資料3


医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容等について
(部会におけるこれまでの意見)



【「リスク」の捉え方】

 「リスク」の捉え方として、頻度と危害の大きさの積で捉えるというのは非常に重要な考え方である。

 全ての行為に「リスク」が伴うもの。安全性というのは「リスク」を許容範囲内に抑えるという考え方は重要。

 年齢や薬剤等の因子はそれぞれ危害の大きさとか、危害を修飾する因子であると考える。

 発生する事象の程度、「危害」と事象の発生確率、「頻度」でだいたいかけ算して、割合が大きいのはより危ない、リスクが大きいという考え方かもしれないが、発生確率が同じでも、人にとっては確実に「1」になる。

 発生確率がある程度高いのが分かっている、特定のグループ(ハイリスクグループ)に対して未然に伝えるのが、そもそもの目的で医師・薬剤師がいる。

 物性によるリスク分類は順番に並べることができるが、そこに個体差が加わると、0.1%の確率であってもその人にとっては100%。

 リスクの図にある面積が等しければ同じように扱えばいいかというとそうではなく、危害が高くて頻度が少ないものと、頻度が大きくて危害が少ないものとでは当然対処の仕方が違う。

 人がリスクを回避することが可能かどうか、危害の対象が限定的なのか、広域なのか、さまざまなファクターによってリスクの取扱いは変わってくる。

 上記の意見が、全体として整合性を持っているかどうかというチェックを行うことが必要。つまり、1つの意見だけで評価し、あとは評価しないといったようなことは問題があるかもしれない。


【資料「医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容等に関する留意事項」について】

 情報提供という表現が多く出てくるが、企業から消費者や販売業者への情報提供もすべきであり、「企業からの情報提供」という言葉が入ってもいい。

 「企業への情報提供」、「国への報告」という情報の収集が論点に入っているが、既知の副作用であっても、いかに早く収集するかについて、考え方の整理をやっていただきたい。

 消費者が風邪薬をくださいと来たときに、「鼻ですか、頭痛は、熱は、咳は?」と聞いて、消費者が薬を選ぶお手伝いとしてアドバイスすることが必要。その意味で、「症状から見た薬の選び方」が「情報提供の方法等」の部分に必要では。


【検討・作業の進め方】

 危害の程度と頻度の形としてリスクマップをまずつくってみることが重要。専門の人である程度合意があるという前提条件で次に動く。

 「リスク」という言葉や定義にとらわれることなく、リスクファクターをリストアップし、それぞれの薬でそれぞれの因子がどの程度のものかを整理してはどうか。

 リスクの程度をどう表現するかということが先にあって、薬のリスクの全体像を把握できたところで、それぞれの特性をもったリスクに対して、どういう情報提供がなされるべきかが次にくる。

 販売形態の形は、専門委員会で出た議論をベースに置いた上で、今までどおりのやり方でやるべきかどうかが検討の対象になる。

 定量化するのは難しい。わりと副作用が多いとか、間違いやすいとかをよくみて検討してほしい。定量化に拘りすぎると、評価の基となる情報が定量的に扱えるものに限られてしまうようなことがあるので、そこはうまく専門家の知識や判断が反映できるような評価の仕方を検討すべき。その際、評価の根拠は明示・記録すべきであり、定量的な根拠があればそれを、ないときも定性的な根拠を明示し、加えて特記事項も記録すべき。

 適正に使用しても確率的に起こり得るリスクがある一方で、誤使用からくるリスクもある。予期せぬ使用、誤使用系のリスクも薬のリスクはどのようにうまく組み込めるか。適正使用のリスクと不適正使用のリスクをトータルしてクラス分けをしていただきたい。

