04/06/21 「第9回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会」議事録          第9回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会                        日時 平成16年6月21日(月)                           13:30〜                        場所 厚生労働省共用第7会議室 ○事務局  傍聴の皆様にお知らせいたします。傍聴に当たりましては、すでにお配りしている注 意事項をお守りくださるようお願いいたします。 ○堺部会長  これから「第9回ヒューマンエラー部会」を開催いたします。委員の皆様、お忙しい ところ誠にありがとうございます。本日は14名の委員の方々のご出席で始めさせていた だきます。本日の議事は、「内視鏡手術に係る医療安全の取組」ということで、福岡大 学の白日先生に参考人としておいでいただいております。  まず、資料の確認を事務局からお願いします。 ○事務局  資料の確認をさせていただきます。1枚紙の「第9回ヒューマンエラー部会議事次第 」「出席者名簿」「委員の座席表」です。資料として、資料1「プレゼンテーション概 要」、それから、本日、白日先生からご提出いただいた、パワーポイントのハンドアウ ト、「プレゼンテーション概要」、資料2「内視鏡手術に係る医療安全に関する国の主 な施策」、参考資料として「医療事故に関して報告を求める項目の詳細案等に係る御意 見の募集について」、以上が本日の資料です。欠落等ございましたら、お知らせいただ きたいと思います。 ○堺部会長  ありがとうございました。内視鏡手術は最近、長足の進歩を遂げられまして、患者さ んへの侵襲が少ない、非常に望ましい高度なものです。反面、高度な手技が要求される ことから、器具の面でも、あるいは技術の面でも、あるいは病院の体制の面でもさまざ まな工夫が求められていることはご存じのとおりです。  本日は、日本内視鏡外科学会で、この方面をご担当の理事でいらっしゃる福岡大学の 白日先生においでいただき、これから、学会における取組みについてお話を伺います。 その後、質疑をさせていただきますが、今日は少し時間に余裕をとらせていただいてい ます。前回は時間がややタイトでしたので、委員の先生方に日頃お考えのことを十分お 伺いする時間がございませんでした。そこで今日は白日先生のご質疑は当然ですが、い わゆる「ヒューマンエラー」と申しますか、医療安全に関する人とかシステムにかかわ る部分について、委員の先生方からおっしゃっていただきまして、今後の検討に資した いと思っておりますので、よろしくお願いします。  それでは白日先生、よろしくお願いします。 ○白日参考人  福岡大学病院の白日と申します。内視鏡外科学会の倫理委員会というのがございます が、私はその責任者ということで、本日お招きにあずかりました。専門領域は外科の中 でも胸部、特に呼吸器外科です。私の教室は腹部外科も一緒にやっておりますので、常 日頃、内視鏡手術に関しては、日常的に接触する日を過ごしています。パワーボイント でお話いたします。 (パワーポイント開始)  今日病院が取り組むべき安全管理(risk managment)は、極めて多岐にわたります。 中でも手術における安全対策は、患者の生死に直結する場での問題であることから、万 全の体制をもって取り組む必要があります。外科を中心とする各分野、いろいろござい ますが、手術適応、手術方法、周術期管理等のあらゆる面において、いろいろな安全管 理対策が講じられてきております。現在、その努力も展開されていますが、今回、内視 鏡外科に関して安全面への取組みの現況と問題点を私なりに整理してみました。  データとして、内視鏡外科学会が過去に取りましたデータをお示しします。それと同 時に、私見といったものが入ってきますので、その点をご配慮ください。医事関係訴訟 ということで、これが大きな悩みです。ここにお招きにあずかりましたのも、できる限 りこういうものを少なくするための努力のためだろうと思います。  私は福岡大学病院で院長職もやっていますが、福岡の地裁のほうから相談にあずかる のに、非常にこの面で面倒なことが増えているということで、専門委員制度等でいろい ろと相談を受けることがございます。これは外科系の訴訟関係が非常に増えてきたとい うこと。それから、最近のマスコミ報道でも、手術に直接かかわるいろいろな内容がク ローズアップされてくるようになった事も影響しているかと思います。  中でもいま部会長が申されたように、先進的な治療手段である内視鏡外科に関して、 この2、3年由々しい問題が生じたことはご承知のとおりです。  ここにあるデータは、1990年以降、内視鏡外科がポピュラーになってきました11年間 の統計です。この間に、37万6,000件の内視鏡外科手術が行われました。年度ごとに増 えており、最終統計年度の2001年には約6万例やられております。内視鏡外科というの は外科の多岐にわたり、主なものが腹部外科、その他に呼吸器外科、乳腺甲状腺、心臓 血管、婦人科、泌尿器、整形、小児、形成とあらゆる領域にわたり内視鏡外科がいま盛 んに行われています。どういう点が問題点として安全性にかかってくるか。まず、「周 術期管理」という言葉がございます。周術期というのは、手術の前後という意味で、こ こでも安全面への配慮が十分になされなければなりません。特に術前検査が適正である かどうか。手術適応がちゃんと内視鏡外科手術に則ったものであるかどうか。インフォ ームド・コンセントが十分にされた上で実施されているか。また手術がうまくいきまし ても、術後に患者、家族への説明が十分であったかどうか。手術記録が正確であったか どうか。さらに周術期ケア、感染への対策が十分であったかどうか。こういう点が周術 期で大きく問題視されます。  本日、特に強調してお話ししたいのは、術中の安全管理についてはいろいろな問題点 があるという事であります。まず、マンパワーというところで、高度医療への十分な配 慮がなされているかどうか。特に医師、手術場の看護師、コメディカル、そういう支援 体制でこういう技術の安全性が十分に保障されているか。2番目は、術者の技術的完成 度がどのようなものか。この点が非常に大きな問題です。  内視鏡外科手術というのは、過去10年に遡る時点から急速に発達してきました。それ 以前は昔からのオーソドックスな手術で、例えばお腹の手術であればお腹を十分に開い てやるわけです。それから、胸部外科であれば、肋骨と肋骨の間を開胸器で開いて、大 きな視野のもとでやるというのが原則でしたが、その視点が変わりまして、術者は直接 お腹や胸を覗くのではなく、ビデオを見ながらこの手術をするということで、非常にニ ュアンスが変わった技術になります。そういうものに十分な完成度が得られているかど うかという点が大切な事です。  3番目は非常に重要であり、これから内視鏡外科が発達するにしても、初心者の教育 体制がきちんととられているかどうか。2番と3番が、学会としても頭の痛い、基本的 に重点的に一生懸命対策を施しているところです。手術室の環境がちゃんととられてい るかどうか。これは他の手術に関しても言えることです。5番目の事故発生の時への対 応が迅速に展開されるかどうか。当然のことですが、大きく開いてやる手術であれば、 何か突発事故が起きた時はすぐ対応しやすいのですが、内視鏡手術はビデオを見ながら やる手術で、例えば緊急に出血したとか、何か緊急体制が生じた場合、すぐにその対応 がしにくい状況での手術です。ですから、何か起こったときに、すぐに対応ができるか どうかが非常に重要な問題です。  映像撮影ということで、映像が中心になる手術ですが、これが正しい形でやられてい るかどうか。最後の医療器具の安全性は業者の問題であり、新しく開発された器具の安 全性が確認されているかどうか。こういった点が挙げられます。  問題点はその他にもございます。経営的な面から考えますと、利潤追求といった面 で、内視鏡外科はある程度宣伝をして、この面で患者さんに来てもらうという1つの看 板として掲げやすい領域ですから、安全性が十分にそれに追いついているかどうかが大 切なところです。こういう高度先進医療を先端的に頑張っている病院、大学病院といっ た所は、先進医療を展開するように要求がございますので、どうしてもかなり高度なテ クニックに次々拡大していく、という雰囲気があります。  外科医、看護師は手術の際に過重労働はないかというのは別の面での問題です。医療 訴訟では内視鏡外科手術というのが、先進的な医療であるからだと思いますが、非常に クローズアップされてきているように思います。特に他の外科的な手術手技よりも、こ れで問題が起きた場合、大きく取り上げられている印象があります。  これは年度別に腹部外科領域には、「胆嚢摘出手術」と書いてありますが、これは胆 嚢摘出手術のデータではありません。内視鏡外科手術全体のアンケートで、このような 形で急上昇し、こういう手術が実施されてきたことを示すグラフです。  内視鏡外科手術における手術に直接かかわる死亡が一体どれぐらいあるか、というこ とは先生方の大きな関心事だと思いますが、これに関して正確なデータは取られており ません。これは過去、学会として集計したデータの中で推定される内容、積極的に申告 された内容といったものを加えたデータですので、正確な数字とは申し上げられませ ん。ただ、キャッチされているデータでは手術に直接かかわる死亡が44例ということ で、これを11年間の全症例37万例で割ると、1万人に1人の死亡ということになりま す。これは手術に直接かかわる死亡ということですので、それ以外の患者のベース、い ろいろな他疾患等のために、亡くなられる症例は省かれます。手術操作に起因する偶発 症・合併症といろいろありますが、それに対してどういうトレーニングが必要か。