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資料3−2

アクリル酸=2-ヒドロキシエチルの
がん原性試験結果


1 被験物質について

1.1.名称と別称
名称アクリル酸=2−ヒドロキシエチル(2-Hydroxyethyl acrylate)
IUPAC名2−ヒドロキシエチルアクリレート(2-Hydroxyethyl acrylate)

1.2.構造式、分子量

図

分子量181.08
CAS.No.818-61-1

1.3.物理化学的性状
外観透明な液体
沸点82℃
溶解性水、通常の有機溶媒に可溶

1.4.用途
熱硬化性塗料、接着剤、繊維処理剤、潤滑油添加剤、コポリマーの改質剤

1.5.生産量、製造業者
(1)生産量
日本では平成13年に約3000トン生産している。
(2)製造業者
大阪有機化学、東亞合成、日本触媒

1.6.許容濃度等
日本産業衛生学会:なし
ACGIH:なし

1.7.変異原性
 日本バイオアッセイ研究センターで実施した変異原性試験では、微生物を用いた試験または培養細胞を用いた試験の何れも陽性を示し、微生物を用いた試験の比活性値は1.13×102 /mg(菌株:WP2uvrA/pKM101、代謝活性化あり)であり、培養細胞を用いた試験のSD20値は0.0082 mg/mL(細胞株:CHL、代謝活性化なし)であった。

2.目的
 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を検索する目的でラットとマウスを用いた混水経口投与による長期試験を実施した。

3.方法
 試験は、ラット(F344/DuCrj(Fischer))とマウス(Crj:BDF1)を用い被験物質投与群3群と対照群1群の計4群の構成で、雌雄各群とも50匹とし、合計ラット400匹、マウス400匹を用いた。
 被験物質の投与は、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルを混合した飲水を動物に自由摂取させることにより行った。投与濃度は、ラット雌雄とも320、800、2000 ppm(公比2.5)、マウスの雄は750、1500、3000 ppm(公比2)、雌は500、1500、4500 ppm(公比3)とした。投与期間は2年間(104週間)とした。
 観察、検査として、一般状態の観察、体重、摂水量及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。

4.結果
 ラットでは、雌雄ともに、投与濃度に対応した体重増加の抑制、摂水量及び摂餌量の減少が認められたが、全ての投与群の生存率は対照群とほぼ同様の推移を示した。腫瘍性病変については、雄では肝細胞腺腫の発生が320 ppm群より増加し、2000 ppmでは有意な発生増加を示した。また、肝臓の前腫瘍性病変と考えられる好塩基性小増殖巣が800 ppm以上の群で増加した。雌では肝細胞腺腫の発生増加の傾向はみられたが、その発生率は低く、前腫瘍性病変の明らかな増加もなかった。非腫瘍性病変については、雌雄の腎臓で乳頭壊死や慢性腎症が320 ppm群から増加した。また、雌の前胃には扁平上皮過形成と基底細胞過形成の僅かな増加がみられ、投与による影響が示唆された。その他、血漿中のγ-GTP、総コレステロール、リン脂質及び尿素窒素が投与濃度に対応して増加した。
 マウスでは、雌雄ともに、投与濃度に対応した体重増加の抑制、摂水量及び摂餌量の減少が認められたが、全ての投与群の生存率は対照群とほぼ同様の推移を示した。腫瘍性病変については、雌雄ともに腫瘍の発生増加はなかった。これに対し、雄の肝細胞癌、ならびに雌の下垂体腫瘍(腺腫・腺癌)には発生減少がみられた。非腫瘍性病変については、前胃の扁平上皮過形成が雄の3000 ppm群と雌の全投与群で増加した。また、腎臓の腎盂上皮の剥離が雄の3000 ppm群と雌の1500 ppm以上の群に、鼻腺の呼吸上皮化生が雄の全投与群、雌の1500 ppm以上の群で増加した。

5.まとめ
 ラットでは、雄に肝細胞腺腫と前腫瘍性病変である好塩基性小増殖巣の増加が認められ、これらの結果は、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示唆する証拠と考えられた。雌にも肝細胞腺腫の僅かな発生増加が認められ、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示す不確実な証拠と考えられた。
 マウスでは、雌雄ともに腫瘍の発生増加は認められず、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示す証拠は認められなかった。




