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1.目的

 厚生労働省は、実施する研究事業について、行政施策との連携を保ちながら、一層優れた研究開発成果を国民、社会へ還元することを目的とし、評価を行うこととしている。今般、厚生科学審議会科学技術部会において、厚生労働省の科学技術施策に関する予算概算要求前の評価を行う。
 本評価結果は、総合科学技術会議の科学技術関係予算に関する評価の基礎となるものであり、研究開発資源の配分への適切な反映等を行うことにより、研究開発の一層効果的な実施を図るものである。


2.評価方法

1)評価のプロセスの決定
 平成15年2月27日、厚生科学審議会科学技術部会は、総合科学技術会議が行う評価の方法も踏まえ、次の要領で厚生労働科学研究費補助金の成果の評価を行うことを定めた。その中で、厚生労働省の科学技術施策に関する概算要求前の評価については、厚生科学審議会科学技術部会において行うこととした。
厚生労働省の概算要求前の評価

厚生労働省の概算要求前の評価の図


2)評価対象
 総合科学技術会議の「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」において、優先順位付け等の対象範囲は、基本的に、概算要求額又は業務規模(見込み)が、(イ)1億円以上の新規施策等、及び(ロ)10億円以上の継続施策等とされたことから、厚生労働省の科学技術関係予算の中から、以下の事業を対象として実施する。

 厚生労働科学研究費補助金の各研究事業
 国立病院特別会計によるがん研究助成金
 独立行政法人医薬品医療機器総合機構開発振興勘定運営費交付金

3)評価方法
 今回の評価は、各研究事業の内容について、平成15年5月に公表された、「厚生労働科学研究費補助金の成果の評価」及び、平成15年7月に総合科学技術会議において決定された「競争的資金制度の評価報告書」において行われた評価結果を参考として実施する。
 平成17年度実施予定の各研究事業について、厚生労働省の各担当部局が、外部有識者等の意見を踏まえて評価原案を作成し、厚生科学審議会科学技術部会において審議を行う。
 なお、今回の評価は、研究事業所管課評価を行う際の指針(下記参考1)及び総合科学技術会議の「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」(下記参考2)で示されている観点等を参考として実施するものである。

<参考1>

 「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」
(平成14年8月27日、厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定)

第2編 研究開発施策の評価の実施方法
1.評価体制
 各研究事業等の所管課は、当該研究事業等の評価を行う。
2.評価の観点
 政策評価の観点も踏まえ、研究事業等の目標、制度、成果等について、必要性、効率性及び有効性の観点等から評価を行う。
 研究事業等の特性に応じて柔軟に評価を行うことが望ましいが、「必要性」については、行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等の観点から、「効率性」については、計画・実施体制の妥当性等の観点から、また「有効性」については、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から評価を行うことが重要である。
3.評価結果
 評価結果は、当該研究開発施策の見直しに反映させるとともに、各所管課において、研究事業等の見直し等への活用を図る。

<参考2>

 「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」p.22 科学技術関係施策の優先順位付け等(平成16年5月26日、総合科学技術会議)

1)対象
優先順位付け等の対象範囲は、基本的に、概算要求額又は業務規模(見込み)が、(イ)1億円以上の新規施策等、及び(ロ)10億円以上の継続施策等、とする。
  ただし、以下の経費に係る施策等については、原則として対象としない。
  ・人件費、調査研究費、制度運営のための管理費
  ・国庫債務負担行為の歳出化経費
 なお、対象外とした施策等について各府省から要望があれば対象とすることを検討する。

2)観点
優先順位付け等の検討に当たっては、各府省における評価の結果やその反映状況等を含め、各府省の考えを十分聴取しながら、分野・事項を横断し、以下の観点を含む総合的な見地から実施する。
必要性:国にとって必要であり、現時点で国が関与しなければ実施ができないものか。
 ・国が関与する理由
 ・我が国の科学的・経済的・社会的ニーズの反映
 ・国際的視点からの必要性(世界的な研究動向、知的財産の形成、国際市場の創造等)
 ・分野別推進戦略等総合科学技術会議の各種意見具申をはじめとする各種政府方針との整合等
計画性:目的を実現するための手段・体制が計画として適切か。
 ・具体的な目標の明示
 ・推進体制の適切性(研究・制度を総括する責任者、産学官の連携等)
 ・関係府省との分担、連携
 ・類似又は関連する施策等との分担、連携
 ・実施方法の妥当性(フィージビリティスタディを行うべきではないか等) 等
有効性:期待される成果を、期間中に得られる見込みがあるのか。
 ・達成すべき目標の妥当性、目標の達成度
 ・必要経費、投資計画の妥当性等
効率性:期待される成果は、投資に見合うものか。
 ・費用対効果
 ・期待される成果の科学的、経済的、社会的影響
 ・成果の波及性等

3)結果
科学技術政策担当大臣及び総合科学技術会議有識者議員が、次の区分で施策の優先順位を付けるとともに、その理由や留意事項を明らかにする。
  S:特に重要な施策であり、積極的に実施すべきもの
  A:重要な施策であり、着実に実施すべきもの
  B:問題点等を解決し、効果的、効率的な実施が求められるもの
  C:研究内容、計画、推進体制等の見直しが求められるもの

優先順位、その理由及び留意事項については、各府省からの意見を十分聴取した上で、10月中旬を目途に決定し、関係各府省に伝達するとともに原則として公表し、総合科学技術会議に報告する。
 独立行政法人、国立大学法人等については、優先度等の検討結果を踏まえて見解をまとめ、当該法人の主務省に伝達、原則として公表し、総合科学技術会議に報告する。
 また、優先順位付けの結果を十分に踏まえた予算編成が行われるよう、必要に応じて財政当局と連携を図る等適切な対応を行う。