例え ば胆嚢摘出という非常にポピュラーな内視鏡外科手術ですが、起こり得る合併症・偶発 症としては、胆管損傷とか、出血、腸や肝臓を傷つける他臓器損傷というのがありま す。いずれにしても、学会としては、いきなり全ての手術が可能だとは絶対に考えてい ませんので、学会としてそれなりの指導を行っています。  「JSESのガイドライン」が右にありますが、JSESは日本内視鏡外科学会の略です。ガ イドラインとして、助手として10例以上の経験を積んでいる。従来の手術で同様の手術 ができる。学会認定の研究・講習会を受講している。こういうことが基本的に最低の条 件としてクリアーしてから、胆嚢摘出のような手術に当たるべきという指導をしていま す。  内視鏡外科手術がなぜ求められるか。内視鏡外科手術とはどういう特性、特徴を持っ ているかそれをご説明します。基本的には侵襲を少なくする手術として一般的に捉えら れます。具体的には手術創が非常に小さいということで、コスメティックな点で患者さ んのメリットもございます。ただ、操作が制限されること、モニター画面であること、 視野が間接的な視野になるということ。すなわち、手術野をのぞき込んでの手術ではな く、モニターを見ながらの手術ということで、技量が問われ、しかも慣れが必要という 手術であります。そうなりますと、ある一定のより熟練した医師にこういう手術が集中 していく事から、慣れている医師はさらに慣れていくわけです。初めての医師はこうい う手術はできませんので、中間段階というか、そこまで十分に到達していないかもしれ ないそういう第一線の先生方が、技術が不十分な形で、こういう手術に取りかかってい く可能性があるということになります。  学会としての取組みを具体的に掲げさせていただきました。まず、技術が保障されな ければいけないということで、日本内視鏡外科学会は、技術面での認定・保障を制度と して作りました。今年度からその取組みに入っております。あとでご説明します。  「初心者教育のあり方」については、各地において訓練センターが設立されていま す。大学レベルでは確か阪大、慶応などにこういう独自のセンターができているように 聞いています。それから、「手術数、教育モデルの施策」もあとで説明します。「関連 各科の連携」ということで、日本内視鏡外科学会は、消化器外科、呼吸器外科、泌尿 器、産婦人科等を含む横断・統合的性格を持った学会であり、先ほど述べた技術認定に 関し、連携をとった行動を行っています。  次に「安全教育面での具体的な対策」です。日本内視鏡外科学会を構成する泌尿器、 呼吸器外科、産婦人科関係の学会が独自にありますが、いずれの学会においても、安全 管理委員会、事故防止対策委員会、倫理委員会といったものを作りまして、安全管理、 事故予防等に関して、具体的な対策をとる状況です。  「リピーターへの教育」については、外科の習得というのは、技術的に早い段階でそ れをマスターできる人と、なかなかそれが難しい人もいます。ただ、失敗をくり返す人 達もその面で一人前になりたいという意識を持っている限り、学会、あるいは各医局も それに関して、それらの希望をかなえるための十分な教育体制を整えなければいけない ということで、リピーターへの教育がいまどうすべきかということが考えられていま す。  直接、手術手技にかかわるようなセミナー、あるいは実技講習会が各地で開催されて おり、この面での取組みは熱心に行われています。「専門医制度資格における検討」と いうことで、現在、外科系の各科では、専門医制度が立案されまして、その制度が運用 される状況になっています。例えば、内視鏡外科の技術認定用としてその資格を取るた めには、外科学会の専門医を取った上で、内視鏡外科の技術認定を受ける必要があると いう条件が課せられています。同じことになりますが、例えば内視鏡外科学会の技術認 定として合格するためには、各領域において具体的な症例数のマスターが規定されてい ます。例えば、消化器の内視鏡外科の技術認定の資格を得るためには、先ほどから申し 上げているような腹兼胆嚢摘出を最低50例クリアして、審査に通らなければいけないと いう条件が課せられています。  その他に「国民へのアピール、説明等」については、各地で市民講座などが開かれま して、マスコミを通して正確な理解の努力が行われている状況です。  「技術認定」というのはどのような制度かと申しますと、要するに安全にこの手術が 完遂できる資格を認定するという制度です。これは過去数年にわたり、内視鏡外科学会 でディスカッションされまして、この文面に書いてあるように、「本学会は、2003年12 月3日に開催されました理事会・評議員会の議決に基づき、本制度を発足させ、認定申 請の募集を行うこととなりました」ということで、今年度からそういう制度が動くこと になっております。  具体的にどういう審査があるかと言いますと、ビデオ審査という形で、本人が確実に そのビデオの術者であるということを証明するビデオ、すべて出発から終わりまで数時 間かかったらそのままのビデオを全部送って、それを審査員に見ていただいて、その技 術認定に値するかどうか決められる内容です。  私の専門は胸腔鏡という、腹腔鏡とはまた別の分野ですが、一般に内視鏡外科という のは、腹腔鏡と胸腔鏡という2つの内視鏡がメインです。私の専門分野でも、多数の手 術が年度ごとに増えています。  胸腔鏡というのは、高度なものでは直接肺や心臓の根元も扱う手術で、非常に危険性 を伴います。これをどのように習熟させていくかが課題となってきました。従来の開胸 手術と併せての一貫した手術教育が重要であるということで、いずれにしても、腹腔鏡 と同様にトレーニングシステムの構築が必要ということを長く検討してきました。  1つの方法としてシミュレーションということを具体的に展開しています。2つ方法 がありまして、1つは動物モデルです。実際に人間の手術に入る前に、まず、動物で十 分に内視鏡外科の技術を習得しなければいけません。ただ、ここは大きな問題がありま して、人間の解剖とかなり隔たりがあります。動物愛護の問題が、最近難しく、当然の ことかもしれませんが、大動物を使うことがほとんどできなくなりました。犬を使って の実験はほとんど不可能な状況です。しかも場所が制限されるということで、大動物を 使った手術手技の習得というのは大変難しい状況です。  ならば、何らかの技術を開発していくということで、考えられるのが開発モデルで す。いろいろな工学分野との協力によって、プラスチックといったものでもいいのです が、モデルを作りまして疑似体験をするということで、こういうものを実際に作って利 用しています。  これは海外のこういう問題に関する取組みです。これはKAROLINSKAにおけるスウェー デンの状況ですが、endoscopyに関しては、いずれにしても強い取組みを示しています。 “improved patient safety and error reduction”ということをうたっていますが、 やはり安全管理とエラーを減少させるということに共通の目標があります。  ここでも“prevention of human error”という言葉がありますが、とにかく人間の エラーを防ぐための努力に共通の目標が展開されています。  “Tyco training center”というのは、日本における業者が設けているシミュレーシ ョンセンターです。こういう所に行きまして、主に豚を利用して、テクニックの練習を 日本ではやっております。これはそのセンターでのトレーニングの実習風景です。た だ、日本にはこういう業者開発のトレーニングセンターというのは、2、3カ所しかあ りません。大学で独自に病院内に持つ所も1、2カ所出てきていますが、予算上からも なかなか大変な問題です。  私たちの大学病院ではシミュレーションモデルというモデルを工学関係と提携して作 りましたが、この中身は人間の内臓と全く同じような形にしています。このモデルの中 に内視鏡の器具を入れまして、モニターを見ながら手術を展開します。失敗すると真っ 赤な色素がパッと吹き出すということで、具体的な疑似体験ができるということです。 これはヒト解剖に準じたシミュレーションモデルを使いまして、練習をしている状況で す。  それ以外にも、先ほど周術的な管理もちゃんとされているかどうか取り上げました が、手術場の中での技術以外の面でもいろいろ問題がありまして、ここに挙げているの は、間歇的空気圧迫法という、これは肺の血栓・塞栓症という内視鏡外科に非常に起こ りやすい事故を予防するための1つの圧迫包帯のようなものです。欧米ではこれはルー チンに常用されていますが、日本でこういうものを使い出したのはここ数年だろうと思 います。内視鏡外科では、手術が安全に済んでも、術後に血栓症を起こして亡くなられ るケースが非常に高いので、こういうことは常識的に内視鏡外科が展開する所では使わ れる必要があります。  Tele-mentoringというか、内視鏡外科では先進的な医療、新しいシステムがいろいろ 入ってきます。例えばTele-surgeryのような、画像を主体にして、ベテラン医師が指導 する方法です。あるいはrobotics surgeryという形でさらに高度な技術が入ってきて、 そういうものがこれからも行われる状況で、それはそれなりの安全対策が講じられる必 要があります。こういうことで、技術が先進的に進みますが、それと同時に安全性が伴 う必要があり、それに対する努力がなされているということを強調させていただきたい と思います。以上です。 ○堺部会長  ありがとうございました。日本内視鏡外科学会における安全への取組みについて、白 日参考人からご説明を伺いました。いまお聞きいただいたように、内視鏡外科における 安全対策というのは、もちろん内視鏡外科そのものは当然ですが、広く外科手術、ある いは医療行為全般にいろいろな示唆を持っておられると思います。内視鏡手術が先端的 な医療技術でいらっしゃいますので、そういう問題点の所在や対策が先端的な形で現れ ていると考えまして、今日ご説明を頂戴いたしました。  それでは質疑に入りたいと思います。