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9)障害関連研究研究事業

9−1)障害保健福祉総合研究領域
事務事業名障害関連研究経費
担当部局・課主管課障害保健福祉部企画課
関係課大臣官房厚生科学課、障害保健福祉部障害福祉課、精神保健福祉課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標 11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
       I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な実施を確保すること

(2)事務事業の概要(新規)
 近年、地域生活支援、自己決定の尊重、利用者本位等をキーワードとして大きく転換しつつある障害者施策の推進の基礎として、(1)障害保健福祉施策の推進のための社会基盤づくり、(2)障害者のケアマネジマント手法の確立、(3)身体障害の予防、治療方法や在宅介護・介助等の支援技術、(4)知的障害者の地域福祉、医療、社会参加、(5)精神障害者の社会復帰、在宅福祉、就労支援、(6)発達障害に対する発達支援、社会参加支援システムに関する研究、(7)高次脳機能障害に対するリハビリテーション、社会参加支援システムに関する研究、(8)再生医療を応用したリハビリテーション技法及び支援機器開発に関する研究を推進する。
 また、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚機能の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を推進する。
 これらの実施にあたっては、行政上重要な課題を示して研究を公募し、専門家・行政官による事前評価の結果に基づき採択を行う。研究進捗状況についても適宜評価を加えるととともに、研究の成果は随時適切に行政施策に反映させる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
(547*1
(680*2
(383*1
(680*2
(337*1
(585*2
987
1,051
(未確定値)
 *1 障害保健福祉総合研究分(推進事業費を含む)
障害保健福祉総合研究事業は、平成14年度より一部「こころの健康科学」に移行した。
 *2 感覚器障害研究分(推進事業費を含む)

(4)趣旨
 施策の必要性と国が関与する理由
 平成15年度からの新障害者基本計画、新障害者プランに基づく施策の開始、措置から契約(支援費制度)への移行など、わが国の障害者施策については、施設処遇を中心とした体系から、地域での自立した生活を支援することを基本にした体系への転換が急速に進んでおり、利用者の自己選択に基づく、ニーズに対応した総合的な支援体制の構築が急務となっている。また、自立支援のための就労対策、住まい対策などの充実・推進、従来のいわゆる三障害の枠組のみでは十分な対応が難しい発達障害や高次脳機能障害への対応など総合的な取組が求められている。さらにこれらの取組を進めるにあたっては、障害全般、とりわけ精神障害に関する正しい知識の普及・啓発をすすめ、広く国民の理解を増すことが必須である。
 また、高齢化社会の中で感覚器障害はますます重要性を増しており、特に糖尿病性網膜症、緑内障、突発性難聴等への対応が急務となっている。
 障害者の予防、治療、リハビリテーション、ケアマネジメントに基づく在宅福祉サービスの各般にわたる基盤整備などのためには、施策立案の基礎的資料収集や実態把握、具体的な支援手法の開発等を総合的体系的に進める必要がある。また、障害者施策に関する調査や研究は、民間による自発的な取組を待つのみでは十分な成果が期待できにくい課題であり、国として研究に取組むことが不可欠である。
 他省との連携
 人工視覚に関する研究では、主として工学的研究を担う経済産業省と主として臨床的研究を進める厚生労働省との連携のもとに、その推進を図っている。
 期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
<障害保健福祉総合研究>
(予防、治療、リハビリテーション等の適切なサービスに関する研究)
高位頚髄損傷者の座薬挿入動作支援機器の開発
脊髄損傷者の褥創を起こしにくい生活用具の開発
関節拘縮の力学解析に基づく治療機器の開発
肢体不自由者用新移動機器・足漕ぎ車椅子の開発
これらの研究開発成果により、障害者のQOLの向上や就労可能性の拡大、介護負担の軽減等につながっている。
(適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究)
身体障害者及び知的障害者更生相談所のあり方に関する研究
 本研究成果をもとに、支援費制度の障害程度区分を決定した。また、本研究で作成したマニュアルにより全国の更生相談所で支援費制度の導入準備を行った。
重症心身障害児の呼吸器リハビリテーションマニュアルの作成
身体障害者補助犬の育成・普及のための基盤整備に関する研究
 制度の施行に必要な養成施設の施設基準、普及・啓発の手法、補助犬の評価手法等について、本研究により基礎資料が得られた。
高次脳機能障害者に対する連続したサービスの提供に関する研究
 高次脳機能障害に対応できる医療施設、福祉施設の実態調査及び利用者の満足度評価尺度の作成が行われ、同時に実施されたモデル事業の推進に役立った。
障害者施策の企画・立案に資する研究評価と情報収集に関する調査研究
 欧米の研究開発プロジェクト、関連学会の動向、リハビリテーション体育に関する基礎資料を収集し、リハビリテーション体育に関する資料は研修教材として使用予定。
強度行動障害を中核とする支援困難な人たちへの支援に関する研究
 強度行動障害に関する支援方法、医療・教育・地域との連携を研究し、福祉施設等と学校との連携マニュアルを作成した。支援費制度において強度行動障害の評価を行う上で重要な資料となった。
障害当事者参加型の福祉サービス運営・評価のプログラム開発に関する研究
 障害者社会参加総合推進事業等への財源補助モデル活動の提示、クラブハウス活動の促進方策、ガイドヘルプ事業の利用者及び事業者の意向調査等を行い、それぞれの制度の円滑な実施を行う上で重要な資料となった。
都道府県・市町村等における精神保健福祉施策の充実に関する研究
 都道府県、市町村、精神保健福祉センター等の機能等に関する資料を収集し、新たな地域精神保健福祉体制における諸施策推進の重要な資料となった。
措置入院制度の適正な運用に関する研究
 措置入院制度の実態調査を行い、本研究の成果は措置入院制度の運用の改善に資するとともに平成17年度の精神保健福祉法改正の重要な資料となる。
精神障害者の偏見除去等に関する研究
 本研究成果をもとにまとめられた報告書は、「こころの健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」の資料として活用された。
精神医療の地域化や専門的医療に関する研究
 児童思春期、薬物依存、身体合併症等に対する専門病棟の設備構造、人員配置基準のあり方等について、検討された。
入院中の精神障害者の人権確保に関する研究
 本研究で作成した精神科医療における情報公開ガイドライン試案を精神保健医療福祉推進のための検討会資料として使用した。精神医療審査会の年次報告書モデル、問題事例提示様式等を作成し、自治体に対する全国会議で配布、普及を図った。精神障害者の隔離・拘束・移送と人権擁護に関する研究成果は今後の法改正の重要な資料となる。
 など、上記のとおり大きな成果をあげている。

<感覚器障害研究>
(感覚器障害の病態解明と研究基盤の整備に関する研究)
糖尿病性網膜症の発症メカニズム研究とその防止要因の発見
網膜色素変性症の原因遺伝子候補の同定
虚血性内耳障害に関するアポトーシスのメカニズム研究
前庭病変による平衡障害にかかる遺伝子変異の同定
緑内障、加齢黄斑変性症、難聴に関するオンライン症例登録システムの構築
ドライアイ発症におけるIL-6の関与とリスクファクター、外因要因の解明

(検査法、治療法の開発)
遺伝性感覚器疾患遺伝子診断システムの開発
前庭病変による平衡障害に対するステロイド治療の有効性の研究
虚血性内耳障害に対する内耳低温療法の開発
ドライアイ治療用人工涙液の開発
VDT作業のための労働衛生管理のためのガイドライン策定
3歳児健診における視覚障害の早期発見手法の開発
内耳有毛細胞の再生方法の開発
人工内耳手術に用いる内視鏡の開発
胎児聴覚検査法の開発
(支援機器の開発)
触覚ディスプレイによる盲ろう者の文書作成システムの開発
音声読み上げ機能と点字表示機能を有するコンピュータ・オペレーティングシステムの開発
ロービジョン患者の個々の視覚特性に適合するコンピュータ表示システムの開発
人工網膜の開発に向けた基礎的知見の集積
軽量コイルによる耳小骨直接加振型補聴器の試作
 などについて研究を進めており、複雑な感覚器障害の全容解明には、まだ多くの課題があるものの、病態解明、検査法、治療法の開発、支援機器の開発に着実な成果をあげている。

