1.はじめに |
○ | 介護保険制度における被保険者・受給者の範囲の拡大については、本部会が本年7月30日にとりまとめた「介護保険制度の見直しに関する意見」において、これまでの経緯及び問題の所在について次のように整理したところである。 |
*一部省略等の上抜粋
(1)介護保険制度をめぐる議論
(2)障害者施策をめぐる動向
(1)介護保険制度との関わりにおける問題
(2)障害者施策との関わりにおける問題
|
○ | 本部会では、こうした「これまでの経緯」と「問題の所在」を踏まえ、また、その後これまでの間に公表・提出された「給付の重点化・効率化を行った場合の給付費及び第1号保険料の見通しに関する試算」や「被保険者・受給者の範囲の拡大を行った場合の保険料の見通しに関する試算」等の資料も参考に、本年9月以降、5回(第17回〜第21回)にわたり議論を重ねてきた。 |
○ | 議論の中では、(1)介護保険制度を要介護となった理由や年齢の如何を問わず介護サービスを提供する普遍的な制度へと見直すことについてどう考えるかという点と、(2)制度の普遍化に向けて被保険者・受給者の対象年齢を引き下げるとした場合にどのような制度設計上の検討事項があるかという点が、大きな論点となった。 以下、この整理に沿って本部会での検討結果をとりまとめる。 |
2.本部会での検討結果 |
○ | 現行の介護保険制度では、40歳未満の者についてはそもそも制度の対象外であるが、40歳から64歳までの者についても、保険料負担を高齢者と同等の水準で行いながら、給付は「老化に起因する疾病(特定疾病)」を原因とする場合に限定されており、65歳以上の者と比べて受給要件に差が設けられている。 したがって、現行の制度は、給付面から見れば、65歳以上の介護ニーズと40歳から64歳までの老化に伴う介護ニーズに対応するものであり、実質的には「高齢者の介護保険」であると言える。 |
○ | こうした現行制度に対し、介護保険制度の将来的な在り方としては、要介護となった理由や年齢の如何に関わらず介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、併せて保険料を負担する層を拡大していくことにより、制度の普遍化の方向を目指すべきであるという意見が多数であった。 |
○ | 普遍化の方向を目指すべきとする理由は、以下のとおりである。
|
○ | 一方、被保険者・受給者の範囲の拡大については、極めて慎重に対処すべきであるという意見があった。 |
○ | 極めて慎重に対処すべきとする理由は、以下のとおりである。
|
○ | 制度の普遍化に向けて被保険者・受給者の対象年齢を引き下げることとした場合に、今後検討すべき事項として、 (給付に関する論点)
|
○ | これらについて、別紙3の「被保険者・受給者の範囲の拡大に関する制度設計上の論点」に基づいて論議を行った。各論点に関する意見は、概ね以下のとおりであった。 |
・ | 「介護ニーズの普遍性」という観点を重視すれば、医療保険が全年齢を対象としていることと同様に、被保険者・受給者の対象年齢を0歳以上とすべきという意見があった。 |
・ | また、対象者の暮らしに焦点を当てサービスの利用がどのように変わるのかを十分に検証すべきという意見や、上乗せや横出しのサービスを地方自治体の超過負担に任せるのではなく国が責任を持つべきという意見、最若年層の要介護認定や若年層のケアマネジメントについて検討する必要があるという意見があった。 |
・ | 対象年齢については、「20歳以上」、「25歳以上」、「30歳以上」とする案を基に議論されたが、その中では、「20歳以上」とするのは未納や滞納の問題が懸念され、難しいのではないかという意見があった。 また、いずれの年齢とするにしても、若年層の介護保険料は各医療保険の保険料に上乗せして徴収されることから、特に国民健康保険において収納率を低下させるおそれがあり、保険料の収納に対する十分な配慮が必要であるという意見があった。 |
・ | 保険料の負担水準については、40歳未満の若年層について、保険料水準を「40歳以上と同水準とする案」と「40歳以上の半分とする案」を基に議論されたが、その中では、40歳以上との間で介護リスクの差が余りなく、保険料に差を設けることに納得が得られるのかという意見がある一方、そもそも若年層は老親の介護に直面する状況が少なく、負担をすることに納得が得られないという意見があった。 |
・ | 制度の普遍化という基本的な性格の変更を伴う改正を行う場合には、施行までの間に、所要の準備や内容の周知を行うのに必要となる十分な時間を置くべきであるという意見があった。 |
・ | 具体的な時期に関しては、円滑な準備を進めるために4年後の第4期(平成21年度以降)を施行時期として明確化すべきという意見がある一方、制度改正の具体化までには相当な準備が必要であることから施行時期を明確化するのは時期尚早であるという意見があった。 |
