04/09/29 国際協力事業評価検討会(第3回労働分野)議事録 国際協力事業評価検討会(第3回労働分野) 1.日時 平成16年9月29日(水)15:00〜17:00 2.場所 厚生労働省専用第21会議室 3.出席者 【会員】  吾郷眞一会員(九州大学大学院)             今野浩一郎会員(学習院大学)             城内博会員(日本大学大学院)             末廣昭会員(東京大学)             中村正会員((財)日本ILO協会)             野見山眞之会員((財)国際労働財団)             松岡和久会員((独)国際協力機構)       【専門会員】藁谷栄専門会員(外務省)             長谷川敏久専門会員((独)国際協力機構)             西田和史専門会員(厚生労働省)             縄田英樹専門会員( 〃 )             佐々木邦臣専門会員( 〃 )             三富則江専門会員( 〃 )             片淵仁文専門会員( 〃 )        【有識者】野寺康幸((財)介護労働安定センター)     【オブザーバー】鬼塚郁夫((独)雇用・能力開発機構)             篠部悠子((財)海外職業訓練協会)             坂井澄雄((独)労働政策研究・研修機構)             成岡衛((独)高齢・障害者雇用支援機構)             齋藤文昭(中央労働災害防止協会)             大間知久美子(ILO駐日事務所)             広田啓佑((財)国際研修協力機構)             川上光信(中央職業能力開発協会)             山崎一雄(厚生労働省)        【事務局】村木国際課長、福田室長、釜石補佐、吉田補佐、細川専門官                                   〔敬称略〕 4.議事 ○釜石補佐  ただ今より、国際協力事業評価検討会、第3回労働分野の会合を開催いたします。 初めに、本日初めてご出席いただきました会員、専門会員、オブザーバー、有識者の方 を紹介いたします。初参加の会員として独立行政法人国際協力機構の松岡理事です。新 任の専門会員として外務省経済協力局技術協力課の藁谷課長補佐です。それから雇用均 等児童家庭局総務課から三富調査官です。オブザーバーとして、職業能力開発局外国人 研修推進室の山崎室長補佐です。前回まで国際課におられたのですが、7月30日付で異 動されてオブザーバーとして参加いただいています。また、本日、後程ILOのマルチ ・バイ・プログラムについてご紹介いただきます財団法人介護労働安定センターの野寺 康幸理事長です。  続きまして配付資料の確認をいたします。まず「議事次第」です。次に検討会の「出 席予定者」の表です。それから「座席図」です。資料1は「第2回検討会議事録」で す。資料2は「第2回検討会における指摘事項と対応資料及び回答(案)」です。資料 3が「厚生労働省のODA事業(労働分野)の推移」、資料4は「労働分野におけるJ ICAベースの協力の実施状況について」です。資料5は第1回「雇用・能開分野分科 会結果概要」です。資料6は「ILOマルチ・バイ協力の現状」です。資料7は「IL Oを通じた技術協力についての提言・結論等について」です。資料8は「国際協力に携 わる労働分野の人材育成について」です。  何か不足がありましたら、お知らせください。それでは吾郷座長、以後の進行をよろ しくお願いいたします。 ○吾郷座長  それでは、議事次第2の「第2回検討会における指摘事項」について事務局から説明 してください。 ○釜石補佐  まず、第2回検討会の議事録が資料1です。こちらは厚生労働省のホームページにも 掲載させていただいております。資料2が「第2回検討会における指摘事項及び対応資 料と回答(案)」ですが、そちらをご覧ください。吾郷座長からILOを通じた協力の うち、マルチ・バイについては分野別に組み込むことができるのではないかというご指 摘をいただきましたが、今回これを組み込んだものを資料3として用意しています。  資料3は、厚生労働省の実施するODAの事業全部を分野別に分類し直したもので す。左の円グラフが平成11年度のもので総額約55億、右が平成16年度の総額32 億のグラフです。職業能力開発分野の割合が大きく下がっているのが、新たにわかるこ とで、ILOの分担金については16%から27%で、割合は上がっています。  次の頁ですが、事業の本数での分野別の内訳です。平成11年度の32本から16年 度は22本に減っている状況です。職業能力開発分野が一番多く、次に労使関係あるい は労働基準の分野が次いでおります。  資料2に戻りますが、2番として、IMFや世界銀行などが行う融資については、コ ンディショナリティというものが付いているということが評価を考える上で参考になる かもしれないという指摘がありました。事務局のコメントとしては、当方に融資関係の 事業はないのですが、技術協力についてもその成功のためには相手国に何をしてもらい たいかを幅広く明確にする必要があると思っており、これはコンディショナリティとい う考え方に近いものになるのではないかと思っています。  続いて中村会員の指摘ですが、なぜ技術協力の予算がこんなに減ってしまったのかと いう問いかけがありまして、課長よりお答えいたしましたが、分野別に見ると、例えば 能開分野の協力については、特別会計で実施していたODAの事業を廃止した、あるい は民間ベースの研修の拡大、これは技能実習制度の拡大などですが、それに伴って、研 修生の受入事業の国庫補助があるものについて縮小した、あるいは国庫補助の額の比率 を下げたことなどが要因となっています。そのほかの局についても財政の逼迫に伴って 減少を余儀なくされている状況です。  次に計画段階における評価の考慮ということで、あまり評価を気にし過ぎるのもいけ ないのではないか、あまり細かいことを決めないほうがいいのではないかという意見が ありましたが、事務局としてはプロジェクト・デザイン・マトリックスを作成して、P CM手法で評価を行えば細かいことを決め過ぎることには陥らず、なおかつ適切にプロ ジェクトを管理できるのではないかと考えています。  次の頁です。野見山会員からの指摘で、JICAを通じた協力も含めて評価をしては ということです。これまで労働分野のJICAベースの協力実施状況を出していなかっ たのですが、今回資料4として用意いたしましたのでご覧ください。これは、長期専門 家の派遣ベースの協力案件を整理したものと別紙2の研修員の受入れ状況を整理したも のの2種類です。1つ目については、平成11年度以降に協力を開始した案件で、かつ 長期専門家を派遣したものを、今年の8月31日現在で整理したものです。それ以前に ついては入っていません。この表の真ん中に「長期人材派遣数及び所属機関」が書いて ありますが、これはどこから専門家が出ているかのリソースを明らかにする意味で書か せていただいています。厚生労働省の職員は「厚」、関係団体については、その機関の 略称を書きました。大学関係者及び研究機関については、「大・研」となっています。 その他民間の方々については「その他」にしています。  最後に「JICAを通じて行う労働分野の研修生受入の状況」を一覧表にしていま す。分野としては、労働安全衛生、職業能力開発の両者でほとんどを占めている状況に あります。平成11年から平成15年度までを合計すると1,000人を越える状況です。  これらは厚生労働省として関与しているJICAベースの協力でして、労働分野にお けるJICAの協力としては、そのほかには青年海外協力隊として職業訓練指導員を派 遣する、あるいはシニアボランティアのような制度もありますが、そちらのほうは把握 していませんので入れていません。  資料2に戻ります。このような実施状況でJICAベースのみの分類ですが、トータ ルに見ることはできないかという指摘もございまして現在検討中ですが、ある1国に着 目してJICAベースの協力、厚生労働省の国際協力事業、これは関係団体を通じた協 力になりますが、あるいはILOなどの国際機関を通じた協力をトータルに見渡せるよ うな図を作りたいと考えています。次回の検討会には間に合わせたいと思います。  次に今野会員の指摘に移ります。ILOを通じた協力についての分担金の問題です。 全体的な予算が縮小すると、この比率が膨らむのかということですが、分担金について は基本的にコントロールがきかないので、全体予算が縮小すると比率は拡大します。マ ルチ・バイについては、ILOあるいは厚生労働省他の提案により、ILOのノウハウ を活かして技術協力を実施するもので、固定費的ではありません。