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<IV.健康安全確保総合研究分野>

 健康安全確保総合研究分野は、「創薬等ヒューマンサイエンス総合」、「医療技術評価総合」、「労働安全衛生総合」、「食品医薬品等リスク分析」、「健康科学総合」の各事業から構成されている(表5参照)。

表5.「健康安全確保総合研究分野」の概要
研究分野 研究事業
14.創薬等ヒューマンサイエンス総合
15.医療技術評価総合
16.労働安全衛生総合
17.食品医薬品等リスク分析 食品の安全性高度化推進
医薬品・医療機器等RS総合
化学物質リスク
18.健康科学総合

(14)創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
 本研究事業は、画期的・独創的な医薬品等の創製のための技術開発、医療現場のニーズに密着した医薬品の開発及び長寿社会に対応した保健・医療・福祉に関する先端的基盤的技術開発のための研究を推進することが目的である。
 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究では7つの分野で、エイズ医薬品等開発研究では3つの分野で、外部の評価委員による研究課題の評価を受けながら実施している。また、本研究事業の根幹は官民共同型研究であり、民間企業への研究成果の取り込みを図っている。
 現在、多岐にわたる研究の中から、成果が実用化・事業化へ進み始めた研究も生まれてきており、そこまでは至らないまでも論文・特許等での成果は数多く得られている。
 今後、社会へ還元できる研究成果を数多く生み出すために、民間企業の参加を一層促進するような方策が重要である。具体的な成果例を図14に示す。
図14.創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業の具体的成果の例
質量分析法、各種電気泳動法、BIACORE等やプロテオミクスの手法を用いたバイオ医薬品の新規評価技術を開発した。成果は、Anal. Chem.をはじめとする多数の国際的分析化学雑誌、及びバイオ医薬品関連国際誌Biologicals、その他に掲載され大きな反響があった。
アディポネクチンがインスリン抵抗性改善作用とともに動脈硬化抑制作用を持つことを明らかにし、アディポネクチン受容体を初めて単離・同定した。糖尿病発症・進展の分子メカニズム解明に極めて重要な成果であり、国際的に高い評価を受けている。糖尿病・動脈硬化の根本的治療法開発の基盤となる成果であり社会的に大きな意義を持つ。
輸入熱帯病や新興・再興寄生虫症の実態を把握した。その成果を参考にすることによって、治療に必要とされる国内未承認の希少疾病治療用医薬品を輸入・保管し、治療にあたることで、救命や治療に役立った。さらに治療成績を取りまとめて分析し、これらの薬剤の有効性について検証して、医療の現場に適切な治療情報を提供した。
エイズ医薬品等開発研究においては、エイズおよびHIV感染症とその合併症の迅速な治療のために日本で未承認の治療薬を輸入して臨床研究を行い、副作用の報告、用法、用量等のEBMの集積を通じて多くの医薬品の迅速な薬事法承認に貢献した。

(15)医療技術評価総合研究事業
 良質な医療を合理的・効率的に提供する観点から、既存医療システム等の評価研究、医療安全体制確保に関する研究、根拠に基づく医療に関する研究を実施した。医療事故、院内感染等の報道が増加していることに伴って、特に、医療に対する信頼確保に係る研究テーマが採択されている。
 研究の成果は、今後の制度設計に資する基礎資料の収集・分析(医療安全、救急・災害医療、EBM)、良質な医療提供を推進する具体的なマニュアルや基準の作成(EBM、医療安全、遠隔医療、看護技術)などを通じて、着実に医療政策に反映されている。
 今後は、医療提供体制の改革ビジョン(平成15年8月)で示された医療提供体制の将来像のイメージが実現されるように、研究課題を公募し、採択する方針であり、体系的に位置付けられた研究を推進する。
図15.医療技術評価総合研究事業の具体的な成果の例
糖尿病の治療、合併症抑制に関する個別課題の解決方法や脳卒中、大腿骨頚部骨折等の診療に関するガイドラインが研究成果としてまとめられた。このガイドラインは、生活習慣病対策や介護予防の推進など政策の企画立案に寄与している。
誤った医療行為等(ヒヤリ・ハット)の事例の収集、分析等により医療事故防止をはじめとする医療安全対策に関する研究が行われた。その研究成果は、厚生労働大臣医療事故対策緊急アピールにおいて、推進すべき新たな取り組み、強化すべき対策として示された。
診療報酬における手術に関する施設基準の見直しに当たっては、施設別の手術件数と手術結果との相関分析の研究成果が用いられた。この施設基準は、患者が病院を選択する際の参考情報にもなった。

