┌─────┐                                │参考資料5│                                └─────┘       標準的電子カルテ推進に関するディスカッション       〜何を目的に導入し、どのように普及させるか〜 日時 平成16年11月28日(日)15:00〜 場所 名古屋国際会議場(医療情報学連合大会A会場:センチュリーホール) ○ 高本補佐:  休憩時間が大変短く恐縮ですが、後半のパネルディスカッションの部を開会させてい ただきたいと存じます。まず、後半のパネルディスカッションのパネラーを紹介させて いただきます。私の隣に座っていただいております浜松医科大学医学部付属病院教授木 村通男先生でございます。木村先生にはこの後の座長をお願いしております。次に東京 大学大学院教授大江和彦先生でございます。次に熊本大学附属病院助教授高田彰先生で ございます。社団法人全日本病院協会常任理事飯田修平先生でございます。国際医療福 祉大学教授阿曽沼元博先生でございます。東京大学大学院助教授山本隆一先生でござい ます。比較的研究班の中でもフォーカスの広い研究テーマにお取り組みいただいており ます先生方に引き続きご討議をいただきたいと思います。また、適宜会場からのご参加 もお願いしておきたいと思います。それでは以降の進行につきましては木村座長にお願 いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○ 木村座長:  木村でございます。去年も連合大会最終日の午後に研究報告会というものを行いまし て、各研究班の報告をそれぞれ時間どおり行ってということで終わったのですが、少し 全体のプロジェクトといいますか、それが散漫ではないかという意見を私も少し耳にす ることもありまして、もっともそれが散漫なのはもちろんであって、全体がこれで、 1,2,3,4に別れて1番はあなた、2番があなたというふうに指定したものではな くて、標準的電子カルテというお題で公募して、その研究をこれに関連してやりたいと いうのが採択されたわけですから、それが網羅的であることそのものは無理もないこと なのですが、一応でも全体のどの部分をどれがやっているという、全体像は何だという のをやはり今回少し明らかにしてみたいなと思って企画させていただきました。  電子カルテを例えば動物園で象を導入するというか、買うということに例えますと、 象を作るそのものをやっているわけではなくて、ある人は象の飼育のための一日の手順 書を作る、あるいはある人は象の檻の強度はこんなものが必要だというのを研究される。 そういった形でそれぞれが全体のものに対してそれぞれのアプローチをなさっておられ るのですね。そうすると、この象に何の芸をさせて動物園のお客さんに喜んでもらおう かというお話がいるのではないかということで、ずっと標準的電子カルテ推進委員会で も議論があったわけなのですけれども、その標準的電子カルテ推進委員会で、「中間論 点整理メモ」というものが大江委員長のもとで出来あがりました。従って、どういう部 分がこれから足らない、あるいはこういった部分はもっと進める、こういう部分ができ ているといったことが提示されておりますので、それのご報告を大江先生の方からお願 いしようと思います。よろしくお願いします。 ○ 大江先生:  それではお手元に「標準的電子カルテ中間論点整理メモ」という数ページの紙が配ら れているかと思いますが、スクリーンがお見えになりにくい方はそれをご覧になりなが ら話をお聞きいただきたいと思いますが、標準的電子カルテ推進委員会の中間論点整理 メモは大きく3つの章から成り立っておりまして、1番は「現状の問題点」を把握して 列挙、2番は「今後の検討の方向性」、3番は「論点の検討にあたって考慮すべき事 項」という構成になっております。まず1番の現状と普及のための課題ということで、 これはいうまでもないことですが、しかし委員会としてはこの点はしっかり押さえてい こうということで列挙しております。  すべて読むと大変時間がかかりますので、ポイントだけということにしたいと思いま すが、まず、色々な要望が出て多様化しがちで、導入すると非常に高額化になりやすい と、2番目として、部品化が十分図られていない、ソフトウェアの共通利用があまりさ れていないということから様々な問題が起こってきているのではないか。それから用 語・コードの標準化は基盤整備としてだいぶ進んできているようですけども、さらにそ の上の機能だとか業務フローだとかそういう標準化がこれからの課題である。  次にセキュリティの問題としまして、潜在的なリスクの問題というものを考えないと いけないわけですけれども、それを対策することが経費の上乗せに繋がっている可能性 もある。それから電子保存のガイドラインの三原則ですけれども、これが意外に診療の 現場では誤解もあって、実際、何を運用でカバーし、何は電子カルテのシステムで実現 するのかというのをもう少し分かりやすくするための指針が必要ではないか。  それから最後に、よく言われることですけども、現在の電子カルテがユーザーにとっ てインターフェースを含んだ視点から見て、機能も含め十分ではないということです。 この様な課題を解決に向けて具体的にどういう検討をしていかないといけないのかとい うことを推進委員会では議論いたしました。  まず一つ目は標準的電子カルテ導入の目的を明確化しようということです。これが当 然明確でないと後で行われる様々な導入のプロセスというものが明確化しないまま進む ということになるわけです。それでこれを明確化しようということです。それから、2 番目が普及させていくための方策について、関連するいろいろな立場の方々が一緒にな ってそれぞれの視点を十分踏まえながらの議論が必要であろうということ。それから次 に、基本的に現状否定ではないということで、現在も十分国際的には高く評価されてい る医療が提供されているわが国の医療がさらに一層持続的に発展するために電子カルテ というものを考えていく必要がある。  それから大きく2番目としましては、標準的電子カルテの効果を評価する方法を明確 化することが必要であろう。ただ目標を立てて導入したと、本当にそれが目標を満たし ているのかということをきちっと評価することが必要で、それが経済的な面、それから 医療の質の面、これは非常に難しいことです。技術的に難しい面がたくさんありますけ ど、そういう指標を検討する必要がある。  それから(3)としまして、標準的電子カルテが備えるべき機能などということで、ま ず共通の機能を整理して、満たすべきシステムというものを明確に記述していくと。そ れから具体的に使うときに優れたマンマシン・インタフェースをあまり皆バラバラにす ると色々な問題が起こりますので、標準的な仕様としてガイドラインのようなものをま とめる必要があるということ。それから業務のワークフローに沿って業務の標準化とい うものを考えることがIHEなどでも行われていますが、そういうことを参考にしなが ら、より一層そういう考え方の標準化を検討して進めていく必要があるだろうと。  それから次に先ほどの電子保存のガイドラインですけれども、分かりにくいという声 も多いようですので、これを定期的に解りやすい形で改訂、更新していく必要がある。 それから先ほど個人情報保護に関するご報告をいただきましたけれども、個人情報保護 の観点からのシステム運用のあり方についても解りやすい標準的な指針の作成が必須に なっていること。