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「被保険者・受給者の範囲」の
拡大に関する意見




平成16年12月10日
社会保障審議会介護保険部会


1.はじめに


 ○  介護保険制度における被保険者・受給者の範囲の拡大については、本部会が本年7月30日にとりまとめた「介護保険制度の見直しに関する意見」において、これまでの経緯及び問題の所在について次のように整理したところである。

「介護保険制度の見直しに関する意見」(平成16年7月30日)
*一部省略等の上抜粋

 
これまでの経緯

(1)介護保険制度をめぐる議論
 ・  介護保険制度において「被保険者・受給者の範囲」をどうするかは、当初から大きな論点の一つであった。

 ・  審議会や与党内で、論議が重ねられ、その結果、最終的には「老化に伴う介護ニーズに応えること」を目的として、被保険者・受給者を「40歳以上の者」とする現行の枠組みがとりまとめられた。その理由としては、老化に伴う介護ニーズは高齢期のみならず中高年期にも生じ得ること、40歳以降になると一般に老親の介護が必要となり、家族の立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が高まることがあげられた。

 ・  これと併せ、法施行後5年を目途として制度全般に関して検討を加え、必要な見直しを行うことを定めた介護保険法附則第2条において『被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲』が検討項目の一つとして具体的に掲げられることとなった。

(2)障害者施策をめぐる動向
 ・  介護保険法の制定にあわせ、身体障害者福祉法等の中に介護保険制度による給付と障害者福祉制度による給付との調整規定が設けられ、両者に共通するサービスについては、介護保険制度から給付されることとなった。
 これは、高齢障害者の介護サービスについては介護サービスに関する一般制度である介護保険制度を優先して適用するという趣旨であった。
 例えば、身体障害者については、約6割が65歳以上であるが、これらの高齢障害者の介護サービスは介護保険制度から給付され、重複するサービスは障害者福祉制度からは給付されない。その結果、高齢障害者の大半は介護保険制度のサービスを利用している状況にある。
 ただし、介護保険制度にはない「ガイドヘルプ(外出支援)サービス」などの障害者福祉サービスを利用できるほか、全身性障害者については、介護保険制度の支給限度額を超えるサービス利用分について、引き続き障害者福祉制度から必要なサービスを提供できることとされている。

 ・  障害者施策においては、2003年(平成15年)4月から支援費制度が導入された。この支援費制度の施行に伴い、障害者の在宅サービスは急増し、初年度(平成15年度)の給付費は対前年度比で6割増となっている。こうした状況に対して、障害者の地域生活を支援する観点から評価する声がある一方、財源不足をはじめ、財政基盤をめぐる懸念が急速に高まっている。

 ・  市町村でのサービス基盤の整備状況(平成15年4月)について見ると、障害者福祉サービスを未だに提供していない市町村が多数存在しており、全国的にみて普遍的にサービスが提供されている状況にはない。
 特に、精神障害者は、介護保険制度のみならず、支援費制度の対象にもなっておらず、在宅サービスをはじめサービス基盤の整備は大幅に立ち遅れているのが実情である。
 また、18歳未満の障害児の場合も施設サービスは、支援費制度の対象とはなっていない。このように未だ制度的には、障害種別に基づく縦割りの取扱いが残っている状況がある。

 ・  加えて、65歳未満の者の中には、要介護状態であるにもかかわらず、公的サービスを受けられないケースが存在する。例えば、高次脳機能障害や難病に伴う身体等の障害、成人期以降に発生した知能の障害を有する者については、障害福祉各法による「障害者」と認められず、福祉サービスの対象とならない場合がある。介護を必要とする理由や年齢の如何を問わず普遍的に介護サービスを提供する制度が存在しないことから、こうした「制度の谷間」の問題が生じている。

 
問題の所在

(1)介護保険制度との関わりにおける問題
 ・  今回の制度見直しで問われている問題は、現行制度では40歳以上の者とされている「被保険者・受給者の対象年齢」を引き下げるべきかどうかである。

 ・  まず、「被保険者の問題」と「受給者の問題」の関連についてであるが、両者は厳密な意味では異なるものの、介護保険制度においては、被保険者としての「負担」と、受給者としての「給付」は連動することが基本となることから、実際上は表裏の関係にあると言える。
 また、被保険者・受給者の対象年齢の引下げは、「老化に伴う介護ニーズ」への対応という、制度の基本骨格の見直しにもつながるものである。現行制度では、「40歳から64歳の者」である第2号被保険者が給付を受けられるのは、「老化に伴う介護ニーズ」として15の特定疾病により介護が必要となった場合に限られている。このため、交通事故や高次脳機能障害などに伴い介護が必要となった場合には、介護保険制度によるサービスを利用できない状況にある。
 さらに、保険財政や負担の面では、被保険者の範囲は保険料を負担する「制度の支え手」の在り方に関わっている。その対象年齢を引き下げることは、支え手を拡大することになり、財政的な安定性という面ではプラスに作用することを意味している。

