04/12/21 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(呼吸器ワーキング・グループ) 第1回議事録 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(第1回呼吸器ワーキング・グループ)議事録 1 日時  平成16年12月21日(火)13:30〜15:30 2 場所  厚生労働省専用第11会議室 3 出席者 医学専門家:奥平博一、奥平雅彦、木村清延、斉藤芳晃、人見滋樹、横山哲朗             (50音順)       厚生労働省:菊入閲雄、渡辺輝生、神保裕臣、菊池泰文 他 ○医療監察官  ただいまより、「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会第1回呼吸器ワーキング ・グループ」を始めます。今回からしばらく循環器グループとは別に呼吸器ワーキング ・グループという形で、呼吸器等の障害について検討を進めていただくこととしており ます。なお、議事の進行をお願いする座長については、胸部部会全体の座長でいらっし ゃいます横山先生に、引き続きお願いをしておりますので、ご了解いただきたいと思い ます。  それでは、横山先生、よろしくお願いいたします。 ○横山座長  両方をお引き受けするのは僭越ではないかという気がしたので、ご辞退したのです が、どうしてもやれということですので、よろしくお願いいたします。  討議に入る前に、提出資料の確認を事務局からお願いします。 ○障害係  資料1、第1回呼吸器ワーキング・グループの論点、資料2、胸膜、横隔膜の障害の 取扱いのたたき台(素案)、資料3、胸腺を亡失した場合の取扱いのたたき台(素案 )、資料4、尾崎承一、「トレランスとその破綻」『内科学 第2版』、資料5、庄司 真理子、茂木伸一、「免疫学の最近の動向」、資料6、「国立がんセンター:胸腺 腫」、資料7、肺の障害の取扱いのたたき台(素案)。資料8、『呼吸リハビリテーシ ョンマニュアル』以上です。 ○横山座長  それでは、胸膜、横隔膜の障害の取扱いについて検討していただいた上で、今回から 胸腺を亡失した場合を含めて、その扱いをこのワーキング・グループで検討することに なっております。これには大変難しい問題があります。胸腺亡失の場合どう考えていく かというご議論を先生方から頂戴したいということですので、よろしくお願いいたしま す。  肺の障害の取扱いがいちばん中心になってきますので、その点から始めたいと思いま す。胸膜、横隔膜の障害を含め、事務局からご説明をお願いします。 ○医療監察官  資料番号1及び資料番号2により簡単に説明します。  資料番号1の1頁は、今回の検討会の論点について、中心的にご議論いただきたい点 ということでまとめたものです。こちらの論点の扱いによって、後から説明します報告 書のたたき台の作りも自ずから変わってきますので、ここに書いてある論点を中心にご 議論いただければ有難いと考えております。  胸膜、横隔膜の障害の取扱いについては、事務局は、論点としては1つと考えており ます。現在胸膜、横隔膜それ自体を障害として評価しています。認定基準になっている わけですが、これを改めたらどうかと。どう改めるかと言いますと、胸膜、横隔膜が傷 ついて、それによって肺の機能障害が現われた場合に、初めて評価すればよいのではな いかという考え方に沿い、そのたたき台を3頁以下の資料番号2に作っておりますの で、こういった観点でよろしいのかどうかを、ご議論いただければと思います。今回初 めてご議論をいただきますので、とりあえず読み上げさせていただき、ご提案とさせて いただきます。 ○障害係  (資料番号2読み上げ) ○横山座長  専門の先生方に各論の話で、却って煩わしかったのではないかと思うのですが、法律 用語では、「ろく膜」と「胸膜」のどちらを使うのですか。 ○医療監察官  現行では「ろく(胸)膜」としており、この辺は、どちらかにしたほうがいいと思っ ています。最近の認定基準の人は、胸膜肥厚斑とか、胸膜という言葉を使っておりま す。昔は、両方を並記していたと思います。 ○横山座長  このワーキング・グループでは、「胸膜」という言葉で通して、最後にまとめる段階 では、そちらにお任せしたいと思います。  いまの話で、何かご質問、ご意見はありませんでしょうか。 ○奥平(雅)先生  いまのろく膜と胸膜の問題ですが、文部科学省の『学術用語集』が2003年に出ていま すが、それには「胸膜」とだけしか載っていません。そういうものに基づいて「胸膜と する」としておいたほうがいいのではないかと思います。  あと、3頁の上のほうで、2(1)5行目、「胸腔の伸展性」となっていますが、4 頁のいちばん最後の行では、「胸郭の伸展性」となっています。これは「胸郭」のほう がいいと思います。  言葉の件で、4頁の下から4行目に、「胸郭の損傷後炎症」となっていますが、これ を「損傷後の炎症」とするとか。上の、損傷後の癒着に対応して、「胸膜の損傷後の炎 症」とする方が。 ○横山座長  「損傷に由来する炎症」とか。 ○奥平(雅)先生  あるいは、「損傷あるいは炎症」なのか。「損傷後の炎症」とか。その辺を。 ○医療監察官  原因によるを、「由来する」と直してもいいと思っております。 ○横山座長  とりあえずは、「損傷後の」と、「の」を入れていただく。 ○木村先生  これも文言で、4頁の4(1)胸膜の損傷による云々の5行目、「胸膜癒着を除き、 肺が以前と同様に再膨張すれば、基本的に肺に障害が残ることはなく、以前の状態に復 さないということであればとなっていますが、これは仮にという意味ですよね。普通は 治るのだと。仮に以前の状態に復さないということであれば、肺の機能障害が生じるこ とになるので、という意味ですよね。 ○医療監察官  そうです。 ○木村先生  続けて読んでいくとちょっと分かりづらい。言っている意味は分かるのですが。 ○奥平(雅)先生  5頁の上から2行目、「癒着の程度や胼胝の形成の程度によって」という文言は、私 ども解剖をしている立場での感じから言うと、「胼胝形成の範囲と程度によって」と、 「範囲」を入れたほうがいいのではないでしょうか。 ○横山座長  そうですね。「範囲と」を入れてください。それから5頁の(3)の所、その前にも あるのですが、「収縮性」とありますが、これは「伸展性」として下さい。 ○人見先生  5頁の(4)の所の結論ですが、横隔膜ヘルニアも安定して、胸腔内に腹部臓器の一 部が入ったままの状態にある症例があります。これは無理に整復する必要が無い。しか し、肺機能はそれだけ低下している。治療して整復する場合には、癒着があれば、剥離 や剥皮が必要となり、侵襲の大きな手術が必要となる。例えば、胃や小腸の大きな部分 が胸腔内に入っていても、食物の通過障害が無く、手術は大変なので放置する症例があ る。治癒状態ではあるが肺機能は物理的に減少しているので、肺機能障害は残っている という症例があります。