ただいまの白日参考人のご説明の直接の質疑は 当然ですが、その他、冒頭で申し上げたように、医療安全の推進、特にヒューマンファ クターにかかわる医療安全の推進について、委員の皆様方のお考えを頂戴したいと思い ます。白日参考人への直接の質疑でも結構ですし、あるいは、全般的なご意見でも結構 です。 ○嶋森委員  先生がお話し下さいました、パワーポイントの3頁目の問題点の中の「映像撮影の問 題点」について、具体的にどういうことか教えていただけますか。 ○白日参考人  内視鏡外科医達が問題視しているのが、昨年の12月末に「厚生労働大臣医療事故対策 緊急アピール」という形で、たぶん内視鏡外科が対象とされたと思いますが、可能な限 り映像を撮ることが望ましいという通知がございました。その際にすべての内視鏡外科 手術を映像で撮っていくことは不可能という事であります。それが正確に映されている かどうかも問題となります。手術によっては短時間で終わるものもあり、ものすごく長 時間にわたるものもありますが、それらはビデオを映像をきちんとして、それを保管す るのは大変な事です。大臣アピールの意味は、きちんとそれが全て保管されオープンな 形で、必ずあとどういう手術がされたかを証明できることが望ましいという意味だと思 います。いろいろな意味で、内視鏡外科の多くの方がストレスを感じておられるという ことで、この問題点を挙げています。 ○嶋森委員  ということは、必ずしも全部撮るということを、内視鏡外科学会で決めているわけで はなく、望ましいという感じなのですか。 ○白日参考人  1つは安全管理の面から、あとでその映像を振り返ってという勉強の意味ももちろん ございます。ただ、実際に学会で利用する映像は、例えば学問的に興味深いケース、あ るいは高度な技術を人に紹介したいもの。そういったものを中心にして、いままで映像 は撮られてきたのです。これが1つの医療手段としてルーチン化されることになると、 きちんと撮られてなければまたそこでなぜきちんと撮らなかったということで非難さ れ、これがすべて義務化されるとちょっと困るなという雰囲気を学会員として持ってお られる方が多いわけです。 ○稲田委員  私の質問は技術認定制度のことです。ビデオで評価されるのは、非常に素晴らしい制 度だと思います。お伺いしたいのは、例えば試験官になられる方は何名ぐらいで、評価 基準として客観的に何点、あるいはABCというようなものでなさって、合否基準を決 められているのか。もう1つは、こういった審査がブラインドで、要するに試験を受け られる方がどなたかわからない格好でなさっているのかお伺いします。 ○白日参考人  いま先生が申された点に関しては、非常に厳しい形での制度が考えられています。ま ず、認定の審査委員の資格は厳しく問われる必要があるということで、現在、どういう 方たちが審査として基準点に合格するか。従来ならば、例えば大学教授や学会の役員で あれば、実際にはこの手術自体にあまりタッチしていなくても、慣例としてあなたが審 査員になっていただいてということがあり得たと思うのですが、内視鏡外科学会では、 そういうことは考えない形で、まず間違いなく審査者として適切かどうか、そういう資 格に関する規則も作っています。  技術認定において基本的に大切なのは脚色しない形のビデオを出させる事でありま す。そして、良い所だけ出すということでは審査はできないという形にしています。 ○山路委員  2点教えていただきたいと思います。5頁目に、内視鏡外科手術における手術に直接 かかわる死亡のデータが出ていますが、これは死亡した人が0.0117%、1万人に1人の 死亡というデータですが、これは我々素人から見て、こういうのは実際多いのか、少な いのか。他の外科手術を見てどうなのか。国際的に見て、日本が特に多いのかどうか。  2点目は、この種の手術というか、別に外科手術一般のことなのでしょうが、いわゆ る習熟した医師にやってもらうと我々は安心するわけですし、実際、結果として事故は 少ないと思うのです。問題は、習熟していない医師がそれをやるための技術習得をどう していくのか。OJTの問題です。この問題でいちばん最近衝撃的だったのは、慈恵医 大の青戸病院の事故です。あれは3人の医師がほとんど手術経験がないのにやってい て、死亡にいたらしめたという信じがたい事故だったわけです。あれは特別なケースか もしれませんが、実際、手術がうまくなるためにはOJTをやらざるを得ない。生身の 人間を相手にして手術せざるを得ない。そのときのリスクをどう減らしていくのか、基 本的な話で恐縮ですが教えていただきたいと思います。 ○白日参考人  死亡率のことですが、記者関係の方もおられると思いますが、これは私が統計報告か ら抽出したデータで、学会として公式にこういうものだと出したデータではありませ ん。統計の資料は、一昨年、内視鏡外科学会で集計した過去11年間の手術症例の統計 でございます。これは雑誌でオープンになっていますが、その中で可能であれば手術に 直接かかわる死亡が何例かということを調べてみました。ですから、ここに書かれてい る数は44例になっていますが、こういうものから自分の症例を外している先生もおられ るかもしれません。ということになりますと、これより多い可能性は否定できないので す。少なくとも、把握できた数はこれだけということです。  今回の調査では1万人に1人の死亡ということですが、従来、外科手術で100%安全 な手術はあり得ないということが外科医の考えで、インフォームド・コンセントのとき に、こういう人だったら、これぐらいの死亡率があることを通常話していきます。内視 鏡外科にかかわらない開腹、開胸は、私の専門領域の肺がんで言いますと、開胸の手術 死亡率は、1%以下となっています。かつては3%、5%というのが常識的に論文に載 っている状況でした。しかし、この10年間は1%以下、少なくとも0.3ないし1%とい うのが説明のときの内容です。  そういうことからすると、1万人に1人の死亡というのは非常に少ない数になりま す。ただ、これは先ほどから申し上げているように、統計で拾い上げることができた内 容ですし、手術に直接かかわる死亡ということで、技術的に何らかのミスを起こして亡 くなった人間です。従来からの手術死亡というのは、そういうものも含めますが、もっ と大ざっぱに手術して1カ月以内に、何らかの他の原因も加わって死亡した人達全部を 含めて1%以下と言っていますので、ちょっと比較が難しいのです。ただ、諸外国に比 べると、外国でもこういう手術に直接かかわる死亡のはっきりしたデータはまだ出てお りませんが、一般的に日本の技術的なレベルが非常に高いというのが我々の自負です。 死亡率も、非常に低い所で推移しているのではないかという感じがします。  2点目はここで申し上げたように、やはり教育をどうしていくかということで、その 1つが技術認定で、少なくともオーソライズされた人が中心になってこれをしなければ いけないという1つの枠を作ったということです。もう1つは、各地、各医局、各病院 でやられているセミナーや、お示ししたようなシミュレーションを土台にして地道にや っていく事も行っています。 ○小泉委員  いまのご質問の続きになると思いますが、先生がお示しになった内視鏡外科学会のガ イドラインで助手として10例、それから別の所では50例とか、具体的な症例数を挙げら れましたが、どういう経緯で、そのような数字になったのかお伺いしたいと思います。  もう1つは、早くマスターする人と遅い人とあると思うのですが、最初の到達目標を 何らかの形で評価するときに、例えばシミュレーターを使った実技試験とか、学生はこ のごろOSCE(客観的臨床能力試験)ということもやっていますが、その辺りはいか がですか。 ○白日参考人  5頁の「JSESのガイドライン」というのは、例えばこれが胆嚢摘出手術の術者に なる場合の条件です。まず、助手として最低10例以上は経験して、それから手術者にな ること。もちろんその場合、指導者がいて、その指導を受けることが条件なのです。  先ほど技術認定制度の説明をしましたが、これは少なくともオープンに、この方はち ゃんとした手術ができて、その資格をオーソライズする。その資格を取るために、最低 50例以上の術者としての経験を要求するという形です。まず、術者になるための基準、 それから術者としてある程度の症例数をクリアして、それから認定を受ける基準は決ま っています。  シミュレーションということで、本来、人間の体に入る前にどうしても人間以外のも ので慣れることが必要です。我々の若いころは、すべてそれが動物だったのです。犬を 使っての実験が当たり前でしたが、それがいまはほとんど不可能になっています。豚な どを利用しての講習、あるいは実技がいろいろやられていますし、欧米でも結構あるの ですが、解剖が違いますし、それをできても、人間に入ると非常に戸惑いが多いわけで す。今後は工学技術が発達しますので、人間の生体や臓器と同じような形のものを、と にかく作ってそれで慣れていく。そういうものがこれから主体になるのではないかと思 います。 ○青木委員  私はお腹をやってきたものですから、その辺りで質問いたします。いわゆる内視鏡手 術で適応にないような症例に当たってきたときに、それが例えば開腹して、対処してい くことが必要なケースはたくさんあると思うのです。若い人たちにとって、そういうト レーニングを受けるチャンスと言いますか、そういうことについては学会ではどういう ふうにお考えになっているのですか。 ○白日参考人  先生はご専門ですからよくおわかりになられていると思いますが、内視鏡手術がマス ターされていて、しかも開腹手術ができないことは非常におかしなことです。ですか ら、内視鏡での胆摘はできても、お腹を開けて胆嚢を取れと言われたら考え込む、そん な逆な現象が起こるとこれはとんでもないことになります。  内視鏡外科学会をリードしてこられた先生方の考え方も、やはりパラレルに両方でき ないと駄目ということでした。基本的には開腹手術できちんとした解剖をマスターした 上で、内視鏡外科に入るべきでしょうが、いまは時代がそれを待ってくれない。