戻る

2004年7月
第6次看護職員需給見通し策定に当たっての基本的な考え方に関する意見
社団法人日本看護協会 常任理事 菊池令子

I.需給見通し策定に当たっての基本的な考え方

1.保健・医療・福祉提供体制のあるべき姿を見据えた見通しであること
 少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国民の権利意識の昂揚や多様なニーズを踏まえ、厚生労働省は、患者の選択のための情報提供推進、質の高い医療を効率的に提供するための医療機関の機能分化・連携の推進と地域医療の確保、医療を担う人材の確保と資質の向上などの改革方針を示した「医療提供体制の改革ビジョン」を2003年8月に公表している。今回の需給見通し策定は、このような今後のあるべき医療・看護提供体制の姿を見据えたものにする必要がある。
 現在、医療機関の機能分化が進み、急性期の医療を担う病院の在院日数短縮が進む一方で、安全対策や感染管理など安全・安心の医療、インフォームド・コンセントの理念に基づいた納得と信頼の医療等、質の高い医療が求められている。このような医療ニーズを満たすには、特定の分野において専門的な知識・技術を有する専門看護師・認定看護師等の看護職員を有効に活用すると同時に、看護ニーズに応じた看護職員の確保が必要である。特に急性期の医療を担う病院において、安全で信頼できる医療を提供するために、患者数に対する看護職員数の配置を引き上げることが不可欠である。
 一方で、介護保険制度や障害者保健福祉制度の見直し、次世代育成支援の推進、在宅・養護学校における医療的ケアのあり方などが検討され、訪問看護ステーション、行政機関、介護保険施設、養護学校など地域や福祉施設等における看護の必要性が高まっている。特に、地域や在宅で生活する医療ニーズの高い人々に対する訪問看護体制の整備は急がれており、訪問看護ステーションの看護職員の確保が必要である。

2.看護職員の就業継続を高める就労条件・就労環境の向上につながる見通しであること
 医療機関においては、医療技術の高度化・在院日数の短縮化等により看護職員の業務密度が高くなり、医療安全の観点からも就労環境の観点からも抜本的な改善を必要とする厳しい状況が続いている。看護職員の需給見通し策定にあたっては、看護サービスの質を保証し、看護職員の就業継続を高める環境を整えるため、就労条件・就労環境の向上を目指す方向で見通しを策定することが重要である。

3.社会・経済状況の変化を見据えた見通しであること
 2003年の合計特殊出生率は1.29と一層の少子化が進行し、看護学校等への高校新卒者の入学者が徐々に減少することが予測される。そこで今後は、看護学校等への社会人入学の促進、就労条件の改善・次世代育成支援の推進等働きやすい職場環境づくりによる離職防止、潜在看護職員の活用、定年退職した看護職員の人材活用など、多面的な看護職員の供給対策を強化し、看護職員の供給を見通す必要がある。
 また、医療の高度化等により新卒看護職員の卒業時点での能力と医療機関等で求められる能力との乖離が大きくなってきており、さらに、新卒看護職員には医療事故につながるヒヤリハット事例が多いことから、卒後臨床研修の制度化が検討されている。新卒看護職員の就職当初の時期をカバーする看護職員や教育担当者の確保などを考慮した見通しとする必要がある。

4.都道府県において必要な看護職員を質・量共に確保することを促進する見通しであること
 都道府県における需給見通しの策定において、地域の独自性やニーズを考慮した看護職員確保を進めるために、各都道府県で計画される医療計画、地域保健計画、介護保険事業支援計画など、看護の活用が必要かつ効果的と考えられる様々な施策との関連性を考慮して策定する必要がある。
 また、策定の際には、都道府県看護協会や関係団体・学識経験者・住民の意見を聞き、看護職員の需要と供給、看護職員確保対策の必要性について、広く理解を求めながら策定することが重要である。


