05/02/18 第7回雇用政策研究会議事録             平成16年度第7回雇用政策研究会                        日時 平成17年2月18日(金)                           10:00〜                        場所 中央合同庁舎第5号館                           専用第15会議室 ○小野座長  これから「雇用政策研究会」を開会いたします。本日の議題である生産性の向上に関 する問題に関して、事務局より資料が用意されていますので、説明をお願いいたしま す。 ○中井雇用政策課長補佐  資料No.1は、毎回付けている「雇用政策研究会で議論して頂く論点(案)」ですが、 本日はこの中で3頁の(3)今後の雇用・労働政策のあり方についての(2)生産性に関 する政策に関して議論していただければと思います。論点として、「若年者をはじめと した職業能力向上への取組」「団塊の世代の引退に備えた職業技能伝承の方策」「賃 金、処遇、雇用管理の目指すべき方向性」「非正規労働者の能力形成の取組」といった ことを予め書かせていただきましたが、これも念頭に置きながら、資料の説明をしたい と思います。  資料No.2の1頁は、「生産性の向上と雇用・労働政策面等での課題について」です が、今後、人口が減少する中で、我が国経済を維持していく観点から、経済全体の生産 性をいかに向上させるかが大きな課題であります。我が国の経済、産業を考えていくと きに、1の「産業構造の変化と生産性」が考えられるのではないかと思っております。 すなわち、(1)経済全体で生産性を高めることを考えると、高生産性部門への資源配分 をいかに促すかということが重要です。(2)介護サービスなどをはじめとしたサービス 産業など、輸入代替できない産業の生産性をどう考えるかです。(3)は、我が国の経済 社会を考えた場合、生産性の高い低いにかかわらず、文化・伝統など経済的な側面以外 の必要性から、今後とも我が国に残すべき産業もあるのではないかということです。  そのようなことを全体的に考えたときに、「高生産性部門の比重を高めつつ、サービ ス産業など輸入代替できない産業における質の確保、伝統産業などでは技能伝承などの 施策を合わせて講じることにより、全体として我が国の経済社会を支えていく必要があ るのではないか」という問題意識です。  2頁の2は、このような中で生産性の向上に関する雇用・労働面等での課題を何点か 挙げております。(1)産業構造の変化に対応した対策は前頁の(1)〜(3)に対応してい ます。(1)の高生産性部門への円滑な労働力供給等を進めるための対策としては、そう いった部門への新規入職と転職である円滑な労働移動の2つが、労働を円滑に供給する ために考えられる。加えて、団塊の世代です。団塊の世代の入職時期を見ると、高卒の 技能者が多いことが想定されるのですが、技能伝承をどう進めるかが、対策として必要 になってくるだろうということです。  高生産性部門への新規入職ということで言えば、社会のニーズの変化に対応した教育 の充実、雇用政策と産業政策や教育政策の連携の強化、また、産業・職業が構造変化し ていくという現状の中で、在学中から情報をどう提供していくかという観点、そして、 その他もいろいろ考えられるのではないかと思っております。高生産性部門への円滑な 労働移動ということで言えば、労働者への情報提供・相談援助などの課題、労働移動に 伴う労働者の能力開発をどのように進めるか、転職した労働者に対して、処遇の面でど のような課題があるか、つまり転職市場をどう整備していくかという問題に関して、こ のような課題があるだろうと考えております。制度的な面も含め、労働移動を阻害して いる要因、それに対する対策は何かということではないかと考えております。  (2)は輸入代替できない産業における対策として、サービス産業などをはじめとした 産業に対する生産性や質の向上をどう進めていくかです。(3)は残すべき産業における 対策をどう考えるかということになります。産業の横断的、全体的な話として、(2) 今後の我が国を支える人材の活力の維持・向上をどう進めていくのかということで、働 きやすい環境をどうつくるか、これは長時間労働やメンタルヘルスの問題が入ってくる のではないかと思います。このような論点で整理いたしましたので、これらのことを踏 まえて議論していただければと思っております。  関連して、次頁からいくつか資料 がありますが、高い生産性部門への資源配分としては、参考までにこれまでの我が国に おける産業構造、3頁は第1次産業から製造業、第3次産業については、特にサービス 業で産業構造が変わってきたということです。4頁は、特に我が国では製造業がこれま で生産性が高く、経済を引っ張っていくリーディング産業でしたが、製造業の中でのリ ーディング産業がどのように推移してきたかを見るために、「主要輸出品目の推移」を 載せています。日米貿易摩擦などが起きたことも念頭に置きながら整理をしたのです が、繊維製品から鉄鋼、半導体、自動車といったところに移ってきていることがわかる と思います。  併せて、5頁は製造業において、中学・高校の学卒者がどのような産業に入っていっ たかという推移です。輸出品目同様、繊維から電気機械、輸送機械に移っていることが わかると思います。6頁は、製造業全体における就業構造で、繊維に従事している人が 相対的に低下、電気機械が増え、輸送用機械も増えてはいますが、割合的にはまだ1桁 です。このように就業構造が変わってきていることがわかります。  7頁について、非製造業部門での生産性は統計では相対的に低いのですが、それをど う考えるかについては、生産性という観点で必ずしも整理できなかったのですが、いく つかの資料を付けております。消費に関して、小売の業態の変化、百貨店、スーパー、 コンビニエンス・ストアの売上高がどう変わっていったかについて、百貨店からスーパ ーへ、統計を取り始めてからまだ日が浅いのですが、コンビニエンス・ストアは伸びて いる姿が示されています。それぞれの業態の生産性も、考える材料になるのではないか と考えています。  8頁は、日本における第3次産業のウエイトが高まっていて、サービス化が進んでい るという中で、いくつかの産業についてはどのような状況であるかを示しています。最 近伸びているのは介護、通信で、その他の事業サービス業には労働者派遣業なども含ま れますが、そういった分野が伸びています。介護については輸入代替が利かないため、 我が国でどうしていくかという問題がありますし、通信やその他の事業サービスについ ても、発展分野というか、付加価値や生産性までは整理しきれていないのですが、伸び ている分野であることが指数的にも示されているのではないかと考えております。  9〜11頁は、これまで提出された資料を再度付けているもので、12頁は主要国の全要 素生産性上昇率の推移の比較となっています。社会経済生産性本部から出された報告書 を転用していますが、我が国においては、最近全要素生産性が低下しているという状況 の中で、日本、ドイツを除く主要国の上昇率は近年1%程度ということが示されていま す。13〜15頁にかけては、特に団塊の世代がいま55〜57歳ぐらいになっているわけで、 そのような年齢層が各産業にどのくらいの割合でいるかを示したもので、参考までに付 けたものです。相対的に建設業、製造業、運輸業などが、産業経営の割合と比較して高 くなっています。女性においては、飲食店、宿泊業といったものも相対的に高めになっ ています。  16頁は大括りですが、最近の産業別の入職率、離職率、転職・入職率の推移です。17 頁以降はこれまで同様、本研究会における議論について参考に付けてあります。18頁は 日本経団連の生産性に対する考え方を参考までに付けてあります。以上です。 ○小野座長  次に資料3に移りますが、生産性の向上を議論するに当たっては、職業能力施策との 関わりが深いので、「職業能力開発における現状と課題」について、職業能力開発局総 務課長から説明をお願いいたします。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  資料No.3の目次をご覧いただくと、主に3点、1つは職業能力開発の現状というこ とで、対企業なり対個人に対しての調査に基づき、現状の説明をしたいと思います。次 に、職業能力開発施策の概要、特に生産性向上に関する施策について説明していきたい と思います。1頁は職業能力開発の現状です。これは企業に対して、OJTやOff− JTをどのように実施しているかを聞いたものです。見ていただくとわかるように、低 下傾向にあります。白いバーは自己啓発ですが、これも含め低下傾向にあることが見て 取れると思います。2頁は同じような観点の資料ですが、企業の労働費用に占める教育 訓練費の割合を見たものです。1988年ごろの0.38をピークとして、2002年は0.28と下が ってきております。  3頁は、教育訓練をしている企業としていない企業のパフォーマンスはどうかという 点を見たものです。1人当たりの経常利益率で比べていますが、上の表は新規学卒採用 を重視した企業の1人当たりの経常利益率がどうであったかを示しています。新規学卒 採用を重視した企業163.9万のうち、社内の人材育成を重視したもののパフォーマンス がこの統計では高くなっております。