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今後の障害保健福祉施策について
(中間的な取りまとめ)

平成16年7月13日
社会保障審議会障害者部会

 社会保障審議会障害者部会においては、本年2月に社会保障審議会により設定された審議事項である「ライフステージ等に応じたサービス提供の在り方、ケアマネジメントの在り方、雇用施策等との連携、財源の在り方等、支援費制度や精神保健福祉施策など障害者施策の体系や制度の在り方に関する事項」について、3月2日以来、ほぼ2週間に1回のペースで11回にわたり精力的に議論を行ってきた。
 これまでは、とりわけ身体障害、知的障害及び精神障害の三障害共通の枠組みに関する大きな方向性を議論してきたが、中間的なとりまとめを以下のように行うこととした。
 今後、この中間的なとりまとめの方向に沿って政府及び関係者において施策体系や制度の在り方についてさらに詳細な検討が行われることを期待し、当部会としてもさらに議論を深めることとしたい。


1 基本的な方向性

 ○ 障害保健福祉施策の基本的な方向性については、障害者基本法に基づく障害者基本計画や、「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」(平成9年12月、関係三審議会合同企画分科会)をはじめとするこれまでの審議会の議論を踏まえつつ、今後は、地域での自立した生活を支援するため、障害者基本計画に示された自己選択と自己決定の下、保健医療・福祉だけではなく、就労、教育、住まいなども含め、幅広く自立と社会参加を進める視点で考えるべきである。

 ○ 現行の障害保健福祉施策は、障害種別や年齢により、支援費制度、措置制度、精神保健福祉施策、医療保険制度などが組み合わさっているが、福祉サービスや就労支援等に関する制度的な枠組みについては、障害特性に配慮しつつも、基本的に三障害共通の枠組みとすべきである。

 ○ 今後の障害保健福祉施策を考える上では、障害がある人もない人も地域の住民として支え合いながら地域で安心して暮らすことができるよう、国民一人ひとりが「障害」の問題を自分に関係のある問題であるとの認識に立って、広く議論が行われることが重要である。


2 障害者の自立支援のための保健福祉施策の体系の在り方

(1) ライフステージ等に応じたサービス提供

(全体的課題について)
 ○ 支援費制度は国の共通の制度としてサービス提供量を拡大させるなど障害者福祉の向上に寄与しているものの、実際にはサービス提供量等の地域差が大きく、サービスを選択できる地域とそうでない地域とがある。このような中で、現時点で、一般財源化に対しては地域差が維持ないし拡大するのではないかとの懸念を示す意見がある。また、精神障害者福祉については、支援費制度の対象ではなく他障害に比べても立ち後れている状況にある。

 ○ これまで必ずしも施策の対象となってこなかった高機能自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)などの発達障害、高次脳機能障害についても総合的な支援に取り組んでいく必要がある。

 ○ 福祉施設については、様々な施設類型があるが、実態を見ると違いがわかりにくくなっており、施設の果たしている機能に着目した整理が必要である。同時に社会に開かれた施設としていく必要がある。

 ○ 地域生活への移行を進めるためには、居宅サービスを充実させるだけでなく、入所施設・病院が、その利用者の地域生活移行を積極的に支援する機能を持つことが重要である。

 ○ 入所・通所に関わらず、施設の機能をきめ細かに整理し、また、その機能の過不足の有無等を明らかにして、各機能のサービスをどの地域でも受けられるようにすることが重要である。施設・在宅の二元論ではなく、自由な利用を可能とするべきである。

 ○ 地域の人々にノーマライゼーションの考え方を理解してもらう必要がある。差別を品性、文化のみの問題とせず、具体的にどう解消するかという議論をすることが必要である。地域で共に暮らすためには、日常的な交流や子どもの時からの友達づきあいが重要である。

(ライフステージごと等の課題について)
 ○ ライフステージごとに様々なサービスが不連続となっており、それらのサービスをつなげていくことが必要である。

 ○ 乳幼児期は、障害の発見、療育、障害児の養育に不安を持つ親(特に母親)や親族に対する支援が重要である。障害を受容できるようなアプローチを検討することが必要である。

 ○ 障害の重度化に伴い、肢体不自由児施設や重症心身障害児施設等への緊急入所という形での支援が在宅生活を支えるために必要である。

 ○ 障害児については、18歳以上になっても障害児の施設を利用し続ける「加齢児」が多いこと、措置制度となっていること、措置の権限が市町村に委譲されていないこと、医療との関係が深いことなどについて更に議論が必要である。