・ | また、制度の普遍化の具体化には時間を要するとしても、「制度の谷間」の問題については早急に対応を検討すべきであり、特に40歳以上の末期がんで介護を必要とする者については介護保険による給付を受けられるようにすべきであるという意見があった。 |
3.今後の進め方 |
○ | 本年9月以降、被保険者・受給者の範囲の拡大を巡り、本部会においては、精力的に審議を行ってきたが、その検討結果については、前述のとおりである。 |
○ | 今後、被保険者・受給者の範囲の拡大に関連した制度改正を実施するとした場合には、相当な準備が必要である。また、制度の持続可能性を維持する観点から、現行の介護保険制度下においても給付の効率化・重点化などの改革に早急に取り組む必要がある。 |
○ | 一方、政府の基本方針(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」)においては、社会保障制度全般について一体的な見直しを開始し、平成17年度及び平成18年度の2年間を目途に結論を得ることとされているところであり、介護保険制度の普遍化については、こうした動向も十分に踏まえる必要がある。 |
○ | したがって、介護保険制度の普遍化に関しては、これらの状況を踏まえ、円滑な制度改革を図ることが重要であり、社会保障制度の一体的見直しの中で、その可否を含め国民的な合意形成や具体的な制度改革案についてできる限り速やかに検討を進め、結論を得ることが求められる。 |
|
|
被保険者・受給者の範囲の拡大に関する制度設計上の論点 |
本資料は、介護保険制度における「被保険者・受給者の範囲」を拡大する場合の制度設計上の主な論点を整理したものである。 |
|
|
(1) | 次のような「介護の普遍性」という観点を重視すれば、被保険者・受給者の範囲は0歳以上とすることが考えられるが、どうか。
|
(参考)諸外国における介護保障制度 [ドイツ、オランダ]
![]() [スウェーデン、イギリス]
![]() |
(2) | 0歳にまで引き下げる方法としては、次の2案が考えられる。 |
(案1) | 範囲拡大をする際に、当初から0歳以上とする。 |
(考え方) 拡大当初から、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わず、全国民の介護ニーズを支える普遍的な制度を実現する。 |
(案2) | 将来的には、0歳以上とするが、当面は、被保険者・受給者の対象年齢を、保険料を負担する者の範囲と一致させる。 |
(考え方) 負担の激変緩和を図るため、保険料を負担する者の範囲を段階的に拡大することとし、それに合わせて、同じ年齢まで被保険者・受給者の範囲も段階的に引き下げる。 保険料を負担する者の年齢が目標とする年齢にまで達するときに、被保険者・受給者の年齢を0歳以上にまで引き下げる。 |
|
○ | この点については、次のように考えられる。 |
(1) | 基本的な考え方
|
※ | 上記のような適用関係であることから、就労支援や社会参加など介護以外のニーズにも対応している障害者制度の全体を介護保険制度に「統合」するということにはならない。 |
○ | 現行の介護保険制度と障害者制度の適用関係の具体的内容をみると、
|
○ | 今後、障害保健福祉行政においては、障害者サービスの機能再編・分化を行う予定であり、デイサービス、施設サービス等においても「介護」サービスに該当するものと「介護」サービス以外のサービスに該当するものに分化されていくことになる。 |
○ | 上記を踏まえれば、被保険者・受給者の対象年齢を引き下げた場合の具体的な給付内容は、以下のとおり考えられる。
|
|
|
○ | 保険料を負担する者の範囲については、以下の案が考えられる。 |
(案1) | 20歳以上とする。 |
(考え方) 20歳以上が成人の年齢であり、親権者等の同意なく法律行為の主体となることから、「20歳以上」が適切。 |
(案2) | 25歳以上とする。 |
(考え方) 仕事を有している者の割合が25歳以上になると高まることや大学・短大を卒業する年齢などを勘案すると、「25歳以上」が適切。 |
(案3) | 30歳以上とする。 |
(考え方) 20代と比較して完全失業率が平均的な水準に近いことやフリーターの数が減少することなどを勘案すると、「30歳以上」が適切。 |
(資料1) | 「仕事を主にしている者」の割合(平成14年就業構造基本調査(総務省統計局)) |
(注) | 15歳以上の世帯員について、普段の就業状態の調査を行ったものである。「仕事を主にしている者」とは、普段収入を得ることを目的として仕事をしている有業者のうち、仕事が主としている者である。(通学が主で、仕事が従である者などは除かれている。) |
(資料2) | 「大学・短大の進学率」(平成15年 学校基本調査) |
大学(学部) | 短大(本科) | 合計 | |
進学率 | 41.3% | 7.7% | 49.0% |
(注1) | 大学学部・短期大学本科入学者数を3年前の中学校卒業者数で除した比率。 |
(注2) | この他、専修学校(専門課程)の進学率(高等学校の卒業者のうち、専修学校(専門課程)に進学した者の比率)は、18.9%である。 |
