04/11/02 第8回医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会議事録   第9回ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会     第8回医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会              第8回個人遺伝情報保護小委員会                    議事録 1.日時 平成16年11月2日(火) 14:00〜16:30 2.場所 厚生労働省 専用第22会議室 3.出席者 (委員)  位田委員(座長代理)、宇都木委員、江口委員、垣添委員(座長)、       勝又委員、具嶋委員、黒木委員(座長代理)、栗山委員、佐々委員、       高芝委員、富永委員、豊島委員、南条委員、廣橋委員、福嶋委員、       堀部委員 (事務局)文部科学省 小田 大臣官房審議官            佐伯 研究振興局ライフサイエンス課長            安藤 研究振興局ライフサイエンス課生命倫理対策室長      厚生労働省 松谷 技術総括審議官            上田 厚生科学課長            高山 厚生科学課研究企画官      経済産業省 多喜田 製造産業局生物化学産業課長            河内 製造産業局事業環境整備室長 4.議題  (1)遺伝情報等の個人情報保護を中心とする研究における倫理上の諸課題への対応     について  (2)遺伝情報等の個人情報保護における法制上の措置の必要性について 5.配付資料    資料1 研究の進展等に伴う見直しの論点について    資料2 遺伝情報の取扱いに係る法制化について    資料3 法制化をめぐるこれまでの議論について    資料4 個人情報保護法の施行に関連して整備した指針等    資料5 保険、雇用分野における遺伝情報の取扱について 6.議事 【高山企画官】  定刻になりましたので始めさせていただきます。  本日は、文部科学省「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関す る小委員会」、厚生労働省「医学研究における個人情報保護の取扱いの在り方に関する 専門委員会」、経済産業省「個人遺伝情報保護小委員会」の第5回目の合同開催となっ ています。  本日は予め大山委員、小幡委員、鎌谷委員、菅委員、武田委員、辻委員、橋本委員、 藤原委員、柳川委員、吉倉委員よりご欠席との連絡を頂戴しています。  議事に入る前に本日の委員会の進め方についてご説明させていただきます。前回まで の委員会においてゲノム指針における「研究の進展」に係る部分についていろいろご検 討いただきましたが、残っていた事項があった関係と、また個人情報保護に係る法制上 の措置について、前回からご議論いただいていますけれども、その2つについてご検討 いただきたいと思います。以後の議事進行については垣添座長にお願いしたいと思いま す。 【垣添座長】  皆さん、こんにちは。大変タイトなスケジュールの中、たびたびお集まりいただきま して誠にありがとうございます。本日もよろしくお願い申し上げます。まず事務局から 本日の資料の確認をお願いします。 【事務局】  お手元の資料について確認させていただきます。資料1から資料5です。資料1は研 究の進展等に伴う見直しの論点について、資料2は遺伝情報の取扱いに係る法制化につ いて、資料3は法制化をめぐるこれまでの議論について、資料4は個人情報保護法の施 行に関連して整備した指針等、資料5は保険、雇用分野における遺伝情報の取扱いにつ いてです。  机上配布資料として、遺伝情報の取扱いに係る各国の法的対応についてというペーパ ーと、本日ご欠席の鎌谷委員、辻委員から、この法制化の議論についてコメントをいた だいていますので、そちらも配布しています。またこれまでに、いろいろご議論いただ いたヒトゲノムの指針や遺伝子治療臨床研究、疫学研究それぞれについての倫理指針、 パブリックコメントを現在募集しているものについて資料を配布しています。パブリッ クコメントについては基本的に11月19日までにすべて終えたいと考えています。また経 済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン (案)についてのパブリックコメント募集と、医療介護関係事業者における個人情報の 適切な取扱いのためのガイドラインについてもお配りしています。併せて前回、3省合 同の議事録案を未定稿という形でお配りしています。大変恐縮ですがご確認の上、11月 16日までに訂正等がありましたら記載の宛先に送付いただければ幸いです。その後確定 して公表したいと考えています。 【垣添座長】  ありがとうございました。  本日の議事に入ります。はじめにゲノム指針に係る研究の進展の論点の前回積み残し 分に関して、今日は2時間半ありますので、前半の約1時間ぐらいを使って議論したい と思います。まず事務局から説明をお願いします。 【高山企画官】  ゲノム指針の見直し案については、前回までのところでパブリックコメントの案文に 盛り込めるところについては、十分ご議論いただいた上で盛り込んだところですが、そ れに盛り込めなかったところについて、次回の見直しも踏まえて議論の経過については 事務局で整理しておくよう、座長からのご指示がありました。事務局としては、もう少 し残っている論点について委員の皆さんのご意見を拝聴し、今回議論されたものは報告 あるいは取りまとめという形で、きちんと次回の見直しの際にも使用できるよう、残し ておければと考えています。  資料1の研究の進展等に伴う見直しの論点について、基本的考え方がありますけれど も、相当の部分についてはいろいろご議論いただき、今回の見直し案という形でパブリ ックコメントも行わせていただいているところですが、12頁の10の遺伝カウンセリング の部分についてと、15頁の最後のところのヒトゲノム・遺伝解析研究に資するバンクの あり方について、前回まででご議論いただいたところですが、もう少し論点等について 深めていただければと考えています。今後の検討に向けてのご提言という形で、ご議 論、ご意見をいただければと思います。よろしくお願いします。 【垣添座長】  ありがとうございました。資料1の研究の進展等に伴う見直しの論点についての積み 残し分として、12頁の遺伝カウンセリングの部分から議論を始めていただきたいと思い ます。この問題は医療における扱いを念頭に置きながら議論すべきものですので、慎重 な検討が必要と思われますが、特にここで示された論点にこだわらず、今後の検討につ ながることとして、ご議論いただければと思います。つまり、この検討会の趣旨には必 ずしも馴染みませんけれども、実際に研究が進展していく上では大変お困りの部分もい ろいろあると思いますので、そのあたりのご意見を十分承って、それを最終的な報告書 に何らかの形で盛り込んでいきたいと考えていますが、いかがですか。 【福嶋委員】  遺伝カウンセリングに携わっている者として、一言意見を述べさせていただきます。 通常の医療行為というのはいろいろ検査をして、こういうことがいいですよという大体 の方向性が示されるわけです。病態を明らかにしていろいろな検査をして、こうするの が疾病の予防、健康の増進あるいは治療に役立つという、ある程度の方向性があって、 それが大体万人が納得する方向で示されるので、それは情報提供とインフォームド・コ ンセントを得て行うということでいいと思います。それが将来、こちらがいいのです よ、メリットがあるのですよということが、必ずしも言えないような情報を扱うとき に、このカウンセリングが必要になるということだろうと思います。  遺伝情報の中にはいろいろなものがあって、なかなか先が見えないことがあり、一人 ひとりの心情、哲学に従って、それぞれいろいろなチョイスがあり得るときに、この遺 伝情報を扱う場合には遺伝カウンセリングが必要になるということだと思います。研究 に際していろいろな情報が明らかになるわけですが、それがどういう情報なのかは、研 究の内容がさまざまですし明らかになる遺伝情報もさまざまですので、ある場合にはス トレートフォワードに、こういうのがいいですよというように、インフォームド・コン セントによる十分な情報提供でいい場合もあると思います。  そうではなくて、1つの遺伝子の遺伝情報が明らかになったときに、それは情報提供 する側にとっても、どうしたらいいのかはっきりした方針が示せないようなときには、 遺伝カウンセリングが必要な場合があると思います。単一遺伝子疾患と多因子疾患でや り方が違ってくると思います。その辺の曖昧さがあって、場合によっては遺伝カウンセ リングが必要な場面がありますよという形で、ここに述べられていると思いますので、 現時点ではこの形でいいのではないかと思います。  これからゲノム解析研究がどんどん進んできて、この遺伝子型を持っている人はこの 治療法がいい、あるいはこの薬がいいということになってくると、通常の臨床検査の一 環として取り扱われるようになる遺伝情報も当然あると思います。そうなった場合には 遺伝カウンセリングということではなくて、ある程度方向性を示す通常の医療の一環と して扱われるようになりますので、そういうことになったら、そういうものは遺伝カウ ンセリングは必ずしも必要ないということになると思います。 【垣添座長】  実際に例えば先生の施設では、そういうまだはっきり分からないような遺伝情報の解 析に関して、解析を受けるかどうかという辺りから相談を受けておられるわけですか。 【福嶋委員】  通常、研究で行われる場合には開示を求めない。非開示を原則として、とにかく研究 に協力していただくドネーションということで結果はお返ししません。評価の定まって いない情報が得られるに過ぎないので、結果はお返ししませんけれどもという形でやる わけです。通常、開示する場合には、ある特定の稀な疾患である家系に限った単一遺伝 子疾患を扱う場合が多いと思います。その開示を前提とする研究の場合には、やはり遺 伝カウンセリングが必要になる研究が多いのではないかと思います。 【垣添座長】  ほかに、ご意見はありますか。 【江口委員】  遺伝カウンセリングの場合、誰が行うのかということについても論点の中で書いてお いていただきたいという気がします。これをざっと眺めたときに13頁の下から6行目あ たりに、「遺伝カウンセリングに習熟した医師、医療従事者等が協力して実施」とあり ますが、本来的には過去に福嶋委員をはじめとして議論があったように、遺伝カウンセ リングというのはどういう資格を持ってやるべきなのか。誰がやるべきなのかについ て、もう少ししっかりしないと、医師であれば遺伝カウンセリングできるかというと、 なかなかそうでもないような気がします。誰が、どういった資格のもとに遺伝カウンセ リングを行うのかについて、論点の中でも述べておいていただけると、後々議論しやす いのではないかという気はします。 【垣添座長】  大事なご指摘だと思います。この点に関してももう少しご意見をいただけますか。 【豊島委員】  いま、福嶋委員が言われたように、単一疾患の場合には基本的に開示しない。その場 合には必要がないということだと、かなり遺伝カウンセリングはいろいろここでも規定 ができると思います。その場合でも開示しないことに対する不安を持たれたときに、そ れに対するカウンセリングをしなければいけないと言われると、これは大変なのです。  もう1つは、例えばある程度研究が進んできたときにでも、単一疾患に対する遺伝カ ウンセリングをするというのは、普通の医師ではできるわけがないと、基本的にはそう 思います。医師だけでなくかなりの研究者でも難しい。それを規定してしまうと、どう しようもなくなるのではないかという気がします。 【位田座長代理】  12頁では単一遺伝子疾患と多因子疾患の場合で分けるかという問題で、対応案はその 区別はしないでという取扱いになっていると思います。どういう疾患かは別として、遺 伝子研究に入るときに自分の遺伝子解析が行われることに対する不安について、遺伝カ ウンセリングが必要なケースもあり得るという意味で、もともとの倫理指針は遺伝カウ ンセリングを提供できるように、「必ず遺伝カウンセリングをしなければいけない」と は書いていませんが、必要な場合には遺伝カウンセリングができるような体制を整えま しょうという話であったと思います。ここの対応案では「遺伝情報を開示する際」にな っているので、もう既に解析されて、遺伝情報はこうですよという場合にしか遺伝カウ ンセリングが行われないということになり、これは以前の考え方とは180度違うと思い ます。  