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第4回
資料6
第2回資料4「諸外国の最低賃金制度について」の修正


アメリカ合衆国

1 現行制度

(1)連邦最低賃金
 根拠
 公正労働基準法(1938年)

 適用範囲
(1)州際通商又は州際通商のための製品製造に従事する一定規模以上(年間の売上高が50万$以上)の企業に雇用される労働者
(2)病院、学校、連邦・州の機関等(売上高を問わない)に雇用される労働者
適用対象となっている労働者数は8割以上

 設定方式及び決定方式
 全国一律に最低賃金額を法定

 最低賃金額
 5.15$/時間(1997年9月〜)〔日本円換算:579円〕

 額の改定
 連邦議会に最低賃金改定案が提案され、審議の結果改定が承認され、大統領が承認のサインをして改定が認められる。

 適用除外
管理職、専門職(小学校、中学校の教師、管理職員を含む)、外部販売員、特定の技能を持つコンピューター技術者
季節的娯楽、娯楽施設の雇用者
特定の小規模新聞社の雇用者、小規模電話会社の交換手
外国船籍乗組員
漁業従事者
新聞配達員
小規模農場の農業従事者
臨時ベビーシッター 等

 減額措置
 20歳未満の若年者(就業後最初の90日間)
4.25$/時間〔日本円換算:478円〕
 障害者
労働長官の発給する証明書に従い、通常の最低賃金額以下の賃金での雇用が認められる。
 チップを得る従業員(定期的に月30$以上のチップを得るもの)
2.13$/時間〔日本円換算:240円〕
(ただし、チップを含めた1時間当たりの収入額が5.15$に満たない場合は、差額を補填)
 学生プログラム
小売・サービス店で働き大学に通学する者等は最低賃金の85%、高校で職業訓練を学ぶ16歳以上の者は、最低賃金の75%

 最低賃金の対象となる賃金
 使用者の支払った賃金の算定にあたって、
 ・ 食事・宿舎などの便宜供与分(実際の費用額を超えない合理的金額に限られる。)
 ・ チップの額が通常月30$を超える労働者について、その総額の50%
は、賃金に算定することが認められている。
 それ以外の現物給付、クーポン、道具代、制服のクリーニング費用等、また、使用者からの贈与や裁量的なボーナスについては除外される。

 罰則
 故意の違反者は、$10,000以下の罰金若しくは6ヶ月以下の禁固刑又はその両方が課される。
 また、繰り返しないしは故意に連邦最低賃金に違反する雇い主に対して1違反当たり$1,000以下の罰金行政による制裁金(civil penalty)がある。

(2)州別最低賃金
 根拠
 各州法(ただし、制定されていない州が7州ある。)

 適用範囲
 州により異なるが、州内のすべての労働者とするものが大部分

 設定方式及び決定方式
 法定方式、審議会方式及び両方式の併用など州により異なる。
 連邦最低賃金の適用がある労働者については、連邦政府より高い最低賃金を設定している州は、州の最低賃金が適用される。

 最低賃金額
 2.00$/時間(オクラホマ)〔日本円換算:225円〕〜8.50$/時間(カリフォルニア)〔日本円換算:956円〕
  連邦最低賃金額を上回る州は12州
  連邦最低賃金額と同額の州は27州

 額の改定
 連邦最低賃金額の改定に合わせて改定する州や消費者物価指数等で改定する州など様々。

 適用除外
 州によっては、小規模の小売業・サービス業等

 罰則
 州法によって異なる。罰則規定のない州は9州ある。

 最近の状況
 連邦最低賃金は、1990年以来4.25$/時間であったが、1996年10月から4.75$/時間、1997年9月から5.15$/時間に2段階で引き上げられた。

 ILO条約批准状況
 第26号条約、第131号条約ともに批准せず。



イギリス

1 現行制度

 イ 根拠規定
 最低賃金法(1998年)

 ロ 適用範囲
 原則として1816歳以上のすべての雇用労働者

 ハ 設定方式及び決定方式
 ・ 全国一律最低賃金
 ・ 審議会方式(公労使代表からなる3者構成の低賃金委員会)

 ハ 最低賃金額
 4.854.50£/時間(20042003年10月)〔日本円換算:975904円〕

 ホ 額の改定
 最低賃金額について主管大臣が低賃金委員会に諮問
 同委員会において賃金動向、経済に与える影響、市場競争、雇用情勢、特に中小零細企業及び若年労働者市場に与える影響を考慮しつつ、また労使団体や企業等からヒアリングを行い、最低賃金の額等について首相及び国務大臣へ勧告
 勧告を受け、国務大臣が最低賃金を決定。国務大臣は委員会の勧告に従う必要はないが、その場合には議会に対し理由を述べなければならない。

