検討会、研究会等  審議会議事録  厚生労働省ホームページ

平成16年10月4日

大臣官房国際課国際協力室
 室長補佐 吉田(内7302)
 国際協力専門官 北村(内7305)
 協力企画係長 吉村(内7305)
(直通) 03-3595-2404



国際協力事業評価検討会(保健医療分野)中間報告について(概要)


 厚生労働省では、2003年度より3年間の事業として、国際協力事業評価検討会(国際課長の有識者検討会)を開催している。
 本検討会・保健医療分野(座長 中村安秀・大阪大学大学院人間科学研究科ボランティア人間科学講座教授)では、会期前半の成果として、(1)国際協力に携わる人材の養成、(2)国際協力データバンクの構築、(3)国際協力の将来あるべき方針について、中間的な検討結果を整理した。これらは全て、厚生労働省が責任省庁として、他の関係機関への影響も考慮しながら、保健医療分野の国際協力のあり方を提言するものである。
 各分野のポイントは次の通りである。(詳細は添付の中間報告書を参照のこと。)

(1)国際協力に携わる人材の養成
 関係機関が責任を委託できる協議・調整機関として、「国際保健医療協力に関する人材連絡協議会議(仮称)」を設置し、人材の発掘、育成、適正な配置についての実務的な協議・調整と求人・求職等に関する情報提供、情報交換を行う。協議・調整機関の設置要項を整備した。

(2)国際協力データバンクの構築
 我が国が実施した政府開発援助案件の情報を備えた国際協力データバンクを設置することによって、国内外の目標に対する実績を整理すると同時に、政策提言やセクター別援助方針策定の参考となる情報、案件の発掘・形成の参考となる情報、援助パートナーとの協調の参考となる情報を入手する。国際協力データバンクの設置要項を整備した。

(3)国際協力の将来あるべき方針
 国際協力の将来あるべき方針を示すための軸を、目標、システム、リソースに大別し、各軸については、論点とそれに対する戦略を明らかにした。

 会期後半は、これらの提言を確実に実行に移すために必要な、また国際社会への宣言を踏まえた議題に焦点をあて、最終報告に向けた討議を進めることとしたい。

 (本会の議事録は、https://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#kokusai でご覧になれる。)


はじめに

 厚生労働省では、2003年度より3年間の事業として、国際協力事業評価検討会(保健医療分野)(以下、検討会と言う。)を開催している。その目的は、保健医療分野の国際協力事業について、これまでの実績等を踏まえ、体系的、客観的な評価方法等の可能性を検討し、またその結果を政策立案、実施に移していくためにはどうしたらよいか検討することである。今回、検討会では、会期前半の検討結果をとりまとめたので、報告する。本会のメンバーは次の通り。青山温子・名古屋大学大学院医学系研究科教授、上原鳴夫・東北大学大学院医学系研究科教授、小林廉毅・東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授、田中耕太郎・山口県立大学社会福祉学部教授、中村安秀・大阪大学大学院人間科学研究科ボランティア人間科学講座教授(座長)、長谷川敏彦・国立保健医療科学院政策科学部長、國井修・外務省経済協力局調査計画課長補佐、行松泰弘・文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室長、中野滋文・国立国際医療センター国際医療協力局計画課長(2004年7月まで)、石川典子・同(2004年7月より)、野崎慎仁郎・国際厚生事業団事業部長、水嶋春朔・東京大学医学教育国際協力研究センター講師、橋爪章・国際協力機構人間開発部技術審議役(2004年4月より)、吉澤啓・国際協力機構医療協力部計画課長代理(2004年3月まで)。


1.要約

 国際協力事業評価検討会(保健医療分野)では、会期前半の成果として、(1)国際協力に携わる人材の養成、(2)国際協力データバンクの構築、(3)国際協力の将来あるべき方針についての中間的な検討結果をとりまとめた。これらは全て、厚生労働省が責任省庁として、他の関係機関への影響も考慮しながら、保健医療分野の国際協力のあり方を提言するものである。
 会期後半は、この提言を確実に実行に移すために必要な、また国際社会への宣言を踏まえた議題に焦点をあて、最終報告に向けた討議を進めることとしたい。


2. 第1回〜第2回のまとめ

 本会では、まず過去に行われた保健医療分野の国際協力のあり方に関する提言を整理した。1986年6月に厚生省(当時)は、国際協力推進のための基本方針を発表し、プライマリ・ヘルス・ケアの推進が極めて重要であり、ワクチン接種等の感染症対策に関する協力を重点的に推進し、また人材バンクやデータバンクの構築を含むマンパワー体制の整備等を進めるとした。1990年6月には、保健協力の拡充に関する中間報告をとりまとめ、我が国の政府開発援助(ODA)の重要な柱として基礎生活分野を重視した保健医療協力を行うとした。また非感染性疾患を含む地域医療一般に関する協力も行う他、保健協力人材の養成やデータベースの整備等を行うとした。1993年2月には、一層の国際協力の基盤整備を進めていくことを再確認し、経験の蓄積、研修の充実や専門家・コンサルタントの養成、さらにデータベースの整備や人材登録制度の導入、保健医療福祉分野の所管行政機関として案件形成段階からの積極的な関与を掲げた。

 その結果、本会では、次のような考察を行った。

過去10数年来のODAに関する取組のなかで、実現できていない項目(人材バンク、データバンクなど)については、どういう要因で実現できなかったのか明らかにすべきではないか。

 本会では、次に現時点での保健医療分野のODA実績の全容を大まかに整理し、その作業をするなかで、本会で検討すべき課題を抽出することとした。作業は、1998年〜2003年に実施された技術協力プロジェクトを対象に、実施期間、対象国、2003年時点での継続の有無、協力内容、関連機関、日本側協力機関などについて分類を試みた。また協力内容については、何に対する対策を対象としたプロジェクトなのか(例:感染症など)、対象とする層は何か(例:妊産婦など)、対象とする施設等は何か(例:病院など)、カウンターパートはどこか(例:政府など)、援助の主な目的は何か(例:サービスの充実など)というように、さらに細かく分類することを試みた。