 患者は、想像もできないような飲み方をする場合があることに対しても知恵を使ってほしい。

 健康食品や医療用医薬品等と一般用医薬品との関係がどうなのかということを意識して検討してほしい。

 医学・薬学の人によって、危害の程度と頻度というマップはできるが、その次に飲む人の要素を入れてやるといろいろな議論が出てくるので、やり方について工夫が必要。

 販売形態によって情報提供のされ方が違う。情報提供が誰によって行われるかもきちんと考慮して、情報提供について考えてほしい。



(別添1)

一般用医薬品に関する「リスク」について
(第1回〜第4回部会で出された意見)


【1】医薬品の物性等に関連するリスクファクター

 ○ 医薬品の薬理作用。
 ○ 医薬品の成分そのものが持つ副作用(既知、未知を問わず。)。
 ○ 副作用の重篤化(重症化)。
 ○ 成分量の違い。
 ○ 濫用(長期連用)の危険性があるかどうか。
 ○ 医療用医薬品や食品との相互作用(いわゆる飲み合わせ、食べ合わせの問題)。


【2】消費者の状態等に関連するリスクファクター

 ○ 小児、妊婦、高齢等の消費者側の状況。
 ○ 消費者の病歴や副作用歴等の違い。


【3】その他のリスクファクター

 ○ 誤使用を惹起しやすい剤型であるかどうか。
 ○ 包装、剤型の違い。
 ○ 消費者に医薬品の副作用の危険性に関する情報が十分に提供されない状態。
 ○ 副作用情報が収集されないこと。
 ○ 情報提供だけでなく、消費者に医薬品を適切に使用させるための指導の必要性。
 ○ 消費者の知識不足による誤飲。
 ○ 医療用医薬品の一般用医薬品への転用(スイッチ)等に伴う使用環境の変化によって発生する予測が困難な副作用。
 ○ 医薬品の取り扱いやすさ。



(参考1)
各分野における「リスク」の定義について


国際標準化機構(International Organization for Standardization : ISO)

  リスクは、「組織の活動の遂行を阻害する事象の発生の可能性」と定義しますが、標準情報「リスクマネジメント−用語−規格において使用するための指針(TR Q 0008:2003)」には以下のように定義しています。

3.1.1 リスク(risk)
事象の発生確率と事象の結果の組合せ
備考 1.用語“リスク”は、一般に少なくとも好ましくない結果を得る可能性がある場合にだけ使われる。
 2.ある場合には、リスクは期待した成果、又は事象からの偏差の可能性から生じる。
 3.安全に関する事項については、ISO/IEC Guide51:1999を参照のこと。

 リスクの特性は、上記「備考2.」にあるように、結果そのものの「良い」、「悪い」により規定されるものではなく、その期待値に対してどのような分布を持つかにより規定されます。また、リスクとはあくまで「可能性」のことを指します。

<出典>
ISMSユーザーズガイド(2003年9月29日(財)日本情報処理開発協会)
※TR Q 0008:ISO/IEC Guide73として制定されたリスクマネジメントの用語を翻訳した標準情報


コーデックス委員会(Codex Alimentarius)

  食品中に危害が存在する結果として生じる健康への悪影響の起こる確率とその程度の関数
(A function of the probability of an adverse health effect and the severity of that effect, consequential to a hazard(s) in food.)

<出典>
Principles and Guidelines for the Conduct of Microbiological Risk Assesment (1999年)


厚生労働省 医療安全対策検討会議

 
 リスクとリスク・マネジメントの一般的な用法
 リスク・マネジメントは、従来、産業界で用いられた経営管理手法であり、事故を未然に防止することや、発生した事故を速やかに処理することにより、組織の損害を最小の費用で最小限に食い止めることを目的としている。
 リスクとは「損害の発生頻度とその損害の重大さ」の二つの要素によって定義付けられている。世の中の全ての事象にリスクは付随しており、安全とはリスクが許容できるものであるという状態をいう。「リスクは常に存在する」こと、また同時に「適切な管理によってリスクを許容範囲にまで減らすことができる」ことが「リスク・マネジメント」の出発点である。
 リスク・マネジメントについての政策立案に当たっては、(1)危険についての社会的許容範囲、(2)リスク・マネジメントに要する費用対効果の両面からの十分な検討が必要である。

