04/07/09 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会第4回議事録       第4回 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会                       日時 平成16年7月9日(金)                          13:30〜16:30                       場所 厚生労働省6階共用第8会議室                    (照会先)厚生労働省労働基準局安全衛生部                                労働衛生課健康班                         TEL03−5253−1111                                 (内5492) ○和田座長  定刻になりましたので、「第4回過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討 会」を開催いたします。本日は中嶋委員が所用により欠席されています。なお、本日は これまでの議論を踏まえ、そろそろ取りまとめをしていきたいと思っております。まず、 これまでの議論やヒヤリングなどを踏まえ、今回の議論の参考となる資料について事務 局に揃えていただきましたので、事務局から資料確認と説明をお願いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  資料説明の前に、厚生労働省の中で人事異動があり、労働衛生課の主任じん肺診査医 が山崎から土屋に代わりましたので、ご紹介させていただきます。 ○主任中央じん肺診査医  土屋と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  本日の資料はNo.1〜No.4まであります。資料No.1は企業関係者からのヒヤリング 概要、資料No.2は議論のまとめ、資料No.3は疫学調査の概要、資料No.4は疲労度の チェックリストです。  まず資料No.1です。第2回、第3回の検討会において企業関係者等からヒヤリング を実施いたしました。これは検討会の皆様方ご出席ですので、内容はご承知のとおりで すが、産業医の方2人、人事労務関係の方1人、地域産業保健センターの登録医の方1 人、計4名の方からお話を聞きました。概要についてはメンタルヘルス対策の状況、取 組みのポイントの形で、メンタルヘルス対策、過重労働対策、それぞれについてお聞き いたしました。地産保の方からは、小規模事業場における状況について伺いました。内 容については、お手元の資料を拝見いただくということで省略させていただきます。  資料No.2は、「過重労働・メンタルヘルス対策検討会議論のまとめ(案)」です。 これまで事務局から提出した資料、あるいは、この検討会で議論いただいたことをベー スとして、このような形でまとめました。これについては、後ほど検討いただければと 思っておりますので、内容の紹介は省略させていただきます。  資料No.3は、「脳・心臓疾患の発症と睡眠時間に関する疫学調査の概要」で、2002 年以降のものです。これは和田座長からその後の疫学調査の研究結果として2つほどあ るというお話がありましたが、それを付けております。本文は3枚目以降で、英文とな っております。最初の2枚の所に概要をまとめております。  最初のものは、アメリカで女性の保健医療職の方を対象に行われた調査です。睡眠時 間と冠動脈疾患の発症リスクの関係について調査を行ったということです。3つ目の○ の「結果」を見ますと、毎日8時間の睡眠をとっている対象者群に比べ、CHD(冠動 脈疾患)の年齢調整後の相対危険度は、5時間以下、6時間、7時間の群では、それぞ れ1.82、1.30、1.06であったということで、睡眠時間が短いほど相対的な危険度は高 まっているという結果が出ています。結論として、短い睡眠時間、長い睡眠時間は有意 に冠状動脈疾患の発生リスクの増加に関係しているという結論になっております。  2枚目は我が国における研究です。労働時間及び睡眠時間と急性心筋梗塞との関係に ついて評価したものです。最後の○の「結果」を見ると、週60時間以上の労働は週40時 間以下の労働に対し、2倍のリスク増加を認めるとともに、過去1カ月と同様、過去1 年についても、1週間の労働時間は、AMIのオッズ比の増加に累進的に関係していた、 短時間睡眠と頻繁な睡眠不足についても2、3倍のリスクの増加を認めたということで、 結論として、時間外労働と睡眠不足はAMIのリスクの増加に関係する可能性があると いう形になっております。  資料No.4は、「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」です。この検討会でも昨年6 月に公表したチェックリストを資料としてお配りしておりますが、先日、6月30日に疲 労蓄積度チェックリストの修正したものを公表いたしました。内容については表の1枚 紙に書いてあるよう、昨年出したものをさらに検討し、修正をして出したものです。ま た、これと併せて「家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト」、家族の方が、そ の家族である労働者の様子を見てチェックをし、問題があれば対応していただくという 趣旨でまとめたチェックリストですが、こういうものを公表しました。参考までに提出 いたしました。資料説明は以上です。 ○和田座長  私が出しました2つの論文は、認定基準の検討をしたときに13ぐらい睡眠との関係の 論文がありましたが、その後は、この3つが一応出たということです。いまご説明があ りました、例えば初めのAyasらの論文、表2(208頁)を見ていただければ分かります が、年齢を調整すると5時間以下と6時間に有意性が出ていますが、すべての因子、糖 尿病、高血圧、コレステロール、肥満をアジャストしますと5時間以下のものだけは有 意性があったということです。  ただいまのご説明につきまして、何かご意見とか、ご質問ありますでしょうか。特に ないようですので、本日の資料No.2の議論のまとめをたたき台として、この資料の項 目に沿い、具体的に議論を進めたいと思います。事務局から読み上げていただき、その 後、ご意見などをいただきたいと思います。なお、個々について十分検討させていただ くために、区切って検討していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。  では、第1の「労働者の健康に関する現状と課題」について、お願いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  お手元の資料に沿い読み上げます。  1 労働者の健康に関する現状と課題。(1)労働者を取り巻く状況。経済の成熟化 に伴う成長率の低下、経済のサービス化やホワイトカラー化の進展等の構造変化が進展 している。企業間競争の激化、成果主義の拡大等により労働者への負荷は拡大する方向 にある。職場や仕事に関して悩み、ストレス等を感じる労働者は6割以上である。  一般健康診断の結果、5割近い労働者に何らかの所見が見られ、中でも高脂血症、高 血圧症等の生活習慣病に関連する所見を有する者が多い。「過労死」の労災認定件数は 年百数十名と高水準で推移しており、精神障害等の労災認定件数は増加している。過労 死等に係る事業者の安全配慮義務については、判例が積み重ねられている。  このような状況の下、労働者の健康確保対策の充実が求められている。  ここに書き落としたといいますか、併せてご検討いただければと考えている事項があ ります。昨今、いわゆるCSRと呼ばれる企業の社会的責任がかなり重要視されており ます。そういう中で、労働者が健康で安全に働くことができる環境整備をするというこ とも企業の社会的責任の1つであるということもあり、そういう要素もこの中に入れて はどうかと考えております。この点、漏れておりましたので、議論をいただいて、もし、 そういうことであるということであれば、最終的にこの中に反映させたいと考えており ます。  (2)過重労働による健康障害に関する現状と課題。所定外労働時間が近年横ばいか ら若干増加の傾向にある。現在の医学的知見において月100時間(または2〜6か月の 平均で80時間)を超える時間外労働に継続して従事した場合には、業務と脳・心臓疾患 発症との関連性が強いものと考えられている。「過労死」等の労災認定事案を見ると、 健康診断を受診していない事例などが見受けられる一方で、定期健康診断では異常が認 められないにもかかわらず健康状態が悪化して脳・心臓疾患の発症に至った事例も数多 く認められるなど、従来からの健康管理手法のみでは十分な対応が困難と考えられる。  総合対策に基づく過重労働対策を実施している事業場では、労働時間の削減等一定の 対策効果が認められるが、こうした対策を実施していない事業場も少なくない。過重労 働による健康障害を防止するためには、全ての事業場で適切な健康障害防止措置が講じ られるよう必要な施策を検討する必要がある。  以上のようなことから、過労死等の防止のため取組みの強化の必要性がある。  (3)職場における心の健康に関する現状と課題。精神障害等に関する労災認定事案 は近年増加している。精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると長 時間となっているケースが多い。事業場における過重労働対策の調査結果を見ると、過 重労働者の医療機関への紹介状況において抑うつ状態の者が過半数を占めていた。  精神障害による自殺の労災認定事案のうち、4分の3が発病から死亡までに2カ月以 上の期間があるため、この間に介入の可能性があると考えられる。また、自殺企図患者 における自殺企図の兆候について、職場で気付いたものはほとんどいないのに対し、家 族が気付いているケースは少なくない。心の健康づくりへの取組みを実施している事業 場は23.5%と、未だ低い状況にある。  以上のようなことから、自殺予防を含めメンタルヘルス対策の取組みの強化の必要性 がある。 ○和田座長  ここまでに区切ってご意見をいただきたいと思います。コメントがありました「社会 的責任」という言葉ですが、もっと厳しく言うと「社会的制裁」ということになります が、それは安全配慮義務との関係で生じてくると思います。もう少し前向きに「社会的 な責任」と最近は言うようになってきましたので、そういう点から考えても、きちんと 対策を立ててほしいということを入れたいということです。  (2)のいちばん初めの所の「月100時間〔または2〜6か月の平均で80時間〕」と。 バンケットに入れたのは、1つは認定基準のときは両方を一応取ったわけです。先ほど の文献で見るように、最近は睡眠時間5時間以下というのが非常に重視されています。 睡眠時間5時間というのは月100時間に相当するということです。特に100時間を少し強 調したいという意味があって、そのバンケットのところを取るか入れるかと少し迷った ところです。後でまた出てくると思いますが、できれば5時間以上の時間外労働は極力 避けてほしいということであります。 ○西村委員  (2)の2の段落の「過労死等の労災認定事案云々」ときまして、「健康状態が悪化 して脳心臓疾患の発症に至った事例も数多く」とあります。これをきちんと裏付けるデ ータベースのようなものはないと思います。一部の例は検討しましたが、文書のニュア ンスとして、どちらが良いのかを見ると、これでは、「定期診断で異常を認められない にもかかわらず云々」の人が多いような印象にもなりかねないと思います。  あと、いちばん気になるのは「健康状態が悪化して」という言葉が正しいのかどうか。 これは全く前兆なく、突然心臓の疾患を発症されるのが多いですから、「健康状態が悪 化して」という言葉は、ないほうが妥当かなという気がいたします。 ○和田座長  「健康状態が悪化して」と、その後の「数多く」を取ったほうがいいですね。それで も意味は通じますね。  ここは「現状と課題」ということで、現状でも問題はありますよと一応示したわけで、 基本的にはそんなに問題ないと思いますが、よろしいでしょうか。  では、2の「基本的な考え方」に移りたいと思います。 ○主任中央労働衛生専門官  では読み上げます。  2 基本的考え方。(1)対策の方向。