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資料5−2

o -フェニレンジアミン二塩酸塩の
がん原性試験結果


1 被験物質について

1.1.名称と別称
名称o -フェニレンジアミン二塩酸塩
 (o -Phenylenediamine dihydrochloride)
IUPAC名1,2 -フェニレンジアミン二塩酸塩
 (1,2 -Phenylenediamine dihydrochloride)

1.2.構造式、分子量

図

分子量181.08
CAS.No.615-28-1

1.3.物理化学的性状
外観淡紅色結晶性粉末
融点258℃
溶解性水に可溶

以下はフリー体(o -フェニレンジアミン)についての記載である。

1.4.用途
農薬、防錆剤、ゴム薬、医薬、顔料の原料

1.5.生産量、製造業者
(1)生産量
2000年ごろまで国内で生産していたが現在は海外からの輸入に切り換っている。 経済産業省の化学物質の製造・輸入に関する実態調査(平成13年度実績)の確報値では「化学物質別製造(出荷)及び輸入量計」が1万トン以上10万トン未満に分類されている。
(2)製造業者
三京化成,精工化学で生産していたが現在は酒井興業、デュポン、三井物産及びクラリアントジャパンによる海外からの輸入に切り換っている。

1.6.許容濃度等
日本産業衛生学会:0.1mg/m3、皮膚感作性物質第1群
ACGIH:0.1mg/m3(TWA)、発癌性分類 A3

1.7.変異原性
 日本バイオアッセイ研究センターで実施した微生物を用いた変異原性試験では、陽性を示し、その比活性値は3.5×103/mg(菌株:TA98、代謝活性化あり)であり、培養細胞を用いた試験のSD20値は0.0016mg/mL(細胞株:CHL、代謝活性化なし)であった。

2.目的
 o -フェニレンジアミン二塩酸塩のがん原性を検索する目的でラットとマウスを用いた混水経口投与による長期試験を実施した。

3.方法
 試験は、ラット(F344/DuCrj(Fischer))とマウス(Crj:BDF1)を用い被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計ラット400匹、マウス400匹を用いた。
 被験物質の投与は、o -フェニレンジアミン二塩酸塩を混合した飲水を動物に自由摂取させることにより行った。投与濃度は、ラットの雄が500、1000、2000 ppm、雌が250、500、1000 ppm、マウスの雄が500、1000、2000 ppm、雌が1000、2000、4000 ppm(公比2)とした。投与期間は2年間(104週間)とした。
 観察、検査として、一般状態の観察、体重、摂水量及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。

4.結果
 ラットでは生存率は、対照群と比べ、変化はみられなかったが、体重と摂水量は雄の全投与群、雌の500 ppm以上の群で低値を示した。摂餌量は、雄の2000 ppm、雌の1000 ppm群で全投与期間、雄の1000 ppm群と500 ppm群で投与期間初期及び終期に低値を示した。腫瘍性病変として、雌雄に肝細胞腺腫と肝細胞癌の発生増加が認められた。雄の肝細胞腺腫の発生は1000 ppm以上の群で、肝細胞癌の発生は2000 ppm群で増加した。雌の肝細胞腺腫の発生は500 ppm以上の群で、雌の肝細胞癌の発生は1000 ppm群で増加した。従って、o -フェニレンジアミン二塩酸塩投与により肝臓に悪性腫瘍を含む腫瘍の増加があると考えた。また、前腫瘍性病変の好塩基性小増殖巣の発生が雄の1000 ppm以上の群と雌のすべての投与群で増加した。さらに雄で、膀胱の悪性腫瘍である移行上皮癌と良性腫瘍である移行上皮乳頭腫の発生が2000 ppm群で増加し、o -フェニレンジアミン二塩酸塩投与により膀胱腫瘍の増加があると考えた。また、前腫瘍性病変である移行上皮の過形成の発生が雄の2000 ppm群で増加した。その他、腎臓では雌雄に乳頭壊死、乳頭の鉱質沈着、腎盂上皮の過形成の発生が、鼻腔に嗅上皮のエオジン好性変化の発生が増加し投与によるものと考えられた。なお、雄の甲状腺に濾胞状腺腫の発生増加がみられたが、投与との関連は明らかではなかった。
 マウスでは,生存率は、対照群と比べ、雌でやや高値を示し、体重と摂餌量の低値は、雌雄とも全投与群にみられた。摂水量の低値は雌雄の全投与群にみられたが、雌の2000 ppm以上の群では投与後期に対照群とほぼ同じ値まで回復した。腫瘍性病変として、雄に肝細胞腺腫、雌に肝細胞腺腫と肝細胞癌の発生増加が認められた。従って、o -フェニレンジアミン二塩酸塩投与により肝臓に悪性腫瘍を含む腫瘍の増加があると考えた。また、前腫瘍性病変の小増殖巣(好酸性、好塩基性及び明細胞性)の発生が雌の4000 ppm群で増加した。さらに、雌雄で胆嚢の良性腫瘍の乳頭状腺腫の発生増加が認められた。この腫瘍は日本バイオアッセイ研究センターのヒストリカルコントロールデータでは前例がない腫瘍であり、o -フェニレンジアミン二塩酸塩投与により増加したと考えた。その他、鼻腔、鼻咽頭及び腎臓にo -フェニレンジアミン二塩酸塩の投与による影響を示す変化がみられた。

