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結核の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針(案)


 結核予防法(以下「法」という。)の制定以来およそ半世紀が経過し、この間の結核を取り巻く状況は、医学・医療の進歩、公衆衛生水準の向上等により著しく変化した。現在我が国の結核り患状況は、かつての青少年層を中心とした結核単独かつ初感染発病を中心としたり患から一変し、基礎疾患を有する既感染の高齢者のり患が中心となっている。また、高齢者のみならず一部の大都市等の特定地域において、結核高発病、遅発見、治療中断、伝播高危険等の要素を同時に有している特定住民層の存在についても疫学的に明らかになっている。一方で、結核医療に関する知見の蓄積により、結核の診断・治療の技術は格段に向上した。
 このような結核を取り巻く状況の変化に対応するため、結核対策の枠組みを抜本的に見直し、従来の対策を、予防の適正化と治療の強化、きめ細かな個別的対応、人権への配慮、地域格差への対応を基本とした効率的な結核対策に転換するものとする。また、結核の予防とまん延の防止、結核患者に対する適正な医療の提供、結核に関する研究の推進、医薬品等の研究開発、人材養成、啓発や知識の普及とともに、国と地方公共団体、地方公共団体相互の連携と役割分担を明確にし、結核対策を総合的に推進することにより、我が国が、世界保健機関のいう中まん延国・結核改善足踏み国を脱し、近い将来、結核を公衆衛生上の課題から解消することを目標とする。
 本指針は、結核の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針であり、新しい時代の結核対策の方向性を示すものである。本指針及び本指針に即して都道府県が策定する予防計画(以下「予防計画」という。)がそれぞれ整合性が保たれるように定められ、もって、今後の結核対策が総合的かつ計画的に推進されることが必要である。
 本指針については、施行後の状況変化等に的確に対応する必要があること等から、法第三条の三第三項に基づき、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更していくものである。

第一 結核の予防の推進の基本的な方向
 現在の結核を取り巻く状況への対応
 現在我が国における結核り患の中心は高齢者であるため、基礎疾患を有する結核患者が増加しており、結核単独の治療に加えて合併症に対する治療も含めた複合的な治療を必要とする場合も多く、求められる治療形態が多様化、複雑化している。
 また、大都市等の特定地域において、高発病、遅発見、治療中断、伝播高危険等の社会的リスクを同時に有している結核発症率の高い特定住民層に対しても有効な施策が及ぶような体制を構築する必要がある。
 そのため、我が国の現在の結核のまん延状況にかんがみて、結核対策の重点を、従来の一律・集団的対応から、発症のリスク等に応じた効率的な健診、初発患者周辺の接触者健診、有症状時の早期受療、結核患者に対する適正な医療の提供、治療完遂に向けた患者支援等きめ細かな個別的対応へと転換していくこととする。さらに、新しい時代の結核対策においては、結核が発生してから防疫措置を講ずる事後対応型行政から、本指針及び予防計画を通じて、平常時より結核の発生及びまん延を防止していくことに重点を置いた事前対応型の行政に転換していく。
 国及び地方公共団体の果たすべき役割
 国及び地方公共団体は、相互に連携を図りつつ、地域の実情に応じた結核の予防に関する施策を講ずるとともに、正しい知識の普及、情報の収集及び分析並びに公表、研究の推進、人材の養成及び資質の向上並びに確保等の結核対策に必要な体制を確保する責務を負う。
 予防計画の作成者たる都道府県と、保健所を設置する市及び特別区及びその他市町村は、相互に連携して結核対策を行う必要がある。特に、大都市を管内に有する都道府県においては、政令指定都市等と連携し、これら地域の状況を踏まえた計画とすべきである。
 保健所は、これまでの結核対策において、求めに応じた市町村への技術支援、定期外健診の実施、結核の診査に関する協議会の運営等による適正医療の普及、訪問等による患者の治療支援、地域への結核に関する情報の発信及び技術支援・指導、届出に基づく発生動向の把握、分析等様々な役割を果たしてきている。都道府県、保健所設置市及び特別区(以下「都道府県等」という。)は、今後も公的関与の優先度を考慮して業務の重点化や効率化を行うとともに、公衆衛生対策上の重要な拠点であることにかんがみ、結核対策の技術的拠点としての保健所の位置付けを明確にすべきである。