中途採用を重視した企業についても、社内の育成 を重視した企業のほうがパフォーマンスが高くなっています。4頁は、教育訓練の責任 主体が誰にあるかを企業に聞いたものです。これまでどうだったか、今後どうなるかと いうことを聞いていますが、従来は当然企業の責任である、企業が主体的に行うべきで あるというものが多かったのですが、将来に向けては、個人の責任であるとするものが 増えてきていることが見て取れます。  5頁はキャリア設計、能力開発の主体が誰かということを、企業と労働者に聞いてお ります。これによると、キャリア設計が自己責任と考えた企業の割合が9割弱です。い ちばん上のバーですが、規模別で見ると、特に1,000人以上の大企業において自己責任 と捉える傾向が強いということです。他方、労働者に聞いてみると、自己責任だと答え たものは、企業に比べて1割程度少ないという傾向が出ています。6頁は能力開発の対 象者で、能力開発を正規従業員と非正規従業員とに分け、誰を対象にどの程度行ってい るかを聞いたものです。正規従業員については、能力開発の対象としていた企業が9割 以上あります。他方、非正規従業員を対象としたものは、その一部を対象としたものも 含めて約4割で、相当程度差が付いております。  7頁は、パート労働者に対してどの程度訓練を行っているかを聞いたものです。左上 のグラフは、パートに対して教育訓練を実施している、していないを産業別に聞いたも のです。金融保険業、飲食業などで高くなっており、企業規模別で見たものは右側のグ ラフです。8頁以下は、自己啓発に関してのデータを集めたものです。今後自分の知識 なり技能を高めたいと思うかを労働者に聞いておりますが、正社員の9割が高めたいと 思っており、多くの非正社員も高めたいと思っていますが、正社員に比べると自己啓発 意欲がやや低いという傾向が見られます。  9頁の表は、自己啓発の実施状況を見たものです。自己啓発を行った者は36%程度、 行わなかった者が63%程度で、実際に自己啓発を行っている人は4割にも満たないとい う状況です。どのような形で自己啓発を行っているかが10頁にあります。自己啓発を行 った人に対してその形態を聞いたわけですが、ラジオ・テレビの自学自習、民間教育訓 練機関を活用したもの、社外の勉強会に参加した、社内の自主的な勉強会に参加したと いったところが中心になっています。  11頁以降は能力開発にも関係しますが、職業能力評価制度について企業に聞いたもの です。職業能力評価について、会社の中で作成された評価基準や各種の資格に基づいて 評価を実施しているかどうかを聞いたものです。全体で46%の企業が何らかの能力評価 を実施していると答えています。業種別ではご覧のとおりです。能力評価は何のために しているかを聞いたものが12頁です。容易に想定できますが、人事考課の判断基準に使 っているものが5割を超えています。以下、従業員の能力開発のターゲットを定めるた めに使っている、人材配置の適正化に使うという回答が多いようです。能力評価の対象 者を見たものが13頁です。全従業員を対象としているものが89.4%で、全体では9割を 占めていますが、業種別では、例えば電気、ガス、水道、熱供給業で2割となっている のは、特定の部門の従業員のみに評価を実施しているという部分で、やや特徴が表れて いるのではないかと思っております。以上が現状についてのデータです。  14頁以下は、このような現状を踏まえて、能力開発施策として何を行っているかとい うことを紹介しているものです。15頁はキャリア形成促進、対企業なり対個人のキャリ ア形成促進のための支援システムとして、法律上どのような体系になっているのかを紹 介したものです。職業能力開発促進法上、事業主の責務が何点か定められています。職 業訓練の実施、能力検定を受けさせる措置、自発的な能力開発を行おうとする従業員に 対しての援助、規定などが法律上定められているものです。具体的には、そこに挙げて あるような手法で、企業は能力開発を行っていくことが法律上の規定になっています。  16頁は、具体的に企業に対しての施策としては何があるかということですが、1つは 「キャリア形成促進助成金」という制度が用意されています。従業員について、事業主 が能力開発などを行った際に、その費用の一部を助成しようというものです。(1)〜(5) が、どのようなものに対して支給されるかということです。下の表に実績を挙げてあり ますが、平成15年度の実績で支給総額は61億円、平成16年度の予算額では77億円です。 17頁は、来年度から新規に設けられる減税措置で、「人材投資促進税制」と言っており ます。企業が人材投資のための費用を使った場合、それの税額を控除しようという措置 です。  (1)の基本制度ですが、ある企業が教育訓練費を前2事業年度、2年間の平均額から 増加させた場合、増加額の25%について法人税額から控除する(税額の10%限度)とい うものです。これを基本としていますが、中小企業の場合は(2)に書いてあるように、 やや優遇的な算出方法となっています。平成17年度からどの程度の効果が出るかはこれ からというところですが、経済産業省などの試算では100〜200億円程度の減税規模にな るのではないかと聞いております。  18頁はキャリア・コンサルティングの推進です。能力開発を進める際には、どのよう な能力分野でどう開発するかの相談を担当するキャリア・コンサルタントが非常に重要 だと考えており、その養成を進めております。平成14年度から5年間で民間も合わせて 5万人程度のキャリア・コンサルタントを養成していこうということです。養成された キャリア・コンサルタントについては、ハローワーク等の公的機関で活用することはも ちろんですが、企業の中でも十分活用していただきたい。先ほど説明したキャリア形成 助成金の中にも、キャリア・コンサルタントを活用した際の助成が1つメニューに入っ ております。  19、20頁は、能力評価を行う際の評価基準を公に整備していこう、それを各業界なり 会社レベルで使ってもらうというものです。平成14年度から業種別、分野別に職業能力 評価基準の作成を進めております。これまでに経理・人事等の事務系職種、電気機械器 具製造業、ホテル業等の能力評価基準の作成を終わっております。作成の際には、各業 界団体から十分な知恵や現状、それに対する知識をお借りしております。  21頁は、能力開発に必要な多様な教育訓練機会を、いかに確保していくかという観点 での施策の紹介です。1つには対労働者の主体的な能力開発を支援しようということで 「教育訓練給付制度」を用意してあります。雇用保険の被保険者である労働者が、一定 の要件をクリアした教育訓練を自ら受講した場合、その費用の一部を支給するもので す。横表が実績で、平成15年度では利用者数が延べ47万人、900億円程度の利用実績が あります。平成16年度の予算額では800億円程度の用意がしてあります。下のグラフは、 支給対象になる講座の数や講座を持っている学校の数です。黒線は山型に右下がりにな っていますが、職業能力の開発に資する分野に講座の内容を厳選していこうということ で、ここ数年厳選しており、その結果、現在1万1,000講座程度の講座数があります。  22頁は公共職業訓練の状況です。特に、求職者に対する訓練については、企業ニーズ に即応した人材育成という観点から、事務系、サービス系の職種で、民間教育訓練を活 用した訓練の実施をしているところです。就職率は公共訓練で7割、民間委託訓練で53 %程度で、実績が上がっているものです。民間委託の具体的な例が23頁に書かれてあり ます。大学を活用したもの、事業主に委託をしているものがあります。特に、大学にお 願いした部分では、MBAコース、ビジネス・マーケティングコースなど、相当高度な 部分での訓練をお願いしております。  24頁以下に、最近特に施策の中心になっている若年者に対する職業能力開発の状況を 紹介してあります。2行目、3行目辺りに書いてあるように、平成15年6月に策定した 「若者自立・挑戦プラン」に基づき、関係省庁が連携し、施策を行っております。能力 開発に関する部分の施策を、以下2頁ほどで紹介しておりますが、特に能力開発の分野 で述べると、25頁、1つは「ものづくり立国」の推進で、特に製造業やものづくり技能 に対する興味を、若い人や子どもにも持ってもらうというメニューを用意しているとこ ろです。「日本版デュアルシステムの拡充」と書いてありますが、新しい能力開発のや り方として、座学、企業や工場の中での実習を組み合わせたデュアルシステムの訓練を 今年度から特に力を入れて推進しています。26、27頁はデュアルシステム、ものづくり 立国の施策の内容をやや図式化して示してあります。  28頁は参考データで、各国の職業訓練投資額の比較です。これはいろいろな所で使わ れていますが、OECDの調査で、各国の職業訓練投資額の対GDP比を見たもので す。日本、イギリス、アメリカが0.02、0.03、0.04程度であるのに対して、フランス、 スウェーデン、ドイツは1桁多くなっております。29頁は教育機関との連携で、若年者 の能力開発については、学校部門との連携、いかに学校教育から社会の中にスムーズに 送り出してやるかが重要ですが、その観点からここでは3つほど紹介しております。中 高生に対する仕事ふれ合い活動支援事業、キャリア探索プログラムの実施、インターン シップ等の実施、インターンシップについては高校生を対象にしたものもありますし、 当然、大学生を対象にしたものもあります。  