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第8回
資料2

1 安全網としての最低賃金のあり方に関するヒアリングでの主な指摘事項


(1) 最低賃金の決定基準及び水準とその考慮要素

 《神奈川地方最低賃金審議会松田会長》
  ○ 引上げ額ないしは引上げ率を目安として示す方策から、絶対額の形で目安を示す方向に転換すべきではないか。
  ○ 絶対額に関する目安決定方式としては、平均賃金額との関係や標準生計費、生活保護費等との関係、その他使用者の支払能力と関連する経済指標との関係があるのではないか。
  ○ プリベイリングウェイジ(一般賃金)というのは、実は会社の支払能力も加味されているのではないか。そういう意味で言えば、類似の労働者の賃金という要件の中に通常の事業の賃金支払能力という要件も含まれている、というぐらいに考えるべき。
  ○ 毎年改正する方式は意味が薄れており、インデクゼイションの手法をとる時期がきているのではないか。
  ○ 今の地域別最低賃金の対象者はパートタイム労働者をはじめとする非典型労働者であるということをもう少ししっかり考えておく必要があるのではないか。
 統計も、いわゆる非典型労働者を中心として統計を立てる。特にこれから重要だと思うのは、最低賃金については、今までは各1年間における経済指標その他を反映する形で決定していたが、これからは、決めた最低賃金は一体どういう影響をもたらすかという形で、決めた最低賃金の後のフォローアップ調査研究が、より一層重要になってくるのではないか。

 《日本経済団体連合会川本本部長》
  ○ 地域別最低賃金は、社会保障制度、例えば生活保護費などのように一定の基準に基づいて決められるものとは異なり、各都道府県の労働者の生計費、類似の労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力という三要素を中心に様々なデータを総合的に勘案し、社会経済情勢も踏まえて、公労使による話合いで時宜にかなった決定を行ってきた。地域の特性や現実に即して決定し、それを積み上げてきたことにより、未満率も低い結果となっている。その意味で安全網としての役割を果たしてきた。
  ○ 地域別最低賃金について、近年の影響率が低いこと、一般労働者の平均賃金と比較して低位にあることを問題視する意見がある。
 しかしながら、影響率は最低賃金が引き上げられた場合に賃金を上げなければならない労働者の割合を示すものであり、あくまでも結果である。近年、影響率が低率な理由は、最低賃金の引上げが小さかったためにすぎない。仮に一定の影響率を確保することを目標とした場合、先に示した三要素にかかわりなく、毎年毎年、最低賃金を引き上げることとなってしまい、制度の根幹が崩れることとなる。
 また、一般労働者の平均賃金との比較については、そもそも平均賃金は高低さまざまな賃金のバラツキの平均値をとったものにすぎず、賃金の最低保障ラインである最低賃金と比べることの意義は薄い。とりわけ、年功賃金制度を採っている企業が多いわが国において、平均賃金水準と比較することには意味があるとは思えない。

 《全国中小企業団体中央会原川部長》
  ○ 最低賃金は、労働者の生計費、類似の労働者の賃金、通常の事業の賃金支払い能力の三要素を総合的に勘案して定めることとされているが、最低賃金決定の重要な要素として、最低賃金の影響を最も受けやすい中小零細企業の実情や支払能力を重視すべきである。
  ○ 地域別最低賃金が、全国的に整備・適用され、セーフティネットとしての役割を果たしており、すでに定着している。
  ○ 現在の地域別最低賃金は、各地域それぞれの特性や実情を踏まえて、これまで積み上げられてきたものであり、この事実を重く受け止めるべきである。
  ○ 社会経済の動きとは無関係に毎年諮問・改定がなされる現在の方式は、下方硬直的であり、かつ、非効率である。賃金が大きく変化しない一定の場合には、中央、地方ともに、「2年に一度」諮問・改定を行うシステムに改めるべきである。
  ○ 最低賃金は、社会経済情勢を踏まえ時宜にかなった改定をすべきという趣旨にかんがみれば、改定の際には、「引上げ」「据え置き」だけでなく、当然に「引下げ」も決定し得ることを制度として明確にすべきである。

 《連合須賀局長、電機連合加藤部長》
  ○ 賃金構造基本統計調査結果で推計した全労働者ベースでの地域別最低賃金の影響率は、わずか1%程度にとどまっている。また、実態賃金(常用雇用者やパートタイマーの賃金など)に比べても最低賃金の水準はきわだって低いといえる。産業別最低賃金を含め、最低賃金制度全体としての実効性を高めるため、水準の改善が求められる。
  ○ 現在の最低賃金は、
 ・連合が2003年にマーケットバスケット方式によりさいたま市で調査した必要最低生活費を満たさないこと、
 ・パートタイム労働者等の実勢賃金と比較しても低いこと、
 ・ヨーロッパの最低賃金と比較しても低いこと、
 から、安全網としての役割を果たせていないので改善すべきである。

