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資料4

盲・聾(ろう)・養護学校における日常的医療を巡る課題についての論点整理メモ(案)


 ☆は、委員からの意見


 研究会設置の趣旨
 文部科学省においては、すでに一定の条件の下で養護学校の教員が行う3つの医行為について実践研究を行っている。今回の研究は、この実践研究を踏まえ、養護学校における日常的医療が安全かつ適切に行われる条件について医学的・法律学的な観点から検討を行うもの

 障害のある子どもの教育を受ける権利や、安全かつ適切な医療・看護を受ける権利を保障するための体制づくりに寄与することであるべきで、その普及が大前提であることが確認されるべき。



 現状

(1)現行の法規制

(ア)関係条文
 医師法第17条
 「医師でなければ、医業をなしてはならない」
 医業とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為を、反復継続する意思をもって行うことと解釈。
 保健師助産師看護師法第31条
 「看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない」
 保健師助産師看護師法第5条に規定する業とは、「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療上の補助を行うこと」であり、看護職員が行う医行為は診療の補助行為に位置付けられるものと解釈。

(イ)学説・判例
 医業については、行政の有権解釈と同様に解釈。なお、医師法17条の背景にある無資格者による医業を規制するとの趣旨から、危険性については、個別の個人に対する具体的危険でなく、抽象的危険でも足りるとする。
 学説においては、医業を、医師のみが行えるとする絶対的医行為と医師の指示により、医師以外の者も行うことが出来るとする相対的医行為に分ける考え方がある。

(2)ALS検討会報告書を踏まえた行政的対応
 在宅で療養しているALS患者に対するたんの吸引行為について、基本的には医師又は看護職員が行うことが原則としつつも、3年後に、見直しの要否について確認することを前提に、医師の関与やたんの吸引を行う者に対する訓練、患者の同意など一定の要件を満たしていれば、家族以外の非医療職の者が実施することもやむを得ないものとされた。
 法的には、刑罰法規の構成要件に該当する行為が、一定の要件の充足により正当化され、違法性が阻却されるとする「実質的違法論」の立場に立つものと考えられる。

(3)盲・聾・養護学校の状況

(ア)現状
(1) 盲・聾・養護学校の意義

 障害の重い子の教育の歴史は、常に教育と医療の近接領域の課題であるとの立場に立つべき
障害を援助する適切な医療行為の安全な実施が必要
医療行為を必要とする児童生徒も保護者に待機という負担を課すことなく、教育を受ける権利を享受できるような体制を整備すべき。
国は、教育の分野でも、医療、看護、障害者施策との連携・協働によって、ノーマライゼーションの理念の実現を図るべき

(2) 日常的な医療の必要性が高い児童生徒の増加
(3) 盲・聾・養護教育における、医療的対応の必要性

 3行為の意味、内容を紹介する。


(イ)文部科学省のモデル事業の現状及び評価
(1)モデル事業の内容
 学校における体制の整備
教育委員会における運営協議会、校内委員会、教員の理解と参加

 日常的医療が安全に実施されるための環境整備
医師との連携、看護師の配置、教員に対する教育研修と技術の見極め、緊急時の対応、実施手順の作成(看護師と教員との役割分担、教員が実施すべき行為とその実施方法の明確化)等

 保護者との関係
保護者への説明、保護者の理解・納得・支援の下での実施

(2)モデル事業で認められた効果・安全性
 教育上の効果
 「教育を受ける権利」の保障の実質的な進歩(訪問教育から通学への移行や、登校日数の増加、付き添いを条件とすることへの義務教育段階での就学上の課題の改善、医療・教育の専門職の協働による豊かな安心感のある授業環境の提供)
教育の一貫性の確保(たんの吸引のために授業を中断されない、給食の一環としての経管栄養の実施)
親から離れて教育を受けることにより本人の自立性が向上(コミュニケーション能力の向上など自立活動に関する能力の向上)
児童生徒の健康の保持・増進
児童生徒と教員の間の信頼関係の強化

 保護者への支援効果
 保護者の心理的・物理的負担の軽減(学校における保護者の待機状態が改善)
他の家族への配慮が可能
在宅医療における支援者として教員も容認された

 教員の資質向上・安心感
 健康管理・健康指導に関する教員の資質向上
教員の危機管理意識の向上
教員の職務・指導の一環として実施できることへの安心感
事故が起きた場合、責任が取れるかという意味で身分の安全が脅かされている

 医療安全の観点からの評価
 責任の明確化(依頼責任、実施責任、指導責任、管理責任)
安全の確保に向けた意識、体制の確立
子供たちの安全は万全とはいえない
事故は防止され、むしろ、総体的な安全度は高まっている

