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1.はじめに

 厚生労働科学研究費補助金は、昭和26年に創設された厚生科学研究補助金制度が発展した制度で、「厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」を目的としている。社会的要請の強い諸課題を解決するための新たな科学的基盤を得るために、競争的な研究環境の形成を行いつつ、必須で先駆的な研究を支援してきた。現在、厚生労働科学研究費は、我が国の代表的な競争的研究資金制度のひとつとして位置づけられている。
 科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づき策定された第1期科学技術基本計画(平成8年7月閣議決定)に続く第2期科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)において、優れた成果を生み出す研究開発システムの必要性が指摘されている。そのため「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成13年10月内閣総理大臣決定)が改定され、総合科学技術会議においても「競争的研究資金制度改革について:中間まとめ(意見)」(平成14年6月19日)を公表し、公正で透明性の高い研究評価システムの確立を求めている。
 以上の背景に対応し、厚生労働省は、『「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」の策定について』(平成14年8月27日、大臣官房厚生科学課長)を通知するなど、研究開発評価の改善に取り組んできた。
 特に、厚生科学審議会科学技術部会において、総合科学技術会議における競争的研究資金制度の評価の考え方に従って、厚生労働科学研究費補助金の制度及び成果を概観し、課題採択や資金配分の結果の適切性、および研究成果について評価を行った(平成15年5月30日)。この報告書は総合科学技術会議の競争的研究資金の有効性に関する評価の基礎資料となり、厚生労働科学研究費補助金制度に対して「資金配分の適切性や研究成果等について概ね適切に評価されている」との総合科学技術会議の結論を得るに至った(平成15年7月23日,<参考1参照>)。
 ただし、総合科学技術会議からは、あわせて調査分析機能の整備等の必要性も指摘されており、成果の評価を継続しながら、引き続き研究評価システムの整備を進めることが求められている(<参考2参照>)。そもそも、評価は、競争的研究資金制度におけるマネジメントサイクルの一環であり、評価を「定着」(総合科学技術会議評価専門調査会)させていく必要がある。
 以上の経緯に鑑み、厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会では、平成15年度の厚生労働科学研究費補助金の成果の評価を行うこととした。


2.評価目的

 厚生科学審議会科学技術部会は、厚生労働科学研究費補助金について、行政施策との連携を保ちながら、研究開発活動と一体化して適切な評価を実施し、その結果を有効に活用して、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発を推進しつつ、その効率化を図ることにより、一層優れた研究開発成果を国民、社会へ還元することを目的とし、評価を実施する。
 評価結果については、研究費等の研究開発資源の配分への適切な反映等を行うことにより、研究開発の一層効果的な実施を図るものである。
 特に、今回の評価では、総合科学技術会議から「政策支援的要素の強い研究課題では、学術的な側面に加え、行政への貢献を明確にし、研究者が納得する評価指標を導入することが重要である」(<資料1>参照)との指摘を受けていることから、「行政への貢献」を重点に評価する。


3.評価方法

1)評価の対象と実施方法
 評価対象は、(1)厚生労働科学研究の各研究事業(4研究分野の18研究事業)、および(2)平成15年度に終了した課題の成果である。基礎資料は平成16年4月〜5月に厚生労働科学研究費補助金の各研究事業を所管する厚生労働省関係部局が大臣官房厚生科学課と調整の上収集した。

2)各研究事業の記述的評価
 4研究分野18研究事業の各研究事業の評価は、これまでの事業の成果に基づいて各研究事業を所管する厚生労働省関係部局が作成したものを、評価委員会委員等外部有識者の評価を踏まえて作成した。「各研究事業の概要」を以下の項目に従って作成した。
  (1)研究事業の目的
  (2)課題採択・資金配分の全般的状況
  (3)研究成果及びその他の効果
  (4)行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
  (5)課題と今後の方向性
  (6)研究事業の総合評価

3)終了課題の成果の評価
 各研究事業を所管する厚生労働省関係部局を通じて、平成15年度終了課題の主任研究者に対して調査を実施した。調査項目は、(1)専門的・学術的観点、(2)行政的観点、(3)その他の社会的インパクト、(4)普及・啓発活動件数から構成されている。
調査項目:
(1) 専門的・学術的観点
 研究目的の成果
 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
(2) 行政的観点
期待される厚生労働行政に対する貢献度等
(3) その他の社会的インパクトなど(予定を含む)
発表状況 原著論文(件・発表誌)、その他論文(件)、口頭発表等(件)
特許の出願及び取得状況
(4) 普及・啓発活動件数

4)評価作業の手順
 各研究事業について、それぞれの研究事業に設けられた評価委員等外部有識者のご意見を踏まえ、各担当課より提出された資料に基づいて評価を行った。
 なお、今回の評価を行うに当たっては、各研究事業の内容について、研究事業所管課評価を行う際の指針(<参考3>参照)で示されている観点等を参考にした。


<参考1>
「競争的研究資金制度の評価」(平成15年7月23日、総合科学技術会議)
C.厚生労働科学研究費補助金−厚生労働省―
3.成果等の評価について
 今回の厚生労働省における制度評価は、統一様式で事業担当課が外部評価委員の意見を聞き一次資料を作成し、これを厚生科学審議会科学技術部会で審議して評価結論を得たものであり、資金配分の適切性や研究成果等について概ね適切に評価されている。
 なお、本制度は広範な研究開発を対象としていることから、課題の特性に応じて多様な評価指標が必要と考えられる。特に、政策支援的要素の強い研究課題では、学術的な側面に加え、行政への貢献を明確にし、研究者が納得する評価指標を導入することが重要である。また、政策支援的要素の強い研究課題の成果は、目標が明確に設定されれば比較的容易に評価できると思われるが、制度としての成果が明らかにあるまでには長期間を要するので、このための調査分析機能を整備してゆくことが重要と考えられる。
 (以下略)
<参考2>
「競争的研究資金制度改革について」(意見)
(平成15年4月21日、総合科学技術会議)
II.改革のための具体的方策
4.競争的研究資金の効率的・弾力的運用のための体制整備
(2)公正で透明性の高い評価システムの確立
 ○各配分機関は、研究課題についての中間評価や事後評価を適切に行い、その結果を踏まえて、必要に応じて研究の見直し・中止を行う。その際、制度や課題によっては、ピアレビューによる評価のみならず、プログラムオフィサーによる評価等柔軟性をもって対応する。
 ○各配分機関の競争的研究資金制度の改革が適切に行われるよう、各省あるいは配分機関は、所管する制度全体を把握した上で、「国の研究開発に関する大綱的指針」に基づいて研究課題の事後評価や追跡評価を実施し各制度の成果の波及効果や活用状況等を把握して制度評価を行う。その結果を踏まえ、目的・計画の見直し、運用の改善を図り、さらに、制度の統合・廃止・拡大・縮小等へ反映させる。
<参考3>
「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」
(平成14年8月27日、厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定)
第2編 研究開発施策の評価の実施方法
1.評価体制
 各研究事業等の所管課は、当該研究事業等の評価を行う
2.評価の観点
 政策評価の観点も踏まえ、研究事業等の目標、制度、成果等について、必要性、効率性及び有効性の観点等から評価を行う。
 研究事業等の特性に応じて柔軟に評価を行うことが望ましいが、「必要性」については、行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等の観点から、「効率性」については、計画・実施体制の妥当性等の観点から、また「有効性」については、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から評価を行うことが重要である。
3.評価結果
 評価結果は、当該研究開発施策の見直しに反映させるとともに、各所管課において、研究事業等の見直し等への活用を図る。


