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「労災保険料率の設定に関する検討会」報告書(概要)
─ 労災保険率、業種区分、メリット制 ─


I.検討の経緯
 労災保険率は、関係法令の定めにより業種別に設定されているが、平成15年12月、総合規制改革会議の第三次答申において、業種別リスクに応じた適正な保険料率の設定について、より専門的な見地から検討すべきとされたところである。
 これを受けて、社会保障、保険、経済等の学識経験者からなる「労災保険料率の設定に関する検討会」を開催し、近年の産業構造や就業構造の変化等を踏まえ、労災保険料率の設定に関する主な論点(労災保険率、業種区分、メリット制)を網羅する形で総合的に検討を行った。


II.報告書(案)の概要
1.現状と検討課題
(1)労災保険率
 (現状)
 ・ 労災保険率は51の業種区分ごとに、以下の考え方に基づいて設定し、原則として3年ごとに改定している。
 ・ 業務災害分に係る料率は、短期給付(療養補償給付、休業補償給付等)分については一定期間(3年間)の収支が均衡するように賦課する方式(「純賦課方式」)、長期給付(傷病補償年金、障害補償年金、遺族補償年金等)分については災害発生時点の事業主集団に将来給付費用を賦課する方式(「充足賦課方式」)を採用している。
 ・ 業務災害分に係る給付の一部に相当する費用については、全業種一律の賦課としている。また、非業務災害分(通勤災害分等)、労働福祉事業及び事務費分については、全業種一律の賦課としている。
 ・ 改定に際しては、労災保険率が過大に変動することがないよう激変緩和措置(平成15年度は±4/1,000以内の改定)等を講じている。

(検討課題)
 業種ごとに異なる災害リスクを反映した適正な労災保険率のあり方について、検討が必要。
 労災保険率を設定するルールについては、現状において必ずしもその全てにわたって明確に示されているとはいえない状況があることから、 今後はより明確なルールを示す必要。
 労災保険率改定のプロセスを通じての基礎資料の公開、決定手順の透 明化について、より一層の改善方策を検討する必要。



(2)業種区分
 (現状)
 ・ 労災保険率の設定に係る業種区分は、51業種に区分されている。
 ・ 業種区分は、業種ごとに作業態様の差異により災害率が異なるという実態を前提として、労働災害防止インセンティブを有効に機能させるという観点から、作業態様や災害の種類の類似性のある業種グループに着目して、当該グループごとの災害率を勘案して分類している。また、保険集団としての規模等についても勘案することとしている。
 ・ 現状の区分では災害率の比較的高い製造業、建設業等では区分が細分化されているのに対し、サービス業を中心とする第三次産業については比較的大括りの区分となっている。

(検討課題)
 産業構造の変動、技術革新の進展及び保険集団としての規模等の状況を踏まえ、業種区分について改めて検討する必要。



(3)メリット制
 (現状)
 ・ メリット制は、一定の適用要件(事業規模)を満たす事業について、個々の事業の労災保険の収支に応じて、非業務災害分を除く労災保険率(料)を増減させ、「継続事業」(建設事業等の有期事業以外の事業)については±40%の範囲で、建設の事業等の「有期事業」については±35%の範囲で増減させる制度である。
 ・ メリット収支率別の適用事業の分布を見ると、メリット制適用事業の8割以上の事業で保険料が減額されるとともに、−40%の最大引下げ又は+40%の最大引上げの区分に事業が集中している。
 ・ 一定の安全衛生措置(労働安全衛生規則第61条の3第1項の規定に基づき認定を受け事業主が講ずる快適な職場環境の形成のための措置)を講じた中小企業がその適用を希望した場合に、メリット増減幅を±45%の範囲で増減させる「特例メリット制」が設けられているが、活用状況が低調となっている。

(検討課題)
 メリット制に係る適用事業の要件をどう設定するか。
 メリット増減率の幅をどう設定するか。
 継続事業と有期事業のメリット増減率の幅に差があることについて、検証が必要。
 特例メリット制については、中小企業の安全衛生水準の向上等に資する有効な政策として活用を推進する方策について、検討が必要。



.今後の基本的な対応
 労災保険率の設定に係る主な論点に関し総合的に検討を行った結果、新たに、労災保険率の設定に係る今後の基本的な対応についての考え方を以下のとおり取りまとめた。
 行政においては、このとりまとめを踏まえるとともに、審議会における検討等の所要の手続きを経て、労災保険率の設定に関する基本的なルールを改めて策定し、これを明示することが必要であると考える。
 さらに、労災保険率の改定に際しては、改定の基礎となる資料を公開するとともに、これに基づいて審議会での検討を行うなど適切な手続を経て、労災保険率の設定を行うことが必要であると考える。

