04/11/19 「痴呆」に替わる用語に関する検討会『第3回議事録』           第3回「痴呆」に替わる用語に関する検討会 1 日時及び場所 (1)日時  平成16年11月19日(金) 14:00〜15:00 (2)場所  厚生労働省(6階)共用第8会議室 2 議題 (1)パブリックコメントの結果について (2)痴呆に替わる用語の検討 ○大島室長  ただ今から、『第3回「痴呆」に替わる用語に関する検討会』を開催させていただき ます。本日は、高島委員、辰濃委員が欠席でございます。前回等、所要で欠席しており ましたが、老健局計画課長の川尻でございます。 ○川尻課長  川尻でございます。よろしくお願いいたします。 ○大島室長  それでは、高久座長、議事進行につきましてよろしくお願いいたします。 ○高久座長  本日は、先ほど来、厚生労働省で実施いたしました「痴呆」の名称変更につきまして のパブリックコメントの結果について、事務局から報告を受けた後に新しい名称をどう 考えるかについてご審議願いたいと思います。  パブリックコメントもだいぶまとまってきたと思いますので、できれば本日の検討を 経て、次回ぐらいにまとめていきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。  では、事務局から、資料1と資料2について説明をお願いします。 ○大島室長  (資料1:「痴呆」に替わる用語に関する意見募集結果、資料2:意見募集の際に寄 せられたお手紙やメールよりに基づき説明。) ○高久座長  どうもありがとうございました。今、事務局からパブリックコメントと個人的に或い は団体を代表して寄せられたお手紙、メールの紹介がありましたが、どなたかご質問、 ご意見おありでしょうか。 ○井部委員  日本老年精神医学会の松下先生のコメントはとても興味深く拝見いたしました。この 日本老年精神医学会の一般の会員の方はあまりこの名称に関して問題を感じていないに も関わらず、委員会はかなりきちんと問題の認識があったように思うのですが、その差 はどのようなことで違いがあるのでしょうか。 ○大島室長  委員会のメンバーは理事の方々を中心にして、痴呆の分野に深く関わっていらっしゃ る方を選任されているということです。なぜ他の方々が逆にあまり関心ないのかという ことがあるかもしれませんが、いろいろ議論して真剣に考え、痴呆の言葉に関する文字 来歴ですとか、いろいろな状況を考えると、今の状況を「良し」とすることにはいかな いのではないかという議論がこの委員会ででてきたのではないかと思います。  アンケート結果がかなりネガティブにでていましたので、松下理事長もそこのところ はやや意外な感じをもたれていました。普段お忙しい医療現場で働いている方には文字 の意味などをじっくり考えるということはないのかもしれません。そこらへんのところ は詳しくはわかりません。 ○高久座長  どうぞ長谷川委員。 ○長谷川委員  今の井部委員のお話しの関連ですが、私も実は精神科医としての現職のときは、学会 での議論であるとか診断書を書くとか、研究や診療の場面では本当に恥ずかしいことで すが、痴呆というのは学術的な用語であって侮蔑的な意味はまったく持っていないと思 っていたのです。しかし私の考えがずっと変わってきたのは、やはり痴呆のケアに従事 する人とか、痴呆のケアの現場、痴呆を持った人という課題に接したときに、これは考 えなければいけないと思いました。ですから、診療の現場だけ、学問のところだけとい うところにいると、そこまで気持ちが回らないのかもしれないのです。患者さんにはも ちろん接していましたが、診断とか病気をむしろ見ていたのではないかと思っていま す。一般の学会員が診療をしたり、学会発表をしたりするときには、そこまで思いが及 ばないのではないかと思うのです。これは私自身の経験から見てそう推察しているだけ ですが。 ○野中委員  今のお話と少し違いますが、最後に台湾のアルツハイマー病協会から長谷川委員あて に来た手紙では、確かに痴呆症から失智症に替えたということですけれど、「痴呆」と 「痴呆症」には、今、長谷川委員も言われたように、本当は違うと思うのです。確かに 在宅医療の現場での偏見を防がなければいけない、痴呆と呼ばれている方々のことを正 しく理解するために名称を替えるということは理解できます。  アンケートの中で、病院等で診断名や疾病名として使用される場合には、不快感、侮 蔑した感じを伴うということも半々。まさに長谷川委員が言われたことと思うのです。 