それから次にセキュリティ基準を明確にすること。それから特に可用 性の確保、システムが別のベンダーに入れ替わるとかそういうことも含めて継続的に可 用性が確保できる方策というものを、前の二つのセキュリティの点、あるいは情報保護 の点と絡めて考えていく必要があること。  それから医療安全の確保に常に考慮しつつシステムの設計というものを行う必要があ る。このようなことが(3)では整理されました。それから次に標準的電子カルテが普及 されるための基盤整備ということでコードの標準化はさっき進められてきているという ことを話しましたけども、そうは言ってもまだ不足しているコードの標準化領域がある のではないかということで、具体的には医療機関のコード、診療科のコード、従事者の コードなどについてのまだ行われていない部分の標準化も検討が望まれるということ。  それからコードのマスターとかあるいは電子カルテの開発で必要となる基盤的な技術 がかなりホームページなどを通して無料で利用できる共用環境は出来つつありますけれ ども、場合によってはそれがPFDファイルなどだけであって、具体的にそれを情報システ ムで使おうとするとテキストベースに変換しないといけないとか、ふたたび入力しない といけないというような仕様もかなりまだ多い。そういったものも含めてデジタル化を 推進し、経常的にメンテナンスされていないとすぐに仕様が古くなりますので、メンテ ナンス体制も含めて仕組みを構築することが必要であるということです。それから基盤 整備の考え方ですけれども、特にシステム更新時、それから特に異なるシステムに移行 するというところでの問題点の発生を十分考えて常に互換性確保を重視する必要がある。 それからこうした具体的な活動の推進基盤というものを産官学の枠組みで、それぞれが 何が出来るのかという役割を明確化した上で、有機的な連携体制が取れるような仕組み というものを今後考えていく必要があるであろう。以上のようなことが標準的電子カル テを推進していく上で必要な事項としてありました。  具体的にこの様なことを進めていくにあたって常に考慮しておかなければならないと いう事項がこの第3章に整理されております。例えば標準的といっても機関の規模や地 域性といったもので、当然色々な面で違いが起こりますので、それを常に考慮していく ことが必要である。それから医療機関へのメリットを評価する手法について、具体的に はBSCの様な手法も含めて考えていくことが重要である。  それからやはり非常に大きい問題になる開発コストの削減、あるいはシステムの互換 性。こういった問題はそれぞれ開発・導入に関して経験を積んでいくことが重要であり ますから、積んでいった経験をシェアー出来るような環境、こういったものを考えてい く必要があるであろう。  それから電子カルテ、あるいは標準的な電子カルテというものが一体どういうものを 指すのかという定義について、もう一度議論をする必要もあるのではないか。特に電子 カルテという言葉が、当然電子カルテというのはカルテの電子化という言葉で作られて いるわけですけれども、すでに電子カルテがカバーしている、あるいは電子カルテが提 供出来る機能の範囲というのは、一般的な人から見たカルテという名称から想起される イメージよりもかなり大きくなってきているのではないか、そういった差異が常にある ということを留意しながら場合によっては名前の再点検、あるいはカバーする範囲とい ったものを議論しながら進めていく必要があるであろう。  以上のようなことが昨年度の推進委員会で議論され、8月5日に論点メモとして整理 されました。以上でご報告です。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。これに従って、前回の委員会では、どの部分は誰、どの部 分は誰というご指示が大江先生からありました。これを全部振り返って全担当者を紹介 する時間はありませんので、今日せっかく上がっていただきましたパネラーのみなさま にこの部分はこういう形でというのを、特に私はこの部分を担当していることになった ということがあれば追加コメントして、先ほどの中間論点整理メモも含めて追加のプレ ゼンテーションという段取りになってございます。  私がパネラーの一人としてご下命あった部分は、システム間の連携というかリプレー スのときにえらい事にならないようにというのを何とかできないかと。これに関しては 坂本先生の班と、HL7の可用性の話ですね。それと当然産業界(JAHISとJIRA)と共にやる ようにということで早速この学会の機会を利用して少し議論して、すでに坂本先生が先 ほど少し内容をおっしゃっておられましたけれども、それこそ個人情報保護法を踏まえ るとですね、昔のシステムをそのままシステム、サーバーごと置いておかなくてはいけ ないのかというような、ではコンバートしたのではという話になっては困るので、そう するとやはり標準的な形でデータを置いて移行していかないといけないと。  結局のところISO規格にもなりましたけれども、HL7のRIM(Reference Information Model)に準拠した形でデータの構造をもって見読性を上げるということが必要であろう ということをとりあえず検討した次第であります。特にシステム間のスムーズな連携と いうことではすでに電子カルテを導入された病院がある規格を使っていたが、やはりそ れでは連携できないので、どういう形がいるかというようなことを自発的にご提案いた だいているということも坂本先生から教わりまして、そういう形でそういう活動をサポ ートすることも必要かと思います。  一方でユーザーの側も6ヶ月でいきなりシステム作れとか、数週間で移行しろとか、 そういう無茶なことを言うからSEの教育がかなわんのだという産業界からの貴重な意見 もありまして、そういったことを踏まえてお応えしようかと思っております。私の担当、 ご下命の部分はそういうところでございます。  あと、電子カルテの定義の部分ですけれども、医療情報学会の電子カルテの定義とし て、ペーパーレスが前提ではないと、それよりも患者説明が重要だという話をしました。 そろそろ改訂をする時期に来ているのではないかという気はしておりますので、良い機 会かと思っております。私のことは以上です。では、パネリストの山本隆一先生からお 願いいたします。 ○ 山本先生:  私の割り当ては、お手元の標準的電子カルテ中間論点整理メモの2ページ目の下から 4つめのマルにございます「標準的電子カルテの備えるべき共通の実装に〜」にあたっ ては、要するに電子媒体保存に関するガイドライン等の分かり易いものにするのという のと、それから個人情報保護の問題とセキュリティの問題がありまして、それを含めて 標準的電子カルテ推進委員会とカップリングをして動いていました「医療情報ネット ワーク基盤検討会」の報告をしたいと思います。  この検討会はいろんなリクワイアメントからできて、実は標準的電子カルテ推進委員 会よりも前からやっているわけですけれど、「保健医療分野の情報化に向けてのグラン ドデザイン」でありますとか「e-japan戦略」から始まって、構造改革の要求であります とか、それからご承知かもしれませんけども本国会で通称e文書法という「民間事業者 が行う書面の保存等における情報通信技術の利用に関する法律」という長い名前の法律 がすでに成立をいたしました。  