ア) | 血管迷走神経反応(VVR) 採血開始後5分以内に発生することが最も多いが、採血中、または採血前に発生することもある。献血者の心理的不安、緊張もしくは採血に伴う神経生理学的反応による。 採血に伴う副作用としては最も発生頻度が高い。
(ア) | 症状 症状には個人差がある。 軽症から放置により重症に進行し、気分不良、顔面蒼白、あくび、冷汗、悪心、
めまい、さらに、嘔吐、意識喪失、けいれん、尿失禁、脱糞にいたる。その他、血
圧低下、徐脈、呼吸数低下が見られる。 |
(イ) | 判定と程度分類を下表に従って行うが、症状を優先する。 |
(ウ) | 処置
a) | 献血者に安心させるように声をかけると同時に仰臥位にして下肢を挙上する。 |
b) | 採血続行か否かを判断し、不可能であれば直ちに抜針する。 |
c) | 衣服をゆるめ、足元を保温する。 |
d) | 脈拍を測定する。また、適時血圧を測定する。 |
e) | 悪心がある場合はゆっくりと深呼吸させ、嘔吐に備えて顔を横に向け容器等の準備を行う。 |
f) | 失神した場合は、名前を呼ぶなど声をかける。 |
g) | 失神が深く舌根沈下の恐れがある場合は、気道の確保を図る。 |
h) | 血圧低下が続く場合、適宜補液などを行う。 |
i) | 回復後は水分補給を行い、十分休息させる。 |
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表 VVRの程度分類
分類 |
症状 |
血圧(max,mmHg)
採血前→測定最低値 |
脈拍数(/分)
採血前→測定最低値 |
呼吸数
(/分) |
軽症 |
気分不良、顔面蒼白、あくび、冷汗、悪心、嘔吐、意識喪失(5秒以内)、四肢皮膚の冷感 |
120以上→80以上
119以下→70以上 |
60以上→40以上
59以下→30以上 |
10以上 |
重症 |
軽症の症状に加え、意識喪失(5秒以上)、けいれん、尿失禁、脱糞 |
120以上→79以下
119以下→69以下 |
60以上→39以下
59以下→29以下 |
9以下 |
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イ) | 皮下出血及び血腫 採血時の穿刺と採血後の圧迫が適正に行われなかった場合に起こる。 採血前検査用血液の採取後、同じ腕から採血を行う場合は、止血を確認してから穿刺する。
(ア) | 症状 小丘状の出血斑から皮下に浸透し、腕の運動により拡大し広範な出血斑や血腫になることがある。 |
(イ) | 処置
a) | 採血中であれば、駆血帯を緩め採血を中止する。 |
b) | 穿刺部位を圧迫し、湿布、軟膏類(消炎、鎮痛剤など)を塗布する。 |
c) | 皮下出血の吸収される過程を説明し、不安感を取り除く。 |
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ウ) | 神経損傷 静脈採血では、筋膜上の皮神経(知覚神経)や肘部静脈上の皮神経を損傷することはあっても、正中神経など重大な神経を損傷することはない。しかし稀に穿刺針を深く刺入する事により筋膜を貫き正中神経を損傷することがある。刺入を繰り返すことや駆血を強く長時間行った場合にも神経障害が発生することがある。
(ア) | 症状 電撃様疼痛を訴える。 |
(イ) | 処置
a) | 直ちに抜針し、採血を中止する。 |
b) | 疼痛の部位、程度、運動障害、知覚障害の有無を調べる。 |
c) | 皮神経損傷の場合は2〜4週間程度で症状は軽快するが、稀に回復に2ヵ月程度を要することもある。 |
d) | 経過観察する場合、局所の保温と安静を保つよう説明する。 |
e) | 早急に専門医の受診をすすめるか、医療機関を紹介する。 |
f) | 決して安易な説明や態度をとってはならず、完治には時間がかかることを説明する。 |
