05/02/02 予防接種に関する検討会第5回議事録            第5回 予防接種に関する検討会 議事録                        平成17年2月2日(水)                        13:30〜17:30                        於:厚生労働省6階共用第8会議室                   議事次第            1. インフルエンザの予防接種について            2. その他 ○江崎課長補佐  それでは、定刻でございますので、ただいまから第5回予防接種に関する検討会を開 会いたします。  本日は、多忙な中御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  本日は、澤委員が欠席との連絡をいただいております。  本日でございますが、本検討会に際しまして、参考人として7人の専門家の方に御出 席をお願いしております。簡単に御紹介をいたします。  久留米大学名誉教授の加地参考人でございます。  国立病院機構三重病院長の神谷参考人でございます。  河合参考人は若干遅れるということで御連絡をいただいております。河合内科院長で ございます。  くまがい小児科院長の熊谷参考人でございます。  国立感染症研究所ウイルス第3部長の田代参考人でございます。  大阪大学微生物病研究所教授の田村参考人でございます。  岡山大学教授の森島参考人でございます。  それでは、開会に当たりまして、岡島大臣官房審議官からごあいさつを申し上げま す。 ○岡島健康局審議官  第5回の予防接種に関する検討会の開催に当たりまして、一言ごあいさつ申し上げま す。  委員の皆様、そして、参考人の先生方におかれましては、お忙しいところ御出席いた だきましてありがとうございます。  本日は、インフルエンザの予防接種について御議論いただくこととしております。イ ンフルエンザにつきましては、さまざまな論点があろうかと思われますけれども、予防 接種の在り方について御議論いただく本検討会におきましては、まず、高齢者への予防 接種の再評価、それから、子どもへの予防接種の在り方についての検討が大きな論点に なろうかと考えております。  インフルエンザの予防接種につきましては、SARSや新型インフルエンザといった感染 症への懸念から、この数年間に社会的ニーズが一層高まりつつありますが、一方で、予 防接種の有効性や意義について十分に検証されていないのではないか、また、国民への 情報提供が十分になされていないのではないかといった御意見も寄せられているところ でございます。  そこで、現行のインフルエンザワクチンの有効性や意義、問題点などにつきまして御 検討していただくとともに、インフルエンザワクチンにつきまして、今後どのような研 究開発が進められるのか、求められるのかといった事項について併せて御議論いただき まして、今後の行政施策の参考とさせていただきたいと考えております。  本日は、最初に委員の方々、参考人の先生方からプレゼンテーションをいただいた後 に御議論をいただくという議事進行を予定しております。大変長時間に及びますが、ど うか専門的な見地から忌憚のない御意見を賜りますよう、お願い申し上げます。  本日は、どうぞよろしくお願いいたします。 ○江崎課長補佐  それでは、加藤座長、議事の進行をよろしくお願いいたします。 ○加藤座長  皆さん、こんにちは。  それでは、本日の議事を進めさせていただきます。本日は、予定の時間が4時間とな っておりまして、非常に長時間でございます。場合によっては一度、途中で10分ほど休 憩をとらせていただくということも考えてございますので、十分な御議論をお願いいた したいと思います。  それでは、まず、事務局から資料の確認をお願いいたします。 ○小林専門官  それでは、本日の資料の確認をさせていただきます。  まず、お手元の議事次第の紙を1枚おめくりいただきますと、資料一覧とございま す。資料1から資料8までインフルエンザの予防接種の経緯。それから、発表いただく 先生方からいただきしました資料。それから、論点という資料8がございますけれど も、それをホッチキスでとめてございます。  それから、参考資料といたしまして、参考資料1「諸外国で勧奨されているインフル エンザ予防接種の対象者」。  参考資料2「病院職員に対するインフルエンザ予防接種の状況の実態調査結果につい て」。  参考資料3といたしまして、小児科学会から当課の課長あてに寄せられました見解に ついて準備をしております。  参考資料4といたしまして、河合参考人から提出いただいた文献。  参考資料5といたしまして、IDSR、『病原微生物検出情報月報』の昨年11月号のイン フルエンザ特集の該当部分のコピー。  それから、参考資料6といたしまして、米国CDC、MMRWのインフルエンザに関する 指針を準備させていただいております。  なお、傍聴者の皆様方におきましては、参考資料の5番と6番は印刷の都合で省略さ せていただいております。また、4の河合先生からの文献については、文献の名前のみ を提示させていただいております。  資料は以上でございます。不足等ございましたら、お申しつけください。 ○加藤座長  よろしゅうございましょうか。それでは、議事を進行させていただきます。本日は、 先ほども御紹介いただきましたが、加地先生、熊谷先生、森島先生、河合先生、廣田先 生、田村先生の順番にプレゼンテーションをしていただきまして、各プレゼンテーショ ンの間に1〜2御質問がございましたらば御質問を受ける。すべてのプレゼンテーショ ンが終わりました後で、総合的に討論を行うという予定にいたしております。  先生方にこれからプレゼンテーションをしていただきますけれども、それに先立ちま して、事務局からインフルエンザ及びインフルエンザワクチンに関しまして、歴史的な 経緯等を簡略に御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○小林専門官  それでは、資料1に基づきまして、インフルエンザの予防接種の歴史的経緯につい て、簡単に御説明をさせていただきます。  我が国におきまして、予防接種法が制定されたのは昭和23年でございますけれども、 当初の制定された時点において、対象疾患としてインフルエンザが項目として上がって いたところでございます。ただ、当時においては、インフルエンザは法律上の対象疾患 として規定されておりましたけれども、具体的な実施事項は定められていないというこ とで、半ば空規定のような形になっていたわけでございます。  その後20年代あるいは30年代に入りまして、通知に基づいて予防接種の勧奨が行われ てきたところでございます。  昭和37年には「インフルエンザ特別対策実施要領」というのが、当時の局長通知で定 められておりますけれども、小学生、中学生、幼稚園及び保育所の児童に対して勧奨が 行われてきたところでございます。  なお、昭和51年の法改正までは、法律に基づかない行政指導という形で勧奨接種とし てインフルエンザの予防接種が実施されてきたところでございます。  昭和51年に予防接種法の改正がございました。それによりまして、インフルエンザが 「一般的な臨時の予防接種」という位置付けとなっております。この一般的な臨時の予 防接種、現在はそういうカテゴリーはございませんけれども、都道府県知事が予防接種 を受けるべき者の範囲や期日を指定する位置付けの対象疾病カテゴリーでございます。  多くの自治体では保育所、幼稚園あるいは小学生、中学生といった児童・生徒を対象 として行われていたところでございます。  その後、昭和62年になりまして、公衆衛生審議会伝染病予防部会におきまして、イン フルエンザ予防接種の当面の在り方について議論がされてきたところでございます。そ のときの意見が3ページ目にございますけれども、現在の不活化ワクチンを用いた予防 接種では、社会全体における流行防止の効果について判断できるような研究データは十 分に存在しないが、個人の発症防止効果や重症防止効果は認められるため、個人が自発 的意思に基づいて予防接種を受けることが望ましく、実施者は被接種者及び保護者の意 向に十分配慮すべきであると、いう意見がまとめられてございます。  その後、平成5年に公衆衛生審議会で、今後の予防接種制度の在り方について御議論 いただいたところでございますけれども、昭和62年の意見を踏襲する形で、予防接種の 法律の対象から除外することが適当である、という答申をいただいております。  これを受けまして平成6年の予防接種法の改正で、インフルエンザが対象から削除さ れております。  その後、平成11年になりまして、今度は公衆審議会の感染症部会で、予防接種の在り 方について議論が行われたところでございますけれども、このときの報告書の抜粋部分 が5ページにございます。インフルエンザの考え方につきましては、個人の発症防止・ 重症化防止を主な目的として、高齢者を対象としたインフルエンザワクチンを予防接種 法に基づく予防接種として実施していくことについては、具体的な検討を早急に進めて いく、そのような提言をいただいております。  なお、このときには同時に、小児等への接種についても併せて御議論いただいたとこ ろですけれども、「有効性等についての調査研究が不十分であることから、本委員会と しては今後、小児等のインフルエンザに関する有効性等に関する調査研究を行い、その 結果に基づいて対応を検討すること」と提言されております。  平成11年の公衆衛生審議会の答申を受け、平成13年に予防接種法の改正が行われ、 「二類疾病」という努力義務を課されない、個人の判断に基づく接種を行う対象疾患と いうカテゴリーが創設され、インフルエンザが対象疾患に追加されてございます。  資料の下の方に参考といたしまして、予防接種法の改正事項について御説明をさせて いただいております。  3ページ目が、先ほど申し上げました昭和62年の意見。それから、4ページ目が平成 5年の答申の抜粋部分、5〜6ページが平成11年の小委員会での報告書の抜粋でござい ます。  それから、参考資料を若干説明させていただきますと、参考資料1といたしまして、 今海外、欧米諸国でどういった対象で勧奨されているかということを資料にさせていた だいております。米国、カナダ、英国、オーストラリア、それから、ニュージーランド の事例について紹介させていただいております。また、参考にしていただければと考え ております。  続きまして、参考資料2につきまして、前田補佐から説明をさせていただきます。 ○前田課長補佐  結核感染症課の前田でございます。参考資料2についてでございます。  法律上のインフルエンザ予防接種の対象は、先ほど小林専門官から説明があったとお りでございますが、任意の予防接種といたしまして、病院職員に対するインフルエンザ 予防接種がどの程度行われているかという状況を調査したものでございます。  調査概要でございますが、127自治体、都道府県と保健所設置市、特別区、すべてか ら回答をいただいておりまして、調査病院数も9,122病院中の98.8%から回答をいただ いております。この調査に当たりましては、日本医師会及び関係する病院団体の御協力 を得ましたことを申し添えます。病院の回答率が92.1%。  そして、調査内容でございますが、資料の7ページにございますとおり、積極的に職 員に対してインフルエンザの予防接種を勧奨すると回答された病院が75.9%。院内にお ける広報活動を行う程度の勧奨、接種日を設けるのが積極的勧奨、院内の広報活動を行 うというのは勧奨するということでございますが、14.6%。勧奨を行う予定がないとい う病院が1.5%という状況でございました。  それから、あと、積極的に勧奨すると回答された病院について調べましたところ、原 則すべての職員に対してインフルエンザの予防接種を勧奨すると回答されたところが 94.7%。事務職など一部を除く医療スタッフ全般と回答されたのが2.1%。医師・看護 師が対象というのが0.2%という形で回答をいただいているところでございます。  それから、もう一点でございますが、本日お手元にお配りしております「インフルエ ンザ」と書いてある、2月22日の新興再興感染症の研究成果発表会についてでございま すが、砂防会館で開催される予定でございまして、本日、御参加いただいております岡 部先生、田代先生、廣田先生を初めまして、国のインフルエンザ対策、インフルエンザ の発生動向、インフルエンザ行動計画、インフルエンザワクチンの適用と有効性の評価 という形で発表会を行う予定でございますので、また御参加いただければと思います。  以上でございます。 ○加藤座長  ありがとうございました。  今、事務局の方からプレゼンテーションに先立ちまして、歴史的な経緯等について御 説明をいただいたところでありますが、いろいろ御質問・御意見等あると思いますけれ ども、お時間もございますので、最後の討論のときに御質問などがございましたらいた だくということにさせていただきまして、今日御出席の先生方から順番に御発表をお願 いいたしたいと思います。  まず、加地先生にお願いいたしますが、加地先生は厚生労働研究の「乳幼児に対する インフルエンザワクチンの効果に関する研究」という研究の総括報告をお願いいたしま す。この研究班は、平成12年度から今日も御来席の神谷先生を主任研究者として3か年 計画でスタートいたしましたが、途中、神谷先生の御体調等の理由がございまして、最 終年度の平成14年度は、加地先生が引き継がれて研究が行われたという経緯がございま す。  そこで、まず、加地先生から3年間の結果をまとめて御報告いただきまして、補足の 事項がございましたらば、後ほど神谷先生にコメントをいただきたいと考えておりま す。  それでは、加地先生、よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○加地参考人  今、御紹介いただきました加地でございます。  それでは、今お話がございました乳幼児におけるインフルエンザワクチンの効果、3 年間いたしました。お話のように、最初の2年間は、今日も御出席いただいております 神谷先生が主任研究者として研究をなさいまして、最後の1年だけ私がいたしました。  この表題のところで、2000年のころの肩書で書いておりましたが、今は神谷先生のと ころは国立病院機構三重病院ということでございますので、これは訂正しておった方が いいのではないかと思います。それから、お名前の「斎」の字が違っておるそうでござ いますので、申し訳ございません。  これは、今、お話がございましたように、2000年から2002年の3年間でありますが、 最初の2年間は神谷先生、最後の1年は私がさせていただきましたけれども、その前に 1999年、廣田教授がなさいました研究「幼児等に対するインフルエンザワクチンの有効 性・安全性に関する基礎的研究」ということで、一応どのようにやればきちんとできる ものかということを検討していただいておりまして、その後の2000年から3年間の研究 というのは、そういうことを基礎にして計画を立て、実施しておられるものでありま す。  その前に、この3年間どのようなインフルエンザの流行があったかということであり ますが、数字が1か所だけ間違っておりましたので訂正させていただきますが、一番上 の2000〜2001年のどのような型のウイルスが分離されたかというところ、H1N1のとこ ろ1,776件がパーセンテージで「62」とございますが、これは「38」の誤りでございま すので、御訂正をお願いいたします。  どのような型が流行しておるかと。一応ここでは、ウイルスの分離数で書かせていた だいておりますが、これでおよその見当がつくのではなかろうかと思います。最初の1 年目はH1、H3、B、それぞれこのような程度で流行しておったのではなかろうか。 2001〜2002年はB型はほとんどなくてH1とH3。それから、2002〜2003年は主として H3だったと思いますが、Bも少し入っております。  実際には、一番右にそのときに用いられましたワクチン株はどのようなウイルスで構 成されておったかということが書いてございますが、問題はワクチン株と流行したウイ ルス株の抗原構造がどの程度一致しておるか。あるいは、逆に不一致の程度はどの程度 かということ。そして、そういうものがどの程度流行しているかというのを、左下にあ ります文献から引用させていただいておりますけれども、初めの2年間というのは、大 体ワクチン株で対応できるようなウイルスが流行しておったかと思います。Bはちょっ と違っておりますけれども。Bはいつも例の山形系とビクトリア系とありますので、そ れで変異株ということを記載しております。  2年目はBがちょっと問題でありましたけれども、このときは主としてH1・H3の 流行でありまして、大体ワクチン株と合っております。  2002〜2003年がちょっと問題でありまして、H3がワクチン株と流行してきまして分 離された株というのは、ある程度抗原構造がずれておるものがあったように思います。  ここでは、より詳しくH1交差試験で、試験管で2本の差、つまり4倍あるいは8倍 というところを別に分けて書いてございますので、そのまま記載しておりますが、ここ でごらんいただきますように、2002〜2003年目というのは、流行株H3につきまして は、ワクチン株と少し変わったものがかなり流行してきておったと。これは、全国的な 要素でありまして、私どもの3年間にわたるこの研究というものは、北海道から沖縄に 至るまでの各地区でやっておりますので、大体このような表を用意してまいりました。  実際の試験の方法でありますけれども、さっき申しましたように、北海道から沖縄に 至ります全国55の小児科診療所の6歳未満の受診された患者さんで、まず接種を希望さ れた方というのが接種群でありまして、その接種を希望された方1名ごとに、その直後 に受診した人1名ないし2名をコントロールとしてエントリーしております。この辺の ことは、さっき申しましたこの試験が始まります前の1年目、平成11年でしたか、廣田 教授がなさった試験の結果に基づいて、こういう計画を採用したということであります し、また、ワクチンは毎年、市販のインフルエンザワクチン。接種用量は年齢に応じて 違いますが、規定されておりますとおりの用法、用量であります。  個人特性を調査票でエントリー時にいろいろ調査いたしておりますが、その項目はこ こに書いておるとおり、非常にいろいろな問題。こういうものが恐らくインフルエンザ の罹患あるいは感染というものに対して、いろいろ影響を持つであろうということが考 えられますので、そのことを記載しておりますし、また、次のインフルエンザに罹患し たかどうかということで、これがいろいろ問題でありますけれども、これは私どもの計 画といたしましては、返信用のはがきを保護者、お母さんが主ですがお渡ししまして、 接種を受けた子どもさんあるいはコントロールになっていただいた子どもさんの罹患状 況というものを毎週報告していただいております。  どのようなことかといいますかと、もう一つは、後でスライドが出てまいりますが、 調査する期間が問題であります。やはりこれは厳密に最も流行が激しかったといいます か、最流行期というのが大体4週間ないし5週間、地域によって違います。その期間を とりまして、実際は後でちょっとお示しいたします。  もう一つは、どのような結果をとるかということで、これは最流行期に見られます最 高体温が大体38℃とか、37℃から要するに発熱というものをとりまして、これをすべて インフルエンザ様疾患ということにいたしております。そうしますと、当然インフルエ ンザ以外のものも含まれてくるということになりますので、それは最後に申し上げま す。  対象は、このように2,300〜2,900名、年度によって違いますが、大体このようにほぼ 同数になっております。  解析は、Odds ratioということであります。  今申しました観察期間、こういうように、これはある県の例でありますけれども、イ ンフルエンザの流行がこのように出ております。この両端は、ほかの疾患が混じること が非常に多いということもございますので、ウイルスが分離された、あるいはこういう 患者の発生状況から見まして、この場合は岩手県でありますが、最流行期間というもの に期間を限定して調査をいたしておるということであります。  まずは、ワクチン接種で副反応を見ております。これは、毎年大体同じような頻度で ございますので、ここでは00〜01年あるいは01〜02年の頻度を見ております。大体ここ にごらんいただきますように、発熱38℃以上がこの程度、二・何パーセントぐらい。こ れは接種後48時間以内で見ておりますが、39℃以上がこの程度でありますし、また、局 所反応といたしまして接種部位の発赤、硬結、腫脹、疼痛、大体このような程度の頻度 で見られておる。しかし、このようなものはいずれにいたしましても、非常に重篤な副 作用あるいは副反応というものではございませんでした。  それ以前に接種を受けている人と受けていない人では、こういう副反応の発現率が違 うかどうかということの検討でありますけれども、大体接種歴があった方が少し高いよ うであるということでございます。  これは00〜01年のシーズンで見ておりますが、大体3年間を通じて同様な傾向でござ いますので、ある一年度だけを出してきておりますが、接種群と非接種群を比べて見て まいりますと、特にこういうことで差はないようであると。少しこういう具合でありま すけれども、やはり居住面積というものもインフルエンザ、子どもさんが生活する、大 部分の時間を過ごす場である居住、おうちの広さというものの問題でありますし、その 次の家族数とか幼稚園に行っているかどうかというようなこと、あるいは生下時体重な ど、結局いろいろなことを比較しながら補正をしていく必要があるだろうということで あります。  こういうことを全部補正いたしましたけれども、まず、発熱ということを見てまいり ます。38℃以下、それから、38℃台、39℃以上ということで、こういう具合にいろいろ な数字が出てまいります。  いわゆるInfluenza like illnessであります。こういうことを見てまいりますと、 シーズンはこのブルーで書いてありますのが、この3年間の試験年度に先立って廣田教 授がおやりになった接種のときの試験であります。いずれにいたしましても、全員で見 ますと、このようなことになるということであります。ただ、1歳未満というのは後で まとめて申し上げますが、いろいろと考えが出てくるようであります。  これを更に年齢を分けまして、これは6歳以下全員であります。それから、これは2 〜6歳未満ということでありますと、大体このような数字が出てくるわけであります。 ところが、1歳未満になってまいりますと、最後に申し上げますが、どうもはっきりし ないデータが多くなってくるようでございます。  これを更に年齢1年刻みで2〜3歳未満、3歳、4歳、5歳という具合に分けてまい りますと、このようなデータであります。  また、地域別には、これは勿論全国にわたっておりますが、地域によって流行がかな り見られた地域と、さほどでもないという地域がありますので、当然そこにはいろいろ 差が出てくると。これは東京を1とした場合の地域による流行ということであります し、それに従いまして、結果というもの、ワクチンの有効性を示す数字というものも少 し違ってきておりますが、やはりある程度流行があったところで検出しやすいというこ とを、これは示しておるだろうと思います。  3シーズン後、今は各年度それぞれ出してまいりまして、大体同じ傾向だというこ と。副反応にいたしましても、効果にいたしましても類似しておりますけれども、ここ では接種48時間以内の副反応を見てまいりますと、熱というものがある程度出てまいり ますが、その持続は短期間でありまして、さほど重篤ではございませんでした。  また、発赤、硬結、腫脹という局所反応は、この程度に出てくるということでありま すが、やはりインフルエンザワクチンの接種歴がある者がちょっと高いようであります ということであります。しかしながら、この副反応というのは、いずれも特別な処置を 必要とするような重篤なものではなかったということでございます。  まず、そういう3年間の結論を簡単にここでまとめておりますけれども、接種対象者 全員で見てまいりますと、一応ワクチンの効果というのは有意差をもって証明できたと いうことであります。ただ、先ほどから幾つかのスライドを示しておりますように、1 歳未満ではどうも不安定でありました。これは、いろいろなことが考えられると思いま すが、1歳未満はちょっと例数が少なかったということもありますし、また、これはワ クチンによる免疫応答、1歳未満というような非常に小さいお子さんですと、この点で 問題があるかもしれませんし、また、接種量の問題、ここでは現在のやり方は0.1mlだと 思いますが、そういう接種量の問題もあるかもしれません。