資料No.3-2 |
平成16年12月 中央労働災害防止協会 |
(五十音順) | ||||||||||||||||||||||||||
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(○は委員長) |
1 | はじめに | ||||||||||||
2 | 委員名簿 | ||||||||||||
3 | 化学物質等による労働者の健康障害防止に係るリスク評価に関する 方法及び考え方について(中間報告)
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化学物質等による労働者の健康障害防止に係るリスク評価に関する 方法及び考え方について(中間報告) |
第1 | リスク評価の概要等 | ||||||||||
1 | 趣旨及び目的 我が国の産業界では、多数の化学物質、化学物質を含有する製剤その他のもので労働者に健康障害を生ずるおそれのあるもの(以下「化学物質等」という。)が使用されているが、これらの化学物質等の中には労働者がばく露することにより健康障害を生ずるものも存在する。 一方、我が国においては、法令で規制していない化学物質等(以下「未規制物質」という。)による職業性疾病はその半数程度を占めおり、また、近年、国際的には化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「GHS」という。)の推進、化学物質に関する条約の締結、EUにおける化学物質に対する厳しい規制の検討等、化学物質による健康問題が社会的に大きな関心を集めるようになっている。 このような状況のもと、人への健康障害が懸念される未規制物質を取り扱う事業者は、あらかじめ有害性等を調査し、対策を講ずることが求められているが、中小企業等においては、自律的な管理が必ずしも十分に行われていない状況にある。 このため、国等において、これらの未規制物質について事前に労働者の当該化学物質等が人体内に取り込まれる量(以下「ばく露の程度」という。)と、ばく露の程度に応じて生ずる健康障害の可能性について評価(以下「リスク評価」という。)し、必要な措置を講ずることとされている。 当中間報告においては、事業場等において製造し、又は取り扱われる既存の未規制物質のうち、労働者への健康障害が懸念されるものに関するリスクの評価を行う際の考え方及びその方法を検討する。 | ||||||||||
2 | リスク評価の方法の概要 リスク評価においては、化学物質等の有害性の特定、労働者の当該物質へのばく露の程度の把握(以下「ばく露評価」という。)、ばく露の程度に応じて生ずるおそれのある健康障害の可能性及びその程度(以下「量―反応関係」という。)について把握することにより、スクリーニング的なリスクの判定を行う。その結果、リスクが高いと判定された場合には、データ等について詳細に検証し、再度リスクの判定を行う。 リスク評価等に係る各項目の概要は次のとおりであり、その流れを別紙に示す。
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3 | 考慮すべき事項 リスク評価に際しては次の事項について考慮する必要がある。
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第2 | ばく露評価 | ||||||||||||||||||||||||||||||
1 | ばく露評価の概要 ばく露評価に用いるばく露量は、有害な化学物質等を製造し、又は取り扱う労働者が、事業場において通常の作業に従事する場合に、1日の労働時間中に当該物質を吸入又は吸収する量とし、作業環境中の空気中の濃度の測定又は個人ばく露濃度の測定等により把握する。 次の手順によりばく露量を把握する。
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2 | 調査対象物質の優先順位付けのための分類(第1段階)
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3 | 作業環境の測定等の対象となる作業の選定(第2段階)
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4 | 予測ばく露量の把握
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第3 | ばく露に係る考え方 |
1 | 評価の対象とする作業について リスク評価は、化学物質等を取り扱う作業を全体として評価の対象としていることから、評価の対象とする作業は、通常行われている典型的で、定常的な作業とする。また、清掃、修理、点検等の非定常的な作業であっても、日常的に当該作業が行われ、その頻度が大きいときはリスク評価の対象とする。 一方、プラントの改修等の大規模な作業はまれにしか行われないこと、改修等の工事は配管内の物質を排出した後、あるいは置換した後行われるが、配管内の濃度等を把握することが困難であることから、当該作業は評価の対象としない。 |
2 | 事故等について 事故の場合には、その発生形態が多様にわたること、事前にばく露濃度を予測できないこと等からリスク評価においては、事故時のリスク評価は想定しない。 |
3 | 測定データについて 作業環境の測定データ等を用いてばく露量を把握する場合には、当該データがばく露の大きいと考えられる代表性をもつ作業から得られたものであること、測定の対象となる作業が無作為に抽出されていることが重要であり、また、できるだけ多くのデータを利用できることが望ましいものである。 このために、測定の対象となる事業場を選定するに当たっては、ばく露の程度が大きいと想定される典型的な作業を有する事業場を対象として、無作為に選定することを原則とする。作業の代表性については、別途聞き取り等の調査等により検証する。 しかしながら、これらの条件を満足する事は容易でない場合が多いことから、これを補完するために、ばく露モデルによる算出等の方法について考慮する。 |
4 | ばく露の経路 労働者が化学物質を取り扱う際に、ばく露する主な経路としては、呼吸器からの吸入によるばく露、皮膚からの吸収によるばく露及び経口ばく露が考えられるが、労働現場においては、吸入による経路が最も重要であることから、呼吸器からの吸入を主経路として考える。 一方、皮膚からの吸収については、労働者は通常身体を衣服で覆って作業していることから、直接物質にふれる場合を除き、皮膚からのばく露は少ないと考えられること、これまでの災害事例等からみても呼吸器からのばく露による中毒が圧倒的に多いこと、皮膚吸収の割合を考慮する十分なばく露モデルが存在しないこと等から、当該ルートは原則として考慮しない。 しかしながら、皮膚からの吸収等が無視できないと考えられる場合等においては、皮膚からの吸収によるばく露等のその他の経路によるばく露についても考慮する。 |