3.厚生労働科学研究費補助金

 厚生労働科学研究費補助金による研究事業は、平成17年度においては4つの研究分野に属する18研究事業に分かれて実施されている(表1参照)。

表1.研究事業について
研究分野 研究事業
I.行政政策 1)行政政策
2)厚生労働科学特別
II.厚生科学基礎 3)先端的基盤開発
4)臨床応用基盤
III.疾病・障害対策 5)長寿科学総合
6)子ども家庭総合
7)第3次対がん総合戦略
8)循環器疾患等総合
9)障害関連
10)エイズ・肝炎・新興再興感染症
11)免疫アレルギー疾患予防・治療
12)こころの健康科学
13)難治性疾患克服
IV.健康安全確保総合 14)創薬等ヒューマンサイエンス総合
15)医療技術評価総合
16)労働安全衛生総合
17)食品医薬品等リスク分析
18)健康科学総合


<I.行政政策研究分野>
 行政政策研究分野は、「行政政策研究事業」と、「厚生労働科学特別研究事業」から構成されている(表2)。
表2.「行政政策研究分野」の概要
研究事業 研究領域
1)行政政策 1−1)政策科学推進
1−2)統計情報高度利用総合
1−3)社会保障国際協力推進
1−4)国際危機管理ネートワーク強化
2)厚生労働科学特別研究


1)行政政策研究事業

1―1)政策科学推進研究
事務事業名行政政策推進研究経費(政策科学推進研究)
担当部局・課主管課政策統括官付政策評価官室

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 少子高齢化や社会経済情勢が変化のする中、今般の年金関連法案審議において課題となった社会保障制度全体の見直し、介護保険の見直し及び新たな高齢者医療制度の創設を見据えた年金、医療、介護、生活保護の制度相互の給付の関係を分析する研究の重要が高まっていることを踏まえ、人文・社会科学系を中心に、年金・医療・福祉及び人口問題に関する政策や社会保障全般に関する研究等に積極的に取り込むことにより、厚生労働行政施策の企画立案及び効率的な推進に資することを目的としている。
 主な研究分野
  社会保障制度に影響を与える社会経済の変化(少子化、セーフティーネット等)の動向及びこれらに対する政策的対応に関する調査研究
  社会保障の共通事項(政策評価、負担と給付等)に関する調査研究
  社会保障と関連する施策との連携(地域施策、情報施策等)に関する調査研究
  社会保障の個別分野(医療、福祉、年金等)に関する調査研究

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
(1)888 (1)919 (1)809 (1)766 (未確定)

(4)趣旨
 施策の必要性と国が関与する理由
 懸案となっている社会保障制度の総合的改革、少子化対策等を効果的かつ効率的に推進するため、施策の企画立案に当たっての基礎資料に資する研究を厚生労働省が実施することが必要である。
 他省との連携
 本研究事業は社会保障を中心とした厚生労働行政施策に関する研究を扱っており、基本的に厚生労働省のみでの進行管理が可能である。
 期待される成果
 「年金、医療、介護、生活保護の制度相互の給付の関係を分析する研究」「税・保険料合わせた負担の在り方に関する研究」を実施することにより、介護保険の見直し及び新たな高齢者医療制度の創設を含む社会保障制度の総合的見直しの検討資料に資する。また、過去の研究については、医療制度改革の柱の一つであるDPC導入への活用、福祉サービスの第三者評価基準及び第三者評価機関の認証ガイドラインの作成、病院会計準則に係る新ガイドラインの作成等、多くの行政分野での施策に反映されている。
 ※:診断群分類(DPC Diagnosis Procedure Combination)による包括払い
 前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
  (1)策に沿った研究を効果的かつ効率的に推進する上で、全部を公募にする必要はなく、研究体制を検討する必要がある(総合科学技術会議)→平成16年度はDPCに関する研究(2.4億円)を指定研究をとして実施
  (2)過去の研究の成果・評価が、次期の研究の企画・採択に反映されない(事後評価委員会)→事後評価委員会の開催時期を11ヶ月繰り上げ(平成15年度終了課題より)

(5)事業の概略図

社会保障は社会の安心基盤
国民の不安の最たるものは健康と老後
↓
個人にとって重要な領域−「医療と保健」「収入と消費生活」が1、2位
老後に明るい見通しを持っている人 15.0%(平成14年度国民生活選好度調査)

社会保障制度の改革により国民の安心を取り戻すことが不可欠

「若者と高齢者が支え合い国民が安心して暮らすことができる社会保障制度を構築してまいります。」
(第159回国会における小泉内閣総理大臣施政方針演説 平成16年1月19日 )
「社会保障制度全般について、税・保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行う」
(年金制度改革関連法案付則)


→ 社会保障制度全般と年金、医療、介護等の各論それぞれについての政策研究の重要性が増大
社会保障制度の周辺分野を含め政策検討の基礎資料を提供するための基礎的調査
研究・政策を効率的に実施したり、その効果等を測定・情報開示し、必要に応じ見直しを行うモデル等の開発
(具体的には) 年金、医療、介護、生活保護の制度相互の給付の関係を分析する研究
税・保険料合わせた負担の在り方に関する研究
政策科学推進研究の主な研究対象分野
分野 セーフティーネット 公衆衛生、人口問題、情報化、
政策評価等
年金 医療 介護 生活保護
これまでの
成果(例)
企業年金の調査、
年金制度国際比較
DPC導入のための調査、医療機能評価 高齢者ニーズ調査、サービス提供に関する調査 低所得者対策のあり方に関する研究 人口推計、地域保健の個人情報保護、少子化に関する調査
今後必要な
内容
年金、医療、介護、生活保護の制度相互の給付の関係を分析する研究
税・保険料合わせた負担の在り方に関する研究
インフラとしての公衆衛生に関する調査、健康リスク対策

