04/12/07 最低賃金制度のあり方に関する研究会第4回議事録          第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                         日時 平成16年12月7日(火)                            15:15〜17:15                         場所 厚生労働省専用第21会議室 ○樋口座長  ただ今から「第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会」を開催いたします。本日 はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。本日は大竹先生が欠席 でございます。それでは早速議題に入ります。本日の議題は、最低賃金制度のあり方に 関するヒアリングと、論点整理に向けた意見交換を行う予定です。  まず、ヒアリングから始めたいと思います。本日は、慶應義塾大学商学部の清家教授 と、社会経済生産性本部の北浦社会労働部長からのヒアリングを予定しております。で は清家先生、よろしくお願いします。 ○清家様  今日はこのような機会にお招きいただきましてありがとうございます。今、この研究 会の参集者のお名前を拝見しますと、渡辺さんをはじめ、法律家の方も最低賃金法の専 門家ですし、エコノミストも樋口さんや大竹さんがいらっしゃって、私が改めて何か目 新しいことを申し上げることはちょっと難しいかと思うのですが、せっかく与えられた 機会でございますので、最低賃金制度について、日ごろ考えていることをお話させてい ただきたいと思います。  最低賃金制度そのものに話を進めます前に、最低賃金制度を含める雇用・労働市場に おける規制の根拠について、私がどのように考えているかということを手短かにお話し たいと思います。私ども経済学者は、賃金等の労働条件も、基本的には市場で決まって くるものと考えているわけです。雇い主はできるだけ安く雇いたいわけですし、労働者 はできるだけ高く雇ってもらいたいわけですから、その両者の都合を市場で調整するほ かはない。能力よりも高すぎる賃金を言いつのれば誰も雇ってくれないし、よそよりも 安い給料をオファーしても、誰も働いてくれないということですから、基本的には市場 の調整が原則だと思います。  市場の調整といいましても、労働市場の場合、放っておいても市場機能が成立するか というと、それはそうではないわけでございます。よく言われる市場がきちんと機能す るための条件、すなわち「完全競争」と「完全情報」というような条件が、労働市場に おいては一定の仕組みを整えないと担保されないということです。完全競争について は、よく言われているように、労働の売り手である労働者と買い手である企業の間に は、交渉上の地歩に大きな隔たりがございますので、これらの点については辻村江太郎 教授の先駆的な研究等において、理論的にも精緻に展開されているわけですが、簡単に 言えば、今雇ってもらえないと明日の生活にも困るような労働者と、その人が働いてく れなくても、直ちに行き詰まってしまうわけではない企業との間には、対等な交渉が行 われにくいわけで、それが市場における均衡を、いわゆる「内点均衡」の成立を妨げる 要因となるわけでございます。  もう1つは、情報についての不完全性です。これには2つあり、1つは例えばどこに どんな人がいるのか、あるいはどこにどんな良い雇用機会があるか、ということについ ての情報が不完全である。市場の均衡というのは、情報が完全であるということを前提 に理論が作られるわけですが、どんな市場でも情報は完全ではありませんが、特に労働 市場のように、例えば労働の質といったようなものが問題になるところでは、情報の不 完全性が非常に深刻である。さらに労働の場合、雇用関係というのは非常に長期にわた る契約をそこで取り結ぶ可能性があるわけで、将来がどうなるかといったことについて 不確実性が存在する。そういう将来不確実な中で、市場において取引が行われるという 意味で、完全情報の前提が崩れているわけでございます。  経済学者の目から見ましても、そういった市場均衡がきちんと成立するために、様々 なルールを設けて、それによって市場の均衡が成り立つようにする工夫が、労働市場で は必要だということです。いちいち細かくは申しませんが、例に挙げたように、例えば 交渉上の地歩を均等化するために、集団的労使関係というものが法律的に担保されてい るわけですし、これが最低賃金法で問題になるわけですが、交渉上の地歩に差がありま すと、生存域ギリギリのところで解が生まれてしまう、いわゆるコーナーソリューショ ンの問題があります。  それが一定の水準以下のところで取り結ばれないようにするという最低労働基準であ るとか、あるいは、安全衛生について、例えば情報が完全であれば、非常に危険な仕事 については、賃金が高くなるという形で市場の裁定が働く可能性があるわけです。その 仕事が一体どのぐらい危険なものであるか、あるいは将来どういう危険が生じるか、と いったことをすべて織り込んだ契約を結ぶということは困難であるということを考えま すと、一定の安全衛生上の制度的な担保を法律等において行うということ等があるわけ で、そこに例示したような制度を設けた上で、私どもがノーマルと考えるような市場の 均衡が成立すると考えられるわけです。  それでは最低賃金制度がどのような意義を持っているかということですが、大きく分 ければ2つ、両方同じことを言っていると言えば同じことですが、2つあると思いま す。1つは、右下がりの労働供給曲線が、マクロの労働市場で出現する可能性です。こ れは樋口さん等が非常に精緻な研究を、あるいは日本では小尾恵一郎教授等が、先駆的 に研究されていたところですが、いわゆる「ダグラス-有沢法則」などというのが経験 的事実としてあるわけです。つまり、世帯主の賃金が下がると、非世帯主の労働供給が 増える。マクロでは、賃金が下がることによってトータルの労働供給が増える。供給曲 線が右下がりになってきますと、どんどん均衡点が右の方に下がってきてしまう。いわ ゆる「低賃金多就業」の状態が発生する危険があるわけです。  結果として、どんなに低賃金でも、人間が生きていけないレベル以下には下がらな い、それ以下の人は存在しないので下がらないわけですが、最悪の場合にはそういった 人間の生存域ギリギリのところで均衡が成立する。いわゆるコーナーソリューションの 問題がある。これは、樋口さんの研究等にも出てきているような、経験的事実としても 実際にあるわけで、そういった均衡点が人間の生活の尊厳を損なわないレベル以下のと ころで決まらないようにする、といったような歯止めが必要であるということだと思い ます。  もう1つは、それと同じことですが、要するに供給側が一定のバーゲニング・ポジシ ョンを持って、コーナーソリューションではない内点均衡が成立するために、最低賃金 が必要であって、特にそれは、おそらく労働組合というような、もともとバーゲニング ・ポジションの均等化を目的としたような仕組みのサポートを受けているような人たち については、それほど問題ではないわけですが、最近増えているような、いわゆる非正 規従業員といったような、特に弱い立場にいる労働者にとっては、こういった法律の枠 組みで内点均衡が成立するような条件を整えてやる、ということが大切になってくるわ けでございます。  そういった基本的な認識の下に、私が今の最低賃金制度の実態について考えておりま すこと、これは皆様のような専門家として研究しているわけではございませんで、一労 働経済学者として、外から見ている限りにおいてのいくつかの疑問点を3つぐらい述べ させていただきたいと思います。  1つは、最低賃金の水準の決定の問題です。先ほど言いましたように、そもそも最低 賃金というのは、基本的に労働の需給という観点から言えば、供給側の最低限の生活水 準を担保するといった趣旨のものでございますので、その水準はあくまでも供給側にと ってそれ以下に賃金が下がっては困る、という水準として決められるべきであって、企 業がその賃金を払えるかどうかということは、基本的には、理屈の上からは本来は考慮 の外にあるはずだと思います。  極端なことを言えば、供給側の視点から見たときに、これ以下の賃金では困るという 最低賃金が決められた場合、それを払えない企業は残念ながら労働市場から退出しても らうしかないと考えるのが、私が申し上げたような最低賃金制度の持っている意義から 言えば自然かと思うわけです。しかし、実際には最低賃金が決められる際の実務上の問 題としては、企業の支払能力等がかなり考慮されるということで、そもそも最低賃金を 決めるという際に、これは実務上の問題かもしれませんが、企業の支払能力といったも のがどの程度考慮されるべきなのかということが、経済学者としては若干疑問としてご ざいます。  2つ目は最低賃金法の違反の罰則ですが、現在、法律においては違反についての罰金 が、1人当たり最高1万円となっています。昨日、実は前田課長にその点を指摘されま して、法律では1万円となっていますが実際は2万円だそうです。しかし、1万円だろ うが2万円だろうが、他の制度の下での罰則に比べると、かなり安い。もちろん、これ は100人になれば100万円ということにはなるわけですが、外から見ていて、現行程度の 罰金で違法行為に対する効果的な抑止力になり得るかということについての疑問点があ るわけでございます。  3つ目は、最低賃金制度については、地域別最低賃金と同時に、産業別最低賃金とい うのがあるわけで、これは、それなりの意味はあると思いますが、先ほど言いましたよ うに最低賃金というのは、あくまでも供給側にとってそれ以下の賃金は困るというレベ ルとして決まるとすれば、それが産業別に異なるというのは、少し理屈がつけにくいの ではないかと思います。  また、別の視点から言いますと、産業別の賃金格差というのはあっていいと思います し、またそれぞれの産業ごとの労使関係によって産業別に同じような仕事をしている人 であっても、産業が異なることによって賃金が異なるということはあるかと思います が、そういった産業別の賃金格差を、今申しましたような罰金といった刑事罰を持って いる強行法規によって、担保する必要があるかどうかということについては、議論の余 地があるのではないかと思っております。  最後に、産業別最低賃金について少し申しますと、私は産業別最低賃金制度が果たし てきた歴史的な役割については高く評価しております。特に産業別の労働条件の向上に 果たしてきた意義は大きいと思いますし、何よりもそれ自身は労使が合意しない限り成 り立たないわけですから、労使合意の下でそのような制度が存続してきたということに ついては、一定の評価、あるいは高い評価を与えるべきだと思います。