II.需要見通し策定にあたり具体的に考慮すべき点

1.医療機関における看護ニーズの変化に対応した看護職員配置

 患者の高齢化、医療機関の機能分化、医療内容の高度化・複雑化、医療機関内での病棟機能の分化が進む中、リハビリテーション、外来機能、地域連携の充実が図られると同時に、平均在院日数が短縮し重症患者が増加してきている。その中で、安全対策や感染管理、褥瘡対策等をとりながら、診療情報提供のため十分な説明を行うなど質の高い医療・看護サービスも保証していかなければならない。このような看護ニーズの変化に対して、今後、資質の高い看護職員の需要が質・量ともに増大していくと考えられ、医療機関における看護職員の需要については、以下の点を念頭においた算定が必要である。

(1)入院患者数に対する看護職員配置数の引き上げ

「一般病棟」及び「精神病棟」の診療報酬上の看護職員配置基準の上限は、「患者数対看護職員総配置2:1」(入院基本料)である。特定機能病院の急性期入院医療における診断群分類(DPC)に基づく包括支払い制上の看護職員配置基準も「患者数対看護職員総配置2:1」(医療機関別係数にかかわる看護職員配置基準)である。しかし、実際には、「一般病棟入院基本料I群の1」をとる病棟の看護職員配置は既に「1.7:1」となっている。そこで急性期病棟の需要算定においては、実態に即した看護職員の配置に加え、今後の在院日数短縮化・質の高いサービスの提供等の傾向を見据え、少なくとも「1.5:1」にまで引き上げる必要性を念頭においた上で看護職員の需要を見込む。

2004年4月の診療報酬改定で新たに導入された「ハイケアユニット入院医療管理料」は、重症度の高い患者への集中的な治療を評価し、手厚い看護体制(看護職員配置常時4:1)を前提としている。この取得意向について、日本病院会統計情報委員会の調査では、430病院のうち3.0%の病院が「取得準備中」、18.8%が「取得検討中」としている。
 また、「亜急性期入院医療管理料」は、急性期を脱した患者や、在宅や介護施設で急性増悪した患者を対象とし、「患者数対看護職員総配置2.5:1」以上で、かつ専任の在宅復帰支援担当者の配置を条件としている。この取得意向については日本病院会統計情報委員会の調査で432病院のうち11.2%の病院が「準備中」、31.0%が「検討している」と回答し、取得意向が高い。
 今後はこのように病棟の機能分化に基づき、看護職員をより高い基準で傾斜配置する傾向が強まることが予測され、このような動向を見据えて看護職員の需要を見込む。

「診療情報の提供等に関する指針」の策定、個人情報保護法の2005年4月全面施行など、インフォームド・コンセントの理念に基づく医療・看護の推進が強く求められている。患者の身近でケアを行う看護職員は、今後、患者に対し充分な情報提供・説明と相談対応を行うことが求められることから、その役割を果たすことができるような看護体制の充実が必要であり、その人員配置を見込む。

(2)医療事故のない安全な医療・看護サービスの提供を保障する看護職員配置
医療事故の発生が社会問題となっており、医療事故を防止し、安全な医療・看護を提供する体制の確保が急がれる。基本的には、入院患者数に対する看護職員配置数の増加が必要となることから、その増加傾向を見込む。

また、患者・家族に対する医療事故等の相談窓口や、リスクマネジメント担当部門の設置および機能強化が求められることから、リスクマネージャーの役割を果たす看護職員の配置実態を踏まえ、今後の配置増加を見込む。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」では、「患者・家族に対する医療事故等の相談窓口」のある病院が53.7%であった。専任の看護職員を配置している病院が7.6%、兼任の看護職員を配置している病院が35.0%であった(複数回答)。
リスクマネジメントの担当部門」を設置している病院は62.1%であった。専任の看護職員を配置している病院は10.8%、兼任の看護職員を配置している病院は57.7%であった(複数回答)。

(3)夜間看護体制の充実を考慮した看護職員配置
医療内容の高度化・複雑化、在院日数の短縮化に伴い、昼夜の業務量の差が少なくなってきている。本会調査では、1看護単位における夜勤人数は全体に多くなり、「3人夜勤」が主流になってきた。しかし、それでも医療現場においてはまだ不足感が強い。そこで急性期病院における夜間帯の業務量を考慮し、入院患者数10人に1人の看護職員を見込む。

