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第1回
資料5

最低賃金制度の概要


 制度の趣旨・目的
 最低賃金制度とは、一般に国が法的強制力をもって賃金の最低額を定め、使用者は、その金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度をいう。
 最低賃金法(以下「法」という。)は、目的を「賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と規定している(第1条)。

 最低賃金の決定方式と設定方式
 我が国の最低賃金制度を決定方式で分類すると、(1)最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金(法第16条。「審議会方式」)と、(2)一定の地域内の同種の労働者を対象とする労働協約を拡張適用する最低賃金(法第11条。「労働協約拡張方式」)の2つがある。

 (1) 最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金(審議会方式、設定件数 296件)
 厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、必要があると認めるときに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会に調査審議を求め、その意見を聴いて決定する最低賃金。
 さらに、設定方式で分類すると、地域別、事業別(産業別)、職種別の3つがあるが、現在設定されているものは、(1)地域別最低賃金と(2)産業別最低賃金の2つである。

  (1)地域別最低賃金
(設定件数47件、 適用労働者数約5,000万人、 加重平均額664円)
 地域別最低賃金は、各都道府県ごとに1件「○○県最低賃金」の名称で決定され、産業や職種を問わず、原則として、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者と労働者を1人でも使用しているすべての使用者に適用される。

  (2)産業別最低賃金
(設定件数249件、 適用労働者数約400万人、 加重平均額756円)
 産業別最低賃金は、「○○県○○業最低賃金」の名称で、その都道府県内の特定の産業について決定されているものがほとんどで(248件)、その他「全国○○業最低賃金」の名称で全国を適用地域として特定の産業について決定されているものが1件ある。
 また、産業別最低賃金は、昭和56年7月29日及び昭和61年2月14日の中央最低賃金審議会の答申において、関係労使が労働条件の向上又は事業の公正競争の確保の観点から地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金が必要と認めたものについて、設定することとされた。(「新産業別最低賃金」(246件))
 なお、それ以前の「旧産業別最低賃金」については、新産業別最低賃金に転換したもの以外は、平成元年度以降改正を行わないこととされ、地域別最低賃金の金額水準を下回った段階で、随時廃止され、現在は3件が残っているのみである。

 (2) 「労働協約拡張方式」に基づく最低賃金(法第11条)
(設定件数2件、適用労働者数約500人、 加重平均額868円)
一定の地域内の同種の労働者及びその使用者の大部分(2/3程度)に賃金の最低額に関する労働協約が適用されている場合で、
労働協約の締結当事者である労働組合又は使用者の全部の合意による申請があったときに、
厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、最低賃金審議会の意見を聴いて、当該労働協約に基づき、労働協約当事者以外のアウトサイダーも含めた同種の労働者及びその使用者の全部に適用する最低賃金として決定するもの。

 最低賃金の決定基準
 最低賃金は、(1)労働者の生計費、(2)類似の労働者の賃金、(3)通常の事業の支払能力の3要素を総合的に勘案して定めるものとされている(法第3条)。

 最低賃金額の改定
 地域別最低賃金については、昭和53年度から、全国的な整合性を図るため、毎年、中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対し金額改定のための引上げ額の目安が提示され、地方最低賃金審議会では、その目安を参考にしながら地域の実情に応じた地域別最低賃金額の改正のための審議を行っている。
 産業別最低賃金は、労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者の申出(法第16条の4)に基づき最低賃金審議会が必要と認めた場合に、最低賃金審議会の調査審議を経て改正される。

 最低賃金の対象となる賃金
 最低賃金の対象となる賃金は、最低賃金の実質的な効果を確保するために、毎月支払われる基本的な賃金に限定されており、具体的には、以下の賃金は最低賃金の対象外とされている(法第5条第3項、最低賃金法施行規則(以下「則」という。)第2条)。
  (1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  (2) 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  (3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
  (4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
  (5) 深夜(午後10時から午前5時までの間の)労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
  (6) 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金(現行最低賃金はいずれも精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を算入しないことと定めている。)
 最低賃金の表示単位
 現行の最低賃金は、すべての地域別最低賃金及びほとんどの産業別最低賃金については時間額のみで決定されており、これらの最低賃金が適用される労働者については、すべての労働者に最低賃金の時間額が適用されることとされている(ただし、一部の産業別最低賃金については従前どおり日額と時間額の両方で決定されており、これらの産業別最低賃金が適用される労働者については、最低賃金の時間額は賃金の大部分が時間給制の労働者に、最低賃金の日額は時間給制以外の日給制、月額制等の労働者にそれぞれ適用される。)。
 したがって、実際に支払われる賃金額が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、5に記載した家族手当等の除外賃金を差し引いた後の賃金額と適用される最低賃金額とを賃金支払形態に応じて、次に掲げる方法で比較することとしている(則第3条)。
  (1)時間給制の場合・・・時間給≧最低賃金(時間額)
  (2)日給制の場合 ・・・日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金(時間額)
(産業別最低賃金の日額が適用される場合には、日給≧最低賃金の日額)
  (3)月給制等の場合・・・賃金額を「時間当たりの金額」に換算して最低賃金(時間額)と比較する。
  (産業別最低賃金の日額が適用される場合には、賃金額と最低賃金の日額のそれぞれを「時間当たりの金額」に換算して比較する。)

 最低賃金の適用対象となる労働者及び使用者
 現行の最低賃金は、原則として、事業場で働く常用・臨時・パートタイマーなどすべての労働者と、労働者を1人でも使用しているすべての使用者に適用される。
 一方、一般の労働者と労働能力などが異なるため最低賃金を一律に適用することが必ずしも適当でない者については、都道府県労働局長の許可を条件として個別に適用除外が認められている(法第8条、則第4条)。
 適用除外の対象となる労働者は、次のとおりである。
  (1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
  (2) 試の使用期間中の者
  (3) 職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうち一定の者
  (4) 所定労働時間の特に短い者
  (5) 軽易な業務に従事する者
  (6) 断続的労働に従事する者

 最低賃金の効力
 (1) 刑事的効力
 使用者は、労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない(法第5条第1項)。
 実際に最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合には、法第5条第1項違反として、2万円以下の罰金に処せられる(法第44条。罰金等臨時措置法第2条)。

 (2) 民事的効力
 最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約の規定は無効とされ、無効とされた部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(法第5条第2項)。

 (3) 最低賃金の競合
 労働者が、2つ以上の最低賃金の適用を受ける場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものによる(法第7条)。


参考1:最低賃金の決定・設定方式別決定手続の概要


図
(1) 最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金
 イ 地域別最低賃金

図

 ロ 新産業別最低賃金

図

(2) 「労働協約拡張方式」に基づく最低賃金

図


参考2:最低賃金額の改定の流れ

中央最賃審議会
<目安審議>

図






















※時期は概ね平成15年
  審議のものである
地方最賃審議会
<地域別最賃審議>

図
地方最賃審議会
<産別最賃審議>

図


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