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資料1

論点の整理(案)


1.基本的考え方

 ○ 健康情報は、個人情報の中でも特別に機微な情報として慎重に取り扱われるべきである。

 ○ 労働者の健康情報の処理に当たっては、事業者は労働者の健康を守る義務と労働者のプライバシーの保護とのバランスについて配慮する必要がある。

 ○ こうした基本的考え方を具体化するための実体上及び手続上の要件及びそれらに関係する事柄について、情報処理の各局面ごとに以下検討する。

2.目的の特定と利用目的による制限

 ○ 「利用の目的をできる限り特定しなければならない」(個人情報の保護に関する法律(以下、「個人情報保護法」という。)15条)の趣旨は、労働者の健康情報についても、当然妥当する。よって、その利用の目的は「できる限り特定」される必要がある。
 「できる限り」とは、健康情報の性質上、単に労働者の健康の保持増進ということだけでなく、事業者に使用される誰(前回の議論では情報にアクセスできる者を限定すべきとの意見があった。→「10.ルールに盛り込むべき事項」参照)が、取得された情報の全部又はどの一部に基づいて、如何なる対応をとるのかといった事柄が目的として特定(→「9.取扱いのルールの策定と事前の労働者の同意」、「10.ルールに盛り込むべき事項」参照)されているものでなければならない。

 ○ 事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人の健康情報を取り扱ってはならない。(個人情報保護法16条参照)。

3.収集

 ○ 事業者が法定外で任意に情報を収集するに際しては、本人の同意が必要である。

 ○ 本人の責任において同意しない自由は、個人の権利として最大限保護されるべきである。また、収集の段階で本人の同意が必要であるのであれば、既に収集された情報についても、利用停止や廃棄について、本人の意思が最大限尊重される必要がある。

 ○ 本人の選択の自由は、法定であると任意であるとを問わず、これを認めるべきである。この点、現行法上、労働者に対して受診義務(66条5項)が設定されていることについてどのように考えるべきか問題となる。具体的には、(1)義務付けの趣旨・目的と本人の選択権とを比較衡量した場合、本人に対する権利制限は妥当な範囲内のものかどうか、(2)仮に、義務付けは必要であったとしても、現行制度の義務付けの程度が果たして妥当かどうかなど、整理しておく必要がある。

 (前回の委員の意見)
 ・ 労働者に受診義務を課して個人情報の発生を促進するような安衛法の現行の規定は、個人情報保護の観点から今日的でなく賛成できない。したがって、少し表現を緩和するか、別個の方法を考えるべき。後者の考え方としては、66条5項の労働者の受診義務を削除し、他方、事業者の健診の実施義務に照応した労働者の健診を受ける権利を明確化する趣旨から、就業規則として規定することが考えられる。
 ・ 66条5項には二つの目的がある。一つは、個々の労働者の健康を確保する目的であるが、他方、職場一般を伝染性の疾患、具体的には結核等から守る目的がある。後者の面を考えると、義務付けは必要。
 ・ 結核については、結核予防法に事業者に対する明確な義務規定があり、また労働者に対しても受診の義務が課されている。したがって、結核に限っていえば、安衛法上労働者の受診の義務付けをはずしても問題とならない。
 ・ 結核に限らず、一般健康診断の目的にはサーベイランスの意味がある。母集団を的確に把握することで個々の労働者の異常を把握できる。

 ・ 労働者の受診義務をはずすと、受診率が下がることが懸念される。
 ・ 就業規則に明記することで、労働者の権利が一層明確になるとともに、事業者は労働者に対して受診するよう求めることができるので、かえって法定健康診断の制度が実効化していくと言える。
 ・ 66条5項は、国との関係で労働者に義務付けられたものであり、したがって事業者は労働者に対して受診を命ずることはできないが、就業規則に明記することで、事業者は労働者に対して命ずることができるようになる。よって、労働者にも事業者にも責任を持たせるには、明確に就業規則でうたうのがよい。
 ・ 労働者の受診義務をはずした結果、健康診断を受けない労働者が現れ、事業者による健診情報の収集が限定されることがあっても、それは労働者のプライバシー権を重視した結果であって、仕方のないことだと考えるべきではないか。
 ・ そもそも本人のプライバシーという価値を重視して、本人の受診の意思を尊重し、自己決定を貫徹することが必要であると考えるのであれば、本人の責任において受診しない者が増える結果受診率が下がってもやむを得ないことだと言える。
 ・ 仮に就業規則による対応を採ったとした場合、10人未満の労働者を使用する使用者は就業規則を策定する義務がない(労働基準法89条)ので問題として残ることになる。

