我が国の平均寿命は男性78歳、女性85歳と世界最長である。また、働く意欲が高いにもかかわらず、引退年齢は概ね60歳代であり、65歳時の平均余命も、男性18年、女性23年となっており、引退後の生活が極めて長い。 こうした実態は、高齢者の長年にわたって蓄積してきた能力と経験を活かせず、意に反した引退生活に追いやる結果となっており、本人は勿論、社会的にも大きな損失である。 今後は、高齢者も、意欲と能力に応じて、短時間労働などの働き方を選択し、あるいは、社会貢献活動に従事する等により、生涯現役を実現できるようにしていくことが必要である。 したがって、生涯現役でいう活動は、雇用労働や自営等の稼得を目的とした労働に限らない。ボランティア等の社会貢献活動を含め、社会的に価値ある活動を幅広く含めて考えていく必要がある。 また、生涯現役の道は、性の如何や障害の有無を問わず、意欲と能力に応じ、すべての人に公平に開かれていなければならない。こうした観点からも、男女共同参画の推進や障害者のノーマライゼーション、共生社会の実現は、避けて通れない課題である。 |
高齢者は、長年にわたり蓄積してきた能力と経験を有している。また、近年の調査では、高齢期においても、加齢によって、その能力が一律に衰えることはなく、むしろ、専門性の蓄積、長年の経験による判断能力、管理能力などは上昇するとするものもある。 したがって、働く意欲のある高齢者が、その能力・経験を活かして、年齢にかかわらず働くことのできる生涯現役社会を実現することは、地域等の社会の発展のためにも不可欠であり、そのための雇用・就業機会を創っていかなければならない。また、このことは、少子高齢化社会を迎える中で、社会を支える担い手を増やし、社会全体の活力を維持していくことにも繋がる。 その際、雇用・就業の場を創るに当たっては、高齢者の意欲・能力には大きな個人差があることから、各々の意欲・能力に応じて、勤務形態の面でも、短時間勤務や隔日勤務、在宅勤務など多様な選択肢を用意する必要がある。 また、意欲・能力に応じて働けるようにするためには、一律の定年制ではなく、個人の能力に応じ、引退年齢についても自ら選択できるような環境を作っていくことが、今後の課題であり、その前提として、公正な能力評価制度の形成に努めることが重要である。 さらに、高齢期における働き方としては、雇用以外の形態でも、シルバー人材センターやNPOにおける就労、ボランティア活動、コミュニティ・ビジネスなど地域のネットワークにおける働き方のほか、起業、高齢者の経験・能力を求める中小企業に対する経営・技術面の指導などが考えられる。 加えて、家庭における育児のサポートや、家庭・自治会等地域社会において次代を担う青少年に触れ合う中で、その育成、指導等をしていくことも、期待される役割の一つである。 |
団塊の世代は、我が国の戦後の経済発展から、近年のバブル崩壊後の経済停滞に至る時期にわたり、「企業戦士」、「会社人間」として、企業の浮沈を支えてきたが、その多くが、今後10年間で、定年等により企業からの退職時期を迎える。この間に、年齢にかかわらず働き続けられる環境整備を行う一方、退職後に社会貢献活動等様々な形で活躍できるように、地域での受け皿を用意していくことが必要である。 今後、団塊の世代が、地域での社会貢献活動を通じて、元気に活躍する姿を示し、生涯現役社会に向けた、新しい生き方・働き方のモデルを作ることができれば、今後の高齢社 |
生涯現役社会の実現は、年齢や性にかかわらず意欲と能力に応じすべての労働者が働くことができる社会を目指すものであり、女性が男性と同様に生涯を通じて能力を発揮できる男女共同参画社会の実現にも通ずるものである。 現在の女性の働き方を年齢別就業率で見ると、25〜29歳層と45〜49歳層を左右のピークとし、30〜34歳層をボトムとするM字型カーブを描いており、出産、育児を機に労働市場からいったん離れ、子育てが一段落してから再び働き始める女性が多い状況が続いている。このM字型カーブについては、近年その左肩にあたる25〜29歳層を中心に修正されつつあるが、右肩にあたる45〜49歳層はあまり変化は見られず、右肩は左肩よりも低いことから、女性が子育て等が一段落した後の再就職や起業は困難な状況にあると見られる。 