これに対して医療サイドでどの様に対応するかというふうな課題を検討するために、 それから個人情報保護のための指針でも安全管理は電子保存・外部保存に関しては別に 指針を定めるということになっておりますし、そういったことに対応するということで 平成15年6月に医政局長の私的検討会として設置されました。  座長は東京工業大学の大山先生で、いろんな実作業を伴うので作業班を構成しまして、 私が合同作業班の班長をさせていただいております。それで最終報告が9月に出ており ます。5章からなっておりまして、ここに書かれたようなことが書かれている、これは 厚生労働省のホームページで公開されておりますので、ご覧になっていただきたいと思 うのですけれど、この標準的電子カルテを推進するためのセキュリティ・個人情報保護 の基盤として、2番目の医療における公開鍵基盤に関して整備を進めようということと、 それから文書の電子化に対応するということと電子保存等のガイドラインの見直しとい うことが書かれております。  電子化の話ではこれまでの通知では電子署名法がまだなかった時代の通知ですので、 署名・捺印が明記されている文書は対象外だったわけですけど、これは処方箋を除いて 電子署名法に適合した電子署名で可とするということになりまして、処方箋だけはプレ イヤーが三者いるとかフリーアクセスを保証することが現在の水準ではやや困難である とか、無診療投薬の恐れを絶対ないという形で実施するのもなかなか難しいであろうと いうことで、現状では処方箋自体を電子化することは無理であるけれど、代わりに処方 電子化と電子的流通を促進して将来処方箋を電子化するための環境整備を進めるような ことが報告されております。  それからe文書法。これは成立したばかりの法律ですが、簡単に言いますと今まで 我々の医療の分野での電子保存の通知というのは、初めから電子的に作成された文書を 電子保存することに関する通知だったわけですけれども、e文書法はそれも認めるし、 初めはアナログで作成された情報をリバイスして電子化するということも基本的には認 めるという趣旨の法律になっておりまして、後者の問題がまだ我々としては検討してい なかったということになって、このネットワーク基盤検討会で検討をいたしております。  それで二つの場合に分けて、例えば電子カルテで全部ずっと運用しているところに紙 の診療情報提供書が来て、それだけをファイルに挟んでおかなければならないというこ とがその都度発生する書面・フィルムは原則としてスキャン情報を保存することを可と しようと。それから電子カルテに移行したけど過去の情報がたくさん残っていて、それ が大変であるというすでに蓄積された書面情報ですね、これはかなり慎重にやるべきだ ろうと、原則はやらないほうがいいけれどもやるとしたら相当厳しい条件がつくという ふうな対応になっております。  それから電子署名ですけれども、電子署名には認定特定認証業務、これは認可を受け た特定認証事業者、つまり証明書発行業者がやる事業とそれから電子署名法に適応はし ているけれども特に認可は受けていない特定認証業務とそれから電子署名法を意識しな い認証業務と三種類あるわけですけれども、一番上は例外、一番外側は問題外ですけど、 内側の二つはよしとしようということで電子署名法に適応した署名であればいいという ことになっております。これは公的個人認証サービスの説明のページですけれど、これ は一番安く手に入る電子署名法に適応した電子署名ができる証明書なのですけれど、こ れも使うことができるというふうに記載されておりますが、これは残念ながら現在は民 間−民間の情報交換では署名検証者になれないということで使えないかと。  それから患者に対して使っても署名の中に住民基本台帳の4情報が入っている。つま り現住所・生年月日が入っている。医師として診断書に署名するのに医師の現住所が出 てしまうというのは抵抗が大きいだろうというような注意を付記しております。  それからGPKIですけど、できれはGPKIにブリッジするほうが良いわけですけれど、こ れをするためには認定を受けなければならないとすると非常に厳しいセキュリティ基準 が課せられていて、かなりの費用がかかってしまって、なかなか医療では普及しない。 現在でも民間の認定特定事業者の出す署名用の証明書というのはそんなに出ていないで すね。本当に政府に申請するのにどうしても必要な人が仕方ないから取るというレベル の価格になっておりまして、ちょっと医療では使いにくいであろうということで、もう 一つ別の医療福祉分野での認証基盤の整備を進めるべきではないかというふうなことが 提言されております。  それでサブワーキングを編成しまして、現在この作業をやっているわけです。それで 最初の電子保存・外部保存のガイドライン。これは電子保存・外部保存のガイドライン を見直すということが主目的であったのですけれど、個人情報保護指針のリクワイアメ ント、それから標準的電子カルテ推進委員会の要求を考えますと、保存だけではちょっ と範囲として狭すぎるであろうということで、診療情報システムのセキュリティという ことに少し対象を広げて指針にすることを今作業している最中であります。  それから将来すべき保健医療福祉分野の公開鍵基盤に関しては、まず真っ先に必要に なるであろう署名用のポリシーを作成しておりまして、これはもうほぼ完成しておりま すので、これをベースに今後どの様に活用するべきかという提言をまとめて、最終報告 に添付したいというふうに考えております。以上です。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。それでは2番目に高田先生、よろしくお願いします。 ○ 高田先生:  現在何をしているのかということですが、配られました中間論点整理メモの2ページ にある「(3)標準的電子カルテが備えるべき機能等」についての検討、それから「(4) 標準的電子カルテを普及させるために必要な基盤整備」、この辺りが私たちが研究して いる内容であると思います。次に、何を目的に導入し、どのように普及させようとして いるか、という点ですが、私たちとしては産業としての保健・医療・福祉という視点か ら、これらの分野がどのように発展できるのか、そこに情報技術がどう絡むべきか、電 子カルテがどういう役割を果たすのか、ということを考えています。  保健・医療・福祉の分野においては、医療機関だけではなく、情報システムベンダー、 医薬品メーカ、必要なサービスを提供するベンダーなど、様々な組織が参加して活動し ています。その中で、情報システムについて考えてみると多くの問題を抱えていると感 じられます。例えば、医療機関においては情報システムの管理・運用が必ずしもうまく いっていないとか、情報システムベンダーは新しい技術を取り入れたシステムを必ずし もうまく展開できていないとか、医療機関の活動というのは地域に密着したものである わけですが、それを支える地域のソフトウェアハウスが育っておらず、地域の情報産業 地盤の活性化が大きな課題になっている、などです。電子カルテが普及するためには、 こういった課題を改善する必要があり、産官学の連携のもとに、どのような対策を講じ ていくべきかという検討が必要になります。  情報システムに対しての投資額は、それを導入する医療機関側にとっても、それを開 発する情報システムベンダーにとっても、決しては小さなものではなく、場合によって は大きなリスクを背負うことにもなりかねません。電子カルテの開発や導入ということ を考えると、そのコストとリスクを保健・医療・福祉の分野で活動する各組織がどう分 担し賄っていくかが、大きな社会的課題である考えられます。