05/01/07 最低賃金制度のあり方に関する研究会第6回議事録          第6回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                         日時 平成17年1月7日(金)                            15:30〜17:40                         場所 厚生労働省専用第21会議室 ○樋口座長  ただ今から、「第6回最低賃金制度のあり方に関する研究会」を開催いたします。新 年明けましておめでとうございます。早々からお集まりいただきまして、ありがとうご ざいます。本日は、今野先生が欠席と聞いております。  早速、議題に移ります。本日から、前回取りまとめていただいた論点に従って検討を 進めていきたいと思います。本日の議題は、「最低賃金制度の意義・役割」と「最低賃 金制度を取り巻く環境変化」です。まず、「最低賃金制度の意義・役割」について、ご 検討いただきたいと思います。事務局から説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  資料1は、前回取りまとめていただいた論点です。本日は、そのうち1の「意義・役 割」を中心にご議論いただければということです。  資料2の「最低賃金制度の意義・役割」ですが、1頁の最低賃金法第1条にこの法律 の目的規定があります。その中で、1つは「賃金の低廉な労働者」について、賃金が労 働者の一般的賃金水準よりは相当低位にある労働者を対象とするということが、この目 的の中で規定されております。したがって、5行目のように、「一般賃金水準にある労 働者を対象として高水準のものを最低賃金として決定することは、原則としてこの法律 の趣旨とするところではない」ということで、基本的に賃金の低廉な労働者について最 低額を保障するという目的だということです。  この目的の中で、「労働条件の改善を図り」ということが、基本的にこの法律の第一 義的な目的であるということです。3つ目の○の「労働条件の改善」は、「向上」とい う言葉と対比して考えると、改善というのは現状が悪いことを前提にしているというこ とで、それは最初の賃金の低廉の労働者を対象とすることと関連するわけですが、賃金 の低廉な労働者の賃金の上昇を図ることを改善と言っているという解説がなされており ます。第一義的な目的は労働条件の改善を図ることですが、もって、労働者の生活の安 定、労働力の質的向上、事業の公正な競争の確保という3つが第二義的な目的というこ とで規定されているところです。「労働力の質的向上」については、解説にあるとおり です。2頁の「事業の公正な競争の確保」は、賃金の不当な切下げ又は製品の買叩き等 を防止することによって、公正な競争を確保するという趣旨の説明になっています。以 上が最低賃金法の目的規定から見たものです。  3頁のILO条約は、これまでも既に紹介したところです。第26号条約については、 賃金を有効に規制する制度が存在していない若干の産業又は産業の部分であって賃金が 例外的に低いものを対象にし、特に低賃金の苦汗産業を対象にした条約であるというこ とです。  4頁は、その後1970年にILOの131号条約、新しい最低賃金に関する条約が採択さ れております。この条約においては、「雇用条件に照らし、対象とすることが適当であ る賃金労働者のすべての集団について適用される最低賃金制度を設置する」ということ になっています。この趣旨として、(2)は、先ほどの第26号条約は、一定の要件を満た している限られた産業分野のうちの若干のものだけを対象に最低賃金制度を設ければよ い、ということであったのに対して、131号条約は、より一般的なものにするという意 図のもとに作成されたものである。かつて雇用条件に照らした制度の適用対象とするこ とが適当であると考えられるようなすべての最低賃金労働者の集団について適用する賃 金制度を設けなければならないということです。いわゆる一般的最低賃金を設定すると いう趣旨のものです。  6頁は、ILOの事務局で最低賃金について整理をしているのですが、その中で最低 賃金の役割について体系的な整理をしており、基本的に最低賃金制度の役割はこのよう な形で整理できるかと思われますので、これをご紹介しております。この中で、最低賃 金の役割として、4つの基本的な役割があるとされております。1番目は、労働市場に おける特に弱い地位にあると考えられるごく少数の低賃金労働者にのみ保護を与えるた めに利用するというもの。2番目は、公正な賃金の支払を保障するために最低賃金を利 用する。したがって、公正な賃金という場合には、1番目の目的・役割と比べると低賃 金層に限られるものではなくて、より高い賃金の者についても公正な賃金という観点か ら設定するというものです。以上の1、2がどちらかというと産業別の最低賃金と密接 な関連があるということです。3番目は、最低賃金を賃金体系の底辺として利用すると いうことで、これがすべての、あるいはほとんどの労働者に不当に低い賃金から保護す るセーフティーネットという、一般最低賃金制度と関連ある役割です。4番目は、マク ロ経済政策の手段として、最低賃金を用いるということです。  以上4つが基本的な役割として整理されており、それぞれについて詳しいものを見て みます。6頁の一番下、「弱い立場にある集団の保護」ということで、労働者集団の特 殊な性格のために、労働市場において交渉上弱い立場にあるものにその適用範囲を限定 するということで、弱者の概念は様々であるわけですが、家内労働者、若年者といった ものが例示として挙げてあります。7頁で、基本的に有効な団体交渉能力がない、ある いは低賃金といったものに特徴づけられるような産業について、最低賃金を設定するも のが1番目の役割です。例えば、1909年のイギリスの産業委員会法の中では、苦汗産業 という、特に低廉な賃金の産業に限定して、最低賃金を設定していったというもので す。団体交渉が存在しないということで、それを補完するというか、団体交渉に類似し た三者構成の委員会などを設けて最低賃金を設定し、それが自主的な団体交渉の発展を 奨励するという意味合いがある、ということが7頁の下の方で言われております。  9頁は、2番目の役割としての「『公正な』賃金の決定」です。これも産業あるいは 職業の最低賃金を決定するという、産業別最低賃金と特にかかわるものですが、1番目 が低廉な賃金の者を対象にするのに対して、公正な賃金の決定は、比較的高い賃金の労 働者を含むすべての労働者にまで及ぶ可能性があるということです。同一労働同一賃金 とか、産業における1つの基準を設けて、公正な競争を確保するという意味合いがある というものです。その場合に、どういう産業に対して設定するかというものについては かなり裁量があって、労使関係等も考慮されるということです。また、これが労使紛争 を減らすとか団体交渉の発展というような、労使関係上の役割とかなり密接な関係を有 するということも言われております。  11頁の4行目からですが、産業別最低賃金について一定の批判がなされているという ことです。ある労働者の集団がなぜ法律によって賃金が保護されるという特権を持っ て、他の者がそうでないかということが容易に納得できない、ということが言われてい るということです。もう1つは、個々の産業における共通の規則に法的支持を与えると いうことが、保障される賃金を不当に大幅に上昇させる結果をもたらすかもしれない危 険性があるということで、それによって雇用機会の減少、所得配分の悪化をもたらすと いうことがあり得る。産業内の「公正な」競争というか、平等な賃金関係は達成できる わけですが、むしろ産業間の格差を拡大するおそれもあるといった批判もあるというこ とです。団体交渉との関係で、本来、団体交渉を補完するというものですが、最終的に は法的な援助なく団体交渉が発展すべきであるところ、それを妨げるおそれもあるとい うことも言われているところです。  12頁ですが、以上が産業別最低賃金に特にかかわる役割です。それとの関連で、一般 最低賃金の役割、先ほどの3番目、4番目の役割ですが、産業別最低賃金制度の難しさ にかんがみて、ほとんどすべての労働者に一様に適用される一般最低賃金を導入する国 が増えてきたということです。そういったことも踏まえて、先ほどのILO第131号条 約においては、一般最低賃金を念頭に条約が採択されたということです。  3番目の「賃金構造の底辺の設定」は、基本的には貧困の削減ということで、あらゆ る産業に従事する労働者を容認しがたいと考えられる低賃金から守るために一般的に適 用できるような最低限度を定める、というものが一般最低賃金です。これはセーフティ ーネットとしての水準で定めるということです。  14頁からが4番目の役割としての「マクロ経済政策の手段としての最低賃金」です が、一般的な水準と構造を国の経済的安定、成長、所得分配といった目的と調和のとれ たものに変えることを役割とするというものです。ただ、これについては16頁等にある ように、かなり設定が難しく、その設定如何によっては誤った結果をもたらすおそれも あるといった問題が指摘されているということです。以上がILOのスタールによる役 割の整理です。  17頁以下が同じような形になるのですが、厚生労働省において最低賃金の解説の中で 役割を整理しているものです。1番目が「低賃金の改善」ということで、先ほどのIL Oでいくと3番目の一般最低賃金ということになろうかと思います。(2)は「公正競 争の確保」です。これは先ほどのILOでいけば2番目と関係しますが、この公正競争 と言っているのが一般的な競争か、産業内の競争かということについては、ここでは必 ずしもはっきりとはしていないところがあります。3番目は「労使関係の安定促進」と いうことで、そもそも世界で最初に創設されたニュージーランドの最低賃金が、港湾ス トライキを契機に、解決のための強制仲裁という形で決定されたということがありまし た。そういう意味で、労使関係の安定という役割もあるということです。  