患者さ ん自身が内視鏡でやってくれとか、胆摘であれば、なぜ内視鏡でしないのかという、そ のほうが当たり前の状況になっています。ですから、パラレルにやらないといけませ ん。ただ、実際に難しいケースにぶつかった場合、どこでそれを諦めて開腹に移るか。 それがどこかできちんと叩き込まれないと危ないわけです。そこの引き際がわからない ままに突っ込んだ場合が危険です。  先ほどお話をいただいた慈恵の泌尿器のケースもそうだということを聞いておりま す。やはりどこかですぐ開腹手術に移っていれば、ああいうことは起こらなかったと思 うのですが、それがわからないまま、あるいはそこを甘く見たか、そのまま突っ走って しまったのがあの結果になったのだと思うのです。 ○三宅委員  同じような質問になりますが、私はいわゆる車の運転と同じだという気がしているの です。やはり、ある一定のトレーニングをして、ちゃんと運転できるという、それが証 明された上で実際の手術に携われる。そういうステップがきちんと踏まれる必要がある のではないかと思うのです。従来は、その辺が曖昧な中で、すべて行われてきたのでは ないかという気がします。  ですから、専門認定制度も10例を助手したとか、そういうことではなくて、それにプ ラスきちんとしたそれこそシミュレーターのようなものが必要だと思います。私は前か らそういうことを望んでいるのですが、バーチャルリアリティーがものすごく発達して きていますので、そういう技術を使えばかなりできるのではないかという気がしている のです。そういうことで、実際きちんとできるということが証明された上で、実際の手 術が許される、という仕組みは必要ではないかという気がしているのです。 ○白日参考人  先生のおっしゃるとおりです。工学関係と提携すれば、もっとリアルにいろいろなも のを習得できると思います。それはやはり急がれるべきだと思います。医療分野だけで そういうものを考えていたものですから、早くその連携があれば、テクニックが発達し た日本では可能だと思います。私たちのような年を取った連中がこの技術に取り組む以 上に、若い人たちのほうがもっと上手なのは間違いありません。彼らはやはり映像で育 ってきた連中ですから、モニターを見ながらのテクニックは早くマスターします。です から、急がれるのは、そういうシミュレーションで良いものを作り上げて、それを訓練 の中に加える事だと思います。ただ、先ほどから申し上げている技術認定も強制ではあ りません。こういう技術認定をこの先生は持っておられると、そういう資格としてオー ソライズするものですから、法的にこれを受けていないとこの手術はできない、という 縛りは我々としては作れないわけです。ある意味でドクターの倫理観も同時に強く訴え なければいけないことになります。 ○三宅委員  そのビデオの撮影のことですが、厚生労働省からああいう示唆があって、私どもの病 院でも2、3回検討したのですが、ドクターにはかなり抵抗があるのです。手術をして いる手術野を撮るのか、あるいは手術室全体の人の動きというか、そういうものを撮る のか、そういう意見もあるのです。それから私は飛行機のボイスレコーダーのように、 とにかく一時記録をしておいて数日間、あるいは1週間ぐらいでそれは消していっても いいという話をしたのですが、やはりドクターサイドにはかなり抵抗があります。それ をどうクリアするかということなのでしょうが。 ○白日参考人  いまマスコミでビデオの提示を病院の特徴として宣伝される病院もあったり、手術内 容の全てをオープンにどんどん見せるという形の所もあるようです。しかし、問題があ るというか、すべての病院がこれに取り組むことは簡単にはできないと思います。また 術者は手術に集中したいが、常に映像がきちんと撮られているかどうか気になると手術 に集中できない。その面でモニター類のチェックもあったりして、いまのマンパワーで はなかなか簡単にはいかないように思います。  したがって、これが訴訟の1つの証拠品のような形で強制されるのは、絶対に本来の 目的とは違うということで内視鏡外科医の反感が強い状況です。 ○稲田委員  私はトレーニングに関してのビテオの話に集中してしまうのですが、ビデオを撮られ て、認定でたとえ不合格の方にフィードバックをするとか、合格の方ももちろん100点 というわけにはいかないでしょうから、そこにフィードバックする努力をしておられる のか。それから学会全体で不合格になった方のビデオを共覧して、そこで教育するよう なフィードバックがあるのかお伺いします。 ○白日参考人  そのフィードバックの点に関しては、はっきりしたお答えは申し上げられません。た だ、偶発症、あるいは死亡に至るような事故については、担当したドクターとしてはな かなかオープンにしたくないという気持ちがあると思います。しかしそれをある程度見 せていただいて、こういう事をしたからこういう事が起こったのだというような点を、 我々が率直に勉強し合わないと、また同じことを別の人がやるということになります。 その病院とか、担当ドクターの名前は出さない形でそういうビデオを集めて、1つのピ ットフォール集のようなものを学会で作って、市販することもいたしました。  先生が質問された内容でお答えしませんでしたが、例えば技術認定の審査の場合は細 かい点に関しても審査されると思います。要するに器具のいろいろな使い方とか、内部 の監察の仕方とか、そういう面が漠然した形ではなくて具体的にも審査されます。 ○堺部会長  私からも2つお尋ねします。内容が少し違いますので1つずつ伺いますが、いずれも シミュレーターに関することです。  1つは、シミュレーターというのは確かにこれからの1つの方向だと思います。これ を使いますと術者の技量向上ということは当然ですが、診療の全体、つまり医師だけで はなく、それにかかわるすべての職種の人々、あるいは機器、物流、病院としてのシス テムの安全性をシミュレートする、という役にも立つかなと思うのです。いまスライド を拝見して、例えば先生のご施設ではシミュレーターを備えていらっしゃるようです が、そういう目的にもこれからはお使いになるのでしょうか。 ○白日参考人  実はいまそこまで思い至っておりません。いまそういうサジェスチョンを受けたよう な感じがいたします。基本的にある部門でのシミュレーターが入ってきた場合、それを 中心にしてまた他のシステムのシミュレーションを連動させることは可能ですし、必要 だと思います。 ○堺部会長  一部の方々のご質問には若干関係しますが、誠に個人的なことで恐縮ですが、私の専 門は腎臓病と糖尿病で心臓とは全く関係ないのですが、アメリカ心臓学会が心肺蘇生の グローバルスタンダードを作りまして、これが認定試験をやっているのです。私は一内 科医としてこれはマスターしたいと思って、先日それを受講して、何とか通していただ いたのですが、あれを見て非常に感心したのは、やはりシミュレーター、人形を使うの ですが、いろんな状況があって、やっていると途中で状況がコロコロ変わるのです。そ れにちゃんと対応できないと、試験を通してくれないのです。  おそらく、いま日本内視鏡外科学会のシミュレーターも拝見していて、先ほどの三宅 委員のご意見にも関連しますが、おそらくこれからは、せっかくのシミュレーターであ れば、そのシナリオがいろいろ途中で変えられるようになっていて、それに対応できる かどうかというところまで進化していただければと思って、これは質問というより要望 なのですが。 ○白日参考人  おっしゃるとおりだと思います。テクノロジーがこれくらい発達したら、日本ではそ れも可能なのではないかと思いますが、やはり医療というのが、病院内だけでは済まな くなったということで、少なくとも、こういうものをつくってほしいということを、オ ープンにいろんな分野に働きかける必要があるわけですね。 ○稲田委員  これは質問ではないのですが、シミュレーターに関して、麻酔科領域、ほかの領域で もあるのですが、部分的なトレーニング用のシミュレーターもあり、コンピューターの ものもあり、それからホールボディのもの、全体のシミュレーターもあって、実際全国 のかなりの施設で、いまそういった体全体を使うシミュレーターを使い始めています。  先ほど三宅委員からもご指摘があったのですが、そのときにすることは、1つは、そ の一つ一つの手技はきちっとできるかということのほかに、すべて終わった後で、全体 を写したビデオを見て、そしてそこでその人がとった行動が正しかったかどうかという のを、全員客観的に判断して、自分の行動をまた改善していくということ。おそらくそ ういった二重の意味で、シミュレーターというのは大変役に立つものだというふうに思 っております。 ○堺部会長  それでは、内視鏡手術、あるいはシミュレーターとは特に関係なくて結構ですので、 先ほどちょっとお願いしましたが、ヒューマンファクターに関連する医療安全の推進に ついて、ご意見を頂戴したいと思います。 ○坂本委員  内視鏡の技術の問題で、ずっといろいろお話を伺っていたのですが、例えばいろんな 施設がございますね。先生方が内視鏡的な手術をするときに。そのいろんな施設の中 で、ご自分が技術ができたとしても、例えば麻酔科医やナースとかの関係で、どうして もうまくいかないこととか。それから調整しなくてはいけないことに対しての、技術+ マネジメントといいますか、そういうようなものについての評価というものは、何かご ざいますでしょうか。 ○白日参考人  いま先生が言われた評価基準というのは、いま言われた点に関しては、まだ具体的な ものはないのではないかと思います。例えば、いま技術認定というのは、ある内視鏡外 科という特定の分野だけの技術認定ですが、医療というのは1人の患者さんを治すの に、あらゆる連携システムがあるわけで、そういうものを総合的に評価するシステムと いうのは、いままで全くないですね。  だから、分担されているというか、その中身での技術はパーフェクトかもしれないけ れども、そこから出た場合にはどうなるかという、そういうものは全くないし、ちょっ と考えたこともなかったです。 ○坂本委員  よく聞くのですが、第三者的に見ていて、例えば麻酔科のドクターが危ないと思って も、それからナースがちょっと危ないと思っても、独走してしまうことがあるというこ とで、そういうのは、専門的ではないので、それを止めることはなかなかできないので すが、やはり最後に、今日の手術はよかったのかどうかということを、第三者から意見 をもらってチェックするとか、そういうのを技術の中にも入れていただくと。ただ操作 するだけでは、なかなかミスは防げないこともございますので。 ○堺部会長  では、先ほど時計回りにと申し上げましたが、すでにご発言の委員の方々もいらっし ゃいますが、先ほどのご発言とは直接関係があることでも、ないことでも結構ですの で、青木委員、よろしくお願いいたします。 ○青木委員  いまのお話ですが、ミスというのは、やはりどういう局面においても起こるものだと 思います。特に、これだけ技術レベルが上がってくるというか、専門性が高くなるとい うか、ハイテクというか、そういう時代に至っては、これはある意味では当たり前のこ とで、ミスを未然に防ぐということも非常に大事なことだし、ミスが起こったときに、 それをリカバーするということが、もっと大事なことだと思うのです。いまのお話につ いては、私はそう思います。  それからもう1つ、先ほどちょっと申したことですが、若い先生方が内視鏡を一生懸 命やって、確かに非常に若くて上手な先生を何人か見ていますが、そういう方が、いざ 症例の適応範囲を越えたときの対応の仕方というのは、仮に自分が手術を受けようと思 うと、「怖くて」というような話になってしまうんですね。  そうすると、そのときに、何がいちばんいいかというと、やはり、普通に腹を切っ て、もしくは開胸して、対応できるドクターが、それを見ている、どういう見方をする のかわかりませんが、見ているというようなシステムをとりあえず考えていくというよ うなことが、現在のヒューマンエラー、いま求められているいちばん適切な具体的方法 論ではないかと、ちょっと安易かもしれませんがそう思います。 ○堺部会長  稲田委員、何か追加ございますか。 ○稲田委員  私は青木委員と全く同感で、とにかく私はミスをしないようにと心がけながらも、や はりしてしまって、そのときどのようにしてバックアップをするか。やはりエラーが2 つ3つ、3つ4つ重なると、本当に致死的な事故に至ることが多いので、いかにそれを 防ぐかということは、大変重要な問題だろうと思っています。  私の専門は麻酔科領域ですが、いろいろなモニターが進歩して、いろいろいい薬が出 てきて。しかしそれでもやはり、どこかでヒューマンエラーをしてしまう。私は、これ からいかにそれを少なくするかということが、本当に最後の最後に残る重大な課題だろ うと思っております。 ○堺部会長  岩田委員、法学の立場でも結構です。全般的なことでも結構ですが、よろしくお願い します。 ○岩田委員  私は、先ほど部会長からご紹介があったように、法学の専門ですので、医療の場面に ついてはほとんど素人なのですが、ここでも普段ほとんど話をしておりませんで、先ほ ど、医療訴訟の問題も出ていましたが、あまり法律家はこういう問題にかかわらないほ うがいいのではないかという思いも多少あって、普段あまり話をしていないのですが、 せっかくの機会なので、2、3点だけお話というか、コメントのような形でさせていた だきたいと思います。  先ほど先生のお話で、ガイドラインというような話とか、あとは専門医制度というよ うなお話があったのですが、これは、私が法律をしているから、こういうことになるの かもしれませんが、やはり「実効性」というのにいちばん興味があって、多分ほとんど は、こういうことはないのかもしれませんが、例えば、ガイドラインがつくられた後 に、実際にこのガイドラインを例えば守っていなくて、実施されたような事例がどのく らいあるのかを調査されたことがあったり、もしくは、それに対してどういうような対 応を先生方がされたかというようなことが何かあれば、お伺いしたいのです。これは、 私たち、特に外から見ていると、いちばんここでお話を聞いていても、私自身はすごく 勉強になっているのですが、まさにこの医療の問題とか安全の問題とかでは、外から見 ていると、専門家の先生方の相互批判みたいなものが見られるというのが、いちばん外 から見ると安心感を与えると思うのです。  ですから、実際にこういうガイドラインができたときに、どういう対応がされるか。 もしくは、事故が起こったとき、再教育の場面で、何かビデオの映像を使うということ もあれば、もっと端的に、個別の訴訟にかかわる、かかわらない、どちらでもいいと思 うのですが、これは、現在の医療水準からいうと、十分水準に達しているのかどうかと いうような、自己調査のようなものも、もし先生方の学会で行われていれば、それは外 から見ていると大変すばらしいと思うのです。そういうことがあれば、何かお伺いでき ればと思います。 ○堺部会長  白日参考人お願いします。 ○白日参考人  いわゆる資格の喪失というのは、この制度の中にもきちんと謳ってあって、少なくと も更新は5年ごとというふうに定められていて、まだこれから始まるばかりですので、 どれくらいの実効性かということは、これからのことになります。  資格の喪失ももちろんあって、技術的な面、それから倫理性、例えば嘘の申請をする とか、そういう場合には、認定は認められなくなります。それを越えたペナルティとい うのは、私はちょっといろいろ調べてみて、なかなか学会というのは、そこまで踏み込 んだものはまだ少ないんですね。非常に社会的な糾弾を受けた後に、学会員としての資 格も剥奪されるということは、最近ちょっといろんな学会で拝見していますが、さらに 厳しいペナルティというのは、なかなかないわけです。  ただ、先生が言われるように、事故を起こしたとしても、再度何らかの形でその人を また再教育するチャンスは与えなければならない。基本的に、やはりそういうものに関 して、可能な限りデータを集めて分析する。そしてそれを会員の方に知らしめるという か、そういう努力はこれからしなくてはいけないと思いますし、私もちょっといまそれ をきちんとしていこうと思います。 ○堺部会長  楠本委員、よろしくお願いします。 ○楠本委員  私も、ガイドラインの普及がどの程度なのかお聞きしたかったのと、まだこれからと いうのであれば、是非それを確認しつつ行っていただきたいということを1つお願いし たいと思います。  もう1点、内視鏡手術ですと、一般の開腹等に比べると、確かに体の侵襲等が少ない ので、国民一般、患者さんの側にもとても楽に終わって、安易に受け取る可能性が高い のではないかという気がしまして、そういうところのインフォームド・コンセント、そ れから術後の説明、そういったあたりが、先ほどのビデオ等を使ってきちんともう少し 理解を深めていく必要があるのではないかという感想をもちました。  もう1点お聞きしたいのは、私ども、日本看護協会ですが、会員の方々の中で、最近 ちょっと増えてきたなと思うのが、先生の所のように、設備が整って、またドクターも たくさんいらっしゃるような所では大丈夫なのでしょうけれども、ナースがたびたび介 助で、少し診療の補助を越えるようなことをいろいろと任されている現状がある。  そういったところで、これをトレーニングして引き受けていくべきなのか。あるい は、いま、私は不勉強でわからないのですが、そういう介助する人としての認定という ことも進んでいるようなので、そういった人たちに任せていくべきなのかというところ のご意見と。それから、ナースが特別に技術を必要とするなら、どういう教育を今後深 めていけばよいか、そういうあたりをお聞きしたいと思います。 ○堺部会長  白日参考人、お願いします。 ○白日参考人  私が知る限りということになりますが、新しい技術が導入されてきたときに、それを 補助する立場、例えば直接介助・間接介助の看護師の訓練、それも同時に行われなけれ ばいけないと思うのですが、ちょっとそこは、私が知る限り、全くどうなっているかわ からないわけです。  ですから、オーソドックスな、従来からの手術には慣れている看護師さんだけれど も、新しいものがきたときに、それへの対応がすぐにはできないでしょう。慣れるまで に時間がかかり非常に過重労働になる。そんな看護師が辞めていくと、また新しい人が 入ってきて最初からのスタートになります。  そういった意味で、現場の印象では、やはり看護師さんたちの追い着くための努力は 大変だなと思うし、そういうものをこのような形で資格を問うというようなことは、ま だ考えられていないのではないかと思うのです。  やはりそれは、新しい技術が入ってきた場合には、ドクターサイドと同様に、そうい う技術的な講習から資格のようなものを考えてゆくという、そういう状況にきているの ではないかと思います。 ○堺部会長  もし追加がありましたらお願いします。 ○小泉委員  先生のプレゼンテーションの最後に、リアルタイムにITを使ってアドバイスするよ うなシステムの図を示されたのですが、先ほどのご意見にもあったように、こういう形 で、手術チーム以外にも経験ある外科医がサポートしているということは、患者さんの 立場からも非常に安心感があると思いますので、こういうものを、マンパワーが不足し がちの施設で、安全のための工夫として取り入れられればいいと思います。  あとは、外科手術一般に言えることだと思いますが、モビディティ−モータリティ− カンファレンス(Morbidity-Mortality-Conference)ですか、偶発症とか死亡例に関す る部門としての検討をするというようなことがきちんと行われているかどうかも問題だ と思います。そういう検討会を、内視鏡学会としてもできるだけ奨励していただければ と思います。  それから、先ほど私も、何例かということにこだわって質問したのですが、10例なの か、50例なのか、内視鏡手術にかかわらず、私ももともと外科をしていたのですが、外 科というのはやはり技術集積性というのが必ずあります。