30頁以下は生産性向上に関する施策ということで、特にいくつかの分野の施策の紹介 をしております。1つは高付加価値部門に係る能力開発分野の能力開発の推進です。 (1)〜(3)に書いてあるように、高度人材の育成を進めていること、能力評価制度の中で も生産性、高付加価値部門の高い分野の能力評価基準の作成を進めています。高付加価 値部門という観点からは離れますが、後継技能者の技能継承について、高度熟練技能者 などを活用したメニューを用意しています。  31頁は、サービス分野に係る能力開発分野の施策です。先ほど来紹介したように能力 開発に関する施策の中で、サービス分野についての現状を紹介したものです。例えば、 (1)の公共職業訓練の中では、特にサービス系、介護系などの訓練を進めています。能 力評価制度についてもサービス分野関係でホテル業、あるいはホワイトカラー関係の職 種の能力評価基準の作成を進めているところです。  32頁は今後の課題で、両方の分野について、引き続き施策を実施していくという観点 で助けようということです。以上です。 ○小野座長  資料No.1、取りわけNo.2、No.3についてご意見があると思いますので、自由にご 発言をお願いいたします。お話を伺っていると、我が国では非正規化が進んでいます が、このような状況の下での非正規に対する教育訓練については資料No.3の6頁を見 ればいいですか。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  6、7頁辺りです。 ○小野座長  非正規は能力開発の対象ではないとする企業の割合が高いのですが、今後ますます非 正規化が進んでいくとしたら、教育訓練の対象でない人が増えてしまい、それに対し て、特にそうした点を意識したような政策は何か用意されているのですか。キャリア形 成助成金、人材投資促進税制などといろいろと話はありましたが、特に、非正規化とい う現状を踏まえて、それに対する教育訓練をどうしていくのかという政策が何かあるの でしょうか。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  いまの政策メニューでは企業の従業員に対する訓練全体を押し上げようという政策は あるのですが、特に非正規なりパートの部分に絞ったものは、いまのところありませ ん。 ○小野座長  特に、それに対象を絞ったようなものはないのですね。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  ありません。 ○石井雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課長  パートの細かい改善という側面から、助成措置を講じているメニューの1つとして、 パートのキャリアアップを図るための補足をして、利用者に対処していくということ は、一応やってきております。ただ、それが全体の中で占める割合がどのくらいかとい うと、いまの状況はさして大きくないということも事実だと思います。 ○佐藤委員  いまの点に関わって、企業が従業員に行う教育訓練投資の平均を見ると、正社員より 非正規の人たちが訓練の機会や量は低くなっています。もう1つ大事なのは、企業間に よる訓練投資の格差は非常に大きく、従業員に対して訓練投資をきちんとやっている所 は、その会社の非正規にも相対的によくやっているということです。つまり、訓練投資 をあまりやっていない会社の正社員と、訓練投資をよくやっている会社の非正社員を比 べると、非正社員のほうがよくやっているということもあるわけです。基本的に、企業 全体としての人材活用、人的支援投資の考え方を変えていってもらわないと、非正社員 だけやっても、非正社員についてよくやっていない所は正社員についてもよくやってい ない会社が比較的多い。それぞれの対策をやることも大事ですが、企業としては切り分 けて使っているわけでもないので、正社員、非正社員を含めてどのように活用していく かということをきちっとやってもらえば、非正社員のほうも考えられていくと思いま す。  なぜ大事かというと、非正社員になってしまうと教育訓練投資はないというイメージ が定着するのがまた問題だと思うからです。正社員になったら教育訓練が受けられるわ けでもない、つまり正社員についてきちんと教育訓練をやっている会社を選ばないと駄 目だということです。非正社員でもきちんと教育訓練をやっている所はあるわけですか ら、そのような所に入るほうが、正社員で教育訓練をやっていない会社を選ぶよりは、 非正社員でやるほうがいい面もある。そのようにしていかないと、非正社員を一度選ん でしまうと教育訓練が受けられなくて先がないということになってしまい、平均的に見 るとそうですが、かなりオーバーラップしているということが非常に大事ではないかと 思います。 ○委員  いまのことに関連しますが、資料の確認も兼ねてひとこと申し上げます。資料No.3 の1頁、能力開発の現状については皆さんよくご存じのことだと思います。能力開発調 査が民間教育訓練実態調査に変わったのは1998年以降です。1998年が最後の民間教育訓 練実態調査という形で国が直接やっていた調査であり、それ以降は委託です。委託先は 最初はJIL(日本労働研究機構)、平成15年度は三井情報開発となっています。この グラフでちょっとミスリーディングかなと感じたのは、確かにOff−JTあるいは計 画的OJTを実施している職場の比率が減っているということはあります。もちろん平 成10年までについては事業所比率であり、それ以降は企業の比率になっているという違 いはあるのですが、傾向としてはある。  しかし、自己啓発は労働者の比率、そういったことを行った正社員比率で、これは 1998年の民間教育訓練から能力開発調査に移行したときに大きく下がっているのです。 また、正社員に占めるOff−JTを経験した比率も、調査の分かれ目のところで同じ ように大きく下がっているのです。それから考えると、調査の対象者、つまり母集団が 大きく変わったと考えたほうが解釈としてはいいのではないか。2000年から能力開発基 本調査になるわけですが、2000年以降2001年、2002年と見ると、自己啓発比率は決して 大きく下がっているわけではなく、ずっと横這いです。その傾向は1998年以前も同じ で、自己啓発比率は横這いなので、どちらかというと、自己啓発の実施率が低下してい るというよりも、自己啓発比率はなかなか上がっていないが、Off−JTを実施して いる職場の比率は減っているという解釈をしたほうがいいのではないかと思います。 ○小野座長  これだと両方減っています。 ○黒澤委員  そうです。次頁は教育訓練費の割合ですが、これは教育訓練をやった職場についての 割合ですから、その2つを加味して考えると、先ほど佐藤委員が言われたように、職場 によってやっていない所が増えていることは確かであり、しかしやっている所は必ずし も投資額や量を減らしているわけではないといった状況が浮かび上がるのではないかと 思います。  もう1点付け加えると、調査主体が国から民間になったことによって、回収率が55〜 60%あったものが、20%程度に減っているのです。これは非常に大きな問題で、このよ うに重要なことについて、こんな状況になってしまったことは悲しいのです。ただ、委 託先がJILになったから、三井情報になったからといって回収率は変わっていないの で、委託され始めてからはそれはそれなりに整合性があると思います。  もう1点、そのような中でやっている所の投資量は変わっていないが、投資の中身は 少し変えているという傾向が見て取れます。興味深いのは、能力開発基本調査の2000年 以降の傾向で、特に経験年数の少ない人たちに対するOff−JTが10%ぐらいに、非 常にドラスティックに減っているという状況があるということです。これは正社員でさ えも、若年のOff−JTの機会というものは減っている、全体で見たとき、若年の非 正社員の割合は増えているわけですから、トータルで考えると大きな問題になっている のではないかと思います。 ○佐藤委員  黒澤委員の言われたことに関わるのですが、非正規の議論をするときに大事なのは、 厚生労働省がやっている制度調査というのは、大体企業規模が30人以上です。しかし、 正社員が30人以上の比率と、非正規が30人以上の比率で見ると、非正規は29人以下が多 いのです。企業規模の正規と非正規の分布が違っていますから、制度調査で見てしまう と、非正規はその下がすごく多い、つまり29人以下で働いている人が非常に多いので、 そこはよくわからないのです。働いている人の分布が企業規模によって違うので、その 点は注意しなければいけないと思います。 ○小杉委員  若い人の正社員、非正社員との関連についてですが、以前、キャリア研究会の中で、 実際に働いている若者を就業形態別に、どのくらい自分は能力を持っていると思うか、 そのような能力をどこで付けて何が役立ったと思っているかという調査で比較したこと があるのです。正社員と非正社員を比べて、非正社員のほうが職場にいる時間も短く、 考え方によっては、職場にいる時間が短い分、他で能力開発ができる可能性があるわけ です。能力形成というものは職場だけではなく、それ以外のところでもあるだろうか ら、トータルで考えると、非正社員は職場では少ないが、ひょっとしたらそれ以外のと ころでやっている可能性があるのではないかと思い、そのような比較をしてみたので す。