18頁の4番目は、「マクロ経済政策の手段」ということで、先ほどのILOの4番目 と同じですが、基本的に先進国においてはマクロ経済政策の手段として用いる例はほと んどなく、開発途上国においてそういう意義、機能を有していることが多いということ です。  19頁からですが、昭和61年に産業別最低賃金の新産業別最低賃金への転換がなされた わけですが、その当時、中央最低賃金審議会の会長であった金子美雄先生が審議状況を 会議において報告しておりますが、その整理です。昭和61年に産業別最低賃金の新産業 別最低賃金への転換という形の答申がまとまったわけですが、1つは、歴史的に昭和50 年に労働4団体から全国一律最低賃金制度という要求があって、それに対して今後の最 低賃金制度のあり方について労働大臣からの諮問を受け、それに対する答申を行ったと いうことです。  19頁の下の方に歴史的な役割が若干書いてありますが、最低賃金法が昭和34年に業者 間協定を中心にできました。昭和43年にその業者間協定を廃止して、法第16条の審議会 方式の最低賃金という形で改正が行われたということです。20頁ですが、その際に国会 の審議の中で法第16条の4が修正で加わり、労使が申出をできることになって、新産業 別最低賃金については法第16条の4によって、労使の申出によって設定されたという形 をとっているということです。  当時は全国一律最低賃金制が非常に問題になって、それを中央最低賃金審議会で検討 すべきということになったわけですが、昭和45年の段階で、全国一律最低賃金制は我が 国の現状においては実効を発揮しがたいということで、昭和43年に法改正が行われて、 法第16条で最低賃金を作る。その法第16条は、産業、職業又は地域別に作ることになっ ているわけですが、実際の設定は地域別最低賃金よりも産業別最低賃金が先行したとい うことです。なぜ産業別最低賃金が先行したかということについて、このあとに若干書 いてありますように、もともと業者間協定が中心で、それが一種の産業別最低賃金であ ったので、その業者間協定を法第16条の審議会方式に切り換えたのがやりやすいという のが1つです。もう1つは、当時は経営者側が地域別最低賃金に非常に強い反対であっ たということから、まず産業別最低賃金の設定が先行したということです。  一方、20頁の下の所ですが、昭和46年に最低賃金の年次推進計画が策定されており、 産業別最低賃金の設定が先行したわけですが、それと並行して地域別最低賃金を設定し ていくという方針が出されました。その段階で、既に地域別最低賃金が地域のすべての 労働者に適用された場合に、産業別最低賃金については職種や年齢の区分を設けるとい うことで、基幹的労働者、一人前労働者ということで有効な最低賃金を設定する。昭和 46年の段階で、産業別最低賃金と地域別最低賃金との役割を分担する考え方が示されて いる。それが新産業別最低賃金に引き継がれていくということです。  昭和56年の答申において、先ほど申し上げた昭和46年の基幹的労働者という考えのも とに、現行の産業別最低賃金を廃止して、新しい産業別最低賃金を設ける考え方が出さ れたということです。22頁ですが、そのときの考え方として、最低賃金は大きく産業別 最低賃金と一般最低賃金という2つがあるわけですが、一般的最低賃金が、基本的には 当時労働側が要求してきた全国全産業を対象とした労働者の最低賃金というものにある ということです。先ほどのILO26号条約は、低廉な賃金の産業について設定するとい う苦汗産業であったわけですが、それがその後イギリスの最低賃金などがそういうもの であったということです。1918年以降は、イギリスでは、むしろ団体交渉が未熟な産業 を選んで、団体交渉の補完的な賃金設定機関として賃金審議会が作られていったという ことで、その中で団体交渉補完という役割が位置づけられているということです。  一方、23頁ですが、その後、世界的には一般最低賃金が設定されていくものが多くな り、それが戦後の最低賃金制の主流になったということです。その中身として、23頁の 6行目以降、戦前にあったような苦汗産業はだんだん姿を消して、特に先進諸国におい ては苦汗産業というのは姿を消していったということで、苦汗産業に限って最低賃金を 設定するという意味合いが薄れてきた。一方、発展途上国においては、特定の産業だけ ではなくて、全体的に賃金水準が低いということで、むしろ一般的最低賃金が出てきた ということです。そういう世界的な流れの中で、1970年にILO131号条約ができて、 一般的な最低賃金を設定するという形のものに整理されたということです。  一方、我が国は昭和43年以来産業別最低賃金が先行して設定されていったわけです が、その性格は産業別最低賃金と言いながら、一般的最低賃金であったということで す。23頁の下の方からですが、一般的な最低賃金であるので、地域別最低賃金が設定さ れていくと、それと同じ役割を持つものとして二重に設定する必要はなくなるというこ とです。24頁の上からですが、その段階で産業別最低賃金を作るとすれば、それは特別 の意味や性格を持つべきものであるということで、その1つが団体交渉の補完的な賃金 決定機関としての最低賃金というもの、もう1つが協約の拡張としての産業別最低賃金 ということで、この段階で新産業別最低賃金は団体交渉の補完的な役割を果たす、ある いは労働協約の適用のいずれかの形をとるべきものであるという整理がされているとい うことです。それに基づいて、昭和56年に新産業別最低賃金についての答申が出された というものです。  25頁ですが、日本の場合に、特に労働組合の組織率等から言って、全労働者の3分の 2に当たる労働者については、団体交渉による賃金の決定がないということで、産業別 最低賃金について、団体交渉の補完的な制度という役割を果たして、それが通常の団体 交渉に発展していくような形のものに持っていこうという期待を込めて、新産業別最低 賃金が作られたということです。以上が歴史的な経過についての金子先生の説明です。  資料3は、既に第1回に提出した資料と同様のものです。現在の最低賃金の決定、設 定についてですが、審議会方式で決まっているものが地域別最低賃金47件、産業別最低 賃金249件ということです。労働協約の拡張適用という最低賃金法第11条があるわけで すが、それによって設定されているものは2件にとどまるという状況です。  資料4ですが、「最低賃金制度の変遷」ということで、これについても既に第1回の ときにお出しした資料と大部分重複しておりますので、ポイントのみお話しいたしま す。最初の昭和32年の答申で最低賃金法が制定されて、当初は業者間協定を中心に設定 していったということです。2頁ですが、先ほどありましたように、昭和43年に最低賃 金法が改正され、昭和45年の答申で、労働者があまねく最低賃金の適用を受ける状態が 実現されるよう配慮されるべきということで、すべての労働者に適用されるべきという ことです。その際に、低賃金労働者が多数存在する産業、職業又は地域から逐次適用し て、すべての労働者に包括的適用を及ぼすという姿勢でいこうということです。  昭和46年の年次推進計画は先ほど言ったような形で、地域別最低賃金を併せて設定し ていって、その地域別最低賃金ができた段階で産業別最低賃金との役割分担をすべきと いうことです。昭和51年に、すべての都道府県に地域別最低賃金が設定されました。昭 和50年の全国一律最低賃金という労働側の要求等の絡みもあり、昭和52年に全国的な整 合性を確保するということから目安制度を導入するということで、中央最低賃金審議会 で目安を示して、それを参考に地方最低賃金審議会で最低賃金額を決定していくことを 決めたということです。  3頁の昭和56年の産業別最低賃金の見直しについてですが、従来「大くくり産業別最 低賃金」ということで、これが一般的最低賃金の役割を果たしてきたということです。 基本的考え方の(2)のように、今後、産業別最低賃金は、最低賃金法第11条の規定に基 づくもの、これは労働協約の拡張適用です。それ以外には、関係労使が労働条件の向上 又は事業の公正競争の確保の観点から、地域別最低賃金より高い賃金を必要と認めるも のに限って設定すべきということで、1つは労働条件の向上、もう1つは事業の公正競 争の確保、この2つの観点で産業別最低賃金を設定していくということです。具体的に は、産業を小くくりにして、対象労働者を基幹的労働者にする。契機は関係労使からの 申出ということです。設定の方式として労働協約ケースということで、同種の基幹的労 働者の相当数に労働協約が適用されているというのが1つです。もう1つは公正競争ケ ースということで、公正競争の確保の観点から、最低賃金の設定が必要と認められる産 業について設定するということです。  昭和57年にさらにその具体的な中身があり、1つは産業について、産業分類の小分類 あるいは細分類について設定する。基幹的労働者については、当該産業に特有の又は主 要な業務に従事する者ということですが、4頁の上のように、ポジティブリスト、ネガ ティブリストという両方の方法で基幹的労働者を規定していくということです。申出の 要件として、労働協約ケースについては、基幹的労働者のおおむね2分の1以上に協約 が適用されていること。公正競争ケースについては、公正競争確保が必要であるという 申出であるということです。公正競争ケースについては、(4)のロのように、産業内 において産業別最低賃金の設定を必要とする程度の賃金格差が存在する場合に、公正競 争を確保する必要があるということで、設定するという整理がされています。  昭和61年の答申ですが、これは先ほどの金子先生の会議における説明にあったところ です。基本的に昭和56年答申を踏襲するということですが、旧産業別最低賃金につい て、賃金秩序に対する急激な変化を回避することから、旧産業別最低賃金を新産業別最 低賃金に転換を図るという考え方がこのときに示されております。その際に、年齢、業 務、業種等の適用除外を行って新産業別最低賃金に転換する。転換という場合に経過措 置ということで、本来、新設であれば2分の1という要件のところを、転換ということ で3分の1で足りるという経過措置を設けることによって、旧産業別最低賃金を新産業 別最低賃金に転換していったということです。  