 ・  なお、保険料負担の趣旨という点では、現行の第1号保険料は「同世代支援」の面が強いものの、第2号保険料は、自らの老親をはじめとする高齢者世代を支える「世代間扶養」ということが中心となっており、仮に若年障害者へ適用するとするならば、「同世代間支援」の面が強くなってくると言えよう。

(2)障害者施策との関わりにおける問題
 ・  65歳以上の高齢障害者の場合、介護ニーズに関しては介護保険制度を優先して適用する仕組みが基本となっている。したがって、被保険者・受給者の対象年齢を引き下げるということは、制度論としては、64歳以下の若年障害者の介護ニーズについては介護保険制度を適用することを意味している。
 これは、両制度の基本的性格として、介護保険制度が「介護サービスに関する一般制度」であるのに対し、障害者福祉制度は介護ニーズに限らず、それ以外の就労支援等のニーズへの対応を含めた「広範なサービスを視野に入れた制度」であり、両者が重複する場合には前者がまず適用される関係となるからである。
 ただし、上記のような適用関係になるとしても、介護保険制度の対象とならない障害者ニーズに対応する仕組みは当然に必要である。現に、高齢障害者においても、介護保険でカバーしていないニーズ(介護ニーズ及び介護以外のニーズ)に対しては障害者福祉制度からのサービス提供を行うという「両制度を組み合わせた仕組み」が実際に運用されている。

 ・  介護サービスの在り方に関しては、介護保険制度が今後目指す基本方向は、地域で高齢者が生活を継続できるような「地域ケア」であり、このことは障害者福祉サービスにも共通するものであると考えられる。住み慣れた地域での小規模多機能型のサービス提供を目指す基本方向において、両者の共通性はますます高まるものと考えられる。
 その上で、障害者の特性に対応した介護サービスの内容やケアマネジメントの在り方などが具体的な論点となってくると考えられる。特にケアマネジメントについては、介護サービスと介護以外の就労支援等の障害者に必要なサービスをいかに地域で一体的に提供できるようにするのかといった点について、十分な検討が必要である。

 ・  また、知的障害者や精神障害者等について、現行の要介護認定によって介護の必要性を適切にとらえることができるかどうか検証し、その結果を踏まえた検討を行う必要がある。

 本部会では、こうした「これまでの経緯」と「問題の所在」を踏まえ、また、その後これまでの間に公表・提出された「給付の重点化・効率化を行った場合の給付費及び第1号保険料の見通しに関する試算」や「被保険者・受給者の範囲の拡大を行った場合の保険料の見通しに関する試算」等の資料も参考に、本年9月以降、5回(第17回〜第21回)にわたり議論を重ねてきた。

 議論の中では、(1)介護保険制度を要介護となった理由や年齢の如何を問わず介護サービスを提供する普遍的な制度へと見直すことについてどう考えるかという点と、(2)制度の普遍化に向けて被保険者・受給者の対象年齢を引き下げるとした場合にどのような制度設計上の検討事項があるかという点が、大きな論点となった。
 以下、この整理に沿って本部会での検討結果をとりまとめる。


2.本部会での検討結果


(1)介護保険制度を普遍的な制度へと見直すことについて

 ○  現行の介護保険制度では、40歳未満の者についてはそもそも制度の対象外であるが、40歳から64歳までの者についても、保険料負担を高齢者と同等の水準で行いながら、給付は「老化に起因する疾病(特定疾病)」を原因とする場合に限定されており、65歳以上の者と比べて受給要件に差が設けられている。
 したがって、現行の制度は、給付面から見れば、65歳以上の介護ニーズと40歳から64歳までの老化に伴う介護ニーズに対応するものであり、実質的には「高齢者の介護保険」であると言える。

 ○  こうした現行制度に対し、介護保険制度の将来的な在り方としては、要介護となった理由や年齢の如何に関わらず介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、併せて保険料を負担する層を拡大していくことにより、制度の普遍化の方向を目指すべきであるという意見が多数であった。