基本的に、これはUNESCOの宣言でも同じですが、研究にせよ診療にせよ解析が 行われる、特にインフォームド・コンセントを取るあたりの段階で必要であれば遺伝カ ウンセリングを受けていただいて、いまから行われようとしている研究、場合によって は医療の中であれば遺伝子検査がどういう意味を持っているかを、きちんと説明して提 供する人の不安を取り除く。そういう形のカウンセリングももともとは入っていたと思 います。開示する際にと言ってしまうと、そこの部分が抜けてしまうのではないかと思 います。 【垣添座長】  つまり2段構造になっているはずだということですね。 【福嶋委員】  位田委員の言われているのは、インフォームド・コンセントの際の十分な説明という 内容だと思います。 【位田座長代理】  そうではなくて、説明は受けたけれども、しかし不安であるというときに受けられる ようにという話だったと思います。 【安藤室長】  指針においては、おそらく位田委員の言われているのはインフォームド・コンセント のところにある規定のことではないかと思います。したがって、そこの対応のイメージ の例では、2つ目のポツの話ではないでしょうか。また現行の規定で申し上げれば、13 頁の指針の中の8のインフォームド・コンセントの中で、カウンセリングの機会を提供 するという行があると思いますので、そのことではないかと思われます。 【位田座長代理】  対応案のほうは「情報を開示する際」と書いてあるので、それ自体に問題あるかなと 思いますが、対応のイメージのところで遺伝性疾患である場合はというのは、これは要 するに提供者が患者さんであるということに限っているわけですか。そうでないと、や る前に遺伝性疾患だというのは分からないですよね。 【安藤室長】  現行で言えば、提供者が単一遺伝子疾患等である場合には、必要に応じて機会を提供 という形になっています。インフォームド・コンセントの際の規定です。 【垣添座長】  インフォームド・コンセントのところで十分説明して、さらに必要に応じてカウンセ リングの機会の提供の準備があることをお話するということからすると、この対応案で もいいのかなという気がします。先ほど位田委員が言われた2段構造というのは、一応 インフォームド・コンセントの部分でカバーされているかなという気がします。要する に医療従事者であっても、特別の訓練を受けていなければ、なかなかカウンセリングの 機会などは提供できないというのは、福嶋委員や豊島委員からのご指摘のとおりだと思 います。どういう人が、こういう情報を提供するかに関しては何かご意見があります か。 【豊島委員】  いま言われた単一疾患とか遺伝子疾患とか、そういう場合のカウンセリングというの はかなり規定ができるし訓練もできるわけです、そういうお医者さんをつくることもで きるわけです。位田委員が言われたような場合は、カウンセリングは必要だけれども、 それを遺伝カウンセリングだから、遺伝情報の立場から非常に細かい分析をして、きっ ちりやらなければいけないと言われると、これが大変だと思います。たぶん遺伝学会に 属している人でも物によっては無理なので、その人たちを区別していただいて、別な意 味でのカウンセリングはしなければいけないし、それは必要だと思いますけれども。 【垣添座長】  委員がいま言われた難しいほうは、どういうふうに取り扱ったらよろしいですか。 【豊島委員】  やはりインフォームド・コンセントがありますし、その人はいつでも拒否権があるわ けですから、そういうことに対して質問があった時には必ず答えなければいけないとい う意味で、その程度でカウンセリングという言葉をもし使うとしたら、遺伝を抜いたカ ウンセリングという言葉を、どこかに使ってもらえればいいのではないかという気がし ます。 【垣添座長】  確かに定形的というか、そういう答ができるカウンセリングと、そうでない非常に難 しい場合と確かに両方あり得ます。ほかに、このカウンセリングに関してご意見はあり ますか。 【福嶋委員】  遺伝カウンセリングの人材についてですが、いま臨床、遺伝専門医制度というのがあ り、これは人類遺伝学会と遺伝カウンセリング学会が合同で企画運営しているもので す。まだまだ少ないですが、基本的領域の学会の専門医で小児科、産婦人科、内科、外 科等13学会あります。その専門医を取った方が後期研修として更に3年間研修をして試 験を受けるという、かなりしっかりした制度ができています。現在、512名認定されて いて、毎年50名ずつぐらい試験を受けて、認定されるという状況です。まだまだ全国的 に見ると少ないですが、大体どこの大学でも専門医資格を持つ人が出てきています。主 にゲノム研究をやっているような機関では、大分人は増えてきている状況になっていま す。 【垣添座長】  それは、すべて医師ですか。 【福嶋委員】  すべて医師です。それとは別に遺伝カウンセリングのニーズが爆発的に増えてくるこ とが見込まれますので、同じく人類遺伝学会と遺伝カウンセリング学会合同で、来年の 春から非医師を対象とした認定遺伝カウンセラー制度を設けることにしています。こち らのほうは修士課程で、4年制大学を出た後に2年間きちっと学ぶということで、到達 目標を定めて必要なカリキュラムを考えて、それで既に幾つかの大学でスタートしてい るのがあります。 【垣添座長】  いまご説明いただいた構造というのは、ここにおられる皆さんによくご理解いたただ けるのではないかと思います。 【黒木座長代理】  その後者の場合、普通の医学系以外の4年制大学の中にそういうコースを設けている というのは聞きますが、その場合の認定の資格とか名称とかはどういうふうになるので しょうか。 【福嶋委員】  これからの時代、新しい医療職として認めていただきたいということで私たちはこの 制度を作ってきているのですが、新しい医療職として認められるにはかなりハードルが 高くて、これはあくまでも学会認定の形になります。ただ、学会認定でもきちっとした カリキュラムで教育をして、実習、カウンセリングの体験を義務づけてやっていますの で、かなりレベルの高い能力を持った方を認定することになっています。こういう人た ちを社会がどう利用するかというのが、これからの問題で、是非、厚生労働省の方には 新しい医療職として考えていただきたいというのが、お願いです。 【垣添座長】  ご指摘の点は非常に重要で、私もその必要性はよく理解できるつもりです。この検討 会にはちょっと馴染まないですが、報告書の中に何らか、そういう新しい職種が必要で あるということを盛り込めれば大変いいと思っています。 【福嶋委員】  是非、お願いします。 【宇都木委員】  同じことですが、この会の最初のころに辻委員でしたか、一般的にカウンセリングと いうのは日本の中で、きちんとインフラを作らなければいけないというご指摘があっ て、そのことを報告書の中で是非ご指摘いただきたい。 【位田座長代理】  いま福嶋委員が言われた認定というのは、学会が認定するということですか。 【福嶋委員】  そうです。遺伝カウンセラーと言うと一般名詞で、どういう能力のある人かわからな いので、これは固有名詞ですという意味で学会の認定遺伝カウンセラーとしています。 認定遺伝カウンンセラーと言った場合には、こういうカリキュラムをちゃんと勉強し た、こういう能力を持った人ですというために、わざわざ認定というのを付けていま す。 【位田座長代理】  その場合は、もちろん医師ではないのでしょうから、修士課程はどこに設けられるの ですか。医学部という趣旨ですか。 【福嶋委員】  いま、スタートしているのは信州大学と北里大学です。信州大学医学研究科の修士課 程ということで、医学部出身以外の方が入るということです。北里大学はカウンセリン グの大学院という学部のない大学院ができていて、教育とか産業などいろいろなカウン セリングがありますが、そこに遺伝カウンセリングというコースができています。今年 の4月からお茶の水女子大学に遺伝カウンセラー養成のコースができています。幾つか 来年の春からスタートするところもできています。 【位田座長代理】  医学部もしくはそれに関連する大学院でしょうか。お茶の水は必ずしもそうではな い。 【福嶋委員】  それは出身によって、基礎教育のところで付加する科目が異なってくるのです。医療 系であれば心理系のものが不足するので心理を勉強してくださいとなるし、心理出身の 方であれば医療とか生物学が不足しているので、それを修士の中での基礎に含まれると いった、かなりよくできたカリキュラムになっています。 【垣添座長】  たぶん、実際に認定カウンセラー制度が学会を中心にして動き出して、ある程度実績 ができたときに更に対象の人たちが広がっていくこともあり得るでしょうし、そういう 実績があって初めて医療の中に新しい職種として認められるかどうかということも、議 論の俎上に上がってくるのだと思います。ただ、動きとして非常に重要であると思いま す。医師のカウンセラーを育てるということで、学会が努力しておられることもよくわ かりました。ありがとうございます。カウンセリングそのものも内容的に定形的なもの と、そうでないいろいろ難しいものがあるということもご議論いただきましたが、こう いったことを含めて、この報告書の中にまとめておきたいと思います。 【勝又委員】  ちょっと分かりにくい部分があると思います。13頁の9番の遺伝情報の開示のところ の(4)では、単一遺伝子疾患等に関する遺伝情報を開示しようとする場合にはという 条件で、遺伝カウンセリングの機会を提供しなければならないとあります。10番のとこ ろに遺伝カウンセリングがあって従来の流れでいくと、こういうような必要に応じて提 供する遺伝カウンセリングのことを言っているように見えます。先ほどの対応案では単 一遺伝子疾患にかかわらず、多因子疾患も含めてカウンセリングの機会を提供するとい う整理になるとすると、9番のところをもう少し広げておかないと、情報開示のときに 単一遺伝子疾患等の「等」に含めればいいのかもしれませんが、少しそのあたりで開示 そのものが全体的に限定的に見えてしまうのではないかという気がしたのです。そのあ たりはどういうふうに考えればいいのでしょうか。 【垣添座長】  これは事務局、何か答を準備しておられますか。 【安藤室長】  いま、単一遺伝子疾患に加えて多因子の疾患等も含めることを考えて、対応のイメー ジのところでは遺伝性疾患という用語で書いているというのが案です。それよりもさら に広くというご趣旨でしょうか。 【勝又委員】  そういう対応に基づくと、遺伝情報の開示のところにも必ずしも単一遺伝子疾患等と いう限定にしないで、対応していくという意味なのでしょうか。 【安藤室長】  対応のイメージの例のところに数字が入っていないので分かりにくいのですが、対応 のイメージの例の1つ目のポツが、いま委員が言われた遺伝情報の開示9の(4)のと ころに対応するものになるかと思います。2つ目のポツが13頁で言えば8のインフォー ムド・コンセントの(6)に対応するものと考えていただければと思います。 【勝又委員】  私が言いたかったのは、これは現行の規定ですけれども、確か現在のパブリックコメ ントに出しているところでは、この部分は変えないという形で出ていませんでしたか。 【安藤室長】  先ほど冒頭で少し事務局からも説明しましたが、いま、ここで議論していただいてい るのは、次の見直しに向けた検討のための材料としていろいろな議論をいただこうとい うことです。したがって今回の指針の見直しは、現在、パブリックコメントに出してい るものを基本に行いますから、その中ではまだ議論されていないということなので、言 葉としては「単一遺伝子疾患」と現行のままになっています。 【勝又委員】  現在の議論は、今後の対応のためと理解すればいいということですね。 【垣添座長】  そういうことです。13頁の9番、10番のご指摘の部分はよくわかりました。もしよろ しければ先に進みます。次は資料1の15頁で、ヒトゲノム遺伝子解析研究に資するバン クのあり方についてということです。こちらもバンクのイメージは固まっていないとい うことがありますので、ここで性急に結論を得ようということではありませんが、これ まで何度か断続的にご議論いただいたまま消化不良になっていますので、もう少し時間 を取ってこの部分に関してご意見を頂戴できればと思っています。いかがですか。 【福嶋委員】  これは3省指針を作るときも問題になったと思いますが、定義をはっきりさせておく べきだろうと思います。現在の3省指針ができるときの定義としては、バンクというの は、一度そこに登録されると、不特定多数のところにディストリビュートするような機 能を持つものだけをバンクと言う、という括りだったと思います。その1つ前の、そこ までオープンにしないけれども、細胞を生きたまま保存しておくという機能を持ってい る。