表 夜勤人数別看護単位数の構成比(一般病棟 3交代制・変則3交代制の深夜勤帯)
  1人夜勤 2人夜勤 3人夜勤 4人夜勤 5人夜勤 6人以上
1999年調査 0.8% 49.2% 40.5% 6.3% 2.1% 1.1% 100.0%
2003年調査 0.3% 39.7% 48.5% 7.2% 2.4% 1.8% 100.0%
*日本看護協会「病院における看護実態調査」

急性期医療においては夜間帯の手厚い看護体制は入院患者の安全な医療・看護を提供する観点から不可欠である。診療報酬上の夜間勤務等看護加算1によって、「入院患者対看護職員10:1以上、月平均夜勤時間数72時間以下」の看護体制の評価が行われており、この普及を見込む。

夜間の看護体制については、病棟のみではなく、手術室、救急外来においても充実する必要があり、当直制ではなく夜勤体制をとるための看護職員配置を見込む。

(4)特定の分野で専門的な看護を提供する看護職員の配置
医療の高度化・複雑化に伴い、個別患者への医療・看護サービスだけでなく、安全対策・感染管理・褥瘡対策・栄養食生活支援など、病院組織として、委員会を設置し専任のチームで病院の医療・看護サービス全体の質向上を図る体制整備が求められている。このような状況の中で、患者の個別ケアに専任で配置される看護職員とは別に、特定の分野の専門的な知識・技術を有する看護職員(専門看護師・認定看護師を含む)の需要が増加しており、その適切な配置を見込む。

医療安全対策のため、病院に専任の医療安全管理者(リスクマネージャー)を配置する。
重症急性呼吸器症候群(SARS)等の新興感染症等に対応する感染症指定医療機関は当然のこと病院に、感染管理認定看護師を配置する。
 同様に、救急看護、重症集中ケア、WOC看護、ホスピスケア、がん性疼痛看護、がん化学療法看護、感染管理、糖尿病看護、不妊看護、新生児集中ケア、透析看護、手術看護の認定看護師や、専門看護師、臓器移植コーディネーター、治験コーディネーター、HIV専任コーディネーターなど、高度な知識・技術を有する看護職員を、その機能を有する病院において適切に配置・活用する。

専門看護師
がん看護、精神看護、地域看護、老人看護、小児看護、母性看護、成人看護(慢性)
認定看護師
救急看護、重症集中ケア、WOC看護、ホスピスケア、がん性疼痛看護、がん化学療法看護、感染管理、糖尿病看護、不妊看護、新生児集中ケア、透析看護、手術看護

(5)医療機関の新たな機能・役割に対応した看護職員の配置
在宅医療の施策展開の中で、従来入院で行っていた手術、輸血・化学療法等の処置を外来で実施する傾向が強まりつつあり、外来機能が多様化している。このような外来機能の強化に合わせて、看護職員が多く配置されるようになってきており、今後の配置増加を見込む必要がある。

疾病・障害をかかえながら療養生活をおくる外来患者に対して、療養相談・指導、保健相談を実施する病院が多い。個々の患者の状態に合わせた、専門的できめ細かな療養相談を担当する看護職員の配置実態を踏まえ、今後の配置増加を見込む。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」では、保健相談部門を設置している病院が26.5%あった。5.8%の病院が専任の看護職員を、27.0%が兼任の看護職員を配置していた(複数回答)。

医療機関の機能分化、地域医療の推進、介護保険サービス機関の整備が図られる中、入院患者の退院を円滑に進めるため、退院を支援し調整する部門や、地域の保健医療福祉機関や介護保険サービス機関との連携を積極的に進める地域連携室を設置する病院が増えてきている。入院患者の退院調整や他機関との連携調整を担う看護職員の配置実態を踏まえ、今後の配置増加を見込む。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」では、退院調整部門を設置している病院が34.0%あった。8.2%の病院が専任の看護職員を配置し、25.2%の病院が兼任の看護職員を配置していた(複数回答)。
また、介護保険サービスの実施および院外の介護保険施設との連携を行うにあたり、介護支援専門員を配置している病院が45.2%を占めた。配置している介護支援専門員の中で看護師の資格保持者は1施設あたり平均3.4人である。