 ○ 障害者の結婚等の家庭生活への支援についても検討が必要である。

 ○ 高齢障害者では、加齢に伴う心身の機能の変化に対応するため、生活支援・介護だけでなく、医療支援も重要である。

 ○ 聴覚障害者に対する手話通訳や要約筆記などの情報・コミュニケーション支援については、現行の支援費制度の対象事業となっておらず、また、あらかじめ予期できないニーズに臨機応変に応えるため、ホームヘルプや他のサービスとは別系統のサービスとして考えるべきである。

 ○ 視覚障害者の移動介護については、あらかじめ予期できないニーズに臨機応変に応えるため、ホームヘルプや他のサービスとは別系統のサービスとして考えるべきである。

 ○ 公的サービス以外にも手帳を持っていれば受けられるサービスがあり、これを拡大するよう働きかけることが必要である。

(2) 就労支援

 ○ 就労支援は、障害者施策の中心課題の一つであり、どう実行し実現するかという段階に入っている。

 ○ 本人の意欲と能力に応じて就労できるよう、評価、相談、調整の支援の機能を位置づけることが重要である。この場合において、一旦就職した企業等でうまくいかなくても再訓練等により就労に結びつけていくことが重要である。

 ○ 施設体系を機能に応じて整理し、機能強化を図っていくべきである。その場合に、量的な整備を図ることも重要である。

 ○ 一律に一般就労へ移行するのではなく、一般就労につながらないが働きたい人たちのための働き方を検討する必要がある。

 ○ 現時点では保健医療・教育・福祉・就労の間のつながりが十分ではなく、それらを含めた連携と協力関係の確立が重要である。このため、障害者福祉関係法と障害者雇用関係法の相互の関連性を明確にする必要がある。

 ○ 雇用だけでなく、自営業、起業や在宅就労に対する支援、優先発注などのバックアップシステムについても検討する必要がある。

 ○ 障害者が能力を活かして、雇用され、就労することは、障害者本人はもとより社会や企業にとっても意義がある。また、企業は雇った以上は障害に配慮しながらその能力を最大限発揮できるようにするので、就職の際のマッチング、ジョブコーチ、環境整備等の支援が必要である。

 ○ 通勤や職場の人間関係が難しく、たとえ就職してもすぐに辞めてしまうケースがあり、人間関係をどうしていくかが重要である。また、精神障害者の場合、長時間の勤務が難しいといった理由により就労が進んでいないという実態があり、こうした実情を踏まえた就労支援の取組が求められる。さらに、就労支援と合わせて生活支援を行うことも必要である。

 ○ 本人がいくら頑張っても支援者がいないと仕事ができない人もおり、どこが責任を持って支援者を確保するのか議論する必要がある。

 ○ 仕事の場面で障害者の役割を明らかにし、働く意欲がわくようにすべきである。

 ○ 障害の状態等から就労困難な障害者についても、自己実現及び社会貢献のための何らかの働く場や日中活動の場が必要であり、そのための通所の利便を考えると、小規模なものが多く必要である。

(3) 住まいの確保

 ○ 障害者の地域移行を進める観点からは、住まいの確保が重要であり、とりわけ在院長期化が問題となっている精神障害者の場合、在宅サービスなどの支援体制を整備するとともに住まいが確保できれば早期退院、地域生活への移行が促進する。

 ○ 障害者の住まいの確保を進める際には、グループホームなどの充実を図ることに加え、公営住宅や一般住宅への単身入居等も念頭においた施策への取組が必要である。


3 ケアマネジメント等の在り方

 ○ 障害者の生活を支え、自立と社会参加を進める観点からの総合的なケアマネジメントの制度化を図るべきである。

 ○ 障害者ケアマネジメントは、障害の特性に応じた様々な職種によるチームアプローチを基本とするとともに、その透明性や中立性の確保及び専門性の向上に配慮すべきである。同時に、エンパワメントの考え方に基づき、障害者がセルフケアマネジメントを行うという視点が重要である。

 ○ 契約方式の下では、制度を利用するに当たって、権利擁護が実質的に機能する方策を考える必要がある。


4 サービスの計画的な整備と財源(配分)の在り方

 ○ 市町村障害者計画に精神障害者も含めた三障害の記述をするほか、数値目標を義務付けることが必要である。

 ○ 支援費制度には勘案事項はあるが、全国の市町村で必ずしも統一的に運用されておらず、また、精神障害者福祉には勘案事項そのものが存在していないため、公費を財源としたサービスの配分の在り方や支給量の決定などに関する基準をより明確に導入するべきである。また、施設から地域への移行を円滑に行うためのインセンティヴが必要である。