ただ、それをどこにでも分配するものでなくて、クローズドなメンバーで管理す る。そういうレベルの細胞保存施設でしょうかね。そういうものもあると思います。  ですから分けて、バンクの場合には当然、連結不可能匿名化でなければできないでし ょうけれども、クローズドなものであれば連結可能ということもあり得ると思います。 ですから細胞を生きたまま保存しておくということでは、その中には解析すればいろい ろな遺伝情報も含まれ得るわけですから、それなりの規定というのが必要になると思い ます。それが現在の指針ですとあまりにも差があり過ぎて、クローズドで使うものをど こに位置づけるかということが曖昧だったような気がします。 【垣添座長】  クローズドのあたりは十分議論されていなかったですね。 【廣橋委員】  私も基本的にいまの意見に賛成です。1つの施設の中でクローズドでサンプル等を保 存して行うというのは研究の一種だと思います。今回の議論の中に研究が長期間にわた って行われる場合にどう扱うかということがありましたね。そのいちばん典型的なもの が1つの機関の中におけるサンプルの保存ということだと思います。  それに対してバンクというのはどこかでまとめて保存し、審査をして、適切な研究に 広く使っていただくという、第三者への提供を考えているものに限って議論すれば、か なり明瞭になるのではないでしょうか。 【垣添座長】  そうすると前半に言われた、1つの機関におけるクローズドの場合の試料保存という のは、このバンクの中に含めないということですか。 【廣橋委員】  含めないほうがいいような気がします。 【宇都木委員】  いまの2つに分けてというより、3つぐらいになるのではないでしょうか。豊島先生 の所で扱っておられるのは、多くの所から1ヵ所に集めてまた多くの所に渡すけれど も、全体としてクローズドとなっているということですか。 【豊島委員】  いいえ、研究中はクローズドですけれども、研究を利用したい人に審査はしますけれ ども出す形にしたいというのが目的です。 【宇都木委員】  最終的には全部オープンになるということですか。 【豊島委員】  はい。不特定というとちょっと引っかかるのですが、審査はされるけれども適切と認 められた所には配分するということです。 【宇都木委員】  最終機関のほうもオープンですか。最終機関のほうは特定されるのですか。 【豊島委員】  最終機関のほうは、研究期間中だけオープンです。特定機関です。 【宇都木委員】  クローズドとかオープンと言っても、そのようにいろいろな種類のものがあると思い ます。だからバンクというものを問題にするときには何を目的として規制をするかとい うことで、1つの研究機関の中だけのレポジトリーのような種類のものと、採取もディ ストリビューションもオープンになっているもので、共通の部分と全く違う部分がある かと思いますので、基本的には両方とも視野に入れておかないといけないと思います。 視野に入れて何を論ずるかというのは次の事柄だと思います。 【垣添座長】  宇都木委員のご意見では、先ほど廣橋委員からのご指摘のように1つの研究機関の中 で試料を保存しておくことに関しても、バンクのうちに含めるべきであると。 【宇都木委員】  含めないといけないのではないかと思います。 【具嶋委員】  バンクについて、世界の現状について報告しておきます。1つは4、5年前に製薬企 業が1,000人レベルの正常人の方の血液をいただいて、それからDNAを採って、それ をいまヒューマンサイエンス財団の創薬資源バンクに委託し、そこから内外の研究機関 に研究目的の条件で手渡していると思います。  それと、既にご存じのように文科省の30万人プロジュクトが始まっていますし、今年 の2月にはOECDのヒューマン・ゲノム・リサーチ・データベースというワークショ ップがあって、世界的なバンクの定義から商業利用、倫理、ハーモナイゼーションなど 非常に大がかりな範囲で、いま討議され始めていると思います。  一方では、治験だからこの指針には関係ないのですが、欧米の製薬企業の治験におい ては15年間、患者の血液をバンクしていいというプロトコールはかなり進められている と思います。ところが日本ではなかなかその辺が進められないということで、この辺の 議論は個別のところで議論してもらうのか、それとも1、2年後にある見直しの中で議 論するのか、その辺の方向性だけでも示していただければと思います。 【黒木座長代理】  いままでバンクと言うと、連結不可能の匿名性ということにして、一般に外に出るの だからということになってきたわけですが、今後、いろいろな疾病との関係を見ていく ためには、連結可能で、それをどうやって安全策を取るかということが1つ非常に重要 だと思います。  もう1つは、バンクに入ってしまうと、最初のインフォームド・コンセントのときの 最終目的をどういうふうに書くかは非常に大きな問題で、かなり広く書かないといけな いということになると思います。ですから、そういう幾つかの点がクリアーされれば、 連結可能でしかも安全策が取られていて、広い範囲にわたって使えるということになれ ば、研究にとって非常に有用な材料だと思います。ですから是非、そういう方向で議論 していただければと思います。 【垣添座長】  非常に重要な議論に入ってきたと思います。 【位田座長代理】  バンクを定義しておかないと、いろいろな形で、例えば研究室がバンクを持っている ケースもあれば、ヒューマンサイエンス財団がバンクを持っている場合もあり得る。先 ほど出てきたオープンかクローズドかという問題と関連するのですが、バンクであると いうことは当然、細胞なり試料なり情報なりを、溜めておく所というのが本来のバンク という意味ですから、バンクにそういう試料なり情報が入っているときに、何をもって ここで言うバンクとして定義するかを考えると、最初に試料をいただいたときの目的と 違う2次利用、もしくは目的外利用を考えてバンクに入れておく。したがって長期間保 存しておくことのほうが、連結可能かどうかはもう1つ先の話ではないかと思います。  1つの計画の中で、例えば5年なり10年なり続く計画の中で保存しておくというの は、確かに保存しておくという形態はバンクですが、それはここで言うバンクには必ず しも当たらないだろうと思います。むしろここで言うバンクで重要なのは、これは先ほ どご紹介のあったOECDの議論でもそうなのですが、バンクに入れるということが第 1の目的で、そこから先はいろいろなことに利用できるという汎用性というのでしょう か、そういうものをバンクとして扱うほうが、定義としては研究上やりやすいのではな いか。それ以外は保管はしてあっても、少なくともここで言うバンクには当たらない。  そうであるとすると、あの30万人のプロジェクトはむしろバンクに入れるということ のほうを目的にされているので、バンクに入れるという目的でありながら、しかし、そ のバンクに入れるということ自体はいろいろなことに使えるということを、もう1つ先 の目的にされているので、むしろこれから重要なのは、そういうバンクだと思います。 1つの計画の中でバンクを作るというのは、いまのままでもそんなに問題はないのだろ うと思います。  ある目的で試料を取って、長期間バンクに保存して、一応括弧付きのバンクですけれ ども研究室なら研究室に保存しておいて、それをあるときに、こういう研究にも使いた いから、そこにある試料を目的外使用というか2次利用する場合には、またこの指針の インフォームド・コンセントの規定が適用される。もしくは既提供試料の規定が適用さ れる。そういう形でいいと思います。  だけど、ここで問題にしようとしているバンクは、バンクに入れますよというふうに 説明して試料をいただいたときに、どういう取扱いをするかということだと思います。 そのときに「連結可能匿名化」の場合にどういう取扱いをし、「連結不可能匿名化」の 場合にはどうするか。しかもそれはもらうときに連結可能にするか不可能にするか、保 存している間連結可能にするか不可能にするか。外に出すときにも連結したままで出す かどうかということで考えていけば、ここで問題にするべきバンクというのは、ある程 度固まってくると思っています。 【宇都木委員】  私は少し意見が違うのですが、外へディストリビュートすることを当初は少なくとも 考えていなくて、レポジトリーするものというのが実はいろいろな問題を含んでいると 思います。やがてそこから何らかの形で出ていく。多くの場合、いまのところ保存の期 間を定めていないと思います。そうすると、これはやがて使うことを考えてということ だと思います。  先ほど黒木委員が言われたように、これからの情報というのは不特定ではなくて連結 可能という形でないと、意味がずっと薄くなっていってしまうと思っています。先ほど 黒木委員が言われた、いわゆるゼネラル・コンセントと言うのでしょうか、当初何らか の形で使うとか医学研究に使うといった、そういう包括的な承諾というのはものすごく 大切なことです。これはどういう研究かという中身については確かに不明確な部分があ るのですが、しかし、これは適正な医学研究に使ってくださいという意思は明確だと思 います。この明確な意思で適正な医学研究に本当に使えるという体制を組んでおけば、 ゼネラル・コンセントでそれに効力を認めていいのではないかと思います。  その体制を組まないでゼネラル・コンセントというのは、どうにでも使うということ になってしまうのではないか。その体制を組むということが、これからの責任なのでは ないか。いまのところのガイドラインは、みんなその点を倫理委員会に一任するわけで すが、少なくとも現在の倫理委員会は、そういう権能を持っていませんし実力も持って いない。もう少し公的な形で全体をきちんとコントロールする制度が設けられないと包 括的な承諾も生きないし、やがては医学全体が閉塞していってしまうのではないか。全 部連結不可能にしていくということであったら、これからの医学研究は進まないと思い ます。漠然たる物の言い方になりますが、そういう長期的な大きなシステムを考えるこ とを前提にしていかないといけないと思っています。 【黒木座長代理】  ちょっと違うかもしれませんが、先ほど具嶋委員の言われた製薬協会のときは、薬物 代謝の酵素のゲノムを検討するというので専任で集めて、実は私が倫理審査委員長だっ たのでよく覚えているのです。最初からバンクということを目的としてインフォームド ・コンセントを書いて、そのときはゲノムの解析はこういうことでやりますということ を書いて、だけどバンクのほうには連結不可能で出しますということで承諾を得ていた と思います。ですから、いままではそういう形できちんとやってきたと思いますが、こ れからはもう少し考えなければいけないと思っています。 【廣橋委員】  この2つの問題ですが、1つは、1つの組織でクローズドでサンプル、情報等を集め ていくというもので、これにも、いろいろ考えていかなければいけない大事なことがあ ると思います。その問題は今までは研究として、しかも長期の研究として倫理委員会の マターでやられてきたという経緯だったと思います。それがさらにそういう研究の延長 線上に本当のバンクに一部が発展することがあるのも事実です。  しかし、バンクというのは最初の説明同意のところから、きちんとその趣旨が説明さ れて同意が得られていて、しかもかなり広い範囲の研究に、こういう研究をしたいとい う人が手を挙げたときに、適切な審査がされて提供できる仕組みを持ったものを狭い意 味でのバンクと考えて、それをきちんと分けて議論するといいのではないかと感じま す。 【位田座長代理】  私も宇都木委員とは少し意見が違うなと思います。私はインフォームド・コンセント のとき、こういう目的で研究をしますというときに医学研究という、ある意味ではブラ ンケット・コンセントというのは認めるべきではないと思っているので、それよりはむ しろ具体的なテーマのある研究で取ったものについては、その研究限り、それ以上やろ うと思えば既提供試料の利用ということで、この倫理指針に従う。もし医学研究という ことでいろいろなことに使いたいのであれば、そういうふうに説明をして、それをバン クに入れる。つまり汎用性のある使い方ができるようなバンクに入れますよ、というこ とで説明していただくべきであって、そこに入れば先ほど言われたようにいろいろなこ とに使えますと、そのための管理は当然しなければいけませんし、連結するかどうか。 要するに個人の情報をどうするかも、狭い意味でのバンクと先ほど言われましたけれど も、それをはっきりしておけば、それ以外は今までの倫理指針でいけるし、バンクはバ ンクとしてのルールをきちっと作っておけば、むしろそのほうが研究には利用しやすい のではないかと思います。 【勝又委員】  おそらく、いまの指針でバンクというのを考えているのは、基本的には黒木委員が言 われたように連結不可能で扱うものを認識しています。