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社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第17回(平成16年10月27日) 資料

説明資料
−目次−


I  母子加算の在り方について

II  自立支援プログラムについて

III  保護の要件について
 稼働能力の活用について
 預貯金の保有の在り方



I 母子加算の在り方について

 1  母子加算の趣旨

 一方の配偶者が欠ける状況にある者等が児童を養育しなければならないことに伴う特別な需要に対応するもの。

(参考)
  「母子については、配偶者が欠けた状態にある者が児童を養育しなければならないことに対応して、通常以上の労作に伴う増加エネルギーの補填、社会的参加に伴う被服費、片親がいないことにより精神的負担をもつ児童の健全な育成を図るための費用などが余分に必要となる。」(昭和55年12月中社審生活保護専門分科会中間的取りまとめ)


 2  母子世帯に係る生活保護基準上の問題点

現行基準上の問題点

(1)  母子加算
 一般母子世帯における消費支出や平均所得額との均衡上、問題があるのではないか。
 母子(ひとり親)世帯という属性のみに着目した一律的な給付には問題があるのではないか。
 母子世帯の保障水準が相対的に高くなり、結果として就労意欲を阻害しているのではないか。

(2)  多人数(多子)世帯の基準額
 現行の生活保護基準が多人数(多子)ほど基準額が割高になっていることに問題があるのではないか。
 生活扶助基準は、第1類費(個人的経費・人数分を単純に加算して算定)と第2類費(世帯共通的経費・スケールメリットを反映して設定)の合算で算定されるため、人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり、スケールメリットの効果が薄れる結果、多人数になるほど基準額は高くなる。
 ※  一般母子世帯における4人世帯以上の占める割合が12.4%であるのに対して、被保護母子世帯では22.1%である。(14年度)
 また、被保護世帯における4人以上世帯のうち4割以上が母子世帯である。
 └→
(2) 多人数(多子)世帯の基準額
専門委員会中間取りまとめ
 世帯人員別生活扶助基準の見直し(要旨)
 ・ 生活扶助基準額1類費と2類費の割合は、一般低所得世帯の消費実態と比べると1類費が相対的に大きく、この相対的に大きな第1類費が年齢別に組み合わされるために、多人数世帯ほど基準額が割高になる。
 ・ このため、3人世帯の生活扶助基準額の1類費と2類費の構成割合を一般低所得世帯の消費実態に均衡させるよう第2類費の構成割合を高めることが必要。
 ・ また、第2類費の換算率については、多人数世帯の換算率を小さくする方向で見直すことが必要。


 3  母子加算に関するこれまでの検証内容

一般母子世帯の消費実態を踏まえた検証について

(1)  一般母子世帯の生活扶助相当消費支出額と生活扶助基準額との比較検証(第4回資料:別紙1)
 母子加算を加えた被保護母子世帯の生活扶助基準額の方が、一般母子世帯(母子全世帯:第3/5分位)の生活扶助相当消費支出額よりも高くなっている。
 母子加算を除いた生活扶助基準額は、一般母子世帯(母子勤労世帯:第3/5分位)における生活扶助相当消費支出額と概ね均衡している。
→ ○  母子加算を加えた被保護母子世帯の生活扶助基準額の方が、一般母子世帯の消費支出額よりも高いことが認められる。
 しかしながら、一般母子世帯は総体的にみて所得が低いことから、消費支出額との単純な比較によって母子世帯の保障水準の妥当性を検証してよいのかという指摘もある。
 その一方、母子加算を加えた被保護母子世帯の最低生活費が相対的に高いため、結果として自立・就労意欲を阻害しているのではないかという指摘もある。
 自立支援プログラムとの関係をどう考えるか。

(2)  一般勤労母子世帯の消費支出額と勤労夫婦子ども世帯の消費支出額との比較検証(第14回資料:別紙2)
 「食料」費についてみると、世帯人員の差があるにも関わらずほぼ同額であり、「外食」は母子世帯の方が多いという傾向も見られる。
 「被服及び履き物」費については、世帯人員が少ないにも関わらず母子世帯の方が消費支出額が多い。

(3)  ひとり親勤労世帯の消費支出額とひとり親勤労以外世帯の消費支出額との比較(今回提出資料:別紙3)
 消費支出額の合計では勤労以外世帯の方が多いが、費目別にみると、「外食」「洋服」「補習教育」「保育所費用」「こづかい」「交際費」などについて、勤労世帯の消費支出額の方が多くなっている。
→ ○  一般勤労母子世帯において、ひとり親であることに加え、勤労しているが故に生じる追加的な消費需要があることが認められないか。
 子どもの成長に伴って、親の養育にかかる手間が減少し、世帯としての自立の可能性が増すこと、さらに生活保護制度において高等学校の修学費用に対応することを検討すること等との関係をどう考えるか。