 ○  普遍化の方向を目指すべきとする理由は、以下のとおりである。
(1)  そもそも介護ニーズは高齢者に特有のものではなく、年齢や原因に関係なく生じうるものである。そうした「介護ニーズの普遍性」を考えれば、65歳や40歳といった年齢で制度を区分する合理性や必然性は見出し難い。
 ドイツ、オランダ、イギリス、スウェーデン等の欧米諸国においても、社会保険方式と税方式の違いはあるものの、年齢や原因などによって介護制度を区分する仕組みとはなっていない。特に、ドイツとオランダについては、全年齢を対象として介護サービスの保険給付を行っている。
(2)  特に、40歳から64歳までの者については、保険料を支払っているにもかかわらず、原因により保険給付を受けられる場合が限定されている。また、64歳以下の者の中には、「制度の谷間」にあって、いずれの公的な介護サービスも受けられないというケースも存在している。制度を普遍化することにより、こうした問題の解決を図ることができる。
(3)  介護保険財政の面では、対象年齢の引下げは制度の支え手を拡大し、財政的な安定性を向上させる効果がある。介護保険財政については、短期的な対応は別としても、長期的には、制度の支え手を拡大し財政安定化の対策を講じることを真剣に検討すべきである。そうすることにより、制度の持続可能性を高め、今後高齢化が急速に進展する時期を乗り越えていくことが可能となるものと考えられる。

 (なお、こうした理由や考え方については、7月30日の「介護保険制度の見直しに関する意見」においても整理しており、別紙1に再掲。)

 ○  一方、被保険者・受給者の範囲の拡大については、極めて慎重に対処すべきであるという意見があった。

 ○  極めて慎重に対処すべきとする理由は、以下のとおりである。
(1)  家族による介護負担の軽減効果があるのは主に中高年層であることなどから、40歳以上の者から保険料負担を求める現行の制度については一定の納得感があるが、40歳未満の若年者にとっては、こうした面での納得感を得ることが難しい。
 また、若年者の介護保険料については、各医療保険の保険料に上乗せして徴収されることから、特に国民健康保険において保険料の未納や滞納が増えるおそれがある。
(2)  高齢者の場合と異なり、若年者が要介護状態になる確率は低く、しかもその原因が出生時からであることも多い。こうした分野の取組は、これまでどおり税を財源とする福祉施策において行われるべきであり、社会保険方式に切り換えることは、負担を安易に企業等へ転嫁するものである。
 また、支援費制度は、導入後間もない段階であり、制度の検証を行う前に介護保険に組み入れることについては時期尚早である。適正化・効率化など障害者福祉施策の改革を優先すべきである。
(3)  「制度の普遍化」の具体的内容について、十分な検討がなされていない。いずれにせよ、社会保障制度全般の一体的な見直しの中で、介護保険制度についても負担や給付の在り方等を検討し、結論を得るべきである。

 (なお、こうした理由や考え方については、7月30日の「介護保険制度の見直しに関する意見」においても整理しており、別紙2に再掲。)

(2)被保険者・受給者の対象年齢を引き下げるとした場合に制度設計上検討すべき事項について

 ○  制度の普遍化に向けて被保険者・受給者の対象年齢を引き下げることとした場合に、今後検討すべき事項として、
 (給付に関する論点)
  ・ 給付対象者の年齢をどう考えるか。
  ・ 給付サービスの内容をどう考えるか。
 (負担に関する論点)
  ・ 保険料の負担者の年齢をどう考えるか。
  ・ 保険料負担の水準をどう考えるか。
 (施行方法・時期に関する論点)
  ・ 年齢の引下げを一括して実施するか、段階的に実施するかなど、実施方法をどう考えるか。
  ・ 実施時期をどう考えるか。
などがある。

 ○  これらについて、別紙3の「被保険者・受給者の範囲の拡大に関する制度設計上の論点」に基づいて論議を行った。各論点に関する意見は、概ね以下のとおりであった。

(給付に関する論点)
 ・  「介護ニーズの普遍性」という観点を重視すれば、医療保険が全年齢を対象としていることと同様に、被保険者・受給者の対象年齢を0歳以上とすべきという意見があった。
 ・  また、対象者の暮らしに焦点を当てサービスの利用がどのように変わるのかを十分に検証すべきという意見や、上乗せや横出しのサービスを地方自治体の超過負担に任せるのではなく国が責任を持つべきという意見、最若年層の要介護認定や若年層のケアマネジメントについて検討する必要があるという意見があった。

