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社会保障審議会−福祉部会
第13回(H16.12.8)資料1


社会保障審議会福祉部会意見書
(案)




平成16年12月


意見書(案)


I はじめに

 ○ 介護保険制度の創設、社会福祉基礎構造改革から5年が経過し、社会福祉の分野においても、措置制度から契約制度への転換が進み、サービスの急速な量的拡大、介護分野を中心とした営利法人や特定非営利活動法人(NPO法人)等多様な主体の参入が進展している。    一方、介護保険における応益負担に伴う低所得者への配慮の必要性、社会経済状況の変化に伴うホームレスへの対応や虐待防止への取組など、新たな福祉需要も生じている。

 ○ このように社会福祉事業を取り巻く状況が大きく変化する中で、社会福祉事業の主たる担い手である社会福祉法人についても、改めてその在り方が問われ、低所得者への配慮等の公益的取組の強化、経営管理体制の強化、規制緩和、介護分野におけるイコールフッティングの観点からの見直し、などの指摘がなされている。

 ○ このような状況の下、本部会では、本年2月から6回に渡り、社会福祉施設職員等退職手当共済制度を含めた社会福祉法人制度の在り方について議論し、意見をまとめたので、ここに報告する。



II 経緯と現状

 ○  社会福祉法人は、昭和26年に社会福祉事業法(現:社会福祉法)によって、民間社会事業への規制と助成の仕組みとして成立した。

 ○ 規制・監督面では、(1)寄附された財産は法人の所有となり、持分が認められない、(2)社会福祉事業から生じた剰余金の分配・配当は認められない、(3)解散時の残余財産は、他の社会福祉法人又は国庫に帰属する、(4)事業経営の安定性を確保するため事業内容に応じた資産が必要、などとされている。    その後、評議員会の設置を義務付ける範囲の拡大、資産要件の一部緩和、収益事業の収益の公益事業への充当制限の緩和、情報公開の義務付けなどが行われたが、基本的枠組みについては変更されていない。

 ○ 一方、助成面では、(1)公益性の高い法人としての法人税や固定資産税の非課税など税制上の優遇措置、(2)社会福祉施設の整備に当たっての補助、(3)退職手当共済制度の給付に対する助成、といった措置が講じられている。

 ○ 社会福祉法人は、その制度設立当初は、民間団体や個人といった篤志家による特定の人々に対する救済事業であった民間社会事業の系譜を受け継ぎ、自主的・自律的・機動的な取組を行ってきた。しかし、その後、措置制度が確立するに従って、措置制度の受け皿としての役割が大きくなり、次第に民間らしい取組を低下させてきた。

 ○ 一方、介護保険制度の創設、支援費制度の導入により、措置制度の受け皿としての役割は減少してきている。介護分野を中心に営利法人、NPO法人等の参入も進み、介護分野における社会福祉法人の占める割合(経営主体数の割合)は、約15%となっている。

 ○ 現在、一部の社会福祉法人においては、「一法人一事業」として地域の福祉ニーズに応えた先駆的・モデル的な取組が実践されている事例がみられる一方で、多くの社会福祉法人においては、法律に規定された本来事業のみに専念し、新たな福祉ニーズに対応した取組を実践しようという意欲に乏しいとの指摘がある。これに対しては、行政監査で本来事業以外の事業を行うことに対して抑制的な指導がなされることが一因だとの意見もある。



III 今後の在り方と見直しの方向性

 ○  営利法人やNPO法人は、事業への迅速な参入、弾力的な運営ができる一方で、撤退についても自由に行うことができる。社会福祉分野にあってもサービスが迅速かつ弾力的に提供されることは重要であるが、同時に福祉サービスは安定的に提供されることが必要であり、このような観点からは、今後とも、社会福祉法人が果たす役割は大きい。

 ○ 介護分野における低所得者への配慮や、報酬が制度化されておらず、採算がとれない新たな福祉ニーズに対応するサービスの提供を営利法人に求めることは困難である一方、すべてに行政が対応することも困難であり、地域福祉の推進を図る上で、社会福祉法人の役割は重要になると考えられる。