数は極めて少数です。 ○人見先生  これは災害でしょうから、多分、横隔の断裂なのでしょうね。先天性のものは扱わな いのでしょう。 ○医療監察官  はい。 ○人見先生  そうすると、断裂が起こって入ってしまって、下に引っ張り下ろすのも普通はするけ れども、もう固まってしまって入ったままというのがあります。それで、ほとんど症状 がないから放置してもいい。だけど肺機能は絶対損傷していると。安定した状態もあり 得ると思うのですけれども。 ○医療監察官  いま先生がおっしゃったような場合には、肺の機能障害の程度によってという形で。 ○人見先生  そうです。 ○課長補佐  いまのお話は、ある状況においては障害として評価すべきであるということでしょう か。 ○人見先生  そうです。 ○課長補佐  原案は横隔膜ヘルニアというのは障害の対象にならないと、それに近いことを言って いるわけですけれども。 ○人見先生  それはないですね。 ○課長補佐  すなわち、ヘルニアが生じている状態では、全部治療ですと。だから、ヘルニアが生 じている段階では治ゆにしませんので、治ゆにしないということは障害として評価する 余地がないという、原文はそういう形で書かれている。 ○横山座長  そうです。 ○人見先生  どうでしょう、安定しちゃうけれどね。例えば、ここに胸膜の胼胝ができて、肺剥皮 術で肺機能が少し治るかもわからないけれど、治すのは、手術としては大変な手術で、 むしろ肺瘻ができたりして難しいことがあるから置いておこうかというのが、今までの 胼胝はそのままで、あとは肺機能の障害の程度に応じて認定するとなったわけですね、 胸膜のほうは。  それと同じことが横隔膜ヘルニアでもあって、入ってしまったと。だけどその周囲は 胼胝で固まるわけです。そうすると、わざわざ横隔膜を開けて腹部臓器を引っ張り出す ような治療はしない。肺剥離手術をしないと同じ理由でね。そうすると肺機能は治った としてもいいと思うのです。ずっと治療することはないから。 ○医療監察官  多くは治療の対象になるのだけれども、通過障害などが起こらずに症状が安定してい るときには、肺の機能障害の程度に応じて、障害を認定することが適当であるという形 で当面したらいいという。 ○人見先生  いいと思います。例えば気胸が起こって水がたまって、できるだけドレーンで取っ た、だけど胼胝が残った、それを判定するのと同じ程度に、横隔膜ヘルニアは治ったと していいよ。胃袋はあるけれども、触る必要はないし、障害もない。症例としては非常 に少ないけれどある。だから、障害認定の程度は肺機能でいいのではないでしょうか。 ○医療監察官  基本は治療の対象になるのだけれど、通過障害等がないもので治療を要しない場合、 肺の機能障害の程度に応じて障害等級を認定すべきだという形で書けばいいという。 ○人見先生  はい、いいと思います。 ○横山座長  では、次にいきたいと思います。ここで胸腺の話が出るわけですね。 ○課長補佐  はい。胸膜と横隔膜については、以前は、そこに何らかの傷がついたということだけ で障害の対象としましたが、今後はそうしないと。肺の機能に何らかの影響がなければ 障害として評価しない。 ○横山座長  影響がなければです。 ○課長補佐  そういうことでよろしいということですね。分かりました。 ○人見先生  胸壁、肋骨、筋肉、皮膚も対象になるのでしょうね。 ○横山座長  私もそのことを質問しましたが、胸壁の問題については整形外科のほうで議論してい るからということだったのです。 ○医療監察官  胸膜、横隔膜についてはきちんと、それだけで障害と決まっています。胸郭について は、実は何も触れられていないのです。胸郭が変形すれば肺の機能障害になりますと。 これは当たり前の話なのですが、そちらについては次回以降、いろいろな原因で肺機能 が低下しますという中で、ご議論をいただきたい。今回は、なぜこれに絞ってご議論を いただいたかと言いますと、少し胼胝のようなものができているというだけで、何級と は書いていないのですが障害ですと書いてある。そうではなくて肺の機能障害があれ ば、認定しましょうという形に変えたらどうですかということで、ご提案させていただ いたのです。胸郭については、次回以降にご議論をいただければ有難いと。 ○横山座長  おそらく、胸郭変形を整形外科グループで議論するとなると、呼吸機能という面はあ まりやらないのではないでしょうか。 ○医療監察官  先生のおっしゃるとおりです。肋骨がどれだけなくなって、外から見たら、何か変形 しているねということしか整形の分野では評価しませんので、その点で胸郭変形は、ま さしくこちらのワーキング・グループでご議論をいただければ非常に有難いなと。 ○横山座長  私は神保医療監察官とあまり詳しく詰めて議論していないのですが、胸部臓器の機能 障害についてここで取り上げるというのは、疾患別にやるとなかなか大変な問題になり ます。今日は時間いっぱいご議論いただくとして、次に「肺呼吸器の機能障害の全般の 把握」という1つの大黒柱を作って、それに枝・葉でいろいろなことを、例外的な問題 も含めて入れていただくことにする。総論的な意味での呼吸器の機能障害という1つの 大きな判定基準を、まず考えてみるということでどうでしょうか。 ○医療監察官  そうしていただけると非常に有難いです。肺はいろいろな原因で肺機能が落ちるけれ ど、肺の働きというのは何なのだと、どういう点に着目すれば肺の機能が落ちている、 どのぐらい落ちているのだと、どれだけ大変なのですかというのが、統一的な概念でき ちんと説明ができれば、あとは業務上の傷病かどうかが決まればいいということですの で。 ○横山座長  業務上の疾病の診断がついていて、このワーキング・グループの検討対象となりま す。それがどのぐらい悪くなっているかを総括的に評価する物差しを、ここで考えてい ただくということで進行したいと思います。  では、胸腺の話に入ってください。 ○医療監察官  資料番号1、6頁と、資料番号3の胸腺を亡失した場合の取扱いのたたき台に沿って 説明します。  1頁目。胸腺はかなりホットな領域のようですが、基本的には成人期以降については 機能しないというのが今までの考え方だろうと。ただ、資料として文部科学省の附属機 関、科学技術政策研究所の科学技術動向センターの論文を付けています。アメリカの学 者が、成人期以降も胸腺が一定の役割を果たしているという報告もしています。ただ し、実際に胸腺腫の豊富な症例を持っている国立がんセンターではどう見ているのか。 これは国立がんセンターのホームページから引っ張ってきたのですが、こちらを見る と、基本的には成人期以降は機能を失っているので、全摘をしても概ね問題なく日常生 活が送れると書いています。そういう意味では、いま非常にホットな領域で、かなり確 からしい報告も出てきているとはいうものの、成人期以降の胸腺の機能について一定の コンセンサス、これぐらいは大変なんだというコンセンサスが得られているとまでは言 えないので、胸腺亡失については今後の検討課題ということにしたらどうかと。  