 その結果、本会では、次のような考察を行った。

ODA実績は、他の援助国・機関の実績や被援助国のニーズと合わせて整理できるとよいのではないか。分類の仕方を工夫すれば、他の援助国・機関との比較も容易になるのではないか。

無償資金協力、有償資金協力など他の援助形態にも踏み込んだ分析が必要ではないか。

援助の環境は刻々と変化しているなかで、過去のODA実績の分析だけでは、将来あるべき方針はたてられない。むしろ、この作業を通じて分かったことは何か、あるひとつのプロジェクトを知る上で厚生労働省がもつべき情報は何かをまとめるべきではないか。

各プロジェクトに関わった人材(医師、看護師、薬剤師など)からみた整理の仕方があるとよいのではないか。

 これらを踏まえ、本会で検討を進める課題としては、次の項目が認識された。

 (a)継続的にODA実績を集めてデータバンクを整備するには、どうしたらよいか。また情報の整理にはどのような分類方法と雛型を使えばよいか。

 (b)データバンクの整備については、早くから提言が出ているのに、進まなかったのは、活用の仕方についての検討がなかったためではないか。よってデータの活用の仕方を検討すべきではないか。

 (c)国際協力に携わる人材の養成に関して、現時点での実績(システムやリソースなど)はどうなっているか。今後、どういう人材をどういうやり方で養成したらよいか。

 (d)複数の関係機関が協調・連携できるように、コンソーシアムを作って、データや方針を共有できるようにしたらどうか。

 (e)本会では、個別のODAプロジェクトの評価を行うよりも、むしろ、保健医療分野の国際協力の将来あるべき方針を示すことを目指すべきである。そのためには、先ずどういう軸をたてればよいか。

 本会では、これらを踏まえ、会期前半の検討課題として、(1)国際協力に携わる人材の養成、(2)国際協力データバンクの構築、(3)国際協力の将来あるべき方針(座標軸)の3分野を特定し、それぞれワーキンググループ(WG)を置いて作業を進めることとした。


3. 第3回〜第5回のまとめ

3-1.国際協力に携わる人材の養成

 本件の検討は、田中耕太郎・山口県立大学社会福祉学部教授、中村安秀・大阪大学大学院人間科学研究科ボランティア人間科学講座教授、野崎慎仁郎・国際厚生事業団事業部長、行松泰弘・文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室長が担当した。また本件は、保健医療分野の国際協力に携わる人材育成の推進のための調査研究検討委員会(外務省・国際厚生事業団事業)と合同で行った。

 WG1では、国際協力に携わる人材育成の推進のための提言及び行動計画をとりまとめることを目標に作業を行った。まず、保健医療分野の人材養成に関する問題点について認識を共有した結果、論点は次の3つに大別された。

(1)人材開拓のニーズ、すなわち、どういう人材がどのくらい求められ、そのためにはどういう訓練が必要か。
国際協力を専門の業務として行う人材、なかでも政策アドバイザーのような被援助国の政策づくりに助言ができる人材をどのくらい育てていくのか。
ジェンダー、平和構築などの新たな分野と保健との関わりの中で、どういう人材が求められるか。
関係機関、NGOとどのような連携や役割分担が考えられるか。

(2)人材の募集と供給の不一致、すなわち、人材を募集する側の条件と人材を供給する側の条件の乖離を解決するには、どうしたらよいか。
選考基準やJob Descriptionは、十分に分析されているか。
必要とされる専門能力が選考基準の中で軽視されてはいないか。
派遣専門家の募集は組織に頼りすぎてはいないか。個人資格での応募を促進する一方で、組織として人材を派遣することが得になるという論理の積み重ねも必要ではないか。また、学会への働きかけもこれまで以上に必要ではないか。

(3)人材の養成方法、すなわち、人材をどのように養成し、活用したら、キャリアパスの構築につながるのか。
On-the-jobトレーニングや開発途上国の人材と一緒に学ぶなど、現場を指向した訓練を積極的に提供したらどうか。
社会人の再教育やJPO制度の活用など、訓練の機会を積極的に提供したらどうか。
国際協力を専門の職務とする人材と、国際協力を職務の一環として手伝ってくれる人材とを、目的に応じて活用し分けることが必要ではないか。

 本会では、これに対して、次のような示唆を行った。

(a)人材養成の目標について
戦略的に人材を養成する分野(例えば日本の弱い分野であって長期的に強化が必要な分野、10年先ぐらいに重要となる分野など)と人材のタイプ(国際協力を専門職とする専門家/国際協力に業務の一環として協力する専門家)を示すこと。そして、どういう目的で、どういう人材を何人必要とし、その養成を行うのか、明らかにすること。
また、そのための予算措置や関係機関の組織的な協議の仕組みなどを検討すること。

(b)人材データバンクについて
人材データバンクをどこに置くのか。また、どこに人材データバンクを置くとこういうメリット・デメリットがあるのか、選択支をまとめること。
扱う人材の範囲には、医師以外の医療職、福祉、経済開発などを専攻した方も入れること。

(c)人材の評価について
Master of Public Health (MPH) をもっていても、実地経験の有無などにより人材のレベルが様々であるため、人材の評価は、学位、職歴、実地経験の有無などを合わせて総合的に判断することが必要である。
質の良い人材を養成するための、具体的なリソース・方法を提案すること。例えば、人材のQuality認証のためのコースや試験を実施してCertificateを出して、それをJICAやJBICなどが客観的な判断として用いるようにしていく仕組みを検討してほしい。

(d)民間セクターの活用について
民間セクターの資金不足の問題には、NGO枠を使ったインターンシップ、提案型スキームの活用、国連JPO制度の活用など、既存の制度に工夫の余地がある。

(e)大学のカリキュラムについて
各大学独自の教育として、専門の教官がいる大学では、国際保健医療学を必須としている。また、国際保健医療学は、むしろ大学院教育で行うべきと考えることもできる。

