未定稿 |
○ | 厚生労働科学研究費補助金の制度は、昭和26年に創設された厚生科学研究費補助金制度がその萌芽とされ、以降、平成16年度現在で4分野18事業・1400以上の研究を支援する420億円規模の研究補助事業に至っている。これまでの間、少子高齢化社会の到来や経済情勢等、厚生労働科学研究を取り巻く環境の変化に伴い、その都度検討が重ねられてきた。その結果、事業規模の拡大、事業分野や研究課題の見直し等が行われ、国民の健康維持増進、疾病対策等の課題解決に貢献してきた。 |
○ | 一方、近年では、SARSや新型インフルエンザなどの新興感染症の台頭、超高齢化社会の到来を見据えた介護予防への関心など、安心・安全な質の高い健康生活を希求する国民のニーズの高まりは、保健医療福祉の分野における厚生労働行政に新たな展開を求める原動力となってきている。 |
○ | また、低成長経済と少子高齢化による勤労世代に対する社会的な負担増は、合理的で持続可能な社会保障制度の構築を余儀なくしている。更に、行政政策のアカウンタビリティーに対する高い関心により、政策に関するより明確な根拠が求められている。 |
○ | このような多様な社会からの要請を受け止め、かつ解決が容易ではない状況を克服するためには、これらの分野における科学技術の戦略的な振興が不可欠である。厚生労働行政の分野において、かかる科学技術の戦略的な振興を推進するためには、厚生労働科学研究がその中心的な役割を果たせるよう、その制度設計や運営の在り方などについて見直す必要が生じている。 |
○ | このような状況を踏まえ、本専門委員会では、これまでの厚生労働科学研究の成果と現状の体制を整理しつつ、中長期的な今後の厚生労働科学研究の在り方について概観した。そして、中長期的な観点から今後の厚生労働科学研究の在り方について、政策目的、研究枠組み、研究実施体制等の観点からこれを整理し中間的なとりまとめを行った。 |
【参考】 | これまでの厚生労働科学研究費に関する検討と、関連する政府における科学技術政策の流れの主な経緯 |
(表1)
厚生労働科学研究に関する検討経緯 | 政府全体の科学技術政策 | ||||||||||||||||||||
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(1) | 概況 |
○ | 平成16年度における厚生労働科学研究費補助金(以下、厚生労働科学研究)の事業概要は次の通りである。 【概況】
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(2) | 事業の特徴 |
○ | これらの現状を含めた厚生労働科学研究の特徴は次の通りである。 【特徴】
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前章で概観した厚生労働科学研究については、次のような課題や改善すべき点が指摘されている。
(1) | 制度全般に関する事項 |
○ | 他の公的研究助成制度、特に文部科学省の科学技術研究費等の研究資金との違いが必ずしも明確ではなく、政策目的や研究費の性格が曖昧であるとの指摘がある。さらに、このことが厚生労働省における科学技術政策の基本的方向性や、研究事業の枠組みにメリハリがないと指摘される遠因ともなっている可能性がある。 |
○ | 政府全体のライフサイエンス推進戦略の中で、厚生労働科学研究がどのように組み込まれ、どのような役割を果たしているか、明確でないとの指摘もある。 |
○ | その一方で、大局的、国家的な視点から取り組むべき疾患・障害等の国民の健康に関する課題について、厚生労働科学研究による着実な取り組みと課題の克服が求められている。 |
○ | また、普段は想定し得ない様な健康危機への即時対応や、先端医療技術開発の推進等のためには、ライフサイエンス分野における基礎研究のすそ野をこれからも十分に確保し、研究の多様性を保っていくことが不可欠である。 |
(2) | 研究システムの見直し |
(1) | 研究の枠組み |
○ | これまでの厚生労働科学研究においては、分野・事業横断的な重点課題への取り組みや研究者の育成について、必ずしも十分な配慮がなされていなかったとの指摘がある。 |
○ | また、長期継続的に取り組む必要がある研究課題では、研究の進捗に応じて研究事業を重点化・効率化するしくみがないため資源配分が硬直化する傾向があるのではないか、との指摘もある。 |