各先生方とご相談したときにも、なかなかエビデンスがないのではないか、というご 指摘もいただきました。そういう意味で、エビデンスが少ない中で無理に作ることは避 けたらどうかということで、今後の課題とするというご提案をいたしました。  6、7頁を読み上げて、提案とさせていただきます。 ○障害係  (資料番号3読み上げ) ○横山座長  何か、ご発言はありますか。 ○奥平(博)先生  簡単なところで、サイモポチエンというのはポエチンですね。 ○横山座長  そうです、ポエチンですね。 ○奥平(博)先生  それから「胸腺はT細胞又はTリンパ球を産生する組織」と書いてあるのですが、産 生はしないですね。産生する器官ではなく、骨髄の幹細胞が胸腺にきて、そこでいわゆ るエデュケーショを受けてT細胞になるわけです。後で「正確に言えば」と書くのでし たら、初めから正確に書いたほうがいいのではないかと思います。「ホルモンを産生す る内分泌器官」とありますが、胸腺が出すホルモンはいろいろありますが、いわゆる内 分泌組織とは違うのではないか。例えば膵臓の産生するインシュリンとは、ちょっと違 うのではないか  あと「T細胞の産生は基本的に新生児期に行われ」と書いてありますが、生まれる前 から胸腺のT細胞を、いわゆるエデュケートする機能が始まっているわけですから、新 生児期に行われるというのは、どうかなという気がします。「新生児期までに」とか。  あと、幼少期までになった場合は胸腺は重要な役割を果たしているのでしょうか。幼 少期では、すでにその役割は終えているというか、幼少期に胸腺を取っても大丈夫だと 思うのです。Tリンパ球には中枢性のものと末梢性ものがあって、胸腺でエデュケート されたものが胸腺以外の脾臓やリンパ節に定着した後は、T細胞を作り出す胸腺がなく なっても、末梢のリンパ球が増殖することによって、対処できると考えているのではな いかと私は思うのです。 ○医療監察官  「新生児期までには」と書いたほうが。 ○奥平(博)先生  私はそう思うのですが、もっと専門家はどう言うか分かりませんが、そういうのが普 通かなと思うのですが。 ○課長補佐  原文の出典はどうだったでしょうか。 ○医療監察官  原文の出典はいくつかあります。確かに先生がおっしゃるように、動物実験で、マウ スが生まれて3日以降にやったら何でもない。それまでにやると、ものすごいものが起 きますという動物実験があります。ごくごく初期が非常に大切なのだというのが先生の 言われるとおりなのです。 ○奥平(博)先生  でも、マウスと人間は違います。マウスは生後に胸腺を取ると免疫不全が起こりま す。それがマウスの新生児期です。人間の場合は、新生児期ではそういう過程は終わっ ていると、昔教わったように思うのです。 ○横山座長  その問題は最近ちょっと変わってきているんじゃないですかね。胸腺専門家は役割は まだ続いているのだと言っているのです。 ○奥平(博)先生  最終的には、そんなにコンセンサスが得られていないというところにもっていっちゃ うわけで、あまり細かいことを書くと、そこは意見が違うという形が出てくると思いま す。結局、コンセンサスが得られていないから、これ自体は問題にしないというところ に早く行ければ良くて、細かいことを書くと、いろいろ意見が出てくると思います。 ○課長補佐  その辺は大幅にカットして、要はこんな考え方もあるというぐらいは紹介しておきま すか。こんな考え方もあるようだと、いずれにしても、まだ確たるコンセンサスは得ら れているものではないというぐらいで、さらっと書くと。 ○奥平(雅)先生  解剖のときに気がつくのは、例えばバセドウ病のときには、50歳、60歳になっても立 派な胸腺を持っています。7頁の上から2行目、「退縮する組織であって『老化』した 」という、老化した組織という表現がいいかどうかですね。これも後で検討いただきた いです。 ○医療監察官  はい。 ○奥平(雅)先生  胸腺の存在場所ですが、「胸骨と心膜の間」というより、「上部」ということを入れ ておいていたただかないと、実像から外れるかも分かりません。 ○奥平(博)先生  よく分からないのは、「胸腺のみの亡失が問題となるのは、通常業務外の要因による と考える」と、業務外というのはどういうことでしょうか。 ○医療監察官  そこは前にも木村先生からご質問があったところです。いま労災保険の後遺症害の基 準をご議論いただいているのですが、労災保険については、仕事が原因で怪我をしたり 病気になりますということで、普通考えますと、胸腺がやられると外傷ぐらいだろう と。あと、転移するというのがあるのですが、転移の場合は肺自体がかなり重篤になっ ていて、これはずっと治療が続くと考えると、治療が終わりましたということを前提に したことは考えにくいと、そうすると外傷ぐらいでしょうと。 ○課長補佐  ここは本質的な問題ではないので、余計なことを書いてありますが、まあ。 ○奥平(雅)先生  胸腺のみの損傷が労務によって生じることは、ほとんどないということですよね。 ○課長補佐  そうです。仕事上のけがで胸腺のみが損傷することは、まず考えられないということ を言いたいだけなのです。 ○医療監察官  ちなみにという程度なのです。 ○横山座長  胸腺を扱っていないではないか、という抗議がきているのですか。 ○課長補佐  特段ないのですが、今回は胸腹部臓器全般について検討対象にするということになっ ていますので、胸腺も一応対象にはしないといけないだろうということです。結果とし ては、今回の認定基準の作成は見送りということです。それでも一応検討はしましたの で、これで十分だと思います。 ○横山座長  それでは、そういうことにして、後で文章を考えてください。 ○医療監察官  また後ほど相談させていただきます。 ○横山座長  これで本論の肺の障害の取扱いの問題に入れるわけですね。 ○医療監察官  はい。 ○横山座長  最初に5枚を読んでいただくわけですか。 ○医療監察官  何をご議論していただきたいかというところ、資料番号1の1頁目をご説明させてい ただき、その後、29頁から読み上げさせていただきます。 ○横山座長  ではどうぞ。 ○医療監察官  1頁目です。本日ご議論をいただきたい論点として4つ用意しております。1つは、 先ほど横山座長からもご指摘がありましたが、肺の機能障害の評価の基本的な考え方で す。いまの基準は、同じ肺機能の障害でも、肺病変との組み合わせで異なる評価をする ことになっています。胸部については抽象的な基準しかないのですが、じん肺の後遺症 害だけは詳細な基準が決められております。  お手元の『認定必携』の195頁に、「以上の関係を図示すれば次表のようになる」と いうことで表が出ています。心肺機能が中等度という者については、同じ中等度の方に ついて4型の人は7級、2型の人は11級ですということで、心肺機能は同じだけれど肺 病変が進んでいる人は重いという、現在はそういう基準になっています。