(6)次世代育成支援対策推進に果たす看護職員の役割を評価した配置
少子化が進み、「夫婦の出生率の低下」が問題となる状況の中で、分娩のQOLの確保の観点から、より安全で快適な出産前後のサービスを提供する「院内助産院」が注目されている。今後の「院内助産院」の普及に伴う助産師配置を見込む。

児童虐待/DVの早期発見や相談の促進策として、病院内に相談窓口や他機関との連携等のための窓 口を開設し、看護職員を配置する先駆的事例が見られる。そこで、このような部署への適切な看護職員の配置を見込む。

(7)病棟以外の部門の看護職員配置
病院が効率的・効果的にサービスを提供するために、病棟以外の外来、救急、手術室、中央材料室等がそれぞれの機能を果たしている。これらの部門における看護職員の配置も見込む。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によると、手術室が「ある」と回答した病院は1824病院(71.1%)であり、そのうち1026病院が専任看護職員を配置しており、1病院あたりの平均専任看護職員数は11.7人であった。

(8)新卒看護職員の卒後臨床研修の必要性を考慮した看護職員配置
医療の高度化等により新卒看護職員の卒業時点での能力と医療機関等で求められる能力との乖離が大きくなってきており、また、新卒看護職員には医療事故につながるヒヤリハット事例が多いことが指摘されている。
 これまで医療機関においては、新卒看護職員の教育を、先輩看護職員や上司が通常業務の傍ら行ってきた。しかし、看護業務の過密化が進む昨今ではそうした教育体制の限界が指摘され、看護の質の確保、安全な医療・看護の提供という点からも、新卒看護職員の卒後臨床研修が検討されている。そこでこれからの需要を見通す上で、新卒看護職員の就職当初の時期をカバーする看護職員や、新卒看護職員の臨床研修を担当する専任の教育担当者の確保を見込む必要がある。
日本看護協会「新卒看護師の看護基本技術に関する実態調査」によると、新卒看護師の7割以上は、基本となる看護技術103項目のうち99項目について、入職時に1人で実施できず、入職3ヶ月経過しても68項目について1人で実施できていない。それにも関わらず、半数以上の新卒看護師が入職2ヶ月で夜勤業務を開始している。

(8)診療所における看護職員の配置
今後、診療所は、在宅医療や地域での終末期医療において重要な役割を担うことが予測されるため、適切な看護職員配置を見込む必要がある。特に、入院患者がいる場合には、常時看護職員の配置が必要である。2004年4月より有床診療所の夜間の緊急対応の評価として夜間看護職員配置が算定要件としてあがっており、この取得傾向を踏まえた看護職員配置を見込む。

2.地域保健福祉・在宅医療分野における看護職の職域・役割の拡大を見据えた看護需要

 医療提供体制の改革による在院日数の短縮化や高度医療の進展に伴い、在宅療養者の医療ニーズが高まっている。また、これまで家族の介護負担を考えて、施設での生活を余儀なくされていた障害者が、さまざまな医療機器を装着し、訪問看護サービス、ボランティアやピアサポート等に支えられて、地域での自立生活をはじめている。このような状況において、地域における看護職員の職域・役割が拡大しており、これらを踏まえた需要を見込む必要がある。

(1)訪問看護ステーションの看護職員
ゴールドプラン21の設置目標は9,900か所であるが、平成16年4月1日現在では5,571か所(うち休止は152か所、日本訪問看護振興財団調査)にとどまっている。医療ニーズの高い利用者に対し、24時間365日の手厚い看護サービスを提供するために、訪問看護ステーションをさらに約4,500か所増やす必要がある。また、医療ニーズの高い利用者の在宅生活を支え、家族支援を行うためには、訪問看護ステーションの機能拡充も重要で、通所複合型看護、夜間・早朝ケア、レスパイトケアなどが提供できる体制(小規模・多機能・地域密着型の訪問看護ステーション)が必要である。これらの基盤整備を達成するための訪問看護職員の需要を見込む。