 ○ 現在の制度では、扶養義務者の負担があるために、ヘルパーの利用状況が扶養義務者にわかってしまったり、扶養義務者に気兼ねしてサービスの利用が抑制されたりする面があることから、負担を本人の所得に基づくものとすることについて検討が必要である。


5 今後の障害保健福祉施策に係る制度の在り方について

(1) 障害保健福祉施策全体の在り方

 ○ 既に述べたように支援費制度をはじめとする障害保健福祉施策については、(1)幼児期や学齢期における発達支援及び家族支援、青壮年期における就労支援、日中活動支援や教育、高齢期における生涯教育や生活支援などのライフステージ等に応じたサービス提供、(2)障害の有無にかかわらず共に働き共に支え合う観点からの就労支援、(3)暮らしの基盤となる住まいの確保、(4)障害者の自己決定と適切なサービス利用を支援するケアマネジメント等の在り方、(5)サービスの計画的な整備と財源(配分)の在り方等、様々な観点から施策の在り方を見直す必要がある。

 ○ 今後の障害保健福祉施策の基本的な取組の方向性を具体的に明らかにし、多くの課題に対して法律改正も含めて積極的に取り組むため、当部会においても引き続き議論を深める必要がある。

 ○ また、障害保健福祉施策の主な実施主体である市町村をとりまく状況をみたとき、住民に身近な地方自治体が自らの権限、責任、財源をもって行政を進められる体制を整備するという地方分権の大きな流れがある一方、それぞれの市町村においては福祉に限らず多くの困難な政策課題を抱えている。そして現行制度のもとでは、市町村に対する国の財政を含めた支援は十分とはいえない。このような中で、いかに市町村がその地域の特性に対応して主体的に障害保健福祉行政を進めていくことのできる施策体系や制度を整備するかが大変重要である。

 ○ さらに、介護保険制度については、来年にも介護保険制度の見直しが予定され、障害者施策との関係は制度創設当初から見直しの際に検討すべき課題となっている。

 ○ また、地域住民の視点からすると、誰しも障害の状態になりうるものであり、また、誰しも年老いていくものであることを考えると、障害種別、年齢、疾病等に関わりなく、同じ地域に住まう一人の住民として等しく安心して暮らせるように支え合うという地域福祉の考え方が重要になっている。

(2) 新たな障害保健福祉施策と介護保険との関係

 ○ 上記のような状況の中で、今後、地域福祉の考え方に立って障害保健福祉施策を推進するため、支援費制度など現行制度について当面の制度改善を図りつつも、国民の共同連帯の考え方に基づいており、また、給付と負担のルールが明確である介護保険制度の仕組みを活用することは、現実的な選択肢の一つとして広く国民の間で議論されるべきである。

 ○ 急増する独居高齢者や痴呆高齢者を地域で支えるため、介護保険も、サービス体系の在り方などについて議論がなされており、それは地域生活重視の障害福祉の流れとも一致する部分が多い。

 ○ この場合において、第12回障害者部会(平成16年6月4日)において三人の委員が示した考え方(「障害者福祉を確実・安定的に支えていくために〜支援費制度と介護保険制度をめぐる論点の整理と対応の方向性〜」)を踏まえて、介護保険制度によりすべての障害者サービスを担うのではなく、障害者が地域で安心して暮らすことができるよう、介護保険制度とそれ以外の障害者サービス等とを組み合わせて、総合的かつ弾力的な支援体制を整備する必要がある。

 ○ また、介護保険制度の仕組みを活用することについては、障害特性に配慮した仕組みとなるかどうか等について関係者から課題や懸念が示されており、これらについて十分検討しその内容を明らかにするとともに適切に対応することが必要である。

 ○ 現時点においては、障害保健福祉施策の推進のために介護保険制度の仕組みを活用することについては、安定と発展のためには必然であるとして賛成する意見や課題を示しつつ選択肢の一つであることを認める意見のほか、判断する材料が十分ではないとの意見や公の責任として公費で実施すべきであるとして反対する意見もある。

 ○ 今後、よりよい制度を検討していく中で、障害者、医療保険関係者をはじめ多くの関係者の意見を十分聴いて検討を進める必要があるとともに、障害保健福祉施策の実施者であり、介護保険制度の保険者でもある市町村と十分協議することが必要である。

 ○ いずれにしても、介護保険制度の仕組みを活用することを含め障害保健福祉施策をどうするかについては、今後、国民一人ひとりが「障害」の問題を、他人事としてではなく、自分に関係のある問題であるとの認識に立ち、広く議論が行われ、その理解と協力が得られることを期待したい。


照会先
 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課企画法令係(内線3017)


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