同じ肺機能障 害の程度であっても、肺病変の程度が異なれば違う評価をするようにしています。  しかし、いまの省令はどうなっているかというと、資料番号は付いていませんが横山 座長に作っていただいた「胸部臓器の障害の程度」という1枚紙を見ますと、胸部臓器 の機能と労務の支障の程度によって決められていますので、肺の機能が落ちて同じよう に働けないと、省令上同じような級になるはずであろうと。先ほどの胼胝の所でもそう でしたが、肺の機能障害の程度で基本的に考えていけばいいのではないか、という事務 局の提案をさせていただいております。  同様の趣旨から、これも横山座長からご提案があったのですが、ご議論の1点目とし て疾病別というより、基本的には原因を問わず肺機能の障害の程度に応じてやればいい のではないか。疾病について、これは上げよう、これは下げようとかではなく、肺機能 障害の程度が違うということであれば当然違うことになるのですが、同じであれば病気 なりけがを問わず、同じように評価すればいいのではないか。いまはじん肺の合併症を 特出ししていますが、その必要はないのではないかということです。  2点目は、これは他の部会、あるいは胸部部会でもずっとご議論をいただいているわ けですが、どこから療養が必要ないとするのかというところです。これについて事務局 の提案としては、積極的な治療をしないと呼吸不全になる方は、呼吸不全の定義からす ると代償機能を失っていますので、その場合は療養が必要ということで障害補償を行う ことは適当ではなく、ずっと治療を続けていただくと考えます。病態的には、人工呼吸 なり酸素療法で落ち着いてはいるのですが、それをなくしてしまうと呼吸不全がひどい 方については、ずっと治療を続けてみたらどうかということです。  3点目以降は、いわば本筋の議論です。それでは障害とみたときに、肺の機能障害は どういう点に着目してみたらいいのかということですが、肺の機能障害の本をいくつか 見ますと、どの本も「呼吸困難が労務支障の最大の要因」と書いてあります。それで、 基本的には呼吸困難の程度によるとしたらどうか。呼吸困難は息苦しいという自覚症状 と努力性呼吸の2つの要件からなっているようですが、いずれにしても、かなり主観的 な病態ですのでどう客観的にそれを捉えたらいいのかと。  1つは、呼吸困難は動脈血酸素分圧に逆相関するとされているので、動脈血酸素分圧 に着目することでどうか。ただ、動脈血酸素分圧だけではなく、他に客観的に把握でき るような呼吸困難の指標があるのかどうか。動脈血酸素分圧がそれなりに高くても呼吸 困難を訴える人がいますし、換気量が非常に多いのだけれども、その割に動脈血酸素分 圧が上がらない人は呼吸困難を感じると報告しているところもありますので、その換気 量は目安になるのかどうか。1秒量とか、%1秒量というものが目安になるのかについ て、ご議論をいただきたいと思います。  4点目は、体動時、運動負荷時の呼吸困難の評価です。動脈血酸素分圧は、基本的に は安静時の呼吸困難の背景を評価をする指標だと。特に、拡散障害のある方について は、安静時は大したことがなくても体動時は著しい呼吸困難になる。あるいは、著しい 低酸素血症になるということが分かっているということですが、他にそういうような場 合があるのかないのか、どのような場合に、安静時の評価だけで不適当な場合があるの か、というようなことをご議論いただきたいということです。  いまは呼吸器の領域においてもリハビリテーションがかなり普及し始めているといい ますか、効果があるのだと。集団療法が健保でも、個別でも認められるようになってき ています。一定の事前・事後の評価をきちんとしましょうという中で、『呼吸リハビリ テーションマニュアル』が3学会合同で作られました。その中で、呼吸リハビリテーシ ョンというからには運動負荷を念頭に置いているわけですが、1つの物差しとして、こ れはやるべきではないかと書かれているのが(1)(2)(3)です。その他にもあり ますが、体動時の呼吸困難の評価に関連するだろうというものだけを抜き出して書いて おりますが、この辺りについて御検討いただければと考えております。  4番についてはたたき台は何も準備していません。実は、事前に先生方の所にご説明 にあがったとき、この4番については先生方の考え方がかなり違いますので、この場で 先生方にいろいろと議論を交していただきまして、その結果を踏まえて、次回以降、叩 き台をお示しさせていただきます。本日は2頁の資料と、呼吸リハビリテーションの関 係する部分を34頁以下に付けてありますので、そちらを必要に応じて見ていただきなが ら、4番目の「呼吸困難の評価」について、ここまでは一致できるとか、ここは違うと かいうところまで、ご議論していただければ非常にありがたいと考えています。それで は資料7の29頁以下を読み上げさせていただきます。 ○障害係  (資料番号7読み上げ) ○横山座長  いろいろな問題を提案していただいたので、議論が尽きないと思いますが、3時半ま でやって、残ったものは来年回し、継続審議にさせていただくことを最初にお断りして おきます。どなたかご発言がありましたらご自由にどうぞ。 ○斉藤先生  この考え方というのは、じん肺に関しては、じん肺だけで結構きめ細かくいままで決 められてきたと思います。じん肺に関しては機能障害と、運動障害というか、仕事をや れないということは分けて考えてると思います。ただ、今回の提案というのは、むしろ その話をやめてしまい、いままで胸腹部臓器全体に考えるのに、肺機能の検査だけで決 めていこうという基準が正しいのかどうかという議論になるのですか。 ○医療監察官  肺機能検査だけにするかどうかというのは、まずは、基本的には原因を問わず、同じ ように呼吸器の障害で、軽易な業務しか就けないんですと。これが例えばじん肺だけ は、同じ動脈血酸素分圧でも違うのですよというのであれば、別に構わないのですが、 同じなのだが、じん肺だけは肺病変の程度に応じて認定するというのは理屈がないでし ょうと。基本は、障害の程度でやるものですから、例えば、肺を1側なくしてしまった と。その場合には、あまりシャントみたいなことはしないので、意外に50%しか肺活量 がなくても、それなりにいけるよと。しかし、閉塞性の障害のある人のほうが良いのと 悪いのが残っていて、運動時は非常に大変なんだと。それは逆に言うと、肺活量が同じ 50%でも、一方は高いというのは別にいいと思うのです。そういう意味で、同じ障害の 程度なら同じにします。ただ、原因だけで高くすることはやめたほうがいいのではない でしょうかということです。  じん肺について、安静時は大したことはないが、労作時が大変だということであれ ば、最後のほうでちょっと予定しているのですが、体動時の評価を行えば適正な評価が できていく。安静時と体動時がえらく違うのであれば、そのときには体動時の呼吸困難 を評価してあげて、高い等級にしてあげますと。  