B.評価結果
(1)必要性
 先の国会における年金関連法案審議等でも明らかとなったように、今後、社会保障制度の総合的改革についての議論が一層活発化することを踏まえ、人文・社会科学系を中心に社会保障及び人口問題に関する政策研究や保健・医療・福祉の経済的分析等を幅広い視点から実施することは、きわめて重要である。

(2)有効性
 本研究事業については、各部局との調整を行った上で、社会保障施策関連各種施策における問題を公募課題として設定するほか、指定研究も実施されている。新規課題の採択及び交付金額の決定については、事前評価委員会による評価が行われ、継続予定課題の継続の可否及び交付金額の決定並びに終了課題の最終的な評価については、中間・事後評価委員会による評価が行われている。事前評価委員会及び中間・事後評価委員会は、専門的・学術的観点から評価を行う専門委員と行政委員からなり、評価は研究計画書、報告書等の書面審査により行うほか、必要に応じ研究者からのヒアリングを実施している。
 平成16年度に実施されている研究は、公募課題65課題(新規課題28(応募は74課題)、継続課題37、平均約6百万円)、指定課題1課題(240百万円)であり、優先度・重要度の高い研究が適正な規模で実施されている。

(3)計画性
 本研究事業の研究課題は、短期的な問題解決型のものと、長期的な施策を議論する上での基礎資料を蓄積するものに大きく分けることができる。特に長期的研究については研究の成果が活用される時期を見込んで前広の課題設定を行うとともに、厳しい中間評価を行い、必要に応じて研究内容を見直させ、あるいは研究の継続を認めないことにより、研究費の計画的かつ有効な活用が図られている。

(4)効率性
 公募課題は、緊急性の高い施策に関連するものが取り上げられ、その研究成果は次の例のように速やかに施策に反映されるなど、多くの実績を上げている。
(例)
「急性期入院医療試行診断群分類を活用した調査研究」(H13〜15):医療制度改革の柱の一つとして、DPC導入に活用。
「保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究」(H14,15):地域と職域にまたがる健康診断情報を有効に活用するため必要となる個人情報保護の条件について整理。
開設主体別病院会計準則適用に関する調査・研究」(H15):病院会計準則に係る新ガイドラインを提案
「福祉サービスの第三者評価基準及び第三者評価機関の認証のあり方に関する研究」(H15):第三者評価機関認証に係るガイドラインを提案

(5)その他
【参考】(本研究経費に関連する方針・政府決定等)
 「社会保障制度全般について、税・保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行う」(年金制度改革関連法付帯決議)
 「持続的な安全・安心」の確立に取り組む。具体的には、社会保障制度について、年金・医療・介護・生活保護等を一体としてとらえた総合的な改革を進める。また、少子化対策、健康・介護予防の推進、治安・安全の確保、循環型社会の構築・地球環境の保全にも注力する。(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004)
 社会保障制度全般について、広く有識者の参加も得つつ、一体的な見直しを開始する。平成16年中に、社会保障制度の国民生活における基本的役割、その持続可能性、経済や雇用との関係、家族や地域社会の在り方を踏まえ、中期的な観点からの社会保障給付費の目標、税・保険料の負担や給付の在り方、公的に給付すべき範囲の在り方、各制度間の調整の在り方、制度運営の在り方等の課題についての論点整理を行い、重点強化期間内を目途に結論を得る。(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004)

3.総合評価
 「持続的な安全・安心」の確立に向けて、社会保障制度の総合的改革に取り組んでいく必要があるが、これに資する新たな知見や基礎的資料を得るため、本研究事業はきわめて重要な役割を担っている。


1−2)統計情報高度利用総合研究
事務事業名行政政策研究経費(統計情報高度利用総合研究)
担当部局・課主管課 大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課保健統計室

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 厚生労働統計の高度分析指標の開発に関して
 統計情報を使用した地域の健康度、保健医療、福祉等に関する各種指標について、その適応可能性と応用について検討すると共に、保健医療、福祉等施策の企画立案を支援するための新たな地域指標の開発とその実用化等に関する研究を実施。
 厚生労働統計情報の高度処理システムの開発に関して
 統計情報の高度分析システムについて研究を実施し、複数調査をデータまたはレコード・リンケージし、探索的に解析する手法やパネル調査(縦断調査)の分析手法等について検討を行うとともに統計情報高度処理の基盤技術開発に関する研究を実施。
 厚生労働統計情報の国際的情報発信の基盤確立に関して
 我が国における保健医療福祉統計情報の収集及び発信に関する研究を行うとともに、国際比較可能性などに関する技術の開発に関する研究を実施。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
41百万 41百万 35百万 32百万 (未確定)