5頁ですが、平成4年3月30日に「公正競争ケース」検討小委員会報告がありまし た。公正競争とは何か、特に公正競争ケースとは何かということについて整理をしたと いうことです。(2)にありますが、新産業別最低賃金は、労働協約を中心に想定してい たものと理解することが適当であるということが1つです。それから、先ほどの労働条 件の向上、あるいは事業の公正競争の確保の観点から、必要と認めるものを設定すべき ということを基本的前提に検討したということです。  5頁の下の方では、公正競争とは何かということについては種々の法律にあるわけで すが、事業法の公正競争と最低賃金法上のものとは必ずしも同一でない、ということで 整理されております。公正競争の確保は、先ほどの最低賃金法の第1条の目的にある 「労働条件の改善を図る」という第一義的な目的とは異なって、副次的な目的であると いうことです。法における公正競争の確保は、賃金の不当な切下げの防止において達成 されるものである。地域別最低賃金が設定されている現在、賃金の不当な切下げの防止 は一定の水準で既に措置されているので、一定の公正競争は地域別最低賃金によって確 保されるということです。  新産業別最低賃金は、先ほどの労働条件の向上については、基幹的労働者の2分の1 以上の労働協約が適用されている場合を想定し、公正競争ケースが事業の公正競争の確 保のために設定されていると理解するということです。公正競争ケースについては、先 ほどの地域別最低賃金において一定の公正競争が確保されているという前提に立つと、 新産業別最低賃金はそれより高いレベルでの公正競争の確保を主たる目的とすると理解 すべきということです。  どういう場合に公正競争の確保が必要かということについては、申出の際の要件等は 定量的な要件を付すのは適当でないということですが、賃金格差の存在等の疎明が不可 欠であるということです。ただ、賃金格差の程度については、一定の基準を定めること は適当ではないということが(3)で言われています。以上が公正競争ケースについて の平成4年の整理です。  7頁の平成7年の所はまた別の話になって、目安制度に基づいて昭和52年から目安を 示してきたわけですが、パートタイム労働者が非常に増加してきた中で、パートタイム 労働者の賃金水準やそのウエイトについても賃金の改定状況に反映されるべきというこ とで、平成7年の所に、一般労働者とパートタイム労働者の全労働者についての賃金上 昇率を求めて、それを参考に目安を示していくという整理がなされたということです。  7頁の下の平成10年の産業別最低賃金に関する全員協議会報告は、使用者側から産業 別最低賃金が屋上屋であって廃止すべきという議論がなされて、それに基づいて中央最 低賃金審議会の協議会で検討がなされたわけです。基本的には今後さらに議論を深め、 運用面について一定の改善を図るということで、中小企業関係労使の意見を反映する、 賃金格差疎明資料添付を徹底するといった運用面の改善を図るとされたということで す。  平成14年4月に時間額表示問題全員協議会で、地域別最低賃金の表示単位について、 従来、日額・時間額の併用だったわけですが、平成14年から時間額単独に移行したとい うことです。平成14年の産業別最低賃金制度全員協議会報告においても、再度、産業別 最低賃金の在り方について検討が行われたわけですが、基本的には関係労使のイニシア チブ発揮を中心とした改善の在り方について検討する。法改正を伴う事項を含めた産業 別最低賃金の在り方については、新たな検討の場を設け、中長期的視点からさらに議論 を深めるということで、この報告においても関係労使のイニシアチブ発揮の改善という ことで、運用面の改善等を図ったということです。  9頁ですが、平成16年12月15日、目安制度について、基本的に5年ごとに見直しを行 うことになっているわけですが、(2)で、平成7年にパートタイム労働者と一般労働 者、両方の労働者を含めて賃金上昇率を見ていくことにしたわけですが、パートタイム 労働者の構成比が年によって急激に増えるということもあって、そのパートタイム労働 者の構成比の変化が賃金上昇率に影響を与えるのは望ましくないということで、いわゆ るラスパイレスというか、パートタイム労働者構成比の変化による影響を除去して賃金 上昇率を計算する方法を採用していくことを決めたということです。変遷については以 上です。  資料5ですが、前回の議論の中で、フランス、イギリスの最低賃金制度の考え方につ いて、若干ご質問がありました。フランスの最低賃金についてですが、フランスはSM ICと労働協約拡張と大きく2つの制度があるということです。SMICについては、 特に1950年に賃金統制を撤廃するに当たって、団体交渉能力が限られてインフレが進行 していたということで、実質賃金の維持を図るために、新しい労働協約法によって法定 最低賃金として設定されたSMIGを前身として、全国一律の最低賃金制度として発展 していったということです。一方、フランスの場合、労働協約拡張方式があり、これは 古い段階の書物ですが、1994年で、全労働者の25%程度が労働協約拡張方式でカバーさ れているということです。労働協約拡張方式による最低賃金について、CNPF、経営 者団体ですが、公正競争を確保する観点からその必要性を認めているという記述がなさ れております。  2頁も同じような話で、SMICが賃金統制を撤廃するに当たって、賃金額の保障の ためにできたということですが、労働協約拡張方式は1930年代にフランスの労働運動の 高揚期に、労働協約制が確立され、それを基礎にしているということです。ただ、SM ICと労働協約拡張方式は、共に1950年の労働協約法に基礎を置くということで、お互 いに相補うものとなっているということです。  3頁の(2)ですが、協約に依拠する最低賃金について、フランスの賃金交渉で特に重 要なレベルが業種のレベルであるということです。業種レベルで賃金交渉が義務付けら れるということです。4頁の中ほどで、フランスの場合に職務等級表があり、熟練ある いは職務の難易度別に雇用者すべてを格付けしていく。生産、事務、職長レベルに対応 した職務等級表があり、その職務等級に応じて最低賃金が決まっているということで す。  6頁からがイギリスです。イギリスについては、従来、賃金審議会法によって産業別 に最低賃金を設定していたということですが、サッチャー政権において規制・統制を撤 廃して、市場競争を活性化させるということから、一連の規制緩和がなされていったと いうことで、徐々に賃金審議会法が廃止されるとか、賃金審議会の権限が限定されると いった動きが見られたということです。  7頁ですが、そういう中で最終的に1993年に賃金審議会による最低賃金がすべて廃止 されたということです。7頁の下の所ですが、それに対して、労働党政権において最低 賃金法が制定されるわけですが、その後所得格差が長期的に拡大していったといったよ うな状況があり、労働党政権に代わり全国一律の最低賃金が導入されたところです。  資料6は、意義・役割に照らして、現在の最低賃金制度がどうなっているかというこ とですが、これも必ずしもこれだけでは十分ではないと思います。今後、各論も検討し た上で、さらにまた現在の制度がどう機能しているかということを見直さないといけな いかと思います。「地域別最低賃金の現状」も既に出した資料にも含まれております。 1頁は、地域別最低賃金の水準の推移です。2頁は、地域別最低賃金について、一般労 働者の所定内給与に対する比率の推移を見たものですが、おおむね35から40%の間で推 移しているということです。  3頁は、パートタイム労働者の所定内給与に対する比率です。これについては平成3 年あたりから若干低下しましたが、最近はまた70%を超えたあたりということで、大体 安定的になってきているということです。4頁は、各都道府県別に所定内給与に対する 比率を見たところですが、東京都が31.4ということで非常に低いわけです。最低賃金額 の低い所では40%を超える形になっているということです。5頁は、パートタイム労働 者について、同じく所定内給与に対する比率を見たもので、大体同様の傾向です。  6頁は、昭和53年と平成15年を所定内給与に対する比率で見たものですが、東京都が かなり下がっているといったところがあります。7頁は、未満率・影響率です。その推 移を見たものが8頁で、最近は改定の幅が小さいこともあって、影響率がやや低下して いるところです。9頁は、未満率・影響率を都道府県別に見たものです。これも地域に よっては0.1%、0.5%という所もあれば、沖縄県などは4%という所があって、格差が あるということです。10頁は、それを平成2年と平成15年で比べたものです。平成2年 は影響率が全国で4.5%、平成15年が1.6%というところです。11頁は、同様に未満率を 比べたものです。  12頁からは産業別最低賃金です。12頁は、それぞれの設定方式による最低賃金が現在 どう推移してきているか。13頁は、産業別最低賃金が各産業別にどの程度設定され、ど の程度の使用者、労働者がカバーされているかということ。14頁は、産業別最低賃金の 全国の加重平均の金額です。15頁は、産業別最低賃金と地域別最低賃金との比率を見た ものです。平成元年当時、107.4%、その後113から114%あたりということになってお ります。地域別最低賃金に比べて十数%高いというところですが、新産業別最低賃金が 基幹的労働者を対象に設定されていることから見て、この数字をどう考えるかというと ころであろうと思います。  16頁は、それを産業別および労働協約ケースと公正競争ケースとに分けて、地域別最 低賃金に対する比率を見たものです。産業によって若干、地域別最低賃金と10%未満と いう所がかなり多いような産業もあるということが1つあります。労働協約ケースと公 正競争ケースを比べると、労働協約ケースの方が若干、地域別最低賃金に対する比率が 高いものが多いというところです。17頁は、労働協約拡張方式ということで、最低賃金 法第11条によるものですが、全国で2件、いずれも塗料製造業関係です。