 都道府県等は、学校や職場等と居住地を管轄する都道府県等が異なる者の結核発症による集団感染事例等、複数の都道府県等にわたって結核のまん延のおそれがあるときには、近隣の都道府県等や、患者の移動に関して関係の深い都道府県等と相互に協力しながら結核対策を行う必要がある。また、このような場合に備えるため、国と連携を図りながらこれらの都道府県等との協力体制についてあらかじめ協議をしておくことが望ましい。
 国民の果たすべき役割
 国民は、結核に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うとともに、特に有症状時には、早期に適正な治療を受ける機会を逃すことがないように、早期に医療機関を受診する等の適切な行動をとるよう努めなければならない。また、結核の患者について、偏見や差別をもって患者の人権を損なわないようにしなければならない。
 医師等の果たすべき役割
 医師その他の医療関係者は、三に定める国民の果たすべき役割に加え、医療関係者の立場で国及び地方公共団体の施策に協力するとともに結核患者等が置かれている状況を深く認識し、良質かつ適正な医療を提供するよう努めなければならない。
 医療機関における、結核の合併率が高い疾患を有する患者等(後天性免疫不全症候群、じん肺、糖尿病、人工透析中等の患者、免疫抑制剤使用下の患者等)の管理に当たっては、必要に応じて結核発症の有無を調べ、必要と認める場合は積極的な発病予防治療の実施に努める必要がある。
 人権への配慮
 結核の予防と患者の人権の尊重の両立を基本とする観点から、すべての国民は、患者の個人の意思や人権に配慮し、一人一人が安心して社会生活を続けながら良質かつ適正な医療を受けられるような環境の整備に努める必要がある。
 国及び地方公共団体は、結核に関する個人情報の保護には十分留意することとする。また、結核患者に対する差別や偏見の解消のため、あらゆる機会を通じて正しい知識の普及啓発に努めることとする。
 結核対策における国際協力
 国等においては、結核対策に関して、海外の政府機関、研究機関、世界保健機関等の国際機関等との情報交換や国際的取組への協力を進めるとともに、結核に関する研究や人材養成においても国際的協力を行うこととする。
 具体的な目標
 国においては、上記の考え方を基に、本指針を策定・公表するとともに、二千十年(平成二十二年)までに、喀痰塗抹陽性肺結核患者に対する直接服薬確認治療率九十五パーセント、治療失敗・脱落率五パーセント以下、人口十万人対り患率十八を目指すこととする。
 予防計画を策定するに当たっての留意点
 予防計画は、法第三条の四第六項の趣旨に照らし、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第十条の規定による感染症の予防のための施策の実施に関する計画と一体のものとして定めることが適当である。
 予防計画が、都道府県行政施策の基礎として十分に機能するためには、結核患者の発生数、入院患者数の動向等を把握した上で策定することが必要であり、予防計画が都道府県民の福利に合致したものであること、疫学的特徴や科学的根拠に基づく合理的なものであること、かつ実効性の高いものであることが要求される。予防計画は、当該都道府県の公衆衛生行政上の結核対策の位置づけと優先課題を明確にした上で、結核対策の目標を明示することが望ましい。そして、その目標を達成するための戦略と、当該計画の進捗状況の評価について記述することが望ましい。

第二 結核の予防のための施策に関する事項
 結核の予防のための施策に関する考え方
 結核予防対策においては、事前対応型行政の体制の下、国及び地方公共団体が具体的な結核対策を企画、立案、実施及び評価していくことが重要である。
 定期健診
 かつて、我が国において結核が高度にまん延していた時代においては、定期健診を幅広く実施することは、結核患者発見の効率的な方法であったが、り患率の低下等結核を取り巻く状況の変化を受けて、現在定期健診によって患者が発見される割合は極端に低下しており、公衆衛生上の結核対策における定期健診の政策的有効性は低下してきている。
 一方、高齢者、地域の実情に応じた疫学的な解析により結核発病の危険が高いとされる住民層、発病すると二次感染を起こしやすい職業等に就労している者等、定期健診の実施が政策上有効かつ合理的であると認められる対象については、重点的な健診の実施が重要であるとの認識の下、健診受診率の向上を目指すこととする。