(1)労災保険率
  イ 基本的考え方
   (1)労災保険率設定の原則
   ・ 労災保険率は業種ごとに設定し、原則として3年ごとに改定することが適当である。
   (2)業種別の料率設定に係る基本的な財政方式
   ・ 業務災害分の料率については、短期給付分については一定期間(3年間)の収支が均衡するように賦課する方式(「純賦課方式」)、長期給付分については災害発生時点の事業主集団に将来給付費用を賦課する方式(「充足賦課方式」)により算定することが適当である。
   (3)全業種一律賦課
   ・ 災害発生より3年を経ている短期給付分、災害発生より7年を超えて支給開始される長期給付分、過去債務分(昭和63年度以前の年金受給者に係る将来給付費用の不足分)については、全業種一律賦課として算定することが適当である。
   ・ 非業務災害分(通勤災害分等)、労働福祉事業及び事務費分については、全業種一律賦課として算定することが適当である。

  ロ 激変緩和措置等
   ・ 労災保険率は、原則として、上記イにより算定された数値とすることが適当である。
   ・ しかし、大幅に引き上げることとなる場合には、一定の激変緩和措置を講ずることもやむを得ないと考えられる。激変緩和措置の具体的な内容については、今後の料率改定時において、過去3年間の数理計算も踏まえて改めて設定することが適当である。
   ・ さらに、急激な産業構造の変化に伴う労働者数の減少により、収支が著しく悪化している一部の業種については、通常の激変緩和措置を適用するだけでは労災保険率が際限なく上昇することも想定されることから、一定の上限を設ける必要があるかどうかについて、労災保険率等のこれまでの状況等を勘案し、過去3年間の数理計算も踏まえて検討することが適当である。
   ・ 激変緩和措置等を講ずることにより財政的な影響が出る場合には、必要な所要額については全業種一律賦課とすることが適当である。


(2)業種区分
  (1)業種区分の原則
   ・ 業種区分は、労働災害防止インセンティブを有効に機能させるという観点から、作業態様や災害の類似性のある業種グループ等に着目して、当該グループごとの災害率を勘案して分類する。併せて保険集団としての規模及び日本標準産業分類に基づく分類等も勘案することが適当である。
  (2)「その他の各種事業」の分割
   ・ 「その他の各種事業」については、(1)の考え方に基づき、事務従事者割合の比較的高い業種を取り出し、災害率、保険集団としての規模等を考慮した上で、日本標準産業分類に対応して、「新聞業、出版業又は通信業」、「卸売業、小売業、飲食店又は旅館その他の宿泊の事業」、「金融、保険又は不動産の事業」を分割し、新たな業種区分とすることが適当である。
   ・ 「その他の各種事業」について上記の分割に加えて、今後必要に応じ業種を適時適切に分割することができるよう、「その他の各種事業」の適用事業細目をより適切に設定し、収支状況等のデータの収集・整備を行うことが適当である。
  (3)統合の検討
   ・ 保険集団としての安定性を維持するため、規模が小さい業種については、今後の労働者数の変化等の動向を見つつ、統合の検討を行うことが望ましい。
   ・ ただし、急激な産業構造の変化により保険収支が著しく悪化している一部の業種については、現状の業種区分を維持することとした上で(1)のロの激変緩和措置等の必要な対応を行うことが適当である。


(3)メリット制
 ・ メリット制は、事業主の労働災害防止インセンティブを促進するために必要なシステムである。
 ・ メリット制の適用要件については、メリット制の趣旨を踏まえて設けられた現行の適用要件に係る前提条件等に変化がないこと等から、現状どおりとすることが適当である。
 ・ 継続事業のメリット増減幅については、制度が導入された当時と比較して災害率が相当程度低下している現状においては、メリット増減幅の拡大による災害防止効果を予測することは過去に比べて難しくなっていること、メリット増減幅の拡大に伴って見込まれる保険料収入の減少を補填するために労災保険率のベースの引上げが必要であること等から、現在の増減幅(±40%)を維持することが適当である。
 ・ 有期事業(建設の事業)のメリット増減幅(現行は±35%)については、近年の災害発生状況等に鑑みて、継続事業との差を設ける合理的な理由は無くなってきていることから、継続事業と同じ増減幅にすることが適当である。
 ・ 特例メリット制については、中小企業への安全衛生措置の導入を促進するため、対象となる安全衛生措置を追加することが適当である。


.今後の状況変化等への対応
 今後とも、労働災害の実態、産業構造・技術変化等を踏まえた労災保険財政の健全な運営及び適時適切な見直しに資するため、専門家の参画も得て、業種区分、メリット制の機能をより高める方策等について、継続的に検討することが望ましい。


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