 ○ 現在、公益法人の在り方や公益性の考え方について、様々な議論がなされているところであり、社会福祉法人の在り方についてもそれらの議論を踏まえ、今後更に検討すべきものであるが、上記のような役割に鑑み、当面行うべき見直しの方向性は以下のとおりである。


(1)公益性の追求

 ○ 社会福祉法人は「公益性」を更に高めることが必要であり、そのためには、社会福祉法人の非営利性(持分や配当が認められないこと、残余財産も他の社会福祉法人や国庫に帰属し、配分できないこと)の原則を維持することが必要である。

 ○ また、本来事業である社会福祉事業のサービスの質の向上を図ることは当然として、低所得者等サービスの利用が困難な者への配慮、制度化されていない福祉ニーズへの対応などの公益的取組を一層進めることが必要である。


(2)安定性の確保

 ○ 社会福祉法人には、サービスの安定供給といった役割が今後とも求められることから、事業の廃止や法人の解散についての制限などの撤退規制は維持することが適当である。

 ○ また、事業に必要な財産を所有すること、その財産の担保提供を制限することなどの資産要件も原則として維持することが必要である。


(3)経営の自律性の強化

 ○ 高率の助成を受け、措置などの行政委託による事業を行う場合は、資金の使途、事業運営も行政の指示によって行い、法人としての意思決定が求められる場面は少なかった。しかし、介護保険制度や支援費制度では資金使途は原則的に自由であり、また、今後は、施設整備のために民間金融機関からの融資を受ける必要も増加すると考えられる。さらに、地域の福祉需要に応じて弾力的かつ迅速に公益的取組を行うことも求められている。

 ○ これらに対応するには、経営責任の明確化、意思決定の迅速化を図り、法人としての経営管理体制を強化するとともに、それを前提に行政関与は簡素・弾力化し、経営の自律性を強化することが必要である。あわせて、情報公開を一層進め、職員、利用者、一般市民によるチェック機能を高めるとともに、福祉サービスの第三者評価を進め、サービス水準の向上に法人自らが取り組むよう努めることが必要である。


(4)介護分野におけるイコールフッティングの観点からの見直し

 ○ 民間事業者の参入が進んでいる介護分野においては、社会福祉法人とこれらの事業者との競争条件を整備する観点から見直しを行う必要がある。なお、イコールフッティングの観点からは、情報開示の義務付けや福祉サービスの第三者評価について、社会福祉法人のみでなく、他の民間事業者に対しても行うことが望まれる。



IV 見直しの具体的内容

1 社会福祉法人制度の見直しについて

(1)公益的取組の推進

 ○ 現在、社会福祉法人は本来事業である社会福祉事業に支障がない限り、公益事業を行うことができるとされており、他の主体と並んで地域福祉の推進に努めなければならないとされている。

 ○ 今後は、社会福祉の推進役として、より積極的に公益的取組を推進していくことが求められており、これを社会福祉法人の経営理念の一つとして明確にすることが必要である。

 ○ 社会福祉法人の公益的取組の方向性としては、社会福祉施設等の持つ機能の地域への開放、介護分野での低所得者への配慮、災害時の要援護者への支援、地域での支援ネットワークの構築、新しいニーズの発見や先進的取組、福祉に携わる人材の育成などが考えられる。

 ○ 公益的取組を進めやすくするため、本来事業の地域への開放など定款に別途の公益事業として記載する必要がない範囲を明確化するとともに、定款に記載する場合であっても、先駆的事業に試行的に取り組むときには、財政基盤の審査をある程度弾力的に行うなど定款審査の在り方を見直す。

 ○ さらに、税制における優遇措置を踏まえ、より公益性を高める観点から、社会福祉法人に対して、低所得者に対する無料や低額による事業提供を義務付け、また、福祉サービスを必要とする地域住民の支援事業の実施に努めることとするとともに、こうした公益的な事業への資金の拠出が国民にわかるようにする方策を講じるべきとの意見があった。


(2)経営の自律性の強化

 (@)経営責任の明確化

  (ア)評議員会の諮問機関としての機能の明確化

   ○ 評議員会は、理事会を広く地域等の立場からチェックする機関であり、民法法人、学校法人など他の法人制度においても、評議員会は理事会に対し重要事項に関する意見を述べる諮問機関及び役員の選任機関として、その設置が義務付けられている。社会福祉法人においては、評議員会を諮問機関であると位置付けつつ、理事会の決定事項の多くについて原則として評議員会の同意を求めている。