(負担に関する論点)
 ・  対象年齢については、「20歳以上」、「25歳以上」、「30歳以上」とする案を基に議論されたが、その中では、「20歳以上」とするのは未納や滞納の問題が懸念され、難しいのではないかという意見があった。
また、いずれの年齢とするにしても、若年層の介護保険料は各医療保険の保険料に上乗せして徴収されることから、特に国民健康保険において収納率を低下させるおそれがあり、保険料の収納に対する十分な配慮が必要であるという意見があった。
 ・  保険料の負担水準については、40歳未満の若年層について、保険料水準を「40歳以上と同水準とする案」と「40歳以上の半分とする案」を基に議論されたが、その中では、40歳以上との間で介護リスクの差が余りなく、保険料に差を設けることに納得が得られるのかという意見がある一方、そもそも若年層は老親の介護に直面する状況が少なく、負担をすることに納得が得られないという意見があった。

(施行方法・時期に関する論点)
 ・  制度の普遍化という基本的な性格の変更を伴う改正を行う場合には、施行までの間に、所要の準備や内容の周知を行うのに必要となる十分な時間を置くべきであるという意見があった。
 ・  具体的な時期に関しては、円滑な準備を進めるために4年後の第4期(平成21年度以降)を施行時期として明確化すべきという意見がある一方、制度改正の具体化までには相当な準備が必要であることから施行時期を明確化するのは時期尚早であるという意見があった。
 ・  また、制度の普遍化の具体化には時間を要するとしても、「制度の谷間」の問題については早急に対応を検討すべきであり、特に40歳以上の末期がんで介護を必要とする者については介護保険による給付を受けられるようにすべきであるという意見があった。


3.今後の進め方

 ○  本年9月以降、被保険者・受給者の範囲の拡大を巡り、本部会においては、精力的に審議を行ってきたが、その検討結果については、前述のとおりである。

 ○  今後、被保険者・受給者の範囲の拡大に関連した制度改正を実施するとした場合には、相当な準備が必要である。また、制度の持続可能性を維持する観点から、現行の介護保険制度下においても給付の効率化・重点化などの改革に早急に取り組む必要がある。

 ○  一方、政府の基本方針(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」)においては、社会保障制度全般について一体的な見直しを開始し、平成17年度及び平成18年度の2年間を目途に結論を得ることとされているところであり、介護保険制度の普遍化については、こうした動向も十分に踏まえる必要がある。

 ○  したがって、介護保険制度の普遍化に関しては、これらの状況を踏まえ、円滑な制度改革を図ることが重要であり、社会保障制度の一体的見直しの中で、その可否を含め国民的な合意形成や具体的な制度改革案についてできる限り速やかに検討を進め、結論を得ることが求められる。



(別紙1)

(「介護保険制度の見直しに関する意見」(平成16年7月30日))(抜粋)

  3 「被保険者・受給者の範囲」について
3.本部会における審議
 (1)積極的な考え方

(「介護ニーズの普遍性」の観点から)
 ○  そもそも介護ニーズは高齢者に特有のものではなく、年齢や原因に関係なく生じうるものである。そうした「介護ニーズの普遍性」を考えれば、65歳や40歳といった年齢で制度を区分する合理性や必然性は見出し難い。
 したがって、現行制度のように対象を「老化に伴う介護ニーズ」に限定する考え方を改め、介護を必要とするすべての人が、年齢や原因、障害種別の如何や障害者手帳の有無を問わず、公平に介護サービスを利用できるような「普遍的な制度」への発展を目指すべきである。
 これにより、対象者の「制限」をなくし、全国民が連帯して全国民の介護問題を支える仕組みが実現され、国民の安心を支えるセーフティネットとしての役割を更に増すことになる。

 ○  ドイツ、オランダ、イギリス、スウェーデン等の欧米諸国においても、社会保険方式と税方式の違いはあるものの、年齢や原因などによって介護制度を区分する仕組みとはなっていない。ドイツとオランダについては、社会保険方式を採用しているが、どちらも、0歳児を含め、全年齢を対象として介護サービスの保険給付を行っている。
 こうしたことから見ても、「普遍的な制度」への発展は、社会保障システムとして当然の方向であると言える。

(「地域ケアの展開」の観点から)
 ○  介護保険制度が目指す方向は、前述したとおり、地域で高齢者が生活を継続できるような「地域ケア」である。住み慣れた地域での小規模・多機能型のサービス提供を目指すのならば、年齢や障害種別によって、サービスが分断されることはあってはならない。
 現状でも、様々な地域で制度の縦割りを超えた動きが拡がっている。例えば、高齢者デイサービス施設で知的障害者へのサービスが提供されているところでは、知的障害者が高齢者を自然に支える場面が出てきているなどの報告がなされている。こうした現場レベルの取組に応え、制度面でも年齢や障害種別を超えたサービスが「地域」において提供できるような仕組みに切り換えるべきである。