(別紙1:第4回専門委員会資料)

母子世帯における消費実態と生活扶助基準との比較について

 
(1) 母子世帯(全国、平均)   (月平均・単位:円)
  全世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
年間収入額÷12 314,115円 382,690円
消費支出額 218,596円 237,460円
生活扶助相当支出額 130,310円 144,772円
  1類費相当支出額 77,439円 87,373円
  食料費 49,871円 58,087円
エンゲル係数 22.8% 24.5%
2類費相当支出額 52,871円 57,399円
勤労世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
308,579円 350,220円
204,876円 221,177円
121,061円 138,841円
73,001円 85,208円
46,819円 57,839円
22.9% 26.2%
48,060円 53,633円


(2) 母子世帯(全国、第I−5分位)   (月平均・単位:円)    
  全世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
年間収入額÷12 105,685円 98,306円
消費支出額 123,581円 153,647円
生活扶助相当支出額 85,999円 103,839円
  1類費相当支出額 51,318円 61,295円
  食料費 37,071円 45,042円
エンゲル係数 30.0% 29.3%
2類費相当支出額 34,681円 42,544円
勤労世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
108,692円 106,087円
117,143円 151,456円
78,626円 104,049円
46,754円 62,726円
33,591円 46,984円
28.7% 31.0%
31,872円 41,323円
  生活扶助基準額
母子・子供1人 母子・子供2人
生活扶助 138,084円 179,274円
  1類費 69,621円 103,780円
加算 21,998円 23,747円
(小計) 91,619円 127,527円
2類費 46,465円 51,747円
再掲:除加算 116,086円 155,527円
 
 


(3) 母子世帯(全国、第I−10分位)        
  全世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
年間収入額÷12 76,667円 67,500円
消費支出額 111,499円 165,236円
生活扶助相当支出額 78,733円 110,720円
  1類費相当支出額 48,494円 65,271円
  食料費 36,709円 49,577円
エンゲル係数 32.9% 30.0%
2類費相当支出額 30,239円 45,449円
勤労世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
85,000円 77,500円
110,397円 166,945円
76,009円 115,139円
47,129円 70,335円
35,073円 51,326円
31.8% 30.7%
28,880円 44,804円
  生活扶助基準額
母子・子供1人 母子・子供2人
生活扶助 138,084円 179,274円
  1類費 69,621円 103,780円
加算 21,998円 23,747円
(小計) 91,619円 127,527円
2類費 46,465円 51,747円
再掲:除加算 116,086円 155,527円
 
 
資料: 総務省(総務庁)「平成11年全国消費実態調査」


(4) 母子世帯(全国、第II−5分位)   (月平均・単位:円)    
  全世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
年間収入額÷12 182,625円 180,618円
消費支出額 178,529円 165,849円
生活扶助相当支出額 112,621円 108,492円
  1類費相当支出額 66,611円 68,190円
  食料費 42,579円 49,389円
エンゲル係数 23.8% 29.8%
2類費相当支出額 46,010円 40,302円
勤労世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
181,284円 181,006円
157,459円 151,266円
98,120円 102,250円
58,050円 63,757円
38,598円 46,094円
24.5% 30.5%
40,070円 38,493円
  生活扶助基準額
母子・子供1人 母子・子供2人
生活扶助 138,084円 179,274円
  1類費 69,621円 103,780円
加算 21,998円 23,747円
(小計) 91,619円 127,527円
2類費 46,465円 51,747円
再掲:除加算 116,086円 155,527円
 
 


(5) 母子世帯(全国、第III−5分位)   (月平均・単位:円)    
  全世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
年間収入額÷12 267,514円 260,190円
消費支出額 215,224円 200,532円
生活扶助相当支出額 130,299円 131,302円
  1類費相当支出額 74,671円 79,596円
  食料費 47,586円 55,997円
エンゲル係数 22.1% 27.9%
2類費相当支出額 55,628円 51,706円
勤労世帯
母子・子供1人 母子・子供2人
241,196円 245,121円
192,784円 198,357円
118,136円 128,859円
72,979円 79,205円
47,408円 55,442円
24.6% 28.0%
45,157円 49,654円
  生活扶助基準額
母子・子供1人 母子・子供2人
生活扶助 138,084円 179,274円
  1類費 69,621円 103,780円
加算 21,998円 23,747円
(小計) 91,619円 127,527円
2類費 46,465円 51,747円
再掲:除加算 116,086円 155,527円
 