 《慶應義塾大学清家教授》
  ○ そもそも最低賃金というのは、基本的に労働の需給という観点から言えば、供給側の最低限の生活水準を担保するという趣旨のものである。その水準はあくまで供給側にとってそれ以下に賃金が下がっては困る、という水準として決められるべきであって、企業がその賃金を払えるかどうかということは、基本的には、理屈の上からは本来は考慮の外にあるはずである。
  ○ 極端なことを言えば、供給側の視点から見たときに、これ以下の賃金では困るという最低賃金が決められた場合、それを払えない企業は残念ながら労働市場から退出してもらうしかないと考えるのが、最低賃金制度の持っている意義から言えば自然である。
 少なくとも合理的な理由で、また合理的なプロセスの中で決められた最低賃金が、一部の企業を成り立たなくするとしても、それが最低賃金制度というものではないか。
  ○ 決め方自体が合理性を欠いているのであれば別であるが、合理的な理由に基づいて、合理的な誰もが納得できるプロセスで決められた最低賃金をクリアしているのであれば、それはそれで素晴らしいのではないか。
  ○ 最低生存費というのは、個人で考えるべきではないか。
 例えば主婦を前提に考えるとかいう話になると、一番最低賃金制度によって守らなければいけない人たちの条件が崩されてしまう。この最低生存費というのは、生きるか死ぬかだけではなくて、おそらく様々な社会的な意味も含めた尊厳のある生活ということになると思うが、その賃金であれば、例えば夫の所得等を勘案すれば、あるいは年金等と合わせれば全然問題ない、もっと低くてもいい人はたくさんいるだろうが、だからといってそれを基準に最低賃金の生存費水準というのを決めてはいけないのではないか。

 《社会経済生産性本部北浦部長》
  ○ 地域別の影響率の違いが大変大きい。特に大都市部においては影響率の低い所がある。そうすると、実効性という意味で低い最低賃金は意味があるのか。だからといって影響率を一定率に強制したら、これはおかしなことになってしまう。やはり高すぎる影響率という問題もあるかもしれないが、低い影響率の部分については、その実効性を高めるという意味において、水準論議をしていくという誘導も必要なのかもしれない。
  ○ 供給額だけではなく、需要側の要素も入れた、いわば賃金としてみていく。そういった意味から考えると、生活保護基準や生計費というものによって、直ちに決定されてしまうといったように、外部的にこれを決定していくような性格のものであるのかどうか。地域別最低賃金といえども、賃金としてみて、一般賃金水準との関係の中で決めていく、それが基本ではないか。
  ○ しかし、生計費は大きな要素であるので、水準が低い場合において、あるいは物価が高騰しているような段階において、生計費との関係が極めて接近する場合には生計費という要素は大きく機能する。水準あるいは状況との関係において、この生計費というのは、一番関心を持って見ていかなければいけない、注意をしなければならない。

 《神代横浜国立大学名誉教授》
  ○ 生活保護基準そのものは、経済発展につれて、かなりそれ自身が上がってきている。今日も地域的な格差、所帯類型による格差があるが、仮に標準世帯、あるいは老人単身所帯なのかもしれないが、そういうものを最低賃金で働いていても生活保護基準に達しない最低賃金のあり方が、果たして妥当かどうかは、非常に厄介な問題で、簡単に結論の出せる問題ではない。それこそ労働市場の状況、経済情勢等をにらみ合わせながら、政治的に決めなければならない問題である。
  ○ 生活保護基準を下回るような水準で最低賃金を設定せざるを得ないとすれば、その足りない分は共働きで補充するか、本当に困っていれば生活保護で補給すればよい。最低賃金が何も最低生活の保障をする唯一の手段に使われるべき理由はどこにもない。
  ○ 生活保護基準というのは行政的に決まっている水準で、それを割り込んだらすぐ死ぬという水準ではない。しかし、東京なら東京の1級地の1で決められているような生活水準を最低賃金だけで達成することは、今の708円の水準ではフルで働いてもできない。そのこと自身が間違っているとは簡単に言えないわけで、労働市場の方がそういう状況なら、それでしようがない。本当にそれで足りないのなら、奥さんも働きなさい、子供も働きなさい。それでなおかつ駄目だったら、生活保護で救済するからというのが現行の仕組みである。それはきちんとしたシステムなので、一人前の賃金で生活保護基準をクリアしなければいけないという議論をする人もいまだにいるが、私はそんなことは考えていない。最低賃金を設定するときにそれだけに引っ張られるわけにもいかない。もちろん考慮はしますが。
  ○ 影響率が1、2%がいいのか、4、5%がいいのかは、判断がなかなか難しいが、常識的に考えて、スーパーマーケットなどのフリーターが働いている時間賃金率に比べて、一般的に言うと、少し低いのではないかという感じを個人的には持っている。