ですから、これは多ければ多 いに越したことはないという議論にはつい行くと思うのですが、どれくらいの、例えば 助手としてどれくらい経験すれば、どれくらいの習熟度が得られるのかということにな ると、例えばシミュレーターなどがあると、ある程度客観的に調査できるのかなと思い ます。  そうしていくと、本当に10例がいいのか15例がいいのか。あるいは5例でもきちんと すれば、意外といいのかとか、そういうエビデンスというか、そういうようなことも学 会指導でいろいろ調査していただくと、本当にどの辺りがリーズナブルなトレーニング システムなのかということが見えてくるのではないかと思います。  そうすれば、先ほど、リピーターという話も出ましたが、やはり、なかなか上達の遅 い人とか、一度現場へ出たけれども、何となく自分の手技に自信のない人が、再教育と いうか、追加的な教育を受けられるような講習会とか、ワークショップのようなもの も、学会主導でいろいろ企画しておいていただくと、そういう所へ参加するというよう な形も出てきて、安全になろうかと思います。  最後に、いまかなり理想に近い形で今後の取組みを示されたので、非常に期待してい るのですが、これまでいろいろ世間的に話題になった事例がいくつかありますね。そう いうものは、明らかに示されたこの仕組みからいうと、アウトの症例だと思うのです が、そのあたり、実際どれくらいアウトで、いくつかの症例は、こういう取組みをして もある程度避けられないものなのかという実数を示していただくと、この新しい取組み が、いかに安全に寄与できるかを、対外的に示せるのではないかと思いました。要望に なると思いますが。もしそういうデータがあれば、教えていただければと思います。 ○白日参考人  データはございません。先ほど、泌尿器の事故の話がありましたが、内視鏡外科は、 各分野で習熟していく体制が非常に異なります。ですから、泌尿器の先生がこの場にお られましたら、そういうことをお話されるかと思いますが、例えばお腹だったら胆嚢摘 出は、初心者が非常にアプローチしやすい。例えば胸腔鏡だったら、ブラの手術。いき なり血管に触らないで済む。そういう、習熟段階としての臓器があるのですが、やはり 泌尿器の場合には、例えば腎摘から入らないと、この手術は覚えられない。  だからそういう意味で、もちろん弁護などできませんが、段階的な技術の習熟という のが非常に難しい領域もあります。  ただ、先生がおっしゃるように、いずれにしても起こった事故報告などを集積して、 エビデンスを出して、どれくらいだったら、例えばこの分野だったら、ここまでやれれ ば良いというような形で。そして、そこまでは指導者が絶対にその場にいて、それを指 導者の認定条件にするとか、そういう規則をお互いに作っていかないと、万一という場 合対応出来ないことがあり得るだろうと思います。  それからモビディティ−モータリティに関しても、やはりオープンであって、それが きちんと出せるということが評価につながるという、そういう規制もやはり必要だろう と思います。 ○堺部会長  坂本委員、もし追加がありましたらお願いいたします。 ○坂本委員  5年後の更新ということにされるということですが、私は、この評価といいますか、 先ほどの先生がおっしゃったように、うまくいったケースとうまくいかなかったケース について、ちゃんと評価を学会のほうに出すという仕組みをつくられたほうがよいかと 思います。  いま、看護協会でも、認定の5年後の更新ということで評価をすることになっている のですが、やはり現場で見ていると、大変真剣にやっています。そういう意味では、何 例して、うまくいかなかったときの対処はどうしたかというような事例を出していただ いていくと、いいのかなと思います。  もう1つは、やはり、上手な先生が全部独占してしまうということが病院の中では見 られていて、いかに後継者をつくるのかということについては、ご自分がやってしまう というケースが多いのです。  ですから、やはり数をこなさなければいけないというところに、これから後進する人 たちに対して、インセンティブを与えておかないと、病院の中では力のある者が取って しまうということがあるので、そういうところも踏まえていただければと思います。 ○嶋森委員  内視鏡の手術について、今日の先生のお話は、私も非常に勉強になりました。今日の お話は、どちらかというとヒューマンエラーを起こしにくくする内視鏡手術の標準的な 基準をつくっていらっしゃるというふうに理解してよろしいでしょうか。  そういう意味では、ヒューマンエラー部会で検討する基本的なことであると思いま す。しかし多分この基準を設定しても、ヒューマンエラーが起こることがあります。つ まり、「予期せぬ出来事」が起きたときに、どう対処するかというのが、もう1つ検討 すべき課題ではないかと思います。  先ほど先生がおっしゃったように、医師の技術の基準の設定が導入されるとともに、 看護その他の周辺の技術と要員等の整備等、一緒にこういう所で検討される必要あると 思います。つまり内視鏡手術を標準化するときに、チーム医療としての標準化をしなけ れば、ヒューマンエラーが起こりやすい状態になると考えられます。そういうところの 課題を、検討するのが、ヒューマンエラー部会の仕事だと考えます。  今日のお話は、各学会等で医療を標準化していくことが重要だというお話しだったと 思います。私は医学的な技術の標準化とともに、それを医療として提供するときの標準 化の部分に、ヒューマンエラーを防止するような手立てがもう1つ必要ではないかと認 識をしています。  特に看護は、現状に追われて、新しい技術のところに追いつくようなプログラムを作 ったりする余裕がないものですから、是非そういう視点で今後も検討していただけたら と思います。 ○白日参考人  是非お願いいたします。 ○堺部会長  それでは、土屋委員、薬剤に関することでも、あるいは全般のことでも、よろしくお 願いいたします。 ○土屋委員  ヒューマンエラー全般的なところでと思いますが、実は、私ずっとヒヤリ・ハット事 例を見てきて感じるところは、このところ、まさにIT化が進んだために起きてしまっ た事例、あるいはIT化されているので、そこで当然チェックが効くだろうと思ってい たために、チェックが効かなくて起こった事例がございます。  それから、最近学会においても、人間工学学会とか理学療法学会を見ていても、かな りいろんな、基本的なデータが出始めています。例えば人間工学学会では、アイカメラ を使って、そもそも調剤の棚を見ながらやっているのかどうか。そういうようなデータ を出し始めてきたということは、やはりそれなりに世間がヒューマンエラー等を防止し ようとすることに対して、おそらく、ああいうことはいままで、実は私どもが昔やろう としてできなかったことなのですが、医療機関の協力が得られないということがあっ て、せっかく、通常のところでは、シミュレーションをしようとか、動線を調べようと いうことで、上にビデオを設置して、定点観測みたいなことをするというような、通常 のところで行えるデータ収集というものが、医療ではなかなかできなかったということ があります。  ただ最近、少しずつそういうことができてきたというのは、すごくいいことかなと思 いますが、やはりそういう基礎データというものがなかなかない中で、対策を考えざる を得なかったというのも、いままでのことだったと思うのです。今後、是非こういうこ との、本当のヒューマンエラーを分析しようとしていくと、やはりそういう定点観測と いうか、そういうそもそもの行動がどうなっているのかとか、そういうようなことも、 きちんと押さえていかないといけないし、それから、やはり一方で情報システムそのも のの安全性というか、基本ガイドラインでもいいのですが、やはり情報システムそのも のが、かなりバリエーションが出てきて、何か言葉で、例えば電子カルテという言葉が 使われても、その幅があまりにあるので、おそらくこれは、いろんな意味で誤解を招く ということも出てくるのかなという気もしますので、そういった情報システムの問題、 あるいはそれを使う人の問題ということをして、全体的に扱うのは、やはりこのヒュー マンエラー部会かなと思います。  あと、結局、航空機と医療の場合の違いは、共通点もたくさんあって、例えばチーム 医療ということでいえば、クルリソース・マネジメントとか、そういう話が導入できる のだろうと思いますが、やはり航空機と違うのは、徹底した記録というものが、片方は すべて管理、記録ができる。しかし、片方はケース・バイ・ケースによっていろいろ違 っている、この医療と航空機業界との共通性と、その差というものをきちんと見ていか ないと、どちらかというと、航空機でやっていくと、あちらは専念をしていながら、あ るいはすべての自動化ができていながら起きるエラーの問題であり、医療というのは、 専念ができないという中で起きるエラーですので、その両者には、共通点もあるだろう けれども、かなり違うところで、そういうところを今後、ヒューマンエラー部会として 考えていかなければいけないのかなというふうに思います。 ○堺部会長  貫井委員、医学のお立場でも、あるいは全体のことでも結構ですが、よろしくお願い いたします。 ○貫井委員  今日は、新しい治療法の導入に伴う、ヒューマンエラーをどうしたらいいかというこ とだと思いますので、私は脳神経外科医で、血管内手術というのが、脳外科の領域に入 ってきました経験をもとにお話ししたいと思います。そのときに学会を中心にして、い ろいろ対策を立てたのですが、いちばん感じたのは、まず新しい治療法に関してのメリ ット、デメリット、特に、先ほども出ていましたが、メリットが非常に強調されすぎる 面があるということです。  実際に内視鏡手術は、レス・インベンシブとおっしゃいますが、トータルで見ると、 単純にレス・インベンシブであるということは言えないんですね。ですから、まず導入 に当たっては、メリット、デメリットをちゃんと、非常に精密に検討していかないとい けないと思います。