これを解決するためには、 電子カルテに蓄積されるデータが、社会的な資産としての価値を持つものとして構築さ れ、それを社会的に適切な形で提供することによって、一定の対価が支払われるという 仕組みを、作ることが必要であると考えております。つまり、価値(バリュー)ある情 報から、ある一定の利益(プロフィット)が確保できる仕組みを作り、これをうまく稼 動させることにより、情報化に対しての投資が回収できたり、情報化推進への新たな資 金を確保することができるということです。  視点を変えてみると、バリューがある情報を作り、それを提供してプロフィットを得 るという仕組みを作り、これを回転させる必要があると思っております。そのためには バリューを創造する仕組みというものが必要であって、それが電子カルテではないかと も思います。ここには情報の提供者と利用者がいるということであり、その利用者が患 者さんである場合も、医療機関である場合も、医薬品メーカである場合もあると思いま す。  利用者が対価を支払うことを納得するような情報を作るには、データの継続性、参照 性、相互運用性などが確保されるということが必要です。そのためには、適切な規格や、 その規格の保守や、認定というようなことが必要になります。また例えば、エンタープ ライズ・アーキテクチャ(EA)であるとか、モデル・ドリブン・アーキテクチャ(MDA) というような情報フレームワークの上で、情報システムの開発や導入を考え、投資を行 う医療機関も情報システムベンダーも、その投資に見合う妥当な結果を継続的に得られ るようにするということも必要になります。  標準的電子カルテ推進委員会で検討している課題の1つに、ソフトウェア部品の標準 化があります。この点について、私達は昨年度の研究成果として「ユニット」という考 え方を提案しています。簡単にいえば、複数のコンポーネントが組み合わされると「ユ ニット」が構成され、複数の「ユニット」が組み合わされるとサブシステムとなります。 このユニット単位の部品(ソフトウェア)の流通というものを考えてはどうかと提案し ています。例えば安全に関する「ユニット」などが考えられます。  知識処理の機能を備えた安全に関する「ユニット」を作り、処方の監査や服薬指導の プログラムに組み込むといようなことが考えられます。どういう内容の知識処理が妥当 であるかということに関して、当然それが妥当なロジックであるというようなことが第 三者的に評価・確認(バリデーション)される必要があります。バリデーションされた ロジックが、それぞれのシステムに配布され、利用されるというような仕組みも必要か と思います。  このような点からも、図に示すような産官学の連携の枠組みというものが求められて います。厚生科学研究のような公開されたプロジェクトがあり、それに対して例えば全 日病や大学病院のようなパワーユーザが参加する。そのプロジェクトの成果を、相互運 用性を保証する組織がチェックを行い、部品バンクを作る。それがインテグレーターや コンサルタント、ソフトウェアハウスに提供され、利用されることにより、成果が継続 的に共有され、進化して、一般ユーザに提供されるというような形の運用が行われるこ とが必要ではないかと考えています。こういうことを実現するための基本的な枠組みを 検討しているということが、現在の私たちのタスクであると考えています。以上です。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。それでは次に飯田先生お願いします。 ○ 飯田先生:  先ほど報告した今後の課題を中心に発想のところも話します。このプロジェクトが発 足したのは、先ほどもお話しましたが非対立の発想、最近この「非対立の生き方」とい う本が出てので読んだら、面白いと思いました。本プロジェクトの方が先ですが、ベン ダーとユーザー側でどっちが悪いと言ってもしょうがないのです。どっちも悪かったり どっちも良かったりするので、一緒にやりましょうということです。要するに、目的を 達成するためにやるということが基本です。これはベンダーとの関係だけではなく、患 者・家族あるいは職員との関係もあります。  私も品質管理を一生懸命勉強しているのですが、品質の定義は、Duran博士によれば、 Quality is fitness for useです。要するに顧客要求の適合で、使えてなんぼなのです。 どんなにいくら良いと言っても使えなかったら意味がないのです。その食い違いが非常 に大きいことが今、諸悪の根源です。それで私たちは情報化とはどういうふうに考えて いるかと今言ったように、使えなかったら役に立たないし、役に立たなかったら意味が ない。業務に使えて初めて意味があるのです。あるものは使う、なければ作るというこ とで、今ないので、じゃあプロジェクトを開始してみんなで作りましょうということで 始まったわけです。  私たちは、先ほどもお話しましたが、電子カルテを導入するとき、電子カルテは何も 考えないただの箱ですから、それに対して自分たちがきちっとした命令をしないといけ ないわけです。融通の利かないシステム、機械に解るようにきちっとやりましょう。そ のためには自分達の業務自体を洗いなおして、その結果として組織の業務革新、私たち の頭も整理されるということです。これが一番大事なことで、出来上がったシステムが 大事なのではない、組織変革の手段ということなのです。可視化の共通理解、要するに 情報の共有が出来ます、業務プロセスの改善になります、ということをお話しました。  そして電子カルテになると、今までのプロセスがなくなるものもあります。要するに 効率化が図れるということです。プロセスが一個減ればそれだけミスが少なくなるし、 事故が起こりにくい。また別の新しい事故が起こるということも今いろいろ問題になっ ております。今後どういう問題があるかというと、先ほど4つ挙げましたが、また私た ちは病棟と外来の業務フローをかなりやりましたが、各部門内の仕組みに関してまでは やっておりません。ですからこれからそれを広げなくてはいけない、深くやらなくては いけない。あるいは粒度をもっと細かくしなくてはいけない。それが出来たところでや っと各病院が導入するときの参考の仕様になるということです。それで結果として質の 安全向上確保に資するものとなるということです。そして最終的にこれは使えると言わ れることが大事なのです。特に3番に関して言うと、私たちは質の保証をしなくてはい けないわけです。患者満足というのはただ良いもの出来ましたというのではなくて、私 たちはキチンと分析して業務を見直しして、こういう仕組み入れました。こういうふう にすれば患者さんにあるいは職員に対しても、この品質保証が出来る。それにはやはり、 今日もたくさんフロアに来ていらっしゃいますが、品質管理の仲間と一緒に勉強してい ます。  そうするとこの電子カルテシステムごとの融合を図らなくてはいけません。これは全 く同じことなのです。ということはこれからは品質保証という考え方でキチンとやらな くてはいけない。この品質保証は患者に対してだけではなくて、私たち医療従事者に対 しての品質保証でもあるわけです。安心して出来なかったら駄目なのです。いくら良い 仕組みを作ろうと思っても自分たちが安心して使えるもの、使いやすいものでなければ ならないのであり、自分たちが苦労して使ったのでは駄目なのです。私たちが今考えて いるのは品質管理の分野で作っている品質保証体系図、これは私たちのところでやって いるフローモデルのフローとほぼ同じです。