(4)趣旨
 施策の必要性と国が関与する理由
 統計は、行政政策の企画・立案・評価のための基礎資料を提供するものであり、電子政府・電子自治体の推進、地方分権・政策評価の進展など新たな行政制度・施策が展開されていく中で、統計行政についても、少子高齢化・国際化・個人情報保護などの社会経済情勢の変化に対応した統計の整備、統計データの提供の充実等を一層推進していくことが求められている。さらに、国民の価値観の多様化、プライバシー意識の高まり及び報告者の負担軽減への対応、情報通信技術の活用等が求められており、統計調査の実施が困難となってきている。そのような中、統計の整備、統計データの総合的利用の推進のためには、統計情報の利用の高度化、提供の高度化、統計データの利用促進のための基盤整備等が必要であり、また、少子高齢化、国際化、政策評価の高まり等に対応した統計情報のあり方の検討も必要である。
 他省との連携
 文部科学省所管の基礎的研究の研究成果が活かされ、本研究事業において検証・応用されており、連携している。
 具体例としては、文部科学省の科学研究費で行われたヘルスアウトカム予測システム構築研究で開発された予測システムが、「データリンケージによる産業別生命表の作成とその応用に関する研究」におけるコード利用等へ活用され、コホート研究支援システムの支援システムが「レコードリンケージを用いた保健医療福祉統計の有効活用に関する研究」におけるデータ分析に活用されている。
 以上のように学術的基礎研究が本事業によって高度利用されることにより、行政施策での利用が推進されている。
 期待される成果、波及効果、主な成果と目標達成度
 本研究事業は、統計調査自体の充実・改善のみならず、統計調査の高度利用の推進により省内関係部局にも研究成果が還元されうるという特徴もあり、有用性の高い研究事業である。例えば、「患者調査」は各種の衛生行政施策の検討等に用いられており、本調査の精度を向上することで、ニーズに適合したデータ提供が可能になりうる。このように「患者調査」の調査設計に関する具体的な提言や統計調査の個人レベルでのリンケージ可能性の検証等の本研究事業で得られた研究成果は、当部が所管する各種の統計調査の充実・改善に有用であるとともに、既存統計調査の高度利用の推進にも貢献する内容となっており、事業目的を達成しているといえる。
 前年度の総合科学技術会議および科学技術部会での評価に対する取り組み
 本研究事業においては、公募課題を設定し、外部の評価委員会により評価を行っている。評価に際しては、厚生労働省大臣官房統計情報部所管の統計調査に実際に応用可能であるかという点に留意している。この方法により、事業目的を達成する研究成果が得られており、平成16年は公募倍率も3倍程度となっていることから、今後も公募による研究事業の運営が望ましい方法と考えられる。また、事前・中間・事後評価委員会における指摘事項については、各研究者に還元することとしている。

(5)事業の概略図

統計情報高度利用総合研究事業

統計情報高度利用総合研究事業の図
統計情報は、行政施策の企画・立案・評価のための基礎的情報を提供

B.評価結果
(1)必要性
 各府省統計主管部局長等会議で検討された「統計行政の新たな展開方向(平成15年6月27日)」において、社会・経済の変化に対応した統計の整備、統計調査の効率的・円滑な実施、調査結果の利用拡大、国際協力の推進等が重要施策として位置づけられた。具体的には、ジェンダー統計の整備や世帯機能の把握といった社会等の変化に対応した統計の整備、政策評価への統計活用等の推進、オンライン調査の拡大、統計データアーカイブの設置、標本抽出の支援、データリンケージなどの多面的利用方策の検討、国際比較可能性を高めるための基本的な情報の収集・共有化の推進等が課題となっている。

(2)有効性
 本研究事業は、統計情報の高度利用の総合的推進という観点から、新規課題については毎年公募課題を設定し、事前評価委員会により評価を行っている。また、継続・終了課題については、中間・事後評価委員会により評価を行っている。
 評価は書面により行われ、事前及び中間・事後評価委員会は、専門委員及び行政委員からなり、それぞれ「専門的・学術的観点」及び「行政的観点」から評価を行っていることから、必要性・緊急性の高い研究課題が採択されると考えられる。研究費についても、評価委員会での議論に基づいてその配分額が決定されるため効率的かつ妥当な配分であると考えられ、限られた予算の中での有効性は高いと考えられる。
 なお、本研究の平成16年度における1研究課題あたりの金額は4,865千円であり、他の研究事業に比べて金額的に多いものではないが、公募により幅広く課題を募り、学問的にも高度な分析や、行政課題にも添った研究が行われており、適正な規模の研究が効率的に実施されている。研究期間は原則として最長2カ年であり、研究課題の見直しに反映されるため、効率性が高いと考えられる。

(3)計画性
 本研究事業においては、公募課題を設定し、外部の評価委員会により評価を行っている。評価は書面により行われ、専門委員及び行政委員からなり、それぞれ「専門的・学術的観点」及び「行政的観点」から評価を行っている。評価に際しては、厚生労働省大臣官房統計情報部所管の統計調査に実際に応用可能であるかという点に留意しており、この方法により、必要性、緊急性の高い課題が採択されると考えている。また、事前・中間・事後評価委員会における指摘事項については、各研究者に還元することとしており、よりよい研究成果を得ることが期待される。

(4)効率性
 いずれの研究課題も、研究課題の目標の達成度は高く、行政部局との連携のもとに、施策の推進の観点からも有効性の高い研究が実施されている。具体例を以下に示す。
当室所管の指定統計である患者調査については、平成17年度の次回実施に向け、現在検討が行われている。本研究事業で考案された新しい層の設定や患者数の推計法の改良等を実施することにより、調査精度の向上を図ることができる。
「厚生労働省の行政手続き等の電子化推進アクションプラン」等において、申請・届出等の電子化が推進されている。本研究事業で作成された「医療施設情報システム」のシステムプログラムは、地方自治体での電子化推進に貢献するものであり、当省の施策に合致する内容である。また、将来的には、オンライン化の推進にも寄与することが期待される。
「e−Japan重点計画」等のIT化を推進する施策に基づき、統計調査についてもオンライン化が求められているところである。本研究事業で作成されたオンライン化に対応した「届出システム」は、医師・歯科医師・薬剤師調査のオンライン化に活用できるものであるとともに、他の統計調査のオンライン化においてもモデルとなりうるものであり、オンライン化の推進に寄与するものである。
社会経済的構造因子(ジェンダー役割等)と健康影響との関係や健康指標については、WHOや国内でも検討されている重要な課題のひとつである。今回、これらについて、既存の統計調査を用いて分析・整理を行ったことは、今後の厚生統計におけるジェンダー統計の整備や、統計情報を用いた健康に関する総合的指標の具体的算出に向けて必要なものであり、統計調査の高度活用の推進に大いに貢献することが期待できる。