ただ、先ほど言 いましたように、供給側の受諾賃金の下支えとしての最低賃金制度を考えた場合に、そ れが産業別に異なるということについて、経済学的な説明をするのはなかなか難しいの ではないかと思っているわけです。  特に最近、いわゆる請負労働であるとか、あるいは派遣労働であるとかいったような ものを雇用する事業主も多くなっているわけで、そういった場合にその人たちに、例え ばその派遣先、あるいは請負先、実際に働いている場における産業の最低賃金が適用さ れないということになりますと、そこで最低賃金が適用されている労働者と、そうでな い労働者の二重構造というのができてしまうのではないかと思っています。  私は、先ほど言いましたように、産業別の労使が努力されて、そういった産業内で労 働条件を均一化するといった状況を作ってこられたこと自体は高く評価しておりますの で、この産業別最低賃金によって担保されている実態そのものが問題であるとは思いま せんが、それを強行法規としての最低賃金法によって担保することが妥当かどうか、と いうことについては検討の余地があるのではないかと思っています。そのためには、実 は今までこの最低賃金制度、特に産業別最低賃金制度が担っていた、同一産業内におけ る労働条件の拡張適用というようなことを、もう少し具体的に考えていく必要があるの ではないか。  これは、また後で皆さん方に教えていただきたいわけですが、たしか私の記憶でも、 労働組合法の18条でしたか、拡張適用の項目がございますが、かなり適用が難しい。ま た、何よりも日本の労使関係は、今までのところ個別の企業レベルでの労使関係を基礎 にしておりますので、それを産業別の労働協約にして拡張適用するということは、現時 点においては、制度的にもあるいは実態上も難しいと思います。私は、制度的な面で も、また実態においても、産業別最低賃金に代わる産業別労働協約の拡張適用ルールの ようなものを一方で整備しつつ、こういった産業別の最低賃金制度についての見直しを 行っていくということができるかどうか、検討していただく必要があるのではないかと いうように考えています。 ○樋口座長  ありがとうございました。それでは、ただ今のお話につきまして、ご質問、ご意見が ございましたらお願いいたします。 ○渡辺先生  企業の支払能力を、最低賃金の水準決定に当たって考慮要素とすることについて、趣 旨に合わないのではないか。つまり、供給側の事情が中心になるべきだというご意見は そのとおりだと思うのですが、例えばILO条約でみると、やはり生計費要素というの を重視すべきだということと同時に、考慮要素に経済的要素というのがあって、生産性 の水準とか、あるいは雇用の確保、つまり支払能力を超える最低賃金を罰則で強制し て、企業が潰れたら元も子もなくなってしまうという、その経済的要素も、いわば並列 的な考慮要素になっているのです。  ですから、生計費基準だけで人間としての尊厳を下回ることがないようにということ だけが、最低賃金の決定要素ではなくて、もうちょっと複合的な考慮要素、それは大変 難しいことですが、少なくとも支払能力に類した問題を考えた上で、最低賃金額を決定 するというのが、ILO条約の新しいものにはありまして、清家先生のおっしゃる最低 賃金イメージというのが、生活の下支えということを非常に強調されるのですが、もう ちょっと広く、最低賃金制度の意味なり機能なりを考える必要があるのではないか。大 変おそれ多い質問的意見なのですが。 ○清家様  多分そのようなことなのではないかとは思います。もちろん実際上はそうでしょう し、ILO条約にもそうあるのでしょうけれど、これは別に反論するつもりはないので すが、企業が潰れては元も子もないということはありますが、しかし本当に最低賃金の レベルが合理的な水準に決まっている中で、それを払えなくて潰れる会社があっても、 それはしようがないと考えるべきではないか、というのが私の趣旨でございます。それ でも会社が潰れたら、やっぱり良くないのだというのであると、ILOの関係は私はち ょっと不勉強でわかりませんが、最低賃金が本来持っている意味から言うとちょっと違 うのではないか。  もちろん、決め方の中には会社が潰れないようにという配慮もあるでしょうけれど も、少なくとも合理的な理由で、また合理的なプロセスの中で決められた最低賃金が、 一部の企業を成り立たなくするとしても、それはしようがないというか、それが最低賃 金制度というものではないか、というのが私の考えでございます。 ○渡辺先生  今の最低賃金法は、昭和34年にできたものを改正したということなのですが、お役目 柄、そういう歴史的な資料に触れる機会が多かったので、頭の中に残っているのは、最 低賃金制度には生活水準の維持ということと、公正競争というのがある。私は経済学は わかりませんが、自分の考え方の整理としては、最低賃金制度というのは2つの意味が ある。1つは供給側の生活水準の最低限度の確保ということ、もう1つは、中小企業が 大企業の下請として、コストを切り下げられるときに、賃金を切り下げることによって 下請単価に間に合わせるというのではなくて、これ以下は最低賃金制度があるからコス トは引き下げられませんと、そういう中小事業主の、いわば適正な競争確保というのが ある。  つまり最低賃金は、供給側の生活を保護するだけではなくて、労働者の需要側の公正 競争を確保するという意味もある。前者の意味だと、それに違反すると生活破壊という 大変なことになるから、これは罰則で強制するけれども、しかし公正競争という意味で 定められる、例えば産業別最低賃金のようなものについては、罰則までは必要ないだろ うという意見があるということは承知しているのですが、いわば賃金コストを下げるこ とによって下請単価を下げるようなことをさせない、という意味での最低賃金制度の意 義というのは、公正競争の意義ということとつながっているのではないかとずっと理解 していて、学生にもそのように教えてきたのですが、それは間違いなのかどうか。 ○清家様  それはそのような意味があると思います。先ほど申しましたのは、企業間の競争が行 き着いたときに、もしその供給側の方に歯止めがないと、例えば最低生存費水準のとこ ろで、横並びの均衡が成立してしまう恐れもあるわけです。ですから、そういうことが ないように、供給側の最低受諾賃金というのを最低賃金制度等によって担保しておくと いうのは、まさに先生が言われたように、企業間の公正な競争を担保する。これは最低 賃金だけではなく、労働時間規制等についても、全く同じように言えるわけですが、要 するに一定のルールを、すべての企業にあまねく適用するという形で、公正競争が担保 される、というのは全く先生のおっしゃるとおりだと思います。  ただし、産業別について言えば、産業別最低賃金が同一産業内の公正競争条件を担保 するという意味で役に立っていたということはあると思いますが、先ほど言いましたよ うに同一産業の中でも、例えば派遣労働とか、請負労働とかいうような人たちが混じっ てきたり、もうちょっと別に言いますと、要するに産業の中だけで労働市場というのは 完結しているわけではなくて、ある産業から別の産業に移ったり、あるいはよその産業 が別の産業から人を引き抜いたりすることもあるわけですから、逆にそういう観点から 言うと、産業別最低賃金というのは、労働市場全体の公正な競争を、場合によると刑事 罰付の強行法規で惹起している、というふうにみることもできるわけです。ですから、 これは産業内でみるのか、労働市場全体でみるのかについて、特に産業別最低賃金の持 っている意味といいますか、性格は異なってくると思うのです。 ○渡辺先生  大変参考になりました。私が今まで考えていたのは、公正競争というのは、市場全体 で行われるのではなくて、産業間で行われるのが主たる競争で、それを公正なものにし ようとすると、やはり産業別に最低賃金があっても意味がある。ただ、就業形態が多様 化したり、雇用形態が多様化したり、労働移動が流動化すると、今清家先生がおっしゃ ったような問題があるので、それには対応できていないというのは、事実そのとおりだ と思うのです。主たる競争関係というのは、やはり同種産業、同一産業で起こるので、 それを公正なものにしようという、そういう最低賃金制度の意味は捨て難いものがある のではないかという感じを持っておりました。 ○今野先生  今の点ですが、公正競争というときに、企業間の競争というのがある。他方、請負が あるとか派遣がくるとか、あるいは同じ職種でもA産業とB産業があって、みんな同じ ではないか。労働市場の広がりというのは、産業を超えている。したがって、産業別の 最低賃金だと、そういう状況に適用できないということになると、もし代わるものを作 るとしたら、やはり職種とか、そういうことでいこうということになるのでしょうね。 これは、最後の「産業別労働協約の拡張適用ルール化」というのとも関係があるのでは ないかと思うのですが、その辺はどうお考えですか。 ○清家様  おっしゃるとおり、産業別最低賃金というのは、国際的にそんなに一般的ではありま せんが、職種別の最低賃金制度というのは、国際的にみた場合もないわけではない。ど ちらかにした方がいいという場合には、先ほど渡辺先生が言われた公正競争のプラット ホームが産業ベースなのか、職種ベースなのかということに関わってくると思うので す。ただ、私は職種というのも、伝統的な産業社会であればかなり固定的であったかと 思いますが、現状を考えると、例えばある一時点で一定の広がりを持つ職種別マーケッ トというのはあるかもしれませんが、それは日々変わっていく性格のものであるので、 職種別の最低賃金というのも、職種別に労働組合が例えば作られて、その中で、まさに 職種別労働条件というのが協約で定められることはあってもいいかと思うのですが、そ れを国の制度として、そのようなものを担保する必要はないのではないかと思います。  何度も申しますが、産業別労働組合とか、あるいは産業別の労使が、例えば「よその 産業よりもうちの産業は労働条件がいいんだぞ」というのを売りにするために、産業別 の労働条件格差を作るべく、個別の労働条件を結ばれるというのは、とても良いことだ と思いますし、それ自体が産業間の競争にもなるわけですね。ですから、そういう意味 では、同じ産業の中の労働者の賃金が同じでなければいけない、という形のルールを作 ることは一向に問題ないと思います。ただ、それに違反したら罰金をとるぞというよう な制度で担保する必要があるのかどうか、ということについて検討する必要があるので はないかということです。 ○今野先生  今県別の地域別最低賃金があるわけですね。例えば、東京などをみると、実勢よりず っと低いところにあるわけです。 ○渡辺先生  710円です。 ○今野先生  前回か前々回に、ここでこれまでの研究成果の話があったのですが、結局、「最低賃 金は全然効いてないじゃないか」のいう話がある。 ○清家様  みんなが楽々クリアしてしまっていると。 ○今野先生  そういう点についてはどうお考えですか。 ○清家様  これは、先ほどの話の裏返しで、みんなが楽々払えようが、みんなが払えまいが、そ れは最低賃金という基本概念から言えば、本質的な問題ではないのではないかというの が私の考えです。みんなが楽々払えるのが最低賃金であるとすれば、それは東京の労働 条件はとても良くて素晴らしいのではないか、というふうに考えることもできるわけで す。決め方自体が合理性を欠いているというのであれば別ですが、合理的な理由に基づ いて、合理的なプロセス、誰もが納得するプロセスで決められた最低賃金を、東京都の 企業がみんなクリアしているとすれば、それはそれで素晴らしいと思います。 ○今野先生  そうなると、例えば東京などは典型ですが、東京で決まっている水準が合理的なやり 方で決まっているのかということが議論になりますね。それは難しいですか。 ○清家様  私は一応、東京地方労働審議会の会長をさせられていまして、合理的な方法で、合理 的に決められていると思います。 ○今野先生  先ほどのお話で、産業別最低賃金が、これまで産業別労働条件の向上に果たした意義 は大きいと、スパッと抽象的におっしゃられたのですが、具体的にはどんな機能を発揮 してきたと思われますか。 ○清家様  よくわかりませんが、私の知っている限りだと、産業別最低賃金は金属関係が多いわ けですが、組合員レベルのところでは、どっちにしても関係ないのですが、かなり非正 規の労働者等の産業内における労働条件の向上には、役に立ってきたのではないかとい う感想を持っております。ただ、私がそれを特段研究しているわけではないので、何か 証拠を示せと言われると困るわけで、これは感想です。地域別の最低賃金にプラスアル ファして決められてきているわけですから、少なくともその地域における他の産業より は、その産業の労働条件を高めてきたということは、客観的な事実として間違いないわ けで、それはそれぞれの産業別の組合、あるいは労使が勝ち取ってきたものだろうとい う意味で評価できるということです。 ○今野先生  そのことと、最後におっしゃられた、例えば請負とか派遣とか、あるいは労働市場が 変わって、産業別最低賃金の意味がなくなってきているのではないかということ。つま り今おっしゃられたことは、機能があるけれど、状況が変わったから機能不全に陥って しまったということなのか、そういう前者の機能はあるけれども、もともと強制法規で やる必要はないとお考えなのか、ちょっとわかりにくかったのですが。 ○清家様  必要がないと言うと言いすぎですが、強行法規でやるには馴染まない。 ○今野先生  それは状況が変わったからということですか。 ○清家様  そうではないです。もともと、産業別の賃金格差等を、強行法規をもって担保すると いうことは、私が先ほど考えていたような最低賃金制度の趣旨から言えば馴染みにくか ったと思うのに加えて、最近そういった派遣や請負という種類の人たちが、サービス業 の方から例えば製造業に入って来て働いているという状況は、同じ産業で、同じ職場で 働いている人たちの中に、2種類の最低賃金を適用されている人たちを含む、それは産 業別最低賃金があるというときにちょっと変ではないか。そこで働いている人が、みな 同じように地域の最低賃金にカバーされて働いているのであればわかるのだがという問 題です。  ただ、何度も言いますが、それは今まで労働組合が勝ち取ってきた条件でもあるでし ょうから、それをいきなりなくしてしまうというのは乱暴な話なので、先ほど言いまし たように、それに代わる産業別の労働協約の拡張適用とか、そういったものが一方で担 保されるのに合わせて、強行法規で産業別労働条件を担保する、という仕組みを見直し ていくというのがよろしいのではないかと思っています。ただ、そういう悠長なことを 言っていたのでは、何も変わらないということであれば、また別の何かがあるかもしれ ませんが。 ○樋口座長  産業別と言いながら、結局は都道府県別・産業別、両方を兼ねているわけですね。同 じ産業でありながら、立地状況によって違ってくる。公正競争といったときに、その県 の中の企業同士が競争している分にはかまわないと思うのですが、それは少なくて、む しろ県を超えた競争というふうになってきたときに、そこの点はどうお考えですか。 ○清家様  それは、樋口先生がおっしゃる意味での疑問があるわけです。同一産業内での公正競 争といっても、地域別に違っているわけですからね。ですから、その点からみても、産 業内での競争条件を整えるというのは、これは先ほど渡辺先生が言われたように、そう いう意味はあるわけですが、地域別にさらにそれが異なるといった場合の説明のつけ方 はちょっと難しいということだと思います。 ○石田先生  ちょっと話が変わりますが、今日の清家先生の主張の一番大きな論点は、最低賃金と いうのは供給サイドの最低生存権で、それは死ぬか生きるかという水準であれば非常に 事柄は簡単なのですが、しばしば地方の地域別最低賃金でも、例えば主婦パートタイム 労働者の水準にかなり影響を与えているわけで、そこでの供給価格というのは、一種の 世帯論というか、生計主体との関係で言うと、独立した世帯ではないので、そこで一面 決まっている。他方で、最近出てきたような若年フリーターとか、フリーターもパラサ イトであれば同じ状況だと思うのですが、つまり裏側に家族という問題があって、一概 に生存費といっても事柄を難しくさせていると思うのです。  そういうことについて清家先生はどう考えるかなどという難問を出す気持ちは全然な いのですが、経済学的に言うと、私は勉強不足を棚に上げて聞くのですが、生存費とい ったときに、家族のあり方とか、供給主体の存在条件が実務の上で実はかなり大きな重 石になっているのですが、先生はどう思われますか。 ○清家様  先ほどちょっと申し上げましたような、樋口さんなどもやっておられる労働供給分析 の蓄積から考えると、実証的には労働の供給主体というのは家計、つまり家計構成員相 互間で影響し合っているということが経験的に確認されておりますので、そういう面で は供給主体は家計なのだろうと思います。ただ、先ほど言ったような意味での最低生存 費というのは、私はやはり個人で考えた方がいいのではないかと思います。要するに、 個人で供給する人もいるということです。  例えば、主婦の年金の加入とか、あるいは最低賃金法でも、よく高齢者とか、あるい はボランティアはどうするんだとか、そういう議論がある。それはそれぞれの趣旨でよ くわかるのですが、最低賃金制度にしろ何にしろ、例えば個別のある当該の、例えば奥 様は最低賃金以下でいいですよと。生活にも支障はないし、それで仕事をくれるのなら その方がいいと仮に言っても、そのことによって、その賃金で自分がカツカツの生活を している人の生活が脅かされてはいけない、という趣旨のものです。  ですから、例えば主婦を前提に考えるとかいう話になりますと、一番最低賃金制度に よって守られなければいけない人たちの条件が崩されてしまう。この最低生存費という のは、生きるか死ぬかだけではなくて、おそらく様々な社会的な意味も含めた尊厳のあ る生活ということになると思いますが、その賃金であれば、例えば夫の所得等を勘案す れば、あるいは年金等と合わせれば全然問題ない、もっと低くてもいい人はたくさんい るのでしょうけれども、だからといってそれを基準に最低賃金の生存費水準というのを 決めてはいけないのではないか、というのが私の考えです。ただ、供給主体が家計であ ることは間違いないだろうと思います。 ○古郡先生  労働経済学者は、労働供給の主体は家計であるとずっとやってきたわけですが、家計 も最近は個人化していますから、もう少し労働供給というのも個人を主体にして考えた 方がいいのではないかと最近は思っているのですが、いかがでしょうか。 ○清家様  いわゆる標準世帯というのはだんだん少なくなっているわけですので、おっしゃると おりだと思います。ただ、個人はもちろん個人なのですが、個人が家計を構成した場合 には、相互に依存し合っているというのは、最近のパネルデータ等からも確認されてい ますので、おっしゃるとおり世帯を構成しない人たちの比率が増えていることは確かで す。世帯を構成している場合には、供給単位は家計と考えていいのではないかと思いま す。  ただ、古郡先生がおっしゃる意味と若干ずれるかもしれませんが、従来の世帯とか家 計を単位に考えられてきた様々な施策等は、これは年金制度なども含めて、もうちょっ と個人ベースにしていった方がいいというふうに私も思っております。ですから、経済 学者が家計が主体であると言うことが、かえって世帯単位の制度を温存する、あるいは それに対してサポートを与える結果にならないように、注意深くしなければいけないと 思っています。 ○樋口座長  ありがとうございました。時間になりましたので、清家先生のお話はこれで終わりと したいと思います。どうもありがとうございました。              (清家様退場、北浦様入場) ○樋口座長  それでは引き続きまして財団法人社会経済生産性本部の北浦社会労働部長からお話を 伺います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○北浦様  お手元にレジュメを用意させていただいております。清家先生の体系的、理論的な話 の後では、なかなか話しにくいのですが、考え方を少しまとめてまいりました。  最初が産業別最低賃金の問題です。特に、昭和61年の答申が現在の新産業別最低賃金 の元になっておりますので、ここに至る経緯をいろいろ考えてみると、当時の考え方の 中で、やはり新産業別最低賃金の考え方で一番大きかったものは、ソーシャルミニマム としての産業別最低賃金から、基幹労働者の最低基準へと、つまり標準労働者の賃金の 最低基準という考え方でもっと性格を徹底しよう、ということが大きかったと思ってお ります。もともと産業別最低賃金が、大括り産業別最低賃金として発足し、そしてその 足りなきところを地域別最低賃金で補うという形で、産業別最低賃金自体がソーシャル ミニマム的機能を持っていた、そこのところが地域別最低賃金の完成、包括最低賃金の 完成によって、いわば両者の機能分担が問題となり、そこのところを整理する、という のがもともとの考え方であったわけです。  このときの基幹労働者概念というのが非常に難しい概念で、当時の産業の単位を大括 りから小括りへというのが1つキーポイントになって、小括りで基幹労働者とは何ぞや ということですが、言ってしまえば職業別と言い切れないところを、ギリギリこういっ た形で表現してきたというのが、その当時の考えにあったと思います。もう1つは、後 ほど申し上げます年齢的な意味合い、18歳のところで切っているという、そういった意 味でのいわゆる一人前的といった要素も入れ込んでいた、その辺が1つの考え方の背景 にあるだろうと思っております。  