実際にバンクに入れるときは、 連結不可能であることを確認して出しなさいとなっていますので、現在の扱いはそうな っていると思います。  ただ、先ほども少しお話が出ましたが、この2月にOECDのワークショップがあり 私もまとめさせていただいているのですが、そこで議論されているのは、もう少し趣旨 が違って宇都木委員のおっしゃるのに近い。つまりアイスランドで30万人のデータベー スを始めた以降、その趣旨に沿った国民的な大がかりなデータベースという動きが世界 でいくつもあって、それらの現状を持ち寄っていろいろ議論したのです。基本的に連結 不可能で、スタティックなデータベースというのは限度があり、これからは連結可能で 実際にどういう状況になっていくのかというのを、常にダイナミックに捉えられるデー タベースが、国民の健康を守っていくための医療の発展に非常に有用だというのは、い ま世界的にもそういう方向になっていると思います。  例えば、イギリスでも50万人規模をもう数年も国民の中で議論して、なかなかスター トしていませんけれども、それは結局、そういう仕組みをどう作ったらいいのか、ある 程度広い範囲で使うことについての歯止めをどうしたらいいのか、そのあたりの議論が まだ完全には決着していないからだろうと思います。  現在までの日本の議論は、どちらかというとクローズドというか、いわゆる特定の研 究に対しての管理が中心で、あとデータベースとしてもほとんど連結不可能でスタティ ックなものであり、あとは自由に使えるというだけのものしか、まだあまり議論されて いないのではないか。いま世界でもそういう動きがどんどん進んでいますが、本当の意 味で医学研究にしっかり貢献できるようなダイナミックなデータベースを考えた場合、 現在のような状況だけではとても対応できない。そういう仕組みをしっかり議論して、 一定の枠内で同意をきちっと取った形でそれを進めるなら進めていく。いままでの倫理 指針とは枠組みの違ったものを構想していく必要も、たぶん今後の方向としてあるので はないか。そうしないと、なかなか生きた形の利用しやすいデータベースにならない。  そのときに、インフォームド・コンセントのスタイルがかなり重要になってくると思 います。2月のワークショップではブランケット・コンセントと言って非常に幅広くい ろいろなことに使うことについては、まだまだ抵抗がありました。ただ、これはまだし っかりまとまっているわけではないのですが、その中で出た議論としては、あるしっか りとした枠組みの中で、きちっとコンディションされた形の研究に使う。そういうのを しっかりと保証できるような枠組みとともに、インフォームド・コンセントが取られる ということであれば、おそらくいいのだろうと思います。ただ、その形がまだしっかり 根付いていないので、それをこれから議論していかないといけない。  だから例として出たのは、コンディションド・ユースという言い方で、ブランケット ・コンセントという、かなり茫漠としたものではない形の同意を、しっかり枠組みの中 で保証していくことを今後考えないといけないのではないか。それも相当時間をかけて 議論して、十分納得していただきながら進めることが、たぶん必要ではないかなと思い ます。 【南条委員】  少し的外れになってしまうことも恐れながらあえて言うのですが、考え方としてはバ ンクという、要するに溜めておいて、それをできるだけ有効にこういう時間軸と幅との 中で使っていくことだと思うのです。いま問題に出ていた入れと出しの2つの問題があ るのですが、1つの類型に当てはめるのではなく3つぐらいの類型にして、どれを選択 するか。それでうちのところはこうですよという形にする。だから、Aとしては汎用型 という形で、その場合は連結不可能が中心になるのでしょうけれども、そういうもので 例えば不特定の入れと不特定の出しにする。もう1つは目的限定型ということで、かな りクローズドサークル、会員制みたいなもので出し入れする。その場合は基本的には連 結可能というものも当然入ってくる。もう1つは、いまおっしゃったA+Bの間ぐらい のもので限定付きではあるけれども、汎用的な傾向を持つ類型に分けて、各々について インフォームド・コンセントのやり方も違うという形にする。  それで全部割り切れるということはありませんが、そうやっておいて、一遍これを選 んだら、もうこれで未来永劫というわけでなく、場合によったら移行することも可能だ けれども、一応そういうことで自分らも外に対して、うちの形はこういうものですと示 していくという形にして選んでいく。イギリスやほかの国ではそういう流れがあるとい うことなので、こういう類型にしておけば、自ずとみんなが使っていくものがだんだん 状況によって変わってくれば、そちら側にシフトしていくかもしれない。そういう柔軟 性があったほうがいいし、そうやっておけば外から見ても分かりよいし、中の人も自分 のところはこういうことだからこういう中でということが、全く素人の方から見た場合 には、分かりよくていいのではないかと思います。 【垣添座長】  具体的なご提案だと思います。 【豊島委員】  いま議論になっているところで、実際に動いている状況の紹介も多少しておかないと いけないかという思いで、言わせていただきます。先ほどおっしゃったアイスランドの 例やイギリスの例は、基本線としてはいわゆる病気ではない普通の人のフォローアップ をした長い観察をするためのものですから、いま日本で動いているものとはかなり違う ことが基本にあるということを承知の上でお聞きください。いま日本でやっている30万 人プロジェクトに関しては、スタートは連結可能な匿名化です。その代わり非常に複雑 な、逆にいうと追跡しにくい形の連結の状況を作っています。それは研究機関は連結可 能匿名化で、その間にこの場合は病気の患者のみで病気の転期、薬の効き方、あるいは 副作用をずっとフォローアップし、それとデータを突き合わせる。でき上がったデータ ベースは残しますが、最終的な研究機関が終わったときの一般的なバンクとして開ける ときには、連結不可能にして、でもデータベースとは連結できるような形です。だか ら、こういう疾患のこういうデータがほしいと言われたときに、その材料はお出しでき るという形がとられると、私はいまそう考えています。 【垣添座長】  大変具体的な形で、皆さんはイメージがくっきりされたのではないかと思います。 【栗山委員】  全く素人の発言で申し訳ないのですが、まずこれを見たときに、医学研究で言われる バンクとは何のことだろうかと思いました。一般の人がわかるようにここで使われてい るバンクとはこういうもので、みんなもこういうようにして参加してほしいということ がわかるような形にしていただければいいと思います。それには同意をとったり、説明 をしたりということが大事なことになると思うので、多分研究していらっしゃる医学界 におられる方々にとっては、もう説明するまでもなくこういうことなのだと思われるこ とが、一般にはわかりにくいということと、私などは医学研究の発展に使われるもので あるという目的がはっきりしていれば、本当に一般人は医学研究が少しでも進むことを 希望し、期待しているので、連結不可能とか、可能という問題もあまり縛ってしまっ て、それが医学研究に差し障りがあるのであれば、ある種の縛りは必要かもしれないけ れども、それほど気になることでなければ、最初の同意の部分で片付けられてどんどん 使われていっていいのではないかと素人考えでは思います。 【豊島委員】  現在の30万人プロジェクトの場合は、いまおっしゃったようなことを全部インフォー ムド・コンセントで説明しています。まず、ビデオを見せるところから、インフォーム ド・コンセントの説明を、ダブルで少なくともやっていますし、質問があれば全部答え ます。期間中はこういう形での連結可能で、その後は不可能。指定されている機関以外 にも将来は使われる可能性があるということも全部説明に入っています。その説明をし た上で、聞かれた方は大体80%以上、90%近くが合意して提供されます。 【栗山委員】  多分そうだと思います。もう1つ言わせていただくと、そのときではなく、常々こう いう研究の仕方があって協力するようにという要請があれば、もっといいのではないか という気がします。 【垣添座長】  バンクという言葉自体が一般の方には場合によっては分かりにくいということですの で、これは謙虚に受けとめさせていただきます。 【江口委員】  違った視点なのですが、バンクの運営に関することです。バンクというのはやはり永 続される必要があるだろうと思います。研究者が自分の講座を閉めると、いつの間にか どうなっているか分からないまま、なくなっていってしまう。いま、バンクと言われて いる名前の中に、かなり永続性をイメージしながらも、実際的には研究予算は3年なり 5年なりで終わっていくというときに、1つはバンクを閉めるときの規則というか、条 件も将来的には記載される必要がある。現在はバンクを作るとき、データを入れるとき にどうしようかという議論なのですが、本当にそれが維持されなくなったときにどうす るのかということも、将来は議論していただきたい。それに関係して、バンクの重要性 が高まれば高まるほど、バンクのバンクというか、銀行で言えば日本銀行みたいなもの になるかもしれませんが、何かバンク全体をコントロールする、コントロールするとい う言葉はよくないのですが、個々のバンクがうまく機能するような1つ上のレベルのバ ンクを国として考えていく必要が将来は出てくるのではないかと思います。 【黒木座長代理】  いまおっしゃった最後の点に関し、理研の筑波の研究所がそういう機能を持って、ゲ ノム遺伝子のバンクは全くやっていませんが、細胞や動物のバンクは中央という形で、 例えば最近ある大学のバンクがなくなったときに、そこを全部引き継いで、日本国内、 国際的にも配れるようにするとなっています。 【垣添座長】  限られた時間の中で、非常に多くの視点からご意見をいただきましてありがとうござ います。一応時間の関係もありますので、ここでこの議論は閉じさせていただきます が、いまご指摘いただいた点は、いずれも大変重要な問題だと思いますので、事務局で しっかり記録させていただきまして、何らかの形で今後の研究の発展に備えて活かさせ ていただきたいと思います。ありがとうございました。  次に議題の2、「遺伝情報等の個人情報保護における法制上の措置の必要性について 」事務局からご説明をお願いします。 【事務局】  法制化の議論について、資料2以降に基づき説明させていただきます。資料2では、 遺伝情報の取扱いに係る法制化について、いくつかいろいろ考えられることを網羅的に 並べさせていただきました。先生方はご承知のように、個人情報保護法においては、学 術研究を目的とする機関について、その取り扱う目的や学術研究の用に供する目的で取 り扱う場合、これは適用除外という形になっています。この場合、法では努力義務が課 せられていますし、また、行政機関、独立行政法人等については、各々の個人情報保護 法の適用対象になるということです。  さらに、法では個人データ5,000件以下の事業所を適用除外しているという形になっ ています。今回の指針において、法が適用除外としている部分を含め、当該研究を行う 機関がとるべき個人情報保護や、倫理上の観点から必要な措置を定めています。  そうした中でいくつか考えられる点があるのではないかということで列挙していま す。まず、法的規制を行うことの影響です。大きく2つの考え方があると思います。1 つが最初のポツで、研究分野において学問の自由という憲法上の保障がある中で、規制 の必要性や合理性をどのように考えるかという点があろうかと思っています。一方で、 個人情報保護を推進するという観点からいくと、法的規制を行った場合と、指針等他の 法で規制する場合、どのような実効性に差異があると考えられるかという問題があろう かと考えています。こうした中で、研究分野におけるそれぞれの良い点、悪い点でどの ような影響があるのかということで、いくつかの例示を挙げています。  1つは提供者に安心感を与えることによる研究の円滑な進展の面もあります。一方で 法律となると罰則等ということがあるので、そうした中で研究者の萎縮効果による研究 の進展の阻害等、また研究の進展等に即した制度を柔軟に運用することに対する阻害、 また、匿名化作業等に対する研究者の自主的な努力の阻害という影響もあろうかと思っ ています。  仮に法制化という話になった場合、いろいろ検討すべきことということで、いくつか 挙げさせていただいています。遺伝情報の対象範囲ということで、遺伝情報が示し得る 個人の遺伝的な特徴及び体質に関わる情報は、差別につながり得るものからそうではな いものまで非常に幅広いと考えていますが、こうした点をどう考えるのか。