(4)事業の概略図

科学的根拠に基づくより効果的・効率的な障害者施策の図


B.評価結果
(1)必要性
 平成15年度からスタートした新障害者基本計画およびその重点施策実施5ヵ年計画(新障害者プラン)に基づいて、各種障害者施策を適切に推進することが重要な課題となっている。障害者基本計画においては、障害の有無にかかわらず国民が相互に尊重し支えあう共生社会の実現を基本的な考え方とし、その実現のための基本的方向を定めている。
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、モデルの提示などを含め、行政において主体的に進めることが適当である。また、これら課題への対応は、民間単独では取組みにくい分野でもあり、行政的に推進する必要がある。このために行政上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。
 また、特に精神障害者の社会復帰対策については、「心神喪失者等医療観察法案」の国会審議の過程で、施策の迅速・着実な展開と進捗状況の継続的な評価が求められているところであり、研究事業を着実に進めることが必要である。

(2)有効性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器総合研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行っている。

(3)計画性
 障害者の地域における自立した生活を支援する具体的な体制の検討は、行政において主体的に進めることが適当である。このために種々の施策ニーズに応じ、行政上必要な研究事業について公募し、採択課題に対し補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。また、感覚器障害においては、高齢化が進む中で、QOLを著しく損なう感覚器障害の予防、治療、リハビリテーションは重要な課題である。特に、失明の原因として増加しているといわれる糖尿病性網膜症や緑内障、突発性難聴などに対する疫学的調査を含めた対策の樹立は急務である。
 具体的には、障害保健福祉総合研究、感覚器障害研究においては、行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行うこととしている。

(4)効率性
 障害関連研究は、障害保健福祉総合研究分野と感覚器障害研究分野があるが、効率的な実施体制をとり、有効な研究成果を得ていくこととしている。
 障害保健福祉総合研究においては、障害者の保健福祉施策の総合的な推進に有用な基礎的知見を得ることを目的としており、人文社会学的分野を含めた、行政ニーズに基づく研究課題を実施し成果をあげている。
 具体的には、
予防、治療、リハビリテーション等の適切なサービスに関する研究の成果として
高位頚髄損傷者の座薬挿入動作支援機器の開発
脊髄損傷者の褥創を起こしにくい生活用具の開発
関節拘縮の力学解析に基づく治療機器の開発
肢体不自由者用新移動機器・足漕ぎ車椅子の開発
これらの研究開発成果により、障害者のQOLの向上や就労可能性の拡大、介護負担の軽減等につながっている。
適切な障害保健福祉サービスの提供体制に関する研究の成果としては、
支援費制度の障害程度区分の決定
身体障害者補助犬の養成に関する手法の開発や施設基準の設定
高次脳機能障害に関する施設の実態把握
強度行動障害に関する福祉施設と学校との連携マニュアルの作成
障害者社会参加総合推進事業等への財源補助モデル活動の提示
措置入院制度の実態把握
精神障害者の偏見除去に関する報告書の作成
児童思春期、薬物依存、身体合併症等に対する専門病棟の施設、人員基準のあり方の検討
精神科医療における情報公開ガイドライン試案の作成
等の成果を得た。

 一方、感覚器障害研究では、感覚器障害の病態解明から障害の除去・軽減のための治療およびリハビリテーション、支援機器開発まで、総合的な研究事業として実施している。
 具体的には、新しい手術法の開発(内視鏡による人工内耳等)、治療法の開発(人工涙液、内耳低温療法等)、感覚器障害の検査法(3歳児検診における視覚障害の早期発見、胎児聴覚検査、遺伝性感覚器疾患遺伝子診断システム等)の開発、機器等の技術開発(軽量コイルによる耳小骨直接加振型補聴器、人工視覚システム等)に関して、一定の成果をあげている。
 これらの研究結果は随時行政施策に反映されるほか、診断、治療、支援技術の改善等を通じて、国民に還元されることとなる。

(5) その他
障害関連研究においては、行政ニーズに応じた優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要であり、公募課題の選定や研究の事前、中間、事後評価には、当該分野に広く深い学識経験を有する委員を委嘱して当たっていただいているところである。
平成14年12月の障害者基本計画においても、「研究開発の推進」が項立てされ、障害の予防、治療、障害者のQOLの向上等を推進するための研究開発の推進等を明記している。
心神喪失者(等)医療観察法の衆議院における修正により、次の附則が盛り込まれた。「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」

C.総合評価
 障害関連研究は、障害者の保健福祉施策の総合的な推進のための基礎的な知見を得ることを目的とする障害保健福祉総合研究と、視覚、聴覚・平衡覚等の感覚器の障害について、その病態解明、予防、治療、リハビリテーション、生活支援等に関する研究を行う感覚器障害研究を総合的に実施している。
 ノーマライゼーション、リハビリテーションの理念のもと、障害者の地域生活を支援する体制づくりが喫緊の課題であるが、本研究事業の成果により基礎的な知見や資料の収集、科学的で普遍的な支援手法の開発等が進みつつある。また、障害関連研究は、医療、特にリハビリテーション医療、社会福祉、教育、保健、工学など多分野の協働と連携による研究が必要な分野であるが、本研究事業によりこれらの連携が進み、研究基盤が確立するとともに、新たな研究の方向性が生まれる効果も期待できる。このため、今後とも行政的に重要な課題を中心に、研究の一層の拡充が求められる。
 これまでの研究成果は、随時、行政施策に反映されてきており、障害者施策の充実に貢献してきている。
 障害関連研究は広い範囲を対象とするものであるから、施策に有効に還元できる課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的ニーズに学術的観点を加えて、公募課題の決定、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施しているが、これらの評価システムをより有効に運営することが求められている。


10)エイズ・肝炎・新興再興感染症研究事業

事務事業名エイズ・肝炎・新興再興感染症研究経費
担当部局・課主管課健康局結核感染症課
関係課健康局疾病対策課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(一部新規)
 近年、新たにその存在が発見された感染症(新興感染症)や既に制圧したかに見えながら再び猛威をふるいつつある感染症(再興感染症)が世界的に注目されている。これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発生機序、診断法、治療法等について不明な点が多く、日本国内で患者が報告された場合にパニックを引き起こす可能性もある。
 また、全く勢いも衰えず、国によっては平均余命、経済状況にまではっきりと悪影響を示しているエイズも、我が国においても感染者数の増加傾向を示しており、昨年は感染者640件、患者336件と過去最高となっている。
 本事業では、国内外のエイズ・肝炎・新興再興感染症研究を推進し、研究の向上に資するとともに、速やかにその研究成果を行政施策へと活用し、国民の健康の保持及び不安解消に努めるべく、以下の研究を実施する。
 (新興再興感染症分野)
(増)(1)新興感染症に関する研究
(増)(2)国内発生例が報告された再興感染症等に関する研究
(3)海外において感染拡大のおそれのある感染症に関する研究
(4)ハンセン病に関する研究
(新)(5)動物由来感染症に関する研究
(6)寄生虫に関する研究
(増)(7)新世紀社会対応型基盤整備研究
(増)(8)感染症新予防・診断技術開発に関する基盤研究
(9)国際感染症対策の推進に関する研究
(10)リスクコミュニケーション研究
(新)(11)海外で発生した新興感染症に関する実地調査研究
(新)(12)感染症対策の効果的な実施のための分析疫学研究
 (エイズ分野)
 (1)臨床分野
 日和見感染症に対する診断・治療開発、多剤併用療法(HAART)の開発・推進、治療ガイドラインの作成の他、慢性疾患としての側面を含め、免疫賦活療法等の新たな治療法の開発。HCV重複感染等の肝疾患合併症の診断・治療の確立、更に母子感染予防マニュアルの作成。
 (2)基礎分野
 HIV感染及びエイズの病態解析、薬剤の効果や副作用に関わる宿主因子の遺伝子多型等に伴う生体防御機構の研究、抗HIV薬・ワクチン等の開発の他、薬剤耐性ウイルスの分子レベルでの発生機序解明、治療薬の開発、検査・モニタリング法開発、精液・母乳からのウイルス除去。
 (3)社会医学
 我が国独自のHIV医療体制の確立、HIV感染症の拡大及び慢性化による新たな局面に対応するため、個別施策層(青少年、同性愛者、外国人、性風俗従事・利用者)別の介入方法の開発やエイズ予防対策におけるNGO等の関連機関の連携といった個人レベルの行動変容に結びつく感染拡大防止の手法の研究、他の先進国との動向や対策の比較分析。
 (4)疫学
 個別施策層別の発生状況調査の精緻化、啓発普及方法等実施政策のインパクト把握、特に、海外における疫学研究と将来予測、薬剤耐性ウイルスに対するサーベランス体制確立の研究、青少年への科学的根拠に基づいた性教育による行動変容手法の開発。
 (肝炎分野)
(1)ウイルス性肝炎の病態、肝炎ウイルス持続感染機構の解明
(2)B型及びC型慢性肝炎の治療法の開発
(3)肝硬変の予防及び治療法の開発
(増)(4)E型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究
(5)肝がんの発生・進展の分子メカニズム及び早期診断法の開発
(6)肝炎対策としての肝移植の研究
(増)(7)肝炎まん延状況・長期予後の疫学