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エ) | 反射性交感神経性萎縮症(RSD:Reflex Sympathetic Dystrophy) 多くは小さな外傷後に、四肢遠位部に交感神経系の過剰な反応により出現する持続性の疼痛と血管運動異常を伴い、皮膚・筋肉・骨などの萎縮をきたす難治性の疼痛症候群。 末梢神経の大きな枝は障害されない。
(ア) | 症状
a) | 四肢遠位部の持続性の特徴的な痛みと血管運動異常による腫脹があり、これらによる関節可動域制限が出現する。 |
b) | 疼痛は受傷後まもなく出現することもあるが、一般にはやや日数がたち、外科的には完治すると思われる頃からのことが多い。 |
c) | 症状は傷害の程度に比べ強い。創傷治癒後も疼痛は持続し、初期は受傷部位に限局しているが次第に拡大する。 |
d) | 痛みは神経支配と一致しないのが特徴である。二次的に組織の萎縮をきたす。 疼痛は持続的で灼熱的であり、運動、皮膚刺激、温熱、ストレスで憎悪する。 |
e) | I期は発症3ヵ月までの炎症期、II期は3ヵ月から6ヵ月までの筋ジストロフィー期、III期は6ヵ月以降で萎縮期と区別されるように、症状は進展していく。 |
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(イ) | 原因 種々の外傷や疾患による神経損傷が原因と考えられているが、不明な点も多い。 |
(ウ) | 治療法 急性期であれば専門医(ペインクリニック)に受診させる。 交感神経節ブロック、抗炎症剤、ステロイド剤、三環系抗鬱剤、抗けいれん剤等の投与、理学療法、精神的サポート等が行われる。 |
(エ) | 献血者への対応 副作用の申し出があった場合、採血後症状が出現するまでの時間、痛みの程度、特徴と部位、腫脹を伴うか、などを把握する。本症が考えられ、急性期で熱感があればすぐに局所を冷やして専門医を受診させる。 交感神経節ブロックは初期は効果があるが、発症後時間が経ってからは治療しても治癒しにくいので、異常を感じたら直ちに血液センターに連絡をするよう献血者に確実に伝える等、献血者の対応に注意が必要である。 |
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オ) | クエン酸反応 成分採血時、相当量のクエン酸を使用した場合に発生する。最近ではクエン酸反応の発生頻度は少なくなっているが、クエン酸反応は個人差が大きく、総量のみならず、単位時間当たりの返血量にも関係する。成分採血ではVVRが早期に発現することが多いことに比べ、クエン酸反応は後期に出現することが多い。
(ア) | 症状 口唇、手指のしびれ感、寒気、気分不快で始まり、さらに体内にクエン酸が返血されると悪心、嘔吐、さらにはけいれん、意識喪失にいたる。 |
(イ) | 処置
a) | 症状が軽度の場合には、ACD-A液を減量するか返血速度を遅くするなどして経過観察をする。 |
b) | 症状が軽減しない場合は、採血を中止し、検診医の指示により補液やカルチコール投与を行う。投与する場合は、生理食塩液20mLまたは5%ブドウ糖液などにグルコン酸カルシウム5mLを加えゆっくり静注する。 |
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カ) | ヨード剤アレルギー 薬剤に対する即時型過敏反応であり発生頻度は非常に低いが、15分以内にアレルギーショックが発生することが多く、遅くとも30分以内に発生する。 症状は、局所症状から始まり、次いで悪心、嘔吐、軽い血圧低下等からショックに移行することもある。局所症状が認められたら、臥床させ全身症状が現れないか観察すると共に応急措置の準備を行う。