4.評価結果

1)厚生労働科学研究費補助金各研究事業概要

 厚生労働科学研究費補助金による研究事業は、平成15年度においては4つの研究分野に属する18研究事業に分かれて実施されている(表1参照)。これは、当時20を越える研究事業について、「これ程細分化した事業構造は外部から見て解りにくい」との総合科学技術会議の評価結果(平成15年7月23日)を踏まえて整理したものである。

表1.研究事業について
研究分野 研究事業
I.行政政策 1.行政政策
2.厚生労働科学特別
II.厚生科学基礎 3.先端的基盤開発
4.臨床応用基盤
III.疾病・障害対策 5.長寿科学総合
6.子ども家庭総合
7.第3次対がん総合戦略
8.循環器疾患等総合
9.障害関連
10.エイズ・肝炎・新興再興感染症
11.免疫アレルギー疾患予防・治療
12.こころの健康科学
13.難治性疾患克服
IV.健康安全確保総合 14.創薬等ヒューマンサイエンス総合
15.医療技術評価総合
16.労働安全衛生総合
17.食品医薬品等リスク分析
18.健康科学総合


2)各研究課題の記述的評価

 評価対象である4研究分野18研究事業の各研究事業の評価の概要を次の通りである。なお詳細な「各研究事業の概要」は資料として添付する。

<I.行政政策研究分野>

 行政政策研究分野は、厚生労働行政施策の直結する研究事業である「行政政策研究事業」と、社会的要請が強く緊急性のある課題に関する研究を支援する「厚生労働科学特別研究事業」から構成されている(表2)。

表2.「行政政策研究分野」の概要
研究事業 研究領域
1.行政政策 政策科学推進
統計情報高度利用総合
社会保障国際協力推進
国際危機管理ネートワーク強化(平成16年度から)
2.厚生労働科学特別研究

(1)行政政策研究事業
 行政政策研究事業は、厚生労働行政施策に直結する研究事業である。行政政策研究事業は、さらに厚生労働行政施策の企画立案に関する「政策科学推進研究領域」、その基盤となる統計情報高度利用のための「統計情報高度利用総合研究領域」、および国際協力あり方等の検討のための「社会保障国際協力推進院研究領域」に分類できる。なお平成16年度からは、「国際健康危機管理ネットワーク強化研究領域」が追加された。それぞれの研究領域の評価概要は次の通りである。

(1−1)政策科学推進研究領域
 政策科学推進研究事業は、少子高齢化や社会経済情勢の変化の中で、社会保障制度に対する国民の関心がますます高まっていることを踏まえ、人文・社会科学系を中心に、年金・医療・福祉及び人口問題に関する政策や、社会保障全般に関する研究等に積極的に取り込むことにより、厚生労働行政施策の企画立案及び効率的な推進に資することを目的としている。
 公募課題決定、研究採択審査、研究実施の各段階において意見を聴取する等、省内関係部局との極的な連携に基づき、行政施策との関連性の高い課題を優先的に実施しており、「社会保障及び人口問題に係る政策、保健医療福祉における総合的な情報化や地域政策の推進その他厚生労働行政の企画及び効率的な推進に資する」ことを目的とする研究として、その役割を十分に果たしている。
 幅広い対象の研究を行うという性格上、研究成果が直ちに行政施策に反映されない研究も含まれるが、中長期的観点に立った施策の検討を行う上で必要な基礎資料を蓄積することも本研究事業の重要な役割であり、今後とも充実が必要である。

(1−2)統計情報高度利用総合研究領域
 統計情報高度利用総合研究事業は、保健、医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に係る統計調査の在り方に関する研究及びこれまでの厚生労働統計調査で得られた情報の高度利用に関する研究を実施し、厚生労働行政の推進に資することを目的としている。
 本研究事業においては、事業目的に鑑み、厚生労働省大臣官房統計情報部所管の統計調査に実際に応用可能であるかという点に留意して、研究の評価を実施している。
 本研究事業は、統計調査自体の充実・改善のみならず、統計調査の高度利用の推進により省内関係部局にも研究成果が還元されうるという特徴もあり、有用性の高い研究事業である。例えば、患者調査は各種の衛生行政施策の検討等に用いられており、本調査の精度を向上することで、ニーズに適合したデータ提供が可能になりうる。
 本研究事業で得られた研究成果は、当部が所管する各種の統計調査の充実・改善に有用であるとともに、既存統計調査の高度利用の推進にも貢献する内容となっており、事業目的を達成しているといえる。
 本研究事業では、各府省統計主管部局長等会議で検討された「統計行政の新たな展開方向(平成15年6月27日)」に沿い、ジェンダー統計の整備や世帯機能の把握といった社会等の変化に対応した統計の整備、政策評価への統計活用等の推進、オンライン調査の拡大、標本抽出の支援、データリンケージなどの多面的利用方策の検討等に活用できるような研究課題を設定し、実際に有用な成果を得ているところである。今後とも、これらに沿った方向で研究課題の設定を行うとともに、評価委員会の評価等を踏まえつつ一層の努力を重ねることにより、更なる成果が期待される。

(1−3)社会保障国際協力推進研究領域
 医療保険・年金、公衆衛生等を含めた広義の社会保障分野における国際協力のあり方や国際協力を推進するための方策等の検討に資する検討を得ることの本研究事業の目的としている。
 当該研究事業により、基本的な知見の集積が達成できたと評価できる。今後も引き続き、当研究事業を継続し、より体系的・戦略的な国際協力の実施に関し、効果を上げる必要がある。
図1.行政政策研究事業の具体的な成果の例
地域における福祉サービスの第三者評価及び第三者評価機関の認証に関するガイドライン案を作成し、提案を行った。この研究成果により行政側で同ガイドライン案を活用した福祉サービス第三者評価事業の推進体制を構築できた。
これまで実態が分かりにくかったWHOやユニセフなどの国際機関への拠出金と活動の実際を調査し、貴重な資料が提出された。この成果によって厚生労働省に関連の強いWHOなどと実りある連携をとるために取り組む、モニタリングの重要性が示され、行政的な実際の動きが期待される。
我が国の傷病構造が把握できる唯一の統計である患者調査に関する検討が行われ、統計審議会での議論を踏まえながら、医療機関が多くの報告票を記入することによる負担を軽減するための具体的提案があった。本成果は次回調査に反映される見込みである。