 学校管理上の効果
 保健、医療関係者の熱意ある学校運営への支援
保護者の期待に応えるとともに、その要求の歯止めを明確化できる
安心・安全な学校づくりを学校運営の核とすることができる
学校でのミニマム・エッセンシャルズを明確化し、責任体制ができる
教員の役割を明確に指示できる

 モデル事業の課題
 主治医による指示が不明確である点が課題。主治医による指示書を作成する必要がある。主治医が役割を果たせない場合、指導医の訪問回数の検討が必要
概ね以下のような取り組みに努めているが、更に安心・安全な環境作りのため検討すべき
 危機管理・初期対応に関する学校全体の意識改革
 健康管理の方法論を確立すること
 ヒヤリ・ハット又はインシデント・アクシデント報告書の作成・活用
 保護者の協力と信頼
 研修の充実
 手続の明確化
 医療機関のバックアップ体制の確立

(3) その他
 モデル事業の評価を行い、公表すべき



 養護学校における日常的医療の実施についての考え方の整理

(1)モデル事業を一般化すべきとした場合、医学的な背景を踏まえた具体的要件は何か

(ア)日常的医療の範囲

(1) 養護学校における日常的医療の範囲は何か

 「日常的医療」を表す適切な用語はないか。

(2) 非医療職の教員が実施できる日常的医療の行為が特定できるのか、どのように特定すべきか
 モデル事業では、教員が行えるのは3つの行為((1)咽頭より手前のたんの吸引、(2)咳や嘔吐、喘鳴等の問題のない児童生徒で留置されている管からの注入による経管栄養、(3)自己導尿の補助)に限定されている。
経管栄養については、注入開始時の確認や判断は看護師が関与することが望ましいが、開始後の対応は多くは教員のみによっても対応可能。教員が実施できる対象児童についても、咳があっても、強い喘鳴等がない児童生徒ならばかまわない。

胃ろうからの注入を教員が実施しても医学的に問題はない。胃ろう部に肉芽などの問題がある場合、その衛生管理は看護師が行うべき

吸引については、咽頭の手前までの吸引は一般論として安全であり、研修を受けた教員によって実施されることは医学的に妥当。咽頭までの吸引、鼻からの吸引は個々の状況に応じて柔軟な判断がなされるべき

自己導尿の補助を教員が行うことについては危険性はない。

3行為以外でも、資料に掲示されていたような行為を含めて議論すべき

「咽頭前まで」口腔内の吸引に限定すると、気管切開後人工呼吸器を装着し、カニューレからカテーテルを用いて行う「気道の」吸引ができなくなるが、それによって学習の継続が妨げられる恐れがある。ケアの必要度、「重症度・看護必要度」に応じ、「気管カニューレまで」の吸引が安全に行われるように整理すべき。

3行為以外で、咽頭より先の吸引、胃ろうへの注入、与薬等が実施されている現状をどうするか。当面は、緊急に実態を把握することが必要

(イ)非医療職の教員が実施する上で最低限必要な条件は何か

(1) 保護者の同意

 保護者の十分な理解と書面による依頼、同意が必要

同意によって、医師、実施者等の免責はされない

保護者による、委託と、内容、方法の確認の同意により実施される共同作業である

(2) 学校と医療関係者の連携の在り方、責任の明確化

 主治医による指示書が不可欠。主治医は、健康状態の定期的な把握、学校への報告義務があり、学校関係者と連携に努めるべき
 主治医が役割を果たせなければ指導医からの指示となり、その訪問回数の検討が必要。

主治医の同意や指示が第一の前提条件だが、指導医、学校医も加わり、立場を異にする複数の医師による判断、指導、管理が行われるべき

指導医を校医のような格付けとすべき

(3) 看護師を適正に配置する必要性

 医師からの指示を受けられるのは看護師であり、子どもの数に応じて適切な配置を検討すべき

看護師配置とプロトコールの作成が必要

医療的ケアの実施のみならず医療的配慮・健康管理を行うスタッフとして定常職員としての養護学校への看護師の配置が進められることが必要であり、そのための施策が追求されながら、看護師が中心となり看護師と教員が連携・共働して医療的ケアの実施を進めるのが、望ましい在り方である。

すべての養護学校に看護師が常駐することのない現状においても、教員のたんの吸引を禁止することによる児童の教育権の侵害は許されない

(4) 適切な医療行為の実施の確保

 医行為は看護師が行うことを原則とすべき。担任教員は、応急処置が取れる体制の中で、状態が安定している子どもに対する比較的危険の少ない行為に限定すべき。養護教諭は、学校保健の業務を担当し、健康管理と健康教育を行うべき。

医師の指示の下で、看護職員が医行為を実施すべき。しかし、現状では、教員による補足的な実施も容認せざるを得ない(医師との連携、教員による医療への理解、看護職員による教育への理解が必要。)