 学校、社会福祉施設等、従事者に対する健診が義務付けられている施設のみならず、学習塾等の集団感染を防止する要請の高い事業所の従事者についても、有症状時の早期受療の勧奨並びに必要に応じた定期健診の実施等施設内感染対策を講ずるよう周知等を行うこととする。また、病院(精神科病院を含む。)、老人保健施設等(以下「病院等」という。)の医学的管理下にある施設に収容されている者についても、必要に応じた定期健診の実施を行うことが適当である。
 予防計画の中に、市町村の意見を踏まえ、り患率等の地域事情に応じ、定期健診の対象について定めることが重要である。市町村が定期健診の対象者を定める際には、患者発見率〇・〇二から〇・〇四パーセントを、参酌することが勧奨される。
 市町村は、医療を受けていないじん肺患者等に対しては結核発症のリスクに関する普及啓発とともに、健診受診の勧奨に努めるべきである。
 結核の高まん延地域にある市町村は、その実情に応じて当該地域において結核の発症率が高い住民層(例えば住所不定者、職場での健康管理が十分とはいえない労働者、高まん延地域からの入国者等が想定される。)に対する定期健診その他の結核対策を総合的に講ずる必要がある。
 外国人の結核患者の発生が多い地域においては、保健所等の窓口に我が国の結核対策を外国語で説明したパンフレットを備えておく等の取組を行うことが重要である。また、地域における外国人の結核の発生動向に照らし、市町村が特に必要と認める場合には、外国人に対する定期健診体制に特別の配慮が必要である。その際、人権の保護には十分に配慮するべきである。
 健診の手法として、寝たきりや胸郭の変形等の事情によって胸部エックス線検査による診断が困難な場合、過去の結核病巣の存在により現時点での結核の活動性評価が困難な場合等においては、積極的に喀痰検査(特に塗抹陽性の有無の精査)を活用することが望ましい。
 定期外健診
 定期外健診は、結核の予防上特に必要があると認めるときに、結核にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者について結核感染又は発病の有無を調べるための健診である。これまで患者の診断を行った医師等の協力を得つつ、一般的に保健所等における業務として実施されてきたもので、結核対策において重要な位置を占めるものである。
 都道府県等が定期外健診を行う場合にあっては、健診を実施することとなる保健所等の機関において、関係者の理解と協力を得つつ、関係機関と密接な連携を図ることにより、感染源及び感染経路の究明を迅速に進めていくことが重要である。この際、特に集団感染につながる可能性のある初発患者の発生に際しては、綿密で積極的な対応が必要である。また、感染の場が複数の都道府県にわたる場合は、関係する都道府県間又は保健所間の密接な連携の下、定期外健診が即時強制によって担保されていることにかんがみ、健診の対象者を適切に選定する必要がある。
 結核患者の発生に際しては、都道府県は定期外健診の対象者を適切に選定し、定期外健診が即時強制に担保されていることにかんがみ、必要合理的な範囲について実施することが望ましく、健診の勧告等については、結核の予防上特に必要があると認めるときに結核の感染経路その他の事情を十分に考慮した上で、結核に感染していると疑うに足りる正当な理由のある者を対象とすべきである。
 BCG接種
 予防接種は、感染源対策、感染経路対策及び感受性対策からなる感染症予防対策の中で、主として感受性対策を受け持つ重要なものである。そのため、結核対策においても、BCG接種に関する正しい知識の普及を進め、接種の意義について国民の理解を得るとともに、法によるBCG接種の機会が乳児期に一度のみであることにかんがみ市町村(特別区を含む。以下同じ。)においては、適切に実施することが重要である。
 市町村は、地域の医師会や近隣の市町村等と十分な連携を行い、乳児健診との同時実施、個別接種の推進、近隣市町村住民への接種の場所の提供その他対象者が接種を円滑に受けられるような環境の確保を地域の実情に応じて行い、もってBCGの接種率の目標値を生後六か月時点で九十パーセント、一歳時点で九十五パーセントとする。
 BCGを接種して数日後、一過性の局所反応(コッホ現象)を来した場合には、被接種者が結核に感染している可能性がある。コッホ現象が出現した際の対応については、被接種者が市町村に報告するように周知するとともに、その同意を得て、市町村から保健所に必要な情報提供をすることが望ましい。また、医療機関の受診を勧奨する等当該被接種者が必要な検査等を受けられるようにすることが適当である。
 結核に関する情報収集
 国及び都道府県等は、結核に関する情報の収集、分析及び公表を進めるとともに、海外の結核発生情報の収集については、関係各機関との連携のもとに進めていくことが重要である。
