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資料6−2

p -ニトロアニソールのがん原性試験結果


1 被験物質について

1.1.名称と別称
名称p -ニトロアニソール(p -Nitroanisole)
IUPAC名1-メトキシ-4-ニトロベンゼン(1-Methoxy-4-nitrobenzene)

1.2.構造式、分子量

構造式

分子量153.14
CAS.No.100-17-4

1.3.物理化学的性状
外観結晶
融点54℃
溶解性水に不溶、煮沸エーテルに易溶

1.4.用途
還元するとp-アニシジンとなり、染料の中間体として使用される。

1.5.生産量、製造業者
(1)生産量(輸入量)
推定400 t(平成14年)
(2)製造(輸入)業者
酒井興業

1.6.許容濃度 日本産業衛生学会 : なし
ACGIH : なし

1.7.変異原性
 当センターで実施した変異原性試験では、微生物を用いた試験または培養細胞を用いた試験の何れも陽性を示した。微生物を用いた試験の比活性値は1.8×103 / mg(菌株:TA100、代謝活性化なし)であり、培養細胞を用いた試験のD20値は0.30 mg/mL(細胞株:CHL、代謝活性化あり)であった。

2.目的
 p -ニトロアニソールのがん原性を検索する目的でラットとマウスを用いた混餌経口投与による長期試験を実施した。

3.方法
 試験は、ラット(F344/DuCrj(Fischer))とマウス(Crj:BDF1)を用い被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計ラット400匹、マウス400匹を用いた。
 被験物質の投与は、p -ニトロアニソールを混合した飼料を動物に自由摂取させることにより行った。投与濃度は、ラット雌雄とも2000、4000、8000 ppm(公比2)、マウスでは雌雄とも 5000、10000、20000 ppm(公比2)とした。投与期間は2年間(104週間)とした。
 観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。

4.結果
 ラットでは、雄の生存率は、8000 ppm群で慢性腎症により多くの動物が死亡(50匹中45匹)し、対照群に比べて著しく低下した。雌の生存率は、8000 ppm群では主に慢性腎症により低下した。また、雌の投与群は子宮の腫瘍(子宮腺癌)による死亡が対照群と比べ多かった。体重は、雄の8000 ppm群では投与期間を通して、4000 ppm群では投与後半に、対照群と比較して低値を示した。雌では投与期間を通して全投与群で体重増加の抑制が認められた。摂餌量は雄では8000 ppm群で対照群と比較して主に投与後半に低値を示した。雌では、各投与群とも投与期間を通して対照群と比較して摂餌量の低値が認められた。病理組織学的検査では、腫瘍性病変として、雄に肝細胞腺腫の発生増加が認められ、肝臓に前腫瘍性病変である好塩基性小増殖巣と海綿状変性の増加が4000 ppm群と8000 ppm群でみられた。雌には子宮腺癌の発生増加が認められ、投与群の子宮腺癌は他臓器への転移もみられた。なお、雌にも肝細胞腺腫の発生増加が8000 ppm群でみられた。慢性腎症は、雄ではすべての投与群で程度の増強がみられ、雌では4000 ppm群と8000 ppm群で発生匹数の増加と程度の増強が認められた。
 マウスでは、生存率は、雄の10000 ppm群と20000 ppm群及び雌の20000 ppm群では肝腫瘍による死亡により対照群と比べて低下した。体重は、雌雄ともに、投与濃度に対応した低値を示した。病理組織学的検査では、腫瘍性病変として、雄に肝芽腫及び肝細胞癌、雌に肝芽腫、肝細胞癌及び肝細胞腺腫の発生増加が認められた。雄では、肝芽腫は全投与群、肝細胞癌は20000 ppm群、雌では、肝芽腫は10000 ppm以上の群、肝細胞癌は全投与群、肝細胞腺腫は5000 ppm群と10000 ppm群で発生増加が認められた。また、肝臓の好酸性小増殖巣が雌雄ともわずかに増加し、肝細胞の小葉中心性の肥大が雌雄、小葉中心性の核異型が雄にみられた。その他、雌雄の肺と鼻腔、雌の鼻咽頭にもp -ニトロアニソールの投与の影響と思われる病変が増加した。また、脾臓と腎臓にはヘモジデリンの沈着の変化がみられた。

5.まとめ
 ラットでは、雄に肝細胞腺腫の発生増加が認められ、p -ニトロアニソールの雄ラットに対するがん原性を示す証拠と考えられた。雌には子宮腺癌の発生増加が認められ、p -ニトロアニソールの雌ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠と考えられた。
 マウスでは、雌雄のマウスには肝芽腫及び肝細胞癌の発生増加が認められ、p -ニトロアニソールのがん原性を示す明らかな証拠と考えられた。