特定の児童の特定の内容のケアについて、研修を受け承認された特定の教員が実施担当者となっており、研修され、承認された範囲でケアを行うべき。

児童生徒の健康状態について、保護者、主治医、養護教諭、看護職員、教員等が情報交換を密にして連携を図る必要

教員と看護師等専門家の共働によるケアが大切

看護師は、学外活動にも同行するほか、技術指導に止まらず、学内会議に参加し、健康面の助言を行うべき

随時、連絡会、事例検討会等を開催し、適正な実施に努めるべき

(5) 教育研修の在り方

 看護師等の長期研修の設定、日常的な研修の設定

日常的医療を実施する担任の研修の充実、看護師に対する日常的医療、学校保健の理解に対する研修の実施、緊急・救急的な処置の組織的な訓練

基礎知識とともに、対象児童についての、主治医の下での実地研修、指導医や看護師による指導研修が実施されており、家族に対する場合より、はるかに濃厚になされている

教員に対する現行の医学一般研修は4日であるが、感染予防等さらに充実する必要があり、研修内容、時間等を再検討するとともに、終了後に試験を実施し、合格者に修了証を出すべき

看護師にも養護学校における医行為、教育に関する知識・技術についての研修が必要

(6) 学校の体制整備の在り方(特に緊急時の対応が取れる体制の整備)

 教育委員会での総括的検討・管理、学校長の統括、校内委員会での検討、各学部での検討承認、医師、看護師による個別的確認など、重層的にシステムの中で検討、確認されるべき

安全管理、責任体制の構築が必要

責任の明確化、賠償責任保険の必要性

委員会設置(校長、教諭、医師、看護師、養護教諭)が必要

担当医や学校医、看護師、担当教員等の連携・協働システムの構築が必要

事故が起こったときの対応手順(危機管理の手順)を整備すべき(主治医、保護者への連絡、救急隊への通報等)、また、訓練すべき

消防署、保健所等地域の関係機関と連携、意見交換に努めるべき

(7) 安全に実施するための手続きの在り方

 日常的医療を実施する手順を整備すべき

必要な書類、不要な書類の整理 

個別の医療計画を立案し、医療記録を整備すべき。教育計画に盛り込むことも考えられる。

指示書、指導助言の記録整備


(2)法律的な考え方をどう整理するか

(1) 現行法の解釈論か、立法論か

 現行法の修正が前提ならば論外だが、そうでないのならば、まずは現行法にかなう環境整備の努力が必要。

教員の場合、学校組織で、学校長が認めた形で実施しており、在宅ALSのような違法性阻却は困難。法的整備により看護師の指導の下で教員が業務として医療行為を実施することとすべき。

(2) 医行為の該当性

 モデル事業で行われている日常的医療は、医行為に該当するのか

 3行為は医行為である。生活援助行為との考え方も一部にあるが、抽象的危険で足りるとする現行法上の取り扱いから考えて、医行為から除外することはできない(変更するのであれば立法趣旨の見直しが必要。)。ただし、導尿が安楽に行えるように本などを見せる行為は医行為ではない。

現行で医行為と認められている行為を医行為から除外するためには、以下のような相応の検討が必要。医療の安全な提供という大原則を崩さない範囲で解釈すべき。したがって、3行為は医行為というべき
 医学的な判断や技術を必要としないことの証明
 現行法制度との関係性
 現在、担当している職能からみた判断
 養護学校以外への影響の有無(ICU、NICU、手術室等での「日常的行為」をどう考えるべきか。場で区別するのか、その基準は何か)

3行為を生活行為と整理する考え方は一体どのような基準に基づくのか不明であり、呼吸器やチューブを医療用具とするかどうかの判断にも影響する。慎重に考慮すべき。

当面は医行為としての枠付けは保持しながら、個々のケアの内容や実施される場、あり方によって判断を行うべき

3行為だけでなく、その他の医行為も同様に検討を行うべき


(3) 罪刑法定主義の原則の具体化の方法

 罪刑法定主義の確認

 刑罰に直結することから、解釈適用には謙抑的な姿勢が必要

憲法上の原則は、法定してあればいいということでなく、真に刑罰に値するものだけ適用するということである

 医師法17条の趣旨の明確化

 17条は、医師法1条にいう、国民の健康・安全を確保する手段と考えるべき

 医行為概念の縮小解釈か、実質的違法論の採用か

 医療の安全な提供や現行法の遵守等の社会的原則に準拠した判断が重要。個人的見解による判断や行動では医療現場が混乱する。

患者の健康・安全に対する措置がメディカル・コントロールの下で取られていれば、謙抑的な解釈は可能。

日常的医療を教員が実施することによる社会的な弊害(サービスの手抜き、安上がりのスタッフとしての無資格者による代行、サービスの質の低下、事故の発生の可能性)も考える必要があるが、今回の場合、弊害は考えられない

