週間に80時間という基準が、すべてのレジデントに義務づけられることになった。
 しかし、レジデントの過労と事故との因果関係を証明するのは極めて困難である。



資料4. ヨーロッパ地域の医師分布状況と地域差対策
現在の医師数はOECD Health Statisticsによる(オリジナルは対千人)
** マレーシアのデータは世界銀行World Development Indicatorによる
国名 現在の医師数
2002年*(対10万)
医師需給地域差(対10万) 問題点・僻地対策など
ギリシア 450
最多  Attica(Athens)570
最低  Central Greece160
1968年の法律で医学部卒業生は卒後最低1年の地方Health Center/Clinicでの勤務が課された。現在は法改正が行われ、将来一般医(General Practice)希望の者のみ。
スイス 360
最多  Basle 291人に1医師
最低  Appenzell 1115人に1医師
1990年代に医師志望者が急増。1998年に4大学が厳重な入学試験を課した。現在、7大学がこの入学試験を課しており、定員は全体で923人である。
フランス 330.3
(全職種)
最多  Illd-de-France425
最低  Picardy241
1970年代後半にはじめられたNumerus Clausus
(医学生の2年次進学者を制限するプログラム)で、医師数の地域差拡大を解消するように人数制限が計画されている。
ドイツ 330
369(2003)
最多  Hamburg
最低  Brandenburg
1993年のSocial Code Bookにより平均の110%以上が医師過剰と定義された。1990年に国内を10グループに分けた地域で勤務する医師を当時の人口で割った値をニーズとし、医師過剰はその110%を超えた場合と定義されている
オランダ 310   Numerus fixus(医学部入学者を制限)が導入されている。
スペイン 290
最多  Navarra230  (公的機関
最低  Catalonia130 のみ)
1980年代初頭まで20,000人であった医学部入学者は、1987年のUniversity Councilとの合意により、10,000人以下に減少した
スウェーデン 300(2000)
医師数最多 450
医師数最低 217 平均321
問題は医師の高齢化による退職。現在は年間800人の国内医大卒の医師と2-300人の外国医大卒の医師が働きはじめるが、その一方で年間400人の医師が退職している。
ノルウェー 300(2001)
人口2000人以下の町:160
人口5万人以上の町:70
大きな格差の存在
国名 現在の医師数 医師需給地域差(対10万) 問題点・僻地対策など
オーストラリア 250(2001)   ・問題は医師不足ではなく、分布の偏在が原因。
・へき地出身の学生、またはへき地の実習をうけた学生がへき地医療を選択する可能性が高いので、へき地から学生を選択し、へき地に訓練施設を作る政策。
・へき地医療に関心のある学生の特別報奨金とその学生を入学させる医大に対する助成金の支払い。
・へき地医療に焦点をあてたジェームズ・クック医科大学:1学年60名のうち15名以上をへき地出身者から採用予定。
・地域医療支援機関ACRRM (Australian College of Rural and Remote Medicine)を設立(1996)、へき地医療の教育・トレーニングの支援を行っている。
イギリス 210(2001)   ・Regionや診療科によって医師不足が問題化している。NHSは医師と個人契約しているため、僻地勤務の強制力はない。
・2004年よりCommonwealth国からであってもGMC(General Medical Council)登録に試験が必要となった。
・General Practitioner Vocational Training Scheme :僻地診療に学生をexposeさせ、必要な知識と技術を教える。
・2002年4月までは、プライマリヘルスケア医の数を地域で制限、管理していた。
・Canada,Australiaと同様に僻地診療においては、最低限の給料を保証していた。(OECD report)
アメリカ 240(2001)   ・National Health Service Corpは奨学金制度を持つプログラムであり、地理的、人種的に医師の少ない地域に医師を提供するための機構である。1973年以降30年以上僻地対策を行っている。
・Department of Health and Human ServicesのBureau of HealthProfessionalsでは、医師不足地域の定義がなされ、国内のどの地域に医師が少ないのかHealth Professional Shortage Areas (HPSAs)を定めて把握し、情報提供を行っている。
カナダ 210(2001)
最多  Nova Scotia209
最低  Nunavut34 (北極圏内)
 Northwest Territory102
1999年以降、各州が医学部定員増員
2001年新しくオンタリオ州に医学部新設
2001年にはオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州に医学部サテライトキャンパスを設置し、地方やコミュニティ医学教育に力を入れている。
マレーシア 65.8(1997)   へき地の医師不足のため、国内で医師として勤務するには、国が指定する病院・診療所で、卒後3年間勤務することが義務付けられている。
台湾     郡部診療所を公費で設立、診療報酬は収入となる制度を確立。診療所医師を近隣の病院のスタッフとして採用。
出典: World Health Organization Regional Office for Europe 各国のHiT Health Care System in Transition より作成