適用労働者は それぞれ300人、あるいは150人ということで、非常に限られたものになっているという ことです。 ○樋口座長  資料7はあとで「最低賃金制度を取り巻く環境の変化」の項目でご説明いただくこと にして、これまでの説明についてご意見、ご質問がありましたらお願いします。いろい ろ見てくると、これまでの経緯、変遷、原理・原則、妥協の産物というところが入り乱 れてきているかと思いますが、いかがでしょうか。まずは最低賃金制度の意義と役割に ついて、ご意見がありましたらお願いします。 ○大竹先生  2点ありまして、1つは資料2の1頁の「労働力の質的向上」の(1)です。なぜこ れを規制しなければならないのか、理由が私にはよくわからなかったのです。優秀な労 働者を雇い入れたければ、最低賃金制度がなくても企業は賃金を引き上げるように思い ます。これがなぜ入っているのか、私にはわからなかったという感想です。  いろいろな所で、「公正な競争の確保」という議論が出てきます。日本国内だけで考 えていれば最低賃金制度の根拠としてはこれでよかったと思うのですが、国際的な競争 というときに、日本国内だけを規制していくことで、どこまで理論武装ができるのかど うかというのは、私が少し疑問に思いました。 ○樋口座長  公正な競争は前回からかなり議論が出ていて、特に日本の場合に、産業別最低賃金、 新産業別最低賃金でも都道府県単位で行われている。県を越えての競争、公正の担保が 実は全国一律ではないために、果たしてそれができているのかどうかという問題です。 さらに大竹先生がおっしゃったような、県境どころか国境を越えての競争という場面が 出てきている中でのこの役割が、果たして雇用にどういう影響を与えてくるのかという ところが疑問だということだと思います。渡辺先生、今のご意見に対して何かあります か。 ○渡辺先生  中座していたので、すみません。 ○大竹先生  資料2の1頁目の一番下の所ですが、労働力の質的向上の役割を持っていることにつ いて、(2)(3)については、2頁目の上の方に書いてあるとおり、外部性が存在し ているために公的規制が必要だと理解できます。しかし、(1)は、企業は優秀な労働 者を雇い入れたければ賃金を上げることができますので最低賃金制度の根拠として弱い のではないでしょうか。 ○樋口座長  確認ですが、資料2の○それぞれは、今回用意されたものということですか。 ○前田賃金時間課長  これは従来、最低賃金法の解説というか、コンメンタールがあって、その中でこうい う記述をされているものです。先ほどの(1)の所が規制する理由として弱いというこ とは、確かにそういうものであると思います。 ○樋口座長  もう1つ、これだけグローバル化が進展する中で、国境を越えて国別の最低賃金制 度、特に産業別最低賃金を考えたときに、果たして今までどおりの議論が成り立つのか どうかというようなご指摘だったわけですね。 ○渡辺先生  私は今、それにはこういうことではないかということを言える能力はありません。ア ジアの国々と競争するときに、日本の賃金制度がどういう方向になっていくのかという ことは、最低賃金制の問題というよりも、今のところ、むしろ正規労働者をパートタイ ム労働者に変えるとか、派遣労働者が増えるという雇用構造自体で対応されていて、最 低賃金制度でアジア諸国との競争関係にどう対応していくかという議論は、今まで一度 もなかった。ただ、最低賃金審議会の中で、特に中小企業団体中央会から来られている 方々は、日本の中小企業が主として中国、東南アジアの諸国と競争するためには、日本 の賃金がどうあらねばならないかと。これ以上、上げられないことも含めて意見はたく さんあったのですが、総合的にどういう制度であらねばならないかという、国際競争を 視野に入れた最低賃金制度については、今のところ、私はそういう議論は聞いてきたの ですが、答える能力はないですね。 ○樋口座長  事務局、何かありますか。昨年暮ILOの事務総長か局長がいらっしゃって、シンポ ジウムを開いて、グローバル化の中での雇用条件、リージェントワークについて議論し たときにも、最低賃金を国際的に考えたらどうかというような話も一部から出ていたよ うですが、具体的に国内でどういう制度でというところまでは行っていないというのが 現状なのではないですか。他にいかがでしょうか。 ○石田先生  資料4ですが、今の公正競争ケースということで、随分詳細な答申の要点が書かれた 資料が何頁かあります。これは非常に苦しい説明になっており、公正競争ケースの取扱 いで、要するにチープレーバーによる競争を強いられると、これは公正な競争でないの で、チープレーバーであるということを疎明しなければならない。申出について、疎明 が不可欠だということが6頁の上から10行目ぐらいの所に出ており、これは申出者にし てみれば、非常に厄介なことです。しかも、それは定量的に言えないし、何をもってチ ープレーバーであるのかということは、行政処理上も結構厄介な状況にあるのかと、こ ういう説明を受けて思いました。同じく8頁の中段にも、「賃金格差の存在の疎明」と あります。日本語が難しくて、説明と疎明はどう違うのか、よくわからないのですが、 実務的にも何とも悩ましいことなのではないでしょうかという印象です。 ○樋口座長  具体的にどのように規定していくかという話になったときに、概念としてはわかるの ですがということですね。 ○石田先生  そうですね。概念が有意に区別されていないのではないかということですね。概念 上、有意に区別されていれば、行政処理手続上ももう少し有意な処理の仕方があると思 うのですが、そこのところが困難になっているのかという印象を持ちました。 ○前田賃金時間課長  ここは産業別最低賃金の設定の話ですので、チープレーバーというよりも、当該産業 において、企業間などにおける賃金格差があることを疎明するということで、ある産業 内で企業間など様々な格差があった場合には、低い賃金の所が不公正な競争をしている ことになるので、それを疎明する何らかの統計などで賃金格差の存在を疎明する。その 賃金格差の存在が、公正競争を確保する必要性の1つの材料であるということです。 ○石田先生  それも突き詰めて言うと、毎年改定していますから、未満率ということになって、マ ージナルな1円、2円の世界で、よほど違法な低さであれば疎明できるのでしょうけれ ども、通常の事態でそういうことは法務構造上あり得ないです。しかし、それを説明し ろということは非常に無理があるなという感じです。それは私が間違っているでしょう か。そのように思えるのですけれども。 ○前田賃金時間課長  一番低い所は、毎年改定されてそういうことになると思うのですが、産業内の一般の 労働者の賃金と比べて、最低レベルの所と格差がどうあるかという問題なのです。 ○樋口座長  賃金格差の議論で、日本でやっているときには、産業間の賃金格差が主に議論の対象 となっていると思うのです。ところが、資料5にフランスやイギリスの話が出ていまし たが、その中で特にイギリスの事例として、サッチャー政権から労働党政権になる中で 最低賃金が復活する段階のときに、所得格差の長期的な傾向、長期的な所得格差の拡大 についての最低賃金の役割が議論されるようになってきた。これは産業別ではないわけ です。むしろ所得分布というような中の話で、日本で言えばパートタイム労働者と正社 員の間での所得格差の問題で、格差を拡大した方が問題なのかどうかという議論もあり ます。他の国では1つの目的、役割を記述するようになってきているというのは新しい 動きなのですか。 ○前田賃金時間課長  まずは産業間の賃金格差についてですが、産業別最低賃金というものは、産業間の賃 金格差を是正するためのものではなくて、当該産業内における賃金格差を是正するもの であるということなのです。だから、産業間の賃金格差については、別に何も言わない わけです。当該産業の労使がそれを必要とすれば、むしろ産業間の賃金格差は拡大する かもしれない。日本で必ずしも産業間の賃金格差が問題とされているわけではなくて、 産業内の賃金格差が問題とされているわけです。 ○樋口座長  産業内の企業間賃金格差ですね。 ○前田賃金時間課長  そうですね。それは必ずしも企業間に限らなくて、パートタイム労働者と一般労働者 ということもあるかもしれませんが、産業別最低賃金については産業内の賃金格差が問 題ということです。 ○古郡先生  議論が錯綜していると思います。今ここで検討すべきことは最低賃金の意義・役割で すね。最低賃金法の第1条は、この法律が低廉な労働者について賃金の最低額を保障す ることにより、一義的には労働条件の改善、二義的には労働者の生活の安定、労働力の 質的向上及び事業の公正な競争の確保、国民経済の健全な発展という3つの役割を果た すとなっているわけです。  私たちが今議論しなければならないことは、この他にどのような意義・役割があるの かないのか。あるとすれば、それが何なのか。例えば最低賃金が持っている役割とし て、所得分配の改善、購買力の確保、貧困の削減などについてどう考えるかといった議 論を先にして、産業別最低賃金の議論は後の方で各論のところで行えばいいのではない でしょうか。 ○樋口座長  ただ、1番目の最大の原因として出てきている「賃金の低廉な労働者」をアップする というのはまさに賃金格差の問題です。 ○古郡先生  賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障するという場合、例えばディーセン トウェイジなのか、ミニマムリビングウェイジなのか。フェアな賃金を保障するという ことではないということでしょうか。フェアな賃金となると、必ずしも賃金が最も低い 労働者ということではなくて、タイプの異なる労働者にそれぞれ別の賃金を保障すると いうことになりますが、その保障される人というのは別に賃金の低い人に限られないこ とになります。ミニマムリビングウェイジあるいはディーセントウェイジを保障すると いうことであれば、それは産業や職種に依存しなくてもいい。でも、フェアな賃金とな れば一般的な賃金水準ですから、産業とか職業が関係してくると思います。  「目的」の所で言うと、「賃金の低廉な労働者について」と書いてあります。