(16)労働安全衛生総合研究事業
 労働災害による被災者数は今なお年間約55万人に上っており、腰痛、じん肺等の職業性疾病も依然として後を絶たない状況にある。また、一般健康診断において所見を有する労働者が全体の4割を越えるとともに、仕事や職場生活に関する強い不安やストレスを感じている労働者の割合や自殺する労働者数が増加している。
 また、我が国の社会経済システムが変革しており、企業においては、新しい経済環境に対処するため、アウトソーシングの増大、合併・分社化による組織形態の変化が進行し、労働者においては就業形態の多様化、雇用の流動化等が進行している。
 労働環境の変化にも留意しつつ、労働安全衛生に関する課題に今後より一層的確に対応するために、本事業は、職場における労働者の安全と健康を確保するととともに、快適な職場環境の形成を促進するための研究を総合的に推進することが必要である。
 具体的な成果の例を図16に示す。
図16.労働安全衛生総合研究事業の具体的な成果の例
頸肩腕障害患者等における僧帽筋の筋血流、手の神経伝導速度、事象関連電位P300を測り、季節による頸肩腕の自覚症状を調査した。その結果、筋硬結と圧痛が合併する人における筋血流の低下、患者におけるP300潜時・振幅の延長・低下、季節による症状の変化などが明らかになった。その成果は労災認定や予防に大きく貢献すると予想される。
化学物質自主管理の実際の企業内における運用上の問題点が明らかとなり、具体的システム構築例が提示された。その成果は労働安全衛生行政上の課題の一つである「労働安全衛生マネジメントシステムによる自主管理推進の普及」に際しての問題点を明らかにすると共に解決策を提示するものであり、化学物質の自主管理推進に役立つことが期待できる。
また、労働安全衛生総合研究の成果は、(1)厚生労働省自殺防止対策有識者懇談会に報告するなどわが国における自殺予防対策の普及に対して貢献するとともに、(2)臨床研修必修化や国立大学および国立病院の独立法人化に伴い、臨床研修病院における安全衛生活動(メンタルヘルス対策を含む)の導入に有益な資料を提供した。

(17)食品医薬品等リスク分析研究事業
 食品医薬品等リスク分析研究事業は、「食品の安全性高度化推進研究領域」(平成15年度は「食品安全確保研究事業」として実施)、「医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究領域」(平成15年度は「医薬安全総合研究事業」および「医薬品等医療技術リスク評価研究事業」として実施)、および「化学物質リスク研究領域」から構成されている。なお、それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(17−1)食品の安全性高度化推進研究領域
 BSE問題や偽装表示事件などを契機に、食品の安全性確保に対する国民の関心は高く、安心・安全な社会の構築を実現するためには必須の課題である。
 そのため、本研究事業では、健康食品、遺伝子組換え食品、BSE、食品添加物及び汚染物質などの食品を介したヒトの健康に与える影響を科学的根拠に基づき最小限にするため、リスク評価の検討、検査法の開発等の研究を行ってきた。その結果、国内における規格試験法の開発や国際基準を策定するための有益なデータ収集等、行政施策の反映度が高い研究成果が得られている。
 今後は、さらに研究を充実・発展させながら、個別にはBSEの食品を介したヒトへのリスク評価や輸入食品の安全性確保、健康食品等の安全性評価・確保などの新しい研究分野に取り組むとともに、リスク管理の観点から、リスクコミュニケーション手法の確立等を通じて、国民への食品に対する安心・安全確保を目指した研究を推進していく必要がある。