そういった意味では、この新産業別最低賃金というのは、ある意味で職業別最低賃金 を志向したような形で生まれてきた、あるいは整理されてきたという経緯があるのです が、もう1つ重要なことは、やはり最低賃金の対象とする賃金、これはそもそもが労使 の交渉によって決まるという、労使の枠組みの中で、関係する当事者間の中で議論を尽 くして決めるものであるという、これが賃金の鉄則ですが、それに根差したところで、 いわば16条の1項の行政主導ではなくて、まさに労使の申出によって、労使が必要性を 判断し、その必要なところで作り上げていくという、いわば擬似的な労使交渉、それの 補完措置といったような性格づけをもたらす、そのことによって従来の地域別最低賃金 との違いを作ってきた、このような経緯があるかと思っています。  そのような意味において、新産業別最低賃金は実態はともかくとして、理想としてい たものは、そういった職業別であり、また一人前であり、さらには労使の申出、労使交 渉の補完という、いわば現状の賃金の決定機構、メカニズムといったものの中の1つの 位置づけを持つといったことが思想的にはあったということだろうと思います。  それを具体的に実践するところの労働協約ケースと公正競争ケース、これは沿革的な 問題はいろいろあったわけですが、最終的には公正競争ケースにおいても、その後の議 論において、いわゆる申出の数量要件が入り込んできたということがありますが、お互 いのベースにあるものは、やはり労使の合意、つまり労使の必要性、合意というもの、 それがやはりベースになっている。ある意味では、労使交渉というのが念頭に置かれて いるということの表れであったと思います。しかし、現実には公正競争ケースが圧倒的 多数になっていったわけですが、このときに、やはり議論として重要だと思いますの は、本来労使交渉とまで言うのだったら、11条の最低賃金が本流になるべきではないか というのが、そもそもの議論だろうと思います。  この答申に至るときも、そういった議論は大いにあったわけで、11条の最低賃金とい うものをどうしていくのか、もう少しそれを要件緩和するのか、そういう議論の流れの 中に、いわばそれ自体が労働組合法の労働協約拡張適用方式との兼ね合いの中におい て、なかなかそれを動かし難い。そういった流れの中において、1つの便法というか、 方式としてのこういった審議会方式との妥協において、16条の4という、まさに申出と いう要件をかませたような特殊類型が出来上がったというのが経緯だと承知しておりま す。労使交渉の補完ということを念頭に置きながら、日本的な形で賃金決定メカニズム に配慮したのが、現在の産業別最低賃金であったろうと思います。  その後に書いてございますように、転換というような形で、従来の古い、大括りの産 業別最低賃金を新しいものにしてきた。それは、いわば小括りにし、適用除外をし、純 化するという過程でありますが、いかに産業別を小さくして、いろいろなものを除外し ていったとしても、職業には完全にはなり切れない、そこのところの問題点はあったの だと思います。しかしながら、実際に出来上がった金属関係にしても何にしても、日本 においての職種概念というのが、なかなか確立しにくいし、それだけを単独に取り出す のは難しい中においては、1つの便法としてこれはあったのかと、このような位置づけ になっております。現実にそういった意味で整理されてきたわけで、それが多いのか少 ないのか、あるいは多すぎるのか少なすぎるのか、そういった議論はあるかと思います が、それなりに私はこの産業別最低賃金の役割というものの位置づけはあるのだと思っ ております。  ただ、いろいろ問題があるのはそのとおりで、実際の賃金決定に及ぼす機能といった 面では、これは当時も言われていたことですが、一人前ということで18歳で切ったこと によって、従来の大括り産業別最低賃金が、企業内の最低賃金との連動性がなかったも のが、これによって連動性が出てきた、そういうことが1つあったわけです。日本の場 合は基本が企業内賃金決定ですから、その重要な企業内賃金決定と、産業別最低賃金と の関係性が生まれてきた。その意味では、両者の連関性がいろいろ出てきたということ です。実態的にも、パートタイム労働者の賃金、あるいは下請の単価といったところに おいて、この産業別最低賃金機能が、それなりの標準として機能してきたことはあるだ ろうと思います。  実際の賃金決定の中において、やはり小括りにし、限りなく当事者間の意思の反映し たものにしていくということと、職業に近づけていくという形になったということと、 今申し上げたような一人前という概念からみて、かなりそういったものの機能が出てき たというのが当時のいろいろな関係者の声として出ていたと思っています。それが現 状、どうなのかというのは確認しておりませんが、影響力を及ぼすようなものになって きたということはあったのだろうと思います。  では、産業別最低賃金の意義をどう考えていくかということになりますと、まさに最 低賃金法にある労働条件の確保という部分と、もう1つの公正競争、これは副次的、二 次的なものとなってはおりますが、一段、賃金水準の高いところにおいての公正競争、 あるいは産業内の賃金格差の是正というものについての機能というのは、それはそれな りの機能を持っているのではないか。特に競争といった場合には、全国的に、あるいは 全産業的にユニバーサルに行われるのが競争だということになるかもしれません。  確かにマーケットとしては全体で考えるべきなのかもしれませんが、具体的な賃金決 定というのは、日本の場合はやはり企業別賃金決定が基礎になる。その企業別賃金決定 ですが、実はそのときの準則なり標準というものが、産業内においてそれが機能してき ている。それによって平準化していく、社会的公平性を確保していく、それが春闘の役 割であったと思いますが、そういったものがあったことから考えますと、やはり産業内 とか、あるいは職業内といった限りなく仕事内容が見える世界において、労使両者の話 合い、関係者の話合いがまさに有効に機能するような範囲で決まるということ、これが 重要だろうと思います。  そういった中での競争概念を考えていくのだとすれば、公正競争という角度から考え ますと、今申し上げたような小括りにしていくこと、職業別にしていくということは、 非常にそういったものに近づけていく要素になると思います。それが現状において十分 なのかどうかという問題はあると思いますが、この辺の機能は、賃金決定機構という か、メカニズム論としては、やはり何かしら持っていませんと、有効な、あるいは公平 な賃金の決め方ということにはならない。  結論として言えば、労使交渉の補完であり代替である。特に問題となるのは、労働組 合の組織率が低下している中において、組合がない領域、そこにおいても労使交渉で賃 金は決めるのだと、この考え方を貫いていくためには、まさに最低賃金というものが一 定の役割を果たしてきたし、日本の現状から考えるとまだそこの機能はあるのではない か。そのことは、より端的には、賃金紛争の防止という観点からもあり得るわけです。 他国の最低賃金、オーストラリアや英国の例においても、賃金紛争防止といった側面が あったことはご案内のとおりで、まさにそういった賃金決定メカニズムの補完機能、あ るいは代替機能といった面から考えますと、業種という単位はやはり捨て難い面がある と思います。  地域別については、目安制度の意義はご案内のとおり、もともと全国一律最低賃金と いう、労働者側の大きな要求があり、そのものに対する1つの解決策として出てきた経 緯があるわけです。これは確かに、全国一律の引上げにはなっていない。つまり金額は 一律ではないわけですが、引上げ率が一律になるということで平準化を果たし、バラバ ラに出来上がった地域別最低賃金の底上げを図ってきて、最低賃金としての機能を全と うさせるようにしてきた、その意義が非常に大きいのだと思います。  確かに目安制度というのは、目安は何なのか、強制力があるのかないのか、これも議 論されているとおりですが、そこで重要なのは、この決定というものが、やはり地方最 低賃金審議会の自主性を尊重して決めるという、これまた顔の見える当事者において決 めてきたという、そこのところを最大に尊重するような形で決定していた、ここが大き なポイントかと思っています。その意味では、目安というのは拘束力のあるようなない ような、いわば参考基準というような示し方ではありますが、全国的なものをみて地域 別最低賃金を決める、それを実現してきたというところがあり、あいまいなものが良い かどうかという問題はあると思いますが、極めて日本的な整理の仕方であったと思いま す。  何よりも地方最低賃金審議会の自主性を尊重してきたということによって、その地域 の段階においての労使の合意形成、とことん議論を尽くすということで納得感を生んで きたという経緯もありますので、いろいろ問題点の指摘はされてきておりますが、それ なりに日本的な賃金決定の仕組みとしては成り立ってきた。それが長続きしてきた1つ の理由だろうと思っています。  しかし、問題点としては、ランクが4つある中で、格差をどう考えていくかという問 題がございます。考えてみますに、もともと一律の引上げ率ということ自体難しい問題 であって、使用者側の要求としてはDランクについては引上げ率は低めにという中で、 これは公益委員の方々の裁量で、そこは同率にするという形になった経緯があると思う ので、やはり引上げ率の格差は開かなかったことはあると思います。しかし、現実には 4ランクで決めて、目安額でそれぞれ示しますので、ランク内においては縮小しても、 ランク間格差は開くというのは当然で、そのためにランクの入れ替え問題があったわけ です。しかし、これがやはりなかなか難しい問題もあるわけで、そこに地域別最低賃金 の現状、つまり格差固定であるとか、格差をどうするのかという問題がまだ残っている と思います。  それはランクを集約化すればいいのか、統合すればいいのかという問題もあり、この 辺はやはり大きい点だろうと思います。また、やはり都道府県という枠組みは、現実に 境目のところにおいては、いろいろ問題も生じているわけで、市場圏広域化、経済活動 が広域化する中で、都道府県間をどうするかという問題は大きいと思います。しかし、 現実にある程度近隣との間で平準化していくようなところもあり得るわけで、この辺の ところを画一的、あるいは中央からこうするという形で示すのがいいのか、地域の中で 徐々に調整していく形がいいのか、これは難しい点だと思います。  現状において、確かに都道府県の労働行政は都道府県単位ですし、そういった枠組み ということもあり、こういう都道府県単位の決定の方式がなされているわけですが、そ もそも47都道府県が日本にあるという、行政区画の問題から発生するところでもありま すので、これをそう簡単に崩すというのは難しいと思っております。ただ、そういった 周辺境界領域での問題があり得ることで、これはやはり念頭に置かなければならないだ ろうと思います。  