 ヘ 減額措置
 18歳から21歳まで4.103.80£/時間(20042003年10月)〔日本円換算:824764円〕
22歳以上であっても新しい使用者の下で新しい仕事を始める者であって認定された訓練を受けているものは、最初の半年間は4.10£
 16歳から17歳まで3.00£/時間(2004年10月)〔日本円換算:603円〕

 ト 適用除外
 自営業者
 18歳未満
 徒弟労働者の一部(26歳未満で徒弟労働者になってから12ヶ月未満の者等)
 学生の一部(就業経験を得ることを目的として働いている者や教育実習として教えている者、政府の教育プログラムに実習生として参加している者等を含む。)
 軍人
 漁師の一部
 ボランティア(直接経費以外に金銭を受け取らない者)
 囚人

 チ 最低賃金に含まれない賃金
 超過勤務に伴う手当の増額分
 勤務時間変更手当
 休日勤務に伴う手当の増額分
 危険手当
 待機中の手当
 旅行手当
 生活費調整手当(たとえばロンドン勤務手当等)
 福利厚生手当

 リ 罰則等
以下の項目に該当する場合には、5,000£以下の罰金
 ・最低賃金を支払うことを拒否した場合
 ・賃金の支払記録や労働時間の記録を適切な形で保存していなかった場合
 ・誤った記録を保存していた場合
 ・内国歳入庁の実施係官の検査を故意に妨害した場合
 ・内国歳入庁の実施係官に適切な情報を提供しなかった場合
自分の賃金が最低賃金に達しているかに疑問を持つ労働者が使用者に賃金記録の閲覧を問い合わせ、使用者が14日以内に応じなかった場合、使用者はその労働者に最低賃金80時間分の金銭を支払わなくてはならない。
 自分の賃金が最低賃金額に満たない労働者は、雇用審判所に申し立てることができ、申立てを契機とする使用者による解雇、降格、転勤等の不利益な処遇は、相当の額の保障によって担保される。

2.経緯
 イギリスでは、1909年に賃金委員会法(1945年に賃金審議会法に改正)が制定され、小売業、ホテル業、縫製業など低賃金労働者が多いいくつかの産業において、産業別の最低賃金を設定していた。1979年に保守党が政権を取ることにより、賃金審議会の影響力は徐々に弱められてきた。賃金審議会が設定する最低賃金と平均賃金との比率は1970年代を通じて低下していた。また、賃金審議会や雇い主の賃金を保護するような他の制度も弱められていた。たとえば、1975年雇用保護法(Employment Protection Actof 1975)によると、雇い主は従業員の賃金を決定する際に産業レベルやその地方の市場賃金に沿って決定しなければならなかったが、この規定は1980年雇用法(1980 Employment Act)により無効になった。賃金審議会の数も減少傾向にあった。更に、1986年賃金法(1986 wage act)によって、賃金審議会の権限も制限された。すなわち、それ以前には成人向け労働者向けの最低賃金に加えて、若年者やいくつかの職別の最低賃金を設定していたが、これ以降は成人向けの労働者の最低賃金のみを決定することとなった。さらに、賃金審議会は、1993年に廃止された。廃止時点では、26の賃金審議会が存在し、約250万人の労働者がその影響を受けていた。
 これらを受けて労働組合会議(TUC)は全国最低賃金の導入を求め、労働党政権の下で、1997年に低所得委員会(Low Pay Commission)が設立され、1998年に最低賃金法、1999年に最低賃金法施行規則が制定され、1999年4月1日、全国一律最低賃金が導入された。

3.全国最低賃金の効果
 長年にわたる所得分布の拡大、労働党の選挙における勝利などを背景として、イギリスでは1999年4月より全国最低賃金が導入されてきた。現在まで、最低賃金の導入はほぼ順調に行われてきたとの評価がなされてきている。まず、最低賃金の導入に伴う混乱や、違反に関してはいくつか報告されているものの、それほど大きな問題とはなっていないと報告されている。特に、雇用・物価や企業の国際競争力に関しては、心配された悪影響は、それほど大きな問題とはなっていないとされている。また、最低賃金導入のもっとも重要な目的であった、所得分配や賃金格差にあたえる影響に関しては、ある程度、目的が達成されているという報告もされている。特に、所得分配や賃金格差に最低賃金の導入が与えた影響についてはNew Earnings Surveyをもちいて、実際に分析を行った。イギリスにおけるもっとも包括的な賃金調査であるこのデータを用いて、賃金格差を分析したところ、最低賃金の影響をいくつか確認することができた。以上のことから、イギリスにおける最低賃金の導入は概ね成功であったといえよう。
 しかしながら、最低賃金に関して問題が存在しないわけではない。今後については、若年者や訓練中の労働者の扱いなどが問題となっている。たとえば、21歳の労働者に対して成人向け最低賃金を導入するかどうか、という問題は1999年の導入以来、議論となっている。また、最低賃金が雇用や賃金格差に与える影響に関しては、今後、長期間にわたる評価が必要となるであろう。