また、ほかの調査期間の間 に、インフルエンザではなくてほかの疾患による発熱というものも当然この中にカウン トされてきておりますので、そういうものが入っておるかもしれません。  大体、有効性というものはリラティブリスク、20〜40%ぐらいであるだろうと。4年 度をここには入れてございません。この1年目は、廣田教授が主任研究者としておやり になった試験でありまして、あと3年間この程度で同じような数字が出ております。  ここで、この場合のインフルエンザ様疾患というもので発熱を指標にしてとっており ますので、インフルエンザ以外の病気で同じような発熱を呈してきたものもこの中には 入っておるわけでありますので、当然その結果というものはインフルエンザワクチンの 効果という面から見れば、過小評価になっておるのではなかろうかということでありま す。  まとめますと、6歳未満の乳幼児におけるワクチンの有効性というのは、1歳未満の 人はちょっと別でありますが、大体リラティブリスクで言って0.6〜0.8ぐらいであるだ ろうということ。更に、非常に小さいお子さんであれば、先ほどのように1歳未満とい うのはなかなか難しいのでありまして、その場合は、むしろ乳幼児の接触者、母親とか いろいろ赤ちゃんの面倒を見られる方の接種が必要ではなかろうかということでありま す。  これは、後でまたいろいろインフルエンザのとり方について問題があるだろうと思い ます。インフルエンザを厳密にインフルエンザウイルス感染症として取り上げるとか、 あるいはインフルエンザウイルスの感染・血性学的なものをインフルエンザとしてとる かとかいろいろございますけれども、これは後で議論が出ると思いますので、一応私ど もの3年間の試験では、インフルエンザ流行の期間を設定いたしまして、なるべくほか の有熱疾患が混じってくるのを避けるという立場で37℃以上の熱をとりまして、それを 37℃、38℃、39℃という具合に分けて、大体Influenza like illnessということで取 り上げて、効果を検討したわけでございます。この辺は何をとるかということは、後で また廣田教授からお話があると思いますので、ここは省略させていただきます。  時間が少し過ぎたかと思いますので、これで終わらせていただきます。 ○加藤座長  加地先生、どうもありがとうございました。神谷先生、何か御追加ございましたら ば。 ○神谷参考人  加地先生がお話しになったとおりで、特別に追加点はありませんが、今の1歳未満に つきましては、私どももこれと並行して同じようなことを三重県でやっておりまして、 これは140人くらいのデータですけれども、実際に採血して抗体を測ってみますと、や はり1歳未満については現在の0.1ccで打つ限りにおいては、1回目も2回目もほとん ど有意差がないというか上がりません。ですから、このデータで全体で示されているよ うな1歳未満のところは、やはり有効性が非常にばらつくということには間違いないと いふうに考えております。  以上です。 ○加藤座長  ありがとうございます。  討論はまた後ほどまとめていたしますが、このところで御質問を1〜2お受けいたし ますけれども、委員の方または参考人の方でも結構でございますが、御質問等ございま したらどうぞ。  このスタディの場合には指標、要するにインフルエンザに罹患した者としてカウント したものは、あくまでも発熱が基準であって、インフルエンザ・ライクということでし て、すなわちキットを用いて診断するとか、またはウイルスの同定をするとかそういう ことまでには踏み込んでいないというふうに考えてよろしゅうございますか。 ○加地参考人  そこのところが最後の幾つかの表で出てくるところなんですが、私どもの試験では、 そういう具合で臨床的に発熱というものをインフルエンザ最流行期の期間を設定しまし た上で取り上げております。ただ、これを例えば、診断キットを使ったらどうだとか、 ウイルスの分離と血清診断を加えたらどうかというのは、解釈の点で難しい問題があり ます。全員にそれがやれるかどうかということもありますし、全国数十箇所でやってお りますので、一部分だけそういうものをやっても比較にはなりませんので、全体を一定 の基準で患者さんをInfluenza like illnessということで取り上げないと、きちんと したデータは出ないということであります。何か廣田先生からあると思いますが。 ○加藤座長  一定の流行していると思われる期間を定めておいて、その中で有熱者がいるかどうか ということで、Influenza like illnessであるかどうかということを調べたというこ とでよろしゅうございますか。 ○加地委員  そうです。何か廣田先生。 ○廣田委員  これは世界じゅうで昔からずっと議論されるところでございます。一番大事なのは、 対象者の全員を均等に観察するということです。区別しないといけないのは、私もプレ ゼンテーションでちょっと触れますけれども、病原診断あるいは血清診断をつけるとき に、本当にエントリーした対象者全員についてそれを調べているかということが一番大 事でございます。よく病原診断をつけている、あるいは血清診断をやっていると出てく るのが、たくさん何千人とエントリーして、その中で受診してきた人だけを調べている というのが多いんですね。これは受診行動というのがその前に絡んできますので、幾ら 検査診断をつけたとしても、その集団の代表性はないと、これは信頼性が非常に低い。 一方、例えば、発熱したとき全員がすべて病原診断をしておれば、これは満点というこ とでございます。だから、検査診断をつけたというのは2種類ございまして、1つは、 ほとんどが受診患者だけしているというのがありますので、これは区別して信頼性を判 断しなければいけないと思います。 ○加藤座長  ありがとうございました。  それから、もう一点は、コントロールを大体同じくらい千数十人置いておりますけれ ども、対象者はどのような選び方をされたか教えていただけますか。 ○加地参考人  これは、ワクチンを接種希望して接種いたしました子どもさんの次に来られた方をコ ントロールということでとっています。 ○加藤座長  では、順繰りということで考えてよろしいですね。各施設とも共通。 ○加地参考人  はい、そうです。 ○加藤座長  ありがとうございます。  そうすると、また後で討論があると思いますけれども、一応このようなスタディでや ったところ、リラティブリスクとしては0.6〜0.8でありまして、有効性から見ると大体 20〜40%であろうと。ただし、その中には発熱だけで見ておりますので、他疾患で発熱 をしてきたものも入っている可能性があるので、加地班の結果といたしましては、最低 限度という表現が恐らくつくかと思いますが、20〜40%の効果があったと思われるとい う結論であると理解してよろしゅうございましょうか。ただし、1歳未満のものについ ては評価できないということですね。  以下、先に進めてよろしゅうございますか。ありがとうございます。  それでは、引き続きまして、熊谷先生にお願いいたします。熊谷先生は小児科の開業 医といたしまして診療に従事されるとともに、感染症や予防接種の研究も積極的に行っ ておられます。本日は、乳幼児にインフルエンザを接種した場合の免疫反応についての 研究報告をお願いしたいと存じますので、熊谷先生よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○熊谷参考人  熊谷でございます。私は小児科の開業医でございますので、1人でこの仕事ができる わけではございませんので、多数の協力者がいました。奥野先生にはHI抗体を測って いただきましたし、北里研究所の中山先生には抗原の供給を受けました。それから、私 がやりますリンパ球の刺激試験は放射性アイソトープを使いますので、それはこちらの 道立衛生研究所の共同研究者に依存いたしました。  この研究を始めますバックグラウンドを少し御説明いたします。既に古いデータです が、パブリケーションされているものの中に、年齢が下がるにつれてインフルエンザの 不活化HIワクチンに対して、低い抗体価しか誘導されない。特に、月齢6.5〜36か月 の児にその傾向が強いという発表が古くされております。  それから、インフルエンザに対する基礎免疫のない児において、不活化HIワクチン が非常に弱い免疫応答しか誘導していないという問題は未解決のままであるという総説 を、このハイルマン先生という方がVaccine誌に2002年に書いておられます。  それから、もう一つは、乳児の免疫の問題ですが、乳児は抗原提示と免疫学的記憶に 関与するT helper cellsの機能に欠陥があることが何本かの論文で指摘されており ますが、この方の論文を代表してここに挙げました。  リサーチ・クエスチョンですが、現行のinfluenza HA split vaccineは乳幼児に priming、すなわち一時免疫応答または基礎免疫を付与するか。その基礎免疫というの は基本的なspecific helper T cellの誘導でありますが、かつ十分な抗体反応を付 与し得るのかということが問題になります。  それから、現行のinfluenza HA split vaccineによって乳幼児に付与された免疫 はどのような性質を持っているのかということで、細胞性免疫、これはリンパ球の刺激 試験という非常にプリミティブな方法ですが、乳児を対象としましたので、検体量に制 限がありますので、そういう全血培養法を用いました。それから、抗体反応は従来から やられているHI抗体を用いました。  それから、現行のHA split vaccineは乳幼児に本当に接種するインフルエンザワク チンとして最適であるのかという議論があると思います。すなわち、一時免疫応答誘導 ワクチンとしての資格はどうなのかということになると思います。  01/02年及び02/03年シーズンに、それぞれ月齢6〜31か月、ここでは6〜31か月、 すなわち0歳児及び2歳までの子ども、あるいは31か月までの子どもをそれぞれ22名、 37名エンロールいたしまして、このシーズンはワクチン接種前及び2回接種後から3週 間後に採血しました。つまり、2ポイントの検討であります。  このシーズンは、ワクチン接種前及びその4週間後、つまり2回接種当日及び2回接 種後から4週後に合計3回採血を行いました。  このほかに、実はこの01/02シーズン前のシーズンに、私の家族、私を含めましてワ クチンをしまして、毎週2か月にわたって9回採血して、抗体応答とリンパ球の刺激反 応を行いましたので、そのデータもお示しします。  したがって、私が今日申し上げるデータは、もともと言いますと、そこにお座りにな っておられる神谷先生からインフルエンザをやれと言われまして、99年に基礎実験をす るために、まず私の家族をやったわけです。  次のデータですが、方法。ワクチン接種量は従来どおり乳児は0.1cc、つまりHAに して3μgですね。それから、幼児は0.2ccを使用しました。ヒトO型血球を使用したH I抗体価を測定いたしました。抗原は、その年のワクチン株のインフルエンザウイルス です。  ウイルス抗原特異的細胞性免疫能検査は、先ほどから申し上げておりますように、イ ンフルエンザウイルス特異的リンパ球増殖反応試験を行いました。抗原は、ホルマリン で不活化しましたウイルスビリオンです。それから、Whole Blood Microculture  Assayという、一人一人の検体量が0.5ccで済むという検査方法を用いました。  これは私です、これはうちの家内なんですが、このバーがHI抗体を表します。それ から、このサークルがそれぞれのリンパ球の刺激試験の結果を表します。これは、後ほ ども出てきますが、ばらばらに見えるんですが、まず第一に、HI抗体はよく言われて おりますように、あらかじめ高ければその後booster効果はほとんど出ません。2回や りますと、その後は全然フラットで動きません。それは、例えばこういうふうに低けれ ばboosterで上がりますが、2回やってもその後更に持ち上がることはありませんでし た。ただし、これは文献上10倍ぐらいのウイルスを用いますと、booster効果が観察さ れるそうです。  それから、リンパ球の刺激試験ですが、比較的低いとこういうように上がるんです ね。その後下がってくる。うんと高いと、むしろ多分リンパ球のリディストリビューシ ョンと言いまして、これは末梢血の中にあるリンパ球の活性を見ているわけで、人間の 体の中にある全部のリンパ球の活性を示しているわけではありませんので、多分、抗原 が体に刺激されますと、リンパ球のリディストリビューション’再配置が行われると思 いますので、一時下がるんですね。10日ぐらいからピークに上がってくるという反応を 示します。  2回目以降は、免疫のある人に関してはリンパ球の反応もバラバラです。上がる人も いれば下がる人もいるということで、これは私の3人子どもですけれども、小遣いをや りまして9回採血しました。やはり同じように、高ければHI抗体は上がらないんです ね。それ以上boosterは掛かりません。  リンパ球の刺激試験に関しては、こういうふうに低いのは上がってきます。これは一 番末の子なんですが、上がってきて下がってくるような非常に理解に苦しむような反応 パターンを示すこともありました。これはすべて末梢血を使用したということによりま すので、雑誌に発表しますときにも少し議論になったんですが、検査方法の安定性とし ては非常に安定したカーブを示しておりますので、恐らく真実を示していると思いま す。  これが家族で検索して、本当はどの時点で採血するかというのを3ポイントぐらい決 めたかったんですが、こういうふうにばらつくものですから、これは01/02シーズンの 前と、2つ目は、2回目のワクチンをしてから更に3週間後のデータです。2ポイント でしか比較しませんでしたので、非常に単純に上がっているではないかというふうに見 えます。ただし、これはHIですが、40倍のところにこういうふうに防御効果のライン がありますので、やはりこれは12か月以上、これは乳児ですね、1歳未満児。そして、 少し下がるように見えます。統計学的にはH3とBで差が出ました。  これは、同じシーズンの前後のリンパ球の刺激試験です。これは2ポイントしか比較 しませんので、この間に例えば高かったらこうなってこうなってとか、いろいろなこと が多分起こっていると思うんですが、前後しか見られませんので、こういう比較的単純 な推移になりました。ごらんになりましたらわかりますように、乳児は余り高くありま せんね。その後、上がったり上がらなかったりするというふうに、こういうふうに見え ますが、実は例数が少ないせいか、これは統計学的に有意差はありませんでした。  これは3ポイント比較した02/03シーズンです。縦にこれはHIをログで振ってあり ます。上の段が1歳以上の子、これが乳児です。横のサークルの数がスキャタグラムと 言いまして、例数を表しています。ですから、こんなにたくさんマイナスの人がいて、 しかしながら、1歳以上の子どもは1回やっただけでポンと上がる子が随分いると思い ます。ところが、このように乳児を見ますと、上がる子もいるんですが、それには2回 接種が必要だということが言えます。  それから、統計学的な有意差は、この40倍のところに線を引きますと一目でわかるよ うに、乳児の反応性が非常に悪いのがわかります。これを実はリニアにログじゃなくて 普通に数字を並べますと、下の方にクシャクシャクシャとなってしまって、ほとんど立 ち上がってこないように見えます。  これが3ポイントで比較しましたリンパ球の刺激試験です。先ほど来申し上げました ように、高いのが一遍下がってまた上がったりするようなことが見られます。ところ が、乳児はやはり非常にシンプルな、これはプライマリーの免疫応答を見たんだという 感じなんですね。刺激しますと上がってきます。複雑な形は示しません。これは実は統 計学的に有意差が出ました。幼児の方がより高い反応を示したということです。  これは、リンパ球の活性と抗体反応の関係を見たんですが、これは一列で示しました が、実は余り強い相関はありません。それはなぜかと申しますと、恐らくスペキュレー ションですが、血清抗体というものと非常にダイナミックに変動するリンパ球の反応 を、ある1ポイントで見ただけでは、こういう関係はきれいに出てこないんじゃないか なということを考えております。これは論文にも記載しました。  これは先ほど来申し上げております統計学的な検定を行った結果です。これは1シー ズン目のH3とBに有意差があったということです。これはHIです。  それから、リンパ球の刺激試験は差がありませんでした。  それから、02/03年のHIは、12か月未満と12か月以上の子どもで統計学的に非常に 強い有意差が出ました。  これは、リンパ球の刺激試験で、やはりこのように有意差が観察されました。  結果ですが、乳児・幼児間でHI抗体価、特異的リンパ球活性上昇に有意差を認め た。乳児では2回接種後ようやく抗体価が上昇する例が見られた。年長児のHI抗体 価、リンパ球刺激試験の経時的推移は、症例により非常にばらついたんですが、場合に よってはpreよりpostの値が低い例が見られました。そして、時に有意なアソシエーシ ョンを認めました。  このデータの問題点ですが、まず、小さ過ぎるサンプルサイズ、つまり症例が22例と 37例という非常に小さいサンプルでのスタディですので、しかし、これは技術的に100 人、200人をやることはできないわけですね。ですから、これぐらいが大体マキシマム かなということで、少なくともリンパ球の刺激試験ではなくてHI抗体は測定が比較的 簡単ですので、このスタディをもう少し先に進めようとするならば、多施設共同研究の 大規模検討が必要であると思いますが、廣田先生が一昨年、加地先生が発表されたデー タをワクチン学会に出されましたし、それから、私どものデータ、それから、私も参加 したんですが、外来小児科学会のワクチン検討会で出した、やはりそれはウイルス分離 に基づくワクチンの効果を見たスタディ、それから、まだ未発表ですが、山口県の鈴木 英太郎先生という方がやはり乳幼児のワクチンの効果を検討されていまして、ワクチン 接種歴よりも年齢、つまり罹患歴の方がずっとその後の患者さんの症状の重症度に大き な影響があるということで、総体的にワクチンの寄与が少ないというスタディをしてお られますので、まず大体結論が出ているのではないかなというふうに私は思っておりま す。  それから、次に、これはなぜ12か月未満児のインフルエンザワクチンに対する免疫応 答が不十分であるのかということで、原因としては、先ほど最初の説明のときに申し上 げましたようなホスト、つまり乳児の免疫獲得能にそもそも問題があるのではなかろう かというこれはデータがあります。  それから、今度ワクチン接種量の問題ですが、これも古いデータなんですけれども、 priming、すなわち一時免疫応答を誘導するためには数十μgHA、したがって、これは約 10倍が必要であるということが、既に1970年からこの時点で発表されております。  それから、香港の1968年の誰にとっても初感染だった流行ですが、そのときに流行を 阻止するためには、通常量の10倍のワクチン接種量が必要だったということが発表され ております。  こういう研究結果から、あるいはほかの文献的な検索から、現行のワクチン接種方法 のままでよいかという疑問が出てくるわけです。アメリカでは既に実用化されているよ うな経鼻生ワクチンであるとか、それから、まだ非常に実験的な段階ではありましょう けれども、経鼻の不活化ワクチンを大量に接種するというようなこととか、あるいはコ ンビネーションを使う。私としましては、1歳以上の子、つまり罹患歴のある子に boosterワクチンとしてのHAワクチンは効果があろうかと思いますが、1歳未満児の子 にプライマリーの免疫をつけるという効果は非常に不十分ではないかというのが結論で あります。  以上です。 ○加藤座長  ありがとうございました。熊谷先生からは、乳幼児についての御研究の御発表をいた だきました。何か御質問・御討議がございましたら、どうぞ。 ○神谷参考人  熊谷先生、今の1歳以下のところですけれども、抗原量をもし増やしたら、今日本は 0.1ですが、アメリカは0.25でやっていますよね。その抗原量を増やしたら増える可能 性というのはいかがでしょうか。 ○熊谷参考人  私はそのデータを持ち合わせておりませんが、既に文献的にprimingを起こすために は2倍、3倍では全然足らんというようなデータが出ておりますので、私の個人的な見 解としましては、ちょっと悲観的だろうと思います。私はずっとそう思っておりました ら、菅谷先生から昨年の小児感染症学会のときに、0.2に増やすだけで少しいいような データが出ていますよということを伺いましたので、私がカバーしていない文献とかあ るいは観察がこの世の中にあるのかもしれません。 ○加藤座長  ほかにいかがでしょうか。  先生は、1歳未満であってもリンパ球刺激には反応したんですか。 ○熊谷参考人  反応する例もありました。ですから、HIよりは恐らく反応性がいいと思います。 ○加藤座長  そのときはリンパ球刺激の抗原量は、1歳未満と以上で同じですか。 ○熊谷参考人  in vitroのアッセイ系の抗原量ですか、一緒です。それは、ドウズ・リスポンス・ スタディをしまして、どこが至適かということが文献上も出ていますし、私自身もやり ましたので、それはユニバーサルに恐らくその量がいいのだと思います。 ○加藤座長  ほかにいかがでしょう。  そうすると、先生の御経験、研究からいきますと、どうも1歳未満のものについて現 行のワクチン接種方法でいくと、primingとしてはどうも有効ではなさそうであると。 先生の言う乳児というのは1歳未満と考えてよろしいですね。しかし、加齢と同時にそ れは自然感染をしているか、していないかはまた別に置いておいて、加齢されたものに 関しては、場合によってはprimingされていた可能性があって、そのものに対するイン フルエンザのワクチネーションに関しては、効果がどうもありそうであるというまとめ でよろしゅうございますか。  ということですが、いかがでしょうか。 ○廣田委員  参考なんですけれども、一昨年、HobermanがJAMAに論文を出しています。6〜24か月 の子ども対象で66人について抗体応答を見ているんですけれども、ストレインによって 違いますが、88.6%と96.8%という非常にいい抗体応答を報告しているんですね。これ は、0.25mlを2回打っております。やはり神谷先生がおっしゃったように、投与量とい うのは影響するのではないかと思うんですけれども。 ○加藤座長  ありがとうございました。  ほかに熊谷先生の御発表に御質問ございませんか。よろしいでしょうか。  それでは、熊谷先生、どうもありがとうございました。続きまして、森島先生から御 発表いただきますが、森島先生は厚生労働省の科学研究、インフルエンザ脳症研究班の 主任研究者といたしまして、インフルエンザワクチンの脳症予防効果についてお話をい ただきたいと存じます。  では、森島先生、よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○森島参考人  初めまして。私、岡山大学の小児科の森島と申します。  インフルエンザ脳症という病気は非常に重い病気で、社会的にも大きな問題となって います。このワクチンが脳症を果たして予防できるかどうかということも大事な課題で あると思っています。私たちの研究の中で一部その検討をさせていただいたので、その 御報告をしたいと思います。  その前に、インフルエンザ脳症というのはどういう病気であるかということを御紹介 したいと思います。  インフルエンザ脳症はインフルエンザの感染が確認されて、急激に進行する脳障害で あります。ただ、インフルエンザに伴う軽い熱性けいれんとか、うわ言を言うとか、熱 せん妄といったものは除くということにされていて、この定義は今、世界的に使われて いる診断基準であります。  今「脳症」と表現しておりますけれども、ウイルスの脳への感染は認められません。 それから、リンパ球などの炎症細胞の集積もないということから、脳炎ではなくて脳症 と言うべき病態だろうということで、最近は「インフルエンザ脳症」に統一していま す。  このインフルエンザ脳症というのは、30%という高い死亡率。年間の発症数が100例 から400〜500例ぐらいあるということで、小児の三次救急上大きな問題となっていま す。  非常に見極めが難しいものとしては、例えば、高熱を起こしながらけいれんを起こし てくる、それから、熱せん妄を起こすという子は、先ほどお話ししたようにかなりあり ます。