(17−2)医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究領域
 医薬品・医療機器等の分野における安全性の向上及び安全対策、薬物乱用の防止対策、人工血液開発等の推進を通して、国民生活への質の向上等に資することを目的としている。
 研究事業においては、科学的観点からの研究を行政的施策に生かしており、その中では緊急性の高い事案への対応から、幅広い視点に立った医薬品の副作用等の予防的対策まで、様々な観点から、その成果が法令等に数多く反映されている他、ライフサイエンスを主とした科学技術の進展にも寄与しており、本研究事業は、厚生労働行政及び社会に対し、極めて大きい貢献度を持つといえる。
 今後も、バイオ・ゲノム等の科学技術の進展や、社会的な要請等を見据え、更には国際的動向も踏まえつつ、医薬品・医療技術の安全性・有効性・品質を確保するとともに、副作用の発生を未然に防ぎ拡大を防止する体制の構築、薬物乱用の防止等、常に国民的視野に立った貢献を視野に入れた総合的な研究展開を期待できる。

(17−3)化学物質リスク研究領域
 現代の生活に不可欠であり、身の回りに数万種存在するとされる化学物質についてリスク評価を行いその適切な取扱を推進することは、安心・安全な社会の構築の実現に不可欠であり、かつ我が国の「持続可能な発展」に資するものである。
 そのため、本研究事業では、化学物質の安全対策を推進する上で不可欠な科学的評価の基盤となるリスク評価方法そのものの高度化・効率化を推進している。また、内分泌かく乱化学物質やダイオキシン類等のヒトへの健康に影響が懸念される問題について、その作用メカニズムや体系的なスクリーニング試験法の開発、試料の測定方法ガイドラインの開発、体内動態、暴露と健康影響の解明疫学データの蓄積等総合的な研究を行い、適切な施策の基幹となる科学的な知見の取得をめざすものである。また、生活中の化学物質(家庭用品や室内空気汚染化学物質等)についても、安全対策を検討する上で必要となる科学的知見(家庭用品中の含有状況や適切な測定法の開発、室内空気汚染化学物質の実態の把握、それぞれのヒトの暴露の状況や健康影響など)の蓄積に努めるものである。

具体的な成果の例を図17に示す。
図17.食品医薬品等リスク分析研究事業の具体的な成果の例
「米に係るカドミウムに関する規格基準の改正の可否について」薬事・食品衛生審議会食品規格・毒性合同部会及び毒性部会において検討が行われた際に、主任研究者及び分担研究者等が参考人として招かれ、本研究の成果を主要な根拠として議論が行われた。2003年6月にJECFA(Joint Expert Committee on Food Additives and Contaminants)において、また2004年3月に国際食品規格委員会においてカドミウムの暫定週間耐容摂取量および食品中の基準値について検討が行われた際に、本研究成果が議論の主な拠り所とされた。
日本における錠剤型麻薬の実態調査研究の成果は、取締機関及び司法機関で役立つものとして大きな反響があった。社会的には青少年の乱用問題が多発し、その対策に教育委員会やマスコミからの利用の申し込みが多くあり、ポスターは、行政サイドで資料として平成15年に1500枚増刷し、関係機関に配布した。
「国際的動向を踏まえた医薬品等の新たな有効性および安全性の評価に関する研究」の成果はICHの専門家会議にて討議された。今後運営委員会にて承認されると、それぞれQuality, Safety, Efficacy, Multidisciplinaryのガイドラインとして公表される。既に50以上のガイドラインが日・米・EUの3極で公布されている。
内分泌かく乱化学物質のスクリーニング試験法の研究を行い、国内での実施のみならず、国際的にもOECDによる国際バリデーション事業におけるリード・ラボラトリーとして当研究成果を活用しその推進にあたった。

(18)健康科学総合研究事業
 地域保健・公衆衛生の基盤の基礎して「地域保健サービスに関する研究分野」及び「地域における健康危機管理に関する研究分野」の2分野、個別対策分野として、「健康づくり・生活習慣病(がんを除く)予防に関する研究分野」、「健全な水循環の形成に関する研究分野」及び「生活環境に関する研究分野」の3分野、計5分野から構成された公衆衛生に関する総合的研究事業である。
 個々の研究結果については、地域保健法第4条に基づく地域保健対策の推進に関する基本指針の改正及び水質基準等の「指針」、「基準値」等の改正の科学的根拠として活用するとともに、「健康日本21中間評価」等の施策や対応策における具体的方法に活用されており、有効な活用が行われているものである。
 今後においては、めまぐるしく変化する社会状況等に対応できる地域保健(公衆衛生)基盤の確立及び再構築に必要な研究の推進を行い安心・安全な社会形成の基盤整備を推進していく必要がある。
 なお、各領域における内容は次の通りである。

