資料2 |
意見募集の際に寄せられたお手紙やメールより |
1.個人の方より |
痴呆とは、記憶の一部と損得の勘定とを忘れ、五感からくる感性を頼りに生きる無垢の子供のような病態である。多くの場合、人生の終末期に一時的に現れる。良い環境でやさしく介抱するのが基本であり、回復することも多い。
(千葉県 女性)
厚生労働省が「痴呆に替わる用語に関する検討委員会」を設置して検討しているが、果たしてその必要性があるのか疑問である。
私が勤務している病院で、この件についてアンケートを実施した結果、全職員87名中(回答率98%)78%が必要なしと答えている。その理由として(1)既に学術語として定着しているからが21名。(2)別に侮蔑語とは思わないからが35名。(3)用語を替えることによって、却って意識させるからが16名。(4)用語をかえるよりは、社会的フォローの方が大切が37名で最も多かった。(2)については、「痴」は愚かなこと、人という意味以外に、物事を正しく認識判断できない心の働きという意味がある。「呆」は呆れるという意味がある。従って、侮蔑しているとは思えないという意見があった。
必要ありと答えた人の理由は、いやな言葉だからが9名、侮蔑語だからは3名に過ぎなかった。替える用語としては、適当な用語なしが4名あった。
以上より、医療関係者の間では「痴呆」は常用語として既に定着しており、侮蔑語という認識は薄いことが判明した。したがって、却って混乱を招くことになりかねず、性急に用語を替えることには反対である。
(広島県 男性)
痴呆の替わりの言葉の候補をざっと見ましたが、「物忘れ症」「記憶症」などは、「痴呆」と称されている症状があたかも「記憶をなくすこと」だけのように取られる危険が大きく、問題行動などを伝達、把握する際に混乱を生じかけない危険性を指摘させていただきます。
また、痴呆を生じる疾患はアルツハイマー症候群だけではないので「アルツハイマー」は非常に不適切と感じます。
細かく定義を述べられておられるのでそちらを参考にして、字面だけの対面を整えるのだけでなく、きちんとその言葉が内容を伝えるものへ変更していただきたいと思います。
当方医療現場で働いておりますので、曖昧な言葉をとってつけられると大変迷惑です。
(女性)
本日、9月13日付けの意見の募集について拝見いたしました。
第1回、痴呆に替わる用語に関する検討会の議事録も拝見いたしました。
この中で気のついたことがありますので申し上げます。
丁度20年ごろ前からこの 痴呆 の文字を使っている間は、本当の福祉国家といわれないと言ってきましたし、新聞社等にも言ってきました。
当時も外国の人達が多く住みそして文字を習ってこの 痴呆 の意味を知った時どう思うかを考えました。日本の国は文字の文化だと思います。
長い間国のために働き年を老いて少しおかしくなれば 痴呆 ではあんまりな気がします。このような差別用語はないと思います。
今回の文書にも検討会にも、外国の人達から見たらの意見がなかったのが以外でした。中国に行けば文字で判断することもあると思います。
私にはどんな言葉がよいか解りませんが、どんなほめ言葉でも良いと思います。委員の方々に素晴らしい言葉を考えていただきたいと思います。
(千葉県 男性)
遅まきながら、用語変更について意見を申し述べる。
1)痴呆の用語変更に賛同する。
確かに、言葉を替えても差別がなくなるとは言えない。だから「言葉狩りに過ぎない」という批判も間違ってはいない。それでも、私は用語の変更に賛同する。それは、用語変更が、誤解を受けることの多い認知症に対する正確な情報を世に伝える好機になると考えるからである。
2)認知症という用語への変更に賛同する。
認知症という用語が「なにもかも分からなくなる」「感情まで枯渇する」というイメージがつきまとうから賛成できない、という意見が現場サイドにあると聞いた。しかし、認知という概念は、見る、聞く、話す、覚える、考えるなどという知的機能を総称したもので、感情領域を含めないのが通常である。
認知という用語が専門用語として定着したのは、それまでの、心的過程をブラックボックスとして排除し、観察可能な刺激・反応図式で通した行動主義心理学に対して、1960年代から情報科学を武器に記憶過程などを情報処理過程としてモデル化し、心的過程を解き明かそうとする認知心理学が心理学の世界で定着して以来のことであろう。ちなみに、その最初の成書といえるナイサーの「認知心理学」という本は、知覚と注意に関する章が六つと、記憶、言語、思考に関する四つの章で構成されている。その後、認知心理学の対象は拡大していくがその中核がどこにあるかは明らかであろう。