 ○  また、介護保険制度では、全国の市町村が3年おきに5年間を計画期間とする事業計画を策定し、サービス量の見込みやその確保策を定めることとなっている。こうした過程を通じて、障害者介護サービスに対する市町村の主体的な関与が強まり、実際のサービス供給を伴った「中身のある地域ケア」の進展が期待される。

(「介護保険財政の安定化」の観点から)
 ○  介護保険財政の面では、前述したように、被保険者の対象年齢の引下げは介護保険制度の支え手を拡大し、財政的な安定性を向上させる効果があると言える。
 介護保険財政については、短期的な対応は別としても、長期的には、制度の支え手を拡大し財政安定化の対策を講じることを真剣に検討すべきである。そうすることにより、制度の「持続可能性」を高め、今後高齢化が急速に進展する時期を乗り越えていくことが可能となるものと考えられる。

(「障害者施策の推進」の観点から)
 ○  一方、障害者施策との関係では、短期的には、支援費制度の下で予算不足が懸念される障害者福祉サービスについて、安定的な財源が確保され、将来的にもサービス基盤の計画的な整備が進むことが確保されることとなる。前述したとおり、介護保険制度の導入により、規制緩和の流れの中で事業者の新規参入が促進され、サービスの利用者や利用量が増え、地域や個人によるサービス利用の格差が縮小した。障害者の介護においても、こうした効果によって、地域におけるサービス利用環境が改善され、サービスの均てん化・平準化が進むと考えられる。
 さらに長期的には、障害者に対するサービスが、社会連帯を理念とする介護保険制度の対象となり、そのために国民が保険料を支払うようになることは、障害者福祉を国民がより身近な問題として受け止める契機になるものと期待される。



(別紙2)

(「介護保険制度の見直しに関する意見」(平成16年7月30日))(抜粋)

  3 「被保険者・受給者の範囲」について
3.本部会における審議
 (2)慎重な考え方

(「保険システムに馴染むのか疑問」との観点から)
 ○  障害者施策は、公の責任として、全額公費(税)による実施を基本とすべきである。
 また、高齢者の場合と異なり、若年者が障害者となる確率は低く、しかも、障害の原因が出生時やそれより前であることも多い。このような観点から見て、40歳未満の若年者まで被保険者・受給者の対象年齢を引き下げることは、介護保険制度という保険システムには基本的に馴染まないと考えられる。

 ○  現行の第2号被保険者範囲の設定は、家族による介護負担の軽減効果があるのは主に中高年層であるなどの点から、保険料負担を求めることについて一定の納得感があり、被保険者範囲の拡大については慎重であるべきと考える。

 ○  介護保険制度は市町村を保険者として給付と負担のバランスの上に地域ケアを目指すという考え方に基づいているが、若年の障害者等を制度の対象とすることは、こうした考え方に基づく介護保険制度に馴染まないと考えられる。

(「保険料負担の増大」の観点から)
 ○  若年者にとっては、新たな負担が課されることとなる。これにより、介護保険料や国民健康保険料の未納や滞納が増えるおそれもある。さらに、これまで税でまかなわれてきた福祉サービスを保険方式に切り換えることは、負担を安易に企業へ転嫁するものである。
 さらに、介護保険制度の安定的な運営を確保する観点からは、障害者福祉サービスについて、財政的な観点から適切な費用管理が可能となるのかどうか懸念がある。仮に支援費制度のように、支給限度額などの仕組みがないままに、介護保険制度へ組み入れていくこととなれば、介護保険本体にも大きな混乱を招くおそれがあると言わざるを得ない。

(「現行サービス水準の低下不安」の観点から)
 ○  現に支援費サービスを利用している障害者にとって、介護保険制度の要介護認定や支給限度額の仕組みが適用されることにより、利用できるサービス量が減るおそれがある。また、現行の支援費制度では応能負担だが、それが介護保険制度での応益負担に変わることにより、自己負担額が増加するおそれがある。

 ○  若年障害者は、社会経済活動をはじめ様々な経験を重ねるべきライフステージにあることから、高齢者と比べた場合、同じ介護サービスであっても、具体的なメニューの内容や利用者への接し方などが異なるべきである場合も多いと考えられる。こうした配慮が高齢者と同じ制度の下で担保できるのか疑問である。

(「時期尚早である」との観点から)
 ○  支援費制度の導入からまだ1年余であり、まず障害者の給付が増加した原因の分析など支援費制度の検証等を行い、これを踏まえた制度の効率化や給付の公平化等の改善策の検討が優先されるべきである。
 また、仮に障害者福祉サービスを介護保険制度に位置づけるとすれば、その具体的なサービス内容の整理や要介護認定の検証と必要な見直し、さらには障害者の特性を踏まえたケアマネジメント体制の確立等に時間を要することは必至である。高齢者の場合と比べ、障害者福祉サービスの基盤や人材確保など受け皿の準備が十分でないことから見ても、現状では時期尚早と考えられる。