腫瘍発生一覧表
 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット:雄)
  投与濃度(ppm) 320 800 2000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 49 50
良性腫瘍 皮膚 角化棘細胞腫    
扁平上皮乳頭腫    
皮下組織 線維腫    
細気管支−肺胞上皮腺腫    
前胃 扁平上皮乳頭腫    
肝臓 肝細胞腺腫  10** ↑↑ ↑↑
下垂体 腺腫 21 22 14 13  
甲状腺 C-細胞腺腫 10 11    
濾胞状腺腫    
精巣 間細胞腫 28 31 35 35  
悪性腫瘍 脾臓 単核球性白血病    
前胃 扁平上皮癌    
甲状腺 濾胞状腺癌    
  甲状腺 濾胞状腺腫/腺癌  

 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(ラット:雌)
  投与濃度(ppm) 320 800 2000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 前胃 扁平上皮乳頭腫    
肝臓 肝細胞腺腫
下垂体 腺腫 19 15 16 15    
甲状腺 C-細胞腺腫    
濾胞状腺腫    
子宮 子宮内膜間質性ポリープ 11    
乳腺 線維腺腫    
悪性腫瘍 脾臓 単核球性白血病    
子宮 子宮内膜間質性肉腫  
 検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
  *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
  ↑: p≦0.05で有意増加   ↑↑: p≦0.01で有意増加   (Peto, Cochran-Armitage検定)
  ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)



 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス:雄)
  投与濃度(ppm) 750 1500 3000 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 50 50
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫    
脾臓 血管腫    
肝臓 肝細胞腺腫    
血管腫    
悪性腫瘍 細気管支−肺胞上皮癌    
リンパ節 悪性リンパ腫 11    
脾臓 悪性リンパ腫    
血管肉腫    
肝臓 肝細胞癌 *  
血管肉腫  0**   ↓↓
組織球性肉腫    
扁平上皮癌    
多臓器 組織球性肉腫 *    
悪性リンパ腫 14 11    
  脾臓 血管腫/血管肉腫 *  
肝臓 肝細胞腺腫/肝細胞癌 11 15 *   ↓↓
血管腫/血管肉腫  0**   ↓↓

 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性試験における主な腫瘍発生(マウス:雌)
  投与濃度(ppm) 500 1500 4500 Peto
検定
Cochran-
Armitage
検定
検査動物数 50 50 49 50
良性腫瘍 細気管支−肺胞上皮腺腫    
扁平上皮乳頭腫    
肝臓 肝細胞腺腫 *    
下垂体 腺腫  
子宮 子宮内膜間質性ポリープ    
悪性腫瘍 細気管支−肺胞上皮癌    
リンパ節 悪性リンパ腫 18 17 * *  
脾臓 悪性リンパ腫    
肝臓 肝細胞癌    
腎臓 腎細胞癌    
下垂体 腺癌    
子宮 組織球性肉腫  12*    
多臓器 組織球性肉腫 13 10    
悪性リンパ腫 22 19  10*  12*  
  肝臓 肝細胞腺腫/肝細胞癌 *    
下垂体 腺腫/腺癌  
 検定結果については生物学的意義を考慮して記載した。
  *: p≦0.05で有意   **: p≦0.01で有意   (Fisher検定)
  ↓: p≦0.05で有意減少   ↓↓: p≦0.01で有意減少   (Cochran-Armitage検定)




6. 図
1) ラット

MALE

FEMALE

FIGURE 1  SURVIVAL ANIMAL RATE OF RATS IN THE TWO-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF 2-HYDROXYETHYL ACRYLATE



MALE

FEMALE

FIGURE 2  BODY WEIGHT CHANGES OF RATS IN THE 2-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF 2-HYDROXYETHYL ACRYLATE



2) マウス

MALE

FEMALE

FIGURE 3  SURVIVAL ANIMAL RATE OF MICE IN THE TWO-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF 2-HYDROXYETHYL ACRYLATE



MALE

FEMALE

FIGURE 4  BODY WEIGHT CHANGES OF MICE IN THE 2-YEAR DRINKING
 WATER STUDY OF 2-HYDROXYETHYL ACRYLATE


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