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資料1

アレルギー物質を含む
食品に関する
表示について

検討報告書(案)


平成16年7月23日
食品の表示に関する共同会議



1. アレルギー物質を含む食品に関する表示を取り巻く環境、制度

 食物アレルギーとは、食物を摂取した際、身体が食物(に含まれるタンパク質)を異物として認識し、自分の身体を防御するために過敏な反応を起こすことをいう。

 アレルギーをはじめとした過敏症を惹起することが知られている物質(以下「アレルギー物質」という。)を含む食品のうち、特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高い小麦、そば、卵、乳及び落花生の5品目(以下「特定原材料」という。)を原材料とする加工食品については、これらを原材料として含む旨を記載することを食品衛生法で義務づけ、平成13年4月1日より施行している(経過措置期間1年間)。

 あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの19品目についても、食物アレルギーの実態及びアレルギー誘発物質の解明に関する研究から、過去に一定の頻度でアレルギーの発症が見られていることを踏まえ、法的な義務を課さないものの、アレルギー疾患を有する者への情報提供の一環として、当該食品(以下「推奨品目」という。)を原材料として含む旨を可能な限り表示するよう努めるよう、平成13年4月1日より通知で推奨している。

 制度導入から約3年間が経過したところであるが、その間、食物アレルギーに係る種々の研究が実施され、新しい報告等がなされていることから、アレルギー表示制度全般について、見直しを検討することとしたものである。

2. 制度見直し検討の基本的考え方

 本制度は、アレルギー疾患を有する者の健康危害の発生を防止する観点から、特定原材料等を含む加工食品の製造者等に対して、表示を義務付け、又は表示を推奨するなど一定の行為を求めるものである。

 この点を踏まえ、次の視点に着目して本制度の見直しについて検討した。
1)  健康被害防止の視点
 健康危害の発生を未然に防止する本制度の目的を踏まえ、最新の科学的知見に基づき、必要な措置を検討する。

2)  実現可能性の視点
 表示を義務づけ、又は表示を推奨するなど、製造者等に対して一定の行為を求めることとともに、表示が適正に実行できるか否かの検証、監視指導等を行うことが実行可能かとの視点に基づき、合理的な措置を検討する。

3.  食物アレルギーに係る実態調査

 現行の対象品目は、平成10〜11年度に行われた「食物アレルギー即時型に関する全国疫学調査」を基に、表示義務品目を5品目とし、表示推奨品目を19品目としたところである。

 本制度施行後に、平成10〜11年度調査に指摘された問題点を踏まえ、新たな疫学調査(平成12〜14年度厚生労働科学研究「重篤な食物アレルギーの全国調査に関する研究」(分担研究者:飯倉洋治昭和大学医学部小児科教授)1)が実施されている。また、食物アレルギー患者等を対象にした調査(「食物アレルギー発症リスク軽減のためのリスクコミニュケーション調査研究」(主任研究者:今村知明東京大学医学部附属病院企画情報運営部助教授))が実施されている。また、兵庫県立生活科学研究所等の報告書も参考とした。

 これらの調査結果をまとめると、次ページのとおりである2。なお、表枠中の調査名の略称については、以下のとおり。

「今回の調査」 海老澤元宏:食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究
(分担研究 飯倉洋治:重篤な食物アレルギーの全国調査に関する研究)
「今村らの報告」 今村 知明:食物アレルギー発症リスク軽減のためのリスクコミニュケーション調査研究
「前回の調査」 名倉宏:食物アレルギーの予防等に関する研究
(分担研究 飯倉洋治:食物アレルギー対策検討委員会報告)