4.ILO条約批准状況
 第26号条約、第131号条約ともに批准せず。
 (第26号条約は、1985年に脱退している。)



フランス

1 現行制度

(1)SMIC
 根拠規定
 労働法典(SMIC(発展のための全職業最低賃金)については、1950年に制定された「労働協約及び労働争議の解決手続き関連法」において、その前身であるSMIGが規定された。1970年にSMICに名称変更。)

 適用範囲
 原則として健全な労働者

 設定方式及び決定方式
 ・ 全国一律最低賃金
 ・ 審議会方式

 最低賃金額
 7.61ユーロ/時間(2004年7月)〔日本円換算:1,027円〕

 額の改定
 【SMIC改定の三原則】
 a)物価スライド制
 前回のSMICの額決定日を基準として、消費者物価指数の上昇率が2%に達した時点で自動的に改定。
 b)SMICの購買力の年間増加率は、一般賃金の平均時間給の実質上昇率の半分を下回ってはならない。
 c)毎年の改定は、SMICの増加率と全般的経済状況及び所得の変動との間にある長期的な不均衡の是正に有効に機能しなければならない。
 【改定時期】
 a)定時改定(毎年7月1日)
 b)物価スライド制の適用その他改定が必要と認められた場合における随時改定

 減額措置
 18歳未満(職務経験が6ヶ月未満の者)
  17歳未満の者…20%
  17歳以上18歳未満の者…10%
 身体障害者、傷痍軍人(減額率は障害者職業指導社会復帰専門委員会が決定)
 見習訓練生、研修生等(年齢と見習期間又は研修期間に応じて減額率を規定)

 適用除外
 (外交)商業代理人巡回セールスマン、労働契約を結んでいない企業の幹部指導者

 最低賃金の対象となる賃金
 最低賃金の対象となる賃金としては、基本給、現物支給、チップ、予測可能な個人功労賞与、労働時間短縮に伴う補償がある。
 除外されるものは、時間外手当、夜間及び日曜勤務手当、祝祭日勤務手当、勤続手当、皆勤手当、特別(危険、寒冷等)手当、僻地手当、*(ヴァカンス手当、年末手当、第13月賞与、諸経費払い戻し、利潤分配、予想外共同功労賞与等。
*注)支払われる月には最低賃金の対象賃金になるという判例あり。

 罰則
 労働法典に収められている行政制定法はSMIC額違反に対する罰金を最高1,500ユーロ(違法賃金を支給された雇用者1人についての罰金額。数人に及ぶ場合にはこの額×人数)と定めている。
 違反行為の被害者となった労働者は監督官の介入を待たずとも使用者の違法行為を直接労働裁判所に訴えることが出来る。

(2)労働協約拡張方式に基づく最低賃金
 設定方式及び決定方式
 ・業種別

 最低賃金額と改定
賃金交渉を年一回行うことが義務づけられている。
労働大臣は、労使ともにその締結されたレベルで代表的な組合的団体が締結した労働協約について、労使の一方の申請に基づき、又は職権によって団体交渉全国委員会(CNNC)の意見を聴いた上で、一定の地域内の業種のすべての労使に拡張適用の決定をすることができる。
労働協約上の最低賃金がSMICを下回っている場合、基本的には次期協約改定時にSMICを上回るよう修正される。
協約上の最低賃金を物価又はSMICの上昇に連動させることは禁止されている。

