05/02/07 最低賃金制度のあり方に関する研究会第7回議事録          第7回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                         日時 平成17年2月7日(月)                            13:00〜15:00                         場所 厚生労働省専用第21会議室 ○樋口座長  定刻になりましたので、ただ今から、第7回最低賃金制度のあり方に関する研究会を 開催いたします。お忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございます。  議題に入りたいと思います。本日の論点整理に従って検討を進めていきたいと思いま す。本日の議題は「最低賃金の体系のあり方について」です。まず、事務局から説明を お願いします。 ○前田賃金時間課長  まず、資料1をご覧ください。これは、従来の研究会において整理していただいた論 点です。本日は2の「各論」(1)の「最低賃金の体系のあり方」のところで、「地域 別、産業別、職種別といった設定方式についてどう考えるか」、「産業別最低賃金制度 のあり方」、「審議会で決定する方式と労働協約拡張適用方式」というのが、現在、最 低賃金法にありますが、それらについてどのように考えるか。さらに、「国の関与のあ り方」といった点についてご議論いただければということです。  資料2が、これまでのヒアリングでの主な指摘事項、さらに、これまでの各参集者の 方のご意見を整理したものです。  まず、ヒアリングでの指摘事項ですが、地域別、産業別、職種別といった設定方式、 あるいは産業別最低賃金のあり方について、神奈川の地方最低賃金審議会の松田会長ご 意見は、産業別最低賃金制度については廃止または抜本的見直しをすべきではないか、 ということです。団体交渉活性化という狙いがあったわけですが、それがあまり効果を 表していない。一方、非典型労働者、派遣労働者等が増大して矛盾が生じている。さら に、産業共通的な職務というようなものもあるということです。また、地方最低賃金審 議会の決定手続において、軋轢とか混乱が増大しているということ。仮に廃止しない場 合においても、公正競争ケースについては廃止して、労働協約ケースについて、一定の 条件の強化を検討すべきではないか。さらに、横断的な基幹職種を設定して、職種別の 最低賃金を検討した方がいいのではないかというようなことです。  日本経済団体連合会の川本本部長のご意見は、特に罰則を伴う産業別最低賃金を地域 別最低賃金と二重に設定する必要はない。屋上屋を架すことは、国際競争の中で産業活 動に支障を来すとか、雇用に悪影響を及ぼすということで、産業別最低賃金を廃止すべ き、ということです。  全国中小企業団体中央会の原川部長のご意見も、産業別最低賃金を廃止すべきという ことで、やはり地域別最低賃金はすでにセーフティネットとしては役割を果たしてい る。罰則付きの二重の規制というものは不要である。最低賃金法第1条の趣旨からみて も疑問である。仮に必要な場合には、個別労使で自主的に労働協約等で定めればいいと いうことです。  一方、労働側の連合の須賀局長あるいは電機連合の加藤部長のご意見は、産業別最低 賃金は必要であって、むしろ継承・発展させるべきである。労働協約ケースが望ましい ということは当然ですが、組合の組織率の現状からみて、すべてを労働協約ケースでと いうのは非常に難しい。労働協約ケースも、その他も、公正競争ケースの方は機関協議 あるいは個人合意ということで申出をやっているわけですが、それについても、合意形 成、合意の役割という意味では、同じ役割を果たしているということです。  2頁ですが、賃金水準が、産業間で格差がある。最低賃金全体として、そういう産業 間格差がある中で実効性を確保するためには、地域別最低賃金とは別に産業別の最低賃 金が必要で、それが当該産業の公正競争、あるいは実効ある賃金の底支え機能として果 たす役割は大きい。さらに産業別最低賃金制度というのは、「我が国唯一の企業の枠を 超えた産業別労働条件決定システム」であって、その機能や役割はますます重要であ る。産業別最低賃金は、そういう我が国特有の労使関係の中で、団体交渉の補完的機能 を有しているものである。当該産業、あるいは地域の労使関係の安定や事業の公正競争 の確保に大きな役割を果たしているということで、むしろ拡充に向けて政策強化を行う べきであって、医療、介護や自動車運転手などの分野について拡充を図るべきというこ とです。  慶應義塾大学の清家先生のご意見は、最低賃金は基本的に労働力の需給という観点か らみると、供給側の最低限の生活水準を担保するというのがその趣旨である。そうであ るとすれば、その水準というのは、あくまで供給側にとって、それ以下の賃金では困る というレベルで決まるべきであって、その最低限の生活水準というのが、産業別で異な るということについては、経済学的な説明は難しい。さらに、派遣・請負の場合に、派 遣先、請負先の産業別最低賃金が適用されないというような形で、二重構造ができてし まっているという問題もあるということです。  社会経済生産性本部の北浦部長のご意見は、新産業別最低賃金は、もともとの理想は 職業別で一人前の賃金で、それは、また労使交渉の補完といったような賃金決定メカニ ズムの中での位置づけというものが思想的にはあったということです。実際に、企業内 の賃金決定においても、一定の年齢を切ったりするようなことで、企業内の最低賃金と の連動性も出てきており、パートタイム労働者とか下請の単価の中で、産業別最低賃金 はそれなりの賃金決定において、標準として機能してきた。産業別最低賃金の意義は、 最低賃金法の中で、副次的、二次的なものであるが、そういう賃金水準の高いところに おいての公正競争とか、産業内の賃金格差の是正という機能はそれなりの機能があると いうことです。  3頁ですが、特に労働組合の組織率が低下している中で、労使交渉で賃金を決めると いうところでカバーされないところが増えている。賃金紛争の防止とか、賃金決定メカ ニズムにおける労使交渉の補完機能、代替機能といった面から、やはり捨て難い面があ るということです。  横浜国立大学名誉教授の神代先生は、産業別最低賃金が、地域別最低賃金と比べて4 割とか5割とか明確な差があれば、基幹労働者のための最低賃金ということで、別に設 定する意味があるかもしれないが、5%も差がないようなものについては、作っておく 必要があるかどうかというような疑問です。  (2)が、その決定方式、あるいは国の関与のあり方ということで、最低賃金審議会 で決めることと労働協約の拡張ということについてのご意見です。  電機連合の加藤部長のご意見は、労働協約拡張方式である最低賃金法第11条の方式と いうのが、なかなか我が国においては活用されていないということですが、基本的に は、申出要件が厳しい。さらに、ヨーロッパの場合には、産業別労使交渉とか、産業別 の労働協約によって労働条件を決めるというシステムになっておりますが、日本の場合 には、企業内組合、企業内労働協約ということになっており、そういう拡張するという 発想とか土壌がない。さらに、日本の場合に、地域単位でみると、使用者側としての業 界団体というものがなかなか存在しないというようなことから、拡張方式というのがな かなか難しいということです。  清家先生のご意見は、産業別の賃金格差はあっていいということですが、それを罰則 をもって強行法規で担保する必要があるかということについては議論の余地がある。労 働協約の拡張適用みたいなものを整備して、産業別最低賃金については見直しを行って いくことを検討すべきであるということです。  北浦部長は、現実には公正競争ケースの方が現在多いわけですが、本来、労使交渉の 補完ということでありますので、基本的には、最低賃金法第11条の労働協約の拡張が本 流になるべきであるというものが、そもそもの議論ではないか。ただ、第11条が非常に 要件が厳しいので、要件緩和についても、労働組合法との兼ね合いもあって、なかなか 難しい面があった。そういう中で、一つの便法として、第11条でなくて、第16条の4を 活用して、申出という要件をかませて、審議会方式ということで、今の新産業別最低賃 金というものが出来上がった経過の説明です。  神代先生は、公正競争ベースの産業別最低賃金はあまり有効ではない。仮に全廃しな いで残すとしても、刑罰の対象にはしなくていいのではないか。もともと労働協約最低 賃金の代替物みたいなものであるので、労使と言いますか、組合が自由にやれるので、 刑罰は外してはどうかという議論は従来からあるということです。  5頁以下が、これまでの研究会の中で出された意見を若干整理しています。まず、産 業別最低賃金について、なぜ特定の産業だけが、その地域の最低賃金より高く設定され て、さらに産業によってばらばらに決まっていくとのかが理解がなかなか難しい。  産業がボーダレス化して、産業によってそれほど特性が違うわけではない中で、産業 別に最低賃金が別々に定められているという時に、本当に公正競争の維持と言えるのか どうかの問題がある。  さらに、産業別最低賃金は産業別かつ都道府県単位が一般的で、県を越えての公正競 争の担保が全国一律でないということで、実際、国境を越えての競争が出てきている中 で、果たして公正競争がどこまで、役割として果たしているのかという問題もある。  最低賃金法第1条は、「賃金の低廉な労働者」を対象に最低賃金を決定するというこ とですが、それが公正な賃金と産業別最低賃金で言っているようなことまで含んでいる のかどうかという問題点がある。  業種転換も頻繁に起こって、産業のボーダレス化が進展する。さらに、請負、派遣労 働者とか、就業形態の多様化している中で、現在の産業別最低賃金が労働者の姿をうま く反映しているのかどうかは疑問があるということです。  同じように、派遣労働者、請負とか、異なる産業で同じ職種があるということで、労 働市場の広がりが産業を越えているので、今の産業別最低賃金がそれに適応できていな い面があるとするなら、それに代わるものとしたら、職種とかでくくっていくことにな るのではないかということです。  生計費確保が地域別最低賃金で、より高いレベルでの事業の公正競争確保が産業別最 低賃金だという二元的な考え方でずっとやってきたと思う。これまで取ってきた二元主 義的な考え方が正しいのかどうか。