順位 今回の調査
全体
今回の調査
ショック例
今村らの報告 前回の調査
1 ◎ 鶏卵 (1486) ◎ 鶏卵 (109) ◎ 乳 (257) ◎ 卵
2 ◎ 牛乳・乳製品 (616) ◎ 牛乳・乳製品 (93) ◎ 卵 (168) ◎ 牛乳
3 ◎ 小麦 (311) ◎ 小麦 (70) ◎ 小麦 (111) ◎ 小麦
4 ◎ そば (179) ◎ そば (28) ◎ 落花生 (36) ◎ そば
5 ○ えび (161) ◎ ピーナッツ (18) ○ 大豆 (22) ○ えび
6 ◎ ピーナッツ (110) ○ えび (14)   ごま (15) ◎ ピーナッツ
7 ○ いくら (87) ○ いくら
○ もも
(8) ◎ そば (14) ○ 大豆
8 ○ 大豆 (76) ○ キウイフルーツ (13) ◎ チーズ
9 ○ キウイ (75) ○ 大豆
○ キウイ
(7) ○ くるみ (12) ○ キウイ
10    バナナ
○ かに
(40) ○ えび
○ ゼラチン
(10) ◎ ヨーグルト
11    バナナ
○ やまいも
(4) ○ いくら
12 ○ 鶏肉
○ くるみ
(32) ○ いくら (9) ○ 牛肉
13 ○ かに
○ いか
○ さけ
(3) ○ かに
○ やまいも
(6) ○ かに
14 ○ いか (30) ○ 豚肉
15 ○ さば (24) ○ さけ
○ さば
(5) ○ さば
16 ○ 豚肉 (23) ○ くるみ
○ 豚肉
   たこ
(2) ○ 鶏肉
17 ○ さけ (22)    アーモンド
○ いか
   たい
   バナナ
   まぐろ
(4) ○ いか
18 ○ ゼラチン (18) ○ さけ
19    カカオ (16) ○ さば
○ ゼラチン
   まぐろ
○ 牛肉
   ごま
   ほたてがい
(1)    こめ
20 ○ やまいも (15) ○ 桃
21 ○ もも (14)    チョコ
22    メロン
   まぐろ
(13)    いちご
   かつお
   かれい
○ 牛肉
   魚卵
○ 鶏肉
   香料
   さわら
(3)  
23
24    たこ (12)
25 ○ 牛肉
   ごま
   たら
(11) (424)
26
27
28    りんご
   あじ
   ほたてがい
(10)
29
30 (927)
  (3840)  
注: 現在特定原材料である5品目に◎、推奨品目である19品目に○を付している。

4. アレルギー表示のあり方に係る具体的事項
(1)  表示対象品目の見直し

 前回の調査と今回の調査を比較すると、全体の発症数の順位については、上位6品目が完全に一致しているとともに、他の品目についても大きな相違は見られなかった。また、ショックの発症数の上位5品目は、現行の本制度の義務表示5品目に一致していることが認められた。以上のことから、アレルギー発症状況について制度導入から大きく状況は変わっていないと認められる。
 なお、今回の調査の結果をみると、特定原材料5品目で全アレルギー発症数の約70%(2702/3840)、全ショック発症数の約75%(318/424)を占めている。また、発症数の視点から表示を義務づけた鶏卵、牛乳・乳製品及び小麦については、それぞれ全アレルギー発症数の約39%(1486/3840)、約16%(616/3840)、約8%(311/3840)であり、症状の重篤性の観点から表示を義務づけたそば及び落花生については、それぞれ全ショック発症数の約7%(28/424)、約4%(18/424)であった。

 推奨品目については、おおむね前回の調査と今回の調査の結果は同一であり、今回の調査において症例の報告が非常に少なかった「まつたけ」(0例)、「あわび」(3例)及び「オレンジ」(4例)については、過去に症例報告もあることから、直ちに症例推奨品目から除外するよりも、さらなる調査検討を進めることとする。

 現在推奨品目である「えび」については、前回の調査と同様に相当程度の発症件数が認められた。一方で、現在、日本標準商品分類における「えび類(いせえび・ざりがに類を除く。)」に該当するものを指すとされている「えび」の範囲については、いせえび・うちわえび・ざりがに(ロブスター等)類における発症の実情や、検知技術、えび類とざりがに類等の交差抗原性の検討の有無等、「えび」を対象とした詳細な技術的検討を開始する必要がある。

 前回の調査において発症件数が認められなかった「バナナ」については、今回の調査において一定の発症数が認められた。

 「ごま」については、前回の調査において発症数が認められなかったが、今村らの報告における発症数では、上位(第6位)に位置づけられた。今村らの報告は患者及びその家族等を対象としたレトロスペクティブな調査であるため、記憶バイアス等が介在している可能性が否定できないため、さらなる調査を積み重ねることが必要である。