もう1つ大きいのは、地域別の影響率の違いが大変大きいわけで、特に大都市部にお いては影響率の低い所がある。そうすると、実効性という意味で低い最低賃金は意味が あるのか。確かに低かろうが高かろうが最低賃金は最低賃金で、それはクリアすればい いという考え方、バーの上を高く飛んでいるからいいという考え方もありますが、やは り実効性ということも考えていかなければいけない。そうすると、決め方のところでも う少し考える必要がある。だからといって影響率を一定率に強制したら、これはおかし なことになってしまいますので、やはり高すぎる影響率という問題もあるかもしれませ んが、低い影響率の部分については、その実効性を高めるという意味において、水準論 議をしていく。そういう誘導も必要なのかもしれないという感じがしています。  生計費等との関係ですが、基本はやはり生計費が入ってくる。これは最低賃金の基本 的な思想であることは間違いないと思っております。しかし、賃金であるということ、 日本の最低賃金法をみますと、3原則のところは賃金という観点から、やはり労の立 場、使の立場、公の立場、こういった3つの原則を立てているわけです。支払能力をと ることについてもいろいろ議論がありますが、その原則も入れ込んできている。つま り、供給側だけではなく、需要側の要素も入れた、いわば賃金としてみていく。そうい った意味から考えますと、生活保護基準や生計費というものによって、直ちに決定され てしまうといったように、外部的にこれを決定していくような性格のものであるのかど うか。地域別最低賃金といえども、賃金としてみて、一般賃金水準との関係の中で決め ていく、それが基本ではないかという感じがしています。  しかし、その中でも生計費は大きな要素でありますので、水準が低い場合において、 あるいは物価が高騰しているような段階において、生計費との関係が極めて接近する場 合には大きく機能するのだろうと思っており、水準あるいは状況との関係において、こ の生計費というのは、一番関心を持ってみていかなければいけない、注意をしなければ ならないというふうに理解しています。  最後にその他として、履行確保の問題が1点だけ書いてあります。すでに罰則・罰金 等の議論があるのだろうと思いますが、一般に行政施策として、例えば勧告等の前段措 置をとるとか、関係者による監視とか、いろいろな履行確保の仕方がある。つまり、最 低賃金の目的である罰金・罰則というものは、最初はやはり履行確保であるわけです。 その履行確保を有効にしていく手段は、もう少しバラエティーを持っていていいかと思 っています。その意味で、諸外国の例なども含めて、この辺のところは考えていかなけ ればならない問題だと思います。最低賃金においては、この履行確保の問題、つまり、 決めればいいというのではなく、決めたものを守らせるのが常に最大の課題であったわ けですので、履行確保もいろいろ議論としてはだんだん重要になってきているのではな いかという感じはしております。 ○樋口座長  ただ今の説明について、ご質問をお願いいたします。 ○奥田先生  履行確保の点ですが、今全体的にお話になったと思いますが、ご説明の中での履行確 保というのは、地域別最低賃金と産業別最低賃金と分けて考えるとすると、履行確保の あり方についての違いは、何かお考えになっているのでしょうか。先ほど清家先生が産 業別最低賃金の履行確保のことを言われていましたので、その辺りは区分けして考えら れるのかどうか、あるいは、考えるべきなのかどうかをお伺いします。 ○北浦様  現行の罰金が履行を担保していく上では、非常に大きな意義を持っていることは間違 いないだろうと思います。先ほど申し上げたように、賃金は労使交渉で決めていく、労 使が守っていくということになりますと、関係当事者間において有効性を事足らす措置 が多様にあっていいだろうと思います。申し上げたのは、罰金の代わりにこういった措 置をという意味ではなく、履行確保の手段としては罰金もありますが、それだけではな く、もう少し他のいろいろな手段を考えることにより、その中で違いが出ることは1つ の選択肢としてあり得るかもしれませんが、考えたらどうだろうかということです。  地域別最低賃金と産業別最低賃金とでは、どちらがどちらということではなく、どち らもあり得るのかなという感じです。 ○奥田先生  別の点でもう1点お伺いします。先ほどから一般水準と最低賃金、これは地域によっ てはかなり水準が違って、最低賃金の実効性があるかどうかという話が出ています。そ れにも関わると思いますが、制度ではなく実態面として、産業別最低賃金の設定が地域 別最低賃金に何らかの影響を与えることは、実態として考えられるのでしょうか。 ○北浦様  産業別が地域別にですか。 ○奥田先生  はい、実態面でということです。一般水準がかなり上がっていった場合に、最低賃金 がそれよりもかなり低い、特に大都市圏だと、その格差がかなり出てくるわけです。そ うすると最低賃金の実効部分の影響率が非常に低くなってくる。そうなると、考え方に よっては一般水準にかなり近い形で何らかの最低賃金設定の仕方があり得るかと思うの です。それは別の話として、産業別と地域別が併存してずっと続いていく場合に、地域 別より水準の高い産業別の賃金が、実際に地域別最低賃金の決定に一定の影響力を持っ ているとか、そういう側面が実態としてみられるかどうかという辺りを、何かご存じで したら教えていただきたいのです。 ○北浦様  考え方としては、両方が両方に機能し合うことはあると思います。実際の決まり方と しては、地域別最低賃金があり、それが産業別に影響を与えるということできたわけで す。新しい産業別最低賃金ができたときにも、10%ぐらい高い最低賃金を目指すことが あったように、極めて接近しているところが問題で、それを徐々に高い最低賃金に切り 換えていくことになっていく。それが現状どこまできたかという問題はありますが、ど ちらかと言うと地域別最低賃金を意識して産業別というのが現状だったと思います。  言われているような趣旨のことで言えば、それは産業別の賃金水準が、産業別最低賃 金の影響かどうか分かりませんが、そういうこともあって、それなりの水準の高さにな ることにより、それがその地域の一般賃金水準を押し上げることになれば、地域水準に 影響を与えていく、そういうルートで出てくるものだろうと思っております。産業別最 低賃金の水準が高くなって離れているから、地域別最低賃金を上げるという議論ではな いと思います。 ○渡辺先生  履行確保の方法ですが、刑罰で履行確保するのは1つの方法になるのでしょうが、例 えば最低賃金の額自体が二重にある場合に、2つとも刑罰で履行確保するのが合理的か と言われると、最低限として低い方にはいいが、それより高い水準の産業別最低賃金ま で刑罰にするのはおかしいから、同じ強行法規でもそれは民事的強行制だけで、罰則は 生活破壊につながるような地域別最低賃金だけにやるという、強行制の意味を2通りに 考えて使い分けるという考え方は、北浦先生はどのようにお考えでしょうか。 ○北浦様  大変難しい問題です。言われている意味は1つの考え方だと思っております。ただ日 本の現状だけで考えますと、最低賃金の金額が1つで決まっていた歴史はどれだけあっ たのかということで考えてみますと、もともと産業別の最低賃金も大括りの最低賃金も それぞれの業種ごとに細かく、例外職種といいますか、それぞれ業種を分けて適用金額 を変えていたという時代があるわけです。もともと業種に賃金が1つという考え方でず っときて、それが地域別最低賃金ができたときに、包括最低賃金ができたので二重にな ったようにみえましたが、実は、当初の機能は「その他最低賃金」であった。つまり産 業別最低賃金のないところの「その他」であった。  現状においてどうなのかというと、産業別のあるところは産業別最低賃金がみえてい るわけです。そうすると産業別最低賃金のところは最低賃金は1つだという説明になっ ていますし、実際そのように運用してきています。産業別最低賃金のない産業のところ では地域別最低賃金があるという、いわば、形の上では確かに二重になっているわけで すが、高いところで取るということで言えば、1つの都道府県において複数の最低賃金 があるような状態で今までずっときている。そのことについての軋轢・問題点というの が、どのぐらいあるのかとの関係で判断したらどうかと思っております。  ある意味で言うと日本の場合は、高い最低賃金と低い最低賃金、つまり、そのゾーン のような形の中で、ある都道府県の中では1つの底が決まっていたという認識が、賃金 決定メカニズムの中に、何となくあったのではないかという感じがするわけです。それ との兼ね合いで、高い産業別最低賃金の方は、罰則は要らないのかどうかということも 1つ検討対象になるのかなと思っております。そうは言っても法制的な問題などもあり ます。渡辺先生が言われているような考え方は、1つ筋の通った考え方だと思っており ますので、そういったものと実態的な問題と併せて、両方を考えていくのはあり得るの かなと思っています。 ○今野先生  レジュメの一番最初の所に、昭和61年の答申のときに「ソーシャルミニマムから基幹 労働者の最低賃金へ」と書いてあります。先ほどの清家さんの話は、要するに強行法規 でやるのはソーシャルミニマムだけでいいのだと。それ以外の後半部分、基幹労働者の 方は労使が自主的にやってと、そこに政府が介入する必要はないではないかという意見 だと思うのです。  北浦さんが言われたのは、ソーシャルミニマムの方は当然そうなるのですが、もう1 つは、いわゆる日本全体の賃金決定の適正化というか、公正化を図る上で必要であっ て、日本の賃金決定は企業内賃金決定ですが、それは社会との連動をうまく作っておか ないと安定的ではないし、紛争が起こるかもしれないということで、そちらの機能も必 要なのだということだと思うのです。そこはかなり清家さんとは違うのですね。それは どう思いますか。 ○北浦様  清家先生のは、労働市場論とか労働経済の立場で一貫した論理でやられていますの で、私も、それはそのとおりだと思っております。ただ、賃金決定を現実に適してやっ てきた場合に、それは本来の最低賃金の役割なのかと言ってしまいますと、労使交渉の 補完とか何とかというのは、そこはなかなか苦しいところがあるなと私も思っていま す。しかし、最低賃金の見方、考え方、最低賃金の捉え方は評価の仕方に違いがあっ て、ソーシャルミニマム的なものが最低賃金だと考えれば、それはそれだけだとなりま す。  実際にはどうかと言うと、企業内の最低賃金協定があるように1つの標準に対しての 最低限という、つまり適正化基準といいますか、公正的な論理からもってくる。つま り、どういう基準が望ましいかという一般賃金水準との関係で格差なども考えて、ある 程度の最低限を作るのは必要だと。そうでないと、社会的に公平性を保てる賃金決定が できないのではないか。  