特にマスコミが取り上げると、患者さんが何も知らないで、「頭開 けないから、血管内手術をしてください」ということがおこります。最初から自分で手 術の治療法を決めてこられる方がたくさんおられます。何かちょっと起こると、今度は 大変なことになります。  それから、先ほど出ました、技術審査、これにも問題があって、人間の体は全てが条 件が同じではありませんので、10例やったからそれで良いということはない。先ほどか らあるように、脳外科学会では、まず脳神経外科の専門医をとってから、とにかく一般 的な手術がちゃんとできる状態になってから、新しい技術の専門医になってくれという ことにしました。  ですから、もし血管内手術でうまくいかなければ、すぐ直達手術ができるような体制 をとるというのが基本だろうと思います。  それから、先ほどのお話で、段階的な技術の習得というのは大切だと思っておりまし て、段階的な手術の習得ができなくて、いきなり高度の内視鏡手術をするというのは、 やはりこれは無茶な話だと思います。何らかの形で、シミュレーションも当然必要です が、訓練の過程をしっかり決めないといけないのではないかと思います。新しい治療法 の場合ですと、いろんなことが起こりますが、特に治療対象の拡大ということが起こっ ています。これは、従来できなかったことができるようになるからです。これも慎重に しないと、どんどん手術適応というか、治療適応が拡大して、合併症が起こりやすくな るわけです。  やはり内視鏡手術は、いろいろ分野が分かれていて、難しいと思いますが、そういう ことを総合的に検討する必要があります。血管内手術も、当然いろいろな分野に分かれ ていますが、脳の血管に関しては、脳神経外科学会と血管内手術をする人たちが一緒に なって、総合的な検討をしてまいりました。いまお話したような視点から、例えば胸部 外科学会、腹部外科学会、あるいは泌尿器学会で別々に構築していただくというほうが 良いのではないかと思います。、新しい治療法を導入する上では、それまでの既存の知 識とか技術を基にして上に載せるという考え方をしていただかないと、いろんな問題が 起こるのではないかということを考えております。  どうしてもその上で、さらに起こるヒューマンエラーというのはあるので、そうなっ たときには、個々の学会で対応を検討して行く必要があります。唯、何か事件が起こっ た症例というのは、簡単におっしゃいますが、なかなか、エラーしたほうは出しづらい んですね。日本では、免責ということも多分ないでしょうし、どこからか漏れると、裁 判沙汰になったりということも多くあるので、そこら辺をどう救ったらいいかが問題で す。  当然脳外科の中には、血管内手術のグループがあるのですが、そこでとにかく、何ら かの形で失敗した例を持って集まり、それでみんなで検討してということをしておりま す。しかし、公の場でそれをできるような体制なり雰囲気ができるといいのですが、い まはちょっと難しい感じがします。  何かそこら辺は、厚生労働省で考えていただくとありがたいなと思います。  というのは、インシデント・レポートでも、たくさん正直に出すと、あの病院はあん なに事故が起こっているんだと、マスコミに報道されて大変迷惑した病院が現実にある のです。内容は、できるだけ全部出して、ヒヤリ・ハットまで出したのに、何だよと、 評価が逆になってしまうこともあるので、慎重に取り扱っていただくような体制をつく っていただかないと駄目なのではないかと思います。 ○白日参考人  いまの貫井先生のご示唆の中にあった、各学会の取組みですが、内視鏡学会は集合学 会ですから、基本的には消化器外科、泌尿器、婦人科、そういうところで、考えられて きた資格認定制度がディスカッションされて、学会としてまとまった内容です。  ですから、例えば泌尿器の先生で、内視鏡を専門にしておられながら、この内視鏡学 会に加わっていない先生もおられるので、その先生の場合に、例えばそういう手術をし てはいけないのかとか、不可能なのかとか、それは言えないわけです。  それで、泌尿器は泌尿器の学会で、ちゃんとした独自の認定制度もありますので、そ れがクリアされていれば、泌尿器学会としてはそれを認めていこうという、非常に単独 の学会、それから集合学会、そういうものの性格を利用しながら、とにかく皆さんに納 得していただくような形の資格認定をつくり上げているというのが、いまの状況です。 ○堺部会長  三宅委員、お願いいたします。 ○三宅委員  先ほど来ビデオの話が出ていますが、確かにいまのお話のように、ビデオについては 何かあったときに証拠にされるのではないかということで、お医者さんの抵抗が強い と、私は感じています。  ただ、私個人としては、いろんなチーム医療とか、いわゆるコミュニケーションをよ くするとか、そういった改善という視点からすれば、私は採用したいほうである。でも なかなかうまくいかないというのは、そういうネックがあるということです。  内視鏡とかそういうことに限らないで、手術というものには、先ほど坂本委員、嶋森 委員もちょっと触れたように思うのですが、結局その全体、手術なら手術、それをコー ディネートするというか、全体をマネジメントするというか、私はそういう人が必要な のではないかという気がするのです。  それは、直接手術にタッチしていない、外からモニターというか、中立的立場で見て いるような人が本当は必要なのです。いくつかの事故例にもありますが、問題があった ときは、やはりストップをかけられるような人というのが、私は必要だと思います。  それは、いろいろ反発が多いかもしれませんが、麻酔科のお医者さんがいちばんそう いう意味での立場としては、常にそこで外から見ている。あるいは患者さんを守るとい う立場でおられるのではないかなという気がしています。  麻酔科の先生がそういう立場で、全体のマネジメントに加わっていただくと、かなり 違うのではないか。  しかも、後でカンファレンスをするとか、ビデオを見るとかというよりも、現場にお いて、とにかく問題があれば、そこを注意しながら、全体がうまくいくようにしていく という、そういう役割というのは非常に大事なのではないかという気がしています。 ○堺部会長  それでは棟近委員、工学の立場でも、あるいは全般的なことでも結構ですので、よろ しくお願いいたします。 ○棟近委員  私は、早稲田大学の理工学部におりまして、専門は品質管理という分野です。それ で、ここ数年、その専門の立場を生かした事故分析の方法とか、あるいは医療の質、マ ネジメントシステムなどというものを考えてきているのですが、医療事故が起こるとき に、最終的にはヒューマンエラーが発生して起こるということなのですが、それを防ぐ ためには、単にヒューマンエラーを防止する仕組みがないという話だけではなくて、も っとその背景には、それに至る大きな問題がたくさんあって、組織的というか、制度的 というか、そういうものがたくさんあります。  それで、単に医療界の人が、じゃあ頑張ってくださいではなくて、いろんな分野の人 が頑張らないと、この問題はなかなか解決しない。  例えば私であれば、私の専門を生かして、質保証のほうを考えるとか、文科省であれ ば、医学教育とか医局制度とかを考えるとか、いろんな分野の人がいろんなことを考え なければ駄目だというふうに思っているわけです。  それで、これをしていく上で、私がいま感じている最大の問題は、実は裁判の問題 で、ずっと医療事故の裁判を、横浜市大をはじめ、ずっと判決が出ているのですが、基 本的には個人を罰する。それで終わりという判決が続いていて、ああいうものを出され ると、プラスにならないだけではなく、要するにマイナスなのです。どんどんシュリン クしていくという構造になっていて、非常にまずいわけです。  例えば私が、どこかの病院に行って、インシデントレポートを見て、それを、そこか ら教訓を得て分析したい、改善したいと思っても、当然隠すほうにいくわけです。  今日の話でいくと、当然、ああいう判決を考えてみると、ビデオなんか絶対撮らない と考えるのが普通だと思うのです。  そういう意味で、そこの判決というか、そこのところをきちんとしておかないと、進 むものもなかなか進まないということが、いちばんの問題だと思います。  例えば免責制度を考えるとか、あるいは組織の責任というものを考えるとか、そうい う方向にもっていって、そこを先に解決してもらいたい。  それで、ここで言うのが適切かどうかわかりませんが、多分、厚労省にいちばん考え ていただきたい話ですし、あるいは、せっかく岩田先生がいらっしゃるので、岩田先生 のような法律の専門家に考えていただくのがいいかはわかりませんが、そこが非常に問 題だと思います。  いま、三菱扶桑の問題が話題になっています。あれは医療事故よりひどい、とてもひ どい話だと思うのですが、では、あのハブを誰が設計したのかと、犯人をつかまえには 行っていませんよね。どうして医療の世界だと、最終的にやった人が悪くて、「あの人 だけ悪い」ということになって終わるのかというところは、非常に不思議でならないわ けです。そこを是非何とかしたい。  私は専門でないので何もできないのですが、こういう場でちょっと発言しておかなけ ればと思っております。是非厚労省の方にも考えていただきたいと思います。 ○堺部会長  最後になりましたが、目黒委員、医学工学の面からでも結構ですし、全体的なことで も結構ですので、お願いいたします。 ○目黒委員  私は、物のほうから考えるということで、部会のほうでは、物のほうから考えるとい うところの部会にいたのですが、ヒューマンエラーということで、常に私のスタンスと しては、臨床工学という、現場の中でどういう問題があって、それがどういう解決方法 を見出していけばいいかということで、ご意見申し上げたりしています。  その中で、例えば今日お話にあったシミュレーションの話、内視鏡手術の話において は、基本的に我々も臨床の業務としては、人工心肺とか、人工呼吸器とか、社会的に問 題になっているものも扱っていますし、特に生命維持管理装置ということで、そういう 部分に関しては、各先生たちのような学会とか、そういう形ではないにしろ、各研究会 のほうで、起こさないような努力というのは、いろいろな集まりがあって、その中で行 われているのが事実です。  