 WG1では、これらを検討した結果、保健医療分野の国際協力に携わる人材育成の推進のために、各論点に対して、次の提言を行うこととした。

(1) 人材の開拓−定量的なニーズの把握
 関係省(厚生労働省、文部科学省、外務省)が連携して、保健医療分野の国際協力に、如何なる人材が、どれ位の人数、どれ位の期間、必要とされるかといった中長期的な戦略を策定する。
 人材の需要予測では、専門分野の区分の仕方を定義した上で、専門家の分野毎の派遣実績の集計と、よくデザインされたプロトコールに基づく幅広い国際協力関係者へのアンケートの集計を比較して、両者の乖離を量るなど、予測の科学的な裏付けを示すこと。

(2)人材の需要と供給−ミスマッチの解決
 1ヶ所に共有できる人材データバンクを設置すれば、需要に該当する人材の検索が簡便かつ迅速になると予想されるが、人材の質の評価や政策的な判断を行うことはできないため、それに代わる、関係機関が集まって協議を行う仕組(調整組織)を設置することが不可欠である。
 人材データバンクへの登録が個人による任意の登録に限られたり、ある特定の機関の事業だけに利用が限定されると、積極的な人材発掘には繋がり難く、また国際機関を含む幅広い人材の需要にも応えることは難しい。
 調整組織が、JICAや国際機関等の人材募集と各諸団体が個別に有する人材データベースとを仲介する事業を行う場合、新たな予算・人員措置が必要となる他、本組織に対する関係機関及び諸団体による認知とコミットメントがないと成果は見込めない。

(3) 人材の養成とキャリアパス−人材の活用
 関係各機関が有する、人材養成に関する情報やシステムを有機的に連携させ、On-the-job trainingの積極的活用やセミナーの定期的な開催などを通じて、国際保健協力の専門家を目指す方に様々なキャリアパスの可能性を提供できるようにする。
 国際保健協力に関する情報を積極的に多くの関係者や関係機関で共有する必要がある。本分野に関する関係機関の定期的な情報交換の場、そして広く開かれた情報提供の場が必要である。

 (1)〜(3)を実現するため、まず関係機関が責任を委託できる協議・調整組織を早急に設置して、(1)人材の需要予測、(2)人材の検索と質の評価の仕組、(3) 定期的な情報交換と発信の場の提供、を行うこととする。その協議・調整組織の設置要項は次の通りである。


国際保健医療協力に関わる人材連絡会議の設置要項(案)

1. 設置目的
 保健医療分野におけるわが国の開発協力を効果的かつ効率的に推進するための人材養成および人材配置のあり方について実務的な検討を行うことを目的として、国際保健医療協力に関わる人材連絡会議(以下「連絡会議」)を設置する。

2. 活動内容
(1)関係組織で構成する委員会における計画策定と協議・調整(提言(1)(2)に対応)
 国際保健医療協力に関わる人材の発掘、育成、適正な配置について実務的な協議・調整を行う。また、必要に応じて、保健医療分野における国際協力の今後の課題等につき関係者間で意見交換を行う場として、本連絡会議の機会を有効に活用する。

(2)人材の活用に関する情報交換(提言(3)に対応)
 (「国際保健医療協力人材開発フェア(仮称)」の開催) 関係組織に加えて、NGOなどを含めた国際保健医療協力に従事する(希望のある)人材にも広く参加を求め、求人・求職や研修参加募集等に関する情報提供、情報交換を行う。


3-2.国際協力データバンクの構築

 本件の検討は、小林廉毅・東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授、上原鳴夫・東北大学大学院医学系研究科教授、水嶋春朔・東京大学医学教育国際協力研究センター講師、中野滋文・国立国際医療センター国際医療協力局計画課長(2004年7月まで)、石川典子・同(2004年7月より)が担当した。また、建野・国立国際医療センター国際医療協力局派遣協力第一課長、仲佐・同派遣協力第二課長、伊能・同調査課長がオブザーバーとして参加した。

 WG2では、次の検討課題に沿って、作業を進めた。

  (1)データバンクの整備は、過去に提言されたにもかかわらず、なぜ今日まで実現されていないのか、要因を明らかにする。
  (2)ODA実績の整理について追加分析を行う。
  (3)分類方法の絞り込みの可能性を検討し、プロジェクトを知る上で、また今後の活用を考える上で、厚生労働省がもつべき情報は何かを考察する。
  (4)継続的にODA実績を集めてデータバンクを整備するには、どうしたらよいか。情報の整理にはどのような分類方法と雛型を使えばよいか、情報をどのように活用したらよいかをまとめる(国際協力データバンクの設置要項)

(1)データバンクの整備が、今日まで実現されていない要因について、人材データベースを例に、次のような考察を行った。

人材データベースについて、現状では、各関係組織に一応のものはあるが、その目的は、内部用に限られ(非公開)、共有化されていない。また情報の収集・更新も、組織によって、実績ベースや実績+希望者ベースなど様々である。これらの情報を有効活用するためには、情報の共有化が必要だが、アクセスをオープンにした場合には、個人情報の公開について確認が必要となる。

共通化された人材データベースが整備されなかった要因には、次のことが考えられた。

 -活用の仕方の問題。人材の一本釣りや、データベースで人材を検索しても所属先の意向に左右される場合が多く、データベースを利用する必要がなかった。
 -情報の質の問題。データベースの情報では、開発協力の経験など人材の質や関心の程度までは判断ができなかった。
 -動機付けの問題。データベースを整備するための動機付けがなかった。
 -維持管理の問題。データベースの維持管理に必要なマンパワーや資金が確保できなかった。
 -付加価値の問題。データベースをいかに手間をかけて更新し、新規の関心者を集めるものにするかという配慮がなかった。
 -知識管理の問題。成功例、失敗例といった経験を共有できる教材がなかった。