(2) 履行確保のあり方

 《慶應義塾大学清家教授》
  ○ 他の制度の下での罰則に比べると、最低賃金法の違反の罰則はかなり安い。現行程度の罰金で違法行為に対する効果的な抑止力になり得るかということについての疑問点がある。

 《社会経済生産性本部北浦部長》
  ○ 現行の罰金が履行を担保していく上で、非常に大きな意義を持っていることは間違いない。賃金は労使交渉で決めていく、労使が守っていくということになると、関係当事者間において有効性を事足らす措置が多様にあっていい。最低賃金の履行確保を有効にしていく手段は、もう少しバラエティーを持っていてもよいのではないか。

(3) 減額措置・適用除外

 《神奈川地方最低賃金審議会松田会長》
  ○ 適用除外というか、2段階設定というか、別な設定の仕方をする労働者の群が最近増えていると思われる。1つは、言うまでもなく学生がアルバイトをしているとか、要するに20歳未満の人たちである。もう1つは年金受給者である。年金受給者に今の最低賃金をそのまま適用すると、そのような人たちの雇用を非常に厳しくしているという指摘がある。

 《日本経済団体連合会川本本部長》
  ○ 欧米の諸国とは賃金の生い立ちが違う。日本は、企業内でも年功型を取っており、一方で、例えばアルバイトであると、需給関係や仕事賃金として決まっている。そのような矛盾をある程度抱えながらやってきている。そこに年齢概念で切るということがそぐわないのではないか。難しい。
 地域別最低賃金であるので、分かりやすくないと浸透しない。変な除外規定を作れば作るほど複雑になってしまうので、分かりやすいのが一番という意味で現行のやり方が一番いい。
  ○ 本来、仕事の価値として賃金が決まるとすれば、年齢で別に決めているわけではなくて、若い人にも結構高度な仕事をする者もいれば、中堅の30代、40代でも非常に単純な仕事やアルバイトをしている者もいる。

《全国中小企業団体中央会原川部長》
  ○ どこでどういう基準がいいのかということは、非常に難しいと思う。公平性の観点からも問題を多く含むのではないか。

《電機連合加藤部長》
  ○ 地域別最低賃金を多段設定するとか適用除外を設けるというのは非常に難しいのではないか。イギリスなどでは年齢などで多段設定するケースもあるようだが、もともとはいわゆる訓練と資格と公的にリンクしているということが前提である。日本の場合、年齢で例えば適用除外や多段設定をするとしても、それがどういう意味なのかが難しい。

《連合須賀局長》
  ○ 地域別最低賃金の水準そのものに問題意識を持っている中にさらに改めてそういう課題を検討することにはならない。それ以前に水準をまず全体として有意なものにしていくことの方が大事ではないか。(生計費として親とか年金を考えるのは)今でもフリーターとかニートの問題が指摘されているが、賃金を世帯で考えることになるのではないか。その論には労働組合は乗れないと思う。

《慶應義塾大学清家教授》
  ○ 最低賃金法でも、よく高齢者やボランティアはどうするのかという議論はある。例えば奥様は最低賃金以下でいいですよと。生活にも支障はないし、それで仕事をくれるのならその方がいいと仮に言っても、そのことによって、その賃金で自分がカツカツの生活をしている人の生活が脅かされてはいけない。例えば主婦を前提に考えるという話になると、一番最低賃金制度によって守られなければいけない人たちの条件が崩されてしまう。その賃金であれば、例えば夫の所得等を勘案すれば、あるいは年金等と合わせれば全然問題ない、もっと低くてもいい人はたくさんいるのだろうが、だからといってそれを基準に最低賃金の生存費水準というのを決めてはいけないのではないか。

《神代横浜国立大学名誉教授》
  ○ 未成年賃率やディベロップメントレートとして別に安いものを設定しながら、強制力のある地域別最低賃金、あるいはできるならば全国一律最低賃金といった強制力を伴う最低賃金というものを、もう少し高めの水準に設定してもいいのではないか。すなわちシンボルとして、再分配政策なり貧困政策とのリンケージも考えて、フェアな賃金決定の基準としてのアナウンスメント効果を期待するのなら、最低賃金の水準はもう少し高めの方がいいのではないか。