 予防計画を策定するに当たっての留意点
 予防計画において、地域の実情に即した結核予防のための施策に関する事項を定めるに当たっては、一から五までに定める事項を踏まえるとともに、特に次に掲げる事項について規定することが望ましい。
 結核予防のための施策の考え方の整理
 定期健診・定期外健診の対象選定等の実施に関する事項
 BCG接種率及び接種技術の向上に関する事項
 都道府県等及び保健所の役割に関する事項

第三 結核の患者に対する適正な医療の提供のための施策に関する事項
 結核に係る医療提供の考え方
 結核患者に対して、早期に適正な医療を提供し、疾患を治癒させること及び周囲への結核のまん延を防止することを結核に係る医療提供に関する施策の基本とする。
 結核の治療に当たっては、適正な医療が提供されない場合、疾患の治癒が阻害されるのみならず、治療が困難な多剤耐性結核の発生に至る可能性がある。このため、適正な医療が提供されることは、公衆衛生上も極めて重要であり、適正な結核医療につき医療機関への周知を行う必要がある。
 医療現場においては、結核に係る医療は特殊なものではなく、まん延防止を担保しながら一般の医療の延長線上で行われるべきであるとの認識の下、良質かつ適切な医療の提供が行われるべきである。このため、指定医療機関においては、結核患者に対して、特に隔離の必要な期間は、結核のまん延の防止のための措置をとった上で、患者の負う心理的重圧にも配慮しつつ、療養のために必要な対応を心がけるとともに、隔離が不要な結核患者に対しては、結核以外の患者と同様の療養環境において医療を提供する必要がある。また、患者に薬物療法を含めた治療の必要性について十分に説明し、理解及び同意を得て治療を行うことが重要である。
 結核の治療を行う上での服薬確認の位置付け
 世界保健機関は、結核の早期制圧を目指して、直接服薬確認を基本とした包括的な治療戦略(ドッツ戦略)を提唱しており、現在までに世界各地でこの戦略の有効性が証明されている。我が国においても、これまで成果をあげてきた結核医療の供給基盤等を有効に活用しつつ、服薬指導を軸とした患者支援、治療成績の評価等を含む包括的な結核対策を構築し、人権に配慮しながら、これを推進することとする。
 国及び地方公共団体においては、服薬確認を軸とした患者支援を全国的に普及・推進していくに当たっては、先進的な地域における取組みも参考にしつつ、保健所、医療機関、福祉部局、薬局等の関係機関との連携、保健師、看護師、薬剤師等の複数職種の連携により、積極的な活動が実施されるよう、適切に評価及び技術的助言を行うこととする。
 保健所においては、地域の医療機関、薬局等との連携のもとに服薬確認を軸とした患者支援を実施するため、積極的に調整を行うとともに、地域の状況を勘案し、特に外来での直接服薬確認が必要な場合には、保健所自らも直接服薬確認を軸とした患者支援の拠点として直接服薬確認の場を提供することも検討すべきである。
 医師等及び保健所長は、結核の治療の基本は薬物治療の完遂であることを理解し、患者に対し服薬確認に対する説明を行い、患者の十分な同意を得た上で、入院中はもとより、退院後も治療が確実に継続されるよう、医療機関等と保健所等が連携して、人権に配慮しながら、服薬確認を軸とした患者支援を実施できる体制を構築することが重要である。
 その他結核に係る医療の提供のための体制
 結核患者に係る医療は、結核指定医療機関のみで提供されるものではなく、一般医療機関においても提供されることがあることに留意する必要がある。すなわち、結核の患者であっても、最初に診察を受ける医療機関は、多くの場合一般の医療機関であるため、一般の医療機関においても、国及び都道府県等から公表された結核に関する情報について積極的に把握し、同時に医療機関内において結核のまん延の防止のために必要な措置を講ずることが重要である。
 結核指定医療機関においては、重篤な他疾患合併患者等については一般病床等において結核治療が行われることもあり、また結核病床と一般病床を一つの看護単位として治療にあたる場合もあることから、国の定める施設基準・診療機能の基準等に基づき、適切な医療提供体制を維持・構築することとする。
 医療機関・民間の検査機関においては、外部機関による系統的な精度管理体制を築くこと等により、結核患者の診断のための結核菌検査の精度を適正に保つ必要がある。
 一般の医療機関における結核患者への適正な医療の提供が確保されるよう、都道府県等においては、医療関係団体と緊密な連携を図ることが重要である。
 障害等により行動制限のある高齢者等の治療について、患者の日常生活にかんがみ、接触範囲等が非常に限られる場合においては、適宜入院治療以外の医療の提供についても検討すべきである。