(18−1)健康づくり・生活習慣病(がんを除く)予防に関する研究領域
 健康増進法を基盤とする国民の健康の増進、生活習慣病に着目した疾病予防の推進のため、循環器病・糖尿病等生活習慣病の予防の研究に関する調査研究を進めており、今後は、新たなテーマとしてライフステージ毎の健康課題等に関する研究を推進する必要がある。

(18−2)地域保健サービスに関する研究領域
 公衆衛生行政の基盤に関する研究であり、現在までに人材育成、具体的研修手段、保健事業評価等を実施し地域保健の現場に対して対策の方向性や具体的対応策を提供してきた。今後は健康危機、市町村合併等、新たな公衆衛生の課題に柔軟に対応できる事業、組織、人材等の研究の充実を行う必要がある。

(18−3)地域における健康危機管理に関する研究領域
 健康危機に対する対応の能力の向上が重要である事から、本分野を独立して設定したものであり、各種の健康危機管理対策に共通して活用される基盤に関する研究を行うことにより健康危機管理能力の向上を図り、安心・安全の社会形成の推進を行うものであり、今後とも一層の充実を図る必要がある。

(18−4)生活環境に関する研究分野
 シックハウス等室内空気汚染問題をはじめとした建築物における衛生的環境の確保に関する研究、公衆浴場等の生活関係営業の振興及び衛生的環境の確保に関する研究、その他生活環境が人体に及ぼす影響等の研究を実施し、室内空気汚染の実態把握及び公衆浴場を利用した健康増進事業(平成16年度〜)等に利用された。今後は、建築物における健康危機管理や浴場におけるレジオネラ等感染症予防に関する研究等を実施する必要がある。

(18−5)健全な水循環の形成に関する研究分野
 本研究事業は、健全な水循環系の形成という、広範で横断的な行政的課題のうち、水道・水利用の部分について、利用の安全性を確保するとともに、利用システムを最適化するために必要な研究を行い、当該課題の解決に資することを目的とするものである。
 今後は、環境負荷の低い水利用システムの具体の構築・評価手法、また、水利用における新たな化学的・生物的因子からの水質の安全性の確保、また、安全な水を得るための水道水源の評価手法等が、課題とされているところであり、これらの課題に対応していくため調査研究を継続して行う必要がある。

具体的な成果の例を図18に示す。
18.健康科学総合研究事業の具体的な成果の例
地域保健関係機関のマンパワーに関係する研究の成果は、保健所長の職務の在り方に関する検討会の基礎資料として、人材育成に関する概念及び具体的育成に関する研究成果は、地域保健対策の推進に関する基本的指針の改正のための基礎資料として活用された。
WHO飲料水水質ガイドライン改訂等に対応する水道における化学物質等に関する研究成果は、水道水質基準や水道施設及び給水装置の資機材の材質に関する基準等の改定の基礎資料として活用された。
シックハウス関連研究成果は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律の改正のための基礎資料として活用された。
行動科学的手法等を用いた食生活改善に関する研究成果は、健康づくりのための食環境整備に関する検討会における基礎資料として活用された。