過重労働については、総合対策の確実な実施、 特に適正な労働時間管理を図るとともに、健康診断を軸として健康管理を進めることが 基本であるが、やむを得ず長時間労働になった場合には、それに応じた健康確保のため の措置を講ずる必要がある。  メンタルヘルスについては、4つのケアにより心の健康づくりを進めることが基本で あるが、自殺予防の観点からメンタルヘルス不全に早期に対応できるようにする必要が ある。過重労働による健康障害、メンタルヘルス不全については、いわゆる作業関連疾 患に分類されるものであり、業務上の要因のほか個人の要因がその発症に影響するもの であることから、有害物質による健康障害の防止対策のように、一律に対応することが 困難な面がある。  (2)事業者の責務。過労死等の判例に見られるように、一般的に、事業者には労働 時間管理や労働者の健康状況を把握し、それに応じた適切な措置を講ずる責務があり、 実行する意志を表明し、実行する義務がある。事業者は、健康診断結果、産業医による 職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の 状況を把握し、それに応じて職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間を含む適 切な作業管理等様々な措置を展開することが必要である。  職場のリスク低減を図ることにより、過労死等の労災の防止はもちろん、心と身体の 健康の保持増進、いきいきとした職場づくりが進む。これにより労働者の労働意欲が高 まることが期待できる。  (3)労使による自主的な取組み。過重労働対策、メンタルヘルス対策については、 国が一定の基準を示し、それに沿った措置を実施するばかりでなく、労使一体となった 取組みが必要であり、特に衛生委員会等を活用した労使の自主的取組みが重要である。  (4)労働者自身による取組み。労働者自身が積極的に自己の健康管理を行うことも 大切であり、労働者自身の自主的努力、取組みを促進することも重要である。  (5)産業医等の関与。過重労働対策、メンタルヘルス対策については、医学的知識 を基礎とした健康管理が対策の軸となるものであり、産業医等の医師の適切な関与が重 要である。このため、関係者の教育等により産業保健活動の充実を図ることが必要であ る。業種や事業場規模に関係なく全ての事業場において対策を講ずることが求められる。 産業医の選任義務のない小規模事業場への産業保健サービスの提供のため、地域産業保 健センターが設置されているが、対策の適切な実施のために、この充実を図ることが必 要である。  (6)健康情報の保護。事業場において対策を実施する場合、個人の健康情報の保護 について十分な配慮が必要である。特にメンタルヘルス対策で肝要である。 ○和田座長  ご意見をいただきたいと思います。 ○東委員  「基本的考え方」の「対策の方向」の所の3番目ですが、そこだけが最後に「困難な 面がある」とあります。もしよろしければ、「有害物質による健康障害の防止対策のよ うに」と書いてありますが、「発症に影響するものであることから、個々の事情を配慮 した対応を考える必要がある」と、符丁を合わせてはどうかと思いますが。 ○和田座長  困難だということを否定してしまうというのは、私はちょっと。ここで強調したかっ たのは、1つは「事業者の責務」で、それで「実行する義務」にしたわけです。努力義 務ではなく「義務」ぐらいはあるのではないかということです。事業者は労働時間管理 と健康管理が非常に重要だということです。きちんと管理する義務があるのだというこ とを明示したということです。  もう1つは、(4)の労働者自身も是非頑張ってほしいということも強調したいとい うことです。また、(5)の産業医等の関与で、産業医の責務といいますか、それを少 し強調したような感じがしたのですが。「同じ」以下は、これでは少し弱い感じがしま す。 ○東委員  産業医等の関与については、3行目の「このため関係者の教育等により」と、この関 係者というのは産業医本人に対する教育なのか、その前の人間に対する教育を産業医が 行うべきなのかというところが少し見えにくいのです。これはもともとの趣旨は、どう いう意味なのでしょうか。 ○和田座長  産業医及び医師、産業保健スタッフを含めてでしょう。そのようにしておいたほうが いいですかね。 ○東委員  産業保健関係者、関連職の教育研修等によりと。 ○和田座長  そうですね。 ○安福委員  (3)の労使による自主的な取組みのいちばん最後に、「特に衛生委員会等を活用し た」と書いてありますが、その前の「労使一体の取組みが必要であり」の部所に「特に」 を付けて「衛生委員会等」と書いてありますが、この意味合いというのは。労使一体の 取組みは、この衛生委員会がいちばんのキーになっているということを言われているわ けですね。 ○和田座長  それも1つだと思います、労使両者が出てやっておりますから。やはり、いろいろ労 使で話し合うには衛生委員会がいちばんいいのではないかと思うのです。そういう意味 で、そこで是非、話し合ってくれということなのです。衛生委員会の主要な課題にして ほしいということです。 ○大野委員  先ほどの自殺等、メンタルヘルスに関して家族が気づく場合が多いとありましたが、 家族の参加を促進するようなシステムをどこかに導入する項目は出てくるのでしょうか。 ○和田座長  後で出てきます。 ○主任中央労働衛生専門官  個別の所で出ています。書きぶりについては、またご意見いただければと思います。 ○藤村委員  メンタルヘルス不全という言葉が出ておりますが、メンタルヘルス不全という言葉は あるのでしょうか。腎不全、肝不全、心不全はありますが、これはかなり重症な、時に しては非可逆的な状態を不全と一般的に言っているわけです。そういう言葉は適切なの でしょうか。単なる「障害」としたほうがよろしいのではないでしょうか。 ○和田座長  メンタルイルネスとか、大体そのような言葉を不全ぐらいに訳したりしていますね。 ○大野委員  基本的に「ディスオーダー」を「障害」と訳すことが多いように思います。障害とか メンタルヘルスの不調とかということで。 ○和田座長  完全な精神障害ではなくて、その前の辺りを「不全」と書いてある本がありますね。 言葉としては本などによく出てきています。 ○黒木委員  特定できないですよね。だから、不全を避けて不調という形のほうが最初はいいかも しれないですね。 ○和田座長  メンタル不調とするか。メンタルイルネスというのは少しおかしいでしょうか。 ○大野委員  不調のほうがよろしいのではないでしょうか。可逆的ということと、比較的軽症とい うことを備えていますので。 ○和田座長  「メンタルヘルス不調」ですかね。それともメンタルヘルスの不調」ですかね。正式 には専門の先生に後で教えてもらってください。 ○労働衛生課長  産業医の関与ですが、一方では産業医の責任といいますか、そうした議論が時々聞こ えてくるのですが、その辺について委員の先生方のご意見を聞かせていただければと思 います。 ○和田座長  本当は事業主の責任と同時に産業医の責任もある。そうなるといろいろ問題が出るか なという感じが少ししますが。 ○保原委員  法律上、産業医が直接責任を問われるということは、少なくとも労働法規ではないと 思います。例えば、産業医がもう少し気をつけていれば過労死しなかったのに、という 場合があろうとか思います。しかし、それは労働法上の産業医の責任ではない。結局、 誰をどう働かせるかというのは、基本的には雇い主の責任ですから、産業医が直接責任 を問われることはない。ただ、民事訴訟では、誰が具体的にどういう過失を犯したかと いう具体的判断ですから、それはあり得るということです。今までの判例で産業医が実 際に損害賠償の支払いを命じられた例は非常に少ないです。  私の知っている1つの事件は、ブラジル人の3世、4世をたくさん雇っている企業で、 採用のときに日本人にはやらないでブラジル人にだけHIVの検査をやったわけです。 それは企業に頼まれて産業医が実際にやっているということで、裁判所は企業と産業医 が連帯して責任を負いなさいと。150万か200万ぐらいの損害賠償命令でしたが、そうい う例はあります。産業医がもし責任を問われるとすれば、現行法のもとでは、このよう に民事訴訟、損害賠償ということだと思います。  例えばフランスの例ですと、産業医が法律で定められたことをやっていないというこ とで、労働者が病気になったか死んだか、そういう例があります。そういう場合に、雇 い主と産業医が訴えられたが、裁判所は、産業医は独立しているのだから雇い主に雇わ れているといっても雇い主のほうにはやりようがないと。つまり専門知識を信頼してや ってもらっているのでということで、産業医の行為だけが違法行為だとされた例はあり ます。これは制度が違いますから別ですが、外国ではそういう例もあります。 ○東委員  専属の産業医として産業医業務を全般にやっている者にとっては、責任が生じること もやむなしと思っていると思います。それだけの権限があった活動をしたいと思う。一 方で、これを全体的に広げていこうと思うと、多くの先生方は、そうは思っていないと 思うのです。どこで止めるかということになってきます。いわゆる専門性の高い産業医 の場合と、これは、企業規模もあるでしょうけれども一般に産業医としてやっている場 合、とてもそのようなことはできないと。 ○保原委員  平成8年に産業医の勧告権を法律で謳うことになりました。そのときに当時の医師会 の会長さんは反対をしました。なぜかと言うと、法律で勧告権が謳われるということは、 産業医がそれだけ訴訟のターゲットになりやすいということになるのだ、ということで 反対なさいました。私、たまたまそのとき医師会の委員をやっておりましたが、何か東 京から電話がきまして、次の日に東京へ行き、そういうことではないと、産業医の地位 をきちんと上げるためには勧告権を法律で謳うべきなのだ、地位が上がったら訴訟のタ ーゲットになりやすくなるというのは覚悟しなければいけない、という話を申し上げま した。会長さんにはお会いしませんでしたが、結局会長さんも、そういうことならしよ うがないだろうとおっしゃって、この規定が最終的にできたのです。お医者さんの間で は、おそらく、そういう抵抗があるのだろうと思いますね。 ○和田座長  それがいちばん問題になるだろうと思います。産業医の責任を上げれば、当然、それ に対する地位とか報酬を上げないと。責任ばかりを追及しても非常に問題になりますし その辺の兼ね合いですよね。意図としては産業医にも、かなり義務的に積極的にしてほ しいというのが本来言いたいところですが、その辺をどの程度にするかということなの ですが。藤村委員、いかがでしょうか。 ○藤村委員  前医師会執行部がどう取り組んだかは私もよく知らないのですが、特にメンタルヘル スの問題では、診断の問題、専門性の問題などいろいろなことが関係してきますので、 待遇の改善だけでなく専門医との連携など検討課題があると思います。 ○和田座長  本当は、「産業医たる医師はその重要性を自覚し積極的に責務を果たすべきである」 ぐらい強く言おうと思ったのですが、強く言うといろいろ出てくるかなと。「適切」で はなく、この辺は「積極的」ぐらい少し強く言いたいところなのですが。 ○保原委員  現在の産業医は非常に曖昧な立場で、法律も何となくぼんやり書いてあります。特に 嘱託産業医の先生方というのは大した手当ももらわないし、勤務時間も、雇い主から、 そんなに来なくていいとか何とか言われる。そうすると、早い話、責任だけ重く待遇は 悪い、そして、そんなに権限がないということになると片手落ちになる。全体として産 業医の地位をどう上げるかです。それとの関連で、もし体制が整えば産業医も十分に責 任を負ってもらうということだと思います。 ○和田座長  責任も、その代わり報酬、地位、できれば権限を少し高めて、きちんとしたものをつ くりたいと。これはこれからの問題ですが。 ○保原委員  フランスは、産業医は勧告権を持っています。雇い主がその勧告に従わないときは自 動的に産業医は労働監督官に、そのことを文書で通知しなければいけないことになって います。これは通知義務ですから、雇い主がそういう判断をしたかどうか、産業医の勧 告に違反したかという申告を産業医の判断でできるわけです。雇い主としては「いや、 俺の所はやっているけれど」と言っても、産業医が「私の言うことをよく聞いていませ ん」と監督官に言うことになり、監督官は、確かに企業側が良くないという場合には是 正措置を命じます。