在宅医療の推進に伴い、訪問看護の対象者が、小児科患者、精神疾患患者、がん患者、終末期患者等に広がりつつある。このような訪問看護ニーズに対応するための訪問看護職員を見込む。

居宅以外の施設への訪問看護ニーズの拡大を考慮する。
痰の吸引や経管栄養など医療行為を必要とする児童・生徒のいる養護学校への訪問看護。
医療的ケアの必要な入居者や精神障害者等がいるグループホームへの訪問看護。

(2)介護保険関連施設の看護職員
病院の在院日数短縮により介護保険施設の入所者は、何らかの医療処置を必要とする人の割合が増え重症化している。また、終末期を介護保険施設で迎える人も増えている。このような状況の中で、看護職員が24時間対応可能な看護体制が必要で、夜間は入所者50人に看護職員1人以上の配置が必要である。このための適切な看護職員配置を見込む。

医療的なケアを必要としている利用者が増えているグループホームにおいて看護職員の配置を見込む。

(3)その他社会福祉施設における看護職員
利用者の高齢化、障害の重度化・重複化の傾向が進んでいることから、保護施設(救護・更生施設)、老人福祉施設、身体障害者更生援護施設等、法律上看護職の配置が義務付けられている社会福祉施設に必要な看護職員を見込む。

児童相談所、児童自立支援センター、児童養護施設、保育所では、現在看護職員の配置が必須ではないが、入所児童の適切なケア・健康管理を行うために看護職員の適切な配置を見込む。
 また、平成15年7月の児童福祉法改正により、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設の長は、地域の住民に対して、児童の養育に関する相談に応じ、及び助言を行うよう努めることとなった。これら施設における相談員として看護職員の適切な配置を見込む。

精神病院入院患者72,000人の社会的入院の解消に向けた支援体制整備、在宅・地域中心の精神保健福祉施策推進の観点から、新「障害者プラン」においては、在宅サービスとして、精神障害者地域生活支援センター(約 470か所整備)、精神障害者グループホーム(約12,000人分整備)、精神障害者福祉ホーム(約4,000人分整備)、施設サービスとして、精神障害者生活訓練施設(援護寮)(約 6,700人分)、精神障害者通所授産施設(約 7,200人分)を整備するとしている。これらの動向に鑑み、法律上看護職員の配置が義務づけられていない精神障害者社会復帰施設等においても必要な看護職員の配置を見込む。

(4)行政機関における看護職員
市町村において、健康づくり事業、母子保健対策、虐待やDV対策、老人保健事業、介護予防施策、介護保険施策、障害者施策、精神障害者の退院促進に向けた地域精神保健福祉施策など多くの事業が必要とされ実施されている。これらの事業について、質を確保しながら効率的に運営できるように、保健師等看護職員を増員し適正な配置を見込む。
 現在、住民ニーズの様相は多様化を呈し、児童虐待やDV、多問題事例、人格障害、難病者など、専門性の高い決め細やかな対応を必要とする事例が増加している。在宅ケアに関しても、提供するケアサービスの質や量の調整、供給体制作りなど、行政保健師のマネージメント機能が期待されている。