特に公正競争というところがよく分からない面があ る。  同じような話ですが、公正競争という中で、賃金格差に着目して決定する公正競争ケ ースについて、いろいろ議論があるのですが、労働協約ケースについては、労使自治と か、団体交渉の促進、あるいは賃金決定のあり方という観点からみると、問題がないの ではないかということです。  それに対して、6頁ですが、労使自治とか団体交渉の促進というときに、そこにどこ まで国が関与してやる必要があるのか。労使がやればいいという考え方も、もう一方に はある。経済学的に最低賃金の役割として、労使交渉の促進は、これまであまり考えて きていなかったのではないかということです。  次に、決定方式、国の関与のあり方についてですが、産業別最低賃金についても、労 働協約の拡張適用という、労働組合法はそういう形であるわけですが、労働組合法では なく、最低賃金法として拡張ということであれば、最低賃金審議会の意見を聴いて行政 機関が決定するシステムを採らざるを得ないのではないかというご意見です。  罰則で担保するのは地域別最低賃金だけでいいのではないか。より高い事業の公正競 争という意味で残すのならば、それは民事的強行性だけで、刑罰とは切り離してやって いいのではないか。  最低賃金法第11条の労働協約の拡張方式は、日本の実態になかなか合っていなくて、 制度としては死んでいる。むしろ、最低賃金法第16条の4の審議会方式の中で、要件を 緩和した労働協約ケースによる産業別最低賃金を独立させて、それを今後のものとして 位置づけた方がいいのではないかということです。  最後は、基幹的労働者ということで産業別最低賃金を作っているわけですが、そこで パートタイム労働者の人たちが一般的には基幹的労働者に入っている。一方、労働組合 の組織行動からすると、パートタイム労働者とか派遣労働者という人を同じ組合に入れ ることを望んでいるのかどうかという問題があり、それと同じ形で、最低賃金を決める ことも、それを組合が望んでいるのかどうかという問題もあるので、それを国として規 定した方がいいのかどうかは議論の対象になるのではないかというご意見です。  資料3が、最低賃金法の決定方式等についての条文と、それについて、厚生労働省で 最低賃金法の解説書を本として出しておりますが、そのコンメンタールの解説の要約で す。第1条が、「賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応 じ」ということで、基本的に3つのレベルでの決め方を規定していて、事業というのは 一般的産業、職業、地域という産業別、職業別、地域別という3つの決め方を規定して います。  趣旨としては、ここは目的規定ですので、第一義的には、低賃金労働者に賃金の最低 額を保障し、その労働条件の改善を図る。第二義的な目的として、労働者の生活の安定 とか、労働力の質的向上、事業の公正競争の確保があるということです。  さらに、決定する場合に、事業、職業、地域という業種別、職種別、地域別にそれぞ れの実情に応じて、最低賃金を決定する方式を採ることを規定しております。  2頁の5は、基本的に業種別、職種別、地域別にそれぞれの実情に則した最低賃金を 決定することが、この条文の意味です。その場合に、さらに、それぞれの組合せによっ て最低賃金が決定されることがあり得るということで、現に決定されているものは、各 都道府県別の地域別最低賃金と産業別最低賃金であって、それはさらにほとんど産業別 かつ地域別に決定されている。今まで、職種別については決定された例がないというこ とです。  3頁で、第7条に「最低賃金の競合」という規定があります。これは、最低賃金の設 定が業種別、職種別、地域別という様々な3つのやり方があるということですので、 「一人の労働者について二以上の最低賃金が決定されている場合があることを前提に、 その二以上の最低賃金の適用を受ける場合には、そのうち最高のものによって第5条の 規定を適用する。第5条の規定というのは、それ以上の金額の賃金を支払わないといけ ないということで、それによって罰則がかかり、民事的にも、その最低賃金額で契約し たものとみなされるというものです。  4頁が第16条「最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金」です。今の地域別最低 賃金と産業別最低賃金は、この第16条の規定に基づいて決定されています。「厚生労働 大臣又は都道府県労働局長は、一定の事業、職業又は地域について、賃金の低廉な労働 者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議 を求め、その意見を聴いて、最低賃金を決定することができる」ということです。基本 的に、ここも事業、職業、又は地域という3つがありまして、「その必要があると認め られたとき」ということで、基本的には、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が必要が あると認められた時に、最低賃金の決定をすることができるという規定です。  5頁で、必要があるという判断は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が行うという ことです。ただ、第16条の4で、「労使の申出」というのがあり、新産業別最低賃金に ついては、この労使の申出に基づいて、必要性があるかどうかを最低賃金審議会で審議 して、必要性がありという場合に、最低賃金を決定するということです。  6頁で、第16条の4「労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、最低賃金の 決定或いは改正、廃止を申し出ることができる」ということで、この関係労使の申出と いうのが、現在、新産業別最低賃金について、労働協約ケースあるいは公正競争ケース と2つあるわけですが、いずれも、この第16条の4の申出の要件として、運用上そうい う2つのケースでやっているということです。  資料4は産業別最低賃金の経緯です。1頁が旧産業別最低賃金と新産業別最低賃金の 対比表です。「基本的な性格」は、旧産業別最低賃金が行政イニシアティブであったの に対して、新産業別最低賃金は労使のイニシアティブであると。「産業の範囲」が、旧 産業別最低賃金は大くくりであったのに対して、新産業別最低賃金は小くくりである と。「対象労働者」は、旧産業別最低賃金が全労働者適用であったのに対し、新産業別 最低賃金は基幹的労働者に適用すると。「諮問」は、旧産業別最低賃金は厚生労働大 臣、都道府県労働局長の判断によって諮問する。新産業別最低賃金は労使からの申出が あったものについて最低賃金審議会で設定の必要性の有無を審議して、設定の必要性が ありとされたものについて厚生労働大臣、都道府県労働局長が諮問するということで す。「申出の要件」は、新産業別最低賃金のみありますが、(1)が労働協約ケースで、 基幹的労働者の2分の1以上について、最低賃金に関する労働協約が適用されている場 合です。(2)は公正競争ケースで、事業の公正競争を確保する観点からの必要性を理由 とする場合。旧産業別最低賃金からの転換の場合の経過措置として、労働協約の適用率 を3分の1以上とするということです。公正競争ケースについては、労使いずれか一方 の3分の1以上の合意に基づく申出があったものについては、必要性ありに該当する、 という転換の場合の経過措置が設けられています。  「改正、廃止」の要件として、労働協約ケースは、労働者の3分の1以上について最 低賃金に関する労働協約の適用がある。公正競争ケースは、「事業の公正競争を確保す る観点からの必要性を理由とする申出」とありますが、おおむね3分の1以上の合意が ある場合を含むということです。  「最低賃金の決定」については、旧産業別最低賃金は、必要と認めた時に決定を諮問 して、最低賃金審議会の審議を経て決定する。新産業別最低賃金は、労使の申出に基づ いて、必要性の諮問を行い、必要性ありと答申を経た後、さらに金額について決定の諮 問手続をする。  2頁は、旧産業別最低賃金を新産業別最低賃金に昭和60年から平成元年にかけて転換 をしていったわけですが、その際に、当初、年齢に関する適用除外、業務に関する適用 除外、その後、低賃金業種に関する適用除外で、当該業種の賃金が、一般の賃金に比べ て低いような場合には、そもそも産業別に最低賃金を設定する必要性がないということ で、低賃金業種を除外していったということで、新産業別最低賃金に徐々に転換すると いうことです。  3頁以下は産業別最低賃金の経緯ですが、これはこれまでもこの研究会で説明させて いただいたものと同様ですので、説明は省略させていただきます。後ろに答申等も付い ていますが、それも省略させていただきます。  資料5が「産業別最低賃金の現状」で、これもこれまで研究会で提出した資料がほと んどです。1頁が、最低賃金の現在の決定件数、適用労働者数です。地域別最低賃金が 47件で、約5,000万人の適用労働者ということです。産業別最低賃金は、平成16年度で いきますと、250件で、409万人の適用労働者です。最低賃金法第11条の労働協約拡張方 式が2件で、500人程度が適用されています。  2頁が、業種別の産業別最低賃金の件数と適用使用者数・労働者数です。3頁が、業 種別の産業別最低賃金の全国の加重平均の時間額です。4頁が、産業別最低賃金の地域 別最低賃金に対する比率の推移で、おおむね114%前後で、14%ぐらい地域別最低賃金 よりも高いレベルで大体推移しています。  5頁が、産業別最低賃金の地域別最低賃金に対する比率を、さらに業種あるいは労働 協約ケース、公正競争ケース別にみています。業種によって、地域別最低賃金から5% 未満、10%未満というような、かなり低いところと、もうちょっと高いというところが あります。労働協約ケースと公正競争ケースですと、労働協約ケースの方が若干、水準 としては、地域別最低賃金よりも高い。例えば労働協約ケースですと、89件ある中で、 110%以上115%未満が34件、115%以上120%未満が37件です。一方、公正競争ケースは 158件ある中で、110%未満が40件で、若干低くなっています。  6頁は、産業別最低賃金の労働協約ケースと公正競争ケースの件数の推移で、労働協 約ケースが本来産業別最低賃金としては望ましいということで、従来の中央最低賃金審 議会の報告などでも、労働協約ケースの移行についての努力を期待するということで、 取組みを行っています。