また、遺伝 情報は必ずしも遺伝的な特徴および体質を示す、または予測するものではないというこ とも踏まえ、何を法的に保護すべきなのかという議論があろうかと思っています。  また、遺伝情報の取扱いについてバランスのとれた規制のあり方ということで、遺伝 情報は研究分野を含め、非常に幅広い利用が予想されていますが、そうした中で法的な 規制の枠組みの必要性をどのように考えるのかということもあり、また、情報の漏えい を完全に防止するのは非常に困難ですので、そうした中で遺伝情報を解析する側と、そ の情報を別目的に利用する側、こういった中での規制のバランスを図ることが必要では ないか。特に、遺伝情報が差別的取扱いをもたらす場合への対応についてどう考えるの かということがあろうかと思っています。  その他、遺伝情報がもたらす利益とリスクを国民に対し正確に情報提供を図ってい く、的確な理解の促進をどのように推進すべきかということもあろうかと思っています し、また研究の円滑な進展を図るための制度面での必要な取組み、先般も議論になりま したが、試料等を提供する機関以外に所属する者であって、医療従事者以外の者がイン フォームド・コンセントの取得を行う制度を、どのような枠組みで推進すべきなのか。 また、後のほうで資料を用意させていただいていますが、諸外国における遺伝情報の取 扱いに係る法制体系についてどう考えるか、現時点では主要国でこういった解析研究に 特化した形で法制度を構築した国はないと思われるが、こういった中でどのように考え るか、というところが論点かと思っています。  以下、いくつか先般と同じ付属の資料を付けさせていただいています。資料3は「法 制化をめぐるこれまでの議論」ということで、法律ができたときの附帯決議、また個人 情報の保護に関する基本方針の閣議決定を付けさせていただいています。附帯決議です が、3番と5番に関係の箇所があります。学問の自由を妨げてはならないとする本法の 規定の趣旨を徹底することということがある中で、一方で5番で医療分野、国民から非 常に高いレベルで個人情報が求められる分野について、特に適正な取扱いの厳格な実施 を確保する必要があるということで、個別法について早急に検討しなさいとなっていま す。医療の中には参議院の附帯決議のところに書かれていますが、遺伝子治療等先端的 医療技術の確立といったものも含まれるとなっています。  資料4は、個人情報保護法の施行に関連して整備した指針等についてまとめさせてい ただいています。最初に医療関係ですが、医療一般分野として、本日参考資料で付けて いる診療情報関係で、医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのための ガイドラインのパブリックコメントをいま行っている最中です。また、研究関係につい ては、この3省合同、または2省合同、厚生労働省単独それぞれの委員会において、4 つの指針を現在パブリックコメントにかけているところです。  また、金融・信用分野においては、金融分野における個人情報保護に関するガイドラ インは10月29日にパブリックコメント終了となっています。また、経済産業分野の信用 分野における個人情報保護に関するガイドラインが、同じように10月29日にパブリック コメント終了となっています。  さらに、情報通信分野においては電気通信、放送、それぞれ現行ガイドラインの改定 や放送受信者等の個人情報の保護に関する指針を、いずれも8月31日に告示という形で 出しています。  また、事業全般については、個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を 対象とするガイドラインが10月22日に告示されています。その中で特に個人遺伝情報を 用いた事業分野のガイドラインは、現在パブリックコメント中になっています。  最後に雇用管理の分野です。雇用管理に関する個人情報の適切な取扱いを確保するた めに、事業者が講ずべき措置の指針を、7月1日に告示し、また、雇用管理に関する特 に健康情報を取り扱うに当たっての留意事項を、10月28日にパブリックコメント終了と いう状況になっています。いくつか最近パブリックコメント終了になったものの新しい ものを添付しており、それが資料5になっています。  まず、保険関係、先ほど言った金融分野の関係です。10月29日にパブリックコメント 終了となったものですが、本ガイドラインの位置付けの後、中段に「内容」と書いてあ りますが、保健医療に関する情報もセンシティブ情報として位置付け、いくつかの要件 を除くほかは取得、利用、または第三者提供を行わないこととするとなっています。適 用除外の例としては法令に基づく場合、人の生命、公衆衛生の向上等の適用除外例が設 けてあります。  さらに資料5の次頁、2番で各号の事由を逸脱した取得、利用又は第三者提供を行う ことのないよう、特に慎重に取り扱うこととされています。  また、雇用関係の情報ですが、雇用管理に関する個人情報のうち、健康情報を取り扱 うに当たっての留意事項ということで、10月28日にパブリックコメント終了になったも のです。趣旨のところに書いてありますが、健康診断の結果、病歴その他の健康に関す るものの取扱いについて、指針に定めるものに加えて、事業者が留意すべき事項を定め たものです。内容としては第3の4の(4)、下線が引いてあるところが中心でHIV 感染症、B型肝炎といったものに感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関 する情報、さらに色覚検査等の遺伝情報を、職業上の特別な必要性がある場合を除いて は、事業者は労働者等からは取得すべきではないと規定されています。  資料5までの説明は以上ですが、本日は先ほども冒頭にお話しましたように、鎌谷委 員と辻委員からそれぞれご意見をいただいています。あまり要訳してお話するのもいか がかと思いますので、後でお読みいただければと思いますが、簡単に触れさせていただ きますと、鎌谷委員のご意見は法律で規制することについて強く反対せざるを得ないと いうことで書かれており、論調としては、法律で規制されることによって、かなり強い 規制がかかって萎縮的な効果があるのではないか。それによって研究の進展に支障を及 ぼさないかというご主張ではないかと思っています。また、辻委員のご意見は法制化に ついて、メリットが考えられる一方で、法規制が研究の発展を阻害しないか、柔軟な対 応を困難にするのではないか、そもそも法律の規制をする前に行うべき課題があり、ま ずやるべきことがほかにもいくつでもあるのではないかということで、まずこういった ことをきちんとやった上で、慎重に他方面からこの法制化については総合的に討議して いくことが望ましいのではないかというご意見です。  いずれにしても先生方にはそれぞれいろいろお書きいただきましたので、是非お読み いただければと思っております。いろいろな団体の意見として、先ほどご紹介しません でしたが、青いファイルの中に参考資料として、日本学術会議から法制化関係のご意見 が述べられています。こちらも後ほどご参照いただければと思います。海外の状況につ いては、河内室長から説明させていただきます。 【河内室長】  海外の状況についての資料は平成14年度財団法人バイオインダストリー協会の報告書 から、最近の状況については科学技術文明研究所の協力をいただいて作ったものです。 横軸にいくつかの国、縦軸には個人情報に関する一般的な法律の規定ぶり、遺伝情報に 関する制度等、最後に雇用・保険における法制度という書き方をしています。  日本の個人情報保護法にあたる法律としては、各国それぞれデータ保護法、あるいは プライバシー法といった法があり、現段階の規制の手法としてはアメリカの自主規則施 行、あるいは日本の行政指導、または欧州の法律施行といった形で分類されますが、い ろいろな形態をとっています。特に1980年代初頭のOECDの理事会勧告、いわゆるプ ライバシー8原則に基づき、90年代のEU指令の流れの中で主要なEU加盟国について は、国内法への反映が行われてきたといった状況になっており、イギリス、ドイツ、オ ーストリア、スウェーデン、フランスがこれに当たります。特にEU指令の8条に、セ ンシティブ情報の規定というのがあり、人種、民族、政治的見解等々、健康情報につい てはセンシティブ情報ということで、その取扱いは原則禁止で、それを取り扱う場合に は本人の明確な同意などの要件が必要であるということです。したがって、医療、ある いは診療情報といったものについても、遺伝情報とともにその範囲に含まれていると考 えています。  アメリカについては民間部門の一般的な法律というものは存在しませんが、医療情報 についてはHIPAA法というプライバシールールがあり、医療保険の移転とそれに伴 う責任に関する法律、企業は被用者が別の州の企業に転職した場合に、前に掛けていた 保健医療、保険に関する情報を引き継ぐことを可能とする法律です。それを作る際に、 医療情報の標準化とともに、プライバシー保護のルールを作る必要があるということか ら、そういった規則ができたということで、2003年4月から適用されているという状況 のようです。  オーストリアとスウェーデンについてはそれぞれ遺伝子組換え生物の規制を含む遺伝 子操作、あるいは遺伝子検査における遺伝情報の取扱いについて規定をしており、オー ストリアでは遺伝技術法で提供者の明確な書面による同意のある試料、または匿名化さ れた試料を用いた遺伝分析による遺伝情報が利用できるという規定になっています。  遺伝情報の雇用・保険での利用について特別な規定を置いている国がオーストリア で、遺伝技術法で雇用と保険において遺伝情報の取得、要求、受入れ、利用することを 禁止しているということで、違反者には罰金が課せられる形になっています。  イギリス、オーストラリア、アメリカについては保険、あるいは雇用において遺伝情 報利用の法規定がありませんが、差別禁止法的な法律の中で対応することが考えられる 状況になっています。フランスについては情報処理、情報ファイルおよび自由に関する 法律という中で、遺伝情報について医療研究、医療目的以外での個人遺伝情報の自由化 された取扱いは、国家の委員会の許可を必要とするということで、保健医療法の保険へ のアクセス規定ということで、保険会社による遺伝子検査受診要求等を禁止していると いうことです。  表には書いていませんが、スイスの最近の動きとして、ヒトの遺伝学的検査に関する 連邦法というのが去る10月8日の議会で可欠されたということのようで、研究目的での 遺伝検査には適用されませんが、医療分野、保険分野、労働分野について差別禁止、本 人の同意、データの保護、遺伝子検査を行う機関は行政の認可を得ることを規定してい ます。保険あるいは雇用において原則として遺伝検査を行わないこと、DNA鑑定にお けるルールについても併せて規定しているといった状況のようです。 【垣添座長】  先ほどご説明いただいた資料3の1頁目、国会の附帯決議事項などによって、この委 員会としても個人情報保護に係る個別法の必要性について検討を求められています。資 料2は法制化に関する検討を行う際の論点整理を事務局でしていただいたものですが、 これを踏まえながら、併せて本日ご欠席の鎌谷委員と辻委員のご意見なども参考にし、 約1時間くらいでしょうか、法制化に関してどう考えるかというご議論をしていただけ ればと思います。もちろん今回で結論を得ることではありませんし、必要でしたら、さ らに引き続き議論を進めさせていただきたいと思いますが、とりあえずこの時点で何か ご意見がありましたらどうぞ。 【南条委員】  素人の立場から申し上げるのですが、結論的にいうといまの時点で法制化を検討すべ きでないのではないかと思います。あくまでも遺伝子解析研究に限定した法律のことを 申し上げているのですが、この国会の附帯決議や閣議決定などを見てみると、志向して いるところは一般に幅広く利用される、特に商業目的で利用される場合に、この遺伝子 情報で差別するとか、人権にかかわる問題を犯すことがないようにという趣旨に思える のです。だからそういうものについては罰則規定を含めた法律が必要だと思うのです が、研究ということに限った場合は、いささか性格が違うと思うのです。ここは欠席の 委員のご意見にもありますが、あまり縛ると、本当に研究がうまく進まなくなると、こ こは急速に国際競争も激しくやっているところですから、相当な自由が保障されていな ければいけないと思うのです。ですから、いまの時点ではこのガイドラインがある以上 は、これをきっちりやって、それでもなおかつ今後いろいろな問題が表面化していった ら、そこで考えればいいのではないか。ですから、いまはガイドラインということに限 っておいて、法制化はもう少し時間をかけるべきではないかと思います。 