 「カカオ」、「メロン」及び「まぐろ」等については、多くはないものの一定数の発症が認められたことから、引き続き調査を行い、状況把握に努めるべきである。

(まとめ)
 以上の検討の結果、特定原材料(義務表示5品目)については、引き続き維持すべきである。また、推奨品目(法的に義務を課すものでないが、通知で表示を推奨する品目)については、制度導入以降3年間しか経過していないことも踏まえ、現在の19品目を引き続き維持するとともに、新たに、「バナナ」を追加することが適当である。
 なお、バナナについては、既に表示が義務づけられている「原材料」として使用される場合が多いこともあり、現時点における推奨品目としての表示指導・励行に当たっては、製造業者等の実行可能性に配慮するべきである。また、加工食品等によるアレルギー発症について引き続き調査研究や状況把握に努めるべきである。

(2)  コンタミネーション(混入)の防止

 原材料としてアレルギー物質を使用していない食品を製造等する場合であっても、製造工程上の問題等によりコンタミネーション3が発生することが国民生活センターの調査等で指摘されており、これが原因となりアレルギー疾患を有する者に健康危害が発生することが懸念されている。

 このような現状を踏まえ、
他の製品に用いた原材料中のアレルギー物質が製造ライン上で混入しないよう当該製造ラインを十分に洗浄する
アレルギー物質を含まない食品から順に製造する
可能な限り専用器具を使用する
等、関係製造者等がコンタミネーションを防止するための対策の実施を徹底すべきであるが、これらのコンタミネーション防止対策の徹底を図ってもなおコンタミネーションの可能性が排除できない場合については、アレルギー疾患を有する者に対する注意喚起表示(例 本品製造工場ではそばを含む製品を生産しています)を引き続き推奨し、健康危害の発生防止を図る。

(3)  特定原材料等を使用していない旨の表示の新規促進

 推奨品目の表示について、健康被害防止の視点と実現可能性の視点をあわせて考えると、法的に義務付けることは困難である。 しかしながら、推奨品目については、その表示を欠く場合、アレルギー疾患を有する者は当該食品が「推奨品目を使用していない」のか「推奨品目を使用しているが、表示がされていない」のいずれが正しいのかを正確に判断することができず、食品選択可能性が狭められているとの指摘がなされている。

 したがって、「一定の特定原材料等を含むであろう」とアレルギー疾患を有する者が社会通念に照らし認識する食品については、当該特定原材料等を使用せずに当該食品を製造等した場合にあっては、当該特定原材料等を使用していない旨の任意表示(例 本品はたまご及び大豆を使っていません。)を新規に促進することが求められる。なお、特定原材料等を「使用していない」旨の表示は、「含んでいない」ことを必ずしも意味するのでなく、特定原材料等の使用の有無について表示者が適切に確認したことを意味するものである。

(4)  アレルギー疾患を有する者に分かりやすい表示方法

 現行制度においては、アレルギー物質の表示は見づらく、わかりにくいとの声が多い。一方、わかりやすい表示を実現するための表示スペースは限られている。また、色分け等を一律に義務づけた場合、コスト増を招くとともに、特定原材料等が有害なものであるかのような誤認を一般消費者に与えるとの指摘もなされている。

 これらの指摘を踏まえ、製造者等による自主的な取組みを妨げずに、アレルギー疾患を有する者にとっての視認性を高め適切な判断を可能にする方策として、原材料表示のうち特定原材料等に係る表示について、優良誤認表示に当たらないよう配慮しつつ、製造者等が文字の色や大きさを変えたり、一括表示欄外に別途強調表示する等の任意的な取組みを容認する(食品衛生法及びJAS法における取扱いを明確化)ことが適当である。

(5)  制度の普及啓発、研究の促進等

 アレルギー疾患を有する者及び製造業者等の本制度に対する理解度や、製造業者等による表示の実施状況は不十分との調査結果が得られている。また、食品衛生監視員の食物アレルギーや、表示のルールの理解度も十分でないとの指摘もなされている4