   ○ これは法人の意思決定を慎重にし、法人運営に地域の声を反映することに資するものであるが、一方で、法人の意思決定についての責任を理事会と評議員会のどちらが負うのかを曖昧にすることにも繋がっている。今後は、社会福祉法人にも地域の新たな福祉需要に対応した積極的な事業展開が求められていることを考え併せると、広く地域の声を聴きつつ、決定についての責任の所在は明確化するという観点から評議員会の在り方の見直しが必要である。

   ○ 法人経営の適正化を図る観点からは、経営責任を有する理事会と、地域の代表や利用者の家族の代表等からなる評議員会が互いに牽制機能を持つことが重要であり、評議員会を設置する法人における理事の選任については、引き続き評議員会において行うことが適当である。

   ○ なお、介護保険制度の対象事業を行っている社会福祉法人については、民間とのイコールフッテングの観点からの見直しが課題となる中で、経営の責任を有するものは理事、理事長であることを踏まえ、理事は、経営管理等に責任を負える者について理事会で選任すべきとの意見があった。また、評議員会について、現行の社会福祉法人審査基準による必置規制を改め、任意設置とするべきであるとの意見があった。


  (イ)理事構成の見直し

   ○ 社会福祉法人の理事会には、様々な意見を反映させるため、学識経験者又は地域の福祉関係者を加える、施設長を1人以上入れる、親族等が一定数を超えない、施設長や職員からの理事の選任は全理事数の3分の1以下にとどめるなどとされている。

   ○ しかし、理事会が経営についての意思決定を適切に行い、責任を全うするには、施設経営の実態を踏まえた議論がされることが望ましい。法人外部の立場から法人経営について意見を述べる機関として評議員会が設置されている法人にあっては、施設長等の人数制限を見直すことが適当である。評議員会を設置していない法人については、従来どおりの規制を維持すべきである。なお、評議員会が設置されていても、社会福祉法人の公的性格から、理事会における施設長等の人数制限の見直しについては、慎重に検討すべきとの意見もあった。


 (A)意思決定の迅速化

  ○ 社会福祉法人においては、法人の業務決定は理事会によって行うこととしているが、職員の日常の労務管理・福利厚生、消耗品等の日々の購入の契約、施設整備の保守管理、物品の修理等の契約といった日常の軽易な業務は理事長が専決することとされている。

  ○ 地域の福祉ニーズに迅速に対応するには、理事会を開催することなく法人としての意思決定が行えるようにする必要があるとして、理事長が専決できる範囲の拡大を求める意見がある。しかし、専決範囲の拡大は理事長の専横に繋がるおそれもあり、無制限に拡大することは適当でない。これらを勘案すると、日常の業務であれば、予め理事会において定める範囲において理事長が専決できることとすることが適当である。


 (B)行政関与の簡素・弾力化

  (ア)基本財産の担保提供手続の簡素化

   ○ 社会福祉法人は、基本財産を民間金融機関へ担保に提供する場合には所轄庁の承認を受けなければならないこととされているが、所轄庁によっては一律に承認しない取扱いとしているところもある。

   ○ 独立行政法人福祉医療機構との協調融資の場合は民間金融機関への担保提供であっても承認が不要とされたが、それ以外の場合であっても、法人経営の自律性、資金調達の自由度を高める観点から、目的の妥当性、必要性、方法の妥当性、意思決定の適法性等を考慮して判断し、承認すべきである。


  (イ)運営費収入の使途の弾力化

   ○ 社会福祉事業の運営費である措置費は、利用者の処遇に必要な経費として交付され、その費用は本来の福祉サービスの目的を達成するために当該年度の経費として消費されるべきものとして、原則として他の目的に使用することは禁止されていた。介護報酬及び支援費は契約により提供されるサービスの対価という性格付けがされたため、使途の制限は原則として設けないこととされた。また、規制緩和の流れの中で措置費についても徐々に使途の弾力化が進められてきている。