(2)厚生労働科学特別研究事業
 社会的要請の強い諸課題に関する必須もしくは先駆的で緊急性のある研究を支援して、当該課題を解決するための新たな科学的基盤を得ることを目的とする。
 研究は、たとえば重症急性呼吸器症候群(SARS)対策に資する研究、また牛海綿状脳症(BSE)発生国の牛せき柱の食品原料として使用可否の検討資料の提示(薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会伝達性海綿状脳症対策部会)等、緊急性のある課題に対して行政施策と関連性ある成果が極めて効果的に出されている。
 今後とも、一層の予算確保に努めると共に、健康危機管理に関する継続的な情報収集等と組み合わせ、行政的に重要な研究を適宜実施する体制とすることが望ましい。
 なお、本研究事業は、緊急性に鑑み、課題の採択に当たり、公募は行っていないものの、事前評価委員会による評価を行った上で配分額を決定し、研究を実施している。
図2.厚生労働科学特別研究事業の具体的な成果の例
重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する緊急研究が行われ、院内感染対策ガイドラインが作成された。本研究成果は広く情報提供がなされ、混乱解消に貢献した。
伝達性海綿状脳症(BSE)に係わる牛の脊柱からの脊髄神経節の除去に関する研究が行われ、その成果は審議会の部会で輸入の可否を判断する根拠となった。
1日使用ソフトコンタクトレンズによる健康被害に関する研究を行い、市販後の装用実態を把握するとともに、保存液の増量等が必要なことが明らかになった。
健康危機管理担当職員の資質向上のための研究プログラムの開発研究を行い、大規模災害時における医療支援の原則に関する日本語版テキストが作成された。


<II.厚生科学基盤研究分野>

 厚生科学基盤研究分野は、臨床に直結する成果が期待できる基盤研究に対して補助することを目的としている。厚生科学基盤研究分野は、「先端的基盤開発研究事業」と「臨床応用基盤研究事業」から構成されている(表3参照)。

表3.「厚生科学基盤研究分野」の概要
研究分野 研究事業
3.先端的基盤開発 ヒトゲノム・再生医療等
疾患関連たんぱく質解析
萌芽的先端医療技術推進
身体機能解析・補助・代替機器開発
4.臨床応用基盤 基礎研究成果の臨床応用推進
治験推進

(3)先端的基盤開発研究事業
 先端的基盤研究事業は、「ヒトゲノム・再生医療等研究領域」、「疾患関連たんぱく質解析研究領域」、および「萌芽的先端医療技術推進研究領域」、および「身体機能解析・補助・代替機器開発研究領域」から構成されている。
 それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(3−1)ヒトゲノム・再生医療等研究領域
 今世紀初頭に達成されたヒト遺伝子の全解読等を受けて、ゲノム創薬、テーラーメード医療に代表される次世代医療の中心を担うヒトゲノム・遺伝子治療分野における研究競争が欧米諸国を中心に国際的に激化しているところである。このような状況において、本研究事業により、ヒトゲノム研究を強力に押し進め、幅広い分野での新産業の創出を図るとともに、バイオテクノロジーを活用したゲノム創薬につながる研究の推進及び強化が必要である。このような国際的な状況を踏まえ、高齢者の主要な疾患の遺伝子の解明に基づく個人の特徴に応じた革新的な医療の実現などに資するため、(1)高齢者に主要な疾患に関連する遺伝子の解析や遺伝子治療の基盤となる研究、(2)遺伝子治療に用いるベクターの開発及び遺伝子治療に用いるベクターの安全性・有効性評価方法に関する研究、(3)ヒトゲノム分野、遺伝子治療分野及び再生医療分野研究に関連する倫理に関する研究、を推進する必要がある。

(3−2)疾患関連たんぱく質解析研究領域
 欧米諸国では疾患からのアプローチに既に国家プロジェクトとしてその取り組みに着手しているが、我が国においては欧米のような大規模かつ集中的な疾患関連たんぱく質に関する研究はない。また、多額の費用を要するため企業単独で取り組むことも困難である。このため、我が国においても産学官の連携のもと、患者と健康な者との間で種類等が異なるたんぱく質を同定し、これに関するデータベースの整備を図ることで、画期的な医薬品の開発を促進する必要がある。
 そのため、産学官が連携して、国立医薬品食品衛生研究所、国立高度専門医療センター等医療機関及び製薬企業等からなる共同研究体制を構築し、患者サンプルの提供からサンプル処理・解析・データ処理等までの一貫した体制を構築・運営している。それにより、大規模かつ集中的に疾患関連たんぱく質を解析し、疾患関連たんぱく質のデータベース構築することが期待できる。

(3−3)萌芽的先端医療技術推進研究領域
 (1)ナノメディシン
 超微細技術(ナノテクノロジー)の医学への応用による非侵襲・低侵襲を目指した医療機器等の研究開発を推進することにより、患者にとってより安全・安心な医療技術の提供の実現を図る必要がある。
 そのため、超微細技術(ナノテクノロジー)を活用した医療機器、医薬品の開発技術を民間企業との連携を図り、発展させる研究であり、(1)超微細画像技術の医療への応用(2)微小医療機器操作技術の開発(3)薬物伝達システムへの応用(4)がんの超早期診断・治療システムの開発などを推進している。
 また、本事業は、国として着実な推進を図る指定(プロジェクト)型、及び広く知見を集積する公募型で実施されている。
 (2)トキシコゲノミクス
 ゲノム情報・技術等を活用した医薬品開発のスクリーニング法、副作用の解明等の技術に関する研究開発を推進することにより、医薬品開発の促進及び安全性確保の両面に寄与する基盤整備を図る必要がある。
 そのため、ゲノム科学を活用し、医薬品の候補化合物等について、迅速・効率的に安全性(毒性・副作用)を予測する基盤技術(トキシコゲノミクス)に関する研究を実施している。
 トキシコゲノミクスのデータベース確立の技術開発については、国として着実な推進を図る観点から、指定(プロジェクト)型として製薬企業との共同研究で進められている。また、副作用回避の基本的手法の開発等萌芽的要素の強い研究開発については、様々な研究者が有する知見を広く集積することが望まれるため公募型で事業を推進している。

(3−4)身体機能解析・補助・代替機器開発研究領域
 今後ますます高度化する医療への要求に応え、国民の保健医療水準の向上に貢献していくためには、最先端分野の医療・福祉機器の研究開発を進め、医療・福祉の現場へ迅速に還元することが重要である。このことを踏まえ、厚生労働省としても平成15年3月に医療機器産業ビジョンを策定した。本研究事業は、そのアクションプランの一環として平成15年度から開始された新規研究事業である。本事業は、近年のナノテクノロジーを始めとした技術の進歩を基礎として、生体機能を立体的・総合的に捉え、個別の要素技術を効率的にシステム化する研究、いわゆるフィジオームを利用し、ニーズから見たシーズの選択・組み合わせを行い、新しい発想による機器開発を推進することを目的としている。本事業は、現在国として着実な推進を図る指定型で進められているが、今後は、指定型研究に加え、公募枠を新設し、産官学の連携の下、画期的な医療・福祉機器の速やかな実用化を目指すことが望ましいと考えられる。