研修生、実修生とい ったスタイルの能開のウエイトが予算規模では高く、能力開発が援助の主力という認識 でよいかということについては、私のほうからそのとおりの返事をしていますが、実践 的かつ現場を大事にするということで、厚生労働省のアドバンテージであろうと課長か ら答えております。政策効果を見る場合に研修生などを評価すればよいのかについて は、西田補佐から柱として4つあるということで、JICAを通じた専門家派遣など政 府ベースの協力、それから外国人研修生受入れ、外国人留学生の受入れ、国際機関とし てASEANあるいはAPECを通じた協力の4本がある旨答えており、それらの評価 が要るということになるかと思います。  次の頁です。城内会員から、労働安全衛生に関する事業がゼロになっているのはプラ イオリティが低いのかという指摘です。額は小さいのですが1本あるということと、J ICAを通じた協力については現在マレーシアで実施し、協力要請も出てきています。 協力の要請状況は後で説明しますが、労働安全衛生分野についても少ないながら要請は あります。  次に、評価はプロジェクト開始時から予定されるべき、あるいは技術移転する際には 評価の方法を相手方に伝えるべきという指摘がありまして、FASIDの湊所長代行か らそのとおりであると回答したことが書かれています。JICAでは現在プロジェクト ・デザイン・マトリックスを導入して、事後評価をそのPDMを使って実施していると いう紹介がありました。  次に末廣会員からの指摘に移ります。ILOに対する分担金が固定化しているなら ば、その事業について厚生労働省が意見を言えるかということで、正確に答えているか は分かりませんが、拠出金については基本的にはILOからの提案に基づいて日本とし て検討したうえで拠出している状況であると回答しています。以上です。 ○吾郷座長  ありがとうございます。それでは、前回の検討会における指摘事項及びただ今の事務 局からの回答について、ご意見がありましたらお願いいたします。 ○末廣会員  1点だけコメントさせていただきます。吾郷座長の2に対する回答でIMFや世界銀 行のコンディショナリティの考え方に近いというコメントがありますが、IMFや世界 銀行のコンディショナリティは、3カ月ごとに政策協議を行ってコンディショナリティ を満たさない場合は執行を中止する場合もありえるという条件が付いている厳しいもの ですので、やはり別に分けられたほうがいいと思います。日本は、例えばタイ政府に対 してIMFや世界銀行のようなコンディショナリティは付けないことを明言していま す。 ○釜石補佐  すみません、認識が浅かったと思いますが、当方も相手方に何をやってもらいたいか レビューを頻繁に開くこともできませんので、そこで条件に合わないからといって技術 協力をやめることは、ちょっと考えられないと思います。 ○吾郷座長  実は今の質問が出る前に私もこの点について修正しようと思っていたのですが、私が 前回コンディショナリティについて発言したのは、別にコンディショナリティを付ける ほうがいいという意味ではなく、むしろ逆で、私はいろいろな所でIMFと世界銀行の コンディショナリティは問題であると言ったり書いたりしています。コンディショナリ ティを付ける際の理念は問題ですが、技術、テクニックは真似てもいいのではないかと 思います。例えば今のお話のように、3カ月ごとの見直しといったやり方は考えてもい いのではないかという意味です。ですから、コンディショナリティの考え方に近いとい う回答を引き出そうと思ったわけでは決してないことを付け加えておきたいと思いま す。今末廣さんからの指摘がありましたので、それで結構です。  ほかにご意見はありますか。大体表の作り直しなど、前回指摘いただいたことはうま くまとめていただいたと思います。  それでは、続きまして議題3に移ります。分科会の開催状況について、事務局からお 願いします。 ○釜石補佐  分科会については、平成16年9月22日に雇用・能開分野の第1回目の分科会を開 催しました。当該会合の概要については、資料5のとおりです。内容については、分科 会の座長に就任いただいた野見山会員から簡単に説明をお願いしたいと思います。 ○野見山会員  それでは資料5に基づき私の方から説明いたします。ご承知のとおり分科会の役目 は、第2回の検討会で決まったように、労働分野の国際協力事業について具体的な評価 の試行を行うことです。先週の分科会は雇用・能力開発分野についての評価の試行をす るということでした。取り上げるプロジェクトについては、厚生労働省からILOへの拠 出金によって実施されている中国雇用開発プロジェクトです。これはILOと日本とが 協力して中国都市部のレイオフ労働者等に対して起業支援をするもので、起業訓練や信 用保証を付ける、あるいはローンの手伝いをすることによって、雇用機会を創出しよう ということで、2001年から実施されている事業です。これについての評価を試行しま す。その手法は、前回お話を伺ったFASIDのPCM手法に基づいて行います。ここ には資料は出ていませんが、そういった雇用・能力開発分野についてのさまざまな問題 を系図化して整理し、それらの問題が解決される目的系図が詳細に示されました。それ に基づき中国の雇用開発プロジェクトについてのPDMに基づいた評価の試行について 事務局案が示されました。そのPDMによる試行の中で目標の設定については、検討し ているプロジェクトの目的が「中国の社会・経済の発展」、「雇用の創出」となってい ますが、果して系図や実績を見た場合に、これが適当なのかどうか、プロジェクト目標 の設定の仕方を検討する必要があるのではないか。むしろ雇用がいくら創出されたかよ りも、「雇用創出を目的とした起業家の育成システム」にプロジェクト目標を置いたほ うが適当なのではないかという目標の置き方の議論や、もっと大きな目標があった場合 には、上位よりもっと上のスーパーゴールに設定したらどうかという議論がありまし た。そういうような議論の過程で、この資料の2頁に「雇用開発プロジェクトのPDM について(改正案)」というのがありますが、当初出てきたのが当初案です。これをい ろいろな意見等に基づいてスーパーゴールを設定することなどを改善していこうという ようなことが、その右側に書かれています。このような議論がなされました。  それから、このプロジェクトの実績ですが、「実績」とは状況の変化であって、「活 動」あるいはこれはPDMの評価に関する部分ですが、「活動」及び「成果」によって プロジェクト目標が達成されるということで、活動と成果の整理が必要ではないかと思 います。指標については今申し上げたような起業家育成システムにした場合には、要す るにどれだけの起業家支援のコースをやったか、参加者はどのぐらいいたかという指標 の設定の仕方があればいいか、ということなどの議論が行われました。その後は政策評 価の問題として、外務省が実施している評価は、いわば官邸会議というか政府レベルの ものもありますし、厚生労働省を初めとする他の省庁が行っている評価と比較すること も示唆されました。厚生労働省としてさまざまに行っているODA事業の評価手法は、 PDMなどいろいろな手法がありますが、どのような手法でいくのかということをある 程度行政全体で歩調を取って話をしていくことも必要ではないかという話が出ていま す。  以上のような議論をしまして、その後の計画ですが、これは事務局から提案されたの が別紙にありまして、中国のプロジェクトについての評価デザインをある程度確定して いき、年明けにこのプロジェクトの評価ミッションをやり、来年3月ごろに評価をまと めていこうということで、この中国プロジェクトについての評価の試行を進めていくこ とを打ち合わせました。大体評価の試行については、以上です。あとは本日の検討会に ついて、事前のお話を伺いました。以上です。 ○釜石補佐  このように分科会でいろいろご指摘をいただきましたが、事務局ではこれから調査あ るいは検討を行いまして分科会の会員の皆様方にメールなどでご連絡させていただきた いと思っています。 ○吾郷座長  ありがとうございます。それでは、第1回目の分科会の開催状況について、ご意見が ありましたらお願いいたします。特にないようでしたら、今釜石補佐が言われたように あとでメール等でご連絡いただけるということですので、引き続き作業を進めていただ ければと思います。  それでは、第4議題に移ります。ILOマルチ・バイ・プログラムの在り方につい て、事務局よりご説明をお願いいたします。 ○釜石補佐  今回ILOのマルチ・バイ・プログラムの在り方をご検討いただく際の資料として、 2つ用意させていただきました。1つが第1回検討会で資料6として提出した、これま での各種の調査報告書における提言、あるいは結論部分の抜粋・要約のうち、ILOを 通じた技術協力に係る部分を抜き出しまして、今回、資料7の別紙1ということでまと めましたので、資料7をご参照ください。  