5.まとめ
 ラットでは、雌雄の肝臓で肝細胞腺腫及び肝細胞癌の顕著な発生増加が、さらに、雄の膀胱に移行上皮乳頭腫及び移行上皮癌の発生増加が認められた。これらの結果はo -フェニレンジアミン二塩酸塩の雌雄ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠であると考えられた。
 マウスでは、雄の肝臓で肝細胞腺腫の発生増加が、雌の肝臓で肝細胞腺腫及び肝細胞癌の顕著な発生増加が、雌雄の胆嚢に乳頭状腺腫の発生増加が認められた。これらの結果はo -フェニレンジアミン二塩酸塩の雄マウスに対するがん原性を示す証拠と、雌マウスに対するがん原性を示す明らかな証拠であると考えられた。




腫瘍発生一覧表

o -フェニレンジアミン二塩酸塩のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雄)
  投与濃度(ppm) 0 500 1000 2000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 肝臓 肝細胞腺腫 3 2 12* 15** ↑↑ ↑↑
膵臓 膵島腺腫 7 3 1* 1*  
膀胱 移行上皮乳頭腫 1 0 0 6 ↑↑ ↑↑
甲状腺 濾胞状腺腫 0 1 0 4 ↑↑
精巣 間細胞腫 37 39 45 43    
下垂体 腺腫 25 20 10** 13*   ↓↓
悪性腫瘍 肝臓 肝細胞癌 1 1 6 10** ↑↑ ↑↑
膀胱 移行上皮癌 1 0 0 4 ↑↑ ↑↑
甲状腺 濾胞状腺癌 1 0 1 1    
腹膜 中皮腫 0 3 4 0    
  肝臓 肝細胞腺腫+肝細胞癌 4 3 16** 22** ↑↑ ↑↑
膀胱 移行上皮乳頭腫
+移行上皮癌
2 0 0 10* ↑↑ ↑↑
甲状腺 濾胞状腺腫+濾胞状腺癌 1 1 1 5

o -フェニレンジアミン二塩酸塩のがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット 雌)
  投与濃度(ppm) 0 250 500 1000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 肝臓 肝細胞腺腫 1 3 15** 36** ↑↑ ↑↑
膀胱 移行上皮乳頭腫 1 0 1 1    
下垂体 腺腫 23 9** 14* 11**  
子宮 子宮内膜間質性ポリープ 8 8 9 4    
乳腺 線維腺腫 5 6 6 1    
悪性腫瘍 肝臓 肝細胞癌 0 0 4 18** ↑↑ ↑↑
  肝臓 肝細胞腺腫+肝細胞癌 1 3 19** 44** ↑↑ ↑↑
検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
  *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
  ↑: p≦0.05で有意増加   ↑↑: p≦0.01で有意増加   (Peto, Cochran-Armitage検定)
  ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)



o -フェニレンジアミン二塩酸塩のがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雄)
  投与濃度 (ppm) 0 500 1000 2000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫 5 4 5 2    
肝臓 肝細胞腺腫 12 25** 34** 35** ↑↑ ↑↑
血管腫 6 4 1 0*   ↓↓
胆嚢 乳頭状腺腫 0 2 4 5*
全臓器 血管腫 7 5 3 1*  
悪性腫瘍 細気管支−肺胞上皮癌 9 4 5 5    
肝臓 肝細胞癌 6 9 12 10    
  肝臓 肝細胞腺腫+肝細胞癌 18 29* 39** 38** ↑↑ ↑↑

o -フェニレンジアミン二塩酸塩のがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス 雌)
  投与濃度(ppm) 0 1000 2000 4000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 肝臓 肝細胞腺腫 6 22** 23** 34** ↑↑ ↑↑
胆嚢 乳頭状腺腫 0 1 5* 3    
下垂体 腺腫 6 3 1 1  
子宮 内膜間質性ポリープ 3 0 0 0  
悪性腫瘍 肝臓 肝細胞癌 1 4 11** 17** ↑↑ ↑↑
リンパ節 悪性リンパ腫 22 16 6** 3**   ↓↓
子宮 組織球性肉腫 9 18* 10 10    
全臓器 悪性リンパ腫 23 17 7** 4**   ↓↓
  肝臓 肝細胞腺腫+肝細胞癌 6 23** 31** 41** ↑↑ ↑↑
検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
  *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
  ↑: p≦0.05で有意増加   ↑↑: p≦0.01で有意増加   (Peto, Cochran-Armitage検定)
  ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)




6. 図
1) ラット

MALE


FEMALE

FIGURE 1  SURVIVAL ANIMAL RATE OF RATS IN THE TWO-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF o -PHENYLENEDIAMINE DIHYDROCHLORIDE



MALE


FEMALE

FIGURE 2  BODY WEIGHT CHANGES OF RATS IN THE 2-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF o -PHENYLENEDIAMINE DIHYDROCHLORIDE



2) マウス

MALE


FEMALE

FIGURE 3  SURVIVAL ANIMAL RATE OF MICE IN THE 2-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF o -PHENYLENEDIAMINE DIHYDROCHLORIDE



MALE


FEMALE

FIGURE 4  BODY WEIGHT CHANGES OF MICE IN THE 2-YEAR DRINKING WATER
 STUDY OF o -PHENYLENEDIAMINE DIHYDROCHLORIDE


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