先端的基盤研究事業における具体的な成果例を図3に示す。
図3.先端的基盤開発研究事業の具体的な成果の例
「骨髄細胞移植による血管新生療法」「難治性眼疾患に対する羊膜移植術」による研究成果が参考にされ、医療保険における高度先進医療として認定されるなど、実際の医療現場で用いられる再生医療技術を生み出した。
プリオン蛋白欠損(Ngsk-Prnp0/0)マウスの樹立に成功した。この成果によって、神経変性モデルとしての応用が期待される。
倫理審査委員会等の国内外の実態調査が行われた。その成果は臨床研究倫理指針策定の際に役立った。
ヒト試料の採取・管理から前処理、質量分析、創薬ターゲット探索用データ解析までを一括管理するシステムを構築する研究が行われた。今後は、網羅的な疾患関連たんぱく質解析を進め、データベース構築を本格化させることにより、日本の医薬品産業の国際的競争力が強化され、国内外の患者に質の高い医薬品を提供することが期待される。
大腸がんスクリーニング法の開発研究によって、便中剥離がん細胞を分離回収する方法を確立した。全結腸の早期がんもカバーしうるため、実用化により大腸がんの死亡率を減少させ得る。
先端に複数の手術用器具を装備する内視鏡的手術器具、超低エネルギー除細動法、高次脳機能障害診断機器の開発が行われた。この開発は、厚労省の策定した医療機器産業ビジョンで定めた重点的作業分野の研究支援に寄与している。

(4)臨床応用基盤研究事業
 臨床応用基盤研究事業は、「基礎研究成果の臨床応用推進研究領域」、および「治験推進研究領域」から構成されている。
 それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(4−1)基礎研究成果の臨床応用推進研究領域
 民間企業は研究開発の段階のうち、治験等の実用化直前の研究に多く投資する傾向があり、基礎研究成果の実用化の可能性を確かめる研究については投資が少ない。このため、基礎的な段階における研究成果が十分に活用されていないという問題が指摘されている。
 このような状況において、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。
 そのため、本事業は、医薬品又は医療技術等の基本特許を活用して、治療法として研究期間中に探索的な臨床研究に着手しうる医薬品又は医療技術に関する研究を推進し、基礎研究成果を実際に臨床に応用することを目的としている。
 本事業は、平成14年度より開始した事業であるが、すでに本研究事業により、重症慢性下肢虚血患者に対する自家血管内皮前駆細胞移植、癌ペプチドワクチンの臨床研究、重症突発性肺胞蛋白症に対するGM-CSF吸入療法の全国7施設における臨床研究などがすでに実施されており、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、臨床現場への有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが期待できる。
 平成16年度の申請状況では、70件以上の応募があり10倍弱の競争率であった。今後とも、研究者の需要に応えるため適切な額の研究費を確保すると共に、質の高い研究を採択できるよう評価体制を強化充実する必要がある。

(4−2)治験推進研究領域
 我が国での治験の実施数が減少しており、そのため、国内における医薬品等の開発が遅れ、優れた医薬品に対する患者のアクセスを遅らせる結果となっている。その対策として平成15年7月に「全国治験活性化推進3カ年計画」を策定したが、本事業はその計画の大きな柱のひとつであり、行政施策の実施に欠かせない事業である。
 本事業は、治験環境の整備を行うため、複数の医療機関による大規模な治験ネットワークを形成し、医療上必須かつ不採算の医薬品・医療機器に対して行う医師主導の治験を行うこととしている。
 平成15年度から開始された事業であるが、すでに日本医師会に治験促進センターを設立し、500を越える登録医療機関から成るネットワークを構築した。さらに、がん、循環器、小児疾患分野においてそれぞれ医師主導型治験をモデル事業として実施すべく候補薬の決定、治験実施機関の選定を終えている。今後は、平成15年度に立ち上げた治験を引き続き実施するとともに、平成16年度においても新たに治験を立ち上げ治験環境の整備を進める必要がある。

臨床応用基盤研究事業における具体的な成果例を図4に示す。
図4.臨床応用基盤研究事業の具体的な成果の例
研究成果は臨床応用に結びついている。たとえば、抗MCP-1療法に関する基礎研究成果を基盤にして「遺伝子溶出型ステント」を作製し、再狭窄に対する臨床研究を目指している。また、遺伝子溶出型ステントによる再狭窄の抑制は、独自の独創的技術を用いているものであり、本研究成果を基盤にして画期的遺伝子溶出型ステントの開発につながるであろう。新しい治療法開発、患者QOL改善、医療費の低減化・効率化、などがもたらされるこれらの技術が臨床応用されれば、我が国はこの医療器具技術開発分野でリーダーシップを発揮できることが期待できる。
厚労省・文科省で策定した、全国治験活性化3ヶ年計画に基づいて、研究ベースで治験推進策として日本医師会に治験促進センターを設立し、500を越える登録医療機関から成るネットワークを構築する研究が行われた。さらに、我が国において初めて試みられる医師主導型治験の支援を行っている。


<III.疾病・障害対策研究分野>

 疾病・障害対策研究分野は、個別の疾病・障害や領域に関する治療や対策を研究対象としている。具体的には、「長寿科学総合研究事業」、「子ども家庭総合研究事業」、「第3次対がん総合戦略研究事業」、「循環器疾患等総合研究事業」、「障害関連研究事業」、「エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業」「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業」、「こころの健康科学健康事業」、および「難治性疾患克服研究事業」から構成されている(表4)。

表4.「疾患・障害対策研究分野」の概要
研究分野 研究事業
5.長寿科学総合 長寿科学総合
痴呆・骨折臨床
6.子ども家庭総合 子ども家庭総合
小児疾患臨床
7.第3次対がん総合戦略 第3次対がん総合戦略
がん臨床
8.循環器疾患等総合
9.障害関連 障害保健福祉総合
感覚器障害
10.エイズ・肝炎・
新興再興感染症
新興再興感染症
エイズ対策
肝炎等克服緊急対策
11.免疫アレルギー疾患予防・治療
12.こころの健康科学
13.難治性疾患克服

(5)長寿科学総合研究事業
 長寿科学総合研究事業は、「長寿科学総合研究領域」、および「痴呆・骨折臨床研究領域」(平成15年度は「効果的医療技術の確立推進臨床研究事業:痴呆・骨折臨床研究分野」で実施)から構成されている。

(5−1)長寿科学総合研究領域
 本研究事業は、老化や主要老年病の診断治療といった老年医学に加え疫学、介護、リハビリ、社会科学等、長寿に関連する分野の総合的な研究を行うことを目的としており、ゴールドプラン21や介護保険制度をはじめとした高齢者施策の推進を重視したものとなっている。
 医学的分野では疾患関連蛋白、老化や老年病発症の機序の解明が進み、また、リハビリテーションに関する諸研究の成果が国の新たな方針に反映された。政策研究分野においては、介護予防事業やケアマネジメントの評価、要介護認定や介護サービスの検証、高齢者の権利擁護等に関する科学的根拠の蓄積に大きな成果が見られた。医学的分野のみならず、様々な行政施策と連動しつつ研究成果がこれらの施策に反映され、本研究事業の目的が十分達成されつつある。
 ただ、医学的分野と社会科学的分野の均衡ある評価及び資金配分が難しくなってきているという指摘もある。今後は、先端科学の成果を背景とした老年医学の進展を見据えつつ、介護保険制度等の見直しの動きと十分連動し、均衡ある高齢者の保健医療技術の向上と介護や高齢者政策の進展に資するよう、痴呆・骨折臨床研究事業も併せ本研究事業のあり方を検討する必要がある。