そういうものを担保するものとして最低賃金制を利用するというようなことになる と、今申し上げたような基幹労働者の最低保障的な意味合いの最低賃金は必要だとなる わけです。どちらが正しいのかというと、これは大論争になるところですが、現実の運 用からすると、その両者をやってきたのが日本の現状だと思います。なぜやってきたか というと、労働組合の組織率が低いからというわけではないのですが、労働組合のない 地域がある、未組織の部分が大きい。そういったところにおいての適正な労使交渉的 に、いわば両者のパワーが均衡する中において、適正な賃金を決めるという仕組みをつ くっていくためには最低賃金の機能、そういったような役割を使ってやる必要がある。 それが日本にとって必要なのだという考え方だと思います。  ただ、そこに立つのだとしても重要視されることは、必要性について労使の合意がな いといけない。だから協約はベースに置くべきで、望ましきは協約にいくべきなのかも しれません。また、職種という概念については産業というより、むしろ職業別に近づけ る努力が必要です。つまり、労使交渉の実態がないところで、形式だけでやってもしよ うがないし、そういうものにだんだん日本が向かうとして、そのためにそういう装置を 作っておかないといけないという感じがいたします。ですから、最低賃金に対しての物 の見方をどこに捉えるかということと、理論で考えるのか実態論的に考えるのかの視点 の違いかなと思っております。 ○今野先生  前回のこの研究会でもそれに関連する質問をしたのですが、産業別最低賃金の水準 が、考え方としては基幹労働者の一人前であると。そういうことを通して企業内賃金決 定とある種の連携があるというお話になったのですが、それは本当かと。言葉上は「基 幹労働者」となっていますが、基幹労働者というと我々がパッとイメージするのは正社 員です。今北浦さんが言われた意味での「機能」というのは、果たして、そういうふう に機能しているのかどうか現状を知らないので教えてほしいのです。 ○北浦様  先ほど申し上げたのは、転換が始まった時点において、エビデンスが明確に、実態と して数字を持っているわけではないのですが、そういう声が多かったということです。 現実に産業別の賃金の水準は、確かに転換後において上がってきています。それはそう しなければいけないということもあるのですが、そういう中において今申し上げたよう に、企業別最低賃金はおそらく一致したわけではないので、かなり距離は近づいたとい うことはあると思います。現実に労働組合の賃金闘争方針などをみても、位置づけには 必ず企業別最低賃金と、その下に産業別最低賃金を位置づけて、その連動性において各 企業の賃金水準を決定するという形で、少なくとも賃金闘争と言われているような取組 みにおいては、観念的かもしれませんが位置づけがあることは事実だと思います。  ただ、今野先生が言われたように、18歳で切ったから一人前なのかという問題は確か にあるわけです。18歳になったら本当にそうなのか、22歳や23歳になるまで一人前にな っていると完全にみなしていいのか、といういろいろな議論があったのだと思います。 そこは相対的なもので、かつては年齢のない、いわば15歳以上であったところが18歳に なることにより、より近づいたということ。それと、一番問題になったのは初任給との 関係です。18歳初任給との関係がみえやすくなった。  日本の場合は勤続年数によって上がる部分、若いときはあるわけですから、そうする と初任給のところに規制が効くのが、賃金の決定メカニズムとして非常に有用性がある ので、その意味においてかなり連動性をもったということが言えるのではないかと思い ます。 ○樋口座長  ありがとうございました。大変な宿題をもらったような気がします。特に労働市場に おける政府の役割をどこまで求めるかという。この後の取りまとめの参考にさせていた だきたいと思います。                  (北浦様退場) ○樋口座長  それでは会議を引き続き行っていきたいと思います。次は、諸外国の最低賃金制度に ついてです。前回までこの研究会で出された質問について、事務局で調べていただきま したので、ご報告お願いいたします。 ○前田賃金時間課長  第2回研究会で諸外国の制度概要について説明しました。その際に、若干ご質問等が ありました件についてご報告いたします。諸外国の制度の中で適用除外や減額がある国 がかなりみられるので、その辺の考え方を整理してほしいというご質問がありました。 資料3の初めに、これはかつてILO事務局でまとめた最低賃金制度についての文書 で、その中に適用除外と軽減についての言及があります。  1頁では、適用除外と軽減について労働生産性が低いと考えられるようなものという ことで、例えば若年者、学習中の者、障害者は、一般的には労働生産が低いということ から適用除外なり軽減というものがあり得る。また、公的部門や高い所得を得ているの で、保護する必要がない場合に除外されている。さらに、職種として、特殊な家事手伝 人や外回りの歩合給の方などが除外されている場合もあるということです。ただ多くの 国では、最低賃金はできるだけ広く適用されるべき基本的権利ですので、生産性の低い 労働者の範疇に対する適用除外等を除いて、かなり広く適用されています。  2頁、その場合に完全な適用除外よりも、軽減して少し低い額で定める方が一般的で あるということで、多くの国で若年労働者について、しばしば低い率が定められてい る。また通常徒弟の場合に軽減が行われている。さらに障害者に対する軽減も広く行わ れています。  4頁、これは1998年のOECDの、Employment Outlookで最低賃金について整理して おります。その中で適用範囲等についての区分があります。ここでもほとんとの国で、 若年者や見習生などに対して減額あるいは準最低賃金(sub-minimum rate)が存在する ということです。適用範囲については、障害者はしばしば除外されるか別の規制を受け ている。見習生や訓練生についても同様である。若年労働者に対する減額について次頁 に表がありますが、17のうち半分以上の国で、減額という形で率を下げて適用していま す。ただ若干の変遷があって、スペインでは17歳未満は廃止されています。逆にアメリ カは1996年から若年者について減額が導入されています。  6頁、各国について個別に調べたものです。アメリカについては適用除外や減額につ いての考え方を、日本大使館のアタッシェを通じて労働省の方に聴取したというもので す。適用除外については、例えば管理職等は責任が重く給与も高いということです。特 定の小規模新聞社や小規模電話会社があるのですが、この辺はコストの問題で議会で適 用除外したということです。外国船籍乗組員、漁業従事者等は給与を労働時間で測るこ とは適当ではない。新聞配達や子供も働けるように配慮する。小規模農場についてはコ ストの問題、ベビーシッター等については家庭内の問題であるので立ち入らないといっ たようなことです。  7頁は減額です。20歳未満の若年者についてで、これは1996年にできたのですが、若 年者の雇用促進とで、特に生産性が低いので訓練が必要といった観点から減額、障害者 も、障害者の雇用の促進という観点から減額が設けられております。  8頁、イギリスについては第2回のときに18〜21歳が減額になっていると説明しまし たが、それは1998年6月の「低所得委員会」の第1次勧告に基づいて16〜17歳は適用除 外で、18〜21歳は減額措置と当初なっていたということです。  9頁、実は今年3月に第4次勧告が出されて、16〜17歳も適用除外ではなく、適用し た上で減額ということになり、今年10月からイギリスは3つのランクができておりま す。16〜17歳は3.00ポンド、18〜21歳が4.10ポンド、22歳以上は4.85ポンドの3ランク に変わっております。減額適用除外については以上です。  資料4は、諸外国の最低賃金の履行確保の問題です。1頁はアメリカです。これはア メリカ労働省のホームページ等から訳したもので、公正労働基準法の施行が労働省の賃 金時間部の調査官(Investigator)によって行われているということで、調査をして法 違反が見つかったときには是正を勧告することで、臨検、調査、尋問を行う権限が与え られているということです。調査については、その記録を調査し給与支払簿等を見た り、労働者からの面接等も行い、違反があった場合は是正措置をとらせるということで す。  それ以外の手続としては、「その他の手続」の所ですが、労働者が未払賃金及びそれ と同額の弁済金を求めて訴訟を起こすとか、労働長官が労働者に代わって訴訟を起こす といったような手続があります。最低賃金の違反、特に繰り返しの違反や故意の違反に 対しては行政上の制裁金が科されることがある。それとは別に、故意に違反した使用者 に対し罰金、禁固刑等の刑事罰が科されます。制度的にはこういう状況です。  2頁、アタッシェのアメリカ労働省の担当官からの聴取によりますと、実際の履行確 保は最低賃金制度の周知といいますか、ポスターを貼ってもらうとか、そういうことが 中心です。調査は52の地方支部分部局があり800人の調査官がいて、主に労働者からの 申立てに基づいて調査を行っています。調査は1人の調査官が年30〜40回程度で、それ も最低賃金だけではなく、公正労働基準法の主な規制が時間外労働と最低賃金で、その 両方を含んでいます。  3頁はイギリスの場合です。イギリスでは、最低賃金制度は貿易産業省が所管してい るのですが、実際の運用は内国歳入庁が所管しています。内国歳入庁の運用としては、 電話相談と最低賃金監督官による履行確保と、主にこの2つです。最低賃金法施行以 来、電話相談等で32万件の質問に対応して1万1,000件の苦情を取り扱ったというよう なことです。監督チームは全国に設置されて、それぞれ6人までの監督官から成り立っ て、労働者及び第三者からの苦情に基づき対応しています。これも使用者が最低賃金支 払を果たしているかについての記録を調査するとか、使用者に対する周知、未払金を確 保する、労働者に代わって使用者の告発を行う。最低賃金制度が導入された以来、監督 官が約1,300万ポンド以上の未払金を確保したというようなところです。  4頁は、イギリスの最低賃金の履行について少し詳しく文書に書いてあったもので す。基本的には、最低賃金を支払わなかった場合は5,000ポンド以下の罰金に科せられ るということで、内国歳入庁の監督官が事務所に立ち入って調査すると書かれておりま す。  6頁はフランスについてです。フランスもSMICについての履行監督については、 労働省の労働監督官及び一部農業省、運輸省を加えて、約1,500人の監督官がいて監督 をするということです。監督の方法は労働者からの申告に基づくものと、任意に企業・ 職場を選定して行うという2つの方法です。この監督は最低賃金だけではなく、安全衛 生等も含めた労働法規違反についてのものであるということです。