平成6年度末、全体で250件のうち、労働協約ケースが53件で、 約5分の1でした。現在、平成17年1月は、274件で、労働協約ケースが89件で、3分 の1強で、若干、労働協約ケースへの移行が行われてきました。ちなみに、労働者の数 でいきますと、労働協約ケースが150万人ぐらいで、これも37%ぐらいです。公正競争 ケースが260万人ぐらいで、63%で、件数と大体同じぐらいの労働者数で、適用労働者 でみても同じような感じです。その次以降は、各都道府県別に産業別最低賃金の設定状 況です。  資料6は「最低賃金法第11条の労働協約拡張方式の解釈」について、これも厚生労働 省で作っておりますコンメンタールの解説と、労働組合法第18条に、そもそもの労働協 約の地域的拡張適用があるわけですが、それとの関連です。第11条は、「厚生労働大臣 又は都道府県労働局長は、一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを 使用する使用者の大部分が賃金の最低額に関する定めを含む一の労働協約の適用を受け る場合又は二以上の労働協約のいずれかの適用を受ける場合に、その労使の全部の労働 組合又は使用者の全部の合意の申請があった場合に、その賃金の最低額に関する定めに 基づいて、その一定の地域内の事業場で使用される労使に適用する最低賃金の決定をす ることができる」という条文です。  趣旨としては、アウトサイダーを含めた同種の労働者、使用者全部に適用する最低賃 金を決定し得るということによって、公正な競争を確保するとともに、アウトサイダー の労働者の労働条件の改善を図るということです。  解説の1で、「一定の地域」というのは、社会経済的に地域的なまとまりをもってい るということです。現在、設定されているのは、資料7で2つあるわけです。1つは、 滋賀県全体で塗料製造業、もう一つは、広島県の広島市と東広島市の2つの市の区域内 の塗料製造業です。  資料6の2頁の2で、「同種の労働者」について、当該最低賃金の適用を受ける労働 者と同じ種類の労働者ということで、何が同種かということについて、例えば旋盤工で あれば同種というのは旋盤工ということで、職種に応じた同種であるということです。 さらに、金属製品製造における旋盤工であれば、同一業種の同一職種という2つが同種 というための要件になります。基本的には、労働協約でどう定めていくかということに なろうかと思います。  さらに、「大部分」の解釈ですが、それについては、最低賃金法では、一般的に「3 分の2程度」で考えるという解釈になっています。この最低賃金法第11条は、労働者だ けでなくて、使用者も含めて、その大部分が適用されていることを要件にしています。 これは、公正競争の確保と労働条件の改善という2つの目的から、労使双方の大部分と いうことを、一応取っています。さらに、最低賃金法は1つの労働協約ではなくて、実 質的内容が同一であるような労働協約であれば、1つでなくてもいいという解釈になっ ています。  資料6の4頁に、最低賃金法第11条と労働組合法第18条との関係を規定しています。 労働組合法第18条は、基本的には、労働者の大部分に1つの労働協約が適用されている 場合に、それを一定の地域内で拡張適用するという規定で、労働組合法の規定ですの で、基本的には、労働組合の団結権の擁護なり、労働協約の実効性の確保が基本的な目 的です。労働協約に定められているすべての事項がその拡張の対象になるということで す。  これに対して、最低賃金法は、その地域の賃金の最低額の保障によって、公正競争確 保と労働条件の改善を図るということで、基本的には、その労働協約の中で賃金の最低 額に関する条項のみを拡張適用するということです。  発動要件としては、労使双方の大部分ということで、3分の2以上で、ただし、1つ の労働協約でなくても、2以上の労働協約で実質的内容が同じであれば足りる、という 違いがあります。  資料7が、今の労働協約拡張適用方式について、現在設定されているのは、この2つ だけです。  資料8が、最低賃金の決定について大きく分けると、審議会方式と、今の最低賃金法 第11条の労働協約の拡張方式の2つがあり、審議会方式の中で、地域別最低賃金と産業 別最低賃金という2つがあるということで、地域別最低賃金は、当然すべての労働者、 使用者が適用対象になって、行政主導で、最低賃金額については、最低賃金審議会の調 査審議を経て決定されるものです。  一方、真ん中の産業別最低賃金は、特定の産業の労働者、使用者に適用されるという ことで、労使の申出を契機に決定するということで、その決定の要件が、先ほどの労働 協約ケースと公正競争ケースという2つのケースがあり得るということです。これにつ いても、必要性について、その申出を契機に最低賃金審議会で必要性を審議して、必要 性がありという答申を経た後、さらに金額について最低賃金審議会で決定するというこ とです。労働協約拡張方式は、今説明したとおりです。  2頁で、最低賃金の効力ですが、(1)が刑事的効力について、「使用者は、労働者 に対して最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と。これは最低賃金法第5 条第1項です。実際に支払わなかった場合には、第5条第1項違反として、現在ですと 2万円以下の罰金ということです。  先ほど、最低賃金法第7条で、最低賃金の競合ということで、複数あった場合に高い 方を適用することになっていますので、今、産業別最低賃金が設定される産業において は、地域別最低賃金と産業別最低賃金の両方が適用されることになるわけですが、その 場合には、高い方ですので、一般的には産業別最低賃金の金額が適用されて、その額以 上払わなければならず、払わなかった場合には罰金が科せられるということです。  (2)が民事的効力で、これも最低賃金法第5条第2項ですが、最低賃金額に達しな い賃金を定める労働契約の規定は無効とされ、その部分については、最低賃金と同様の 定めをしたものとみなされると。これは民事的に、その金額を払わないといけない義務 が生じるということです。  ここまでが、本日の議題と直接の関連のところです。  資料9は、本日もですが、次回のところとも関連しますが、JILPTで最低賃金に 関するアンケート調査を実施しているということで、以前ご報告しました。その調査結 果が、とりあえず取りまとまりましたので、それを簡単にご報告させていただきます。  調査は、最低賃金についての事業者の認識状況、知っているか知っていないか、ある いはどういうふうに活用しているか、どの程度有効性があるかについてアンケートをし て、賃金とか雇用に対してどういう影響があるかといったことを目的としたものです。  調査票自体は、ちょっと分厚い「調査の結果」の最後に付いています。調査対象が、 基本的には小規模企業ということで、従業員30人未満の事業所で、製造業については 100人未満です。それの1万件について、産業別最低賃金の適用、非適用それぞれ5,000 件で、合計1万件です。そこを抽出して調査票を送って、通信調査ということです。回 答が2,434件で、回収率26%ぐらいです。昨年11月に調査票を送って調査したものです。  (1)の調査対象は、産業別最低賃金が適用されている事業所を5,000選んでおりま すので、製造業がかなり多くて、「製造業」が45.7%、「卸売・小売業等」18%、「サ ービス業等」20%となっています。産業別最低賃金適用事業所は製造業が66.8%で3分 の2ぐらいです。事業所規模では、「1〜4人」が37.1%で一番多く、そのあと「10〜 29人」が25.7%です。  (2)は、地域別最低賃金の調査結果の概要ですが、地域別最低賃金額を知っている 事業所が46.6%で半分弱です。「知っている」と答えた中でも、賃金額を記入してもら ったのですが、それが実際のその地域の最低賃金額に合っていると言いますか、正確に 知っている事業所は590で24%で、約4分の1ぐらいです。産業別にみると「製造業」 が若干高いのですが、規模別には、特に小規模の所で正確に知っていた事業所は非常に 少なくて、11.5%です。地域別最低賃金を知った経路は、「労働局のホームページやパ ンフレット等」が68.8%で非常に多いということです。正社員の賃金決定要素は、経験 年数においてというのが一番多かったのですが、「地域別最低賃金」というのが12.4% ということです。ただ、これを産業別最低賃金の非適用事業所でみると、「地域別最低 賃金」は15.5%で、若干上がります。  2頁、同じ地域、職種のパートタイム労働者の賃金相場は、賃金決定要素として最も 多かったわけですが、「地域別最低賃金」が27.2%と、正社員と比べると、かなり高く なっています。特に産業別最低賃金非適用の事業所でみると、「地域別最低賃金」が 32.1%で、3割強と、3分の1ぐらいになります。アルバイトについても、「地域別最 低賃金」が22.5%、産業別最低賃金非適用事業所でみると26.1%で、正社員よりは高 い、パートタイム労働者よりは若干低い感じです。  正社員の賃金の地域別最低賃金との張付き状況は、地域別最低賃金と比べて、ほとん ど同じと言いますか、「101%未満の従業員がいない事業所」が92%で、「101〜105% 未満の従業員がいない事業所」が88.4%、「105〜110%未満の従業員がいない事業所」 が75.7%で、正社員について、あまり地域別最低賃金への張付きはない。ただ、全正 社員が101%未満で、ほとんどすべて最低賃金というのは2.4%ぐらいあるということで す。  一方、パートタイム労働者については、正社員と比べると、若干その張付き状況は上 がるということで、「101%未満の従業員がいない事業所」が86.6%、「105%未満」が 80.0%、「110%未満」で66.2%で、正社員と比べると、若干張り付いておりますが、 それほどではないということです。ただ、全パートタイム労働者の賃金が、地域別最低 賃金の101%未満というのは5.9%存在する。アルバイトについては、パートタイム労働 者と大体同様の傾向です。  (10)で、これまで地域別最低賃金が引き上げられたために、雇用を抑制したことがあ るかどうかですが、「新規雇用を抑制したことがある」という事業所は4.2%で、非常 に少ないということです。今後の問題として、(11)で、地域別最低賃金を引き上げた場 合に、「雇用を控えることを考える」というのは12.6%です。