3)終了課題の成果の評価

(1)原著論文等による発表状況
 今回個別の研究成果の数値が得られた588課題について、原著論文として総計13,046件、その他の論文総計7,807件、口頭発表等総計19,118件が得られている。1研究課題あたりの金額は23,214千円であった。
 表6に、研究事業毎の総計を示す。課題毎の平均では、原著論文22.2件、その他論文13.3件、口頭発表32.5件であった。また、厚生労働省をはじめとする、行政政策の形成・推進に貢献する基礎資料や、治療ガイドライン、施策の方向性を示す報告書、都道府県への通知、医療機関へのガイドライン等施策の形成等への反映件数および予定反映件数を集計したところ、784件が挙げられた。
 なお、本集計では、調査時点の報告延べ数(予定を含む)であり、「多数」「英文のみ」と記述されたものを除外している。また、研究の終了直後であり論文等の数については、今後増える可能性が高いこと、分野ごとに論文となる内容に大きな違いがあること、さらに研究課題毎に研究班の規模等に差異があることなども考慮する必要がある。
 表7に、各研究事業別の原著論文発表件数の平均を、研究事業について示した。難治性疾患克服研究事業や第3次対がん総合戦略研究事業や免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業において、課題あたりの原著論文数が高かった。本集計は、今回の調査の対象となった課題のみであり、研究事業によっては、継続して実施中の課題(例えば3年計画の2年目)も含まれることから単純に研究事業の成果を示すものではないが、研究事業それぞれにおいて大きな成果を挙げていることを示すものである。

表6.厚生労働科学研究費の成果集計表
  対象研究課題数 発表状況 特許 施策
原著論文
(件)
その他論文
(件)
口頭発表等
(件)
出願及び取得
(件)
施策の推進等への反映
(件)
I.行政政策研究分野 82 315 410 629 4 58
 1.行政政策 39 194 222 246 2 11
 2.厚生労働科学特別 43 121 188 383 2 47
II.厚生科学基礎研究分野 30 1072 455 1234 59 35
 3.先端的基盤開発 28 1025 336 1113 57 13
 4.臨床応用基盤 2 47 119 121 2 22
III.疾病・障害対策研究分野 215 7420 4520 10353 313 347
 5.長寿科学総合 46 965 819 1560 23 37
 6.子ども家庭総合 25 252 514 527 1 132
 7.第3次対がん総合戦略 18 1485 502 1661 74 13
 8.循環器疾患等総合 20 195 251 398 0 12
 9.障害関連 36 484 291 732 33 32
 10. エイズ・肝炎・新興再興感染症新興再興感染症
19 982 341 1056 18 5
 11. 免疫アレルギー疾患予防・治療
11 680 521 1166 120 69
 12. こころの健康科学
25 692 368 733 24 30
 13. 難治性疾患克服
15 1685 913 2520 20 17
IV.健康安全確保総合研究分野 261 4239 2422 6902 143 344
 14. 創薬等ヒューマンサイエンス総合
113 2494 852 3726 112 90
 15.医療技術評価総合 50 292 281 411 8 119
 16.労働安全衛生総合 11 15 26 66 0 2
 17.食品医薬品等リスク分析 52 1107 748 1814 17 81
 18.健康科学総合 35 331 515 885 6 52
合計 588 13046 7807 19118 519 784
課題あたり平均 22.2 13.3 32.5 0.88 1.33

単位:件

表7.研究あたり原著論文発表件数
原著論文発表件数
課題あたり 研究費あたり*1
難治性疾患克服 112.3 創薬等ヒューマンサイエンス総合 17.2
第3次対がん総合戦略 82.5 免疫アレルギー疾患予防・治療 6.9
免疫アレルギー疾患予防・治療 61.8 難治性疾患克服 6.5
エイズ・肝炎・新興再興感染症 51.7 障害関連 6.4
先端的基盤開発 36.6 第3次対がん総合戦略 6.3
こころの健康科学 27.7 長寿科学総合 5.6
臨床応用基盤 23.5 こころの健康科学 4.1
創薬等ヒューマンサイエンス総合 22.1 エイズ・肝炎・新興再興感染症 3.2
食品医薬品等リスク分析 21.3 行政政策 2.6
長寿科学総合 21.0 厚生労働科学特別 2.6
 *1  研究費あたり:平成15年度研究費総額から1千万円あたりの件数を算出した。

(2)特許の取得件数
 特許の取得件数については、国際特許、国内特許の合計で519件(予定も含む)が挙げられており、特に表8に示す免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業、第3次対がん総合戦略研究事業や先端的基盤開発研究事業において、課題あたりの特許数が多かった。
 研究費あたり特許取得・出願件数においても、上の事業の他に、創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業などが挙げられており、研究の成果が特許となり社会に還元されていることが評価できる。また、国際特許を取得している課題も少なからずあり、社会経済的な面でも効果が期待されている。これらの成果は、テーラーメード医療の普及や新薬の開発、再生医療など多くの分野における発展が見込まれている。