あるいはもっと言うならば、じん肺の場合、働けないレベルがもっと低いという知見 があればまた別ですが、基本的にはそういうことにはならないだろうと思っています。 あとは安静時とその体動時の組み合わせで、ここでは動脈血酸素分圧というのが客観的 なので、取りあえず言っているのです。他に、適当な値なり、適当な検査方法があれば ということです。ないのであれば、身障者も国年もそうですが、一定の客観的なもの と、本人と主治医の先生が見た呼吸困難の程度の組み合わせで、等級を決めているよう なところもあります。そういうふうにならざるを得ないのであれば、最終的にそういう ふうになっていくのではないか。そこは同じように困っている人は困っているなりに。 ○横山座長  話が少し食い違っていると思うのですが。昭和52年に検討したじん肺法の肺機能の評 価というのは、じん肺の場合にどうなるかという話をしているのであって、いまここで 労災保険の障害程度の判定をする場合の問題は、呼吸器全体について、まず大局的にも のを考えるという方向にいかなければならない。  いま読んでいただいたところでも、かなりじん肺のことをじん肺法での取扱いを意識 して触れていますが、私はこれはちょっと触れ過ぎではないかと思うのです。触れ過ぎ ではないかと思うというのは、現行のじん肺法で決めていることについて、あまり大き な齟齬を来たしては困ると思うのですが、もっと大局的にものを考えて、呼吸とはどう いうものなのかと考えていって、その中にじん肺の場合ではこうなるのだ、ということ が自然に残ってくればそれでいいのではないかという気がします。どうですか。 ○木村先生  いまの横山座長のおっしゃるとおりで、じん肺だけを特別に考える必要はない。疾患 の原因は問わず、呼吸機能の程度によって判定していくことは、私は非常に基本的なこ とで、正しい考え方ではないかと思います。  ただ、じん肺法というのを最終的に詰めていったときに、関連で、どう考えたらいい のかという問題が生じ得るのではないか。ということは、じん肺法ではここの部分から 労災になる。しかし、あるところまで呼吸器の障害はあるのだけれども、いままで認め られていなかった。今回、ここに関して言えば、じん肺で合併症を起こした人に呼吸器 機能障害程度を判定して、これはこれとして評価の基準を他と合わせていくと、合併症 が生じたがために、この人はじん肺としてある程度の障害なり、年金なりいけるのだけ れども、合併症は起こさない、しかしじん肺という労務によってまだ補償を受けていな い人という、いまのじん肺法を活かすとすれば、こことの間に大きな差が出てくるので はないか。 ○横山座長  もう少し深く進めていきますと、どこに問題があるかということがはっきりしてくる と思うのです。その段階でまた検討していくということでお願いします。  いちばん基本になるのは、ここで議論しなければならない「肺の障害」という言葉が 日本語で出てきていますが、これは一体何なのですか。というのは、昭和20年半ばに、 笹本先生が呼吸機能障害と呼吸器症状、日本語では「呼吸不全」と使われていますが、 英語で言うと「respiratory failure」という言葉と、「respiratory insufficiency」 という言葉があるが、これらははっきり区別しなければいけない。failureというのは、 もっと自覚症状などがいっぱい入っている漠然とした概念だと。insufficiencyという のは、病態生理学の言葉なのだと。これを区別していかない限り、この問題は必ず錯綜 してくるぞ、ということが「呼吸と循環」の論文に出てくると思うのですが、言ってい るわけです。ここで議論しなければならない肺の障害というのは何ですか。 ○医療監察官  ここで考えているのは、そういう意味で言うと、お前らちょっと整理が悪いのではな いかと言われ兼ねないのですが。呼吸機能が落ちる。そのことによって、仕事ができな くなる。それはいきなりできなくなるのではなくて、一定の症状を通じて働けなくなる ということが出るのでしょうと。そうすると、「呼吸困難」というところを避けて通れ ないのかなと。 ○課長補佐  言い方はあれですが、私どもの障害というのは、省令を見てもおわかりだと思います が、労働能力、働くということについての普通の一般人の能力と考えた場合、それがど の程度落ちたかということなのです。これが障害だと、我々は捉えています。働く能力 が落ちるということについて、肺の場合には、たぶん呼吸が苦しくなることによって、 いろいろな労作制限が出てくるとか、そういうことがあるだろうから、我々はいま提案 していることは、呼吸困難度と言いますか、そういったものを評価すれば、それが労働 能力がどのぐらい落ちるかに辿り着く。そうすると、労働能力がどのぐらい落ちるか、 つまり障害がどのぐらい出ているか、そこに辿り着く。そんな論理なのです。 ○横山座長  いまの話は、大変に大事なところなので、記録は大丈夫ですよね。 ○医療監察官  ちゃんと取ってあります。 ○横山座長  あとでテープが動いていなかったとかなると困るから。 ○奥平(博)先生  私の理解では、横山座長がおっしゃった「failure」か「insufficiency」という問題 になったら、「insufficiency」ではないかと。結局内容はそういうことですよね。 ○横山座長  いまのお話は私はfailureだと思います。 ○奥平(博)先生  私はそうだと思ったのですが。そうだとすると、「呼吸困難感」というのは、failure ならば必要ですが、insufficiencyだったら要らないというものが。 ○課長補佐  呼吸困難感ではないのです。呼吸困難度と言いますか。 ○横山座長  日本語の呼吸困難感というのは、これは正しい日本語ではないのです。呼吸困難その ものが患者さんの感覚であって。 ○課長補佐  ですから、フィーリングみたいなものではなくて。 ○奥平(博)先生  私は喘息の治療をよくやっているわけですが、呼吸困難感、息苦しいというのは、い ろいろな手法と違うのです。例えば、発作のときはテオフリンを使います。そうする と、呼吸困難感は非常に改善するけれども、呼吸機能は呼吸困難感の軽減に応じてあま り変化しないわけです。そういうことから言うと、先生がおっしゃったfailureか insufficiencyかということですと、もしfailureだとすると、非常に主観的な要素が たくさん入ってくるのではないかと思います。検査結果に基づいて公平にということで すと、failureだとかなり患者の主観、医者の主観は交じってくるのではないかと感じ たわけです。 ○横山座長  私がこんなことを発言した根拠は、いまのお話にポイントがあるのです。おそらく私 の想像では、行政の立場としては、患者さんの自覚症状というか、呼吸困難という問題 を全く無視して尺度を決めたのでは、具合が悪いということがあるのではないかと想像 したのですがどうでしょうか。 ○課長補佐  もちろん、主観だけで認定することはできないと思います。先ほどの私の説明が中途 半端だったかもしれませんが、呼吸困難の度合というものが、すなわち呼吸器の能力低 下とイコールなのかなと思っているのです。ですから、先ほど呼吸困難度みたいな言い 方をしたのですが、私どもの理解では、それが呼吸器の機能、肺の機能と言ってもいい のですが、そういう理解をしているのですが、そこが少し違ってくるのであれば、そこ をもう少し詰めて議論しなければいけないかなと思っています。 ○横山座長  私どもの医師としての立場から言うと、合理的な検査に基づいて評価した呼吸機能障 害という問題で話を進めたほうがいいのではないかという気がするのです。ただ問題な のは、労災も、じん肺法もそうですが、私ども医師が自分で納得のいくような肺機能検 査をやって判断するというのではなくて、大体、書類審査が多いわけです。そうする と、十分な検査がどこまでできるか。検査を行った人たち、検査の技師さんや担当医師 もそうですが、その人たちの技能の程度が一体どうなっているのか、ということはなか なかわからないところなのです。やはり、こういう法律で患者さんに利益をもたらすよ うなことを行っていく場合には、私が公平にやることが大変に大事だと思うのです。公 平にやるためには、客観的な指標というものがあってしかるべきなのです。現行の障害 認定の疾病の表を見てもわかるのですが、客観的なものというのはあまり書いていない のです。極めて大雑把な言葉で表現されているに過ぎないわけです。  これをこのワーキング・グループで1歩前進させる必要があるのではないか。そのた めには、私どもが合理的と考えているところの機能障害、インサフィシェンシーやイン ペアメントという言葉が英語ではあるのですが、呼吸機能検査によって把握できるもの を主軸にして、それに患者さんの訴え、言い分を考慮して判断をしていくシステムをこ こで検討していく必要があるのではないか。やはり、そこの主軸となるのは、合理的な 客観的な数値ではないかと思うのですがどうでしょうか。 ○課長補佐  それは私どもも同じような考え方だと。 ○斉藤先生  それで客観的な評価ができれば、それで私もいいと思います。例えば、スパイロメト リーの成績というのは客観的であると言われて、大体、主な検査法になってくると思う のです。ただ、実際はそれが全体の像を本当に評価しているのかどうかというのは、我 々臨床をやっている者から言うと、いつでも悩ましい問題が起こっているわけです。そ の辺は客観的な検査法をどうやって導き出すかという辺りが、もう1つ議論が欲しいの かなと。 ○横山座長  いまではスパイロメトリーというのが肺機能検査の中心であり、土台であると言われ てきました。私はある先生と散々議論したことがあるのです。スパイロメトリーという ものが、実際に検査をやる人間にとって、精度を含めてどこまで納得のできるものなの か。労災保険もそうでしょうが、特にこれから問題になってくるのは、労働者の高齢化 という問題です。お年寄りのスパイロメトリーというのは、大変に手間がかかるし、信 頼性が薄くなってくるわけです。私はスパイロメトリーが肺機能障害評価の基本で、そ れを軸にしてものを考えていくことには賛成できないのです。他に何かあるのだと言わ れると、だんだん話が進んできた段階で私の考え方を申し上げますが、やはりそこは従 来のところとものの考え方を変えていかなければいけない。今回決まるのが次の10年先 か20年先かにまた改正になるだろうと思いますが、できれば先を読んで、それまでの 間、生き長らえるような提案をこのワーキング・グループでしていただきたいと思いま す。 ○奥平(雅)先生  いまの検査の方法に関連して、労災による疾患は全国どこのお医者さんでも判断でき るような仕組みになっています。しかし労災による疾患については、特定の病院、労災 の専門病院で検査・判定することが、それについては医師会が非常に反対するのだそう ですが、何とかそういう方向に持っていって、判定を客観性の高いものにすることが、 是非とも必要なのではないかと思うのです。何も胸腹部疾患の機能障害だけに限らず、 いろいろな疾患でそういうことがあると思います。ですから、検査方法の検討と共に、 やはり検査する施設についてのご検討も是非ここでしていただきたいと思います。  場合によっては、じん肺法がこの中に入っていますが、昭和52年頃の社会的な背景が かなり強く織り込まれていると思うのです。私は肺が特に専門ではありませんが、じん 肺というものを少し勉強してみますと、じん肺は不可逆的で治らない、進行性であると されていますが、本を読んでいくとその根拠がわからなくなってくるのです。また、後 天性の疾患で、ばく露から離れても常に進行性で治らないという概念は、疾病一般法と しておかしいのではないかと考えられもします。  もう1つは、最近肺の線維症について積極的にいろいろな方法が提案されて、実験的 なレベルでは有効な方法も出ています。例えば、多くの本に出ているじん肺は進行性 で、不治の疾患であるなんていうことを、ここで追認することはまずいのではないかと 思うのです。 ○横山座長  私もこの話をいま聞いていて、これはちょっと問題が出てくるのではないかという気 がしていたのです。先生がご指摘のように、昭和52年頃のものの考え方であれが出来て いる。本当言うと、それが時代ごとに改められていってしかるべきなのですが、法改正 はあまり頻回には行われず、私は昭和52年のじん肺法の改正が行われた後で問題がいく つかあったので、当時の課長さんに「これ、何とか考えてくださいよ」という話をした ら怒られまして、法律というのはそんな直して、すぐまた直すという馬鹿なことはない のだと。10年間我慢しろと言って、怒られたことがあるのです。しかし、あれから10年 ではなくて。 ○木村先生  いまのじん肺に関して、不治で進行性だということに関しては、私が知っている限り では、日本では大体3つぐらいのペーパーはあると思うのです。残念ですが、全員が進 行するわけではないですが、PR1ぐらいのごく軽いものも、10年ぐらい経過を見たら 4Cという形にさえなるのが、それなりにいるという、はっきり、要は進行性で不治だ と。熔接工肺を除けば、ばく露をやめても、進行するものがPR1ではこのぐらい、P R2ではこのぐらいという、外国のペーパーは少ないのですが、私が知っている限りで は、マスで調べたのは1個ぐらいしかないのですが、やはりそれなりのデータではっき り出ています。それはいまの時代でも少しも変わっていない。 ○奥平(雅)先生  私はそういうデータがあることも知っています。必要があって読んだのです。ところ が、いま言われているじん肺について、全部がそうなるような受け止め方がされるよう な記載になっているのです。 ○斉藤先生  先生、それは昭和52年に改正されたじん肺の時代がそうであって、それから粉じん環 境は非常に変わっています。