II 通勤災害保護制度の概要等
1 | 通勤災害保護制度の発足の経緯 |
2 | 通勤災害保護制度の内容 |
3 | 通勤災害の場合の給付基礎日額 |
III 問題意識
1 | 二重就職者の事業場間の移動について |
2 | 単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動について |
3 | 二重就職者に係る給付基礎日額について |
1 | 二重就職者について |
2 | 単身赴任者について |
V 見直しの方向性
1 | 二重就職者の事業場間の移動について |
2 | 単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動について |
3 | 二重就職者に係る給付基礎日額等について |
VI 引き続き検討すべき課題
1 | 近年、ワークシェアリングの推進、企業における副業解禁の動き、短時間労働者の増加及びその均衡処遇のための取組みや就業意識の変化等により、就業形態の多様化が進展する中、二重就職者の数が増加しているものと考えられる。 また、子供の教育への配慮や持家の取得の増加、経営環境の変化に応じた企業の事業展開等により、単身赴任者の数も増加しているものと考えられる。 〔二重就職者(本業が雇用者であり、かつ、副業が雇用者である者)の数〕 昭和62年 55万人 → 平成14年 81万5千人 〔単身赴任者(男性のみ)の数〕 昭和62年 41万9千人 → 平成14年 71万5千人 (参考1) |
2 | このような変化を踏まえ、労災保険制度がどう対応すべきかという課題について、特に通勤災害保護制度の在り方を中心に、平成14年2月以降本研究会において9回にわたり検討を行ってきたところであるが、検討事項のうち二重就職者及び単身赴任者に関する部分については一定の結論を得るに至ったので、ここにとりまとめを行うこととする。 なお、検討事項のうち結論を得るに至らなかった事項については引き続き検討を行うものとする。 |
1 | 通勤災害保護制度の発足の経緯
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2 | 通勤災害保護制度の内容
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3 | 通勤災害の場合の給付基礎日額 通勤災害に係る労災保険の給付の中には、休業給付、障害年金、遺族年金等被災前の労働者の賃金をもとに給付額が定まるものがある。 このような給付について保険給付の額の基礎となる給付基礎日額は、原則として労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とされている。ただし、平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額とされている。この場合の「適当でないと認められるとき」とは、保険給付の趣旨、内容等からいって、平均賃金をそのまま給付基礎日額として用いることが適当ではない場合をいうこととされている。 |
1 | 二重就職者の事業場間の移動について ワークシェアリングの推進、企業における副業解禁の動き、短時間労働者の増加及びその均衡処遇のための取組みや就業意識の変化等により、就業形態の多様化が進展している中で二重就職者が増加しており、また、今後も増加することが見込まれる。 二重就職者の場合、ある事業場の業務が終了した後、別の事業場の業務を行うため、事業場間の移動を行わなければならない場合があり、このような場合は二重就職者の増加に伴い増加するものと考えられる。 しかしながら、現在の通勤災害保護制度の保護の対象とされる通勤は前述のように住居と就業場所の往復に限られているため、事業場間の移動は保護されないこととなるが(参考2)、そのような取扱いを続けていくことが適当であるのかという点について検討が必要である。 | ||||
2 | 単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動について 単身赴任者についても増加傾向にあるが、単身赴任者については月に数回程度、家族のいる帰省先住居に戻ることが多いものと考えられる。 このような場合、就業の場所から直接帰省先住居に移動を行う場合においては、当該往復行為に反復・継続性が認められるときは、帰省先住居も労働者災害補償保険法第7条第2項の「住居」に該当するものと解されており、通勤災害保護制度の保護を受けることとされている。一方、就業の場所から一旦赴任先住居に戻ったのち、帰省先住居に移動する場合は、1と同様に現在の通勤災害保護制度の保護の対象とされる通勤に含まれないため、保護されないこととなる(参考2)。 赴任先住居と帰省先住居の間の移動に関し、就労日の前日に帰省先住居から赴任先住居(宿舎)に移動する間に被災した事案について、
したがって、単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動について、このような取扱いを続けていくことが適当であるのかという点について検討が必要である。 | ||||
3 | 二重就職者に係る給付基礎日額について 労災保険は労働基準法上の災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うものとして発足したものであり、保険給付の基礎となる給付基礎日額は、原則として、労働基準法の平均賃金により算定されている。 このため、2つの事業場で働き賃金を受け取っている二重就職者が業務災害にあった場合には、業務災害の発生した事業場から支払われていた賃金をもとに平均賃金が算定され、それが保険給付の額の基礎となる給付基礎日額となる。通勤災害についても、現在保護されるものは住居と就業の場所の往復に限定されるので、給付基礎日額は業務災害の場合と同様である。 一方、労災保険制度は、労働者が被災したことにより喪失した稼得能力を填補することを目的としており、このような目的からは、労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることができるものであることが求められる。 したがって、二重就職者についての給付基礎日額をいかに定めるかという点についての検討が必要である。 |
1 | 二重就職者について(参考4)
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2 | 単身赴任者について(参考5)
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1 | 二重就職者の事業場間の移動について
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2 | 単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動について
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3 | 二重就職者に係る給付基礎日額等について
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労働者の働き方の多様化、各種労働時間制度の導入、能力開発等のために働きながら教育機関へ通学する労働者の増加、ボランティア活動等社会的に有益であると考えられる活動に参加する者の増加等の中で、一日における労働者の活動範囲が拡大していると考えられる。
また、社会の変化に伴い、労働者の生活スタイル自体も通勤災害保護制度の創設当時とは大きく変化しているものと考えられる。
このような中で、逸脱・中断の特例的取扱いに係る考え方や具体的範囲についての取扱いが現在でも妥当なものであるかが問題となる。