(5−2)痴呆・骨折臨床研究
 豊かで活力ある長寿社会を創造することを目指して、要介護状態の大きな原因である痴呆及び骨折を予防と治療の向上を図る必要がある。このため、「メディカル・フロンティア戦略」の一環として、痴呆及び骨折について、より効果的な保健、医療及び介護技術を確立するための臨床研究等を推進するものであり、その実施については長寿科学総合研究事業とも十分連携を図ることとしている。
 具体的には、痴呆に対する新たな治療薬や画像診断の技術開発、痴呆予防のための介入評価に関する研究、骨粗鬆症の病態解明に加え、骨折や脳卒中に伴うリハビリテーションの連携システムに関する研究、転倒予防や骨折リスク軽減のための装具の普及に関する研究が進んでおり、これらについて大きな成果がみられた。
 メディカル・フロンティア戦略のみならず、ゴールドプラン21、老人保健事業や介護保険制度等の行政施策と連動しつつ研究成果がこれらの施策に反映され、本研究事業の目的が十分達成されつつある。今後は、メディカル・フロンティア戦略の新たな方向性を見据えつつ、老年医学の進展及び介護保険制度等の見直しの動きと十分連動し、均衡ある高齢者の保健医療技術の向上と介護や高齢者政策の進展に資するよう、長寿科学総合研究事業と併せ本研究事業のあり方を検討する必要がある。成果を図5−1および2に示す。
図5−1.長寿科学総合研究事業の具体的な成果の例
寝たきり予防を目的とした老年症候群発生予防の検診の実施と評価に関する研究:加齢に伴う特有の障害により生活機能が低下した高齢者に対する生活機能低下の発見に主眼をおいたスクリーニング手法が開発された。本成果は、現在進められている介護保険制度の見直しにおける新しい介護予防サービス対象のアセスメント手法の開発に示唆を与えている。
在宅高齢者に対する訪問リハビリテーションのプログラムとシステムに関する研究:国際生活機能分類(ICF)の理念を取り入れたリハビリテーション手法を開発するとともに、介護報酬改定における「リハビリテーション総合実施計画書」の様式の作成し、その成果の普及が進められた。また、本研究で提案された新しいリハビリテーションモデルは「高齢者リハビリテーション研究会」における検討及び中間報告のとりまとめに大きく貢献した。
老人骨折の発生・治療・予後に関する全国調査:日本整形外科学会の調査の一環として全国唯一の骨折発生の疫学調査を行ってきた。その成果は骨折の発生状況のみならず、発生部位・治療法や予後についても明らかになった。「高齢者リハビリテーション研究会」における新しいリハビリテーションモデルの提唱に本研究の成果の一部がevidenceとして有効に活用された。

図5−2.長寿科学総合研究事業の具体的な成果の例
高齢者の転倒と骨粗鬆症に伴う骨折の予防を目的とした疫学的環境医学的治療学的研究:骨折予防におけるヒッププロテクターの有用性を明らかにするとともに、継続した着用のためのヒッププロテクターの改良及び効果判定を行った。骨折予防の装具としてヒッププロテクターの普及にあたり、本研究の成果が大きく貢献している。
痴呆性疾患の危険因子と予防介入:多くの痴呆性疾患は、ライフスタイル(環境)要因と遺伝要因が相俟って発症するものと考えられ、発症予防の可能性を探るには、両者の相互作用を考慮する必要がある。本研究では、遺伝子レベルで発症危険因子を明らかにするとともに、全国4カ所での悉皆調査及び予防を目的とする介入を継続し、科学的根拠に裏打ちされた痴呆発症予防の具体的な方法論を確立した。本研究成果は市町村による事業化の可能性を開いた点において高く評価されるものである。

(6)子ども家庭総合研究事業
 子ども家庭総合研究事業は、「子ども家庭総合研究領域」および「小児疾患臨床研究領域」(平成15年度は「効果的医療技術の確立推進臨床研究事業:小児疾患に関する臨床研究分野」で実施)から構成されている。
 それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(6−1)子ども家庭総合研究領域
 社会経済の変化や急速な少子化に伴い、妊娠、出産から子どもの健全な育ちにかかわるニーズは大きく変化してきており、子どもと家庭の多様なニーズに対し、適切な対応が求められている。子ども家庭総合研究事業は、子どもの発達支援や生涯を通じた女性の健康の保持増進、子どもや家庭を取り巻く環境やこれらが子どもに及ぼす影響などについて研究を行い、健全な次世代育成支援を推進し、児童家庭福祉の向上に資することを目的とする研究事業である。
 本研究事業については、子どもの健康確保と母子医療体制等の充実、多様な子育て支援サービスの推進、児童虐待への対応など要保護児童対策等の充実を図るため、新たな課題やニーズに対し、実証的な研究を行っている。本研究事業を通じて、母子保健医療及び児童家庭福祉のための行政施策の推進に資する基礎情報、施策への応用が可能な研究成果が提供されているところであり、我が国の取り組むべき母子保健医療・児童家庭福祉の今日的課題に対する大きな貢献が期待される。

(6−2)小児疾患臨床研究領域
 現在、小児科領域の現場では、医薬品の7割〜8割が小児に対する適用が確立されていない状況で使用されているという状況がある。小児疾患のように企業が開発し難い疾患分野にあっては、行政的にその研究を支援していく必要があり、根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine: EBM)の推進を図るため、倫理性及び科学性が十分に担保される質の高い臨床試験の実施を目指す必要がある。
 そのため、本事業において、小児疾患に関する医薬品の使用実績の収集、評価を行うことにより治療方法を確立していくとともに、治験を実施していく上で最も基本となる臨床研究自体の質の向上を図り、日本人の特性や小児における安全性に留意した質の高い大規模な臨床研究を実施することを目指している。そして、小児疾患に関する医薬品の使用実績の収集、評価を着実に実施することにより治療方法を確立し、小児疾患分野において質の高い医療、医療安全の確保に貢献することが期待できる。

子ども家庭総合研究事業における具体的な成果例を図6に示す。
図6.子ども家庭総合研究事業の具体的な成果の例
配偶子・胚提供を考慮すべき適応基準を含む我が国における独自の生殖補助医療技術全体の診療指針が研究成果として作成された。配偶子・胚提供を必要とする不妊夫婦の急激な増加が明らかになり、これを統括すべき公的運営機関の意義と必要性、出自を知る権利の論議や、カウンセリング体制の整備の必要性が明確になった。
健やか親子21公式ホームページを構築運営に関する研究成果は、情報の収集・提供面で寄与した。健やか親子の取り組みのベースラインについて数項目調査し、全国のベースラインとして扱われている。健やか親子21における市町村の取り組みに関する双方向データベースを構築し、推進に寄与した。これらのWeb情報を用いた新しいヘルスケアコンサルティングシステムを構築・提案した。
鎮痛・鎮静薬や抗腫瘍薬について用法・用量、有効性、安全性等について評価を行い、医師主導型治験を実施するための標準業務手順書を作成する等の研究成果をあげてきた。小児における、より効果的かつ効率的な予防、診断、治療等を確立するための質の高い臨床研究を行い、小児疾患に関する医薬品の使用実績の収集、評価を行うことにより治療方法を確立することが期待される。