○ | さらには、疾病対策や医療安全対策等、個別研究だけでは十分な成果が得られず、対策や政策に結びつきにくい分野については、研究の実施に際して政策に直結する成果が得られる様な工夫が必要とされている。 |
○ | 健康にかかる研究分野では、例えば健康被害や安全性に関する調査等、学術的評価の如何によらず必要とされる研究分野が存在するが、それらについても競争的資金の枠組みの中で実施されるという制度運用上の問題点も指摘されている。 |
(2) | 研究評価のあり方 |
○ | 現行の厚生労働科学研究においては、実施する研究事業について行政施策との連携を保ちながら、より一層優れた研究開発成果を国民・社会へ還元することを目的とし、評価を行うことを基本方針としている。このため具体的には、提出された研究開発課題は各研究事業の評価委員会において、専門家による専門的・学術的観点と、行政担当部局の行政的観点の両面から研究事業の評価を行っている。 |
○ | 一方、政府全体の研究事業評価として総合科学技術会議による各省の研究事業評価がある。これらの評価は、主として学術研究としての視点から評価される傾向が強く、その反面、厚生労働科学研究において個別課題が担う政策的意義が十分に評価され難い構造となっている。 |
○ | 近年、この総合科学技術会議の評価が予算査定の大きな根拠とされる傾向が強まっており、学術的トピックス、官民連携などの社会的注目分野など、時流に乗った分野に資源が集中する傾向が強い。 |
○ | しかし、健康に関する課題の中には、長期・地道な取り組みが求められ、結果としてあまり注目されなくなった分野も存在するため、注目分野に資源集中させるような対応を継続すれば、政策的重要性にも関わらず置き去りにされる分野が生じてしまう懸念がある。 |
○ | このように、現実問題として学術的評価の結果だけを根拠に事業を廃止することが困難な保健医療分野の行政研究課題について、その研究評価の在り方と、評価を踏まえた事業予算配分の在り方をどう調整していくのか、整理する必要が生じている。 |
(3) | 研究の実施体制 |
○ | 厚生労働科学研究においては、従来から研究資金の交付時期が遅延する傾向があるとされ、そのため円滑な研究実施に支障が生じているとの指摘がある。この原因として、研究費執行事務の処理が非常に煩雑なこと、研究者の研究申請書記載不備等への対応作業量が非常に多いこと、すべての申請書を一律に審査処理するために非効率的であること等が挙げられており、早期執行を実現するため、これらを具体的に改善することが求められている。 |
○ | がん研究等、先進的国家プロジェクト的な分野については、研究の実施体制や管理体制を強化し、より強力なイニシャティブのもとで専門的視点と政策的視点の両方に立脚した研究企画や研究事業管理を行うことが求められている。 |
○ | 少子高齢化の進展により、研究者の年齢構成自体にも変化が生じ、若手研究者がさらに不足する傾向が生じる等、研究体制の在り方にも変革が求められることが予想されている。従って、長期的な観点から、将来の厚生労働科学研究を担う研究者の育成が必要とされている。 |
○ | わが国では今日まで、大学、国・地方自治体及び民間の研究機関、医師会等が広く相互に連携するための十分な下地がなく、多施設臨床研究を実施していくための体制基盤が弱いことが指摘されており、このような研究を推進する仕組みが求められている。 |
(3) | 透明性の確保と社会的貢献 |
○ | 現状では厚生労働科学研究の研究成果やその意義が、一般の国民に十分認知されているとは言い難い。また、不適切な研究費事務処理等、研究費運営の不透明感が、研究全体に対する国民の否定的なイメージを想起させる要因の一つとなっている可能性がある。従って、研究に対する国民の理解と支持を得るためには、このような不透明感や否定的なイメージを払拭する必要がある。 |
○ | 同様に、プライバシーへの関心や配慮を背景に成立した個人情報保護法の施行を受け、厚生労働科学研究においても、個々の研究の個人情報に対する格別の配慮が求められている。 |
○ | 予算獲得や研究事業への重点的予算配分を目指すためにも、積極的に研究成果を集積し、社会に情報還元(フィードバック)することが必要である。しかし、個々の研究事業や研究者個人に社会全体への貢献を求めることは困難であり、また効果的ではないことから、事業全体として対応を図ることが必要である。 |