1枚めくった別紙1に、昭和62年からの調査研究報告があります。その時代の状況 を背景として協力分野の拡大・充実や、協力方法の多様化ということでマルチ・バイも 入っています。長期的視点から検討・対応すべき事項として、ニーズの把握と事業計画 の作成という観点から準備の資源投入を節約するために国連機関の組織、過去の経験を 活用するということで、マルチ・バイ方式は、ここに利点があるのではないかというご 指摘もあります。  平成3年3月の報告書ですが、これが開発途上国におけるILOの技術協力に関する 調査研究ということで、今回のテーマに即したものです。指摘事項としましては、1の (1)にありますように、受益国ニーズの総合的、且つ的確な把握です。次の頁に援助 主体と受益国が「政策対話」を行う中で、適格なニーズを共同作業で作り上げていくこ とが必要という指摘があります。プロジェクト目標の設定については、(2)でできる だけ限定的に達成可能な目標にしぼること、という指摘があります。(3)プロジェク トのインプット(専門家、機材、フェローシップ)は、できるだけ良質なものを適時に 確保することが指摘されています。(4)受益国による人的、物的支持の確保で、受入 国側の支持の重要性が指摘されています。(5)として、恒常的な検討と評価が書かれ ています。  2番は、わが国のILOとの協力における留意点ということで、いくつか掲げられて います。(1)がニーズの適格な把握で、(2)がILOがどのような協力を歴史的に してきたかをきちんと把握する知識が必要であるということです。(3)では、ILO が特定国について持っている「パイプラインプロジェクト」のリストを検討して、マル チ・バイ協力の対象として選定するのに適当なものがあるかどうかを考慮するというこ とで、パイプラインプロジェクトというのは構想としては熟していて、関係者の大筋の 了解は得られているが資金の協力機関がまだ決まっていないプロジェクトということで す。(4)として、具体的なマルチ・バイ・プロジェクトの詳細が固まるまでの間、ド ナーとILOとの間で何回にもわたって十分な協議を行い、遺漏のないようにする必要 がある、というご指摘をいただきました。  次に、平成6年3月の「国際機関を通じた開発途上国に対する技術協力の効率的運営 に関する調査研究」最終報告書です。1番として、マルチ・バイ技術協力の評価で、資 金源として無視できない、あるいは他の資金源ではなかなかカバーしえない分野が多く て、重用せざるをえない面がある、あるいはマルチ・バイ方式というのは実験的・パイ ロット的なプロジェクトも可能という指摘もあります。  2番のわが国とILOとの協力における留意点では、2国間で行うのが適当か、マル チ・バイで行うのが適当かを区分する、という指摘があります。(2)は、その前の指 摘でも言っていますが、我が国とILOとの定期協議の場、方式を強化する必要がある というご指摘です。(3)は、ILOに対するマルチ・バイ協力はほとんど労働省の予算で まかなわれてきたということですが、資金の調達源の多角化が必要である、という指摘 です。  平成15年3月の「国際機関等を通じた労働分野に係る効率的な技術協力のあり方に 関する調査研究」報告書においては、大きく3点が指摘されています。まず、専門家の ネットワークの構築ということです。  2番のキャパシティ・ビルディングに第一義的な焦点を当てるべき、という指摘もあ ったようです。3点目として、地域的な枠組みでの協力も効率的であって、推進してい くべき、という指摘です。これが今までの調査報告書の関係部分です。  引き続き、次の頁から「ILO拠出金事業のODA予算一覧表」となっております が、それぞれの事業について分野別に分けて、平成11年度から16年度までの予算を 記載して整理しています。総額で言いますと、平成11年度は2億9,000万円だったの ですが、平成16年度は2億2,000万円ということで減少傾向にあり、本数も減少傾向 にあり、それを図で示したのが次の頁です。平成11年度は2億9,000万円で雇用が6 割を占めていますが、平成16年度については雇用が4割に減少しています。  次の頁が本数ベースで、平成11年度は合計8本でしたが、平成16年度は合計5本 で、減っている状況です。このような整理をしています。資料7についての説明につい ては、以上です。 ○吾郷座長  ありがとうございます。引き続きまして、今日出席していただいている野寺前ILO アジア・太平洋地域総局長から続けてご説明いただけるようですので、事務局からご紹 介いただきます。 ○釜石補佐  冒頭にもご紹介申し上げました、財団法人介護労働安定センター理事長の野寺康幸さ んでございます。平成13年1月から平成16年2月まで、ILOアジア・太平洋総局 の地域総局長として勤務されたということで、資料6をレジュメとしてご説明いただき ます。それでは、よろしくお願いします。 ○野寺理事長  この席には、私より5年前にアジア・太平洋総局長を勤めておられました大先輩であ る中村さんがおられます。その後いろいろ事情も変わっていますのでその辺も踏まえま して、短い時間ではありますが、簡単に説明したいと思います。  ILOの技術協力活動ですが、8割以上が外部の委託資金で行われています。したが って拠出金でやられている部分は、非常に少ないです。委託資金でやられているうちの かなりの部分が、拠出国がUNDPに資金提供する方式ですが、最近これとは別に、I LOに直接委託資金を出してやってもらう、いわゆるマルチ・バイ方式が増えていま す。特にIPECという児童労働の撲滅というプロジェクトがあるのですが、これに関 しては大国がかなり直接ILOに資金を供託してやっている、この資金の拡大が非常に 大きくなっています。  日本のマルチ・バイですが、先ほど来のご説明もありましたが、1974年以降は女性や 労使関係、最低賃金、労働災害、安全衛生などかなり幅広い分野で、主にアジア地域を 中心に、支援してきています。一言で申しますと、額はほかのドナーに比べると少ない のですが、一つひとつの中身は、かなり地道な、派手ではないがかなり現実のインパク トを持ったプロジェクトが多かったと言えるのではないかと思います。ただ問題もいろ いろありまして、そのうちのいくつかについては、最後のほうでちょっと申し上げたい と思います。  現在進行形のプロジェクト、以下私のレジュメにもありますが、詳しくはジャパンフ ァンド担当のバンコクにおりますチーフ・テクニカル・アドバイザー(CTA)と申し ますが、福沢さんというCTAに最近まとめていただいて英語になっていまして、そこ にあるとおりです。ILOの労働の基本的原則と権利に関する宣言が1998年に決められ ておりまして、フォローアップのプロジェクト、通称 Declarationと呼ばれています が、これに関して2004年の予算で言いますと、アメリカドルで42万ドルです。  今度の能開分科会のほうで先ほど野見山さんのほうからご説明がありました、視察に 行かれる対象である中国における雇用促進に向けた戦略的アプローチのプロジェクト、 Inter-Country Project on Strategic Approaches towards Employment Promotion (PEP)、これが約58万ドルです。  カンボジアとベトナムにおきまして、女性の雇用機会の拡大を図るプロジェクト、 Regional Programme for Expansion of Employment Opportunities for Women, Cambodia and Vietnam Chapter、通称EEOWと言っていますが、これが27万ドルで す。  日本人技術職員育成プロジェクト(ILO Japanese Technical Officers Programme )は60万ドルです。さらにちょっと毛色が違うのですが、Asian and Pacific Skill Development Programme(APSDEP)と言っていますが、アジア・太平洋の技能開 発プロジェクトは13万ドルです。これらが現在進行形のプロジェクトですが、これ以 外でも日本は、いろいろな形で協力をしています。例えばJICAの協力も労働関係の ものもありますが、その中にはILOが関与しているものもあります。皆さんの関心は プロジェクトが実際にどうなされ、それがどういう成果をあげているかについてでしょ うから、特にPEPとEEOWについて、そういう観点から少し詳しくご説明したいと 思います。  PEPは、アジア・太平洋諸国の雇用創出と所得確保機会の拡大、それから実績を踏 まえて、それを政策レベルに反映させ、政策立案をさせることを目標に、1988年から実 施していまして、当初タイ、フィリピン、パキスタン、バングラデッシュという国々 で、それなりの成果をあげています。