それに品質管理の考え方を導入して、これ からできたらこの仕事を展開していきたい、今後の課題としてやっていきたいと考えま す。  これはある病院の品質保証体系図の一例です。これだけではございませんが、私たち が作ったこのプロセスとよく似ています。午前中も分担研究者が発表しましたが、こう いう帳票を使って電子化する前と電子カルテを入れた後ではどうなるか、それをきちっ と先ほども誰かがお話しましたが、5W1Hを使って、質保証の観点からきちっと押さ えていくと良い仕組みが出来るのではないかなと思っております。これからの課題は裾 野を広げて、しかも深堀していく。そのときに品質管理の考え方を導入して品質保証体 系図とこのフローモデルとを融合するという非常に膨大な作業が残っているわけです。 そのときに出来たら皆さんのお力をお借りしたいと思います。以上です。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。それでは最後に阿曽沼先生お願いします。 ○ 阿曽沼先生:  私どもの研究班は1ページ目の課題解決に向けた検討の指標と方向性の「標準的電子 カルテ導入の目的や目標の明確化」、それと次のページの「導入の効果を評価する方法 の明確化」ということについてのフレームワークを考えていくということが一番大きな 課題です。  バランススコアカードというフレームワークをベースとして考えていこうということ ですが、バランススコアカードというのは従来の非財務的な評価ということに偏ること なく、患者の視点だとか自分達の、今、飯田先生がおっしゃったようなプロセス、もし くは病院のサービスの提供の機能の視点、それからそれを支える人材の開発ですとか意 識の改革。こういった4つの大きな視点のバランスを取って評価をしていく、目標設定 をしていくということになります。  ですからこの患者の視点とか病院機能の視点とか、人材開発の視点というのはどちら かといえば非財務的な指標。そして財務の視点とか患者の視点というのは第三者評価の 視点、そして人材開発もしくは病院機能の視点というのは自己評価の視点というような ことになりますが、それぞれのバランスを取って評価をしていこうということになりま す。ただ、基本的にはこれは目標があってこそ初めてこういった評価も目標設定も出来 るわけでありますから、この真ん中のビジョン、どういう医療をするのか、どういう病 院にしていくのかというようなビジョンと戦略がない限り、いくらこういった目標を立 ててもその目標を評価するということは出来ないわけであります。こういったことを、 きちっとしたフレームワークでみなさんにお示ししながらガイドラインを作っていきた いと思っております。  バランススコアカードにおける目標設定というのは非常に重要ですが、目標設定は基 本的にはその病院が社会的責任の観点で何をするのか。経営基盤の強化の観点で何をす るのか。競争優位の観点で何をするのかということを前提に自分達の強み弱み、そして 外部環境の変化におけるチャンスと脅威という中で目標設定をしていくわけであります が、この目標設定というものが最大のポイントになります。  その中で良い電子カルテシステムという手段をどう使っていくか、こういったことを きちっと自分達の組織、もしくは一人ひとりの頭の中で意識していこうということにな ります。これを目標設定が出来ると患者の視点の中で何を我々は具体的に指標としてい くのか。財務の視点でどうしていくのか。病院機能の視点、人材開発の視点でどうして いくのかということになるわけですが、この中で一つ一つの目標というものは当然一つ 一つ独立しているわけではなくて、人材開発が出来て意識が変われば財務面も良くなっ ていくとか、一人ひとりのスキルが上がることによって患者満足度が良くなっていくと いうのは、非常に関連付けられているわけでありますし、また、この目標そのものが関 連付けられて組織行動に移っていかなければ意味がないということになりますから、こ れは関連付けという意味では戦略マップということが、作るということが非常に重要に なります。  これは一つのモデルでありますが、社会的要請の対応力で意識改革・人材開発の視点 では社会的要請によって対応力ですとか医療技術の向上、疾病管理の充実、経営改革マ インド行為をしていくことによって、電子カルテシステムの導入、標準化、良い手段を 使って地域連携強化だとか部門連携強化、セーフティマネージメント、事務管理の能力、 クリニカルパスですとか、適用率の向上。そうすることによって財務の視点での診療単 価の日当点の向上ですとか原価の削減、そして患者満足度、地域連携強化、新患の増加 といったような一つひとつの目標に関連付けられるわけですが、これが本当に達成でき たかどうかということの、いわゆるキーパフォーマンスインディケーターを設定して、 自らやはり評価の対象にしていかなければならないわけですから、このKPIというものが どういうふうに設定をされていくのかということになります。  KPIは多ければ多いほど良いというわけではなくて、私は少なければ少ないほうが良い と思います。多ければ多いほど救済KPIができて、自分の努力じゃなくても達成できるよ うな項目がいっぱい出てきてしまいますから、このKPIというのは少なければ少ないほう が良いと思います。このKPIが設定できたら、何をするかといえば今年度もしくは実績値 というのを確認していく。まず自己評価をして、確認をして、プロットして、目標を設 定して、具体的なアクションプランを策定していくということになります。  このアクションプランを作るときに一番重要なことは何かということで、私たちはEBS (Evidence Based Solution)というアクションプランのマップを作っていこうというこ とを考えています。これはBSEではありません、EBSですが、いろいろな発表の中でもコ ンピュータは手段ですからコンピュータ入れることによってすぐに直接的に効果なりい い影響が与えられるのではなくて、当然業務改善があり、社会への対応というのがある わけで、それをEPR(Electronic Patient Records)、電子カルテシステムを使って、ど ういうふうにそれの実現を支援していくかを関連付けてマップを取っていく。ここに機 能というものの電子カルテの機能の設計というのは当然必要になりますから、標準的電 子カルテの機能構成というものをベースにして、あきらかにリンクを貼っていくと。  こういうことのフレームワークを作ることによって、実際にコンピュータを入れたら どうなったのかということが評価出来るようなフレームワークになるのではないかとい うふうに思っています。いくつかの病院でやっておりますが、経営診断をしていく、KPI を作って目標値を設定してEBSをやっていく。運用の変更、機能の変更、ITシステムの再 編、人事の戦略といったようなことで、作っていこうということであります。  これは先ほど発表しましたけれども島根でいきますと病院機能の視点ではどうなった か、患者の視点ではどうなったか、財務の視点ではどうなったか、人材開発の視点では どうなったかということをプロットしております。これを今度は民間病院、2病院くら いの協力を経て、これと同じものを作って、少し過去を振り返ってみてみたいと思って おります。以上です。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。フロアから何か質問・コメント等ありますか。はい、どう ぞ。 ○ 永井先生:  茨城の水戸総合病院の永井でございますけれど、先ほど飯田先生に質問したのですけ れど、阿曽沼先生にも質問したいのは、例えば先週仙台のクリニカルパス学会に行って きたのですけれど、そのときクリニカルパス学会でいろんな人が言うのは、大手ベン ダーに対する恨み辛みが非常にでているわけです。今まで医療の現場ではクリニカルパ スを作って医療の質を上げようとしているのに、結局電子カルテが入ったら全くそれが 後退しているということで、そのあたりのところをどうするかという問題が、先週の仙 台のクリニカルパス学会で議論されていました。  例えば島根県立中央病院でパスの適用率が上がった、云々感々とでておりますけれど、 本当にパスの適用率が上がるような電子カルテができているのかというのは非常に疑問 で、そのあたりの医療の質を電子カルテで上げる云々感々でていますけれど、本当に現 場でそういうところがちゃんとできているかを阿曽沼先生にお聞きしたい。島根県立中 央病院ではパスの適用率は上がっているのですか。 ○ 阿曽沼先生:  実はクリニカルパスだけにフォーカスしたバランススコアカードというのも作ってい るのですけれど、クリニカルパスというのは、数の問題だけではなく質の問題であると か適用率の問題であるとか、いろんな評価の手法があると思います。特にアウトライ アーの分析だとかバリアンスの分析がどれだけできていて、パスの精度向上にどう影響 しているかといったところがありますから、いわゆる適用率だけでクリニカルパスの効 果が上がったかということは判断できないですね。  島根の場合も、そこまで実は議論しているわけではないのですが、当初スタート時点 では、2桁だったものが、百十くらいのクリニカルパスが適用できていて、実際にそれ のアウトライアーですとかバリアンスの分析というのが、いわゆる情報システムのデー タベースを作っていくことによってできていきますから、それを使っていろいろ改善を していったり、パスの精度を上げていくという活動をされていますから、そういうもの での効果というのはできたのだろうなと思います。ただ、その一つ一つのパスが医療に どうやって貢献できたかというところまでは、残念ながらまだ分析も検討もしていない というのが現状です。 ○ 木村座長:  他に何かありますでしょうか。よろしゅうございますか。はいどうぞ。 ○ 飯田先生:  今の質問の件で、厚生労働省の科学研究費で飯塚教授が主任研究者、私も分担研究者 で、今の永井先生も分担研究者でいらっしゃいますけれど、やはりEパスというのを電子 カルテにキチッと組み込む方法を考えなければいけない。それを今、別途研究をやって おりますがなかなか難しいので、ご協力願いたいということだと思います。 ○ 木村座長:  ありがとうございます。阿曽沼先生に最後にしゃべっていただいたのは私の狙いどお りで、目的を設定しなければスコアカードと言っている場合ではない。そしてその目的 は少ない方が良いということで、よくこのプロジェクトで聞かれていることの一つで、 何を目指して何が出てくる。何が出てくるというのは部分的にはそれぞれご発表がある のですけれども、何を目指してというところを、中間論点整理メモでも出てはいるので すけれど、ここは一人一人のみなさまに標準的という話をちょっと置いてですね、先ほ どの象の話で言うと、象さんに何の芸を教えて動物園のお客さんに喜んでもらうという 点を、電子カルテに何を求める、電子カルテは何のためということを手短に個数を絞っ てお答えをいただきたいと思います。大江先生からよろしいですか。 ○ 大江先生:  いろいろありますが、手短にということで2点挙げたいと思います。一つは医療機関 の内部を中心にした情報共有、診療情報の共有と伝達の確実性ということだと思います。 2つ目はですね、スギヒラタケに例えてちょっと言いたいのですけれども、今の医療情 報システムでは、スギヒラタケを食べて急性脳症になった人がこの数ヶ月で何人いるの かといわれて出せない。これが電子カルテになっても出せないのでは困る。出せるよう になることを信じてやりたいわけです。これに代表されるように多施設の診療のデータ ベースからリアルタイムに近い形で診療の実績・実態が把握できるようにすること。そ してこれを医療にフィードバックすること。その2点を私は目標にします。 ○ 木村座長:  阿曽沼先生いかがでしょう。 ○ 阿曽沼先生:  いろいろあろうかと思いますが、利用価値のあるデータベースを作るための仕組みを 作っていく。その仕組みづくりには電子カルテが欠かせないのだというふうに思ってい ます。ですから目的としては一つ挙げるとすれば利用価値のあるデータベースをきちっ と作っていく。それはもう組織的に作っていくということに尽きるのではないかと思っ ております。  それから医療は基本的には業務改善をして効率化を上げて患者満足度を上げていく。 社会的な要請というのはどんどん厳しくなっていきますから、その社会的要請に即応し ていくということが必要になる。そうするとワークフローというのをシンプルにして、 組織の対応力や機動力を上げていくのだということになりますから、そこには情報シス テムのチカラがないと対応できなくなっていく時代になってくるのではないかと思いま す。機動力を上げていく、そして利用価値のあるデータベースを作るためというふうに 思っています。 ○ 木村座長:  目的と手段は別で、何を作りたいではなくて何のために作るみたいなことですか。い や、そうではなかったということではございませんが。それを意識してご発言お願いし ます。 ○ 飯田先生:  電子カルテシステムは道具ですから手段なのです。往々にして言えることですが、目 的化してしまっているのが一番の問題なのです。かくいう私どもも、結果としてそうな りかかっているので反省しております。  それでは何のためにやるのかということです。当然、質の向上、安全の確保ですが、 その前に電子カルテシステムを入れるということは自分達の業務の見直し、自分の頭の 中の整理なのです。そのほうが私は大事だと思っております。私たちの要求水準から言 えば、合格するシステムは無いと思っております。ただ、ないけれどもいらないのでは なくて、必要なのです。それでも、非常に有用です。大変有用です。ただ、私たちが欲 しいものではない。だから業務を見直しながら考えているのですが、これがパッケージ でやれば、考えなくてもこれを使えば出来るよと。口をあんぐり開けていれば、たなぼ たで落ちてくるよというような仕組みのとき、業務の見直しがなくなってしまうわけで す。  そうすると果たして良いのかと。だからいらないのではなくてパッケージで良いから 他のいろいろな業務でもコンサルタントを入れていろいろやっていますが、コンサルタ ントを入れるのが良くないのではなく、入れるのは結構だけれども自分で考えて自分で 判断しなさいということです。ですから、電子カルテシステムを入れるときも全く同じ ことで、多くの医療機関はどうもそこの辺を放ったらかして、楽なほうが良いと、安い ほうが良いというふうになっているのが心配です。 ○ 木村座長:  ありがとうございます。高田先生お願いします。 ○ 高田先生:  先ほどご説明いたしましたように、バリューとプロフィットのある情報システムが作 れる。その結果として保健・医療・福祉分野に対する投資が増える。その結果として日 本の産業としての保健・医療・福祉が活性化される。そしてサービスの安全性が高まり、 質が良くなる。さらにデータを基に適切な医療政策の指針が作れる。このサイクルを作 りたいと考えています。 ○ 木村座長:  山本先生お願いします。 ○ 山本先生:  たくさん出たので言うことがあまりなくなってきたのですけれど、ひとつプラスアル ファとして考えられることは、情報の主権の明確化。つまり一冊のカルテにだらだら書 いていると、誰がどういうことでその情報を得て誰のために使うのかということが非常 にたくさん混在するわけですけれど、それを適切に電子化すればそれを明確に分類する ことができるので、医療従事者にとっても患者にとっても、より権利保護をしやすい環 境になるだろうと思います。 ○ 木村座長:  私は医療費を削減することも目的ではなくて、患者さんへの医療の透明性の向上。透 明性のないところに投資はないので、もっと医療費、国民のお金を回すようにしてもら わなければいけないのは明白なのですから、そのためにはやはりまず自助努力をしてい くことをしっかり見せる、無駄をなくしていく、そしてプロセスそのものが透明性が高 い。私が考えている部分はそこが一番ですね。それを実施したいと思っております。  フロアの班長の先生方で、私はこれである、私の目指すものがあるといったのはござ いませんか。はい、廣瀬先生どうぞ。 ○ 廣瀬先生:  言葉として入っていなかったという意味で申し上げたいのは、追跡性、理由付けです ね。それとそれを基にした知識と経験の共有と。共有という言葉が入っておりましたけ れども、追跡性と理由付けは非常に重要だと思っております。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。他の班の先生から何かありませんか。坂本先生どうぞ。 ○ 坂本先生:  全然違う視点から一つ申し上げたいのですけど、電子カルテをいろいろなものが向上 するということなのですけれど、それが実は電子カルテを使わないと医療ができないと は誰もまだ思っていない。ですから電子カルテは二次的な効能とかを考えないといけな いかと思っているのですが、多分ご存知のとおり現在オーダーメイド医療というのが流 行って進行しておりますので、5年後にはオーダーメイド医療というのが十分行われて いるだろうと。そのときにはやはりゲノム情報をベースとした医療ですので、人間一人 ひとり三十億円、きついと言われている情報を管理して、それを紐ついた医療をするた めには電子カルテは今後診療に不可欠な道具であって、その基盤を作っていると私は思 っております。 ○ 木村座長:  はい、ありがとうございました。この件といいますか要するに電子カルテの目指す、 こんなこと目指すというものについてですね、これも足らないぞ、あるいはもっと、あ れは違うといった意見もフロアからいただければご遠慮なく。この部分、しっかり合意 といいますか提示されずに委員会が進んでいるので、ご批判をよく受けるのでその点い かがでしょう。はい、どうぞ。 ○ 里村先生:  千葉大学の里村でございます。今日ご発表になったたくさんの分野の研究で電子カル テの共有化の問題はかなりカバーされると思うのですが、私はひとつ重要なところが欠 けていたと思うのは、将来の電子カルテによって作られたデータをどう利用するかとい う面での準備が十分ではないのではないかと思っております。  それで大江先生が課題としてまとめられたものにコードと用語の標準化の話が盛り込 まれていたので、それはその方向で失われないのであろうと安心をいたしましたけれど、 私は今、確かにどういうふうにして電子カルテを導入しているかとか、それを実際の診 療の場でどう使ってもらえるかということが当面大きな話題にはなっていると思います けど、ここで入力されたいろんな診療のデータが将来どういうふうに使われるかという ことをやはりこの時点でも意識しておかなければいけないと思うのですね。そのために は入力されたコンテンツをどういうふうに表現をまとめられるかということが非常に重 要な問題で、用語と分類とコードの標準化は避けて通れない話題だと思います。  この点について、私はこの部分についていろんな関与をしてまいりましたが、決して 十分な成果が挙がっておりませんし、大事なことはその時点でも欠けていたことは、標 準化した用語をどうやって現場で標準化したものを使っていただけるのか。どうしたら その問題を解決するかというか。もちろん標準の用語だけで書けといっても絶対無理な ことは分かっていますから、それをどういうふうに克服するかという問題も含めてこの 問題を解決しなければ、将来せっかく電子カルテが普及しても過去のデータは一切使え ないという状況になって臍をかむということが起こらないかと心配しております。 ○ 木村座長:  ありがとうございます。里村先生のおられる千葉大学には素晴らしいデータの蓄積が ございましたよね。あと、昨日私「患者の求める情報とは」というワークショップがあ って、国立国際医療センターの秋山先生、これがまた1千万レコードのデータがあって、 例えば事故防止とかいろんなデータが出る。どんどんこの分析をする、とても一人では 出来ないので、やるという方は是非手を挙げていただきたいという呼びかけもありまし たし、また今の話は医療情報学会の立場としても、データが揃ってきてそれが分析出来 ないものがでてないとしたら今までこうやって連合大会で発表しているいろんなシステ ムは何なのだという意見もありまして、我々に課せられた非常に大きな課題だと思って おります。 ○ 飯田先生:  よろしいですか。 ○ 木村座長:  はい、どうぞ。 ○ 飯田先生:  今の発言はまさにそのとおりで、私が満足できないというのはその点なのです。デー タの2次利用ができない。固有名詞は差し障りがありますから言いませんが、診療情報 管理、診療録管理の素晴らしい病院が2つありまして、そこが電子カルテを入れてゴチ ャゴチャになってしまったという実例を知っております。そこが問題なのです。今まで キチッとやってきたところが何故電子カルテが上手くいかないのですか。私はそれが不 満だと言っているのです。それをキチッとやらない限りは電子カルテをいくら頑張って も駄目なのです。ですから里村先生のおっしゃるとおり、私もそういう主旨の話をした かったわけです。まさに同じ考えです。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。それではスライドをお願いします。 実はここにお示しした のは、もう残り10分弱ですが、これは「保健医療分野にむけてのグランドデザイン」 の最終提言。グランドデザインの最終提言は50%だ60%だと数字ばっかり皆さんお っしゃるのですけれど、あの提言には非常にしっかり書かれた文章の部分がございまし て、開原先生も数字はみんな見るから数字を強調したとおっしゃっておられたのですが、 それは予想どおり一人歩きしておりますけど、この中には情報化で5年後に医療がどう 変わるかという項目があります。  それでこれが診療機関に行く前、診療のとき、在宅にて、救急時、そして最後に日本 の医療全体としてという5つの大項目があって、それぞれこういうことができるとあり ます。やはりこの各プロジェクトが、というより全体の活動がこれに向けてこれをカ バーしていかなくてはいけない。もちろん電子カルテの班研究ではなくて、行政にお願 いすべきもの、我々学者が頑張るべきもの、ベンダーが頑張るべきもの、各病院・診療 所で頑張るべきもの、いろいろあるかと思います。  ですから全部カバーする必要なないと思うのですけれども、みなさまは「どこをやっ ています?」というのを聞いてみたいと思いまして、先ほど打ち合わせのときに先生方 にお渡ししました。