(別紙3)

被保険者・受給者の範囲の拡大に関する制度設計上の論点



「被保険者・受給者の範囲の拡大」に関する制度設計上の論点


 本資料は、介護保険制度における「被保険者・受給者の範囲」を拡大する場合の制度設計上の主な論点を整理したものである。

図

I  給付に関する論点

1. 被保険者・受給者の範囲
介護保険制度の対象となる者の年齢をどう考えるか

(1) 次のような「介護の普遍性」という観点を重視すれば、被保険者・受給者の範囲は0歳以上とすることが考えられるが、どうか。
 介護を必要とする人であれば、年齢や要介護状態となった原因によって給付の有無や内容に差異が生じないよう、「全国民の介護を全国民で支える普遍的な仕組み」を構築する。
 こうした仕組みを構築することにより、「老化に伴う介護ニーズ」に対応する現行の介護保険制度が「全国民の普遍的な介護ニーズ」に対応する制度へと進化する。

(参考)諸外国における介護保障制度
 [ドイツ、オランダ]
 ○  社会保険方式による介護保障
 ○  被保険者の範囲には、年齢や障害種別による区別なし
[ドイツ、オランダ]の図

 [スウェーデン、イギリス]
 ○  地方自治体が税財源により社会サービス一環として介護サービスを提供
 ○  社会サービス(介護サービス含む)の対象は、年齢や障害種別による区別なし
[スウェーデン、イギリス]の図

(2)  0歳にまで引き下げる方法としては、次の2案が考えられる。
 (案1)  範囲拡大をする際に、当初から0歳以上とする。
(考え方)
 拡大当初から、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わず、全国民の介護ニーズを支える普遍的な制度を実現する。

 (案2)  将来的には、0歳以上とするが、当面は、被保険者・受給者の対象年齢を、保険料を負担する者の範囲と一致させる。
(考え方)
 負担の激変緩和を図るため、保険料を負担する者の範囲を段階的に拡大することとし、それに合わせて、同じ年齢まで被保険者・受給者の範囲も段階的に引き下げる。
 保険料を負担する者の年齢が目標とする年齢にまで達するときに、被保険者・受給者の年齢を0歳以上にまで引き下げる。

[介護保険制度の普遍化のイメージ]
[介護保険制度の普遍化のイメージ]の図

2. 給付の内容
 介護保険から給付されるサービスの内容をどう考えるのか。特に、障害者制度との適用関係はどう考えるのか。

 ○  この点については、次のように考えられる。

 (1) 基本的な考え方
 介護保険制度と障害者制度の適用関係について、現行制度においては、
(1)  両者に共通するサービスについては、一般制度である介護保険制度を優先し、
(2)  介護保険制度にないサービス等については、障害者制度を適用する
という仕組みになっている。
 実際に、既に65歳以上の高齢障害者については、こうした「組み合わせ」の仕組みが適用されている。
 被保険者・受給者の対象年齢を引き下げる場合にも、若年障害者に対して、こうした組み合わせの仕組みを適用することが適当である。

 上記のような適用関係であることから、就労支援や社会参加など介護以外のニーズにも対応している障害者制度の全体を介護保険制度に「統合」するということにはならない。

[65歳以上における介護保険制度と障害者制度との関係]

[65歳以上における介護保険制度と障害者制度との関係]の図
図
図


(2)具体的な給付内容
 現行の介護保険制度と障害者制度の適用関係の具体的内容をみると、
 ホームヘルプサービスのうち身体介護及び家事援助は、共通するサービスとして、介護保険制度からの給付が優先される、
 障害者制度におけるデイサービス、施設サービス等には、「介護」に該当するサービスのほかに、授産活動や創作的活動など「介護」以外のサービスも混在しており、サービス内容に照らして「介護」以外のサービスとして利用が必要と認められる場合には、障害者制度からこれらのサービスを受けられる
こととされている。

 今後、障害保健福祉行政においては、障害者サービスの機能再編・分化を行う予定であり、デイサービス、施設サービス等においても「介護」サービスに該当するものと「介護」サービス以外のサービスに該当するものに分化されていくことになる。