次代の社会を担う子供が健やかに生まれ、育成される環境の整備のために、看護職員を活用した先駆的な取り組みが数多くある。子育てを行っている若い世代は、前の世代に比して相対的に親の援助が得られにくい世帯構成となりつつあり、「地域で子育てを行う」体制作りが喫緊の課題となっている。こうした状況の中、保健師などを中心にした子育て支援委員会を小学校区ごとに設置する等、地域母子保健ネットワークの担い手として保健師が位置付けられている。また、相談支援や児童虐待の早期発見・防止、病児・病後児保育に、看護職員の専門性が必要とされ、以下のような効果をあげている。
 今後は、先進的な市町村のみではなく、平成15年7月に制定された「次世代育成支援対策推進法」に基づき、全ての自治体が次世代育成支援対策のための行動計画を策定・実施する必要がある(平成17年3月末までの策定を義務付け)。したがって、市町村、県における次世代育成支援対策への看護職員の活用はいっそう高まると考えられ、これを見込む必要がある。
子育て支援総合推進モデルや、次世代育成支援に関わる先進的取り組みをしている市町村には、保健師・助産師・看護師を活用することにより、地域における子育て支援を進めている以下のような事例が数多く見られる。
児童虐待予防ネットワークや児童相談所の児童虐待対応部門の中に保健師・助産師が位置付けられることにより、現場でのより的確な児童の状態把握や医療機関との速やかな連携、保護者への対応等に効果がみられた事例
出産後6ヶ月前後の母子に対し、保健師・助産師による家庭訪問を行い、育児技術の習得及び出産直後の育児不安の軽減を目途とした相談を実施することにより、産後うつ病等の防止に役立った事例
病児・病後児への施設ならびに通所保育に訪問看護ステーションを活用している事例
ひとり親世帯への相談、妊産婦の健診・保健指導、24時間子育て相談ホットライン など

保健所等において、ADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)などの発達障害児は新生児訪問等の家庭訪問や定期健診で発見されることが多い。これらの母子に対する支援は、個別性を重視した、専門性の高い業務であることから、これに対応できる看護職員の適切な配置を見込む。

平成15年3月に閣議決定された「次世代育成支援対策に関する当面の取り組み方針」の中で47都道府県に不妊専門相談センターを設けることとされている。この相談員として「不妊看護認定看護師」などの看護職員を見込む。

保健所等の機能として、今後、新興感染症や生物兵器テロへの対応など住民の生命や健康を守るための危機管理や、医療安全対策に向けた医療監視などが重要になってくると考えられので、その機能強化に必要な看護職員の配置を見込む。

(5)養護学校等の看護職員
平成15年度より、養護学校において特別な医療行為が必要な障害者(児)に対し、訪問または通所で看護を提供する「養護学校における医療的ケアに関するモデル事業」が開始され、看護師の配置措置は、平成15年の32県162校から、平成16年には40県に拡大している。これにより、児童の出席日数の上昇や保護者の負担の軽減といった成果が上がっている。このような実態を踏まえて、日常的に医療行為を必要とする児童(盲・聾・養護学校における日常的に医療行為が必要な児童数は5,279名(5.7%)、平成16年4月文部科学省調査)の在籍する養護学校への看護職員の配置を見込む。

小学校、中学校、高校において、児童・生徒の応急的医療処置、メンタルヘルス、健康管理などを行う看護職員の配置を見込む。

看護学校など看護教育機関の看護教員の配置を見込む。

(6)企業・事業所等で産業保健を担う看護職員
中高年男性のうつ病・自殺者が増加しており、職域におけるメンタルヘルスへの取り組みが重要となっている。企業・事業所等において、従来の生活習慣病予防等も含め、働く人の健康づくりを推進する上で必要な保健師等看護職員を見込む。

3.看護職員の就労条件・就労環境の向上を見据えた算定

 医療技術の高度化・在院日数の短縮化等により、看護職員の業務密度が高まる中で、就業継続を高めるために就労条件・就労環境を整備することを念頭におきつつ、見通しを策定する必要がある。

(1)看護職員の基本的な就労条件の向上を考慮した算定
週所定労働時間が短縮化しており、本会調査によると病院における2003年の週所定労働時間は平均39時間05分であった。この短縮化傾向を念頭に置く必要がある。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、1999年調査と比較して11分短縮した。

所定外労働時間が一部では短縮化しており、本会調査によると病院における2003年の所定外労働時間は、1ヶ月間に「病棟」6.0時間、「手術室」12.9時間、「外来」5.7時間であった。この短縮化傾向を念頭に置く必要がある。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、病院の1ヶ月の超過勤務平均時間は、「病棟」6.0時間、「手術室」12.9時間、「外来」5.7時間であった。前年1999年調査と比較すると、「外来」では変化がみられないが、「病棟」(6.6時間)と「手術室」(14.2時間)では減少した。