(5)その他
 本研究事業は、統計調査自体の充実・改善、高度利用の推進のみならず、統計調査結果の改善、高度利用等を通じ、行政政策の企画・立案・評価に活用されるなどして省内関係部局にも還元されうるという特徴があり、有用性の高い研究事業である。

C.総合評価
 統計は、行政政策の企画・立案・評価のための基礎資料を提供するものであるが、近年の社会環境の変化、行政施策を取り巻く状況の変化により、今後ますますその重要性が増していくと考えられる。
 これまでの研究により、評価手法や学問的にも高度な分析に関する総合的情報処理体制の基盤的技術が得られる一方、「患者調査」の調査精度の向上を図るための新しい層の設定や患者数の推計法の改良等が考案されるなど、具体的に応用可能な成果も上がっており、今後これらの成果を踏まえ、少子高齢化の進行、急速な情報化、地方分権の進展、政策評価の重視、国際化の進展など、統計を取り巻く環境の変化に対応し、「統計行政の新たな展開方向」にも添った事業を実施していくことが求められる。
 また、厚生労働統計は国民の保健、福祉、医療等に広く関係するものであることから、研究結果は、推進事業を通じて普及啓発を行うと共に、行政施策に着実に反映させていくことが重要と思われる。


1−3)社会保障国際協力推進研究領域
事務事業名社会保障国際協力推進研究経費
担当部局・課主管課大臣官房国際課
関係課政策統括官(社会保障担当)

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標医療保険・年金、公衆衛生等を含めた広義の社会安全保障分野における国際協力の在り方や国際協力を推進するための方策等の検討に資する知見を得ること。
施策目標効率的・効果的な社会保障分野に関する国際協力を実施していくための方策を研究することにより、より体系的・戦略的な国際協力の実施。

(2)事務事業の概要(一部新規)
 最近の国際社会において、保健医療分野が「将来への投資」分野としての認識が高まり、それに伴い国際協力においては新たな方策が模索され始めているとともに、世界エイズ・結核・マラリア対策基金等新たなイニシアティブが構築されている。
 本研究は、こういった国際社会の新たな動きに対応することを目的としている。
 (研究課題例)
国際協力事業評価方法及び我が国への導入・応用に関する研究
多国間協力事業の進捗管理及び評価(Monitoring&Evaluation)手法のあり方に関する研究
国際協力支援事業のモニタリング・評価に関する研究
国内施策へのメリットや整合性を踏まえた社会保障分野に関する国際協力の在り方に関する研究
途上国の保健システム評価手法を応用した途上国保健医療システム強化支援のあり方に関する研究
わが国が今後、社会保障分野に係る国際協力において重視すべき分野及び地域の設定に関する研究
 従来の研究事業に加え、更に国際協力を具体的に推進するために、平成17年度から次の研究を新規に実施していきたい。
国際機関の統治に関する比較研究とWHO及びUNAIDSの望ましい機構について
沖縄サミットを契機として設立された、世界エイズ結核マラリア対策基金と我が国の様々な国際協力の枠組みの効率的・効果的な連携について
開発途上国の適切な社会保障システム導入、および地域保健システムのあり方に関する研究

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
57百万円 57百万円 49百万円 45百万円 (未確定値)

(4)趣旨
 平成8年のリヨンサミットにおいて、公衆衛生、医療保険・年金等を含めた広義の社会安全保障の問題について、先進国のみならず開発途上国も含め、お互いの経験・知識を共有することを目的とする「世界福祉構想」が橋本総理(当時)から提唱され、同構想を踏まえ、感染症等の問題について先進国を含む地球規模に立った国際的な取り組みの必要性が強調された。
社会安全保障分野の国際協力のニーズの高まり
 重点的・戦略的援助体系の研究が求められている
支援事業のモニタリング・評価
 今後のわが国における支援事業のモニタリングや事業評価に関する政策的枠組みの在り方の検討に資するような研究が求められている
国内施策へのメリットや整合性を踏まえた社会安全保障分野に関する国際協力の在り方
 効率的効果的なODAの見直しの中では、国内施策へのメリットや整合性が重視される方向にあり、社会安全保障分野においてもこのような観点からどのような国際協力がなされるべきか、検討が急がれている。

(5)事業の概略図

  社会保障国際協力推進研究

社会保障国際協力推進研究の図


B.評価結果
(1)必要性
 「世界福祉構想」を踏まえ、感染症等の問題について先進国威を含む地球規模に立った国際的な取り組みが必要であり、重点的・戦略的援助体系の研究を社会安全保障分野を所管している厚生労働省が実施していかなければならないと考える。
 二国間協力・多国間協力の両面において、より効率的・効果的なODA事業推進が行政施策として求められており、このような観点から、社会安全保障分野に関するODA対象分野の重点化方策、二国間協力と多国間協力の組み合わせによる効率化方策、効率的・効果的な支援事業を選別するための事業評価手法、近年、国際保健関係分野で台頭しつつある新しい官民協力体制(世界エイズ結核マラリア対策基金など)におけるより効果的な対応方策、などの検討も必要となっている。
 上記から、当該事業による、効率的・効果的な社会安全保障分野に関する国際協力を実施していくための方策の研究は、目的として妥当性があると考える。