 ・ 労働者に対する義務付けは、事業者が講ずる安全のための措置に応じて必要な事項を守る義務(安衛法26条)等他にも安衛法上例がある。
 ・ 労働者の健康情報は特別に機微な情報であり、同列に論ずることはできない。かかる情報について、本来労働者の健康を守ることが安衛法の目的であるという体系・原則を崩してまで同法で労働者に対して健康診断の受診を義務付ける結果、特別に機微な情報が発生することになる現行規定には問題が多い。

 ・ 我が国には自己管理・自己責任という風土があるのかどうか。
 ・ 労働者の受診義務をはずすと受診率が今以上に下がってしまう。もっとも、今すぐには難しいとしても、将来の検討の方向として、労働者のプライバシー保護との関係で、本来自分の健康は自分で管理するという自己責任の方向で、この義務付けの是非についても検討されることについては反対しない。

 ○ 法定の健康診断において、国が健診項目を定め、また検査値そのものを収集するよう運用してきている点をどう考えるのか。事業者の責任で任意になされる場合は別として、国が一律に義務付けている現在の運用が妥当かどうか。

 ○ 収集の必要性が大きくなく、それに比して本人の権利利益の侵害が大きい場合、かかる情報の収集は認められるべきではない。例えばHIV検査の場合、仮に本人の同意を得て行う場合であっても、真に自発的な同意を得られるか問題があり、本人の同意があっても事業者は職場において労働者に対するHIV検査を行わないことが望ましい。

4.守秘義務

 ○ 人間ドック等の情報の活用が進む中、かかる情報の漏洩に対する防御措置が求められる。この点、現行では「健康診断の実施の事務に従事した者」に対して「その実施に関して知り得た労働者の心身の欠陥その他の秘密を漏らしてはならない」(安衛法104条)とするだけであり、十分とは言えない。したがって、今日の要請に応えられるよう、守秘義務の目的・客体は現行の健康診断に係る秘密以外も広く網羅するよう対応する必要があるのではないか。また守秘義務を課せられる主体についても、「健康診断の実施の事務に従事した者」以外にも課せられる必要があるのではないか。

 (前回の委員の意見)
 ・ 職場の衛生確保の点で、産業医の役割はもとより、全体のシステムを動かして行く上で衛生管理者や衛生推進者の役割が大きい。こうした職務にある者に対して守秘義務を課すべき。
 ・ データベースに触れうる者全員に守秘義務を課すべき。

5.情報の管理・利用体制

 ○ 健康情報が目的に合致しているかどうかの判断基準や、その判断をする者をルールの中で明確にしておく必要がある。

 ○ ルール遵守を監視する者としては、中間取りまとめでは、「利用目的に合致しているかどうかの判断基準や、その判断をする者を事業者のルールで明確にする必要がある。このルールに基づき個別の事例について判断する者としては、産業医等や衛生管理者等が適当」としている。産業医や衛生管理者がいない場合どうするか。

 ○ 目的内の使用に仮託して実質的に目的外の使用が行われたような場合の事後的救済についてどうすべきか。

6.開示

 ○ 一般健康診断と同様、特殊健康診断の結果についても通知を義務付けるべきではないか。

7.第三者提供

 ○ 第三者への提供は、本人の同意を前提になされる必要がある。
(派遣の場合について留意が必要)

 ○ 合併等事業承継は労働契約の承継であって、労働契約から生じた安全配慮義務も引き継がれるから、健康情報だけを排除して承継させないというのは難しいのではないか。

8.法律による対応

 ○ 個人情報保護法では、過去6ヶ月以内のいずれの日においてもデータの個人の数が5000を超えない事業者は対象にならない(個人情報保護法施行令2条)から、十分な保護を図り難い。したがって、労働衛生分野で法律上の手当をすべきではないか。