(7)第3次対がん総合戦略研究事業
 第3次対がん総合戦略研究事業は、「第3次対がん総合戦略研究領域」および「がん臨床研究領域」および「がん臨床研究領域」から構成されている。平成15年度は、がん克服戦略研究事業、がんの臨床研究分野およびがん予防等健康科学総合研究事業で実施されている。
 遺伝子・分子レベルでのがんの生物学的基盤研究や発がん要因とがん予防研究では国際的にも極めて貢献度の大きい研究成果が多く得られ、がんの病態もジェネティック・エピジェネティックな遺伝子異常との対比で捉えられるようになってきた。また、がんの診断・治療に関する研究では、分子レベルでのがんの診断や分子標的療法などの開発研究の成果が得られ、ヘリカルCTの開発とその検診への応用も、世界に先駆けて行われ、早期診断や治癒率の向上に大きく寄与した。また、がんの疫学研究やがん情報の基盤整備では、過去数十年における日本人の生活習慣の激変によるがん罹患率の変動状況を明らかにし、がん予防における環境要因の重要性を示してきた。
 このように本研究事業は、「がん克服新10か年戦略」の推進に大きな貢献をしてきた。今後は「第3次対がん10か年総合戦略」を着実に推進して行くため、これら多くの重要な成果をさらに発展させることが求められている。そのため、がんの本態解明を一層進め、その成果を迅速にかつ幅広くがんの臨床に繋げる研究を進めるとともに、臨床研究・疫学研究等の新たな展開により、革新的な予防、診断及び治療法の開発を推進する。また、質の高いがん医療の均てん化を実現するために、我が国におけるエビデンスの確立に資する質の高い多施設共同研究を推進し、がんの標準的医療技術を確立するとともにその成果の普及をはかることとする。具体的な成果例を図7に示す。
図7.第3次対がん総合戦略研究事業の具体的な成果の例
がんの病理像と遺伝子・分子・細胞レベルの変化の対応を明らかにし、細胞極性の決定に関わるがん抑制遺伝子TSLC1・諸臓器のがんで高発現しがん転移を亢進させる分子ディスアドヘリン等新規がん関連遺伝子を同定した。遺伝子変異・DNAメチル化異常の網羅的解析技術を確立した。
磁気誘導装置を用いた有効性・安全性の高い胃内視鏡切除術の手法を開発し、動物実験を終了して平成16年度より臨床試験に入れるようにした。
限局期小細胞肺がんに対する放射線化学療法にイリノテカン+シスプラチン(IP)療法を組み入れる、独自で、かつ最も期待される治療法の開発研究が進行中で、3年生存率を現在の30%から45%に向上させることが見込まれる。
肺がん対策の切り札として世界的に注目されているCTを用いた肺がん検診の有効性評価を行い、中間成績として、男性で約36%の死亡率減少効果を示唆する成績を示した。本研究成績は、世界でも初めての成績である。

(8)循環器疾患等総合研究
 我が国の3大死因のうち、2位と3位を占める重要な疾患である脳卒中、心疾患及びその原疾患である糖尿病等の生活習慣病に対する予防・診断・治療法について研究を進める本研究事業は、厚生労働行政の中でも重要な位置を占めている。平成15年度は、効果的医療技術の確立推進臨床研究(心筋梗塞・脳卒中・生活習慣病の臨床研究分野)で実施されていた。
 これまでの研究で、糖尿病と生活習慣の関係や合併症予防に関する従来の通説とは異なる日本人の新たな知見が明らかとなり、今後、診療ガイドラインにも強い影響を与えるものと考えられる。また、虚血性心疾患に対する内科的治療・外科的治療の現状やその治療法の選択に関しても、初めて全国規模の二次医療圏レベルの調査研究が行われ、重要な知見が得られた。今後、新しい狭心症治療ガイドラインが作成されることで患者ならびに医療経済にとって福音となることが期待される。また、従来最も医療費が高かった冠状動脈バイパス手術に関する重要な知見が得られ、医療費を大幅に削減できるものと期待される。さらに、難治性腎疾患のデータベースが構築され、腎疾患対策に活かすための環境が整ってくるなど多くの成果が得られてきた。これら成果は、厚生労働行政に貢献するところ大で、医療経済的にも重要な成果と考えられる。今後はさらに糖尿病に関する研究の強化や、メタボリックシンドロームなど知見の集積に伴う新たな視点に基づく循環器系疾患の総合的な研究を強力に推進して行く必要がある。
 また、急性期脳梗塞に対して、閉塞した脳血管に直接薬剤を投与することにより治療する局所血栓溶解療法は、患者の社会復帰率を改善し、医療費削減の可能性が期待される。さらに、心室細動等の不整脈による突然死については、除細動等による早期の治療が注目されており、傷病者に居合わせたバイスタンダーによる効果的な早期介入・治療のあり方の研究強化が一層求められている。
図8.循環器疾患等総合研究事業の具体的な成果の例
我が国の急性心筋梗塞患者数は年間約6.6万人であることが初めて判明した。
本邦初の大規模無作為割付試験等により、低リスク狭心症に対する薬物療法はインターベンションより予後が良好であり、コストも1/4であることが判明した。
欧米と比較して、日本の糖尿病患者に肥満の合併が少ないこと、心血管合併症が予想以上に多く、虚血性心疾患と脳卒中の発症が同程度であること、血圧が網膜症発症に大きく影響していることなど、通説とは異なる事実が明らかになった。
冠状動脈バイパス手術のクオリティーは人工心肺を使用せずとも保たれ、しかも周術期における脳・心臓に対する低侵襲性が明らかとなった。
全国的な地域中核病院ネットワーク組織を活用して、難治性腎疾患(代表疾患として糖尿病性疾患とIgA腎症)のデータベースを構築し、同疾患に対する治療指標と進展予測因子を明確にし、治療指針が研究成果として作成された。

(9)障害関連研究事業
 障害関連研究事業は、「障害保健福祉総合研究」および「感覚器障害研究」から構成されている。
 それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(9−1)障害保健福祉総合研究
 平成15年度よりスタートした「新障害者基本計画」及び「新障害者プラン」に基づいて、各種障害者施策を適切に推進することが課題となっている。
 本研究事業においては、身体障害、知的障害、精神障害及び障害全般に関し、治療、リハビリテーション等の適切なサービス、地域における居宅・施設サービス等をきめ細かく提供できる体制づくり等、障害者の総合的な保健福祉施策に関する研究開発を実施しており、これらは公募課題の決定時点から必要な行政施策を踏まえ戦略的に取り組んでおり、施策決定の上での基礎資料の収集・分析、研究成果に基づく施策への提言等大きな成果をあげている。
 障害保健福祉施策は、今後、自立支援・介護のための人的サービス、就労支援、住まい対策、発達支援などについて総合的に取り組む必要があり、行政ニーズの一層の明確化を図るとともに、本研究事業の継続的な充実が必要である。