(2)過去5年の無償資金協力案件の整理を行った結果、次のような考察が得られた。

各案件の開発調査報告書を読まない限り、既存のデータベースでは、案件によって入手できる情報量にギャップがある。また技術協力プロジェクトとのつながりが不明なものが多い。これはデータベースに情報を入力する際の一定の様式がないためである。

(3) 分類方法の絞り込みの可能性を検討し、プロジェクトを知る上でもつべき情報は何かを考察した結果、次のような項目(案)が得られた。

国連ミレニアム開発目標(MDGs)。保健医療分野に関わるMDGsのうち、どれに該当するか。
我が国のODA大綱の重点分野との関わり合い。
何に対する対策を対象としたプロジェクトなのか(例:感染症など)
対象とする層は何か(例:妊産婦など)
対象とする施設等は何か(例:病院など)
カウンターパートはどこか(例:政府など)
援助の主な目的は何か(例:サービスの充実など)
主な協力機関(例:国立国際医療センターなど)
派遣された専門家と派遣期間
他のドナー及び国際機関との連携
他のスキームとの連携
プロジェクトに要した費用概算
リファレンス

(4)国際協力データバンクの設置要項については、まず本会で次のような基本的な考え方を整理した。

データバンクは、過去の事業の評価と今後の事業への活用を目的とする。

情報(個人情報を含む)公開できる部分とできない部分を整理すること。雛型の作成と情報の収集方法については、情報公開と評価に利用できるような工夫をすることで、データバンクに対する協力の動機付けを生み出すこと。

各関係機関のデータベースとの互換性を考慮すること。

データバンクの形態は、どこに何の情報があるか簡単に見られるような簡易データベースと詳細な情報が見られる詳細データベースという2つが考えられるので、それぞれについて活用の仕方を検討すること。

 本会では、さらに次のような示唆を行った。

(a)データバンクの目的と活用の仕方について
簡易データベースは公表を前提とすること。また簡易データベースは分類を主目的としているので、集計や統計に役立つ。
厚生労働省としての「使用目的」と「必要な情報」を精査すること。これによって雛型が決まる。
実績報告と評価と今後の計画、つまり、どの分野に何人ぐらい人材の投入が必要かというような見積もりができるデータベースが求められる。

(b)情報の分類の仕方について
項目では、「分野」、「裨益対象層」が最も重要である。これについては、WG3の検討を参考にするとよい。
他の援助機関の分類と整合性をとることで、統計的な比較ができるようにしておくことが望ましい。
主分類と副分類で情報を拾える方法を検討すること。
分野については、後でグルーピングができるように、最初は、細かく決めた案から作業を始めたほうがよい。

(c)情報の収集・入力・維持・更新の仕方について
継続的に情報を集められる情報源を確保し、医療センターに情報が来るまでのシステムを構築してほしい。
データの入力に関して、PDMから分からない場合は、最終報告書を使用すること。

(d)アクセスの仕方について
公開に関して、簡易データベースは一般公開でよいが、詳細データベースについても、アクセスを会員制にするなど一定の制限を加えた上で、インターネットで公開してほしい。

(e)各項目について
人数とコストについての情報は、よく聞かれるので、取扱いを検討すること。
他のセクターとの関連について、例えば、教育と保健、人口とAIDSというような場合、どちらに主眼をおくのか。同じセクター内でも、例えば、個別案件と保健システム改善というような場合、同様な問題が起きる。こういう場合の取決めを示すこと。
各項目の定義や注釈を示すこと。
簡易データベースの維持・更新の点からは、チェックの際、判断に迷いそうな項目は、全て落として、詳細データベースに移行させたほうがよい。簡易データベースは、例えば前日に採用されたばかりの職員でも情報を見れば簡単に入力できるような、簡単な雛型にしたほうがよい。

 WG2では、これらを踏まえ、国際協力データバンクの設置要項の作成を行った。その結果は次の通りである。

(1) データバンクの使い方
我が国が実施したODA案件の情報を集計することによって、
(i)国内外の目標に対する実績について情報を整理する
(ii)政策提言やセクター別・プログラム別援助方針策定の参考となる情報を入手する
(iii)案件発掘・形成の参考となる情報を入手する
(iv)援助パートナーとの協調の参考となる情報を入手する

そのために必要な情報は、
(i)MDGs、DAC開発目標、ODA大綱、IDI、コモンアジェンダ、ジェンダー、環境、援助パートナーとの協調などに対する実績
(ii)国別・分野別分類、WG3の軸、教訓、成果物、海外援助機関と比較できる情報など
(iii)教訓、成果物など

(2) 分類の仕方
主分類と副分類で情報を拾える方法として、26分類案を仮提案する。その際、
-他の援助機関が使用している分類とのバランスを確認すること
-複数の有識者の感触を確認すること

(3) 人数・費用の情報や、チェックの際に判断に迷う項目は、簡易データベースでは扱わず、詳細データベースで扱う。


国際協力データバンクの設置要項(案)

目的と用途
 過去の事業の評価と今後の事業への活用を目的とする。我が国が実施したODA案件の情報を集計することによって、
 (i)国内外の目標に対する実績について情報を整理する
 (ii)政策提言やセクター別・プログラム別援助方針策定の参考となる情報を入手する
 (iii)案件発掘・形成の参考となる情報を入手する
 (iv)援助パートナーとの協調の参考となる情報を入手する

範囲
 利用者の範囲
  ・厚生労働省の他、関係援助機関にも利用してもらう。
  ・情報公開できる部分は公開して、一般に広く利用してもらう。
 入力対象となる案件
  ・ODA:技術協力プロジェクト、個別専門家派遣、個別研修、集団研修、緊急援助、無償資金協力、開発調査
  ・研究:国際協力に関する研究、スカラーシップ

形態
 データバンクは、簡易情報データベースと詳細情報データベースから構成される。
  ・簡易情報データベースは、何を対象にした案件があるか、簡単に検索できるもの。主にラジオボックスにチェックする様式。データは公開。
  ・詳細情報データベースは、案件のより詳しい概要がわかるもの。主に情報を具体的に記述する様式。データへのアクセスは会員制。