 上記を踏まえれば、被保険者・受給者の対象年齢を引き下げた場合の具体的な給付内容は、以下のとおり考えられる。
(案1)  施行当初から、現行の介護保険サービスに加えて、機能再編・分化後の障害者サービスのうち「介護」サービスに該当する部分も、給付対象とする。ただし、この場合には、数年の準備期間を必要とする。
(案2)  初期の段階においては、障害者サービスの機能再編が緒に就いたばかりであり、制度移行を円滑に行うことが難しいと考えられるため、現行の介護保険サービスのみを給付の対象とし、その間は、障害者サービスとして提供されている若年者向け介護サービスは、基本的には、引き続き、障害者制度から給付する。(ただし、ホームヘルプサービス(身体介護及び家事援助)は、現在の整理でも共通サービスであるので、介護保険からの給付が優先。)
 一定期間を経た次の段階からは、障害者サービスのうち「介護」サービスに該当するものも、介護保険の給付対象とする。

図

II  負担に関する論点

1. 保険料の負担者の範囲
保険料を負担する者の年齢をどう考えるか。

 保険料を負担する者の範囲については、以下の案が考えられる。

 (案1) 20歳以上とする。
(考え方)
 20歳以上が成人の年齢であり、親権者等の同意なく法律行為の主体となることから、「20歳以上」が適切。

 (案2) 25歳以上とする。
(考え方)
 仕事を有している者の割合が25歳以上になると高まることや大学・短大を卒業する年齢などを勘案すると、「25歳以上」が適切。

 (案3) 30歳以上とする。
(考え方)
 20代と比較して完全失業率が平均的な水準に近いことやフリーターの数が減少することなどを勘案すると、「30歳以上」が適切。

(資料1) 「仕事を主にしている者」の割合(平成14年就業構造基本調査(総務省統計局))

(資料1)「仕事を主にしている者」の割合(平成14年就業構造基本調査(総務省統計局))のグラフ
(注)  15歳以上の世帯員について、普段の就業状態の調査を行ったものである。「仕事を主にしている者」とは、普段収入を得ることを目的として仕事をしている有業者のうち、仕事が主としている者である。(通学が主で、仕事が従である者などは除かれている。)

(資料2) 「大学・短大の進学率」(平成15年 学校基本調査)

  大学(学部) 短大(本科) 合計
進学率 41.3% 7.7% 49.0%
(注1)  大学学部・短期大学本科入学者数を3年前の中学校卒業者数で除した比率。
(注2)  この他、専修学校(専門課程)の進学率(高等学校の卒業者のうち、専修学校(専門課程)に進学した者の比率)は、18.9%である。

(資料3) きまって支給する現金給与額(平成15年 賃金構造基本統計調査)

年齢 ~17 18~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44
給与額(月額) 14万3千円 18万円 21万5千円 26万円 31万円 35万7千円 38万2千円
(注)  主要産業の事業所(常用労働者を10人以上雇用している事業所に限る。)に雇用される常用労働者について、6月分として支給された現金給与額(所得税、社会保険料などを控除する前の額)を調査したものである。

(資料4) フリーター数(平成15年 総務省統計局「労働力調査」を特別集計)

年齢 15〜19 20〜24 25〜29 30〜34
人数 27万人 92万人 65万人 33万人
(注)  「フリーター」数については、年齢15〜34歳層(在学者を除く。また、女性については未婚の者に限る。)の者のうち、(1)現在就業している者については勤め先における呼称が「アルバイト」又は「パート」である雇用者で、(2)現在無業の者については家事も通学もしておらず、「アルバイト・パート」の仕事を希望する者として定義し、集計したものである。

(資料5) 完全失業率(平成15年 総務省統計局「労働力調査」)

年齢 総数 15~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 60~64
完全
失業率
5.3 11.9 9.8 7 5.5 4.6 3.6 3.6 3.7 4.5 7.5 2.5

(注)  完全失業率については、労働人口に占める完全失業者の割合((完全失業者÷労働人口)×100)を示す。なお、完全失業者とは、(1)仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない)、(2)仕事があればすぐ就くことができる、(3)調査期間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)の3つの条件を満たす者である。

2. 保険料負担の水準
40歳未満の者の保険料負担の水準をどう考えるか。

 40歳未満の者の保険料水準については、以下の案が考えられる。

【保険料を負担する年齢が20歳又は25歳以上の場合】
 (案1) 40歳以上の者と同水準とする
 (案2) 40歳以上の者の半分の水準とする

【保険料を負担する年齢が30歳以上の場合】
 (案) 40歳以上の者と同水準とする

(考え方)
 保険料の負担水準については、被保険者・受給者の範囲を現行の40歳からより若い年齢層に単純に引き下げると考えれば、40歳以上の者と40歳未満の者の保険料水準は同水準となる。
 ただし、20歳又は25歳まで年齢を引き下げる場合には、若年者の保険料負担は孫の世代から祖父母世代への「世代間扶養」の面が強くなり、家族の立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が相対的に小さくなることや、所得水準が40歳以上に比べて一般に低いこと等にかんがみ、40歳未満の負担水準を半分の水準とする考え方も現実的な選択肢の一つである。