(9−2)感覚器障害研究
 視覚、聴覚・平衡覚等の感覚器機能の障害は、その障害を有する者の生活の質(QOL)を著しく損なうが、障害の原因や種類によっては、その軽減や重症化の防止、機能の補助・代替等が可能である。そのため、本研究事業では、これらの障害の原因となる疾患の病態・発症のメカニズムの解明、発症予防、早期診断及び治療、障害を有する者に対する重症化防止、リハビリテーション及び機器等による支援等、感覚器障害対策の推進に資する研究開発を一貫して推進している。
 複雑な感覚器障害の全容解明には、まだ多くの課題があるものの、病態解明、検査法、治療法の開発、支援機器の開発に着実な成果をあげている。具体的には正常眼圧緑内障の疫学的研究、人工視覚システムの開発、難聴胎児の診断法、人工内耳の客観的評価法の開発などがある。
 高齢化が進む中で、QOLを著しく損なう感覚器障害の予防、治療、リハビリテーションは重要な課題である。特に、失明の原因として増加しているといわれる糖尿病性網膜症や緑内障、突発性難聴などに対する疫学的調査を含めた対策の樹立は急務であり、専門家の意見を踏まえつつ、公募課題の重点化を図っていく必要がある。

障害関連研究事業における具体的な成果例を図9に示す。
図9.障害関連研究事業の具体的な成果の例
「身体障害者及び知的障害者更生相談所のあり方に関する研究」:平成15年4月から始まった支援費制度の障害程度区分を決定する上で、本研究の成果を活用した。また、本研究で作成したマニュアルを利用して、全国の更生相談所で市町村が行う支援費制度の実施を支援している。
「入院中の精神障害者の人権確保に関する研究」:本研究で作成した精神医療審査会の年次報告書モデル、問題事例提示様式等を、自治体に対する全国会議で配布し普及を図った。また、本研究で作成した精神科医療における情報公開ガイドライン試案を精神保健医療福祉推進のための検討会資料として使用した。
「網膜刺激型電極による人工視覚システムの開発」:新たな人工網膜の方式である脈絡膜上−経網膜電気刺激法の動物実験に成功し、現在治療法のない網膜色素変性症に対し、視覚回復につながる治療法の開発に近づいた。
「虚血性内耳障害防御メカニズムに基づいた難聴の治療」:原因不明の突発性難聴に関し、発症機序におけるアポトーシスの関与を明らかにするとともに内耳低温療法の有効性を確認するなど、治療法の開発に近づいた。

(10)エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業
 エイズ・肝炎・新興再新興感染症研究事業は、「エイズ対策研究領域」「肝炎等克服緊急対策研究領域」、「新興再興感染症研究領域」から構成されている。
 それぞれの研究領域の内容は次の通りである。

(10−1)エイズ対策研究領域
 2003年の国内報告数は、感染者640件、患者約336件となっており、残念ながら、我が国におけるHIV感染者・AIDS患者報告数は依然として増加傾向にあり、危機的な状況となっている。感染者の特徴としては、性的接触による感染がほとんどで、男性同性間の感染が、性的接触のうち約7割を占めているため効果的な予防方法の開発が求められている。しかしながら、年齢階級別にみると、若年層(15-24才)の日本人感染者は、男性対女性が約7:10と、女性感染者が男性感染者を上回っていることから、青少年対策として性教育も含めたエイズ予防介入法の開発も今後ますます必要となる。また、東京を中心とする関東地域のみならず、地方の大都市でも感染拡大の傾向が認められているため、更に効果的な検査体制の構築について、保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン等を利用しつつ、研究し続けていく必要がある。
 また、全てのエイズ患者・HIV感染者が、医療スタッフとの信頼関係のもとに安心して医療が受けられる体制の構築に関しても、抗HIV治療ガイドラインやHIV・HCV重複感染時のガイドライン、HIV母子感染予防対策マニュアル等を利用しつつ、拠点病院の現状把握とともに今後のあり方について考察・研究していくべきである。
 これからも、「エイズ予防指針」に基づき、予防及び治療を「車の両輪」とした総合的な研究を推進していくことが重要である。

(10−2)肝炎等克服緊急対策研究領域
 肝炎等克服緊急対策研究事業は、肝炎ウイルスの病態及び感染機構の解明並びに肝炎、肝硬変、肝がん等の予防及び治療法の開発等を目的として、平成14年度に新設された事業である。15年度までの2年間の主な成果としては、基礎研究分野においては、チンパンジーを用いた感染実験による感染成立に必要な最小のHCV量、感染初期のHCV増殖速度の解明、「日本固有株」と呼び得るHEV株の存在の証明、遺伝子発現パターンに基づく肝障害度のスコア化等が挙げられる。また、臨床研究の分野においては、C型慢性肝炎の標準的治療ガイドラインの策定、生体肝移植の再発率等の成績向上、透析医療、歯科診療における感染予防法、行政研究の分野においては、肝炎ウイルスキャリアの健康管理・治療ネットワークの構築、慢性肝疾患患者の健康管理及び適切な治療のための健康管理手帳の作成等、社会的にもインパクトのある成果を挙げている。
 C型肝炎のキャリアは全国に100万から200万人いると推定されており、本事業による、発がん予防、肝硬変・肝がんの治療向上等への貢献を大いに期待したい。

(10−3)新興・再興感染症研究領域
 近年、新たにその存在が確認された新興感染症や既に制圧したかに見えながら再び猛威をふるいつつある再興感染症が世界的に注目されているが、これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法等について不明な点が多い。このため、平成9年度より、これらの感染症の病態及び感染機序等の解明並びに予防、診断、治療法の開発等を目的とした新興再興感染症研究事業を実施している。これまでにも、バイオテロに使用される可能性のある病原体の迅速診断法の開発や診断治療マニュアルの策定、動物由来感染症対策に有用なサーベイランスシステムの開発や輸入動物のトレーサビリティシステムの開発等、優れた成果が上がっている。今後もSARSやデング熱に対するワクチンの開発や新型インフルエンザ対策としての診断法の開発及び健康危機管理体制の確立等を目的とした研究が実施される予定であり、その成果を大いに期待したい。

エイズ・肝炎・新興再新興感染症研究事業における具体的な成果例を図10に示す。
図10.エイズ・肝炎・新興再新興感染症研究事業の具体的成果例
エイズ対策研究(薬剤耐性のモニタリングに関する技術開発研究):薬剤耐性HIV-1・副作用はHIV-1感染者の化学療法を適切に進める上での重大な障害となっている。成果のうち実用レベルに達している部分に関してはホームページによる情報公開・検査の受付等を行い、HIV-1感染者の治療支援に貢献している。
肝炎等克服緊急対策研究:C型肝炎ウイルスの感染の全国実態調査を実施し、潜在的感染者が肝臓専門病院へ速やかに移行・治療されるネットワークを構築した。このガイドラインはIFNを有効に活用するため短期的治癒群、標準的治療群、難治群に分けてIFN投与期間、併用療法を決めた。また、IFN無効例、非適応例に対する治療法についても治療のガイドラインを作成した。今後、本ガイドラインを中心に全国的規模で治療が進められ、医療経済への効率的還元、効果的な治療法の開発・確立へつながることが期待できる。
新興・再新興感染症研究:それぞれの研究により、(1)動物病院従事者のMRSA院内感染対策の重要性を提示、(2)サルモネラの耐性菌の拡大とレプトスピラ菌の存在を科学的に実証、(3)バイオテロ対策等を講じる上で炭疽菌、野兎病菌の検出法確立の意義を確認、(4)通常の注意をもってイヌを飼育していれば、イヌから飼い主にMRSAやその他のブドウ球菌および下痢菌が伝播されることはないことが判明、(5)狂犬病の侵入が危惧される地域の狂犬病対策立案の資料の提示、(6)動物由来感染症対策への資料の提示、(7)動物由来感染症のサーベイランスの立案・実施のための有益なモデルの提供、(8)サーベイランスの実施に不可欠な情報の提供、および(9)抗体検出ELISAをレプトスピラ病の抗体サーベイランスのための迅速診断法として提案された。また、研究成果は、(10)結核感染症課の「小鳥のオウム病の検査方法等ガイドライン」作成に大きく寄与するとともに、(11)動物展示施設での感染症対策の立案における貢献が期待されている。