(4)(地域別)最低賃金の設定単位

《社会経済生産性本部北浦部長》
  ○ 都道府県という枠組みは、現実に境目のところにおいては、いろいろ問題が生じている。市場圏広域化、経済活動が広域化する中で、都道府県間をどうするかという問題は大きい。しかし、現実にある程度近隣との間で平準化していくようなところもあり得るため、この辺のところを画一的、あるいは中央からこうするという形で示すのがいいのか、地域の中で徐々に調整していく形がいいのか、これは難しい点である。
 そもそも47都道府県が日本にあるという、行政区画の問題から発生するところがあり、これをそう簡単に崩すというのは難しい。ただ、そういった周辺境界領域での問題があり得るということで、これはやはり念頭に置かなければならない。

《神代横浜国立大学名誉教授》
  ○ 都道府県別の審議会方式というのは、もちろん歴史的ないろいろなつながりがあるので、そう簡単に変えられるとは思わないが、都道府県ごとに決める必要が本当にあるかどうか。レーバーマーケットというのは、特に競争圏ということで考えれば、もう少し広域的な括り方をした方がいいのではないか。南関東とか北関東などというぐらいの括り方の方が合理的ではないのか。ただ行政的にそれがうまくいくかどうかはわからないが、都道府県というものにいつまでもこだわっていいのか。
  ○ 全国一律か都道府県別かということだが、仮に地域別最低賃金は都道府県のままにしておくとしても、アメリカ式に、なおかつ全国一律の最低賃金はこの水準だと決めるやり方も選択肢としてはあり得る。

(5)就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり方

《神奈川地方最低賃金審議会松田会長》
  ○ 派遣労働者が派遣先の産業のいかんを問わず、派遣元、いわゆる雇用主である派遣業の最低賃金、すなわち地域別最低賃金で適用を受けることのもたらす矛盾は、極めて大きいものがある。

《連合須賀局長、電機連合加藤部長》
  ○ 雇用形態の多様化が進展する中で、派遣労働者や業務請負企業労働者が増大しているが、一方、こうした派遣・請負労働者の場合、派遣先や注文主の事業所における産業別最低賃金が適用されない場合が一般的である。当該産業における公正な処遇の確保、事業の公正競争確保の観点からも、派遣・請負労働者に対する「働く現場」での産業別最低賃金適用についての検討が必要だと考える。

《慶應義塾大学清家教授》
  ○ 特に最近、いわゆる請負労働や、あるいは派遣労働という人たちを雇用する事業主も多くなっている。そういった場合の人たちに、例えばその派遣先、あるいは請負先、実際に働いている場における産業の最低賃金が適用されないということになると、そこで最低賃金が適用されている労働者と、そうでない労働者の二重構造というのができてしまうのではないか。


 安全網としての最低賃金のあり方に関する
これまでの研究会における主な指摘事項


(1)最低賃金の決定基準及び水準とその考慮要素

 現在の賃金分布、最低賃金の金額や、あるいは中小企業が採用するときの最低賃金の考慮度合を考えると、ほとんど影響力がないのだから、支払能力を考える必要がないのではないか。

 (企業の支払能力を、最低賃金の水準決定に当たって考慮要素とすることについては、趣旨に合わないのではないか、というご意見だが、)例えばILO条約でみると、やはり生計費要素というのを重視すべきだということと同時に、考慮要素に経済的要素というのがあって、生産性の水準とか、あるいは雇用の確保、つまり支払能力を超える最低賃金を罰則で強制して、企業が潰れたら元も子もなくなってしまうという、その経済的要素も、いわば並列的に考慮要素になっている。
 したがって、生計費基準だけで人間としての尊厳を下回ることがないようにということだけが、最低賃金の決定要素ではなくて、もう少し複合的な考慮要素、少なくとも支払能力に類した問題を考えた上で、最低賃金額を決定するというのが、ILO条約の新しいものにはあるのではないか。

 支払能力を通じて、結局、雇用量に最低賃金の水準が影響するので、雇用量と賃金とのバランスを考えなくてはならない。ただ、そこでいうのは、あくまでもマクロのレベルの支払能力であって、個別企業の支払能力ではない。したがって個別に企業をみたときに、支払能力が低いからそれに合わせて最低賃金を決定するということは、理論的におかしいのではないか。