実際のところ、能力形成に役立ったというものは、職場に関連する部分での能力形 成だけが役立ったと、非正社員でも同じように言われている。職場以外のところでの能 力形成をどれくらいやったかというと、正社員のほうが自己啓発をよくやっていて、非 正社員のほうがしていないのです。そのように考えていくと、非正社員が職場以外のと ころでやっているかというと、それは本当にやっていないというのが実情ですから、非 正社員についての能力形成はきちんと考えなければいけないのではないかと思います。 ○大石委員  あまり詳しくないので教えていただければと思うのですが、教育訓練が減っていると いうことは、結局は新卒をあまり採用しなくなったからということもあるのではないか と思うのです。なぜ新卒を採用していないのかというと、たぶん業績が悪いからだと思 うのですが、その因果関係というか、採用し続けている会社において、例えば1人当た りの教育訓練投資額などといったものの動きはどうなっているのか。例えば、教育訓練 の機会を増やすべきだと言った場合、企業の業績が良くなれば、皆こぞってやるように なるものなのかといったところを教えていただきたいと思います。 ○黒澤委員  確かに、そういった部分の詳しいところの分析は、なかなかなされていないと思いま すが、先ほど述べたように、経験年数が低い人たちにおいて、訓練を受けている比率 が、ドラスティックに下がっているという状態はあるのです。半面、どちらかという と、管理職の教育などといったものにより大きな投資をするような傾向になっていると いう気がしています。 ○佐藤委員  まだ報告書ができていないのですが、大体1992年が採用のピークだったので、JIL では、1992年当時と2004年とで高卒採用がどのように変わっているかの調査をしたので す。1992年当時、高卒を採り、きちんと教育訓練をして育てていた会社と、高卒は採っ てはいたが、あまり教育訓練をしなかった会社があるわけで、その後どうなったかを見 ると、数は減らしてもきちんと採っている所、1992年当時採用しているだけではなく て、長期に育成しようとしている所はいまもずっと採り続け、あまり育成を考えていな かった所は早く辞めてしまっているのです。単に需要が落ちて減らす、企業内で高卒を 採り、どう育成するかということが、その後の採用に関わってくる。あまり期待せず、 育てていなかった子が辞めてしまって、パートとか他に置き換えたり。採用と教育訓練 はどちらが先かわかりませんが、かなり関係があるようです。採っている所は、割合長 期に育成しようと思って高卒を採っているという感じです。やめてしまった所は、もと もとあまり教育訓練をしなかった所、長期に活用するような仕事がないと判断していた 所は辞めているという感じが強いです。 ○黒澤委員  先日、製造業に限定してですが、全国の事業所に調査票を配付し、教育訓練の状況を 調べたときのデータを見てましたOJTの把握は非常に難しい問題ではあるのですが、我々 の場合、OJTを監督者が部下に指導をしているかどうかで把握したのですが、そうい った場合のOJTは、景気が悪いときのほうがやる、忙しいとやらなくなるというパタ ーンがみられました。一方、座学、いわゆるOff−JTには逆のパターンが見られま した。よく言われることに、訓練の機会費用とは時間ですから、操業率が高いときには なかなか為されないという傾向があることが、OJTで顕著に見られたという結果が出 ています。 ○八代委員  能力開発について、大石委員が言われたように、3頁の「採用の動向と企業業績」 は、むしろ因果関係が逆であり、利益のある、高い所が人材の育成に力を入れているわ けで、政策的に、人材の抑制に無理矢理補助を出せば、企業利益が上がるかというのは ちょっとおかしいのではないか。そのようなバランスで考えていただくと同時に、やは り、政府が教育訓練をどうすべきかというのがかなり大きな問題であり、かつてのよう に国の公的職業訓練が主体の時代は、極めてシンプルであって、ブルーカラーなどとい ったことを中心に国が能力を形成し、労働者の能力が高まったのはよかったのですが、 ホワイトカラーの仕事が増えるとともに、公共職業訓練の役割は低下せざるを得ない。 そのような意味で、民間委託を進めているということは非常に評価できることですが、 そうしたときの民間委託はどうあるべきかといったときに、これがまた非常に難しい。  1つは文部科学省の政策、特に学校に対する補助と言うと、文部科学省の政策とのダ ブリが非常に重要です。例えばMBAのコースに労働政策として補助するということに はどのような意味があるのか。これはむしろ自己負担の世界であって、必要があれば文 部科学省の奨学金、文部科学省自体がただの奨学金をできるだけやめて、有償に変える なり、教育ローンに移そうとしているときに、厚生労働省がそれに逆行し、一種の委託 訓練のような形でやるというのはどうか。これは長期的に、むしろ個人助成という形で 文部科学省と整合的な政策をしていくことを考えるという問題があると思います。  企業への委託といった場合も、Off−JTやOJTと分けることもそうですが、何 よりも採用してもらうというのが最大の職業訓練であって、とにかく働いていればそこ で技術は身に付けられるわけです。しかし、企業がなかなか新卒採用をしないというの は、先行きが不透明なときに、正社員として雇うというのはなかなか問題があるから非 正社員的に雇うわけです。その際、ここにはあまり強調されていませんが、例えばトラ イアル雇用のような制度を活用し、とにかく企業が安易に雇えるようにする、とにかく 雇えば、そこで技術が身に付くわけですから、トライアル雇用の規制緩和と連動して、 それに補助をする。職安局の考えからすれば、不安定雇用が増えるからけしからんとい うことになるでしょうが、不安定雇用であっても、増えないよりは増えたほうがいいわ けで、そのようなことが究極の職業訓練ではないか。  何が言いたいかというと、ちょっと縦割りになり過ぎているわけで、むしろ、雇用促 進ということに補助金を付けることが訓練ではないか、ということです。これも琴線に 触れるかもしれませんが、若年者や非正社員に訓練を施しているのは派遣会社で、その ような意味では、派遣労働の一層の規制緩和ということと同時に、派遣会社がやってい る訓練に対しても支援する、いわばマッチングファンドのような形、例えば派遣会社が 10訓練すれば、それに10乗せる。直接雇用している企業が、それぞれ個々に訓練すると いうのも大事ですが、派遣会社のような所が訓練して、そこからより能力のある労働者 を派遣するということも大事だと思います。職安局と職能局とがもう少し連携し、でき れば規制緩和と補助を組み合わせてやっていただくようなことが、今後の職業能力開発 ではないかと思います。  黒澤委員が言われたことで、一言弁護させていただくと、規制改革会議も統計の民間 委託ということを促進しており、統計学会辺りから厳しく怒られているのですが、国の 統計を民間に移管すると回収率が落ちる、現にこの調査でも落ちているわけですが、そ れは委託の仕方にかなり問題があるのではないか。これまで厚生労働省がやっていた調 査が、いきなり三井情報開発に変わったとしたら、アンケートに答える人も意欲が落ち るのは当然です。これは国の統計を三井情報開発が受託しているのだと、全面、国の統 計であることに何も変わりはないし、守秘義務も当然守られることがあまり強調されて いないのではないか。  総務省のアンケート調査の個票を見ると、そのような形になっていて、これからは民 間がやるのだと言ったら当然落ちるわけです。承認統計であっても、国が政策を実施す るために必要な統計であり、それを民間に協力してもらっているのだと、何でもかんで も公務員がやるのは無理なわけで、実施主体が三井情報開発という形で、ある意味、民 間委託するということは、単に民間会社が政府からお金をもらってやっていることでは ない、あくまで企画は国がやり、実施するのが民間という官民の役割分担のあり方を、 統計を集めるときも注意してやっていただくと、回収率の低下という問題は、守秘義務 の点も含めてかなり避けられるのではないかと思います。その点については、いずれま た細かいところを教えていただきたいと思います。 ○佐藤委員  八代委員のご意見に大賛成です。最後のほうで言われていた、雇用を進めてもらわな いと教育訓練が進まないというのはそのとおりです。ただ、企業にとって先行きの見通 しが不可欠というのは、景気が回復しても不確実性は下がるわけではないから、長期雇 用の部分を増やすことは難しく、有期の部分が少し増えるかもしれない。もう1つは、 直接雇用をせずに、必要なときに労働サービスだけ購入するという派遣、請負のような ものは、一定規模広がってくると思うのです。企業としては事業活動するときに、直接 雇用のリスクを取って直接雇用する部分と、もう1つは、それはできないから雇用リス クを持たずに、そこは人材ビジネスにお願いして活用するという部分と組み合わせてや っていかざるを得ないと思います。  そのようなときに、人材ビジネス側はサービスとして雇用リスクをユーザーから引き 受け、ビジネスを展開していくわけです。そこで働いている人たちに全部雇用リスクを 押し付けるのは困るわけですから、やはり人材ビジネスは特定の企業だけではなく、い ろいろな産業や企業と取引関係を結び、リスク分散をしながらビジネスとして成り立っ ているわけです。