医行為の中には、医学的技術程度が低く、医師でなくともその実施を認めてよい類型がある。

技術、教育の進歩により、医行為の中身は相対的である。


(4) ALS検討会報告書を踏まえた通知と養護学校等における日常的医療についての取り扱いとの整合性

 基本として、実質的違法論に立つのか、別の立論によるのか

 具体的な条件はALSと同様でよいのか。

 ALSと養護学校における取扱い

  場所・内容 モデル事業 組織性・集団性 取り扱い・条件
ALS 在宅での療養 無し 無し 一定の条件で
3年後の見直し
養護学校 学校での
障害児教育
有り 有り職員
配置も有り
検討中

そもそもALSの整理は正当なのか
 家族によるたんの吸引が医師法の規制対象となるのか議論が残る
 家族以外の者の場合も、業ではなく個別関係で実施と整理されているが、現状の混乱からみて、その論理に無理がある。

家族であっても、複数の子どもに盲腸炎手術を行い、傷害罪が問われた事例があり、行政的介入は可能(家族だから当然に法規制の対象外とはならない)

家族が実施することについて以下の3つの意味がある。
1 家族でもできる専門教育を受けていなくても実施可能
2 家族ならできる事故が起きても責任を問われない
3 家族だからできる 本人との関係が深い人ほど適切にできる

ALSにおける条件を養護学校の場合に再検討し、メディカル・コントロールが適切になされているのであれば、同様に正当行為と認められる

緊急対応が必要ということであれば、ALSと同様の整理を踏襲すべき(たんの吸引は医療行為であり、医師・看護師が行うべき。一定の条件下で、3年間の特例措置として認める、教員の業として行われないこと、医師・看護師との連携で行われること、緊急対応措置があること、個別的な同意書を交わすこと)

 恒久的措置か、時限的措置か

 教員の位置づけをどう考えるか(そもそも看護職員が行うべき行為であるので、教員は行うべきでないことになるのか)

教員が担当する必要性・意義がある。
 学校の置かれた物理的制約、対象人数の学校差から、看護師のみの実施では適宜適時の対応が困難。遠足、宿泊学習における対応にも限界。
 自立と社会参加に向けた特別支援教育の一環である(障害に関する教育上のニーズへの対応。中断しない授業づくりの重要性、多職種による活力ある学校づくりへの試金石)

児童生徒と信頼関係の確立した、関係性の深い教員によってケアが行われるべき。最も負担の少ない状況を見極め、緊張を高めることなく、授業を中断せず行えることは大きな成果。教育的意義をもたらすとともに、安全性が確保される大きな要因

看護師が中心となり、子どもとの関係性の高い教員と医療分野の専門性の高い看護師が協働して実施することこそが望ましい方向

医療行為は看護師が医師の指示の下、行うべき。ただし、十分な看護職員数を配置できない現状では看護職員の医療行為を補足する形での教員による実施も容認せざるを得ない。しかし、将来的には看護職員が専門的に医療行為を実施することとし、教員は教育に専念すべきであり、それにより授業が充実し、児童生徒の成長を促進できる。

ALSの実質的違法論の立場に立って検討すると、以下のように今回の養護学校の場合も、違法性を阻却しているものと認められる
目的の正当性
 教員による日常的医療の実施は、教育的意味、医療的な意味、福祉的意味において、客観的な価値を担っている
手段の相当性
 委員会等のシステムの枠内で、医師、保護者、学校スタッフとの相互了解の下で承認された範囲内で限定的に実施されており、相当である

法益衡量
 児童本人にとって、医療面、教育面、福祉面、医療経済面から生じる利益に比べ、社会的弊害はきわめて小さい
法益侵害の相対的軽微性
 法益侵害は実質的に軽微である
必要性・緊急性
 必要性については小児神経学会の「見解と提言」で詳述。痰については緊急性を要する場合がかなりある。経管栄養について保護者が来校できない場合など、社会的緊急性がある

ALSで認めた法的な解釈運用については、養護学校における取り扱いにおいても同様としなければ、法の下の平等(憲法14条)に違反するが、合理的な区別が可能なのか

養護学校においては、教育を受ける権利(憲法26条)の観点を考慮すべき
 日常的医療が行われない限り、養護学校での教育は困難
 看護師配置がされるまで教育権の実現を阻むというのは児童の安全の理由以外正当化できないが、一定のメディカル・コントロールにより安全性の確保は可能。



 今後の課題

 訪問看護が対象となる居宅等の拡大


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