1997年から2段階のフェーズ1とフェーズ2に分 けて、中国で実施しています。フェーズ1が1997年から2000年で、この段階では中国の 全国23の地方都市におきまして、小口金融による自営業育成、それから組織的に低所 得世帯の小規模企業を促進することで成果をあげて、その成果が最終的には行政当局の 認識を改めることになりまして、第2フェーズが2001年から2004年ということでスター トしたわけです。  第2フェーズですが、現在、吉林、張家口(ジャンジャコウ)、それからパオトウ (包頭)の3つの都市で失業者及び主として国有企業からレイオフされたシャアガンと いう人たちを対象に、小規模企業を育成する。英語で言いますとStart Your Business (SYB)と言うのですが、自分の企業を開始するという類の訓練を施しまして、これ によって参加者をバックアップすることをやっています。口で言うと簡単ですが、これ を最初にスタートさせるのはなかなか大変でして、まずSYB方式、PEPというもの がどういうものなのかを説明して理解させるのは、中央はもとよりカントリー、地方の 段階では非常に困難です。この話をスタートするためにはILOのほうで、中国の場合 は労働社会保障省(Ministry of Labour and Social Security,MOLSS)を 中心に説明するわけですが、この説明を実際にしてくれたのがこのプロジェクトの中で 雇用されたスタッフの佐々木さんという日本人の方でした。  ILOは北京に地方事務所があるのですが、北京のスタッフの中には専門家がいませ ん。ILOの地域事務所は世界中にたくさんありますが、基本的にそこには専門家がい ないという構造になっている問題が内部的にあります。専門家はどこにいるかですが、 アジア・太平洋の場合はフィリピンのマニラ、タイのバンコク、インドのニューデリー の3カ所にほとんど専門家が集中していまして、このグループが必要に応じて出かけて 行ってヘルプするというスタイルです。佐々木さんはジャパンファンドのプロジェクト で雇用された専門家で、ILOの本来の職員では、その段階ではなかったわけです。佐 々木さんは大変優れた専門家で、バングラデッシュで活動したことがありました。労働 社会保障省の幹部クラスと直接話をしまして、最終的に中国の労働研究所、国家経済貿 易委員会、人民銀行、大蔵省、全国女性連盟といった所を全部回り、ステアリングコミ ッティ(プロジェクト指導委員会)を組織したわけです。中国は中央の命令がかなり行 き渡る国ですから、これによって省段階、県段階の縦のラインが確立して、それにより 地方段階で同じようなステアリングコミッティをつくりまして、それで実施したという ことですが、一体何がどのように行われるかがなかなか呑み込めないわけです。ILO の中ではSYBに関してはかなり蓄積がありましてテキストもあるのですが、最終的に は佐々木さんを中心に中国語のテキストを作り、説明してもらったわけです。非常に手 間はかかりましたが、やるにしたがってだんだん関係者の疑念もかなり賞賛のほうに変 わってきました。  もう1つはタイミングがよかったと言うか、国営企業のシャアガンが、どのように雇 用を進めるかが中国の深刻な問題でしたので、これらの方々が現実問題としてSYBや PEPによって雇用の場を見い出したということもあります。そういった状況ですの で、現段階で中国は、国をあげてSYB、PEPを支援していることになります。  先ほど申しました3つの都市の中から包頭のケースを取り上げてみますと、例えば 2003年にこの包頭で失業者及びレイオフされたのは3,536人です。このうち3,173人が SYBの訓練に参加しました。そのうち厳密な審査を経て331人が訓練生として認可さ れました。331人のうちには途中で脱落した者もいまして、最終的には265人が実際に起 業家として自分の企業を推進したわけです。265人の企業全体で、2,918人の労働者を雇 用したわけです。大体1人10人あたりのレイオフされた方を雇用しました。これら企業 全体の1年間の売上げが11,925万元ということです。純利益が1,548万元で目に見える 効果があるものですから、先ほど申しましたように現段階では国、県、市も大変乗り気 です。しかし、財政的な支援はもとよりいろいろ企業を起こして成功するには、規制な どのネックになるものがあります。  1番目はローンですが、これはPEPのプロジェクトの中にクレジットローンを組む というのがありまして、包頭の場合には交通銀行、交通というのはトランスポートでは なくコマースの意味だと思いますが、交通銀行という公の銀行の中にクレジットローン のコンタクトの部分を作っていただきまして、交通銀行のバックアップでクレジットロ ーンを成功させているということです。このような支援の部分、あるいは企業をスター トさせてもフォローアップとして、途中でいろいろ困難な問題に出くわしたときにそれ を支援する体制という意味では、訓練がずっと継続しているという形でした。企業家と して独立した人も、折に触れて訓練所に戻ってきていろいろな訓練を受けるという形で した。  評価の上で非常に難しいだろうと思う問題は、ジャパンファンド、PEPは、この全 体の予算の中では、実に小さな部分になっています。例えば先ほど包頭で331人の訓練 生が最終的に選ばれたという話をしましたが、このうち純粋にジャパンPEPの財源で カバーされている部分は、1割以下です。つまり行政当局がこれに賛同してこれは有効 だと言って結果を政策に反映させることもPEPの目的の1つであったわけですので、 そういう意味では国や県の予算が入ってくるのは当たり前のことです。したがって数の 上だけで見ると、ごく少ない1割程度の実績ではありますが、インパクトが総体として は約3,000名のレイオフの雇用につながったということです。こういった点を皆さんが どう評価されるのか、現地に行かれていろいろなお話を聞かれるということですが、大 変難しい問題です。  次にEEOW、女性の雇用機会の拡大についてお話申し上げます。1995年のコペンハ ーゲンで社会開発サミットが行われましたが、これは今ILOの事務総長をやっている ソマビアが議長をやった会議です。それと同じ年に北京で第4回女性会議が開かれてい まして、ここでアジア地域における女性の地位、能力の向上、こういった必要性が大き く叫ばれたわけです。これに基づきEEOWがスタートしたわけです。  インドネシアは1997〜2001年まで、ネパールが1997〜2002年までというのが過去の結 果です。このうち私の感じではネパールについてはかなりの成功、インドネシアは若干 の問題がありました。というのは、当時大々的に地方分権をある意味でやりすぎた面も ありまして、中央の統制というか地方の指令が、地方に十分行き渡らないという行政改 革、改変の中でスタートしたものですから、特にEEOWの性格としてグラスルート方 式、地方に密着してやる方式なので、その点の中央の指導体制が地方にうまく行き渡ら なかったという問題があります。  もう1つはEEOWはNGOに大きく依存していまして、NGOの出来があまりよく なかったという問題が現実にありました。このような結果ではありましたが、先ほど申 し上げたようにネパールは成功です。これにつきましてカンボジアで2001〜2006年まで の目標でやっています。さらにベトナムで現在実施されつつあります。  カンボジアのケースですが、1つは労働の分野での性差別の解消に資するプログラ ム、あるいはそういった政策を立案、あるいは実施する政府の関係機関の能力を強化す る。2番目に、パイロットプログラムを踏まえて貧困の削減、あるいは女性の良質な雇 用及び所得確保の手段へのアクセスを図る。最後に全体として、女性の社会的地位を向 上し、能力を高めるといったことを目的としています。カンボジアの場合ですが、中央 段階では社会労働訓練若年リハビリ省(Ministry of Social Affairs, Labour , Vocational Training and Youth Rehabilitation, MOSALVY)がありますが、この MOSALVY、それから、女性・高齢者省(Ministry of Women and Veteran’s Affairs , MOWVA)があります。さらに大蔵省、関係各省、労使団体、NGO、そういったものを 含めてステアリングスチームを作ってスタートしたわけです。  残念ながらカンボジアにはILOの地域事務所はないものですから、地域事務所がコ ンタクトポイントになってやる形にはならなくて、ジャパンファンドで、EEOWで事 務所を借りてやっているスタイルです。