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
(新興)1,773
(エイズ)1,760
(新興)1,549
(エイズ)1,763
(肝炎)744
(新興)1,363
(エイズ)1,755
(肝炎)743
(新興)1,713
(エイズ)1,755
(肝炎)743
(未確定)

(4)趣旨
 施策の必要性と国が関与する理由
 (新興・再興感染症分野)
 新興再興感染症の多くは、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。こういった事態を回避するためには、迅速かつ正確な診断法の開発、感染経路等の解明、正しい情報の収集・分析・還元方法の開発等が極めて重要であり、早急に取り組む必要がある。
 また、昨年発生したSARSは、数ヶ月の間に世界的な感染症危機を引き起こし、このような感染症に対しては、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を推進する必要があり、国が実施する意義は高い。
(エイズ分野)
 HIV感染者及びエイズ患者は、平成15年末現在、全世界で4,000万人と推計されるが、そのうちの約2割がアジア・太平洋地域で発生している。また、平成22年までの新たな感染の4割以上がアジア・太平洋地域で起こるだろうと国連合同エイズ計画は報告しており、今後、このアジアでの爆発的な感染者の増加が我が国へ波及するおそれがある。
 一方、国内におけるHIV感染者及びエイズ患者の報告は、増加し続けており(平成15年のHIV感染者報告数は640件、エイズ患者報告数は336件)、数の規模は小さいとはいえ、この傾向は他の先進国と比較しても憂慮すべき状況といえる。
 これらの深刻な事態をふまえ、国内外から、臨床医師、基礎・社会医学研究者、NGO、疫学者等多くの専門家・活動家の参加を得て、調査・研究の更なる推進を図ることとする。
(肝炎分野)
 肝炎対策については、透析施設での感染防止、性感染症対策、母子感染の防止等の社会的問題としての観点からも、今後も引き続き、国が積極的に取り組むべき課題であると考える。
 他省との連携
 (エイズ分野)
 科学的根拠に基づいたエイズ予防教育の手法開発は文部科学省の性教育実践調査研究と連携し、同省の指定する推進地域の学校にて行う。
 期待される成果
(新興再興感染症分野)
 「新興再興感染症」の多くは、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。こういった事態を回避するためには、迅速かつ正確な診断法の開発、感染経路等の解明、正しい情報の収集・分析・還元方法の開発等が極めて重要であり、早急に取り組む必要がある。
 さらに、昨年、新たに発生したSARSや近い将来、発生が危惧されている新型インフルエンザ等の世界的な感染症危機を引き起こす可能性のある感染症に対しては、国内対策ばかりでなく、効果的かつ現実的な水際対策の実施や国際的なアラートシステムの構築等、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を推進する必要がある。
 本事業においては、これまでも多くの知見を得ることができ、十分な成果が得られている。
希少ではあるが危険性の高い感染症の診断法、治療法が一部確立された。
食品由来感染症の原因菌の検出法の向上し、PFGEの標準化により広域感染症の疫学調査が容易になった。
結核の現状に関する詳細な分析、新たな知見の集積、日本版DOTSの開発等は法律改正を含めた結核対策の強化につながった。
院内感染の要因となる感染症に関する対策マニュアルが策定・周知された。
 (エイズ分野)
 エイズの予防手法や検査法、治療法に関しては未だ確立したものはなく、かつ世界的に見ても日進月歩の分野であるため、各国からの情報収集とともに日本に適したマニュアルの作成や普及啓発をとおして感染の蔓延を防止し、かつ感染者を免疫不全に陥らせないようにするための研究の推進が必要である。
免疫賦活を応用した治療法は現在開発中である。
HIV治療ガイドラインを作成し毎年更新し、全国に配布している。
母子感染予防マニュアルが策定・周知され、更なる調査研究を行っている。
抗HIV薬の血中・細胞内濃度測定及び薬剤耐性検査等によるモニタリングシステムと簡便な手技が一部確立された。
HIV・HCV共感染患者に対する生体肝移植等の肝炎治療法マニュアルを策定・周知し、その治療実績に関する研究を継続している。
HIV感染男性、非感染女性夫婦間の生殖補助医療に関する方法が一部確立された。
凝固因子製剤の補充療法に代わる血友病の遺伝子治療方法の開発を動物実験レベルから、臨床応用に繋がるように継続する。
抗HIV薬・ワクチンの開発に向けて引き続き基礎研究を行う。
HIV即日検査のガイドラインの作成・周知が行われ、更に利便性の高いHIV検査体制の確立を目指した研究を継続している。
非政府組織(NGO)の活用による効果的な普及啓発手法が開発され、その手法に基づいたイベント等が実践されている。
同性間性的接触における効果的なエイズ予防対策の方法が一部確立され、その実践に対する評価を行っている。
世界の中における日本のHIV医療体制の現状把握と今後の在り方に関する提言を引き続き行い、エイズ拠点病院の底上げに繋げていく。
エイズ動向調査の情報等の分析を行い、HIV感染者・エイズ患者の有病数・発生数の推計し、将来像を把握する調査研究が、日本のエイズ対策に資するものとなっている。
(肝炎分野)
 肝炎については、社会的問題としての観点からも、国として積極的に取り組むべき研究課題であると考える。特に、現在、国民の大きな関心を集めているC型肝炎については、本研究事業において、その疫学(罹患率、経過、予後)が解明されつつあり、インターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩がみられ、今後の研究成果も大いに期待される。また、透析施設における感染防止に関する研究や、コントロールされていたかに見えたB型肝炎の母子感染予防の徹底などの新たな課題については、早急に取り組んで行く必要がある。
 これまでに、以下の成果が得られている。
C型肝炎の疫学(罹患率、経過、予後)の解明
C型肝炎ウイルスによる発ガン機構の解明
C型肝炎キャリアを早期発見するための健診方法の確立
C型肝炎に対するインターフェロンを含めた標準的治療法の確立

前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 それぞれの分野で、各研究課題毎に研究成果発表会、研究成果報告書による中間・事後評価を行い、改善すべき点等を主任研究者に通知し改善を求める等、より効果的な研究の実施に努めている。また、評価委員会の評価結果に基づき、重要な研究課題については重点的に研究費を配分するなど、課題の重要度に応じた研究費の適正配分を図っている。

(5)事業の概略図

エイズ対策研究事業の図

新興・再興感染症研究事業、肝炎等克服緊急対策研究事業の図


B.評価結果
(1)必要性
 (新興再興感染症分野)
 新興再興感染症の多くは、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。また、これらの感染症の多くは動物由来感染症であり、今後は、医学のみならず獣医学、昆虫医科学等の関係多分野との連携を強化し、当該分野における基礎的な感染症対策研究を推進する必要がある。
 これまで知られていなかった感染症が発生した場合には、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、日本国内で患者が報告された場合にはパニックを引き起こす可能性もある。こういった事態を回避するためには、迅速かつ正確な診断法の開発、感染経路等の解明、正しい情報の収集・分析・還元方法の開発等が極めて重要であり、早急に取り組む必要がある。特に、昨年発生したSARSや近い将来発生が危惧されている新型インフルエンザは、数ヶ月の間に世界的な感染症危機を引き起こす可能性があり、このような感染症に対しては、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を推進する必要があり、厚生労働省が実施する意義は高いと考えられる。
(エイズ分野)
 平成9年から本格的に我が国に導入されたHAART(多剤併用療法)により、感染者の長期予後の改善は著しいものがみられるが、根治法は未だ確立されておらず、長期投与が必要とされている。しかし、副作用等により、初回導入の4割近くが失敗に至るとされ、その服用の失敗による薬剤耐性ウイルスの出現という新たな問題も生じている。そのため、新たな治療法の開発、長期服用のための方法の確立、新薬やワクチン開発のための更なる研究が重要となってきている。我が国の新規感染の殆どは性的接触によるものであるが、その予防はプライバシーの保護や学校における性教育の観点から非常に難しく、例えばコンドーム使用の促進など、その行動変容のための研究と同時に、草の根レベルでのきめ細やかな普及啓発手法の開発を推進していくことが重要である。なお、東京・大阪HIV訴訟の和解を踏まえ、恒久対策の一環としてエイズ治療・研究をより一層推進させることが求められている。
(肝炎分野)
 肝炎対策については、社会的問題としての観点からも、国として積極的に取り組むべき研究課題であると考える。特に、現在、国民の大きな関心を集めているC型肝炎については、本研究事業において、その疫学(罹患率、経過、予後)が解明されつつあり、インターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩がみられ、今後の研究成果も大いに期待される。また、透析施設における感染防止策の構築、B型肝炎の母子感染防止策の徹底、性感染症対策としての肝炎対策等、新たな課題も指摘されている。