完全週休2日制が普及しつつあり、その傾向を念頭に置く必要がある。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、病院における看護職員の63.2%が完全週休2日制の適用を受けている。

病院における看護職員の年次有給休暇の取得率が減少し、2003年の平均休暇取得日数は9.2日であったが、取得しやすい勤務環境を整備する対策を考慮した上で、取得日数の増加を見込む必要がある。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、看護職員1人あたりの平均取得日数は1年間に9.2日であり、前回1999年調査と比較して1日短縮した。

病院において夜勤に従事する看護職員の夜勤回数が増加し、本会調査によると、2003年9月における三交代(変則3交代含む)の平均夜勤回数は看護職員1人当たり8.0回、二交代の平均夜勤回数は4.8回であった。1人当りの夜勤回数を改善する対策を考慮した上で、夜勤回数の減少を見込む必要がある。
日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、三交代(変則3交代含む)および二交代の平均夜勤回数は、前回1999年調査と比較してそれぞれ0.2回、0.1回増加した。

(2)看護職員の仕事と家庭生活の両立を支援する環境整備を考慮した算定
看護職員は女性が95.6%(厚生労働省「平成14(2002)年度衛生行政報告例」)を占めており、妊娠・出産・育児時期を経ながら就業継続・再就職する人が多い。そのため、従来妊娠・出産期の母性保護措置、育児休業制度、産休・育児休職中の代替要員確保などを、看護需要に組み込んでおく必要があった。近年、日本全体で少子化が進行したことを背景として、次世代育成支援対策が推進され、看護職員の働く職場においても一般事業主行動計画の策定が行われることから、妊娠・出産・育児を支援し就業し続けられる体制が一層整えられつつある。
 また、高齢化社会が進行する中で、介護休業をとる看護職員もいる。
 看護職員の就労意識が多様化する中で、家族的責任を有する看護職員の短時間勤務制度の導入など柔軟な働き方ができる体制が整えられ、合理的でない処遇格差が是正されて、就業形態が多様化することが予測される。
 これらのことから、次の影響を考慮して代替要員確保などの看護需要を算定する必要がある。

妊娠・出産期の母性保護措置
 夜勤免除、夜勤回数減、超過勤務免除、保健指導・健診受診時間の保障、つわり休暇等
育児・介護休業等に定める措置
 育児休業、介護休業、短時間勤務制度、所定外労働の制限、子どもの看護休暇等

日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、育児休業利用状況は1病院につき5.9人、育児休業取得率は86.9%、平均休業期間は9.7ヶ月である(※以上全て女性のみの数値)。育休・介休代替要員の確保が「おおむね確保できている」と回答した病院は30.4%に過ぎなかった(※「育休・介休取得者はいなかった」と回答した病院を除いて再集計した数値)。
2005年4月施行を予定した育児・介護休業法改正案が国会で継続審議中である。この中で、育児休業期間を1年6ヶ月まで延長、年間5日間を上限とする看護休暇の制度化、育児休業対象労働者の拡大(同一の雇用主に1年以上雇用されかつ育休等終了後も雇用継続が見込まれる者に限り、有期雇用者も育休・介休の対象労働者として加える)が予定されている。これらの影響による代替看護職員の増加を見込む必要がある。

日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、病院において介護休業を取得した看護職員は常勤看護職員全体の0.1%で、平均取得日数は2.9ヶ月であった。

(3)病気・ケガ休暇取得による労働損失の影響を踏まえた算定
病気・ケガにより長期休暇を取る看護職員がおり、今後、メンタルヘルス対策を含む働きやすい環境の整備が進められたとしても、病気・ケガによる休職者は一定の割合で存在すると考えられることから、その労働損失の影響を踏まえ、代替要員の確保などを見込む必要がある。
*日本看護協会「2003年病院における看護実態調査」によれば、2003年4〜9月の半年間において、1ヶ月以上の病気休暇を取った看護職員の割合は、常勤看護職員の1.3%であった。