それから、痴呆を病気として捉えて考えますと、「痴呆」はある面では侮蔑しているか もしれませんが、それを「痴呆症」として、病気として捉えて考えたときには、必ずし も一致しない。「痴呆」と「痴呆症」とは違うという意味もある面では理解できる気が するのです。しかし、「認知症」となると、痴呆の方々に対して理解をすることとは違 うような気がするのです。  私もずいぶん悩みました。厚労省の方々も悩んでいるのは十分よくわかりますが、あ えて病気として捉えたほうが患者さん方は本当は侮蔑されたとか不快感を思わないとい うのであれば、「痴呆症」という病名、「症」という病名をつけることを考えられたほ うが、患者さんの疑問に応えられるという気持ちもあります。  ただ、台湾では痴呆症から失智症に10年かけて替えられたという、替えるのには非常 に時間がかかり、理解が進むことに関しても時間がかかるということ。しかし、痴呆の 方にとってはその時間を短くする必要はないのでしょうか。ゆっくり考えていることも 大事と思うのです。以上のことから、認知症とか認知障害よりはまだ痴呆症或いは失智 症が病気として捉える面ではいいのかなという気もします。今日のアンケートの結果か ら感じた意見を述べさせていただきました。 ○高久座長  ありがとうございました。他にどなたかご意見おありでしょうか。きょうは出席の方 も少ないから、他によろしいですか。  松下先生のお手紙は私個人あてになっていますが、松下先生を私はずっと以前から個 人的によく存じ上げていまして、非常な勉強家でまじめな方です。松下先生のご意見は 非常に適切だと思います。個人的な感想ですが。  他にどなたか、もしなければ資料3のパブリックコメントの結果を踏まえた検討メモ について、事務局から説明をお願いします。 ○大島室長  (資料3:パブリックコメント結果を踏まえた検討メモに基づき説明。) ○高久座長  どうもありがとうございました。検討メモということで、事務局から資料を出しても らいましたが、この前の検討会のときに、参考人の方から「障害」、「低下」、「不全 」という言葉で異常があるということをはっきりと前面にだすのはまずいというご意見 があったと思います。それからこの資料にありますように、できれば短い言葉というご 意見もありました。それから2回目の検討会で確か井部委員がおっしゃったと思うので すが、行政用語と学会用語とが別々ではまずいのではないかということ。  日本老年精神医学会理事長の松下先生のご意見では、「認知障害」というのは「障害 」という言葉があるということと、それから精神医学の領域ではすでに使われていて混 乱を起こすということですから学会としては受け入れにくいという、これは松下先生の 個人的なご意見ではありますが、そういうご意見があるということを考えると、痴呆と いう言葉を替えないというご意見は別として、もし替えるとすれば「認知症」が今まで に出された意見の中で最大公約数的な条件を満たしていると思うのですが、いかがなも のでしょうか。 ○堀田委員  私は「記憶障害」というのが一番いいのではないかということを申し上げました。た だ、広く一般の方々にご意見を聞いて決めるべき問題であるということを申し上げまし た。パブリックコメント6,000通ですから、パブリックと言っていい数字が寄せられまし たので、そのラインで判断したいと思います。今、座長がおっしゃったように結論的に は私はそれしかないのかなと。パブリックコメントの多数説でいけば「認知障害」です けれども、新しく松下先生等のご指摘の混同の問題が指摘されておりますので、それは 大変まずいとすれば「認知症」ということになるのかなと思います。  ただ、2つ、私はそれについて付帯意見があります。パブリックコメントの中でもで ておるように、名前もさりながら、実態についての認識がしっかり一般に広がることが 大切である。これはその通りでありますが、私が「記憶」という言葉のほうを選んでお りましたのは「認知」という言葉の意味が広い。今日は前回出されました資料がでてお りませんけれども、「認知」の定義がありました。それは認識、見て認識することか ら、記憶をすることから、判断をすることまでを含めて精神作用の最初の知覚の部分か ら判断の部分に至るまで、すべてを含んでおるという定義でありましたので、「認知症 」とすればいわばそれぞれの人のどこかの病んでおる部分が含まれるので、医学的には その意味では正確性は記憶という点よりも高いとは思いますが、問題は、ある人が記憶 の部分に非常に問題が生じておる、判断はその記憶に欠落さえなければしっかり判断が できるという場合もあります。