油断した所にはそういうことが実際にあるということは認 めます。そのとおりだと思います。我々も、木村先生が言うように、1型だったのが10 年経ったら、3型、4型だったというたくさん症例を持っています。しかし、4〜5年 経っても1型のままということも確かにあるのです。それは本当に進行性と言わなくて もいいのかもしれません。 ○奥平(雅)先生  言葉尻を促えるわけではないですが、先生はいま「たくさん持っています」とおっし ゃってますね。その「たくさん」というのは何%ぐらいになるのですか。 ○木村先生  それは数値で出しています。 ○奥平(雅)先生  数値は50%を超えていないと思うのですが。 ○木村先生  PR2型であれば進行するのが5割以上いるのです。PR1であれば6割が進展しな いで、PR1のままなのです。しかし、PR2以上であれば、5割以上が進展してくる のです。これはしかも10年から13年の経過で、そのぐらいは進行しますから、基本的に は進展していく病気だということはいまでも変わらないのではないか。 ○奥平(雅)先生  そうですか。実際に見ていらっしゃる先生がそうおっしゃるのであれば、考えを変え なければいけませんが。しかし、例えばアンダーソンの教科書にも、ちゃんと進展性だ と書いてあり、その根拠になっている文献があるのです。その原著を読むと、納得がい くようなことは書いていないのです。  昔から言われてきたことが、本当らしくそのまま言い伝えられているだけで、本当に そうなのかどうか検討してみる必要があるのではないか、というのが私が勉強した印象 なのです。それに関連して、昔から平仮名で「じん」、漢字で「肺」と書いてありま す。これも文部科学省の2003年の学術用語集によると、漢字になっているのです。です から、漢字としてこれで扱うということで、改めて塵肺も、従来から言われているじん 肺をそのまま踏襲するのではなくて、検討したというような意思統一のために漢字にす ることもいいのではないかと思います。 ○奥平(雅)先生  ご専門の先生に失礼なことを申し上げましたが、本当に疾病全体を考えてみて、経過 によって変わらないものの代表として奇形があります。これは生涯その状態は変わらな い。他の病気は一般に経過によって変わるのです。それから変わるのに、自然治ゆとい うプロセスがあります。継続してばく露を受けていれば別ですが、ばく露から離れた状 態で、しかも、その後でまたタバコを吸うとか、そういう病因子が加わらなければ、私 は進行性の不治の疾患であるという考え方自体がおかしいのではないかと思っていま す。疾病一般論、病変一般論としてなのです。 ○横山座長  ただ、肺の線維化の問題についての対策というか、治療、その他、いろいろ最近試み られています。これから先、私は変わってくると思うのです。教科書などに書いてある ことは、過去の歴史の積み上げで書いてあることが多いので、今ここでこの考え方がお かしいとか何とか言っても、なかなか始まらないと思うのです。1つ、そういう点も頭 の中に入れて、ご議論をいただけるとありがたいと思います。 ○医療監察官  こちらの叩き台に書かせていただいたのは、それこそ昭和52年、昭和53年の法改正の ときの基本的な考え方として、いままで旧じん肺法は、結核がじん肺の中に入っていま したと。それを合併症とじん肺というふうに分けましたと。じん肺というのは不可逆性 で進行性のものですと。合併症は可逆的なものです、ということではっきりと分けまし た。合併症を治せば、じん肺の進展はより抑えられるでしょう、というような考え方で 作られている法律なのです。いわば、いまの考え方はこうなんですよと。かつ、実際に 進展されている方もいる。  ただ、全員が全員進展するわけではなく、この人をとって誰が進展するのかというの はなかなか言えませんということで、いまの公式見解として、これは補償課も含めてで すが、じん肺については基本的には治らない。少なくとも、組織線維化は治っていかな い。ただ、じん肺の4については、その組織化の程度や肺病変の程度とは関係なく、肺 機能障害の程度と組み合わせてやっているものですから、うまくいくと、実は肺機能が よくなって、前は4だった人が、4以下になることはあり得るのです。そこは本来の意 味での悪化するという話とは別なものです。じん肺4になった人がずっと絶対4であり 続けるかということまでは、私どもも思っていないのです。もう一度随時申請するよう な方はいらっしゃいませんので、実際上はあり得ないというだけです。 ○奥平(雅)先生  いま昭和50年前後という話で、例えば肝硬変症という病気がありますが、昭和50年前 後は誰も肝硬変が治るとは思っていなかったのです。肝硬変は1度なると雪だるま式に 進行する。まさにじん肺と同じ考えだったわけです。  肝硬変というのは線維が非常に増加して固くなるということで、肺における肺線維症 と線維が増えるという増殖性病変としては同じなのです。それから、臓器の基本構造の 改築を伴うという点でも同じです。最近では、肝硬変も初期なら治るのではないか、と いうのが肝臓の専門家の一般的な見解です。ですから、慢性肝炎は積極的に治療したほ うがいい。ウイルスが陰性にならなくても、GOT・GPTを指標として、炎症がアク ティブにならないように治療していけば、やはり肝硬変の進行は止まる。しかも、あと で肝がんにもならない、あるいは肝がんの発生が遅れると考えられています。  わずか30年間で、いままで常識として考えていたことが全くすっ飛んでしまうような 状態になっています。ですから、肺線維症と肝臓の線維症と同じだというわけではあり ませんが、やはり線維の吸収というものの基本を、体の中ですから、やはり何か共通し た面もあり得るのではないかと思うのです。そういう意味で、肝硬変は専門家の中では 本当に考え方が変わってきています。そういうこともあるということを、私は行政のほ うに理解していただきたいのです。 ○医療監察官  どうでしょうか。ここで書かせていただいたのは、最初のところで木村先生もおっし ゃっていただいたように、基本的には原因を問わず、肺機能障害の程度でやればいいの ではないですかというのと、じん肺にそんなにこだわる必要はないですよと詳しく書い ただけなのです。先ほどの胸腺ではありませんが、書き過ぎて誤解を生じさせることで あれば、ここはさらっと書かせていただいて、基本的には原因を問わず、肺機能障害の 程度でやればいいのですと。ちなみにじん肺もそうですよと書かせていただいて、(1 )はまとめさせていただくということでいかがですか。いままでのご議論を聞いていま すと、どちらの病態理解がいいのかというころで、なかなか決着がつかないような感じ でございますので。 ○横山座長  私はじん肺をあんまり大きく扱い過ぎているような気がするのです。むしろ、最初に 申し上げたように、肺の機能障害全体を見て、その中の1つとしてじん肺もこうなりま すという考え方で、できれば過去のじん肺の肺機能障害の評価とあまり食い違わないほ うがいいだろうと思います。