この「控えることを考え る」と答えた事業所について、どのぐらい引き上げられたら、雇用を控えるかという と、「1%以上5%未満」が36.9%で、それが一番多かったのです。  (12)で、「地域別最低賃金が役立っている」と回答する事業所は24.6%です。役立っ ている理由としては、「パートタイム労働者やアルバイトの賃金を決める上で参考にな る」が8割ぐらいで、一方、地域別最低賃金が役立たないという理由としては、「最低 賃金額が低すぎて参考とならない」が7割強です。(13)で、地域別最低賃金を知らない と答えた事業所に、その理由を聞いたところ、「低賃金の者がいないので、確認する必 要がない」が半分ぐらいです。  (3)が「産業別最低賃金に関する結果」です。産業別最低賃金については、基本的 に産業別最低賃金の適用事業所についての調査です。産業別最低賃金を知っているとい う事業所は4割ぐらいで、「製造業」が産業別最低賃金はかなり多いので、知っている 割合も高いということです。(2)の産業別最低賃金適用事務所の認識経路については、 やはり「労働局のホームページ等」が多いということです。(3)産業別最低賃金適用事 業所について、正社員の賃金決定要素として、「産業別最低賃金」と答えたのが14.9% です。地域別最低賃金とほぼ同じような感じです。(4)パートタイム労働者については、 「産業別最低賃金を決定要素としている」が18.9%で、(5)アルバイトが13.1%です。  (6)で、「正社員の賃金が産業別最低賃金にどのぐらい張り付いているか」ですが、 地域別最低賃金と比べると、産業別最低賃金の方が、張り付き度合は高いのですが、た だ、正社員については、それほどの張付きはない。一方、パートタイム労働者は「101 %未満の従業員がいない事業所」が81.8%ですが、「101〜105%未満の従業員がいない 事業所」が54.4%で、かなり、パートタイム労働者の場合には産業別最低賃金に張り付 いている割合が高くなっています。  4頁の(9)で、これまで産業別最低賃金が引き上げられたために、「雇用を抑制した ことがある」事業所は4.8%で、これも非常に少ない。(10)で、今後の問題として、産 業別最低賃金が引き上げられた場合に、「新規雇用を控えることを考える」事業所は 18.4%で、地域別最低賃金の場合と比べると、ここはちょっと高く答えが出ています。 その場合、どのぐらい引き上げられた場合かというのは、「5%以上10%未満」が最も 多いということです。  (11)で、産業別最低賃金が仮に廃止された場合にどうするかということですが、「賃 金は現状のままとし、雇用量も増やさない」が一番多くて、77.2%です。ただ、「賃金 を引き下げて、雇用を増やす」が10%ぐらいありました。  (12)で、「産業別最低賃金が役立っている」というのが24.5%で、地域別最低賃金と ほぼ同様です。その理由も、「パートタイム労働者やアルバイトの賃金を決める上で参 考になる」が76.6%で、これも地域別最低賃金とほぼ同じです。逆に、役立たないとい う理由としては、「産業別最低賃金が低すぎて、参考にしない」が40.9%で最も多いわ けですが、地域別最低賃金の場合は70%以上あったので、地域別最低賃金と比べると、 ここは低くなっています。(13)で、「他産業の産業別最低賃金が自分の事業所の人材確 保に影響している」とする割合が21.6%です。  また、調査結果については、詳しいものをその次に付けておりますので、ご覧いただ ければと思います。説明は以上です。 ○樋口座長  ありがとうございました。ご説明が多岐にわたっておりますので、少し分けて議論し ていただきたいと思います。最後にご説明いただきました調査についてのご意見、ご質 問から伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○渡辺先生  調査資料9のパートタイム労働者とアルバイトというのは、ただこういう人を言うと いう呼称だけでなく、週労働時間が何時間以下などという限定はどうなのでしょうか。 ○前田賃金時間課長  分厚い資料の最後に最低賃金に関する調査票を付けております。実はかなり小規模の 事業所ですので、厳密な調査が難しいかと思いまして、呼称で、パートタイム労働者や アルバイトはその事業所でそう呼ばれている人で答えてください、という調査になって おります。 ○渡辺先生  わかりました。 ○古郡先生  3頁の(5)と4頁の(12)ですが、産業別最低賃金がアルバイトの賃金決定要素になっ ているとする企業は、13.1%ということですか。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○古郡先生  4頁の(12)では、「パートタイム労働者やアルバイトの賃金を決める上で参考になる 」というのが76.6%とありますが、どう読めばいいのでしょうか。 ○前田賃金時間課長  賃金決定要素の問は、どのような要素を基に賃金を決めているか、この調査票でいく と3頁で、地域別最低賃金、産業別最低賃金、賃金相場、経験年数など複数に○を付け てもらいました。産業別最低賃金の適用事業所の中で、産業別最低賃金を決定要素とし て答えた所は13.1%だったということです。(12)で、「参考になる」が76.6%なのです が、もともと「役立っている」と答えた人が24.5%ですので、そのうちの76.6%なので す。ですので、全体からすると20%ぐらいにはなるのですが。 ○古郡先生  ありがとうございました。 ○橋本先生  今の質問に関連して、4頁の産業別最低賃金の(8)で、全アルバイトの賃金がほとん ど産業別最低賃金である事業所が10.8%とありますが、労働者の属性はわかりますか。 例えば外国人労働者なのか、日本人なのかなど。 ○前田賃金時間課長  そこまではこの調査では取っておりませんので、わかりません。 ○渡辺先生  もしかしたらパートタイム労働者ではない、有期雇用者という意味ではないのです か。 ○前田賃金時間課長  結局、この調査は事業所でアルバイトという名前でやっている人でやっていますの で、厳密なところまでわからないところが問題です。 ○大竹先生  この調査の回収率は26.2%なのですが、回収率にどのようなバイアスがあるかをチェ ックしたいと思います。この結果が最低賃金周辺にいる人たちの状況を表す上限の数字 とみるか下限の数字とみるかをチェックするために、規模別や産業別など、どのような 所で回収率が高いのか低いのかを集計していただければと思います。 ○前田賃金時間課長  今はありませんので、また今後集計して次回までにお送りします。 ○大竹先生  最低賃金周辺で雇われている人が少なかったり、それを気にして賃金を決めている企 業は少ないという集計結果をどう解釈すべきかに関わってきます。最低賃金を気にして いない所はそもそも答えなかった可能性があり、その影響が深刻かどうか、チェックし ていただきたいと思います。 ○樋口座長  回答についてですか。回答したものだけでなく、配ったものに対して回収した率を産 業別にということですか。規模などですね。 ○大竹先生  はい。 ○今野先生  16頁でも18頁でもいいのですが、18頁で、最低賃金が実際の賃金形態にどのような影 響を与えているか、重要な統計なのですが、問題はパートタイム労働者の賃金相場なの ですね。これはどうにかならないですか。難しいのかな。つまり、パートタイム労働者 の賃金相場が最低賃金ベースに形成されている可能性もあるわけです。個々の産業、企 業は隣の会社を見ている。隣の会社は隣の会社を見ている。ずっと探っていったら、一 番最初は最低賃金であるというケースはあり得るのです。だから、ほかも皆そうなので すが、パートタイム労働者の賃金相場がどのようなメカニズムで形成されるのかがわか らないと、本当に最低賃金はどういう機能を発揮しているのかわからないかなと思うの です。それを調べる仕掛けは、この調査でできますか。これをバッと見ると、最低賃金 は27%ぐらいなのか、という話になるのですが、そうであるかもしれないし、もっと大 きいかもしれない。  これは零細企業ですから、正社員でも結局同じで、例えば14頁に正社員の賃金決定要 素があります。同じ職種の賃金相場というのは、大企業ではこのような高い値は出ない わけです。あるいは、同じ地域の賃金相場。そうすると、これはどのように形成された かがとても問題になるのです。これはJILPTですね。何かいいアイデアがあったら 考えて、なければ仕様がありませんが。 ○奥田先生  以前、2回目か3回目ぐらいのときの資料で同じようなものが出ていたのですが、そ れもパートタイム労働者の賃金相場がどう形成されるかがわからないということでし た。同じような形で出てきています。 ○今野先生  もしかしたらすごい影響を与えているかもしれません。これだけ高いパートタイム労 働者の賃金相場なので、否定はできないということですね。 ○石田先生  結局は、パートタイム労働者の賃金水準と最低賃金の水準とのギャップをどうみるか という話に帰着するのではないですか。 ○今野先生  そのときに絶対額で影響を与えていることもあるし、よくここでも出てきますが、単 なる上げ額のシグナルですごく使っていることも考えられるし。 ○石田先生  あるけれども、そのギャップが規定的なのではないかと、私は思います。 ○今野先生  そのような観点から少し考えてもらうということですね。 ○石田先生  はい。 ○渡辺先生  今の点、調査の2頁の(5)で、これは複数回答ですが、パートタイム労働者の賃金決 定要素としては地域、職種のパートタイム労働者の賃金相場が最も多く、地域別最低賃 金が4分の1くらいと出ています。表の見方がよくわからないのですが、今野先生が言 われた18頁の図15を見ると、同じ地域、職種のパートタイム労働者の賃金相場は出てい ないのですか。 ○今野先生  同じ地域の職種は省略してあるのではないですか。 ○渡辺先生  12.2が一番低いのですか。 ○今野先生  元は55.9のパートタイム労働者の賃金相場の前に、本当は同じ地域、同じ職種のパー トタイム労働者賃金と書いてあるのでしょう。欄が小さいから。 ○前田賃金時間課長  確かに今野先生のおっしゃるとおり、集計票のときにその言葉を省略してしまってお ります。 ○今野先生  これはエクセルでやっていると思いますから、あまり上手ではありません。 ○樋口座長  わかりました。マルチで○を付けろというのと、もっとも重要な所に○を付けろとい うので、図15と図17を比較すると、例えばパートタイム労働者賃金はマルチだと55.9、 シングルアンサーでも36.3、半分以上残っているのです。