最初の認識の部分はしっかり能力がある。しかし、その あとの判断過程で問題があるというようなケースもあって、これは実際の福祉の現場で 見ておりましてもそのレベル、そして病んでおる部分について千差万別である。それを 「認知」という広い言葉で認識のところから判断までの病とすると、その人は認識能力 も病んでおり、判断能力も病んでおり、記憶能力も病んでおる、すべての能力が病んで おると思われる可能性が極めて高い。  それは非常にまずい事態であろうと思います。人によっては全部でない、ほとんどの 人がその一部しか病んでおらないというのがむしろ実態であるから、認知症という言葉 は広いけれどもその実態において病んでいる部分は、決して認知という言葉で定義され るすべての能力が病んでいるという意味ではないということをしっかりと広報して、最 初からそういう意味で、そういう条件付で選んだということをはっきりさせた上でこの 言葉を選ぶことが必要であろうと思います。そのことが第1点であります。  第2点はもちろん言葉の問題も大切でありますけれども、その実態に応じて適切な医 学的な対応、福祉的な対応、それから一般の人の適切な対応が行われることがもっとも っと大切なことでして、この言葉を替える機会とはそういうことをしっかり広報する大 変いい機会でありますので、先ほど申しました第1点とあわせまして第2点、認知症の 方々について、認知症ではあるけれども人間としての尊厳を重んじた医学的、福祉的な 対応をする。あわせて一般市民、地域の方々等も認知症の人を尊厳ある人として対応し てほしいということを強く広報していただくということも必要かと思います。その2点 が付帯意見であります。 ○高久座長  どうもありがとうございました。少し前に、オーストラリアのクリスティーンさんの ことをテレビでみましたが、あの番組は非常に良かった。今、堀田委員がおっしゃった アルツハイマー病の実態を非常によく表した番組だと思いました。あれが本当なんでし ょうね。ありがとうございました。他にどなたかございますか。 ○野中委員  まさに堀田委員が言われたことが大事思います。痴呆を認知症と替えることの混乱を 考えても、私は今堀田委員が言われた部分が一番大事と思います。認知症でいいのか、 まだ疑問の部分があります。例えば、痴呆症にしたほうが、堀田委員のご意見のように 認知という言葉に対する誤解を生じない部分では、痴呆でなく「痴呆症」という面で も、検討に値する気がします。  要は、堀田委員が言われたこと、この機会に痴呆を国民みんなで考え直して、皆さん でお世話をしていこうということが大事であることは共通であります。 ○高久座長  井部委員は何かご意見ありますか。 ○井部委員  私も堀田委員の意見に賛成です。痴呆という用語は、漢字だけ見ても差別漢字のよう に思われるのです。いわゆる言葉だけを替えても認識が変わらなければ問題だというご 意見のとおりですけれども、痴呆という漢字の持つ差別的な印象がありますので、それ ならば「認知」ということのほうが非常にニュートラルだと思います。それが、年月が 経って、認知症もメタファーのようなものがまとわりついて非常に差別的な認識がもた れないように、名称を替えると共にその内容、対応の仕方についても同時によくわかっ ていただく努力をすべきであると思います。 ○高久座長  事務局のほうでこの報告書を作るときに、今堀田委員がおっしゃたようなことを記録 して、まとめていただければ良いと思います。公開シンポジウムでも開いて、皆さん方 に「認知症」とはどういうことだということを理解していただく努力が必要でしょう。 他にどなたか。 ○長谷川委員  堀田委員、井部委員、野中委員から大変素晴らしいご意見をいただいたと思います。 日本老年精神医学会の松下先生は本当に素晴らしいと思います。これ以上でもこれ以下 でもなくて、このままということで意見は素晴らしいと思います。  しかし、堀田委員並びに井部委員、野中委員もそうですが、言葉を替えてもその内容 がまたいつとはなしに痴呆と同じ概念になってしまっては困りますので、これは広報と か言葉の意味、それから実際に痴呆の方、認知症の方を処遇していく福祉・医療の面で 関わっていく場合に、三人称ではなく二人称の対応というのが重要ではないかと思うの です。「私とあなた」という、その対応のときにはやはり痴呆ではまずい。堀田委員が 委員長になられて素晴らしい報告書ができて厚労省が昨年発表された報告書の中でも個 別性のケア、尊厳を支えるケアがこれからの高齢者ケアの基本であるということを最初 に打ち出されております。