 予防計画を策定するに当たっての留意点
 予防計画において、地域における結核に係る医療を提供する体制の確保に関する事項を定めるに当たっては、一から三までに定める事項を踏まえるとともに、特に、次に掲げる事項について規定することが望ましい。
 結核に係る医療の提供の考え方
 当該都道府県の実情に合った、服薬確認を軸とした患者支援の実施方法に関する事項
 平時及び患者発生後の対応時における一般の医療機関における結核の患者に対する医療の提供に関する事項
 医療機関等と保健所の連携に関する事項

第四 結核に関する研究の推進に関する事項
 結核に関する調査及び研究に関する基本的な考え方
 結核対策は、科学的な知見に基づいて推進すべきであることから、結核に関する調査及び研究は、結核対策の基本となるべきものである。このため、国としても、必要な調査及び研究の方向性の提示、海外の研究機関等も含めた関係機関との連携の確保、調査及び研究に携わる人材の育成等の取組を通じて、調査及び研究を積極的に推進することとする。
 結核発生動向調査体制等の充実強化
 結核の発生状況は結核予防法による届出や入退院報告、医療費公費負担申請書等を基にした発生動向調査により把握されている。結核の発生動向情報は、まん延状況の監視情報のほか、発見方法、発見の遅れ、診断の質、治療の内容や成功率、入院期間等結核対策評価に関する重要な情報を含むものであるため、都道府県等は、都道府県結核サーベイランス委員会の定期的な開催や、発生動向調査のデータ処理に従事する職員の研修等を通じて、その精度の向上に努める必要がある。
 国における結核に関する調査及び研究の推進
 国は、全国規模の調査や高度な検査技術等を必要とする研究、結核菌等を迅速かつ簡便に検出する検査法の開発のための研究、多剤耐性結核の治療法等の開発のための研究等の結核対策に直接結びつく応用研究を推進し、海外及び民間との積極的な連携や地方公共団体における調査及び研究の支援を進めることとする。
 地方公共団体における調査及び研究の推進
 地方公共団体における調査及び研究の推進に当たっては、保健所と都道府県等の関係部局が連携を図りつつ、計画的に取り組むことが重要である。また、保健所においては、地域における結核対策の中核的機関との位置付けから、結核対策に必要な疫学的な調査及び研究を進め、地域の結核対策の質の向上に努めるとともに、地域における総合的な結核の情報の発信拠点としての役割を果たしていくことが重要である。

第五 結核に係る医療のための医薬品の研究開発の推進に関する事項
 結核に係る医療のための医薬品の研究開発の推進に関する考え方
 抗菌薬等の結核に係る医薬品は、結核の予防や結核患者に対する適正な医療を提供する上で不可欠なものであり、これらの研究開発は、国と民間が相互に連携を図って進めていくことが重要である。
 このため、国においては、結核に係る必要な医薬品に関する研究開発を推進していくとともに、民間においてもこのような医薬品の研究開発が適切に推進されるよう必要な支援を行うこととする。
 国における研究開発の推進
 国においては、資金力や技術力の面で民間では研究開発が困難な医薬品等について、必要な支援に努めることとする。特に、現状では治療が困難な多剤耐性結核患者の治療法等新たな抗結核薬の開発についても、引き続き調査研究に取り組んでいくこととする。
 なお、これらの研究開発に当たっては、研究開発に係る抗菌薬等の副作用の減少等、安全性の向上にも配慮することとする。
 民間における研究開発の推進
 医薬品の研究開発は、結核の予防及びそのまん延防止に資するものであるとの観点から、製薬企業等においても、その能力に応じて推進されることが望ましい。

第六 結核の予防に関する人材の養成に関する事項
 人材の養成に関する基本的な考え方
 結核患者の七割以上が医療機関の受診で発見されている一方で、結核に関する知見を十分に有する医師が少なくなっている現状を踏まえ、結核の早期の確実な診断のために、国及び都道府県等は、結核に関する幅広い知識や研究成果の医療現場への普及等の役割を担うことができる人材の養成を行うこととする。また、大学医学部をはじめとする、医師等の医療関係職種の養成課程等においても、結核に関する教育等を通じて、医師等の医療従事者の間での結核に関する知識の浸透に努めることが求められる。
 国における結核に関する人材の養成
 国は、結核に関する最新の臨床知識や技能の修得や、新しい結核対策における医療機関の役割について認識を深めることを目的として、結核指定医療機関の医師はもとより、一般の医療機関の医師、薬剤師、診療放射線技師、保健師、助産師、看護師、准看護師、臨床検査技師等に対する研修に関しても必要な支援を行っていくこととする。