(2)有効性
 (新興再興感染症分野・肝炎分野)
 本事業においては、これまでも我が国の現状に関する数多くの知見を得ることができた。平成13年度実施分は既に終了しているが、当初の目的をほぼ達成しており、十分な成果が得られている。
希少であるが危険性の高い感染症の診断法、治療法が一部確立された。
食品由来感染症の原因菌の検出法の向上は、韓国産牡蠣輸入禁止の根拠になる等、行政施策に結びついた。
PFGEの標準化により、広域感染症の疫学調査が容易になった。
結核に関する新たな知見が集積され、法律改正を含む対策強化につながった。特に、21世紀型日本版DOTSの開発は治療率向上に有益であった。
インフルエンザ、ハンセン病など社会的意義が高い疾患の対策方法についても新知見が得られた。
生物テロ対策に有効なPCR法等の迅速診断法が開発された。
天然痘等バイオテロに関する対応マニュアルが策定され、関係自治体に周知された。
感染症サーベイランスの適正化のための検討でも改善点が指摘された。
特に現在社会的問題となっているC型肝炎の疫学(罹患率、経過、予後)が、1年を経過した段階で明らかにされつつある。
C型肝炎ウイルスによる発癌機構も一部解明された。
C型肝炎キャリアを早期発見するための健診方法が確立され、またC型肝炎に対するインターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩が見られる。
(エイズ分野)
 HIV/エイズ対策の目標は、予防法、治療法の開発である。エイズ予防ワクチンについては治験段階に至るものがあるなど、着実な成果が上がっている。また、感染拡大阻止の観点からも、サーベランスの精緻化や個別施策層(同性愛者、青少年、静注薬物使用者、風俗産業従事・利用者等)に対する集団毎の特性に応じた介入研究を行っており、当初の目的をほぼ達成して十分な成果が得られている。

(3)計画性
 現在求められている課題がほぼ網羅されており、特に、重要課題については重点的な取り組みがなされている。また、それぞれの研究課題は基本的には3年計画で実施されているものであるが、評価委員会の結果に基づき、必要な場合には研究期間を短縮するなど、効率的な実施が図られている。

(4)効率性
 (新興・再興感染症分野)
 昨年、世界的な感染症危機を引き起こした重症急性呼吸器症候群(SARS)は、健康被害のみならず、当初は極東のみで300億米ドルと概算されるほどの、深刻な経済危機をも引き起こした。SARSや近い将来発生が危惧されている新型インフルエンザ等の新興感染症は、現代の発達した輸送手段を介した急速な感染拡大により、昨年と同様かそれ以上の大きな損失を引き起こすと言われており、そのような事態に備え、本研究事業により、対策マニュアル、診断法、ワクチン等の開発を行うとともに、平時より感染症研究の基盤整備を行うことは十分な効果を生むものであると考える。
 また、新興感染症が発生した際には、その感染源や感染経路が不明であることから、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、過剰な防衛反応をとることが想定されるが、正しい情報の普及・啓発や、疾病に関するリスクを国民と行政、医療関係者が共有し、そのリスクの削減に役立つリスクコミュニケーション手法を用いることで、過剰な反応をある程度回避させることができる。
 国際協力の観点からみても、新興再興感染症の多くがアジアで発生していることから、発生当初より現地で迅速な情報収集・分析等を行い、その結果を的確に還元することにより、より早期に感染症の流行をコントロールできるようになり国際的な貢献が期待できる。
(エイズ対策)
 HIV/エイズに関する基礎医学・臨床医学・社会医学・疫学が一体となっている研究事業であり、有識者が事前・中間・事後評価を行うだけではなく、各主任研究者間の調整会議も実施し、一体化の利点を最大化すべく運営されている効率的事業といえる。
 また、我が国は外国に比較してHIV感染者の数が少ないため、最新の知見や技術は欧米で発見、創造されることが多いが、本推進研究費を使用した外国への日本人研究者短期派遣事業や外国人研究者の日本への招聘事業等を行い、効率的な知見・技術の獲得に努めており、同時に専門家が十分いるとは言えないエイズ分野での若手研究者を、本体研究を補助する形で、積極的に育成している。
 また、経済的観点から見ても、HIV感染者にはエイズ発症防止のための治療や発症後のエイズ治療に対し一生涯に渡り、高額な医療費が必要となり、感染そのものの予防介入は非常に経済効率が高い。また、我が国の感染の中心は青年〜中年男性であり、これらの世代が感染することによる社会的損失は甚大と言える。
(肝炎対策)
 肝炎対策においては、慢性肝炎、肝硬変等長期の経過をたどるため、数ヶ月に及ぶ入院や数年以上に及ぶ通院治療が必要となるケースもあり、労働力の損失、経済的負担も問題となっていたが、早期発見・診断・治療を行うことにより、その予後の改善や早期の社会復帰が可能となる等、経済面への波及効果も見込まれる。

(5)その他
(新興再興感染症分野)
 ・「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律案」に対する附帯決議で、SARSの類型についてはウイルスの解明、病態等の解明を急ぎ、治療薬・ワクチンの開発などの医療の状況も含め医学的知見の集積等を踏まえ2年度毎の見直しを行うこと、地球規模化する感染症問題については、海外事例の収集、分析等を踏まえ、新感染症等への速やかな対応が可能となるよう人材の確保、研究機関の体制整備等を重点的かつ積極的に行うこと。また海外における患者情報の把握及び発生源対策が重要であることにかんがみ、WHO及びASEAN並びに2国間協議等を通じた国際医療協力の一層の推進を図ること、とされている。
 ・「結核予防法の一部を改正する法律案」に対する附帯決議で、国内外における結核に関する情報の収集・分析を行い、最新の知見に基づき、国民、医師その他の医療従事者をはじめとする関係者に対し積極的に情報収集を行いながら、適切な結核対策を展開するとともに、国際的な協力・支援の一層の推進を図ること、とされている。
 ・「エイズ予防指針」や「性感染症予防指針」に基づき、1.原因の究明、2.発生の予防及び蔓延の防止、3.医療の提供、4.研究開発の推進、5.国際的な連携、6.人権の尊重、7.普及啓発及び教育、8.関係機関との新たな連携等を図ること、とされている。

C.総合評価
 近年、新たにその存在が発見された新興感染症や既に制圧したかにみえながら再び猛威をふるいつつある再興感染症が世界的に注目されている。これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法等について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。また、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、日本国内で患者が報告された場合にはパニックを引き起こす可能性もある。
 特に、昨年、新たに発生したSARS、近い将来、発生が危惧されている新型インフルエンザ等の感染症は、近年の発達した輸送手段を介した急速な感染拡大により世界的な感染症危機を引き起こす可能性がある。これらの感染症に対しては、国内対策ばかりでなく、効果的かつ現実的な水際対策の実施や国際的なアラートシステムの構築等、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を推進する必要があり、国際的な感染症対策にこれまで我が国が果たしてきた役割から考えても、引き続き当該事業を推進することが重要であると考えられる。
 肝炎対策については、本研究事業においてC型肝炎の疫学(罹患率、経過、予後)が解明されつつあり、インターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩がみられ、今後の研究成果も大いに期待される。また、透析施設における感染防止策の構築、B型肝炎の母子感染防止策の徹底、性感染症対策としての肝炎対策等、新たな課題も指摘されており、社会的問題としての観点からも、今後も引き続き、国として積極的に取り組むべき研究課題であると考えられる。
 エイズ対策については、地球規模の深刻な問題であり、平成13年には国連エイズ総会も開催され、保健分野だけの問題ではなく、社会・政治・文化・経済・人権全ての分野に関わる重要課題であり、全世界で一丸となって対応すべき問題とされている。エイズに関する研究を推進することは、国内のみならず、我が国よりも更に深刻な状況に直面している開発途上国に対する支援にも結びつくものであり、他の先進諸国とも共同しながら、アジアの盟主たる日本で引き続き、当該事業を積極的に推進する必要があると考えられる。