例えば、働きたいと思っても、育児との両立が困難であったり、希望どおりの仕事が得られない等の理由で専業主婦にとどまっている女性も少なからずおり、再就職をしている女性についても、右肩にあたる45〜49歳層ではパート比率が高く、仕事の内容等から意欲や能力を十分活かせるものではない場合もあると考えられるが、これらの状態を放置しておくことは社会全体にとっても大きな損失である。 こうした状態への対応として、まずは、M字型カーブのボトムを上げていくことが重要である。このため、育児期に入っても雇用を継続することができるよう、育児休業をとりやすい環境を整備するなど仕事と家庭の両立支援を進めていくことが重要である。 また、出産や育児自体が重要なキャリアであることから、出産・育児を機に一旦退職した場合であっても、再就職や起業が困難とならないよう支援することが必要である。 このように出産・育児期を通して継続雇用される場合、また、一旦退職後に再就職する場合のいずれを選択するするにせよ、男女を均等に処遇する職場の形成とともに、従来女性の進出が遅れている分野において女性が活躍していけるように、企業のポジティブ・アクションを強力に進める必要がある。 |
生涯現役社会は、誰もが意欲と能力に応じて、年齢や障害の有無にかかわらず働くことのできる社会である。 すべての働く意欲と能力を有する障害者が、職業を通じて自立を図ることは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会を実現するための基盤であり、障害者が社会に支えられる側から支える側に回ることにより、まさにチャレンジドとして活躍できるよう環境整備を進めることが必要である。 特に、障害種別による雇用支援策の差異を解消することは大きな課題であり、近年増大している精神障害者の特性を踏まえた雇用支援策の充実強化を図る必要がある。また、従来、雇用面において十分な対応がとられてこなかった自閉症等の発達障害など複雑・多様化している障害の特性に応じたきめ細かい雇用面での支援をしていくことも重要な課題である。 さらに、働き方の面において、ITの進展等により、通勤等移動に制約を抱え、また、健康上の理由等から企業での勤務に耐えられない障害者にとって、在宅就業・在宅勤務は、就業機会の拡大のための重要な方策となるものであり、その支援を強化することが必要である。また、今後、地域レベルにおいて、障害者に対し、雇用、教育、福祉、医療等の関係機関が連携して雇用・就労を支援する仕組みを整備するとともに、福祉的就労と一般就労の双方向性を高めることが重要である。 |
生涯現役を実現していくためには、生涯にわたるキャリア形成という観点から、各ライフステージに応じて、適切な働き方を選択しつつ、主体的にキャリア・アップを図ることにより、生涯を通じた持続可能な働き方ができるよう支援していくことが重要である。 例えば、若年期は、試行錯誤を経つつも、職業に必要な知識と実践両面での基礎的能力の習得が重要である。また、壮年期は、能力の充実とその発揮を通じて組織や社会に貢献する時期であるが、同時に、急激な技術革新への対応や創造性を養うゆとりも不可欠である。さらに、高齢期は、意欲・能力に応じてそれまで培った能力を活かし多様な働き方を進めていくことが重要となる。 しかしながら、現実には、近年、若年層は失業率が高く、実践的能力を蓄積する機会に乏しい。また、30〜40代は、長時間労働で自己投資やゆとりの時間を持てない。さらに、高齢層は、リストラ等の影響により失業率が高く、蓄積した能力や経験を活かすことができない。 こうした実態は、単に、現在の世代の働き方のアンバランスを是正するという観点のみならず、各個人の生涯を通じた持続可能なキャリア形成という点でも深刻な問題である。世代間のワークシェアリングは、生涯にわたるキャリア形成の視点からも進められなければならない。 |