ですから、インフルエンザだけの初期救急から二次救急、それから、脳症として の三次まであっという間に数時間のうちに進行してしまうということから、脳症の診断 あるいはその対応策というのは、小児救急の上で大きな問題となっているといます。  この病気を特徴付けるのは、一番大きな点は重い予後にあります。死亡率は30%、そ れから、25%以上の子どもが重い後遺症を残して、半数以下の子どもが無事治るという ことになっております。  この死亡数については、平成10年、この年の人口動態統計、1〜4歳の死亡診断書ベ ースの人口動態統計から見ましても、このインフルエンザ、ほとんどが脳症ですが、と いうのは小さな子どもたちの第6位の死因に挙げられています。これは死亡診断書ベー スの調査でありますので、実際私たちが把握した数というのはこの倍、つまり先天性心 疾患で亡くなる子どもとほとんど同じぐらいの子どもが、このシーズンで亡くなってい るということがわかりました。  この病気は非常に急に進行する病気です。「0」と書きましたのは、熱が出てから神 経症状が出てくるまでの日数ということで、発熱のその日に起きてしまうというケース が、このスライドで示しましたように一番左側に出てきます。それから、翌日に出てく るケースもあります。合わせてほとんど8割の子どもが、発熱のその当日かその翌日に 発症するということが判りました。  また、脳症は非常に小さな子どもたちの病気でありまして、1、2、3歳というのが ピークであります。6歳以下の子どもが全体の80%を占めます。  我々の調査で既に報告しておりますけれども、インフルエンザの型の中でAの香港型 が非常に脳症を起こしやすいということがわかってきました。B型とかソ連型の約3〜 5倍起こしやすいということがわかっています。A香港が子どもたちの間で流行した 年、93年、95年、98年、99年、2003年には、この脳症の発症数が増加していました。た だし、一旦発症するとタイプでは差がなくて、どの型でも先ほど言いましたような重篤 な予後になるということになります。  発症数についてのグラフを示します。いわゆる行政の方から私たちの方に報告いただ いた症例数です。この折れ線グラフは死亡率を示しています。当初30%を超える死亡率 でありました。流行の小さかった去年は103人ということになっています。治療法を提 案させていただいたり、解熱剤に関するウォーニングが出たというのがちょうどこの時 になりますので、それ以降死亡率が併せて少し低下傾向にあるというのが最近の現状で す。  症状については、脳症ですから100%意識障害があります。それから、80%の子ども がけいれんを起こし、熱せん妄と呼ばれる異常な言動は、20%に見られるということに なっております。  インフルエンザ脳症の早期診断ではけいれんと熱せん妄がどういうふうに出てきたと きに、脳症を考えるかについて、表のようにとりあえずのウォーニングはさせていただ きますけれども、現在、研究班で診療ガイドラインをつくろうということで、詳細なガ イドラインを作る予定です。  これは脳症の、一部急性の壊死が起きている脳CT像であります。脳の中にもウイル スはいません。それから、急性壊死性脳症の視床と呼ばれる部分黒いところですけれど も、血流障害による壊死が起きています。ここの部位にも一切ウイルスはいません。  これが脳症の病理像ですけれども、血管のところから丸い水滴のような血漿成分が脳 の中に漏出して、非常にひどい脳浮腫が起こしています。つまり、血管内皮が壊れて、 血漿成分が脳の中に漏れていく病態です。ただし、リンパ球などの集積もなく脳炎では ありません。  私たちは、感染に伴って脳の中でウイルスは増えないが、炎症性サイトカインの嵐が 起きるということ、血管内皮が障害を受け、これらが互いに連鎖しながら多臓器不全を 起こすということを報告し、研究班の中ではこれに関する多数の論文を発表していま す。  この中の炎症性サイトカインというのは、ここに挙げたIL−6、TNF−α、(IL−1β )をいいます。同時に血管内皮の障害のマーカー(Eセレクチンなど)が非常に高くな っています。  では、今日の主題であります脳症に対して予防接種の効果はどうなのかという点につ いて述べます。このときに、慎重に評価しなくてはいけないのは、次の3つのステップ で考えなくてはいけないということです。  まず、最初、つまりインフルエンザ自体を予防接種で予防できるか。インフルエンザ にならないから、当然インフルエンザ脳症にはならない。先ほどの定義を考えていただ いてもおわかりだろうと思います。この1番に関しては、先ほど神谷先生、加地先生の 方から大体24〜25%の子どもさんは、もしワクチンを打っていれば有意に脳症にならな くて済んだであろうということを示されました。  2番目は、インフルエンザは発病してしまうが。脳症にならなくて済むかどうか。3 番目は、ワクチンを打っても脳症になってしまうが、死亡・後遺症を防ぐかどうか、こ れは私たちの研究班が調査する分野になってまいります。  この図は、2年前とそれから昨年の中で、脳症になった子どもたちの中のワクチン接 種率を調べたものです。2年前は14%の子どもさんが2回接種をしていました。去年は 脳症になった子どもさんの中で24%の子どもが接種を2回していた。つまり、ここから 言えるのは、ワクチンで確実に脳症を防げるわけではないということになると思いま す。  過去の脳症患者さんのワクチン接種率の推移はどうであったか。先ほどお示ししまし た24%、14%が去年と一昨年のデータでした。2年前は7%、その前は1.5%というこ とで、近年、脳症患者さんの中のワクチン接種率が上がってきます。これはなぜかとい いますと、最近ワクチンを打つ子どもたちが増えてきたからだということになります。 それに伴って、脳症患者さんの中でワクチンを打っている子どもたちが増えてきている ということだと思います。  先ほどの2番目の課題、つまりインフルエンザになってしまうけれども脳症を防ぐこ とができるかどうかということに関して、少し調べてみました。これは名古屋大学予防 医学の玉腰先生の研究班の中での中間報告です。3年前は7%、つまり脳症患者さんの 7%がワクチンを2回打っていた。そのときに、地域、年齢、季節、インフルエンザ型 を合わせた抗原が陽性、つまりインフルエンザが確定された、でも脳症にならなかった 子どもたちのワクチン接種率は11%でした。これはレトロスペクティブに調べたもので す。一方、昨年度はプロスペクティブに調べたものが先ほどの発症例の24%接種率と比 較して、一般のインフルエンザが診断された、抗原陽性の人の中のワクチン接種率は、 28%になりました。この2つの%の間に有意な差はありませんでした。  一方、大事な点は、ここに挙げられた脳症患者さんにおけるワクチン接種率の方が、 下に挙げられたインフルエンザが確定された脳症でない患者さんよりも低いということ です。一部に言われているように、ワクチンが脳症を起こしやすいのであれば、脳症患 者さんのワクチン接種率が高くなるということが当然起きてくるはずです。ですけれど も、そういう事実はなくてむしろ低い、有意差はないけれども低い傾向でした。  3つ目の課題。ワクチンを打っていても脳症になってしまった場合。死亡を防げるか どうかということに関して調べてみました。これは2001〜2004年、人と低い死亡率とな った年代を選びました。こちらが50人、こちらが351人になると思いますけれども、こ の中でワクチンを2回以上接種した6歳以下の子どもたちの死亡は4人、8%でした。 それから、脳症を起こしてワクチンを打っていなかった子どもたちの死亡は51人で15% でした。この8%と15%の間には有意な差はありません。ですけれども、やはり先ほど と同じように、死亡の8%と15%を比べてみると、この4年間の中で、ワクチンを打っ ていても脳症が起きた場合に、そのときの死亡率もワクチンを打っていない子どもに比 べ、ワクチンが脳症のワクチンが脳症の予後を悪くしているということはないというこ とが言えると思います。  ちなみに、最近のデータですけれども、約16%の死亡率で、29%の後遺症率で、55% の子どもさんが後遺症なく治るというのが、ここ3年間ぐらいのデータであります。  まとめますと、現時点での予防接種の脳症予防効果、研究班としての中間報告として は、一旦インフルエンザが発症すると脳症への進展を防ぐ有意な効果は認められない。 しかし、インフルエンザ自身の発病が予防できれば、それが脳症の予防につながりま す。加地先生から先ほどの24〜25%の予防効果の発表があったわけです。それから、予 防接種が脳症の発症を増加させたり、あるいは脳症が起きたときの予後を悪くするとい う結果は見られませんでした。ですから、50%近い子どもが後遺症を残しあるいは亡く なるというこの病気の予後の悪さから考えると、少しでも発病する子どもを減らしたい というのが私たちの願いであります。  ということで、このアポトーシスを抑えるガンマグロブリンとかステロイド・パル ス、シクロスポリンという治療法、こうした治療法を導入していくことによって、昨年 10%近い死亡率まで下げてくることができましたけれども、今後、更に診療のガイドラ インを作成して、早く重症例を診断して治療していこうと思っています。  それから、この病気は、発症に関与する遺伝子多型の解析が非常に大事になってきま して、脳症を起こしやすい子どもたちの体質があるんだということがはっきりしてきて います。これは、まだ60%ぐらいの解析の段階であります。それから、このガイドライ ンの中にはインフルエンザ脳症の親の会の人たちにも参加していただいて、リハビリテ ーションやグリーフィングケアについても検討を加えていく予定であります。  これが今、一緒にやっている研究班の仲間です。  以上で終わります。 ○加藤座長  どうも森島先生ありがとうございました。  森島先生の御発表につきまして、何か御質問ございますか。 ○岡部委員  予防接種の効果等とは直接の関係はないんですけれども、私もこの中に入れていただ いていまして、インフルエンザ脳症というものとライ症候群というのは非常に誤解があ るのではないかと思うんですが、ちょっと教えていただけないでしょうか。 ○森島参考人  ライ症候群というものの中に、いわゆる本来のライ症候群と、それから、臨床的ライ あるいはクリニカル・ライ症候群と呼ばれるものがあります。本来のライ症候群は教科 書にも出てきますが、これはアスピリンが関与し、インフルエンザの中ではB型が多 く、アスピリンをずっと飲み続けていくことによって、小学校ぐらいの年齢の子どもを 中心にして、発熱後3日か4日してから脳症が始まるというタイプの脳症であります。 これが本来のライ症候群です。  クリニカル・ライあるいは臨床的ライ症候群というのは、肝機能などがちょっと悪く なって、脳障害が出てくる症例が全部含まれてしまう、非常にファジーな定義になって います。  私たちの調べの中では、インフルエンザ脳症の中で5%はアンモニアが上がったりと か血糖が下がってきたりとか、非常にクリニカル・ライに近い形になります。残りの95 %はアンモニアも上がらない、むしろ高血糖である。このように、いろいろな点でライ 症候群とは異なる病態である。それは国際共同研究の中でも、CDCの人たちもその違 いをはっきり最近では認めてくれていて、私共の脳症の定義でもってアメリカにこの病 気がないかどうかということについて世界各国に呼び掛け調査が進みました。その結 果、この病気がアメリカ、オーストラリア、それから、東アジアから報告から集まって いるというのが現状です。 ○加藤座長  よろしゅうございますか。ほかにいかがでしょうか。 ○廣田委員  「脳症患児のワクチン接種歴と予後」というスライドに出てきたものですけれども、 死亡と後遺症あり、後遺症なし、経過観察中という区分が出てくるんですが、どれだけ 経過を追ったら「後遺症あり」が何パーセント、「なし」が何パーセントと言えるんで しょうか。どこまで経過を観察していますか。 ○森島参考人  私たちがアンケートを発送するのが、大体シーズンが終わってから半年以上経ったと ころです。ですから、その時点で最終的な判断がされていくと思いますけれども、中に は最初の1次調査報告だけで2次のアンケート調査にお答えがない場合もありますの で、そういった点は今後、電話調査等で調べていきたいと思っています。 ○加藤座長  ほかにいかがですか。 ○田代参考人  私も森島先生の研究班のメンバーなんですけれども、これは脳症を発症した患者さん について中身を調べたら、ワクチンを打っていた人でも発症していたということなんで す。しかし、ワクチンを打っていた人は、そもそも脳症を発症しなかった可能性もある わけですね。そういうことを考慮すれば、そもそも脳症の発症を減らしていたという可 能性もあるとは思うんですけれども、そういう考え方の妥当性について、廣田先生、何 か御意見ありますでしょうか。 ○廣田委員  真実かどうかわかりませんけれども、それは十分考えられることだろうと思います。 ○森島参考人  ちょっと補足させていただいてもいいですか。脳症予防効果の中で、やはりワクチン を打ってインフルエンザにかからなければ、当然その子たちは脳症にならないで済むと いう理解でいいだろうと思います。ですから、この予防効果というのが25%という低い 数値であっても有意の予防効果が認められているのであれば、私たちが直面している非 常に重い子どもたちの数をそれだけ減らすことができると思います。やはりワクチンと いうのは必要だろうと思われます。ただ、もっといいワクチンが欲しいということは確 かだろうと思います。 ○加地参考人  先生がおっしゃいますインフルエンザウイルスのサブタイプでH3のときの方が多い ようであるというのは、H3の流行の規模が大きいからとかそういう問題ではなくて、 ウイルス自体の感染の一つの合併症といいますか、そういうものの特性でしょうか。 ○森島参考人  いろいろウイルス学的な研究もされていますが、ウイルスが変わったから脳症を起こ しやすくなったということは言えないということがわかっています。それから、あと、 一旦発症してしまうと、予後も全く同じであるということもわかっています。ですか ら、脳症を起こしやすいもともと体質があって、それに対してAの香港型が一番子ども たちに症状が重いということがわかっていますが、いわゆる脳症の扉を強くノックして 開けてしまう力が、Aの香港型に強いんだというふうに私たちは理解しています。 ○加地参考人  そうしますと、さっきおっしゃいましたように、ライ症候群はBが多いということが ありましたね。あれはどういうように考えるんですか。 ○森島参考人  ライ症候群というのは今の理解で言うと、今ほとんど病気がアメリカの中でもなくな ってしまったので推定でしかないんですが、ある一連の先天代謝異常を持った子どもた ち、その子どもたちは非常にアスピリンに弱い子どもたちであるがインフルエンザにか かる、特にB型にかかったときに、いわゆる代謝異常が悪化し、ライ症候群を発症して しまうと考えられます。それだけのタイムラグが、つまりインフルエンザから発症まで に3〜4日、そのぐらいのタイムラグがあるのだろうと理解しています。実は今、本来 のライ症候群というのはほとんど見られないので、推定の域を脱しません。 ○加藤座長  いろいろ御意見あると思われますけれども、また後ほど総合討論でお話しさせていた だきたいと思います。いずれにいたしましても、森島先生の御発表は、インフルエンザ ワクチンは今までの御発表のとおり、ワクチンとしてはある程度、それほど強力ではな いけれども、乳幼児のインフルエンザを防御することはできるであろうと。しかし、イ ンフルエンザワクチンを接種した群の中でも24%程度においては、インフルエンザ脳症 を起こすものも出てきているということも事実である。しかし、インフルエンザワクチ ンを接種することによって脳症を引き起こすということではないと、この3つに絞って 結論付けてよろしゅうございますか。  では、そういうことで森島先生の御発表は終わらせていただきます。  では、引き続きまして、河合先生に御発表をお願いいたします。河合先生には「日本 臨床内科医会のインフルエンザワクチン多施設研究の報告」ということについてのプレ ゼンテーションをお願いいたします。河合先生は内科の開業医であられまして、診療に 従事されておりますとともに、日本臨床内科医会のインフルエンザ研究の取りまとめを されていらっしゃいます。では、先生、よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○河合参考人  河合でございます。これからお話しいたします内容につきましては、福岡県赤十字血 液センターの柏木先生に御指導をいただいてやっております。では、お話しさせていた だきます。  目的は、インフルエンザワクチンの有効性と安全性について、全国多施設における主 として外来受診者を中心として、インターネット、データベース、迅速診断キット、ウ イルス分離・ペア血清抗体等を用いて検討することであります。  そもそも2000/2001年シーズンから、最初ワクチンの有効性、これは事前登録し事後 報告するという前向き研究から始めまして、翌年には実際にインフルエンザにかかって 迅速診断をやった症例に関する検討。それから、更に、その次の年からはウイルス分離 とか血清学的な検討を加えております。  これは昨年の参加施設でございます。  最初のワクチンの有効性・安全性に関する前向き研究ですが、方法は毎年、臨床内科 医会の会報であらかじめ研究プロトコールを提示いたしまして、研究参加者を募集いた します。参加の医師には研究のID、パスワードを発行いたしまして、その参加医はイ ンターネット、データベースに直接データを入力するか、2年目からはFAXで臨床内 科医会事務局でも代行入力を始めております。  ワクチンを接種した群としていない群を12月31日までに事務局に送っていただく、あ るいは直接1月10日までにインターネットに入力していただいております。それで4月 末までに、それらの方が実際にインフルエンザ、これは迅速診断が確定された例、「F LU」とこれから訳します。それと、または症状診断、ILIに罹患した否か、それか ら、ワクチン副反応等を5月末までに報告していただきました。  なお、実際に罹患された例につきましては、日時、体温、発熱期間、治療状況、合併 症、転帰等に関する報告もしていただいております。  これはその流れですので、省略いたします。  これが入力サイトで、毎年ちょっとずつ変わっておりますが、これは今年の入力サイ トでございまして、これをWeb上でアンケート形式でポイントをします。ただ、ここ に入るためには各医療機関個別のID・パスワード、全員共通のID・パスワードと個 別のID・パスワードの二重のチェックを掛けております。  それで、実際に副反応があれば、ここに入力する。なければ、なしで終わりですけれ ども、罹患しなかったら「なし」、罹患した場合、迅速診断で確定した場合、確定して いない場合、この両者につきましては、このボタンを押しますと詳細な入力をする画面 に移行いたします。  対象でありますが、昨年までで4年経ちますけれども、ほぼ四十数施設、対象者は昨 年が1万6,000人でございました。  ワクチンインフルエンザ様疾患、これは被接種者のワクチンを接種していない方がど のようにインフルエンザ様疾患に罹患したかという発生率でありますけれども、15歳以 下、16〜64歳、65歳以上、全年齢層を見ておりまして、やはり一番流行したのが2002/ 2003年の16.2%、15歳以下であります。その次が前の年であります。  昨年は全体で見ますと、一昨年よりは低いんだけれども、その前の年とほぼ同等かと いう感じの発生率でありました。  ワクチン接種者の回数の推移でありますけれども、これは1回接種の推移でありまし て、15歳以下は21%が1回接種で、残りの80%近くが2回接種になります。逆に、高齢 者は93%が1回接種で、2回接種は7%ほどになります。  実際に、この中で迅速診断で判定されたインフルエンザに罹患した症例の数でありま す。初年度は、この年は流行自体が非常に規模が小さかったことと、まだ迅速診断その ものが余り普及していませんでしたので、2年目以降を解析したものをこれから少しお 見せしたいと思います。症例数は、このような形でA型、B型、これはA・B判定でき ないものによって陽性と判定されたものでございます。  そうしますと、最初の年は今言いましたような理由で、ちょっとインフルエンザに関 しては評価は困難でありました。症例数はこれだけしかありませんでした。ILIに関 しましては、この年はやはり発生率が低いということでnsでありましたが、2年目以 降、過去3年におきましては、打たないよりも打った方が有意に発生率が低いという結 果が出ております。  これは、この過去3年間におきまして被接種者を黄色、接種者を赤色で10歳ごと、各 年代における発生率を見ております。例えば、2002/2003年は被接種が9歳以下では大 体16%ぐらいだったのが、接種した方は6%ぐらいでありまして、階乗で0.1%以下の 有意差がございます。このように見ていきますと、40歳代までは有意に階乗検定でも有 意差が出ております。  全年齢でも依然としても階乗で有意差が出ておりますが、ただ、これは年齢層による かなりのばらつきがございますので、一応Mantel Haenszel検定で年齢層を補正いたし まして、なおかつ過去3年とも有意差が出ております。  これは各年代別の過去3年間の有効率の推移でありますけれども、15歳以下に関しま しては、最初の年が74.6%、2年目が58.9%、昨年が44.2%と年々下がってきておりま す。16〜64歳も昨年は前2年に比べて低いという結果でした。65歳以上も同じでありま して、全年齢で言いますと、最初の2年間の60%台に対して昨年は約30%ということで ございました。  接種回数の問題でございます。これは2001/2002年、このときのILIとFLUで見 ておりますけれども、赤色が1回接種、緑色が2回接種でありまして、例えば、インフ ルエンザ罹患例で見ていただきますと、15歳以下は1回接種が54%の有効率、2回接種 が79.8%の有効率という結果でありまして、16〜64歳も同じように1回より2回接種の 方が高いということになります。65歳以上は症例が少ないので何とも言えません。  ところが、2002/2003年にはこの関係が少し崩れておりまして、余り1回接種と2回 接種で有効性に差はないという状態でありました。ちなみに、昨年も同じような検定を しておりますけれども、昨年も1回接種と2回接種と余りきれいな傾向は出ておりませ んでした。したがいまして、恐らくワクチンのマッチングがうまくいっている年は1回 接種、2回接種の関係はうまくあると思うんですけれども、昨年辺りは余り見られなか ったということでございます。  A、Bに対する有効率でありますけれども、全年齢で見ますとA型有効率が69.3%、 B型が64.8%で、若干Bが悪いという程度であります。ところが、15歳以下でB型が多 いんですけれども、15歳以下に限定いたしますと、A型有効率が68.4%に対してB型が 47.4%ですので、これはかなりB型の有効率が低かったということになります。  これは、先ほどの検討をもっと細かい年代で見ております。0〜1歳、2〜3歳、ず っと1歳刻みできて、15歳からは5刻みにしております。黄色いのがワクチンを打たな かった方の自然発生率であります。赤い方がワクチンの有効率であります。この緑色の ラインは発生率5%、有効率50%のラインで切ってあります。そうしますと、インフル エンザの自然発生率というのは0〜1歳は三十数パーセントなんですけれども、2歳を 超えますとかなり増えて、小児期、6歳、7歳の辺りでピークを迎えているようです。 これは、ワクチンの有効性が高かった2001/2002年と2002/2003年の2シーズンの集計 をしたものでございます。そうしますと、発生率はこの辺りでピークを打って徐々に下 がっていきます。30歳ぐらいから大体5%ラインを切っているようであります。  それに対しまして有効率は、やはり0〜1歳ではほとんど見られませんけれども、2 歳以降は大体50%ラインをクリアしておりまして、若干ぎりぎりのところもあるんです が、大体60歳までクリアしております。強いて言えば70歳ぐらいまで大体50%満足でき るだろうと。ところが、70歳を超えると、この方法では余りはっきりとした有効率は見 られない。というのは、発生例自体が非常に少ない。発生率も70歳を超えますとほとん どゼロに近いですので、有効率も出にくいということになります。  