資料5. Skill Mixについて

A. WHO欧州の報告書 2005年(ドラフト)
 Skill Mixについては、2000年にWHOから提言がなされ(WHO 2000)、医療の質、コストの両面から検討が始まっている。Sibbaldらは医療におけるskill-mixの変化を役割の変化(Enhancement強化, Substitution代替, Delegation委任, Innovation革新)とサービス間のインターフェースの変化(transfer移行,relocation移転,liaison共同)と分類している(Sibbald et al.2004)。特定集団の機能強化(Enhancement)では看護師主導のプライマリヘルスケアセッティングで慢性疾患を管理するというもので、従来の医師主導より良い結果が出ているとの報告があるが、この種類の研究は国家間や集団によって異なる結果が生じる可能性が強く、普遍性を保証することはできない。コクランレビューでは看護師主導の地域ベースでの慢性呼吸器疾患管理に関して、疾患の重症度によって結果が異なるとしている。また米国の報告からは、患者自身によるセルフマネジメントと患者が自分で判断できるよう十分な情報を提供することが、医療従事者のskill mixと拡大と同時に重要であると述べている。
 初回診察時(first-contact care)では医師より看護師の方が患者満足度は高かったが、診察時間が長く、検査オーダー数も多く、低所得者からのコストが高かったという報告もある。その経済的分析から、看護師をトレーニングするコストは明らかに医師より低いが、勤務年数に換算すると両者でバランスがとれていると指摘している報告もあるが、今後女性が長時間働くかもしれない傾向を考えると、さらなる検討が必要である。慢性弛緩の管理や建国促進、軽い疾患に関しては看護師は医師と同等もしくはそれ以上の質を提供するという報告がある。

B. OECDの報告書 2004年(ドラフト)
 Skill Mix and Policy Change in the Health Workforce Nurses in Advanced Roles James Buchan and Lynn Calman

 OECD各国では「医師と看護師の代替」「GPと専門医の代替」「その他の代替」など種々の組み合わせについて無作為抽出試行実験研究が種々行われており、種々の結果が示されている。さらに多くのOECD諸国で実際の代替を試行するパイロットプロジェクトや実施、そしてその計画が存在する。



資料6. 医師誘導需要仮説に関する海外における論調
―11論文の文献レビュー―

1. 医師誘導需要を認めるもの
 1) Evans(1974)
医師と患者間の情報の非対称性が医師誘発需要を引き起こす。
 2) Fuchs(1978)
目標所得仮説に依拠した説明。外科医数の10%の増加は、約3%の一人当たり手術利用を増加させる。
 3) Reinhardt(1978)
医療サービスが競争市場であれば、医師数増加は医師報酬を引き下げる。しかし、それは観察されず、医療サービスは競争市場仮説には当てはまらないことになる
 4) Rossiter and Wilensky(1984)
医師誘発需要は存在するが患者の通院コストを入れると非常に小さい。通院コストを入れなければ効果が課題になる可能性あり。
 5) Pohlmeier and Ulrich(1995)
西ドイツのデータを利用。専門医では医師誘導需要は観察されないが、一般医では観察される。
2. 医師誘導需要を認めないもの
 1) Green(1978)
独占的競争モデルを仮定すると、医師誘発需要が存在しないという仮説は棄却できない。
 2) Auster and Oavaca(1981)
クロスセクション・データから得られた結果では医師誘発需要を説明できない。医師の自由な移動によって最適労働と資本の組み合わせが達成されている。
 3) Pauly and Satterthwaite(1981)
医師数の増加は消費者情報の低下を招くので、医師誘発需要を考えなくとも報酬増加を説明できる。
 4) Kenkel(1990)
消費者の情報の程度は、受診するか否かには影響を与えるが、受診後のサービス量には影響を与えない。
 5) Escarce(1992)
外科医供給の増加は、外科医療のサービス料には影響を与えていない。
 6) Dranove and Wehner(1994)
医師需要の高い地域に医師が集中しているのであり、逆の因果関係を推測するのは誤り。
3. 論争の争点
 1) 情報非対称理論とその実証
 2) 潜在需要の喚起か、供給者の誘導需要か
 3) 実証研究方法論の問題

参考文献
Evans(1974) “Supplier-Induced Demand: Some Empirical Evidence and Implication,” In Perlman, M.(ed.), The Economics of Health and Medical Care, John and Wiley, pp.162-173
Fuchs, V. R., (1978) “The Supply of Surgeon and the Demand for Operations,” Journal of Human Resources.13 (Supplement): pp.35-56
Green(1978) “Physician-induced Demand for Medical Care,” Journal of Human Resources.13 (Supplement): pp.21-34
Reinhardt(1978) “Comment,” in Greenberg, W.(ed.) Competition in The Health Care Sector: Past, Present, and Future, Aspen System, pp.121-148
Auster and Oavaca(1981) “Identification of Supplier Induced Demand in the Health Care Sector,” Journal of Human Resources. 16(3): pp.327-342
Pauly and Satterthwaite(1981) “The Pricing of Primary Care Physicians’ Services: a Test of the Role of Consumer Information,” the Bell Journal of Economics.12(2): pp.488-506
Rossiter and Wilensky(1984) “Identification of Physician-Induced Demand,” Journal of Human Resources.19(2): pp231-244
Kenkel(1990) “Consumer Health Information and the Demand for Medical Care,” Review of Economics and Statistics.72(4): pp.587-595
Escarce(1992)“Explaining the Association between Surgeon Supply and Utilization,” Inquiry.29: pp.403-415
Dranove and Wehner(1994) “Physician-Induced Demand for Childbirth,” Journal of Health Economics. 13: pp.61-73
Pohlmeier and Ulrich(1995) “An Econometric Model of the Two-Part Decisionmaking Process in the Demand for Health Care,” Journal of Human Resources.30(2): pp.339-361

平成16年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「医師需給と医学教育に関する研究」より


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