派遣なり請負のようなものが一定規模あることによって、それを活用 する産業が事業活動できるという仕組みは、これから広がっていかざるを得ないと思う のですが、そのとき人材ビジネスが雇用リスクを社員に全部押えるのではなくて、ある 程度企業として受け取るような事業展開をしてもらうと同時に、そうしながらそこで働 くことでキャリア形成ができるようなことをどのようにつくっていくかは、非常に大事 だと思います。  八代委員が言われたように、派遣なりに入って、働く先は変わるがそこでキャリア形 成をしていくということは、これから非常に大事になってくると思うのです。従来の自 己啓発の助成金のようなものだけでやるのか。そのようなビジネスをきちっと位置づけ ることが大事だとすれば、先ほどの教育訓練におけるマッチングファンドというのはす ごく大事だと思いますから、請負、派遣のところにきちっと位置づけるような議論をし たほうがいいと思います。 ○小杉委員  その場合、個人の側に立つと、そこで形成された能力がきちんと公証されなければし ようがないのです。そのような意味で、出されている能力の公証制度というのは非常に 大事だと思いますし、これを企業の実際の採用の場面、派遣の場面などで、きちんと評 価されたものが、流通の通貨となっていかなければいけないと思うのです。その辺をど のようにやっていくのかが大事なポイントになっていくのではないかと思います。  資料に、具体的な能力でスキルベースで落とされたという調査がありますが、スキル ベースでの分解というのも非常に大事だと思うので、公証の仕組み、それに加えてスキ ルベースでの必要なものの分解など、これをさらに進め、人を異動させる、あるいは本 人の能力を評価するときの通貨みたいな形で使えるような仕組みはまだ十分ではないと 思うのですが、それをどうやっていくか。  もう1つ。25頁のいちばん下の枠の所に、若い人向けのYES−プログラムがあっ て、短い時間に訓練してこのぐらいとかそういうレベルで示されていますが、大学によ っては、このぐらいのことをすれば就業能力がつくという1つの目標にしようかという ことで、これに関心を持っている所も結構あるのです。そういう意味で、学校に対して も、こういう能力は世の中で評価されるのだと、どんどんアピールしていくといいので はないかと思うのです。 ○佐藤委員  21頁の自己啓発の助成金ですが、昔と変わらなければ、これは雇用保険に入っている 人が対象になるわけです。その中で、雇用保険に入っていて短時間雇用者でもらってい る人は、どれぐらいいるのですか。先ほど非正規という議論がありましたが、いわゆる 正社員でもらって使っている人と非正規、短時間雇用保険に入っている人とは、何か区 分けができるのでしょうか。47万人が雇用形態別にどうなっているか分からないでしょ うか。 ○勝田雇用政策課長  調べてみます。 ○佐藤委員  いまでなくても、それがわかるといいかなと思うのです。 ○小野座長  小杉委員がおっしゃったYES−プログラムというのを、私は初めて聞いたのです が、どういうことをやっているのですか。 ○小杉委員  就業に必要な能力というのを分解して提示されたもので、とてもいいと私は思ってい るのですが、是非宣伝してください。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  いま小杉委員にご紹介いただいたとおりですが、これは去年から始めたばかりのもの です。若い人の能力を分析して、例えばコミュニケーション能力、ITに関するリテラ シーの能力がどの程度あるのかという、いくつかの分野について、こういう講座を修了 しました、こういう試験を修了しました、どの程度の能力を持っていますというものを 公証しようという制度です。まあパスポートのようなイメージですが、それを持って企 業の面接に行ってもらう、あるいは、それを持ってハローワークなり紹介所関係の所へ 行ってもらって、自分の能力はこの程度ありますというのを公証してもらおうという制 度です。これは始まったばかりで、実績はこれからというところです。 ○小杉委員  大学の中で、かなり就職が難しいレベルの大学の方が関心を持っていて、こういう能 力をちゃんとつけて、なかなか売り込みが難しい学生を何とかしたいということで関心 を持ってこのプログラムを眺めていました。 ○佐藤委員  1カ所でなくて、いろいろな所を集めていくので、それがすごく取りにくいような印 象を私は持っているのです。ばらばらに認定しているものを集めていかなければいけな いわけですから。 ○小杉委員  そうですね。ですから、例えば大学の中で、ある講座をそれに当てるようなことがで きないかとか、そんなことを考えているようです。学校教育の中でも、就業にかなり近 い所にいる人たちは、その辺にとても関心を持っているので、一緒にやっていけること ではないかと思うのです。 ○東労働政策担当参事官  先ほど八代委員から派遣業界の教育訓練の話があったのですが、それが出来たころ私 もその担当をやっていましたので、協会といろいろ話をしていました。それで、教育訓 練はどうするのだ、マスコミ対応など広報関係はどうするのだ、労務をどうするのだと いうことで話をした経緯があります。教育訓練で公的にどうしますかと言うと、これは やっぱり自分たちの商売だ、そこで差が出るのではないかということで、公的なあれが 出ると、言葉を選ばなくてはいけないのですが、あまり努力しなくても市場に残ってい いのかというような論もありまして、なかなか難しい面があります。これが持っている サービスの売りなんですよということで格差をつけると、そこでまた派遣の登録者も来 るということもあって、そこはなかなか難しい。これは実体論ですが。先ほどそういう 指摘がありましたが、各社においては難しい面もあるということをご承知いただければ と思います。 ○八代委員  それがいわば派遣会社の営業努力なのに、国のお金をもらうと、どうしても規制が入 ってしまって、かえってまずいが、それはそれでもっともなことだと思います。だか ら、むしろ派遣会社ではなくて、派遣労働者、もしくは労働者一般にやるということな のですね。 ○東労働政策担当参事官  ええ。 ○佐藤委員  つまらないことですが、いま派遣というと、登録という議論になっている。厚生労働 省で派遣の議論をするときに、全部登録ばかりを考えている。実はそれが問題なので す。例えばモノづくりを考えても、設計部門でいうと、相当派遣が多いけれど、常用型 で、特定です。だから正社員派遣が相当ある。だけど、ここのことは全然実態を知らな いで来ました。それもまた問題です。「派遣」というと「登録」だというイメージが世 の中に出てしまうというマイナス面がすごく大きいのです。 ○東労働政策担当参事官  私が申し上げたのは、派遣会社で不安定雇用を増やすという話をいま八代委員がされ たものですから、それは登録型だという認識で申し上げたのです。機械設計のような設 計会社は特定ですので、常用だと、それは認識しながら行政を進めています。 ○佐藤委員  常用型であっても、雇用調整のあれを引き受けてビジネスをやっているのは間違いな いのです。だから、逆に難しいのです。常用で抱え込みながら、派遣でビジネスをやっ ているという。ですから、そこはまさに経営のあり方として難しい。 ○八代委員  登録型が不安定だと私が言っているのではなくて、そちらがそう考えただけのことな のです。登録型だって、先ほど佐藤委員がおっしゃったように、会社は変わっていって も、本人は継続的に雇用される、能力のある人だったらそうなります。  関連するので一言この際述べたいのですが、やはり、登録型ではないものも含めて、 まだまだ派遣全体が不安定だという認識が、労働政策ではわりにあるのではないか。こ れは今、規制改革会議でもまさに交渉中なのですが、登録型派遣の規制緩和が進むと同 時に、どちらかというと、今まで規制が緩かった登録型ではないほうの、派遣に対する 規制強化が起こっている。これは非常におかしなことです。それは常用型の派遣ですか ら、もともと常用労働者と同じなのです。26業種だって、就職申込義務がたしか入った んですよね。だからああいう形で。むしろ登録型の規制緩和と同時に非登録型の規制強 化が起こっているというのは、非常に困るわけでして、もう少し派遣というものを前向 きに考えていただく。それは別に能力だけではなくて、雇用の安定のためにも、雇用の 促進のためにもそうしていただくということを是非この機会にお願いしたいと思いま す。 ○佐藤委員  「雇用の安定」と言うときに、雇用の安定の考え方を広げていくことが大事です。雇 用期間を長くして雇用安定というのと、派遣の中での雇用の安定というのをどうつくっ ていくのかです。しかし、両方あることによって従来型の雇用の安定が維持される。新 しい雇用の安定を考えるというのは、実は、従来型の雇用の安定が企業として維持しや すくなるのです。派遣ビジネスや請負ビジネスで働く人たちの雇用安定の新しい形がき ちっとできること、ここがビジネスとして維持されることによって、製造業にしても、 従来型のビジネスがちゃんとやっていけるようになると、考えを転換する必要があるの ではないかと私は思っているのです。 ○大石委員  今、職業能力開発と福祉施策の間のリンケージを深めていくことがすごく重要だと思 っております。