「賃金 の低廉な労働者について賃金の最低額を保障する」という意味は、ミニマムリビングウ エイジの達成なのか、フェアな賃金の達成なのか、そこを確認したいと思います。 ○奥田先生  フェアと言う場合、所得格差や賃金格差と同じでいろいろな種類があると思います。 例えば、賃金の低廉な労働者について最低賃金を設定するという場合でも、それが標準 的な労働者の所得とかなりの格差があるとやはりフェアではない。やはり、それはどち らも入ってき得るのではないかというように考えています。 ○古郡先生  資料ページに最低賃金の基本的な役割が記されていますが、そこでは最低賃金に最も 弱い立場にある人のみを保護するという考えと公正な賃金の支払いを保障するという考 えがあるとしています。 ○樋口座長  最低賃金法ではなくて、今度はILOの話ですか。 ○古郡先生  要するに、ILOでは今述べたように最低賃金に対して最も限定的な考え方と公正な 賃金という考え方があるとしていますので、それに照らしてみた場合、わが国の最低賃 金法の第1条はどのように解釈すれば良いかという話です。 ○石田先生  労使でも争われる最も大事な争点で、法解釈上の問題ではないのではないか。私は法 学者ではないのですが。ただ、もう1つ、今日の事務局からの説明をお伺いして、賃金 を捉えるとき、ミニマムという考え方と公正という捉え方と、それから歴史的経緯のと ころで金子先生が説明しているもう1つの観点、団体交渉機構があるのかないのか。つ まり、公正な手続に基づいて賃金決定がされているのか、されていないのかという観点 が結構制度改革のときに強くて、旧産業別最低賃金から新産業別最低賃金への転換の問 題でも、そういう観点からやるとか、あるいは業者間協定から審議会方式に変えるとき でも、団体交渉機構という考え方が非常に強かったと思います。だから抽象的にミニマ ムか、フェアかというのは決着のつかない議論なのですが、そこにどういう決定機構が あるのかという観点で事実上整理されてきたのかなと思います。果たして、そういう整 理がいいのかどうかという議論がまた別途あると思うのですが、事実上そういう整理を されてきたのかなという印象を受けたのです。 ○古郡先生  そういう整理の中で、私たちのこの報告書は意義・役割をまとめていくということに なるわけですか。 ○樋口座長  2002年、平成14年に「時間額単独方式」に移行することにより、コスト・オブ・リビ ングの考え方というのはかなり弱まったという感じを持っています。時間当たりですか ら何時間働くか、それによって1日の所得が変わってくるわけです。その所得が最低生 活費を保障できるかどうかといったときに何時間働くのか、時間の問題になってくるわ けです。従来は1日という単位だったから、そこのところは1日の生活費と1日の給与 というバランスがあったのですが、何時間働くかという時間が介入してくるわけです。 そうなることによって、むしろ、一般労働者とパートタイム労働者の時間給を比較する という考え方がかなり強まってきた。それがゆえに、賃金格差と言っても時間当たり賃 金率の格差を問題にするようになってきた。2002年というのは、形式的にはこうせざる を得なかったのだろうと思うのですが、かなり理念的に大きな変化があったのではない かと思っています。その点、いかがでしょうか。1日8時間働くということが前提にな っていますか、コスト・オブ・リビングのときの最低賃金で最低生活費を保障するとい うのは。 ○渡辺先生  出発点は、日額で示していたものを時間額に転換するときには8分の1で、実際には 所定労働時間の実際の時間数で割らなければいけないのではないか。例えば、7.45時間 というような時間で割らなければいけないのではないかという議論はありました。た だ、やはり、標準労働時間の8分の1と出発点がなっています。だから、日額から時間 額に変わったというのは、時間契約をしているパートタイム労働者が激増している。そ の人たちが全体で言えば、まさに賃金の低廉な労働者に当てはまる。はっきり言えば、 最低賃金制度はパートタイム労働者をターゲットにして、その賃金の下を支えるという 感じで考えていたものですから、コスト・オブ・リビングの考え方から違う考え方が入 ってくるのではないか。その点はあまり意識がなくて、別の考慮で変えました。 ○古郡先生  時間給労働者が増えたからということがあったと思います。 ○渡辺先生  そういうことです。 ○樋口座長  そのときに、例えば最低生存費を保障するといったときに、何時間働けば保障するの か。今のお話だと8時間を想定しているということでした。その8時間をリンクするべ きポイントとして、時間給、最低生存費という概念が結びつけられているということに なると思います。 ○渡辺先生  その点、なかなか結びつきがはっきりしていなくて、地域によっては生活保護法のい くつかの扶助を入れると、そちらの方が上回るという地域もある。そこで、水準論をも う少し厳格にというか、総合的に議論しようということは課題になっています。それは そういうことです。 ○樋口座長  ということは、やはり、ある意味で「低廉な」というところが、パートタイム労働者 が暗黙のうちに考えられて。 ○渡辺先生  暗黙というか、ターゲットはパートタイム労働者の賃金を下から支えるという、少な くとも、地域別最低賃金はそういう考え方だったと思います。違いますか。 ○前田賃金時間課長  これは古郡先生のお話とも関係するのですが、「賃金の低廉な労働者について」とい うのは、一般最低賃金の方に直接的につながるのですが、実は基幹的労働者ということ につながるかどうかという問題であると思います。 ○樋口座長  金子先生のところでもそういう表現が出てきます。これは何を想定していたのかなと 思って。 ○前田賃金時間課長  それがILOで言っている場合の2つ目、「公正な賃金の決定」というときに、産業 内での公正賃金というところで、基幹的労働者について公正な賃金を決定するという考 え方につながっていくと思います。  公正競争というとき、産業で主要な業務に従事する者について公正な賃金を決定し て、公正な競争がなされているかというところから基幹的労働者とか一人前の労働者 と。それは一般最低賃金ではないということでそういう区別をして、役割を持たせたと いうことであると。 ○樋口座長  申し上げたかったのは、最低賃金が時間額表示に変わることによって、片方で時間の 議論と時間当たり賃金の議論が、最低生存費を議論する上では独立には行えない、結び ついて一体で議論しないといけないということになってきたのかなという感じが。片方 の労働基準の問題も労働時間の問題と絡めてあるわけです。 ○石田先生  私の理解は生存費という概念がないのです。あれば先生がおっしゃるように、時間額 を規定したら何時間働くか、時間の方はどうなるのかという議論が当然必要になるわけ です。時間賃率を問題にする。なぜ時間賃金を問題にしたかと言えば、対象がパートタ イム労働者なので時間払いだと。だから適合的だということであって、そこから逆算し てリビングウェッジがどうあるから時間賃率、つまり一言で言えば水準論がないという ことだと思います。だけど、水準を年々各地方で決めなければいけないのですが、それ は何によって決まるのか。絶対基準はないのですが、上げ幅で決まる。上げ幅は何で決 まるかというと目安で決まります。こういう構造なのです。 ○樋口座長  なるほど、水準がないのですか。 ○石田先生  水準がないのです。 ○渡辺先生  目安は何で決まるかというと、一般労働者の賃金水準の水準で決めていた。ところ が、それが推移しなくなってしまったわけです。推移はしても上がらなくなってしまっ たので、いろいろ問題が出てきた。  ついでになりますが、最低賃金法で言うと「事業もしくは職業又は地域」、事業の種 類ごとに低廉な労働者がいて、地域ごとに低廉な労働者がいて、職業ごとに低廉な労働 者がいる。地域というのは職業も事業も包括するものであるから、地域における全体の 低廉な労働者については地域別最低賃金がある。それはかなりコスト・オブ・リビング のことを考えなければいけないということになります。職業の種類、あるいは事業の種 類ごとにいる低廉な労働者というのは、既に地域別最低賃金で最低限のところはネット されているわけです。それにより、事業間の不当競争を防ぐという公正競争の関連と団 体交渉の補完ということで、実際の格差に着目した最低賃金を作る。私は非常に公式的 に頭の中を整理しているのですが、少なくともそういう考え方できたのだろうと思いま す。そうすると、やはり公正競争というのはコスト・オブ・リビングとはまたちょっと 違った考慮で存在価値が出てくるものかどうかという議論になるのではないかと思いま す。 ○樋口座長  賃金構造基本統計調査あたりで一般労働者とパートタイム労働者というように区別し たときに、パートタイム労働者の週当たりの労働時間が大体37から38時間、一般労働者 の所定内労働時間は40時間だとすれば、それより短い労働者と規定されているわけで す。本当は公式統計というかインターナショナルなスタンダードだったら35時間になっ ているわけですが、実際、日本の場合は37から38時間となっている。それで最低賃金の 時間当たり賃金を掛けて、コスト・オブ・リビングを達成しようという話なのか。い や、40時間働くというのが当然で、それで生活費、最低生存費を保障するものなのかと いう議論がある。額にするとかなり違ってきますよね。1割ぐらい違ってくるのではな いでしょうか。 ○石田先生  絶対額にかかわる議論は、私はされていないというように理解しています。むしろ上 げ幅の議論で、上げ幅は先ほど渡辺先生がおっしゃったように、中小零細の勤労者の賃 金がどう推移したか。これを推計するときに、大竹先生の専門なのですが、時短の影響 が出ているのではないか、女子比率が高くなったことが水準を落としているのではない か。パートタイム労働者比率が高いことが水準を落としているのではないか。だから、 それを調整しようというのが先ほどご説明があった目安委員会での随時の改定なので す。これは上げ幅を決める際には決定的なのです、数が動きますから。 ○樋口座長  この研究会で最低賃金の水準論を議論するかどうかという大問題が片方であります。 今まではされていなかったと思います。それをするかどうか悩ましい。 ○石田先生  大問題です。 ○大竹先生  最低賃金を決める際に絶対額が議論されてこなかったというのが、生活保護と逆転現 象が起こったりということを招いた原因なのです。今までは、生活保護と最低賃金を比 較して考えるというのは一切なかったのですか。 ○樋口座長  最低賃金にかかわる行政機関としてはないのではないでしょうか。 ○前田賃金時間課長  地方最低賃金審議会の審議の際には、生活保護の基準などは当然資料として出され て、参考資料として見ながら決定するのです。目安を出すときに、先ほどから説明があ ったように賃金改定状況がかなり大きなウエイトを占めるということで、改定率が実際 上大きな役割を果たしてきたということは否定できないと思います。 ○樋口座長  特に前回、神代先生からヒアリングをしたときにこの問題が出されていて、逆転して いるのではないかという話がありました。逆転しているとすれば、逆に今度はモラルハ ザードの問題が起こってくるわけで、生活保護との関係で、そこのところが今までは、 役所も違ったのかもしれませんが、独立してあったわけです。他の国でもどうだという 話も出てきたので、この際、そこのところはモラルハザードの問題をどう考えるかとい うのが向こうの、あれは何審議会でしたか。 ○前田賃金時間課長  社会保障審議会の部会、生活保護の専門検討会になります。そこで最近報告書が出さ れています。その中で、自立支援などに重点を置いてやっていくということで、就労支 援のようなことをより強化していこうという方向性が出されています。 ○樋口座長  向こうも、かつては事後的な所得保障の意味、働けないのだから仕方がない、所得を 保障しよう。それをむしろ積極的な、ポジティブマンパワーポリシーの色彩がかなり強 くなってきています。そうなってくると、こちらとのリンクをどうするかが新たな問題 として出てくるということだと思います。 ○古郡先生  生活保護と最低賃金を比較したときに、生活保護の方が高いといっても、生活保護の 算定基準が正しいかどうかという話も出てきます。両者の比較という点に限っていえ ば、最低賃金が低すぎるのではなくて、生活保護が高すぎるということは考えられます か。 ○大竹先生  厚生労働省という、同じ役所で最低賃金制度と生活保護制度における最低生活水準を 決めるということになってきます。最低賃金の考える最低生活水準と、生活保護の考え る最低生活水準が違ってくるというのは難しいかもしれない。 ○前田賃金時間課長  その辺はまた各論のところで、「安全網と最低賃金のあり方」で生活保護との関係な どご議論いただければと思っています。 ○樋口座長  コスト・オブ・リビングを考える上では、どうしてもそこのところが出てくるという ことになると思います。今の役割、目的というところに関して、他にいかがでしょう か。 ○渡辺先生  法第11条の協約の拡張方式ではなくて、審議会方式の協約ケースについては公正競争 という概念があるわけですが、労使自治の精神が非常に活かされていて、それが地域で 安定的な、今は2分の1、改正のときは3分の1です。そういうことで決める最低賃金 制度というのは、要するに最も望ましいのは法第11条の拡張方式なのか、法第16条の4 の審議会方式で行くのかという議論はあるわけです。これについては、ここにおられる 方々はあまり話題にされない。つまり、公正競争ということでいろいろな議論があるの は協約ケース以外の賃金格差に着目して、公正競争の観点から審議会で決めるという方 の決め方に何か問題があるというか、そういう観点で議論されているのかなと思ってい るのですが、それはどうなのですか。協約ケースの方は問題ないということでしょう か。 ○樋口座長  先ほど、最低賃金の原理・原則と現実的な対応がミックスしていると申し上げました が、それを感じたのはまさにそこのところなのです。経済学で言う最低賃金の役割プラ ス、労使協約の促進とか、協議の促進を割と北浦さんも言っていたし、ここにかなり色 濃く出ています。そこのところは少なくとも経済学では、今まで最低賃金の役割として 考えてこなかったというのが本当のところだろうと思います。  ところが、実態はプラスアルファのところがあって、そのプラスアルファを目的・役 割のところに入れるかどうか。実はこれが産業別最低賃金と非常に関連してくるところ で、それは外しますということであれば、また議論はそれなりのすっきりしたものが出 てくる。 ○古郡先生  それは各論になりますか。 ○樋口座長  いや、各論ではなくて、目的に入っているのです。実態の例として、金子先生のもの を見ると「労使協議の促進」ということが書いてあります。 ○前田賃金時間課長  公正な賃金の決定ということと関連して、団体交渉の補完ということが最低賃金の役 割として、そういうことを持たすかどうかとの関係ですね。 ○樋口座長  我々というか、私はこの研究会に出るまでそこの点は認識していませんでした。 ○渡辺先生  資料4の4頁、申出の要件があって、「基幹的労働者のおおむね1/2以上に協約が 適用されており、協約締結当事者である労又は使の全部の合意による申出」とありま す。申出があった場合に必要性の有無をどのように決定するかというと、2分の1とい う数量的な要素と全部の合意、要するに労使合意、自治を満たしたかどうかという2点 なのです。ところが、公正競争ケースの場合には、「産業別最低賃金の設定を必要とす る程度の賃金格差が存在する場合に設定する」とあります。そういうことで、同じ産業 別最低賃金でも決定のモメントが違うのです。協約ケースの場合には賃金格差がなくて も、同一産業の中で最低賃金協定があって、それが2分の1なり3分の1以上ならば労 使が合意しているのだから決めましょうということで、別に賃金格差が顕著かどうかは 関係ないわけです。それは公正競争の概念の中に入るのかどうか。もっと労使自治とい うか、団体交渉の促進というか、賃金決定のあり方について、それは良いことだから最 低賃金としましょうということなので。 ○樋口座長  そこに国が関与する必要があるかどうか、というもう1つの問題が出てくるのです。 労使がやればいいのではないか、という話が出てくるのです。 ○渡辺先生  そうすると、やっている労使しかできないわけです。だけど、それが2分の1までき たら、そこで決めた最低賃金額を同種産業の人たちに及ぼしてもいいという、1つの強 制力を持たせるためには、何か公正な決定機関が関与するという形で、今賃金審議会が 関与していると思います。今後、産業別最低賃金を伸ばしていく方向というのは、これ を使いやすいようにしていくということは1つあるのではないかと考えています。 ○石田先生  金子先生がずっと説明してくる中で、今の点にかかわっては協約ケース、公正競争ケ ースに関係なく言っています。要するに金子先生の理解は、産業別最低賃金とは言って も、これも一般最低賃金なのだと。日本ではそう考えないとおかしいと。特に逆転現象 が起きていて、業者間協定から産業別最低賃金、遅れて地域別最低賃金という関係であ る以上、これを何とか育て上げて日本によく見られる賃金格差を、つまり公正賃金論を 実現するための道具にしていこう、援助していこう、支援していこうという考え方でこ のロジックは通しているわけです。それは渡辺先生などの考え方と非常に重なるのかも しれないと、今のお話を聞いていて思いました。 ○奥田先生  今渡辺先生がおっしゃった点で、もう各論的になるので今日の議論にはならないかと 思いますが、使いやすくしていくというとき、従来から使いにくくなっている要素など はかなり明らかになっているのでしょうか。 ○渡辺先生  今、2分の1だときつい、3分の1だときついという話はなくはないのですが、これ より低くすることはちょっと問題だなと考えます。法第11条方式より要件が非常に緩和 されているわけなので、2分の1、3分の1という点についてはあまり問題はないよう に思います。問題は「労又は使の全部の合意による申出」というので、全部というのが なかなかそろわないということもあったのではないかと思います。 ○樋口座長  それでは、役割・目的のところはまたあとで振り返ってくださっても結構ですので、 次の「最低賃金制度を取り巻く環境変化」について事務局から説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  資料7をご覧ください。まず1頁目以降、産業構造の変化ということで、一般的に 「就業者数に占める産業別構成割合の推移」ということであります。当然、第1次産業 がどんどん減って、現在ですと5%程度ということです。第2次産業も1990年代以降、 若干低下して、2000年だと30%弱かなというところです。第3次産業が65%程度まで就 業者が増えているということで、特にサービス業が増えているという状況です。  2頁は製造業部門別の就業構造の変化ということで、どういう職業に従事している者 が増えているかというものです。製造業の中でも生産工程、労務作業者といった直接部 門が減少して、間接部門が増えているというものです。それが基幹的労働者とは何かと いうこととの関連で、製造業の中でも製造部門が減っているということをどう考えるか という趣旨です。  3頁は業種転換の割合です。「工業統計表」で業種転換の率、中小企業白書2002年の ときに特別に集計したようですが、各年度において業種転換を行った事業所がどの程度 あるか。業種転換の定義として、「日本産業分類」の細分類ベースで転換しているかど うかということです。転換が中小企業で8%程度、大企業で5、6%程度ということで す。転換ということですから、最も主要な製品が変わるのが転換だろうと思います。そ れに至らないような、新たな分野への進出というのはこれ以上にあるということであろ うと思います。現在、そのような産業別を小くくりで設定していることと、業種の転換 といったことをどう考えるかということがあろうかと思います。  4頁が就業構造で、まず労働力調査で見たとき、正規の職員・従業員が割合的にも、 あるいは実数で見ても低下し、パートタイム労働者や派遣労働者等が増えているという 一般的なことであります。