1. | がん医療における地域格差とは?(概念の整理) |
・ | がん医療の格差を議論する場合、国家間の格差、地域ブロック間の格差、都道府県間の格差、二次医療圏間の格差、医療機関間の格差(以下、「施設間格差」と言う。)があげられる。 |
・ | 本検討会では「地域格差」として都道府県間の格差を中心に議論を進めることとしてはどうか。 |
・ | ただし施設間格差についても、同時に検討を進めることが重要ではないか。 |
・ | がん医療における都道府県間の格差は、都道府県における医療機関の数、分布、医療水準の高低及び医療情報の多少等がもととなって生じると考えられる。これらの要因を網羅的に検討して、それぞれにつき都道府県間格差を論ずることは可能であるが、がん医療の総合的評価を行うことは困難である。 |
・ | このような状況を踏まえ、がんの5年生存率、死亡率及び罹患率といった指標をもとに評価を行うのが適当ではないか。 |
2. | がん医療における地域格差の評価の現状 |
(1) | 都道府県間格差のデータ |
○都道府県間格差は、5年生存率、死亡率及び罹患率を指標として評価を行うのが通常である。 |
(1) | がんの死亡率からみた都道府県間格差 |
○ | 客観的データのひとつとして、人口動態統計の都道府県別特性及びその分析例(瀬上)がある。 |
(2) | 5年生存率からみた都道府県間格差 |
○ | 客観的データのひとつとして、地域がん登録に基づく一部地域の分析例(津熊ら)がある。 |
(2)都道府県間格差のもととなる施設間格差のデータ |
○ | 施設間格差は、5年生存率を指標として評価を行うのが通常である。 |
○ | 客観的データのひとつとして、大阪府がん登録を用いた分析例(津熊ら)がある。 |
○ | 客観的データのひとつとして、全国がんセンター協議会加盟施設の分析例(岡本ら)がある。 |
3. | がん医療における地域格差の評価の課題 |
(1) | 評価の指標について |
○ | がん医療の地域格差の評価には、5年生存率、死亡率、罹患率を用いることが一般的であるが、これらはがん医療の短期的な成果を測る感度の良い物差しにはなりにくく、短期的な感度の良いアウトカム指標を設定して検討していく必要がある。 |
(2) | 評価の手段について |
(1) | 地域がん登録事業の課題 |
○ | 地域全体の症例の把握が不完全であることや追跡調査が過剰な負担となっている。 |
○ | 現時点では地域がん登録の普及やその精度に問題があり、このデータをもとに地域格差を論ずることはかなり限定的なものとならざるを得ない。 |
○ | がん医療の均てん化方策を展開した後の全国的な評価をするために、情報インフラの整備を進める必要がある。 |
○ | 5年生存率、罹患率を指標にして都道府県間格差の評価をするには地域がん登録事業の充実が不可欠である。 |
(2) | 院内がん登録の課題 |
○ | 院内がん登録を行うには、登録に従事する人材の確保や登録のシステム構築が必要となるため、我が国の多くの病院では実施できていないのが現状である。 |
○ | また院内がん登録が実施されている場合にも、その標準方式が行きわたっていない、追跡不能例が多いといった問題もある。 |
○ | 5年生存率を指標にして施設間格差の評価をするには、多くの医療機関で、精度の高い院内がん登録が実施されることが不可欠である。 |
1. | がん専門医等について |
(1) | がん専門医等不足の現状(専門医数、地域分布及び認定要件等) |
○ | がん専門医等の専門的ながん医療を提供できる人材が不足している。特に化学療法の専門医、放射線治療医・診断医、病理医の他、放射線治療のコメディカルスタッフ、オンコロジーナース等が挙げられる。 |
○ | 地方の総合病院でがん治療を実施している場合には、様々な疾患に対応する必要があり、がん治療のみに専念できず、がん専門医等の配置が不足している。このため集学的治療が行われない、緩和ケアやセカンドオピニオンの取組が不十分などの問題があることが多い。 |
○ | 地方において、地方中核がんセンター以外の中核医療機関でがん医療を行っている場合、化学療法や緩和医療(とりわけモルヒネ使用量など)において大きな差があることが多い。 |
〈個別事項〉
(1) | 化学療法の専門医等について |
(2) | 放射線診断・治療の専門医等について |
(3) | 病理の専門医について |
(4) | その他のがん専門医等について |
(2) | がん専門医等育成の課題 |
○ | 質の高いがん医療の全国的な「均てん化」を効果的・効率的に図るためには、我が国に多いがん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん等)に適切に対応できる専門医等の育成を、特に人材不足が指摘されている診療分野を中心として行う必要がある。 |
○ | 国立がんセンターの専門医等の研修制度があるが、地方の病院に余裕がなければ研修に送り出すことができないという事情がある。 |
2. | がん診療情報の提供・普及について |
(1) | がん診療情報の提供・普及の現状 |
(1) | 医療関係者に対して |
○ | 診療ガイドラインが十分に普及していない。 |
(2) | 一般国民に対して |
○ | 地域の住民にがん医療に関する最新情報が伝わりにくい。 |
(2) | がん診療情報の提供・普及の課題 |
○ | 標準的な診療技術や診療成績等に関する情報をあまねく提供・普及することが重要である。 |
(1) | 医療関係者に対して |
○ | 診療ガイドライン等の普及について、学会の役割が重要である。 |
(2) | 一般国民に対して |
○ | 地域の住民にがん医療に関する標準的ながん診療情報を提供することが重要である。 |