認知障害という語が候補の一つにあがっているが、別の概念としてすでに使用されており、不適切であろう。たとえば、痴呆のない失語、失認、失行に対しても認知障害という語が用いられる。高次脳機能障害という語もあるが、これも痴呆概念とイコールではない。
「記憶症」「もの忘れ症」では、痴呆が記憶障害に限定されているとの誤解を招く。むろん、記憶障害は痴呆の中核症状だが、痴呆は記憶障害にとどまらない障害である。
認知症は新たな語で、短い語であるのもいい。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症。これなら、いいではないか。
「痴呆」に替わる用語に関する検討会 座長
高久 史麿 先生
前略
ご無沙汰しております。
このたびは、表記委員会の座長として、「痴呆」に替わる名称に関して、熱心なご議論をいただいている由、「痴呆」に関連した学会を主宰しているものとして、大変嬉しく存じます。
すでにご承知かと思いますが、厚労省の今回の発議とほぼ並行して、私どもの専門学会でも、「痴呆」用語に関する問題提起が会員からなされました。学問の進歩や変化によって用語を変更するといった次元のものでなく、患者さんやご家族への偏見や差別に関連するものとしての問題提起であり、学会としても重く受けとめ、早速、理事会(平成16年6月24日)で、「痴呆名称に関する検討委員会」を立ち上げ、検討に入ることを決定し、私が委員会の座長を務めることになりました。
検討のための基本的な姿勢は、
1) | もし精神医療のなかに、患者さんやご家族への偏見や差別があるとするならば、その実態を把握し、それらの排除に努めることが最も肝要で、単に、用語の問題として矮小化してはならない、 |
2) | しかし、「痴呆」という用語が、もし偏見や差別を招くものであれば、その変更を検討することはやぶさかでない、 |
3) | 検討に先立ち、会員全員の意向を知るためのアンケート調査を行う、 |
4) | 厚労省での「委員会」では、一般用語、あるいは行政用語としての「痴呆」を論議しており、我々専門学会の「委員会」では、医学用語としての「痴呆」を主として議論するというように、行政用語としての議論と病名としての議論は形の上では別個のものと理解する、 |
5) | しかし、厚労省が決める行政用語は、医学用語と全く無関係であってよいというわけにはいかず、厚労省の「委員会」での議論を十分に斟酌しながら、当「委員会」での議論を進めていく |
ということにいたしました。
まず検討にあたって会員の意向を知る必要があるということで、学会員全員に対して、アンケート調査を行うことにしました。その結果の要点を以下に記しますと、
1) | 会員は、総数2495名、全員にアンケート調査を7月中旬までに配布。8月締め切りで、840名(33.7%)から、回答を得ることができました。詳しい分析は、まだ、行っていませんが、 |
2) | 『「痴呆」は、精神疾患名(たとえば、アルツハイマー型痴呆、血管性痴呆など)として使われていますが、その疾患名は差別や偏見を招くと思いますか』という問いには、「思う」24.6%、「思わない」55.5%、「どちらともいえない」19.9% |
3) | 『「痴呆」は、精神状態を表す用語として使われていますが、その用語は差別や偏見を招くと思いますか』という問いには、 「思う」24.4%、「思わない」56.5%、「どちらともいえない」19.0% |
4) | 『「痴呆」や「呆け」は、一般社会でも使用されていますが、その言葉は差別や偏見を招くと思いますか』という問いには、 「思う」35%、「思わない」38.8%、「どちらともいえない」26.2% |
5) | 『「痴呆」は、精神疾患名として、変更する必要があると思いますか』という問いには、 「思う」23.4%、「思わない」55%、「どちらともいえない」26.1% |
6) | 『「痴呆」は。精神状態を表す用語として、変更する必要があると思いますか』という問いには、 「思う」21.6%、「思わない」56.4%、「どちらともいえない」21.9% |