この両者のインフルエンザ発生率とワクチン有効率の関係を見たものでありまして、 横軸がインフルエンザ発生率、すべて迅速診断の確定例だけですけれども、縦軸はワク チン有効率であります。そうやってみますと、白抜きの「○」は小児でありまして、黄 色は大人なのでございますが、ちょっと逆説的な話になるんですけれども、ある程度イ ンフルエンザが流行した年は有効率が出やすいということになります。この辺りは大体 相関しております。  ところが、成人になりますと、それほど発生率が高くなくてもboosterが掛かるかど うかわかりませんけれども、かなり有効率が見られております。ところが、70歳以上に なりますと、発生率も低い。したがいまして、ワクチンの有効率というのは被接種群の 発生率と接種群の発生率の差から求めますので、当然ゼロになるということになりま す。  それから、0〜1歳は発生率は3%そこそこあるんだけれども、有効率は見られなか ったということになります。  副反応、我々の研究では臨床上問題になった副反応しか把握しておりませんので、い ずれの年も大きな問題はなかったということになります。  これが事前登録、事後報告による前向き試験ですが、今度は実際にインフルエンザに かかった方に関する検討結果を少しごらんいただきたいと思います。  これは迅速診断でA型またはB型と診断され、ワクチン接種の有無を把握できた4,874 例で、年度は2002/2003年と2003/2004年の2年間であります。症例数は、いずれも 2,000例以上であります。  これが最初の年でありまして、A型、B型、それから、実際にワクチンを打った方は ピンクのところになっております。これは発症の月でありますが、いずれの月もやはり ある程度の比率で、実際にインフルエンザワクチンを接種した方に罹患者が混じってい るということでありますが、ただ、月によって例えば、だんだん月が遅くなるにつれて それが増えたということではございません。統計的には月による変動は、ほぼございま せんでした。  それから、これは年代ごとに見たものであります。A型が黄色、B型が赤色でありま すけれども、2002年、2003年の結果でありますが、こうやって見ていきますと、9歳以 下はワクチン接種者が実際に罹患した方のうちの17.2%でありました。そこからあとは ずっと各年代10%以下で推移していきますが、60歳を越えますと24.5%、38%という辺 りで、恐らく高齢者においては、最近ワクチン接種が一般的に行われておりますので当 然こういう結果になると思うんですけれども、多かったということになります。  一昨年と昨年の結果を、これはA型の罹患例だけ見たものでございますが、実際にA 型であった人、この黄色が2002/2003年、緑色が2003/2004年でありますけれども、そ のうちのワクチンを打っていた方がピンクあるいは赤色に塗ってあるところでございま す。そうやって見ますと、9歳以下では一昨年は14.6%なのが昨年は40.1%でした。同 じように10歳代は一昨年は9.8%で、昨年が15.9%であります。このようにして統計し ていきますと、すべて年齢を補正しますとMantel Haenszel検定で0.0001以下で有意で ありまして、昨年の方が一昨年よりも罹患者におけるワクチン接種者の比率が高かった ということになります。これは当然、ワクチンを打った人自体、昨年の方が一昨年より 多いと思いますので、これだけでは余り物は言えないんですけれども、一応そういう結 果でありました。  次に、血清学的な検討の結果でありますが、これは一昨年の急性期の採血の検討371 例のデータをお出ししまして、それから、昨年と一昨年のペア血清の結果を併せて280 例ほどお見せしたいと思います。急性期は発症当日また翌日に採血しております。  一昨年のデータでありますが、これはH1N1、H3N2、B型であります。非接種が赤 色、黄色が1回接種、緑色が2回接種でありまして、これは急性期に採血された371例 において、既に非接種でも23.7%の人がこの抗体をウイルスに対して持っていたという ことになりますし、1回接種でも61.8%の方が持っていたということになります。そう やってみますと、A香港に対しては非接種でも30%の方が持っていて、1回接種が56 %、2回接種が87%の方が既に抗体を持っていたんだと。ただ、接種回数との関係は明 白でありまして、非接種よりも1回接種、1回接種よりも2回接種が高いという関係は ありました。ただ、B型に関しましては、全体にやはり獲得者が少ないということであ ります。  これは、それを各年代別に見ておりますけれども、この年、恐らくその前の年に小児 でかなりはやっておりますので、その影響もあるかもわかりませんが、ここでは余りき れいな結果は見られなかったんですが、16〜64歳におきましては、非接種よりも接種の 方が急性期に抗体を持っている方が多かったということになります。65歳以上も同じで ありました。  これは、実際に40倍以上だった人の比率でありますが、例えば16〜64歳を見ますと、 急性期で40倍以上だった方は17.9%、1回接種が41.1%、2回接種が90.9%ということ でございました。  それが一昨年なんですけれども、昨年と比較したものがこのスライドであります。そ うしてみますと、これはやはり急性期の検討なんですが、非接種で一昨年は40倍以上あ った人が22.4%だったのが、昨年は35.5%とむしろいいという結果になっております。 16〜64歳の1回接種の方も、同じように一昨年よりも昨年の方が既に40倍以上持ってい た方が多かった。しかし、実際にそういう方を見てみますと、回復期にどうだったかと いいますと、回復期の上昇率というのは一昨年が4倍以上上昇したのが79.8%だったの に対して、昨年は61.8%であったと、これは有意差がございました。同じく急性期に40 倍未満だった人だけを集めてみましても、やはり昨年の方が一昨年よりも回復期の抗体 価の上昇が悪かったという結果になります。  これは単純に回復期と急性期の抗体価を割りまして、中央値を見たものでありますけ れども、一昨年が黄色、昨年が赤色ですので、一昨年が比の中央値が20でありましたの が、昨年は4でありましたので、これで見ましても、やはり抗体の上昇率がワクチン株 に対しては昨年は一昨年より悪かったということになります。  考案でありますが、過去3年ワクチンの有効性は特に64歳以下、小児、成人と明らか でありました。ただし、有効率は昨年はそれまでの年に比べてかなり低下しておりまし て、血清学的にも間接的にではありますが、ワクチン株と有効株の不一致が示唆されま した。この結果は、02/03年以降変異株が増加し、昨年の分離株の大部分が変異株であ ったという国立感染研の報告と一致するものと思われます。  なお、本研究の対象者は主として外来通院者、健康者であり、集団生活者、病院入院 者とか施設入所者などはほとんど含まれておりませんので、この辺高齢者は問題であろ うと思っております。本研究の対象となっている高齢者では、感染機会が少なく罹患率 が低いということが、ワクチンの有効性が確認できなかった一因である可能性が考えら れます。  一般的な問題点を少し挙げたいと思いますが、インフルエンザの発生率が低い年度、 年齢層においては、計算上有効率の評価がやはり難しいだろうということになります。 恐らくこれは前の年にワクチンを打っていない人であっても、前の年に自然感染してい る可能性もありますので、その辺を厳密にやらないと、かなり難しいだろうと思ってい ます。  それから、特に高齢者では最近、公費負担によってワクチンを医療機関で接種される 方が多いですので、非接種者を探すことが非常に難しいということが言えます。  それから、もう一つは、高齢者の研究で問題になるのが、症状で発熱が余り当てにな らないということがあると思います。このことに関しましては、このスライドをごらん いただきたいんですけれども、最高体温が38℃を上回った人というのは、小児では90% を超えておりますが、高齢者ではたかだか60%前後でありまして、逆に言えば、38℃に 到達しない人の中にかなりインフルエンザがあるということですので、発熱をあえて指 標としてインフルエンザを検査しようとかいろいろやろうと思っていると、かなり落と し穴があるだろうと思っています。  我々の研究自体は、まだいろいろ問題があると認識しております。これは先ほど言い ましたように、かなり背景によって高齢者では有効性が異なる可能性がございます。も う既に特養ですとか病院入院者におきましは、高齢者のワクチンの有用性がかなり出て おりますので、我々もそれに関しては事実であろうと思っております。たまたま過去3 〜4年、高齢者での流行が少ないということが、今回の我々の結果になったということ でありますので、今回の結果をもってワクチンの有効性が高齢者では少ないということ を言うつもりは毛頭ございません。むしろ、この研究の限界だろうと思っております。 しかも、全都道府県を網羅するとか、やはりもう少しきちんとした研究が必要だろうと 思っております。  実際問題、我々もボランティアでやっておりまして、全く自分たちで献身的にやって おりますので、いろいろな面でこういうものは公的に評価する機関があると非常にいい のではないかと思っております。  結論でありますけれども、有効性・安全性につきましては、過去3年間の結果でほぼ 確認されました。しかし、有効率自体は01/02年、02/03年に比べて昨年は低下したと 思います。血清学的にも、やはり不一致の可能性が示唆されました。  ワクチンの有効率が高い年、マッチングがいい年に関して検討いたしますと、2〜60 歳あるいは70歳ぐらいまでの有効率は、ほぼ50%あるだろうと思っております。今後も う少し研究を続けたいと思っております。  以上です。ありがとうございました。 ○加藤座長  ありがとうございました。  河合先生の御発表でしたが、何か御質問等ございますか。 ○廣田委員  5月ですか、データを全員インプットする。そのときに発病状況とかあるいはいろい ろな検査結果とか入力されると思うんですけれども、発病調査、それから、検査はどう いうふうにしてやるんですか。その対象とか。 ○河合参考人  とりあえず時期でありますけれども、発病した方に関しましては、その時点で大体入 力していただいております。5月末までと言っていると忘れることがありますので。一 応、調査票をつくって紙に入力して、発病した当初になるべく入力していただいて、発 病していない人に関しては4月末まで待って入力するということになりますね。発病し た人は、なるべくその時点で入力すると。 ○廣田委員  発病した人というのは、診療所に来た人ですか。 ○河合参考人  そうですね。発病して来た人ですね。今回の対象は、最初にお話ししましたように、 なるべく診療所に常に通院していて、発病したらすぐに来ていただける人を登録してお りますので、とにかくかかったら来てくださいと。来たらすぐ検査するというスタンス でやっておりますので、そういう意味ではそうですし、もう一つ、研究2の方もそれも 迅速診断陽性、これはあらかじめ言ってはいないんですけれども、来たとき随時検査し て陽性だった人は片っ端から登録するという方法であります。 ○廣田委員  受診しなかった人については、シーズン後に何も症状はなかったですかと聞くわけで すか。 ○河合参考人  はい。そういう症状については郵送法ですとか電話ですとか、いろいろ方法で確認し ております。あるいはほかの医療機関にかかっている方もいらっしゃいますので、それ も電話で問い合わせたりしていますけれども。 ○廣田委員  そうしますと、受診者については前向き観察で、非受診者については後ろ向きに観察 しているわけですね。 ○河合参考人  そうですね。事前登録、事後報告ということで前向きと言っているんですけれども、 いろいろな見方があると思いますので。 ○廣田委員  それと、御報告を読ませていただいて、何千人をドンとエントリーしますね。最終的 に受診した人は結果がわかる。今度、受診しなかった人はシーズン後に後ろ向きに調べ る。そこで、また景気よく何百人か何千人がドンと抜けるわけですよね。 ○河合参考人  回収率は非常にいいです。ほとんど回収して把握しております。 ○廣田委員  そうですか。私はVaccine誌の方の論文を見ていまして。 ○河合参考人  そうですか。回収率は95〜96%だと思います。 ○廣田委員  わかりました。  それと、非受診者について発病状況を尋ねるときというのは、何らかのスタンダード なフォームか何か、あるいは取り決めはあるんですか。 ○河合参考人  これは、原則的に郵送法を何千人とやっていらっしゃる先生もあるんですけれども、 コストの問題、我々は全くのボランティア研究でコストがございませんので、各先生に 強制できないものですから、それぞれの先生に電話していただくなり、郵便をお願いす るということで、要は副作用があったかどうかということと、罹患したかどうかという ことについてILIに関してやっておりまして、その詳細な発病調査については実際に 医療機関に来ていただいた人でないといけないと思いますので、その辺のデータは多少 欠落、AのILIにかかったんだけれども、臨床データがとれていないということはあ ると思います。 ○廣田委員  最後に1点ですけれども、高齢者の場合亡くなる人が出ますよね。その方々の情報と いうのはどういうふうに。 ○河合参考人  これも極力追跡しておりますけれども、この研究の欠点と言えば欠点ですが、追跡漏 れが絶対ないということは言えませんので、あくまでもわかった範囲のことでお話しし ているということで御了解いただければと思います。なるべくそういうことはないよう にしておりますけれども。 ○加藤座長  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○宮崎委員  2つお伺いしたいんですけれども、先生が言われたトータルとしての50%の有効率と いうのは、発病を指標にしたということですよね。スタディの一番最初のデザインの中 で、発熱の評価ということをおっしゃっていましたけれども、かかった人が軽症化する という効果はあるのでしょうか。 ○河合参考人  それはいろいろ私も検討したりとか、あるいは各先生にやってもらったりしたんです けれども、一部の先生は軽症化効果が見られたという方もあるんですが、トータルとし て見るとはっきりした結果はまだ得ておりませんでしたので報告しませんでした。 ○宮崎委員  それから、最後から4番目のスライドで迅速診断A・B、陰性例で各発熱基準を示す 症例の割合というのがありますが、これは要するに、インフルエンザでなかった症例が どれくらい紛れ込んだかということですか。 ○河合参考人  だから、インフルエンザでなかったとは断言できないですけれども、疑陰性というこ ともあるかもわかりませんので、しかし、疑陰性は最近少ないのですので、ほとんどが 非インフルエンザのILIと言っていいと思いますけれども。インフルエンザでなかっ たインフルエンザ様疾患といいますか、インフルエンザ疾患ということで検査したんで すけれども、実際問題は調べたら迅速診断はマイナスだったということで、実際はイン フルエンザでなかったのではないかという症例がほとんどだろうと思います。 ○宮崎委員  ということは、例えば0〜6歳で38℃以上の発熱者が96〜97%というのは、本当のイ ンフルエンザは3%であって、あとの97%はそうでなかったという意味ですか。 ○河合参考人  だから、この群に関してはそんなに多くありませんけれども、症例数がここに書いて ありませんが、たまたまこうであっても、やはり熱だけでは迅速診断をやらないと区別 ができないということだと思います。ただ、これは必ずしもインフルエンザシーズンだ けではなくて全部を拾っている可能性もありますので、インフルエンザシーズンにもっ と期間を限定すれば、もう少しはっきりわかると思いますけれども、シーズンを通して やっていますので。 ○宮崎委員  ということは、事実として紛れ込みが非常に多かったと。 ○河合参考人  そうですね。要は、インフルエンザと思って検査したんだけれども、インフルエンザ ではなかったという人があるということですね。迅速診断をやってみますと。 ○宮崎委員  ありがとうございました。 ○加藤座長  ほかにいかがでしょう。  65歳の高齢者に関しては、なかなか評価しにくかったと。 ○河合参考人  我々のデザインが悪いのかもわかりません。また今後の検討課題にしたいと思います けれども。 ○加藤座長  ありがとうございます。よろしいですか。では、また後ほど討論をいただくことにい たします。ありがとうございました。  続きまして、廣田先生から御発表いただきます。廣田先生には疫学研究者の立場か ら、インフルエンザ予防接種の疫学研究のデザインの課題について説明していただくと 同時に、厚生労働省の研究「インフルエンザ予防接種のEBMに基づく政策評価に関す る研究」というテーマで、主任研究者としての研究の中間まとめを発表していただくこ とになってございます。廣田先生、よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○廣田委員  10〜20年ぐらい前に、ワクチンの有効性を過小評価するあるいは検出できないという 報告がたくさんありまして、当時は有効性はあると発表するのが命がけみたいな雰囲気 がございました。現在、ワクチン有効性を過大評価する報告が今度は逆に増えておりま して、有効性は低いと発表するのが命がけみたいな状況がございます。なぜかという と、やはり疫学の知識が十分でない中で議論がされておるというところではないかと思 いまして、ここでは疫学の方法論の概要をまずお話しして、研究結果の妥当性あるいは 因果関係、本当に関係があるかというのをどう判定するか触れまして、それから、ワク チン有効性研究の特殊性。4番目に研究事例、私が今まで世界じゅうで行われた一番す ばらしいインフルエンザワクチンの有効性の研究例ではないかと考えておるものを御紹 介して、それから、5番目、インフルエンザワクチンのEBM研究班、これは現在まで 出ている結果をお示しして、最後に研究の質というものに触れたいと思います。  まず、疫学方法論でございますけれども、疫学方法論はここにありますように、記述 疫学、横断研究、分析疫学と分かれます。2番目の横断研究は、記述疫学に含めたり、 分析疫学に含めることもございます。分析疫学は症例対照研究、コーホート研究、介入 研究とに分かれます。  1番の記述疫学からコーホート研究までが観察研究、これは人の集団の中で自然に起 こっておることを観察して関連を見出すという研究手法で、一番下の介入研究が人間を 動物実験の動物のように使って行う研究で、これは実験研究になります。  まず、記述疫学でございますけれども、これは疾病または健康障害の流行状態を把握 し、その特徴と関連性を示す他の現象を見出すことによって、その流行に関与する要因 を推定すると。ここで言う流行というのは、例えば、現在は肺がんが流行しておるとい うような感じで、決して感染症だけに限ったことではございません。これのポイントは 要因を推定する、というものであります。  最初、疾病と要因の関連で、インフルエンザ脳症の患者35人のうち、ワクチン接種を 受けていた者が1人もいない。これは15年ほど前、小児科の先生で脳症に気付かれてい ろいろおっしゃっている方がこれを言っておりました。そのときに私が言ったのは、イ ンフルエンザ脳症の患者は、子どもですね、誰一人として晩酌はしていないだろうと。 子どもに晩酌させたらインフルエンザ脳症が予防できるのかと、そういった推論は正し くないと言っていたわけでございます。  それから、インフルエンザ患者100人のうち80人がワクチン接種を受けていたと。こ れは、今もよくやりますね。  ワクチンの有効率と相対危険でございますけれども、ワクチンの有効率70%程度と言 われておりますが、これは100人打ったら70人かからないというわけではございません で、非接種群と接種群の発病率が1対0.3であるということでございます。だから、流 行規模によって非接種群が20%、接種群が6%発病する。あるいは10%、3%発病する といったことがあるわけでございまして、いずれにせよ発病率が1対0.3である。その 差0.7、これがワクチンの有効率70%でございます。非接種で発病した人の70%は接種 しておれば発病が避けられたということになります。  このように有効率というのは結構難しい概念です。ワクチン接種は発病のリスクを 0.3に下げた、これが相対危険でございまして、たばこを吸うと肺がんのリスクが10倍 になるというのと同じ概念でございます。  先ほどインフルエンザ患者100人のうち80人がワクチン接種を受けていたというとこ ろですけれども、かつて我が国で学校で集団接種していたとき、例えば、550人の児童 がいる学校では500人が接種を受ける、50人が接種を受けないといった感じです。そう すると、ワクチン有効率70%ということで、非接種群と接種群の発病率が20%と6%と しますと、500人のうちの6%、30人は発病する。50人の20%、10人が発病する。そう すると、この30人と10人、合計40人が小児科診療所に来る。そうすると、小児科の先生 は40人の患者のうち30人、75%はワクチン接種を受けていた。あのワクチンは効かない のではないかと、これがそもそもの誤解の発端でございまして、まさにこれが記述疫学 の陥りやすいところでございます。  したがって、記述疫学というのは、あくまで仮説を設定するというものでございまし て、その仮説を分析疫学で検定する、といった形で疫学研究は進められます。  2番目の横断研究ですけれども、これはある集団を1回調査することによって患者と 非患者のグループに分類し、各々の要因の保有状況を比較するというものでございま す。  1回の集団調査で、例えば、萎縮性胃炎とそうではないものに分けて、それらをヘリ コバクターピロリの感染あり・なしとで更に分けて、そこでピロリ菌感染と萎縮性胃炎 の関連を見る、というようなものがこれに該当します。ただし、急性感染症ではこの横 断研究はほとんど使われません。  次に、分析疫学ですけれども、分析疫学でまず症例・対照研究。これは、症例群と適 切に選択した対照群との間で罹患する前の要因の保有状況を比較する。この適切に対照 群を選択するというのが非常に難しいところになります。  このスタディというのは、例えば、肺がんとその対照を選んで、過去の喫煙状況を比 較するというようなことになります。最近、感染症の世界では、O157の集団感染時に患 者群と対照群を設けて、過去1週間の食事を調査して原因食品を特定すると。これがよ く使われております。急性感染症の場合と異なり、慢性疾患の場合はこれはかなり難し い手法です。  次が、コーホート研究ですけれども、これは要因を有する集団と有していない集団か らの疾病の発生頻度を比較するというものでございます。これは、喫煙者と非喫煙者の 集団を追跡して肺がんの罹患頻度を比較するというようなもので、M1分のAとM2分 のC、この比をとって相対危険、すなわち喫煙すると肺がんにかかるリスクが何倍高い かというような結論を出します。インフルエンザワクチンの場合は、ワクチン接種群と 非接種群を追跡して、罹患頻度を測定して相対危険、この場合は相対危険が0.5といっ たように1より小さくなります。そういう調査をすることになります。  最後に介入研究ですけれども、これは動物実験のように集団を要因への暴露群と非暴 露群に割りつけるというのがポイントで、各々のグループからの疾病の発生頻度を比較 する。Randomized controlled trialと言われているのがこれに該当します。  ちょっと特殊な方法として生態研究、Ecologic studyというのがございます。これ は個々の観察単位が個人ではなく、地理的・時間的集団である研究です。個人ではあり ません。これは仮説設定には有効であるが、仮説検定には不向きであるという特徴がご ざいます。  生態研究の例ですけれども、近年、「日本では学校で集団接種をしていたとき、超過 死亡が低かった」というのが発表されました。これは、一年一年の年、時間を1つの集 団と考えたEcologic studyでございまして、これは魅力的な仮説をつくったというこ とでございまして、決して検証したという位置付けではないということを理解しておか ないと大混乱します。  例えば、これは結核の死亡率の変化ですけれども、ここでBCG接種が始まる。ここ でX線間接撮影が実用化した。あと、ここでストマイ、ヒドラジッド、リファンピシン が出てきた。そうすると、日本でBCG接種を始めたけれども、死亡率は下がっていな い。BCGは効かないのかといった推論になります。