ただ、企業側がそれに反対する場合は訴訟をやりなさいということ になっていて手続が確保されています。産業医は、自分の勧告に従わない場合は、とに かく監督官に通告できます。日本は角が立つとかいろいろな問題がありますが。 ○和田座長  意図としては、積極的にきちんと責任を持ってやってほしいということです。 ○保原委員  全体として、もう少し底上げをしないと。 ○和田座長  その文書の背景には、そういうのがあるのだということを一応意味してもらって、こ れから産業医のレベルアップに期待したいということで、「適切な」を「積極的な」ぐ らいに少し強く。使用者側も労働者も産業保健スタッフも、是非頑張ってほしいという ことですね。ほかには何かありますか。よろしいでしょうか。  それでは、次に進ませていただきます。3の「取り組むべき対策の方向」、(1) 「過重労働による健康障害防止対策の在り方」です。ここからはもう少し区切っていき たいと思います。まず、アの「健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置」、 イの「疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導」、この2つについては非常 に重要であると思いますので、ここからお願いしたいと思います。 ○主任中央労働衛生専門官  読み上げます。  3 取り組むべき対策の方向。(1)過重労働による健康障害防止対策の在り方。  ア 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置。引き続き、現行法令に基づ く措置の適切な実施の促進が必要である。今後、事後措置等のより適切な実施のため、 有効な判断基準、マニュアル等の検討・普及が必要である。  イ 疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導。過重な労働により疲労が蓄 積しているときには、脳・心臓疾患の発症のリスクが高まることから、医師による面接 指導を行うことを原則とするべきである。医師による面接指導が必要な場合としては、 脳・心臓疾患発症との関連性が強いとされる月100時間以上の時間外労働をやむなく行 った場合等が考えられる。  上記の場合以外であっても、基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを持っている 労働者の他、労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が異常を疑ったとき等、 産業医等が必要と認めた場合には医師による面接指導を実施することが必要である。こ れには企業の実施体制、労働者の意見等も考慮する必要があることから、企業において、 衛生委員会の意見を聴き、自主的な基準により制度化していくことが適当である。  医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて労働時間の制限や休養・療養等の 適切な措置を実施する必要がある。なお、ハイリスクグループの効果的な管理という観 点から、医師による面接指導は、労働者の健康診断結果、作業内容等の要素を勘案し、 医師の判断により毎月連続して面接指導を行わなくともよい場合もあると考えられる。 長期出張中の労働者、管理監督者、裁量労働者など一般の労働者とは労働時間管理が異 なる者についても、原則として一般の労働者に準じた措置を実施する必要がある。 ○和田座長  いかがでしょうか。 ○保原委員  医師による面接指導というのは、どのぐらいの規模の事業場をお考えになっているの でしょうか。 ○和田座長  基本的にはすべてです。 ○保原委員  そうしますと、これは必ずしも産業医とは限らないわけですね。 ○和田座長  はい、産業医等です。医師でもいいです。 ○保原委員  制度上の担保というのはできるのでしょうか。 ○和田座長  少なくとも大企業はいま全部やっています。 ○保原委員  大企業はあまり問題ないと思います。 ○和田座長  中小企業も制度的に取り入れてかなりやっています。新しい認定基準に従って、45時 間以上でピックアップしてやっている所が多いです。 ○保原委員  たまたまですが一昨日の夜、札幌で産業医の先生方と話をする機会がありましたが、 全員が嘱託産業医の方でした。いろいろな話を聞きまして、とにかく手当が少ないとい うこともあって、あまり来なくていいという企業が多い。ひどい所は盆暮れのご挨拶だ けだと。そういう所は面接指導など、およそ考えられない気がするのです。大企業は黙 っていてもこういうのはやると思いますが、問題は中小の所をどうするかですね。 ○労働衛生課長  おそらく、現状では事業場のほうから産業医の所に、それこそ、あまり来てもらわな くてもいいという話をしている、というのが相当見られる現状だろうと思います。今回 の検討の中にも出ているように、例えば100時間以上の労働者に対する面接ということで あれば、逆に企業にとっても、それが1つの責務といいますか義務のような形になりま すので、そうした場合には、今までともすれば盆暮れしかお呼びがかからなかったと言 ったら何ですけれども、要請がなかった産業医の先生にも、もう少し、今回来てくださ いとか。あるいは、労働者を例えば診療所に伺わせるということもあろうかと思います。 そういう形で産業医活動が、こうした仕組みを導入することによって、ある意味では活 性化されるという部分も、副次的効果としてはあり得るのかなと考えております。  現在すでに過重労働総合対策の中で、こうした仕組みを取り入れていますし、そうし たことについては、今後とも非常に大切なことだと行政としては考えている感じだと思 います。 ○黒木委員  100時間以上の時間外労働の特定といいますか、誰が評価するのか。要するに自己申 告で見ているとか。結構労災などの事例だと、会社にも長くいる、あるいは会社の言い 分と本人あるいは遺族の言い分が、ずいぶん食い違うこともありますし、その辺のとこ ろを何か触れるようなことができるかどうかですが。 ○和田座長  いまは任意に任せております。大きな所は人事・労務が全部チェックしていますよね。 ○黒木委員  大企業だと、例えば入ったとき、出たときも分かるようなところがあるみたいです。 そうすると時間的に必ず、この時間はこの人は会社の中にいたということが証明できる のですが。でも、かなりの企業では本人の自己申告ということだと、実際にいる時間と、 本人が申告した時間とのギャップがあるというのも結構あるのではないかという気がす るのです。 ○主任中央労働衛生専門官  その件については、安全衛生行政とは違うのですが、労働基準法の施行の中で労働時 間の適正な把握と管理、特にサービス残業の排除という観点が大きいのかもしれません が、そういうことは進めております。そういう中で、正確なといいますか、できるだけ 正しい時間を把握していただくような努力があって、それとこれとが結びついていく。 理想的には、残業時間を45時間程度以下に抑えることで対応していただくというのがベ ストではないかと思いますが、超える場合には、きちんとした管理が必要ではなかろう かと思います。 ○安福委員  イの所、ここでは「医師による面接指導」と何度も出てくるのですが、産業医と書か ない理由が何かあるのですか。医師であれば誰でもいい、産業医がいても別の医師に頼 んでも構わないということを言われているのでしょうか。 ○労働衛生課長  50人未満の所は、そもそも産業医ということが法律上明記されておりません。したが いまして、一律に産業医と書くことはできない。当然ながら私どもが考えておりますの は、ここでいう医師は、産業医が配置されているところは当然産業医を基本として考え るということです。ただ、後ほど出てくるかもしれませんが、こうした過重労働の面接 を行う中で、場合によっては例えばメンタルヘルスに関するチェックとか、そうしたこ とも内容的に含まれてくることもあり、そうした形で、より適切な医師にお願いすると いうことも現場ではあり得るかなと考えております。 ○安福委員  もう一歩踏み込んで、医師がなかなか来ていただけない所であれば、例えば保健師で あるとか、そういう者にまで範囲は広げられないのですか。やはりここは医師に限定さ れるべきだという議論でしょうか。 ○和田座長  総合対策の所は産業医に指定していましたよね。 ○労働衛生課長  ここは基本的に医学的評価を主眼としておりますので、私どもは、やはりここは医師 だと考えております。 ○藤村委員  表現の問題ですが、イの上から2番目、「脳・心臓疾患の発症のリスクが高まること から」と断定しております。例えば資料3の論文からでも、高まると、これは事実であ るからという表現よりは「高まると言われている」、あるいは、「思われることから」 とされたほうがよろしいのではないかと思います。 ○和田座長  「高まることから」ということですね。 ○藤村委員  そうです。これは事実であると断定しないで、高まると言われている、あるいは、そ ういう学説がある、そういうデータが散見される、という場合でしたら、高まるとされ ているとか、高まると言われているとか、高まると思われているとか、そういう表現に したほうがよろしいのではないかと思います。 ○和田座長  「高まるとされていることから」ぐらいにしますかね。 ○藤村委員  はい。 ○和田座長  ほかにはありませんでしょうか。 ○東委員  イの中の3番目、その5行目に「企業において、衛生委員会の意見を聴き、自主的な 基準により制度化をしていくことが適当である」と書いてあります。これは衛生委員会 が唯一、労使の意見を聴ける所があるということもあって重要な役割になると思います が、これは衛生委員会だけにしてしまいますか。「等」を入れておいたほうが妥当だと 思いますが。 ○和田座長  そうですね。それでは先に進ませていただきます。ウ「事業場における労使の自主的 な取組み」と、エ「労働者自身の取組みの促進」について、事務局、よろしくお願いい たします。 ○主任中央労働衛生専門官  読み上げます。  ウ 事業場における労使の実質的な取組み。対策としては、時間外労働の削減等によ る過重な負荷の排除が基本であり、労働基準法令の遵守のほか、時間外労働、交代制勤 務、深夜勤務等の負荷要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組みを行う ことが期待されるところである。この検討の場として衛生委員会が有効である。衛生委 員会等で有効な議論が行われるためには、時間外労働時間の実態等の情報が提供される ことが必要である。また、産業医等が現場の状況に応じて適切な助言ができるよう、時 間外労働時間等の情報が産業医等産業保健スタッフに適切かつ迅速に提供される必要が ある。  エ 労働者自身の取組みの促進。労働者自身も、自らの健康管理に対して自覚と自助 努力が必要である。労働者自らが可能な業務の管理、健康的な生活習慣等に関して教育、 情報提供等を事業者から行い、かつ自らも研鑽することが必要である。 ○和田座長  ウとエですが、いかがでしょうか。 ○保原委員  時間外労働をやり過ぎている所とか、労働基準法を守っていないような所については、 監督課が主として責任を負うのだと思います。労災認定は補償課の問題です。後から申 し上げたいと思いますが、例えば過労死をしたというのは、私は全部発表したほうがい いと思っています。労働衛生課だけの手には負えない問題がある。いわば労働衛生課だ けでない会合がないと実効性がなかなか伴わないだろうと思います。  私も監督課に行って、ひどい時間外労働は全部新聞発表しろと言って、それで実際に 少し行われるようになりました。あまりひどいものについては新聞に出ると。今までは 訴訟にならないと新聞に出なかったのです。それで社長を呼んで、厳重に注意すること をやるようになってきたのです。何か、こういうふうにやりなさいということで制度は たくさん作るのですが、違反した場合、先ほどの社会的制裁は日本は非常に甘いです。 ですから、実効性を持たせるようなことをやらないと。  これは厚生労働省に対して風当りが強くなると思いますが、いつまで経っても実が上 がらないという気がしますので、ここで言っていいのかどうか分かりませんが、時間外 労働にしても、深夜勤務にしても、法律では決まっていることがあるわけですから、例 えば過労死、年間百何十件認定されているということでも、どこの企業で過労死したか というのは新聞に出ないしテレビにも出ない。