地域別最低賃金になると、 27.2が7.3に。だから、1番目に重視していないけれども、2番目以降に多少考えてい るということが企業として存在するのが本当のところで、これを見るとやはりパートタ イム労働者は賃金相場が相当強く影響している。間接的に最低賃金が影響しているので はないかというところまでは読み込めませんね。でも、少なくとも答えた人は意識して いないところが、マルチプルアンサーの方では出ていると思うのです。 ○奥田先生  以前、2回目でいただいた平成13年の「パートタイム労働者総合実態調査報告」も、 大体同じような項目になっているのですが、地域別最低賃金と産業別最低賃金とは対応 しているのですね。これはかなり値が高いですね。こちらは両方で13.4で14くらいです が、もしこれを足すのが同じであるとすれば、40ぐらいですね。 ○前田賃金時間課長  そうですね。パートタイム労働者総合実態調査は規模が大きな所も入っていまして、 今回の調査は基本的に小規模の所ですので、最低賃金を考慮している割合は高目に出て いると思います。 ○樋口座長  難しいのは、最低賃金の調査として配られているので、回答する方が通常の調査と違 って、最初から身構えるのです。通常の調査でパートタイム労働者調査をやっていま す、何を重視しますか、というのと、最低賃金の調査をやります、最低賃金を重視して いますか、と聞くと、皆イエスと言って高く出てくることはあるのです。 ○石田先生  人情としてはそうですね。それは大きいですね。 ○渡辺先生  今野先生からの質問でショックなのですが、そもそもパートタイム労働者の賃金相場 自体がどう決まるか、今までパートタイム労働者の労働経済学を勉強した人は一言ない のですか。隣を見て、隣を見て、最後を見たらやはり最低賃金制度だったという話もあ り得る。何か今まで議論はないのですか。 ○石田先生  需給で決まったのではないですか。 ○樋口座長  佐野陽子さんが、賃金決定の順序に関してどこに準じて決定してくるか、パートタイ ム労働者もやっていらっしゃいますが、どうしても隣だと言うのです。しかし、本当は どうかは何とも答えられないところではないでしょうか。特に、日本のように毎年毎年 最低賃金が変わっていくと、アメリカのように5年に一遍の改定ですとジャンプして最 低賃金がきますから、そうすると市場賃金にどのような影響を与えているか分析できる わけですが、コンスタントに変わっていく問題は難しい。さらに、都道府県で違った動 きをしてくれればいいのですが、割と似たような動きをしていると、その特性も利用で きないのです。どこか地域特区で、どこだけ最低賃金をいくらに上げたと実験でもやっ てくれるとすぐに結果が出ます。 ○大竹先生  石田先生がおっしゃったことが重要だと思います。相場で決まっているのと最低賃金 で決まっているのとではやはり違って、最低賃金で決まっているのであれば最低賃金以 上を払う必要はないわけです。だからその辺りで払っていればいいわけで、最低賃金よ り高い相場賃金を払っている以上は、マーケットで決まっているのであって、最低賃金 で決まっていないと考えるのが自然だと思います。 ○今野先生  アンケートなので、地域別最低賃金を考慮していますといった、この考慮とはどうい う意味かはわからないのです。本当に絶対額が上がって、近いから上げるということな のか、最低賃金の全体の動きをみながら、上がったから上げるのかもしれないし、ここ の回答は最低賃金と書いてあっても、実際はよくわからないですね。 ○樋口座長  おまけに最低賃金の額自体知らなくても、波及効果で影響はあるかもしれないです ね。ここまでいくと意識調査でも調べられませんから。次回もまた最低賃金の水準に関 する議論のところで詳細に触れられると思いますので、今日の次のメインテーマであり ます「最低賃金の体系のあり方について」のご議論をいただきたいと思います。これも また、最初はご質問からお受けしたいと思いますので、よろしくお願いします。 ○石田先生  ある種、これまでの議論の中間的な整理という趣旨でのまとめになっているとお伺い しましたが、全体の印象からすると、産業別最低賃金に非常に集約した形でまとめてお られるのではないか。私個人の意見としては、最低賃金の体系のあり方といった場合、 当然、地域別最低賃金とセットで考えなければいけないし、当然先ほどの数値のデータ をみても地域別最低賃金が全労働者ですから、人数規模が違います。その辺りの論点整 理の仕方について、私はこれでいいのかなという問題意識を持ちました。  もう1つはそれと関係して、産業別最低賃金のあり方をいろいろな切口からお話を聞 いた先生方の意見や労使の意見をまとめておられますが、基本の論調としては、産業別 最低賃金をさらに拡充せよというのではなく、全体としてはいろいろニュアンスがあり ますが、罰則規定は不必要ではないか、あるいは公正競争ケースについては妥当性が薄 いのではないかということで、リデュースの論調だと私は思うのです。最低賃金のあり 方を、全体の文脈の中でそのテーマを取り上げる際に、地方最低賃金審議会の問題を抜 きにそれだけ単独に技術的に検討することは、最低賃金のあり方の研究としてはバラン スを欠いていると私は思っています。その辺りをそれほど議論したかと言われれば、私 などは絶対額のあり方、つまり上げ幅について地方最低賃金審議会はずっと目安制度を 含めてやっていると。それだけでも相当の深い歴史があったし、関係各位は努力を重ね てきたと思うのですが、そういった目安制度のあり方と労働者の最低生活を満たすため の賃金水準なのかという議論は、はたしてマッチングするのかどうかはもっと本質的な 議論です。それから、前々回、神代先生のヒアリングのときにも、生活保護、これも全 然カテゴリーが違いますから同一に並べてはいけないのですが、片や労働者、片や基本 的には労働市場に登場しにくい働けない方々ですので比べられないのですが、とはい え、モラルハザードを含めて水準論はいかにあるべきかの問題を避けた場合には問題が あるのかなと思います。  絶対額の問題では、渡辺先生も少し議論をされていたと思うのですが、例えば諸外国 のように地域別最低賃金で年齢区分という考え方があり得るのかないのか、つまり未成 年と成年についても議論はしたように思います。そのような議論は一応したということ で、やはり整理の段階では残っていてもいいのではないか。 ○樋口座長  はい。たぶん最低賃金の水準などについては、次回もう一度整理し直して提供してい ただくと思います。最低賃金の水準のあり方と体系のあり方は密接に関連するので、切 り離して議論するのは難しいというのはご指摘のとおりだろうと思います。もし何か具 体的なものがあれば、今いくつか出されましたが、次回事務局の方で用意していただく こと。事務局から何かご意見ございますか。 ○前田賃金時間課長  実態論として、体系のあり方と水準の問題は確かに密接に関わることは関わるのです が、まず理論の問題として体系について今日ご議論いただいて、地域別最低賃金等を含 んだ水準については次回ご議論いただければと思います。 ○樋口座長  ですから、たぶん議論の中で地域別最低賃金に一本化することによって、もっと水準 についての慎重な議論が行われるのではないかという代替的な関係がありますので、そ こは次回に是非お願いしたいと思います。あるいは先ほどの話で、年齢の、例えば18歳 以下のことについては体系の方で議論をされるかどうか。 ○前田賃金時間課長  資料1の(2)に、減額措置や適用除外についてどう考えるかとありますが、その中 でその点も含めてご議論いただければと考えております。 ○樋口座長  議論の整理上、今いただいた課題の中で、まず産業別最低賃金をどう考えるか、全体 の体系の話もありますが、そこからご議論いただいたらいかがでしょう。 ○渡辺先生  資料2の1頁の一番下の「連合の局長、部長」の2つ目の○で、労働協約ケースが望 ましいことは当然であるが、申請が非常に困難だと。その後の「新産業別最低賃金につ いては、労働協約もその他の機関協議や個人合意も申出に当たっての必要性の合意形 成、合意の役割という意味では同じ役割」と、この意味がよくわからないのですが。 ○前田賃金時間課長  新産業別最低賃金に、大きく労働協約ケースと公正競争ケースがありまして、従来か ら労働協約ケースが望ましいとされているのが前段の話ですね。ただ組織率等もあっ て、実際全部が現時点で労働協約でやるのは難しいということで、後段の2つ目の文章 で「労働協約も」と言っているのは労働協約ケースのことであろうと思います。公正競 争ケースの場合には、機関決定や個人の署名などで公正競争の申出をするわけですが、 労働協約もそういう組合の機関決定や個人合意も、申出に当たっての労働者側の合意形 成や合意の役割という意味では同じような役割を果たしているので、すべて労働協約ケ ースだけではなく、公正競争ケースも労使の合意形成の意味では同じ役割を果たしてい る、というのが労働側のご意見です。労働協約ケースも公正競争ケースも、労働者側と してはそれぞれ合意形成してやっているので、それなりの意味があるということです。 ○渡辺先生  少しはわかったような気持ちです。 ○樋口座長  ご質問はいかがでしょうか。 ○奥田先生  資料3で、これはあまりお聞きすると先ほどの水準論のようになるかもしれないので すが、最低賃金法第1条の「目的」のところで、低廉な労働者は相当低位にある労働者 で、高水準ではないということなのですが、相当低位にあるというのと高水準というの は、かなり幅があるように思うのですが、どのように理解すればいいのでしょうか。 ○前田賃金時間課長  ここで書いている高水準というのは、おそらく、例えば一般的な労働者の賃金水準を 言っているのだろうと思うのです。なので、どの程度低ければいいかは必ずしも明確で はないのですが、一般労働者よりは低い労働者を、ここでは賃金の低廉な労働者という 意味の解説として書いていると思います。 ○奥田先生  清家先生のヒアリングの際に、最低賃金の基本的な役割に関して、供給側の最低生活 水準の担保ということをおっしゃっていました。そのように考えると、やはり低い水準 が前提になりますが、一般労働者とのある程度の格差を考えますと、必ずしも供給側の 最低生活水準とはなりません。 ○前田賃金時間課長  そこは、法律上必ずしも明確ではなく、従来から議論になるところではあります。 ○石田先生  だから最低賃金審議会があるのです。 ○奥田先生  そこがある程度はっきりしないと、結局、地域別最低賃金が公正な水準でセーフティ ーネットの役割を果たしているのであれば、産業別最低賃金との関係でそれをどう扱う かの前提にもなると思いますし、もっと低いものだとすれば、前提が違ってくると思う のです。考え方のベースとして、やはりそこはある程度はっきりされることが必要では ないかと思います。 ○前田賃金時間課長  それは、この研究会の中でどう整理するかに関わる問題です。清家先生は、労働経済 学的に言って供給側の最低限とおっしゃったのだと思います。それが産業別最低賃金の 場合には、供給側は関わってこないということでもあろうと思います。 ○今野先生  資料2で、これまでお呼びした人たちの意見が整理されていますが、使側代表の方を 除いて、産業別最低賃金については、全体的に労働協約ケースみたいなものはもっとガ ンガンいけというニュアンスですか。 ○石田先生  使用者側は除いてですか。 ○今野先生  はい。組合は行けということだと思います。松田先生も結局1頁目の最後で、職種別 最低賃金制の可能性を考えろと言っているのもほぼ似たことだし、清家先生も3頁目の 2つ目の○で、産業別労働協約の拡張適用を考えろということなので、全体的にはそう いうことかなと思うのですが。 ○樋口座長  来ていただいたときに、イエス、ノーを問わなかったので、それぞれニュアンスにか なり幅があると思うのですが、組合側はもっと拡張をということはあったのだろうと思 います。あとはニュアンスの違いがありますが、少なくとも現行よりも強化しろという 意見はあまりありませんでした。先ほど石田先生がリデュースとおっしゃいましたが、 緩める方向なのだけれど、その緩め方についてかなり意見が分かれたのではないかと思 います。全く産業別最低賃金をやめろという話も中にはあったと思いますし、方式によ って残しておく、そのときペナルティのつかない形で残すべきではないかという意見が あったと理解しております。 ○今野先生  しかし、公正競争ケースはちょっとね、というのは何となくありますね。それで、今 の罰則規定はちょっとね、というのがありまして、これは比較的共通ですね。問題は、 それ以外で労働協約ケースの形で、労使が自主的にやるのをどれだけサポートしようか ということだと思うのですが、それについては意外にあまり否定的ではなかったのか、 そうでもないのか。 ○石田先生  ただ、私がよくわからないのは、罰則規定のない法律にはいかなる効果を期待する か。これは定年延長とかそういうときで、エンカレッジメントがありますから、インセ ンティブをつけるなど各事情はあるのでしょうが、最低賃金立法の中で罰則規定のない 労使自治の助長を促す法体系とはどのようなものか、私は法律学者ではないのでわから ないのですが。 ○渡辺先生  私は、今まで何度か口にしたことなのですが、国が処罰をすることがなくても民事的 に強行性があると思うのです。つまり、裁判所に訴えればその権利が実現されると、簡 単に言えばそういうことです。 ○石田先生  非常にわかりやすいですね。 ○渡辺先生  民事訴訟を起こすと、最低賃金の場合ですからやはり面倒くさいではないかという話 になるかもしれませんが、簡易裁判所で小額訴訟をする制度や、これから労働審判があ って迅速に決着をつける体制がだんだん出てきましたので、そういう意味で、民事的強 行性だけで、国が罰するとまで言わなくとも意味のあるものだと思います。 ○石田先生  よくわかりました。 ○樋口座長  橋本先生、補足してください。 ○橋本先生  私は別に補充することはありません。 ○大竹先生  労使自治を促す目的だというのはわかるのですが、それは労働組合法なりの労使関係 の法律でやるべきではないかと思います。最低賃金法は、最初の第1条にあるなかで、 別に労使自治をうたっていないわけですから、この目的の範囲で最低賃金法を考えれば いいのではないかというのが私の理解です。 ○渡辺先生  私もそう思います。労使自治を促進するのは労働組合法の任務であって、最低賃金法 の任務ではない。ただ、団体交渉、労使自治を補完する、欠けているものについて最低 賃金審議会という行政機関を使うなら使い、そこに直接、間接に影響のある労使の代表 に集まってもらって議論して決めるという、補完的システムとして作るかどうかという 議論はあり得ると思うのです。労使自治促進そのものは、労働組合法という立派な法律 があるのだから、そちらでやってくれと、私もその点には異論はありません。補完機能 はいろいろな面であるので。 ○樋口座長  なぜ、補完を最低賃金の場でやるかなのです。春闘だっていいではないか。しかし、 まさか春闘を最低賃金審議会で決めるという意見はないと思うのです。そうすると、な ぜ最低賃金の場でエンカレッジメントを期待するのかが、すっきりしないところがあり ますね。ほかの国で、最低賃金の決定を目的とした労使の協議の場の提供などはどうな のですか。 ○渡辺先生  たまたま第6回の議事録を面白いから読んでいて、課長の説明の中で、例えばフラン スの場合、第二次大戦後の混乱期に賃金統制をしていたのですが、1950年にそれをやめ て、労使の自治で賃金を決めるようになった。しかし、組合がない所は捨てておくかと なるとそうもいかないので、全国一律で賃金を決めた。そのときの主要な意義づけが、 労使交渉の補完、民主主義的な賃金の決定だったと、前回教えていただきましたので、 そういう例があるのではないか。 ○石田先生  イギリスのスレッシュホールドの初発はそれですね。組織化が進んでいない基幹産業 の決定機構がないので、労働組合法は、向こうはボランタリズムですからそれはないの で、やはり中心の賃金条件について第三者的、組織的コントロールをきかすという趣旨 だったのです。それは、歴史的経過からすると突拍子もない議論ではないと思うので す。 ○今野先生  その場合、それが必要かどうかの議論と、必要だとすると最低賃金でやるのか労働組 合法でやるのかの問題になります。 ○渡辺先生  労働協約制度で、最低賃金だけを取り出して拡張適用する制度を労働組合法の中で作 るのは無理なのです。労働組合法の拡張適用は、かなり労働条件全体のバランスをとっ て、大部分適用されていたらそれをバッと拡張適用してしまう。労働時間制度と関連が あるから、賃金だけ取り出せない。だから、規範的部分を拡張適用する。その代わり、 労働組合法第18条は大部分の労働者に適用されているという大変厳しい条件でしょう。 しかし、最低賃金法は労働条件の中心中の中心である賃金だけを取り出して、しかも最 低協定だけを取り出して、最低賃金審議会という行政機関の判断を通してやろうという ことだから、最低賃金条項を労働組合法の中へ入れるのは不体裁で、やはり入れるなら 最低賃金法に入れておいた方がいい。 ○今野先生  そうすると大竹先生が言われたように、第1条が賃金の低廉な労働者。本当にギリギ リの人を相手にするみたいな構図になっていると、一種の適正賃金を決めるためのとい うと、これをみるとなんとなく気持悪くなるということだと思います。そうしたら適正 賃金法か何かを作る。あるいは気持悪いのなら、第1条を変えるとか。私は、そういう のはある程度必要だと思いますが、そういう点からすると、今の労働協約ケースという のはそれに近いのですが、ただ基幹労働者の定義はいい加減です。どうせやるなら、ち ゃんとやろうという感じ。 ○石田先生  アトランダムで申し訳ないのですが、仮に労働協約ケースが意味があるとなった場 合、この間に出てきた議論の最大の問題は、会社に適用しているわけで、当該事業所に 適用できていない。したがって、今みたいに業務請負になると本来、普通の常識でいえ ば「ここは適用になっている。これはしかし別の会社の人ですから」となっているの で、むしろそういう非常に技術的な工夫の方が大事で、もし産業別最低賃金的な賃金決 定に意義ありとなった場合はそう思います。だからそれは会社でやるのではなくて、事 業所で。それで、拡張適用ということも、むしろそういう日本的な拡張というか当該事 業所の従事者というか。私は事業所主義者で、あまり職務主義者ではないので、リアル に考えれば事業所単位で一緒に働いているわけですから、そういうのがわかる議論だと 思います。その場合、大前提は産業別的な労働協約ケースなり何なりが必要だ、という 合意が前提になっていないといけないと思います。 ○樋口座長  議論に入ってくださって結構ですが、一応確認します。資料1が今回、研究会全体で 何を議論するかの項目を整理したもので、これについては皆さんのご意見をいただいて います。前回は1の「意義・役割」、今回は2の「各論」の中の(1)最低賃金の体系 のあり方です。次回に(2)最低賃金のあり方の中に、決定基準や水準の話が出てきま す。(3)のその他と併せて次回に議論していただこうということで、今日は主に(1 )ということで、ここに4つほど取り上げていただいていますので、もちろんこれ以外 でも結構ですが、この順番で考えたら少し議論が整理しやすいかと思います。  最初は1つ目の○の地域別最低賃金、まさに議論していただいているところ、及び2 つ目の○の産業別最低賃金の制度のあり方についてご議論いただけますか。石田先生か らのご指摘で、現行の派遣労働や請負は、今は基本的には雇用主単位でやっている。そ うすると派遣労働の場合は雇用主が違っている、請負も違っている。したがって、同じ 職場で同じ場で働いていながら違ったものが適用されることがあることについて、事実 そうなっていると考えていいのか。 ○前田賃金時間課長  派遣の場合は、派遣業というのが産業分類上、サービス業に入りますので、今の取扱 いとしては派遣元が賃金を支払いますので、派遣元の事業所の産業で産業別最低賃金の 適用をしますし、地域別最低賃金についても派遣元の事業所の所在地で地域別最低賃金 を適用しているということで、基本的には賃金支払義務のあるところで最低賃金の適用 を決めている。請負については、その請負が何業かは産業分類上、主としてどういうも のを請け負っているかによって決めるということですので、例えば特定の製造業を主に 請け負っていればそれは製造業になりますので、その製造業の産業別最低賃金が適用さ れるということは理論的にはそういうことです。ただ、いろいろなものを請け負った場 合に何を主たる請負とみるかという問題は出てくるということです。 ○樋口座長  これは運用上の問題ですか。 ○前田賃金時間課長  派遣については労働者派遣法ができたときに、派遣元の事業主の産業や地域で適用す るということを通達で書いています。