5 | 保護具の考慮について 作業環境中における有害な化学物質等にばく露することによって生ずる健康障害を防止するためには、空気中の濃度を一定以下に管理する作業環境管理によることが基本であり、保護具の使用は作業の方法等によりばく露を防止することができない場合にやむを得ず使用する等の補助的な手段とされている。 また、呼吸用保護具は、それを装着している者のみ保護していること、使用方法が間違っている場合、又は顔面に密着しないで使用する場合には有害物を吸入する可能性がある等ばく露を十分防止することはできない。 このためリスク評価においては、作業場における局所排気装置の設置の有無については考慮するが、保護具の装着の有無については原則として考慮はしない。 |
6 | 作業環境の測定について 作業環境の測定を実施する際には、適正な測定が行われることが重要であるため、作業環境測定基準(昭和51年労働省告示第46号)に規定するA測定及びB測定で行うこととする。また、作業環境の空気中の濃度測定については、統計的な見地から、測定対象事業場を原則として5程度以上選択して実施することが望ましい。 |
7 | ばく露データ等の取り扱いについて ばく露に係るデータとして、物理的・化学的性状又は作業内容等が類似した作業場所から類推したもの、ばく露モデルから算出したもの、バイオロジカルモニタリングから得られたもの、作業環境の空気中の濃度測定から得られたもの及び個人ばく露濃度の測定から得られたものを活用することができる。 リスク評価において、ばく露モデルによるデータを用いる場合には、ばく露状況の再現性等に係るモデルの信頼性、作業形態の多様性や作業場の複雑さを考慮して、その有用性が実証されたものを用いる必要がある。 しかしながら、ばく露モデルの完成度等を考慮するとばく露モデルによるデータから算定した値よりも、作業環境の空気中の濃度を測定したデータを優先的に用いることが望ましい。 |
第4 | 量―反応関係の把握等 | ||||||||||||||||||||||||
1 | 有害性の種類及び程度の特定 信頼できる主要な文献等を利用することにより、調査対象物質の有害性について把握する。有害性はGHSのクラス分けに従い、急性毒性、皮膚腐食性・刺激性、眼に対する重篤な損傷性・刺激性、感作性、生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性及び臓器毒性等とする。 信頼できる主要な文献等から、日本産業衛生学会の提案している許容濃度(以下「許容濃度」という。)、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)で定める時間加重平均濃度(以下「TLV―TWA」という。)、無毒性量(NOAEL)、最小毒性量(LOAEL)、無影響量(NOEL)、最小影響量(LOEL)、有害性に係るGHSの区分等の量―反応関係に係る参考となる有害性データに関する情報を把握する。 | ||||||||||||||||||||||||
2 | 量―反応関係
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3 | データの検討等 量−反応関係等から得られる有害性データについて、動物実験から得られたデータと人から得られたものがある場合には、原則として人のデータを優先的に用いることとする。 また、当該データを使用する場合には、これらのデータが適切な手法を用いて得られたものであること等データの信頼性について十分調査するとともに、学識経験者の意見を聴く等により対処するものとする。 |
第5 | リスクの判定等 | ||||||||||||||||||||||
1 | 判定の概要 リスクの判定は、発がん性以外の場合には、原則として作業に従事する労働者の化学物質等へのばく露量と、許容濃度等、無毒性量 (NOAEL) 等を定量的に比較することにより行い、無毒性量 (NOAEL)等の値を文献等から把握できない場合には、評価対象としての優先順位を繰り下げる。発がん性の場合には、閾値が存在する場合と存在しない場合に分けて判定する。 スクリーニング的なリスク評価において、リスクが高いと判定された場合には、有害性データ、作業環境測定データ等のデータの検証、又は追加を行い学識経験者の意見を聴き詳細な検討を行う。 さらに、詳細な検討においてリスクが高いと判断される場合にはばく露を防止するための必要な措置を講ずるものとする。 | ||||||||||||||||||||||
2 | 判定の手順 リスクの判定に際しては、許容濃度等、人に対する無毒性量(NOAEL)等を優先的に用いるが、当該値が存在しない場合には、動物実験等から得られた値を外挿して用いる。 無毒性量等を得ることができない種類の有害性の場合には、量―反応関係、有害性等、ばく露労働者の数等を考慮することにより総合的にリスクの判定を行う。
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3 | 判定基準 リスクの判定については次の基準に従い実施し、必要性な場合にはさらに詳細な検討の対象とする。
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4 | 詳細な検討の手順 詳細な検討は次の手順によって行う。
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第6 | リスク判定等の考え方 | ||||||||||||||||||||||
1 | MOEの値の検討 労働現場においてMOEの値をリスクの判定に用いる際に、その値を一般環境における値よりも小さくすることは次の理由により合理的と考えられる。
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2 | がんの過剰発生率について がんの過剰発生率については、次の理由により10―4を採用している。
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3 | リスク判定後の措置に係る検討 スクリーニング的なリスク評価の後、リスクがあると判定された場合にはデータ等には不確実さが含まれることから、これを詳細に検討し、学識経験者による検証等を行い、総合的に判断すべきものとされている。
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