(3)施策の推進等への反映
 施策の推進問うへの反映については、784件の報告があった。表9にあるとおり、課題あたりの反映件数をみると、免疫アレルギー疾患予防・治療事業、子ども家庭総合事業、医療技術評価総合研究事業など、疾病・障害対策分野や健康安全確保総合研究分野が高かった。また、研究費あたりの反映件数をみると、行政政策分野である厚生労働特別研究事業が高い順位に位置していた。

表8.研究あたり特許取得・出願件数
特許取得・出願件数
課題あたり 研究費あたり*1
免疫アレルギー疾患予防・治療 10.9 免疫アレルギー疾患予防・治療 1.2
第3次対がん総合戦略 4.1 創薬等ヒューマンサイエンス総合 0.8
先端的基盤開発 2.0 障害関連 0.4
難治性疾患克服 1.3 第3次対がん総合戦略 0.3
臨床応用基盤 1.0 こころの健康科学 0.1
創薬等ヒューマンサイエンス総合 1.0 長寿科学総合 0.1
こころの健康科学 1.0 先端的基盤開発 0.1
エイズ・肝炎・新興再興感染症 0.9 難治性疾患克服 0.1
障害関連 0.9 医療技術評価総合 0.1
長寿科学総合 0.5 エイズ・肝炎・新興再興感染症 0.1
 *1  研究費あたり:平成15年度研究費総額から1千万円あたりの件数を算出した。

表9.研究あたりの施策の推進等への反映
施策の推進等への反映
課題あたり 研究費あたり*1
免疫アレルギー疾患予防・治療 6.3 子ども家庭総合 1.3
子ども家庭総合 5.3 厚生労働科学特別 1.0
医療技術評価総合 2.4 医療技術評価総合 0.9
食品医薬品等リスク分析 1.6 免疫アレルギー疾患予防・治療 0.7
健康科学総合 1.5 創薬等ヒューマンサイエンス総合 0.6
こころの健康科学 1.2 障害関連 0.4
難治性疾患克服 1.1 健康科学総合 0.3
厚生労働科学特別 1.1 長寿科学総合 0.2
障害関連 0.9 食品医薬品等リスク分析 0.2
長寿科学総合 0.8 こころの健康科学 0.2
 *1  研究費あたり:平成15年度研究費総額から1千万円あたりの件数を算出した。


5.おわりに

1)研究成果に対する主な評価結果
 厚生労働科学研究費補助金の成果を評価した結果、成果は学術誌に掲載されているとともに、行政的課題の解決に役立っていることが明らかになった。厚生労働科学研究費補助金では、厚生労働行政への政策支援的要素の強い研究課題が少なくない。そのため、公募する研究課題を事前に公表して申請を受け付けており、行政からの要請に各研究が的確に貢献しているのは、このような採択プロセスも関係しているものと考えられる。

2)厚生労働科学研究費補助金の「必要性」について
 厚生労働科学研究費補助金において実施されている研究の多くは、厚生労働省の施策の根拠を形成する基盤であり、厚生労働省として実施する意義、行政的意義が極めて大きい。ただし、その行政的要請は、総合科学技術会議が指摘する通り、「科学技術的要素が強いもの」「政策支援的要素の強いもの」および「行政事業的要素が強いもの」など、いくつかの要素に分類できる。
 厚生労働科学研究費補助金制度は、この指摘に対応して、それぞれの要素を考慮し、平成15年度から「行政政策分野」「厚生科学基礎分野」「疾病・障害対策分野」、および「健康安全確保総合分野」の4分野に分類することになった。たとえば「行政政策分野」は行政施策への政策支援が要請されており、また「厚生科学基盤研究分野」では政策的に重要で臨床に直結する学術的成果が期待されている。4つの研究分野においてそれぞれ要請されている要素を明確に整理して、それぞれの領域で行政的に「必要な」研究課題の公募がなされていると考えられる。

