戻る

【布川委員提出資料】
社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第13回(平成16年6月29日) 資料3

稼働能力活用要件についてのメモ

2004年6月29日 布川日佐史

  自立支援のためには、
 (1) 早期に保護を開始し、生活を安定させることが鍵であること、
 (2) 保護の入り口から保護利用者とケースワーカーとが相互信頼できなくなってしまうようなシステムや制度運用は改善しなければならないこと、
この2点から、稼働能力活用要件の判断方法、受給者の権利と義務、指導指示、不利益変更の見直しが必要です。


1 稼働能力の活用に関して、何を、どう判断するか?

[1] 「勤労能力の有無」の判断
  精神的・肉体的条件や家庭の条件をもとに、就労ができるかどうかを判断する

[2] 「就労が期待できる職業(期待可能性)」の判断
  勤労能力がある人の学歴、資格、職歴や、家庭の条件などをもとに、その人にあった仕事かどうかを判断する

[3] 稼働能力を活用しているか、していないかの判断
(1) 「稼動能力を活用しているから、保護の要件を充足する」という判断
(2) 「稼動能力を活用していないので、保護の要件を充足しない」という判断
(3) 「稼動能力を活用していないとはいえないので、保護の要件を充足する」との判断

 上記の[1]、[2]、[3]を区別することが大切です。区別した上で、それぞれの判断の基準と方法を明確にすることが必要です。

 その際、面倒なのは、[3]です。
 [3]については、またその中に、3つのバリエーションが存在します。現在の現場での運用状況を見ると、(1)、(2)、(3)の3つが混在しています。しかし、どの判断をするのかで、実は大きな違いがあります。何度か申し上げてきたことですが、ここをご理解ください。
 本来は、第12回専門委員会事務局「説明資料」4ページにもあるように、(2)が原則です。


2 「稼動能力を活用していない」を判断する

 「稼動能力を活用していないので、保護の要件を充足しない」という判断をする。

 第12回専門委員会の事務局「説明資料」4ページ最下段「したがって、現行の生活保護法では、保護の適用にあたり、素行不良等の過去の状況は問わないが、現に稼動能力を活用していなければ、保護の要件を充足しない。」のとおりです。

 稼働能力活用を、保護受給権を成立させる積極要件として位置づけ、「稼動能力を活用しているから、保護の要件を充足する」という判断をする、もしくは、「稼動能力を活用していないとはいえないので、保護の要件を充足する」と判断する、のいずれでもありません。

 稼働能力活用要件は、保護受給権の成立を妨げる要件、もしくは、いったん成立した保護受給権を消滅させる要件、保護の消極的要件です。具体的には、「稼動能力を活用していないので、保護の要件を充足しない」という判断をするわけです。

3 「稼動能力を活用していない」の判断方法

 では、どういうやり方で、その判断をするのでしょう?
 実施機関が、あなたにふさわしい仕事があると具体的に提示して、それを拒否し続けた場合には、「稼動能力を活用していない」と判断するということです

 第11回専門委員会事務局「説明資料」の3ページに「保護開始後の取扱い」として事務局がまとめているように、「例えば、稼働能力の活用に向けた機会を提供する一方、その活用状況について定期的に評価し、保護の要否に反映させる」という方法は、イメージ的には同じことかと思います。

 パート就労なので稼働能力活用が不十分であったとしても、現に稼動能力を一定程度活用していれば、「活用していない」状態だとはいえません。
 失業している人は、現に稼動能力を活用していないとされてしまうのでしょうか?
そうではなく、失業して仕事をさがしても見つからない人は、「稼働能力活用の場がないのだから、稼動能力を活用していないとはいえない」状態です。

 こうした稼動能力の活用が不十分だったり、活用していないように見える要扶助状態の人たちに対し、実施機関は生活扶助等を給付しつつ、自立援助・就労援助をします。生業扶助を活用し資格・能力向上の機会を提供し、さらに、具体的な就労先を斡旋します。

 実施機関が、稼働能力を活用していないと判断するのは、実施機関が、その人にふさわしい(就労が期待できる)具体的な勤務先を提示し、就労支援を継続的に行ったにもかかわらず本人が一向に求職活動しない、就労努力をしないなどの場合です。
 保護の継続が本人の自立助長を妨げる場合には、保護の不利益変更をすることもできる、ということです。

 この判断は、保護の停・廃止に繋がります。その人に最低生活以下の生活をもたらすことになるのですから、保護の停・廃止後の本人の生活状況を充分考慮したうえで、慎重にしなければならないのは当然です。保護停・廃止後も実施機関は、ケースワークを継続するなど、継続して見守る義務を負うことになります。


4 保護の入り口の問題

 保護申請時、すなわち最低生活を下回っている状態での稼動能力活用には、様々なハンディキャップがあります。生活費がない、家賃が払えない、電話代が払えず電話が止まっている、食費にも困っていて職安に行くバス代がない、借金の整理をしないといけない、保証人になってくれる人がいない、家族関係の問題を抱えている、体調も悪くなっているなど、稼働能力の活用に努めようにもそれができない壁にぶつかっている人が多いのが現状です。何度も面接に落ちてしまい、自信をなくし、就労意欲を失っているように見える場合もあります。
 稼働能力活用要件の内実が、保護開始後と違って当然です。

 自立支援の視点から、なるべく早く保護を開始し、生活を落ち着かせると同時に、カウンセリングを始め、就労可能性と就労阻害要因を明らかにしていくべきです。その過程で、保護利用者とケースワーカーが、相互に信頼しあうことが大切です。
 稼動能力活用は保護を受給して生活に落ち着きがでてからの課題であり、自立支援の課題とすべきでしょう。


トップへ
戻る