抗結核薬が出る前から死亡率が下 がっていますので、BCGさえ打っておけばいいと、抗結核薬はそう必要ないというよ うな、どういう結論でも出せるということになりますので、これは注意が必要です。生 態研究、Ecologic studyというのはこういうものになります。  もう一つあるのは、前橋市の例でございますけれども、前橋市で保育所の幼児の罹患 率と接種率で、接種率が高い所でも罹患率が下がっていない、相関がない。ワクチンは 効いていないということですね。  それから、今度は逆にワクチンは効く、効くと言っている人は、小学校の接種率と発 病率がちゃんと相関すると言って、これは効くと。水掛け論になっています。今もそう いうのがあるんですけれども。  これは地理的集団を一つ一つの観察単位としたEcologic studyで、これも各々が効 かないあるいは効くという仮説をつくっているにすぎない。これは検証されたものでは ない、これは水掛け論になってしまいます。  次に、研究結果の妥当性、因果関係の判定ということであります。これは、疫学の一 番重要なところですけれども、結構概念的な問題になります。どうぞ眠らないように聞 いていただきたいと思います。  研究結果の妥当性ですが、この3つが非常に重要でございます。交絡、Confounding です。それから、誤分類、Misclassification、選択バイアス、Selection bias、この 3つをきちんと考えておく必要がございます。  まず、交絡ですけれども、例えば、喫煙と肺がんの関連を調べていると、飲酒と肺が んの関連が出てきます。これは喫煙が肺がんのリスクファクターであって、飲酒習慣と 喫煙習慣が相関する。大酒飲みはよくたばこも吸うというようなこと。それで、見掛け 上この関連が出てくるんです。これは、飲酒と肺がんの関連は喫煙による交絡の結果生 じた見掛け上の関連であると。この喫煙を交絡因子、Confounderと言います。これと同 じことをワクチンの研究のときも考える必要がございます。  例えば、アレルギーや気管支喘息を有する人というのは、本人も医師も接種を避けま す。そうしますと、アレルギーや気管支喘息の人というのは非接種群に含まれる。そう いう人というのは感染時に症状を呈しやすいということで、本当はワクチンはインフル エンザに効かないかもしれないけれども、アレルギーあるいは気管支喘息といった交絡 のために見掛け上効果を検出する、そういうことが理論上あり得るわけです。この交絡 というのは常に考えておく必要があるわけでして、その必要性を否定するということ は、Randomized controlled trialの必要性を否定するのと同様でございます。  次に、誤分類がまた非常にややこしいものでございますけれども、よく紛れ込みとい う言葉が使われますが、疫学では誤分類、Misclassificationという専門用語がござい ます。Differential MisclassificationとNondifferential Misclassificationに分 かれます。Differential Misclassificationというのは、要因に対して、例えば患者 と非患者で要因の誤分類の度合いが異なる。要するに、誤り方の度合いが異なるという ことです。例えば、子宮がんと家族性発生の関連を調べようというときに、子宮がん患 者の方が非患者よりも家族歴を回答しやすいです。より遠い家族歴まで回答します。そ うすると、このDifferential Misclassificationの結果、関連を見出すということに なります。  結果に対しても、これは要因ありとなしで疾病の誤分類の度合いが異なる。要因のあ る人とない人で疾病の誤り方の度合いが異なる。  例えば、医師が自分のクリニックで接種した場合、自分が接種した患者は同じ症状を 呈しても非インフルエンザと診断しやすい。自分が接種していない患者はインフルエン ザと診断しやすいというようなことが出てまいります。こういう発想からブランイドと いう考え方が出ているわけです。  このDifferential Misclassificationが起こると、過小評価になったり過大評価に なったりして、これは非常に厄介で、このスタディ自体が失敗だったということになり ます。  それから、Nondifferential Misclassification、これはどこにでも起こっている分 類の間違い、測定の間違いでございます。血圧を測るときも、喫煙本数を聞くときも、 体重を測るときも、全部これは真値は得られないわけでして、必ずMisclassification が起こっております。ランダムに起こる誤分類、これがNondifferential  Misclassificationです。  これは、ちょっとややこしいんですけれども、要はこのNondifferential  Misclassificationが起こると、比較群間の希釈効果で関連の度合いを過小評価すると いうことになります。ただし、例外がございまして、疾病のある人を疾病なしという 誤りはあるけれども、疾病なしの人は必ず疾病なしと判断するというNondifferential  Misclassificationが起こった場合は、関連の強さを正しく評価できる、というよう なものがあります。要は、通常のNondifferential Misclassificationの場合は、ワク チンの有効性を過小評価するということになります。  最後に、選択バイアスでございます。これは例えば、毎日2回ジョギングさせる群 と、ジョギングさせない群の糖尿病の罹患を比べようというようなとき、希望者を割り つけるとジョギング群に入る人は食事にも気をつけ、たばこも吸わない、そういう傾向 を持った人がジョギング群に入りますので、本当のジョギング効果はわからないといっ た選択バイアス、selectionが掛かります。インフルエンザワクチンの場合はどういう ことが起こるかというと、非接種者に虚弱高齢者が多く入ってきます。というのは、高 齢者施設で調査すると意思確認ができない人が多いです。意思確認できないから、接種 していないから、その人は非接種群に入る。そういった虚弱な人というのはインフルエ ンザと関連しない死亡で亡くなります。そうすると、この選択バイアスのためにワクチ ンの有効性を誤って検出するというようなことが生じます。  こういった概念的なことがありますけれども、それを踏まえて、研究の妥当性を見極 めた上で因果関係、本当にそれが関係するのかというのを判断するわけです。この判定 基準、これはIARC、国際がん研究機関の判定基準ですけれども、記述疫学ではなくて分 析疫学である。記述疫学ではだめだ。勿論Ecologic studyでもだめです。  相対危険が大、これはワクチンの場合は相対危険が1より小ということになります。 小さいほどいい。  量反応関係の存在、これは、喫煙本数が増えるほどがんになりやすい、がんのリスク が高いというようなことです。ワクチンの場合は1回接種より2回接種の方がリスクが 下がるというようなことも言えるかと思いますが、ワクチンのときは余りこれは該当し ません。  一番大事なのが4です。時、場所、方法を変えて研究を実施し、同一結果を得る。自 分たちの結果に非常に自信を持ちたがるのはわかりますけれども、これは観察研究で す。ですから、ひょっとしたら完璧なデータは得られないわけですよね。だから、時、 場所、方法を変えていろいろな研究が同じ結果を発表するという、これが非常に強い根 拠になります。  次に、交絡因子が否定される。交絡因子については先ほど言いました。  それから、陽性の偏りが否定される。これは、先ほどの意思確認ができない高齢者は 非接種群に入って、それだけで有効性を検出しやすくなる、そういった陽性の偏りが否 定される。これらをじっくりと考えて、そして、判断するということになります。  さて、ワクチン有効性研究の特殊性でございますが、日本ではインフルエンザワクチ ンの有効性で意見が分かれたわけですけれども、諸外国では大体1990年ごろまでには決 着がついたということです。ただ、世界的に意見が分かれたのは百日咳ワクチンでござ います。これは決着がついたのが1990年代の後半になります。やっと1990年代の後半に 決着がついて、有効率が80〜90%、みんなそういうふうに理解するに至ったわけですけ れども、これについては、1980年代後半から無作為化試験と非無作為化試験、この9つ の代表的なスタディがございます。観察期間は7.2か月から25.6か月、ずっと観察して います。追跡観察ですけれども、これは電話インタビューをしたり、スタディによって 異なりますが、2週間ごとに家に電話を掛けて症状を確認する。毎月掛ける例、6ない しは8週ごとに電話インタビューした、そういうスタディもあります。毎週家庭訪問を この観察期間ずっとした、あるいはこの観察期間中に5か月目、12か月目、18か月目の 間に、全員クリニックに呼び出して、その間症状を出したかを調べる、こういう前向き の観察、追跡観察をした。  それでもなかなか結果は安定しなかったわけで、WHOの専門委員会が、「発作性咳 が21日以上プラス検査室診断があるか、あるいは疫学情報、感染機会がある、地域流行 があるとかあるいは家族に患者がいる」これを満たした場合、結果指標として百日咳の 発病としようということで、やっと大体同じような結果が得られたという経緯がござい ます。  そのときの論点、これはもうワクチン研究のすべてに通じるわけですけれども、病原 診断、病原体分離ですが、免疫を有する者では分離率が低い。そうすると、接種群の発 病者で分離率が低いという、これはひょっとしたら陽性の偏りが出るかもしれない、有 効性を検出しやすい。  血清診断では、抗体応答の頭打ち、接種群の感染者では抗体応答が低い、これはイン フルエンザワクチンでは常に言われます。これも陽性の偏りですね。有効性を検出しや すい。  臨床診断、これは誤分類を生ずる。この場合は大体Nondifferential  Misclassificationと考えられますので、希釈効果によって過小評価するだろうと。  このWHOが基準として設けた「発作性咳が21日以上続くプラス検査室診断あるいは 疫学情報」ですけれども、発作性咳が21日未満でも検査室診断陽性者が多い。このよう なマイルドケースは接種者に多いというと、接種群の発病を見落としているのではない かというバイアスがずっと検討されたんですね。逆に言えば、こういうことを常に念頭 に置いてワクチン有効性の研究をしなければいかんということになります。  インフルエンザワクチン有効性研究の困難性、インフルエンザの場合はまた特殊性が ございます。  まず、疾患の特異性。時と場所によって流行形態、発生が異なる。したがって、抗体 保有者の割合や抗体保有年齢が地域によって異なる。また、異なるから時や場所によっ て流行が異なるということがあります。  それから、流行ウイルスとワクチン株が毎年変わる。研究にはある程度の流行規模が 必要ですけれども、流行規模が大きいシーズン、これは患者がたくさん出て、いい結果 が出ると喜ぶわけですが、ところが、こういうシーズンというのはドリフトが大きかっ たわけですので、ワクチン株と流行株がインパーフェクトリー・マッチドだという結果 になりやすいです。流行規模が小さいシーズンは、ドリフトが小さかった。ということ は、今度は逆にパーフェクトリー・マッチドが多い。せっかくパーフェクトリー・マッ チドのときに流行規模が小さいという皮肉なことが起こって、とにかくインフルエンザ ワクチン有効性研究というのは踏んだりけったりというような状況があります。  そこで、Randomized controlled trialが出てきます。何でRandomized controlled  trialをしないかという指摘を受けるわけですが、これは非常にきついです。ただし、 ちょっと誤解があります。臨床試験の場合は治療が目的でして対象は患者です。患者を 無作為割付して、Aという治療群とBという治療群で、その予後を見ます。これは対象 者全員が情報を提供してくれます。ところが、予防研究、Clinical epidemiologyとし て出てきますが、予防研究の場合は相手が健康人である。無作為割付して介入をする。 例えば、βカロチンとプラシーボを投与して肺がんの発生を見るということになります が、この対象者のうちの一部がその疾患に罹患します。その一部の者が増えたか減った かという情報になるわけですね、予防の場合は。これは治療の研究と違って非常に難し いです。  その上、インフルエンザワクチンの有効性研究、この疫学研究は、勿論予防研究です から、健康人対象で無作為割付して介入、接種します。その後に、ウイルス暴露とい う、これは必ず起こらないと結果が見られません。ですから、一生懸命準備して全員か ら第1回目の血清を採取していても、流行しなかったら終わりです。どうしようもあり ません。  それから、もう一つ、では、どうしたらいいかというと、健康人を無作為割付して接 種して、ここでワクチン株を弱毒化したウイルスをみんなに暴露する。そしてその結 果、発生をみる。この場合は、全員がリスクを得たわけですね。だから、ここまでして 初めて治療目的の臨床試験と同じレベルの精度のスタディができる。インフルエンザワ クチンの研究というのは、こういうふうに踏んだりけったりの上に、非常に難しい問題 がございます。  研究事例。これは、私がほぼ完璧なインフルエンザワクチンの研究だと思う、一番い いと思う研究です。これは生ワクチンです。多施設共同、無作為化、二重盲検、プラシ ーボ対照の試験でございます。  小児月齢15〜71か月、ワクチン群1,070、プラシーボ532と2対1で割り付けていま す。1回投与者と2回投与者が含まれますが、どちらも2対1で割り付けています。観 察期間は接種後から翌年4月まで。追跡方法としては親への電話インタビューを流行開 始前は2〜3週ごとに、開始後は毎週電話インタビューしています。電話インタビュー して有症状時に訪問して、ウイルス分離検体を採取する。全部で3,005検体です。この 対象者が平均2回検体採取されております。その上で、有症状プラスウイルス分離、 109人の疾病発生を確認しております。  このように、前向きにこちらから全員を等しく観察しないといけない。受診者だけを 見たら受診行動という理解しがたい、説明困難な偏りが生じますので、これは非常に危 険です。この研究では、有効率93%という結果を得ております。  それから、加地先生が御報告された研究では、はがきでやっていますよね。毎週はが きで情報を得ています。あれが大体3,000万円ぐらいの研究費で実施できる研究。偏り がない、全員をきちんと等しく観察できる研究手法です。この研究レベルまで追跡観察 すると大体2〜3億円の研究費が必要ということになります。百日咳ワクチンでもめた ときに、たしかLancet誌に発表されたものだったと思いますけれども、ワクチン有効性 の研究者はフラストレーションの塊である。自分たちがやっているのが絶対最高のスタ ディとは思っていない。しかし、最善のスタディなんだと。Misclassificationもある、 しかし、最低限偏りはない、妥当性はある、そういうスタディだと。そして、完璧なス タディをする方法も知っておる。しかし、絶対その金はつかない。もし、金をつけると ころがあっても、既に不完全ながら妥当なスタディ結果がある。だから、もうワクチン の有効性の判断はいい、というふうになってしまう、ということです。この追跡方法が 一番苦労するわけで、私も非常にフラストレーションの固まりでございます。  このスタディですけれども、無作為割付していますが、きちんとワクチン接種群とプ ラシーボ群で性、人種、年齢、母親が家庭外に職を持っておるかとか、保育園に行って おるかとか、家族で大人が何人いるか、子どもが何人いるかといった、たくさんの Potential confounder、交絡要因になるかもしれないというものの分布をきちんと調 べて、そして偏りがないということをきちんと提示しております。  これは、私が2番目にいいと思うスタディですけれども、これは多施設共同、無作為 化、二重盲検、プラシーボ対照試験で、対象は高齢者、60歳以上でございます。ワクチ ン群927、プラシーボ911、これは1対1の無作為割付でございます。これは、症状質問 票をこの流行期5か月間の中間と最後に2度送っております。郵送法でしています。決 まった質問票で郵送法ですね。回収率は1回目98%、2回目96%。  それと、家庭医受診。受診してきますね、多施設共同、ですから各クリニックに来ま す。家庭医を受診した情報、それから、血清採取。これは全員1,838人のうちの1,797 人、97%からペア血清をとっています。接種者からはトリプル血清もとっています。  よく200人で血清診断をした結果というのが報告されても、本当は最初は350人エント リーしていた。ペア血清がそろったのが200人だった。200人のデータだけ報告される。 残りの150人は本来脱落なんですね。そういうものを見抜かないとどんな結果になって いるかわからない。怖いです。  この解析は、発病率から相対危険を調べると同時に、無作為化比較試験でありなが ら、ロジスティックモデルで多変量補正をしております。ここがすばらしいところでご ざいます。当然のことながら、ワクチン群とプラシーボ群で基礎疾患、心疾患、肺疾患 とか性、年齢分布、接種歴があるか、こういった要因をきちんと接種群とプラシーボ群 で比べて偏りがないことを確認しております。  この中で割付後に脱落しているのが25人と22人います。その中で死亡はワクチン群の 方が6人、プラシーボ群が3人。ワクチン群の方が死んでいることについて正直に提示 して、なおかつこう書いています。インフルエンザ様疾患発症後の発生例はない、発症 後に起こったものではない。心筋梗塞が8例で、大動脈瘤破裂が1例ということをきち んと報告しております。  疾病定義としては血清診断、家庭医診断イ様疾患、自己報告のイ様疾患について有効 性を報告しております。このすばらしいところは、無作為化比較試験でもあるにもかか わらず、Potential confounderで補正した相対危険を提示しております。補正前と補 正後でほとんど差がない、要するに偏りがなかったということから、この補正前の相対 危険を報告しております。  これは、非無作為化試験です。特別いいとは思わないんですけれども、独特のスタデ ィです。対象はHMO、いわゆる医療保険の加入者、65歳以上の高齢者でございます。 米国では医療保険というのは、ちょうど日本の生命保険みたいに商業ベースであります ので、きちんとしたデータベースがそろっております。これは3シーズン調査していま すが、この真ん中のシーズンの例をお示しします。比較群は接種群1万5,000人、非接 種群1万1,000人です。このデータベースから、情報はすぐとれるわけです。  観察期間は、その地域での最初のウイルス分離から翌年3月まで。  追跡方法はこのデータベースです。  評価指標、データベースに外来、通院、入院の全データが入っていますから、そこで 入院を調べています。発病は結果指標に含めておりません。というのは、発病というの は外来受診ですよね。外来受診というのは、要するに受診行動という説明しがたい攪乱 因子が入るということからです。  なおかつ、商業ベースの保険ですから、受診しなかったら翌年の掛け金が減るという こともあり得ますから、そうなると、市販の薬を飲んで受診はしないというようなこと も出てくるわけです。だから、これは入院を調べています。  ここでは調整入院率、接種群と非接種群の率差です。当然のことながら非無作為化の 観察研究ですから、年齢とか性の、分布、過去1年の外来受診、冠動脈疾患、肺疾患、 過去1年間の入院、たくさんありますけれども、接種群と非接種群で大きな偏りが出て います。だから、観察研究ではこういう偏りはきちんと補正をしないといけない。  こういう要因を調整して、ここでは肺炎、インフルエンザ、すべての呼吸器疾患、う っ血性心不全、こういった入院率を千対の入院率で表わし、大体少ないところで2、多 いところで15は下げる。相対危険で言えば、0.5〜0.6ぐらいにリスクを下げる、といっ た報告をしております。  この特徴は、観察研究ですから、きちんとPotential confounderを考えて調整して おるということです。  インフルエンザワクチン有効性に関する国内研究の問題点。まず、群間の比較性で す。これは観察研究ですから、いろいろな関連する特性の分布の偏り、これをきちんと 検討する必要がある。  それから、追跡観察です。臨床研究と予防研究には違いがあります。臨床研究だった らみんな自分の管理下にあります。黙っていても患者は来ます。しかし、これは予防研 究ですから、本当にこの追跡観察が一番難しいです。それから、均等な観察をしないと いけない。受診者の発病も、非受診者の発病もちゃんと調べないといけないということ です。同じ精度で調べようとしたら、それこそ受診・非受診にかかわらず、みんなはが きで調べろというようなことまで起こるわけです。脱落、死亡もきちんと把握しないと いけない。評価指標として、先ほど申しましたような受診・非受診にかかわらず均等な 観察をして、その中で疾病定義、そこで初めてこの検査診断の意義が出てくるわけで す。均等な観察をしてこそ検査診断の意義が出てくると。  解析。どうもメーカー任せにしているのではないかというような例が多々ある。交絡 因子の調整がない。それから、交絡因子を調整しようとすると、やはり自分で解析しな がらこの要因は交絡しているのではないかというようなことに気付きながら、ステップ ・バイ・ステップで解析を進めるわけですので、メーカー任せに解析をしておると失敗 する。  それから、選択バイアス、高齢者の死亡といったようなことがきちんと考慮されてい るか。  インフルエンザワクチンのEBM研究班、この成果をざっと御紹介します。もう研究 報告書が出ておりますので。ここでは、ウイルス学、内科学、小児科学、それから、老 人医療という専門の顧問の先生に、加地先生にも入っていただいているんですけれど も、御指導いただきながら分担研究者15人と研究協力者27人で進めております。これを するに当たっては、例えば、ヘリコバクターピロリであるとか、あるいはヒューマンパ ピローマウイルスであるとか、とにかく感染症にちょっとでも絡んだ経験がある、そし て、疫学に堪能な、主にがんの疫学者を中心に研究班を構成しております。  インフルエンザ研究ですけれども、この研究班は3年間続くんですが、現在3度目の インフルエンザシーズンでございます。今日これを発表しておりますが、1週間後に班 会議がございます。そうして、2度目のシーズンの最終報告がここで出るんです。した がいまして、今日御報告できるのは1回目の初年度の成果と次年度のシーズンの成果の 一部ということになります。インフルエンザの研究班というのは、こういうハンディキ ャップを持っておりますので、御理解いただきたいと思います。  まず、前向きコーホート・スタディ・デザインでは、北海道の施設入所者を対象とし たスタディで、インフルエンザ様疾患による入院の相対危険0.02。佐賀で高齢者施設入 所の接種者のみを見たスタディですけれども、発熱37.8℃以上のインフルエンザ様疾患 の発病には、HI抗体価40倍以上の人は発病リスクが0.44に下がると。これを基に計算 すると、ワクチン有効率が31%と計算された。  後ろ向きコーホートですけれども、これは福岡で施設入所者をパイロット的に調査し たものでございます。診療録を全部くっております。そうすると、臨床的なインフルエ ンザ様疾患のリスクを0.4に下げた。この診療録から平均医療費、これは施設入所者が 外の病院にかかって入院したというものも、全部そこまで行って調べております。そう すると、合計で接種者が平均18.7点、非接種者が34.1点だったという結果があります。  岐阜で地域の高齢者、これは無作為抽出しております。これは調査票郵送。これは後 ろ向きですね、だから、シーズン後に症状を聞いています。発熱38℃以上で、男の相対 危険が1.04、女で0.7。ここでは有効性は検出しておりません。  京都でもやはり同様に、シーズン後に調査票を郵送して症状を聞く。37℃以上の相対 危険が0.96、発熱38℃では0.86、有意差は認めておりません。  このように、後ろ向きスタディで、それもシーズン後にシーズン中の発病を調査票で 聞くというのが、有効性を検出できない原因ではないかと考えております。  次に、ecologic studyをやっております。北海道で547施設に調査票を郵送していま す。入所者の接種率が高い施設では、インフルエンザ流行はしにくいという負の関連を 認めております。また、職員がインフルエンザ様疾患に罹患した施設では、施設内のイ ンフルエンザ様疾患の流行と正の関連を示して、職員の罹患があると4.5倍流行しやす いというような結果を得ております。