罰則
拡張適用された労働協約等の賃金に関する規定に違反した使用者は、違警罪の罰金が科される。罰金は、被害を受けた労働者1人につき1件として宣告される。

 最近の状況
 近年フランスでは時短政策が進んでおり、1998年に制定された労働時間の短縮を打ち出した第一オブリ法(「労働時間短縮の方針と指示に関する法」)の推進策の一環として、企業が実施する週39時間から週35時間への労働時間の短縮状況又は短縮実施の時期に応じて政府が差額補填金を支給することとしている(第二オブリ法)。通称「オブリ保証」と呼ばれるこの賃金保証は、労働時間の差によって生じる月額基本賃金の差額を補填することで、労働時間の異なる労働者間の実質的な月額最低賃金を一律にするというもの。(週35時間制の移行時期により5種類の月額最低賃金(GMR)が定められている。)
 さらに、2002年に成立したフィヨン法(「賃金・労働時間・雇用促進法」)では、週35時間制を緩和するとともに、6種類に分かれている法定最低賃金を2005年度までの今後3年間で低い最低賃金を高い最低賃金に合わせることで一本化する。この措置により、法定最低賃金は11.4%の引上げがなされることになり、これに伴う低賃金労働に係る労働コストの高騰に対応するため、法定最低賃金の1.5〜1.7倍を上限とする低賃金労働者に係る社会保障費の減免を行うこととされている。

 ILO条約批准状況
 第26号条約…1930年9月18日批准
 第131号条約…1972年12月28日批准



諸外国の最低賃金制度について

  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
連邦最低賃金 州別最低賃金   SMIC 労働協約拡張方式
根拠規定 最低賃金法(1959) 公正労働基準法(1938) 各州法 最低賃金法(1998) 労働法典(1950改正) 労働法典 労働協約法(1949)
設定方式
及び
決定方式
審議会方式 労働協約拡張方式 州際通商等適用産業につき一律最低賃金
法定方式
州内一律最低賃金
法定方式
審議会方式、両方式の併用等
全国一律最低賃金
審議会方式
全国一律最低賃金
審議会方式
業種別
労働協約拡張方式
地域・業種別最低賃金
労働協約拡張方式
地域別 産業別
最低賃金額 665円/時間
(加重平均)
(2004)
756円/時間
(加重平均)
(2003)
868円/時間
(加重平均)
(2003)
5.15$/時間
(1997.9)
〔579円〕
2.00$/時間
〔225円〕〜
8.50$/時間
〔956円〕
4.85£/時間
2004.10)
975円〕
7.61ユーロ/時間
(2004.7)
〔1,027円〕
業種レベルでの賃金交渉を年1回行うことが義務
SMICを下回っている場合、次期協約改定時にSMICを上回るよう修正。
各労働協約による
改定 中賃で目安を示し、地賃で審議のうえ決定 労使の申出に基づき必要と認められた場合に、審議のうえ決定 労働協約の締結当事者による申請を契機として決定 最低賃金改定案を連邦議会、大統領が承認 連邦最低賃金額の改定に合わせる、消費者物価指数等で改定する等 主管大臣から諮問を受けた低賃金委員会の勧告を受け、決定 毎年7月1日に改定。その他、物価スライド制により随時改定。  
減額措置又は適用除外 ○適用除外
精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
試の使用期間中の者
職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうち一定の者
所定労働時間の特に短い者
軽易な業務に従事する者
断続的労働に従事する者
○減額措置
20歳未満の労働者
障害者
チップを得る従業員
学生プログラム
○適用除外
管理職、専門職等
小規模従事者 等
○適用除外
 州によっては、小規模の小売業・サービス業等
○減額措置
 16〜21歳
○適用除外
自営業者
18歳未満
徒弟労働者、学生の一部
軍人、漁師の一部、ボランティア、囚人
○減額措置
18歳未満
身体障害者、傷痍軍人
見習訓練生、研修生

○適用除外
巡回セールスマン
労働契約を結んでいない企業の幹部指導者
   
表示単位 時間額 時間額、日額 時間額、日額 時間額 時間額 時間額 時間額    
最低賃金に含まれない賃金
臨時に支払われる賃金
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
時間外手当、休日手当、深夜割増手当
精皆勤手当、通勤手当、家族手当 等
現物給付
使用者からの贈与や裁量的なボーナス 等
 
超過勤務に伴う手当の増額分
勤務時間変更手当
休日勤務に伴う手当の増額分 等
時間外手当
夜間及び日曜勤務手当
勤続手当、皆勤手当
特別手当 等
   
罰則等 20,000円以下の罰金 10,000$以下罰金若しくは6ヶ月以下禁固刑又はその両方
1,000$以下の行政上の制裁
州法により異なる。 5,000£の罰金 労働者1人につき1,500ユーロの罰金 労働者1人につき違警罪の罰金  
ILO条約批准状況 第26号条約(1971批准)
第131号条約(1971批准)
第26号条約、第131号条約ともに批准せず。 第26号条約、第131号条約ともに批准せず。 第26号条約(1930批准)
第131号条約(1972批准)
第26号条約(1929批准)、第131号条約は批准せず。


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