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【田中委員提出資料】
社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第13回(平成16年6月29日) 資料2

救護施設の役割と必要性についての意見

全国救護施設協議会
会長 田中 亮治

 最初に、これまで救護施設が果たしてきた役割について総括した上で、改めて今後の在り方について意見を述べたい。
 日本の福祉施設は細かく専門分化しながら、今日に至っている。それはより専門的な援助を行うには、ある程度対象者の障害実態に応じて施設を分化したほうが良いという考えによるものと思われる。しかし、細かく専門分化しても、その施設体系の狭間に置かれてしまう人がいる。そのような人々を受け入れる体制を備え即応してきたのが救護施設である。
 前回の委員会で指摘があったように、救護施設は他法施策が充実すれば、その使命を終えることになるだろうと言われてきた。けれども他法施設が増える中で、救護施設も同じように増加してきている。これは他法施設で受け入れることの困難な方々を受け入れるセーフティネットとしての機能が必要とされてきたからである。救護施設が間口を広く開け、多種多様な人を必要即応の原則の精神で受け入れることで、セーフティネットとしての役割を担ってきたのである。
 前回の委員会において出された保護施設に関するご意見に対して救護施設として、改めて下記3点について、補足してご意見を述べさせていただきたい。

 〈混合入所の施設であり専門性に欠けるということについて〉

 混合的な入所は利用者の相互の助け合いや協力による自立促進と共助関係を生み出し、施設での生活を豊かにする側面があることについては、前回の委員会で発言させていただいた。
 救護施設の混合入所の実態は、法第38条に基づき、重複障害のある方々、障害の程度に関わらずさまざまな生活課題のある方々等を、時代や地域のニーズの変化に即応して受け入れてきた結果である。(資料1
 また、救護施設はアルコール依存症、ホームレス状態の方、DV被害者、多重債務を抱える方等多様な問題を持つ方に対して、その問題が解決されるよう支援を行ってきた。このような生活を困難にする問題に個別に対応できるところが救護施設のもつ専門性である。(資料2
 なお入所者の意向を尊重し、個別のニーズに即応できる支援体制をとることに努め、個別支援計画に基づいたサービス提供を行っており、苦情解決やリスクマネジメント、サービス評価と連動した施設運営の仕組みを構築するべく組織的な取組みを行っているところである。

 〈混合入所の施設ではなく、専門分化していくことが今後の方向性ということについて〉

 従来から専門分化の推進により保護施設の歴史的役割は終了するといわれながらも、救護施設が現在も存続し、施設数も増えてきていることの要因は冒頭に申し上げたことによると認識している。
 現実には、セーフティネットとしての役割を担う施設が必要であり、かつ、セーフティネットとしての役割は変化していくことが求められており、その役割は現在救護施設に課されているといえる。
 2002年10月1日現在、救護施設における定員数に対する在所者数の割合は101.6%となっており、他の障害者の入所施設には見られない高率を示している。これも、救護施設に対するニーズの高さを示すものと思われる。(資料3

 〈保護施設が地域移行を妨げる傾向があるということについて〉

 保護施設への入所は在宅生活の困難性ゆえの結果であり、そこでは第一義的に安全と安心の確保がされ、その後、利用者の希望や可能性の確認のもとに、地域生活への移行支援が始まる。
 救護施設における地域生活移行を視野にいれた実践の結果、平成15年11月現在、調査前1年間に753人(32.4%=退所者数に対する在宅復帰者の割合)が地域生活に移行している。
 平成14年度に保護施設通所事業、平成16年度にサテライト型救護施設の設置、居宅生活訓練事業が新規に創設されたことは、社会的入院の解消、ホームレスの受入れや自立に向けての支援を救護施設が担うことを期待されてのことである。既に入所されている方はもとより、これらの今日的課題に対応できる施設として、今後より積極的に地域生活に移行できるような自立援助に向けての取組みを展開し、期待に応えていくべきと考えている。

 以上の意見と、前回の課題提起を踏まえて今後の救護施設のあり方についてご検討いただきたい。


資料1  救護施設利用者の障害状況に関する比較(平成5年・15年実態調査より)
資料2  支援の事例(多重債務者への支援、アルコール依存症を有する利用者への支援)
資料3  主な障害者入所施設との在所率の比較(平成14年社会福祉施設等調査概況より)



資料1

救護施設利用者の障害状況に関する比較
(平成5年度・15年度全救協実態調査)