(ア) | 症状 局所症状としては掻痒感、灼熱感、皮膚の紅潮、蕁麻疹様発疹があり、全身症状としては嘔気、嘔吐、咽頭浮腫による呼吸困難、さ声、気管支攣縮による喘鳴・呼吸困難、血圧低下、頻脈、意識喪失を認める。 |
(イ) | 応急処置(アナフィラキシー)
a) | 迅速な対応を必須とする。 |
b) | 下肢を挙上し臥床させる。 |
c) | 血圧、脈拍数、呼吸状態等のバイタルサインを確認する。 |
d) | 気道を確保する。アンビューバッグを用いて酸素を投与する。自発呼吸があれば経鼻呼吸チューブを用いる。 |
e) | 直ちに1000倍希釈(0.1%)アドレナリン0.2〜0.5mLを皮下または筋肉内に注射する。その後血圧を測定し随時追加する。症状が重篤であれば0.1mLを静注する。 |
f) | 静脈を確保する。(穿刺後であれば抜針しない。) |
g) | ヒドロコルチゾン250mgまたは500mgを、献血者を観察しながらゆっくりと静注する。 |
h) | 直ちに医療機関に搬送する。 |
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キ) | その他
(ア) | アレルギー反応 成分採血キットの滅菌に使用されているエチレンオキサイトガス(EOG)などが原因で起こる。 症状としては蕁麻疹、発熱、喘鳴などがみられることがある。 処置は抗ヒスタミン剤、β刺激剤などの対症療法を行い原因を究明する。抗ヒスタミン剤投与で回復しない重症の場合は医療機関を受診させる。 |
(イ) | 過換気症候群 神経質な人やヒステリー性格の人に起こりやすい。 症状は過呼吸、口の周囲及び四肢のしびれ感、胸部の圧迫感、心悸亢進、四肢の筋肉の硬直、手や顔のテタニー性けいれんである。 通常、安静にしていれば治まるので、会話をすることにより注意をそらし症状を中断させる。症状が明らかな場合は紙袋の中で呼吸をさせると急速に回復する。決して酸素吸入をしてはいけない。 |
(ウ) | けいれん VVRや過換気症候群のほかに、てんかんやヒステリーでもけいれん発作を引き起こすこともある。てんかんやヒステリーの場合は強直性けいれんを認めるが血圧は正常なことが多い。 処置をする場合は、介助者を求め、外傷を負わないように注意し臥床させ、舌圧子、開口器などで舌を噛まないように処置をする。頭をそり返させるか、横に向け呼吸を楽にし、下顎を前に押し出し気道を確保する。血圧、脈拍、呼吸などを経過観察する。 症状が回復しない場合は、専門医に受診させる。 |
(エ) | 動脈穿刺 穿刺が深すぎた場合に動脈を損傷することがある。筋膜上の小動脈の損傷の場合は、皮下出血の出現は早いが、筋膜下の動脈損傷の場合は、肘関節部の圧迫感、腫脹と緊迫が出現する。 皮下出血は穿刺部位から離れた部位(上方、下方、側方)にかなり広範囲に出現する。直ちに抜針し、約30分間、穿刺部位をしっかり圧迫し1時間程度安静を保ち止血を確認する。 当日は入浴をひかえ24時間は軽い圧迫を加え固定し、止血の確認をしてもらう。 穿刺側の腕で重い物を持つことや、激しい運動は避けるよう指導する。 |
(オ) | 血栓性静脈炎 不完全な皮膚消毒、消毒液による炎症などにより症状が出現する。 また早期に汚れた手で穿刺部位に触れ、リンパ管炎を起こすことがある。症状は、穿刺部位から静脈の走行に沿った上行性の発赤腫脹、線状の硬結やリンパ節の腫脹、牽引痛である。 処置は直ちに専門医に受診させる。 |
(カ) | 一過性の心停止 極めて稀に血管迷走神経反応時に出現する。また、採血中の入眠によって舌根沈下し、呼吸停止から心停止に至る場合もある。直ちに心肺蘇生術を施行し、検診医の指示を受ける。 直ちに医療機関に搬送する。 |
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ク) | 記録および報告 採血副作用記録に記録するほか、統一システムへの入力処理、本社への報告を行う。 |