(参考1)同水準とする案の保険料水準
(参考1)同水準とする案の保険料水準のグラフ

(注)  上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円分下方に下がる。

(参考2)低い水準とする案の保険料水準
(参考2)低い水準とする案の保険料水準のグラフ

(注)  上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円(3号保険料については0円ないし100円)分下方に下がる。

III  施行方法・時期に関する論点

 仮に被保険者・受給者の範囲を拡大する場合、施行の方法・時期をどう考えるか。

(1)  実施時期については、次のような点を考慮すべきと考えられる。

 (3年ごとの事業計画期間)
 介護保険制度は、市町村が3年ごとに介護保険事業計画を作成し、保険料を設定する仕組みであるため、給付や負担の基本骨格に関わる制度改正の実施時期は、平成18年4月、平成21年4月、平成24年4月等々と3年ごとの時期に限られる。

 (施行準備に必要となる期間等)
 こうした前提条件の下に、具体的な実施時期をいつにするか等に関しては、次の事項を勘案する必要がある。
(1) 要介護認定システムの改訂等の施行準備
 「0歳から」の要介護認定システムを構築するためには、3〜4年程度を要する。
(2) 若年要介護者向けのサービス提供体制
(ア) 障害者福祉サービスの機能再編・分化の状況
 今後予定されている障害者サービスの改革により、数年後には、サービスの機能再編・分化が進み、このうち「介護」に該当するサービスは介護保険に移行してくることが可能となる。
(イ) 年齢によって縦割りとなっているサービスの総合化の状況
 高齢者向けサービスを若年要介護者が利用できるようにするなど、年齢の区分による縦割りを排したサービスの相互利用化に向けた取組みを早期に(現行の支援費制度下においても)進めていくことが適当と考えられる。
(3) 「制度の谷間」にある者への対応
 がん末期患者など何らの公的な介護サービスを受けられない、いわゆる「制度の谷間」の問題の根本的な解決は、被保険者・受給者の範囲の拡大の実施時期まで待たなければならないが、施行までに相当の期間を置く場合には、それまでの間の暫定的な対応の可否が検討課題となる。
(4) 支援費制度の財政問題
 仮に応益負担や食費負担の導入などが行われれば、今後数年間は、支援費予算等の伸びは国全体の一般歳出の伸び程度におさまると見込まれている。(平成16年11月26日障害者部会資料)


想定される施行準備のスケジュールについて

※ 準備作業を効率化することにより、ある程度準備期間を短縮することも可能。
  改正法成立年 成立後1年 成立後2年 成立後3年 成立後4年
要介護認定
 若年者を対象とした介護実態調査(タイムスタディ等)の企画・検討、予算要求
 介護実態調査(タイムスタディ等)の実施
 調査の結果、必要に応じ、要介護認定ソフト(試行版)の開発
 小規模モデル事業の実施
 全国規模のモデル事業の実施
 要介護認定手法等の確定
 認定調査員・主治医研修
 準備要介護認定の開始
 施行
ケアマネジメント
ケアプラン
 若年要介護者のケアマネジメントに係る養成・研修のあり方を検討
 研修内容・カリキュラムの策定
 介護支援専門員研修の一部見直し
 研修の実施
 ケアプランの作成
 施行
市町村介護保険
事業計画
 
 基本指針の提示(国)
 必要に応じ、各市町村においてニーズ調査の予算要求
 若年要介護者のニーズ調査
 市町村事業計画の策定作業
 介護サービス量の見積もり
 施行

(2)  (1)を踏まえると、以下の2つの実施の方法が考えられる。

 (案1) 所要の準備期間を置いた上で、一括して実施する。
(考え方)
 所要の施行準備を行った上で、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わない普遍的な制度の実現を図る。

 (案2) 法案成立後実施可能なものから、段階的に実施する。


 例えば、3年ごとに、受給者の対象年齢や保険料負担者の対象年齢を
引き下げて実施する。


(考え方)
 保険料を負担する層が段階的に広がるとともに、それに伴って保険料水準も徐々に上がることになり、保険料の負担面において激変緩和の効果がある。  また、いわゆる「制度の谷間」の問題に早急に対応することができる。

 初期の段階においては、暫定的に現行の介護保険サービスのみとし、 一定期間を経た次の段階からは、障害者サービスのうち「介護」サービスに該当するものも、介護保険の給付対象とすることが考えられる。


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