   ○ 使途の弾力化は経営の自律性の強化、公益的取組の推進にも資することから、評議員会の設置や第三者評価の受審などチェック機能の整備された法人については、措置費も含め、公益事業への資金移動の範囲拡大など更に弾力化を進めることが適当である。その際には、事業や会計に関する書類の公開等により資金使途の透明性を高めることが必要である。

   ○ なお、社会福祉法人が行う社会福祉事業については、税制上の優遇措置が講じられており、その剰余金を使用することができる公益事業の範囲については、自ずと限界があることに留意する必要がある。


  (ウ)資産要件の緩和

   ○ 社会福祉法人の資産要件については、地域密着型サービスへという福祉政策の流れ、土地建物の所有による事業展開が都市部では困難という事情、さらに施設整備に対する高率の公的助成が将来的には縮小していくという事情も踏まえると、例えば、サテライト型特別養護老人ホームなどについて一定の要件の下に土地建物について民間からの賃貸を認めるなど、安定性を大きく損なわない範囲で緩和措置を講じることが必要である。


2 社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直しについて

(1)社会福祉施設職員等退職手当共済制度の経緯とその現状

 ○ 社会福祉施設職員等退職手当共済制度は、昭和36年に、社会福祉施設等の職員の待遇改善により、職員の身分の安定を図り、もって社会福祉事業の振興に寄与することを目的として設立された。

 ○ 即ち、社会福祉事業の一翼を担う民間社会福祉施設については、その職員の給与その他の待遇面で公立の社会福祉施設の職員に比較して格差があり、必要な職員の確保や資質の高い職員の定着化が図られないという実情があったが、小規模な施設が多く、独自の退職金制度を設置することが困難であったことから、経営者の掛金のほか、国・都道府県がそれぞれ3分の1ずつの補助を行い、国家公務員の退職手当に準拠した給付を行う制度として創設されたものである。

 ○ 制度創設後は、社会福祉制度の拡充に伴い、社会福祉施設等の範囲が逐次拡大され、平成4年には在宅福祉事業が対象として追加された。また、平成5年に制定された「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」において、経営者はこの制度の加入に努めることとされた。さらに、平成12年には、加入者を社会福祉法人に限定するとともに、経営者の全額負担により共済契約対象となる施設等(申出施設等)を追加するなどの改正が行われ、社会福祉事業の従事者の人材の確保を通じ、社会福祉事業の振興に寄与してきた。

 ○ 退職手当共済制度は、独立行政法人福祉医療機構がその運営を行っているが、社会福祉サービスの拡大に伴い、近年、契約件数、対象施設等の数、被共済職員数、退職者数や給付費総額など、その運営規模は大幅に拡大してきているところである。


(2)社会福祉施設職員等退職手当共済制度を取り巻く環境の変化と課題

 (@)公費助成の在り方の見直し

  ○ 平成12年4月、高齢者の自立支援を基本理念として、要介護の高齢者が必要とする適切な介護サービスを提供するための介護保険制度が施行された。同制度は、高齢者をはじめとして国民全般に受け入れられ、おおむね順調な発展を遂げているが、現在、施行後5年を目途として行うこととされていた見直しが行われているところであり、介護予防の重視や、地域密着型サービスの創設を含む新たなサービス体系の構築などの介護サービスの在り方の見直し、介護保険の被保険者・受給者の範囲と障害者施策との関わり等を含め、検討が進められている。

  ○ 介護サービス提供事業者の状況をみると、介護保険制度導入後、事業者数は全体として増加するとともに、営利法人、医療法人、NPO法人等の社会福祉法人以外の経営主体も大きく増加してきている。この結果、事業者数に占める社会福祉法人の比率は相対的に低いものとなってきている。

  ○ このような状況の中で、平成13年6月に、「特殊法人等改革基本法」が成立し、同法に基づき、特殊法人等の組織形態や事業全般の見直しが行われ、同年12月に「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定されたが、その中で、退職手当共済制度について、「平成17年を目途に行われる介護保険制度の見直しに合わせ、介護保険における民間とのイコールフッティングの観点から、助成の在り方を見直す。」とされた。

  ○ また、平成14年12月には、独立行政法人福祉医療機構法案に対して、上記閣議決定と同趣旨の国会の附帯決議も行われているところであり、これらを踏まえ、介護保険制度の対象となっている高齢者関係の施設・事業については、公費助成を行わないこととするなど、公費助成の在り方を見直すことが課題となっている。