どういうようなものが新聞に出るかとい うと、訴訟までいって争われたものだけで、おそらく1件か2件新聞に出る。せいぜい 数件という。  極端なことを言えば、過労死の認定を役所がやったら全部公表する。どこの企業だと いうようなこと、あるいは、私はホームページを見ていませんから、ホームページで発 表しているのかもしれませんが、していなければホームページに載せるとか、それぐら いやらないと駄目なのではないかと思います。ちょっと余計な話で申し訳ありません。 ○和田座長  そういったことを含めて、いちばん初めのときに社会的制裁とか、社会的責任という のを少し出してはあるのですが。 ○保原委員  出しても具体的に何も役に立っていない。 ○和田座長  そういうことですね。 ○労働衛生課長  明らかに違法状態がある場合は、すべてがすべてではないのですが、法的措置をきち んととることはあります。労災事例が出たというだけでは、今の段階では、おそらく公 表はやっていないです。 ○安全衛生部長  いまのに関連してですが、厚生労働省所管の法律でも公表制度はいくつかあります。 1つは、法律でそれを明記して公表する場合と事実的に公表する場合があります。いず れにしても、どういう場合に公表するかという要件をはっきりさせておかないと、委員 がご指摘のとおり企業にとっては大変なダメージを受けることになります。いま言われ たように、過労死というのは非常に個人差が激しいもので、例えば100時間以上の残業 を何カ月続けて過労死になった事例とか、そういう何かの要件を噛まさないと、過労死 をしたという事実だけだといろいろ個人差もありますから反対も大きいのではないかと 思います。もちろん、検討会;でそういうご提言をいただければ、我々はそれを受けて 真剣に検討したいと思います。 ○保原委員  確かに労災というのは、業務が相対的に有力な原因であればいいわけですから、もっ と有力な原因がほかにあるかもしれません。しかし、そういう場合も含めて過労死の認 定というのは行われるわけですから、まさにおっしゃるとおりです。ただ、労災という と、あの会社は悪いよ、という印象を持たれるのは困ります。ただ、あまり長く働かせ て死んだのはよくないというのを、何か公表する方法を考えたほうがいいのではないか と思います。 ○藤村委員  社会的制裁というのを文字どおりに受け取られればいいのですけれども、時としてそ れは魔女狩りになります。特に、マスコミの報道姿勢などと相俟って魔女狩り的になる と非常に困ると思うのです。例えば、これは監督官庁などの厳重注意や戒告という形の ものにしたほうがよくて、社会的制裁をするというのは、いまの日本の社会においては あまり好ましくないのではないか。  ついでに申し上げますと病院勤務の医師、例えば大学病院やその他の病院勤務の医師 などは労働基準法などは全然守られてなく、当然過労死も出てきていると思います。で すから、業種によっては過重労働はどうしても避け難いものもあるのが現状です。  例えば医師の疲労の蓄積であるとか、非常に過酷な労働条件が公になって改められれ ば私の立場としては大変好ましいことです。うまくいけば大変いいことなのですけれど も、うまくいかなくて魔女狩りになると困ると思うのです。 ○和田座長  そういう懸念もあることはあります。 ○保原委員  現在でも、既に業務上の死亡が出た場合については、私が聞いている限り、所轄の監 督署長は企業の社長を呼んで、実際に注意をするという話を聞いています。ただ、公表 されませんから誰が注意されたのかがわからないのです。社長が呼ばれて説教をくらっ たというだけだと、それで終わりになってしまう気がするのです。もうちょっと何か考 えないといけないと思うのです。  確かにいま藤村委員がおっしゃったように、医師は働きすぎていますが、仮に勤務時 間を守ったら医師がいない時間帯が出るという問題もあると思うのです。もしそれが必 要だったら社会的コストですから、医師を増やす方向で考えることが必要です。私の言 っているのは、正論できれい事に聞こえますけれども、そういうことをこれからやって いかないと、日本の国は良くならないのだと思います。 ○安福委員  4頁のいちばん下の行に、「産業医等産業保健スタッフ」と書いてあります。これは、 書き方とか並べ方の問題だと思うのですが、産業保健スタッフという資格を複数に跨い でいるものが、8頁の中ほどに「衛生管理者、衛生推進者、保健師といった産業保健ス タッフの活用も」と出てきます。「産業保健スタッフ」をここに持ってくるのなら、産 業保健スタッフとはどういうものかを前に持ってきたほうが、書き方としてはわかりや すいと思います。ただ単に順番の問題ですが。 ○和田座長  「産業医や、これこれといった産業保健スタッフ」ということを前のほうへ入れます か。 ○東委員  小さなことかもしれませんが、折角衛生委員会を使っていこうという話になっていま すので、4頁の下から4行目の「この検討の場として衛生委員会が有効である」という のはちょっと弱くて、「衛生委員会を活用すべきである」とか定義してしまったほうが いいと思います。 ○和田座長  「委員会を活用すべきである」ということですね。あと1つは、意味的には平均80時 間あるいは100時間を取っています。それから、総合対策もそれは取っています。先ほ ど述べた文献などきちんと強調したいのは、100時間以上はなるべくやめてくれという ことを本当は言いたいのです。ウのところで、「期待されるところである」として、 「特に脳・心臓疾患のリスクが極めて高いとされる月100時間超の定常的な時間外労働 は避けるようにすべきである」ぐらいですね。1行入れて、なるべく100時間より下に してほしいということを入れたいと思います。この前の西村先生のデータだと、両方合 わせて数パーセントというデータでしたから、100時間超えだともう少し減るし、その ぐらいだったら抑えようと思えば抑えられるのではないかと思うのです。  それでは、(2)「メンタルヘルス対策の在り方」に入ります。ア「計画の策定」、 イ「健康づくり・快適職場づくりの取組み」の2つについて事務局から説明をお願いい たします。 ○主任中央労働衛生専門官  (2)メンタルヘルス対策の在り方。ア  計画の策定。職場の改善等を含め、メンタルヘルス対策が計画的、継続的に行われる よう、事業場において、衛生委員会等で審議の上、計画が策定されることが重要である。  イ健康づくり・快適職場づくりの取組み。これまでも労働安全衛生法第69条に基づく 心身両面の健康保持増進対策(THP)が進められており、この中でメンタルヘルスケ アの取組みも行われてきた。また、労働安全衛生法第71条の2に基づく快適職場づくり についても、「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づく り」を目指した取組みが行われている。  THPは積極的な健康づくりを、また、快適職場づくりも働きやすい職場づくりを主 眼としたものであり、うつ状態への介入等までを視野に入れたものではないが、健康づ くり運動や快適職場づくりを通じたメンタルヘルス対策という面で一定の効果があるも のと考えられる。 ○和田座長  アとイについてご意見を伺います。                 (特に発言なし) ○和田座長  同じ対策ならどこでもいいと思うのですが、「できればメンタルヘルスの特殊性にか んがみ、専門精神科医の育成と協力及び連携を図るべきである」ということを入れて、 精神科の先生方に、メンタルヘルスに興味を持ってもらって活躍してもらいたいという ニュアンスがありますので、是非どこかに入れたいと思います。  次に、「職場のストレスの把握と改善」に移ります。 ○主任中央労働衛生専門官  ウ 職場のストレスの把握と改善。職場のストレスの要因を把握し、それを改善して いくことで、労働者への心と身体の両面での負担を軽減することが可能である。職場の ストレスの要因、影響は様々であり、事業場での自主的な取組みとして進めることが適 当である。  個人レベルでの対応として、健康診断時等に個人のストレスの状況を把握し、それに 対応した必要な措置を講じることも重要と考えられるが、その際、心の健康問題を抱え る労働者に対する健康問題以外の観点からの評価が行われる可能性、プライバシー保護 の重要性等を考慮する必要がある。その際、チェックリスト等による形式的な点数評価 にならないよう産業保健スタッフによる評価や、事後措置を適切に実施できる体制にあ ること等が前提となる。  職場単位での問題点の把握、改善といった集団的アプローチには効果が期待できる。 ストレスの大きいと考えられる職場には、健康管理部門から問題提起していくことも必 要である。  エ 個人のストレス対処力の向上。個人がストレスに適切に対処できるようにするた めに、教育、情報提供等によりストレスへの気付き、ストレスの予防・軽減・対処の方 法、事業場内外の相談対応体制等について知識を付与することが必要である。このよう な教育については、健康づくりの中での健康教育の一環として行うことも考えられる。  上記の教育情報提供等は繰り返し行われることが必要である。 ○和田座長  ただいまの点について、ご意見を伺います。 ○大野委員  ウの○の3番目の「個人レベルの対応として」のところの主語がはっきりしないと思 います。「ストレスの状況を把握し」というのは誰が把握するのか、ということだと思 います。職場や事業主が把握するとなると、個人のプライバシーの問題が出てきますの で、これはちょっと問題だと思います。これをここに入れたほうがいいかどうか迷うの ですけれども、個人のレベルだとすると、健康診断等で、個人のストレスの状況が把握 できるような方策を提供する、ということだったらいいと思うのです。 ○和田座長  労働者個人がですね。 ○大野委員  労働者個人が把握する、という形を提供するのだったらいいと思います。 ○和田座長  その活用はどのように考えるわけですか。 ○大野委員  活用としては、個人が築いて、それに対処するということだと思います。その下にあ るように、「事業主としては全体を把握できるようなものを考える」というふうに2段 構えにしたほうがいいのかと思います。 ○保原委員  健康診断の項目に問診の項目があります。そのときに、医師は精神的な問題について どの程度聞いていいのか、あるいは聞くべきなのか、それはどうなのでしょうか。 ○黒木委員  これは一応チェックしていますが、まずは日常生活で睡眠が取れているかどうか、そ の辺が基本です。そこで、眠れていないというようなことがあると、個別に保健師など が面接をするとか、その辺からつながってくるケースもあると思います。  健康診断でその辺のチェックを、例えば某企業ではうつのチェックをある程度簡易版 で聞いていく、ということをやっている所もあります。何項目かチェックして、これは うつ傾向があるという形で産業医はやっていると聞いている所もあります。 ○保原委員  わざとそういうのを避けているということはないのですか。 ○黒木委員  産業医が直に面接をする分には構わないと思います。ただ、チェックリストで○×が どこかに残ってしまうと、それをどう使うかという問題が出てきますので、その辺はち ょっと難しいかという気がします。 ○藤村委員  全く賛成です。精神的な、つまりうつ状態があるかどうかのチェックは絶対に必要だ と思います。何か明文化して入れないと、これだけ論議した意味がなくなってくるので はないかと思うのです。  ウの下のほうに、「チェックリスト等による形式的な点数評価にならないように」と いうのがありますけれども、しっかり検討されたチェックリストだったら大いにやるべ きではないかと思うのです。その前のイのところにあった「THPや快適職場づくりと いうのは、うつ状態への介入等までを視野に入れたものではない」と言っています。い ま、うつ状態が自殺などで非常に問題になるわけですから、うつ状態などをチェックす る何らかの行動をしないと全く意味がなくなってきます。  実は、個人情報保護の委員会でもいろいろ問題になり、チェックリストなどをやって も、フォルスネガティブもあればフォルスポジティブもあるのだからあまりやらないよ うにという意見が多かったのですが、私はそうは思わないのです。やることはやるよう に指導したり努力したりする責任も我々にはあると思っております。 ○大野委員  言葉がちょっと足りなかったのですけれども、「産業保健スタッフなり産業医がこれ を行う」という主語が明記されればいいと思うのです。