7) | 『「痴呆」や「呆け」は、一般的に使用する言葉として、変更する必要があると思いますか』という問いには、 「思う」24.4%、「思わない」46.3%、「どちらともいえない」29.2% |
というデータが得られました。いろいろな分析が可能ですが、痴呆を専門とする集団では、「痴呆」という用語は、偏見や差別感をもたないという意見が半数以上を占めていたという結果が得られたことになります。
その後、先月ですが、このアンケート結果をもとに、学会の「特別委員会」で、名称変更に関する討議を行いました。その際、出された意見の集約は、
1) | 職業集団によるアンケート結果はそれとして、患者さんやご家族が受ける印象は別であり、やはり、医学的病名であるとしても「痴呆」という言葉は偏見や差別を招く用語であると思われ、それを前提として、議論を続けていきたい、 |
2) | 今後の討議の予定として、来年6月の理事会までに、委員会として意見をまとめ、その結果をそのときの総会に提案し、会員に1年かけて議論をしてもらい、再来年の6月の総会で、学会としての結論を出したい |
ということにいたしました。
さて、以下は、理事長個人として私の意見です。
1) | 行政用語と医学用語は異なるとは言っても、相互に、関連しあっている方がいいに決まっているので、先生の委員会の結論を注目している、 |
2) | スケジュール的には厚労省の先生の委員会の方が早く結論を出されることになるので、とくにその結論に関心を抱いている、 |
3) | できうることならば、先生の委員会の結論が、医学的にもスムースに受け入れられることになればよい、 |
4) | とくに、現在病名として「痴呆」を用いているのは、「アルツハイマー型痴呆」、「血管性痴呆」、「○○○型痴呆」という用語が主で、ここの痴呆という箇所にすんなりと収まる言葉にしてもらえればありがたい、 |
5) | これまでに医学用語として広く用いられている言葉を採用すると、さらに、混乱を招きかねない、たとえば、厚労省の用語例としてだされている「認知障害」は、精神医学の領域ではこれまでに多様に使われており、それを、採用すると、従来の意味と、新たに付け加わった「痴呆」としての意味が混同して、精神医学全体に混乱を引き起こす、したがって、「痴呆」の替わりに新しい用語を提唱するならば、従来の精神医学の世界では使われていなかった言葉を採用するのが望ましい、 |
6) | 厚労省が、アンケート調査などで出されている候補名から選ぶならば、私には、「認知症」が最もよいように思える、上記の4)でいえば、「アルツハイマー型認知症」などは抵抗感なく受け入れられるように思われる、 |
以上、経過報告を含め、私見を述べさせていただきました。すでに記しましたように、内容はもちろんのこと、このような形でお手紙をお出しすることも、理事長個人としての判断によります。私個人の意見ということもあり、委員会あてのお手紙というよりは、先生への私信という形をとらせていただきました。失礼の段、お許しください。
平成16年11月15日
日本老年精神医学会 理事長 都立松沢病院 院長 東京大学名誉教授 松下 正明
|
2.団体より |
平成16年10月27日 社団法人日本作業療法士協会 会長 杉原 素子
|
1. | わかりやすいという点で認知症が考えられるが、認知という概念が広すぎる感があり、加齢性、老年期、老人性など(加齢とともにおこるイメージ)をつけることによりイメージしやすいのではないか。 |
2. | 「〜障害」としなかった理由は「障害」という文言がマイナスなイメージを持たせるため。 |
「痴呆」に替わる用語に関する検討会
座長 高久 史麿 殿
特定非営利活動法人 全国痴呆性高齢者グループホーム協会 代表理事 木川田 典彌
|
1. | 協会の意見集約結果について
| ||||||||||||
2. | 協会の「痴呆」に替わる用語に関する意見 上記アンケート調査並びにパブリックコメントの協会とりまとめの結果から、概ね6割の人が「痴呆」という言葉から差別や偏見を招くと考えている。 しかしながら、呼称変更となると意見が分かれていることを踏まえて、痴呆の人家族の人が受け入れ易い呼称ということもあり、時間をかけて関係者のコンセンサス並びに慎重な検討をお願いする次第であります。 |
3 「痴呆」という用語から差別や偏見を招くと思いますか?
2 その理由はなんですか?