(資料3) | きまって支給する現金給与額(平成15年 賃金構造基本統計調査) |
年齢 | ~17 | 18~19 | 20~24 | 25~29 | 30~34 | 35~39 | 40~44 |
給与額(月額) | 14万3千円 | 18万円 | 21万5千円 | 26万円 | 31万円 | 35万7千円 | 38万2千円 |
(注) | 主要産業の事業所(常用労働者を10人以上雇用している事業所に限る。)に雇用される常用労働者について、6月分として支給された現金給与額(所得税、社会保険料などを控除する前の額)を調査したものである。 |
(資料4) | フリーター数(平成15年 総務省統計局「労働力調査」を特別集計) |
年齢 | 15〜19 | 20〜24 | 25〜29 | 30〜34 |
人数 | 27万人 | 92万人 | 65万人 | 33万人 |
(注) | 「フリーター」数については、年齢15〜34歳層(在学者を除く。また、女性については未婚の者に限る。)の者のうち、(1)現在就業している者については勤め先における呼称が「アルバイト」又は「パート」である雇用者で、(2)現在無業の者については家事も通学もしておらず、「アルバイト・パート」の仕事を希望する者として定義し、集計したものである。 |
(資料5) | 完全失業率(平成15年 総務省統計局「労働力調査」) |
年齢 | 総数 | 15~19 | 20~24 | 25~29 | 30~34 | 35~39 | 40~44 | 45~49 | 50~54 | 55~59 | 60~64 | 60~64 |
完全 失業率 |
5.3 | 11.9 | 9.8 | 7 | 5.5 | 4.6 | 3.6 | 3.6 | 3.7 | 4.5 | 7.5 | 2.5 |
(注) | 完全失業率については、労働人口に占める完全失業者の割合((完全失業者÷労働人口)×100)を示す。なお、完全失業者とは、(1)仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない)、(2)仕事があればすぐ就くことができる、(3)調査期間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)の3つの条件を満たす者である。 |
|
○ | 40歳未満の者の保険料水準については、以下の案が考えられる。 【保険料を負担する年齢が20歳又は25歳以上の場合】
【保険料を負担する年齢が30歳以上の場合】
|
(考え方) 保険料の負担水準については、被保険者・受給者の範囲を現行の40歳からより若い年齢層に単純に引き下げると考えれば、40歳以上の者と40歳未満の者の保険料水準は同水準となる。 ただし、20歳又は25歳まで年齢を引き下げる場合には、若年者の保険料負担は孫の世代から祖父母世代への「世代間扶養」の面が強くなり、家族の立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が相対的に小さくなることや、所得水準が40歳以上に比べて一般に低いこと等にかんがみ、40歳未満の負担水準を半分の水準とする考え方も現実的な選択肢の一つである。 |
(注) | 上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円分下方に下がる。 |
(注) | 上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円(3号保険料については0円ないし100円)分下方に下がる。 |
|
仮に被保険者・受給者の範囲を拡大する場合、施行の方法・時期をどう考えるか。 |
(1) | 実施時期については、次のような点を考慮すべきと考えられる。 (3年ごとの事業計画期間)
(施行準備に必要となる期間等)
|
想定される施行準備のスケジュールについて |
※ 準備作業を効率化することにより、ある程度準備期間を短縮することも可能。
|
(2) | (1)を踏まえると、以下の2つの実施の方法が考えられる。 |
(案1) | 所要の準備期間を置いた上で、一括して実施する。 |
(考え方) 所要の施行準備を行った上で、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わない普遍的な制度の実現を図る。 |
(案2) | 法案成立後実施可能なものから、段階的に実施する。 | |||
┌ │ └ |
|
┐ │ ┘ |
(考え方) 保険料を負担する層が段階的に広がるとともに、それに伴って保険料水準も徐々に上がることになり、保険料の負担面において激変緩和の効果がある。 また、いわゆる「制度の谷間」の問題に早急に対応することができる。 |
※ | 初期の段階においては、暫定的に現行の介護保険サービスのみとし、 一定期間を経た次の段階からは、障害者サービスのうち「介護」サービスに該当するものも、介護保険の給付対象とすることが考えられる。 |