 
資料: 全国消費実態調査特別集計(平成11年)


(参考)
  年間収入5分位階級の平均収入額について
(単位:円)
  年間収入5分位階級
第1 第2 第3 第4 第5
夫婦2人世帯
(全世帯)
2,803,746 4,435,570 5,736,527 7,676,809 12,970,186
母子2人世帯
(全世帯・子ども1人)
1,268,998 2,189,092 3,205,964 5,065,477 9,113,702
資料:全国消費実態調査特別集計(平成11年)

(単位:円)
  年間収入5分位階級
第1 第2 第3 第4 第5
夫婦2人世帯
(勤労世帯・有業1人)
2,913,076 4,449,991 5,750,619 7,662,307 11,771,730
母子2人世帯
(勤労世帯・子ども1人)
1,304,304 2,175,779 2,895,912 4,507,179 8,762,476
資料:全国消費実態調査特別集計(平成11年)



ひとり親勤労者世帯の消費支出額と勤労者以外の世帯の消費支出額との比較

 ひとり親世帯の「勤労者世帯」と「勤労者以外の世帯」の家計を比較すると、「勤労者世帯」の方が全体の消費支出額が少ないにもかかわらず、外食・婦人用洋服・授業料等・補習教育・他の諸雑費(保育所費用等)・交際費といった特定の費目においては、支出が多くなっている。

(男親又は女親と子供の世帯(長子が中学生以下))
  勤労者世帯 構成割合
(%)(A)
勤労者以外
の世帯(※)
構成割合
(%)(B)
差額(勤労者
世帯−勤労者
以外の世帯)
特化係数
(※※)
(A/B)
集計世帯数 294   68      
平均世帯人員(人) 2.69   2.69      
年間収入(千円) 2,841   2,675      
持ち家率(%) 21.7   17.8      
消費支出額 187,648   227,026   ▲39,378  
  食料 53,480 28.5 58,922 26.0 ▲5,442 1.10
  調理食品 5,916 3.2 5,737 2.5 179 1.25
外食 11,937 6.4 11,030 4.9 907 1.31
住居 27,446 14.6 45,046 19.8 ▲17,600 0.74
光熱・水道 13,505 7.2 14,325 6.3 ▲820 1.14
家具・家事用品 5,259 2.8 8,682 3.8 ▲3,423 0.73
  家事サービス 523 0.3 362 0.2 161 1.75
被服及び履物 11,499 6.1 12,214 5.4 ▲715 1.14
  洋服 5,328 2.8 4,800 2.1 528 1.34
婦人用洋服 2,896 1.5 2,203 1.0 693 1.59
  婦人服 902 0.5 313 0.1 589 3.49
保健医療 5,714 3.0 14,475 6.4 ▲8,761 0.48
  他の保健医療用品・器具 1,065 0.6 184 0.1 881 7.00
交通・通信 24,709 13.2 27,940 12.3 ▲3,231 1.07
  交通 2,976 1.6 1,921 0.8 1,055 1.87
  鉄道運賃 1,269 0.7 768 0.3 501 2.00
自動車等維持費 8,859 4.7 9,949 4.4 ▲1,090 1.08
  ガソリン 3,459 1.8 1,902 0.8 1,557 2.20

  勤労者世帯 構成割合
(%)(A)
勤労者以外
の世帯(※)
構成割合
(%)(B)
差額(勤労者
世帯−勤労者
以外の世帯)
特化係数
(※※)
(A/B)
  教育 9,517 5.1 6,765 3.0 2,752 1.70
  授業料等 5,158 2.7 5,005 2.2 153 1.25
  国公立小学校 1,477 0.8 967 0.4 510 1.85
国公立中学校 1,683 0.9 1,042 0.5 641 1.95
国公立幼稚園 945 0.5 116 0.1 829 9.86
補習教育 4,084 2.2 1,607 0.7 2,477 3.07
  幼児・小学校補習教育 1,406 0.7 1,000 0.4 406 1.70
中学校補習教育 2,678 1.4 602 0.3 2,076 5.38
教養娯楽 16,998 9.1 19,191 8.5 ▲2,193 1.07
  教養娯楽サービス 7,921 4.2 7,337 3.2 584 1.31
  月謝類 3,797 2.0 3,282 1.4 515 1.40
  音楽月謝 1,546 0.8 700 0.3 846 2.67
その他の消費支出 19,521 10.4 19,469 8.6 52 1.21
  理美容用品 2,950 1.6 2,435 1.1 515 1.47
  化粧品 2,078 1.1 1,677 0.7 401 1.50
他の諸雑費 3,604 1.9 2,257 1.0 1,347 1.93
  損害保険料 1,518 0.8 964 0.4 554 1.91
保育所費用 677 0.4 171 0.1 506 4.79
こづかい(使途不明) 1,905 1.0 710 0.3 1,195 3.25
交際費 5,153 2.7 3,941 1.7 1,212 1.58
  他の交際費 2,332 1.2 1,325 0.6 1,007 2.13
  つきあい費 574 0.3 11 0.0 563 63.13
他の負担費 925 0.5 253 0.1 672 4.42
資料: 全国消費実態調査(総務省)(平成11年)