【高芝委員】  私もいまお話いただいたこととほとんど同じなのですが、資料2の検討課題の最初の ところで学問の自由という憲法上の保障というところの指摘をいただいています。た だ、憲法上の保障という意味で言いますと、個人の人格を尊重していくという、こちら も憲法上の問題がありますので、学問上の自由のみが憲法上の秤に乗るということでは ないと思っています。その意味では両方の利害のバランスを測るという視点になるのだ ろうと思うのですが、他方、この論点については具体的な実害というか、リスクという か、その事例が私自身はまだ見えてきていないところがあります。そういう状況の下で は、この資料2で書いていただいた学問の自由という憲法上の保障があることはそのと おりですので、今回の指針の実効性を見極めていくことは、1つの方向ではないかと私 も考えています。ただ、報告の中にもありましたが、差別的な取扱いをもたらす場合も 危惧されるところはあり得ると思います。その意味ではそういう事態が現実として出て くる可能性も含めて、慎重に実情を把握していただければありがたいと思っています。 【堀部委員】  ただいまお二方から発言がありましたが、もう少し遡ってお話しますと、1999年11月 19日に高度情報通信社会推進本部個人情報検討会という私が座長を務めた検討部会で、 基本法と個別法という組み合わせで、日本における個人情報保護システムのあり方を出 しました。高度情報通信社会推進本部の本部長は内閣総理大臣ですが、全閣僚がメンバ ーで、基本法の部分について別途専門的に検討するということを、私のほうでもお願い をして、そういう検討が2000年2月から始まり、2000年10月に大綱が出ました。  それを基に、内閣において現在の形になっている個人情報保護に関する法律の法案化 がなされました。このファイルの個人情報保護法に、法的な側面を踏まえて議論してい ただければということで申し上げるのですが、第6条で法制上の措置等ということで、 第6条第1項は国の行政機関、第2項は独立行政法人、この第1項と第2項はそのうち になくなりますが、現行法では第3項までありますが、第3項で「政府は、前2項に定 めるものの他、個人情報の性質及び利用方法にかんがみ、個人の権利利益の一層の保護 を図るため特にその適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報につい て、保護のための格別の措置が講じられるよう必要な法制上の措置その他の措置を講ず るものとする」ということで、法制上の措置を講ずるものとする根拠を法的にはここに 置いています。  これまでの議論はどこに根拠を求めるかですが、この法制上の措置以外のその他の措 置ということもありますし、あるいは第8条は「国は、地方公共団体等が策定し、又は 実施する個人情報の保護に関する施策及び国民又は事業者等が個人情報の適切な取扱い の確保に関して行う活動を支援するため、情報の提供、事業者等が講ずべき措置の適切 かつ有効な実施を図るための指針の策定その他の必要な措置を講ずるものとする」と規 定していますので、これを根拠にということもあるわけです。第8条は法制上の措置で はないので、国としては今回のような指針を示すということが求められています。  この法案の審議の過程で、ご記憶の方も多いかと思いますが、特にメディア規制法だ ということで、非常に多くの反対が特にメディアから出てきました。そういう中でこの 法律をどうするのか、途中で2002年12月13日の臨時国会の終了のときに政府としては一 旦廃案にして、翌2003年3月7日に修正法案を出し直しました。特に行政機関のところ は罰則を設けるということで対応しました。  この基本法といっている個人情報保護法については、現行のものだと50条で特にメデ ィアとの関係についてより明確化するということなどをしました。そういうさまざまな 経緯の中で、国会においても相当の時間をかけて審議をし、その結果出てきたのが資料 3にある附帯決議です。国会でも基本法と個別法との組み合わせということで、個別法 についてはいま説明した第6条に根拠があるので、それについて早急に検討することと いうことで、その分野を具体的に挙げています。これは先ほど言った1999年11月19日に 出した中間報告でほぼ私が挙げたものと共通しています。  それを受けて、今年の4月2日の閣議決定は、2の(3)の(2)のところで、「個別 分野において講ずべき施策」としてあがっています。(1)にありますように「このよう な自主的な取組は、法の施行後においても、法の定めるルールの遵守と相まって、個人 情報の実効を上げる上で、引き続き期待されるところであり、尊重され、また、促進さ れる必要がある。このため、各省庁は、法の個人情報の取扱いに関するルールが各分野 に共通する必要最小限のものであること等を踏まえ」ということで、この個人情報の取 扱いに関するルールというのが必要最小限のものだ、そういうことを踏まえて是非検討 してほしいということになります。もう1つ、この法が必要最小限のものである、ミニ マムスタンダードであるということも明確に示していますので、そういう観点から第6 条の趣旨に則って、何かこの分野で法制上の措置が必要かということを、是非検討して いただきたいと思います。  この閣議決定を受けて、各省庁の連絡会議で個人情報保護担当大臣からも、ガイドラ インについては秋口まで、個別法については年内に結論を得ることという要請がありま して、事務局ではそれに則って今日この問題を議論するという形のテーマ設定になった のではないかと思います。  そういうことで、是非この点はどちらの結論になるかは先生方専門の立場でご意見を お出しいただければと思いますが、特にこの法律をどのようなものにするかという議論 をした立場からしますと、是非ここで一度個別法の必要性についてどうなのか、十分意 見交換をしていただきたいと思います。 【垣添座長】  堀部委員からこれまでの歴史的な経緯を踏まえて、また法律を定める場合の法的根拠 も含めてお話いただきましたが、ほかにはいかがでしょうか。 【宇都木委員】  いま堀部委員から全体のお話をいただいたのですが、今日の事柄には「遺伝情報等」 と書いてあるのですが、資料2は「遺伝情報」となっていて、先ほどからの議論です と、研究というところにむしろ焦点が絞られるというような話になってしまっていて、 いま堀部委員がお話になったのは医療情報全体についてのお話だったと思うのです。こ の委員会がどういう位置付けなのか、私自身もよくわからないのですが、結論的に言う と、私は遺伝情報というところにも限らないで、医療情報全体について特別法が是非必 要だという意見であることをまず申し上げておきます。  この3つのガイドラインが作られる過程でも、最初に遺伝情報が問題になり、次が疫 学で、最後に臨床研究という覆う範囲からいうと、狭いところから始まって広いところ にきてしまって、しかもいちばん厳しく論じなくてはいけないところから始まって、最 後に臨床研究になったという経緯があって、これが議論をいろいろ歪めましたし、誤解 も生じてきてしまっていたと思うのです。ですから、この委員会がどうなるかはわかり ませんが、歩み方としては医療情報全般についての特別法のあり方を考えて、その中で 研究、そして遺伝というように乗せていかないと、議論が歪むのではないかということ を申し上げておきます。この委員会がどういう任務を持つものなのかがわからないもの ですから。 【垣添座長】  この委員会は3省ゲノム指針がこれまで3年間実施されてきて、今度来年4月から個 人情報保護法が本格的に実施される。それに関連してこの3省ゲノム指針が、法律的に 整合性に欠ける部分がないかどうかを検討するということですので、この3省ゲノム指 針という観点からするとやはり研究が中心的な話になります。いま宇都木委員がご指摘 の医療情報全般に関する法的な規制に関しては、もっと広い概念なので、この委員会で 議論する話よりも、もう数回り大きな話になるかと思って私は伺っておりました。 【宇都木委員】  そういう機関はあるのですか。 【事務局】  この委員会そのものについてはいま座長がおっしゃったように、遺伝情報ということ になろうかと思いますが、診療ないしいろいろなものを含めて、当然政府全体、また診 療は厚生労働省ということになろうかと思いますので、そうした中で当然受け止めさせ ていただいて、関係の部局といろいろ今後検討する際にそういったご意見を踏まえて対 応していくことになろうかと思います。 【佐々委員】  先ほど個別の法律について12月までに決めるということでしたが、先ほどの積み残し の議論から出てきたことは、イギリスの例も考えて基本的な議論が必要であるが、それ を日本はしてきていないということだったと思うのです。この委員会についてもとても タイトに一生懸命やらなければならないし、またいまも問題が出てきてからすればいい というご意見なのですが、バンクといっても本当にお金を預けるバンクを想像する人も いれば、そうではないバンクをいつも思っている研究者もいるような状況の中で、後か ら問題が起きればそれから考えればいいでは、やはり駄目ではないかと思うのです。  それで、私は専門というわけではないのですが、ずっと追い掛けているのは遺伝子組 換え食品のパブリカン・アンダースタンディングで、もう7年間やっています。結局、 少ない人数でも声が大きければ、全国の遺伝子組み換え作物試験栽培に規制の動きが自 治体単位で出ています。ということは、やはり新しい技術が出てきたときに、きちんと した議論をしていないと、少ない人数でも声の大きい人が、自治体や県の議会を動かし たり議員を動かし、条令やガイドラインができてきているのが現実なのです。問題が起 こってから後からすればいいといって、積み残しもこの状態でやってきて、個別法かど うか法律の専門家と医学の専門家と、委員会の中でも完全な意思疎通ができていない状 態で、12月までに法律を作ってしまうかどうかを決めるというのも、随分大胆な話では ないかと思います。イギリスではヒトゲノムについて一生懸命に長く議論してきまし た。同じ問題がナノテクノロジーでも生じてロイヤルアカデミーで夏前に、国民の理解 や公開議論が必要だという報告書を出しているのです。今、議論していることはやはり 5年くらいは考えないといけないことだと思います。本当に12月までにこの委員会はそ んな大事なことを決めてしまうおつもりなのかどうか、伺いたいと思います。 【堀部委員】  年内に結論をということは、個人情報保護担当大臣からの要請で、私がそう言ってい るわけではありません。それから、宇都木委員が言われたことですが、国権の最高機関 である国会の委員会の決議では、こういうように具体的分野に入っていますが、先ほど 言いましたが法律では第6条でかなり広く、法制上の措置又はその他の措置を講ずるも のとすると入れていますので、決議も念頭に置きながら、この分野でどうなのかという ことで検討していただくのがいいのではないかと思います。 【垣添座長】  佐々委員ご指摘のように、いつも大変タイトな状況で議論を求められる。特にこうい う検討会はそうです。もともとの3省指針も、非常に限られた期間の中で議論を進め て、まとめられたものですが、今回の状況も同じようなことで、それは多分委員の皆さ ん全員が感じておられることだと思います。ただし、スケジュール上はいまのようなこ とが求められているので、この検討会としては一定の結論を出さなければいけないとい う状況に置かれているということです。  いまの件で事務局から何か発言がありますか。 【高山企画官】  医療の状況の補足です。医療の分野については、そもそも個別法で係っているものに ついてガイドラインを作りなさいという形です。本日机上配付資料の「医療・介護事業 者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン(案)」ということで、10月 27日開催の委員会で取りまとめを行って、いまパブリックコメントを始めたところで す。こちらの個別法の検討については今後という形で伺っていますので、本来はその検 討状況も今日お出しして、ご議論の参考にしていただければよかったのですが、そちら の検討会がそういう状況なので、研究分野だけ先行でご議論していただいているところ で申し訳ありません。  事務局としては堀部委員からもありましたように、12月までに一定の方向性を見出す ということなので、どのような形の方向性が出るか、これからの議論によりますが、そ の中でここではこういう一定の方向性は示すけれども、さらに引き続いて検討すべきな のか、あるいはガイドラインについてその実施状況を見ながらという形になるのか、い くつか議論の結果、取りまとめ方はあるかと思いますので、もう少し先生方にはいろい ろな観点から、今日はご意見いただければと思います。 