5頁が同じく就業形態の変化で、これは「就業形態の多様化 に関する総合実態調査」をもとに、同じく正社員が減って、それ以外の非正規社員が増 えているというものです。  6頁、同じ調査を産業別に見ていますが、特に飲食店,宿泊業あるいはサービス業、 卸・小売業などで正社員の割合が非常に低い。7頁、職種別に見ると、サービス、生産 工程・労務、保安、販売等で非正社員の割合が高いということであります。8頁は派遣 労働者が非常に増えているというものです。  9頁は賃金構造です。平成16年の「労働経済白書」から取っていますが、1992年から 1997年にかけては全体的には賃金水準は上昇していますが、1,600円未満のところは割 合が低下して、全体的に上方にシフトしたというものです。しかし、1997年から2002年 につきましては全体の水準も若干低下しているわけですが、賃金の低い層が非常に高ま っている。一方、賃金額2,000円以上の割合の低下は僅かであるということで、分散が 拡大しているというものです。  10頁はそれを年収ベースで同じく階級的に見たものです。こちらも全体として分散が 拡大しているということで、150万円未満の層が1992年から2002年にかけて増加し、一 方、700万円以上のところも増加している。その間のところは減っているということで、 分散が拡大しているというものです。  さらに正社員、パートタイム労働者を別に見たのが11頁です。正社員は500万円以上 の専門的・技術的なところで増加しているわけですが、それ以外のところは低下してい る。一方、パートタイム労働者は100万円から149万円を中心に割合が高まっているとい うものです。  次はパートタイム労働者、一般労働者の時間額で見た賃金格差が拡大しているという ことで、12頁は女性、13頁は男性という状況です。  14頁は賃金制度の見直しということで、仕事給の導入が増えているということ、特に 15頁で成果主義、業績に対応した賃金部分の拡大、あるいは職務や職種など仕事の内容 に対応する賃金が拡大しているというものです。  16頁が労働力人口で、今後、高齢化が進むということですが、17頁で年齢階級別に見 ると特に若年層、60〜64歳の所が失業率が非常に高く、雇用が厳しいというものです。  18頁は組織率です。平成15年に20%を割りまして、現在19.2%となっています。19頁 はそれを産業別に見ていますが、特に飲食店,宿泊業、不動産業、サービス業、卸・小 売業などが非常に組織率が低い。20頁はパートタイム労働者の組織率について見ていま す。3.3%ということで、非常にパートタイム労働者の組織率は低いという状況です。 資料7については以上です。 ○樋口座長  ありがとうございました。今の説明に基づき、最低賃金制度を取り巻く環境変化につ いてどういったことを議論していけばいいか、考えればいいかについてご意見をいただ けたらと思います。いかがでしょうか。  3頁の業種転換、中小企業では8から10%ぐらいが年々変わっているわけです。中身 を一度精査したことがあったのですが、例えば木造、木製品製造業が木造、木製品卸・ 小売業に移るとか、要はそれまで自分のところで作っていたものが輸入に移る。もう生 産はせずに、販売に特化するというような、非常に類似したところに移っている。とこ ろが、今の産業別最低賃金だと、販売になった途端にもしかしたら製造の方は適用され ないわけです。そのような、非常に微妙なところがある。境界線が固定しているもので はなくて、非常に流動的であるということがあります。 ○古郡先生  業種転換が頻繁に起こったり、産業のボーダレス化が起こったり、請負や派遣労働者 が増えてくると、産業別最低賃金が労働者の姿をうまく反映しているかどうかというの は非常に疑わしくなってくると思います。 ○樋口座長  労働基準行政としてやるときはどうするのですか、産業別最低賃金が適用されている かどうかというのは。 ○前田賃金時間課長  事業場単位で見て、主たる産業が何か、というところで作業を見るしかない。基本的 にはそういうことです。ですから、一番出荷額が多いとか、理屈から言えばそういうこ とになりますが、実態的に刻々と変わっているとなるとなかなか難しいところがありま す。 ○樋口座長  例えば分社化を進めて、製造部門と販売を分けるということが今頻繁に見られます。 1つの企業の中で販売も製造もやっているとき、例えば電機を考えたときには、電機の メーカーとしての最低賃金が適用されて、分社化してしまったら販売の方は適用されな いということになるのでしょうか。 ○前田賃金時間課長  企業というより事業場の単位ですので、販売が別の事業場であれば、もともと同じ会 社であってもまず製造の部門だけ適用されるということです。1つの会社で製造と販売 の両方をやっていて、その事業場がそれぞれ独立していれば、製造の部門だけに製造業 の産業別最低賃金が適用される。それが一体化されていると、どちらが主かで割り切る しかないということになろうかと思います。事業場として、販売部門が独立と見なされ ないような形で一体的になっていれば、どちらが主かということで全体をやる。分社を すれば独立しますので、それぞれ販売のところには当然製造業の産業別最低賃金は適用 されないことになります。 ○奥田先生  実務上も実際にどういう産業部門で働いているかを基準にして適用されている、とい うように理解していいわけですか、今のご説明だと。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○奥田先生  つまり、同じ一体の会社であっても、働いているところの産業部門によって適用して いるというご説明ですか。 ○前田賃金時間課長  事業場として独立していれば。 ○奥田先生  事業場として独立していればいいということですよね。 ○古郡先生  都道府県別の産業別最低賃金の資料は実に複雑ですが、新しく事業を始める人はこれ をみて、自分がどこのどの業種に属するかがわかるのでしょうか。 ○前田賃金時間課長  基本的には「標準産業分類」の小分類なり、細分類で、そこの事業場が何業に入るか ということになります。その事業場で製造なら製造で何が一番売り上げが多いかという ことで作業を分類します。 ○奥田先生  そうだとしますと、以前から出ている派遣労働者の場合、派遣元での業種が適用され るというのは、独立した事業場がどういう産業分類に属するかということと併せて、賃 金支払の義務者が誰かということも基準に入っている。そういう考え方があるから派遣 元ということになるわけですか。 ○前田賃金時間課長  現行の整理は、派遣労働者について賃金支払は派遣元がやりますので、一応派遣元を 産業別最低賃金のときには派遣先の事業場ではなくて、派遣元の方で考えるということ で整理していますので、賃金支払いと一番リンクしていることではあります。 ○奥田先生  それも基準になっているということですね。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○渡辺先生  だけど、それはおかしいのです。直していかなければいけないことだと思います。1 つの派遣会社から、製造業に派遣されている人とサービス業に派遣されている人で、産 業別最低賃金があったらそちらの賃金を派遣元が払うべきだと思います。現状がおかし いのです。 ○大竹先生  産業別最低賃金の1つの考え方として、基幹的労働者という考え方があります。パー トタイム労働者や派遣労働者というのは、その基幹的労働者に入るのか入らないのかと いう議論はあるのですか。 ○渡辺先生  今はネガティブリスト方式で、除外する人をやっていますから、それを見ると、年齢 とか、業務が清掃とか特殊なものしか除外されていないので、派遣労働者を除くという のは、就業形態によって除外するということは、今の産業別最低賃金の除外労働者の中 にはリストアップされていないので、理論的に言えば入るのだろうと思います。ところ が、はっきり言えば厚生労働省労働基準局長の指導が、派遣事業はサービス業でやると いうことになっている。雇用主が賃金を払うことになるから、産業別最低賃金は適用さ れていないということになっているではないですか。どういう監督指導をしているの か。 ○前田賃金課長  派遣会社は、産業としてはサービス業に分類されるということです。派遣労働者が製 造業に派遣されている場合については、賃金は派遣元が払っているので、製造業の産業 別最低賃金は適用されないという整理を今やっているところです。 ○樋口座長  実は請負もまた厄介なのです。最も厄介なのは請負で、オールラウンドにやっている 請負はサービス業なのです。 ○橋審議官  しかし、それも主たるものという。 ○前田賃金時間課長  請負の場合、主に製造業などで請け負っていれば、それは製造業に分類される。主に どの産業の請負をしているかによって、どの産業分類に入れるかというのは、請負業の 場合はどこを主にやっているかによって分けるということなのです。製造業を主に請け 負っていれば製造業ということです。 ○樋口座長  ただ、この間、ハローワークに行って。 ○前田賃金時間課長  ハローワークで求人の統計を出すときに、便宜的に請負はみんなサービスなどで集計 していることが多いです。 ○樋口座長  だから、そうなのかなと思ったのです。それは都道府県労働局によって違うのです か。 ○前田賃金時間課長  そこは業務統計の関係で、大阪労働局でも確かにそうしていました。ただ、「標準産 業分類」の考え方としては、請負は何業の請負かによって、それに従属して分類してい くというのが「標準産業分類」の考え方です。 ○樋口座長  大分類だと製造という形で、それは可能だと思います。だけど、小分類になったら、 電機の何とかという、主たる何かと言われても実際にこれは分けられないでしょう。 ○前田賃金時間課長  確かに、いろいろな業種を請け負っているとなかなか難しいと思います。 ○樋口座長  自動車も請け負ったり、電機もやったりというのが実態請負として多いと思います。 渡辺先生からご質問が出たのですが、指導でそれは出来るものなのですか。