雛型
 別紙の通り。

情報の収集・入力・維持・更新方法
 どこに置き、誰が入力・管理するか
  ・医療センター調査課の協力の下、研究班で専門の調査員を雇用。研究終了後は、医療センター調査課で管理。

 データをどこから、どのように入手するか
  ・情報の入手源には、JICAプロジェクト終了時報告書又はそれに類するものを使用。
  ・継続的に情報を集められる情報源を確保し、データバンクに情報が来るまでのシステムを構築。

 データをどのように入力するか
  ・ラジオボックスへのチェックは、1つ選択なのか複数選択なのか指示。
  ・各項目について定義、注釈又は入力マニュアルを示す。
  ・誰が入力するかを決めておくこと。
  ・詳細情報データベースについては、記載の仕方の雛型を指示すること。

 どのぐらいの頻度で更新するか

実施計画*
平成16年度 簡易及び詳細情報データベースのデザイン
平成17年度 簡易及び詳細情報データベースのパイロット試験
平成18年度 本格稼働

*研究班の分担研究のひとつとしてリンクさせる予定
*互換性の評価を含む



雛型1 簡易情報データベース

1.名称-----
2.期間-----
3.援助形態
□技協 □派遣 □研修 □緊急援助 □無償 □開発調査 □研究 □スカラーシップ □有償
4.地域名-----
5.国名-----
6.ODA大綱の重点課題*
□貧困削減 □持続的成長 □地球的規模の問題への取組 □平和構築 □該当せず
7.ミレニアム開発目標*
□1:極度の貧困と飢餓の撲滅 □2:普遍的初等教育の達成 □3:ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 □4:幼児死亡率の削減 □5:妊産婦の健康の改善 □6:HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 □7:環境の持続可能性の確保 □8:開発のためのグローバルパートナーシップの推進 □該当せず
8.主な分野*,**
8-1.疾患又は対象
□小児保健 □予防接種 □下痢症 □急性呼吸器感染症 □人口・リプロダクティブヘルス □HIV/AIDS □結核 □マラリア □他の感染症・寄生虫症  □歯科衛生 □精神保健 □リハビリテーション(医療・社会) □薬物乱用 □その他の疾患対策
8-2.アプローチ
□栄養と食品 □地域保健・プライマリヘルスケア □臨床サービス・医療技術 □救急医療・災害対応 □臨床化学検査 □必須医薬品 □環境保健・水と衛生 □専門教育・人材開発 □地方保健システム □保健財政 □保健情報 □政策・法令・制度化 □その他
9.データの入手先 報告書の有無 □有 □無
有の場合の連絡先 □JICA □外務省 □厚労省 □文科省(情報公開の有無 □有 □無)
10.国内協力組織
□厚労省 □他省庁 □NGO □教育・研究機関 □学会 □民間企業 □病院 □地方自治体 □その他(    )
11.政府関係の公表された評価の実施の有無 □有 □無

*チェックの仕方について解説が必要。
**分類は仮置き。調整が必要。


雛型2 詳細情報データベース

技術協力

1.名称-----
2.期間-----
3.派遣人数・指導科目
長期-----人、短期-----人*
指導科目-----(長期・短期の別、人数)、-----( )、-----( )
4.相手国の実施機関・キーパーソン
実施機関-----、-----
キーパーソン-----、-----
5.国内の協力機関・キーパーソン
協力機関-----、-----
キーパーソン-----、-----
6.援助のタイプ**-----
7.総額コスト-----円*
8.他のスキームとの関連 □有(          ) □無
9.援助パートナー □有(          ) □無
10.関連するプロジェクト □有(          ) □
無11.政府関係の公表された評価報告 □有(          ) □無

12.概要***
12-1.背景-----
12-2.目的-----
12-3.活動-----
12-4.成果-----
13.Reference(成果物など)-----

*単位の書き方について注釈が必要
**記載例が必要
***最終PDMの記載を基本。書き方の雛型が必要。


3-3.  国際協力の将来あるべき方針

 本件の検討は、青山温子・名古屋大学大学院医学系研究科教授、長谷川敏彦・国立保健医療科学院政策科学部長、國井修・外務省経済協力局調査計画課長補佐、橋爪章・国際協力機構人間開発部技術審議役が担当した。

 WG3では、まず方針作成の基本的考え方を次のように整理した。
厚生労働省が責任省庁として、保健医療分野の国際協力の将来あるべき方針を決める。

方針を示すための軸は、(1)目標、(2)システム、(3)リソースに関する各軸に大別できる。

各軸について、方針を決めるための論点を特定する。

各軸について、我が国と他の国・機関の方針とを比較し、援助方針に関する日本と世界の位置関係を考察する。

 次に、本会(第1回〜第3回)で出された様々な意見をクエスチョネアの形で抽出し、各軸に整理した後、クエスチョネアについての具体的な論点を次のように特定した。

(1) 目標軸
抽出したクエスチョネア
何を目標にしたのか/するのか
誰・何を対象にしたのか/するのか

論点
対象国・地域:MDGsのみを目標とした場合、ある程度の発展国は対象から除かれる。ODA大綱を目標とした場合、アジア地域が重視される。開発が進んだ国でも国内格差があるところもある。イラク復興支援のように政府の方針として決定されるものもある。対象とする国のレベルや地域を絞るのかどうか。
対象領域:MDGsのみを目標とした場合、保健システム構築、保健セクター管理、リハビリテーション、食品衛生などは対象から除かれる。保健医療全体を考えるのかどうか。
人材養成との関係:保健システム構築を対象に入れるのであれば、中長期的な政策アドバイザーの養成が必要だが、MDGsのみを目標とした場合は従来のままでよいことになる。政策アドバイザーの養成を考えるのかどうか。