痴呆に対する流れというか医療も福祉も変わってきているの です。ことに早く診断ができるようになりましたから、お話ができるアルツハイマーの 痴呆の人からこの前の京都の国際アルツハイマー病学会でも発言がございましたけれど も、みんな感激したのです。先ほど座長がいわれたクリスティーン・ブライデンさんも そうですが、早期診断ができるようになったということがひとつあると思うのです。そ れから反面、早く診断をするためには痴呆というと家族も隠したくなるのです。  すでに去る2004年4月19日に痴呆の名称変更についての要望書を3センター長 の名前で前の厚労省の坂口大臣に提出しました。そのきっかけになったのは3センター の中の大府センター長が地域でリスクの高い高齢者を集めて痴呆の予防の地域活動を試 みた時に「痴呆の予防をするんですか、それは僕には関係ない。バカにするな」といっ て、それから非常にその運動が難渋したというのです。だからどうしても痴呆の名称を アクセプタブルな名前にしないとこれはうまくいきませんねということ、それがきっか けで提案申し上げたわけでございます。  ですから、時代の流れというか、私たち医療関係者、おそらく行政関係の方もそうか もしれませんが、それよりも市民の考えというか国民の考え方の変わり方というのが早 いような気がするのです。  それから痴呆になっても地域で安心して暮らせるというところの理念がございます が、そのときに地域ケアがでてくるのです。堀田委員にもご足労いただいて、3センタ ーが共催で痴呆の人を地域で支えているいろいろな運動について募集し、そして京都の 国際会議で発表することにしたのです。59の施設、団体、或いは個人から応募がありま した。そのうちの4つを表彰し、それを発表したらものすごい反響があったのです。堀 田委員から素晴らしい適切なお言葉をいただきましたが、私もそのときに、ああこんな に国民というか市民地域の人たちの考え方は、今すごい勢いで変わったのだということ を実感として認識しました。ですから、台湾のお話もありますが、ぜひそういう方向で 進行して頂きたいと思います。 ○高久座長  どうもありがとうございました。 ○井部委員  パブリックコメントで非常に様々なご意見をいただいて、私もとても感心しました。 例えば「時空自在症候群」とか「夢中症」こういうのだったら、私なりたいなと思うく らいの名称だと思うのです。医学的にはとても認められないと言われそうですが。この ような夢のある名称を考えていらっしゃる方に感心いたしました。 ○高久座長  ありがとうございました。事務局にお伺いしますが、だいたい皆さんのご意見が出た と思うのですが、この検討会はもう1回やるのですか。 ○大島室長  もう1度、報告書という形でとりまとめさせていただこうと思います。実は来年度、 例えば名前を替えるにしても、広報の仕方にしてもいろいろなご指摘をいただきました ので、一度きちんと紙でまとめていただいて我々のほうにいただいたほうが我々もそれ を踏まえて対応をするということになると思いますので、申し訳ありませんが、もう1 度お願いできればと思います。 ○高久座長  わかりました。それでは委員の皆さん方からどういうまとめ方をするかということの ご意見を十分お伺いして、そのご意見をまとめたものを、次回のこの検討会に出してい ただくということにしたいと思います。それで、できれば今年中にということで、候補 はあがっていますね。 ○大島室長  今日、ご欠席の高島委員、辰濃委員の方々にも今日の資料と議論の状況をご報告させ ていただいた上で、事前に最終的な取りまとめ内容につきましてはご相談させていただ きたいと思います。日程としましては、12月下旬、今のところ第一候補24日で考えてお ります。 ○高久座長  クリスマスの日ですね。 ○大島室長  はい。ぜひ、そのときに最終的なプレゼントを我々にいただければと思っておりま す。 ○高久座長  それでは今日のご意見を事務局でまとめまして、次回のこの検討会に、4回目が最後 になると思いますが、それを提出していただいて、皆さん方のご意見を更にお伺いした いと思います。今日は、予定よりも早いのですが、皆さん方からご意見をいただきまし たので、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。                                      以上                       照会先:老健局計画課痴呆対策推進室                           痴呆対策係(内)3869