もちろんEEOW以外にもカンボジアに定着す るプロジェクトがあるので、それら全体で建物を借りて、その中の一部をEEOWで払 っているということです。  活動の内容です。プノンペン、カンダール、タケオ、シェムリアップの4つの地域で 展開しています。それぞれそこでNGOを選定し、それに委託してやっていただいてい ます。  プノンペン市内では、青空市場で物を売るインフォーマルセクターの小売りの女性を 約400名組織して、この方たちにいろいろな訓練を施し、団結させることにより、市場 でよりいい場所にお店を開けるといったような、交渉力を高めることをやっています。 カンボジアは市場で活躍するのはどちらかと言うと男性のほうで、女性はあまりお客の 来ない隅に追いやられています。これを改善するということです。  カンダールは田舎の田園地帯です。こちらは150世帯を組織し、それにより野菜、家 畜の育成、そういった技能工芸の収入確保手段を、訓練をしながら販路の拡大、製品デ ザインを指導しながらやっています。  タケオも同じようなもので、例えばヤシの木がいっぱいありますが、これに色付けを して、ピンクの敷物や篭を作るといった労働です。  成果ですが、先ほど言ったように、例えばプノンペンの青空市場では400の対象者が、 全体で7つの種類を異にする小売業者のグループに再構成され、それぞれが青空市場の 責任者といろいろな交渉をし、最終的に真ん中に近いようなまあまあの売場を確保して いただきました。顔役などが来てプレッシャーなどがあるわけですが、そうするとみん なで寄り集まって、口々に対抗するといったような世界です。女性が団結することによ って、何とか青空市場で生き残っているということです。  それぞれ小口の金融クレジットローンを組織し、1件当たりの額はアメリカドルで 100ドルぐらいです。そういう額で材料や必要最小限の道具を買ったり、借りたりして、 物をつくるということです。その売上げについては、ごく初歩的な帳簿を付けて、売上 げはいくら、ローンがいくら、一定の期間ごとにその収入を分配しているわけです。そ れ自身が訓練になるわけです。  この地域に住み込んで活動しているのはNGOの方です。ILOのスタッフ、あるい はジャパンファンドのスタッフは、そういう所に出かけて行きますが定着しているわけ ではありません。1カ月に2回くらいの頻度で行って、いろいろな問題点を相談した り、いろいろなところと交渉をしたりします。  ただ、カンボジアは非常に貧しい国で、ジャパンPEPもそうですが、ジャパンファ ンドの一般的な性格としてインセンティブというか、ある程度期間が経った後は、自ら の国で後を面倒見るというか、そういう意味で、政策レベルまで高めることに意義があ るわけですが、カンボジアのような貧しい国は、例えばジャパンファンドの基本的なサ ポートがストップすれば後は終わりということにもなるわけです。  もう1つは、実際に草の根でやっているNGOというのがどういう人たちかと言う と、NGOのプロがNGOをやっているわけで、仕事としてNGOをやっている形で す。したがって、NGOとして事務所を借り、優秀なスタッフを互いに取り合いをしな がらやります。より待遇のいいほうにスタッフは移ってしまうという関係です。いろい ろなファンドのプロジェクトを同時進行でやって、例えばジャパンファンド以外にアメ リカのUSDOL(アメリカ労働省)のファンドをいただいてやっているということです。  現実問題として、現場における活動は、例えばEEOW、見方を変えれば貧困削減と 非常によく似ています。あるいは国によっては、EEOWのプロジェクトの中身は、H IV/AIDS対策と似ている面もあります。現実に農村貧困地域に入って行って、女 性の雇用機会を拡大することになります。場合によっては児童労働のプロジェクトとオ ーバーラップすることもあります。  したがって、NGOが同じような類型の仕事をあちこちから同時に請負って、それを 同じ地域で重ねてやっているケースもあるわけです。政策を立案され、予算を取られる ところに、この辺の実態がどのくらい届いているのか、という問題意識を持っておりま す。  最後に私が感じているILOマルチ・バイの問題点を申し上げて、ご参考になればと 思います。ILOのアジア太平洋総局長は私の前に堀内さん、その前に中村さん、その 前もずっと主として日本人の方、中谷さん以降は当時の労働省から出向されて来ている ものです。そういう意味でジャパンファンド・マルチ・バイは、日本人が太平洋総局の 局長をしていて、アジアというものを日本の広い意味での支援の対象の重点と考える と、アジア太平洋総局長の裁量で、ある程度メリハリを付けることができる面がありま す。  これから申し上げるいろいろな問題点に、いろいろな対応があるのでしょうが、場合 によっては、こういったジャパンファンドの性格を本質的に変えることになるものもあ るかもしれません。いずれにしても長期的な視野に立って、慎重にご検討される必要が あるのではないかと思います。  まず第1の問題点は、今言ったとおりですので、ILOアジア太平洋総局がジャパン ファンドについては主導権を持っています。逆に言うと、基本的にILO本部のジュネ ーブの関心は薄いということです。ILO本部にジャパン・マルチ・バイのジャパンフ ァンドのアカウントが設けられて、そこに予算が振り込まれて、管理運営がなされてい るのですが、現実の決定権はアジア太平洋総局がほぼ全てのイニシアティブを握ってい ます。基本的に本部は事後報告を受けるという形です。  そういう意味では、ILOが全体で交渉し、獲得するファンド、例えばEUのファン ド、US DOLなど、そういったドナーとの折衝、あるいはプロジェクトの審査、そうい ったものの関与の度合いは、本部のほうはほとんどないことになります。逆に言うと、 本部から見れば、自分のほうが黙っていても入ってくるお金、入ってきても本部ではほ とんど裁量権がないお金ということになって、本部にとっては魅力がないという問題が あります。  2番目に、いろいろとプロジェクトを立案して予算要求に結び付いていくわけです が、このプロセスではジャパンファンドのCTA、現在は厚生労働省から出向しておら れる福澤さんという方がやっています。その段階でチーフ・テクニカル・アドバイザー (CTA)自身が持っている情報が、かなりの決め手になります。つまり、結果的にプロ ジェクトの対象国、例えばEEOWのカンボジアです。カンボジア側から要請を受け、 それを審査して、それをプロジェクトの形にして予算要求をするという形ではありませ ん。カンボジアでEEOWが必要であるかどうかは、基本的にはCTAが判断するので す。CTAがその段階で持っている情報、いろいろなチャンネルからいろいろな情報が 入ってきますが、それを基にして判断して、厚生労働省と折衝するというスタイルにな ります。  逆に言うと対象国、例えばカンボジアの場合だと、自分のほうで国を挙げて要請しな くても対象国になり得ることになるので、そういう意味では、ジャパンファンドはいい ことをしているのですが、対象国の首相、大蔵省、外務省などのトップクラスからの認 識は、非常に低いことになっています。  3番目に、CTAをはじめ、日本政府で全部抱えているスタイルを取っています。な ぜかと言うと、もちろん中身によってはILOの専門家、ILOの職員が専門家として サポートする部分もあるのですが、先ほど申しましたようにジャパンファンドのある性 格からして、ILOのある性格からして、ILOの専門家自身がプランニングをし、い ろいろなところを自分で企画しながら、取り仕切ることができにくいシステムになって います。専門家は自分の実績を考えるので、そういう意味では専門家が魅力をもって関 与していくことにならないわけです。一方でCTAの立場からすると、文句ばかり多く て使いにくいILOの専門家を使うより、コストが安く優秀なローカルスタッフを使 う。例えばカンボジアですと、カンボジアの中で優秀な人を探して使うほうがやりやす いということになるわけです。そういう意味では、せっかくILOという場所を使いな がら、ILOの本丸の部分が動かない、動きにくいプロジェクトという面があるわけで す。  4番目に、現在CTAは非常に多面的な、過重な仕事をこなしています。かつてジャ パンファンドにはCTA以外に、日本人の若い職員が1人、特にEEOWについてはJ ICAの専門家の形で、当時労働省の婦人局の方が勤務しておられて、従って日本人の 方が3人おられたわけです。現在、残念ながら財源が減っているので、財政的な問題で やむなく人件費の部分を削って、プロジェクトの中身に回した結果、日本人の職員はC TA1人ということになったわけです。現在、後に申します日本人技術職員養成プロジ ェクトで、たまたま1人こちらを手伝っている日本人の女性がいますが、原則としてC TAだけが正規の職員ということになります。  