(1) | 政策目的の戦略的な推進 |
○ | 厚生労働科学研究費補助金という制度は、厚生労働行政を推進するための公的な研究助成制度である。この原点を踏まえれば、厚生労働科学研究がその政策目的を戦略的に推進する政策ツールとして機能することが期待されていることは明白である。 |
○ | 従って、厚生労働科学研究費補助金は制度として、厚生労働省の任務に照らした目的志向型研究(Mission-Oriented Research)であるという役割をより一層明確化し、国民の健康を守る政策に関連する研究支援に重点化していくことが必要である。 |
○ | このため、厚生労働科学研究事業の(政策的)研究目標と対応する戦略目標を可能な限り具体的かつ明示的に掲げることが必要である。この場合の(政策的)研究目標や戦略目標は、その時々のトピックスや学術的流行にとらわれるのではなく、あくまで政策的なニーズをベースに分野や課題を設定していくことが重要である。さらに、この(政策的)研究目標と戦略目標を、その時点での懸案事項や政策課題を可能な限り踏まえた、当面の戦略的な研究推進の指針とするため、研究の進捗に応じた適時の見直しを行うべきである。【具体的イメージは別紙1「2006−2010・厚生労働科学研究の戦略的な研究の推進(イメージ)」参照】 |
○ | (政策的)研究目標と、それらに対応する当面達成すべき目標である戦略目標は、科学的アプローチを前提としつつ、政策成果への貢献を重視した設定とする。従って、政策(「出口」)から川上に遡る「流れ」をより明確に捕らえた戦略的なアプローチを基本とした研究課題の設定と資源配分を行う。 |
○ | 表面的・直接的には政策に連動しない基礎的・基盤的研究であっても、政策へのロードマップ上、戦略的には必要と考えられる研究は、当然、支援対象とすべきである。同様に、学術的評価が必ずしも高くないが、政策(出口)的対応に直結する研究は、その学術面での手法等を改善しながらでも逐次遂行していく責務がある。さらに、基礎研究で得られた成果をより安全かつ速やかに臨床現場等に展開するという、基礎研究と臨床(応用)研究の橋渡しを行う研究は、政策成果を得る上で決定的に重要な役割を担う分野の研究であり、厚生労働科学研究が積極的に推進していく必要がある。 |
○ | また、国民的ニーズが高く、確実に解決を図ることが求められている研究課題については、成果目標を設定した戦略的な大規模研究を実施するなど、より効果的・効率的な成果達成を確保する研究体制を導入すべきである。 |
(2) | 研究システムの見直し
以下のような観点から、研究の枠組みを見直す。【具体的イメージは別紙2「厚生労働科学研究費補助金制度の具体的見直し案(未定稿)」参照】 |
(1) | 研究の枠組み |
○ | 厚生労働科学研究の個々の事業で政策に直結する成果を確実に得るために、成果に至るロードマップを策定し、複数の研究プロジェクトを統合的に実施するなど戦略的アプローチが実施できる研究の枠組みを設ける必要がある。 |
○ | 政策上必要とされ、省庁の責務として実施する研究については、競争的環境で実施される研究とは別の研究カテゴリーで実施する等、新たな枠組みを創設して制度としてわかりやすくする必要がある。 |
○ | 厚生労働科学研究の実施体制を今後も強化していくために、これまでは十分ではなかった将来の厚生労働科学研究を担う研究者育成に重点をおいた枠組みや、研究計画の審査に十分に時間をかけ成果が期待できる研究を実施できる様、研究の枠組みを設ける必要がある。 |
(2) | 研究実施体制の強化 |
○ | 文部科学省の科学研究費等に比べ遅いとされている資金交付時期の適正化を早急に実施する必要があることから、審査事務手続きの合理化・迅速化、審査事務体制の強化等による研究費交付審査事務の見直しを行うことが必要である。将来的には電子申請・審査体制の確立や申請・審査事務の更なる簡素化も必要である。 |
○ | 研究事業管理については、今後、研究分野や課題の現状及び特徴を踏まえ、がんセンター等、外部機関への研究費配分事務の移管を検討・実施していく必要がある。特に、先端的な重点分野では、研究企画や研究事業評価等を含めた当該分野の学術的知見と行政的ニーズを集約できる本省以外の組織(Funding Agency)で研究費配分事務等の研究事業運営管理を行う体制づくりを進める必要がある。同時に、研究事務に精通した事務担当者や専任のプログラムオフィサー・プログラムディレクターの育成やそうした人材の配置が必要である。 |