【垣添座長】  繰り返し申しますが、本日何か結論を得ようという気持はありませんので、法制化の 問題に関して自由にご発言いただきたいと思います。 【江口委員】  私が法制化は考える必要があると最近思い出したのは、今回議論させていただきまし た倫理指針において、匿名化の連結可能、連結不可能などいろいろなことが議論されて いますが、それはある面で押さえ付けるというか、研究をある面で制約していこうとい う枠組みの中で保護しようとしているわけです。それを本当に実効性のある指針として 活かしていくためには、基本的には遺伝情報に基づいて差別してはいけないということ を、社会的、法制度的なのか、文化的かもしれませんが、それを全国民が理解できるよ うな状況にもっていく必要があるのだろうなと思います。それが最も適切なのが、1条 だけでも私は必要だと思うのですが、遺伝情報に基づいて差別してはいけない。それは 個人が生まれたとき以降の個人の責任の下に生じたものではないのですから、それを基 にして、何らかの保険なり職業なり、いろいろな面で差別してはいけないと、それだけ は入れておくと、おそらくいろいろなガイドラインが研究者の桎梏にならないで、もう 少し自由な形で研究できる文化的な背景ができるのではないかと思います。 【垣添座長】  いまのご発言に関しては、この検討会で何度もご指摘いただいています。私自身もそ の重要性というか必要性は強く認識しています。個人の人格の保障という点からいう と、新たに最近は遺伝情報によって人が差別されてはいけないという問題が起きてきて います。これを何らかの形で法の中に盛り込むということは、この議論とは少し離れる のかもしれませんが必要なのではないかと思います。この作業を進めていく上で事務局 で何かお考えはありますか。 【事務局】  これも宇都木委員のご議論とも共通点があろうかと思いますが、年内に法制化につい て一定の結論ということで、それはもうこれで法制化をしませんとか、しますというこ とに、もちろんそうなるかもしれませんし、そうではなくてもう少し引き続いて、こう いった論点についてやらなければいけないので、少しフォローアップをしながら議論し なければいけないという結論になるかもしれません。これはいろいろな意見のまとめ方 があるかと思っています。また、その中に遺伝情報以外のものについても含めてどうな のかということについては、委員会の範囲を超えている部分はあるかもしれませんが、 そういった点についてもいろいろ踏まえた上で、この法制化についても議論をしていか なければいけないのではないかということで、報告書の意見の中に入れておくやり方は あるかもしれません。その辺も含めて議論していいと思います。最終的に12月末までに どこまでの結論を、となりますと、先ほど言った遺伝情報の法制化というところについ て、とりあえずどのような方向なのかということが、ご議論いただければ助かると思っ ています。 【黒木座長代理】  現在このゲノム指針に関してもそうですし、疫学、遺伝子治療といろいろな指針が作 られていますが、その一つひとつについて個別法を作るかどうかというと、私は作らな いでやったほうが、学問の進展にも対応しやすいし、問題が出たときに修正しやすいと いう利点があると思います。ですから、これは個別法ではなくて指針でいいと思ってい ますが、ただ、現在進められている指針の根拠となる法律がないということは、何か空 中に楼閣とは言いませんが、基本がないということに非常に不安を覚える点はありま す。例えば、先ほど基本法という話がありましたが、生命倫理基本法、個別には入らな いで非常に基本的な問題を取り上げる。例えば差別の問題、生殖細胞に遺伝子を入れな いとか、そういう非常に基本的なところで、理念に近いものをきちんと押さえておくと いうことがあって、その上に指針ができてくるというのが本当の姿だと思っていますの で、そういうのはどこかで作って、是非考えていただきたいと思います。  これは3省庁合同の会議なのですが、その場で言うのも少し変なのですが、例えば臨 床は厚生労働省でやって、研究は文部科学省でやるといったような、かなり無理な縦割 りが行われているわけです。最初のゲノム指針のときも研究と臨床とはそんなに簡単に 分けられないものだということを言ったのですが、そのような点も是正するために、生 命倫理基本法といった非常に基本的な考えを提供する法律が是非必要ではないかと思っ ております。 【具嶋委員】  江口委員が言われたことが、ゲノム指針の法制化だとすると私は反対です。雇用、保 険加入などの差別禁止についての法制化は必要だと思いますが。4年前のミレニアムゲ ノム指針、3年前の3省ゲノム指針が施行されて、アカデミアの研究者も企業も指針を 法律に近いものとして遵守して研究を行ってきました。適切なゲノム研究の促進とこれ を我が国の医療に役立てるためには研究の指針をすぐに法制化する必要はないと思いま す。 【江口委員】  具嶋委員は誤解があると思うのですが、倫理指針そのものを法にまで高めようという ことは何も言っていないのです。先ほど話がありました生命倫理基本法といったもの、 そういう立脚するものがないと、研究者にとって倫理指針そのものがおそらく桎梏に感 じられ、環境がないまま研究者が自縛していくようになるだろうと思います。そうでは なくて、別途遺伝情報に基づいた差別は禁止するということ、それは研究者は反対しな いと思いますし、鎌谷先生の意見でも反対はしていないわけですから、別途つくる必要 があるのではないかと思います。それこそが研究を本当に自由に進める文化的背景をつ くる根拠だと思っています。 【垣添座長】  生命倫理基本法と非常に密接に関連する議論だと思います。江口委員の指摘されたよ うに、差別的な取扱いをしないという大原則をきっちり法律の上で謳っていくべきだと 理解しております。 【位田座長代理】  なぜ、倫理指針は守られているのかという問題だと思うのです。守らないとどうなる のか。言い方は悪いのですが、やはり皆から後ろ指を指される、批判されるからであ り、余計に研究がやりにくくなるから、本来ならば自分たちで決めておかなければいけ ないのですが、国が決めるほうがより客観性があるし、一般の人にも研究者達はみんな 守っているということがわかってもらいやすいからです。  私は研究者の方々を基本的には信頼していますが、いろいろな問題が生じてきたとき に、指針というのはある意味で法律の基礎のないもの、もちろん罰則もありませんか ら、基礎のないもので縛られていて、問題が出てきたときには、どこに持って行っても なかなか解決のしようがない。つまり、先ほど江口委員が言われたように、基礎のない ルールに乗ってやっているのです。生命倫理基本法という名前を付けるかどうかは別と して、遺伝情報という意味で大きなきちっとした枠組みを決めておく、もしくは基本原 則をきちっと決めておき、それに基づいてルールがつくられていて、皆がちゃんと遵守 しているという形になるのが本来のやり方だと思います。  研究の自由は憲法で保障されているのですが、憲法も法律ですから、憲法がなければ 研究の自由は保障できないことになるので、いちばんの基本は、憲法に戻ってくる。他 方、憲法は個人の保護もしくは尊重というのも、どちらが大きいかという問題ではな く、研究の自由と並んで両方とも尊重されるべきです。個人遺伝情報が個人の保護に極 めて大きな関わりがあり、もし、それが悪用されるのであれば、それは当然憲法上の価 値が損なわれているということですから、これはやはり保護する必要がある。それを法 によるのか、指針でいいのかという問題だと思いますし、それが出発点だと思います。  辻委員や鎌谷委員のメモを見ていると、法に対する嫌悪感、不信感のようなものが科 学者側にあり、最初から法はこのようなものだ、我々を拘束するものだという意識が極 めて強いような気がするのです。むしろ、問題はどのような法が必要なのかという議論 をすべきなのに、法をつくってしまうと研究が阻害されると、その議論は順が逆ではな いかと思うのです。  私は、特に研究に限定した個人遺伝情報に関連した法は必ずしもつくる必要はないと 思いますが、個人遺伝情報一般についての法、特に医療や医学研究、薬学といったもの 全体をカバーするような法規範というものは必要ではないかと思います。それは基本法 という名前を付けてもいいと思いますが、要するに基本原則だけが書いてあり、それに 違反した場合には罰則がかかるということだけが決めてあり、細かいものは基本法に基 づく指針をつくればいいわけです。つまり、いまつくっている指針と同じ内容のことを 言っているわけで、もし、同じ内容のことが法に基づく指針と、法に基づかない指針と 同じようにつくられたとしたら、お守りになるほうは中身が一緒であればどちらでも同 じはずです。にもかかわらず、法で決められるのは嫌だというのは論理的にはおかし い。  12月までに決めろというのはなかなか難しいので、拙速は困るのですが、しかし問題 が起きてからというのは、これまで日本が法律をつくってきたやり方なので、問題ごと の対応をしていると、特に個人遺伝情報や個人の保護という問題が関わっているとき に、問題が起きてからでは取り返しがつかない可能性があります。少なくとも、Aさん ならAさんという個人にとっては取り返しのつかなくなる可能性があるので、そのよう なことが起こらないようにこれからどうするかという議論をしているときには、最初か ら法は駄目だということではなく、法も含めて議論をし、どんな法ならば適切であるか という議論をしておくほうがいいと思います。いくら法で決めようとしても無理だとい うことであれば、そのとき法をやめればいいわけです。私は法律家ですから比較的法に 近いですが、最初のスタンスから少し違っているような気がします。  先ほど出てきたように、いろいろな指針があり、同じ概念を使って本当に一貫した形 でルールがそれぞれの指針を通じてつくられているかというと、必ずしもそうではない ように見えて、これが問題ごとに、もしくは分野ごとにルールをつくっていくことの非 常に大きなマイナスになっていると思うのです。個人遺伝情報はどこで扱っても個人遺 伝情報ですから、やはり基本的な原則を決めることが必要だと思います。  諸外国を見てみると、確かに個人遺伝情報に限定したものはないのですが、センシテ ィブ情報についての規定はいろいろな国であるわけです。個人遺伝情報は、まさにセン シティブ情報に関わっているわけですから、日本の個人情報保護法がセンシティブ情報 を含んでいないのであれば、どこかでセンシティブ情報に関する法律のルールはやはり つくっておかなければいけないし、そこをきっちりしておかなければ、差別の問題を避 けることができなくなってしまう。差別を禁止しますと言うだけではなくて、差別が出 るいちばんの元は個人遺伝情報だとすると、それを保護することから始めないと、結果 的にマイナスが出てきたからそこだけを封じておくという話では基本的にはないと思い ます。  個人の尊重というものは法で保護するべきものであると同時に、研究の自由も保障す るような内容の法であれば、研究者がなぜ駄目だと言われるのかはよくわからないので すが、法律だから駄目だというのはちょっとやめていただきたいと思います。 【豊島委員】  位田座長代理が言われるとおりだと思います。見ていただくとわかりますが、各国の ところでいちばんポイントになっているのは、モラトリアムか法律かは別として、差別 禁止が入っているのです。研究の条項は少なく、いま日本は差別禁止がなくて規制ばか り入っているのです。そうではなくて、いちばんのポイントは差別禁止であって、その ためにどうしたらいいか。どうしたらいいかで差別禁止は言わなくてもいいというの を、そこでやっていくからものすごく閉塞感が来るのです。いま江口委員も言われたよ うに、差別禁止が根本にあるのだったら、そこを表面に出した法をつくっていただき、 後は、それにうまく合致するようなモラトリアムをどうしたらいいかということをやっ ていけばいいのではないかと思います。私は全く同じ意見ですが、全く逆から考えたよ うな気がします。 【福嶋委員】  やはり、法律の専門家と研究者との間のコミュニケーション不足だと思います。我々 が法律のことをよく知っていないということは事実だろうと思います。いま、研究の進 展は非常に急速で、ガイドラインであれば何年かごとの見直しで、比較的それぞれの状 況に見合ったガイドラインができると思うのですが、法律でどうなのかということにつ いて全然知識がないので、どうしても拒否反応が出るということはあると思います。