 ○ 個人情報保護法では、多種多様な個人情報の性質、取扱主体、利用方法等を区別せずにその取扱いを規律している一方、センシティブであるかどうかの程度はこれらの要素に拠って大きく左右されることから、同法には特別に機微な情報に関する規定は設けられていない。個人情報保護に関する国の施策を総合的に推進させる役割をも担う本法においては、いわゆる特別に機微な情報も含め、個人情報の性質及び利用方法に照らして「個人の権利利益の一層の保護を図るため特にその適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報」について、政府に対し「必要な法制上の措置その他の措置」を講ずべきことを義務付けている(個人情報保護法6条3項)。

9.取扱いのルールの策定と事前の労働者の同意

 ○ 国が一律に基準を示すことが難しい場合や、適当とは言えないような事柄等、事業者と労働者の合意に委ねるほかないと考えられる場合もあり、その場合は労働者と事業者が事前に協議の上、収集等処理についてのルールを策定することが必要である。

 ○ その際、衛生委員会等で審議し、産業医等や衛生管理者等の参画のもと、ルール化することが必要である。

 ○ 国は事業者がルールを策定するに当たって依拠すべき指針を示す。

10.ルールに盛り込むべき事項

 ○ 情報の使用目的
 ○ 事業者が設定する目的の下、情報の種類ごとに、事業者はどの程度の情報なら把握してよいこととするのか、国の示す指針の中で、一般的な注意点や原則を設定できないか。
 ○ また、情報の利用に関して、特定された目的の下、事業者に使用される如何なる権限を有する者が、如何なる対応をとるために、どの程度の情報を把握してよいのかという点についてはどうか。
 (前回の委員の意見)
 ・ 情報にアクセスできる者は制限されるべきである。

 ○ 収集の際の同意、廃棄等に関すること
 停止や廃棄に関して、いつでも労働者がこれを求めることができるとか、一定期間を経過すれば事業者は当然廃棄するとか複数の方法が考えられるが、あらかじめ労働者との間で具体的な対応を取り決めておく必要があるのではないか。

 ○ 情報の管理・利用体制(→「5.情報の管理・利用体制」)
 ○ 特に配慮が必要な健康情報(→「11.特に配慮が必要な健康情報の取扱いの留意点」)の場合で、本人が医師たる産業医等を信頼して漏らしたような情報は、原則として当該医師以外に知らされてはならないのではないか。

 ○ 産業医等による一元的管理について如何に考えるべきか。誰が(生の)検査値を管理するのか。
 (前回の委員の意見)
 ・ 健康診断の結果等はいったん産業医の下に集約された上で、産業医の判断を経た後に、必要な情報が事業者に使用される産業医以外の必要な者に伝えられるといった流れがよいのではないか。
 ・ 実際には月に1回職場を訪れるような嘱託産業医が多いなかでは、情報の流れが滞るなどの問題があり、実務としては大きな弊害が出てくると思われる。
 ・ 50人未満の産業医の選任義務がない事業場の問題もある。
 ・ 前回の検討会でも結局やれるところからそうした対応をとるとするほかないとの議論であった。
 ・ 例えば事業場の窓口は衛生管理者(衛生推進者)が最適であり、システムを産業医に一本化しては回っていかない。

 ○ 労働者の健康情報の保護を図る上で産業医の役割をどのように考えるべきか。産業医の機能の充実を図るにはどうすべきか。

 ○ 労働者の開示請求及び事業者の開示のルール

 ○ 外注の際の契約に関すること

11.特に配慮が必要な健康情報の取扱いの留意点

 ○ メンタルヘルス等精神の健康状態の把握については特に注意を払う必要があるのではないか。

 ○ メンタルヘルスに関して、外部資源の活用の際の守秘義務対策等が必要ではないか。

12.小規模事業場への対応

 ○ 事業場の規模の大小で基準を区別すべきではないのではないか。

 ○ 産業医や衛生管理者、衛生推進者の選任義務がない小規模事業場はどうすべきか。他の適切な責任者を事業者は選任せねばならないのではないか。また、そうした責任者を支援する体制として、地域産業保健センターの活用も含め検討する必要があるのではないか。

13.その他

 ○ 事業者、労働者への教育、情報提供の在り方


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