○ | 評価委員の確保について、利害関係のないことを署名で求める等一定の条件下で評価委員の要件を緩和し、評価委員の人材育成の観点からも若い評価委員を積極的に登用していく必要がある。 |
○ | 研究者を育成する観点から、研究評価結果等のフィードバック等、教育的配慮を積極的に実施することが必要である。同時に日本はアジアの一員としてライフサイエンス分野でのアジア諸国との連携を重視し、先頭に立ってこれを推進していくことが必要であり、アジアにおけるこの分野の研究者の養成にも協力していくことも課せられた任務である。 |
○ | 臨床研修医制度の実施に伴い、大学の附属病院以外の研修指定病院等が日本の医療全体に与えるインパクトはこれから徐々に大きくなることが予想され、今後の医学研究の在り方にも影響を及ぼす可能性がある。こうした状況の中、病院と研究機関を合わせ持つナショナルセンターの様な施設は、今後、研究者の流動性を確保しながら臨床研究を担う若手研究者を育成し、質の高い臨床研究を推進する拠点としての役割を果たしていくことが期待される。 |
(3) | 透明性・社会的貢献の重視 |
○ | 厚生労働科学研究費の社会における認知度を向上するため、推進事業の見直しや成果広報用資料のインターネットホームページにおける公開等により積極的に研究成果を発信し普及啓発活動を推進する必要がある。 |
○ | 研究費運営の透明性を高めるために、資金交付時期を適正化した上で、申請者に対しては適正執行を啓発するとともに、不正執行者については厳格に対処することが重要である。 |
○ | 個人情報保護法の施行や各倫理指針が改訂されたことを踏まえ、申請者に対してはこれらを遵守した研究であることが採択の要件となることや違反者は厳しく取り扱うということをより明確に示していく必要がある。 |
○ | 定期的なプレスリリース作成やシンポジウム(特に戦略型研究と関連学会とのタイアップ)の積極的な実施を推進する等、社会全体への貢献について事業全体で工夫することが不可欠である。 |
○ | ライフサイエンス分野の研究は、国民が現代社会で抱える「老後の生活設計」や「健康」への不安解消と直結し、その発展による恩恵を国民ひとりひとりが享受することに貢献する。すなわち、ライフサイエンス分野の研究は、国民の健康を確保するための根幹的政策として、政府の重点分野に位置づけられるべきものである。 |
○ | そして、このような政府が重点的に取り組むべきライスサイエンスの効率的効果的な振興推進について、保健医療福祉の政策を所管する厚生労働省は、政策成果との関連から政府内で中心的な役割を担っていく必要がある。すなわち、国民の健康を守るためのライフサイエンス分野に関する統合的な政府全体の振興戦略は厚生労働省が中心となって策定し、総合科学技術会議と協力しながら関係省庁との連携調整を行い、基礎研究から応用研究まで、重複を排除・解消しつつ、効率的効果的でバランスのとれた、総体的研究を推進する。その際、関係省庁の政策を統合的に動員・活用し、政府全体としてライフサイエンス分野の研究を推進する上で、総合科学技術会議は関係省庁の異なるスキームを積極的に同時に活用する等、さらなる調整機能を発揮すべきである。 |
○ | 基礎的研究を推進し同時にその多様性を維持していくことは、厚生労働科学研究のみならずすべての科学技術の発展において共通かつ必須の重要事項であり、政府全体としてこれに努めなければならない。 |
○ | 政府全体の研究事業評価である総合科学技術会議による各省の研究事業評価は、主として学術研究としての視点からの研究事業評価である。従って、この研究事業評価の結果を踏まえて、具体的にどのような資源配分を行うかは、それぞれの研究費補助制度の性質や当該研究成果がどの程度の政策的価値をもたらすか等に基づき、総合的に判断されるべきであり、学術的研究事業評価の単純・機械的な資源配分方針への反映は、政策研究としての政策上の意義を損なう恐れがある。このような観点から、総合科学技術会議による各省の研究事業評価については、仮に各研究事業の資源配分に直結するような活用を想定するのであれば、その評価のあり方や評価基準については、各省と十分な意志疎通や調整を行うべきである。 |