このCTAですが、名前はチーフ・テクニカル・アドバイザーですから、いろいろな 仕事の中でも技術面のバックアップが非常に重要な仕事です。さらに日本政府との関係 で、予算の準備、評価ミッションの世話であるとか、基本的にそういったことも全部自 分で取り仕切らなくてはいけないことになります。ですから、CTAは、ある日はカン ボジアのプノンペンへ行って、カンボジアの労働省と交渉し、次の週は北京へ行って中 国の労働省と交渉するといったことを、しょっちゅうやっているわけです。そういった 折衝以外に、本来のチーフ・テクニカル・アドバイザーとしての技術面のインプットも かなり要求されるということです。  5番目に、効果の測定、評価という問題です。これは皆さんが今後ご議論されるもの であると思いますが、日本のODA一般、ジャパンファンドの目標といったことについ ては、私の言及すべき範囲ではありませんので、そこはすでに確立されたものがあると いう前提でお話をします。基本的に個々のプロジェクトが企画された時点で、本来的に ジャパンファンドの目的に合っているという前提であると思いますが、その効果の測定 になると、当初の目標がどういったものであったかということに戻ってくるわけです。 場合によっては、インセンティブですので、インセンティブを与えてその後にどうなっ たのか、プロジェクトが終わった後はどうなったのか。EEOWであれば、ヤシの葉で 篭を編む仕事が、ジャパンファンドが手を引いた後も続いているのかなど、そういった 後の効果のほうが大事だということがあるわけです。  先ほどPEPについて数値的なことを少し申し上げましたが、数値も大事ですが質的 な問題もかなりあります。そういうものを一律に評価するのはなかなか難しいもので す。むしろプロジェクトの中身に応じて評価をしていかなければいけないのではないか と思っています。  6番目に、先ほどEEOW/Cambodia Chapterで少し申しましたと おり、現実にはいろいろなドナーのファンドと組み合わせて行われるケースがあるわけ です。ジャパンファンドは国ではありませんので、最終的に責任を負うのは国家ですか ら、ファンド、プロジェクトでできる範囲は当然限られるわけです。ファンドの外側の 隣接する部分について、別のドナーのファンドが活かされることは当然あるべきことだ と思います。これをドナーによっては非常に神経質に嫌う、USDOLならUSDOLだけで やってくれという場合があるのですが、こういう問題があります。  7番目に、予算額が少なく十分なスタッフを抱えられないということがあります。こ れは悩ましい問題です。ここにILOの正規職員ですと、当然賃上げというか、待遇の 改善が定期的にあるわけです。多くのドナーの場合は、ILO職員の待遇改善に合わせ てプロジェクトの中の職員の待遇も改善しています。例えば賃上げがあれば賃上げする と。  ところがジャパンファンドの場合には、今申しましたような事情なものですから、財 源自体が減ってきているので、こういったタイムリーな待遇改善は難しい状況になりま す。結果的にどうなるかと言うと、優秀な職員ほど一旦ジャパンファンドに雇用されて も、すぐに別の有利なところに替わってしまうことになります。  8番目に、JICAをはじめとする他のODAと、うまく組み合わせて、連携をとっ てやればもっと効果があるのではないかと思われる場合が多々あるのですが、残念なが ら横の連携がうまくいっていません。1つは、これはJICAのほうにきちんとお伺い しないといけないことかもしれませんが、JICAのほうで、マルチへの関与を少し減 らされています。例えば先ほど申したように、EEOWにJICAの専門家として厚生 労働省の職員がいたのですが、この後継は認められませんでした。マルチよりもバイに 対する重点の置き換えといった方針があったのかと思っています。ただ、今後アジアの 中でも、例えば東ティモール、PNG、ラオス、強制労働で問題になっているミャンマ ー、アルカイダもいるかもしれないアフガニスタン、イランといったような地域で、お そらく今後どんどん人づくりをやらなければいけないと思うのですが、JICAのプロ ジェクトともう少し密接な連携を保ってやれれば、相乗効果が期待できるのではないか と感じました。  最後に、例えばEEOWのケースのように現場の最先端では、実はNGOに大きく依 存していて、NGOもピンからキリまであるわけです。多くの国で仕事としてNGOを やっているところが多いわけです。大変成功した大規模なNGOというと、例えばバン グラデッシュのBRACという組織があります。大変近代的、効率的な組織です。この辺の NGOが最先端を担っています。こういう人たちというのは、目の前に貧困家庭などと 接しているわけです。先ほど申したように、ジャパンファンドがインセンティブとして 3年間で打ち切った場合に、後はどうなるのだという感じを一般に持っているわけで す。  ODAという活動は目的意識や活動の異なる当事者が入って来るのは当然ですが、こ ういった当事者間のコミュニケーションをもっと十分に図れば、あるいは下から上への 意見の具申、もちろん逆方向もそうですが、もう少しコミュニケーションをスムースに 図れないものかなと感じました。結論的には、そういった問題はあるのですが、小規模 であってもマルチ・バイはかなり効果があるものだと思っています。ぜひとも続けてい ただければと思っています。以上です。 ○吾郷座長  どうもありがとうございました。最近まで第一線におられた方の貴重なご説明、具体 的な数値その他の情報をいただきました。ご意見、ご質問がおありでしたらいただきた いと思います。 ○松岡会員  JICAのILOに対する専門家派遣減の話が出ましたので、この関連も含めて最近 の状況についてお話させていただきます。まず予算についてですが、この7年でODA 全体で30%減になっているのはご存じだと思います。JICAも予算的に11%ぐら い減っています。その中で減っていない予算は国民参加関連の予算です。一番大きいの が青年海外協力隊、シニアボランティア、NGOの方々を活用した「草の根技術協力」 です。従って、通常の技術協力はできるだけ効率的に実施しなければならないというこ とです。  確かにこれまで国際機関への専門家派遣はある一定規模ありました。しかしながら予 算削減の中、マルチの部分はマルチの予算で負担して頂こうという考え方から、JIC Aの予算の内マルチ関連の部分から削っていったという事実はあります。また地域別で は、アジアのシェアは基本的にはそれほど落ちているわけではないのですが、全体で大 体4割ぐらいのシェアを占めています。ただし、タイなどかなりの発展をしている国に 対するシェアは減少し、CLMV等の後発ASEANのシェアが増えています。中国 も、技術協力のシェアでも一昨年ぐらいまで世界で2位ぐらいだったのですが、政府の 政策変更で協力の対象地域を沿海部より内陸の貧困地域に移し、シェア自身もだいぶ減 ってきました。これらの減額分がアフリカに向けられています。MDG達成の問題を考 えたときに、やはりアフリカにどうしても力を入れていかないといけないだろうという のが大きな傾向になっています。  従って、私どもは2000年1月から地域部を4部設置いたしましたが、今年の4月から アフリカ部を設け、全部で5部の体制とし、対アフリカ協力を強化しようとしていま す。  また、過去の協力では、研修員の受入れ、専門家の派遣、プロジェクト方式技術協 力、開発調査などいろいろな形態別に実施していましたが、目的が1つのものはできる だけまとめていこうとしております。無償資金協力あるいは関連するボランティア事業 も含め、共通の目標を持った1つのプログラム型にして計画の選択と集中を行う方向を 目指しています。  そのプログラム策定の過程の中で、あるセクターあるいはある地域において、マルチ や他のドナーとも関連性が出るのであれば、お互いにプログラムを照会することによっ て協調しながらやっていこうという体制は組もうとしております。  ご承知のように、世界はかなりODAを増やそうという流れになっているのですが、 こういう中で日本だけがトータル3割減という状況を考えますと、従来のような日本単 独のものよりも、むしろマルチなり、バイの資金もうまく活用しながらやっていく必要 があるのではないかという認識をしている状況です。とりあえず今の状況を報告させて いただきました。 ○吾郷座長  他にいかがでしょうか。 ○藁谷専門会員  今松岡理事から包括的なお話がありまして、それに簡単に付け加えたいと思います。 国際機関への派遣の問題ですが、先ほどジャパンファンド自体は先方政府の要請に基づ いてやっているものではないというご指摘がありました。日本のJICA専門家なりプ ロジェクトをやる場合には、基本的に、政策対話というプロセスを通じて案件形成は可 能なのですが、最終的に先方政府の責任の基に要請されるのをベースにするというルー トの違いは若干あります。