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資料4−2

アリルクロリドのがん原性試験結果


1 被験物質について

1.1.名称と別称
名称アリルクロリド (Allyl Chloride)
IUPAC名3‐クロロプロペン (3-Chloropropene)

1.2.構造式、分子量

図

分子量76.53
CAS.No.107-05-1

1.3.物理化学的性状
外観無色透明の液体
沸点44〜45℃
溶解性水に難溶(0.36g/100ml水、20℃)

1.4.用途
エピクロロヒドリン、アリルエーテル、アリルアミン、ジアリルフタレートなどのアリル誘導体化合物、除草剤、殺虫剤などの農薬原料、鎮静剤、麻酔剤などの医薬原料、香料原料、その他有機合成原料

1.5.生産量、製造業者
(1)生産量
平成8年度の生産量は、42,747t(製造42,747t、輸入0t)であった。 経済産業省の化学物質の製造・輸入に関する実態調査(平成13年度実績)の確報値では「化学物質別製造(出荷)及び輸入量計」が1万トン以上10万トン未満に分類されている。

(2)製造業者
鹿島ケミカル、ダイソー、住友化学工業

1.6.許容濃度等
日本産業衛生学会: なし
IARC: グループ3
ACGIH: 1 ppm (TWA)、2 ppm (STEL) 、発癌性分類 A3

1.7.変異原性
 日本バイオアッセイ研究センターで実施した変異原性試験では、微生物を用いた試験または培養細胞を用いた試験の何れも陽性を示し、微生物を用いた試験の比活性値は6.96×10/mg (菌株:TA100、代謝活性化なし)であり、培養細胞を用いた試験のSD20値は0.37 mg/mL(細胞株:CHL、代謝活性化なし)であった。

2.目的
 アリルクロリドのがん原性を検索する目的でラット(F344/DuCrj(Fischer))とマウス(Crj:BDF1)を用いた吸入投与による長期試験を実施した。

3.方法
 試験は、ラット(F344/DuCrj(Fischer))とマウス(Crj:BDF1)を用い被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計ラット400匹、マウス400匹を用いた。
 被験物質の投与は、アリルクロリドを1日6時間、1週5日間、動物に全身暴露することにより行った。投与濃度は、ラットは雌雄とも25、50、100 ppmとし、マウスは雌雄とも50、100、200 ppm(公比2)とした。投与期間は2年間(104週間)とした。
 観察、検査として、一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。

4.結果
 ラットでは、雄の100 ppm群で生存率が低下した。投与群の体重には変化がみられなかったが、雌雄とも100 ppm群で失調性歩行または麻痺性歩行がみられた。腫瘍性病変としては、100 ppm群の雄に膀胱の移行上皮癌及び甲状腺の濾胞状腺腫の発生増加がみられた。なお、肺の細気管支−肺胞上皮腺腫、皮膚の角化棘細胞腫、乳腺の線維腺腫及び腹膜の中皮腫も発生増加がみられたが、アリルクロリドとの関連は不明確であった。雌には、アリルクロリドの暴露によると考えられる腫瘍の発生増加は認められなかった。非腫瘍性病変としては、雄は腎臓、鼻腔、舌及び脾臓、雌は腎臓及びハーダー腺に変化がみられた。雄の腎臓には慢性腎症の程度の増強が50 ppm以上の群、腎盂に尿路上皮の過形成の増加が100 ppm群にみられ、近位尿細管の上皮細胞の核の増大が50 ppm以上の群、好酸滴の出現が全投与群で、それぞれ少数例にみられた。また、雄の鼻腔には、嗅上皮のエオジン好性変化の程度の増強が全投与群でみられた。雌の腎臓には近位尿細管の上皮細胞の核の増大と好酸滴の出現が全投与群でみられた。その他、雄の投与群には脾臓の線維症と舌の動脈炎の発生が投与濃度に対応して増加した。また、雌の100 ppm群にはハーダー腺のリンパ球浸潤の発生増加が認められた。
 マウスでは、雌雄とも200 ppm群で生存率が低下した。特に、200 ppm群の雄は97週までに全動物が死亡し、病理学的にみた死因は尿閉が多かった。また、雄の全投与群と雌の100 ppm以上の群に失調性歩行または麻痺性歩行がみられた。腫瘍性病変としては、雌雄とも100 ppm以上の群にハーダー腺の腺腫の発生増加が認められた。なお、肺の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生増加が雌雄にみられたが、アリルクロリドとの関連は不明確であった。非腫瘍性病変としては、雄に鼻腔の嗅上皮のエオジン好性変化の発生増加が50 ppm群と100 ppm群に認められた。

5.まとめ
 ラットでは、雄の膀胱に移行上皮癌の発生増加が認められた。この腫瘍の発生増加はアリルクロリドの雄ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠であると考えられた。また、甲状腺に濾胞状腺腫の発生増加が認められた。雌には、アリルクロリドの暴露によると考えられる腫瘍の発生増加は認められなかった。
 マウスでは、アリルクロリドの投与により、雌雄ともハーダー腺の腺腫の発生増加が認められ、この腫瘍の発生増加はアリルクロリドの雌雄マウスに対するがん原性を示唆する証拠であると考えられた。




腫瘍発生一覧表

アリルクロリドのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット:雄)および雌


アリルクロリドのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス:雄)および雌



6. 図
1) ラット

MALE


FEMALE

FIGURE 1  SURVIVAL ANIMAL RATE OF RATS IN THE 2-YEAR
 INHALATION STUDY OF ALLYL CHLORIDE



MALE


FEMALE

FIGURE 2  BODY WEIGHT CHANGES OF RATS IN THE 2-YEAR
 INHALATION STUDY OF ALLYL CHLORIDE



2) マウス

MALE


FEMALE

FIGURE 3  SURVIVAL ANIMAL RATE OF MICE IN THE 2-YEAR
 INHALATION STUDY OF ALLYL CHLORIDE



MALE


FEMALE

FIGURE 4  BODY WEIGHT CHANGES OF MICE IN THE 2-YEAR
 INHALATION STUDY OF ALLYL CHLORIDE


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