腫瘍発生一覧表

p -ニトロアニソールのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雄)
  投与濃度(ppm) 0 2000 4000 8000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 皮下組織 線維腫 2 2 4 0    
扁平上皮乳頭腫 1 3 0 0    
肝臓 肝細胞腺腫 0 1 13** 11** ↑↑ ↑↑
下垂体 腺腫 14 11 9 9    
甲状腺 C-細胞腺腫 7 11 10 2    
副腎 褐色細胞腫 4 3 1 2    
精巣 間細胞腫 34 45** 48** 48** ↑↑ ↑↑
乳腺 線維腺腫 0 2 3 0    
悪性腫瘍 脾臓 単核球性白血病 8 5 3 0**   ↓↓
甲状腺 C-細胞癌 3 2 1 0    
副腎 褐色細胞腫:悪性 0 1 3 0    

p -ニトロアニソールのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雌)
  投与濃度(ppm) 0 2000 4000 8000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 49
良性腫瘍 肝臓 肝細胞腺腫 0 0 0 5* ↑↑ ↑↑
下垂体 腺腫 14 15 15 7    
甲状腺 C-細胞腺腫 5 3 8 6    
子宮 子宮内膜間質性ポリープ 8 14 3 1*   ↓↓
乳腺 線維腺腫 4 5 4 1    
悪性腫瘍 脾臓 単核球性白血病 8 7 1* 1*   ↓↓
子宮 腺癌 1 4 8* 8* ↑↑
検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
 *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
 ↑: p≦0.05で有意増加   ↑↑: p≦0.01で有意増加   (Peto, Cochran-Armitage検定)
 ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)

p -ニトロアニソールのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雄)
  投与濃度(ppm) 0 5000 10000 20000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫 6 2 1 1  
脾臓 血管腫 4 1 0 0  
肝臓 肝細胞腺腫 12 17 18 3*  
血管腫 7 2 1* 0**   ↓↓
ハーダー腺 腺腫 3 2 3 2    
悪性腫瘍 細気管支−肺胞上皮癌 3 1 2 1    
リンパ節 悪性リンパ腫 8 13 6 3  
脾臓 肥満細胞腫 0 0 6* 0    
肝臓 肝細胞癌 16 11 14 39** ↑↑ ↑↑
肝芽腫 1 12** 18** 38** ↑↑ ↑↑
精巣上体 組織球性肉腫 3 1 1a) 1    
  肝臓 肝細胞腺腫/肝細胞癌/ 22 27 33* 43** ↑↑ ↑↑
肝芽腫            

p -ニトロアニソールのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雌)
  投与濃度(ppm) 0 5000 10000 20000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫 2 2 3 1    
肝臓 肝細胞腺腫 5 18** 13* 4    
血管腫 3 1 0 0  
下垂体 腺腫 3a) 7 5 0    
子宮 内膜間質性ポリープ 5 1 0* 0*   ↓↓
ハーダー腺 腺腫 3 1 2 3    
悪性腫瘍 リンパ節 悪性リンパ腫 16 16 14 3**   ↓↓
脾臓 悪性リンパ腫 7 7 4 1*  
肝臓 肝細胞癌 2 12** 41** 46** ↑↑ ↑↑
肝芽腫 0 0 8** 38** ↑↑ ↑↑
組織球性肉腫 1 0 0 3  
子宮 組織球性肉腫 15 16 15 12    
  肝臓 肝細胞腺腫/肝細胞癌/
肝芽腫
7 24** 45** 48** ↑↑ ↑↑
検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
 *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
 ↑: p≦0.05で有意増加   ↑↑: p≦0.01で有意増加   (Peto, Cochran-Armitage検定)
 ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)
a):検査動物数49


6. 図

1) ラット

MALE

FEMALE

 FIGURE 1 SURVIVAL ANIMAL RATE OF RATS IN THE TWO-YEAR FEED
 STUDY OF p -NITROANISOLE



MALE

FEMALE

 FIGURE 2 BODY WEIGHT CHANGES OF RATS IN THE 2-YEAR FEED
 STUDY OF p -NITROANISOLE



2) マウス

MALE

FEMALE

 FIGURE 3 SURVIVAL ANIMAL RATE OF MICE IN THE TWO-YEAR FEED
STUDY OF p -NITROANISOLE



MALE

FEMALE

 FIGURE 4 BODY WEIGHT CHANGES OF MICE IN THE 2-YEAR FEED
 STUDY OF p -NITROANISOLE


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