3. | がん専門医療機関の施設・設備の整備について |
○ | 地方の総合病院では、がん治療に係わる最新の医療機器の整備が十分とはいえない。 |
4. | 地域のがん医療における医療機関の連携について |
(1) | がん医療における医療機関連携の現状 |
○ | 地域がん診療拠点病院の整備構想の中に、地域における教育・診療のコアとなっている特定機能病院が基本的には含まれていない。 | |
○ | 全国がんセンター協議会加盟施設でも、地域医療計画に基づいた病診連携、病病連携は十分ではない。 | |
○ | 都市部では、一定レベル以上の専門的がん医療を提供する医療機関は複数あるが、連携がとれていない。 |
(2) | がん医療における医療機関連携の課題 |
○ | 特定機能病院の役割について検討しつつ、全国がんセンター協議会(30施設)、がん政策医療ネットワーク(8ブロック、49施設)、地域がん診療拠点病院(現在87施設)間の効果的な連携のあり方を再検討する必要がある。 | |
○ | 都道府県でがん医療の中心となる医療機関が存在しないとき、中核的な医療機関のそれぞれの専門性をネットワーク化すれば現実的な対応ができる場合がある。 | |
○ | 急性期医療の在院日数が短縮しており、退院後のがん患者さんを地域でサポートする必要性が増している。このため地域の医療機関のネットワーク形成が非常に重要である。 |
1. | 地域格差の是正に向けたがん専門医等の人材育成・診療体制強化のための方策について |
〈全般的事項〉
○ | がん専門医等育成のための人材交流は、短期的に教育効果をあげる上で非常に重要である。 | |
○ | 人材交流の方法として、国立がんセンター、地方中核がんセンター等から教育指導に行くよりも、研修を受け入れて教育を行う方が効果的・効率的である。 |
〈個別事項〉
(1) | 人材育成・診療体制強化のための人材交流方策について |
(1) | 派遣医療機関の人材補充方策について |
○ | がん専門医等の育成のため、研修に送り出す病院の人材補充に ついて、特定機能病院にも協力を求めて行うのが現実的である。 |
(2) | 受け入れ医療機関の指導体制の強化について (受け入れ病院における指導者の位置づけ及び配置が必要である。) |
(2) | 学会の取組について |
(1) | がん専門医等の人材育成・診療体制強化に係わる学会の役割 |
○ | 化学療法の専門医等の育成のためのセミナーは、学会が中心で行うべきである。 |
○ | 学会等のセミナーを通じたコメディカルの教育が重要である。 |
(2) | 学会の取組に対する支援について (研究費の推進事業を活用する。) |
2. | 地域格差の是正に向けたがん診療情報の提供・普及について |
(1) | 診療ガイドライン等の普及策について(医療関係者) |
○ | 診療ガイドラインに基づくクリニカルパスの普及が有用である。 |
(2) | がん診療情報の提供について(医療関係者及び一般) |
○ | 国などが指導して、情報公開に耐えうるデータ(治療成績など)を整備することが前提となり、その上での情報公開が重要である。 |
3. | 地域格差の是正に向けたがん専門医療機関の施設・設備の整備について |
○ | 地域格差の是正のため必要ながん治療に係わる医療機器の整備に配慮が必要である。 |
4. | 質が高く効率的ながん医療の提供を目指した、国、ブロック、都道府県(三次医療圏)、二次医療圏におけるがん専門医療機関の役割分担を踏まえたネットワーク体制の整備方策について |
(1) | がん専門医療機関の役割分担について |
○ | 放射線治療施設の機能分化が必要である。つまり、がんセンター等がんの専門的医療機関では根治的な放射線治療を担当し、それ以外の施設では補助的な放射線治療を担当するよう機能分化することが必要である。その際、がんセンター等では治療成績の公表が不可欠である。 |
(2) | ネットワーク体制の整備方策について |
5. | 地域格差の評価の充実に向けて |
○ | 均てん化の評価に必要な院内がん登録を推進するとともに、それに基づく地域がん登録を支援する。 |
(1) | がん登録について |
○ | 院内がん登録を支える専門的知識をもったコメディカルの育成やその確保のための財政的支援が重要である。 |
○ | 院内がん登録の充実を基盤として、地域がん登録の充実を図ることが重要である。 |
○ | 予後調査の過剰な負担を軽減するため、国の支援(住民基本台帳の閲覧に対する国からの協力依頼、人口動態死亡情報の活用、人口動態オンライン報告システムの活用、住民基本ネットワークの有効活用の検討等)が必要である。 |
○ | 診療所等地域のあらゆる医療機関の届け出協力のもと収集されるデータを医療関係者の関与を求めた地域がん登録中央登録室で登録することが重要である。 |
(2) | がん医療における地域格差の分析方法について |
(1) | 短期的なアウトカム指標の設定について |
○ | がん医療水準の均てん化の成果を短期的に評価するには、5年生存率だけでは感度が悪すぎるため、短期的な指標(例えば、手術後90日死亡率等)も設定して検討する必要がある。 |
(2) | 長期的なアウトカム指標について |
○ | がん医療水準の均てん化の成果を長期的に評価するには、国 際比較をする際にも有用な5年生存率をゴールドスタンダードとして測定精度を高めて行っていくことが重要である。また将来的には、予後調査を毎年実施できれば、最新の医療状況を反映した5年生存率が測定できることにもなる。 |
6. | 長期的な観点からの提言 |
○ | 大学において、化学療法及び放射線治療を専門とする講座の設置が必要である。 |