 以上の状況に照らし、アレルギー疾患を有する者及び製造者等に対する周知広報を着実に実施し、本制度が適確に実施されるような環境づくりに努めることが特に重要である。とりわけ、食品の安全性の確保について第一義的責任を有する製造業者、卸売業者、小売業者等が、アレルギー物質を含む食品が流通する過程において、それぞれが適切な表示を行うことが重要である等の観点から、製造者等に対するリーフレット等を通じた普及啓発に努めるべきである。

 また、「食育」や「リスクコミュニケーション」の取組みを通じて、アレルギー疾患を有する者及び製造者等を含む関係者並びに消費者に対し、健康危害の発生防止のために必要な情報が提供されることが重要である。

 製造者等が行うアレルギー表示の適正化・充実化には、食品衛生監視員が行う監視指導の適切性の確保を欠くことはできない。こうしたことから、都道府県、保健所設置市及び特別区の食品衛生監視員に対し、厚生労働省が主体となって必要な研修を実施するべきである。また、推奨品目の検知技術の開発や、コンタミネーションを防止するための措置の検討等、食品の製造上に係る問題につき研究を推進し、これを食品衛生監視を含む本制度の充実化に反映させることが重要である。

 民間業界団体等は、特定原材料を含む旨の義務表示を遵守することはもちろん、推奨品目の表示率の向上を図るとともに、会員等に対し本制度に係る研修を実施するなど、自主的な取組を推進することが求められる。

 対面販売や外食産業に係る業者等については、法的義務を課すものではないが、品書き、メニュー等を通じ、アレルギー疾患を持つ者に対する情報提供の充実化に向け、自主的な取組を講ずることが望ましい。

5. 終わりに

 今回の見直しは、最新のアレルギー発症状況や科学的な知見に基づき行ったものであるが、今後の表示の実施状況の向上や科学技術の進展、制度の周知広報の充実化等に伴い、新たなる検討が必要となることが予測される。

 今後とも引き続き実態調査等を行うとともに、検知技術等に係る研究を実施し、遅くとも3年以内に制度の見直しの検討を行うこととする。

参考文献

1)  海老澤元宏:アレルギー物質を含む食品表示制度に関して(厚生科学研究食物アレルギー全国モニタリング調査の結果を踏まえて)
2)  2) 今村知明:食物アレルギー発症回避のための患者実態調査結果
3)  井上貴世子、木村晶子、前田良將、岡村佳高:アレルギー物質を含む食品の原材料表示に関する調査研究
4)  堀口逸子:食物アレルギーとその表示

 以上の文献は、「食品の表示に関する共同会議」会議資料として、厚生労働省及び農林水産省HPから入手することができる。URLは次のとおり。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/yakuji.html#dk-hyouji2
http://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/jasindex.htm

─────

1 本調査は2011名の医師に対し、葉書調査票を3ヶ月毎、合計8回に渡り郵送し、「何らかの食物を摂取後60分以内にその食物に対しアレルギー症状を呈し、かつ医療機関を受診したもの」を調査対象に実施した疫学調査である。ある一定の時点から将来に向って調査を進めていくこの調査方法は、前向き(プロスペクティブ)調査といわれ、ある一定の時点から過去に遡って調査する後向き(レトロスペクティブ)調査に比して、信頼性が高いとされている。
2 疫学調査以外に、報告書の作成に当たっては、主任研究者:丸井英二 厚生労働科学研究「食品表示が与える社会的影響とその対策及び国際比較に関する研究」(分担研究 堀口逸子:食品衛生から捉えたアレルギー表示に関する課題、他)を用いた。
3 原材料として使用していないアレルギー物質の微量混入をいい、例えば、「そばを含有する可能性のある食品のテストと調査」(国民生活センター)において示されたとおり、アレルギー物質である「そば」と同一の製造ラインで「うどん」を製造した結果、「うどん」に「そば」が微量混入する等の場合があげられる。
4 第15回「食品の表示に関する共同会議」の資料1「アレルギー物質を含む食品の表示について」より
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0428-8a.html


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