<出典>
医療安全推進総合対策〜医療事故を未然に防止するために〜(平成14年4月)


経済産業省 リスク管理・内部統制に関する研究会

   リスクは、一般には「危険」すなわち悪い結果の発生可能性という意味で使われるが、より広く捉えて、良い結果と悪い結果の双方の発生可能性を含む「不確実性」と捉えられることもある。企業にとってのリスクとは、狭義には「企業活動の遂行を阻害する事象の発生可能性と捉えられるが、近年では、より広く「企業が将来生み出す収益に対して影響を与えると考えられる事象発生の不確実性」として、むしろ、企業価値の源泉という見方で積極的に捉えられるようになってきている。
 本指針では、リスクを広く捉え「事象発生の不確実性」と定義し、リスクには損失等発生の危険性のみならず、新規事業進出による利益又は損失の発生可能性等も含むと考える。

<出典>
リスク新時代の内部統制〜リスクマネジメントと一体となって機能する内部統制の指針〜(平成15年6月)


広辞苑 第五版(岩波書店)

 
危険。「――を伴う」
保険者の担保責任。被保険物。


リスク学事典(TBSブリタニカ)

   狭義には、ある有害な原因(障害)によって損失を伴う危険な状態(peril)が発生するとき、[損失]×[その損失の発生する確率]の総和を指す。リスクを前提にすると、精神的には不安・心配や恐怖が伴う。



(参考2)
「リスク」の捉え方のモデル



【「リスク」に関する指標】

  A 発生する事象の程度(危害)

  B 事象の発生確率(頻度)


【「リスク」の捉え方】

例1 例2 例3


(別添2)

医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容等に関する留意事項(案)


リスクの程度の評価
薬理作用

相互作用

重篤な副作用のおそれ

濫用のおそれ

患者背景(既往歴、治療状況等)
(重篤な副作用につながるおそれ)

効能・効果
(症状の悪化につながるおそれ)

使用方法(誤使用のおそれ)

スイッチ化等に伴う使用環境の変化
提供する情報
適応禁忌

重篤な副作用が起こり得ること
(及びその内容)

使用前に医師等に相談する場合

長期服用に関する注意

使用方法

受診勧奨

相談応需
情報提供の方法、その他の対応
積極的に情報提供

消費者の求めに応じて情報提供

受診勧奨
(販売しない)

企業への情報提供

国への報告

記録の作成



(別添3)

リスクの程度に応じた情報提供等について
議論する際に考慮すべき事項(案)


項目1

 一般用医薬品として市販されている製品について、販売の際、消費者が使用するときに必要なものとして提供すべき情報にはどのようなものがあるか。


項目2

 販売の際、提供すべき情報の消費者への伝え方として、どのような方法がとり得るか。


項目3

 販売後の副作用等の発生時の対応として、どのような方法がとり得るか。


項目4

 個々の品目のリスクの程度は、何を評価の基準とするのか。


(別添4)

情報提供の内容及びその方法の例


1 販売時

  情報提供について

   ・ 適応禁忌

   ・ 使用前に医師、薬剤師等に相談すること

   ・ 使用方法

   ・ 重篤な副作用が起こり得ること(及びその内容)

   ・ 使用上特に留意すべき事項

   ・ 長期服用に関する注意

  対応について

   ・ 症状が改善しない場合の受診勧奨

   ・ 受診勧奨(販売しない)

   ・ 症状等に関する情報収集

2 販売後

  情報提供について

   ・ 副作用等の相談応需

  対応について

   ・ 相談内容に関する記録の作成

   ・ 国等への副作用報告

3 提供の方法

   ・ 積極的に提供

   ・ 消費者の求めに応じて提供



(別添5)

リスクの程度に基づく作業のイメージ図


図

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