(2) システム軸
(i) ニーズ
抽出したクエスチョネア
発展途上国が求めていたものは何か/求めているものは何か

論点
途上国の分類:ニーズはその国のレベルや課題によって国ごとに異なる。
要求とニーズ:ニーズと言った場合、要求がひとり歩きしやすく、真のニーズとの乖離が生じる。

(ii) スキーム
抽出したクエスチョネア
技術協力のスキームは何であったか/何になるか
マルチ・バイの仕組みはどうであったか/どうなるか
これらがどのように関連して効果を上げたか/上げるか 等

論点
外部機関への委託:直接実施するよりも、NGO等の外部実施機関に委託したほうがよい場合もあるのではないか。NGO等への外部委託を推進するのかどうか。また受託機関を育てる方針をもつのかどうか。
国際協調:例えば、WHOのやり方と日本のやり方に違いがあるとき、WHOのやり方に近づける場合と日本独自のやり方をとる場合とがあるが、そういう調整が必要である。

(iii) 企画・実施体制
抽出したクエスチョネア
誰がどのように案件発掘を行ったのか/行うのか
誰がどのように発案したのか/するのか
誰がどのように決定したのか/するのか
誰が実施したのか/するのか
計画段階で何が問題であったのか/となるか
政府としての交渉はどうだったのか/どうするのか
モニタリングはどうしていたのか/どうするのか
どういうリソースを利用したのか/するのか
人材派遣上の障害はどこにあったのか/どこにありそうか
研修等の受入れには関与したか/するのか 等

論点
援助のやり方:日本の援助はプロセスを重視し、長期的な計画性をもって実施する傾向にあるが、他のドナーは成果を重視する傾向にある。国民は成果重視を希望しているように見えるが、プロセス重視傾向の方針を変えるのかどうか。
評価と広報:プロセス重視のやり方でも長期的には成果が出てくるはずであり、これをどのように評価していくのか。またそのための国民への説明の仕方をどうするか。
援助側と被援助側の役割:現地にて援助の実施の仕方をどう組むかは、援助側・被援助側両方の問題であるが、被援助国の各セクターではマルチ・バイを統合・管理できる能力が不足している。
決定権:誰が決定権をもつのか。どういう決定をするとうまくいき、あるいはうまくいかないのか。

(3) リソース軸
抽出したクエスチョネア
誰が、どのようにしてリソースを見つけ、どのように組んだのか/組むのか 等

論点
財源:限られた政府予算のなかで、例えば、UNICEFやUNDP拠出金との組み合わせが相乗効果を出せないか。

(4) その他
ジェンダー、環境、廃棄物など、常に配慮しなければならない事項は、軸とは別に考慮すべきである。

 本会では、これらの論点について、次のような示唆を行った。

(a)目標軸に関して
戦略を考案したり変更したりする中枢はどこか。どこが承認するのか。5年〜10年はこの戦略を維持していくのか。そのための体制作りをする必要がある。
本検討会の議論は、中期政策の見直しに反映できるとよいので、もう少し具体的な内容を書いてほしい。MDGsは世界戦略として重要だが、MDGsが国家目標となっていない中所得国をどのように考えるか。アジア重視といっても、割当を多くするのか、保健分野に集中させる国を決めるのかどうかなど。
中期政策は、保健医療分野として記述できるのはA4半分程度であろう。それ以上の詳細については、セクター別戦略が必要であり、これに相当するものを考える必要がある。
WG2では、データベースの項目案としてODA大綱とMDGsをたてているが、これらでは整理できないケースがある。これについて、目標の分類の軸をもうひとつ設けてほしい。
何を実施するのか、重点事項を具体的に示したほうがよい。その場合、重点事項を決めたら他は実施しないのか、あるいは他も実施するという意味なのかも明らかにすること。

(b)システム軸に関して
ニーズについて、「誰のニーズであるのか」という点を加えること。
スキームについて、ODAの役割を考えたときどのようなことを行うべきか、また、日本独自のやり方で行うのか、世界戦略の枠内で行うのか、という点を加えること。
外部実施機関の定義を明らかにすること。なお外部実施機関には大学は含まれる。
システム全体は環境の変化に応じて変化するが、それに合わせて政策づくりをしていくシステムを決めること。どこがどういう頭脳をもつのかを明らかにすること。
国民の関心が高いのは、教育と保健医療。その点で、委託を判断するための基準や広報の方法をどうするかは重要であり、これらは、研究班を作って広く関係者(NGO、マスコミ含む)を交えて参加型で検討する方法などを考えること。
NGO等の利用について、草の根無償など、提案型やパートナー型のスキームが既にあり、これらをうまく利用することも必要。
マルチ・バイを国毎にどのように戦略化するかは議論になるところ。戦略には、具体的にどの議題にどのスキームを使うかまで記載することが必要である。

(c)その他
政治的に決められるものであっても、専門的な見地から影響のあるものをやってほしい。そういう縛りをこの検討会ではどこまでかけられるのか。
各大使館ではセクター別の具体的なガイドラインがない状況で案件等を決めているのが現状。本検討会ではこのガイドラインが示せるかどうかがポイントである。

 WG3では、これらを踏まえ、更に考え方を次のように整理した。

(1) 目標軸に関連して
(i) MDGs等の扱い
 MDGsは本来、低所得の後発開発途上国を対象にした目標であるが、現在ではユニバーサルな目標とされている。しかし保健医療に関する限り、目標を国のレベルによって分けて考えたほうがよい。具体的には、
  (a)MDGsの達成が優先課題となる国(後発開発途上国)
  (b)国内の経済格差の解消が優先課題となる国(経済開発に人間開発が追いついていない国。現状のODAを続けると格差が更に広がる危険がある国。個人に目を向ける段階の国。)
  (c)ODA卒業間近の国(格差をなくすという視点から、保険の概念を取り入れた国)
の3つに分けるとよい。それぞれの目標は次の通りとなろう。
  (a)MDGs。これはVerticalなアプローチ。
  (b)PHC+リフェラルシステムの確立。地方分権化の中でのシステム作りと人づくり。これらは包括的な地域開発の中で保健医療を考える視点が組み合わさった目標。
  (c)保険制度と社会システムの確立。
 リハビリ、介護、障害者福祉など、医療・社会福祉は(c)のレベルが基本だが、地域開発の視点から考えると、(b)のレベルから開始してよいはず。リプロダクティブヘルス、HIV/AIDSケアも同様。