これは生態研究ですので、関連を検証したわけで はございませんけれども、接種率と施設内流行を継続的にモニタリングするというよう な手法としては、なかなか活用の可能性がある手法と考えております。  それから、情報調査評価ということで、平成14年度、平成15年度、平成16年度で全年 齢層については130編、乳幼児では大体50編の諸外国のインフルエンザワクチン有効性 に関する研究論文の抄訳集をつくっております。これは、ホームページでも発表する予 定でおります。海外の研究結果を御理解いただきたいという趣旨でございます。  あと、適用評価もしておりますが、これは時間の都合で飛ばさせていただきます。  有効性評価で現在進行中なんですが、やはり後ろ向きには限界があるということで、 前向きコーホート・スタディ・デザインにより東京都と佐賀でやっております。東京都 が8,000人、佐賀が5,000人弱でございます。  佐賀の状況ですけれども、このようにオペレーターを4人置いて、毎日、毎日電話を 掛けっ放しです。症状は出ましたかと。こういった前向きコーホート・スタディをして おります。流行しなかったら、この苦労は全部実を結びません。  続いて、最後に研究の質です。ワクチン有効性研究論文の質の見分け方。エントリー した対象者と解析対象者が一致するか。脱落を考察しているか。ペア血清採取の場合 は、特に注意。本当は400人エントリーしたのに150人の報告しかないというのもあるん です。ペア血清がとれた人だけ発表していても、実際は半分以上が脱落しているんで す。結果を測定するために。半分以上が脱落するような前向き研究は許されるはずがな いということになります。  接種群と非接種群との特性比較の表が記されているかどうか。要は、特性比較の表が その論文にちゃんと載っているかどうかということですね。  全員を等しく観察しているか。観察しているのは受診患者だけではないか。  それから、検査診断例を誤解しないようにということがあります。  受診者だけでは受診行動の影響があります。なおかつ受診した中での、例えば検査診 断は80%しかない。その検査結果をもとにした論文は、警戒する必要がございます。  有効性を適切な尺度で提示しているか。相対危険とか有効率とか寄与危険、こういう ものでちゃんと提示しておるか。接種群と非接種群の発病率の差の検定だけではない か。差の検定だけで有意差があった、有意差があったと言われても、有効率を計算した ら98%と、ちょっと効き過ぎではないですか、というような報告があります。  それから、有効性を表す尺度が適切に調整されているか。交絡調整ですね、交絡因子 をちゃんと調整しないといけない。最近、重要なことconfounding by indication、 これは日本語では「適応による交絡」と訳しております。これはもとはといえば、例え ば、ある部位のがんの患者で手術単独群がいいか、それとも化学療法プラス放射線療法 がいいかというときに、手術できない状態の患者は全部化学療法プラス放射線療法にな るわけです。そうすると、自動的に手術群の方が予後がいい、これが適応による交絡と 言います。  最初の方に、アレルギーや気管支喘息が非接種群に入るから有効性を過大評価すると 言いましたが、現在アメリカではハイリスク者への接種が進んで、気管支喘息の人が接 種群に入っているんです。そうすると、有効性を検出できなくなっているんです。それ は、このconfounding by indicationのせいだと考察されています。現在、日本で効 いた、効いたと言っていて、全く交絡を考慮せずに効いた、効いたと言っていると、必 ずそういう状況が来ますから、そのときどう説明するか、これは重要です。  それから、最後になりますけれども、罹患率、外国の文献ではincidence rateとあ りますが、この単位は時間の逆数です。だから、罹患率とかincidence rateをパーセ ントで表しているスタディというのは、疫学の知識がない。これが一つの見分け方にな ります。  最後ですけれども、インフルエンザワクチンの有効性の問題は変わっていない。研究 方法の誤りは相変わらず続いている。Publication biasですね。かつては効かないと いう結果ばかりが報告されていましたが、最近は効く、効くという結果ばかり報告され ている。それから、それを評価できる人がいないという状況がございます。  以上でございます。 ○加藤座長  どうもありがとうございました。廣田先生からは、疫学者の立場からプレゼンテーシ ョンをしていただきました。  この際、どなたか御意見・御発言がございましたらどうぞ。 ○森島参考人  公的にインフルエンザ脳症の研究班としてのワクチン効果の限界というのは5年前か ら変わっていなくて、つまり202例の中で1人もワクチンを打っていなかったという段 階から、その当時は接種者がすごく少ないから、このワクチンが脳症を予防できるとい うことは必ずしも言えないだろうということで、私たちの研究班は公的な見解としては 述べてきていますので、先ほどのスライドとはちょっと違うということをお話ししてお きます。 ○廣田委員  わかっております。これは、ずっと昔の話ですから。 ○加藤座長  ほかによろしゅうございますか。 ○岡部委員  全くパーフェクトなスタディを行うというのは非常に難しいと思うんです。したがっ てリミテーションをちゃんと記載しておくというところが、できる範囲のことだと思い ます。すべて評価に耐え得ることができればいいけれども、パーフェクトを目指してい ると、いつまで経っても結論が出ないということがありますから、ある程度そこを考え ながらやるということも必要ではないかと思うんですが。 ○廣田委員  おっしゃるとおりだと思います。パーフェクトをどこに置くかということになるかと 思います。そうなると、例えば、本当は75%の有効性をその75%として検出するスタデ ィがパーフェクトだろうと思うんですけれども、実際はそれは不可能だから、それは60 %の場合もあるかもしれないし、80%かもしれない。スタディの結果そうかもしれな い。ただし、その得られた結果は妥当でないといけない。だから、陽性の偏りの結果、 その結果が得られておるということになれば、そのスタディは妥当性はないわけです。 そういう質をやはり大事にしておかないといけないと思います。 ○加藤座長  いずれにいたしましても、現在行われている検討会は予防接種に関する検討会でし て、予防接種の効果の評価というのは非常に難しい。疾病が流行していない場合には新 しいワクチンがたとえできたとしても、そのワクチンの効果というものを判定すること は難しいということは、先ほども廣田先生がおっしゃったとおり。逆に言いますと、イ ンフルエンザはこれからもまだはやる可能性が十分にありますので、今年に限らず、ま だまだこれからインフルエンザワクチンの評価というものが、今、岡部先生がおっしゃ ったようにパーフェクトではないにしても、それに近い評価をすることはできる可能性 は十分にあるであろうということで、非常に廣田先生のお話は難しくて御講義を承った というところにしておきたいと思いますが、今日はまだまだこれから続きますので、少 し頭を休ませて深呼吸する時間を10分程度つくりたいと思います。4時15分から再スタ ートということで、とにかく5時半までやりますので、その御覚悟でよろしくお願いい たします。  では、しばらく15分まで休憩いたします。                   (休憩) ○加藤座長  それでは、御着席をお願いいたします。  引き続きまして、田村先生からプレゼンテーションをいただきます。田村先生からは 「新しいインフルエンザワクチンの開発」をテーマといたしまして、インフルエンザの 粘膜免疫、また、経鼻型の不活化全粒子ワクチン等について話題提供をいただけると存 じます。  それでは、田村先生、よろしくお願いいたします。              (パワーポイントを使って説明) ○田村参考人  田村です。よろしくお願いいたします。  今、時間が押しているので早目にということでしたので、簡略にまいりたいと思いま す。  インフルエンザはもう説明するまでもなく、気道の上皮細胞に感染して、数日のうち に発症する急性の呼吸器感染症なんですが、ウイルスの表面にあるヘマグルチニンが感 染の引き金になって、今度はウイルスが感染細胞から出るときにノイラミダーゼがヘマ グルチニンとホストの細胞のインタラクションを切ることで遊離してまいります。ヘマ グルチニンとノイラミダーゼが非常に重要な役割をしていることになります。  御存じのように、インフルエンザA型にはソ連型とか香港型があるし、B型には一応 山形系統とかビクトリア系統という、大きく2つのグループがあるわけですが、とにか くこのグループのあるいはサブタイプの中で毎年変異が起こるために、局地的な流行や 毎年の流行があることになります。  それで、このようなウイルスが変異をしながら流行する急性の呼吸器感染症に関し て、それをコントロールするにはどういうワクチンが要るのか、どういう免疫応答が防 御上有用なのかということをきっちり考えておく必要があります。それに関して、既に 先ほどお話がありましたけれども、自然感染の方が不活化インフルエンザよりもずっと 防御能が強いんだというお話がございます。それで、我々はまず、自然感染で誘導され る免疫機構について考えておいた方が、現行のワクチンとか新しいワクチンを考えると きに重要であるというふうに当然考えます。  この図は、フィールズのビロロジーからちょっと借りてきた図なんですけれども、人 に香港型のウイルスが感染するとどういう経過で何が起こるかといいますと、まず、2 日目をピークとしてウイルスが上気道で増えます。ウイルスが増えている場合は熱が出 るんですね。その後インターフェロンが出たり、1週間目ぐらいから気道の洗浄液中に HAに対するIgA抗体とか、血清中にはIgG抗体が出てまいります。こういうことを人で 丁寧にやろうと思っても限界があります。そこで、我々はマウスでモデル実験をするこ とになりました。マウスは本来はナチュラルなホストではないんですけれども、無理や りインフルエンザをマウス用につくりまして、それを経鼻投与します。微量経鼻投与し て、余り深部に入らないようにすると、鼻腔領域でウイルスがこういうふうに増えて、 5日目くらいから免疫ができて排除されてしまいます。粘膜はつながっていますから、 下気道でもウイルスが増えるんだけれども、これも排除されてしまいます。  ところが、初めから大量のウイルスが肺深部に入るようにいたしますと、そこで大量 に増えて、このマウスは1週間目でほとんどが死んでしまいます。こっちがインフルエ ンザのモデルで、先ほど人で見たのと似たようなパターンでウイルスの推移があること を見ていただけると思います。  それで実際に粘膜上皮に限局して感染が起こるわけですが、これはマウス感染1日目 の状況です。明らかに上皮細胞に限局して、これはウイルス抗原を染色してありますか ら、増えていることがわかっていただけると思います。  それで、こういう気道の粘膜を生み出す免疫は、そもそもどこでどういうふうにつく られるのかということを、マウスでは幾らでも丁寧に問題にできます。これはマウスの 上頭部をはぎ取ったんですけれども、ここに口蓋が見えます。口蓋にカットを入れては がしますと、口蓋に一対の、いわゆる粘膜リンパ組織がとれます。これがはがした口蓋 にくっついている一対のリンパ組織なんですけれども、これはタラコ状の長い一対の組 織なんですね。この横断面で見ますと、まさしく鼻腔のちょうど床の部分に一対ござい ます。これは粘膜直下に分布しているんです。  それで、その中で実際に、感染が起こると何が起こるのか。これはウイルス量の感染 後の推移と、今言いましたリンパ組織での細胞の増減、それから、抗体産生細胞の推 移、それから、鼻の洗浄液中に分泌されてくる抗体を見たものです。これを見ていただ きますと、まず感染後気道の粘膜リンパ組織ナルトで細胞が増えて、5日目から急激に 1週間目をピークとしてIgA抗体産生細胞が出現します。IgGも出現する、IgMも低い ながら。このIgA産生と並行して、鼻の洗浄液中にIgAがこういうふうに検出されて、Ig Gはずっと遅れて、もともと分泌されない、少ないんですけれども、この1週間目とい うのがちょうどウイルス価が減っていく状況とまさしく逆の相関になっていますので、 抗体の防御上の関与が示唆されます。  ところで、先ほどのスイラドは、要するに初感染してからの経時的な変化、ウイルス 価はこうなる。それで、鼻の洗浄液中のIgA抗体がこう上がります。IgGは少ないんで すけれども。そういう状態で初感染に用いたウイルスと同じウイルス株をチャレンジし ますと、これは無理やり大量に入れてもですが、前の免疫効果が響いて、たちどころに ウイルス価が減っています。この点線の部分は、既存の抗体とチャレンジしたウイルス が複合体をつくって、気道から排除されるのを見たものです。  今度は、株が違っている場合、例えば、同じ亜型のA山形というウイルス株をあらか じめ初感染してある場合ですが、初感染ではウイルスは増えて減ってくる。ただここで は、チャレンジするウイルスと交差する抗体を見ているんです。すると、それは少な目 なんだけれども、同じ亜型であればウイルス株の増殖がやはり初感染のときより明らか に低く抑えられます。そのときに、抗原抗体複合体を検出できるんですね。  それから、今度は亜型が違う場合、それは交差する抗体が非常に少ないんだけれど も、やはりその影響が出て、ウイルス株の増殖は単独のときよりも明らかに抑えられま す。ただ、複合体のでき方も遅くまで続くんですけれども。  B型を初感染しておいて二次感染にA型を使ったりした場合には、全然交差抗体があ りません。ですから、それぞれのウイルスが単独で、何も前の免疫の影響なく増えてし まいます。これらの結果は二次感染に対する防御能として、IgA抗体とかIgG抗体が重要 だということです。  もう一つ、防御因子が大きなものとしてキラーT細胞というものがございます。これ は例えば、香港型のウイルスを初感染しますと、こういうふうに増えて減ります。それ で、二次感染に、これはソ連型です。前と亜型が違うんですが、異なる亜型の再感染で も抑えられます。そのときに何が起こっているかというと、キラーT細胞が初感染で1 週間目がピークで一過性に出現しますが、その後、二次感染に対して速やかに大量のキ ラーT細胞が出て、それが原因でこの初感染と亜型が違うウイルスの防御に効いている ということになります。ただ、丁寧に見ますと、2次感染後にキラーが大量出現するの は3日目以降なんですね。すると、やはり亜型が違うウイルスの場合には、抗体とキラ ーが効いているというふうに考えられます。  実際に本当にそんな防御因子が組織の中に分布しているのかというのをごらんいただ きます。まず、IgA産生細胞は、幽霊みたいな図がありますけれども、これがそうなん ですが、粘膜の表面直下にゴマ粒大に見えるのがIgA bearing cellなんですね。要す るに、IgAを分泌するような細胞は上皮細胞直下にこういうふうに分布するんです。そ こから分泌することになります。  キラーT細胞はどうかというと、やはりこの粘膜に、これは初感染のときのキラーの 分布なんですけれども、多少少な目。ところが、再感染したウイルスに対しては、速や かにキラーT細胞が出現します。ぶつぶつが多いと思いますが、これがキラーT細胞なん ですね。このようにキラーT細胞もIgA産生細胞も粘膜にちゃんと分布して機能してい るんだということを見ていただけたと思います。  インフルエンザウイルスの感染の防御機構としては、初感染に対して一旦罹患して回 復する場合にも、それから、再感染に対して防御が起こる場合にも、重要な防御因子と しては分泌型のIgA抗体があります。それから、血清中のIgG抗体があります。それか ら、キラーT細胞があります。キラーT細胞は感染細胞を認識して殺し、ウイルスの感 染拡大を抑制します。  この分泌型IgA抗体は、先ほど言いました粘膜リンパ組織で誘導されたIgA産生細胞 が、やがて粘膜直下に分布するようになって、ここで二量体のIgA抗体を産生します。 これが上皮細胞の組織側にあるポリIgレセプターにくっついて、エンドゾームで取り込 まれて、この中を通過して分泌されます。分泌されるときにプロナーゼ働いて、分泌成 分というのがくっついた非常に安定な構造になります。こういう積極的な機構によって 粘膜上皮上にはIgAが分泌されていることがわかっていただけると思います。  一方、IgG抗体は、血中の抗体濃度が上がると、細胞間隙を縫って粘膜上皮上に染み 出すんだというふうに理解されています。  それで、もう一つ、IgAに関して面白い防御機構がありまして、この上皮細胞という のは、先ほど言いましたように、ウイルスが増える場所でもあるんですね。そこを通過 中のIgAがウイルスのアセンブリーをブロックするという具体的な証拠があります。要 するに、IgAを介して細胞中の中和が起こる機構があります。  それで、インフルエンザの感染防御上重要な防御因子としては、このIgA抗体、それ から、血中のIgG抗体、それから、細胞障害性T細胞があるんだということなんです。  IgA抗体、IgG抗体を主に生み出すのは、ヘマグルチニンとノイラミダーゼです。これ らはほとんどキラーを誘導しません。キラー誘導にかかわるのはヌクレオプロテインで す。ウイルス内部のたんぱくです。これらが誘導する抗体は余り防御上有用な役割をし ないと考えられています。  それで、IgA抗体というのは二量体であるために、単量体の抗体よりもずっと交差反 応性が強い。IgG抗体は単量体で、特異的には働いても交差反応性は低いんですね。ヌ クレオプロテイン関してはどうかというと、これは変異の少ない安定な構造で、A型で したらどの亜型でも同じNPがキラーT細胞誘導に働きますので、A型内で全部交差し ます。  ところで、これまでの結果はマウスでの結果なんです。ヒトではどうかといいます と、HAとNAを中心にした抗体が主要な防御免疫誘導因子であって、キラーT細胞 (CTL)の役割は小さいと考えられます。もし本当にキラーT細胞(CTL)が効い ているのだったら、毎年インフルエンザがはやるはずがないということになってしまい ます。  ところで、現行のインフルエンザワクチンはといいますと、日本ではSplit product、 いわゆるエーテル処理したHAワクチンなんですが、今の防御機構をベースに考えてみ ますと、圧倒的にIgGを誘導することによって防御に対応します。先ほども言われてい ましたけれども、交差防御能は低いし、初回免疫誘導能も弱いんですね。でも、追加免 疫誘導能は高いんです。  一方、アメリカで昨年から認可されるようになった生ワクチンについて考えてみます と、これは自然感染をミミックしていますから、IgAもIgGもキラーT細胞(CTL)も 誘導されるわけです。初回のワクチンとして非常に有効だと考えられていて、しかも、 交差防御能が高いことが特徴になります。ところが、追加免疫が意外にかかりにくい。  生ワクチンは一見良いように見えますが、実際に使われているのは5〜49歳で、小児 や老人には今のところ使われていないんですね。これからどういうふうにこれが認めら れていくかということが問題だということもありまして、まだ新しいワクチンを検討す る余地はあるわけです。  幾つか新しいワクチンの試みがあります。勿論、現行の皮下注射ワクチンをアジュバ ントを入れてその免疫を強化しよう、例えば、免疫能が弱い抗原の場合には、ヘマグル チニンに対する抗体応答をもっと上げたいときにアジュバントを入れる、そういう工夫 があります。それに対して、IgAをもっと有効に使った方がいいんじゃないかということ で、経鼻投与型不活化ワクチン、我々も試みているわけですけれども、それから、表皮 免疫型不活化ワクチンというのがあります。粉にしたワクチンを皮内に入れるとか、そ のほか皆さん御存じだと思いますけれども、NAの有効性が余り問題にされていないけ れども、NAをもっと補充して現行のワクチンの有効性をもっと上げられるんじゃない かとか、幾つかございますが、だんだんに実際の応用から離れます。DNAワクチンと かペプチドワクチンというのは、やはり人間で実現するのは大変だと思います。  比較的人間でも実現性が高いという意味で、我々の仕事の紹介を少しさせていただき ます。Split vaccine、いわゆるHAワクチンにはアジュバントを入れてやらないと経 鼻投与してもIgA誘導をできないんですね。それで、我々はコレラトキシンのBサブユ ニット、これは無毒の成分なんですけれども、それにトキシンを0.1%ぐらい混ぜたも のをアジュバントとして使っています。これを例えばワクチンA/貴州、A/福岡、A /四川(これらはみんな香港型)、PR8(ソ連型)、B型、それぞれをアジュバント と共に経鼻投与します。チャンレンジウイルスにA/貴州ウイルスを用います。こうい う条件で経鼻免疫後鼻の洗浄液中の、チャレンジウィルスA/貴州と交差する抗体を調 べてみると、黒バーがIgAなんですけれども、同じ香港型のワクチン免疫マウスではIgA 抗体が明らかに出ます。A/貴州ワクチンに対してIgGも出るんですが、ほかのものに はIgGは余り出ない。  この条件で鼻の洗浄液中のウイルス価を見ますと、同じ亜型のワクチンであればウィ ルス増殖が抑制され全部効いてくれるんです。一方、皮下投与の場合はどうかといいま すと、IgGしか出ない条件ですから、ワクチン株と同じチャレンジ株にしか効かないん です。このことから経鼻投与してIgA抗体を誘導することは防御上結構いいんじゃない かというデータが得られましたので、これまで経鼻ワクチンの仕事をしてきました。  次々、ポリIgレセプターの遺伝子を機能しないようにした動物を作って、それでいろ いろなワクチンを打って、IgA不在下でワクチン免疫マウスの防御能効果を調べてみま した。これはワイルドタイプのマウスの場合なんですけれども、B型のワクチンをいろ いろ使っていますがアジュバントと共に経鼻投与後、B/茨城というウイルスをチャレ ンジして予防効果を調べます。いろいろな種類のワクチンを打っているにもかかわら ず、B/茨城とクロスするIgA抗体がこんなに出るんですね。ワクチンを免疫していな い条件では普通、これぐらいのウイルス価があるべきが、ワクチン接種条件ではこれだ け抑えられるんです。  ところで、そのIgAが気道に分泌されないようにしてしまうとどういうことになるか というと、血清中にIgAがたくさんたまります。けれども、気道上には出ない。こうい う条件で感染をしますと、交差防御が見られなくなってしまうんです。これはやはり交 差防御にIgAが効いているということになります。  それで、今度はマウスに必要最小量、これだけ免疫すれば完全な防御ができる、肺炎 も起こらないというワクチン投与量で、経鼻ワクチンを投与したマウスの気道の各部位 でのIgA抗体とIgG抗体の分布を調べてみました。結果は上気道ではIgAの比率が圧倒的 に高いことを示しています。要するに、粘膜上でIgAは分泌されるわけですから、当然 高くていいわけですが、それではIgGはというと肺胞領域に圧倒的に高いんです。濃度 も同じ傾向があります。このマウスは完全に肺炎などが抑えられている状況ですから、 これから言えることはIgGが肺の深部で非常に重要な役割をしていて、肺炎の防御に効 いているということになります。  この結果から現行のワクチンは、肺炎を起こさないような防御能があることが推察さ れます。  我々はコレラアジュバントを用いた経鼻ワクチンの仕事をずっとしてきたんですけれ ども、スイスのグループがヒトでの投与試験をしたんです。このときはアジュバントと して大腸菌易熱性毒素を使っております。コレラアジュバントとほとんど同じものなん ですけれども、彼らはII相試験をしました。彼らはサブユニットワクチンにレシチン入 れてビロゾーム化したものをワクチンに使っています。鼻の洗浄液中のIgAを見ていた だくと非常によく上がっています。それに対して、筋注したグループは低レベルなんで すね。同時に血清中のIgG抗体価も上がっています。これは筋注ほど高くはないにして も、IgAとIgGを合わせると非常にいいと。  彼らはこのワクチンをスイスで売り出しました。売り出してからいろいろ調べてみた ら、少数のヒトに顔面麻痺が出たんですね。顔面麻痺は自然発生的には1万人に3人で す。それが1万人に54人出たんです。それで彼らは臨床的に、このアジュバントは経鼻 ワクチンのアジュバントとして使えないという結論を出しまして、その余波を受けて我 々も使いにくくなっております。  それでも、今までの長い研究を通して、粘膜ワクチンは有用であると考える根拠が得 られました。