 国は、結核行政の第一線に立つ職員の資質を向上し、結核対策を効果的に進めていくため、保健所及び地方衛生研究所等の職員に対する研修の支援に関して、検討を加えつつ適切に行っていくこととする。
 都道府県等における結核に関する人材の養成
 都道府県等は、結核に関する研修会に保健所及び地方衛生研究所職員等を積極的に派遣するとともに、都道府県等が結核に関する講習会等を開催すること等により保健所の職員等に対する研修の充実を図ること、及びこれらにより得られた結核に関する知見を保健所等において活用することが重要である。また、結核指定医療機関においては、その勤務する医師の能力の向上のための研修等を実施するとともに、医師会等の医療関係団体においては、会員等に対して結核に関する情報提供及び研修を行うことが重要である。
 予防計画を策定するに当たっての留意点
 予防計画において地域の実情に即した人材の養成に関する事項を定めるに当たっては、一から三までの事項を踏まえるとともに、特に、次に掲げる事項について規定することが望ましい。
 国及び都道府県が行う研修への保健所等の職員の参加に係る計画に関する事項
 研修により得られた知見の活用に係る計画に関する事項

第七 結核に関する啓発及び知識の普及並びに結核患者等の人権の配慮に関する事項
 結核に関する啓発及び知識の普及並びに結核の患者等の人権の配慮に関する基本的な考え方
 国及び地方公共団体においては、結核に関する適切な情報の公表、正しい知識の普及等を行うことが重要である。また、結核のまん延の防止のための措置を行うに当たっては、人権への配慮に留意することとする。
 保健所においては、地域における結核対策の中核的機関として、結核についての情報提供、相談等を行う必要がある。
 医師その他の医療関係者においては、患者等への十分な説明と同意に基づいた医療を提供することが重要である。
 国民においては、結核について正しい知識を持ち、自らが感染予防に努めるとともに、結核患者が差別や偏見を受けることがないよう配慮することが重要である。

第八 その他結核の予防の推進に関する重要事項
 施設内(院内)感染の防止
 病院等の医療機関においては、適切な医学的管理下にあるものの、その性質上患者、従事者とも結核感染の機会が潜んでおり、かつ実際の感染事例も少なくないという現状にかんがみ、院内感染対策委員会等を中心に院内感染の防止に努めることが重要である。また、実際に行っている対策に関する情報について、都道府県等や他の施設に提供することにより、その共有化を図ることが望ましい。
 学校、社会福祉施設、学習塾等において結核が発生又はまん延しないよう、都道府県等にあっては、施設内感染の予防に関する最新の医学的知見等を踏まえた情報をこれらの施設の管理者に適切に提供することが重要である。
 都道府県等は、結核の発生及びまん延防止を目的に、施設内(院内)感染に関する情報や研究の成果を、医師会等の関係団体等の協力を得つつ、病院等、学校、社会福祉施設、学習塾等の関係者に普及していくことが重要である。また、これらの施設の管理者にあっては、提供された情報に基づき必要な措置を講ずるとともに、平素からの施設内(院内)の患者及び職員の健康管理等により、患者が早期に発見されるように努めることが重要である。外来患者やデイケア等を利用する通所者に対しても、十分な配慮がなされることが望ましい。
 小児結核対策
 結核感染危険率の減少を反映して、小児結核においても著しい改善が認められているが、迅速な接触者健診の実施、化学予防の徹底、結核診断能力の向上、小児結核発生動向調査の充実を図ることが適当である。
 世界保健機関等への協力
 アフリカやアジア地域においては後天性免疫不全症候群の流行の影響や対策の失敗からくる多剤耐性結核の増加等により、現在もなお結核対策が政策上重要な位置を占めている国及び地域が多い。世界保健機関等と協力し、これらの国の結核対策を推進することは、国際保健水準の向上に貢献するのみならず、在日外国人の結核り患率低下にも寄与することから、わが国の結核対策の延長上の問題として捉えられるものである。したがって、国は世界保健機関等と連携しながら、国際的な取組を積極的に行っていくこととする。
 国は政府開発援助による二国間協力事業により、途上国の結核対策のための人材の養成や研究の推進を図るとともに、これらの国との研究協力の構築や情報の共有に努めることとする。


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