  平成5年度 平成15年度
  人数 構成率 人数 構成率
身体障害 2,091 13.5% 1,518 9.0%
知的障害 5,466 35.3% 3,599 21.2%
精神障害 2,258 14.6% 4,777 28.2%
重複障害(身体+知的) 1,503 9.7% 1,438 8.5%
重複障害(身体+精神) 260 1.7% 754 4.4%
重複障害(知的+精神) 1,037 6.7% 2,382 14.1%
重複障害(身体+知的+精神) 179 1.2% 590 3.5%
障害なし 2,685 17.3% 579 3.4%
いわゆる生活障害 1,312 7.7%
合計 15,479 100.0% 16,949 100.0%
 ※ 平成5年度については「いわゆる生活障害」については調査していない
10年前と比較すると重複障害(身体+精神、知的+精神、身体+知的+精神)の割合が増えている。



資料2

事例1 多重債務者への支援

該当利用者の状況
性別・年齢 女性 49歳 障害状況 精神障害
利用者の抱える具体的な問題  5社の消費者金融からの借金の他、夫の連帯保証人となっている業者が8社あり債務総額136万円であった。夫婦・子供4人で債権者から逃げ回る生活をしており、家族崩壊、離婚に至る。統合失調症を発症。
施設としての対応
 夫婦・子供4人、サラ金から追われ田畑のハウスの中に逃げて寝泊りしており、役場から保護され緊急避難で本人は当施設に、夫は県内の別の救護施設に、子供は児童施設や親類の家にとばらばらになった。夫が所在不明となったが、その後本人(妻)に何度か電話があり、自宅に放火、逮捕される。夫のサラ金各社に本人の所在地がわかってしまい、その分の督促が数社入るようになる。夫と離婚の話し合いも進まず。福祉事務所と相談の上、夫・本人それぞれに自己破産の手続きをすすめる。法人扶助協会、弁護士会を利用。破産申し立てが認められ、免責決定。夫との離婚成立。訴訟費用は本人が分割にて返済し終了。各社からの督促の連絡が直接本人に行かないよう施設で対応。夫との面会(夫から本人に更に借金の要請あり)に施設や身内が立ちあったり、裁判所へも同行した。弁護士、実施機関との相談を密に行った。
このケースに関する特記事項
 法律扶助協会や弁護士会を活用し、自己破産を申立て、免責が決定し、訴訟費用の返済まで済んだケースである。しかし、その過程で、緊急避難的な入所ゆえ、施設側が外部に所在を隠していたのに、夫のサラ金業者に本人の所在が知られる結果になり、対応が更に複雑になってしまったことについては今後の課題となった。

事例2 アルコール依存症を有する利用者への支援
該当利用者の状況
性別・年齢 男性 18歳 障害状況 アルコール依存症、両尖足性硬縮による歩行障害
利用者の抱える具体的な問題  契約での日雇労働をしていたが、アルコール問題により職と住居を失い路上生活となる。主に雑誌集めなどをしながらその日の飲み代を稼ぐ生活をしていたが、アルコール問題が常につきまとい、飲酒時の事故により歩行困難となり入院生活、保護開始となる。
施設としての対応
 他者との信頼関係構築と、アルコール依存症の病識を深めることに重点を置き支援開始。担当職員との定期面接を行うなかで、信頼関係を形成し、施設内プログラムとして、作業、ミーティングへの参加を促した。退所後はアパート生活を希望していたことから、在宅支援プログラムを利用し、退所後のアパート利用を考慮した措置機関管轄地区方面のAAに参加、アパート生活を意識した週間スケジュールの作成、アルコール治療継続のためのクリニックデイケアへの試験通所を実施するなどした。また、退所支援プログラムを活用しての、措置機関との調整、アパート契約、外泊訓練等を行った。結果、1年3か月で退所に至り、その後AA、クリニックのデイケアへの通所、月に一度の退所後6か月までの方を対象にした当施設のOB懇談会にも確実に参加している。
このケースに関する特記事項
施設が開発した在宅支援プログラム、退所支援プログラムの活用と、退所後の断酒環境の整備(クリニックのデイケア、AA、福祉事務所にそれぞれ本人の居場所を設ける)により退所が実現された。また、アフターケアとしてOB懇談会にも参加を奨め、順調に在宅生活を送っている経過をみると、支援内容は妥当だったと思われる。



資料3

主な障害者入所施設との在所率の比較

平成14年社会福祉施設等調査の概況をもとに作成
  定員数
(人)
在所者数
(人)
在所率
(%)
救護施設 16,652 16,911 101.6
肢体不自由者更生施設 1,483 744 50.2
内部障害者更生施設 398 304 76.4
身体障害者療護施設 24,833 24,530 98.8
知的障害者更生施設(入所) 91,610 90,477 98.8


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