今の産業別最低賃金の決め方が、適用する使用者 で書いているので、ある地域で何々業を営む使用者と押さえているので、今の決め方で やっている限りは、その業を営んでいないといけない。産業別最低賃金の決め方は使用 者から適用しているので、自然とそうなる。これは、決定要覧の産業別のところで適用 する使用者をまず押さえて、その使用者に使用される労働者について適用するというこ とですので、その業を営んでいるということで産業を決めている。派遣業はサービス業 なので、製造業を営んでいることにはならないので、それは適用されないという形にな ります。それは通達もあり、それに基づいて実際の最低賃金を公示で決めますが、決め 方がそうなっている。 ○樋口座長  むしろ石田先生のご指摘は、現行法を変えた方がいいのではないかという話で。 ○石田先生  今の説明だと、そういうことになります。 ○渡辺先生  果たして、現行法を変える必要があるかどうかですが、最低賃金法は労働者を定義し て、労働基準法第9条の定義によると言っています。労働基準法はどう定義しているか というと、「事業所に使用される者で賃金を支払われる者」として、「雇用される者」 と言っていません。ですから、通達を変えればいいのです。えらいことを言ってしまっ て申し訳ないですが、研究会だから自由に言わせていただくとそういうことで、現実に 派遣労働者の賃金は派遣先と派遣契約を元と先が結んで、それとの関係で労働者に対し ていくらと決まって、どこへ派遣されるかによって賃金がずいぶん違うわけですから、 派遣労働者には派遣先事業主の最低賃金額が適用されるとするべきだと長年思っていま す。必ずしも現行法を変える必要はないのではないか。 ○樋口座長  基本的に私もそう思いますが、この間労働者派遣法の改正をやった立場としては、派 遣先労働者と派遣労働者の間の均衡の問題をかなり議論しました。福利厚生や教育訓練 については、まず第一歩として均衡問題を法改正として入れようと。次に雇用条件をど うするかでかなりの議論が出たのは、渡辺先生がおっしゃったように派遣元が1つの派 遣会社でも派遣先がいろいろとある。そうすると、そこによってたまたまある所に派遣 された者と別の所に派遣された者で、今度は違った雇用条件が適用される場合がある。 もし職種別賃金処遇制度みたいなものが確立されているような国、経済であれば、そう いった問題はないわけですが、その間での違いが派遣先企業の違いによる雇用条件の違 いというものが、同じ派遣会社の社員でありながら発生することについてどう考えたら いいかという議論が出たのですが、その点はどうなのでしょうか。 ○渡辺先生  その派遣元は派遣労働者を抱えていても、一緒に顔を合わせないのです。あの人と比 べて私の賃金が低いといってもわからないわけですから、派遣先で働いている人が寄り 集まって派遣元の労働者となっているわけですが、派遣元の労働者の派遣労働者間には 何の繋がりもないですから、そういうことを考える必要があるのかという感じがしま す。 ○奥田先生  派遣先が違って、業種の全然違う仕事をしている労働者が同じ派遣会社の派遣社員だ からということで、そこで均衡が成り立つのはちょっとおかしいですね。 ○樋口座長  そのときには、一定の派遣先に長期に派遣が続いていることを想定しての話だと思い ます。毎日違います。例えばソフトウェアの派遣も、同じ労働者が1週間慶應に行った ら次は早稲田になる。これは大学ですから、産業は同じでいいのですが。その産業とい ったときの問題点みたいなものを。本来の派遣労働者というようなことで議論になった のです。 ○奥田先生  同じ職種で、別の産業に行った場合ですか。 ○樋口座長  そうです。 ○今野先生  実態は知らないのですが、派遣労働者の場合はかなり一物一価になってきているので はないのですか、マーケットの相場ができてきて。よく新聞で、こういう派遣はいくら と書いてある。物みたいに。 ○大竹先生  派遣の相場ができてきたからこそ、企業も市場を利用してきているのだと思います。 ○樋口座長  そうです。それが派遣先労働者とは差はあるみたい。今の議論は、派遣先労働者との 均衡をどうするか。 ○今野先生  そちらの問題ですね。いずれにしても、実態としてはそういう派遣労働者の人たち は、第1条でいう「賃金の低廉な労働者」ではなくて、実際はもう少し上ですね。で も、最低賃金ギリギリで派遣なんてありますか。大体今1,000円ちょっとじゃないです か。 ○樋口座長  実態としては例えば引っ越しで、派遣というかオンコールの方が。「今日仕事がある から出てこい」というようなものは、時給700円、800円というものもあります。アルバ イトの派遣です。 ○今野先生  請負はどうですか。請負の賃金水準は、もっと低いわけで。 ○石田先生  この水準は軽々とクリアしています。 ○樋口座長  いかがでしょうか。簡単にいえば、請負の方が最低賃金の影響率が下がるのではない か。 ○前田賃金時間課長  どういう仕事に従事するかによりますが、製造の構内下請というところであれば、確 かにそこの正社員と比べてどうかということになると問題はあると思います。ただ、あ とは実際の賃金が最低賃金よりどうかというのが、また議論になるところです。 ○今野先生  その会社の構内請負や派遣の場合は、その会社の正社員との均衡という問題はまたい ろいろと面倒なことになるから、今回は横に置いておきます。そういうところでいえ ば、一定の相場の下支えみたいなものは必要だということでしょうか。そうすると、こ こでいう「低廉な労働者」とは違う範疇ですね。 ○樋口座長  地域別最低賃金は適用になるわけで、産業別最低賃金ですよね。 ○渡辺先生  低廉は絶対的な低廉なのか、副次的労使自治の補完や交渉の制度の補完という異形に なって、相対的な低廉という概念の考えがある。低廉というのは絶対的窮乏という意味 ではなくて、いろいろな意味があっていいと思います。 ○古郡先生  この場合は相対というのは入らないのではないですかね。 ○渡辺先生  現在ですか。 ○古郡先生  相当低い、「低廉な」、ということですから、相対的という概念はここに入ってこな いのではないかと思います。派遣労働者と正社員との均衡問題は最低賃金とは別の問題 ですので、もう少し議論を今日の予定のところに集中した方がいいのではないでしょう か。 ○石田先生  私は、正社員との均衡を論じているわけではないです。現行法で、当該産業の例えば 電機産業、労働協約ケースで最低賃金が適用になりますと。そのときに、かつてはパー トタイム労働者はいたわけです。適用になりました。当然です。今は、業務請負になっ ています。そこは適用になりません。つまり使用者が違います。そこは考えなくていい でしょうかというだけのことで、別に均等待遇。それは話が大変やっかいな問題になり ますが、法として空洞化しているのではないかと。 ○古郡先生  賃金の低廉な労働者ということでいえば、今は地域別最低賃金がすべての労働者に適 用されていますから、それが1つあれば最低賃金は十分だと思います。ただ、産業別最 低賃金については現在あるものを一気になくすのは難しいと思います。先ほどから議論 が出ていますが、労使自治をベースにして、それについては仕事に合わせて賃金決定を していくということで…。労働協約ケースを残すということではどうでしょうか。公正 競争ケースについては今までのヒアリングでも明らかになったように、なくしてよろし いのではないかと考えます。また、労働契約拡張方式は、もういらないのかなと思いま す。 ○今野先生  多分私と違うと思うのは、労働協約ケースの組織率が非常に落ちている状況をどうや って考えればいいか。放っておくとずっとこうなってくるから「まあいいや。それはそ うしておこう」というのか、そうではなくて、そういうこともあるからもっとサポート をするかどうかということだと思います。もしサポートをするのだったら、少しここら 辺は変えなければいけないというのがある。そこを自然死を待つために残すのか、もう 少し労働協約ケースがあった方がいいということで延ばすか、現状維持かがいろいろあ るにしても、その辺をちゃんと。 ○古郡先生  そうです。自然死を待つということになります。シンプル・イズ・ベストで、ダブル スタンダードはよくないと思います。けれども当面すぐになくすことは難しいから、あ る一定期間はそういうことで徐々にという意見です。 ○大竹先生  私も古郡先生と基本的に同じ考えです。議論していると先ほどの派遣の議論は、事実 上産業別最低賃金は既に空洞化しているではないかということを示しています。産業別 最低賃金の役割として強調されるのは、労使交渉、労使自治を促すという本来の最低賃 金の趣旨から外れているので、地域別最低賃金の上に産業別最低賃金を二重に作る意味 はほとんどないのではないかという気がします。ですから地域別最低賃金に一本化する のは、方向としては正しいのではないかと思います。 ○石田先生  労働組合のいろいろな参考になる話を聞いていて、要するに水準論なのです。地域別 最低賃金が低いので、ありとあらゆる手段を使って賃金が高ければいいということで す。だから、産業別最低賃金もそれに大いに役に立っているということなので、それは 地域別最低賃金の然るべき水準論というものが立てば、労働組合は判断し得ると私は勝 手に考えています。 ○古郡先生  地域別最低賃金の実効性はどうかという話が前に大竹先生からありましたが、そうい うことを考えると低すぎるかなということで、それを若干高い方向に、しかし産業別最 低賃金は将来的にはいらないと考えます。 ○石田先生  産業別最低賃金については、どちらかというと今野先生の設問に対して労働組合はな んとか産業の中での役割をきちんとした方がいいという考えの持主ですので、刑事罰に ついては議論があるかもしれませんが、先ほど渡辺先生の説明で、そうでなくても意味 がある。意味がある以上、意味のある格好に労働組合が頑張らなければいけない。そう いうよすがとしての法律は意味があるのではないか。しかも、仮にそこまである種の合 意があるとしたら、その場合は事業所単位でその労働者について、そういうことを考え る仕組みを作らないとまずいということです。 ○奥田先生  私はどちらかというと、産業別最低賃金をなくしてしまうところまでは踏み切れない と思います。いただいた資料にも見られるようにこれまでからずっと議論されてきて、 労使の見解はまったく分かれているのですが、少なくとも、産業別最低賃金がどういう 実質的な意義を有しているか、あるいはいないのかは、必ずしもはっきりと実証されて いないといわれています。