例えば2002年にも児童扶養手当の制度が改正されて、母子世帯について も「就労を通じた自立支援」ということになりましたし、生活保護についても、稼働能 力がある人は稼動能力をなるべく高めて、入りやすく、出やすい制度へという方向で進 めようとしているわけですけれども、そういった人たちにとっても、やはり職業能力開 発というのはすごく重要で、雇ってもらえるための能力を客観的に評価して採用される ような能力を身につけていくということが重要になってきていると思います。それぞれ の分野のパーツというのはとても良いように思うので、そういった福祉施策との連携 が、これからどんどん深まっていくと良いのではないかと思うのです。  特にフリーターの問題など、最近だんだん母子世帯の発生と関わりが深くなってきて いるような印象があります。新しい母子世帯の調査でもわかってきたのですが、結局、 若い母子世帯がだんだん増えているのです。おそらく、あまり収入が高くない人同士が 結婚して子どもが生まれると、経済困難に陥って、それで夫婦仲が悪くなって離婚して しまうということになっているのではないかと思うのです。若年者層での職業能力をき っちりつけていく施策を強めるということは、そういった状況の悪い世帯を改善するこ とにもつながると思いますので、その辺りは是非横の連携を強めていくべきではないか と考えています。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  福祉の部分と雇用なり能力開発との連携が重要だということは、ご指摘のとおりで す。従来も、例えば障害者など福祉部門の方が職につきたい、雇用につきたいというと きに、能力開発というのはしていたのです。しかし、特にその観点を強調しようという ことで、例えば児童扶養手当をもらっている方や生活保護を受けている方に対して、自 立支援プログラムというようなものを個別メニューとして、これからより強力につくっ ていこう。そして、その自立支援プログラムのメニューの1つに、例えばハローワーク での手厚い相談をしますとか、能力開発を十分やっていきますというものも用意して、 特出しをしたメニューというような形で来年度には用意をしているのです。それは来年 度新たにできるというよりも、従来やっていたものを特出しして、より強化したという 形ですが、そういうメニューがありますので紹介させていただきます。 ○八代委員  まさにそういう政策が厚生労働省になったことの大きな意味ですが、それを言うなら ば更に進んで、雇用保険と職業訓練との連携。今雇用保険というのは、どちらかという と生活保障のイメージが強くて、報酬比例年金と同じような、従前所得の保障という考 え方になっているわけですが、いつまでこれでいいのだろうか。特に、最大限で300日 が切れた後はもう何も無くなってしまうわけです。そのときに、例えば職業訓練をやる ことを条件に延長給付というのは、今でもあるのです。私の理解が間違っていなけれ ば、その延長給付のときも、同じような雇用保険の額が支給されているのではないかと 思うのですが、そのときは従前所得保障ではなくて、フラット給付でいいと私は思うの です。あくまでも教育訓練を受けることがメインであって、そのときの最低限の生活を 維持するための生活給付を別途出せばいいのです。普通の雇用保険のように、従前賃金 が高い人には高い給付を出すというような、報酬比例年金の考え方は要らないので、む しろ基礎年金の考え方でいいのではないかと思います。そういう、職業訓練と結び付い た雇用保険、逆にそちらのほうを広げていくような雇用保険改革が大事だと思うので す。やや縦割りになっているので、雇用保険と職業訓練とのリンクというのも次の政策 課題としていただきたいし、雇用保険課長に来ていただいて、一度お話を伺えればと思 います。 ○大石委員  先ほど総務課長が言われた自立支援プログラムですが、かなりミクロの努力が必要と されると思うのです。例えば、ちょっと郊外にある母子寮を見にいったのです。何でそ こに建てたのかと言ったら、目の前に大きい電気会社があって、そこに建てておけば、 ちょっと人手が必要なときに、頼み込めば雇ってくれるという期待があって、かなり長 い間そういう調子でうまくいっていたということでした。その施設長のかなりミクロの レベルでの細かいジョブマッチングの努力、その地域における細かな取組とかいうこと によって、かなりいい成果を上げていたようです。上のほうからプログラムを実施し て、身につけて「はい」というわけにはなかなかいかないところがあって、そういうミ クロのジョブマッチングを。特に、コーディネーターをいろいろ増やしていくようです が、そういったところをやるサービスの充実というのもすごく大事なのだと思います。 ○諏訪委員  能力開発の点で、資料No.3の28頁の参考にもあるように、これは統計の取り方にも よると思うのですが、日本は訓練投資が非常に低いということは以前から指摘されてい ます。実は学校教育との関係でもそうです。小中学校の義務教育へは然るべくやってい るのですが、高等教育にはお金を使ってこなかった。ヨーロッパに比べると、同じよう に、大きく落ち込んでいます。  こういうことが何を物語るかというインプリケーションなのですが、若いころや、基 礎的なものは公的にやるけれども、そこから先はいわば人々のするがままに任せておけ ばいいのだ、任せておけば自ずとうまくいくのだという考えがどこかにあるのかもしれ ません。あるいは、企業に委ねておけばよかったという現実の存在だったでしょうか。 そうした考え方はそれなりに理屈が立っていると思いますが、本当にそれでうまくいく かどうかというのが次の問題です。  このようにお金をかけなくても、日本の高等教育は国際的に高い評価をされているの なら、問題がないのです。それから、このようにお金をかけないでいても、日本の教育 訓練で、とりわけ中高年のレベルが他国に比べて高いというのならば、問題がないわけ です。しかし、もしそれがそうでないとしたならば、どうやったらいいかということが ここでの議論だろうと思います。  私がいつも感じていることは、ある一定のレベルから上の部分とか、ある年齢が過ぎ た先に対してどういう訓練をしていったらいいか、という部分が日本ではよくわかって いないのではないか。よくわかっていないから公的にも資源を投入できない。公的に、 あるいは社会でわかっていないときに、個人ならばそれをわかっているということはあ まりないと考えますと、個人もわかっていない。これから高齢化していく、あるいは人 口全体が減っていく中で、日本の総合国力をどのように維持していくかと考えると、そ の辺が非常に問題だろうと私は思っております。  そういう中で考えられる1つは、あるレベルから上、あるいはある年齢から上になっ ていくと、ILOが言うエンプロイアビリティーの3要素、すなわち知識、技能、コン ピテンシー(思考・行動特性)という3つのうち、知識や技能よりはコンピテンシーが かなり利いてくるのではないだろうか。ところが、こういうものの訓練というのをどの ようにしたらいいか。放っておけばいいのだというのは、たくさん人が生まれている時 代は自然に一定数の人材が出てきたので、それでよかったのですが、これから労働力人 口が少なくなってくると、大問題なのではないだろうかという気がしております。  これまでの教育訓練は、端的に申しますと、一部の技能、それからOff−JTの場 合、大部分が知識だったのです。コンピテンシーというのは、OJTのような所で仕事 をやりながら、日常的に態度や発想を変えていく、あるいはいろいろな態度を、心理学 の言うスキーマ化していくというのでしょうか、無意識の中でも処理できるように変え ていく。どうも、教育訓練政策でこれから重視されるのは、ここら辺かなという気がし ております。中高年になると、濡れ落葉になったり、産業粗大ごみになるというのは、 実は知識や技能が陳腐化するという部分もあるのですが、どうもコンピテンシーのほう こそが問題ではないかという気がします。態度が非常によろしくないようになる、若い 人の元気を削ぐ、あるいはリーダーの資格がないような部分があったりして、ここら辺 がこれからの能力開発の重要な課題かなという気がします。  もう一言だけ付け加えさせていただきます。欧米において盛んな中高年向けの社会人 大学院の訓練、それから長期訓練休暇のようなものは、多くの場合、古くなった知識の リフレッシュ、あるいは古くなった技能、陳腐化した技能の再生と思われていますが、 そこはむしろコンピテンシーに与える影響が大きいのではないだろうかと私は思ってい ます。仕事を離れて全く違った人たちと接しながら、新たにいろいろなことを学んで競 争したりする、あるいは人生の越し方や行く末を考える、あるいは夜間に社会人大学院 へ通ったりすると、通常の仕事をしながら、2年間必死になってやることはかなりきつ い。きついけれども、そこから得られるものは、知識とか何かだけではなくて、それを 乗り越えたということから来る自己効力感や新たな問題解決の仕組みというものに結実 するのではないかと思います。多少手前味噌の議論になりますが。したがって、これか らの時代には、社会人大学院や長期有給休暇のようなものを考えないといけないのでし ょう。  20歳ごろから働き始めて45年、ほぼ半世紀働く。途中でのマラソンの折り返し点みた いな部分で、コンピテンシーに対する対応策、こうした能力開発の手法あるいは哲学が これから要るのではないだろうか。若い人の場合には、専ら知識や技能であり、あとは 現場に出してOJTの中からコンピテンシーを高めようと言うのですが、中高年になる と、OJTだけではもう無理なのです。