なるべく食い違わないように努力をすべきだと思います。 扱い方のウエイトの置き方をもう少し考えなければいけませんし、表現ももう少し慎重 にやる必要があるのではないかという気がします。  もう1つ、これは大変に大事な点ですが、肺の機能障害というものを考えていく上 で、昭和52年ごろのじん肺法改正当時の肺機能検査というのは、全国での普及度から考 えると、動脈血をとるというものすごい抵抗があったのです。動脈血をとるなんてとん でもないことだと言われながら、これだけはやってくださいということでお願いをした ような経緯があるのです。これも時代とともにかなり変わってきて、現在では幸いなこ とに、ガスの検査というのはそんなに深刻な問題ではなくなってきています。その辺の 時代の流れというものを考えていかなければいけないのではないか。  呼吸器疾患の問題をいろいろこれから検討していただくについて、ひとつその辺のこ とをご検討願えればと思います。今日、配付された資料はお持ち帰りいただいていいわ けですよね。年末年始でお忙しいと思うのですが、次の1月18日までにお読みいただけ ればと思います。 ○人見先生  いまのお話は非常に興味深く聞かせていただきました。その他に、肺機能障害という ことで、私のグループでは、あの頃に呼吸困難というものは呼吸補助筋を使う呼吸を言 うというような観点から、呼吸補助筋を近年ずっととっておりました。  いま肺移植の時代になって、脳死肺移植の適用基準、これは6、7年前にここでやっ ていたのですが、どこまでいったら適用になるか。レシピエントとしての資格がある か、というようなことをやったときも、やはり呼吸困難というものは呼吸補助筋を使う ということで、この辺はあまり進行はしていない。  肺気腫も同じように、呼吸困難というものを補助器具ということが出てきたのと、そ れから昭和52年の改正に対して、今度は恥ずかしくないものを作ろうとおっしゃってい るのはよくわかります。肺気腫といえども、いま肺血管や肺隔壁を肺気腫上の肺の中に 作り始めています。肺線維症のほうは、おそらく阪大は非常に進んでいると思います が、阪大のグループでは肺線維症を治し始めている。遺伝子治療です。  そんなことを考えますと、昭和52年ころの規定であまり決めないほうがいいのではな いでしょうか。学問も進歩している、ということは常に念頭に置いて、ちょっといいレ ベルでやってほしいと思います。 ○課長補佐  今回、私どもは案の形で出させていただきまして、基本的にはこういう考え方を持っ ているわけです。ただ、当然後々、これを出したときに対外的に聞かれることとして、 何で変えたんだと。要は前の基準だともっと高くなっている人がいて、新しい基準だと 低くなってしまう人がいた場合、なぜ変えたんだと。昔のでよかったではないかと。当 然そういう話が出てくるわけです。その何で変えたというところが、必ず聞かれると思 うのですが、そこをできるだけ世の中の人に理解していただけるようなものをできれば 作りたいと思います。  先ほど横山座長から昭和52年当時、動脈血をとるのが大変だったと。当時から動脈血 の酸素濃度については、いまのように肺機能との関係は、医学的知見はあったけれど も、なかなかそれは実際にできなかったから、というようなことが背景としてあったと すれば、当時ああいうやり方をしたということの有力な説の1つになるのではないか。 いまはそんなにそれが大変ではないから、そちらがやっぱりいいのだと。いま1つそう いったようなお話も出てきましたが、それと同じような話で、当時の医学的知見なり、 あるいは検査技術なり、検査設備ではできなかったが、いまならこれができるのです よ、ということが世の中の人はわかりやすいのです。そういったものができるだけ出て くると、世の中の人にも、今回、こう変えたんですということの背景、あるいは理由が わかってもらえるのではないか。是非、その点についてもできるだけお知恵をいただけ ればありがたいと思います。 ○横山座長  できるだけ勉強します。 ○課長補佐  我々もできるだけその観点で、また準備したいと思います。 ○横山座長  いろいろ教えていただけるとありがたいと思います。やはり少し先を読みながら、ま た現実の問題も考えていくという努力をしていく必要があるのではないかと思っていま す。その辺は、また諸先生方にお知恵を拝借したいのですが、あと4、5分ございます ので、何かお話になっておきたいことがあれば伺います。もしなければ、年末からお正 月にかけて、皆さんゆっくりしていただいて、次は1月18日になります。 ○医療監察官  次回は1月18日(火)2時半に行います。できましたら、今日、基本的な議論をして いただいたのでありがたかったのですが、2、3、4と積み残した論点もありますの で、先生方でお気付きの点があれば、電話でも葉書でも送っていただければ、それを踏 まえて検討したいと思います。 ○横山座長  その積み残しを具体的にご指摘いただくと、次までに勉強しますので。 ○医療監察官  資料番号1で、主に基本的な考え方のところで、原因を問わず、障害の程度でやりま しょうということで、ほぼ一致したかなということで、肺については1でほぼ終わった かなと思います。2番は、どこまで療養するのか。3番は、肺の障害はどういうふうに 見たらいいのか。これも1との兼ね合いでかなりご議論をいただいて、先ほど人見先生 から、呼吸困難という定義には、呼吸補助筋を使うというのがあるのだよ、というご指 摘もいただきました。それを踏まえて、どんな形で見たらいいのか。3番はどちらかと いうと、安静時みたいなことを考えています。4番は運動負荷時といいますか、体動時 の話です。実はこの辺りは、先生方でだいぶご意見が違うところなので、それぞれお聞 きはしたのですが、私はこう思っているとか、これはこの本を読めとか、ご指示をいた だくと、次は準備しやすいと思います。 ○横山座長  これは読んだほうがいい。あるいは読まなければいけない論文がありましたら、項目 だけ教えていただければ、お宅で調べられるわけですよね。 ○医療監察官  はい、こちらのほうで調べます。 ○横山座長  文献のリストみたいな格好で教えていただければ、神保さんが勉強してくれるそうで す。あと何かお願いしておくことはありますか。 ○医療監察官  事務局からは以上です。 ○横山座長  次の項目から、次回に入っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。最後の まとめの段階で、やはりこれは議論をした値打があったと言われるようなものを作りた いと思いますので、先生方のお知恵を是非ご提供いただくようにお願いして、今日の会 議は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 照会先   厚生労働省労働基準局労災補償部補償課障害認定係       TEL 03−5253−1111(内線5468)