1 二重就職者の事業場間の移動について
(1) | 保護の必要性 二重就職者については、住居から事業場までの移動が当該事業場(以下「第一の事業場」という。)へ労務を提供するために不可欠な行為であるのと同様に、第一の事業場から第二の事業場への移動についても、第二の事業場へ労務を提供するために不可欠な行為であると評価できるものである。また、通常第一の事業場から第二の事業場へ直接向かう場合には、私的行為が介在せず、住居から事業場までの移動に準じて保護する必要性が高いものと考えられる。 また、前述のように、二重就職者が今後も増加することが見込まれる中で、二重就業者の事業場間の移動はある程度不可避的に生ずる社会的な危険であると評価できることからすれば、労働者の私生活上の損失として放置すべきものではないと考えられる。 以上のことから、二重就職者の事業場間の移動についても通勤災害保護制度の保護の対象とすることが適当である。 なお、第一の事業場又は第二の事業場の就業規則等で兼業禁止が定められている場合についても、民事上の問題を公的保険である労災保険の保険給付に当たって考慮することには疑問があること、兼業禁止の効力についての裁判所による最終的な判断が確定するまでには相当な期間を要する場合があり、その判断を待っていたのでは、被災労働者や遺族の迅速な保護に支障をきたすおそれがあることから、特段異なった取扱いを行うことは適当ではないと考えられる。 |
(2) | 保険関係の処理 第一の事業場から第二の事業場への移動を通勤災害保護制度の保護の対象とする場合、当該移動中に発生した災害についていずれの事業場の保険関係により処理をすべきかについての検討が必要となる。 この場合、第一の事業場で就業を終えた労働者は、本来、自宅へ帰る、買い物に行く等様々な行動を選択できるはずであるが、第二の事業場で就業しなければならないために、第一の事業場から第二の事業場への移動を余儀なくされるのであるから、当該移動は第一の事業場での就業を終えたことにより生ずるという性質よりも、第二の事業場での就業のために生ずるという性質が強いものと考えられる。 したがって、第一の事業場から第二の事業場への移動は、第二の事業場での労務の提供に不可欠であるからこそ保護されるととらえることが適当であり、当該移動中の災害については、第二の事業場の保険関係により処理することが適当であると考えられる。 |
(1) | 保護の必要性 単身赴任という形態は、労働者を住居からの通勤が困難な場所で就労させなければならないという事業主側の業務上の必要性と、持家があることや子供の転校を避けること等の労働者側の事情を両立させるためやむを得ず行われる場合が多いものと考えられる。 この場合、単身赴任者が赴任先住居と帰省先住居との間を移動することは、(1)勤務先において労務を提供するため赴任先住居に居住していること、(2)労働者の家族が帰省先住居に居住していることからすれば必然的に行わざるをえない移動であると考えられるが、上記のように事業主と労働者の双方の事情から、単身赴任という形態を選択することは不可避であると考えられ、赴任先住居と帰省先住居間の移動はある程度不可避的に生ずる社会的な危険であるという評価ができることからすれば、単に労働者の私生活上の損失として放置すべきではないと考えられる。 また、赴任先住居と帰省先住居との間の移動は、通常、自宅と事業場の間の移動ほどではないにしても一定の反復継続性があると考えられ、そのようなものについては、認定も容易であると考えられる。 したがって、単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居との移動については、業務との関連性を有するものについては、通勤災害保護制度の対象とすることが適当であると考えられる。 | ||||||||||||
(2) | 保護の範囲 赴任先住居と帰省先住居との移動を通勤災害保護制度の対象とする場合、どの範囲の移動を業務に関連性のある移動として保護の対象とするかが問題となる。 赴任先住居から帰省先住居への移動については、
また、帰省先住居から赴任先住居への移動については、
ただし、急な天候の変化により交通機関が運行停止になるといった外的要因等により勤務日当日又はその翌日に赴任先住居から帰省先住居へ移動することができない場合や勤務日当日又はその前日に帰省先住居から赴任先住居へ移動できない場合等については、例外的な取扱いを検討することが必要であると考えられる。 |
(1) | 給付基礎日額について 労働者が2つの事業場で働き、賃金の支払いを受けている場合、通常はその合算した額をもとに生計を立てているものであると考えられるが、そのような場合であっても、現在は、労働災害によって障害を負って労働不能になった場合や死亡した場合の障害(補償)年金や遺族(補償)年金等に係る給付基礎日額は、前述のように災害が発生した事業場から支払われていた賃金をもとに算定されることとなる。 その結果、労働災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の填補がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定されることとなる。特に、賃金の高い本業と賃金の低い副業を持つ二重就職者が副業に係る事業場において被災した場合には、喪失した稼得能力と実際に給付される保険給付との乖離は顕著なものとなる。 また、既に厚生年金保険法の老齢厚生年金等や健康保険法の傷病手当金については、同時に複数の事業所から報酬を受ける被保険者については、複数の事業所からの報酬の合算額を基礎とした給付がなされることとされている。 前述のように労災保険制度の目的は、労働者が被災したことにより喪失した稼得能力を填補することにあり、このような目的からは、労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることが適当であると考えられることから、二重就職者についての給付基礎日額は、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当である。 | ||||
(2) | 労働基準法第12条の平均賃金について 労働基準法上の使用者の災害補償は労働基準法第12条の平均賃金に基づき行われるので、二重就職者に係る労災保険法の給付基礎日額について(1)の考え方をとった場合、労働基準法の平均賃金についてどう考えるかが問題となるが、
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(3) | 二重就職者に係る給付基礎日額と平均賃金の関係の整理 以上のことから、二重就職者に係る給付基礎日額については、労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とすることが適当でないとして整理することとし、上記の考え方を踏まえた算定方法を規定することが適当である。 | ||||
(4) | メリット収支率の算定の際の取扱い 労災保険においては、事業主の負担の公平性と災害防止努力の促進の観点から、一定の要件を充たす事業場について、個々の事業場の労災保険の保険給付の額に応じ、保険料の額を一定の範囲で増減させるメリット制が採用されている。この場合のメリット収支率の基本的考え方は以下のとおりである。
(1)の考え方により二重就職者の給付基礎日額を見直した場合、メリット収支率の算定について何の措置も行わない場合には、二重就職者に係る業務災害が発生した事業場においては、メリット収支率の算定の分子となる業務災害に係る保険給付が従来より増加することによりメリット収支率が悪化し、保険料の負担が従来より重くなる場合が生ずることとなる。 |