(4)看護職員の知識・技術の向上やキャリア開発のための研修休暇・進学休職を考慮した算定
医療技術の進歩や国民のニーズに対応し、安心・安全で質の高い看護サービスを提供し続けるために、また、看護職員自身のキャリア開発の観点から、看護職員にとって継続教育や進学など生涯教育は非常に重要である。そのため、教育・研修休暇をとる看護職員や進学休職する看護職員は多いが、今後ともその傾向は強まるものと予測される。これらの教育・研修休暇取得者、進学休職者の代替要員の確保などを見込む必要がある。


III.供給見通し策定にあたり具体的に考慮すべき点

 2003年の合計特殊出生率は1.29と一層の少子化が進行し、18歳人口の減少により、看護学校等への高校新卒者の入学者が減少することが予測される。女性の労働力率が上昇し就業機会も拡大しているため、多様な職業の選択肢の中から看護職員が選び取られるような魅力ある職業とすることがますます必要である。
 看護学校等の入学者として、高校新卒者ばかりでなく社会人入学者を増やし、養成数を確保する必要がある。
 また、就労条件の改善や次世代育成支援の推進など働きやすい職場環境を作ることによって離職者を減少させると同時に、潜在看護師や定年退職者の再就業を強化する方向で、看護職員の供給を見込むことが重要である。そのためには、ナースセンターの機能強化が必要である。
 具体的には、以下の点を考慮する必要がある。

1.新卒者
看護学校等の新設・統合・廃止の動向、少子化による18歳人口の減少、社会人入学の動向、中退率、卒業直後の就職率など。

2.再就業者
ナースセンターの機能強化等を進めることによって、育児等の理由で離職し未就業のまま潜在化している看護職員の再就職者が増えることを見込むと同時に、失業時期のない再就職が進むことを見込む。「紹介予定派遣」制度を通じた再就職者の動向も考慮する。

定年退職後に「セカンドキャリア」として就労し続ける前期高齢者のベテランナースの活用拡大を考慮する。

3.離職防止
(1)次世代育成支援の推進による就業継続の促進と離職防止
保健医療福祉施設が一般事業主行動計画に基づき実施する次世代育成支援対策により、産前産後の母性保護措置、子の看護休暇等の育児期の援助措置、休業中の看護職員の職場復帰支援等が充実し、多様な働き方が広がる可能性があることから、結婚・出産・育児を機とした看護職員の離職が減少することが予測される。このため、就業継続する看護職員が増えることを見込む。

(2)就労条件・就労環境の改善による離職防止
看護職員が働きやすく、生きがいや誇りを持てる就労条件・就労環境を整備することにより、離職者を減少させることが可能である。今後、看護管理体制が充実し、医療安全対策、夜勤体制改善、職場感染・被曝事故・暴力(身体的・精神的)に対する労働安全衛生対策などが推進され、働きやすい環境が作られることで、離職率が減少することを見込む。


IV.需給見通し策定に加えて必要な看護職員確保対策について

 今後予測される看護職員の需要を満たすためには、実際に医療機関や地域等において看護職員を雇うことができる状況を作り出すために、次のような看護職員確保対策が非常に重要である。

(1)資質の高い看護職員の育成・確保
専門看護師、認定看護師の育成・導入促進
看護職員の継続教育・研修に対する支援促進
看護師養成2年課程(通信制)の推進・普及
准看護師養成課程から看護師養成課程への切り替え促進
看護職員養成体制の都道府県格差の是正 など

(2)新卒看護職員の臨床研修制度化の検討
新卒看護職員の教育担当者の設置 など

(3)看護職員の雇用促進対策
診療報酬・介護報酬による財源措置の強化
就労条件・就労環境の改善対策
保健師配置予算の確保対策(市町村合併による保健サービス低下を招かないためにも重要)
専門看護師、認定看護師など特定の分野において専門的な知識・技術を有する看護職員の処遇のあり方の検討 など

(4)ナースセンターの機能強化
ベテランナースの再就業促進
新卒看護職員等の離職防止
求人・求職登録の拡大、ミスマッチの少ない職業紹介、相談機能強化のための補助金の充実


トップへ
戻る