 (A)給付の在り方の見直し

  ○ 民間企業における退職金制度の動向を見ると、概ね8割以上の企業が依然として退職金制度を有しているという状況にある一方、人口の少子・高齢化、労働市場や雇用慣行の変化・多様化に対応し、退職給付を縮小・廃止し毎月の給与を拡大するという動きも見られるところである。

  ○ また、働く者が、ライフステージや、その時々の希望に応じて多様な働き方を選択でき、それが適切に評価される社会を実現していくことが求められている中で、ひとつの職場で長期に勤続することを前提とした退職金という慣行は将来的に廃止・縮小に向かうべきとの指摘もある。

  ○ さらに、国家公務員の退職手当についても、「退職手当に職員の在職中の貢献度をより的確に反映するとともに、人材の流動化を阻害することのないよう、退職手当制度について長期勤続者に過度に有利になっている現状を是正することとし、新たな任用・給与制度の具体的内容を踏まえ、支給率カーブ、算定方式の在り方等の見直しを行う。また、民間企業の退職金の支給実態を踏まえ、全体的な支給水準の見直しを行う。」ことが公務員制度改革大綱(平成13年12月)の中で閣議決定されているところである。

  ○ こうした中で、社会福祉施設職員等退職手当共済制度についても、給付の在り方を見直すことが課題となっている。

  ○ 即ち、近年、退職者数が増加し、給付費総額は相当の伸びを示しているところであり、これに伴い、単位掛金の額は、平成16年度4万2千3百円と増加してきている。今後は更なる退職者数の増加とあわせて、制度の成熟化に伴う加入年数の伸びが見込まれることから、長期勤続者を相当に優遇するという給付設計の下で、大幅な給付費の増と、それに伴う掛金の増が見込まれている。

  ○ さらに、(@)で述べたとおり、介護保険制度の対象となっている高齢者関係の施設・事業に対する公費助成を行わないこととした場合には、現在相当の伸びを示している高齢者関係の施設・事業の被共済職員の伸びがこれまでのようには期待できないこととなり、被共済職員1人当たりの単位掛金の額は、将来更に増大するものと考えられる。

  ○ このため、将来の掛金等の負担の増大を緩和し、制度運営の安定化を図る観点から、給付水準の見直しを行うことが課題となっている。

  ○ また、介護福祉士の創設・普及などに伴い、ひとつの施設で長く勤めるという者だけではなく、ライフステージにあわせて転職をしながら、福祉という分野全体の中で専門職として働き続けたいという意向をもつ職員も出てきている。

  ○ 退職手当共済制度における加入期間の通算は、現状では法人間の同意に基づく異動であり被共済職員としての期間が継続する場合に限定して運用上認められているところである。しかしながら、こうした働き方に関する意識の変化を踏まえ、法人間の同意がなく、また、再就職まで一定期間あるケース等についても通算制度を改善・拡充するなど、ひとつの法人での継続雇用のみを念頭に置くのではなく、多様な働き方を前提に、福祉分野全体で人材を確保していくことも、現在の運用状況や給付実務も踏まえつつ今後検討していく課題と考えられる。


(3)社会福祉施設職員等退職手当共済制度見直しの方向

 ○ 退職手当共済制度については、以上のような諸課題に対応するため、今回の介護保険制度の見直しとあわせて、次のような見直しを行い、平成18年度から実施することが適当であると考えられる。


 (@)公費助成の在り方の見直し

  ○ 介護保険制度の対象となる高齢者関係の施設・事業(社会福祉事業)の職員については、介護保険における民間とのイコールフッティングの観点から、公費助成を廃止する。

  ○ この場合、経過措置として、経営者の期待利益の保護、掛金負担の激変緩和の観点から、公費助成の廃止の対象となる施設・事業に係る制度改正前の既加入職員については、その退職時まで現在の公費助成を継続する。

  ○ また、公費助成の廃止の対象となる施設・事業に係る制度改正後の新規採用職員については、申出施設等並みの掛金の負担(3分の3)が必要となることから、その共済加入については、経営者の任意によるものとする。