(ii) 選択と集中について
 モノや人の移動の観点から、アジアを重視すべきテーマがある。(感染症、食品、医薬品など。)それ以外は、アジア重視にはこだわらない。

(iii) 戦略作りの中核・頭脳
 厚生労働省が、責任省庁として、他の関係機関への影響を考慮しながら、戦略を考案、変更し、それらを提言する。

(iv) 戦略の期間
 3〜5年で更新。

(2) システム軸に関連して
(i) 世界戦略との調整
 世界戦略では、日本がこれまで行ってきたキャパシティ開発の要素がうすくなってきている。むしろ日本はこれまで通り、長期的な視点に立って、キャパシティ開発に主眼を置いた援助を継続したほうがよい。
 MDGsは国際機関が主体となった世界的イニシアチブとしての考え方。これに対し、人間の安全保障は日本が主導した世界的イニシアチブであり、日本の戦略としてみても矛盾なくできるはずである。

(ii) NGOとの協働
 NGO活動とODAとの協働スキームには、「草の根技協」、「草の根無償」等があるが、NGOの能力/活動に応じた適切なスキームを効果的に活用することにより、NGOの特性(住民に密着したきめ細かな活動等)をODAに活かすことができる。

(iii) スキームの組み合わせの記載
 記載は現実的でない。利用するスキームを考えるよりも、先ずリソースがあるかどうかケース毎に吟味して、どのスキームを組み合わせるか柔軟に対応することが肝要。これは厚労省というよりは、実施機関であるJICA等の責任。もし国やテーマ毎に有効なパッケージの雛型を示すためには、十分な事例分析を公衆衛生等各分野の専門家を集めて調査研究をしなければならない。
 安易に記載すると、例えば、無償に必ず技協が来るといったことが、ニーズや本来のリソースに関係なく行われる危険があるため。

 ひとつ言えるのは、GFATMが発足し、日本はその有数の拠出国であることから、エイズ、結核、マラリアの3つに関する援助を行う場合は、GFATMと協調すべき。

(iv) 政治的に決められるもの等、特殊なケース
 緊急援助、無償がその例。専門的な投入をするためには、支援額が政治・外交レベルで決定されても、何の支援をするかどうかは、厚労省の専門的な見地からの判断に任されるべき。

(3) リソース軸に関連して
 WG1から提案に従い、リソースには「人材」を記載する。その論点や戦略はWG1の結果をもって置き換えることとする。

(4) 後半の課題については、次のような提案が出された。
  (i)守秘義務に問題がなければ、毎年の要望調査で×となった事例の調査。行うべきでない案件のガイドラインを作成する。
  (ii)復興期の支援モデル
  (iii)国レベルの援助の発展のさせ方。例えば病院プロジェクトの場合、病院を拠点としたシステム作りに発展させていくにはどうしたらよいかなど
  (iv)要望が多いのに、量的にも、質的にも援助を行っていない分野への方針。例えば安全な血液供給体制など。

 これらを踏まえた、国際協力の将来あるべき方針の考え方は、次の通りである。


国際協力の将来あるべき方針の考え方(案)

1. 基本原則
  (a)厚生労働省が、責任省庁として、他の関係機関への影響を考慮しながら、保健医療分野の国際協力の将来あるべき政策方針を示す。
  (b)方針を示すための軸は、(1)目標、(2)システム、(3)リソースに関する各軸に大別する。
  (c)各軸について、方針を決めるための論点を特定し、それに対する戦略を考案、変更し、それらを提言する。
  (d)各軸について、我が国と他の国・機関の方針とを比較し、援助方針に関する日本と世界の位置関係を考察する。
  (e)戦略は、3〜5年で更新する。

2.論点と戦略
(1) 目標軸
論点
対象国・地域:MDGsはMDGsのみを目標とした場合、ある程度の発展国は対象から除かれる。ODA大綱を目標とした場合、アジア地域が重視される。開発が進んだ国でも国内格差があるところもある。イラク復興支援のように政府の方針として決定されるものもある。対象とする国のレベルや地域を絞るのかどうか。
対象領域:MDGsのみを目標とした場合、保健システム構築、保健セクター管理、リハビリテーション、食品衛生などは対象から除かれる。保健医療全体を考えるのかどうか。
人材養成との関係:保健システム構築を対象に入れるのであれば、中長期的な政策アドバイザーの養成が必要だが、MDGsのみを目標とした場合は従来のままでよいことになる。政策アドバイザーの養成を考えるのかどうか。

戦略
MDGsという目標との関わりとその国の保健システムがどう発展していくのかを考慮した援助を考えるべきである。途上国の人たちが中心になって自国の保健システムを構築していけるという最終目標の達成に向けて、現在の援助がどの段階のどの部分を支援しているかを明確に把握した上で、対象国ごとに国際保健医療協力の戦略を明示する必要がある。

MDGsは本来、低所得の後発開発途上国を対象にした目標とも考えられるが、現在ではユニバーサルな目標とされている。しかし、国際保健医療協力においては、国全体の発展のレベルによって具体的な目標を考えることとする。(もちろん、独立国家共同体(CIS)のように、この分類では網羅できない国々もある)

  (a)MDGsの達成が優先課題となる国(主に後発開発途上国)
目標:MDGs(小児死亡率の減少、妊産婦の健康改善、感染症対策)。
  (b)国内の経済格差の解消が優先課題となる国(経済開発に人間開発が追いついていない国。現状のODAを続けると格差が更に広がる危険がある国。個人に目を向ける段階の国。)
目標:プライマリヘルスケア+リフェラルシステムの確立。地方分権化の中でのシステム作りと人づくり。これらは包括的な地域開発の中で保健医療を考える視点が組み合わさった目標である。
  (c)ODA卒業間近の国(格差をなくすという視点から、保険の概念を取り入れた国)
目標:保険制度と社会保障システムの確立。南南協力の拠点としての支援。