賛成の理由
・差別的である ・「病気」である認識から別な適切な用語がよい ・「痴呆」という漢字が嫌い ・用語としては認知されているが、意味、定義が十分認知されていない |
反対の理由
・差別用語と感じられない ・一般化している |
4 「痴呆」の呼称変更に向けた検討に対しての要望
・ | 時間をかけて討議すべきである |
・ | 家族・当事者の意見を反映させるべき。有識者の意見は必要ない |
・ | 家族、有識者の意見を聞き、慎重に検討すべき |
・ | 誰のために変更するのでしょうか |
・ | 「痴呆」に対する正しい理解が得られる用語の検討が必要 |
・ | 一部の方の変更要望により検討せず、広く変更要望を聞き、その後変更の必要があれば新しい用語の検討を開始するべき |
・ | 〜病、〜障害とならない言葉 |
5 「痴呆」に替わる具体的な呼称の提案・理由
・記憶症 ・ものわすれ症 ・行動障害症候群 ・老年症 ・(脳性)生活失調症 ・記銘障害 ・連想障害 ・認知失調症 ・(〜性)認知障害 ・ |
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
※複数回答者2含む |
痴呆に替わる用語について
当会は、主として、交通事故等により、脳挫傷などの重大な障害を受け、高次脳機能障害という後遺症をもつ当事者と家族の会である。
1996年に名古屋で結成されたのを契機に、全国各地に【脳外傷友の会】が結成され、2000年に連合組織となった。
現在では、外傷性のみならず、低酸素脳症、若年性脳血管障害、脳炎、脳腫瘍などの後遺症の方々も入会している。
活動当初、当時厚生労働省の厚生科学研究班で、この障害領域の処遇研究が行われていたが【若年痴呆】として扱われていた。
救命救急医療の進歩により、命は得たが、十分なリハビリも受けられず、社会復帰や社会参加の機会も得られず、家族共々、悩み多き日々を過ごさざるをえなかった。
福祉の谷間の障害者といわれ、障害の認定も受けられずに在宅を余儀なくされている者が多く状況の改善は急務であった。
私達は先ず【若年痴呆と呼ばないで】を活動の第1目標に掲げたのである。
「若年痴呆の実態」摘出調査が行われ、厚生労働省への陳情の結果【高次脳機能障害支援モデル事業】が開始された。
3年間で多くの症例が集積され、今年4月、高次脳機能障害の診断基準が発表された。学術用語としては異論はあるものの、支援が必要な障害として、行政上の用語が定められた。記憶障害、注意障害、遂行機能障害、などを持つものとして「高次脳機能障害」ということばが使われるようになったのである。
この間に、学術的にも「失語症学会」が認知、記憶障害など、広い領域の研究をしていることから、【高次脳機能障害学会】と名称を改めている。
ところが、今回の【痴呆に替わる用語】の検討会で提案されている5つの案の中に、「認知症」「記憶障害」「記憶症」が、有力候補として提案されている。
第2回検討会の資料には、高次脳機能障害についての解説も行われ「進行性のものが痴呆であり、非進行性のものが高次脳機能障害として捉える事が実態に近い区分と考えられる」とのべられているが、当会の多くの会員達の実態とは、この解説は余りにも乖離している。彼等の多くは早期に適切なリハビリを受け、障害を理解できるサポーターの援助を受けることができれば、障害を改善し、就労や社会参加が可能であることがわかってきた。
又、比較的重度の方々も入所施設や通所施設の利用により彼らなりの自己実現の機会を得る事ができると考えられる。
しかしながら、痴呆に替わる言葉が「認知症」「記憶障害」「記憶症」などに替わった場合、就労の面接場面などで高次脳機能障害者が正しく理解されるだろうか?
また、入所施設や通所施設の利用が、現在でも高齢者や知的障害者に較べて、手が掛かる、サービス単価が安いなどの理由で断られる場合が多いのに、ますます、狭き門となるであろう。
漸く広がり始めた社会の理解が、間違った方向に向かうのではないかと私たちには懸念されるのである。
専門家集団として【高次脳機能障害支援モデル事業】にかかわって下さった方々はどうお考えだろうか?
又、「高次脳機能障害学会」など関係学会の方々はどうお考えだろうか?
卑近な例では、しばしば【記憶にない】などという言葉を使われる議員諸氏もお困りになるのではなかろうか?
又、法律用語として【非嫡出子として認知】などと使われる「認知」という言葉への混乱はないだろうか?
検討会委員諸氏にはどうか、慎重な語義論をお願いしたい。
又、市民のみなさまも、多くのご提案をされ、痴呆の方々が、尊厳を持って余生を全うされるにふさわしい用語を決めていただきたい。
私見ではあるが「老呆症」はいかがであろうか?
中国語では、「老」は尊敬の意味のある言葉であり、教師のことを若くても「老師」という。「老成」「老酒」なども同義であろう。
呆けについては、「呆け老人を支える会」の方々も、「呆け」でよいと言っておられるようである。「呆け」という言葉のほのぼのとしたニュアンスと、それを尊ぶ意味をこめた「老呆症」いかがであろうか?
ともあれ、「認知症」「記憶障害」「記憶症」の3案には、私たちは強く反対したい。
台湾アルツハイマー病協会より長谷川委員宛て(英文和訳)
「痴呆症」から「失智症」に徐々に変えていくのに10年以上かかりました。
2年前、私たちの協会が設立されたとき、「失智」という新しい呼び名を用いて「台湾失智症協会」という会の名称にすることができました。今ではほとんど全ての神経科医は医学的な診断書に「失智症」と書きますし、精神科医の中にもそう書く人がいます。
内務省社会福祉局の公式用語は「失智症」です。保健省や政府管掌健康保険の文書では「失智症」と「痴呆症」のどちらかが使われています。いずれこうした所もすべて「失智症」を使うようになると思います。