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各個人について生涯現役を可能にしていくためには、生涯学習の視点が欠かせない。長い職業人生の中で、急激な技術革新の進展等の変化に対応して能力開発を進めていくためには、リカレント教育を中心とする高度な教育訓練の受皿づくりや資格制度、能力評価制度の確立、教育訓練を受けるための時間面や費用面の援助が不可欠である。 特に、激しい環境変化が続き、企業の存在すら不透明になる中で、職種転換や企業間の移動も日常的になることが予測される。こうした中で、各個人の雇用の安定を図っていくためには、勉強し直し、転職しても不利にならない仕組みや職業キャリアがロスなく、円滑に蓄積、発展できる仕組みを企業内外にわたり作り上げることが必要である。 さらに、法的にも、このような環境変化の激しい時代には、雇用の保障だけでなく、キャリアの保障という考え方を導入し、社会や企業の仕組み作りを進めていくことが求められる。 |
生涯現役社会を実現していくためには、各ライフステージに応じて、仕事面でのキャリア形成を支援していくのみならず、家庭・地域における生活と調和のとれた働き方を安心・納得して選択できる環境を作り上げることが必要である。 家庭は、家族とともに苦楽を共にし、仕事を含め社会活動への鋭気を養い、長期的には次世代を育んでいくという生活全般の基盤である。また、地域においては、ボランティア活動等を通して、自らの視野を広げ、幅広い観点から物事を捉える能力を育むことができ、広い意味で職業キャリアの形成にも資する。 さらに、生涯現役の観点に立つと、在職中から仕事以外に地域でのボランティア活動等を行い、加齢するにつれて、企業での勤務から地域活動に軸足を移すことにより、円滑な生涯現役を実現することができる。 このため、一人一人の状況、ニーズに応じて仕事と生活の調和を図ることができるよう、多様な働き方の選択肢を用意する必要がある。その際、仕事以外の活動に費やすことのできる時間をいかに確保するかが重要であり、労働時間の短縮や弾力的な労働時間制度の導入などが各ライフステージに共通して求められる。 また、例えば、家庭における育児・介護と仕事の両立のためには、男女がともに、法定の育児・介護休業のほか、法定外の休業の付与や短時間勤務制度などの勤務形態を採用することができるようにする必要がある。 こうした法定外の休業制度や短時間勤務制度は、その制度の普及と活用を図るとともに、これらの制度を利用した場合であっても、不利益取り扱いを受けないようにすることが必要である。 |
我が国では、高度成長のもと、工業化、都市化が進む過程において、各地に存在したコミュニティーは崩壊し、コミュニティーを基盤とする様々な行事や活動も衰退した。 働く人々は交際範囲は、組織内の仕事のつながりが中心となり、隣近所や地域でのつき合いは薄れるとともに、子供達の交流も、学校における同世代の相手に限られるようになった。 近年は、こうした傾向がさらに進み、組織の都合にのみ従い、地域とのつながりや環境を無視する行動やプライベートな生活を優先し、周囲との交流を拒絶するような生活態度、さらには子供達の引き込もり等の現象も生じている。 加えて、バブル崩壊後、厳しい経済環境の中で、リストラも盛んとなり、依り所であった組織への帰属意識や安心感も薄れ、アイデンティティーの喪失や生活不安の意識が高まっている。 |
このように、都市化による人間関係の希薄化が進み、企業組織中心の働き方、生き方が行き詰まる中で、近年、年代を問わず、人々の社会貢献意識や参加意識が高まっており、ボランティア活動等に従事する人々も増えている。 地域におけるこうした活動は、現在のところ、福祉、介護等の分野が中心になっているが、今後、人々の関心に応じて、文化、教育、街づくり、スポーツなど様々な分野に広がっていくであろう。 こうした活動を通じて、様々な団体が地域住民や地域の雇用者の参加により立ち上げられ、お互いに支え合うことによって発展できれば柔軟で強い地域社会をつくることにつながる。また、活動に参加する人々は、そのネットワークの中での相互交流・啓発、貢献と感謝等を通して、自らのアイデンティティーを見出すことも可能であろう。 さらに、教育・福祉、文化・スポーツ、街づくり、環境保護等の様々な分野の団体が多彩な能力を持った人々の参加により、活発に活動することができれば、地域のソフト・ハード両面で手づくりのインフラが整備され、自然と調和のとれた美しい町並み、お互いを尊重し合い心を通わせ合う細やかな人間情緒、居心地の良い街の雰囲気等をつくることも夢ではない。 こうした地域の姿が実現できれば、地域住民の任意の参加による新たなコミュニティーの再生と言えよう。 |