その場合に、それではどういう 手段を提供できるかということ。例えば、企業によっては構造化面接をして、きちんと した評価方法を用いて、面接で評価している大企業もあります。その辺りのところをど の程度盛り込むか、というところが必要なのかと思います。  その上で、その情報を産業保健スタッフないしは医療関係の所にプールをしておいて、 それが外に漏れないようにすることが必要なのかと思います。それが、後段の「その際」 というところにつながってくると思うのです。 ○東委員  個人レベルのことですが、「個人レベルでの対応として」と書いたら結構難しくなっ てくると思います。「レベル」を入れてもいいのですが、「個人への対応として、産業 保健部門が健康診断時等に、個々の人たちの状況を把握し、事業主がそれに対応した必 要な処置を講じることも重要と考えられるが、その際、心の健康問題を抱える労働者に 対する健康問題でのみの利用、プライバシー保護の重要性等を考慮する必要がある」と。 これも、「観点からの評価を行われる可能性」というのは、その人の能力評価などに使 ってはいけないという意味でしょうから、「可能性」と書くとはっきりしないので、利 用の限定をするという形で明確に書いたほうがいいと思います。「個人レベルでの対応」 というと、本人がどうするかというふうに取られませんか。 ○和田座長  個人への対応という意味ですか。 ○東委員  はい。 ○和田座長  「産業保健スタッフが」という主語を入れるわけですね。 ○東委員  はい。 ○和田座長  その前に、「労働者個人に対してそういう情報を提供する」という1行を入れるわけ ですか。 ○東委員  そうです。大野委員のご意見のとおりで、個人に対する還元も必要です。 ○労働衛生課長  健康診断となると、一般的に多いのは、外の健診団体等に健康診断をお願いしている ケースが大半です。実際にその場面で、例えばその事業場の産業医が出ていって直接話 を聞くというのは、大企業で直接やっている所は別なのですが、それ以外の所では非常 に想定しづらい部分があります。書き方の工夫は必要かもしれませんが、そうした誤解 を与えないような書き方にすることが必要なのかということを感じました。 ○和田座長  これだけ但書が付いて、健康問題のみに限定したり、プライバシー保護の重要性を報 告で書いてあれば、そんなに問題にならないのではないでしょうか。 ○保原委員  藤村委員と一緒に、健康プライバシー保護の委員会をやっているのですが、そこでは、 産業医が健康情報に精神的な面での情報をできるだけ握りなさいと。しかし、雇い主に そのうちのどの情報を提供するかは産業医の判断でやったほうがいい、という線なのだ と思います。健康診断の結果というのは、健診機関から一括して企業へ行ってしまいま すから、どのように考えたらいいのでしょうか。少なくとも、健康診断レベルで聞いた ことは、企業の側は当然100%知ることになるのですが、それでいいのかという問題で す。 ○労働衛生課長  いま保原委員からお話がありましたように、プライバシーの中でも、特にこうしたメ ンタルの関係については慎重な取扱いが求められているという議論が出ています。その 中で、どのような情報を、どの範囲で、どのような目的で使うのだということを明確に するべきではないかという話になっています。  そうした、あちらの検討会の流れを考えると、例えばいまのようなものについては、 まさに保原委員から提言がありましたように、そうした情報は守られるべき情報のどの 部分に位置付けるのか、という議論が必要になってくるのではないか。単純に一般健康 診断の中でこれをやりましょうということになれば、健康診断の情報全体をどのような 範囲に限るのかという議論が必要になってくると思います。これは、まだまだこれから 詰めなければならない議論が中に含まれているわけです。  例えば、法律家と依頼人の関係では、ロイヤー、クライアントのプリビンシィといっ たものが非常に厳格になされています。同じような形で、ひょっとしたらドクター、ペ イシェントの関係でも、そうした意味の、ほかに対して秘密にすべき情報というのは中 には含まれてくるのではないか、ということが当然考えられるわけです。そうした場合 において、例えば健診の中で扱うか、あるいはほかの枠組みで扱うか、という議論も併 せてしておかないと、一律にそうした情報を使いましょうというだけではなかなか難し い部分もあるのかと感じたわけです。委員の先生方のご意見を聞かせていただきたいと 思います。 ○黒木委員  大事だと思うのは、健康診断なりメンタルのチェックリストを行った場合、どういう 形でやるかというのも問題ですけれども、事業主なり職場、事業場単位でどういう状況 に置かれているかわからないことが結構あります。どういう負荷がかかっているかもわ からない。しかし、その負荷についてどう認識させるかについて、ある程度ある事業場 でやった場合に、例えば何十人か単位の職場はどれぐらいの負荷がかかっているのかそ れをフィードバックする。  もう1つは、例えばうつ傾向がある。これは個人でフォローしなければいけない人を、 きちんと面談から医療に乗せるものは乗せていく、というルートをやらないことには、 何のためにやったか分からないことになるのではないかという気がするのです。 ○東委員  情報については、大手の企業はみんなそうされていると思うのですが、産業医がきち んと選任されている場合については、個人の生情報は産業医がもって管理する。それを 勧告する義務もありますので、どう対応したらいいかということについてのみ、必要な 情報を上司に上げるといいますか、事業主に上げることはルール化してきていると思い ます。  一般の小さな企業の場合でも、産業医の選任をしておけば、エイズがいちばんわかり やすい例だと思うのですが、本人には健診の結果が行きます。基本的にその内容につい ては、例えばお金を払うスポンサーであったとしてもそれはわかりません。相談がある 場合については、医師と相談することの権利を持っています。それと同じような仕組み ができ得るという状態にあると思いますので、小さな企業の場合についても、基本的に 生情報を事業主が全部持つ必然性はないという気がいたします。  いまの安衛法が、安全配慮義務があるので、健診は事業主がお金を払ってやっている ので、それを見てある種の改善をするとか配慮しなければならないから、みんな見ても いいということになってしまうような読み換えがあるかもしれませんが、それは基本的 にメンタルヘルスだけにかかわらず対応できる状態になってきていると信じています。 ○保原委員  現行法では、安全配慮義務が裁判所で認められたのは昭和50年です。その前に労働基 準法あるいは労働安全衛生法で、健康診断の規定もあるわけです。健康診断の結果は、 当然雇い主の所へ行くのだという前提で法律は書かれています。  いま東委員がおっしゃったように、比較的大きな企業で、産業医がしっかりしている 所では、情報はみんな産業医が握っていて、必要な範囲で労働者にも雇い主にも知らせ ることになっています。法律上は、そうでなければならないとは書いていませんから、 産業医がいない所では、健診機関から直接企業へ行ってしまいますと、いきなり人事課 や労務部へ行ってしまうわけです。そういうところで、健診機関がメンタルな問題につ いて問診をして、その結果が事業者にストレートに行っていいのかということがありま す。 ○東委員  いまの検討会の中で、個人情報の観点から修正が加えられていくという期待ではいけ ないのでしょうか。 ○保原委員  修正はなかなか難しいです。専属産業医が、どの企業にもいるという前提で考えれば、 比較的事は簡単なのですが、嘱託産業医の先生にそういうのをお願いできるかという問 題。それから、労働者が50人以下の事業場は、原則として産業医はいないわけです。い ま、日本では6割の労働者が50人以下の事業場で働いているわけですから、過半数の労 働者は、もともと産業医の対象になっていないということです。だから、プライバシー の委員会としてもそこはなかなか踏み切れないのです。 ○黒木委員  前に労災病院にいるときに、健診と一緒にメンタルヘルスのケアもやるということで、 中小企業を相手に、健康診断センターの中でやりましたが、結局個人に返すしかないの です。個人に返して、それから来てもらうようにしました。だから、事業主にはもちろ ん行きません。健診センターの中でその個人のチェックをして、そこで要注意あるいは 要フォローというのはその個人に封書で出して、来てもらう形でやりましたがなかなか 来ないです。なかなかつながっていかないということがありました。 ○保原委員  そういうふうにやっていただける所は、まだ幸せという感じがします。 ○藤村委員  その情報を、事業者が全部把握するのは好ましいことではないと思うのです。これは、 人事その他に関係することですし、人権にもかかわってくることですから、これはやる べきではないと思うのです。いまの中小企業で、これが全く行われていないとしたら、 何らかの指導の強化なり、制度上健康診断の結果が返ってきたときには、必ず産業医が 目を通しなさいといったきっちりした指導ができれば、それによって産業医の仕事量が 上がってくるわけです。盆暮れだけ来ればよいという産業医ではなくなってくるわけで す。それによって、産業医の地位もだんだんに向上してくることが望ましいことです。 そのためには、産業医が必要と思う情報のみを事業者に知らせるにとどめるという形に つくっていっていただかなければならないと思うのです。 ○和田座長  その場合は、産業医の判断でいいわけですか。一応は産業医が判断し、労働者のOK を取ってからやるのですか。その辺のところはどうなのでしょうか。 ○保原委員  プライバシーの検討会は、前の検討会で中間報告を出しました。そのときも、いまこ こで話題になったようなこと、つまり健康情報を産業医が握ったほうがいいということ でした。しかし、日本の産業医の状況を考えると、なかなか法律上そういうふうにはい かないというので、そういう考え方もありますというのにとどめています。  それで、藤村委員と一緒にやっている検討会では、本当はもう一歩か半歩進みたいの ですけれども、なかなか進めないという問題があります。産業医が握りなさいと言って も、産業医がいないときにはどうするのというと答えられない。そういう方向が望まし いということは言えるのですが。 ○藤村委員  具体的には健康診断の結果は、事業者が検討したりしてはいけません、という指導で 解決するのではないですか。要するに、嘱託産業医はこういうものなのだから、それで 仕方がないというのではなくて、今後嘱託産業医はこういう使命があるのだということ をはっきりさせていかなければいけない。盆暮れ産業医が、そのまま放置されていいわ けないのですから、それをなんとか変えていくように、例えばこの委員会での結論が導 かれれば非常にありがたいと思います。 ○和田座長  この委員会で出しますけれども、先ほど言ったレベルアップというのを含めて、産業 医の在り方は別の検討会などで検討して、きちんとしたものをつくってもらわないと。 ○保原委員  方法としては、そういうのがいいのではないかと思います。 ○藤村委員  日本医師会では、各種の委員会がありまして、産業保健委員会もその一つです。今年 度は、特に嘱託産業医の使命ということで検討を会長諮問事項として出しましたから検 討いたします。またご報告いたしますので、そういうこともご参照いただければありが たいと思います。 ○和田座長  とりあえずは、現状の体制でできる限り記述して、そういったところできちんとした 一定のルールを作っていただくということでしょう。いろいろありましたけれども、事 務局で原案を作っていただいてから議論したいと思います。  次にオの「メンタルヘルス不全に早期に対応する方策」の(ア)「セルフチェックの 実施」、(イ)「長時間労働者等に対する医師等による面接指導」の2つについてお願 いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  オ メンタルヘルス不全に早期に対応する方策。(ア)セルフチェックの実施。労働 者のストレスの気付きのために、随時セルフチェックができる機会の提供が有効である。  (イ)長時間労働者等に対する医師等による面接指導。精神障害による自殺の労災認 定事案における労働時間を見ると、長時間となっているケースが多くなっており、また、 事業所における過重労働対策の調査結果を見ると、過重労働者の医療機関への紹介状況 において抑うつ状態の者が過半数を占めていた。