11)免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業

事務事業名免疫アレルギー疾患予防・治療研究経費
担当部局・課主管課健康局疾病対策課
関係課大臣官房厚生科学課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症等のアレルギー疾患やリウマチ・膠原病等の免疫疾患は症状が長期にわたり持続することで健康を脅かす。そこでこれらの病気にかかりやすい体質と生活環境などの関係を明らかにすることで、疾病の予防、診断、治療法に関する新規技術を開発するとともに、免疫・アレルギーの診断・治療等臨床に係る科学的根拠を収集・分析し、医療に役立てる。
 具体的には、基礎研究、基盤開発研究等の成果を十分に活用し、免疫メカニズムに関する知見を十分に踏まえた上で、以下の研究を推進する。
 アレルギー疾患の病因病態解明と治療法開発に関する研究
アレルギー疾患における臓器特異的過敏症の発現機序(免疫メカニズム)の解明と適切な診断法の開発を行う。
環境要因、遺伝素因等を考慮したアレルギーの発症予測法や予防法の開発を進める。
アレルギー疾患における代替医療の評価と正しい情報の提供を行っていく。
環境要因、遺伝要因等とアレルギー疾患の関連を把握することを目的とした調査を実施し、アレルギー対策の推進に資する基礎的データを収集する。
アレルゲンにより引き起こされるアナフェラキシーショックに対する迅速かつ安全な治療法を確立する。
 リウマチ疾患の診断、治療方法の開発に関する研究
早期関節リウマチの診断基準作成と臨床経過の予測に関する研究
細胞表面分子をターゲットとした遺伝子治療の可能性について検討していく。
関節リウマチ上肢人工関節の開発に関する研究
 疫学・社会医学的研究
患者実態の把握を目的とした詳細な疫学調査を実施し、総合的な免疫アレルギー対策の推進に資する基礎的データを収集する。
 本事業においてはこのような行政上必要な研究について公募を行い、専門家、行政官による評価により採択された研究課題について補助金を交付する。また、得られた研究の成果は適切に行政施策に反映される。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
746 1,309 1,137 1,105 (未確定)

(4)趣旨
施策の必要性と国が関与する理由
 免疫疾患、アレルギー疾患は、国民の30%が罹患しているといわれており、さらに増加傾向にある。また、その重症化も進み、日常生活に著しい支障を慢性的にきたすことから、国民の健康上重大な問題となっているが、これらの疾患の発症にかかわる抗原認識等の免疫システムと環境因子、遺伝性素因との関係は十分解明されているとはいえないため、免疫システムの解析とその知見に基づく、予防、診断、治療法に関する新規技術、治療の効果を予測する技術の開発、既存の治療法の評価等が喫緊の課題である。
他省との連携
 平成16年3月9日、免疫異常政策医療ネットワークの高度専門施設である「独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター」と「理化学研究所アレルギー科学総合研究センター」との間で、研究協力に関する協定を確認し共同研究が開始された。また、「スギ花粉に関する関係省庁連絡会議」を定期的に開催し、省庁間の情報交換や研究事業を含めた施策の調整等を行っている。
期待される成果
抗アレルギー作用を有する民間薬の評価システムと天然植物成分のデータベースを作成した。また天然植物シジュウムを用いた塗布剤や点鼻薬は皮膚掻痒症や鼻アレルギーの治療に有効なことが確認され、今後の新規薬物の開発につながると考える。
「関節リウマチに対する生物製剤使用のためのガイドライン」を策定し、生物製剤infliximabの具体的な適応基準、除外基準を明示した。
インターネット上に「リウマチ・アレルギー情報センター」(http://www.allergy.go.jp)を運営し、ガイドラインや薬剤に関する情報、専門施設情報等を掲載し、リウマチ・アレルギーの情報提供体制を整えている。
リウマチ、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症の四疾患についての地域相談体制を整備するため、保健師等従事者を対象とした四疾患相談員の養成研修会を開催していたが、平成14年度から食物アレルギーも講義内容に追加。平成15年度から総括講義として行政施策に関する講義も追加するなど、内容の充実を図っている。
 今後も、免疫・アレルギーの診断・治療等臨床に係る科学的根拠を集積・分析し、医療に役立てて一般国民に普及できることを目標に積極的に研究を推進する。
 前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 平成16年3月9日、免疫異常政策医療ネットワークの高度専門施設である「独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター」と「理化学研究所アレルギー科学総合研究センター」との間で、研究協力に関する協定を確認し共同研究が開始された。(再掲)また、「スギ花粉に関する関係省庁連絡会議」を定期的に開催し、省庁間の情報交換や研究事業を含めた施策の調整等を行っている。公募課題の採択に当たっては、事前評価委員会において行政的・専門的に必要性の極めて高い研究課題を厳選している。

(5)事業の概略図

免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業の図


B.評価結果
(1)必要性
 免疫・アレルギー疾患の悪化機序等は多くの要因が複雑に絡んで起こっている。そのため、行政が、免疫・アレルギー疾患について患者のQOLの向上を図るため、疾患の状況把握と診断・治療指針の整備に関する研究、疾患遺伝子等の技術を駆使した実践的な予防・治療法開発に関する研究等を重点的・効率的に行とともに、研究によって得られた最新知見を着実に、臨床の現場に反映し、より適切な医療の提供が実現されることを目指す必要がある。

(2)有効性
 免疫・アレルギー疾患予防・研究事業においては、研究班を構成する研究者によって効率的な研究が進められ、先端技術を駆使した適正な研究を進めることが可能である。また、積極的に他の基盤開発研究の成果を適切に活用し、効率的に事業が進められている。
 本研究事業の1研究課題あたりの金額は概ね10,000千円―40,000千円程度であり、研究期間は3年程度を限度としている。評価方法についても外部の評価委員で構成される評価委員会(事前、中間事後)が、多角的な視点から評価を行い、その結果で研究費の配分が行われており、効率的に事業を進めている。
 平成17年度は、特に免疫アレルギー疾患の画期的な治療法の開発のため、
 ・抗原認識等免疫システムの解明とその成果に基づく治療法の開発
 ・環境・遺伝要因と免疫アレルギー疾患の発症・悪化との関係を解明
に重点を置いた研究を推進する。
 免疫疾患、アレルギー疾患は、国民の30%が罹患しているといわれており、さらに増加傾向にある。また、その重症化も進み、日常生活に著しい支障を慢性的にきたすことから、高い必要性、緊急性が求められており、また、限られた予算の中で効率的な研究課題の採択が行われている。また、研究期間は原則3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。

(3)計画性
 本研究においては、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の専門家、行政官による事前評価と採択、中間・事後評価等を実施している。

(4)効率性
 リウマチ・アレルギー分野における10年間の研究の成果と、今後の対策の課題・展望を、『リウマチ・アレルギー研究白書』として平成14年5月にとりまとめ、地域における保健施策等の参考とするべく、関係機関へ配布した。また、リウマチ、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症の四疾患についての地域相談体制を整備するため、保健師等従事者を対象とした四疾患相談員の養成研修会を開催しているところであるが、講師として研究班長等を活用し、またカリキュラムの策定にあたっては、各分野における一般的な知見と併せて、研究成果を踏まえた最新の知見を盛り込む等の工夫を講じている。
 また、花粉症対策に関しても、関係省庁(厚労・文科・環境・林野・気象)で連絡会議を定期的に開催しているが、花粉症研究についても、各省それぞれの研究分野に関しての情報交換等により、内容の連携を図るとともに、環境省「花粉観測予測システム」に、研究事業の範囲内で15年度より一部参加するなど社会への貢献度も高い。

(5)その他
・平成16年4月9日に閣議決定された「平成13年度決算に関する衆議院の決議(警告決議)について講じた措置」に位置づけられた。
・総合科学技術会議における「17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも、本研究が重点事項(ライフサイエンス)に位置づけられた。