(11)免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業
 アレルギー性疾患は、国民の30%が罹患しているといわれており、さらに増加傾向にある。また、その重症化も進み、日常生活に著しい支障をきたすことから、国民の健康上重大な問題となっているが、その病態解明は十分とは言えない。このため、これらの疾患の発症と環境因子、遺伝性素因との関係を明らかにし、予防、診断、治療法に関する新規技術等の開発を進め、その成果を臨床の現場に反映し、より適切な医療の提供が実現されることを目標に研究開発を行う必要がある。特に以下の点については、十分な留意の下研究を進めるべきである。
 基礎研究、基盤開発研究等の成果を十分に活用し、免疫メカニズムに関する知見を十分に踏まえた上で研究を推進する。
 関係機関との連携の下で研究を進める必要がある(平成16年度からは、理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究所と国立病院機構相模原病院との共同研究が開始)。
 免疫アレルギー疾患については、近年の臨床的研究の成果により、その病気の本態について徐々に発生機序、悪化因子等の解明が進みつつある。今後も目標の達成に向けた取り組みを予定しており、
 環境要因、ゲノム情報を取り入れた予防法の確立
 個人の病態を考慮したテーラーメード医療の確立等、免疫システムを考慮した治療法の確立
 疫学情報、予防法、治療法等の正しい情報を還元する
といったテーマを中心に、明確な目標を設定し効率的な研究を推進し、その成果を行政に反映していく必要がある。具体的な成果例を図11に示す。
図11.免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業の具体的成果例
関節リウマチに関する研究において、全く新しいタイプの治療薬剤である生物学低製剤インフリキシマブに対し、具体的な適応基準、除外基準を明示したガイドラインが初めて策定された。
重症喘息に関する研究において、重症喘息の病因・病態、気道リモデリングの評価法、Churg-Strauss症候群の早期診断と治療法についての成果が得られた。成果は喘息治療ガイドラインへ反映される予定である。
リウマチ・アレルギーの情報収集・提供体制に関する研究において、疾患に関する正しい情報提供の在り方やリウマチ・アレルギー疾患の専門施設へのアクセスに関する情報提供の在り方が提案され、これらの成果を参考に、リウマチ・アレルギー疾患に関する療養環境を整えた。

(12)こころの健康科学研究事業
 近年、高い水準で推移する自殺問題をはじめ、社会的関心の高い統合失調症やうつ病、睡眠障害等のこころの健康に関わる問題と、ひきこもり等の思春期精神保健の問題、また自閉症やアスペルガー症候群等の広汎性発達障害及び神経・筋疾患に対して、疫学的調査によるデータの蓄積と解析を行い、心理・社会学的方法、分子生物学的手法、画像診断技術等を活用し、病因・病態の解明、効果的な予防、診断、治療法等の研究・開発を推進した。
 特に、精神保健福祉分野においては、自殺関連や思春期保健関連、さらには、司法精神医学に係る研究など、行政施策に直接的に反映された研究も多く、本研究事業は一定の成果をあげているといえる。
 神経疾患分野においても、脳・神経疾患に関して、病態解明から治療法・予防法の開発まで、総合的に多くの成果が挙げられている。
 今後国民の健康に占める「こころの健康問題」の重要性が更に高まってくることに鑑み、本事業を強力に推進していく必要がある。成果例を図12に示す。
図12.こころの健康科学研究事業の具体的な成果の例
自殺と防止対策の実態に関する研究:国民的課題となっているこころの健康対策推進の基盤となる情報を提供し、厚生労働省「地域におけるうつ対策検討会報告書」、自殺予防対策、社会保障審議会障害者部会精神障害者分会報告書「今後の精神保健医療福祉施策について」の資料として活用された。
心的外傷体験による行為障害の評価と援助技法の研究:PTSDは、社会的ニーズに比較して実証的な治療研究が少なく、被害が強調される一方で回復モデルが提示されていなかった。これに対して、実証研究によってPTSDの治癒経過を示すとともに、治療方法を標準的なプロトコルとして提示した。
経頭蓋磁気刺激療法の精神疾患への臨床応用を発展させ、脳波と機能的MRIの同時測定は、国際特許も申請するに至り、世界をリードしている。
即戦力的クロイツフェルト・ヤコブ病治療法の確立に関する研究:クロイツフェルトヤコブ病治療法の確立に関する研究によって、キナクリン・キニーネ治療法及びペントサン脳室内投与療法を発見し、行政的に重要な疾患であるプリオン病の予防と治療に関する実用的成果が得られた。

(13)難治性疾患克服研究事業
 根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、重点的・効率的に研究を行うことにより進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行い、患者のQOLの向上を図ることを目的とした研究を推進していく必要がある。
 現在までに、特定疾患の診断・治療等臨床に係る科学的根拠を集積・分析し、医療に役立てることを目的に積極的に研究を推進している。また、重点研究等により見いだされた治療方法等を臨床調査研究において実用化につなげる等治療法の開発といった点において画期的な成果を得ている。
 引き続き、疫学情報の調査・研究、診断基準や治療指針の改訂を進めるとともに、各疾患の研究の進捗状況や対策の緊急性等を十分考慮した上でゲノム、再生、免疫等他の基盤開発研究の成果を活用した臨床研究を強力に推進していく必要がある。具体的な成果の例を図13に示す。
図13.難治性疾患克服研究事業の具体的な成果の例
難治性皮膚疾患に関する研究によって、重症多形滲出性紅斑(急性期)の診断基準案が作成され、全国に広く普及した。診断基準案は厚生労働省の難病対策ガイドブックや難病情報センターウェブサイトで活用されている。
特発性大腿骨頭壊死症に関する研究により「特発性大腿骨頭壊死症の診断・治療に関するガイドライン」が作成され、全国医療機関に配布された。
炎症性腸疾患に関する研究において、潰瘍性大腸炎について顆粒球除去療法などの血球成分除去療法とサイクロスポリンAを組み込んだ新しい治療指針を作成するとともに、クローン病について抗TNF-a抗体を組み込んだ治療指針を改定した。また、本邦における炎症性腸疾患の実態、および急速な患者数増加の要因、さらに病因および増悪に関わる因子の絞り込みを可能とする特定疾患臨床調査個人票を作成した。


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