地域のコミュニティーは、元来、異世代の老若男女が様々なコミュニティーに根ざす活動を通し、人的交流を図る場であり、同時に、高齢者が活躍し、若年者の一人前になるための社会性やコミュニケーション能力を養う教育の場でもあった。 今後、各地域において、様々な団体が活動し、支え合う新たなコミュニティーが形成されれば、同様の効果をもたらすことが期待される。 特に、高齢化が進み、団塊の世代が今後10年以内に企業等を引退する年齢になる時期に当たり、地域において活躍する受け皿ができるか否かは、高齢化社会を乗り切るための今後の大きな試金石である。 また、若年者の失業率高騰やフリーターの急増が進む中で、本格就業前の教育訓練の場として、あるいは、「貢献と感謝」を通じ、自らの存在を確認する場としても、重要な役割を果たすことが期待される。 さらに、主婦層等の地域に根ざした木目細かな観察眼は、地域のニーズ・需要を鋭く嗅ぎとり、コミュニティービジネスの起業等により、地域を活性化する重要な担い手となろう。 このほか、長期失業者や障害者等が一時的に就業し、教育訓練を受ける場としても活用できる。こうした意味で、地域におけるコミュニティーは、人材の育成や能力の活用という意味において今後、重要な役割を担うことが期待される。 |
社会貢献活動を促進することは、個人の人間性の涵養や能力発揮という面だけではなく、コミュニティーの形成など地域社会の発展にとっても大きな意味を持つ。 近年、人々の社会貢献意識が高まっている中で、これを現実の行動に結びつけていくためには、適切な情報の提供・相談とマッチング、試行的就業や教育訓練等の仕組みを設けていくことが重要であり、こうした仕組みを地域の団体が自主的につくっていけるよう支援していく必要がある。 また、企業等に雇用される者が、社会貢献活動に従事するためには、ボランティア休暇をはじめとする時間面での配慮等企業の姿勢が重要である。 近年、企業の社会的責任が問題となり、企業の行動自体、社会や環境との調和を図ることが求められており、従業員が地域に貢献する活動に参加することを積極的に進めることによって、地域に溶け込み共生していくことが期待される。 |
ボランティア活動等の対象となる、介護、福祉、教育、文化等の領域は、元々、市場労働の世界とは異なり、地域のコミュニティーの中での互恵的な生き方、活動によって支えられていたものであった。 しかし、近年、コミュニティー機能や家族機能の崩壊に伴い、こうした分野においても、アウトソーシングが盛んとなり、市場における賃金報酬の対象となる場合が多くなり、従来からの家族活動やNPO等によるボランティア活動等と並立する形となっている。 そういう状況の中で、ボランティア等の社会貢献活動が広く普及していくためには、報酬のあり方を中心に、活動に応じた処遇を整備していくことが重要となる。 ボランティア等の社会貢献活動の実態を見ると、無償のもの、実費弁償程度の費用を出すもの、さらには、社会的価値に相応した手当をだすもの、地域通貨で支払うもの等、報酬のあり方は様々である。 ボランティア活動は、活動者の自発性に基づき、なされるものであるが、ケースによっては、ボランティアと称していても、実態的には労働者性の認められるものもある。 したがって、当事者の意思を前提とした上で、それがボランティア活動を意図して行われるものであれば、労働の対償として賃金が支払われる雇用と明確に区別される態様で行われるようにすることが求められよう。 さらに、今後、社会貢献活動の一般的な普及を考えると、最低賃金や労働時間等の関係法令の適用のあり方を考えていくことも必要であろう。 |