C.総合評価
 アレルギー性疾患は、国民の30%が罹患しているといわれており、さらに増加傾向にある。また、その重症化も進み、日常生活に著しい支障をきたすことから、国民の健康上重大な問題となっているが、その病態解明は十分とは言えない。
 またリウマチ疾患の病態は、特に運動障害となって現れることから、個々の患者のQOLのみならず、社会における労働力・生産力の低下等経済的な視野からも様々な問題が生じているところである。
 このようなことから、免疫・アレルギー疾患予防・治療研究事業は、小児(アトピー性皮膚炎・小児喘息等)から高齢者(リウマチ性疾患等)までを対象としており、少子高齢社会を迎えた本国が行政として抱える問題志向と一致しているところであり、引き続き事業を推進する必要があると考えられる。
 今後は、疾患の発症と環境因子、遺伝性素因との関係を明らかにし、免疫システムの機能を十分に解明するなどして、予防、診断、治療法に関する新規技術等の開発を進め、その成果を臨床の現場に反映し、より適切な医療の提供が実現されることを目指して、研究開発を行う必要がある。
 特に以下の点については、十分な留意の下研究を進めるべきである。
基礎研究、基盤開発研究等の成果を十分に活用し、免疫メカニズムに関する知見を十分に踏まえた上で研究を推進する。
 関係機関との連携の下で研究を進める必要がある(平成16年度からは、理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究所と独立行政法人国立病院機構相模原病院との共同研究が開始)。
 免疫アレルギー疾患については、近年の臨床的研究の成果により、その病気の本態について徐々に発生機序、悪化因子等の解明が進みつつある。今後も目標の達成に向けた取り組みを予定しており、
環境要因、ゲノム情報を取り入れた予防法の確立
個人の病態を考慮したテーラーメード医療の確立等、免疫システムを考慮した治療法の確立
疫学情報、予防法、治療法等の正しい情報を還元する。
といったテーマを中心に、明確な目標を設定し効率的な研究を推進し、その成果を行政に反映していくことが期待される。


12)こころの健康科学

事務事業名こころの健康科学研究事業
担当部局・課主管課障害保健福祉部企画課
関係課大臣官房厚生科学課、健康局疾病対策課、障害保健福祉部精神保健福祉課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標 11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
       I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な実施を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 近年、大きな問題となっている「自殺」「キレる子」「ひきこもり」等の心の健康問題、「統合失調症」「うつ病」等の精神疾患、「自閉症」「注意欠陥多動性障害」等の発達障害、「PTSD」「パニック障害」「睡眠障害」等のストレス性障害、「アルツハイマー病」「パーキンソン病」等の神経疾患に対し、最新の知見に基づいた予防法、治療法等の開発およびこれらを活用した適切な対応を進めるため、心の健康問題や精神疾患、神経疾患等に関して、疫学的調査によるデータの蓄積と解析を行い、心理・社会学的方法ならびに分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等を活用し、病因・病態の解明、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等、最新の医学的知見を適切に施策に反映し、国民のニーズを踏まえた行政課題の解決に資する研究を推進する。
 特に重点分野として、
 @)自殺問題やうつ病対策を中心に、長期大規模疫学調査・介入研究等医学的・行政的なアプローチを10か年戦略をたてて進めることにより、その病因の究明及び治療方法の開発等を図る、(「こころのデケイド(10か年)」)
 A)いまだ難治性疾患である精神疾患、神経・筋疾患について、これまで不十分であった遺伝子解析・脳画像解析等による病因・病態解明を総合的に進め、細胞治療、遺伝子治療、創薬等のブレイクスルーとなる治療法の開発までの明確な道筋をつける、(「ニューロジーンプロジェクト」)
 ことを戦略的研究課題と位置づけるとともに、
 実施にあたっては、行政上重要な課題を公募し、行政面の評価に、専門家による学術的観点からの評価を加えた、事前評価の結果に基づき採択を行う。研究進捗状況についても適宜評価を加えるととともに、研究の成果は随時適切に行政施策に反映させる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
2,142 1,898 1,624 (未確定)
 注:平成14年度から「脳科学研究事業」「障害保健福祉総合研究(一部)」を再編・統合して発足した。予算額には推進事業費を含む。

(4)趣旨
施策の必要性と国が関与する理由
 近年、高い水準で推移している自殺は、うつ病等の精神疾患と関連が深いと言われるが、高ストレス社会を反映してうつ病を含む気分障害の患者数は急増している。児童や思春期における「キレる子」「ひきこもり」や「PTSD」「パニック障害」「睡眠障害」等の社会的問題と関連の深い心の健康問題、「自閉症」「注意欠陥多動性障害」などの発達障害への対応も大きな課題となっている。
 また、「統合失調症」、「うつ病」等の精神疾患、「アルツハイマー病」「パーキンソン病」等の神経疾患は、難治かつQOLへの影響が大きく、国民の大きな健康問題となっている。
 しかし、これらの疾患は、一般の身体的な疾患に比べても、疫学調査等の心理・社会科学的手法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等の活用が十分でない面もあり、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等が求められている。
 さらに、こころの健康問題については、家庭・職場・地域等におけるメンタルヘルスに着目した環境づくりや発症前のセルフチェック、こころの問題に対する正しい理解など、一次予防が重要である。
 こうした数々の課題に対しては、臨床的な観点からの戦略的な研究への取組が求められるとともに、職場や地域へ対する総合的な対策が必要であり、厚生労働省として研究事業を推進していく必要がある。
期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
平成15年度においては、精神保健福祉分野では、
自殺と防止対策の実態に関する研究(今田班)
厚生労働省「うつ対策推進方策マニュアル」に研究成果が取り入れられた。
こころの健康に関する疫学調査の実施に関する研究(吉川班)
厚生労働省「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書」
(その中の指針は(こころのバリアフリー宣言)としてまとめられている)作成の際の基礎的資料にもなった。
児童思春期精神医療保健福祉のシステム化に関する研究(斎藤班)
 わが国におけるいわゆるひきこもり対策における今後の対応方策を検討する上での基礎的な資料となった。
睡眠障害の対応のあり方に関する研究(大川班)
地域保健における睡眠障害に関する正しい知識の普及・啓発書の参考資料となった(保健師、看護師へのガイドライン等)
精神疾患治療ガイドラインの策定に関する研究(鹿島班)
精神神経学会が治療ガイドラインを示すための基礎資料となった。
心的外傷体験による後遺障害の評価と援助技法の研究(金班)
研究成果をもとに災害時の対応マニュアルが作られた。
重症精神障害者に対する、新たな訪問型の包括的地域生活支援サービス・システム開発に関する研究(塚田班)
地域精神医療のモデルとなるACTプログラムが実行に移され、今後本格的に精神医療にとりいれるための基礎資料が得られた。
触法行為を行った精神障害者の精神医学的評価、治療等に関する研究(松下班)
においては、平成15年7月に公布された「心神喪失者等医療観察法」の施行準備に向けて各種の医療処遇ガイドラインを作成していくこととしているが、そのベースとなる医療処遇の内容が示された。
精神分裂病の客観的診断法の確立と分子遺伝学的基盤に関する研究(小島班)
客観的診断が困難である統合失調症に対してアイカメラを用いて感度・精度ともに高い客観的診断法が開発され、臨床への実用化に一歩踏み出した。
などの成果をあげている。
また、神経分野については、
CAGリピート病に対する治療法の開発に関する研究班
 CAGリピート病をトレハロースによるポリグルタミン含有蛋白で分子不安定性抑制によって発症を予防する方向性を示した。また、球脊髄性筋萎縮症の病態に基づく治療法についての報告を行った。
成人T細胞白血病ウイルス関連ミエロパチーの病態解明及び治療法の開発に関する研究班
 新しいHTLV-1特異的プロテアーゼ阻害剤開発の素地が出来上がり、新薬効果判定のためのウイルス阻害酵素活性の測定系を確立した。
ライソゾーム性筋疾患の病態解明と治療法開発に関する研究班
 ライソゾーム性筋疾患の病態解明について、大きな成果が得られている。この成果を基に今後の治療法開発の可能性が開かれた。
未認可抗生剤ネガマイシンによる筋ジストロフィーの治療
 ネガマイシンが遺伝子病の治療としての作用機序の一端を解明し、新しい治療の可能性を示した。
上記の他にも脳・神経疾患について
(1)原因遺伝子の単離し、その機能を解明する
(2)新たな治療を臨床に応用するなど、
脳機能の解明に基づいた、多くの画期的な成果が得られている。
前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取組
(総合科学技術会議指摘)
テーマをこころの健康問題に特化し、筋肉等疾病の研究については別テーマとして分ける必要がある。
精神疾患と神経疾患には、慢性的な経過をとる、根治的治療が少ない等同様な問題があり、病因解明や治療法開発へのアプローチなど共通の要素があると考えており、ナショナルセンターにおいても精神・神経センターとして一体に取組んでいるところである。H17年度においては、ニューロージーンプロジェクトとして、精神、神経疾患の遺伝子解析等による病態解明を総合的に進め、細胞治療、遺伝子治療、創薬等のブレイクスルーとなる治療法の開発までの明確な道筋をつけることを重点に取組むことを考えている。
文部科学省の「脳を育む」研究や大学との十分な調整が必要である。
「脳を育む」研究は、脳機能解明等により得られる成果を教育を含めて社会科学に応用することで、一生を通じて健康で活力にあふれた脳を発達、成長させることをめざす研究であり、臨床的な観点から、こころの問題や神経・筋疾患の予防・診断・治療の開発に取組む「こころの健康科学」研究とは、その狙いが異なっている。言い換えれば、前者は健康な脳を、後者は機能的あるいは器質的異常のある脳を対象としており、対象が大きく異なっている。しかしながら、研究成果の効率的活用と一層の推進の観点から、研究成果の相互理解を図るなどの連携・調整に努めてまいりたい。
 また、「こころの健康科学」研究は公募による研究事業として、大学に所属する研究者からも多数の応募があるなど、研究の実施において大学との関係も適切に行われている。

