輸血用血液製剤でHEV(E型肝炎ウイルス)感染が
疑われた事例(10月8日報告)について

 経緯
 平成16年10月8日夜、日本赤十字社から、遡及調査に伴い、供血者(1人)の保管血液でHEVの核酸増幅検査(NAT)陽性であった輸血(人血小板濃厚液(放射線照射))によるHEV感染の疑い事例の報告があった(輸血による感染は国内2例目)。
 当該内容を踏まえたHEV検査体制及び遡及調査の在り方について、同月14日、日本赤十字社と協議の上、翌15日に安全技術調査会の三代委員(厚生労働科学研究(肝炎等克服緊急対策研究事業)「本邦におけるE型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究」主任研究者)に当該情報を提供するとともに、その後主治医等から入手した情報を加えて18日に日本赤十字社、血液対策課、三代委員と協議した。
 なお、平成15年度には2,452例中15例にHEVのNAT陽性が判明し、15例の血液については遡及調査の結果、医療機関へ提供していない。
日本赤十字社は平成15年度から同社の安全対策8項目の一環として、また三代班の研究班員として全国のALT高値の供血血液を集め、HEV検査を実施していたところ、平成16年度分として集めた38例のうち3例にHEVのNAT陽性が判明し、遡及調査の結果、うち1例の過去の献血血液に由来する血液製剤が医療機関へ提供・使用されていることが判明した。

 事例
 60歳の男性。原疾患はリンパ腫。本年9月9日に、輸血(人血小板濃厚液10単位を1袋分)を受ける。
 輸血前の保管されていた患者血液(本年8月6日)でHEVのNATは陰性であったが、輸血後の本年10月1日及び4日の患者血液はHEVのNAT陽性であった。
 18日に供血者保管検体及び当該受血者(患者)血液の塩基配列が一致していることが報告された。

 供血血液又は供血者に関する情報
(1) 輸血された血液製剤について
 当該製剤に関わる血漿は、原料血漿1本であり、確保済み。
(2) 供血者の情報
 供血者は、ALT軽度高値以外に何ら症状・異常所見はみられない。供血後1ヶ月目でHEV-RNA陰性となり、2ヶ月目にHEV-IgG抗体及びIgM抗体検査が陽性となった。肝機能検査値は、ALT(GPT)20。

 今後の対応
(1) 受血者(患者)への治療
 輸血後90日でHEV-RNA検査陰性、95日でAST(GOT)21、ALT(GPT)26。
(2) HEVの輸血による安全対策
(1) 献血時HEV検査等の実施体制の検討(案)
 HEVは主として経口感染と言われていることから、問診を徹底することで対応する。
 なお、問診票の改訂には時間が掛かること、感染実態の把握が不十分であること等から、まずはHEV陽性率が高い北海道において該当する質問を文書で示しつつ、口頭説明を行い、疑われた者の血液についてHEVのNATを行い、陽性検体は使用しないこととする。
問診票の改訂及び問診時の確認事項
 まずはHEVのNAT陽性率の高い北海道※1 において、受付で「過去3か月以内※2 に豚・猪・鹿※3 の生肉(刺身、ルイベ)又は生レバーを食べたか(生焼けを含む)」確認する。なお、受付の質問で該当する者を全て除外することは、血液製剤の安定供給に支障を来す可能性があることから、まずはデータを収集し、適宜、本調査会等で検討していただく。
※1 平成15度疫学研究でALT異常2,452検体におけるHEVのNAT陽性率を調査した結果、ALT200IU/L以上の検体でみると、北海道で4.6%(全国平均1.1%)。
※2 厚生労働省「食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A)」による潜伏期間が2〜9週間(平均6週間)。
※3 厚生労働省科学研究「本邦におけるE型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究」平成15年度研究報告
検査の検討
 供(献)血者全例にNATを実施するには、体制整備の面で時間を要すること、現在のNATの感度についても研究段階にあること等から、NATの実施は受付での質問で感染の可能性がある者全例に限定する。
(2) 遡及調査の検討(案)
 医療機関からの副作用感染症報告による場合は、これまで通り、ガイドラインの対象病原体と同様に遡及する。なお、供(献)血者からの情報に基づく遡及調査は、感染実態の把握が不十分であることのほか、ウイルスの体内動態が未解明でもあり、現時点では遡及期間の設定が困難であることなどから、当該施策を通じ得られる各種結果や研究班での研究結果などを踏まえて、本調査会等で御検討いただきたい。
(3) 血漿分画製剤製造時の検討(案)
 今回提案しているガイドラインの対象病原体と同様に取り扱う。

〈HEV(E型肝炎ウイルス)〉
 熱帯亜熱帯の大規模集団発生ではwater−borne、先進工業国での散発例ではzoonotictransmissionが主な感染経路と考えられている。HEVの感染が確認されている動物(即ちHEVゲノムが檢出された動物)は、ヒト、ブタ、イノシシ、シカ、ネズミであり、推定される動物(即ち抗体が檢出されるに留まっている動物)は、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ、ニワトリである。
 このうち、現在までにヒトへのHEV感染が直接証拠を以て証明された動物はシカであり、夛數の間接証拠よりほぼ確実視されている動物は、イノシシとブタである。
 HEVは加熱あるいは凍結融解に対して脆弱である。肝臓、脾臓、腸管での増殖が確認されている(マイナス鎖RNAの証明)が、骨格筋および心筋での増殖の証拠はない。
 若年者には不顯性感染が多いとされ、重症化のリスク因子は、高齢、妊娠、飲酒である。

トップへ