仮に、これらを変更することが必要な場合の対応としては、
(1) | 逸脱・中断から元の経路に復して以降は逸脱・中断の事由を問わず通勤として保護する |
(2) | 特例的取扱いの対象を日常生活上必要な行為以外にも広げる |
(3) | 日常生活上必要な行為として省令に追加して定める |
保険給付の種類 | 支給事由 | 保険給付の内容 | 特別支給金の内容 | |||||
療養給付 | 通勤災害による傷病により療養するとき(労災病院や労災指定医療機関等で療養を受けるとき)。 | 必要な療養の給付 | ||||||
通勤災害による傷病により療養するとき(労災病院や労災指定医療機関等以外で療養を受けるとき)。 | 必要な療養費の全額 | |||||||
休業給付 | 通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき。 | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額 | |||||
障害 給付 |
障害年金 | 通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき。 | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金 | (障害特別支給金) 障害の程度に応じ、342万円から159万円までの一時金 (障害特別年金) 障害の程度に応じ、算定基礎日額の313日分から131日分の年金 |
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障害一時金 | 通勤災害による傷病が治った後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき。 | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金 | (障害特別支給金) 障害の程度に応じ、65万円から8万円までの一時金 (障害特別一時金) 障害の程度に応じ、算定基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
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遺族給付 | 遺族年金 | 通勤災害により死亡したとき。 | 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金 | (遺族特別支給金) 遺族の数にかかわらず、一律300万円 (遺族特別年金) 遺族の数に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の年金 |
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遺族一時金 |
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給付基礎日額の1000日分の一時金(ただし(2)の場合は、すでに支給した年金の合計を差し引いた額) | (遺族特別支給金) 遺族の数にかかわらず、一律300万円 (遺族特別一時金) 算定基礎日額の1000日分の一時金(ただし(2)の場合は、すでに支給した特別年金の合計額を差し引いた額) |
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葬祭給付 | 通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき。 | 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分) | ||||||
傷病年金 | 通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日又は同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき
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障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金 | (傷病特別支給金) 障害の程度により114万円から100万円までの一時金 (傷病特別年金) 障害の程度により算定基礎日額の313日分から245日分の年金 |
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介護給付 | 障害年金又は傷病年金受給者のうち第1級の者又は第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)であって、現に介護を受けているとき | 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、104,970円を上限とする)。 ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した額が56,950円を下回る場合は56,950円。 随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、52,490円を上限とする)。 ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した額が28,480円を下回る場合は28,480円。 |
注1) | 表中の金額等は平成16年4月1日現在。 |
注2) | 給付基礎日額とは、原則として被災前直前3カ月間の賃金総額をその期間の暦日数で除した額(最低保障額4,180円 平成15年8月1日より)である。 |
注3) | 算定基礎日額とは、ボーナス等特別給与の一定額を365で除した額である。 |
○ | 二重就職者数(本業が雇用者であり、かつ、副業が雇用者である者の数)
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○ | 単身赴任者数(雇用者で、単身、かつ、有配偶である者の数)
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※1 | 単位:千人 |
※2 | 資料出所:総務省統計局「就業構造基本調査」 |
1 二重就職者の場合
┌ | └ |
現行の通勤災害保護制度の対象・・・(1)、(3)、(4)、(5) 現行の通勤災害保護制度の対象外・・・(2)、(6) |
1 | 判決年月日等 平成12年11月10日 秋田地方裁判所(国敗訴) | ||||||
2 | 事案の概要 平成5年3月13日、秋田県男鹿市内において、自宅に家族を残し建設工事に従事する鳶職人3名が、休日を利用して会社所有のワゴン車で自宅に帰り、就労日の前日に自宅から赴任先宿舎へ戻る途中、橋梁から車が転落し、全員死亡したもの。 | ||||||
3 | 裁判のポイント 就労日の前日に自宅から赴任先宿舎に移動する行為を通勤災害と捉え得るか否か。 | ||||||
4 | 判決の概要
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氏名 | 役職等 |
加藤 智章 | 新潟大学法学部教授 |
島田 陽一 | 早稲田大学法学部教授 |
土田 道夫 | 同志社大学法学部教授 |
西村 健一郎 | 京都大学大学院法学研究科教授 |
保原 喜志夫 | 天使大学教授 |
水町 勇一郎 | 東京大学社会科学研究所助教授 |
山川 隆一 | 慶応義塾大学大学院法務研究科教授 |