転勤政策や出向政策というのもそれなりに効果 はありますが、それだけではやっぱり無理なのではないかというのが私の問題提起で す。 ○八代委員  もう少し具体的な政策で言うと、長期訓練休暇を、いわば育児休業法のような形で企 業に対してある程度義務づける。有償にすると言うと、また大変なことになるし、雇用 保険でみると言うと、雇用保険財政が大変ですから無償でいいのですが、ともかく従業 員から要請があったときは、最低1年間、できれば2年間の長期訓練休暇を与える義務 があるというのを、労働基準法になるのかどうかわかりませんが、そういう案を提案す るというのも1つでしょうかね。 ○諏訪委員  そういうものもあります。それから、戦前だって、兵役をしている間は元の会社の地 位を保ち、望めば元にに戻れる。しかし兵役の最中は、別に元の会社が給与を払ってい るわけではないのです。  それから、戦前ですと結核というのが非常に厳しい病気でしたから、結核の療養を終 わったら、やはり元に戻れるとか、そういう制度整備をやってきたのです。同じよう に、教育訓練に関して同様の措置がとれないかということです。その場合、個々の企業 にだけ負担を負わせるのは難しいので、本人と社会でもそれを応分に分担していくとい うメカニズムになります。しかし、元に戻れる、復職できる、このようなものが1つか なと思うのです。 ○佐藤委員  要するに政策的にそれをサポートするということと。もう1つ、諏訪委員が言われた コンピテンシーを変える仕組みについては、まだよくわからない。例えば、社会人大学 院に行くと、何か変わったというのがある。だけど、それは意識的にやったわけではな いのです。副産物としてそういうことが起きているというのはわかるのだけれど、教育 というのは意識的にやるわけだから、例えば40〜50歳になっても新しいことに取り組む 意欲を持ち続けるとか、考え方を固定的でなく、いろいろな見方ができるとかいうのを 40歳なり50歳まで持っていけるようにする。そうできなくなった人を持っていくように するためにはどうしたらいいかというところは、まだよくわからない。いろいろなこと をやると、結果的にそういうことが起きているということはわかるわけですが、ではそ れを教育という形でやれるかどうかというと、たぶんそういうものがないと、政策的な 手当は無理だと思うのです。偶然的になるものまでやるというふうにしてしまうか、あ るいは、そういうプログラムが出来てきたことによって、それを受けた場合に長期休業 を取れるようにするのか。そういうふうにやるのも1つなのかもわかりませんが、長期 休業をとらせれば、そういうふうになるかどうかというのはなかなか難しい。  そういう政策手当と同時に、40歳とか50歳というのはすごく大事だと思うのです。企 業はすごくそこを悩んでいて、そこがあまりはっきりしないし、既存のプログラムには あまりないのです。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  いまの点についてご紹介だけさせていただきます。資料の15頁にも書いてあります が、能力開発促進法の中で、事業主が従業員に配慮する措置の1つの例として、有給教 育訓練休暇なり長期教育訓練休暇の付与について、事業主は配慮する、法律はそういう 体系になっております。賃金を払う、払わないということはどちらでもいいわけです し、そこに配慮するという法律上の書き方ですので、当然義務でも何でもないわけです が、そういうふうにしてくださいという体系になっています。 ○小杉委員  コンピテンシーを測れるということが重要な要素なので、それは調査できちんと測っ ていけばいいのではないかと思うのです。 ○小野座長  コンピテンシーが測れる。 ○小杉委員  測れる能力だからコンピテンシーという言い方をわざわざしているのです。 ○諏訪委員  測れない部分と測れる部分があるわけです。それを全部まとめて、今までは何となく 曖昧に扱ってきたというのが正確でしょうね。だから、測れる部分はもっと測って意識 化をしていく。 ○八代委員  いまの妹尾課長のご指摘で、配慮というのは大体、政策的に言うと、次は努力義務 で、最後が遵守。1つのステップだと思うのですが、そういう方向というのは検討され ているわけですか。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  そういう政策手段があり得るということについては、当然中で検討しております。 ○八代委員  意識はしておられるということですか。 ○妹尾職業能力開発局総務課長  はい。 ○八代委員  せめて努力義務まで行かないと、企業は全然関心を持たないのです。当然反対はある と思うのですが。ただ、今だって、意識のある企業は、こういうことで有能な社員を引 きつける、1つのフリンジ・ベネフィットとして当然考えているわけです。留学制度な どもありますが、いまの留学など金がかかりますから、徐々に企業は縮小しようとして いるわけです。そうだとすると、ただでもいいから、とにかく雇用保障式の休暇を与え るという形で企業も意識は高まっていると思うので、是非次の機会にこれをワンランク 上げるようなことを検討していただければいいと思います。 ○小野座長  妹尾課長がご報告くださった能力開発の方向に議論が集中していますが、前半の生産 性の問題についても何かご議論はございますか。 ○黒澤委員  そちらに行く前に1点だけ。先ほど八代委員から資料No.3の3頁の企業の業績とい う話がちょっと出ました。能力開発への公的介入がどうあるべきかという議論をすると きに非常に重要なのが、その根拠だと思うのです。その場合、これまで日本というの は、少なくとも1998年までは、企業で行う能力開発と公共職業訓練という形での個人と いう形で、どちらかというと、予算の大部分は企業内での訓練を支援するという形だっ たと思うのです。それがだんだん教育訓練給付等が出来てきて、個人への補助というこ とも重点的に行うようになってきた。しかしながら素晴らしいと私が思うのは、それで も今回訓練への減税というのが行われて、企業内で行われる訓練に対しても支援を続け ていくのだという、その姿勢を明確にしてきたことです。その根拠としては、企業内訓 練というものにも外部性があるのだというようなことだと思うのです。  海外でその根拠となるような結果を示した分析がなされております。イギリスの産業 レベルのクロスセクション・データを用いて、産業単位の訓練指標を、日本で言うと労 働力調査のようなもので、各産業でどのぐらいの割合の従業員が訓練を受けたかという 情報と、産業別、日本で言うと工業統計の付加価値というものをマッチングさせて、そ ういった訓練の指標が産業レベルの付加価値にどういった影響を与えるかというような ことを見たものです。  これをやると、実際、離職をした場合、企業から出てしまうわけですから、企業にと っての訓練の収益はそこで途絶えるのですが、離職した場合でもほとんど同一産業内で 異動することが多いので、そういう意味においては、このように産業レベルで見ること によって、離職した後で移った企業において発揮される生産性というもの、つまり外部 性の部分をも捉えることができるという利点があります。また、その場合、従来の企業 内でのリターンよりも非常に大きな効果があったという結果が出ております。ですか ら、是非こうした分析が日本でできるようなデータの整備をやっていただけると、とて もうれしいのですが、そういったことも考慮に入れると、企業での訓練を支援するとい うことは素晴らしいのではないかということです。 ○小野座長  いまの黒澤委員の議論も生産性に引っかけて議論をしてくださったわけですが、資料 No.2の11頁に産業別労働生産性の推移というのが時期別に棒グラフが立っているわけ です。それで、建設業が最近は全部マイナスなのですが、こういう生産性というのは何 を意味しているのか。いま建物を建てるのを見ていても、大きなパネルを持ってきて、 どんどんくっつけてしまいますね。時間が非常に速いのです。だから、そういう技術的 な面での生産性は非常に上がっていると私は思うのですが、ここでマイナスが出ていま す。 ○八代委員  過剰就業ですよ。 ○青木職業安定局長  いろいろな所でもご議論いただいていますが、建設は非常に典型的な過剰供給産業と いうことになっていて、受注額のピーク時の事業者数や就業者数、それに近い数が実は まだ維持されているという環境にあります。例えば、10人従業員がいるけれども、実は 技術革新で3人で足りてしまうけれど、ひょっとしたら、7人の人がまだ何らかの形で 企業にいる、そういう環境があります。そんなこともあって今回、建設労働者の雇用改 善法の改正案を出しているのですが、ここがいちばん分かりやすい所だと思います。 ○小野座長  卸・小売とかサービスについて時系列的に比較しているわけですが、これはインリア ルタイムでやっているのですか。実質でやっているのでしょうが、デフレーターは何に なるのでしょうか。従業員の給料か何かでやるのでしょうか。 ○中井雇用政策課長補佐  この場合は労働投入量ということでやっております。 ○小野座長  労働投入量だけでは生産性ではないですよね。 ○中井雇用政策課長補佐  労働費用のほうですね。結局コストをどう見るかという話で、リアルかどうかという 話だと思います。そこは確認をしなければいけないと思いますが。 ○小野座長  農業や製造業のように物をつくっている所は比較的わかりやすいのですが、サービス 業の生産性というのは、昔から言われているのですが、何か捉え所がないと思いますけ れど。 ○中井雇用政策課長補佐  結局、そのアウトプットをインプットで割ったときにそれがどれだけ伸びているかと いう手法で、それをデフレーターみたいな考えでどう見るかということだと思います。 これは国民経済計算ベースでやっていることです。 ○小野座長  だからやっぱり何かでデフレートしてやっているには違いないのだけれどね。 ○八代委員  いまの建設業の生産性の問題で、局長も言われたのですが、これは建設業の生産性を 上げようというよりは、むしろ就業労働者の移動をいかにスムーズにやるかという方向 に全力を挙げる。要するに、公共投資で増えすぎたわけです。それに一部には、新幹線 を増やしていますから将来増えるのではないかという淡い期待でまだ抱えて、労働者も あまり移らない。これが最悪であるわけです。公共投資は今後とも減り続けるわけです から、スムーズな転職ということを考えるほうに支援する。  公共事業の問題点というのは、モノをつくるにはお金が出るのですが、移動するため には一銭も出ないのです。例えば、災害復旧の公共事業というのは、元と同じようにす るためにはお金が出るのですが、そこから人々が移転しようとすると、それは個人の所 得になるからといって一銭も出ない。そういう非対称性があるために、移動を通じた生 産性の上昇という方向にインセンティブがかからないのが問題だと思います。  実は今、まだ量的には少ないのですが、建設業は農業特区を通じて農業に進出してい るのです。3頁のグラフにはアウトソーシングとか、規模は小さいけれど派遣の影響が 全く入っていないので、建設業もほとんど変わっていませんが、建設会社でありなが ら、実質的には農地の開墾であるとかそういうことをしていれば、それは農林水産業で あるわけです。また、派遣はサービス業に入っていますが、金融とか卸・小売りをやっ ていれば、それが一種のアウトソーシングの手段として使われているという形になりま す。本当は、それがどれぐらいあるかというのがいちばん興味深い点だと思うわけで す。  ついでに言うと、7頁のグラフ、これもよくありますが、機会があれば、是非ネット ビジネスというのをここには入れる必要があるのです。いま高収益産業というのはみん なネットなのです。あそこで随分お金が動いているわけで、しかも、あれは極端な労働 集約の反対で、省力産業です。それが増えるということは、流通業における一種の過剰 就業の問題にも関わるわけで、厚生労働省としても、そういう意味での関心というのは 必要だと思います。ネットビジネスがどれだけ増えていて、そこにどれだけ人が従事し ているかというのは、統計的には難しいのですが、是非何とか推計していただいて、こ ういうところの分析に入れていただければと思います。 ○青木職業安定局長  建設業の話をしていて、折角いい提案をしているので宣伝させていただきます。建設 業の対策は国土交通省や農水省、経産省、それから私どもが入っています。要するにト ータルに、事業者には新分野進出をしてくださいとお願いしていまして、その中で農業 は大きな分野です。就業者については、中で需給調整の仕組みを工夫して外に出やすく する、中での労働力調達をうまくやるというのが今回の制度の枠組みの提案なのです。 ですから、大体委員がおっしゃったような内容になっております。是非宣伝をお願いし ます。 ○八代委員  次の地域雇用のときにでも、是非その資料をつくっていただきたいです。 ○佐藤委員  1頁目の産業構造の変化と生産性と書いてある所の(3)に、生産性が高い低いにかか わらず、文化・伝統などから、我が国に残すとあります。ここのイメージは、例えば西 陣織のかなりの部分をいま中国でやっているのですが、これは、こういうふうになって は良くないという判断をするのでしょうか。西陣織は国内に残さなければいけないと。 (3)の議論というのはどういうふうにするのかがよくわからないのですが。 ○青木職業安定局長  この辺は、むしろご議論をいただこうと思います。例えば神社・仏閣の建築だとか、 いろいろなものがあります。日本を日本ならしめている部分を通常の生産性という議論 に置き換えて、要するに儲からないということだけでやっていっていいのだろうかと。 実は、西陣織がどうとか、そういうものというのは、それぞれ議論が要るのだろうと思 うのです。日本で最後に織物にして着物にする部分があればいいというのも1つの議論 かもしれませんし、おかいこさんを飼う所からスタートすべしだというのも1つの議論 だし、それこそ英知をいただこうと、こういう提案です。 ○八代委員  しかし、それはメリット内の議論です。西陣織のような貴重なものは市場競争だけに 任せられないというのは、おっしゃるとおりなのですが、問題はその手段である。それ を輸入規制、参入規制でやるのではなくて、本来それは、その価値に応じた補助金でや ると。  変な規制もあるわけです。この前掛川市長に聞いたのですが、昔のお城を復元しよう とすると、建築基準法に違反すると言うのです。要するに、そんな高い木造建築をつく ってはいけないという規制がある。「だって昔あったじゃないか」ということになっ て、何か掛け合って、無事木造でつくったそうです。いまのお城というのはほとんどコ ンクリートで、木造建築のものは掛川市が唯一だと言っていました。そういう意味のな い規制はやめていくというのも、伝統文化を守るためには必要だと思います。余計なこ とですが。 ○小野座長  前回ご指摘いただいた点で、事務局がいくつか資料を作りましたか。 ○中井雇用政策課長補佐  前回の少子化の議論で、育児をどのように社会でやっていくかということで、育児保 険のようなご議論が八代委員からあったと思います。それに関連して、「社会連帯によ る次世代育成支援に向けて」ということで、平成15年9月の研究会の報告書の概要を資 料No.2の21頁以降に用意しましたので、かい摘んで内容を申し上げます。  考え方としては、次世代育成支援を高齢者の施策と並ぶように、国の基本施策として 位置づけることが必要ではないかということです。そういった中に、「社会連帯におけ る子どもと子育て家庭の育成・自立支援」を基本理念として、新たなシステムの構築を 図ることが重要ではないかと言われていて、22頁にいくつかそれについて基本的な方向 が述べられています。  それは、次世代育成支援施策が地域・職域の各方面で一体的に推進することが重要で ある。支援策として地域子育て支援、保育、児童手当というカテゴリーで考えたとき に、基本的な方向として、22頁にあるような5つの方向があるのではないかということ です。  23頁からそれぞれ地域子育て支援、保育、また経済的支援ということで、その時点で の今後の検討課題ということで、充実すべき施策等がいろいろ指摘されています。「つ どいの広場」、放課後児童クラブの充実については、子ども子育て応援プランの中に入 っているわけですが、そういった流れになっています。全体的な方向ということで言え ば、27頁に図が出ていて、働き方の見直しも含めた、子育て支援策はどうあるべきかと いう整理になっています。  費用負担について28〜29頁にありますが、その中で、高齢者の給付と若い世代の給付 のバランスという指摘もされていますが、特に29頁で、社会連帯の理念に基づいて「共 助」の視点から、すべての国民が分担していくことを基本とする仕組みというものが、 費用負担のあり方として考えられるという話がありましたので、そういったところを八 代委員が、こういう検討がされたのだろうということでご指摘いただいたのだと思って おります。 ○八代委員  官邸の少子化対策国民会議の中で、どの課かわかりませんが、たしか厚生労働省の課 長がもっと詳しく育児保険について検討したことがあるということなので、必ずしもこ のプログラムでないのかもしれませんが、特に25頁に書いてある保育所運営費用につい ては、地方公共団体の財政状況等によって取組に支障が生じることがないよう、介護保 険制度のような、国と地方公共団体を含め国民全体で支える仕組みを選択肢として検討 すべきと書いてあるのですが、大体こういうふうに書くときは、その背後にもう少し細 かい制度的な検討があるので、それを是非配付資料として、次回にでもどこかから見つ けてきていただきたいです。 ○中井雇用政策課長補佐  いろいろ議論された中で、結局この費用負担の問題については、現時点でも「今後の 課題」ということで、まだ検討しなければいけないという話がある中で、どのぐらいの ことを考え方として示せるか、そういうことだと私は理解しています。 ○小野座長  議論全体を通してご意見が特になければ、今日の研究会はこの辺でということにした いと思います。事務局から連絡事項がありましたらどうぞ。 ○中井雇用政策課長補佐  次回は3月8日(火)18〜20時まで、場所はこの合同庁舎5号館5階の共用第7会議 室で開催させていただくこととしておりますので、遅い時間で恐縮ですが、よろしくお 願いいたします。 ○小野座長  入試や大学院の論文の審査などで大変お忙しい時期でしょうが、ご出席くださいます ようにお願いいたします。本日はどうもご苦労さまでした。 照会先 厚生労働省職業安定局雇用政策課雇用政策係 TEL:03−5253−1111(内線:5732) FAX:03−3502−2278