 最低賃金の水準を議論するときには、例えば、それを1%上げたらどれだけ雇用が失われるのだということは重要な問題。そこのところについては、支払能力が入り得る可能性はある。

 最低賃金法で言うと「事業もしくは職業又は地域」、事業の種類ごとに低廉な労働者がいて、地域ごとに低廉な労働者がいて、職業ごとに低廉な労働者がいる。地域というのは職業も事業も包括するものであるから、地域における全体の低廉な労働者については地域別最低賃金がある。従って、地域別最低賃金については、かなりコスト・オブ・リビングのことを考えなければいけないということになる。

 「賃金の低廉な労働者」は絶対的な低廉なのか。副次的労使自治の補完や団体交渉の補完のときは相対的な低廉という概念があっていいと思う。

 (「賃金の低廉な労働者」というのは)相当低位ということなので相対的という概念は入らないのではないか。

 絶対額にかかわる議論は私はされていないと理解している。むしろ上げ幅の議論で、上げ幅は中小零細の賃金がどう推移したかで目安で改正してきた。

 生活保護と最低賃金が逆転しているのではないかという話があった。逆転しているとすれば、逆にモラルハザードの問題が起こってくる。

 生活保護も、かつては事後的な所得保障の意味、働けないのだから仕方がないので所得を保障しようという意味であった。それが近年むしろポジティブマンパワーポリシーの色彩がかなり強くなってきている。そうなってくると、最低賃金とのリンクをどうするかが新たな問題として出てくるのではないか。

 生活保護と最低賃金を比較したときに、生活保護の方が高いといっても、生活保護の算定基準が正しいかどうかという議論にもかかわってくる。最低賃金が低過ぎるのではなくて、生活保護が高過ぎるのかなという議論も考えられるのではないか。

 同じ厚生労働省で最低生活水準を決めるということになってきたときに、最低賃金の考える最低生活水準と、生活保護が違ってくるというのは難しいかもしれない。

 生活保護の水準といっても、生活保護の給付というのは8種類か9種類あって、最低賃金と比べる水準がどの水準なのか。生活扶助、住宅扶助、教育扶助など、いろいろある。その中のどれを取って合算して、最低賃金と比べるかという議論自体をしなければならない。比較論を厳密にしなければならない。

 生活保護の決定メカニズムと、最低賃金の絶対数字も議論するとき、それは1つの国家で別様の尺度があってもいいのかという議論になるのではないか。

 もし、本来最低賃金がなければ、最低賃金よりも低いところで雇われていた人が最低賃金のおかげで引き上げられて雇われているのであれば、最低賃金のところにたくさんの人が雇われているはずである。それは結局、最低賃金を1円でも引き上げたときに影響率が大きくなるという形で出るはずだが、それがほとんどない。その意味では最低賃金はあまり効果がないのではないか。
 また、もう一つの可能性として最低賃金がなければ、最低賃金以下で雇われていた人が全く雇われなくなった場合でも、未満率も影響力も小さくなる。つまり最低賃金があるから、労働市場に悪影響を与えているというケースである。しかし、分布の形から言うと、ほとんどそこに人はいないので、その悪影響はもともとないのではないか。

 地域別最低賃金がしかるべき水準になれば、産業別最低賃金の廃止についても、組合もいいと言うのではないか。

(3)減額措置・適用除外

 例えば諸外国のように地域別最低賃金について年齢区分という考え方があり得るのではないか。

(4)(地域別)最低賃金の設定単位についてどう考えるか。

 産業別最低賃金も都道府県労働局単位で決めていく。協約の拡張適用という労働組合法の制度ではなくて、最低賃金法の制度だとすれば、どうしてもそれを行政的な審議会の意見を聴いて、行政機関が決定をして強制していくシステムをとらざるを得ない。そうすると、労働局は都道府県ごとにあるので、行政の都合で地域的になっているということも、制度として整合性があるかどうか分からない。ただ現行がそうなっているだけなので、なかなか動かし難いという面もあるのではないか。

(5)就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり方

 1つの派遣会社から、製造業に派遣されている人とサービス業に派遣されている人がいるときに、もし派遣先に産業別最低賃金があれば、その賃金を派遣元が払うべきだと思う。現状がおかしい。

 派遣業は今後も増えていく就業形態なので、サービス業1本でいくというのはおかしい。どういう仕事をしているかということで賃金が決まらないといけない。

 派遣や請負は今は基本的には雇用主単位でやっているが、同じ職場で働いていることについてどう考えるか。パートで適用されていたものが雇用者が違うことによって適用されなくなることをどう考えるか。


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