(5)事業の概略図

10年間で精神・神経疾患の克服に向けた取組の飛躍的推進の図


B.評価結果
(1)必要性
 わが国の精神疾患による受療者は200万人を超え、また年間の自殺死亡者は3万人を超えている。また、思春期のひきこもり、問題行動など、心の問題と関連する社会問題もクローズアップされている。このように、「こころの健康問題」は、統合失調症等はもちろんのこと、うつ状態、神経症、摂食障害、ストレス性障害、睡眠障害、幼少期からの発達障害等、非常に広範かつ深刻な問題にまで及んできている。また高齢化の中で、アルツハイマー病等の神経疾患も重要になってきており、多くの神経・筋疾患は難病として依然、根本的な治療法が無い状態である。
 これらの問題の特性として、遺伝子解析・分子機構解明・画像解析等による脳内機構解明から、表現される行動面の評価、福祉を含む社会システムとの関連、倫理や人権上の問題までをも含む多角的、重層的な視野での取り組みが不可欠となってきている。
 これらのことから、「こころの健康問題」に対する予防、診断、治療法の開発や疫学調査などについて、行政において戦略的、主体的に進めることが適当である。このため、行政上必要な課題を公募し、採択課題に対して補助金を交付し、その研究結果を施策に反映させることが必要である。

(2)有効性
 こころの健康科学研究事業では行政的なニーズの把握に加え、学術的な観点からの意見を踏まえて公募課題を決定することとしている。
 また採択課題の決定にあたっては、行政的観点からの評価に加え、各分野の専門家による最新の研究動向を踏まえた評価結果(書面審査およびヒアリング)に基づき研究費を配分している。さらに、中間・事後評価(書面審査およびヒアリング)の実施等により、効率的・効果的な事業実施を行っている。

(3)計画性
 こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施している。
 特に今後の重点分野として、
 @)自殺問題やうつ病対策を中心に、長期大規模疫学調査・介入研究等医学的・行政的なアプローチを10か年戦略をたてて進めることにより、その病因の究明及び治療方法の開発等を図る、(「こころのデケイド(10か年)」)
 A)いまだ難治性疾患である精神疾患、神経・筋疾患について、これまで不十分であった遺伝子解析等による病態解明を総合的に進め、細胞治療、遺伝子治療、創薬等のブレイクスルーとなる治療法の開発までの明確な道筋をつける、(「ニューロジーンプロジェクト」)
 ことを戦略的研究課題と位置づけることとしている。

(4)効率性
 こころの健康科学研究事業では、精神疾患、神経疾患の病因・病態の解明、遺伝子情報に基づく機能予測、疫学調査等を行うことにより、画期的な予防、診断、治療法等の研究開発を推進するとの目的に添った研究事業を実施しており、平成15年度においては、精神保健福祉分野では、
 ・自殺と防止対策の実態に関する研究(今田班)
 ・こころの健康に関する疫学調査の実施に関する研究(吉川班)
 ・児童思春期精神医療保健福祉のシステム化に関する研究(斎藤班)
 ・触法行為を行った精神障害者の精神医学的評価、治療等に関する研究(松下班)
 ・睡眠障害の対応のあり方に関する研究(大川班)
 ・精神疾患治療ガイドラインの策定に関する研究(鹿島班)
 ・心的外傷体験による後遺障害の評価と援助技法の研究(金班)
 ・重症精神障害者に対する、新たな訪問型の包括的地域生活支援サービス・システテム開発に関する研究(塚田班)
 ・精神分裂病の客観的診断法の確立と分子遺伝学的基盤に関する研究(小島班)
 などにおいて、その成果を行政施策の決定に活用した。
また、神経分野については、
 ・CAGリピート病に対する治療法の開発に関する研究班
 ・成人T細胞白血病ウイルス関連ミエロパチーの病態解明及び治療法の開発に関する研究班
 ・ライソゾーム性筋疾患の病態解明と治療法開発に関する研究班
 ・未認可抗生剤ネガマイシンによる筋ジストロフィーの治療
 等の研究により、新たな治療の臨床応用に重要な成果を得た。
 これらの研究結果は随時行政施策に反映されるほか、診断、治療、支援技術の改善等を通じて、国民に還元されることとなる。

(5) その他
(1)こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要であり、公募課題の選定や研究の事前、中間、事後評価には、当該分野に広く深い学識経験を有する委員を委嘱して当たっていただいているところである。
(2)平成14年12月の社会保障審議会障害者部会精神障害分会においても、本研究事業の活用による研究開発の推進を明記している。
(4)心神喪失者(等)医療観察法の衆議院における修正により、次の附則が盛り込まれた。
「政府はこの法律の目的を達成するため、指定医療機関における医療が、最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとなるよう、その水準の向上に努めるものとする」

C.総合評価
 精神疾患、神経疾患は、患者数が多く、また心身の深刻な障害の原因となりうることから、国民の健康問題として非常に重要なものとなっている。本研究事業は、これらの疾患について、疫学的調査によるデータの蓄積と解析を行い、心理・社会学的方法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等を活用し、病因・病態の解明、画期的な予防・診断・治療法等の研究開発等を行うものとして、平成14年度から既存研究事業の発展的な再編のうえ発足したものである。
 これらの疾患の病態解明や診断治療法の開発は、一般の身体疾患に比べて、疫学調査等の心理・社会科学的手法、分子生物学的手法および画像診断技術等の最先端バイオ・メディカル技術等の活用が十分でない面もある。また、こころの健康科学の研究においては、これら最新の医学医療技術の活用のみならず、福祉を含む社会システムや倫理的課題までを視野に入れた学際的な取り組みも必要となるが、本研究事業の実施によりこれらの連携が進み、研究基盤が確立するとともに新たな研究分野の形成や発展も期待されるところである。このため、今後とも、うつ病や自殺対策、遺伝子解析に基づく画期的治療法の開発など行政的に重要な課題を中心に、研究の一層の拡充が求められる。
 これまでの研究成果は、学術的な成果として発表され、本分野の研究の進展に寄与しているのはもちろんのこと、随時、行政施策に反映され、こころの健康問題や精神疾患、神経・筋疾患対策の充実に貢献してきている。
 こころの健康科学研究は広い範囲を対象とするものであるから、優先度の高い課題を適切に選定して効率的に推進することが重要である。現在でも、行政的なニーズに学術的な観点を加えて、公募課題を決定し、応募された課題の事前評価と採択、中間・事後評価等を実施しているが、これらの評価システムをより有効に運営することが求められる。