ワクチンとしてsplit vaccineを使っているわけですけれども、経鼻ワク チンは気道の粘膜上に交差反応性の高いIgA抗体を誘導して、変異ウイルスの感染を阻 止できる。主として下気道にIgGを誘導して、肺炎の発症を阻止する。IgA抗体は、先ほ ど言いましたように気道の上皮細胞内をポリIgレセプターに結合して運ばれ、粘膜上に 大量に分布する。  我々はマウスを使って基礎的な実験を中心にやっておりますが、ヒトでの試験も試み ました。それでわかったことは、マウスのレベルでやった投与量をヒトにスライドする には大体2,000倍すると良いということです。ただし、これは特定のマウスBALB/cを用 いた場合です。マウスが違うと応答性が悪くて、とてもこんな関係を出せないんです ね。0.1μgでマウスのレベルで効果が見えるような経鼻投与量でしたら、ヒトでは200 μg位で使えるという相関性があると言えると思います。  コレラアジュバントを経鼻ワクチンに使えないことになりそうなので、新しいアジュ バントを探すことになりました。アジュバント探しの何が手掛かりになるかといいます と、免疫学の進歩のおかげでいろいろなものが具体的なターゲットになるようになった んです。それは、抗原提示機能を持った細胞の表面のToll−like receptorとかコレラ トキンシに関してはGanglioside GM1です。Toll−like receptorというのは10種類 もあって、外来の病原体に対するいろいろな成分に対して、刺激を受けて、抗原提示細 胞の活性が高めます。この時共存する、共存する抗原に対する特異的な免疫応答をも高 めてくれます。  コレラアジュバントをコントロールしながら、新しいアジュバント探しをしてみまし た。これらの中には、ダブルストランドのバクテリア由来のCpGモチーフを持ってい るオリゴ・デオキシヌクレオチドとか、ダブルストランドのRNAとか、そのほか勿論 サイトカインがあります。サイトカインの影響などを経鼻投与でやってみますと、みん なアジュバント効果があるんです。みんな効果があるけれども、どれがいいかを決めて いかないといけないわけですね。  一方、イスラエルのグループなんですけれども、2000年以後最低5報のレポートを出 しているんですが、アジュバントを入れないで不活化全粒子を経鼻投与するだけで、あ る程度ヒトでIgA誘導効果があるという結果をお年寄りであったり、子どもであったりい ろいろなヒトの集団を用いて出しているんです。それでは、これはマウスでも当然実現 できるはずだということで、マウスでやってみたんです。そうしましたら、確かに不活 化全ウイルスが、このときはホルマリン処理したものを使ってございますが、0.1μg入 れた状態で応答が誘導されました。その応答レベルはコレラアジュバントを使ったとき に近いんですね。アジュバントも不要でコストも安く済むし、これは経鼻ワクチンとし ていいんじゃないかと考えられます。どうしてこんなに不活性化全ウィルス粒子の免疫 原性が高いかと考えていましたら、最近論文が出ました。それは、インフルエンザウイ ルス粒子の中にあるシングルのRNAがアジュバント活性があるという論文です。従っ て、不活化粒子がアジュバント活性があって、鼻投与した時に非常に高い免疫応答を誘 導するという根拠があるわけです。安全性の問題に関しては、もうイスラエルのグルー プが5報の論文を出してくれているではないか。不活化全粒子だったら日本でも認可さ れているじゃないかと。何にもまして、ワクチンメーカーなどがアジュバントを加える ことなく低コストでつくれるではないかということが考えられます。  ところで、まだ私はマウスの実験レベルしかやっていませんが、最近、ここにおられ ます熊谷先生が実際に不活化インフルエンザ粒子をヒトに経鼻投与されているんです ね。その結果が私としては非常に楽しみなんです。その有効性の根拠の1つは、北大の 喜田先生のグループがマウスにスプリットワクチンを免疫したときよりも、全粒子不活 化ワクチンを経鼻投与したとき方が非常に広い範囲の防御を準備できるという報告に基 づいています。まだ非常にいいという結果は得られておられないようです。不活化の条 件、投与量、投与方法の工夫が、しばらく基礎的にも重要な問題として我々に課せられ ていると思います。マウスのレベルできっちりした応用可能な方法が見つかれば是非、 熊谷先生にこの後ヒトで経鼻ワクチンを実現していただきたいと思っております。  以上です。 ○加藤座長  どうもありがとうございました。  以上で、6名の先生方から一通り御報告をいただきましたので、時間が余りなくなり ましたけれども、総合の討論に入らせていただきます。非常にいろいろと話題がたくさ んあると思われますので、一応、事務局の方から簡単に論点を集約していただきまし て、そのことについて自由討論をさせていただきたいと思いますので、事務局の方から ちょっと簡単におまとめをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○小林専門官  それでは、資料8に「インフルエンザの予防接種に関する論点」というものを事務局 の方で準備をさせていただいております。行政の方の立場から先生方にお伺いしてみた いという事項を、ざっと10個ほど論点として整理させていただいております。時間の都 合もございますので、ざっとかいつまみながら御説明させていただきます。  まず、1番目が最初の審議官のあいさつでもございましたけれども、高齢者に対する 現行予防接種の効果や意義について。現行予防接種法で二類疾病として位置付けられて おりますけれども、それを法律上も再検証する必要があるということで、先生方にお伺 いしたいということでございます。この数年間、いろいろ研究が報告されてきておりま す。有効性に関する治験も蓄積されてきていると思いますけれども、現時点でどのよう な評価をするのが妥当かというのが1点でございます。  それから、2つ目に、健康成人に対する効果や意義ということなんですけれども、い ろいろなデータから考えますと、高齢者や乳幼児と比較するとHAワクチンを投与した 後の抗体応答、免疫応答が非常に良好であろうといったことで一般的には言われていま すが、海外ではそもそもハイリスクではないということで、接種の勧奨とはなっていな い。ただ、一方で、産業衛生上の観点から進めるという意見もあると聞いてございま す。  それから、3つ目が小児に対する意義や効果ということでございます。これもいろい ろな論文を見ますと、1歳未満の乳幼児では非常に免疫反応がプアーであると。年齢が 上がるにしたがって抗体反応が高くなるというような報告がございます。こういった結 論でいいのか、あるいはどのような対応を考えていくべきなのかということを御議論い ただきたいと思っております。  1番、2番、3番辺りがメインになると思いますけれども、ざっと続きを説明させて いただきますと、4つ目といたしまして、社会全体の流行阻止効果、これも昭和62年、 それから、平成5年の審議会の答申の中で、現行のワクチンを使った場合の社会防衛上 の有効性は余りないということが謳われております。その後、廣田先生の発表にもござ いましたけれども、Reichartという方の論文を根拠として、集団防止効果もある程度あ るのではないかというような議論がなされております。それについては、廣田先生の方 からEcologic studyにおいては、そもそも仮説の提示はできても、仮説の検証はでき ないという見解がございましたけれども、ほかに流行阻止効果について示唆する文献と かがあるのかどうかということを教えていただければと考えております。  それから、5番として、基礎疾患を有する者、ハイリスク群に対する一般的な接種を どう考えるのか。  それから、6番でございますけれども、ハイリスク群たる人々と日常的に接触する同 居する家族や、医療従事者、高齢者施設職員に対する接種をどう考えるのか。これはイ ンフルエンザだけではなくて、麻しんや風しん、ほかの予防接種にも関係してくる部分 ですので、今回というよりは、また日を改めて議論いただく機会があるかというふうに 考えております。  それから、7番目といたしまして、文献上はB型インフルエンザに対する効果が非常 にプアーであるというような報告もございますけれども、どうしてこのように抗体反応 がプアーなのか、どういった改善策があるのかという学問的な部分について関心を持っ ております。  それから、8番目にHI抗体価と感染防御あるいは発症防御の関係をどう評価するの か。文献上はHI抗体価64倍あるいは40倍という値をもって免疫効果が良好と言われて おりますけれども、64か40倍でも感染することがある、あるいは128倍でも感染すると いったような意見もございます。  それから、血清HI抗体価4倍の持つ意味についても、いろいろ意見が出てきている ようでございます。  それから、9番目として、最初の方でも若干議論になりましたが、接種回数や接種量 について、日本の用法・用量が欧米とは異なる部分があるということでございます。特 に、乳児の接種量について、それを増やした場合に有効性が上がるのかどうか。それか ら、接種回数につきましては、現行は日本においては2回接種が13歳未満では標準です し、13歳以上においても1回か2回という形になっておりますけれども、1回接種でも 良好ではないかというような報告も幾つか出ているように認識しております。  それから、10番目として、新ワクチンの開発の必要性ということでございますけれ ども、昭和62年の審議会の意見においても、より効果が高く安全なワクチンの開発・改 良が必要であるということが指摘されてございます。その後いろいろな研究が進められ てきたとは聞いておりますが、いまだに新ワクチンの導入には至っていない。米国で は、生ワクチンの開発が導入されているということなんですけれども、我が国でもいろ いろなワクチンの開発が進められているということでございます。  以上、今日は必ずしも全体を議論できないかもしれませんけれども、行政としても気 になっている点を論点として提示させていただきました。 ○加藤座長  ありがとうございました。  それでは、今、行政の方からこのような御質問があるということで、若干幾つかは宿 題的なものになるかと思いますけれども、座長といたしましては、まず優先順位をつけ て御意見を伺いたいと思います。  現在、定期接種で平成13年から行われております高齢者に対するインフルエンザのワ クチン接種に関して、何か自由な御意見をいただきたいと思いますが、いかがでしょう か。現在行われている高齢者を対象とする定期接種に関しての御意見を伺いたいと思い ます。  雪下先生、何か御意見ございませんか。継続がよろしいか、または何か違うことを考 えるか、いろいろな御意見があると思いますが。 ○雪下委員  高齢者65歳以上の接種の場合に、施設内でやるのと在宅でやるもの、さっき廣田先生 のお話では、やはり施設内で十分ワクチンが接種されているところでは発病率が低いと いうことがちょっと出ていたかと思うんですが、やはり接種率を上げることで、集団発 生というものを防ぐという効果はあるのかどうか。現在のところ、法的には個人の任意 で個人の防御のためにということで接種されているわけですが、私も施設を1つ持って おりますけれども、やはり前に接種率が30%、40%のときよりは、今少し上がって70% ぐらい接種されていますが、それによる発生というのが、やはり接種率が上がることで 抑制されているのかなというような感じは受けておりますが、その辺のところを教えて いただきたいと思います。 ○加藤座長  ありがとうございました。加地先生、何か御意見ございませんか。 ○加地参考人  結局、今のところは高齢者に対するワクチンの効果というのが認められてはおるわけ ですね。ですから、やはりこの点ははっきり一般の方にわかっていただきたいのは、罹 患予防という点と重症化あるいは肺炎の合併する率とか、あるいは肺炎合併による死亡 ということを分けて、その効果を高齢者の場合は見ておられると思いますので、そこの ところをはっきりと区別して有効性というものを説明して、私としては高齢者に対して はHAワクチンは接種をお勧めするという立場であります。 ○加藤座長  ありがとうございました。  内科医として岩本教授、何か。 ○岩本委員  私自身、呼吸器疾患の専門ではありませんけれども、現在行われているワクチンがや はりきちんとした形で検証されていくということが非常に大事であると思います。 ○加藤座長  ありがとうございました。  そのほかに高齢者の定期接種に関して。 ○神谷参考人  私たちも今の小児に対する有効性の研究をやるその前ですけれども、3年間にわって 高齢者に対する有効性の研究をやりました。そのデータは、今日の資料の43ページに廣 田先生がアメリカのCDCのデータをまとめていらっしゃいますが、これと非常によく 似通った値でありまして、その後、先ほど雪下先生の言われたように、各施設でその方 針に従って、厚生省の勧めもあってやってきまして、それはいろいろな要素があると思 います。環境の因子もあるから、必ずしもそれが全部本当に同じように効いているかど うかということについては、もう少し長期にわたって検討しなければいけないかもわか りませんが、私としてはデータどおりの結果が出ていると思いますので、現状のように 勧めていくということで全然問題ないのではないかと考えております。 ○加藤座長  ほかにいかがですか。 ○岡部委員  高齢者に関するインフルエンザワクチンは、かなりポピュラーになってきているわけ ですけれども、前回、前回というのはこの前の委員会においてインフルエンザワクチン を高齢者に導入するかどうかといったときに、任意性ということをどういうふうにやる かということを相当議論したと思います。あのときの委員会では、代行的な同意の表明 を認めるというような形になりましたけれども、かなり高いところからそれは反対であ るというような意見が出て、結局現行の形になっています。その後の状況というのは、 例えば雪下先生、現場におられて実際に今のままの方がいいのか、あるいは当初のよう な構想、広く院内感染予防あるいは施設感染予防ということも含めて、もう少し何か工 夫が要るのかどうかというような御意見がありましたら、お聞かせいただきたいんです けれども。 ○加藤座長  それは、先ほどの雪下先生の御質問と近いお話になると思いますが、施設内におられ る方で、しかも、今の岡部先生の御意見は多分、十分本人からのインフォームド・コン セントを得られないような方も対象とした意味でのというようなことも含めてですね。 雪下先生にですか。 ○雪下委員  これは初期から、それこそ法律に入れるときにもいろいろ法律家と議論したところで すけれども、今は「認知症」と言うのでしょうか、その人たちに対する接種というの は、一応、医療側としては保護者とかかりつけ医と本人とのあうんの呼吸、同意によっ てという、医療側としてはある程度医師側の裁量権というのをその辺で認めてもらいた いというような感じがあるわけです。例えば、法律家はそれは医療法上できないとか何 とか言いますけれども、認知症の方にそれを言われると、その人たちの診療はできない ことになるので、診療は本人と医師との契約によって行われるわけですので、その辺は やはりある程度医師の裁量権というものを認めてもらわないと何もできないかなという ことで、一応、医師会の先生方にはそういうふうに説明しております。  廣田先生に申し上げているのは、これは特養も老健施設も実際問題として認知症の老 人というのがかなりの率を示しておりまして、少ないところでも今は30%ぐらいいると いうことで、自分で納得して予防接種を受けることを意思表示できないという方々がい ると。そうなると、先ほど廣田先生に質問申し上げた接種率というものに大きく関係し てくるので、それと絡んで何とかその辺は医師の裁量権というものを認めていただかな いと、施設内でのインフルエンザの予防というのはできないかなと思っております。 ○廣田委員  雪下先生からの御質問の件でございます。何パーセント、どれだけの接種率を達成し たら流行が阻止できるかという関連は検証されておりません。よく議論が出るのは、い ろいろな施設で接種率が何パーセント、そして、発病率が何パーセント、そして、その 相関図を書くわけですね。ある人はそれでもってワクチンの有効性があると言います し、ある人は接種率が高くなれば流行も小さくなっていると、勝手にいろいろ解釈する わけですよね。逆に言えば、接種率が高いところはそれだけ接種した人が多くて、要す るに個人がプロテクトされたから流行が少ないということにもなるし、そういうわけで 検証されておりません。  先ほど申しましたのは、私どものEcologic studyでございまして、500を超す施設に 調査票を出して、その中でいろいろ回答してもらうわけですけれども、入所者の5%以 上がインフルエンザ様疾患にかかったというときを流行と判定しています。そして、そ の入所施設の接種率を答えていただいております。そうすると、接種率が上がるほど流 行が起こったという割合が少なくなるという関連を見たということですけれども、それ が因果性があるかどうかというのは検証されておりません。 ○加地参考人  それと、やはり健康成人といいますか、若い方で見られるワクチンによる予防効果に 比べて、お年寄りは多少とも劣るわけですね。ということもありますし、今、岡部先生 がおっしゃったような問題で、なかなか高齢者の場合はワクチンを接種できないことも ありましょう。ということから言えば、やはりそこに高齢者の医療施設の医療従事者だ とか、あるいは介護従事者という方がワクチンを接種するようになるべくしていただき たいということは言えると思います。 ○加藤座長  ありがとうございます。ほかにございますか。 ○岡部委員  関連してよろしいですか。ここでの討議とはちょっと外れるかもしれないんですけれ ども、結局、高齢者施設であるとか、そういう集団生活をされているところで、コモン ディジーズがはやったときに、結局健康状況の異常は出てくるわけですね。今のところ インフルエンザは、ここ数年、比較的中くらいないし低い流行にとどまっているので余 りそういう問題は起きていないですけれども、今回ノロウイルス感染事例で浮き上がっ てきたのは、コモンディジーズが流行すると、やはりどこかで犠牲者が出るということ で、何かしらそういう予防法があるということであるならば、施設内感染の流行を予防 するという意味で、今、加地先生のおっしゃったような周辺の人もきちんとやる、ある いは入居者にも何かできるようにした方がいいんじゃないかというのが、私は実際に高 齢者施設の現場をそうは見ていないのでわからないんですけれども、そういう要望が恐 らくは現場から出てくるのではないかと思うんですが。 ○加藤座長  この件に関しては特に御異論はございませんね。先ほど小林専門官からお話があった 51ページの6番というところに集約されてくることでして、医療従事者並びに高齢者施 設の職員、職員だけに限らないことになりますが、収容されている方々に対する配慮と いうことも一応検討しておく必要があるであろうということでございますね。たまたま 今年はノロウイルスで騒がれましたが、その数年前はインフルエンザと同じように話題 になって、そして、高齢者にインフルエンザが定期接種になったといういきさつがある わけでございます。  高齢者に関する定期接種に関しまして、何か御異論がある委員の方、または参考人の 方はいらっしゃいますか。 ○廣田委員  先ほど出ていた意思確認ができない人への接種ですけれども、いわゆる代諾を認める のか、あるいはその判断を医師ができるのかというのは、明瞭に分けて議論をすべきだ ろうと思います。 ○加藤座長  わかりました。そのような御意見があると。基本的には、現在の接種ができる方に対 しての異論ではないということですね。更に幅を広げた上での話ということになるかと 思います。高齢者の定期接種に関してはよろしゅうございますか。  それでは、次に、今、小林専門官からお話が出ました3番目の小児に対するワクチン の効果や意義ということについて、少し議論を進めさせていただきたいと思いますが、 岡部先生と神谷先生と宮崎先生に少しずつお話を伺いたいと思います。同じ御意見にな っても結構です。小児について、どのようにお考えになりますか、神谷先生からお願い します。 ○神谷参考人  小児科学会から一応、私たちの研究班の結果を受けてコメントを出しておりまして、 そのコメントどおりで私はいいと思っているんですが、要は、1歳未満については、こ れは接種をした数が少ないということもありますけれども、それにしても有効性はない ということ。これは今日のお話からも免疫が非常にできにくいというのが実際ですか ら、今の量で今のワクチンを打つという条件においては、1歳未満は効かないだろう と。しかし、1歳から上は、これは厳密に言うと年齢層によって上に行くほどよくなっ てくるというふうに、細かく分けるとそうなると思いますけれども、そこから上につい ては、それなりの効果がありますので、打たないよりは打った方が効くというデータが 出ている以上は、それに従ってやっていくと、そういうやり方が正しい方法だというふ うに考えます。 ○加藤座長  順番に熊谷先生、いかがでしょうか。小児に対しての先生の先ほどの御発表では1歳 未満は少し有効でないということですが、それは今、神谷先生も御同様の御意見です が、先生の御意見はいかがですか。 ○熊谷参考人  1歳未満の問題はちょっと置きまして、それ以上の小児の免疫原性という意味では、 ある程度期待はできると思います。ただ、十分かといいますと、今までの歴史上、学童 にあれだけやってもやはり流行したわけで、そうすると、満足のいくワクチンでないと いうのは確かだというふうに私は個人的に思っております。 ○加藤座長  ありがとうございました。  森島先生、いかがでしょう。 ○森島参考人  参考資料にある小児科学会の見解という中で、このワクチンが脳症を予防できるかど うかに関して触れられているわけですけれども、私たちの研究班が今日示したデータか ら、いわゆるインフルエンザワクチンを打っていてもかかってしまった場合には、脳症 への進展を必ずしも有意性をもって防ぐことはできないということ。それから、その際 に、では、発症した脳症を有意に軽減できるかどうかに関しても、死亡率ということか ら考えると、それは有意差ではないということになります。  ただし、今日のディスカッションから1〜6歳という一番好発年齢のところで、約25 %の子どもは、インフルエンザワクチンを打っていればインフルエンザにかからないで 済んだと。だから、その延長線上で25%脳症を防ぐことができるということであるなら ば、今の脳症が非常に重いということを考えると、つまり、半分の子どもが後遺症を残 すあるいは死亡するという現状から考えると、これはやはり60点のワクチンとして受け 入れていくことになるだろうというふうに考えています。 ○加藤座長  ありがとうございました。  宮崎先生、いかがですか。 ○宮崎委員  基本的には、小児科学会の見解に私も賛同した一人ですけれども、現行のインフルエ ンザワクチンというのは、ある程度効くけれども十分には効かない。そのことをわかっ た上でやる。残念ながら、子どもには毎年2回ずつ接種を続けないといけないというこ ともいろいろ考えると、なかなか定期でということを、ワクチンが平成6年に定期から 外れた以降、まだ改良されていませんので、定期接種に持ち込むにはなかなか難しいこ ともあるかなという感じを持っています。そんなところですかね。もう一段、やはり効 くワクチンであってほしいというのが正直なところでしょうか。 ○加藤座長  ありがとうございます。  竹本先生、いかがでしょうか。 ○竹本委員  有効性は25〜30%と言われていますけれども、効くとすればインフルエンザの流行時 期は、やはり今の子どもたちの受験の時期だとか、あるいは母親の就業率が高くなって いる中で、このときにやっておかなければならないということを考えると、どうしても 定期接種に持っていっていただきたいなという感じはしております。 ○加藤座長  岡部先生、いかがでしょうか。 ○岡部委員  これをまとめた小児科学会予防接種委員会委員長としての発言なんですけれども、全 くこの参考資料3どおりで、また、神谷先生あるいは宮崎先生のおっしゃったとおりで すけれども、現行のワクチンを現行の接種量でやっている限りは、その効果にはやはり 限界を認めざるを得ない。したがって、小児科学会としては定期接種として多くの人に 一斉にワクチンを勧めるというほどの効果は残念ながら認めらてれていないので、現在 の方法つまり任意接種でよいのではないか。全くの繰り返しになると思います。  