(2)有効性
 当該事業は、効果的な国際協力の実施のために、効果的な国際協力推進システムの構築を事務事業の目的にしている。
 その達成のため、平成11年度から平成13年度の3年間の研究により、(1)社会保障に係る国際協力の状況分析に関する研究、(2)社会保障に係る国際協力の方法論に関する研究、(3)社会保障に係る国際協力の在り方に関する研究、についての研究が実施され、社会保障協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積が一定程度達成されたと考える。今後は、これまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていくため、より具体的な課題設定に基づく研究を実施する計画である。
 平成11〜13年度の3年間の研究により次の研究成果が活用されている。
「医薬品援助マニュアル」の医薬品分野における国際協力での活用。
国立保健医療科学院での国際コースの講義等での海外へ派遣する専門家の教育における活用。
カンボジア保健省において国家保健医療総合計画策定手法のマニュアルとテンプレートを活用したプランが承認された。
 今後当該事業を引き続き継続することにより、事業の成果として得られることにより「効果的な国際協力システムの構築」がなされ、効果的な国際協力の実施に役立つであろうと考えられることから、妥当な目標であると考えられる。

(3)計画性
 国際協力の効果的実施に資する各種調査研究を実施することにより得た成果により、社会保障分野の国際協力の施策へ反映させる。今後の国際社会の変化に対応していくために、本研究は一定の規模において恒常的に実施していく。

(4)効率性
 平成11年度から平成13年度の3年間の研究により、(1)社会保障に係る国際協力の状況分析に関する研究、(2)社会保障に係る国際協力の方法論に関する研究、(3)社会保障に係る国際協力の在り方に関する研究、についての研究が実施され、社会保障国際協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積が一定程度達成されたと考える。
 今後は、これまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていくため、より具体的な課題設定に基づく研究を実施することとしている。
 当該事業の実施により期待される成果は、効果的な国際協力の実施である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,687百万円(平成15年度予算額)の約0.15%の65百万円の予算により、社会安全保障分野の国際協力のニーズに応え、「世界福祉構想」に貢献できるとすれば、費用対効果があるのではないかと思われる。
 期待される科学的影響は、効果的な国際協力推進システムの構築の過程で、「医薬品援助マニュアル」等が作成されたことにより、医薬品援助に関する専門家等の人材の養成に役立てられ、同専門家等の能力が向上することが考えられる。
 経済的影響については、開発途上国に効果的な国際協力を行うことにより、開発途上国の社会保障基盤が整備されることにより、我が国と国際協力による友好関係が築かれることから、我が国と開発途上国とのビジネス、貿易、観光などの経済活動が促進につながると考えられる。
 社会的影響については、効果的な国際協力の実施により、開発途上国との友好関係の構築や国際協力による国際機関との信頼関係の樹立に役立つと考えられる。

(5)その他
 社会安全保障分野の開発途上国や国際機関に係る国際協力を所管する国際課が、より体系的、戦略的な国際協力を推進して行くために、当該事業の主管課であることは妥当であると考える。また、当該事業の研究を行ってきた大学や研究所等との協力により、今後適切な産学官の事業を推進する体制につなげることを期待している。
 省内の関係課は、政策統括官(社会保障担当)である。政策統括官(社会保障担当)の担当は、国内の社会保障政策の企画・立案、推進などである。
 今まで当該事業において、国際課と政策統括官(社会保障担当)の連携はあまりなかったと思われる。今後は、我が国の社会安全保障分野の経験・知識を国際協力に役立てることからも、国際課と政策統括官(社会保障担当)の連携があっつてもよいのではないかと考える。

C.総合評価
 感染症、栄養、災害等に加え、近年の人口の急速な高齢化、都市部への人口集中、疾病構造の変化などに伴い、医療保険年金、公衆衛生等を含めた広義の社会安全保障分野全体を視野におく国際協力は、「世界福祉構想」を提唱した我が国の厚生労働省が、今後も積極的に取り組み、推進していかなければならない事業であると考える。
 当該事業は、平成11年度から平成13年度の間に、社会保障国際協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積ができたことは評価に値すると考えられ、今後もこれまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていく必要がある。
 当該事業を継続するに当たり、研究課題の新陳代謝を図り、また、その時々の政策課題に適時適切に対応するため、毎年、一定の新規課題が選択採択されるよう各研究課題の周期を調整していくことに留意する必要があると考えられる。


1−4)国際危機管理ネットワーク強化
事務事業名国際健康危機管理ネットワーク強化研究経費
担当部局・課主管課大臣官房国際課
関係課大臣官房厚生科学課、健康局結核感染症課、医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標
国民の健康に対する不安の除去
安心・安全な社会の確保
施策目標
情報基盤整備
国際的な健康危機管理対応人材の養成