3)厚生労働科学研究費補助金の「効率性」について
 厚生労働科学研究費補助金においては、1研究課題あたりの金額は23,214千円であり、他の研究制度に比べて金額的に多いものではない。しかし、研究班を構成する研究者らの協力により広範な症例が収集されるなど、研究は効率的に実施されている。厚生労働科学研究費補助金は、保健医療福祉の現場にある実践者らの関与により研究が実施され場合が多く、実践者の積極的な協力が、保健医療福祉分野の現状把握と課題の解決に大きな役割を果たしていると考えられる。
 限られた予算の中で、研究課題を公募のうち28.6%の新規課題を採択し、研究を実施することにより、必要性、緊急性が高く、予算的にも効率的な研究課題が採択され、研究が実施されていると評価できる。研究期間は原則最長3ヵ年であり、研究課題の見直しに反映されるため、効率性が高いと考えられる。
 また、評価方法についても適切に整備され、各評価委員会の評価委員がその分野の最新の知見に照らした評価を行い、その結果のもとに研究費が配分されていることから、効率性、妥当性が高いと考えられる。中間評価では、当初の計画通り研究が進行しているかの到達度評価を実施し、必要な場合は継続を変更・中止を決定することにより、効率的に研究費の補助がなされているのかについて評価している。

4)厚生労働科学研究費補助金の「有効性」について
 いずれの事業においても、研究課題の目標の達成度は高く、行政部局との連携のもとに研究が実施されており、政策の形成、推進の観点からも有効性の高い研究が数多く実施されていた。また、成果は国際的な学術誌へも多数報告されており、治療等の開発を通じて国民の福祉の向上に資する研究が国際的な水準でなされていると考えられる。
 なお、成果は4つの研究分野でそれぞれ特徴がある。学術的な成果が多く見られる研究分野がある一方で、原著論文や特許が少ない研究分野においては施策の形成への反映において効果が高い研究事業があることが見受けられるからである。
 このように、政策課題への支援、および治療等の開発を通じた学術研究の成果が、厚生労働科学研究は各研究分野ごとで適切になされていることは、この制度の「有効性」の一端を示している。

5)本評価の課題
 今回の調査は、施策の形成等への反映件数について主任研究者及び所管課において内容と件数を記述した資料より作成したものである。施策への反映は社会的な状況により大きく左右されること、また研究補助期間を終了してから成果が出るまでに時間が必要なことなど、より適切な評価方法の改善を引き続き検討していく必要である。
 また、厚生労働科学研究費補助金制度は、研究者がさらに高い研究目標を目指すことを勇気づけながら、研究開発の目標達成や成果の社会的還元の意義を研究者が一層自覚する仕組みを開発していく必要がある。研究規模を大きくするが同時に成果を問う研究事業をモデル的に検討するという方法も一案であろう。
 研究機関が競い合って社会的な課題の解決に取り組む競争的環境を育むために、研究評価の具体的基準及び評価体制をさらに整備していく必要がある。厚生労働科学研究費補助金は、公募課題の設定等において研究の必要性に留意しつつ、研究者の独創的な発想による研究成果を期待できる競争的資金を活用した研究の活性化と成果の還元が今後も求められる。

6)おわりに
 厚生労働科学研究費補助金は、「厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」を目的とする研究事業の総称であり、保健医療分野における国内および国際的な知的基盤の形成に関する研究、科学技術の成果を臨床に応用する研究など種々の研究を実施している。
 厚生労働科学研究においては、学術的に成果が高い研究事業、特許等の成果が上げられている事業と行政的な成果が上げられている事業がある。それぞれの領域において行政的な貢献および学術的成果という2つの観点から評価した結果、その力点が異なることが明らかになった。このことは、評価の重点を調整しながら研究分野ごとで柔軟に評価する必要性を示唆している。今後も適切な評価指標の開発を進める必要がある。


参考文献

1.厚生科学審議会科学技術部会.厚生労働科学研究費補助金の成果の評価.平成15年5月30日.
2.総合科学技術会議.競争的研究資金制度の評価.平成15年7月23日, p18-22.
3.厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針.平成14年8月27日(厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定.


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