ただ、それはインフルエンザという病気のインパクトの大きさから言えば、更に開発 ・工夫が必要であって、更にその面での研究が必要であろうという点が1つ。  それから、インフルエンザ脳症に関して、接種者においても発症者が出ているのでと いう疑問については、森島先生が先ほど答えてくださったとおりだと思います。仮に発 熱を下げる割合が20〜30%であり、その中に効果が見られるということであるならば、 その分だけ発症者が少なければインフルエンザ脳症を発症する人も減少するのであろう から期待ができるという意味ですね。森島先生、そこのところをもう一回明解に言って いただければ。 ○森島参考人  私が参考にした加地先生のスタディは、発熱を指標としたインフルエンザということ ですね。発熱を下げるという意味ではなくて。今お話ししたように、一旦インフルエン ザになってしまうと脳症への進展は必ずしも防げない。ただし、インフルエンザを予防 できる効果が25%と低くても有意差があれば、今の重症度を考えると、前向きに使って いくという小児科学会の方向性でいいのではないか。ただし、やはりもっと効くワクチ ンが欲しいというのが現状だと思います。 ○加藤座長  では、廣田先生。 ○廣田委員  例えば、何を指標とするかは別として、25%インフルエンザ様疾患を予防できるか ら、脳症もそれに比例して予防できるだろうというふうに推定することはできるとは思 うんですけれども、先ほど森島先生のデータで、インフルエンザ脳症の患者をケースと して、そして、インフルエンザウイルス感染症の患者をコントロールとしたケースコン トロール・スタディのデータをちょっとお示しになりましたよね。そうすると、インフ ルエンザ脳症の患者をケースとして、そして、インフルエンザに感染していない人をコ ントロールとした症例対象研究もすれば、その間のデータはある程度とれると思うんで す。やはり何らかのきちんとしたスタディと何らかのデータを基に結論を出さないと、 推定だけで動くのはちょっと難しいのではないかと思うんですけれども。 ○加藤座長  ここは非常に難しいところなので、森島先生お願いします。 ○森島参考人  1つは、脳症の患者さんというのが毎年100〜200例と決して多くないということがあ ります。  あと、もう一つは、恐らくこれはそのときに名古屋大学の予防医学の玉腰先生と十分 ディスカッションして、エリアマッチのエイジマッチ、それから、あといろいろアトラ ンダムに移動期間を組み合わせて、時期も一致させた形でコントロールをとった。その ときの対象としては、やはりインフルエンザにかかっていること。というのは、脳症も インフルエンザにかかったことが確定している子どもたちなわけですね。ですから、そ ういった子どもの比較をしたということになります。  ただ、この次もしお金があればやりたいなと思っているのは、一般のポピュレーショ ンの中でどうであるかということなんですけれども、これは地方自治体との情報公開等 もありまして、非常に慎重に進めなくてはいけないだろうというふうに考えておりま す。  以上です。 ○加藤座長  ありがとうございました。 ○田代参考人  脳症の問題以外に、1歳未満の乳児の場合は、余り効果は期待できないだろうという ことは大体皆さんの意見が一致していると思うんです。その次に1〜6歳の間ですが、 発熱を指標にした場合に25%である程度効果が見られるということなんですけれども、 ワクチンをリコメンドする場合には、エンドポイントというのはどこになるわけです か。発熱を抑えるということが目的なのか、もしくは毎年200例ないし500例起こる脳症 の25%を減らすことができるかもしれないというところにエンドポイントがあるのか、 その辺をはっきりさせておかないと、なかなかこれでいけというのは納得しにくいので はないかと思うんですけれども。 ○加藤座長  これはエンドポイントをはっきりというよりも、むしろインフルエンザワクチンの効 果がどうであったかというスタディでありましたので、これは加地・神谷班での研究が そういうことを目的としたということで行われたということだと思われますが、加地先 生、今の田代先生の御質問に何かお答えになりますか。 ○加地参考人  ちょっとどこをエンドポイントというのは難しいですね。私どもがいたしましたの は、結局お示ししたようなデータであるというだけで、それから更に脳症がどうだとい うところまでは勿論、研究計画では目的としていませんでした。 ○加藤座長  では、岡部先生、いかがですか。 ○岡部委員  小児科学会の委員会で討議したときには、インフルエンザワクチンを小児に接種した ときにどういうような臨床症状の変化が出てくるか、あるいは効果があったかというこ とであって、インフルエンザ脳症を減らすか減らさないかということを議論して、この データを検討したものではないです。ただ、世の中一般にあるいは小児科の医師の中で も、このインフルエンザワクチンを使えばインフルエンザ脳症が防げるのではないかと いうような解釈があったので、このままでは困るということでインフルエンザ脳症に関 するコメントをわざわざ加えたものです。ですから、インフルエンザ脳症そのものを目 指して小児科学会がリコメンデーションを出したわけではありません。 ○田代参考人  脳症の場合は500名くらいの患者が出るということでも非常に大きな問題であると思 うんです。数は日本全体から見ればそれほど多くないという意見もあるかもしれせんけ れども、疾患としては非常に大きな問題だと思います。  一方、発熱の程度というのはどのくらいかもよくわかりませんけれども、1〜6歳の 子どもがインフルエンザに罹患して発熱を呈すると。そのburdenというのは実際にはど のくらいインパクトがあるんですか。それを減らす必要があるのかどうか。 ○加藤座長  いかがでしょうか。熊谷先生どうですか、臨床家として。 ○熊谷参考人  必ずしも私が答えるのは適当ではないと思うんですが、外来での印象を言いますと、 私は19年ほど前に開業しましたが、そのころのお母さんたちが働いている率と現在とで は雲泥の差があります。それから、もう一つは、母子家庭がものすごく増えています。 そうしますと、そのお子さんが病気になって休まなければいけないということは非常に 大きい経済的なインパクトがあるんですね。ですから、そのことは数値化するのは非常 に難しいかもれしませんが、病気とはまた別に日本の社会全体に与える影響を考える と、十分に目的足り得るということは言えると思います。 ○小林専門官  小児のインフルエンザの関係で2点ほどお伺いしたい点がございます。  1つ目が、参考資料3にある小児科学会の見解に関してです。この見解では、有効率 が20〜30%であることを説明した上で、任意接種としてワクチン接種を推奨することが 適切だということが謳われておりますけれども、この「推奨」という表現の解釈をめぐ って、時に行政に突っ込まれて困ることがあるんです。この「推奨」というのが接種率 を上げる方向で積極的に勧奨すべきだという意味合いなのか、または希望者には勧める といったニュアンスなのかという、この辺りのニュアンスについてコメントがいただけ ればというのが1点。  それから、もう一点は、これも時々行政にクレームが来るんですけれども、子どもが 幼稚園や保育園に入っているんだけれども、インフルエンザの予防接種を受けなければ 保育園に来ないでほしい、登園を拒否されるとうクレームを受けることがございます。 これは施設設置者の判断であって、厚生労働省に文句を言われても困るというようなこ とは申し上げるんですが、麻しんや風しんならともかくとして、インフルエンザのワク チンを打ってない者に対して幼稚園や保育園に行くことを拒否するというのが、果たし て適切な判断かどうかということについても、併せて御意見をいただければと考えてお ります。 ○加藤座長  前段の御質問に関しましては、座長が小児科学会の担当理事でございまして、理事会 の承認を得て課長の方に要望したといいますか、こちらの見解を提出した関係上お答え いたしますが、ここに書かれてございますとおりでして、それらの効果の程度というこ とを十分に御説明した上で、小児科学会としては納得された場合には接種をお勧めする ということでございます。小児科学会予防接種委員長の岡部先生、それでよろしゅうご ざいますね。 ○岡部委員  結構です。 ○加藤座長  それでは、もう一つの保育園等に接種していない場合にはどうであるかということに 関しては、竹本先生。 ○竹本委員  実際に私は、打たなければ登園してはいけないという例は聞いたことはありません。 ただ、今は流行してくると検査をして確かめてから来いというのは多くて、それはちょ っと我々は大変なところですけれども。特に、ほかの三種混合だとか何かは入園前にや ってくれということはあるんですが、インフルエンザに関しては聞いたことがありませ ん。 ○加藤座長  特に川崎市の場合には保育園部会がかなり積極的でございまして、先生も一応川崎の 立場でありますが、御意見としてはそういうお話はないということですか。ありがとう ございました。  それから、もう一つ、小児科医会の方の竹本先生からは、小児科に関しては定期接種 をお勧めしていただきたいという御意見がありましたが、日本医師会としてはいかがで ございますか。難しい御質問で失礼ですが。 ○雪下委員  小児科学会並びに小児科医会の意見を十分聞かせていただきまして、今の段階ですと 20〜30%ぐらいではどうなのかなという感じは確かにいたします。答えになっていない かもしれませんが。  1つ言わせていただいてよろしいですか。今、任意接種として13歳以下は2回接種し ているんですが、先ほどの熊谷先生でしたか、2回接種は抗体価を上げる意味は余りな いのではないかというような話が出たかなと思うんですが、この先2回接種をやはり続 けていくべきなのかどうか、この辺のところをちょっと教えていただければと思いま す。 ○熊谷参考人  あくまでも個人的な見解ですけれども、恐らく小学校に入ったら大丈夫だろうという 感触を私並びに私の周りの者は持っております。ただし、これはデータに基づく判断が 必要ですので、それをやろうとすると少しスタディが必要かなと思います。13歳の根拠 というものも、どのような根拠だったかというのは私は存じていませんけれども、そん なにストリクトなものではなかったのではないかと理解しておりますので、対費用効果 ということを考えますと、1回減れば家計に対する負担もすごく違いますので、本当は プラクティカルな意味では、そこをもうちょっと詰めないといけないかもしれせんね。 ○加藤座長  田代先生、いかがですか。すでに免疫をもっているものに対しては、1回接種でもい いじゃないかというような御意見です。一方で、2回やれば抗体がよく上がってくると いうデータもありましたね。それから、プライムをやっていれば、その次は余り上がら ないで平行線であるという御意見もありました。その辺のところは、基礎研究者として どういうふうにお考えになりますか。 ○田代参考人  同じ年齢で切りますと上がる人と上がらない人がいるので、恐らくプライミングのさ れ方のヒストリーが違うんだと思うんです。現在の場合は、例えばH3の香港型にする と三十何年も流行を続けていますから、ほとんどの人が10歳を過ぎればプライミングを 受けているわけです。そういう段階で2回打つか、1回打つかという場合と、これを例 えばパーマネントなリコメンデーションにしてしまった場合に、新型が出てきて、その 2年後にプライムをどうするかという問題が出てくると思うんです。ですから、少なく とも現時点では13歳までに2回接種するという必要はないかと思いますけれども、これ をそのまますべてのインフルエンザについて今後もそれでいいという結論を出される と、非常に問題だと思います。 ○加藤座長  まずは1回でいいでしょうというフィックスした意見としては、まだ十分お勧めする 段階ではないと。 ○田代参考人  フィックスすべきではないと思います。 ○加藤座長  ありがとうございました。  田村先生、基礎医学者としていかがですか。 ○田村参考人  不活化ワクチンに関しては、booster効果はものすごくあるんです。ただ、いつも私が やっているのはマウスであって、ヒトとのギャップがあります。先ほど田代先生がおっ しゃったみたいに罹患履歴みたいなものが、ものすごく影響しますので、モデル実験み たいなきれいな対応でお答えしてどうかなと思いますけれども。 ○加藤座長  ありがとうございました。  そういたしますと、今大体集約できましたところは、先ほど小林専門官がお話しにな った52ページと53ページの9番と10番、回数や接種量の見直しを検討する必要があるか 否かということについて御意見を伺いました。それからまた、今後新しいワクチンを導 入すべきであろうかということも考慮に入れていくべきであろうというようなこともお 話の中に出てきたと思われます。  もう少し時間がありますので、健康成人に対してどのような対応をしていくかという ことについて少し議論をいただきたいと思います。例えば、先ほどもお話が出ました が、いわゆる就業者とか職場関係、労働衛生上の問題等のこともございますが、そうい うようないわゆる健康成人に対して、私たちこういう検討会というのはどのようなコメ ントをすべきかということについて、蒲生委員何かございませんか。 ○蒲生委員  先ほどの乳幼児のことにも関係するんですけれども、1歳未満の方たちには余りワク チンの有効性がないということで1歳以上というようなお話になっていますが、実際、 今のお母様方は新生児期から非常に人込みの中に赤ちゃんを連れて歩くという現状がご ざいまして、実際にまだ数は少ないとは思うんですけれども、1歳未満の方がインフル エンザにかかる可能性も随分増えていると思われます。そうしますと、1歳未満の方へ の接種は余り有効性がなくても、その周りにいらっしゃる健康成人の方たちへの、特に 御両親ですとか小児科の医療に携わっている方たちへの接種ということは、赤ちゃんを 守るという意味でも検討していただければと思います。 ○加藤座長  ありがとうございます。1歳未満の方に関しては、先ほどの9番の接種回数であると か接種量というところで再度見直す必要もあるであろうということで、今後の課題だと 思いますし、また、それができない現状であるならば、蒲生委員がおっしゃるとおり、 周りから持ち込まない、周りから赤ちゃんに影響を与えない、感染させないという努力 をさせたいということでございますね。  そのほかに、健康成人に対してこの検討会としての意見を求めておりますが、いかが ですか。内科を代表して岩本先生。 ○岩本委員  効果は非常に高いわけではないけれども、老人とかハイリスクの方が集まるところで 働くのは健康な人間がするわけですから、健康成人もハイリスクの人たちと接触するよ うな方については推奨すべきだと思います。ウイルスをやっている人間としては、やは り子どもの発熱性疾患がいかに正確に診断されていないか、と感じます。それから、ワ クチンのそれぞれの場における効果を科学的に検証していくことがすごく大事なのだな と思いました。 ○加藤座長  ありがとうございます。  加地先生、どうぞ。 ○加地参考人  今の健康成人のワクチンの可否と言いますか、勧奨接種とかいろいろありますけれど も、個人的にはそのことが当てはまるんですが、もう一つは「産業衛生上の観点」とこ こに書いてありますけれども、そういう問題は我が国ではほとんどないようであります が、また、外国でもこれは確かに産業衛生上のワクチン接種がプラスになった点がはっ きりしているという場合と、流行によっては余り確認できないというものがあるような んです。この点は我が国でも、もう少しデータを積み重ねていく必要があるのではなか ろうかと思っております。 ○加藤座長  ありがとうございます。 ○岡部委員  発言してよろしいですか。病原微生物検出情報の方でデータをまとめて毎年毎年出し ておりますが、病気としてのインパクト、disease burdenから言えば、間違いなく数 は少ないけれども高齢者における致死率の高さは明らかになるので、この辺が最大のタ ーゲットになるというのは今までどおりだと思うんです。  その次のインパクトは、やはり幼児から小学校ぐらいに掛けての年齢層の患者数の多 さです。ただし、この辺は幼児では有効性が20〜30%と十分でない。だから任意での接 種ということになります。健康成人の罹患者数、それから、そこにおける致死率の低さ ということもあります。仮に、この場で例えば定期接種化というようなことを考えるな らば、やはり対象としては現在のワクチン生産量、その他含めて現行の高齢者以外は対 象にはならないだろうというふうに私は思います。ただ、高齢者施設、その他、医療関 係における広がりということを考えるならば、その人たちはちょっと別枠のハイリスク ということになると思うんですが。 ○加藤座長  一応、定期接種としては組み込むことは無理であろうけれども、デンジャラスグルー プであるとか、または蒲生委員がおっしゃったような、小さな子どもたちを守るために 推奨といいますか、この検討会としてはいわゆる高齢者でない成人に対してもそういう ような考え方を持っていただきたいと、そういうことで加地先生、よろしゅうございま すか。 ○加地参考人  というのと、もう一つは、私が申しました点は、例えば工場とかいろいろなところで 欠勤が増えたために生産が落ちるとか、そういう観点は我が国ではどうも余りないなと いうことをちょっと申し上げておきたいと思います。 ○加藤座長  それは、インフルエンザに限らずすべての、岩本委員がおっしゃったとおり、小児の 疾病が大人を介してうつらないような方向にいきたいということで考えたいということ も含めてのことだと思われます。  そろそろ時間がまいりましたけれども、何かどうしてもこの際御発言があるという方 はいらっしゃいますか。 ○田代参考人  今、健康成人のお話があったわけですけれども、健康ではなくて基礎疾患を持った患 者さんに対するインフルエンザのワクチン接種というのは、ほかの国ではかなりリコメ ンデーションされています。それを直接のターゲットとして健康被害を減らすためには 我々も考えていかなければいけないと思うんですけれども、廣田先生にまた質問なんで すが、こういうハイリスクのグループに対してワクチンが有効であるというクリティシ ズムに耐えられるような成績というのは幾つか出されているんでしょうか。諸外国でそ ういうリコメンデーションしている根拠は何かということをちょっと知りたいんです が。 ○廣田委員  1つは、ワクチン有効性を計算するときに、調整変数として各人が糖尿病を持ってい るか、気管支喘息を持っているか、などを考慮してそれの相対危険、接種するしないに かかわらず、そういった基礎疾患のリスクがどれだけあるかということでもって、ハイ リスクと考えています。  それと、では、その疾患を持つ人のグループの中でワクチンの有効性はどうかという ところは、残念ながら完全には済んでおりません。しかしながら、先ほどconfounding  by indicationということで私は申しましたけれども、この点を鮮明にするために気管 支喘息の患者の中でインフルエンザワクチンは発病リスクをどれだけ下げるかというよ うなスタディは徐々に増えてきつつあります。  ただ、今後も、では高齢者の喘息患者ではどうか、小児の喘息患者ではどうか、そう どんどん言われると、また困りますね。すべてエビデンスをそろえろと言われると、ち ょっと無理な話だろうと思います。 ○岡部委員  小児のハイリスクにおいてやはりデータをとるのは極めて難しい。EBMも確かに存 在はしないけれども、少なくても小児科学会の予防接種委員というようなところでそれ を専門にする人たちが集まって、医学的、常識的にハイリスクと考えられる人たちはイ ンフルエンザにかからない方がいいだろうとの考えで一致し、したがってハイリスクの 方もできれば接種した方がいいのではないかというリコメンデーションを出しました。 ○加藤座長  田代先生の御質問に対しての意見ですが、岡部先生がおっしゃったとおり、明らかに ハイリスク者に対して有効であるかどうかというエビデンスがはっきりとしている場合 には、こういう場で議論する必要がないんですね。すなわち、そのエビデンスがないこ とに関してこういう専門医、または広い知識を持った方々にお集まりいただいて、意見 を交換して議論を述べ合うと。1つの大きな意見をつくっていくということも、この検 討会においての意義だと思うんです。エビデンスがある場合には、どこかのエビデンス を出してしまえば会を開く必要性はないという議論も、私たちの学会ではいたしておる ところでございます。  そういうわけで、今の田代先生の御質問は51ページの6番のところに入っているデン ジャラスグループ、または高齢施設者、職員、医療従事者等のところに入ってくる話題 でございますので、また、これらのことにつきましては事務局と十分御相談した上で、 今後議論を煮詰めるか、または、この辺のところでまとめるかということにさせていた だきたいと存じます。いろいろ御意見がたくさんございまして、必ずしもすべての意見 が統一したわけではございませんけれども、一応、今日のまとめといたしまして若干の 整理をさせていただきます。  まずは、高齢者のインフルエンザの予防接種についてですが、高齢者につきまして は、ハイリスク群として積極的に接種勧奨すべきであるというのが、現在の国際的な認 識であります。また、我が国におきましても、有効性を示唆する研究報告がかなり発表 されていると伺っております。なお、調査実施の年や報告者によっては有効性が得られ ないとされることもありますけれども、定期接種の対象から除外する必要性を積極的に 示唆する知見は得られていないかと思います。したがって、今後も今日幾つかの御意見 も出ましたとおり、高齢者に対しましては、予防接種法に基づく二類疾病としての位置 付けの下で、現行どおり希望者に対してインフルエンザの接種を行うのが適当ではない かというところでは意見が一致したのではなかろうかというふうに座長は考えます。  また、次に、小児への予防接種についてですが、インフルエンザ脳症の予防などの観 点から、乳幼児に対して予防接種を推進すべきという意見もあり、また、先ほど来あり ましたように、保護者の間にも予防接種に対する強い期待感があることが伺えるところ であります。しかし、今日もかなり御意見が出たとおり、これまでに得られた知見のみ から見ますと、乳幼児に接種した場合の有効性には、限界があることが示唆されている ことも事実でございます。これらから考えますと、予防接種法の対象者に位置付けて、 定期接種として現段階で積極的に接種勧奨するのは、いまだ適当ではなく、有効性など についての正確な情報を保護者に説明した上で、希望する場合には接種を行うというこ とが小児への予防接種の在り方ではなかろうかというふうに座長は考えます。  そのほか、いろいろ議論が出ましたけれども、インフルエンザワクチンの有効性につ きましては、ポリオや麻しんといった他の多くのワクチンが接種後95%以上の者が免疫 を獲得するということに比較いたしますと、今日のお話でもありましたとおり、有効性 にまだまだ限界があることは事実でございます。そのために、接種による十分な社会防 御が期待できるとは限りませんので、依然として個人予防を目的としたワクチンである ということでございます。  また、更に、ワクチンの有効性につきましては、引き続き今後も適切な評価・検証を 行うとともに、国民の皆様への正確な情報の提供が不可欠であるということが本日の議 論で結論付けられたのではなかろうかと思いますし、更に今後、有効性の高いワクチン の開発や、またワクチンの改良を積極的に推奨する必要があるという点でも、今日の討 論会の各委員の先生方の意見としては、一致したものではなかろうかと座長としては考 えるわけでございます。  というわけで、本日はインフルエンザについて4時間にわたって議論していただきま した。十分に議論ができなかった部分もあるとは存じますけれども、今後また更に討議 をするかどうかを含め、事務局ともまた十分相談してまいりたいと考えます。本日はあ りがとうございました。  では、最後に、事務局から何かございましたら。 ○小林専門官  次回の予定でございますけれども、3月4日に予定してございます。会場が決まり次 第、委員の先生方に御連絡させていただこうと思います。  以上でございます。 ○加藤座長  どうも本日は、4時間以上にわたりまして長い議論をいただきまして、ありがとうご ざいました。本日は、これをもって終了といたします。どうもありがとうございまし た。                               照会先                         健康局結核感染症課予防接種係                         TEL:03-5253-1111内線(2385)