(2)事務事業の概要(一部新規)
 BSE、エボラ出血熱及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)等の感染症、更にバイオテロの勃発などに対して、国民の健康被害を最小限にするため、海外で発生している事柄に関する適切かつ迅速な情報収集が重要であり、国外からの情報等に基づく国際的な視点からの健康危機管理体制の強化が重要な課題である。このような観点から、次のようなネットワーク強化事業研究及び健康危機管理の人材養成研究に、早急に取り組む必要があると思われる。
ネットワーク強化事業研究
 バイオテロ及び感染症等の発生動向の監視評価
 バイオテロに対するワクチン備蓄や治療協力体制等のネットワーク整備
 病原体や感染症に関する情報収集と解明のためのネットワーク整備
健康危機管理の人材養成研究
 バイオテロ及び感染症等に対する治療に関する知見や体制の共有
 研究の成果を、情報基盤整備及び健康危機管理人材養成に活用することにより、我が国の保健医療システムが強化され、国民の健康に対する不安が除去され、安心・安全な社会の確保を目指す。

(3)予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
72(新) 未確定

(4)趣旨
バイオテロ
発生動向の監視評価の確立が求められている。
ワクチン備蓄や治療協力体制等のネットワーク整備が急がれている。
治療に関する知見や体制の共有が求められている。
SARS(重症急性呼吸器症候群)、インフルエンザ、エボラ出血熱、西ナイル病など
発生動向の監視評価の確立が求められている。
病原体や感染性に関する情報収集と解明のためのネットワーク整備が急がれている。
治療に関する知見や体制の共有が求められている。
BSE
発生動向の監視評価が確立が求められている。
治療に関する知見や体制の共有が求められている。

(5)図

国際健康危機管理ネットワーク強化研究の図


B.評価結果
(1)必要性
 感染症等流入による国民の健康被害の危機は、行政の保健医療分野を担当している厚生労働省が国民の健康被害を最小限にするため、早急に取り組まなければならない。
 バイオテロの危険性に加え、BSE、エボラ出血熱、及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)などの国外からの感染症等流入の危険性は、航空機での人の移動が迅速で広範囲で多国間に渡っている現在、国民の健康被害に直接関わる危険であり、国際健康危機管理ネットワークの強化及び国際健康危機管理の人材養成により、感染の拡大を防ぐ措置が必要である。科学的、経済的、社会的ニーズが非常に高く、緊急性を要している。
 最近のSARSの例からわかるように、国際的視点からも感染症拡大の防止のため、我が国の国際健康危機管理ネットワーク構築及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルの作成の必要があると思われる。
 当該事業を実施することにより、国民の健康に対する不安を除去し、安心・安全な社会の確保をすることとなり、平成17年度の科学技術分野の「安心・安全な社会を構築するための科学技術の総合的・横断的な推進」に資する重点分野の研究事業となる、目的として妥当性を有する事業であると思われる。

(2)有効性
 本研究事業は、情報基盤整備、国際的な健康危機管理対応人材の養成という、ネットワークの構築又は強化のために実施すべき2つの政策課題を主眼においている。
 その達成のため、事業計画では、情報基盤整備、国際的な健康危機管理対応人材の養成の2分野に分けて効率的に研究を進め、3年を目処に、国際健康危機管理ネットワークに関する基本的な知見を集積すると同時に、国際ネットワーク強化、国際健康危機管理の人材養成マニュアルという、具体的な2つの成果物を入手することを目標においていることから、本計画は、無理のない、実現可能性の高いものである。
 また産学官の連携をとるために、特に民間やNGOなど非政府機関の研究協力を、研究事業に取り入れる必要があると思われる。
 当該研究事業は、3年を目途に国際健康危機管理ネットワークに関する基本的な知見の集積がなされるよう期待している。
 事業の成果として得られる「国際健康危機管理の情報・通信のシステム」及び「国際健康危機管理の人材養成マニュアル」を活用することにより、国民の健康に対する不安の除去に役立つであろうと考えられることから、妥当な目標であると考えられる。
 当該事業経費(案)は、研究事業として、71百万円と、推進事業24百万円(外国への日本人研究者派遣事業経費(米国の国際機関等に2名6ヵ月派遣)と研究成果等普及啓発事業経費及び研究支援事業経費)の合計95百万円であり、厳しい財政状況の中で妥当な金額ではないかと思われる。

(3)計画性
感染症等の発生動向の監視評価や国内外の情報収集と解明のための国際機関等とのネットワークのあり方や国際的な健康危機管理に必要な人材養成に関する各種調査研究を実施することにより得た成果により、国際健康危機管理ネットワーク強化の施策へ反映させる。
今後の国際社会の変化に対応していくために、本研究は一定の規模において恒常的に実施していく。

(4)効率性
 当該事業の実施により期待される成果は、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,687百万円(平成15年度予算額)の約0.2%の72百万円の予算により、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保という成果を得られるとすれば、予算額に見合う充分な効果があるのではないかと思われる。
 当該事業の研究成果により、感染症等流入による国民の健康被害の危機の国外情報の効果的かつ迅速な入手、活用が強化され、その結果国民全体に活用されるため、費用対効果は非常に高いものになると思われる。
 期待される科学的影響は、国際健康危機管理の人材養成マニュアルが作成されることにより、国際健康危機管理の専門家が養成され、また同専門家の技能が向上することが考えられる。
 経済的影響については、保健医療システムが強化され、安心・安全な社会が確保されれば、ビジネス、貿易、観光などの経済活動の促進がなされると考えられ、更に重要なことは、万一感染症等流入による国民の健康被害の危機が発生した場合には、国際健康危機管理ネットワーク及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルにより養成された専門家の対処により、経済へのマイナス効果を最小限にくい止めることができると考えられる。
 社会的影響については、国民の健康に対する不安の除去がなされることにより、安心・安全で快適な社会の構築に貢献できると考えられる。