リハビリ、介護、障害者福祉などのテーマは、(c)のレベルが基本だが、地域開発の視点からは、(b)のレベルから開始してもよい。
モノや人の移動の観点から、感染症、食品、医薬品などのテーマは、アジアを重視する。それ以外のテーマは、アジア重視にはこだわらない。
(b)(c)レベルの援助を行う人材として、中長期的な政策アドバイザーの養成を行う。

また国内格差の大きい国では、例えば離島では感染症対策、都市部ではリフェラルシステムの構築というように、地域によって課題が異なることが多いため、国や地域の実情に合わせて、対象者と重点目標を決める。その際には、現地の当事者の役割や、開発の担い手となる労働力が十分かどうかを考慮する。

(2)システム軸
(i) ニーズ
論点
途上国の分類:ニーズはその国のレベルや課題によって国ごとに異なる。
Demandとニーズ:ニーズと言った場合、demandがひとり歩きしやすく、真のニーズとの乖離が生じる。
世界戦略との調整:MDGsを中心とした世界戦略では、日本がこれまで行ってきたキャパシティ開発の要素がうすくなるが、従来の方針を継続するのかどうか。
政治的又は外交的な判断で決定されるもの、無償、緊急援助など、特殊なケースにどのように対応するか。

戦略
途上国をレベルや課題の異なるいくつかのカテゴリーに分けて考える。(目標軸参照。)
誰が援助を求めているのか、その援助はより早く動くのかどうか、真に必要な援助は何かを明らかにする。
従来通り、長期的な視点に立って、キャパシティ開発に主眼を置いた援助を継続する。MDGsは国際機関が主体となった世界的イニシアチブとしての考え方であるのに対し、人間の安全保障は日本が主導した世界的イニシアチブであり、日本の戦略としてみても矛盾なく行うことができる。
専門的な投入をするためには、支援額が政治・外交レベルで決定されても、何の援助をするかどうかは、厚生労働省の専門的な見地からの判断に任される。

(ii) スキーム
論点
外部機関への委託:直接実施するよりも、NGO等の外部実施機関に委託したほうがよい場合もあるのではないか。NGO等への外部委託を推進するのかどうか。また受託機関を育てる方針をもつのかどうか。
国際協調:例えば、WHOのやり方と日本のやり方に違いがあるとき、WHOのやり方に近づける場合と日本独自のやり方をとる場合とがあるが、そういう調整が必要である。
マルチ・バイを国毎にどのように戦略化するか、どの議題にどのスキームを使うのか調整が必要である。

戦略
NGO等外部機関への委託を判断するための基準を明らかにする。同時に、委託側の、プログラム全体を企画する知識・能力を強化する。
NGO等の利用については、草の根無償などの提案型やパートナー型のスキームが既にあるので、これらをうまく利用する。
マルチ・バイ連携、国際協調に係る調整を組織的にバックアップする体制を整備する。
利用するスキームの選択は、先ずリソースがあるかどうかケース毎に吟味して、どのスキームを組み合わせるか柔軟に対応する。国やテーマ毎に有効なパッケージの雛型を示すためには、十分な事例分析を公衆衛生等各分野の専門家を集めて調査研究を行う。
日本は、世界エイズマラリア結核対策基金(GFATM)の有数の拠出国であることから、エイズ、結核、マラリアの3つに関する援助を行う場合は、GFATMと協調する。

(iii) 企画・実施体制
論点
援助のやり方:日本の援助は開発プロセスを重視し、長期的な計画性をもって実施するが、他のドナーは成果を重視する。国民は成果重視を希望しているが、この開発プロセス重視の方針を変えるのかどうか。
評価と広報:開発プロセス重視のやり方でも長期的には成果が出てくるはずであり、これをどのように評価していくのか。またそのための国民への説明の仕方をどうするか。
援助側と被援助側の役割:現地にて実施の仕方をどう組むかは、援助側・被援助側両方の問題であるが、被援助国の各セクターではマルチ・バイを統合・管理できる能力が不足している。
決定権:誰が決定権をもつのか。どういう決定をするとうまくいき、あるいはうまくいかないのか。

戦略
誰が決定権をもち、どういう決定をするとうまくいくのか、過去のODA実績から教訓を得る。
被援助国の発展段階に応じてどういう援助を与えるか、被援助国におけるセクター間の調整をどのように行うか、そして被援助国ごとに異なったagendaをどう調整していくかを明らかにする。またそれができる専門家を育成する。
委託を判断するための基準や広報の方法については、研究班を作って、広く関係者(NGO、マスコミ含む)を交えて参加型で検討する方法などを考える。
目標値を設定して、達成の状況を広報していく。

(3)リソース軸
論点
財源:限られた政府予算のなかで、例えば、UNICEFやUNDP拠出金との組み合わせが相乗効果を出せないか。
人材:保健医療分野の国際協力を効果的かつ効率的に推進するためには、どういう人材の養成と配置をすればよいか。(WG1参照。)

戦略
マルチ、バイ全体の財源の使われ方を把握し、国際機関等拠出金、緊急援助費や研究費等との組み合わせが相乗効果を出せないか、明らかにする。
関係機関が責任を委託できる協議・調整組織を早急に設置して、(1)人材の需要予測、(2)人材の検索と質の評価の仕組、(3) 定期的な情報交換と発信の場の提供、を行う。(WG1参照。)

(4)その他
ジェンダー、環境、廃棄物に関する影響は、軸とは別に、常に配慮しなければならない。


添付資料

第1回議事録(2003年8月8日)
第2回議事録(2003年12月15日)
第3回議事録(2004年3月18日)
第4回議事録(2004年6月18日)
第5回議事録(2004年9月28日)


(これらは、https://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#kokusai でご覧になれる。)


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