13)難治性疾患克服研究事業

事務事業名難治性疾患克服研究経費
担当部局・課主管課健康局疾病対策課
関係課大臣官房厚生科学課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 神経疾患、自己免疫疾患、先天性代謝疾患等の難治性疾患に対しては、昭和47年に策定された難病対策要綱に基づいて研究が進められ、一定の成果を上げてきたところであるが、依然、完治に至らない疾患等が存在する。
 平成15年度から、「難治性疾患克服研究」を創設し、根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、重点的・効率的に研究を行うことにより、病状の進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行い、患者の生活の質の向上を図っているところある。
 その一方で、その発症メカニズムや有効性の高い治療法について、十分に解明が進んでいるとはいえない難病が依然として存在しており、一層の研究の充実が求められている。
 このため、平成17年度は「難治性疾患克服研究」において、根本的な治療法が確立しておらず、かつ後遺症を残すおそれが少なくない自己免疫疾患や神経疾患等の不可逆的変性を来す難治性疾患に対して、他の分野の基盤開発研究を踏まえた臨床応用の展開をはかり、進行の阻止、機能回復・再生を目指した画期的な診断・治療法の開発を行うとともに、地域における難病患者のQOLの向上を図ることを目的として研究を推進する。
 また、特定疾患治療研究事業もあわせた事業評価を行い、新たな難治性疾患への対応についても検討を進めていく。
 こうした研究事業の基盤整備を進めるため、若手研究者育成活用事業、外国人研究者の招へい、外国への日本人研究者等の派遣及び研究成果等の啓発などの推進事業を実施する。具体的には、
免疫、ゲノム、再生等他の基盤開発研究の成果を活用した新しい治療技術の開発
失われた機能を補完する機器の開発や心理的支援の開発
緊急性、治療法の開発レベル等を考慮した重点研究
新しく開発された治療技術の臨床応用(安全性、有効性に関する評価)
等の研究を進め専門家、行政官による事前評価に基づき研究補助金を交付し、得られた成果を適切に医療や地域保健の現場に反映させる。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
2,022 2,022(特定)
100(こども)
2,322(特定)
100(こども)
2,126 (未確定)

(4)趣旨
 施策の必要性と国が関与する理由
 「難治性疾患克服研究」における臨床調査研究と「特定疾患治療研究事業」が連携し、制度見直しによって改訂された新しい臨床調査個人票を駆使し、難病患者のQOL、介護の状況や障害の状況を詳細に解析することによって、行政施策の推進に大きく寄与するものであるとともに、難病の原因解明、治療法開発が進められ、患者のQOLの向上に大きく貢献するものである。
 他省との連携
 新しい治療法の開発等に関しては、省内外で実施されているゲノム、再生、免疫等の基盤開発研究の成果を積極的に活用し、効率的な研究を推進している。
 期待される成果
本研究に関する成果としては、
特定疾患治療研究事業の対象疾患について、患者の療養状況を含む実態、診断・治療法の開発等に大きく寄与しており、これに基づく診断基準の改定・治療指針の改訂は、我が国の医療水準の向上につながっている。
潰瘍性大腸炎に対する遠心分離法を用いた白血球除去療法の開発し、高度先進医療として承認された。
研究成果である新しい治療法により、病気の軽快者も出ており、難病医療に貢献している。
現在でも、多くの難病患者が病院や在宅で療養しているが、「難病患者の心理サポートマニュアル」の作成・改訂や「難病相談・支援センター」の整備等を通じて、福祉施策が大きく進められており、医療福祉環境の向上に寄与している。
 また、特定疾患調査解析システムを導入することにより、単に疾患の症状、診断法、治療法のみならず、国内における疾患の動向を把握している。今後は、免疫システムに関する分子生物学的研究の成果を活用した難治性自己免疫性疾患の治療法の開発、難病患者の日常生活支援のための研究等について効果的かつ効率的に研究の推進を図っていく。
 前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 ゲノム、再生、免疫等他の基盤開発研究の成果を活用した臨床研究を推進することにより、難病の克服を進め、研究の進捗状況、治療成績等を評価する体制を構築した上で、疾病毎の研究の必要性を見極め、難治性疾患克服研究の対象疾患(121疾患)以外の難病についても、緊急性の高い疾患については、研究の実施を進めていくよう研究の実施体制を見直し、真に必要な研究に資金が配分される体制を整備していくこととしている。

(5)事業の概略図

難治性疾患克服研究事業の図


B.評価結果
(1)必要性
 難治性かつ患者数が少ない疾患の病態の解明、治療法の開発を進めるためには、行政が、難病患者の臨床データを収集し研究者の英知を集めて、個別の疾患の克服を目指した研究を推進する必要がある。
 予後の著しい改善がみられない難病の対策を進めるためには、世界標準の診断法・治療法を確立し、病状の進行阻止を図ることが急務である。また、患者の生活の質(QOL)の向上についても積極的に研究を推進していく必要がある。また、現在、研究対象となっていない疾病についても、緊急性等を考慮して治療法の開発等を推進していくべきである。
 本事業は、疾患克服に関して行政上必要な研究課題について公募を行い、採択課題に対し補助金を交付し、その研究成果を施策に反映させるものであるため、事業全体を外部に委託することは困難であるが、事務的な手続きを外部へ委託することは可能である。また、補助金を受けた研究者が調査や資料の解析を外部に委託することは現状でも行っている。

(2)有効性
 難治性疾患克服研究事業においては、研究班を構成する研究者から幅広い情報、患者の臨床データが収集され、先端技術を駆使した適正な研究を効率的に進めることが可能である。また、積極的に他の基盤開発研究の成果を適切に活用し、効率的に事業が進められている。
 本研究事業の1研究課題あたりの金額は20,000千円―50,000千円程度であり、研究期間は3年程度を限度としている。評価方法についても外部の評価委員で構成される評価委員会(事前、中間事後)が、多角的な視点から評価を行い、その結果で研究費の配分が行われており、効率的に事業を進めている。
 近年の科学技術の進歩に対応した(ゲノム関連技術、再生医療、免疫メカニズム等に関する)診断・治療技術の開発や国内で開発された新しい治療法の実証的臨床研究を行うことによって、難治性疾患疾患の治療成績向上と治癒・寛解した患者の社会復帰の促進を図る研究であり、高い必要性、緊急性が求められており、また、限られた予算の中で効率的な研究課題の採択が行われている。また、研究期間は原則3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。

(3)計画性
 事前、中間事後評価委員会では、各研究成果の評価をもとに、今後の研究事業の在り方を含めた議論がなされており、本事業における研究課題の設定や研究の方向性につては、このような専門家の意見を踏まえた上で決定されている。
 また、本研究と特定疾患治療研究事業とが連携し計画的に難病の克服を進めるために、有識者による第3者機関である「特定疾患対策懇談会」を開催し、調整を図っている。

(4)効率性
 本事業における目標が達成された場合、難病医療に関して、以下のことが期待される。
多くの難病について標準的な診断・治療指針が示され、国内の多くの医療機関において、稀少性難病の早期診断・早期治療が可能となる。
難病患者の地域における支援ネットワークが整備され、施設、在宅にかかわらず、必要なケアを受けることができる。
有効的な治療法の見出せない難病についても、失われた機能を補完する機器の開発や心理的支援の開発が進み、生活の質を大幅に向上する。
新薬の治験、細胞治療、遺伝子治療等についての臨床研究が大幅に進み、新たな治療法の開発が加速される。
同時に、安全で副作用の少ない、患者個人に最適な治療法の選択が可能となる。
発症メカニズムの解明が進んだ場合は、難病予防への道筋が示される可能性がある。
 このような研究とその成果に対する経済的な試算は困難であるが、難病患者にとって、治療成績の向上や社会参加はかけがえのないものであり、約50万人の患者にとって全体として大きな効果を有するものと考えられる。

(5)その他
 平成14年8月に示された「厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会」の今後の難病対策の在り方に関する中間報告を踏まえ、事業を実施している。
 総合科学技術会議における、「17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも、本研究の一分野が重点事項(ライフサイエンス)に位置づけられた。

C.総合評価
(新規治療法の開発)
 難治性疾患に対し、各疾患群別に国際標準の診断基準と治療方法の導入を図るための調査を行うとともに、対象を重点化し明確な目標を持った上で、ゲノム関連技術、再生医療等の革新的技術を基にした診断・治療法の開発と実証的臨床研究による実用化を目指す必要がある。
 (難病患者のQOLの向上)
 難病患者の生活の質の向上を図るため、難病相談支援センター等の難病患者を取り巻く社会基盤の効果的な活用方法に関する研究、患者の心理的カウンセリングに関する研究や難病患者が地域や家庭で生活する上で、有効的に患者とその家族の生活を支援するための用具や機器の開発等を実施する必要がある。
 (行政施策との関連)
 本事業では、疫学的手法や先進的な自然科学的手法により、特定疾患の診断基準作成を進めるなど、難病施策と密接な関係があり、行政的にも効果的な成果が期待できる。また、いわゆる「難病」については、特定疾患調査研究対象疾患以外にも様々な疾患が存在する。このような疾患の臨床像・疫学像等の実態を把握し、「難病」における特定疾患調査研究の位置づけを明らかにする必要があり、必要な研究に十分な費用が投入できる効率的な研究体制を構築していく必要がある。また、そのためには一刻も早く現在対象となっている難病の克服を進める必要がある。


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