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事業主からの費用徴収制度の運用の改善について

 費用徴収制度について
 労災保険法第31条第1項では「政府は、事業主が故意又は重大な過失により保険関係成立届を提出していない(いわゆる未手続の)期間中に生じた事故について、保険給付を行った場合、労働基準法の規定による災害補償の価額の限度で、保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができる」ことが規定されている。

 未手続事業主に対する費用徴収制度の運用について
(1)  法第31条第1項第1号の費用徴収を行う場合の徴収金の額については、同法施行規則第44条により、厚生労働省労働基準局長が定めることとされており、具体的には、昭和62年3月30日付基発第174号により、訪問、呼び出し等を通じた行政の直接的指導にもかかわらず加入手続を行わない事業主を「故意又は重大な過失」と認定した上で、保険給付額の40%を費用徴収することとしている。
(2)  現在、労災保険制度における強制適用事業所のうち約60万件の未手続事業所が存在すると推定されている。このような状況の下、費用徴収制度については、総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第3次答申」において「法律上、保険給付に要した費用の全部を徴収できるにもかかわらずそのような運用をしていないことや、故意又は重過失がある場合を限定的に解しており、一部使用者のモラルハザードを助長している」旨指摘を受けたことを踏まえ、昨年3月、「規制改革・民間開放推進3カ年計画」において、未手続事業場一掃に向けた措置としてその積極的な運用を図ることが閣議決定されたところである。

 費用徴収制度の運用の改善について
 上記2を踏まえた対策として、未手続事業主に対する費用徴収制度の運用について、下記のように改善することを検討しており、平成17年10月を目途に新たな制度の運用を開始する予定としている。
(1)  保険関係成立届の提出についての指導(訪問又は呼び出し等の方法による直接指導に限る。)を受けたにもかかわらず、提出を行っていない事業主に対して、故意又は重大な過失と認定し保険給付額の40%を費用徴収している現在の取扱いを改め、故意と認定し保険給付額の100%を費用徴収する。
(2)  保険関係成立の日以降相当の期間を経過してなお保険関係成立届の提出を行っていない事業主に対して、重大な過失と認定し保険給付額の40%を費用徴収する。



労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)(抄)

 (費用徴収)
31条 政府は、次の各号のいずれかに該当する事故について保険給付を行つたときは、厚生労働省令で定めるところにより、業務災害に関する保険給付にあつては労働基準法の規定による災害補償の価額の限度で、通勤災害に関する保険給付にあつては通勤災害を業務災害とみなした場合に支給されるべき業務災害に関する保険給付に相当する同法の規定による災害補償の価額の限度で、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができる。
 事業主が故意又は重大な過失により徴収法第4条の2第1項の規定による届出であつてこの保険に係る保険関係の成立に係るものをしていない期間(政府が当該事業について徴収法第15条第3項の規定による決定をしたときは、その決定後の期間を除く。)中に生じた事故
 事業主が徴収法第10条第2項第1号の一般保険料を納付しない期間(徴収法第26条第2項の督促状に指定する期限後の期間に限る。)中に生じた事故
 事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故
(2)〜(4) (略)


労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)(抄)

 (事業主からの費用徴収)
44条 法第31条第1項の規定による徴収金の額は、厚生労働省労働基準局長が保険給付に要した費用、保険給付の種類、徴収法第10条第2項第1号の一般保険料の納入状況その他の事情を考慮して定める基準に従い、所轄都道府県労働局長が定めるものとする。



 未手続事業主に対する費用徴収制度
(昭和62年3月30日付け発労徴第23号・基発第174号)

 対象事業主
 労災保険の適用事業の事業主であって、故意又は重大な過失により労災保険に係る保険関係成立届の提出を怠っているものである。

 故意又は重大な過失の認定
 所轄労働基準監督署等から保険関係成立届の提出ほか所定の手続きをとるよう指導(未手続事業場を訪問し又は当該事業場の事業主等を呼び出す方法等により職員が直接指導するものに限り、文書の郵送や電話による加入勧奨は含まない)を受けたにもかかわらず、10日間内に保険関係成立届を提出しない場合には、事業主が故意又は重大な過失により保険関係成立届の提出を怠っていたものと認定する。

 徴収金の価額
 徴収金の価額は、次により算定すること。
 イ  徴収金の算定の基礎となる保険給付は、保険関係成立届の提出期限(保険関係成立の日の翌日から起算して10日)の翌日から保険関係成立届の提出があった日の前日までの期間中に生じた事故に係る保険給付(療養(補償)給付)を除く)のうち事故発生の日から保険関係成立届の提出のあった日の前日又は徴収法第15条第3項の規定による決定のあった日の前日までに支給事由が生じたものについて支給の都度行う。ただし、この場合、療養を開始した日(即死の場合は、事故発生の日)の翌日から起算して三年以内の期間において支給事由の生じたものに限る(年金給付については、この期間に支給事由が生じ、かつ、この期間に支給すべき保険給付に限る)。
 ロ  徴収金の価額は、イの保険給付の額に100分の40を乗じて得た価額とする。



規制改革・民間開放推進3カ年計画(16年3月19日閣議決定)(抜粋)

 労災保険強制適用事業所のうち未手続事業所の一掃(職権による成立手続の徹底等)【平成16年度中に結論】
 労災保険の現行制度の下では、原則として、ある事業所が労働者を1人でも使用すれば、当該事業所は「強制適用事業所」となり、事業が開始された日から自動的に保険関係が成立する。このため、保険関係成立届を届け出ていない(保険料未納付である)事業所で生じた労災事故についても、労働者保護の観点から、被災労働者は給付を受けることができる仕組みとしている。
 こうした中で、すべての強制適用事業所のうち、現に保険関係成立届を届け出ている事業所数は約270万であるが、他方、未手続事業所は、最大限約60万(全体の約14%)存在するとされている(平成13年度推計値・厚生労働省提出資料より)。
 このように、労災保険は、本来、強制適用保険制度であるにもかかわらず、事業主の中にはそれを十分に認識していないケースや、未手続事業所に対し労働基準監督署の職権による成立手続を十分に行っていないことなどにより、事業所間の公平性等が保たれていない。
 なお、使用者が故意または重過失により労災保険に加入していない期間に事故が発生した場合には、療養開始後3年以内の場合に限って、保険料のほか、保険給付額の全部または一部(最大限40%程度)を徴収することとしている。法律上、保険給付に要した費用の全部を徴収できるにもかかわらず、そのような運用をしていないことや、故意又は重過失のある場合を限定的に解していることについて、厚生労働省は「使用者に対して経済的な過大な負担を強いることや、労災保険への加入手続が行われないこと自体を防ぐため」としているが、こうしたことが、一部使用者のモラルハザードを助長し、結果的に労災事故防止の妨げとなっていると考えられる。
 したがって、こうした未手続強制適用事業所を一掃するため、周知・啓発や加入推奨にとどまらず、労働基準監督署の職権等の積極的な行使などの措置を講ずる。


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