労働協約方式などがなぜ伸びてこなかったのか、どういう条 件であればもう少し労使のイニシアティブの強い方に伸びていくのか、そのための条件 整備やサポートのあり方も考えてみて、それでも機能しないのかどうかというところま で考えるべきではないかと思います。また、さきほどの地域別最低賃金のあり方とも連 動させて考える必要もあると思います。 ○樋口座長  産業別最低賃金をリデュースする立場の意見としても、自然死は今まであったから残 そうという、特別そこに意義を見出してそこを助長するということではないのかと思っ ていて、そうだとすれば自然死ではなくて、この際なくしてもいいのではないかという 意見があっても然るべきかなと。今まであったから、また存続しましょうというその辺 に伴うコストはどうだったとか、逆にその部分が地域別最低賃金のところが疎かになっ てしまうというようなことはないかどうか、ということも考えていく方がいいのではな いかと思います。 ○古郡先生  ソフトランディングする妥協するということですよね。 ○樋口座長  そうですが、その妥協は審議会でやってもらえばいいということで、研究会である以 上は、1つは筋論としてどういう方向を考えるかをはっきりさせる。その意見が皆さん 違うということであれば、それなりの書き方があると思います。 ○石田先生  産業別最低賃金についてそこまできちんとさせることになると、地域別最低賃金の水 準論をそれ以上の比重を持って考えないとまずいかなということです。 ○渡辺先生  私は、最低賃金制度の労使交渉で決めるという歴史や意義というのは大変なことであ って、自然死を待つなんてことは反対です。これは現にあるから、それの扱いに困るか ら自然死という意味では全くなくて、現にあることの意味を捉えると全体としては肯定 的に捉えたいと思います。労使交渉の中で最低賃金を交渉して、それを当該産業の労働 者に適用するのは日本だけではなくて、フランスなどの例もあるわけですから、私は奥 田先生がおっしゃったように、それが第16条の4の方式で、最低賃金審議会がより強い イニシアティブを握る公正競争ケースに劣後して、1対2ぐらいの割合で今まで伸びな かったことの分析をきちんとして、それが無理なくある程度乗り越えられるものならば 労使が交渉して最低賃金を決めて、それに強行的効力を与えることは非常に重要なこと ですから、その方式は積極的に存続を図るべきものだと思います。公正競争ケースは、 これがどうしても必要かをうまく説明ができないので、研究会の場としては積極的に押 せない。労働協約ケースまで運命を共にする必要はないと思います。 ○樋口座長  その場合、現在の状況を考えると、産業別最低賃金でも行われている産業は元々労使 の議論の盛んなところで起こっているわけで、逆にそれでないと交渉もできないという ことになるわけですが、ほかの産業をどう考えるかについては、今のままではエンカレ ッジされるとは思えないわけです。 ○渡辺先生  そうですね。今のままではね。ですから第11条の方式は、ほとんど無理。一番無理な のは大部分というところにあるのではなくて、労使が大部分で使も含むのです。大企業 に大きな労働組合があって、下請がたくさんいて使用者がたくさんいて、そこで労働者 の数が大部分であっても使用者の数で大部分ということはあり得ないことだから、第11 条方式は今まで2件あるというけれども、よほど特異な例で、これはなくしてかまわな いと思います。けれども第16条の4は、労働者について2分の1または3分の1、使用 者については労働協約当事者が申出のときでいいということで、かなり第11条方式と違 った要件が意識的に設定されているので、その要件の下でどこが一番ネックかをもう一 度反省するなり考えてみて、利用しやすい制度にそこのところを直していくことは十分 可能だと思います。 ○大竹先生  労使自治で決めたことをすべての労働者に強制しなければならないという理由は、企 業特殊熟練のようにその企業でしか役に立たない技能を持った人がいて、その足下を見 られて買い叩かれる可能性があるから、法的に最低賃金で担保しますよという考え方だ と思います。ところが、派遣労働者というのは基本的にはそういう企業特殊熟練ではな くて、どこの企業でも働けるような職業なわけです。そういう人たちがだんだん増えて きて、従来の労働者との間にかなり乖離が出てきている。どこの企業にでも行って働け るような人に労使自治で決めたものを強制的に何か決めて最低賃金で担保してあげなけ ればいけない、という理由がどうもわからないのです。労働組合が企業特殊熟練だから 労働者が団結して、この企業でしか役に立たないことを前提に団結して交渉をするわけ です。その必要性がなくなった労働者が増えてきたときに、必要な人たちが団結して決 めたものを必要でない人たちにまでに適用するというシステムを、どうして残さなけれ ばいけないのかがよくわからないのです。 ○渡辺先生  派遣のことをおっしゃっているのですか。 ○大竹先生  派遣以外もすべてです。 ○橋本先生  企業特殊熟練ということではなくて、一般的に交渉力が、労働者の方が使用者より圧 倒的に劣るから団結して交渉しようというのが、集団的労働法の根本的な考え方だと思 います。そういう場合は、別にどの企業にいるからといって自由に交渉できるわけでは ないので。 ○樋口座長  それは、地域別最低賃金でやるべきだということですが。 ○橋本先生  渡辺先生と他の先生の意見の違いは、その地域別最低賃金、一般的な最低賃金という ものを国が決めてあげることでいいのか、それともやはり労使で本来は決めるべきだと いう賃金というものの理念の違いではないかと思います。 ○樋口座長  それと私はとても石田先生の言葉に共感しているところがあって、今の制度が本当の 最低賃金のターゲットとするべき労働者の保護になっているのかどうかですね。それが 産業別最低賃金によって、保護されるべき労働者が保護されることがもしかしたら空洞 化してしまっているのではないか。そうだとすると、逆に今のままでは片方はなくして 片方は残すということでは、問題が片付かないのではないかというところがとても気に なっています。 ○渡辺先生  空洞化というのは、適用対象の中にこの人たちだけは特別視して、派遣や請負で向こ うの会社から来ているから、要するに空洞化が目立ってきたことが問題だというだけで あって、空洞化というのははっきりいえば派遣労働者が増え、業務請負労働者が増えて いるということですから、それについて最低賃金法の適用をどこでどうするかをきちん と議論さえすれば、その点は樋口座長がおっしゃったことは‥‥。 ○樋口座長  それと同時に、産業別最低賃金の成立していない業種でそういう労働者が多いのでは ないか。例えば、製造業以外のサービス関連であるとかそういったところで保護される べき労働者が増えているわけで、そこのところが産業別最低賃金では対象になりにくい わけです。 ○渡辺先生  前回も出たように、一番考えているのは介護労働者ですね。今後の高齢化社会の中 で、あの人たちに専門職の労働者としての意欲や誇りを持って働けるようにするために は、きちんとした処遇をしなければいけない。けれども、組合は非常に弱体というか横 の連帯も何もない。地域別最低賃金だけでいいか。そうなると、高いレベルの産業別最 低賃金があってほしいと思いますが、ないからしょうがない。樋口座長は、無理なこと をおっしゃって。 ○樋口座長  そうではなくて、そうであれば地域別最低賃金の強化を仕組的に作っていくべきでは ないかと。 ○今野先生  例えば介護の労働市場で、介護の労働者の賃金は最低賃金より高いけれども、全体と して買い叩かれる可能性がある。したがって、全体としてどこかで支えなくていいのか というのと、買い叩かれなくても適正な水準をお互いに社会的にわかるようにしておか なくていいのかということだと思います。今言ったことがいらないのならば、地域別最 低賃金一本だということなのです。私は、そういうのがあった方がいいと思います。そ この見解の違いですよね。私は企業の賃金屋だから、企業の賃金からしたらそういうの があった方が、いろいろな意味で企業としても長期的にコストが下がると思います。で すから最低賃金である介護でもいいですが、それの一番下を支えるようにスタンダード を決めるわけですから、あった方がいい。どうせやるのならば、産業別最低賃金の基幹 労働者の基幹をもっとちゃんとやってくれと。それが、もしかしたら石田先生の将来の 像と私のとはかなり違うかもしれません。 ○樋口座長  今のご議論で大分煮詰まったと思いますが、先ほどの資料1の(1)でいうと、国の 関与のあり方まで含めて議論をしていただいたと思っていいですか。特に産業別最低賃 金については、国の関与についての議論が。 ○石田先生  刑事罰を外した場合の法のあり方が非常に勉強になりました。それはそれで、意味が あるのではないですか。 ○樋口座長  今日の議論の最低賃金の体系のあり方で、この他に何か議論すべきことはあります か。 ○今野先生  もう1つだけ。拡張方式は無理ですが、捨てる必要ではなくて残しておけば、そのう ち必要になるかもしれないけれども、そういうのは駄目ですか。置いておけばいいでは ないかと。 ○樋口座長  捨てるコストと残したときのコストのどちらが、将来に向かっての方向性としてはい いかと。 ○今野先生  公正競争はやはり論理的には非常にあれですが、拡張方式は現実に合わないというだ けなのです。どちらでもいいですが、そんなこともちょっと考えています。 ○樋口座長  よろしいですか。また次回に今日の議論、ご意見がありましたらお伺いすることにし ます。貴重なご意見をどうもありがとうございました。本日のご意見を基に事務局で整 理して、次回及び報告書作成時に再度ご議論をいただきたいと思います。  時間もまいりましたので、次回の会合について事務局からご説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  次回は3月3日(木)の午前10時からの開催を予定しています。また正式には、追って お知らせします。次回は今回とも関わると思いますが、論点でいくと(2)の安全網と しての最低賃金のあり方などの残りの論点についてご議論をいただければと思います。 以上です。 ○樋口座長  本日の会合は、これで終わります。どうもありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)