例えば派遣 の場合に。 ○前田賃金時間課長  派遣の場合にどうするかという考え方を整理し直して、それに基づいてやるというこ とは可能かと思います。今、派遣元でやるということは解釈でやっています。 ○樋口座長  そこも議論の対象として。 ○渡辺先生  今後も増えていく就業形態ですので、サービス1本でくくるというのはおかしいと思 います。どういう仕事をしているかということで賃金が決まらないと。 ○樋口座長  この間まで労働派遣法をやっていましたが、そこでは逆の話が。均衡の問題で、派遣 先労働者と派遣労働者の間の均衡の問題という形でさんざん議論してきたので、そう簡 単にいくのかなと思っています。  他はどうでしょうか。非正社員の増加の話など、いろいろ出ていますが、所得格差の 話も何かありましたら。 ○大竹先生  パートタイム労働者や低賃金労働者の人が増えてきているわけですが、やはり最低賃 金の役割が何かによると思います。増えていたとしても、現行の最低賃金の上のところ の人たちが増えているわけです。未満率を見てもそれほど変わっていない。低い賃金の 人そのものをなくしてしまうということまで理念に入れてしまうのかどうかは大きな問 題だと思います。  もう1つは、先ほどの産業別賃金のところで、基幹的労働者の最低賃金を最低賃金で しっかり確保していくという理念でいけば、パートタイム労働者の人たちを基幹的労働 者に入れるのか、入れないのかがもう1つ大きな議論になってくる。しかも、今度、労 働協約を拡大適用という形になってくると、パートタイム労働者、あるいは派遣労働者 など、そもそも現在の労働組合の人たちが同じ組合として入れることを望んでいるのか ということまで一緒にしなければいけない、という形のものを国として規定した方がい いのかどうかということも議論の対象になるような気がします。 ○樋口座長  未満率を計算というか推計するときには、パートタイム労働者やアルバイト、臨時労 働者、日雇労働者などが全部入ってのパーセントなのですか。これほど低いのかなと気 になっています。入って1%、2%という話なのですか。影響率の方にも入っているの ですか。 ○山口副主任賃金指導官  入っていますね。 ○前田賃金時間課長  賃金構造基本統計調査でいくと一般労働者とパートタイム労働者の常用です。賃金構 造基本統計調査で未満率、影響率を取っているときは。 ○樋口座長  そうですね、常用労働者だから「期間の定めのない労働者」ということですね。 ○古郡先生  「基幹的労働者」は、「当該産業に特有の又は主要な業務に従事する者」と定義され ていますから、パートタイム労働者であれ、もしそういった業務に従事していれば当然 基幹的労働者に含まれると考えていいのではないでしょうか。 ○樋口座長  含まれるはずなのですよね。 ○前田賃金時間課長  どのように「基幹的労働者」を定義するかということで、最低賃金決定要覧の中に具 体的に産業別最低賃金の対象労働者を書いているわけです。例えば要覧の27頁を見てい ただくと、「適用する労働者として次に掲げる者は除く」として、例えば北海道の乳製 品小売制度、一番上を見ていただくと18歳未満又は65歳以上の者とか、雇入れ後3カ月 未満で技能を習得し得る者、あと清掃・片付け、整理、雑役、炊事等の軽作業、こうい ったものを除くというネガティブリスト方式ですので、パートタイム労働者であって も、こういったものに該当しなければ適用されるということです。 ○樋口座長  制度上はね。それで未満率の統計を取るときにも。 ○前田賃金時間課長  統計については、「賃金構造基本統計調査」の場合には一般労働者、パートタイム労 働者については常用になりますのでパートタイム労働者は当然入っています。 ○樋口座長  常用パートタイム労働者ということですね。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○樋口座長  期間の定めのある労働者が増えている中で、ここのところは落ちている可能性はない のでしょうか。 ○橋審議官  基幹的労働者でも毎月勤労統計調査と定義は一緒だと思うのですが、全2カ月、18日 以上働いていれば常用労働者に入ってくる可能性があります。 ○樋口座長  毎月勤労統計調査の方は入っているのですが、賃金構造統計調査の方はベースがやや こしかったのではなかったですか。 ○前田賃金時間課長  そこはまた、統計を整理して。 ○樋口座長  未満率はどこに出ていたのでしたか。 ○前田賃金時間課長  資料6です。資料6の7頁は「賃金構造基本統計調査」でやっています。「賃金構造 基本統計調査」で言っている常用労働者については、期間を定めずに雇われている労働 者と、1か月を超える期間を定めて雇われている労働者と、1か月以内の期間を定めて 雇われている労働者又は日々雇われている労働者で4月及び5月にそれぞれ18日以上雇 用された労働者の3つが常用労働者に当たるとなっています。  8頁の方は「賃金構造基本統計調査」ではなくて、「最低賃金に関する基礎調査」に よるものです。8頁の方は、「最低賃金に関する基礎調査」で未満率、影響率を出して います。パートタイム労働者やアルバイトも入っているというものです。 ○樋口座長  影響率にしろ、未満率にしろ、他の国と比べて低いですよね、この間のフランスを見 ると。 ○渡辺先生  経済学者の意見を聞きたいのですが、影響率が低いというのは、使用者が頑張ってい るから、低いことは良いことだという意見があるわけです。もう1つは、これほど低い と最低賃金制度自体の存在感というか、あってもなくてもいいようなものになってしま う。経済学者はどう考えるのですか。低くても高過ぎてもいけないということなのでし ょうが、これだけ数値が低いのは使用者が一生懸命頑張って、適切な賃金を払っている から、そういう健全性の現れだというのです。 ○大竹先生  もし、本来最低賃金がなければ、最低賃金よりも低いところで雇われていた人が最低 賃金のおかげで引き上げられて雇われているのであれば、最低賃金のところにたくさん の人が雇われているはずなのです。それは結局、最低賃金を1円でも引き上げたときに 影響率が大きくなるという形で出るはずなのですが、それはほとんどないわけです。そ の意味ではあまり効果がないかなという気がします。  もう1つの可能性は、最低賃金がなければ、最低賃金以下で雇われていた人が全く雇 われなくなった場合でも、未満率も影響力も小さくなる。それは最低賃金があるから、 労働市場に悪影響を与えているというケースになると思います。  でも、賃金分布の形から推測すると、ほとんどそこに人はいませんから、その悪影響 はもともとないのではないかという気がします。どちらにしても、あまり影響してない という印象を持ちます。他の国、例えばアメリカなどの分布を見ると、最低賃金のとこ ろにかなりの人たちが働いていて、影響率はかなりあるわけです。そういう意味では、 最低賃金制度が有効に機能していると思います。最低賃金のところに働いている人がほ とんどいないというのは、機能していないと考えるのが自然かなと思います。 ○樋口座長  全く同感です。 ○渡辺先生  ただ、経済思想としては、機能していないことが良いことだという考え方もあるわけ です。もともと、法があってはいけないという。 ○大竹先生  それは最低賃金制度の目的が何かによると思います。1つの目的は独占力を行使し て、不当に低い賃金で雇われる人がいないようにするというものです。もし、そうであ れば、最低賃金があった場合には、最低賃金で人々が雇用されますから最低賃金のとこ ろに多くの労働者がいて然るべきとなるわけです。そのような独占力がもともとないと いうのであれば、最低賃金などない方が良いという形になりますから、機能しなくても 全然問題はない。そうすると、そもそも法自体の存在意義がないのではないかとなると 思うのです。 ○古郡先生  日本の場合、最低賃金は労使にあまり大きな影響を与えないように決定されてきまし たから、そもそもあまり高い水準にはないと思います。目安制度の下で労使仲良く審議 してきたということですから、実効力がないといえばないのかもしれませんけれど… …。 ○樋口座長  影響があるかどうかといったときに多分2つあって、賃金への影響と雇用への影響、 両方あるかもしれません。大竹先生が言ったのは賃金だけの影響ではなくて、両方にな いという意味だと思います。それが高く最低賃金が設定されることによって、雇用が失 われるという影響もない。  もう1つ、実は影響を議論するときに「労働の質」というのがある。例えば、アメリ カのミシガンでしたか、最低賃金を引き上げたときに、賃金にも影響ないし、あるいは 雇用も失われているわけではない。ところが、起こっていることは何かというと、今ま で例えばハイスクールの卒業生はあまりアルバイトをしなかった。専ら、ファーストフ ードのお店はドロップアウトした人たちが働いていたわけです。ところが最低賃金が引 き上げられることによって、卒業した人たちがアルバイトとして入ってきたために、ド ロップアウトした人たちが追い出されてしまったということが起こった。そうすると、 雇用の人数にも影響ないし、賃金にもないのだけれども、結果として労働の質が向上し たという影響があったという議論があります。多分、日本では質の面でも影響がないの ではないかという感じがします。それが良いかどうか。見方とすれば、最低賃金の役割 が果たされていないのではないかという見方もあれば、市場メカニズムを壊さないよう に運営がなされてきたという面もある。  そろそろ時間も来ています、他にご意見はありますでしょうか。もしないようでした ら、本日の会合はこの辺で終了したいと思います。事務局から連絡をお願いします。 ○前田賃金時間課長  次回は2月7日(月)、午後1時から開催したいと思います。正式にはまた追って連 絡します。次回は論点整理に従って、今日の議論に関連するかと思いますが、各論の中 でまず最低賃金制度の体系のあり方を中心にご議論いただきたいと思います。 ○樋口座長  本日の会合は以上で終了したいと思います。どうもありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)