時間外労働時間の長い者はメンタルヘ ルス面のチェックの機会が必要であり、(1)のイの長時間労働者を対象とした医師に より面接指導において、メンタルヘルス面にも留意して行うことが有効と考えられる。 医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて適切な措置を実施する必要がある。  本人又は家族がメンタルヘルス不全を疑った場合、所属している事業場内の者に訴え ることは抵抗があることも多いことから、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果 を事業者に提出することができる仕組みをつくる必要がある。また、この場合、事業者 は事業場内の産業医により面接指導を実施した場合と同様に、産業医の意見を聞いた上 で適切な措置を講じることが適当である。 ○和田座長  「メンタルヘルス不全」というのを、同じ用語に統一していただくことと、「自発的 健診」をきちんと入れるかどうかがいちばん問題だろうと思いますが、ご意見をお願い いたします。 ○大野委員  イの3番目「本人又は家族が」のところですが、この文章だと外部に相談をするだけ に限られてしまいますので、この「多いことから」というのは、逆に言うとそうでない 人もいるということです。「所属している事業場内の者に訴えることに抵抗感を持つ人 」で、相談する人もいるということですから、例えば「所属している事業場内の者に訴 える仕組みに加えて云々」とされたほうがいいと思います。 ○和田座長  両方提起したほうがいいですね。 ○藤村委員  前にも何かで申し上げたと思うのですが、メンタルヘルス不全は「不調」に直してい ただけると思いますが、不調で、病気ではないが、でも自殺に至る場合は気分障害とい う病気になるわけです。そういう精神的な疾患の場合は、自分が病気であるという意識 がないのが普通です。昔、我々が習ったときは神経症、ノイローゼは病識があって、精 神分裂病や躁鬱症は病識がないのだと習ったものです。  一般に病識がない、なんとなく眠れない、なんとなく意欲がないということで、自殺 するほどの人でしたら自分が病気であると認識していない人がほとんどだと思うのです。 そういう人に対して、その診断を個人に預けるのは好ましくない。それで、先ほど私が 申しましたように、何らかのチェックリストみたいなものを用意して、しっかりしたチ ェックをしなければ、これはいつまで経っても解決しないのではないでしょうか。  過重労働はメンタルヘルスに悪いというのは当然なのですけれども、過重労働、長時 間労働といいましても、労働者がやる気があって、それを楽しみにして喜んでやってい る場合、そうでない場合とは全然違うわけです。これは、メンタルヘルスに関係するわ けです。  例えば、仕事はなるべく短くして、家へ帰って配偶者の顔を見ているよりは、仕事を していたほうがいいという人だっていっぱいいるわけです。 ○和田座長  セルフチェックのことは、(ア)の所に出てきています。セルフチェックをさせて気 付かせるということです。 ○藤村委員  本当に病気があった場合、セルフチェックが果たしてできるのかどうか。自ら外部の 医師の面接指導を受けることが、実際にできるのかどうかということが問題になります。 ○和田座長  この前の黒木委員の研究報告書でも、家族が気がつくことがいちばん多いわけです。 ですから「家族に気付いて」ということも入れて、それでカバーしているということで す。最近の若い人は、平気で精神科のカウンセラーの所へ行きます。アメリカなどでは、 それを誇りに思って行く人がいます。そのような時代になってきていますから、自分で ちょっとおかしいと思ったら行く、というのがこれからは増えてくるだろうと思うので す。 ○大野委員  いまのことは非常に重要だと思います。精神疾患を疑われていても、いまのところ地 域調査などでは3割弱ぐらいの方しか医療機関を受診されていません。やはり、皆さん 気付かないということが非常に多いと思うのです。そういうところで、どう啓発してい くか、ということは大事だと思うのです。セルフチェックで評価が可能かというと、こ れはなかなか難しいです。つまり、それだけ精度の高いセルフチェックの質問肢なりが ないということと、本人の申告ですから、気付かないままだったり、もしくは自分で報 告したくないことには○印を付けられないという問題があり、そこが非常に難しいよう に思います。  ですから、いろいろなチャンネルで気付くことが大事で、本人もそうですし、家族も そうです。あとは、職場で気付く、例えば上司や同僚が気付いたときの仕組みづくりと いうのがどこかで入ってくるといいのかと思います。 ○労働衛生課長  4頁の「疲労の蓄積によるリスクが高まったときの面接指導」のところの3つ目のポ ツに「労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が異常を疑ったとき等云々」と いうのがあります。これは、同様のことがメンタルヘルスの面接指導のところにも含ま れているわけです。先ほど大野委員からご指摘がありましたけれども、「内部も」とい うのは私どものミスで抜けておりましたが、同じような仕組みで職場の同僚であるとか、 管理監督者であるとか、あるいは家族であるとか。  うつ病になるような方は、非常に真面目な方が多いわけですので、自分から進んでい く人は必ずしも多くないです。そうした場合であっても、同僚やほかの人が気付くとい う仕組みも、当然ながらこうしたところの面接指導等に含み込んで考えておきたいと思 います。文章表現上舌足らずのところがありましたので、読みにくいところについては 訂正いたします。 ○和田座長  続いて、(ウ)「介入が可能となる仕組みづくり」から(カ)「職場復帰」までお願 いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  (ウ)介入が可能となる仕組みづくり。自殺等の最悪の事態を避けるために、深刻な 状況においては専門家による介入が可能となる仕組みづくりが必要である。介入のきっ かけとして、上司・同僚による気付きのほか家族による気付きも重要である。周囲の者 の不適当な判断による情報提供等もあり得ることから、衛生委員会等における労使を含 めた場で、プライバシー保護に十分留意した仕組みづくりを検討することがきわめて重 要である。  (エ)相談体制の整備。労働者が自らの心の健康に不安を感じたとき、他者に知られ ることなく、随時職場の内外の専門家に相談できる体制の整備が重要である。このため、 企業内での体制整備のほか、公的機関を含め、外部機関の利用も考慮する必要がある。  (オ)管理監督者に対する教育。現場において日常的に労働者の指揮・管理を行うの は管理監督者であり、労働者のメンタルヘルスケアについて、管理監督者の配慮等が重 要であることから、管理監督者に教育、情報提供等によりメンタルヘルスについて知識 を付与することが不可欠である。  (カ)職場復帰。メンタルヘルス不全により休業していた労働者の職場復帰について、 当該労働者が円滑に職場に復帰するとともに、再発を防止するため、職場における支援、 配慮等が必要である。その際、治療に当たっている主治医との十分な連携が欠かせない が、事業者は産業医に、主治医と相談しつつ本人への就労上の配慮や職場内における様 々な支援について具体的な指示や調整を行わせることが必要である。産業医が選任され ていない場合は、地域産業保健センターから紹介を受ける等により専門家からの指導助 言を受けるべきである。 ○和田座長  ただいまの点について、ご意見はございますでしょうか。 ○黒木委員  家族の気付きのところで、家族も本人が非常に疲れている、本人も、疲れているとい う意識があっても、家族もどこへ相談に行っていいか分からないということがあります。 先ほどのところの、「外部を利用する」というのも、家族はどうアクセスすればいいの かということをある程度指導するようなことがないと、これを謳っているだけでは現状 と変わらないのではないかという気がします。 ○和田座長  そうですね、そういうシステムでは、家族の教育も含めて重要です。指導づくりに関 してですかね。 ○黒木委員  精神科の場合には、2カ月とか3カ月とかあるいは長く休んで、それから戻っていく 過程で、職場の支援はものすごく大事です。この支援をどうするかということが、企業 の中では完全に治らないと駄目だということで、結局外部のほうは復職可能だという診 断が出てきます。でも、すぐに潰れてしまうということも結構あります。  ここのところで、企業はどういう支援ができるかをある程度明確にすると、随分違っ てくるのではないかという気がします。長期で休んでいる人は、企業がすぐ職場に受け 入れるというよりも、健康管理室で出てくる練習をしながら、そこから仕事に入ってい く、あるいは慣れていくということをやっている所ではかなり成果を上げているという こともあります。職業センターなどでは、リワークプログラムといって、うつのカウン セラーが企業と本人との間に入って調整をする、という辺りが大事だと思うのです。 ○和田座長  支援のところをもう少し具体的に、という意味でしょうか。 ○黒木委員  これは労災の問題もあるので、そういう復帰の段階をどう扱っていくかというのは非 常に重要だと思います。特別支援みたいな形で、一定の期間はそのプログラムを利用す る、というふうにするとかなり公平さが出てくるし、乗る人は乗っていくし、そうでな い人はもう1回休職に入って治療に専念する。いまは、すぐ復職可としてしまうために いろいろなトラブルが起こっていることがあるのではないかという気がしています。 ○和田座長  具体的な方策ですね。ほかにないようでしたら、(3)「体制の整備」のア「事業場 内の体制整備」をお願いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官  (3)体制の整備。ア事業場内の体制整備。医学的知識を基礎とした健康管理がこれ ら対策の軸となるものであり、産業医等の医師の適切な関与がポイントとなる。また、 そのために十分な能力を備える必要がある。  なお、メンタルヘルス対策については、必要に応じて、精神科医が労働者や事業者に 対し助言指導を行う体制を整備することも望まれる。  対策を効果的に進めるためには、産業保健スタッフと人事労務部門との連携が不可欠 であり、必要な情報の共有、相互に協力した措置の実施等を進める必要がある。メンタ ルヘルス対策に関しては、事業場外の機関を含めたネットワークを作り、産業医に情報 が集まるようにし、産業医が指導的に取り組む体制が不可欠である。  過重労働対策、メンタルヘルス対策は、労働者自身の意識、個性に関る部分も少なく なく、対策を事業場において効果的に実施するためには、労働者の意見が反映されるよ う衛生委員会の場を活用することも重要である。衛生管理者、衛生推進者、保健師とい った産業保健スタッフの活用も(特に専属産業医を選任していない事業場で)重要であ る。  産業医等の産業保健スタッフにより、過重労働対策、メンタルヘルス対策をはじめと した健康管理対策がより適切に行われるよう体制の整備、スタッフの資質の向上、情報 提供の充実等が不可欠である。 ○和田座長  ここのところはいかがでしょうか。 ○保原委員  今日の議論と関係するかどうかわかりませんが、産業医が基礎的な知識がないのでど こかに聞きたいという場合、何か制度はあるのでしょうか。というのは、一昨日、札幌 で会議をしたときに、1人の嘱託産業医の方が、自分がわからない化学物質を突然聞か れて、その物質にどの程度触わったら病気になるのか全然わからなかったそうです。産 業医に必要な知識でまだ持っていない方については、何か方策はあるのでしょうか。 ○和田座長  推進センターは産業医を支援するところで、相談室が必ずあるのです。 ○東委員  産業研修推進センターに、精神保健に特化した方がいらっしゃいますし、産業保健全 般、化学物質に関してもいらっしゃいます。 ○和田座長  全部、専門家がいます。 ○東委員  北海道は岸先生がいらっしゃいますので、化学物質は問題ないと私は信じています。 ○和田座長  曜日は違いますけど、いつ何の専門家がいるということを公表してます。 ○東委員  そこから繋いでいただけるはずです。 ○保原委員  例えばセンターから岸先生の所とか、そういう形にすればいい。 ○和田座長  そうです。 ○労働衛生課長  その質問を受けた方が、たまたまご存じなかったということかもしれません。