だからといってマルチと連携をしないと言っているわけでは なく、先ほど説明があったように、プログラムの中でどういうことを解決していくか、 その中で先方政府はどう考えて、どういうところは自分たちでできて、対外的にどうい うことを要請しているか。それは日本政府ができるところ、あるいはマルチで取り組ん でいること、バイの他のドナーがやっているところを合わせて、どういうところで投入 なりをすれば効果的になるかは話し合いましょう、国によってはドナー協調ということ が導入されているところもあるので、そういう観点で考えていることを付け加えさせて いただきます。 ○中村会員  非常に関心を持って、野寺理事長の説明を聞かせていただきました。その前の前に私 がやっていたということからすると、非常に野党的と言うか、正直なコメントでしたか ら、私も反省するところは多いです。しかしそれはそれとして、2、3の私の感想を言 わせていただきます。  第一に、確かに日本のマルチ・バイは要請主義というよりも、こちらがやりたいとい うことが先にあって、それをILOという場を借りてやっていこうという形で進んでい ます。その意味では、本来の地元のニーズとよく合わせながらという観点からすると、 ちょっと異質だなという感じは私も持っていました。  それから、ILOの要請でもないので、ILO本部の関心も薄いこともあったという 反省もあります。しかし、もし相手方のニーズを待ってということになると、果たして 日本のマルチ・バイができたかなと。あるいはILO、特にILO本部のニーズを待っ てということになると、日本がやりたいこととどう調和させるかというのがあります。 必ずしも国際機関は清らかな団体ではなく、ILOに任せると、ILOの専門家のやり たいことをやられてしまうというところがあって、なかなか難しいと思います。  そこでこれからマルチ・バイをやっていくにあたっては、今の野寺理事長のご指摘な どをよく踏まえて、どういうふうに取り組むのが一番いいのかを考えてみるのも、この 検討会の1つの課題として面白いかと思います。  しかしそういうことをお聞きしながら、中国でのPEPのプロジェクトは新聞報道に もありましたが、政府の全体の大きな支持で発展して非常に嬉しいと思います。スター トしたときには、どうやって説得をするのかが難しかったのです。本当の意図は、沿海 部はどんどん発展するけれども、内陸部は遅れるだろう。その格差を放っておいていい のかということから、中国のプロジェクトを持って行ったのです。その意味では成功だ し、それがシャアガンの問題にまで進んでいったというのは大きな発展だと思います。 その意味で成功を収めていることについては、非常に嬉しく思いました。  いずれにせよ、非常に正直なご指摘なので、単に野寺理事長のお話を伺っただけでこ の議論を止めるのはもったいないので、もう1度真剣に日本のマルチ・バイをどうやる のかを検討していただきたいと思います。 ○吾郷座長  私も全く同感です。野寺理事長の30分弱のご説明の中に、非常に大きな問題がたく さん組み込まれていたような感じがしまして、一つひとつ検討していくと2年ぐらいか かるのではないかというくらいの問題量があったと思います。  私も今の中村会員の中のディマンドドリブンがサプライドリブンになっているかもし れないという観点からしていつも思うのですが、どちらかにしなければいけないことは ないのではないかと思うのです。両方必要なのです。妙な例を引いて恐縮ですが、我々 大学で最近自己評価とか言われていて、学生の授業評価というのをやらなくてはいけな くなったのです。私は今まで断固として反対していて、ディマンドドリブンな授業ばか りやっていたら、大向う受けする面白い授業ばかりやっても、必ずしも学生のためには ならないと。厳しい授業をやればやるほど学生は離れていくことも、最終的に見たらい いことだということもあり得るのだから、人気がある、面白いことだけに頼るべきでは ないと。もちろんそれがないと悪いというのもわかります。だから、両方をうまく噛み 合わせなければいけないということを言ったのですが、同じようなことが技術協力につ いても言えるのではないかという感じがいたします。  先ほど申し上げたように、たくさんの問題点が含まれたご説明だったので、あまり時 間を取っても今日終わらなくなってしまいますが、どうしてもご意見があるという方が いらっしゃいましたらどうぞ。 ○釜石補佐  事務局から申し上げますと、マルチ・バイの課題をたくさんご指摘いただいたところ で、今後も議論が必要になりつつあると思います。第4回検討会でも、国際協力事業の 現状の問題点について議論することになっておりますし、来年度についても将来のこと を考えていく中で検討できると思いますので、引き続き検討することとして残しておけ ればと思います。 ○吾郷座長  うまくまとめていただいたので、次の議題に移らせていただきます。議題5の「人材 の育成について」です。事務局からお願いします。 ○釜石補佐  資料8で「国際協力に携わる労働分野の人材育成について」まとめています。論点 案、労働分野の国際協力の状況と人材源、実際にどれぐらいのニーズがあるのかという ことで、平成16年度の技術協力要請案件についてとりまとめています。  まず論点案です。これは先週の雇用・能開分野の分科会でも素案をお出しし、ご意見 をいただき、書き加えて整理しています。大きく4点あって、1番目が、どのような人 材が労働分野の国際協力において求められているかということで、(1)から(5)ま であります。分野、経験、資格、語学力、年齢、出身組織と、考えられるだけのことを 載せてみました。  2番目として、人材はどれぐらい必要なのかということです。年間何人ぐらい必要な のか、短期、長期ということです。3番目として、求められている人材をどうやって育 成していくか、リクルートしていくかということです。JICA専門家あるいはILO 専門家として一定期間働いた後、その経験をどうしたらさらに活かせるかということ で、問題意識ということで挙げています。  次の頁で、労働分野の国際協力と人材の出所というところです。第1回検討会でも、 手法と分野に分類した資料をお出ししていますが、それに右のものを付け加えた形で、 人材の出所というのを書いています。JICAを通じた協力として、政策アドバイザー の派遣というのがあり、今のところ労使関係では行政官を派遣しています。  団体を通じた協力では、労働関係者の招聘及び現地セミナーの開催ということで、今 のところ関係団体に委託して実施しているということで、団体名を書いています。マル チ・バイ・プログラムについては、先ほどご説明にありましたように、CTAとして行 政官が派遣されているということです。以降、雇用、職業能力開発、労働安全衛生、女 性ということで、整理しております。  手法のところで最初に*が付いているところが、長期の人材派遣が入っている協力で す。  そういう点で言うと、JICAを通じた協力と、ILOを通じた協力についてのみ、 今のところ長期の人材派遣があるということです。  次の頁で、どのような要請があって、どう採択されているかというのをご参考までに 付けています。左のほうが要請案件の数で、平成16年度の技術協力の要請として35 件挙がってきています。そのうち26件が職業能力開発分野、1件は労働安全衛生、7 件が雇用、労働政策アドバイザーということですが、全般で1件となっています。案件 の採択については、全部で10件です。能開が7件、雇用が2件、労働政策アドバイザ ーの案件ですが、全般として1件という状況になっています。一部に違うものもありま すが、基本的に専門家の派遣を含むもので、長期あるいは短期の専門家派遣という要請 になっています。以上です。 ○吾郷座長  この論点というのは、本検討会のマンデートが大きく2つあるとすると、2つ目のマ ンデートで、今まで主としてやってきたのは評価の方法についてでした。これは次年度 に主としてやるということで、その頭出し的な意味があると理解したらよろしいでしょ うか。 ○釜石補佐  はい。 ○吾郷座長  ということでご説明がありましたが、これについてご意見があれば出してください。 ○中村会員  来年度以降本格的に議論をする問題だというなら、そう詳しく言うことは必要ないか と思いますが、経験、資格のところに「能力」という言葉が入ってもいいかという気が します。それから、視点として「国内の経験」というのは当然ですが、相手国の事情を 知ろうとする意欲、あるいは知っているかということがどこかに必要だと思います。  それから、現時点での理解だけではなく、かつての日本の経験を持っているかどうか が必要な気がします。というのは、簡単なことを言うと、程度として日本の20〜30年後 を追いかけているところを、急いでキャッチアップしようとするときに、現在の日本か ら見てこうだああだといっても、とても事態が違うのです。