勤労者以外の世帯には、無職世帯の他に、世帯主が会社等の役員である世帯等を含む。
※※ 特化係数=各支出項目の、勤労者世帯構成割合(A)/勤労者以外の世帯構成割合(B)



II 自立支援プログラムについて

 1  生活保護法における被保護者の義務、保護の実施機関による指導指示等と自立支援プログラム

生活保護は、稼働能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件としており、被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努める義務を負っている

実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示を行うことができる

被保護者は、実施機関が必要な指導又は指示をしたときは、これに従う義務を負っている

実施機関は、被保護者がこの義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる
↓
自立支援プログラムへの参加による自立・就労に向けた取組は、生活保護法で定める保護の要件や勤労等の努力義務の実現手段

自立支援プログラムへの取組状況を随時かつ定期的に評価し、その取組状況が不十分で、改善の必要があると考えられる場合には、生活保護法の規定に基づいて、指導・指示を行うことも考慮

更に、改善が認められず、稼働能力の活用等保護の要件を満たしていないと判断される場合等には保護の変更、停止又は廃止も考慮


(参考)
生活保護法(昭和25年法律第144号)

第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
(第2項及び第3項 略)

第60条 被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければならない。

第27条 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第1項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。

第62条 被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。
(第2項 略)
3 保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。
(第5項 略)


 2  自立支援プログラムの流れ図
自立支援プログラムの流れ図


 3  自立支援プログラムの早期適用について

現状  
生活保護の適用に至らない相談者に対し、自立・就労に関する具体的な助言・指導を行うために活用できるメニューの不在
→
自立支援プログラム導入後
自立支援プログラムの導入により、実施機関において利用し得る具体的な支援メニューが整備されることから、生活保護の適用に至らない相談者に対しても、自立支援プログラムへの参加を助言することにより効果的な自立・就労支援が可能。

(例) 就労支援相談員を設置している実施機関では、相談者に対しても専門的な面接相談を行うことにより、効果を上げている。


III 保護の要件について

 1  稼働能力の活用について

生活保護法第4条
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる

○現状と見直しの方向性
現状の問題点   見直しの方向性
保護申請時の「稼働能力の活用」の要件(※1)の評価方法が不明確
 − 申請者の年齢や身体的な能力に関する医師の判断に大きく依存
 − 評価方法に関する指針の不在

保護開始後の「稼働能力の活用」の評価が十分でない
 − 自立・就労支援への具体的取組の不足から、稼働能力の活用に関する被保護者への意識付け及びその評価の機会に欠ける

※1 「稼動能力の活用」の要件(判例を踏まえ)
(1) 稼動能力を有するか
(2) その稼働能力を活用する意思があるか
(3) 実際に稼働能力を活用する就労の場があるか

→
保護申請時の「稼働能力の活用」の要件の総合的評価及び客観的な評価の指針が必要
 − 年齢等に加え、本人の資格、職歴、就労阻害要因、精神状態等に関する医師の判断(うつ・ひきこもり等の場合(※2))等と、これを踏まえた本人の求職活動の状況や地域の求人状況等の把握による総合的評価が必要
 − 上記に関し、各福祉事務所がより具体的かつ客観的に評価できるよう、事務処理の指針を示すことが必要

保護開始後は、十分な自立・就労支援を行うとともに、「稼働能力の活用」の要件を随時評価することが必要
 − 自立支援プログラムの活用により、被保護者の実情(稼働能力等)に応じた自立・就労支援を行うことが必要
 − 同プログラムへの参加状況等に基づいて「稼働能力の活用」の要件を随時評価し、これを満たさなければ保護の停廃止も検討

※2  うつ、ひきこもりなど、精神的な疾患等から自立・就労意欲を欠く場合は、稼働能力そのものを有しないと判断される(就労意欲の低い者に対して拡大的に保護を適用するものではない。)。


 2  預貯金の保有の在り方

【補足性の原理】
預貯金の保有の在り方については、生活保護制度の基本原理であり、保護を受ける国民に要請されている補足性の原理〜保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件とする〜を念頭において検討しなければならない。