(5)その他
 WHO等の国際機関に係る事項などを所管する厚生労働省大臣官房国際課が、当該事業の主管課となることは、国際課が保健医療分野について、横断的に国際情報を一元管理できるからであると思われる。また、国際課は、従来の社会保障国際協力推進研究事業で研究を行ってきた大学や研究所等との協力により、今後適切な産学官の事業を推進する体制につなげることができると期待できる。
 関係する省庁については、厚生労働省大臣官房国際課と外務省国際社会協力部専門機関行政室は、WHO等の国際機関に係る業務で連携があり、外務省からは主にWHO等に関わる在外公館等からの情報が厚生労働省に提供され、厚生労働省からは保健医療分野におけるWHOをはじめとした国際機関への意見等を外務省に提供している。厚生労働省大臣官房国際課は保健医療分野において、WHO等の国際機関に関する政策・戦略、作業計画、予算事業の対処方針(案)作成等を担当しており、外務省国際社会協力部専門機関行政室は国連のWHOをはじめとした専門機関などに関する外交政策を担当している。
 厚生労働省内においては、大臣官房厚生科学課、健康局結核感染症課、医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室が関係課であり、国際課がWHOなどから得た海外の感染症発生等の情報を関係課に提供し、省内関係課と連携をとっている。
 なお、省内関係課の分担は次のとおりである。
 ・ 大臣官房厚生科学課は国内の健康危機管理への対処を担当。
 ・ 健康局結核感染症課は国内の結核その他の感染症(エイズを除く)の発生及び蔓延防止や港及び飛行場における検疫に関することを担当。
 ・ 医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室は船舶又は航空機等の衛生検査、検疫所に関することを担当。

C.総合評価
 BSE、エボラ出血熱及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)や、バイオテロの勃発などに対して、国民の健康被害を最小限にすることは、厚生労働省が早急に取り組み、推進していかなければならない事業である。
 当該事業は、情報基盤整備と健康危機管理人材養成を2つを柱にし、目標に到達するために厳しい予算状況の中で効果的・効率的に成果が得られるよう工夫していることは、評価できる。
 なお、厚生労働省内の大臣官房厚生科学課及び健康局結核感染症課並びに医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室と関連する事業であるため、省内での連携が重要であると考えられる。
 また、国民の健康に直接関わる緊急性を要する分野であることから、研究成果をいかに迅速に厚生労働省の施策へ反映させ、実行していくかが重要であると考えられる。


(2)厚生労働科学特別研究経費

事務事業名厚生労働科学特別研究経費
担当部局・課主管課大臣官房厚生科学課

A.研究事業概要
(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2研究を支援する体制を整備すること
I厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要(継続)
 厚生労働科学の新たな進展に資することを目的とする独創的な研究及び社会的要請の強い諸問題に対する先駆的な研究について、指定型で実施する。新たな感染症の発生に対する緊急研究などがあげられる。成果としては、サーベイランス用電子情報システムの構築に関する基礎資料や、院内感染対策マニュアルや治療指針の作成、検査・治療方法の有用性の検討結果などが想定できる。

予算額(単位:百万円)
H13 H14 H15 H16 H17
352(研究費) 382(研究費) 387(研究費) 352(研究費) (未確定)

(3)趣旨
 社会的要請の強い諸課題に関する必須もしくは先駆的な研究を支援して、当該課題を解決するための新たな科学的基盤を得ることを目的としている。厚生労働科学研究においては、新たな感染症の発生など、極めて緊急性が高く、社会的な要請の強い諸問題について研究を行う必要がある。各事業ごとの公募型の研究課題になじみにくく、社会的要請の高い研究課題について、研究を実施する必要がある場合がある。

B.評価結果
(1)必要性
 緊急性ある行政課題に対して科学的かつ迅速に対応することを目的として実施される重要な研究を支援するために、極めて必要性が高い。たとえば重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生したために、その対策に資する研究が実施された。また平成15年8月6日の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会伝達性海綿状脳症対策部会での審議結果を受けてBSE発生国の牛せき柱を食品の原料としての使用の可否に関する研究が実施された。

(2)有効性
 研究事業の特性上、研究期間は1年以内であるが、きわめて必要性の高い研究課題に対して、有効な成果が輩出されており、事業の目的に対する達成度が高い。本研究事業について、「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」を踏まえ、本研究事業に関する評価指針を策定し、専門家等により、適切に評価(事前評価・中間・事後評価)を実施している。

(3)計画性
 本研究事業は、緊急性が高い研究課題に対する研究経費であることから、具体的な目標を明示しつつ、推進体制の適切性、関係課との分担・連携、実施方法の妥当性等を、検討しながら採択しており、緊急性の高い研究経費ながら計画性を担保している。

(4)効率性
 たとえば、BSE発生国の牛せき柱を食品の原料としての使用の可否に関する研究については、その成果は平成15年11月14日に開催された部会の基礎資料として活用され、新たな牛海綿状脳症(BSE)特定危険部位に指定された背根神経節について、本成果に基づいた試案が決議されている。また、重症急性呼吸器症候群(SARS)対策に関する研究によって院内感染対策ガイドラインを作成が作成されるなど、社会的な混乱の解消に貢献した。

(5)その他
 特になし

C.総合評価
 厚生労働科学特別研究は、緊急性の高い課題について、極めて効果的に事業が実施されており、必要性も高い。新規に出てくる健康危機管理の緊急課題については、これまで通り迅速に対応する。健康機器管理担当職員の資質向上や保健医療・厚生科学研究事業の効率化等、常時実施する必要がある研究についても、着実に成果が出ており、継続の必要性が高い。
 今後とも、一層の予算確保に努めると共に、健康危機管理に関する継続的な情報収集等も含めた行政的に重要な研究を、適切に実施する体制とすることが望ましい。


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