そうすると、日本の過去の 経験を知っている人のほうが、技術協力において適切な援助ができるのではないかと思 うので、その辺をどういうふうに見ていくかが必要だと思います。そう言いながら、年 寄りのほうが役に立つという気は全然ないのですが、今の目から見た能力、資格ではな く、その受益国の状態、ニーズに最も適した能力と、それに応える意欲があるかどうか が、専門家を選ぶのには必要なので、そのファクターをこの全体を検討する中で見直さ なくてはならないという気がします。来年度以降にやるなら、今ここで議論することで はないと思いますが。 ○末廣会員  今のお話には大変賛成です。日本国内の経験の政策的意義と相手国をよく知っている という自己認識の2点については、私は問題を感じています。例えば中小企業支援のと きに、日本の1950年代から1960年代初めまでの中小企業支援に携わった人が、アジア諸 国に行かれるのなら、それはそれで非常に意味があると思います。同時にアジア諸国と いうのは、1950年代、1960年代と違って、先に自由化が起こってしまった後に中小企業 支援をするという、当日の日本とは全く違う環境に直面しておりますので、日本の経験 をそのまま適用できないという問題がありました。その意味では、プロジェクトの内容 に応じて、過去の日本の経験が活きる場合と、逆にそれが阻害要因になってしまう場合 の両方があるということです。  2番目の問題は、相手国をよく知っているという点です。私はタイを30年やってい るので、おそらく経済に関しては日本で一番長くかかわっていると思いますが、「長い 」ということは、逆に急速に変わっていく「今のタイ」が見えてこなくなるということ もあります。特に50歳代の人の「タイの理解」に依拠しますと、現在の対では見当違 いの間違いを起こす可能性もある。したがいまして、20歳代、30歳代前半の人が、 タイの若い同じ世代とコミュニケートするという問題と、50歳代の日本人が30歳代 の相手国の人と話をして理解するというのは次元が違います。ある国に「長く関わって いる」ということが、そのまま相手国の現在のことをよく理解しているということには ならないわけです。この両方をうまくバランスするのが重要という感想を持っていま す。  野寺理事長のお話には大変感銘を受けたのですが、今日のお話で考えなければいけな いと思ったのは、例えばNGOの質や、NGOの緊密な関係の度合いによってプロジェ クトの動きがある程度左右されるとすると、国際協力にかかわる労働分野の派遣専門家 の能力だけに限らないで、1つはローカルスタッフとの関係、もう1つは質の高いNG Oをどうやって見つけて、どうやって連携するかを含めないと、せっかく能力を持った 専門家を派遣してもその能力を発揮できないのではないかと思います。そのことからい いますと、個々の労働分野の人材についての枠組みは、個々人の専門家から現地を含め たネットワークぐらいのところまで広げておいたほうが、無難ではないかという感想を 持ちました。 ○吾郷座長  他にご意見はございますか。 ○松岡会員  人材を考える場合に労働の分野の供給サイドのノウハウといいますか、日本として何 をアピールしていくのかということを議論することは、非常に大事なのではないかと思 います。その際、単に過去の経験だけではなく、現在におけるノウハウも含め考える必 要があると思っています。  また、日本は過去にかなりの協力をやってきているわけですが、協力を受けた方々も 協力人材として考えるとともに、そういう方々が日本に何を求めているのかを十分に聞 いた上で、これからの人材育成や戦略などを考えていく必要があるのではないかと思い ます。例えばセネガルの職業訓練センターは、セネガルの方々に日本語を教えて、日本 人が日本語で技術支援をやったという変わった例なのですが、もう20年も協力が続い ています。このプロジェクト関係者の意見を十分に聞くことで何か参考になるものが出 て来るのではないかと思います。 ○今野会員  この問題は私の中に少し違和感があります。なぜかと言うと、例えば人材をどうやっ て育成し、リクルートするのかと言われても、つまり労働分野のODAが5年後、10 年後にどういう状態になっているのかをある程度想定しないと、本当は人材需要は出て こないのです。そういう点で違和感があります。先ほどから、中村会員がおっしゃられ たように、こういう資質が必要だという議論なら比較的やりやすいのです。  もう少し返って考えてみると、労働分野の国際協力をするときにある人材のインプッ トをするわけですが、一種の人材のポートフォリオみたいなことをどう考えるのか。ポ ートフォリオを考えたときに、こういうポートフォリオになったときにここはNGOに やってもらうとか、いろいろなやり方があって、残ったこの部分を日本人がどうにかし ましょうと。そのときに日本人がどういう役割を果たすのかということを想定しないと いけないので、ちょっとここの問題の出し方はどこに焦点を当てるのか。例えば、先ほ ど言われた資質だけでいいと言うなら、それだけでいいので。どういう議論になるかは わかりませんが、何人育成するのか、どうやって育成するかはあまり考えないというこ とになります。ですから、ちょっと問題の整理をしていかないと議論がしにくいという 違和感があります。 ○吾郷座長  まさしく頭出しですので、そういうようなご意見をいただいて、また事務局のほうで 詰めていただければと思います。他にいかがでしょうか。  ただ今非常に貴重な、根本的な問題にもかかわる論点を提示していただいて、本当に ありがとうございました。 ○村木課長  今のご意見を参考にして、これからさらに議論の資料を提供して、議論をしていただ きたいと思います。最後に今野会員がおっしゃったこと、その前に各先生がおっしゃっ て、また野寺理事長のお話に対してリアクションをいただいたことは、共通の基盤とし てあると思います。先ほど座長もおっしゃいましたが、本検討会のマンデートとして、 評価をしてみるということと同時に、評価は評価の時点で終わるのではなく、それをも って今後のあるべき姿、労働分野のODAをどういうふうに考えていくことの中に、マ ルチ・バイで、要請主義ではない我々としての哲学をどう出していくのか。そうしたも のの方向性の先に、人材に何を求めていくのかということを議論していく必要があると 思っています。  それはまさに来年度に、皆様方にそうした議論をお願いしたいと思います。そのため の一番最初の素材として今日お出しをして、いろいろ人材についてのご意見を伺ったと いう位置づけで考えております。 ○吾郷座長  それでは最後の「その他」に移ります。事務局からお願いいたします。 ○釜石補佐  資料5の別紙をご覧ください。これは先週の雇用・能開分科会で出させていただいた ものと同じですが、一番左が検討会のスケジュール案です。第4回検討会については、 日程の都合上12月中旬から下旬にかけてを考えています。検討会でいうと、3月目処 で各分野合同の検討会を当方の第5回として実施したいということです。  真ん中は先ほど野見山会員からご説明があったとおり、雇用・能開分野の今後の評価 のスケジュールです。第2回は来年度以降ということになってしまいますが、その間は メールなどでいろいろ意見のやり取りができればと思っています。  右端が、事前に提示しておらず申し訳なく思いますが、労使関係・労働基準分野の評 価の試行についての案です。ここでは10月下旬と書いていますが、おそらく11月上 旬にずれ込むかと思いますが、第1回の労使関係・労働基準分科会を開きたいと思って います。その後、評価デザインを修正して、題材となっているASEAN労使関係プロ ジェクトの最終のセミナーあるいは協力委員会に向けて評価を固めていきたいと考えて います。3月になってそれをとりまとめて、4月以降に第2回の分科会を開きたいと思 っています。大体このようなことでご了解いただければと思っています。  現在可能かどうかはわからないのですが、第4回検討会の日程について、会員の先生 方の日の埋まり状況を見ていただければと思うのですが。 ○吾郷座長  12月の真ん中の辺りですか。 ○釜石補佐  具体的に申しますと、13日の週か、20日の週ということですが、いかがでしょう か。 ○吾郷座長  12月24日の午前中ということにします。 ○釜石補佐  労使関係・労働基準の分科会については、また11月の第1週ぐらいでご予定をお伺 いしたいと思います。 ○吾郷座長  今日はこれで閉会となります。ありがとうございました。                                     (了) (照会先) 厚生労働省大臣官房国際課国際協力室   国際協力室長補佐 釜石   03-5253-1111(内線7303)