ですから、やはりそういうふうにシミュレーションみたいなものを使って、例えば操 作をどう間違ったときに、どういうふうに具合が悪くなるというような、そういうふう な具体的な形での仕方ができればいいというふうに、私も考えています。  それと、システムについて、臨床工学の立場から言わせてもらえば、臨床工学技士の 立場でものをというと、いま、組織がきちんとできていないという、大きなことが結構 あるのですが、私の病院にも3名しかいないということで、実は、何があるかという と、いろんな新しい医療機器を使われると、それを安全に運用するために、定期的に保 守点検するとか、そういうのがなかなかできない現状が多々あります。  それで、組織的にきちんと出来上がっている所は、まだいいのですが、きちんとし た、それに足りるだけの人数がいない所、あるいは現在まだ過渡期なのかもしれません が、取扱説明書等に書かれてある点検方法は、実は物理的には現場ではできないような ことが多々あります。  そういうこともあるので、そこら辺の部分は、物だけではなくて、全体のシステムの 中から皆さんで考えていければいいかと思います。  あと、病院の中のことについて言うと、例えば、輸液ポンプに関して、輸液セットが あるのですが、きちんとした輸液ポンプに合ったような輸液セットが使われていないと か、そういう現状があります。  そうすると、その現状が、組織がなかったりすると、具体的に機械を扱う我々側が知 らないことが多かったりします。  ですから、やはりそういうふうなシステム、臨床工学だったら工学というような形、 あるいは薬剤だったら薬剤というものがありますので、薬剤科とか放射線科とか、そう いうシステムをきちんと組織化してつくっていただくというふうなことを考えていただ けないかと思っています。  あとは、物の部会のほうで話が出てきたのですが、実は医療機器以外にでも、医療材 料の中でも不具合とかが起こってきたりすることがあります。そういう窓口が、病院の 中でかなり一本化されていない部分もあるので、そういうものも、例えばここら辺の会 議で話ができるのかどうかわかりませんが、議論して、病院の中のそういうふうないろ んなものの窓口とか、それから、いろいろな不具合情報でもそうなのですが、それがき ちんと末端まで伝わるようなシステムも、1つ1つ議論していただいて、解決できる方 向にもっていっていただければよいかと感じております。 ○堺部会長  ありがとうございました。本日承りましたさまざまなご意見、これからの部会の検討 の方向を検討する上で、参考にさせていただきたいと思っております。大変ありがとう ございました。  それでは続いて、内視鏡手術にかかわる医療安全に関する国の主な施策について、事 務局のほうからご説明をお願いします。 ○事務局  それでは資料2をご覧ください。「内視鏡手術に係る医療安全に関する国の主な施策 」についてご説明させていただきます。  大きく2点ございます。1つ目が、「広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に関す る資格名等について」ということで、こちらは概要のほうに書いてありますが、平成14 年4月1日から、広告規制の緩和に基づいて、「医師等の専門性に関し、告示で定める 基準を満たすものとして、届け出がなされた団体の認定する資格名が広告できる」とい うことで、いわゆる専門医制度です。  2頁及び3頁に、現在広告可能になっている専門医の資格名称が記載されておりま す。34団体、32資格について、現在資格名が広告できるということになっております。  次に2つ目です。1頁目にお戻りいただいて、「内視鏡治療に係る医療安全」という ことで、3つほど、こちらは研究になります。専門の先生方による研究の内容につい て、3つほどピックアップしてあります。  まず1つ目は、「Evidence-based Medicine(EBM)の手法による肺癌の診療ガイ ドライン策定に関する研究」ということで、主任研究者が藤村先生ということです。こ ちらの研究は、EBMの手法に則って、肺癌を7つの検討課題、領域に分けていて、肺 癌の診断あるいは化学療法等々、7つに分けているうちの1つに、肺癌の内視鏡手術と いうふうに位置づけられております。この7つの領域に対して、各診療・治療法別のガ イドラインと、組織型、病気型の実践的ガイドラインを作成するといった内容の研究で す。  2つ目が、「医療の質と外科手術の技術集積性に関する研究」ということで、こちら は主任研究者が長谷川先生になっております。平成14年度の厚生労働科学研究になりま す。こちらは、題名にもあるように、手術症例がたくさん集まるというか、本日の議論 の中にもありましたが、たくさん症例が集まっているところというのが、一般的に医療 の質、あるいはアウトプットとしての治療成績というか、こういったものがいいという ような傾向が認められる。こういった趣旨の研究です。  最後に3つ目になります。「稀少手術等の安全性に係る研究」、こちらは北島先生の 研究です。こちらの研究の内容は、本日、白日先生にご報告していただいた内容とかな り重複する点がございます。トレーニングセンターの話だったり、あるいはシミュレー ションの話だったり、そういったことについての有用性といったものを検討しておられ る研究です。以上、「内視鏡手術に係る医療安全に関する国の主な施策」でした。 ○堺部会長  ありがとうございました。ただいまのご説明に、何かご質問、ご意見ございますか。 ○白日参考人  いま厚労省のほうから報告のあったものについて、上2つには、私もいろいろ関係さ せていただきました。やはり、EBMの手法によるいろんな疾患のガイドラインという のは、いろいろ出されておりますが、その際に、いちばん心配したのが、ガイドライン =法律というか、ガイドラインから外れていたから、この治療法は妥当ではないとか、 何かうまくいかなかった場合に、大きな1つの訴訟の手段として使われることにならな いかということを、ガイド策定の間、随分議論しました。  しかし、基本的にはエビデンスがいまの時点ではこうだから、これしか言えないとい う形のものが、まだ非常に多いということで、そういう形でまとまっていると思いま す。このことがやはり、国民やこのガイドラインを使用される一般の第一線の先生方に よく認識される必要があるということです。  2番目は、やはり、これは私も胸部外科のほうでこの話が出たときに、非常に中小病 院の整理にかかわる内容になるかなということで、随分ディスカッションしましたし、 いまでもしております。  それで、手術症例数が少ない病院でありながら、地域の必要上、どうしてもそういう ところが、存続が望まれるような所もあります。安全性と手術症例数の多寡というの は、非常に密接な関係がありますが、それでは大きい所に全部集約されればいいかとい うと、それも非常に深刻な問題を起こすということを、よく認識して慎重な議論が必要 です。 ○堺部会長  ご意見いかがでしょうか。よろしゅうございますか。それでは最後に、資料の説明を お願いしたいと思います。「医療事故に関して報告を求める項目の詳細案等に係るご意 見の募集について」を事務局からご報告をお願いします。 ○事務局  それでは参考資料のほうの説明をさせていただきます。こちらのほうは、本年度から 始める予定の、「医療事故の報告制度」で集める報告を求める項目の詳細案等につい て、パブリックコメントを行っております。  それについてのご報告です。6月10日に、パブリックコメントを開始しております。 募集期間が6月24日までということで、宛先は、我々医療安全推進室のほうになってお ります。  3頁目をご覧いただきたいと思います。こちらが今回お示ししているご意見をお伺い している項目になります。「報告を求める項目の詳細案等について」ということで、1 つ目、「報告を求める項目の詳細案」。こちらのイ・ロ・ハ・ニ・ホ、この5点につい ては、実は3月の時点で、1度この制度の骨格についてのパブリック・コメントを行っ ております。その際に、お示ししてご意見をいただいているところですが、例えばこの イの「当該事故が発生した日時及び場所」、ここくらいまでしか書かれておりませんで した。実際、細かい内容についてはどういうことかというものが、今回示されておりま す。  例えば、イに関してみると、当該事故が発生した日時及び場所として、発生月日、発 生曜日、それから発生曜日の曜日区分、これは祝日とか、そういったことです。  それから発生時間帯、発生場所、関係診療科、これは複数回答可、というような形 で、そのイ・ロ・ハ・ニ・ホについて、それぞれの詳細項目を示したものです。  2番目になります。この「医療法施行規則の一部を改正する省令案の施行期日」とし て、10月1日から、すなわち、事故の報告制度を、10月1日から開始したいということ を、6月10日から2週間の予定で、現在、意見募集をしているところです。以上です。 ○堺部会長  いまのご報告について、何かご質問ご意見ございますか。よろしいですか。  それでは、ご用意した議題、資料はここまでです。何か追加のご意見ございました ら、よろしくお願いいたします。ありませんでしたら、お忙しいところを大変ありがと うございました。  今後の予定、日程について事務局からご案内をお願いいたします。 ○事務局  次回の会議の日程については、委員の皆様の日程を調整した上で、後日ご連絡したい と思っております。 ○堺部会長  それでは、これにて閉会させていただきます。どうもありがとうございました。                    (照会先)                      医政局総務課医療安全推進室指導係長                        電話 03-5253-1111 (内線2579)