仮に違反があった場 合には、書面で改善を忠告する。その後、さらに改善がみられない場合に調書を作成し 刑罰の請求ができるということですが、刑事手続にかなり時間がかかるということで、 訴追に至らずに雇用主の方で自ら違反行為を改善するケースが多いということです。現 在SMIC違反に対する罰金は1人1,500ユーロということです。1998年度の調書作成 は3万件超で、うち最低賃金関係は60件であったというようなことです。それ以前で も、書面での改善忠告が74万件で、うち最低賃金が2,271件といった感じです。  資料5は、実際の最低賃金額未満の労働者がどの程度いるかということです。アメリ カですが、これは連邦最低賃金額以下の賃金を支給されている時間給労働者の割合で す。最新では2003年ですが、総労働者数が1億2,200万強で、時間給労働者が7,294万 6,000人、そのうち連邦最低賃金額未満の労働者は、(3)155万5,000人です。連邦最低賃 金額の労働者、つまり最低賃金額そのものは54万5,000人で、合わせて210万です。時間 給労働者が占める割合は2.9%です。1996年、1997年に連邦最低賃金が引き上げられ、 そのときはかなり、それ未満の労働者がいたわけですが、その後、金額が変わっていな いということもあり徐々に割合は下がってきているということです。ただ、この中には 適用除外も含まれますので、必ずしも違反そのものではないということです。  2頁はイギリスの最低賃金額未満の労働者についてのものです。2003年春の時点で、 18〜21歳未満は4万人で2.2%、22歳以上は22万人で1%、合わせて26万人で、労働者 数の割合からすると1%ということです。イギリスも1998年に今の最低賃金制度がで き、その後、額は引き上げられていますが、未満の労働者はほぼ1%ぐらいになってき ています。この場合にも適用除外などはあり得るので必ずしも法違反ではないというこ とです。  フランスはあまりそういう形でのものがなかったのですが、最低賃金額の引上げの影 響を受ける労働者が13.4%という統計数字が出ております。フランスは最低賃金額その ものを支払われる方の割合は、かなり高いという感じになっております。  資料6は第2回の資料について、その後、若干修正すべき点がありましたので、それ を直したものです。2頁、アメリカは罰則について、故意の違反は1万ドル以下の罰金 もしくは6カ月以上の禁固が抜けていましたので付け加えております。それと別に、行 政による制裁金が1,000ドル以下です。  4頁はイギリスについてです。先ほど申し上げたように16〜17歳のところが適用除外 から減額になったということ、今年10月に金額が変わっておりますので、そこを修正し ております。  7頁はフランスです。適用除外の用語等一部、必ずしも適切でないというご指摘があ りました。巡回セールスマンを商業代理人にしました。  8頁の罰則の所ですが、フランスはSMIC違反に対しては1,500ユーロの罰金があ るわけですが、労働契約の拡張についても、これは労働法典の方ですが、一応、違警罪 の罰金があるということで、罰金は両方あるということであります。 ○樋口座長  何かご質問、ご意見ございますでしょうか。  日本の履行状況は、別途出るわけですか。 ○前田賃金時間課長  はい。 ○樋口座長  よろしいでしょうか。なければ、本研究会は今日を含めて4回の審議をしてきたわけ ですが、そろそろ今後の検討に向けての論点を整理していきたいと考えております。参 集者の皆様から、この点を議論すべきだということがありましたらご指摘いただき、そ れを踏まえ、論点整理事項を挙げていただければと考えておりますが、いかがでしょう か。 ○古郡先生  この研究会の検討事項として、最初に与えられたことを議論するということになると 思います。まず全体的な問題としては、最低賃金の意義はどこにあり、労働市場で最低 賃金がどのような機能・役割を果たしているかを、もう一度改めて議論することが最初 に必要ではないかと思います。そのことに照らして考えたときに、今の最低賃金制度が うまく機能しているのかどうかを検討するのが、その次の段階です。さらにその次の段 階としては、それなりに機能しているとしても、最低賃金制度がより的確に機能するた めにはどうしたらいいかということになっていく。最後の段階では、より個別具体的な 話になってくるかと思います。  ヒアリングの中でもたくさん出てきましたが、個別具体的な問題としては、最低賃金 をどう決めたらいいのかということで、決定要素や水準の問題も議論されたし、若年の 減額措置の問題とか、今日の話にありました罰則、履行確保の問題などがあると思いま す。  それと別の次元の問題としては、産業別最低賃金についてどう考えるか、都道府県別 からもう少し範囲を広げてブロック別にするとか、その他諸々のことがあるという感じ がいたします。ヒアリングで行ったことを改めて提示するということになりましょう か。 ○渡辺先生  最低賃金制度の存在意義が最低賃金法という法律の制定目的なのでしょうが、清家先 生や今野先生も言われましたが、生活保障という意味、ナショナルミニマムあるいはソ ーシャルミニマムとして、これ以下の賃金で働かせるのは人間の尊厳を破壊するものだ ということ、もう1つは公正競争というのが分かったようで分からない。私なりに理解 している点は、こういうことだと先ほど話しましたが、どうもそれが自分だけの考えと いうこともあって、最低賃金制度が発足したときからずっと言われている、事業の公正 競争を確保するための最低賃金というのは一体どういう意味なのだということ。  生計費を確保するのが地域別最低賃金で、より高いレベルで事業の公正競争を確保す るのが産業別最低賃金だという二元的な考え方をずっととってきたと思うのです。経済 環境の変化や雇用状況の変化もあって、伝統的に日本の最低賃金制度がとってきた二元 主義的な考え方が正しいのかどうかをもう少し、特に公正競争がよく分からないので、 そこのところにメスを入れる必要があるのではないかと思います。  その場合に、公正競争も現在の産業別最低賃金は、協約ケースも審議会方式で、いわ ば労使の合意を基本にし、しかし地域の最低賃金審議会の議を経て都道府県労働局長が 決定するというワンクッションが入っていますので、その手続面、協約ケースならば、 もう少し手続を簡略にできるかなという気もしますので、産業別最低賃金を決定すると きの手続についても、もう少し簡略するような方向は考えられないのか、この2つの問 題です。  二元的に存在するものについて、特に公正競争とくっついている産業別最低賃金の意 味を、もう一度考え直してみる。よく分かりませんが、それに非常に関心がありますの で、是非そこを論点として取り上げてもらいたいと思います。  もう1つは履行確保の方法です。これは法律論的な問題ですが、私は罰則で確保する のは地域別最低賃金だけでいいと思っています。それより高い事業の公正競争という意 味での最低賃金を残すならば、それは民事的強行制だけで、刑罰とは引き離した方がい いと考えています。履行確保の方法についても、今までの罰則一本の方式でいいかどう かも1つの重要な論点かと思っています。  今の最低賃金法の第11条の労働協約の拡張方式は、あってないようなもので制度とし ては死んでいます。なぜ死ぬかというと、日本の実態に合っていないからです。今の第 16条の4の審議会方式の中の、いわば要件を緩和した協約の決定による産業別最低賃金 方式を独立させて、あれを協約方式とした方がいいとずっと思っていますので、そうい う改革の方向について、現在の第11条方式をどう扱うか。第16条の4の審議会方式の中 の協約ケースで決められている産業別最低賃金をどう活かしていくかという問題も、1 つの大きな論点にしていただきたいと思います。 ○樋口座長  産業別最低賃金の場合は、地域別に徹底していくということは必要なことだというお 考えでしょうか。 ○渡辺先生  産業別といっても都道府県労働局単位で決めていくので、そこはよく分からないで す。協約の拡張適用という労働組合法の制度ではなくて、最低賃金法の制度だとすれ ば、どうしてもそれを行政的な審議会の意見を聞いて、行政機関が決定をして強制して いくシステムをとらざるを得ない。そうすると、労働局は都道府県ごとにありますか ら、行政の都合で地域的になっているだけかなという気もするのです。産業別でありな がらその範囲が都道府県別になっているということも、制度として整合性があるかどう かちょっと分からないのです。ただ現行がそうなっているだけなので、なかなか動かし 難いという面もあります。そこは議論してみたらどうでしょうか。 ○樋口座長  ほかにはいかがでしょうか。 ○石田先生  これは大きな論点になると思いますが、「水準論」をどういう枠組みで議論するか、 とりわけ地方最低賃金審議会の方です。私は法律をよく知りませんが、実態は目安制度 と、かつ地方の自主性という言い回しの中で、メカニズムがあるということですが、も し水準論を正面から論じるとなると、現行の決定メカニズムが適切かどうか。これは大 変大きな問題だと思いますが、しかし、ここを外して今日の非典型雇用とか、あるいは 所得の二極化とか、そういう問題は多分解けないのではないか。結論はどうなるか分か りませんが、あり方ということになれば、極めて枢要な論点だと思っております。 ○奥田先生  先ほど古郡先生が言われた現在の機能を評価するときに、問題を少し動態的にみます と、法政策の中で労使自治をどう位置づけるかに関わると思うのです。労使交渉機能を 含めて、最低賃金の様々な方式を議論した方がいいのではないかと考えています。  2つ目は、この研究会の対象課題になるかどうかは分かりませんが、例えば派遣労働 者の産業の考え方は派遣元なのか先なのかが出ていますので、産業別という場合の産業 の振り分け方も、若干の検討ができればと思います。 ○今野先生  先ほど渡辺先生が言われた公正競争と、北浦さんが言われた公正競争は違うのです ね。公正競争と言ったときに、ある時は企業間の公正競争を言って、あるときは労働市 場の公正競争を言っていたりして混ざっています。北浦さんが強調されたのは、日本全 体の賃金決定が適正か公正かという意味で、最低賃金の役割を果たす意味があるのだ と。その論点は何のための最低賃金かというときに必要かなと思います。 ○樋口座長  労使交渉の補完という使い方をしていましたね。 ○今野先生  そうですね。 ○渡辺先生  もともとの公正競争というのは「事業の」が付いているのですよね。 ○今野先生  そうです。 ○渡辺先生  だから、先ほどは下請のコストとの関係で意味があるのではないかと言ったのです。 北浦さんのは、ニュアンスが違っていたようですね。 ○今野先生  清家さんの話も、事業が産業を超えるよと、片方では、実は労働者も産業を超えてい るのだという言い方をしているわけです。