保護の開始時における預貯金の保有の在り方に関する主な意見
 保有を容認する額を拡大すべきとの意見
 早めに生活保護を適用し、自立・就労支援を行う方が、早期の自立に資するのではないか。
 一定の預貯金の保有を認めるべきではないか。
申請から開始までの生活費・受給中の運転資金・自立後の不安定な時期における生活費
 (参考) 破産法においては、標準生活費の3ヶ月分の保有が認められている。
 保有を容認する額の拡大に慎重な意見
 安易に生活保護を適用することは、生活保護費が収入として被保護者の生活の予定に入ることとなり、自立・就労意欲を減退させるのではないか。
 社会的公正の確保や一般低所得者との均衡に配慮するべきではないか。
 その他
 開始時に自立更生に充てるため保有を容認された預貯金は、これを預託する仕組みが必要ではないか。

保護受給中における預貯金の保有の在り方に関する主な意見
 いったん支給した保護費については一定のやりくりが認められるとすれば、保護費等を原資とする資産について、趣旨や使途、金額等を限定の上、保有を容認することが考えられるのではないか。


(参考1) 預貯金保有と生活保護の要件及び程度の判断の現在の考え方

保護の要否
申請時に保有している預貯金等が最低生活費の1カ月分を下回っており、
他に収入がなければ、預貯金等に関する保護の要件を満たす
→
最低生活費の1/2になるまで保護が適用されないわけではない

保護の程度
保護決定時に支給される保護費は、申請日までさかのぼって支給される
ただし、最低生活費の1/2を超える預貯金等については、収入認定される
→
保護開始後には、最低生活費の1/2を保有し続けることができる

(例)申請から保護決定まで14日間かかった場合
(例)申請から保護決定まで14日間かかった場合の図


(参考2)破産法における自由財産との比較

 【破産者】
  ○ 破産者が保有できる自由財産の額(標準生計費の3ヶ月分)は、個人保証をしていた中小企業の個人事業主が企業倒産に伴う多額の債務により生活が困窮する例が顕著であったこと、事業主が事業に再挑戦するためには一定の資金が必要であること等を踏まえたもの。
  ○ 破産者は、自由財産を当面の生活の維持や経済的生活の再生のために活用(費消)し、自立した生活の再建に努めることとなる。

 【被保護者】
  ○ 一方、被保護者は、最低生活に必要な額を保護費として支給されるため、基本的には開始時に保有していた預貯金を受給期間中保持することができる。

 ⇒  このように、破産者が破産時に保有を容認される自由財産と、生活保護制度の補足性の原理の下に保有が容認される資産については、趣旨目的が異なる。


(参考3)自立更生に充てることを目的とした預託について

【現行制度における預託の活用】
「自立更生のための恵与金、災害等による補償金、保険金若しくは見舞金、指導、指示による売却収入又は死亡による保険金のうち、当該被保護世帯の自立更生のために充てられることにより収入として認定しない額は、直ちに生業、医療、家屋補修等自立更生のための用途に供されるものに限ること。
 ただし、直ちに生業、医療、家屋補修、就学等に充てられない場合であっても、将来それに充てることを目的として適当な者に預託されたときは、その預託されている間、これを収入として認定しないものとすること。」
(厚生労働省社会・援護局長通知)


(参考4)保護受給中における預貯金保有の在り方

保護決定変更処分取消等請求事件 最高裁判決(平成16年3月16日)(福岡県学資保険訴訟)
【判決理由(抜粋)】
被保護者が保護金品等によって生活していく中で、支出の節約の努力(同法60条参照)等によって貯蓄等に回すことの可能な金員が生ずることも考えられないではなく、同法も、保護金品等を一定の期間内に使い切ることまでは要求していないものというべきである。
このように考えると、生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてされた貯蓄等は、収入認定の対象とすべき資産には当たらないというべきである。
被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである。

保護決定変更処分取消等請求事件 秋田地裁判決(平成5年4月23日)
【判決理由(抜粋)】
生活保護費のみ、あるいは、収入認定された収入と生活保護費のみが原資となった預貯金については、預貯金の目的が、健康で文化的な最低限度の生活の保障、自立更生という生活保護費の支給の目的ないし趣旨に反するようなものでないと認められ、かつ、国民一般の感情からして保有させることに違和感を覚える程度の高額な預貯金でない限りは、これを、収入認定せず、被保護者に保有させることが相当で、このような預貯金は法四条、八条でいう活用すべき資産、金銭等には該当しないというべきである。


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