ただ、 仕組みとしては、きちんと専門的な対応ができる仕組みになっています。 ○保原委員  そうですか。ありがとうございます。 ○大野委員  質問ですが、8頁の上から2行目で、「必要に応じて精神科医が云々」で、「体制を 整備することも望まれる」というのは、具体的にはどういう体制を想定されているので しょうか。 ○労働衛生課長  ここの意味ですが、例えば労働安全衛生法で産業医ということになりますと、当然な がら有害作業や有機溶剤など様々な仕事がかかってきます。もちろん職場遵守もありま すし、総合的に労働衛生全般に関する仕事をする位置づけになっています。  ところが、現在、いらっしゃる産業医の先生がすべてそうしたことをやって、さらに メンタルヘルスについても専門的な観点から助言、指導することに関して、もちろんで きる先生もいらっしゃいますけれども、現実には必ずしもそこまで十分できない先生も いらっしゃるわけです。そうしたことを考えた場合にそれぞれの事業場において、例え ばメンタルヘルスの部分については、どこどこの誰先生に特にお願いしようとか、決し て安衛法上の産業医という形ではないかもしれないけれども、そういう形でお願いでき るような仕組みを作ることができないかという意図で、ここの文章は書かれているわけ です。 ○藤村委員  8頁の上から4行目の「対策を効果的に進めるためには、産業保健スタッフと人事労 働部門との連携が不可欠であり」とあり、これはよろしいのです。その次の「必要な情 報の共有」というのは、ちょっと誤解を招きそうな感じがします。これを除いたらいか がですか。「連携が不可欠であり、相互に協力した措置の実施等を進める必要がある」 とすれば充分だと思います。 ○主任中央労働衛生専門官  ここは過重労働を含めてありますから、労働部門とかではあり得るのかなと思ってい ます。 ○藤村委員  「必要な情報の共有」という言葉で言った場合、これはメンタルヘルスのところで言 っているわけですから、慎重な配慮が必要です。 ○和田座長  連携であれば時間とかを含んだものですから、取ってもいいですよね。よろしいです か。それでは最後のイ「事業場外の機関の活用」、ウ「行政の支援措置」というところ をお願いします。 ○主任中央労働衛生専門官  イ 事業場外の機関の活用。産業医がメンタルヘルスに関する知識が不十分な場合も あり、産業医等に対する教育、専門医のサポート体制、ネットワークづくりが重要であ る。 事業場外の機関(EAP)の活用も効果的である。利用に当たっては、実効あるものと なるよう留意が必要である。事業場が抱える問題に応じた事業場外の機関の活用が必要 である。例えば、アルコール依存症であれば保健所や断酒会、精神障害であれば保健所 や精神保健福祉センターが考えられる。産業医の選任義務のない小規模事業場において は、「会社のかかりつけ医」といった医師を事業場外に持つことも考えられる。  ウ 行政の支援措置。過重労働対策、メンタルヘルス対策に係る事業場、労働者に対 する周知啓発、具体的な実施手法の検討・提示、事例の紹介、関係情報の提供等の支援 が必要である。また、小規模事業場に対しては、具体的手法を提示する必要がある。産 業医に対して、面接指導の方法、メンタルヘルスに関する知識等を内容とする専門研修 を実施する必要がある。事業場内での教育研修の実施、事業場での対策立案等を担当す る産業保健スタッフ等の育成が必要である。産業医の選任義務のない小規模事業場での 対策の実施の支援のため、地域産業保健センターの充実を図ることが必要である。以上 です。 ○和田座長  いかがですか。 ○安福委員  イの2つ目の○に事業場外の機関とあり、ここにEAPが出てきます。いままで事業 場外の機関は何も付いていないですが、あえてここに付けられた理由と、イのいちばん 最後の○にある「会社のかかりつけ医」というのは、普通にこういう言葉で言っている のか、何かこれを制度化しようという意図がおありなのでしょうか。 ○和田座長  この場合は、必ずしも産業医の資格を持っていなくてもというニュアンスが入ってい るのです。小規模の事業場で事業主がよく知っているドクターとか。 ○安福委員  一般に言われているのは、そういうかかりつけ医の医師もなることはいいですよとい うイメージを言われているわけです。 ○和田座長  そういうイメージです。 ○労働衛生課長  安全衛生法の産業医でしたら、いろいろなオブリゲーションがかかってきますけれど も、そうしたことではなくて、ちょっとしたことを気軽に相談できる、そうしたイメー ジがあります。 ○主任中央労働衛生専門官  EAPは強いてということではありませんが、これまでの議論の中で、EAPという 名を使っておられる企業も少なからずありましたから、公的機関として例えば保健所と は別に例示的にというか、こういうものをイメージすればというので書いています。そ の後の「実効あるものとなるよう留意が必要である」の部分は、ただ会社が言い訳的に 契約するために作っておき、実際には効果が上がらないケースもあるとの話がありまし たので、少し抽象的ですがこういう表現を入れました。 ○黒木委員  イの報告で、推進センターとしての地域保健センターを抜いてあるのは何か意味があ るのですか。推進センターも一応入りますよね。 ○和田座長  利用するのは当然だということで省いているのですかね。 ○主任中央労働衛生専門官  当然だということです。 ○和田座長  特殊で出しているのですかね。 ○労働衛生課長  例えばイの最初の○ですが、こうしたところに中心的に、おそらく入ってくるのだろ うなと思います。そうしたスタッフに対する研修という機能があります。小規模事業場 は当然ながら地域産業保健センターというのがあります。ただ、あまりにも当然だから 書いていないというのが本当のところかもしれません。 ○保原委員  もう少し地域センターの中身を充実する方法はないのでしょうか。もし多少でもあれ ば、1つ目の○に「都道府県のセンターと地域センターの充実を図る」と書くとか、た だ、実際にやりようがないと言われると困りますけれども。 ○安全衛生部長  全体で小規模事業場に対して、どういう支援をするかというお話でしたので、それを 地域センターでどういうふうに受けられるかは検討していきたいと思っています。 ○保原委員  センターを作ったのはいいけれども、これはなかなか大変なのです。 ○安全衛生部長  ええ、委員が言われるように機能するような仕組みというか、機能するような予算と いうか、そういうものも考えていきたいとは思っています。 ○和田座長  いちばん最後のところに、「地域産業保健センターの充実を図ることが必要である」 と一応は書いてあるのですが、それが小規模事業場に対して地域産業保健センターです。 ○保原委員  なるほど。 ○安福委員  こういう場で、こういう発言がいいのかわかりませんが、例えば中小零細企業で、地 域の保健所の健康診断を積極的に受けなさいと紙に書いたりしてあり、保健所のほうは、 我々は企業の健康診断をやっている所ではないので、「積極的に」と書かないでくれと いう話があると聞きます。そういう意味では先ほどの産業保健センターとか地域保健セ ンターなどでも、こういう所にあまり書くと、無料でやっていますから相談がたくさん 来て困るとか、逆の効果があって、あまり書かないでくれという議論にはならないです か。 ○和田座長  それはないと思います。むしろ少なくて困っているわけです。 ○安福委員  この間、ある所でそういう議論になりました。積極的に、そういう本来やらなければ いけない所はきちっと書いてほしいのですが、中小零細企業の健康診断を保健所に振ら ないでくれという話が出ていました。 ○保原委員  地域センターということになると、よく札幌の地域センターに「健康診断をやってく れるか」という電話が来て、「うちはそういう機関ではない。ただ、健診機関を紹介す るから」と言うと、「じゃ、結構です」となる。 ○安福委員  意外と、そういう誤解をされている方が結構いらっしゃるのです。 ○和田座長  その辺のところ誤解されている。 ○保原委員  全体を通した問題でもいいですか。 ○和田座長  どうぞ。 ○保原委員  前回、私は休みまして、そのときの議事録を拝読していましたら、そこにも同じよう な問題が出ていますけれども、法律上、雇用関係にない人たちをどうするかというのは、 労働法上は前から問題になっています。例えば契約社員とか嘱託社員とか、何とかコン サルタントというので形式的には労働契約でない人たちです。そういう人たちは厳密に は企業は責任を負わないわけですが、契約企業の事業場の中で働いていて、実質は正規 の従業員とあまり変わらない仕事をしている場合が多いわけですから、そういう者を、 少なくとも安全衛生法の体系で何か網に掛けることを、もう少し積極的に考えるべきで はないかと思います。それは安全衛生法だけでなくて、労働法一般の問題ですから結構 難しいですが、だんだん雇用契約から外れていって、規制の対象にならない人が多くな る恐れがある気がします。 ○安全衛生部長  いま、委員が言われた問題が実際に工場の中で起こっていて、安全の分野ではそれが 事故の大きな原因になってきていますから、別途、安全の分野の検討会の中では、社会 的に特殊な関係の中で場の管理をして、雇用関係がなくても事実上の使用従属関係があ る場合には、安全衛生責任を一定の分野で取ってもらう仕組みを検討しようということ で検討しています。  これについては、いま委員が言われた衛生面においても必要なのかもしれません。そ れで別途、勤生部で行っている研究会で、今後、多様な働き方を推進していくという方 向が出ましたが、その多様な働き方の中に、例えば在宅勤務のような雇用関係がない労 働者もいるわけです。そういう方々も含めて健康衛生問題については考えていかなけれ ばならない。それはどういう仕組みでやらなければならないかは事務的には検討してい るわけです。ただ、まだ結論は出ていません。 ○労働衛生課長  あと若干付け加えますと、特に過重労働対策をという話になると時間管理の話が出て います。そのあたりをまさに労働法制上、どういうふうに考えるか難しい課題も一方に あります。そうしたことも含めて、これから検討すべき重要な課題であると考えていま す。 ○安全衛生部長  いま課長が言った話は、管理者とか裁量労働者についても健康管理については、一般 労働者に準じて考えるというのを報告書の案として入れていますが、そういうことも踏 まえて、少し委員のご意見も踏まえた書き方にしたいと思っています。 ○藤村委員  全体的、総合的なことで申し上げたいのですが、結局、何をしたらいいのかをもう少 しまとめたらいかがですか。例えば健康診断を積極的に行い、健診結果の分析によって ハイリスクの者には絶対時間外労働をさせるなとか、メンタルヘルスに関してはちゃん としたチェックリストを作って、それを産業医が分析する。ただし、産業医を教育して 精神科と同じレベルに持っていくのは無理です。チェックリストで点数で構わないので す。それで危ない者には介入を積極的に行う。あるいは家族が気が付くことが事実とし てあるのだったらば、家族にアンケート用紙を送って産業医がそれをチェックする。チ ェックしてメンタルヘルスに問題があると考えた場合は、専門医にどんどん相談する。 そういう体制を作らなければならない。  そういうことは、すべて産業医が主体的に行わなければなりませんが、産業医はスク リーニングをすることだけを考えてもらえば十分だと思います。こういう仕事をするの は産業医が主体的にするのですよという体制づくりをすると、嘱託産業医に仕事をさせ る条件づくりが出来上がります。それと前にも申し上げましたが、要するに気分障害に よって自殺した人たちは、その前の1〜2カ月の間に必ず他の身体的症状を訴えて、医 師を受診しているという事実がありますから、そういうところを把握しなければならな い。身体症状が起こってきて、これはpsychosomaticなものだなとか、psychogenicな ものだなと思ったらば抗うつ剤を使っていいわけです。それによって自殺が防止できる のだったらそれに越したことはないと思うわけです。 ○黒木委員  アメリカの陸軍でしたか、いわゆる自殺が多いというので、自殺予防プログラムを実 施した人がいるのです。どうやったかというと、うつの2つのポイントだけをチェック して、そこで医療に早く乗せることをやっただけで、ずいぶん自殺が減ってきたと講演 で聞いたことがあります。だからうつをどう早く見抜いていくかは非常に大事だと思い ます。 ○大野委員  確かにそうなのですが、幾つか難しい点があります。まずチェックリストでチェック することに関しては、あまりきちんとしたデータは出ていないです。今まで幾つもチェ ックリストがありますが、それで見抜けるかというと非常に難しいと思います。その次 に医師が見抜けるかということがありますが、これも今まで幾つか研究があって、トレ ーニングをかなりきちんとすれば、いわゆる専門医でなくても診断ができるようになる という結果と、しかし1年経つと元に戻るということがある。ですから繰り返しやらな いといけない。それだけの手間隙をかけることができるかどうか。  もう1つは治療に関してですが、抗うつ薬を使うのが本当にいいのかどうかは疑問な のです。つまり抗うつ薬を使うようになって自殺率が減ったというデータはないのです。 ですから新しい薬がいろいろ出たけれど、それで自殺率が減ったかというと、エビデン ス上はそれがしっかり出ていないのです。ということは薬の治療も必要だし、もっと他 に環境調整だとか精神療法だとか、総合的なアプローチができて初めてそれが可能にな るのですが、それを職域でできるかどうかというと、これも非常に難しい。そこまでの 全体的な体系を立ててやれるかどうか。将来的にはやる必要があると思いますが、いま の体制では私は非常に難しいように考えています。 ○東委員  福岡でも他の都道府県と同じかもしれませんが、ここにいらっしゃる黒木委員、大野 委員を見ていると大変心強い気がしますけれども、実際に外のそういう精神保健の専門 家の方に紹介して、うまくいくかどうかというと、そうはならないことのほうが圧倒的 に多いのではないか。企業の実情もわかるし、働く人間をサポートいただける医師はい らっしゃるのですが、それは精神科医の中でもごく限られています。そうすると後でご 本人やご家族から手痛いご批判を受ける場合があったりして、実際、社会の中でまだリ ソースが十分にないというのも一方にあります。そこをどう救うか、そちらも必要では ないかと思います。産業医の技能の向上だけではなくて、そういう意味での精神保健を 働く人のサポートに向けていく仕組みがないと、非常に難しいのではないかと思います。 ○和田座長  先ほど精神科医の先生方にも、メンタルヘルスの教育を是非やってくれというお話が ありました。 ○黒木委員  63年からずっとある企業に関わっていたのですが、企業の中に入って見るのと、外で 病院の中から企業を見るのと対応がずいぶん違うのです。企業の中で上司とか人事労務 と接触しているうちに、いろいろなことが分かってくる。その中で自分がどういう役割 をすればいいかが見えてくるわけで、これが全くそういった経験がないと、何をやれば いいのか。ただ患者さんと家族の情報だけを聞いて治療することになりますから、どう しても片手落ちになっていく気がします。 ○労働衛生課長  そうした意味では、精神科の先生も事業場に足を向ける機会が必要なのかもしれませ ん。それによって現場がわかるし、それで報告書には精神科医もそうした形で関わるこ とを少し書いています。  もう1点、藤村委員からご提言があった、ハイリスクの者は長時間働いてはいけない というのはよくわかります。例えば4頁のイに「リスクが高まった場合の面接指導」と あり、この3つ目の○に、「基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを持っている労 働者」と書いています。場合によっては、それぞれの事業場の衛生委員会等で産業医の 意見も聞きながら、おそらく基準を決めていくのだろうと思います。その中で、例えば 血圧をコントロールしても180を下回らない場合は、超過勤務は禁止するといったルー ルが、場合によっては出てくるかもしれません。  一律に国のほうで、こういう状態については駄目だと言うのは非常に難しい。という のは作業の現場は様々であり、事務作業もあれば肉体労働を伴うところもあるし、時間 的に非常にタイトなところもある。いろいろな形態があるわけですから、これについて は産業医の専門性を生かしていただいて事業場内で、例えばこういう作業について、こ うした状況に該当する場合は超過勤務は駄目とする。現実問題、健康診断の事後措置な どでそれぞれの企業において、例えばこういう作業については、こういう方は不適当と いう形で事前にそうした状況が把握できた場合には、初めからそういう作業から外すル ールを作っている所もあります。したがって藤村委員が言われたようなことについては、 それぞれの事業場できちんと対応していただければと私どもは期待しているわけです。 ○藤村委員  要するにチェックリストを作るということは、精神科の先生方も問診で診断するのが ほとんどだと思います。血液検査で出たり、脳波で出たりCTで出たりというものでは ないと思います。問診で診断するのだったら、問診に類したチェックリストがどうして できないか。  とにかく実効を上げなければいけない。自殺者を減らさなければいけないわけです。 自殺者を減らすためには、少なくとも精神科医でない産業医がすることだったらば、精 神科の先生に教わって、精神科の先生がなさる問診とほぼ同じチェックリストを作り、 その点数が高い者は精神科の先生に相談しなさいよと言っているのです。 ○黒木委員  委員のおっしゃることはわかるのです。確かにチェックリストで、これが高くうつ状 態の可能性があるから精神科を受診したほうがいいとか、我々のほうはそういった流れ で来た人を診察しますが、問診だけで診断し本人だけに焦点を当てるのでなく、企業の 中でどういう仕事をして、どういう人間関係があって、どういう負荷がかかっているか、 そういうものを選りすぐっていって、こういう状態が考えられると、そこから治療が始 まっていくわけです。だから入口の時点では委員がおっしゃるように決してマイナスで はないと思います。 ○藤村委員  産業医の仕事はスクリーニングであると先ほどから申し上げているのであって、専門 家の先生と同じことをしろと要求したって無理だし、教育したって成果は上がりません からと申し上げているのです。スクリーニングするためにはそんな方法しかないでしょ う。 ○大野委員  藤村委員のおっしゃるとおりだと思います。ただ、私が申し上げたかったのは、スク リーニングのチェックリストだけでやると危険だということです。実際に私は地域で自 殺予防の活動をやっていて、去年も厚生労働省の委員会に入っていましたが、地域で5 項目のチェックリストを作っているのです。それはあるのです。そこで疑ったら地域で 保健師が介入したり、専門家と相談したり、開業の先生方と相談したりという仕組みが ありますので、それを否定しているわけではなくて、もっと幅広くスクリーニングをす る必要があるのではないかという趣旨です。 ○藤村委員  本当に専門でやっている専任の産業医だったらできるかもしれませんが、嘱託産業医 がほとんどなのです。現実には困難な仕事になります。チェックリストが多少煩雑にな っても、なるべくスクリーニングとして役立つものを作ればいいではないですか。それ を作るのは精神科の先生方の責任だと思います。作ってもらって全国的に広げてもらっ たら実効が出るでしょう。 ○和田座長  委員のご意見は、産業医がスクリーニングを、うんとやるべきだということ。 ○藤村委員  そうです。 ○和田座長  スクリーニング検査でいう、いわゆるセンシティビティを上げて、健康な人を少しぐ らい拾ってもいいけど、絶対に異常な人を落とすなということで、広くやっていこうと いうことですね。 ○労働衛生課長  藤村委員のおっしゃっていることはよくわかります。おそらく大野委員がおっしゃり たかったのは、単なるマル・バツで点数が何点というのではなくて、精神科の面接の中 で、その患者さんがどういう状態なのか考えていくのだろうと思います。その面接技法 の中で10項目か20項目かわかりませんが、そうしたものを活用してやっていく。  ただ、「あり」「なし」があって、本当にその方が1ということを意図してそこにマ ルを付けているのか、あるいはそうではないのか、そのあたりの一定の見極めが必要に なってくるだろうと思います。そうした場合に、それが完全に専門家でなければならな いという話は、おっしゃるようにスクリーニングということではないのかもしれない。 ただ、その場合に一定の基本的な面接技法というか、まさに釈迦に説法ですが、患者さ んのいろいろな話を聞くときに、一定の技術が当然必要になるわけですから、精神科で の基本的な問診の仕方といった技法も併せた上で、一定のスクリーニング用のチェック リストを活用する。そういう形でやっていけば、フォルスネガティブ、フォルスポジテ ィブの話も少しは緩和されてくるのではないかと考えています。おそらく大野委員は、 そういう趣旨でおっしゃっているのではないかと思ったわけです。 ○大野委員  ありがとうございます。そのとおりだと思います。あと1つ、チェックリストとして は最初の回に申し上げましたが、数年前に労働省が作った問診表があります。それは効 用について経過を追ってデータを積み重ねていると思いますので、それを解析すること で活用可能だと思います。もう1つは、1対1で面接するときに、例えば精神科的なト レーニングを受けていない人の面接と、受けた人の面接がどう違うのかは、いま研究を しているところです。そういうことも含めて、いろいろな形からアプローチできるとい いと思います。 ○労働衛生課長  病気の診断のためのチェックリストで、うつ病だったらスケールとかありますが、そ れと私どもが以前に作ったのは、どのようなストレスを受けて、あるいは本人が感じて いるストレスの程度がどの程度か、そういう意味のチェックリストはあります。そのあ たりがともすれば誤解される部分があり、そのあたりの使い方について十分周知した上 で、どのような場面で、どのようなチェックリストを使うかについて、これから委員の 方の意見も聞きながら整理していきたいと思っています。 ○藤村委員  和田座長のおっしゃったとおりだと思います。要するに広く見て危ない者は拾ってお いて、それは専門家に任せて判断してもらう。それをスクリーニングするのが産業医の 仕事であると。 ○和田座長  全体的なことで何かございますか。最後に「おわりに」という章を作ると思いますが、 たぶん巷には法制化ということで、「対策の促進と充実に最低限必要な適切な法制化」 という言葉を入れておかれると、やりやすいのではないかと思います。できれば「労働 基準監督署の適切な指導が必要である」という言葉も是非お願いしたい。忙し過ぎてそ こまで手が回らないかもしれませんが、それが割合に効くのです。そんなことを「おわ りに」のところで少しまとめて、入れていただければと思います。ほかに何かございま せんか。 ○主任中央労働衛生専門官  先ほど黒木委員から、職場復帰のところでもっと具体的に書くべきではないかという お話がありました。ただ、職場復帰は非常に大きな問題で、それだけで専門家の先生方 に1年間議論していただいても、なかなかというところがあると思いますので、この中 にそこまで書くのはちょっと難しいと思っております。 ○和田座長  「適切な方法を考えるべきだ」とか、何かそんなような言葉を書くとか。 ○主任中央労働衛生専門官  ある意味では、先送りみたいな表現にならざるを得ないかと思います。 ○労働衛生課長  委員ともご相談しながら、キーワードを幾つか入れて少し考えてみたいと思います。 ○和田座長  そうですね。 ○保原委員  確かに、いま言われたようにこれは大きな問題で、いまの賃金体系の中に入れるのは 結構大変です。ただ、何かそういう芽を少しでも書いていただければ、将来の検討の方 向ですね。 ○和田座長  よろしいですか。それでは本日の議論を踏まえて、報告書を取りまとめていくことに したいと思います。今後のスケジュールについて事務局からお願いします。 ○主任中央労働衛生専門官  ありがとうございました。次回は7月30日(金)に予定しています。次回に報告書案 を事務局でまとめてお示しして、ご議論いただければと思っています。ただ、1回でま とめることができないかもしれませんので、もう1回の可能性もあります。そこは次回 の状況によってということで、恐縮ですが8月に入ってしまうと思いますが、よろしく お願いします。 ○和田座長  ある程度まとまりましたら、前もって委員の方たちにお送りして、それで見てやって いただくことにします。本日は非常に貴重なご意見、ありがとうございました。これで 本日の検討会を終了します。ありがとうございました。