混ざった議論をしているので、そこは重要な 論点かなと思います。 ○石田先生  私なりの理解は清家さんと同じで、つまり最低生存を下げるような企業間競争を防ぐ と。そういう意味で公正競争は極めて分かりやすい。つまり、生存供給価格を維持する ことの別の言い方であって、何か別様の意味がそこにあったとは考えないのですね。つ まり、チープレーバーに依存する企業間競争は避けよう、というのが公正競争という考 え方なのかなという。 ○樋口座長  そうでないと独占禁止法の問題が関連してきますからね。公正競争は、そこで下支え という話になってくると。 ○今野先生  幅がありそうで、産業別最低賃金との関連で言ったりしているから面倒くさいのです よ。 ○石田先生  産業別の場合は製品市場の企業間競争の括りでしょうね。その中で競争条件を、チー プレーバーに依存する競争を排除しましょうと。 ○今野先生  でも、本当にチープレーバーだけというのでしたら、産業別最低賃金の議論は出てこ ない。もっと一般的でいいわけです。 ○石田先生  製品市場を入れると産業別です。製品で競争するわけですから。 ○樋口座長  派遣への適用と先ほど出ましたが、派遣先の産業と派遣会社の産業が違っています。 現行の制度はそうなっているわけですが、それを組み換えることもあり得ることなので すか。 ○今野先生  清家さん流に言うと関係ないですね、産業を超えて、みんな一緒ですから。 ○樋口座長  それは産業別をとらないという立場ですから、産業別をとるとすれば。 ○渡辺先生  前回の連合の方たちは、働いたところでカウントされるのが当然だと、どこにいるの ではなく、どこへ行ったかで、働いているかが問題だというから、派遣先で適用しろと いうことなのでしょうね。 ○樋口座長  これについては、法的には。 ○前田賃金時間課長  これまでは派遣元が賃金を払いますので、最低賃金は派遣元の産業が適用されますの で、通常は、産業別は派遣元のサービス業にはないので、製造業に派遣されても、それ は派遣先の産業別は適用されていないという整理がされているということです。それは 整理の仕方で、そう整理するということを議論することは可能だと思います。 ○樋口座長  片方で均衡の問題がありますでしょう。派遣先における労働者と派遣労働者の間の。 ○前田賃金時間課長  それは最低賃金に限らず、派遣労働に係るすべての問題です。 ○樋口座長  それをここで先行して議論することはあり得ますか。 ○前田賃金時間課長  最低賃金だけのことについて検討することはあり得ると思います。 ○樋口座長  ほかにどうでしょうか。 ○渡辺先生  石田先生の言われる水準論というのは、例えば年齢とか、障害者の問題も含めて、除 外か減額かの問題も含めてということですか。 ○石田先生  そうです。今日、補足報告があったような。 ○渡辺先生  それも考慮に入れた上での議論ということですね。 ○石田先生  はい。 ○今野先生  結局、清家さんが言われたのは、1人で生きていける賃金にしろということでしょ う。 ○樋口座長  そうです。もちろん2人世帯とか標準平均は多いかもしれませんが、1人であっても 生きていくことができるようにということです。 ○今野先生  その最低限ということですね。 ○樋口座長  ほかから補填されなくてもという意味です。パラサイトがいるではないかということ ですが、パラサイトをしているのが全てではないだろうという。 ○石田先生  そうなってくると、生活保護の決定メカニズムと、最低賃金の絶対数字も議論すると き、それは1つの国家で別様の尺度があってもいいのかという議論になるのではないで すか。 ○渡辺先生  生活保護法は、法律で世帯単位となっていて、最低賃金法は労働者のとなっています から。 ○石田先生  1人というのはないのですか。 ○樋口座長  1人世帯はありますからね。 ○石田先生  だから、清家説をとればそれになるのではないですか。 ○樋口座長  そういうことです。それは2人世帯になったからといって2倍にはならない。 ○石田先生  1人の生活保護基準と、最低賃金の絶対額、清家説をとった場合、別様の尺度があっ ていいのかというのは。 ○樋口座長  経済学的には、2人になった場合に、1人の場合の1.何倍になるという均衡基準 を、逆に計測しようということです。 ○石田先生  問題は、1を決めなければいけないわけですよね。 ○樋口座長  そうです。1が決まった上でのことです。規模の経済性が2人になった場合に働くわ けで、その場合の経済性はどうであるかというのは、むしろデータから計測しましょう という研究はたくさん行われています。 ○今野先生  清家説では単身者がありますから、沖縄と東京ではすごい差ですよね。 ○石田先生  それはありますね。 ○今野先生  今の最低賃金の差は少なすぎるよねという、そちらの方にも波及してきますね。 ○樋口座長  税制の扶養控除額をいくらにするかというときに、子供が1人増えたときに、何人分 とカウントしていくら控除するのかという分析の段階ではありますし、審議会でもそれ は議論していると思います。今議論になったのは、生活保護との関連をどう考えるのか が出てこないといけないですね。これは雇用保険の給付額をどうするかということにも 関連していますから。 ○今野先生  論点で、労働経済の人たちが共通して恐れていたことなのですが、支払能力は考える なという。これは大竹さんも同じような質問をしていて、結局、考える必要はないと。 そこをどうするかですね。 ○樋口座長  言い方を変えれば、支払能力を通じて、結局、雇用量に最低賃金の水準が影響します から、雇用量と賃金とのバランスをどう考えているかというところでは、それは考える ということだろうと思います。ただ、そこでいうのは、あくまでもマクロのレベルの支 払能力であって、個別企業の支払能力ではない。だから個別に企業をみたときに、支払 能力が低いからそれに合わせて最低賃金を決定するということは、理論的におかしいの ではないかという話だったですね。 ○今野先生  それと関連して、この前に大竹さんが主張したのは、そうであったとしても今の賃金 分布、最低賃金の金額とか、あるいは中小企業が採用するときの最低賃金の考慮度合を 考えるとほとんど影響がないのだから、支払能力を考える必要はないのではないかとい う議論だったですね。だから、当面はということだと思います。今の水準ではというこ とだと思いますが。 ○樋口座長  最低賃金の水準の問題等を議論するときには、例えば、それを1%上げたらどれだけ 雇用が失われるのだということは重要な問題です。そこのところについては、支払能力 という議論が入り得る可能性はあると思います。 ○今野先生  それは波及するという意味ですかね。つまり、そこに人がいないのだから1%上げて も影響ないのではないかという。 ○樋口座長  影響率の話というのは、まさにそこのところの話をしているわけです。本来いないは ずなのですが、いるのですよ。 ○今野先生  ちょっといる。 ○樋口座長  その、ちょっとが、低すぎるのではないかという議論があるわけです。 ○石田先生  水準論というのは、決定の3要素の関係でもあるのですよね。類似労働者、生計費、 支払能力。 ○樋口座長  そうです。このほかにもいろいろ議論があるかと思いますので、お考えになりました ことがありましたら事務局に寄せていただいて、次回から話を詰めていきたいと思いま す。 ○渡辺先生  第2回目の資料30頁に「パートタイム労働者の賃金決定に与える影響」とあります。 この間大竹先生が、採用時の賃金決定項目、別事業所数割合、あるいは賃金昇給の決定 項目別事業所数割合で、地域別最低賃金を賃金決定時に考慮するのが、平成13年だと14 %くらいで、平成7年だと13%ぐらいだと。昇給に至っては7.5%とか11.1%で、いず れにしても非常に低い。この数字は地域産業別最低賃金の額のことを言っているのか。  採用時の賃金決定項目というのは、「地域産業別最低賃金」と書いてあるが、ここの 賃金というのは、額のことを言っているのか、それとも今年は去年より何パーセント最 低賃金額が上がったという引上げ率を考慮して、額はずっと上だが最低賃金が目安で、 地方最低賃金審議会で2%上がったから上げてやろうと。ここでいう最低賃金というの は、額のことを言っているのか、引上げ率のことを言っているのか、これは分かります か。 ○前田賃金時間課長  この調査からは必ずしも明らかではないのですが、この質問から考えますと、通常は パートタイム労働者を採用する際に、賃金を決めるときに何を参考にというと、普通は 額だと思います。実際の機能として最低賃金がどれだけ上がったから、それに応じてパ ートタイム労働者の賃金を改定することはあると思いますが、この調査ではそこまで把 握できているかどうかは定かではないです。単純に統計調査の限界として、普通こうい うふうに聞かれると額で答えるだろうという感じです。 ○渡辺先生  前に中小企業団体中央会の専務理事をしていた方は私の親友で、その人に聞いたら、 目安が出て、額はそんなに問題ではない、最低賃金でこれだけ引き上げるということに なったので中央会団体の構成事業主は、うちもこうしてあげるかというのが9割あるい は100%だ、だから1円、1%にこだわるのだ、ということを言っていたのです。それ で私も最低賃金の委員として、それから理を正して熱心に考えるようになったのです。  これをみるとわずか1割で、昇給になっても7.5%で大したことではないと大竹さん が言われて、だから最低賃金額というのは、今の水準で考える限り、多少引き上げたっ て何したってあまり大勢に影響がないのだというお話になったので、私は非常に違和感 を持ってみたのです。この数値の中身がよく分からないので、もう一度この統計の意味 を厳密に検証してみたいという気持ちなのです。 ○今野先生  これは分からないですよ。 ○樋口座長  統計調査からは分からないですね。 ○今野先生  もしかしたら、左側の一番数字の所が、みんな影響を受けた団体かもしれない。隣を みて決めていると言っても、隣は最低賃金だったかもしれないので、そういうのは全然 わからないですよ、波及効果というのは。 ○渡辺先生  分からない、ということで分かりました。 ○樋口座長  まだご議論があるかと思いますが、よろしいでしょうか。  それでは次回の会合について、事務局からご連絡お願いいたします。 ○前田賃金時間課長  次回は12月17日(金)、午後3時15分から、経済産業省別館8階827号会議室で開 催したいと思います。正式には追って通知いたします。  次回は元中央最低賃金審議会会長の神代先生からのヒアリングを予定しています。あ と、本日のご意見を踏まえ事務局で論点を整理し、それについて意見交換をお願いでき ればと考えております。 ○樋口座長  それでは、本日はこれで終了したいと思います。ありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)