私 自身は遺伝情報が漏れたとしても、差別さえなければいい社会だと思いますし、そのた めに社会の情勢、いろいろな遺伝というものについて全国民が知る機会、お互い顔が違 うということは遺伝情報が違うということですから、お互い差別しないことが当然の社 会だということをつくっていかなければいけないと思うので、もっと教育の予算を配分 して社会全体のレベルを高めていく必要があると思います。  それとは別件ですが、これから法制化の議論をする際に、いまディスカッションにな っているキーワードとして3つあるのです。それは「医療」「研究」「遺伝情報」で、 今回は遺伝情報についての法制化ということで出されていますが、遺伝情報に関してU NESCOの宣言では、医療と研究と法的措置と三分野出ています。その中で、ここで は研究だけということになると思います。一方、医療ということになると、別の委員会 で審議されていると思いますが、医療における個人情報の扱い方、医療情報をどう扱う かということと、その医療情報の中に遺伝情報も一部含まれていることがあると思いま す。  研究に関しては、ここはヒトゲノム遺伝子解析研究ですが、これとは別に臨床研究、 疫学研究というものがありますので、お互いが複雑に絡み合っていて、法制化と言った 場合、どこの部分を法制化するのかディスカッションしてくださいと言われても、なか なか整理できないのです。そのようなものを全部共通で法制化を考えるのか、あるいは 分野ごとに考えるのかということを、これから議論する際には整理していただく必要が あると考えます。私は全部引っくるめたものがいいと思っていますが、何をディスカッ ションするかを整理として詰めていただければと思います。 【垣添座長】  いまの福嶋委員のご指摘は宇都木委員、黒木座長代理からも指摘されたことだと思い ますが、次回の議論の際には、その辺りを少し事務局で整理していただければと思いま す。 【黒木座長代理】  先ほど位田座長代理から、研究者は法律と言うと嫌がるという話がありましたが、そ れは法律がつくられると簡単には変えられないだろう、10年、20年は変えられないだろ う、そして法律がこうだからということで、かなり強圧的で融通性がなくなってしまう のではないかという懸念があるからだと思っています。いま基本法という形で、差別を しないといった原理、原則を出すのであれば我々はいいだろうと思い始めているわけで す。そこで質問ですが法律の中に基本法と、基本が付いていない普通の法律があります が、基本が付いているというのはどのような意味なのでしょうか。 【堀部委員】  いままでの議論を伺っていると、本日のテーマの設定がやや一般的過ぎるのではない かと思います。「遺伝情報等の個人情報保護における法制上の措置の必要性について」 とありますが、むしろ私の理解では、すでに倫理指針がつくられていて、そこに個人情 報保護法ができ、今度は個人情報保護法を基礎に倫理指針を見直さなければならない。 この見直しは、それを含めて用語なども法律に則って対応するということですから、個 人情報保護法そのもので、ある程度の法的な保護措置は講じられている。それに加え て、特別のというか、個別の法律が必要かどうかというのが今日のテーマ設定だと思う のですが、そこはいかがでしょうか。 【事務局】  まさに、委員が言われているところがこの委員会の趣旨だと思います。それをまた議 論する際に、どうしても遺伝情報全般について睨まなければいけないという点について ご意見があればと考えています。 【堀部委員】  個人情報保護法も最終的には罰則が付いている法律ですが、それに違反しないように という形で議論を進めています。また、第50条で学術研究の場合は適用除外をしていま す。しかし、そうでない分野、民間部門における研究はどうなのかという問題を少し提 起しましたが、個別法がさらに必要なのかどうかという議論になってきています。先ほ ど私が基本法と言ったのは、最初の構想の中で基本法と個別法の組合せを提案しまし た。その基本法というのはかなり日本特有な法であると言ってもいいと思います。法律 学の分野で基本法と言うとドイツ憲法(ドイツボン基本法)というのがあり、それを指 す概念でもあるのですが、日本では教育基本法をはじめ、基本法と称するものが二十い くつも出ております。その中にもかなり強制を伴うようなものも入ったりしています が、大体は理念を謳うもの、先ほど、黒木委員が言われたような原則を謳っているとい ったものがあります。  今日の議論を伺っていて、個別法の必要性は必ずしも指摘されていないように思いま すが、そのような中から議論の発展として、仮称ですが、生命倫理基本法のような黒木 座長代理が言われたものを何か1つ日本で定めることにより、差別的取扱いの禁止をは じめ、この分野特有の問題を扱い、それを指針と併せて運用していくこともあり得るの ではないかと思います。現行の個人情報保護法第6条の法制上の措置というのも、格別 の措置が必要な分野についてそう言いますので、何か発展する形で基本法というものを 構想するということもあり得るのではないかと思います。位田座長代理も強調されたよ うに、法というのは敵視されるところがありますが、逆に法ができることによって保護 されるという側面もあるということを、是非ご理解いただきたいと法律学者の立場とし ては強調しておきたいと思います。 【栗山委員】  指針についていろいろな見直しがされたわけですが、私は個人情報保護法というもの に基づき、いろいろな指針の見直しがなされたと思っております。3つでしたか、4つ でしたかやった中で、同じような傘をかければいいと思ったものもあったので、法律の 委員の方々が言われている、全体を包括したような法律ができれば、それはそれで大変 わかりやすくなるのではないかと思います。指針だと小回りが利いていいという面と、 いま、とにかくみなさんは医療や医学研究の発展ということに重きを置いて考えている ので、そこから何か悪用するのではないかという懸念がないように見受けるのですが、 将来そのようなことが出てくる可能性もあるので、そのようなことを考えれば、何か指 針とは全く違う基本法でも何でも、大きな法律をつくってみていただければいいのでは ないかと思います。枠組みでも何でも、このような法律をつくればこのようなことにな るのだというものを、法律家の方に示していただければ、とてもわかりやすいのではな いかという気がいたしました。 【宇都木委員】  医療情報に関する法律、その中に遺伝情報も入れた法律というものをつくる必要があ るのではないか。次回の話になるのかもしれませんが、例えば、がん登録の問題という のは疫学倫理指針から外すことにしたわけですが、外されてどのような体制の中につく られているのかということについては、結局、どこも正式には論じないことになってい ます。外したからといって、その後がん登録が増えているわけではなくて、むしろ不安 定な中で臨床医は協力をしなくなってしまっているということがあるわけです。位田座 長代理や堀部委員が言われているように、きちんとした法的な根拠があり、もちろん、 それには厳しいルールがかかるのですが、きちんとした根拠の中で、初めて医学研究と いうものが本当に積極的に動いてくるのではないかと思っております。  イギリスの場合、がん登録については厚生大臣の命令、日本で言えば省令の中にがん 登録のシステムを組み込むという形を取っていて、これは法律そのものではなくて、省 の中でもう少し動かしていくことができる、そのようなシステムは当然あり得ると思い ます。遺伝に限らず、全体の医療情報の法律というのを是非つくっていただきたいと思 っております。 【佐々委員】  時間がタイトだということを理解してやっていることはわかっているのですが、この 会議に伺うようになって、法律で守られるという考え方が大事ではないかという気がし ています。先ほど述べた組換えでもそうですが、市民の不安というものは、ガイドライ ンは罰則がないから、悪い人が出てきたら滅茶苦茶になってしまうということがあり、 やはり全体をカバーするガイドラインの基になる法律の下で、研究者も守られている し、個人も守られているということを示すほうが市民が安心するのです。法律という格 好になることが、市民にとっては公開で安全、例えばスタンダードを決める、正確性を 保つといった技術的なことと一緒に、法律で定めて、皆が従っているということが安全 から安心へというところに効果があるようなのです。12月までに何が決まるかわかりま せんが、できれば、大きい意味で差別はいけないが、各々の違いは大事にしましょうと いった理念を基本的に定め、その議論は必ず公開で教育なども伴い、起こしていってい ただければと思います。 【垣添座長】  本日の議論はこれで打ち切らせていただきますが、多方面から活発なご議論をいただ きまして、誠にありがとうございました。事務局でいずれもきちんと整理させていただ き、次回以降の議論に活かしたいと思います。残り時間が少しありますが、指針の見直 し案等についてパブリックコメントを開始いたしましたので、これに関して事務局から 説明をお願いいたします。 【高山企画官】  パブリックコメントの状況ですが、ゲノム指針については10月22日付で意見募集とい う形でホームページに掲載し、11月19日までに意見をいただくということで始めており ます。三省指針以外の医学研究指針、「遺伝子治療臨床研究に関する指針」、「疫学研 究に関する倫理指針」は文部科学省と厚生労働省の二省の指針ですので、これについて は1週遅れていますが、10月29日にパブリックコメントをホームページ上で求め、最終 的には11月19日の期限で意見をいただく形になっております。厚生労働省のみの「臨床 研究に関する倫理指針」についても、10月29日付でパブリックコメントの手続をし、11 月19日まで意見を募集しております。4つの指針関係における現在のパブリックコメン トの案文について、お手元に配付してありますので参考にしてください。 【河内室長】  いちばん最後に経済産業省のガイドラインを付けておりますが、研究分野だけでな く、事業において個人遺伝情報を使う場合のガイドラインを経済産業省の産業構造審議 会化学・バイオ部会の小委員会で議論をしていただいております。10月25日〜11月19日 ということでパブリックコメントにかけております。主な内容として、個人遺伝情報を 取得して事業を行う方については、個人情報保護法上の義務に加えインフォームド・コ ンセントの実施、試料の匿名化、遺伝カウンセリングの体制を整える、審査委員会での 事業内容の適用判断等々、三省のゲノム指針の考え方を引用しております。  個人を識別できない匿名化された遺伝情報のみを用いて事業を行う方についても、一 定の安全管理措置を求めるという形になっており、次回11月26日に委員会を開催する予 定にしておりますので、そこで最終的な内容の詰めを行う予定です。 【垣添座長】  本日の議論はここまでといたしますが、遺伝カウンセリングの話にしても、バンクの 話にしても、後半の法制化の話にしても、非常に知的で興味深い議論をいただきまして 私自身も楽しませていただきました。ありがとうございました。事務局から今後の予定 に関して説明をお願いいたします。 【高山企画官】  本日も長時間にわたり活発なご審議をいただき、また貴重なご意見を拝聴させていた だきましてありがとうございました。事務局でいろいろと整理させていただきます。次 回の委員会については、11月25日(木)午後2時からを予定しております。ここではパ ブリックコメントについて、いただいた意見などを紹介し、最終的に指針の見直しとし てどうしていくか、委員会としての結論をまとめていただければと考えております。  先ほど紹介しましたように、医学研究分野によって4つの指針がありますので、最初 に三省合同委員会で「ゲノム指針」について、続いて、文部科学省、厚生労働省の二省 合同で、「遺伝子治療臨床研究指針」と「疫学指針」について、その後誠に恐縮です が、厚生労働省の委員の皆様には、「臨床研究指針」について検討いただくこととして おりますのでよろしくお願いいたします。次回も長時間の委員会となっており誠に申し 訳ありませんが、何卒ご了承いただきますようお願いいたします。また、法制化に関し ての議論については、パブリックコメントによりどの程度見直すかという検討に、どの くらい時間がかかるか予測ができませんが、可能であれば、事務局としても整理いたし ますので、引き続きご議論いただければと思います。また、いつものお願いですが、参 考資料集については机上に残していただきますようお願いいたします。以上です。 【垣添座長】  本日はありがとうございました。これをもって終了させていただきます。                                   − 了 − 【問い合わせ先】  厚生労働省大臣官房厚生科学課  担当:鹿沼(内線3804)  電話:(代表)03-5253-1111     (直通)03-3595-2171