  ○ 児童・障害等のその他の施設・事業に係る公費助成については、今回あわせて見直すべきとの指摘もあったが、高齢者関係と異なり、社会福祉法人がサービスの中核的な担い手となっている現状もあり、また、公費助成の見直しの閣議決定の経緯や、更には障害者関連施策など制度自体の枠組みの変更が検討されている中で同時に結論を得ることは困難であることなどから、今回は公費助成を維持することとし、その取扱は将来の検討課題とすることが適当である。

  ○ また、介護報酬については、その見直しの際に、サービスごとの収支状況等を勘案して社会保障審議会(介護給付費分科会)の意見を聞いて改定されることとなっているが、退職手当共済制度における高齢者関係の施設・事業に係る公費助成の見直しに伴い、掛金負担の増大も見込まれることから、これらを十分に考慮して適切な介護報酬の見直しを図るべきとの指摘もあった。

  ○ なお、高齢者関係の施設・事業の公費助成の見直しについても、廃止という選択肢だけでなく、一部助成を存続させることを含めて更に慎重に検討を行うべきとの意見もあった。


 (A)給付の在り方の見直し

  ○ 前述のとおり、退職金をめぐる状況の変化や公費助成の在り方の見直しを踏まえつつ、経営者の掛金等の負担の増大を緩和し、制度運営の安定化を図る観点から、給付水準を見直すことが課題となっている。

  ○ また、児童・障害等の施設・事業についても、今回公費助成を維持するにしても、これの事業に参入している民間とのイコールフッティングの観点から、民間の退職金の水準を踏まえて給付水準を見直すべきとの指摘もある。

  ○ 一方、給付水準の見直しについては、職員の退職後の生活設計に直結するものであり、急激な抑制は避けるべきといった指摘もあった。

  ○ これらを総合的に勘案すると、今回の改正においては、当面の措置として給付水準を一定程度抑制することとし、現行の支給水準との連続性にも配慮して、概ね現行水準から1割程度引き下げることが適当と考えられる。

  ○ また、業務上の死亡や傷病による退職の場合の手当については、現行と同様、基本となる支給率の1.5倍の支給率を設定するという考え方で設定する。なお、当分の間の措置である調整率(10%加算)は、廃止する。

  ○ 給付水準の見直しに当たっては、制度改正前の既加入職員について、その期待利益を保護する観点から、経過措置として、改正後の支給乗率が、改正時に退職したと仮定した場合の支給乗率を下回る場合には、改正時の支給乗率によって計算した額の退職手当を支給するものとする。

  ○ なお、給付水準の見直しについては、長期加入者の給付は抑制するにしても、むしろ加入期間が比較的短い者の給付については、維持ないし改善することも含め、更に慎重な検討を行うべきであるとの意見もあった。一方で、本制度の持続可能性や介護報酬等への影響を考慮すると、思い切った給付水準の見直しが必要との意見もあった。


 (B)その他

  ○ 公費助成の廃止の対象となる高齢者関係の施設・事業及び申出施設等については、施設・事業を単位として共済制度から脱退することを可能とする。その場合、脱退の対象となる施設・事業に係る職員全員の同意を必要とするものとする。

  ○ 障害者関係と高齢者関係の両方の居宅サービスを同一組織で行っている事業所については、業務量の比率に応じた適用を行うととともに、業務量の変動で掛金負担が一挙に変動しないような措置を講じる。


(4)今後の課題

 ○ 社会福祉施設職員等退職手当共済制度については、障害者関連施策をはじめとして制度が対象としている社会福祉サービスそのものの在り方が大きく見直されつつあるとともに、退職金やその前提となる雇用慣行という面でも制度を取り巻く環境が変化しつつある。

 ○ このため、今後も、諸データの整備・分析も行いつつ、今回の制度見直し後の運営状況や社会福祉法人制度を取り巻く環境の変化を踏まえ、また、概ね5年を通じ財政の均衡を保つよう設定することとされている掛金負担の状況を見つつ、様々な環境変化の中で、ニーズが多様化・拡大する福祉サービスを担う人材をどのように確保していくのかといった視点とあわせて、本制度について更に見直しを行っていくことが適当と考えられる。


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