それで私からいきますと、私は紹介状の話ですから、セカンドオピ ニオンが得られるという部分ですね、診療のときの。そして医療事故が防止されるって いうのは、私としては例の標準化全体、コードの統一の話ですね、処方箋のある意味で 電子化という部分と、あとは在宅での部分で医療の情報が簡単に分かりやすく手に入る というのをやっている。つまり最後には患者の選択の尊重というのを、セカンドオピニ オンの尊重、透明性の向上というのでやっているつもりです。 ○ 大江先生:  私は標準的電子カルテの機能モデルということをやっていますので、共通機能のモデ リングです。この話を聞いてですね、なかなか難しいなと思ったのですけれども、風が 吹けば桶屋は儲かるという話もありますので、そうすると全部かな?などとも思います が、それではずるいので、例えば標準化された電子カルテシステムが開発するコストが 減るという意味では、下から3つ目あたりの「質の高い効率的な医療提供体制」、ある いはどこの医療機関も基本的には同じような機能がキチンと実装されているという意味 では「安心あるいは事故の防止」と、そういったことが直接的に関与するのではないか と思います。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。それでは阿曽沼先生いかがですか。 ○ 阿曽沼先生:  全部と言えば全部なのかもしれませんが、まあこういった目標は本当に簡単に文書で 羅列できるわけでございますけど、こういった目標が達成できたかどうかということを 自己評価して客観的に評価できるようなフレームワーク、これはもしかすると一つ一つ の病院が達成をしなければ全体が達成できないということでありますから、一つ一つの 病院がこれを目指すためにどうしていくのか、そういったことを自己評価するためのフ レームワークを作っていると考えているというふうに思います。 ○ 木村座長:  評価のための。 ○ 阿曽沼先生:  そうですね、評価のためのですね。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。飯田先生お願いします。 ○ 飯田先生:  私はちょっと考えが違っています。この設問自体が、このプロジェクトにどう当ては めるかという設問自体が僕は不適切だと思うのです。これを達成するための基盤整備を 私たちはやっているわけで、個々の事項に対してどうだという話とはちょっと違うと思 っています。全てだといえば阿曽沼さんがおっしゃったように全てがありまして、その 基盤を整備しているのです。提供体制をどう整えていくかが課題であると我々は考えて おります。 ○ 木村座長:  ただそれでは公のお金として、説明性が私は十分ではないと思いますよ。やはりこう いう形である程度アピールしていかないと。もちろんそうです私だって標準化というの は、5年後のこれのためだけにやっているのではないです。でも、先生それはやはりど れが直接的にというのをおっしゃってもらわないと。公のお金をいただいてやっている という説明責任としてはいかがなものでしょうか。そういう観点ではいかがですか。 ○ 飯田先生:  先ほど追加発言のときに全部お話したつもりですけれど。 ○ 木村座長:  分かりました。高田先生お願いします。 ○ 高田先生:  一番下のほうの項目の「日本の医療全体として」というところに深く関わっていると 思います。そのうちの二つ目の「質の高い正確な情報を国民が得られる環境の整備」、 それから「国民が安心できる安全な医療情報の運用管理体制の整備」、そして最後の 「国民の安心のための基盤作り」というあたりが関与していると考えております。 ○ 木村座長:  山本先生お願いします。 ○ 山本先生:  情報基盤をやっておりますので、ネットワークに関係すること全てに少しは貢献する と思うのですけれど、順番に挙げていきますと、例えばより客観的なセカンドオピニオ ンが得られるというのも情報伝達が前提でセキュリティが大事でしょうし、それから医 療情報が簡単に分かり易く在宅で手に入れられるというのは、まだあまり実現されてい るところは少ないでしょうけれど、これも今考えているような基盤のもとにできるのだ ろうと思います。  それからプライバシーということから言うと、直接きちっと表現している文章がない のですけれど、敢えて言えば患者の選択の尊重と情報提供で、それからもっとも直接的 なのが2番目の安全な医療情報の運用管理体制の整備あたりだと思います。 ○ 木村座長:  ありがとうございました。これもフロア前のほうにいらっしゃる班の先生方、私はこ こだと、是非言いたいということがあれば是非おっしゃっていただきたいと思うのです がいかがでしょうか。はい、坂本先生。 ○ 坂本先生:  私のところではメッセージというか、データフォーマットの変換をしておりますので、 まずは診療のときの医療事故が防止されるというのですけれど、医師が起こす医療事故 ではなくて、電子カルテのバグが原因の医療事故、例えば薬の量が間違うとかそういう ふうなものが標準化によって防止されるだろうというふうに思います。  それから標準化することによって救急時のどこで容態が急変しても医療機関とかかか りつけ医の連絡が取れるというような、これはやはり標準化しておりませんと地域連携 だけであれば別に勝手なフォーマットでやっても良いのでしょうけど、どこで急変して もということであれば、そこはやはり国全体の標準化が必要であろうというふうに思い ますし、それから質の高い正確な情報ですね、データ変換などをしないそこにプログラ マの手が入らないという意味で正確な情報というようなところに非常に大きくかかわる と考えています。 ○ 木村座長:  ありがとうございます。他の先生方いらっしゃいますか。どうぞ。 ○ 大谷先生:  澤田の代理で大谷でございます。処方設計支援システムということで一番大切なのは 資料の2番目の最新かつ最良の医療情報に基づいた最適な治療を受けられるということ で、先ほどのテーマのところにも出てきたのですが、サイエンスで得られた基礎的な情 報をいかに臨床にフィードバックしていくかというところを一つ電子カルテの目的の一 つに据えていければ良いなというふうに考えております。 ○ 木村座長:  データの後利用の重要性ということですね。こういった形で私なりにプロジェクトの 説明責任を果たすためにも、報告会という場でございますので、中間報告とともにどう いうもの目指して、それは具体的にはどういうふうに近々ではどうなるということを説 明するのも有意義かと思いまして、こういう形で最後にご説明をいただきました。これ でほぼ時間も少し過ぎてございますし、ましてや今日はお帰りになる電車のスケジュー ルなどもございますでしょうから、これでシンポジウムの部を終わらせていただきます ら議事録あるいはメモもお返しされるという形でございますので、引き続が、今後もこ の全体のプロジェクトの性格からして何回か報告会が開催され、当然ながきいらっしゃ ったみなさま、他のみなさまもご支援を願いたいと申し上げてこのシンポジウムを、デ ィスカッションを終わらせていただきます。それでは司会を高本先生お願いします。 ○ 高本補佐:  木村先生、適切な進行ありがとうございました。また、パネラーのみなさまにはご討 議ありがとうございました。会場のみなさまも最後までご参加いただきまして、本当に ありがとうございました。これをもちまして「第6回標準的電子カルテ関連研究報告 会」全てのプログラムを終了させていただきます。ありがとうございました。  (了)